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PF ビームライン 6B および 6C における Cocksfoot mottle virus
構造生物 Vol.7 No.2 2001 年9月発行 PF ビームライン 6B および 6C における Cocksfoot mottle virus の X 線データ収集 難波一徳 1,2,*, 藤井佳史 1, 藤本瑞 1, 御子柴義郎 3, 水野洋 1 (1 独法生物研, 2 筑波大院バイオ, 3 独法農研機構) 1 背景 コックスフットモットルウイルス(Cocksfoot mottle virus ; CfMV)は Sobemovirus に属する、直径 28nm の球状 RNA ウイルスであり、主にイネ科植物に感染し黄 色いモザイク状の病斑を呈する。欧州では既に 1964 年に Serjeant らにより同定 され、その他にも、Cocksfoot mild mosaic virus、Cocksfoot streak virus など同 Sobemovirus に属するウィルスが次々と同定されている。本研究で用いた CfMV は、1978 年に岩手県盛岡市、栃木県西那須野地方、長野県伊那地方で発生が確 認され、オーチャードグラスのモザイク病から、血清学的方法により同定され た 2)。特に CfMV 等の Sobemovirus は極めて安定で容易に汁液伝染するため、こ れら Sobemovirus 属 による作物被害は欧州においても大きな問題となってお 3) 4) り、防除の試みの一環として、核酸の解析、血清学的研究が進められている。 現在 CfMV ファミリーは全部で8種類同定されているが、本研究で用いられた サンプルは岩手県盛岡市で発見された CfMV 盛岡株(日本分離株)を用いた。 CfMV の病徴は極めて顕著である。特に気温の低い初春や晩秋には症状は極め て明瞭であり、植物体全体がクロローシスの症状を呈している株は、離れてい る場所からでも容易に発病が認められる。晩秋において罹病株は枯れの程度が 顕著であり、株全体がやや開いた形となる。夏期、生育の良好なときには症状 が不明瞭なことが多いが、明瞭にモザイク症状を呈している株も見られる。ま た一株のうち、一部のみ発病していることも少なくない 2)。CfMV に感染した罹 病株の病徴は、CfMV の種類、また宿主植物種により様々である。軽徴なモザイ ク症状を呈するもの、鮮明なモザイク症状を呈するもの、激しい壊疽病斑を呈 するものなど多様な病徴を示す。感染宿主として、オーチャードグラス (*現阪大蛋白研) 構造生物 Vol.7 No.2 2001 年9月発行 (品種:アキミドリ)、コムギ(品種:フジミコムギ、赤笑出)、オオムギ(品 種:竹林茨城2号)、ライムギ(品種:ぺトクーザ)、エンバク(品種:前進) などに顕著な感染発病がみられている。特にオーチャードグラスとコムギには 汁液伝染により 80∼90%の確率で感染発病する。コムギは特に感受性が高く、 白色のストリーク・モザイクの病斑を呈する本ウイルスの検定植物として利用 できる。 2 ウイルスの精製・結晶化 2-1 精製 CfMV を汁液接種し、10日後のコムギ病葉 100g をホモジェナイズし、クロ ロホルムによる清澄化を行なった。6,300G / 20min で遠心操作を行い、さらに上 清を 12,300G / 100min で遠心操作し沈澱物を回収し、0.1M ホウ酸緩衝液により 懸濁した。4℃下で一晩靜置し、ショ糖密度勾配遠心(10-40% sucrose)により分離 し、ウイルス画分を回収した。90,000G / 60min で遠心操作を行い、沈殿物を純 化ウイルス試料とした。100g の病葉から平均 19.7mg の精製 CfMV を得た。 2-2 結晶化 X 線結晶解析では X 線回折による反射を得るために、サンプルの結晶化を行 なわなければならない。CfMV の結晶化は常法であるハンギングドロップ蒸気拡 散法、シッティングドロップ法、バッジ法などで検討を行ったが、最終的に2 層の比重の異なるオイル中に沈澱剤と CfMV 試料液のドロップを作成しウイル スの結晶化を行なう方法を用い、0.1M-Tris、pH7.0、8% PEG10000、50mM NaCl、 20℃の条件下約30日で、1.0mm 大の良質の結晶を得た(Fig.1)。 Fig.1 CfMV の結晶 [0.8×0.8×1.0mm] 5% PEG10000 , 0.1M Tris-HCl 50mM NaCl , pH7.0, 20℃の条件下で作成 構造生物 Vol.7 No.2 2001 年9月発行 3 X 線測定(BL6B) X 線測定は高エネルギー加速器研究機構の放射光施設 BL6B で大型 IP (400× 800mm)および巨大分子用坂部式ワイセンベルクカメラを用いて行なった。 3-1 X 線反射強度測定の結果 X 線波長 1.0Å、コリメーター径 0.2mm、カメラ半径 976.9mm、1フレームの 測定範囲 0.5°、露光時間 166.7 秒で測定を行ったところ、最大 3.2Å分解能のX 線回折像を得た(Fig.2)。測定条件を以下に示す。 施設 BL6B での X 線回折実験の測定条件 結晶の大きさ(mm) 0.8×0.8×0.8 温度(℃) 20 コリメーター径[φ] (mm) 0.2 X 線波長(Å) 1.00 カメラ距離 (mm) 976.9 カメラ半径 (mm) 572.7 測定範囲[ω](°)/フレーム 振動速度 (deg / sec) 0.5 0.003 重なり度 (°) 0 露光時間 (sec) 166.7 3-2 結晶学的パラメーターの計算 X 線回折データの処理は Silicon Graphics 社製のワークステーションを使用し た。またデータ処理ソフト DENZO、SCALEPACK5)、MOSFLM6)を使用した。 DENZO に よ り 得 ら れ た 各 イ メ ー ジ か ら の 回 折 デ ー タ を プ ロ グ ラ ム SCALEPACK により、スケーリング及びマージングを行った。CfMV では、3.5 Åの分解能を示す反射が得られ、その場合1枚の Imaging Plate(0.5°)につき 40000 以上の反射数が確認され、データの処理を行う際には SCALEPACK の中 でも scalepackenormous を使用した。 指数付けの結果、CfMV の結晶は a=760.3(Å)、b=760.5(Å)、c=620.6(Å)の斜 方晶系であることが解った。結晶がX線ダメージをうけるため、今までのとこ 構造生物 Vol.7 No.2 2001 年9月発行 ろデータセットは一部しか得られていない。 解析データ処理の結果 Cell parameter C222 a=760.3(Å) b=760.5(Å) c=620.6(Å) Resolution 100∼4.0(Å) 4.3∼4.0(Å) R-marge 18.8% 37.3% Completeness 22.6% 14.8% 334492 43592 Unique reflections ⇦ Fig.2 CfMV の回折データ [放射光施設 BL6B 大型 IP による] 矢印は 3.5Åの分解能位置 構造生物 Vol.7 No.2 2001 年9月発行 X 線測定(BL6C) 4 最近(平成 13 年 6 月 30 日)、BL6C に新たに設置されたワイセンベルクカメラ 6 号機 Galaxy を利用してデータを測定する機会を得た。 4-1 X 線反射強度測定の結果 X 線波長 0.898Å、コリメーター径 0.2mm、カメラ半径 400.0mm、1フレーム の測定範囲 0.5°、露光時間 180.0 秒、oscillation で測定を行ったところ、最大反 射強度 3.4Å分解能の反射回折像を得た(Fig.3)。以下に測定条件を示す。 施設 BL6C での X 線回折実験の測定条件 結晶の大きさ(mm) 0.6×0.6×0.5 温度(℃) 20 コリメーター径[φ] (mm) 0.2 X 線波長(Å) 0.898 カメラ距離 (mm) 400.0 測定範囲[ω](°)/フレーム 振動速度 (deg / sec) 0.5 0.0028 重なり度 (°) 0 露光時間 (sec) 180.0 4-2 考察 Galaxy で常温測定下最大 3.4Åの回折を得た。一つの結晶で最大 45 枚のイメ ージデータを連続して得ることができ、10shot まで平均分解能は約 3.7Åであっ た。Galaxy はカメラ距離 400.0mm であり、BL6B のワイセンベルクカメラで測定 した際のカメラ距離 967.9mm の約半分である。CfMV 結晶の格子定数は a=760.3, b=760.5, c=620.6(Å)と大きく、0.5°(ω)分の反射数は 40,000 以上にもなるため、 反射データがオーバーラップする可能性を予想していた。しかしながら実際は、 反射データは低角から 3.7Å付近まで非常によく分離しているように見える (Fig.3,4)。現在のところ、今回のデータの指数付けには至っておらず、データの 評価ができないが、近い将来解析プログラムの整備等により、本ワイセンベル 構造生物 Vol.7 No.2 2001 年9月発行 クカメラでの超分子複合体、ウイルスなどの超分子のデータ収集も可能になる と思われる。Galaxy は IP の読み取りが自動化されているので、データの連続測 定が可能である。またクライオ条件下のデータ測定も可能になっているため、 クライオ条件が確立されていれば、重なりを少なくするための小さい振動角で の測定等、少数の結晶でも良質な巨大分子X線データの収集が容易になると思 われる。Galaxy が早く一般使用可能になることを期待する。 構造生物 Vol.7 No.2 2001 年9月発行 参考文献 1) 鳥山重光,與良清.日植病報. 45, 565(1979). 2)鳥山重光,日植病報. 48, 514-520(1982). 3)Catherall, P.L. C.M.I./A.A.B.Descriptions of Plant Viruses. No.23(1972). 4)Huth,W. C.M.I./A.A.B.Descriptions of Plant Viruses. No.107(1972). 5)Otwinowski, Z. Oscillation Data Reduction Program'', in Proceeding of the CCP4 Study Weekend: ''Data Collection and Processing, '' Compiled by: Sawyer,L.,Isaacs, N., and Bailey, S., SERC Daresbury Laboratory, England, 56-62(1993). 6) The Rossmann Fourier autoindexing algorithm in MOSFLM. Acta Crystallogr D Biol Crystallogr. 1999 Oct;55 ( Pt 10):1690-5. 構造生物 Vol.7 No.2 2001 年9月発行 PMID: 10531518