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金 由那 - 国際言語文化研究科

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金 由那 - 国際言語文化研究科
1
在韓日本人の言語意識 1
―韓国語に対する意識を中心に―
金
由那
0.はじめに
日韓の両国間の交流が進むにつれ、日本から韓国へ渡航し、長期にわたっ
て滞在する日本人の数は、下の<図 1>が示すように、過去 30 年間継続し
て増加してきた。1998 年には長期滞在者と永住者だけでも 1 万 5 千人を超
えている。本稿では彼等の中で長期滞在者と永住者を「在韓日本人」と称し、
韓国語に対する意識を分析するための調査対象として、 2 韓国での言語生活
の実態に焦点を当て、特にその言語意識について考察する。
非母国語圏内に滞在し母国語使用者と円滑な意思疎通を図るためには、そ
の国の言語を日常生活の中で習得し使わなければならない。しかし、在韓日
本人の「韓国語」に対する言語意識調査はこれまでほとんどされていないの
が実状である。在韓日本人が異なった言語・文化・伝統・生活習慣の国で、
いかなる言語意識を持って言語生活を営んでいるかを調査し、その実態を把
握してその背景にある要因を明らかにしてみたいと思う。このような調査・
分析は日韓の相互理解を深め、両国間の関係向上を図る上で意義あることと
思うからである。
この論文では社会言語学的な方法を援用し、在韓日本人の韓国語の習得
意識、言語能力、韓国語の習得時における困難点、外国語意識、言語のイメ
−ジなどに対して計量的に考察することにする。
2
金
由那
<図1>在韓日本人数の年度別推移
3
人数
6
4
8
19
9
19
9
0
8
2
19
9
19
9
19
9
4
2
6
永住者
19
8
19
8
19
8
0
長期滞在者
19
8
6
8
19
8
19
7
2
4
19
7
19
7
0
19
7
19
7
19
6
8
16000
14000
12000
10000
8000
6000
4000
2000
0
年度
計
1.調査の概要
1.1
調査の目的と意義
在韓日本人の社会的な階層、職業、年齢、性別、教育の程度などの違いに
よって、言語意識の様相も異なると予想される。本稿は被調査者の種々の社
会的属性と関点から、韓国語に対する意識を明らかにすることを目的として
いる。在韓日本人が韓国語に対してどのような意識をもって言語生活を営ん
でいるかを明らかにすることは、彼らに対する韓国語教育にはもちろん、韓
国人と日本人との円滑なコミュニケーションの向上にも役立つであろうと
思われる。
1.2
調査対象と方法
言語意識調査では、自己記入式の調査票を用いて、304 名の在韓日本人を
対象に行った。被調査者は日本人が多く在住する首都圏を中心に、調査に協
力を得やすい人を対象とする有意選択方式を取った。調査結果の分析は統計
処理プログラム SPSS(Statistical Package for the Social Science)を用いて行い、
属性別に分けて相関関係を調べた。被調査者の属性別分布は<表 1>に示し
た通りである。
在韓日本人の言語意識
3
<表1>被調査者の基本属性
被調査者の属性
人数
比率(%)
性
男性
女性
193
111
63.1
36.9
年齢
青年
中年
老年
121
151
32
39.8
49.7
10.5
4
被調査者の属性
高校
最終
大学
学歴
その他
給料生活者
自営・経営者
職業
主婦
学生
その他
人数
75
227
2
比率%)
24.7
74.6
0.7
140
8
58
67
31
46.2
2.6
19.1
22.1
10.0
2.韓国語との接触
2.1
韓国語の学習経験と学習期間
調査対象者に韓国語の学習経験があるかどうかを尋ねてみた結果、全体の
76.6%(233 名)が学習経験ありと答えた。「学習経験あり」の割合は<表2>の
ように、属性別では各々男性、老年、大卒、学生が高い。学習経験がある人
に学習期間を尋ねた結果、2 年以上学習したという回答が 36.8%で最も多く、
少なくとも 6 ヶ月以上学習したという回答が約 75%であった。また、6 ヶ月
以上の学習経験を持った者の比率は学生で 80.6%、主婦で 48.3%というよう
にかなり顕著な開きがある。
学習期間に比例して言語能力が高いとは断言できないが、職業別にみて学
生、給与生活者、自営業、主婦の順に学習期間が長い者の比率が高いという
のは、韓国での社会生活への参加度とその必要性の違いを反映していると思
われる。
<表2>属性別の韓国語との接触
性
学習
性
男
学習経験
78.2
あり
6ヶ月以
76.1
上学習
2.2
年齢
学歴
職業
女
青年 中年 老年
高卒
大卒
給 与
自 営
主婦
生 活
業
者
学生
そ の
他
73.4
76.9
73.5
86.6
64.0
80.6
77.1
75.0
65.5
85.1
76.1
70.3
71.4
75.8
63.2
70.6
75.3
75.7
62.5
48.3
80.6
70.3
韓国語学習の困難点
韓国語と日本語の文法構造における類似性はよく知られている。しかし外
4
金
由那
国語教育の場合、目標言語が母国語に類似している方がむしろ習得にて難し
い場合がある。実際、日本人の韓国語学習を考えてみると、両言語の類似性
は学習の初級段階では役に立つものの、中級以上の段階になると類似性に慣
れてしまうために母音の干渉が起こりやすくなる。 5
在韓日本人に韓国語学習時における困難点を自由記述式で回答してもら
った結果、「発音」(70%)が一番高く、ついで「聞き取り」、「敬語」、「語彙」の
順であった。「発音」を挙げた者の比率は<図2>から分かるように、発音の
困難さを感じる比率は、男女の差はそれほど大きくないが(男性 66.5%、女
性 60.7%)、<図3>のように年齢別にみると、老年、中年、青年の順に高
かった。発音を習得する時、青年層は言語形成期に近いため、老年層に比べ
困難を感じることは少ない。 6 発音が難しいという返答が一番多い理由は何
であろうか。両言語の音韻構造の相違点は以下の通りである。まず韓国語に
は日本語と比べ、母音 7 と子音の数が多く、韓国語子音の閉鎖音と摩擦音に
は声帯の緊張や気息の有無による三つの系列(平音、激音、濃音)の弁別的区
分がある。また、有声化、鼻音化、流音化、激音化、濃音化など音韻規則が
非常に多い。音節構造は複雑ではないが、終声(バッチム)には、ㅁ(m)、ㄴ(n)、
ㅇ(ng)の区別や内破性のㅂ(p)、ㄷ(t)、ㄱ(k)の区別があり、この点が日本
人には非常に難しいようである。
<図2>韓国語学習の困難点(男女別)
70
<図3>韓国語学習の困難点(年齢)
100
60
80
50
60
40
30
40
20
20
10
0
0
発音
バッチム
全体
2.3
敬語
男
その他
女
発音 読む書く バッチム
全体
中年
聞く
敬語
語彙
そのた
青年
老年
韓国語学習と居住・学習期間との相関関係
韓国での居住期間及び韓国語学習期間と学習時の難易点との間にどのよ
在韓日本人の言語意識
5
うな相関関係があるか調べた結果を<図4>と<図5>に示した。常識的に
は居住経歴が長くなるにつれ「発音」は易しくなると思われる。しかし、実
際の調査結果では居住経歴が長いほど、発音が難しいという回答が多かった。
1 年以下(58.7%)、1-3 年(66.7%)、3-5 年(75.0%)、5 年以上(85.7%)の順に
発音が難しいと回答した者の比率が高くなっているという結果はかなり意
外な感じがする。しかし学習期間と韓国語の難しさの相関関係をみると、学
習期間が長くなるほど発音の難しさは解消されるようである。<図 5>のよ
うに発音が難しいと答えた人の中で、学習期間が 6 ヶ月から 1 年間くらい学
習した人が 77.2%と最も高い。長期間学習した学習者の場合は、「発音」は
61.5%で、かなり低くなっている。「その他」を具体的にみると、「表現の多
様性」、「外来語の発音における日本語との違い」、「韓国語の固有語と日本語
的発想の違い」、「韓国語的表現の難しさ」などがあげられる。
<図4>学習の困難点(居住経歴別)
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
<図5>学習時の困難点(学習期間別)
100
80
60
40
20
0
発音
発音
書く ッチム
バ
読む
聞く
1年以下
3‐5年
敬語
語彙
た
その
1-3年
5年以上
読
む書
く
ム
ッチ
バ
聞
く
学習期間6月
1‐2年
敬語
語彙 そのた
1年
2年以上
3.言語能力
3.1
韓国語の能力
海外生活や海外研修をより円滑に効果的に導くためには滞在国の言語能
力が不可欠である。この問題に関連して在韓日本人に「滞在国の言語である
韓国語の能力を持つべきかどうか」と問った、これに対して、全体で 84.2%
の人が「持つべきだ」、14.8%が「どちらともいえない」、1%は「いいえ」と答え
たことから韓国語の能力は持つべきだと考えている人の割合が相当高いと
いうことが分かる。これを男女別にみると、男性が女性よりやや高い。職業
別では給与生活者、学生、主婦の順に高かった。これは 2.1 の学習経験と照
らし合わせてみると言語能力を持つべきだという意識の高さと実際の韓国
6
金
由那
語の学習経験期間との間に相関関係があることがわかる。しかし、学習経験
の場合とは異なり、言語能力を持つべきかどうかについては学習経験の場合
ほど属性毎の差はない。
<図6>韓国語の能力は持つべきか
100%
80%
60%
40%
20%
0%
全体
男性
はい
女性
青年
中年
いいえ
老年
者
生活
給与
業
自営
主婦
学生
どちらともいえない
在韓日本人の実際の韓国語能力に関して、被調査者自身が韓国語の言語行
動の4技能(話す、聞く、読む、書く)について、どの程度できると自己判断
しているかについて尋ねた。
その結果、全体の 65%以上の人が韓国語が「できる」(「よくできる」と「す
こしできる」の合計)と回答した。4.1 に示したように在韓日本人で韓国語の
能力を持つべきだと思っている人が 84.2%であるに比べると、2 割ほど低い
数値である。
言語行動の 4 技能別に自分がある程度できると自己判断している人の比
率は、読む(73.8%)、話す(65.8%)、聞く(62.3%)、書く(57.5%)の順であった。
在韓日本人にとって韓国語は「読む」、「話す」、「聞く」、「書く」の順に難しく
感じられていることがわかる。
3.2 韓国語上達のための動機づけ
まず、はじめに、韓国語が流暢に話せる日本人を在韓日本人がどう評価し
ているか質問した結果は、「うらやましい」(79.1%)が最も高く、「当然のこと
だと思う」(11.6%)、「わからない」(11.0%)、「おかしい」(1.7%)、「やや気持ち
悪い」(0.7%)の順であり、90%以上が肯定的な意識を持っていることがわか
る。「うらやましい」の比率を職業別に見ると主婦(94.8%)が最も高く、次い
で自営・経営者(85.7%)である。男女別には女性のほうが男性より 10 ポイン
トほど高い。
在韓日本人の言語意識
7
次に韓国語が上手に話せることがどのような面で役に立ち、有利であると
考えているかを調べた。学習経験がある人に自由記入式で、「韓国語が上手
に話せるとどんな利点があるか」という問いに対して、<図7>のように「韓
国 人 と の 交 際 や 意 思 疎 通 が 可 能 に な る(44.9%)」、「日 常 生 活 に 便 利 で あ る
(27.4%)」という回答が多かった。
在韓日本人における韓国語習得の動機・目的についての以上の結果により、
韓国生活で言葉が上達すると、韓国人との交際を通じて相互の友情を深め異
なった思想・価値観等を理解吸収することができるし、日常生活に不便なこ
となく適応することができるということである。これは仕事や業務など経済
的活動や公的交流などより、実生活面での便利さが高く評価されていると見
ることができる。
<図7>韓国語が上手に話せると得る利点
2.1 9.5
3.5
9.8
27.4
44.9
韓国人と交際可能
日常生活に便利
業務に役に立つ
文化情報の習得
韓国(人)の理解
その他
4.言語意識
佐藤和之(1996)は「言語意識を知ることは、そのことばを支えている社会
的背景を知ることであり、そのためには公的意識だけでなく、それと共にた
くさんの個的意識を重ね合わせて客体化することが必要である」と述べてい
る。 8 言語意識調査が必要な理由は、人々の言葉に対する意識や意見から言
語使用者の意識と行動との関係を考えたり、ある意識を持ってる人は、これ
これの社会的属性にあって、そういう人たちはこれこれの言語行動をとると
いうことがある程度予測したりすることが可能になるからである。
4.1
韓国語のイメ-ジ
言語意識調査でイメージ調査の方法がよく用いられるのは、ある意識や意
8
金
由那
見、あるいは行動を支えている背景を解釈するのに役立つからである。この
ような、ある事柄や事象が担っている意味を確かめるために使われる心理学
的手法として SD 法(Semantic Differential Method)がある。この手法は「良い
−悪い」「きれい−きたない」「明るい−暗い」のように、対立する形容詞を用
いることで、その事象がどういう意味やイメージを担っているかを明らかに
する方法である。在韓日本人の韓国語に対するイメージはどのようなもので
あるのかを明らかにするために、SD 法を用いて次のようにことばのイメジの評価によく用いられる対義語となる評定語をペアにして調査を行った。
もちろん、韓国語といっても個人差、男女差、地域差などがあるので、対象
は必ずしも明確ではないが、ここでは一般的に共通とされる部分のイメージ
を見ることにする。<図8>に示すように在韓日本人の韓国語に対するイメ
ージのプラス評価は、「好き」(47.8%)、「能率的」(39.1%)、「軽快」(36.0%)の順
であり、マイナス評価は、「堅い」(64.0%)、「聞きにくい」(52.9%)である。全
般的にはプラスのイメージのパーセンテージがマイナスのイメージより多
いが、マイナスのイメージの比率が相当高いことも注目される。
<図8>在韓日本人と韓国人の相対言語イメージ
64
52.9
47.8
39.1
36
17.7
4.2
15.3
い
堅
すい
きや
汚
韓国人
8.1
い
7.8
聞
軽快
重苦
しい
い
能率
的
非能
率的
4.3
1
嫌
好
き
10
0
9.4
きに
くい
柔
らか
い
40
30
20
在韓日
本人
聞
50
きれ
い
7 0%
60
イメ-ジの換起度と社会言語学的要因との相関関係
堀井令以知(1988)によれば、言語そのものから受ける感じには、言語の内
在的特性とは全く違う別の条件が介入しているという。すなわち、その言語
を使用する民族に対する感情、言語使用者との接触状況、風習や社会への志
向、文学作品に対する憧れなどが語感を換起する。耳にした外国語の意味が
分からなくても、リズムは、その言語に対する好感度に影響を及ぼす。また
言語の構造や文字の視覚的印象も同様の影響力をもつと述べている。 9
在韓日本人の言語意識
9
韓国語のイメージ調査の結果を示すと<図 10>∼<図 13>の通りである。
これによれば韓国語ができる人はできない人より、韓国語に対するイメージ
を「軽快だ」、「好きだ」、「柔らかい」、「聞きやすい」などプラスに評価をする
傾向がある。また、学習経験がある人、言語能力が全般的に「上」のグループ
である人、学習期間が長い人、韓国人に対して「好感」を持っている人が韓国
語のイメージも肯定的な評価を下すということが分かる。在韓日本人の韓国
語に対するイメ-ジを生み出す上で社会言語学的属性が重要な要因として関
与していることを強く示唆している。
<図10> 好悪のイメージ
<図9> 軽快・非軽快のイメージ
韓国人非好感
韓国人非好感
韓国人好感
韓国人好感
学習期間2年
学習期間2年
学習期間1年
学習期間1年
学習期間6ヶ月
学習期間6ヶ月
言語能力 下
言語能力 下
言語能力 中
言語能力 中
言語能力 上
言語能力 上
学習経験無い
学習経験無い
学習経験あり
学習経験あり
韓国語不可能
韓国語不可能
韓国語可能
0
韓国語可能
20
軽快
40
非軽快
60
80
100
どちらともいえない
0
好き
20
40
嫌い
60
80
100
どちらとも言えない
金
10
由那
<図 11>聞きやすい・聞きにくい
<図 12>柔らかい・堅い
韓国人非好感
韓国人非好感
韓国人好感
韓国人好感
学習期間2年
学習期間2年
学習期間1年
学習期間1年
学習期間6ヶ月
学習期間6ヶ月
言語能力 下
言語能力 下
言語能力 中
言語能力 中
言語能力 上
言語能力 上
学習経験無い
学習経験無い
学習経験あり
学習経験あり
韓国語不可能
韓国語不可能
韓国語可能
0
聞きやすい
4.3
4.3.1
韓国語可能
20
40
聞きにくい
60
80
100
どちらとも言えない
0
柔らかい
20
堅い
40
60
80
100
どちらとも言えない
外国語意識
韓国語が外国語として想起される順序
在韓日本人にとって韓国語は外国語としてどの辺りに位置付けられてい
るかを調べるため、「外国語」という言葉を聞いたとき思い浮かぶ順に言語名
を三つまで、記入してもらった。
その結果は<表3>の通りであるが、これによると在韓日国人にとって韓
国語は外国語として5番目に思い浮かぶ言語となっている。これと関連して、
日本で国立国語研究所(1984)が日本人を対象に行った調査によると、英語
(94.9%)、フランス語(74.8%)、ドイツ語(66.3%)、中国語(20.5%)、ロシア語
(6.0%)……の順であり、韓国語は 0.8%に過ぎなかった。10 両調査の実施時期
にかなりの開きがあるため単純に比較はできないが、予想通り在日韓国人に
とって韓国語の想起順位は本国の日本人に比べてかなり高いものの、韓国に
居るにもかかわらず英語はともかくフランス語、ドイツ語、中国語よりも順
位が下であるということは、韓国語に対する外国語としての意識がまだ低い
ことを示していると解釈される。
在韓日本人の言語意識
11
<表3>外国語ということばを聞くと思い浮かべる言語(%)
英語
フランス語
ドイツ語
中国語
韓国語
その他
第1回答
第2回答
88.4
0.3
0.0
0.7
7.9
2.6
7.0
37.8
12.0
18.1
15.7
9.4
第3回答
1.1
28.9
26.1
19.0
10.2
14.8
96.5
67.0
38.1
37.8
33.8
26.8
延
4.3.2
べ
在韓日本人の韓国語と英語のイメ−ジ比較
在韓日本人が韓国語と第一想起外国語である英語に対してどのようなの
イメージをもっているかを調査項目に加え、「どちらとも言えない」という回
答を省いて、好きかそれとも嫌いかのようにプラスイメージとマイナスイメ
ージの答えだけを比べた結果が<図13>である。英語に対する「軽快」、「好
き」、「きれい」、「能率的」、「聞きやすい」、「柔らかい」という肯定的評価の
平均は40.8%であるのに対して、韓国語に対するそれは27.7%であった。英
語は全般的に肯定的な評価が韓国語より上回っている。
<図 13>韓国語のイメージと英語のイメージの比較
70
60
50
40
30
20
10
い
堅
い
らか
に
き
聞
柔
くい
い
き
や
す
い
聞
い
れ
き
た
な
非
韓国語
き
能
率
的
率
的
能
重
苦
しい
快
軽
い
嫌
好
き
0
英語
4.4 イメージの形成の要因
言語や国民に対するイメージはどのようにして形成されるのであろうか。
本調査からは、その具体的な形成プロセスを明らかにすることはできないが、
幾つかの関連変数の観点から、要因を推測することはできる。イメージの形
成要因またはその媒介変数として、性、年齢、学歴、などの客観的属性(フ
ェースシート)と、相手国に対する知識、関心、それらの情報源(相手国に
12
金
由那
ついての情報をテレビから得ているか、新聞からか、など)、そして、相手
国に対する意識(日韓関係はよい状態と考えているか、悪い状態と考えてい
るか、対立関係かなど)などが挙げられる。
4.5 社会(言語)的要因別の韓国人イメ−ジの相関関係
在韓日本人の言語意識を明らかにするための参考資料として在韓日本人
の韓国人に対するイメージ調査して、次の3種類の因子を得られた。
第 1 因子[積極評価因子];礼儀正しい、気前がいい、勤勉、社交的
第 2 因子[感情的因子];感情的
第 3 因子[否定因子];無礼、不潔、不親切、信頼できない、粗野
これらの因子と「韓国人の親しい人がいるか、いないか」、被調査者の性格
が「積極的か、消極的か」、「韓国語能力の程度(上・中・下)」などの社会的の
要因との相関によって相手国の人のイメージはどう変わるかを調べた結果
が<表4>である。親しい韓国人の友人を持っている人は、親しい友人がい
ない人より否定的なイメージ(無礼、不潔、不親切、感情的、粗野)の割り合
いが低い。さらに、気軽に人に声をかける性格である積極的な人は肯定的な
イメージ(礼儀正しい、気前がよい、社交的、勤勉、親切)が消極的な人より
高い。また、言語能力の上下は韓国人のイメージにあまり相関関係がないと
いうことがわかった。
<表4>社会言語学的要因と韓国人イメ-ジの相関関係(%)
韓国人
イメージ
社会言
語学要因
親 し い 有
人
無
気 軽 に
はい
話 を か
いいえ
ける
上
言語
中
能力
下
5.おわりに
交 信 賴 感
で き 的
ない
情 粗野
勤勉
34.0
55.0
38.8
47.5
32.1
59.4
87.0
13.0
63.0
37.0
58.0
42.0
67.9
32.1
1.2
65.5
-
10.1
54.8
6.6
12.3
56.5
4.9
6.2
56.9
7.9
無礼
礼 儀 気 前 不潔
正し がよ
い
い
不 親 社
切
的
39.3
51.8
44.6
44.6
47.0 25.0
43.5 75.0
30.4
56.5
34.6
53.8
36.4
45.5
64.3
35.7
63.0
37.0
65.5 25.0
34.5 75.0
56.4
43.5
51.3
48.7
16.3
43.6
6.5
8.7
59.5
24.7
66.4 6.3
22.6 35.4
4.6
12.5
10.9
42.4
-
10.6
51.0
9.2
在韓日本人の言語意識
13
以上の分析結果をまとめると次のようである。
言語の能力について言えば、多くの在韓日本人は韓国語の習得に関心を持
っている。そして、実際彼らの 7 割以上が韓国語学習経験者である。学習経
験の率が高いのは属性別には男性、老年、大卒、学生であるという結果が得
られた。また、滞在国の言語能力を持つべきだと思う人が多く、韓国語が流
暢に駆使できる人を「うらやましい」と思う人が多い。しかしながら、実際、
言語能力を持っている人は意外と少ない。
韓国語の学習時における困難点に関する回答を分析した結果、「発音」が
むずかしいという回答が最も多かった。これは、両言語の音韻的な相違点に
よるものである。また、学習期間と居住経歴が長くなるにつれて「発音」が
難しいと感じる人の比率が高いということは居住経歴・学習期間が長くなる
につれて他の難点は解消されていくが発音はなかなか矯正しにくいため相
対的に発音が難しいという比率が高くなるためであろう。
在韓日本人は、韓国にいるにもがかわらず韓国語を外国語として認識する
ことが少なく、韓国語に対するイメージは「堅い」、「聞きにくい」というマイ
ナス的に評価されている。しかしながら、言語能力が高い人は「軽快」、「好き」、
「柔らかい」と肯定的な評価をする。言語能力が低い人は「重苦しい」、「堅い」、
「聞きにくい」と否定的になる。韓国語に対するイメージに関しては韓国語能
力が関係していて、学習経験があり、言語能力が高い人の方が肯定的な評価
を下している。したがって、言語能力の高低が韓国語のイメージに大きく関
与していると言えよう。
注
1
本論文は「第 8 回
のである。
2
旅行者と 3 ヶ月未満の短期滞在者は対象外にした。
3
日本の外務省では毎年 10 月 1 日現在において海外に居住している日本人の実態
を全在外公館を通じて調査し、『海外在留邦人数調査統計』として整理・公表し
ている。ここにあげてあるのは 1968 年から 1998 年までの統計を論者が整理し
たものである。
年齢は青年(10 代‐20 代)、中年(30 代‐40 代)、老年(50 代以上)である。
梨花女子大学で言語教育部に在学している日本人の学生を対象に調査したユ
ン・イルス(1993)「日本人の韓国語教育について」『教育ハングル』(ハングル学
会)第 5 号を参照
個人の言語体系が確立される時期を言語形成期と呼び、通常 5 才頃から 12、13
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社会言語科学会 2001.9」で口頭発表したものに加筆したも
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8
9
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金
由那
才頃がこれに当たると言われている。この時期が過ぎると、単語や語法などの
若干の変化はあっても、個人の音声やアクセントの体系はほとんど変化しない
と言われている。
韓国語母音は 8 母音(ㅣ、ㅡ、ㅜ、ㅔ、 ㅓ、 ㅗ、ㅐ、ㅏ)であるのに対して日
本語は 5 母音(イ、ウ、エ、オ、ア)である。両言語母音の音韻構造の相違点は
発音習得に大きな影響要因になると思われる。
佐藤和之(1996)「現代人の方言意識」『方言の現在』明治書院 pp18‐35 参照さ
れたい。
堀井令以知(1988)「語感・言語意識・言語感覚」『日本語学』第7巻第8号、明
治書院 pp4‐10。
宮島達夫(1993)「ことばの経済学」『言語』22−12 大修館書店 pp32-33。
参考文献
飯田秀敏(2002)「韓国語の発音に親しむために」『ことばの科学』第十五号
名古屋大学言語文化部研究会
江川清(1986)「言語行動の比較研究」『日本語学』5-12、明治書院
NHK 世論調査部編(1985)『現代日本人の意識構造』日本放送出版協会
国立国語研究所(1981)『大都市の言語生活(分析編)』国立国語研究所報告 7 三省堂
国立国語研究所(1984)『言語生活における日独比較』国立国語研究所報告 80 三省堂
柴田武(1977)「日本人の言語生活」『岩波講座日本語 2 言語生活』岩波書店
佐藤和之(1996)「現代人の方言意識」『方言の現在』明治書院
堀井令以知(1988)「語感・言語意識・言語感学」『日本語学』第 7 卷第 8 号
明治書院
宮島達夫(1993)「ことばの經濟學」『言語』22-12大修館書店
ユン・イルス(1993)「日本人の韓国語教育について」『教育ハングル』第5号
ハングル学会
任栄哲(1993)『在日・在米韓国人および韓国人の言語生活の実態』くろしお出版
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