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病弱教育の現状と課題

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病弱教育の現状と課題
病弱教育の現状と課題
武田
1
鉄郎
病弱教育の対象となる児童生徒
病弱という言葉は医学用語ではなく、病気に罹っているため体力が弱っている状態
を示す一般的な意味で用いられる。病弱とは、慢性疾患等のため長期にわたり医療や
生活規制を必要とする状態を指し,また,病状が慢性に経過する疾患に限り、急性の
ものは含めない。学校教育法施行令第 22 条の3においては、病弱者とは、慢性の呼吸
器疾患,腎臓疾患及び神経疾患,悪性新生物その他の疾患の状態が継続して医療又は生活
規制を必要とする程度のものと、身体虚弱の状態が継続して生活規制を必要とする程度の
ものをいう。
身体虚弱という言葉も医学用語ではなく、体が弱いことを意味する一般的な用語で
ある。身体虚弱とは、先天的又は後天的な原因により、身体機能の異常を示したり、
疾病に対する抵抗力が低下したり、あるいはこれらの現象が起りやすい状態をいう。
身体虚弱の特徴としては、病気にかかりやすく、かかると重くなりやすく、また治り
にくい。疲労しやすく、疲労の回復も遅い。身体の発育や栄養の状態がよくなく、顔
色が悪く、貧血の傾向がある、アレルギー症状をたびたび繰り返す、頭痛、腹痛があ
るなどで、これらをいくつか併せもっていることが多い。
ここでは、病気の子どもの実態として内部障害、小児慢性特定疾患、長期欠席(病
気を理由)、病弱教育を受けている児童生徒の数を示す。
(1)
内部障害の子どもの人数
内部障害とは、身体障害者福祉法に定める心臓機能障害、腎臓機能障害、呼吸器機能障
害、膀胱又は直腸の機能障害、小腸機能障害、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害
の6つの種類をいう。昭和 42 年には心臓・呼吸器機能障害、昭和 47 年には腎臓機能障害、
昭和 59 年には膀胱又は直腸機能障害、昭和 61 年には小腸機能障害、そして平成 10 年に
はヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害と徐々に内臓の病気が身体障害者福祉法の内
部障害として行政的な位置づけを与えられるようになってきた。しかし、実際には上記の
疾患以外にも、内臓の疾患による機能障害が永続していて、社会生活あるいは家庭生活、
さらに重症になれば日常生活に著しい制限をきたしている場合があり、今後は肝臓疾患を
はじめとしてさらに多くの疾患を内部障害の対象範囲として広げていくべきであろう。平
成 13 年の身体障害者実態調査では、内部障害は 84 万 9000 人で身体障害者の 26.2%を占
め、同様に身体障害児のうち内部障害をもつ者は、17.3%(1万 4200 人)を占めている。
昭和 42 年には心臓・呼吸器機能障害、昭和 47 年には腎臓機能障害、昭和 59 年には
-1-
膀胱又は直腸機能障害、昭和 61 年には小腸機能障害、そして平成 10 年にはヒト免疫
不全ウイルスによる免疫機能障害と,徐々に内臓の疾患が身体障害者福祉法の内部障
害として行政的な位置づけを与えられるようになってきた。
(2)
小児慢性特性疾患の治療事業の給付人員
表1に示したように、平成 13 年度厚生労働省小児慢性特定疾患治療事業の給付人員は
103,562 人であり、悪性新生物、内分泌疾患などが上位を占めている。
表1 小児慢性特定疾患平成13年度給付人員
悪性新生物
23,303
慢性腎疾患
4,473
ぜんそく
3,719
慢性心疾患
4,958
内分泌疾患
37,113
膠原病
3,166
糖尿病
6,561
先天性代謝異常
8,710
血友病等血液疾患
神経・筋疾患
計
(3)
10,751
808
103,562
病気を理由に長期欠席(30 日以上)している児童生徒数
文部科学省の統計によると、病気を理由に長期欠席(30 日以上)している児童生徒は、
平成4年度は 79,400 人、平成8年度には 83,000 人まで増加したが、平成 12 年度には 69,066
人、平成 14 年度は 54,336 人が報告されている。ここで示されている数値は、必ずしも慢
性疾患を理由にしているわけではなく、急性疾患であったり、不定愁訴を訴え、長期にわ
たり欠席している児童生徒も含むものである。
(4)
病弱教育を受けている疾患別児童生徒数
病気の子どもたちへの教育は、病院に隣接・併設している病弱養護学校や病院内にあ
る病弱・身体虚弱特殊学級(院内学級)、小学校、中学校内にある病弱・身体虚弱特殊学級
あるいは小学校・中学校の通常の学級で行われている。厚生労働省の小児慢性特定疾患の
学齢児の 85.5 %が小学校、中学校の通常の学級で学んでいることが明らかにされ、病弱
教育を受けている子どもたちは 15 %程度にとどまっている。
病弱養護学校や病弱・身体虚弱特殊学級で学んでいる児童生徒の主な疾患とその人数
は,表2に示した。
-2-
表2 病弱教育を受けている疾患別児童生徒数
結核など感染症
7
新生物
536
血液疾患
108
内分泌
145
心身症等
878
筋ジスなど
522
循環器系
188
呼吸器系
430
消化器系
67
皮膚疾患
63
骨格系
157
腎臓疾患
356
先天性疾患
160
損傷
85
虚弱肥満
272
重度重複
1,221
その他
285
病連病類調査表より(平成13年5月1日現在 総数 5480人)
2
教育の場と教育の意義
病弱・虚弱児の教育は、病弱養護学校(現在 95 校,平成14年度、5月1日現在、2,
761人在籍)や病院内にある病弱・身体虚弱特殊学級(院内学級)、小学校、中学校内に
ある病弱・身体虚弱特殊学級(院内学級と合せて 833 学級,平成14年度、5月1日現在、
1,693人在籍)あるいは小学校・中学校の通常の学級等で行われている。児童生徒の主
な疾患は,心身症,神経症、気管支喘息、腎臓疾患,脳性まひ,進行性筋ジストロフ
ィー,血液疾患,心臓疾患、悪性腫瘍,内分泌・代謝疾患など,実に多様である。
病弱・身体虚弱児が入院・治療等による学習空白から学習に遅れが生じたり、回
復後においては学業不振を示すことも多い。病弱教育は、このような学習の遅れなど
を補完し、学力を補償する上で重要な意義を有することはいうまでもないが、その他、
①積極性・自主性・社会性の涵養
-3-
②心理的安定への寄与
③病気に対する自己管理能力の育成
④治療上の効果
等の意義も挙げられる。
3
病弱教育の課題
病弱教育の意義は、そのまま課題にとなるが、ここに記述するのはほんの一部の課
題にすぎない。。
・学習の空白や遅れなどを補完し、学力を補償すること
・積極性・自主性・社会性の涵養
・心理的安定への寄与
・病気に対する自己管理能力の育成
・ターミナル期における教育的対応の在り方
・心身症・神経症等の適応障害のある児童生徒の教育的対応の在り方など
また、教職員の専門性を高める研修の充実という側面から
・児童生徒理解に関する研修の充実
・病気や障害に関する知識・理解に関する研修の充実
・医療者等との連携の充実
・ネットワーク等のITの活用とその可能性の拡大など
今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)にも謳われているように、養護学校の
センター的機能の課題等多くの課題がある。
特に、院内学級の場合は、
・担当者の 70.5 %が院内学級の経験が3年未満であり、専門性の蓄積が困難である。
・研修の場が少ない。
・一人で学級経営しているため研修に出ると院内学級を閉級しなければならず研修に出
ることが困難である。
・異学年集団の指導で複式授業の効率的な在り方が問われている。
・免許外の教科の指導を行わなければならない。
・代替教員の不在が問題である。
・転入手続きが煩雑である。
・施設・備品・予算面で不備である。
などがあげられ、病弱養護学校とは違った課題も多い。
-4-
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