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ウォータージェットによる精密研削加工の研究
平成12年度〔2000〕№45 宮崎県工業技術センター・宮崎県食品開発センター研究報告 ウォータージェットによる精密研削加工の研究* 竹山 隆仁*1 Study on Precision Grinding Technique by Water Jet Machining Takahito TAKEYAMA ウォータージェット加工をワーク端面の研削加工に応用する研究を行った。今回はウォータージェット を材料端面に噴射したときの基本的性状について調査した。いくつかの条件の下に加工を行い表面粗さと 壊食量を測定し結果を比較したところ、噴射位置・回数、研磨材供給量・粒度が重要な因子であることが わかった。 キーワード:ウォータージェット、研削加工 1 はじめに 現在、板金構造物等の端面の研削を行う場合、 手作業に依存しているのが実状であり、非能率的 である。このような状況を鑑み、ウォータージェッ ト加工をワーク端面の研削に応用する技術につい て研究を行った。 表1 加工機性能 最大圧力(MPa) ノズル送り速度(mm min) 加工エリア(mm) テーブル面とのノズル距離(mm) 377.5 0∼5000 1000×1000 0∼300 ウォータージェット加工は水の力を利用して加 工を行うため熱の発生が少なく、またNCと組み 2−3 実験方法 合わせることで幾何学的形状のものについても対 ジェットを噴射しながら材料の端面に対して平 応可能である。このウォータージェット加工機を 行にノズルを移動し、その際の加工面粗さ及び壊 用いて、端面の表面粗さを改善させることを目標 食量を測定した。 におき研究を進めた。本研究では、鋼やアルミニ ウムといった材料について加工実験を行い基本的 性状を調査し、その結果について報告する。 上記の材料を、以下のパラメータについていく つかの条件の下に加工を行い、比較を行った。 噴射位置 圧力 2 実験方法 ノズル移動速度 2−1 研磨材供給量、粒度 CNCウォータージェット加工機 本実験で使用したCNCウォータージェット加 工機の性能を表1に示す。 2−2 試験片 材料は機械構造用炭素鋼(S45C、板厚9mm) 噴射回数、ノズル移動方向 70×30mmの大きさに切断し表面を研磨した試 料に対しジェットを噴射した。その試料を万能投 影機にて寸法を計測し、表面粗さ輪郭形状測定シ を主に用いた。またアルミニウム(A5052、板厚 ステムにて加工面の粗さを測定した。寸法につい 10mm) についても試験を行い、 S45Cとの比較 ては、図1において色の付いた部分が噴流により を行った。 壊食された部分とすると、材料の上面側と下面側 * ウォータージェットによる精密研削加工の研究(第1報) *1 機械電子・デザイン部 を加工前と加工後に測定し比較した。表面粗さは、 材料上面から1mm、板厚の中心、材料下面から 73 ウォータージェットによる精密研削加工の研究 1mmの位置を測定した。参考までに、切断加工 時の表面粗さはRaが上から2.07、2.37、2.78であった (加工条件:圧力350MPa、切断速度10mm min、研 磨材#80 180g min)。 − ← 0 図2 図1 3 → + 噴射位置 壊食量測定 実験結果及び考察 3−1 噴射位置の影響について ノズル中心軸と材料端面との距離によってどの ような影響があるかを調べた。噴射位置について は、図2のように、ノズル中心軸と材料端面が重 なる位置を±0とし、中心軸がそれよりも材料内 側の時を+方向、逆を−方向とした。内径1.0mm 図3 噴射位置と壊食された幅の関係 のノズルを使用した場合、 噴射位置+0.5mmで は噴流のほとんどが材料に衝突し、−0.5mmで は噴流のごく一部しか衝突しない状態になる。噴 射圧力は常用最高圧力である350MPa、ノズル高 さは噴流の広がりを極力抑えるために1.0mm、ノ ズル移動速度は使用した材料を切断する際に断面 にテーパーが生じない速度である10mm minと している。またウォーターノズル及びアブレシブ ノズルは最も基本的なメーカー仕様である内径 0.33mm 1.0mmの組み合わせを使用している。 図4 噴射位置と表面粗さの関係(Ra) 図5 噴射位置と表面粗さの関係(Ry) 噴流によって壊食された幅について図3に示す。 グラフで示されるラインは計算値とほぼ一致した。 噴射位置が−0.7mm以下ではほぼ壊食されてい ない状況である。 表面粗さについて図4、5に示す。ノズル中心 軸が端面から離れるに従い、値が小さくなってい る。 また+方向をみると+0.5mmの位置で値が 大きくなり、+方向に行くに従って小さくなる傾 向にある。+方向に行くに従って粗さが小さくな るのは、試料を片持ち支持していることによる振 動が影響の一因と考えられる。 74 ウォータージェットによる精密研削加工の研究 3−2 噴射圧力の影響について 噴射圧力と壊食量との関係を図6に、表面粗さ との関係を図7、8に示す。ここでジェットの噴 射位置は基準位置である±0mmと、粗さの小さ かった−0.5mmの2箇所とした。 切断加工の際には圧力が高くなるに従い多く壊 食される傾向にあったが、今回の結果でも下面側 が上面側よりも多く削られていることから切断時 と同様であるといえる。 表面粗さは250MPaから300MPaでは改善され るものの、それ以上では大きな差はなかった。 3−3 図8 噴射圧力と表面粗さの関係(Ry) ノズル移動速度の影響について 図9、10、11にノズル移動速度の影響を示す。 ノズル移動速度によってテーパーがつく傾向は切 断加 工 の時 と 同様 で ある 。 ノ ズル 移 動速 度 が 100mm minでは材料下面側はほとんど壊食され ていない。テーパーがつかないときのノズル移動 速 度 は 、 グ ラ フ か ら 、 噴 射 位 置 ± 0 mm で は 18mm min、−0.5mmでは20mm minである。 表面粗さについても切断加工の時と同様で、ノ ズル移動速度が小さいと表面粗さの値も小さい。 図6 図7 図9 ノズル移動速度と壊食量の関係 噴射圧力と壊食量の関係 図10 ノズル移動速度と表面粗さの関係(Ra) 噴射圧力と表面粗さの関係(Ra) 図11 ノズル移動速度と表面粗さの関係(Ry) 75 ウォータージェットによる精密研削加工の研究 3−4 研磨材供給量、粒度の影響について 図12に研磨材供給量・粒度と壊食量の関係を、 図13、14に加工面粗さとの関係を示す。研磨材供 給量は#80では180、350、690g min、#120では 180、250g minとした。壊食量については、供給 量が多くなるに従い下面側がより多く壊食され、 切断 加 工時 と 同じ 傾 向を 示 して い る。 供 給 量 180g minで#80と#120を比較すると、壊食され る幅はそれほど変わらない。 表面粗さは、研磨材供給量が多くなるに従い小 さくなり、粒度#120では更に小さくなる。現段 図13 研磨材供給量・粒度と表面粗さの関係(Ra) 図14 研磨材供給量・粒度と表面粗さの関係(Ry) 階では、機構的には一般的な研削と同じで粒度の 小さい研磨材でそれよりも大きい傷を削っていく と考えている。被削材を摩耗させるためには被削 材の靱性よりも研磨材のエネルギーが大である必 要があるが、研磨材供給量が変わらなければ粒度 が小さい方が粒子ごとのエネルギーは小さくなり、 これが被削材の靱性を上回ればよいことになる。 すなわち、粒度が大であれば加工能力も高くなる が、その分破壊的な応力が被削材に加わり加工面 粗さも粗くなると思われる。従って被削材を摩耗 させられる範囲で粒度を小さくすれば表面粗さも 小さくなると考えられる。また、端面を垂直に削 るためには、研磨材を増量するとノズル移動速度 3−5 噴射回数の影響について も大きくする必要があるために、加工面粗さはこ ノズル移動速度を材料が垂直に壊食される速度 のグラフよりも粗くなると考えられる。さらに、 とし、材料端面を数回なぞってみた。このときノ 研磨材の過度の増量は噴流の脈動の原因ともなり、 ズルの移動方向を常に同一方向に動かしたときと、 表面粗さの改善という観点からはふさわしくない。 交互に方向をいれかえた場合とで比較を行った。 (図15、16、17) 噴射回数を増やしたとき上面幅の変化は2回目 以降小さくなるものの、下面側は大きく壊食され ている。研磨材#80では噴射回数・移動方向によっ て表面粗さが改善されることはなかった。#120 の場合はノズルを同一方向に複数回移動させると 表面粗さが多少改善される傾向にある。 3−6 アルミニウムとの比較 アルミニウムについても同様に実験を行った。 個々のパラメータが与える影響は、全体的傾向と 図12 研磨材供給量・粒度と壊食量の関係 してS45Cのときと同様であった。ただしアルミ ニウムの方が多く壊食され、表面粗さも粗い。 76 ウォータージェットによる精密研削加工の研究 4 まとめ 材料端面の表面粗さを改善させるために、ウォー タージェット加工機を用いて、いくつかのパラメー タについて試験を行ったところ、以下のようなこ とがわかった。 内径1.0mmのアブレシブノズルを用いたとこ ろ、ノズル中心軸が材料端面より0.5mm離れ た位置のときが表面粗さが小さくなった。 研磨材供給量を多くするほど、研磨剤粒度を小 図15 噴射回数と壊食量の関係 さくするほど表面粗さが改善された。 #120のガーネットを用いて、複数回端面に噴 射すると表面粗さが改善される傾向にあった。 今後の展開としては、ガーネット以外の研磨材 の使用などを検討し、さらに表面粗さを改善させ ることを考えている。 図16 図17 噴射回数と表面粗さ(Ra) 噴射回数と表面粗さの関係(Ry) 77