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事業概要及び論点等 P57-P72(PDF:5.2MB)

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事業概要及び論点等 P57-P72(PDF:5.2MB)
事業概要及び論点等について
事
業
名
UH-1J機体定期修理
平成26年度
補正後予算額
2,300,317
事 業 概 要 1
(千円)
事業の目的
陸上自衛隊の主力航空機である多用途ヘリコプター(UH-1
J)について、安全かつ効率的に運用することができる状態を継
続的に確保しつつ、高可動率を維持するため、陸上自衛隊の部隊
等では実施することができない機体の分解検査及び修理を定期的
に民間修理会社に外注することにより、機体に関する重大な不具
合を未然に防止し、もって陸上自衛隊の即応態勢の構築に寄与す
るものである。
また、平成25年度以降の事業においては、陸上自衛隊の地上
部隊や航空機間で任務遂行上必要な情報通信を行う新たな通信シ
ステムとして、現在、普及を進めている「野外通信システム」に
対応した機上端末機「広帯域多目的無線機(機上用)」を機内に
搭載する改修を機体定期修理に併せて行っている。
2 事業の詳細
(1)定期修理対象機種であるUH-1Jについて
UH-1Jは、陸上自衛隊の多用途機として、師団、旅団飛
行隊に及び方面ヘリコプター隊等に装備し、空中機動、航空輸
送等の各種任務に使用するヘリコプターである。(同機の外観
は、図1のとおり)
製造会社
富士重工業(ライセンス国産)
操縦員+乗員
2+11人
保有機数
130機
使用用途
空中機動、航空輸送等の各種任務
初号機納入
平成5年度
最終号機納入
平成23年度
平均機体単価
約10億円(最終号機契約の予算単価)
図1 陸上自衛隊多用途ヘリコプター UH-1Jの外観
同機は、平成5年度に初号機を納入し、現在、陸上自衛隊に
おいて130機を保有している。最終号機は、平成19年度に
製造請負契約が締結され、平成23年度に納入されている。最
終号機契約(平成19年度契約)での平均機体単価(予算単価)
は、約10億円(税込)であった。
- 57 -
なお、UH-1Jの製造は、米国ベル・ヘリコプター社から、
日本国内におけるライセンス実施権を許諾されている富士重工
業が担当している。
(2)機体定期修理(IRAN)について
陸上自衛隊における航空機の機体整備については、整備の範
囲を技術的に分けて、第1段階整備から第5段階整備に区分さ
れ、その態様は表1のとおりである。
具体的には、航空機の飛行前に行う日々の点検・整備等に相
当する第1段階整備から、技術的レベルに応じて高段階に移行
し、最も高段階である第5段階整備では、定期的に機体を分解
し、腐食の除去、補強材等の修理、部品の交換等の修理・交換
作業を行う機体定期修理(IRAN: Inspection and Repair As
Necessary)を実施している。
特に、第1段階から第4段階までは陸上自衛隊の部隊等(使
用部隊、野整備部隊、補給処)において、陸上自衛隊の隊員が
整備することを基本としているが、第5段階整備については、
陸上自衛隊の部隊等では実施することができないため、民間修
理会社に外注し、同修理会社の工場において実施している。
本事業は、UH-1Jの第5段階整備として、3年の1度の
間隔で実施しているIRAN作業を民間修理企業に発注し、修
理役務を行わせるものである。IRAN作業では、修理・交換
作業のほかに、分解・検査の結果、構造部材等の修復の必要性
が確認された場合に、当該修復作業を「発見役務」として実施
する。また、機体に新たな装備品等を搭載する必要がある場合
に、改修作業をIRAN作業と合せて実施することがある。
(I
RAN作業の工程は、図2のとおり)
なお、UH-1Jの修理・改造には、米国ベル・ヘリコプ
ター社から修理ライセンス実施権が許諾されていることが必要
- 58 -
となるが、製造と同じく、日本国内における実施権を許諾され
ている富士重工業が同機の修理・改修を担当している。
(3)広帯域多目的無線機(機上用)の搭載改修について
陸上自衛隊の通信網については、方面隊電子交換システム、
師団通信システム及び地上無線機・野外無線機の後継として、
これらを一括した「野外通信システム」を平成25年度以降、
順次、整備しているところである。
かかる野外通信システムの整備にあわせ、機体側にも同シス
テムに対応した端末機を搭載する必要があり、平成25年度以
降の事業において、広帯域多目的無線機(機上用)(以下「広
多無」という。)を機内に搭載する改修をIRAN作業と同時
に実施している。具体的な改修作業は、複数ユニットで構成さ
れている広多無について、①端末(設定部)をコックピットに
設置し、②高周波部、信号処理器を機内に設置のうえ、③必要
な電線配線を行うことで、広多無を機上で使用可能にするもの
である。(広多無搭載改修の概要は、図3のとおり)
- 59 -
3 IRAN契約
(1)契約形態について
IRAN作業については、機体を実際に分解・検査してみな
ければ、修復作業の箇所や部品交換の有無が確定しないといっ
た修理作業固有の特性を有している。
このため、一般に、IRAN契約については、防衛省(支出
負担行為担当官)が原価監査(※)を行い、IRAN作業の履
行後に契約金額の代金を確定する、「履行後確定原価監査付契
約」の形態をとっている。
この履行後確定原価監査付契約においては、契約金額を構成
する費目の特性に応じて適切に代金を確定する必要性から、契
約金額を図4の3つの代価に区分し、原価監査を実施している。
※ 原価監査:契約条項等に基づき、契約の履行に実際にかか
った原価又は価格に関する諸記録を調査し、必要に応じ事実
を確認して当該原価又は価格の適否の判定を行うこと。
- 60 -
(2)直近執行額(平成26年度執行額)について
直近執行額となる平成26年度執行額2,288百万円の内
訳は、図5のとおりである。当該執行額は、平成25年度に2
か年度契約として締結した「UH-1J機体定期修理及び広帯
域多目的無線機(機上用)搭載改修」について、契約履行が完
了した平成26年度に歳出化し、契約企業である富士重工業に
代金を支払ったものである。
当該契約でIRAN対象となったUH-1Jのは40機であ
り、このうち9機が広多無搭載改修の対象機であった。
選定基準
イ
長期的又は継続的に取り組んでいる事業等で、執行方
法、制度等の改善の余地が大きいと考えられるもの
- 61 -
論点1
厳しい財政状況の下、防衛装備品の維持に係るコストの一層
の削減が求められるところであるが、UH-1Jの機体定期修
理のコストを削減するために、どのような取組みを行っている
のか。また、航空機の機体定期修理における更なるコスト縮減
について、どのような可能性があるのか。
論
点
(説明)
○ 一般に、航空機のIRAN契約においては、同じ修理作業が繰
り返し行われることから、防衛省においては、いわゆる「習熟曲
線」(LC: Learning Curve)を修理工数に適用し、修理コストの低
減を図っている。
○
UH-1JのIRAN作業においても、平成8年度にIRAN
契約を開始して以降、修理工数に習熟曲線を適用し、修理コスト
の低減を図ってきたところである。しかしながら、習熟曲線によ
る修理工数の低減は、あくまで学習効果によるものであり、工程
上に根本的な作業ロスがある場合には、これらを排除できるもの
ではない。
○ そこで、陸上自衛隊ヘリコプターの中でも特に保有機数の多い
UH-1Jにおいて、平成15年度契約の作業現場を対象に作業
ロスを分析し、当該作業ロスを排除した「標準計画工数」を設定
することで、平成17年度以降、3年間かけて作業ロスを排除す
る「作業効率化」の取組みを導入することとした。
- 62 -
○
この取組みでは、防衛省側が企業側の作業現場を実際に観察し、
作業の流れ(シーケンス)に着目した作業測定手法を用いて、作
業ロスを分析・評価し、作業ロスを排除することにより、標準的
に必要とされる工数を算出する。企業側は、この評価結果から、
作業ロスをいかに排除するかを検討し、複数年度間で達成する作
業効率化を計画を策定し、当該計画に合致する工数を「標準計画
工数」として設定する。(標準計画工数による作業効率化の概念
は、図6のとおり)
○
この「標準計画工数」の取組みにおいては、適用期間の修理工
数を標準計画工数で確定し、当該工数を原価監査の対象としない
ことにより、企業の努力によって効率化が早く進んだ場合には企
業側の利益となり、効率化が遅れた場合には企業側の損失となる
ため、企業側には一層の効率化を図ろうとするインセンティブが
働く。
(企業インセンティブの仕組みについては、図7のとおり)
○ 上記の作業効率化により、富士重工業は、UH-1JのIRA
N作業について、平成17年度から平成19年度の3年間で、平
成15年度での修理工数に比較して20%の工数低減を行う標準
計画工数を策定した。その後、作業効率化の実績を確認したとこ
ろ、当該3年間での実際の工数は、インセンティブ効果によって、
- 63 -
標準計画工数よりも低い値を示す結果となり、取組みとして成功
を収めた。
○
このため、平成20年度以降の契約においても、同様の考えの
もとで標準計画工数を順次設定したところ、図8のとおり、平成
25年度契約(平成26年度歳出化執行額)において、習熟曲線
だけで工数低減させた場合に比較して、559時間(28%、1
機あたり約750万円)の作業効率化を達成した。
○
これら一連の取組みを通じ、企業側にとっては、修理工数があ
らかじめ確定した工数として取り扱われることで、本事業での将
- 64 -
来の収益の予見可能性が高まったとともに、作業効率化を早期に
達成できた際の差額が利益となったことから一定のメリットがあ
り、他方、防衛省にとっては、UH-1Jの修理コストを大幅に
削減することができたことから、官民双方にとってWin-Wi
nの関係を構築する結果となっている。
○ 今後、標準計画工数を導入していない機種のIRAN契約に対
しても作業効率化の取組みを拡大することにより、航空機の機体
定期修理事業全体での更なるコスト削減に取り組みたい。
- 65 -
論点2
標準計画工数の適用により、修理コストの削減を図っている
にもかかわらず、レビューシートの「単位当たりコスト」が、
平成24年度から平成25・26年度において、約51百万円
から約57百万円に増加しているのはなぜか。
論
点
(説明)
1 単位当たりコストの内訳
○ 平成24年度から平成26年度までの単位当たりコストにつ
いて、修理代価、部品材料代価、改修代価の内訳を示すと、図
9のとおりである。
○
このうち、修理代価には、平成24年度歳出化執行(平成2
3年度契約)までUH-1Jの製造請負契約で負担していた技
術維持活動(※)に係る費用について、UH-1J製造終了後
のIRAN契約に当たる平成25年度歳出化執行(平成24年
度契約)からIRAN契約で負担することとなり、当該年度の
契約金額は当該負担分約6百万円/機が増額となっている。
(図
中、赤色で表示)
※ 技術維持活動:機体を運用維持していく過程で部品枯渇や技
術革新、不具合などがあった場合に、これらの対応・対策とし
- 66 -
て、製造図面や整備要領の更新活動を継続して行うことをいう。
(具体的な事例)
・ ジャイロ(機体姿勢を検出する信号器)の部品枯渇に対
する代替品の検討。
・ 機体の強度や剛性の向上に係る形状変更があった部品等
に対応するための図面及び整備要領の変更。
○ また、平成26年度歳出化執行(平成25年度契約)からは、
広多無の搭載改修が行われることとなり、当該年度の契約金額
には当該改修代価約2百万円/機が増額となっている。
(図中、
紫色で表示)
○ これらの技術維持活動に係る修理代価と広多無搭載改修に係
る改修代価を除いた契約金額は、従来から実施しているIRA
N契約に係る費用に相当することとなるが、その内訳に当たる
修理代価(図中、緑色で表示)と部品材料代価(図中、青色で
表示)はほぼ横ばいとなっており、大きな変動は確認されなか
った。
2
加工費率(レート)の影響
○ 次に、平成24年度から平成26年度までの間において、ほ
ぼ横ばいであった技術維持活動を除く修理代価について検討す
る。図10において、技術維持活動を除く修理代価(図中、緑
色で表示)と、仮に加工費率を平成24年度の率で固定して換
算した修理代価(図中、水色で表示)の推移を比較すると、後
者の修理代価の推移は経年ごとに低下傾向を示していることが
確認される。
○ このことから、標準計画工数を適用することによって得られ
た作業(修理工数)の効率化を、この間の当該企業の加工費率
上昇が打ち消していることが明らかとなる。したがって、UH
-1JのIRAN契約への標準計画工数の導入は、修理コスト
の縮減に寄与しているものと考える。
- 67 -
○
なお、企業の加工費率は、企業の賃金や製造間接費を考慮し
て算出される率であるため、産業全体での賃金や企業物価指数
の動向が大きく影響することとなる。実際、賃金指数と国内企
業物価指数の動向を踏まえると、【参考3】のように平成24
年度以降、上昇傾向を示しており、当該企業の加工費率がこの
間において増加傾向を示していることとも一致している。
- 68 -
論点3
UH-1Jの修理工数は、他機種の修理工数と比較して適正な
範囲にあるといえるか。
論
点
(説明)
○ IRAN作業の内容は機種によって異なるため、複数の機種間
で修理工数を単純に比較することはできないが、一般に、機体の
最大全備重量(※)が大きければ、構成される部材も大型化され、
IRAN作業における修理工数が多くなる傾向が予想される。ま
た、機体単価が高い機種についても、機能の高度化にあわせて機
体構造も複雑化され、同じく、IRAN作業における修理工数が
多くなる傾向が予想される。
※ 最大全備重量:機体が許容できる最大限の乗員、搭載品、燃
料等を搭載した状態での総重量(自重を含む)
○ これらの観点で、最大全備重量、機体単価のそれぞれについて、
1機あたりの修理工数との関係を整理すると、図11及び図12
のとおりであり、修理工数は最大全備重量や機体単価に対して相
応の相関性を有していることが明らかとなった。したがって、U
H-1Jの修理工数は、他機種の修理工数と比較して十分適正な
範囲にあると考える。
- 69 -
- 70 -
論点4
機体定期整備とあわせて広帯域多目的無線機(機上用)の搭載
改修を行う目的は何か。
論
点
(説明)
○ 広多無をUH-1Jに搭載する改修作業には、機体の内部配線
工事や、高周波部、信号処理器等のユニットを機内に設置するた
めの工事等、機体をある程度分解する必要が生じる。
○ 一方で、IRAN作業においては、機体内部の点検や修理のた
め必ず機体を分解する必要がある。このため、IRAN作業と改
修作業を同時に実施することで、双方に共通する作業を1回の実
施で済ませることができることとなる。
○ あわせて、機体の分解作業では、リベット等、機体を分解する
ことで生じる交換部品もあり、IRAN作業と改修作業を別々に
実施すると、これらの交換部品が無駄になることとなる。
○ したがって、UH-1Jへの広多無搭載改修については、IR
AN作業と同時に実施することとし、その結果、図13のとおり、
1機あたり、約500万円経費節減効果を生み出している。
○ なお、広多無搭載改修は、IRAN実施時点で5年以上の機齢
を有する機体に対して行うことを基本とするとともに、野外通信
システムが地上部隊に配備を完了するまでの間に用途廃止を予定
している機体は改修しないこととしている。
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