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手紙∼電子メール メディアの変化に伴うコミュニケーションの変化 情98
情98-88 岡本加奈子 2001年度卒業研究 1/2 手紙∼電子メール メディアの変化に伴うコミュニケーションの変化 情98-88 岡本加奈子 指導教員 加藤雅人 人々のコミュニケーションの歴史は遠く昔まで遡る。文字や紙の発明、交通の発達等と共にゆっく りではあるが手紙、新聞、電信、電話等、色々な形で人々の間をつなぐメディア。つい最近「IT革 命」という言葉で急激にパソコンやインターネットが普及してからメディアに異変が起きたようで す。一家に1台、もしくは部屋にひとつ置かれていた電話に一人1台の携帯電話が、そして手紙とい う文字通信のメディアに電子メールが加わりました。なかでも電子メールはやりとりされた文字数だ けで今までに発行された新聞の文字数を超えたとも言われます。私はそのような大変革の渦中にある 文字メディア、特に手紙とメールに焦点を当て、コミュニケーションの変化を探っていきたいと思い ます。 まず第1章では、手紙とは何かということをまとめた。手紙の歴史は文字の発明や紙の発明と深く 関わりがあった。しかし、文字と紙が発明されたからといってすぐに手紙が普及したわけではなく、 そこにはリテラシーという大きな壁が立ちはだかっていた。当時、文字を書くということは特別な階 級書である記の仕事だった。一般市民に普及したのは随分歴史を下った後で、日本は明治以降だ。現 在、手紙では込み入った話や挨拶等電話で伝えられないことを伝えるメディアとして使われているこ とが多い。儀礼性や完結性、作品性があり、手紙は読み終えた後も捨てる事を躊躇させる存在感があ る。また、手紙の持つ作品性にも着目し、過去の文学作品の中で取り上げられた美しい手紙を紹介し た。手紙は、美しい余韻を残してくれるものだ。 第2章では、手紙の型についてまとめた。手紙に形式的な文章が使われるのは日本の手紙に特徴的 だという。型は古くから存在し、正倉院文書から現在のものとは違うが型の存在を思わせる文書が見 つかっている。現在では全体的に見て頭語と結語、前文、末文、主文に別れる型が存在している。そ の中でも前文は定型的に書かれることが多く、事項の挨拶、安否のあいさつなどが書かれる事が多 い。実際に若者が書く前文は語彙が限られており、形式的な印象を強めている。しかし、文例集に出 て来る言葉を実際使うことが少なくなったのも語彙の減少に影響を与えている。現代社会は標準化の 時代であるが、手紙もパラグラフシステムを使ってより標準化された手紙を書くことがある。没個性 的だが、我々は「堅苦しい」「とらわれたくない」というイメージを持ちながらも、型の存在によっ て手紙の表現を容易にしたり、儀礼性を保ったりと、恩恵を受けていることも確かなのである。 3章ではEメールについてまとめた。Eメールは手紙と同じく文字メッセージを主にやりとりする が、手紙と違う点はメッセージ送受の即時性だ。相手や自分の都合の良い時に送受でき、宛名書きな どの手間がほとんどかからないため便利だがEメールはプライバシーの保証は無く、プライバシーに 関する情報のやりとりには向いていない。Eメールの文章表現で特徴的なのは、「@」「>」マーク やフェイスマークの使用、口語形式の使用が多いということだ。 しかしEメールとともに登場した表現は別として、口語形式などは親しい間柄の手紙においては珍し い事では無い。そのため口語形式に関してはEメールならではの表現というわけではないようだ。た だ、小泉内閣メールマガジンという公式なメッセージにおいて口語などの柔らかい表現が使われるの はEメールという新しいメディアの特性によるものかもしれない。 4章では携帯メールについて述べた。携帯メールとは、携帯電話を使ったEメールやショートメッ セージサービスの利用のことで、最近特に若者の間に急激に普及した。携帯メールは文字数や入力の 仕方に制限があるため、手紙のような型は存在せず、口語や柔らかい文章の表現が使われている。ま だ手紙の要素を残したパソコンでのEメールとは違い、ほとんどが柔らかい文章の表現で成り立って いるのが携帯メールの特徴だ。その携帯性、手軽さから、このような特徴を持つ文章がやりとりさ れ、より口語に近いメディアと言える。また、携帯メールは仲の良い友達とやりとりされ、仲間のつ ながりを表すメディアである。仲野良い友達にだけ、思っている事がダイレクトに伝えることができ るという点で、携帯メールはテレパシーにより近いメディアと言えるのではないだろうか。 参考文献 小松美保子『心のかよう文例293 手紙上手』実業之日本社、1973年 情98-88 岡本加奈子 2001年度卒業研究 2/2 村尾清一『新手紙読本』講談社、1987年 中村汀女『もらってうれしい手紙とは』創拓社、1989年 橋元良明「コミュニケーションとしての手紙」『言語』大修館書店、vol.20、No.1、1997.1.pp.20-27 デイヴィッド・クローリー、ポール・ヘイヤー編『歴史の中のコミュニケーション』林進、大久保公 雄訳、新曜社、1995年 ハロルド・イニス「古代帝国のメディア」『歴史の中のコミュニケーション』デイヴィッド・クロー リー、ポール・ヘイヤー編、林進、大久保公雄訳、新曜社、1995年、pp.31-44 清川妙『美しい手紙 恋人へ・夫へ・妻へ・子供たちへ-』生活芸術社、1984年 宇野義方『言語生活研究 コミュニケーションの基本的問題』、明治書院、1980年 井上史雄「手紙文・はがき文はこう書く」編・国文學編集部『電子メディア時代の文章法』、學燈 社、2000年 「携帯ベースのショートメッセージ,世界で1日当たり約7億5000通」『ZD N e t / J A P A N ( h t t p : / / w w w . z d n e t . c o . j p / ) 』 , 2 0 0 1 年 1 0 月 1 5 日 (http://www.zdnet.co.jp/mobile/news/0110/15/gsmassociation.html) 高本條治「Eメール−新しい書き言葉のスタイル」『日本語学』明治書院、vol.16、No.7、1997.6、 pp.19-27 菊池真一「Eメールをどう使いこなすか」『電子メディア時代の文章法』學燈社、2000年、pp.164-175 橋元良明「携帯メールの利用実態と使われ方 −インターネットによるEメール利用との比較を中心に−」『日本語学』明治書院、vol.20、 No.10、2001.9、pp.23-31 太田一郎「パソコン・メールとケータイ・メール−メールの「型」からの分析−」『日本語学』明治 書院、vol.20、No.10、2001.9、pp.44-53 三宅和子「ポケベルからケータイ・メールへ−歴史的変遷とその必然性−」『日本語学』明治書院、 vol.20、No.10、2001.9、pp.6-22 中村功「携帯電話を利用した若者の言語行動と仲間意識」『日本語学』明治書院、vol.19、No.12、 2000.11、pp.6-22 松田美佐「ケータイによる電子メール急増とその影響」『日本語学』明治書院、vol.19、No.12、 2000.11、pp.46-55