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日本語の授業に文化を取り入れて

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日本語の授業に文化を取り入れて
国際文化フォーラム通信 no.48 2000年10月
見る聞く考えるやってみる授業 ── !0
日本語の授業に文化を取り入れて
カウンティ・アッパースクール(英国サフォーク州) メアリー・グレース・ブラウニング
★注1:メアリー・グレース・ブ
ラウニング氏のレッスンプラ
ン「Journey in Japan」は「第
3回文化を取り入れた日本語
の授業アイデアコンテスト」
の初等教育部門で特賞を受
賞した。
★注2:1970年、カウンティ・
アッパースクール(中高一貫
校)において、英国の中等教
育で初めての日本語教育が
始まった。
本記事はTJFで翻訳、編集し
ました。
私の学校では、フランス語、ドイツ語に次ぐ外国語
取り上げています。重要なトピックは、日本の地理、
として日本語を教えています。日本語を教える目的は
季節、気候、近・現代史、家族、住居、職場環境、
特別なものではなく、他教科と同様、生徒の視野を
日本社会が直面している問題(高齢化、公害ほか)、憲
広げ、生徒を取り巻く世界について学ばせることです。
法第9条などです。例えば、日本語をかなりマスター
ことばを学ぶということは、文法や発音をマスター
した生徒でも、意外と日本の地理を知りません。そ
するだけではなく、その外国語が話されている社会
というレッスンプラン
こで、私は
「Journey in Japan」
的、文化的背景を理解することでもあります。このこ
を考えました。これは、生徒が日本の地図を描いた
とは、学ぶ場所が学校であっても同じです。日本語
マットの上を実際に旅行しながら、動詞を覚えるとい
の授業に文化を取り入れることで、ことばが生きたも
うプランです。このプランは8歳以上の学習者に幅広
のとなり、日本人と実際にコミュニケーションできるよ
く応用できます。ただし、応用する際には、年齢より
うになります。生徒は日本の文物に非常に興味を持
も生徒たちの能力を見極め、生徒たちの能力に応
っています。授業のたびに必ず、新聞などのメディ
じて、学習項目を増やしたり減らしたり、またスピー
アや日本の友人から得た日本に関する情報が本当
ドを変えたりすることが大切です。
に正しいのかどうか、あるいは、その内容について
日本語の授業で上述のトピックを取り上げる場合
尋ねます。そこで、授業の最後に、5分ほどそうした
は、相違点よりも類似点を挙げるようにしています。ま
質問に英語で答えるようにしています。みんなで話
た、生徒が理解できないため、かえって誤解したり、
し合うこともあります。授業では、できるだけ現在の
悪い印象を抱いたりすることのないように注意を払うこ
日本の社会と文化、特に生徒が興味を持つものを
とも必要です。もしそういうことになれば、文化を取り
英国の初等中等教育における外国語教育の目的
英国の公立学校で学ぶ子どもたちは、11歳から外国語を履修する。外国語教育
上げることがマイナスになってしまいます。さらに、文
化を授業に取り入れるときに大切なことは、文化は教
カリキュラムで定めら
の内容や目標は、1988年に政府によって制定されたナショナル・
室の壁に飾った着物姿の少女のかわいい写真のよ
れており(ただし、対象地域はイングランドとウェールズ)、その教育目標として次のようなこと
うなものではなく、自分の生活に直接関わりのあるも
が挙げられている。
「外国語学習を通じて、生徒は、異なる国、文化、民族、社会な
のだということを生徒に理解させることです。
どを理解し、認めるようになる。また、英国国民としてだけではなく、世界の一市民
としての自覚を持つようになる。言語の基本的な構造を学ぶと同時に、自分たちが学
んでいる外国語と母語との類似点と相違点を探り、人々が言語をどのように運用して
外国語を学ぶときには、その外国語を母語とする
人々と交流することが必要です。私の学校でフランス
いるのかを理解するようになる。また、聴解力、読解力、記憶力を高め、より正確に
語やドイツ語を学ぶ生徒は、ネイティブ・スピーカー
話したり、書いたりする力を身につけることができる。そして、これらのスキルを高める
のアシスタントに接したり、校外でも交流したりする
ことは、今後ほかの外国語を学ぶ際の基礎となる」
。
機会が多いのですが、日本語を学ぶ生徒の場合は
外国語を小さいうちから子どもたちに教えようという試みが、日本をはじめ、世界各
国で見られるが、英国もやはり例外ではない。1999年4月から、公募により選抜され
た初等教育機関20校が実験的にさまざまな外国語教育を導入することになった。こ
れらの実験校がどのような成果を上げるか注目されるところである。
同じようにできません。そこで、私はできるだけ日本
人を教室に招いて、1年に少なくとも4回は日本人と
接する機会をつくっています。また、日本の複数の学
校と姉妹校提携を結んでいるので、Eメールや手紙
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国際文化フォーラム通信 no.48 2000年10月
日本人の生徒を教室に
招いての授業風景。
あみだくじをひいて
日本語クラスの生徒との
混成チームをつくる。
などによる交流を積極的に行っています。さらに、日
本語を他教科と切り離して考えるのではなく、教育
全体の中で日本語教育を捉え、日本語の授業を英
語、地理、歴史、音楽など他教科と連動させること
がますます必要となってくるでしょう。
授業例
Journey in Japan(科目:日本語)
ねらい:
生徒が実際に身体を動かし、動作を表す動
詞を学習しながら、日本の地理についても
学ぶ。
対象年齢:
8歳以上
レベル:
初級
人数:
10人以上
所要コマ数: 3コマ
準備するもの: 日本地図が描かれた大きなマット、
スーツケース、フラッシュカード
レッスン2:「誰と行きますか」
教師は授業が始まる前に、地図マットに東京、大阪などの
地名、富士山などの名所を書き加えておく。マットの周りに生
徒を集めて、
「誰と行きますか」
という文を教える。レッスン1で
行ったように、誰かがスーツケースを持ち上げたら、ほかの生
徒は
「どこに行きますか」
と質問し、次に、スーツケースを持っ
ている生徒がほかの生徒の手を取るジェスチャーをしたら、
「誰と行きますか」
と質問するよう指示する。スーツケースを持
っている生徒は
「∼さん/くんと行きます」
と答え、指名した生
レッスン1:
「どこに行きますか」
徒の手を取り、地図上の目的地に移動する。今度は連れら
教師は日本地図が描かれた大きなマットを教室に広げ、そ
れていった生徒がスーツケースを持ち上げ、ほかの生徒と
「ど
の周りに生徒を集める。誰かがスーツケースを持ち上げたら、
こに行きますか」
「誰と行きますか」
といったやりとりをした後で、
「どこに行きますか」
という質問をするよう、ほかの生徒全員
指名した生徒を目的地に連れていく。さらに、全員をペアにし
に指示する。スーツケースを持ち上げた生徒は、北海道、
て、2列に並ばせる。最初のペアは
「どこに行きますか」
「誰と
本州、四国、九州の中から行きたい場所を一つ答え、地図
行きますか」
と質問するほかの生徒に答え、目的地に移動す
マット上を移動し、その目的地に行く。生徒は順番にスーツ
る。2番目以降のペアは1番目のペアの後を追っていく。雑然
ケースを持って移動する役を演じて、全員が4島を覚えるまで
とした状態になるが、教師は生徒たちの間を動きながら、生
続ける。
徒の発音、構文、日本の地理に関する知識をチェックする。
レッスン3:
「何で行きますか」
教師は授業が始まる前に、いくつかの交通手段の絵を描いたフラッシュカードを用意しておく。生徒のレベルに応じて、平仮名や漢
字もいっしょに書き込むといい。
「何で行きますか」
という文を教える。レッスン1と2と同じように
「どこに行きますか」
「誰と行きますか」
というやりとりをした後で、
「何
で行きますか」
と質問するよう指示する。教師が交通手段を一つ選んで
「∼で行きます」
と口頭で述べる。スーツケースを持っている
生徒は、教師が指示した交通手段のフラッシュカードを持って、指名した生徒と2人で、目的地に移動する。これを繰り返す。
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