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これからの 大学入学者選抜を考える - Kei-Net

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これからの 大学入学者選抜を考える - Kei-Net
特集
これからの
大学入学者選抜を考える
ーー達成度テストを中心に
2013 年 10 月の教育再生実行会議第4次提言以降、
CONTENTS
達成度テストを中心とした新しい大学入学者選抜につい
て関心が高まっている。
現在、議論の場は中央教育審議会に移っており、高等
Part 1
中央教育審議会での議論の概要 ……………p3
学校教育部会、高大接続特別部会で検討されている。高
◉達成度テストの概要
等学校教育部会は今年の6月に審議まとめを公表して、
◉学習指導要領の改訂と新しい大学入学者選抜の実施
時期
いったん区切りがついた状態になっている。高大接続特
別部会は7月に答申をまとめる予定であったが、8月に
入っても引き続き検討が行われている。
そこで今回の特集では、中央教育審議会の各部会での
議論の概要やポイント、課題について整理した。例えば、
大学入試センター試験や大学の個別試験についてさまざ
まな課題が指摘されているが、高校の先生方の実感はど
うなのか(p10)
、大学で学ぶための基礎的な学力を測定
する試験はどのような内容なのか(p12)
、新しい試験の
方法として CBT や IRT の導入が提言されているが、そ
れは今までの試験とどのように違うのか(p14)
、達成度
テスト(基礎レベル)で参考にされている高等学校卒業
Part 2
高大接続・大学入学者選抜に関する
議論のポイント ………………………………p6
◉センター試験は「知識の量」を重視した問題か
◉センター試験、大学の個別試験に関する高校教員の意見
◉大学での学びに必要な基礎的能力を測定する
「言語運用力」「数理分析力」試験
(大学入試センター椎名久美子教授)
◉CBT、IRT、CATとは何か、これまでのテストとの
違いとは(東北大学熊谷龍一准教授)
◉「高等学校卒業程度認定試験」とはどんな試験か
Part 3
さらに、朝日新聞 × 河合塾共同調査「ひらく 日本の大
「ひらく 日本の大学」調査から見る
大学入学者選抜の在り方
ー学長に対するアンケート結果から ……p18
学」で、学長に今後の共通試験への期待、多面的・総合
程度認定試験とは何か(p16)などである。
的な評価について聞いた結果もまとめている。
最後に、3人の有識者の方に、新しい大学入学者選抜
に関する期待や課題について伺った。
新しい大学入学者選抜の在り方を考える上での、ご参
考になれば幸いである。
2 Kawaijuku Guideline 2014.9
Part 4
私はこう考えるー新しい大学入学者選抜に
ついて有識者の意見 ………………………p22
◉大阪大学 川嶋 太津夫 教授
◉北星学園大学 佐々木 隆生 教授
◉海城中学高等学校 教頭 中田 大成 先生
これからの大学入学者選抜を考える―達成度テストを中心に
Part 1
中央教育審議会での議論の概要
達成度テストの概要
2013 年 10 月の教育再生実行会議の第4次提言を
受けて、中央教育審議会(以下、中教審)で議論が進め
られている。高等学校教育部会では今年6月に審議まと
めが公表され、高大接続特別部会では答申案のとりまと
めが進んでいる。7月末日までに公表された資料をもと
に、達成度テストを中心に議論のポイントを整理した。
高校教育、大学教育、大学入学者選抜の
一体的な改革が求められる背景
まず、なぜ現在、このような検討が進んでいるのか、
<図表1>高大接続・大学入学者選抜の改善についての
基本的な考え方
●高等学校から大学までを通じて、「生涯学び続け、主体的に考える
力」等、これからの時代に必要とされる力を育むためには、知識・
技能とともに、知識・技能を活用する力を育成することが必要
●このため、高等学校教育、大学教育とその接点である大学入学者
選抜との一体的な改革が必要
・高等学校教育の質の確保・向上
・大学教育の質的転換
・能力・意欲・適性等を多面的・総合的に評価する大学入学者
選抜への転換
※ 中教審「大学入学者選抜の改善をはじめとする高等学校教育と大学教育の円滑
な接続と連携の強化のための方策について」
(答申)
(案)
(概要)より(6月
30 日配布資料)
背景を整理しておこう。
校段階の学力を客観的に把握・活用できる新たな仕組み
近年、大学・短大への進学率は上昇の一途をたどり、
に関する調査研究」が行われた。2010 年9月に公表さ
2013 年には 55.1%になっている一方で、入学定員を満
れた報告書では「高大接続テスト(仮称)」構想が提示
たすことができない大学もある。高等教育のユニバーサ
されている。この構想はそのまま採用されることはなか
ル化に伴い、大学入学者の学習歴が多様化したことから、
ったが、後述するように、
「達成度テスト(発展レベル)
」
高校段階の学習内容が十分に身についていない学生が増
のCBT、IRT、段階別評価などのアイデアは、「高大接
え、大学の授業についていくことができない大学生も増
続テスト」の中で登場したものだ。
加している。また、近年増加している推薦・AO 入試に
次いで、2012 年8月に中教審答申「新たな未来を築く
ついても、大学入学段階での学力が担保できていないと
ための大学教育の質的転換に向けて」において、高校教
の指摘もある。また、公立高校の授業料が無償化され、
育の質保証、大学入学者選抜の改善、大学教育の質的転
国費が投入されたことで、国として高校教育の質保証に
換が提言された。さらに 2013 年 10 月、教育再生実行会
責任を持つ必要性も生まれてきた。
議の第 4 次提言「高等学校教育と大学教育との接続・大
さらに、大学入試の問題についても、大学入試センタ
学入学者選抜の在り方について」と続き、ここでは、大
ー試験(以下、センター試験)の教科・科目数が増え、
学入学者選抜でも活用できる2つの達成度テストの導入
内容も知識を問う問題中心ではなく、知識・技能やそれ
が提言された。第 4 次報告以前から中教審でも議論は進
を活用する力に変えていくべきではないか、選抜性の高
んでいたが、第4次報告以降、高等学校教育部会で達成
い大学を中心に1点刻みの学力検査に偏重しているので
度テスト(基礎レベル)、高大接続特別部会では達成度
はないかといった指摘もある。より重要なのは知識を活
テスト(発展レベル)を中心に審議を進めている。
用する力や、大学での学修に対する意欲などであり、そ
れらを多面的・総合的に評価する大学入学者選抜へと転
換していく必要があるというわけだ<図表1>。
達成度テスト(基礎レベル)は
高校卒業程度認定試験と同じ程度を想定
こうした背景から、高校教育、大学教育、その接点で
達成度テスト(基礎レベル)は、高校段階での基礎学
ある大学入学者選抜を一体的に改革しなければならない
力を、客観的に測ることができるテストを構想している。
という機運が高まったのである。
目的の1つは試験の結果を高校での指導改善に生かすこ
今までこういう議論がなかったわけではない。2008
とである。小・中学校段階で行われている「全国学力調
年 12 月の中教審答申「学士課程教育の構築に向けて」
査」のような使われ方が想定されているといえばわかり
を受けて、北海道大学で文部科学省の委託事業「高等学
やすいかもしれない。それとともに、推薦・AO入試や
Kawaijuku Guideline 2014.9 3
就職時に、基礎学力を証明する方法の1つとして活用
<図表2>達成度テスト(発展レベル)の概要
されることも想定している。
テストの内容は国語、数学、外国語、地理歴史、公
民、理科などの教科・科目が想定されている。問題の
レベルは「高等学校卒業程度認定試験と同等程度とす
ることを検討」しているが、これについては異論も多
い。実施方法は、高校在学中に複数回(年間2回程度)
実施し、高校2・3年で、生徒や学校の希望に応じて
受検できるようにする見込みだ。
達成度テスト(発展レベル)は
「合教科・科目型」
「総合型」問題か?
達成度テスト(発展レベル)は、
「合教科・科目型」
や「総合型」など新たな内容も提案されている<図表
2>。
「教科型」とは「特定の教科・科目における知識・
技能を当該教科・科目の文脈の中で適切に活用できる
か等について問う問題」
、
「合教科・科目型」は「ある
教科・科目における課題に、他の特定の教科の知識・
技能を用いて解決する力を問う教科横断的な問題(例:
地理の問題において、数学Ⅰレベルのデータ分析力を
必要とする問題)
」
、
「総合型」は「特定の教科・科目
の枠を超えて、実社会や実生活における課題解決に、共
※ 中教審「大学入学者選抜の改善をはじめとする高等学校教育と大学教育の円滑な接続
と連携の強化のための方策について」
(答申)
(案)
(概要)より(6月 30 日配布資料)
通必履修とされる範囲でのすべての知識・技能を組み合
「総合型」問題の具体的な枠組み、記述式問題の導入、
わせて用いる力を問う問題(例:環境問題や食の問題な
CBT方式の導入、成績表示の具体的な在り方について
ど現実社会における複雑な構造をもった課題に対して、
は、専門家等による検討を進め、今後1年を目途に結論
複数の資料等の情報を分析・評価すること、概念・法則・
を得るという方向で議論が進んでいる。
意図などを解釈し課題に適用することなどのプロセスを
経て解答するもの)
」としている。
その狙いは、知識の量だけでなく、
「知識・技能を活
さらに大学入学者選抜制度全体を俯瞰した
制度設計を検討
用する力」を重視することにある。
高大接続特別部会は8月に入っても検討を続けている。
試験の形式については、
「当面は多肢選択方式により
大学の個別試験を含んだ大学入学者選抜の制度設計につ
知識・技能を活用する力を測定する出題を充実すること
いて審議する予定だ。もし、達成度テストを中心にした
が適当」としつつ、コンピュータを用いたCBT方式、
これらの構想が実現すれば、大学入学者選抜の仕組みが
およびそれに伴うIRT(項目反応理論)などを用いた得
抜本的に変わることは間違いない。時期について答申案
点調整、得点表示方式についても、将来的な導入の可否
では、早ければ 2021(平成 33)年度入学者からとして
を含めて専門家による検討を進めるとしている。
いる。現在の学習指導要領も知識・技能を活用する力を
実施回数は、基礎レベルと同様に、年2回実施が想定
育成する内容であるから実施可能という認識だ。ほかに、
されている。負担軽減のために、1回の試験は1日で終
次期学習指導要領と達成度テストの内容との関係など、
えることが前提だ。
まだ不明な点も残っている。
成績開示は、段階別表示による成績提供が行われる。
8月現在も、高大接続特別部会は審議中である。今後
このように、未定の部分も多いが、
「合教科・科目型」
の議論の推移に注意を払っておくべきであろう。
4 Kawaijuku Guideline 2014.9
これからの大学入学者選抜を考える―達成度テストを中心に
学習指導要領の改訂と新しい大学入学者選抜の実施時期
<図表2>求められる資質・能力の枠組み試案
現在の小学校6年生が
新しい大学入学者選抜の仕組みで受験?
達成度テストを中心とした新しい大学入学者選抜の導
入の時期について、答申案では早ければ 2021(平成 33)
年度入学者からとしている。
一方、学習指導要領の改訂については、これまで約
10 年ごとに実施されてきた。しかし、小学校における
外国語活動の前倒し、幼児教育の無償化などが検討され
ていることもあり、新聞などでは、今秋にも学習指導要
領の改訂について諮問されるのではないかと報道されて
いる。これらの2つのスケジュールをあわせると<図表
1>のようになり、現在の小学校6年生に対して、現行
※ 国立教育政策研究所作成。
「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容
と評価の在り方に関する検討会ー論点整理ー」より
の学習指導要領の内容に基づき、導入されることになり
要領に定められている各教科等の教科目標・内容を、ア)
そうだ。
教科等を横断する汎用的なスキル(コンピテンシー等)
一方、2012(平成 24)年から、文部科学省「育成す
に関わるもの、イ)教科等の本質に関わるもの(教科等
べき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り
ならではの見方・考え方など)、ウ)教科等に固有の知
方に関する検討会」
(以下、検討会)では、次期学習指
識や個別スキルに関するもの、の視点で分析した上で、
導要領に向けての基礎的な資料を得ることを目的に、議
学習指導要領の中に位置づけ直したり、その意義を明確
論が重ねられてきた。2014 年3月に議論の内容のとり
に示すことを検討すべきと指摘している。
まとめとして「論点整理」が出されている。
今後育成すべき資質・能力については、表現は異なる
その中では、
「今後、学習指導要領の構造を、①『児
ものの、高大接続特別部会で議論されている内容とも重
童生徒に育成すべき資質・能力』を明確化した上で、②
なる。例えば、中教審答申案では次期学習指導要領につ
そのために各教科等でどのような教育目標・内容を扱う
いて、「高等学校の教育課程について育成すべき資質・
べきか、③資質・能力の育成の状況を適切に把握し、指
能力を一層重視する観点から見直しを図ることも重要」
導の改善を図るための学習評価はどうあるべきか、とい
という文章が盛り込まれている。次期学習指導要領で育
った視点から見直すことが必要だ」と提言されている。
成すべき資質・能力について、教科等を横断した汎用的
検討会では、今後育成が求められる資質・能力の枠組
なスキルが強調され、達成度テストと方向性を同じくす
みとして、国立教育政策研究所が作成した「21 世紀型能
るのか、次期学習指導要領と新しい大学入学者選抜の仕
力」<図表2>が例示された。さらに、現行の学習指導
組みがどのようになっていくのか、今後の議論が注目さ
れる。
<図表1>次期の学習指導要領改訂のスケジュール案
年度
2015
2016
2017
2018
2019
2020
2021
2022
27 年度
28 年度
29 年度
30 年度
31 年度
32 年度
33 年度
34 年度
答申?
幼稚園
小学校
中学校
高校
告示?
2014
26 年度
全面実施?
全面実施?
秋 中教審に
諮問?
全面実施?
告示?
実施?
(年次進行?)
※ 河合塾作成。今秋に幼稚園から高校までの学習指導要領について諮問が出て、今回の改訂のスケジュールに当てはめた場合
Kawaijuku Guideline 2014.9 5
Part 2
高大接続・大学入学者選抜に関する議論のポイント
センター試験は「知識の量」を重視した問題か
現在、中央教育審議会高大接続特別部会で検討してい
めには共通一次試験で何点必要なのか、校内テストでは
る「大学入学者選抜の改善をはじめとする高等学校教育
なく全国統一の指標が登場したことで、生徒の学習、目
と大学教育の円滑な接続と連携の強化のための方策につ
標が明確になり、指導がしやすくなった面もあった。
いて(答申)
(案)
」
(以下、答申案)には、大学入試セ
ンター試験(以下、センター試験)について「知識の量
を重視したものとなっているのではないか等の課題も指
平均点 60 点を維持
得点も正規分布を示す
摘されている」とある。
というのも毎年、センター試験はおおむね平均点 6 割
現在のセンター試験では、知識の量を重視した問題が
を維持しているからである。また、得点分布が正規分布
出題され、知識・技能を活用する力が十分評価されてい
になるような努力が重ねられている。センター試験は学
ないのだろうか。そこで、河合塾では過去の入試問題分
習の達成度を測るという目的とともに、大学の選抜に資
析をもとに検証した。
する資料としての役割も担っているからである。
全国の受験生の共通の指標となった
共通一次試験
科目別に見ると、英語、国語<図表1>、数学はほぼ
正規分布だが、理科(物理)では、満点近くと低得点の
二極化が見られる<図表2>。
日本の大学入学者選抜において、センター試験はどの
センター試験は、多少の変動はあるものの、概して平
ような役割を果たしてきたのか、これまでの流れを整理
均点 60 点を維持してきた。河合塾の自己採点集計を見
しておこう。
ると、5教科7科目の文系、理系の合計もおおむね6割
センター試験の前身である共通一次試験は、1979 年、
前後で一定している。受験層が変化し、試験問題が毎年
国公立大学の受験者を対象とする共通試験として始まっ
公表されている中で、作問担当者の努力の賜物であり、
た。最大の意義は、国公立大学に進学するための目安が
一種の「神業」といってよいだろう。
わかりやすく提示されたことだ。それまでは、各大学の
いずれにしても、このように問題レベルの平準化を図
入学段階における難易度の目安は、主に高校内の試験の
ることによって、センター試験は見事に共通試験として
成績や順位に頼っていた。そうではなく共通一次試験と
の使命を果たしてきたわけである。
いう全国共通の指標ができたことで、地域の枠を越えて
そうした明確な指標の存在は、高校の指導にも貢献し
全国から志望校を選択する動きが強まったのである。
てきた。志望校に合格するためには、センター試験で何
高校での進路指導の際にも、目標の大学に合格するた
点以上とる必要があるのか、生徒1人ひとりに、わかり
<図表 1 >センター試験 国語の得点分布
<図表2>センター試験 理科 物理Ⅰの得点分布
※ 図表1〜2とも河合塾センター・リサーチより
6 Kawaijuku Guideline 2014.9
これからの大学入学者選抜を考える―達成度テストを中心に
やすい目標を提示することができるからである。生徒に
問題は決して多くない」と分析している。知識問題がま
とっても、目標の「見える化」が図られ、学習の動機付
ったく出題されないわけではないが、設問にはさまざま
けにもなってきた。また、高校によっては、推薦・AO
な工夫が凝らされており、むしろ学習指導要領の範囲で
入試で合格した生徒に、年度末までの学習を促すために、
得た知識を活用して、論理的思考力や考察力を要求する
センター試験受験を推奨するなど、多彩な形で活用する
問題が数多く出題されている。それを示す具体的なデー
動きも見られる。
タや問題例を、教科別に紹介しよう。
河合塾の分析によると、英語では、語彙、文法、会話
大学の難易度による序列化も進行
口語表現などの知識を問う問題の配点が、1990 年度の
95 点から 2014 年度には 58 点と減少している。その分、
だが、一方で、各大学のボーダーラインを並び替える
文脈から意味を類推させる問題や、段落要旨を読み取る
ことにより、大学の入学段階での序列化が進行した。正
問題などが増えている。これは、2006 年度にリスニン
確に言えば、それ以前も序列化は存在したが、共通一次
グテストが導入され、発音や語彙の知識は、その中で問
試験という共通の尺度の登場により、可視化されたので
うようになったことも影響している。
ある。それに伴って、各大学の入学者が特定の層に限定
数学はもともと単純な知識だけでは対応できない教科
される傾向が強まり、均質化が強まった。かつては、ど
だが、小問集合などは知識問題というイメージがあるか
の大学にも突出した学力を備えた学生や、ユニークな考
もしれない。しかし、小問集合でも、単純に公式を当て
え方をする学生など、入学者層は多様性があり、それが
はめれば解ける問題ではなく、問題文の行間を読み取ら
入学後の刺激にもつながっていたのだ。
なければ正解できないように工夫されている。
1990 年に導入されたセンター試験は、そうした序列
国語も、知っていればすぐに答えられると思われがち
化を壊す目的もあったようだ。共通一次試験では、国公
な漢字、文法でも、提示された文章の論理展開を踏まえ
立大学は全教科受験を義務づけられていたが、センター
た上で考えなければ、正しく解答することはできないよ
試験では私立大学の参加を可能にしたとともに、私立大
うになっている。
学はもちろん、国公立大学でも科目や配点を自由に選択
理科は、科目や年度によって異なるが、例えば生物で
できるようにした。その結果、少科目型入試を採用する
は考察問題が4~6割を占めている。実験の過程や、実
国公立大学も増加し、画一的だった入学者層は多様化し
験結果などが示され、内容を読み取る力が要求される問
た。一方で、教科・科目数の多様化により、共通一次試
題だ<問題例1>。しかも、教科書には掲載されていな
験に比べて、共通の全国統一の指標という位置づけは薄
い実験が出されることも少なくない。ただし、その実験
まったと言える。
に関連する重要な用語や考え方は教科書で学んでいる内
容であり、自分がこれまで学んだことと、提示された実
データの読み取りや、分野横断型問題など
論理的思考力や考察力を問う出題が目立つ
験をどう関連づけられるかといった活用力が問われてい
るのである。
もう1つ、共通一次試験・センター試験が果たした大
地理歴史・公民では、理科と同様に図・グラフなどの
きな役割が、良質な問題の提供である。かつての大学の
資料を読み取って考える問題が増えているほか、分野横
入試問題では、極端な難問や、奇問・珍問の類もかなり
断型の問題が見られるようになった。例えば、2009 年
見られた。それに対して、センター試験の問題は、高校
度の世界史Bでは、地図を示しながらユーゴスラヴィア
の学習指導要領に準拠した出題範囲で、幅広い分野にお
の歴史を解答させる、歴史的知識と地理的知識を融合さ
いてきちんと内容を理解しているかを問う問題になって
せた問題が出題された<問題例2>。複数の知識を組み
いる。答申案では、そうした難問・奇問を排した良質な
合わせることで、多面的な思考力が必要とされる良問と
問題の提供については評価する一方で、
「知識の量を重
言える。
視したものになっている」と指摘している。
このように、工夫が凝らされているにもかかわらず、
しかし、河合塾では「覚えてさえいれば解けるような
「知識の量を重視した問題」と指摘されてしまうのは、
Kawaijuku Guideline 2014.9 7
<問題例1> 2004 年度センター試験 本試験 生物Ⅰ 第4問 B
<問題例2> 2009 年度センター試験本試験
世界史 B 第2問
への成績提供を考えると、記述式を採用するのは困難で、
マークシート形式にせざるを得ない。しかし、一般的な
感覚からは、マークシート=知識問題といったイメージ
が定着しているのかもしれない。だが、マークシートや
多肢選択式では活用力や思考力を測定することができな
いということはなく、出題の工夫によってそれは可能だ。
センター試験は決して単に覚えていれば解ける問題には
なっていないのである。
センター試験が果たしてきた役割をどうするか
一方で、センター試験に課題がないわけではない。そ
の1つは受験者層の変化である。共通一次試験が開始さ
れた 1979 年当時の大学進学率は 26.1%、センター試験
実施時点の 1990 年でも 24.6%だった。それが 2013 年の
大学進学率は 49.9%である。共通一次試験当時の、大学
に進学すること自体がステータスであった時代の共通試
験と、大学のユニバーサル化が進んだ段階での共通試験
では、当然、意味合いが違ってくるだろう。現状に則し
た共通試験とはいかにあるべきか、検討が必要になる。
センター試験の問題についても、さまざまな制約があ
センター試験がマークシート形式の多肢選択型になって
る中で、工夫が凝らされているが、例えば、現在は教科・
いることと無関係ではないだろう。2014 年度で 843 大
科目ごとの出題が原則だが、教科の枠を越えた融合問題
学・短期大学が参加し、約 56 万名が受験する試験のた
も出せることになれば、知識を総合的に活用する力も問
め、高校での履修を配慮した試験の実施時期、個別大学
うことができる。また、英語の素材文では、近年、評論
8 Kawaijuku Guideline 2014.9
これからの大学入学者選抜を考える―達成度テストを中心に
文が主流だが、大学入学後の学修を考えると、学術論文
存在になっている中で、新しい枠組みの共通試験が登場
を増やすことを検討できるかもしれない。
するのならば、その新しい試験がこれまでセンター試験
とはいえ、課題はあるものの、高校が 40 年近くセン
が果たしてきた役割も何らかの形で果すのか、そうでな
ター試験を1つの目標として指導を行ってきたことは事
ければ別の形で担うことが望まれる。
実である。高等学校教育にとってセンター試験が大きな
コラム
答申案では、センター試験と同様に、大学の個別試験
<問題例1> 2014 年度 東京外国語大学前期日程 英語
についても、
「選抜性の高い大学や学部では、依然とし
て教科・科目の知識量を中心とした筆記試験(中略)、
知識・技能を活用する力や意欲、適性等が十分に評価さ
れていないのではないか」と指摘されている。実際、ど
のような入試問題が出ているのか。
難関国公立大学の 2 次試験でも
総合的な学力を要求する問題が増加
河合塾では、選抜性の高い大学・学部、つまり難関国
公立大学の 2 次試験の問題では、あまり知識偏重の要素
は感じられないと分析している。
特に、英語では従来、長文読解の比重が高く、読む・
書く力が重視される傾向が見られた。しかし、高校での
英語教育や大学卒業後に期待される人材像の変化に伴い、
近年、読む・聞く・書く力を組み合わせて、総合的な思
考力を要求する出題が目立っている。2014 年度東京外国
語大学では、与えられた講義資料を読んだ上で、英語に
よる講義を聞き、講義内容の要約と自分の意見を英語で
記述させる問題が出
されている<問題例
1>。2013 年度東京
<問題例2> 2013 年度 東京大学前期日程 英語
大学の英語の問題で
は、2人の写真が提
示され、どのような
会話が交わされてい
るのか、自由に想像
して英語で書く問題
が出題され、発想力
も必要になっている
<問題例2>。
Kawaijuku Guideline 2014.9 9
センター試験、大学の個別試験に関する高校教員の意見
高校教員に対するアンケート結果から
ガイドライン編集部では、高大接続特別部会の答申案
の「センター試験は知識の量を重視している」
「選抜性の
高い大学・学部の入試問題は教科・科目の知識量を問う
ことが中心で、知識・技能を活用する力が問われていない」
という指摘について高校の先生方に、Kei-Net ホーム
ページでアンケートを実施した 。
(注)
【英語】
■出題の文法・単語については基礎レベルの知識が非常に統制された内
容だと思います。ただ、解答のためには文脈把握も必要な内容ですの
で、知識量だけを問題にしているとは思いません。
□高校1~2年生の教科書程度の知識と運用に関するものが多いため。
□読解力、リスニング力を問う良質の問題だった。
【数学】
□図形の問題を解くときの発想力。経験値の高さ。ひらめきの多さがな
いと解けない問題が出題されることがある。
センター試験については意見が分かれる
質問の1つ目は、
「センター試験は知識の量を重視し
た試験だと思いますか」という設問である。これについ
ては、意見が分かれた。
□数学の問題はよく練ってあると思う。
□少なくとも数学では、知識の量だけでなく発想も大切にしていると思う。
【国語】
■思考力を駆使することと時間内に効率よく解くことが両立しない気が
します。
□知識で決まる設問もありますが、大部分は知識だけではなく、読解力
<グラフ1>にあるように、
「とてもそう思う」「そう
思う」が合わせて 45%、
「そう思わない」
「全くそう思
わない」が合わせて 48%と拮抗している。
なぜ、その選択肢を選んだのかについて理由も聞いた
ところ、英語、国語については、知識だけでなく思考力
も問う問題であるという意見が多い。また、
「マークシ
ート方式であるから知識を重視」
「量が多いから知識を
重視しているのではないか」
「知識の量を測ることで問
題ないのでは」というご意見もあった。
を必要とする良問だと思うからです。
□知識量よりも、情報の処理速度と組み合わせを重視しているように思
えるし、知識量自体はあった方がいいので、否定はしない。
□知識というよりは、(国語力の一部であるところの)読解力を測る物差
しとしては一定の価値があると評価している。ただ、じっくり読むこ
とが一部の生徒にとっては分量・時間の関係で難しい。
□全体構成を問う問題など、知識のみでは答えられない問いがほとんど
だと思う。
【地歴公民】
■地歴公民科の出題では、全体として良問とは言い難く、細かな重箱の
隅をつつくような出題で、何を受験生に問いたいのかが不明瞭な出題
が続いていると思う。
■地理は思考力が必要で、歴史系は知識が必要です。しかし知識があれ
ば力ずくで解けてしまう問題もあるので、知識が必要であると思います。
■日本史に関しては思考力を問うものも確かにあるが、思考の前提とし
<グラフ1>センター試験は知識の量を重視した試験か
て一定量の知識の蓄積は不可避と考えるので。
■地理では、知識だけではない問題もあり、よい問題も多いと感じる。
わからない
5%
□地理 B を主に教えているが、グラフを読み取らせて思考力を問う問題
その他
1%
全くそう思わない
8%
も多く、知識偏重とは思わない。
とてもそう思う
3%
【理科】
□文章を読み解いて解答したり、グラフから考察するよい問題が出てい
ると思っています。逆に、知識がなくても考えれば解ける問題も多く、
解けない生徒からは勉強の仕方がわからないという声もあります。
そう思わない
40%
そう思う
42%
□科目によって一概には言えないのではないか。例えば数学や物理は知
識だけでは解けない問題もある。例えば去年の波の問題は根本的な波
の原理を問うていたので、単なる詰め込みでは解けない。
□旧課程の物理に関しては、観察力や思考力がいる良問が出題されている。
【その他】
■一定の時間内に膨大な知識をもとにして解答しなければならないので、
その知識を要領よく処理せねばならず、求められる知識量が非常に多
いと思う。
(注)高校の先生方に対するアンケートより。河合塾が提供する大学入試情報サイト(http://www.keinet.ne.jp/)上で、2014 年7月に実施。回答件数
177 件。
10 Kawaijuku Guideline 2014.9
これからの大学入学者選抜を考える―達成度テストを中心に
■マーク方式の解答であるし知識重視にならざるを得ない。そして、そ
れで問題ないと考えます。
<グラフ2>選抜性の高い大学・学部の入試問題は知識・
技能を活用する力が問われているか
■思考力を問う問題を良問とする意見もあるが、そもそも思考に必要な
その他
1%
基礎的な知識の量を身につけさせるべきであり、その意味からセン
ター試験は一定以上の機能を十分果たしていると考える。
全く問われて
いないと思う
1%
■限られた時間の中で高校で学んだことを把握するには知識の量を重視
したものにならざるを得ないと感じる。でもそれがいけないとは思わ
ない。思考を試す問題は各大学が課す 2 次試験で見ればよい。
■センター試験に限らず試験というものは性質上、知識が必要である。
とても問われていると思う
6%
わからない
18%
問われて
いないと思う
16%
問われて
いると思う
59%
さらに、大学入試において活用する力以前に、知識すら持っていない
生徒が落ちるのは当然のことである。知識を問うことを問題視するこ
と自体がおかしな話である。
□確かに知識量は必要だが、それをもとにした処理能力が問われている
と思う。
くことは不可能である。単に公式・考え方を暗記するだけでなく、いつ、
□知識を活用して考察させる良問がかなりあり、単純に知識を問う問題
どのように公式・考え方を使うのか判断できなければ解くことはでき
でも、生徒に対して必要な知識の量が担保されているかを測ることも
ない。この判断する力こそが知識・技能を活用する力であり、現状の
重要であり、知識量を重視しているわけではないと思う。
□思考力や応用力を問う良問も多い。
□知識と活用のバランスがとれた良問だと思う。
入試問題で十分に問われていると考える。
■国語は、記述を通して、解釈力、表現力が問われており、知識の量の
みで解決できるものではないと考えられるから。
□択一型なので知識偏重になるのは仕方ないが、その割には考えた出題
■理科に関しては、国公立大学・私立大学ともいわゆる難関大学では知識・
であると思う。正解を1つとせず、正解を複数設けて、点数の重みを
技能を活用する力が十分に問われていると思います。一方で私立大学
変えるような出題を考えてもいいのではないか。
の医学部では知識量を問うことが中心になっているところもあると思
□受験生を選抜する1つの手段として実施しているのであるから、受験
生の能力もさることながら「努力」も報われる内容となってもらいたい。
■「とてもそう思う」「そう思う」
□「そう思わない」「全くそう思わない」
います。選抜性の高い大学・学部と一括りにはできません。
■生物では、実験観察問題はよく出題され、結果からわかることやそれ
を使って考える問いは多いと感じています。文系の科目で、難解な単
語や用語を知っているかどうかが解答の鍵となることも多いと思いま
す。
【その他】
大学の個別試験の入試問題は
活用する力が問われているという回答が6割強
質問の2つ目は「選抜性の高い大学・学部の入試問題
は、知識・技能を活用する力が問われていると思いますか」
という設問である。
結果は、
「とても問われていると思う」
「問われている
と思う」が合わせて 65%、
「問われていないと思う」
「全
く問われていないと思う」が合わせて 17%となった<グ
ラフ2>。コメントを見ると、
「選抜性の高い大学がどこ
かわからない」
「大学による」というご指摘もあったが、
■知識を活用しなければ、東京大学、京都大学の問題は解答できない。
■難関国立大学の論述問題は知識・技能を活用できないと太刀打ちでき
るものではないから。
■答えを丸暗記するような入試が行われているわけではありません。知
識を動員しないとできないような問題が難関大学には多いと感じます。
■選抜性の高い大学ほど公にさらされる頻度が高く、その分、吟味され
た問題になっていると思います。むしろ選抜性の低い、いわば知名度
の低い大学ほど、この程度の知識は持っていてほしいという思考力を
問わない問題が出題されていると思います。
■知識があれば解ける問題も確かにあるが、全体的に見るとその知識を
うまく活用しながら解く問題の方が配点が高いから。
□活用する力は大学で養えばよい。活用ばかりに目を向けても、知識が
なければ活用もなにもありえない。
□難関大学ではしっかりと問われている問題も多い。その反面、私立大
個別試験の問題については、活用する力、思考力が問わ
学では受験機会が多すぎることもあり、問題作成に苦労しており、易
れていると考えているようだ。
問と難問を混ぜ平均点調整に重きを置いているような出題など、知識
重視の大学もある。大学もそれぞれの立場で苦労しており、何のため
の入試かが不明確になってきている大学もある。
【教科・科目】
■英語は、英作文などアウトプットする部分なども多く、十分問われて
いると思う。
■英語は、リスニングや実用的な力を問う出題がかなり増えてきている
から。
■数学に関しては、知識だけではなく、それを活用する能力がないと対
応できない問題も多い。
■数学は、知識だけで入試問題(センター試験・2次試験ともに)を解
□知識・技能を活用する力が問われている問題もあれば、そうでない問
題もあり、一概には言えないと思います。大学に入りやすくなってい
る現在、残念ながら易きに流れ、毎日行われる学習の中で思考力を高
めようとする生徒は少なく、日頃から知識・技能を活用する力を養成
する授業が実際どれだけ行われているのか。いたちごっこのようです
が、入試問題が変われば授業や生徒の取り組みも変わるのでしょうか。
■「とても問われていると思う」「問われていると思う」
□「問われていないと思う」「全く問われていないと思う」
Kawaijuku Guideline 2014.9 11
大学での学びに必要な基礎的能力を測定する
「言語運用力」
「数理分析力」試験
大学入試センター 研究開発部 椎名久美子 教授
独立行政法人大学入試センター研究開発部では、現在
力低下も指摘されるようになっ
の教科・科目別の試験とは異なる観点から、大学で学ぶ
てきました。そのため、推薦・
ための基礎的な学力を測定する、新しい試験の開発を進
AO 入試で入学した学生が、入
めている。その内容について、研究開発部の椎名久美子
学後の学びに対応できる最低限
教授に聞いた。
必要な能力を身につけているか
大学で専門分野を学ぶための資質に関して
教員と学生の意識に大きな乖離がある
椎名久美子 教授
どうか、測る必要性を感じたのです。
その試みの1つとして、大学入試センターでは、2003
~ 2004 年に、国語、数学、英語について、中学校で学
──新しい学力試験を開発された経緯、背景からお聞か
習する内容を含めた問題を試作しました。一般入試に向
せください。
けて十分な準備をしている生徒なら満点、平均的な生徒
誤解がないように、最初にお断りしておきたいのは、
でも 80 点は取れるだろうと想定した試験でした。とこ
現在、中央教育審議会での議論とは別の、独立した問題
ろが、推薦・AO 入試を経た入学者が多い大学と短大の
意識に端を発する試験の開発だということです。
大学1年生にとっては、それでも難しかったようで、特
大学入試センターでは、以前から、大学で学ぶために
に数学の得点分布は低得点に集中してしまいました。そ
はどのような能力が必要になるのか、さまざまなアンケ
のため、教科・科目別の内容を平易にするだけの試験で
ート調査を実施してきました。例えば 1991 ~ 1992 年に
は限界があり、まったく異なる観点から問題を作成する
は、大学で専門分野を学ぶための資質に関する教員と学
必要があると考えたのです。
生の意識を比較しました。抽出した 27 の資質項目につ
この試験で主に想定しているのは、推薦入試、AO入
いて、教員が考える必要性と大学3・4年生が入学後に
試による入学者です。大学では、例えばテキストや論文
どの程度養成されたと実感しているかを調査したところ、
を読んで自分でその内容を吸収する力が要求されます。
まだ大学進学率が約 25%だった頃の国公立大学におけ
そうした大学での学びに対応できる準備が整っているか
る調査ですが、特に「文章表現力」
「論理的思考力」「判
を測る試験内容をめざしています。
断力」などの項目で、両者の間にかなり大きな開きがあ
ることがわかりました
。その後、大学進学率が急上
(注1)
昇していく中で、2004 年に国公私立大学教員を対象と
解答形式はセンター試験と同様の
マークシートによる多枝選択式
した調査も実施しましたが、やはり同様の傾向が見られ
──作成した試験の概要を教えてください。
ました
「言語運用力」と「数理分析力」の2つの分野の基礎
。そこで、こうした項目の能力が入学時に身
(注2)
についているかを測る試験が必要なのではないかと考え
的な学力を測定するための開発を進めています。
たのです。
それぞれの試験で測定をめざす能力を、「言語運用力
推薦・AO入試を経た入学者の
基礎的な学力の測定
試験」では3つ、「数理分析力試験」では4つのラベル
に分類しました<表1>。ただし、設問と能力の対応は、
必ずしも1対1ではなく、1つの設問で複数の能力を測
もちろん、一般入試では学科試験を通して、そうした
ることも想定しています。試験時間は 40 分を想定して
項目の能力もある程度、測れていたと思います。しかし、
いますが、これは短時間での実施を想定して、高校での
入試方式が多様化し、推薦・AO入試など、学科試験の
授業時間内を目安にしたからです。解答形式は、センタ
比重が低い選抜方法による入学者が増加し、大学生の学
ー試験と同様のマークシートによる多枝選択式です
(注1)柳井晴夫[研究責任者]ほか (1993)。大学の各専門分野の進学適性に関する調査研究報告書—大学入学選抜資料としての適性検査のための基礎研
究—。大学入試センター。
(注2)石井秀宗ほか (2005)。大学生の学習意欲と学力低下に関する大学教員の意識についての調査研究。大学入試センター研究紀要、34、19-58。
12 Kawaijuku Guideline 2014.9
。
(注3)
これからの大学入学者選抜を考える―達成度テストを中心に
──どのように開発をされているのですか。
<表1>各分野で測定する能力の分類
まず 2012 年 10 月に高校1校の2年生(約 70 名)に
(a)言語運用力
ラベル
測定する能力
モニター調査を実施しました。この分析をもとに改良し
た問題冊子を用いて、
同年 12 月に高校2校の2年生(約
550 名)と、大学2校・短大1校の1年生(約 300 名)
を対象に、規模を広げたモニター調査を実施し、設問の
難易度や識別力を確認しました。
ご協力いただいた大学・
短大は推薦・AO 入試を経た入学者が多いところ、高校
は中堅進学校です。
これらのモニター調査では、受験者に問題に対する感
想などのアンケートを行い、題意が伝わりにくかった問
題や、高校で特定の科目を履修していると有利になるよ
うな問題がないかも確認しました。さらに改良を加えて、
2013 年4月と 2014 年4月、5大学・短大で新入生(計
約 4,000 名)を対象にモニター調査を実施しました。
(b)数理分析力
ラベル
測定する能力
L1
情報の把握:細かい情報も含め、
文章内の情報を正しく読み取る
能力
L2
内容の理解:文章の内容の理解
や解釈を行う能力
L3
推論と推察:内容の理解にとど
まらず、推測、評価、判断等を
行う能力
M1
数と式、関数に関わる計算がで
きる
M2
定義・ルールを理解し、適用で
きる
M3
グラフや数表から内容を読み取
れる
M4
数理的な思考力を働かせて問題
を解決する
<表2>「言語運用力」の問題冊子の構成
大問番号
第1問
第2問
第3問
第4問
第5問
第6問
第7問
第8問
問題の内容
紛らわしい表現の理解
会話の内容の正確な読み取り
会話の文脈の理解に基づく適切な応答
会話文から読み取った情報を地図に適用して理解する
正しい推論を選ぶ
会話の内容からの状況の推測
長文の読み取りとそれに基づく類推
文章と図の組み合わせによる理解
日英
日本語
英語
英語
日本語
日本語
英語
日本語
英語
ラベル
L2
L1、L2
L2、L3
L1、L2
L3
L2、L3
L1、L3
L2
※ 表 1・2 出典:椎名久美子ほか (2014)。 大学入学志願者の基礎的学力測定のための枠組み
の検討および「言語運用力」についての予備的分析。大学入試研究ジャーナル、24、41-49。
このようにすでに数回のモニター調査を実施していま
集や三角比の表 <表3>「数理分析力」の問題冊子の構成
すが、そこで用いた問題冊子を他の集団に対する調査で
を、巻末に添付
も使用する可能性があり、問題の公開はしていません。
し、必要に応じ
提示された文章や図・グラフを
読み取って考えさせる問題が中心
て参照できるよ
大問番号 ラベル
M2
第1問
M2
M1
第2問
M1
う に し ま し た。
M1
出題内容
漢数字表示の規則の理解
電子メールシステムの規則の理解
数学Ⅰ・数学 A の小問集(1)
数学Ⅰ・数学 A の小問集(2)
絶対値を含む関数とグラフ
第3問 M3、M1 最小2乗法による近似直線の当てはめ
それでも、結果
M3
平均点の推移表とそのグラフの読み取り
M4、M2 文字列を模様で表すための規則の理解
──出題内容をもう少し詳しく紹介してください。
的に点差がつき
試作版の問題冊子の構成は<表2><表3>の通りで
やすい問題にな
す。教科・科目別の試験ではないとはいえ、生まれつき
り、公式集が与
の能力を測る試験ではなく、高校での勉強によって身に
えられていても、
ついた能力が測定できる出題をめざしています。単純な
それを活用する力には差があるということがわかりまし
知識を問う問題ではありませんが、例えば、B5版1ペ
た。また、大問間の関係についても分析を進めています。
ージ程度の文章を読んだり、図表を見たりして考えさせ
──今後の予定についてお聞かせください。
る問題があります。幅広く学んで知識を備えていれば、
どうすれば大学での学びに必要な基礎的能力をきちん
それが理解しやすくなる面はありますが、特定の知識が
と識別できる問題になるのか、作題のマニュアルを作成・
ないと解けない問題、逆に特定の知識があると提示され
整備し、試験問題作成の際に役立てられるようにしたい
た文章などを読まなくても解けてしまうような問題にな
と考えています。また、この試験を受けた学生が、その
らないように作成されています。
後、大学でどのような学びを進めていったのか、追跡調
──モニター調査からどのようなことがわかりましたか。
査を行うことも重要です。すでにいくつかの大学では、
両試験とも、想定した集団における能力の高低を識別
この試験の成績とGPAの関係など、独自の調査を実施
する試験になっていることが確認できました。言語運用
しており、協力して集約化を図り、分析していきたいと
力試験は約 50%、数理分析力試験は約 60%の得点率が
思います。
平均点になっていますが、もう少し高めの平均点を想定
さらに、個人的な見解ですが、推薦・AO 入試などの
していたというのが正直なところです。
選抜において、調査書や面接などと併用する形で、この
また、数理分析力試験ではいくつか課題も発見できま
試験を活用する方法もあり得るかもしれません。そのほ
した。大問 4 問のうち、1 問はラベルM1として数学Ⅰ・
か、大学入学後のプレースメントテストの1つとしての
数学Aの問題を出題し、その際、問題を解くための公式
活用など、さまざまな可能性があると考えています。
第4問
M4
蚊取り線香の燃えつきる時間
M4
平均値と中央値の計算
※ 桜井裕仁ほか (2014)。大学入学志願者の基礎的学
力測定のための
「数理分析力」の調査とその予備的検討。
大学入試研究ジャーナル、24、51-58。
(注3)
「数理分析力試験」はセンター試験の「数学②」と同様の形式。
Kawaijuku Guideline 2014.9 13
CBT、IRT、CAT とは何か、これまでのテストとの違いとは
東北大学大学院教育学研究科 熊谷 龍一 准教授
達成度テストの議論では、CBT や IRT の導入などが
っと難しい問題や同じ難易度の
検討されている。これまでの大学入試センター試験(以
問題、間違っていたらやや簡単
下、センター試験)とは違った内容になりそうだが、こ
な問題や同じ難易度の問題が出
れらの言葉はあまりなじみがない。そこで、IRT を軸
されます。それを繰り返すこと
にしたテスト研究が専門の東北大学熊谷龍一准教授に話
によって、受験者1人ひとりの
を聞いた。
能力を算出するのです。
熊谷龍一 准教授
各受験者にどの問題を出題するのが最適なのか、コン
CBT により動画や音声を扱った出題が可能に
達 成 度 テ ス ト で 導 入 が 検 討 さ れ て い る CBT は、
ピ ュ ー タ が 判 断 す る 根 拠 に な る の が、IRT(Item
Response Theory = 項 目 反 応 理 論 ) で す。IRT で は、
一般的に、個々の問題に対して能力が低い受験者の正答
Computer Based Testing の略で、文字通りコンピュー
確率は低く、能力が高い受験者の正答確率は高いという
タを利用したテストのことです。他に、TOEFL などで
S字曲線が描かれます。縦軸は問題の正答確率、横軸は
行われている IBT(Internet Based Testing、インター
受験者の能力です<図>。この S 字曲線は項目特性関
ネットを使ったテスト)もありますが、CBT ではイン
数という関数で表現されます。この関数と受験者がどの
ターネットにつながっているかどうかは問いません。
ような解答をしたのかという情報を用いて、受験者の能
CBT の導入によって、従来の紙媒体のテストでは困
力がどの程度であるのかが計算されます。
難だった出題が可能になります。例えば、問題に動画や
大量の資料を使ったり、回答に際して音声を利用するこ
とも可能です。また、紙媒体のテストでは、終了後、い
IRT を用いる利点と課題とは
ったん回収して採点を行う必要がありましたが、CBT で
IRT(項目反応理論)を使ってテストを作る利点はい
は回答と同時に採点を行うことができ、結果をすぐに提
くつかあります。1つ目は、CAT が導入しやすくなる
供できます。実際に、CAD 利用技術者試験(2級)で
点です。従来のテストでは全員が同じ問題を解きますの
は CBT 方式による試験が行われていますし、医歯薬系
で、簡単な問題ばかりだと能力の高い受験者は全問正答
の共用試験でも CBT によるテストが実施されています。
することもあります。そのため満点を取った受験者同士
の能力の違いをそのテストでは測ることができません。
1人ひとりに異なる最適な問題を出題
その逆もあります。しかし、CAT ならば1人ひとりに
最適な問題が出題されますので、例えば受験者の能力に
CBT による大きなメリットが、CAT(Computerized
応じた問題を出題し、どの難易度の問題まで解くことが
Adaptive Testing)
、すなわちコンピュータによる適応
できたかによって、細かく測定することができるのです。
型テストが導入しやすくなることです。CAT とは何か、
ただし、CAT では複数回のテストで同じ問題を使うた
典型的なパターンを説明しましょう。
めに、原則として問題は非公表です。
まず受験者はコンピュータ画面で提示された問題を解
2つ目は、テストを複数回実施する場合に、2つ以上
きます。コンピュータが、受験者1人ひとりに対して、
のテストの得点を比較できるようにすることが重要です
受験者の解答によって次に答えるべき最適な問題を選び、
が、複数回のテストの得点を比較するために重要な「等
次の問題を出題します。単純に言えば、正答であればも
化」がしやすいことです(IRT でなくても等化はでき
14 Kawaijuku Guideline 2014.9
これからの大学入学者選抜を考える―達成度テストを中心に
ます)
。しかし、
「等化」はすぐにはできません。2つ以
<図>項目反応理論
上のテストを「等化」しようとすると、
「それぞれのテ
ストで同じ問題を出す」
「同じ時期に同じ受験者がそれ
ぞれのテストを受験する」など、問題を共通にしたり、
受験者を共通にしたりすることによって、複数のテスト
に 共 通 の 情 報 を 持 た せ る こ と が 必 要 に な り ま す。
TOEFL などでは、実際のテストに採点に入れない問題
を含めてデータを集めています。
課題としては、事前に予備テストを行い、各問題の特
性や難易度を把握しておく必要があることです。という
のは、IRT は問題の質を検討・吟味することもできる
理論で、一般的に問題の特徴は先述した S 字曲線にな
りますが、そうならない問題もあります。例えば、能力
が高い人ほど間違える逆 S 字曲線となる問題や、能力
※ 熊谷先生提供
の高低にかかわらず正答率が変わらない水平の線を描く
もう1つはスコアの表示です。<図>の横軸で示され
問題などです(いわばサイコロを投げて当て推量してい
る受験者の能力は連続量のため、段階別ではなく細かい
るようなものです)
。実際のテストにそうした問題が含
数値としてスコアを出すことも可能です。しかし、小数
まれることを避けるため、予備テストは不可欠です。
第 4 位以上に細かい数値まで示しても、それは誤差の範
なお、現在、達成度テストに関係して発表されている
囲内であり、意味がない場合もあります。段階別に示す
内容を見ると、テストは IRT に基づく CAT を指して
ことも考えられますが、ちょうど境目のところで次の段
いると思われます。
階に分類された受験者が納得できるのかは、十分な説明
このようにして測定した能力の表示ですが、センター
が必要でしょう。
試験や学校の定期テスト等で用いられている、点数を加
そのほか、コストの問題もあります。システムの開発
点する素点方式とは異なります。IRT によって、受験
のほか、情報セキュリティ、パソコンやタブレット端末
者の能力の幅について、例えば、-3、-2、-1、0、
などデバイス、インフラの整備など、相応のコストがか
1、2、3と示された場合、それを受験者にどのように
かるはずです。実は紙のテストも印刷費・輸送量等一定
成績として提供するかはテストによってさまざまです。
程度の費用がかかっていますが、紙に比べてどの程度ま
それを示すスコアとして0~ 10 なのか、0 ~ 100 なの
でが許容されるのかは検討する必要があるでしょう。ま
かは、作成者側がどうスコアを表示させたいかにもより
た、デバイスはタブレット端末でも可能ですが、情報技
ます
術の進歩は早く、達成度テストを実施する頃にどのよう
。
(注)
な情報環境になっているのか、予測は難しいでしょう。
CAT 、IRT を導入した場合の課題とは
さらに、CAT では事前に膨大な問題をストック(項
目プール・項目バンク)する必要もあります。高大接続
実際に達成度テスト(発展レベル)で CAT や IRT
特別部会では1科目あたり 2 ~ 3 万問以上という数が出
を導入する場合の課題は少なくありません。1つは「等
ています。詳細は今後検討するにしても、千単位の数は
化」のための予備テストの実施です。日本では、テスト
必要で、問題の蓄積が可能かという課題があります。
に出題される問題は全て初出であるべきという考えが根
このように、IRT や CAT を導入した達成度テストの
強く、特にセンター試験のようなテストであれば、予備
実施にはさまざまな課題が残されています。いつから新
テストで出題された問題が本番でも出題される可能性が
しいテストを開始するのか、それまでに達成度テストの
あると、予備テストを受けた人が有利だとか、予備テス
デザインや、課題の解決ができるのかを今後、真剣に考
トの問題漏洩の懸念があります。
える必要があります。
(注)
例えば TOEFL iBT Ⓡでは、各セクションのスコアは、0 ~ 30 までで、総合スコアは 0 ~ 120 までで示される。さらに、Reading や Listening セクションでは、ス
コアにより、レベルが高(22 ~ 30)
、中(15 ~ 21)
、低(0 ~ 14)とされる。また Speaking セクションでは、同じ 30 点のスコアでも、レベルは優(26 ~
30)
、良(18 ~ 25)
、限定的(10 ~ 17)
、極めて限定的(0 ~ 9)の4つになるなど表示の内容が異なっている。
Kawaijuku Guideline 2014.9 15
「高等学校卒業程度認定試験」とはどんな試験か
中央教育審議会高等学校教育部会では、達成度テスト
2013 年度の出願者を最終学歴別に見ると、中学校卒業
(基礎レベル)の内容について「テストのレベルは例え
12.8%、高校中退 48.6%、全日制高校在学 10.5%、定時制・
ば高等学校卒業程度認定試験と同等程度とすること」を
通信制高校在学 22.8%などであり、多様な背景を持つ人
検討している。では、高等学校卒業程度認定試験とはど
が出願していることがわかる。注目されるのは、大検のと
のような試験なのか。受験者数、受験者層、実施科目、
きには受験資格がなかった、全日制高校在学者も受験可
出題される問題の難易度などを河合塾コスモ
能になり1割を占めていることだ。おそらく不登校か、不
(注)
が分析
した。
登校などから出席日数などが不足し、進級・卒業が危惧
される全日制高校在学者が、高認を受験していると予想さ
高卒者と同等以上の学力を認定する試験
全日制高校在学者も受験可能に
れる。
<図表1>は、過去 6 年間の出願者数の推移だが、毎
高等学校卒業程度認定試験(以下、高認)は、2005 年度、
年約 3 万人が受験している。ゆるやかな減少傾向である
それまでの大学入学資格検定(以下、大検)に代わって
のは、少子化に伴う自然減のほかに、上記の不登校や進
導入された。何らかの理由で高校を卒業していない人に
級を危惧される生徒が、高校中退、高認受験というルート
対して、高校卒業者と同等以上の学力があるかどうかを
を選択せず、近年、通信制高校に転校する生徒が増えて
認定する試験である。合格者には大学・短大・専門学校
いることが関係しているようだ。
の受験資格が与えられるほか、公務員や企業などの採用
試験や資格試験で、高卒以上が出願要件になっている場
合に活用できる。
高卒認定取得には 8 ~ 10 科目の合格が必要
高校で単位を取得した科目は免除
試験は8月と 11 月の年2回実施されており、その年度
課される科目は<図表2>の通りで、科目の選択方法に
の3月 31 日までに満 16 歳以上になること、つまり高校1
よって、最小8科目、公民で「倫理+政治経済」を選択し
年生以上であることが受験資格になっている。
た場合はプラス1科目で9科目、理科で「科学と人間生活」
以外を選択した場合はさらに 1 科目追加されて最大 10 科
<図表 1 >出願者数と合格者数
高校中退者
等数
目が課される。高卒認定取得には、この8~ 10 科目にす
出願者・
合格者数
べて合格する必要がある。ただし、1 回の試験で全科目に
合格する必要はない。複数回に分けて合格科目を蓄積す
ることも可能だ。また、高校在学中の人はもちろん、高校
中退者でも在学中に所定の単位を修得している場合は、
免除申請を行うことによりその科目を受験する必要はない。
出願者数
27,730 人
※ 文部科学省パンフレットより
16 Kawaijuku Guideline 2014.9
<図表2>高認で課される科目
※ 河合塾コスモホームページより
これからの大学入学者選抜を考える―達成度テストを中心に
出題範囲は高校 1 年までに学ぶ内容
問題の難易度は教科書の例題程度
なお、合格最低点は公表されていないが、河合塾コス
モの生徒の自己採点結果をもとに推計すると、例年、どの
試験時間は各科目 50 分で、1 科目 20 ~ 40 問のマーク
科目も 100 点満点中 40 点以上であれば合格になっている
シート形式である。数学を除けば、回答は4つの選択肢の
ようだ。
中から選ぶ形式がほとんどである。
<図表1>の通り、2013 年度の合格者数は 8,469 名で、
出題範囲は、中学校および高校1年次で学ぶ内容であ
出願者に対する合格率は 30.5%だった。この数値は合格
る。実際、河合塾コスモに通う生徒たちも、高校1年を終
者数は全科目に合格して、高卒認定を得た人だけの数値
えて中退した場合は、英語、数学、国語および高校1年
である。高認は複数回に分けて受験することも可能で、公
次に履修した理科や地理歴史・公民(以下、地歴公民)
表はされていないが、科目ごとの合格率はかなり高いと予
が免除科目として申請可能な場合が多く、理科・地歴公
想される。ちなみに河合塾コスモの生徒は、合格率 9 割
民の3~4科目を合格すれば、高卒認定資格が得られるこ
以上の科目も少なくない。
とが多い。
出題される問題の難易度は、河合塾コスモでは、高校1
年の教科書の例題程度まで解ければ十分に対応でき、教
推薦・AO入試で活用する場合
高認レベルの問題で質保証が図れるのか
科書の章末問題までは求められていないと分析している。
さて仮に、高認と達成度テスト(基礎レベル)を統合し
しかも、4つの選択肢のうち2つは明らかに間違いとわか
た場合の問題点を整理しておこう。
る選択肢であり、実質的に2択問題といってもいい状況で
第一は、そもそも「高校卒業程度」を認定する試験が、
ある。ただし、英語に関しては、他科目よりも難易度が高
高校1年生までの範囲で妥当なのかという点である。
い。英語は先述した単位取得済みのほかに、英検合格で
第二は、一点目のことにもかかわるが、達成度テスト(基
も免除になるが、英検準2級以上の場合であり、そのこと
礎レベル)を、推薦・AO入試の資料にする場合、高認
を鑑みても相応の英語力が要求されているといえよう。
の高校1年生の内容からの出題で十分かということである。
問題の難易度については、大学入試センター試験(以下、
高校 3 年間の学習を前提としない問題の場合に、大学の
センター試験)と比較すると高認の問題の方がかなり易し
教育の質の保証が図れるのかという問題である。
いと考えていい。高認は、大学・短大等の次の段階に進
第三は、達成度テスト(基礎レベル)を、高認のように
む「可能性」を与える試験、センター試験は「選抜」に
複数回の受験で合格科目を積み重ねることができるとした
使う試験と、試験の目的が異なるのである。
場合、高校内で全科目合格した生徒と、まだ合格してい
ない科目が残っている生徒が混在することになる。高校で
各科目 40 点以上で合格 !?
点数は開示されず 3 段階評価で通知
の指導で難しい面が出てくるのではないか。
第四は、達成度テスト(基礎レベル)の出題内容・難
高認の試験結果は、約 1 カ月後に郵送で通知される。
易度が高認と同程度でよいのかということである。一方で、
全科目合格者には「合格証明書」
、一部の科目の合格者に
定時制・通信制高校の生徒たちは高認を目標にしている。
は「科目合格通知書」が送付される。
問題の難易度の設定には十分な検討が必要だろう。
合格した科目の点数は、受験者に開示されず、本人か
これまで高認は、多様な理由で高校を卒業していない
らの請求に基づく「合格成績証明書」にA、B、Cの 3 段
人に、チャンスを与える試験として、存在意義を果たして
階評価が記載される。大学入試を受ける際には、高等学
きた。達成度テスト(基礎レベル)は、
「高校教育の質の
校卒業者(および卒業見込者)の「調査書」にあたるも
確保・向上に向け、生徒が自らの高校教育における基礎
のとして大学から高認の「合格成績証明書」を求められ
的な学習の達成度を把握および自らの学力を客観的に提
るとは限らず、
「合格証明書」の提出でよい大学も少なく
示し、それを通じて生徒の学習意欲の喚起、学習の改善
ない。高認の成績よりは、大学で行う個別試験の成績の
を図る」ことがテストの目的だが、このほか、推薦・AO
方を重視しているからだろう。つまり、高認で高卒資格を
入試への活用(選抜)も念頭に置かれている。そもそもの
取得しさえすれば、センター試験の得点のように、高認の
目的が異なる試験を統合することは難しい面があり、どう
成績が入試で影響することはないようだ。
制度設計するのか、十分な検討が望まれるだろう。
(注)
河合塾 COSMO(コスモ)…高卒認定受験をはじめ、高校中退・不登校、通信制・定時制高校から大学進学をめざす生徒向けのコース。
Kawaijuku Guideline 2014.9 17
Part 3
「ひらく 日本の大学」調査から見る大学入学者選抜の在り方
ーー学長に対するアンケート結果から
40%
全体
朝日新聞社と河合塾教育研究開発本部では、2011
国立大
全体
40%
議論の中で焦点となっていることについて、学長に意見
を聞いた。その結果を一部紹介する。
私立大
公立大
している。今年度も調査を行い、達成度テストにおける
なお、9月号では「ひらく 日本の大学」のコーナー
でも 2014 年度調査結果報告を掲載している。そこで
も今後の大学入学者選抜に対する調査結果を掲載してい
中央教育審議会高大接続特別部会では、センター試験
の科目数の多さに対する指摘とともに、
達成度テスト(発
展レベル)では、
「教科型」
「合教科・科目型」
「総合型」
を組み合わせた出題内容が検討され、さらに「合教科・
科目型」
「総合型」の拡大も提案されている。
そこで、今後の共通試験の在り方を学長に聞いた。
「共通試験の教科・科目数(現在のセンター試験と
同じ6教科 29 科目での実施)」<図表1>については、
「賛成」が全体で4割となった。しかし、設置者別に差
が生じており、国公立大で賛成が多い。
「教科単位での実施」<図表2>も全体で4割程度が
「賛成」である。国立大は「賛成」が 40%の一方、「反
対」も 26%で、公立大 16%、私立大 18% に比べて高く
なっている。
「総合的な学力を測る問題の出題」<図表3>につい
ては、全体では 45%が「賛成」だが、私立大は 48%と
21%
20%
11%
30%
57%
56%
40%
35%
57%
56%
20%
19%
21%
14%
11%
20%
30%
20%
36%
19%
14%
21%
11%
40%
60%
80%
35%
20%
36%
■賛成 ■反対 ■わからない ■その他 ■未回答
57%
19%
14%
0%
私立大
20%
40%
60%
20%
40%
7%
2%
10%
7%
2%
2%
10%
10% 2%
7% 2%
7% 2%
10%
10% 2%
100%
7% 2%
10%
80%
35%
20%
36%
■賛成 ■反対 ■わからない ■その他 ■未回答
0%
60%
100%
7%
80%
2%
100%
■賛成 ■反対 ■わからない ■その他 ■未回答
るので、合わせてご覧いただきたい。
今後の共通試験の在り方
教科単位の出題を期待する一方
総合的な学力を測る問題の出題にも期待
56%
30%
<図表1>6教科29科目での実施(n=607)
公立大
国立大
全体
私立大
公立大
国立大
0%
年度から「ひらく 日本の大学」という共同調査を実施
20%
39%
19%
33%
7% 2%
全体
(n=607)
<図表2>教科単位での実施
(科目を合わせて実施)
国立大
全体
40%
39%
公立大
国立大
全体
私立大
公立大
国立大
0%
私立大
公立大
30%
40%
39%
40%
30%
40%
20%
26%
19%
16%
26%
19%
18%
16%
40%
22%
33%
43%
22%
33%
34%
43%
26%
22%
80%
60%
40%
18%
34%
■賛成 ■反対 ■わからない ■その他 ■未回答
30%
16%
43%
0%
私立大
20%
40%
60%
10%
7%
9% 1%
10% 2%
7% 2%
6% 2%
9% 1%
10% 2%
100%
6%
9%
80%
20%
40%
60%
2%
1%
100%
40%
18%
34%
■賛成 ■反対 ■わからない ■その他 ■未回答
0%
2%
2%
6%
80%
2%
100%
(n=607)
■賛成 ■反対 ■わからない ■その他 ■未回答
<図表3>総合的な学力を測る問題を出題
全体
45%
15%
32%
5%
2%
国立大
全体
36%
45%
21%
15%
27%
32%
12%
5%
4%
2%
公立大
国立大
全体
私立大
公立大
国立大
0%
私立大
公立大
32%
36%
45%
48%
32%
36%
20%
26%
21%
15%
12%
26%
21%
60%
40%
36%
4% 1%
27%
12%
4%
32%
5% 2%
33%
4% 2%
36%
4% 1%
27%
12%
4%
80%
100%
48%
12%
33%
■賛成 ■反対 ■わからない ■その他 ■未回答
32%
26%
36%
0%
私立大
20%
40%
60%
80%
48%
12%
33%
■賛成 ■反対 ■わからない ■その他 ■未回答
4% 2%
4% 1%
100%
4%
2%
国公立大に比べて高い。国公立大より推薦・AO 入試の
った。
占める割合が高い私立大で賛成が多くなっている。
さらに、この設問に関連して、自大学での入学者選抜
このようにほとんどの大学でセンター試験を利用して
のことを考えると、共通試験としてはどのような内容が
いる国公立大と、推薦・AO 入試の割合の高い私立大で、
望ましいのかについても学長に聞いている。一部、ご意
今後の共通試験の見方について意見が分かれる結果とな
見を紹介しよう。
18 Kawaijuku Guideline 2014.9
0%
20%
40%
60%
80%
100%
■賛成 ■反対 ■わからない ■その他 ■未回答
これからの大学入学者選抜を考える―達成度テストを中心に
国 =国立大 公 =公立大 私 =私立大
【教科あるいは教科の基礎も含む試験】
的思考的な能力を測定する総合問題との組み合わせが望ましい。 公
◆ 総合的な学力の重要性には異論がないが、共通試験では高校での
◆ 高等学校での学びが改善されるものを強く期待したい。基礎・基
教科学習の到達水準を客観的に測定できる教科・科目の設定を基本
本の最低基準が習得されていること。学びの態度(能動的)が習得
にすべきと考える。大学入試センター試験の作問には大学・高校教
されていること。課題解決型・総合的な学力を測る問題を期待する。
員の力が結集されており、その成果は知的財産として高校教育に活
私
用される価値がある。 国
◆ 基礎学力を確認することを期待する。その結果は一般試験ばかり
でなく、推薦入試の際に参考として利用できる。 国
◆ 学部の専門性があるため、総合的な学力評価だけではなく、教科
単位での共通試験が必要と考えている。 公
◆ 基礎的な学力を測るもの、基本的な学習習慣がついているかどう
【現行の仕組みのままでよい】
◆ 基礎学力を測るには、現在の大学入試センター試験には一定の信
頼があり、大きく変更する必要はないと思われる。 国
◆ 現在のセンター試験に合わせて設計してきた選抜方式に満足して
いるので、現在のままの方式が望ましい。 公
かを測るものが望ましいと考える。教科・科目の扱いは、高校で誠
実に、丁寧に、主体性を持って学んだことが評価される形であり、
高校での学習が共通試験の準備になるような特殊なものでないこと
が望ましいと考える。 私
【共通試験と個別試験との関係】
◆ 達成度テスト(基礎)は、推薦入試等で基礎学力の確認として用い、
一般入試は現行の大学入試センター試験が望ましい。 国
◆ 教科にこだわらず、総合的な学力を測る試験の実施を行うことの
◆ 高等学校での学習を修了し、大学教育を受けるに足る基礎的な学
必要性は感じているが、本学設置の学部の特色から、そのために必
力が広範囲にわたって身についていることが確認できるような内
要となる特定の教科、科目の学力を把握する必要がある。その観点
容。そのような共通試験を踏まえて、個別学力試験では、当該専門
から、入学者選抜を考える上で、ある程度、設置学部を考慮した試
領域に関係する教科の応用的な学力を審査するとともに大学入学後
験科目を設定する必要があると考えている。 私
の学修や活動の意欲等を測る方法を検討すればよいのではないか。
国
【合教科・科目型、科目の精選等】
◆ 各教科の内容を融合した「合科目型」の試験が望ましい。また、
回答方式には記述式を導入することが望ましい。 国
◆ 実施教科・科目数を必要最低限に減らし、受験者には、全ての教科・
◆ フランスのバカロレアのような記述式のテストは、採点の難しさ
からして導入は困難。センター試験を足切りに使って、定員の 1.5
倍程度に受験生を絞り込んで、記述式試験、面接などを導入すれば
よい。 国
科目を受験することを義務付けるような簡潔なシステムにすること
◆ 大学進学層が大衆化する現代社会では、共通試験は全国的レベル
が望ましい。現在の大学入試センター試験は、多様な教科・科目が
での基礎学力判定試験の機能を強化し、個別大学での入試は大学の
存在することで、さまざまな教科・科目選択が可能になり、制度が
機能によって個別試験の是非や内容の特化を追求する方が好ましい
複雑化しすぎた。共通試験は、多様な受験者や大学のニーズに応え
ように思える。 私
ることよりも、大学進学希望者の核となる基礎学力(または高校ま
◆ 中等教育の成果、すなわち達成度を見る方法の入試と総合的な学
での学習到達度)を評価するという明解な目的に限定すべきではな
力を測る入試方法とが考えられるが、後者は各大学の独自入試に任
いかと考える。 国
◆ 理科は物理(地学を統合)・化学・生物の3科目に統合し、細分
化しない方がよい。 私
◆ 国語、英語、数学の3教科に絞り、リスニングは廃止する。 私
◆ 入学者選抜を教育の第一歩と考えている。よって総合的な学力を
測る共通試験の内容であってほしい。具体的には、複合的な教科に
よる設問など。 私
せ、前者の制度化を急ぐ必要がある。 私
◆ 現在の大学入試センター試験と同程度の水準のものが適当。選択
式のみではなく、記述式を中心とすることが望ましい(新たな課題
について考えさせるものなど)。大学独自のペーパーテストが要ら
なくなるような内容のものにすることがよりよい改革となる。 私
◆ 高校の学習の確認については、「達成度テスト」があれば不要。
センター試験と同様の試験のみ存続するのであれば、科目別試験と
して大学教員が出題するのが困難または不適当な科目について利用
【活用力・思考力なども含めた問題への期待】
したい。 私
◆ 国語、数学、外国語、地理歴史、公民、理科の基礎的・基本的な
◆ 高校卒業段階の達成度を測るものが望ましいと思う。また理想的
知識・技能を測る内容とすべきであると考える。また、その中に知
には、細かい科目ごとの測定ではなく、汎用的な能力を設定したう
識・技能の活用力、思考力を測る問題を含めると同時に、複数の教
えで、それを測定するような総合問題が望ましいのではないか。た
科を融合した教科融合型問題を含めることが望ましい。 国
だし、現在の多様化・細分化した高校課程を前提とした上でのこう
◆ 現行の共通試験を基本とした上で、言語運用能力・数理分析能力
した総合問題実施は、多様化しているからこそ汎用的な能力を測る
等を測定する問いや、受験者の適性や意欲を評価するための問いを
総合問題が適しているとも言えないではないが、相当のハードルが
含む形態が望ましい。 国
あるものと考える。共通テストを契機として、高校課程の内容自体
◆ 高校卒業段階の各教科の学習達成度を測定する試験であるととも
にも一考を加えてほしい。一方、現状では共通テストにおける「基
に、単なる知識ではなく、知識を関連づけて問題を解く論理的思考
礎」と「応用」の2種類が話題に上ることが多いが、そのテストは
力を測る内容。 国
複数回実施という現状の実施原則を考慮しても、2種類である必要
◆ 各教科の学力のみならず、学習意欲などの総合的な学力を測定で
きる試験が望ましい。 公
はない。問題を精査し、確実に1種類を複数回実施する方法の実現
をめざしてほしい。 私
◆ 教科・科目単位で、基礎的な到達度学力を測定する問題群と、総合
Kawaijuku Guideline 2014.9 19
18%
実施しなく
てもよい
19%
多面的・総合的な評価を実施している大学は 5 割強
共通試験として実施することに6割の大学が期待
実施の方向で
検討すべき
40%
<図表4>共通試験として実施(n=607)
その他 4%
未回答 2%
高大接続特別部会では、多面的・総合的に評価する大
学入学者選抜への転換を求めている。そこで、共通試験
わからない
18%
として多面的・総合的な評価を実施すべきか、また自大
学でそのような入学者選抜を行っているかを学長に聞い
実施しなく
てもよい
19%
た。
「共通試験として実施すべきか」については、
「実施す
実施すべき
16%
実施の方向で
検討すべき
40%
べき」16%、
「実施の方向で検討すべき」40%と、実施
に前向きな回答が 56%と、半数を超えた<図表4>。
しかし、
多面的・総合的な評価が何を意味しているか「わ
<図表5>自大学における多面的・総合的な評価の実施(n=607)
からない」
、判断を留保する「その他」
「未回答」も合わ
現在十分に
行っている
9%
その他 6%
せて 24%と、賛否以前に多面的・総合的な評価につい
わからない
13%
ての共通理解をはかる必要がありそうだ。
「自大学で多面的・総合的な評価を実施しているか」
については、半数以上の大学で既に何らかの多面的・総
実施しない
9%
現在行っているが、
改善する必要がある
47%
合的な評価が行われている<図表5>。設置者別に見る
と「現在、十分に行っている」
「現在行っているが改善
が必要」と回答したのは、国立大 49%、公立大 62%、
私立大 56% と公立大で高く、看護系をはじめとした医
実施の予定/
実施の方向で検討中
14%
療系や福祉系の多い公立大で進んでいるようだ。
て自由記述欄も設けた。実際の検討状況がわかるような
また、自大学での多面的・総合的な評価の実施につい
その他 6%
内容を中心に紹介する。
現在十分に
行っている
9%
わからない
国 =国立大 公 =公立大 私 =私立大
13%
◆ 面接、課題論文、統一試験(国際バカロレア、アメリカ合衆国の
SAT、TOEFL 等)のスコア等を活用した多面的、総合的な評価の
実施について、検討予定である。 国
◆ スーパーグローバルハイスクール(SGH)や国際バカロレアの卒
業生が出てくる時期に合わせて実施する方向で検討中。 国
◆ 多面的・総合的な評価を加えるにしても、入学者の基礎学力が担
保されていることが、前提となる。すなわち、一般入試・特別入試
を通して、志願者の質の確保が最大の課題である。一般入試では、
個別学力試験の科目数・配点を見直すべく検討中である。特別入試
では、学力を担保できているか追跡調査をもとに試験の在り方を検
討中である。 国
実施しない
公
学科で実施する可能性はある。
9%
現在行っているが、
◆ グローバル人材育成の視点に立ったとき、高校段階で英語などの
改善する必要がある
語学力をつけることは大切である。大学入試を1つの目標とする高
47%
校の立場で考えると、TOEFLなどの英語資格が入試で評価される
実施の予定/
ことは、高校での学習のモチベーションにつながると考える。同様
実施の方向で検討中
に、コミュニケーション力や課題対応能力などキャリア教育で求め
14%
られる力を育成するため、海外研修やボランティア活動なども有効
である。英語資格や体験活動などを数値として評価できる入試も必
要であると考えている。 公
◆ 評価項目(「知識、理解、技能」、「思考、判断、表現」、
「関心、
意欲、態度」)と、検査項目(センター試験、筆記試験、面接、調
◆ 2016 年度入試より面接にセンター試験を課す推薦入試を新たに
査書など)の対応を表すマトリックスを作成し、多面的な評価に漏
実施する。新しい入試制度では、現在のペーパーテストの得点重視
れがないかチェックしている。また、これにより、それぞれの検査
型合否判定を改善し、多面的・総合的な評価を重視した人物重視の
方法の目的を明確にすることができ、内容の充実を図ることができ
入試を実施する。 国
るようにしている。 公
◆ 現在、学部1年生推薦入試において、受験者の能力・意欲・適性
◆ 推薦、一般入試等多様な入試形態を用意しており、学力の評価だ
を多面的・総合的に評価するため面接および小論文での試験を行っ
けでなく意欲等を総合的に評価するよう努力している。しかしなが
ている。基礎となる学力を有することを前提とし、その上で大学に
ら、短い期間や少ない材料だけでの判断には限界があることは確か
おいて積極的に専門的な学習や研究等を行っていく上での適性や将
であり、大切なのは、入試の改革というより、1人ひとりの能力や
来性を測れるような選抜方法に見直しができればと考える。 国
適性を個別に見極めて、適切な準備教育や初年次教育を行うことで
◆ 推薦入試では理科の総合的学力を測る問題を出題している。将来
は、一般入試でもこのような出題をしたい。 国
◆ 現在、医学科では面接や小論文を導入しており、看護学科でも教
科・科目によらない論文試験で選抜を行っている。今後、他学部・
20 Kawaijuku Guideline 2014.9
ある。社会人などを含め、多様な人材を受け入れて、大学教育の機
会を与えていくことが重要である。 私
◆ 面接評価を重視する方向へ転換したい。 私
◆ 例えば、新聞の社説を読ませて、その内容の把握等を面接時に調
これからの大学入学者選抜を考える―達成度テストを中心に
査する。小論文問題で課題を与えて執筆させ、その内容や基礎知
に基づき、多様な方法による入学者選抜を実施している。これら
識の広がりについて調査する。 私
の丁寧な選抜による入学者の割合は全体の3割を占める。本学で
◆ 本学では全ての入学試験で面接を課しているほか、ほとんどの
は、今般、この考え方をさらに進め、2015 年度の公募制推薦入
入学試験で小論文を課しており、学力試験以外に多面的・総合的
試において、学部の特性を鑑み一部の学部で「面接」を選抜に加
な評価を実施している。さらに、高等学校の調査書や推薦書も評
価対象として重視している。本学での多面的・総合的な評価は選
抜に一定の効果があり、今後も継続していく予定である。 私
えることにしている。 私
◆ 現在、意欲重視型や高等学校での課外活動実績と面接を組み合
わせた入学試験を実施しており、一定の成果をあげているが、さ
◆ 多面的・総合的な評価のための作問には研究・開発を含め多大
らに高大連携や接続を通して本学の取り組みについて理解を求
な労力を要し、一小規模大学では不可能に近い。従って多面的・
め、入学後に新たな力が発揮できる、潜在的な学生の掘り起こし
総合的な評価の実施は共通試験として実施していただき、その評
価に加えて、本学独自の面接・課題レポート・論文・一芸・課外
活動歴等による人物評価の実施を検討したい。 私
を行いたい。 私
◆ 入学選抜の科目試験の結果のみでなく、高校時代の成績や課外活
動、その他総合的な人物評価を踏まえた評価を取り入れていく。 私
◆ 本学では、AO 入試や専願入試などで、アドミッションポリシー
多面的・総合的な評価と
評価における客観性・透明性の両立を
どちらを重視すべきかはもっと長い期間をかけて試行を
行い、追跡調査等の結果を見て決めることが必要」とい
多面的・総合的な評価の推進と、評価における客観性・
った調査研究の重要性を指摘するコメントもあった。
透明性の確保は相反する面もあるため、これらについて、
さらに、多面的、総合的な評価の推進に関して、自大
どちらを重視するかを学長に聞いた<図表6>。
学で障害や制約になっていることについて自由記述欄を
全体では「多面的・総合的な評価を重視」が 44%、
「客
設けた。「多面的」「総合的」な評価の意味することにつ
観性・透明性を重視」が 34%と、やや「多面的・総合
いて意識の共有化、従来までの学力重視の選抜方法に対
的な評価を重視」が上回った。設置者によって差があり、
する考え方の変化、多面的・総合的な評価について受験
私立大では「多面的・総合的な評価を重視」が5割近く
生・保護者の理解を得るための努力といった内容が挙が
になったが、国立大・公立大では4割を切っている。
っている。
なお、選択肢とともに学長の考えを聞くために補足欄
を設けたが、その内容のほとんどは、
「両方重視」
「両方
のバランスが重要」といった指摘である。その他、「試
験の種類によって重視する点が異なってよい。重視する
ポイントの異なる複数の試験をバランスよく実施するの
がよい」
「多面的・総合的な評価は、量的対応が困難で
あるので、入学者の大多数は、客観性・透明性を重視し
た選抜で行うべき」
「基礎学力を担保した上で、高等学
校での幅広い学びや顕著な活動実績を多面的・総合的に
評価すべき」といった意見のほか、
「現時点で、多面的・
総合的といわれる評価法の客観性が担保されておらず、
<図表6>多面的、総合的な評価のどちらを重視するか(n=607)
全体
44%
国立大
37%
公立大
35%
34%
33%
0%
20%
6%
46%
47%
私立大
32%
40%
10% 9%
60%
3%
20%
12%
4%
7%
10% 7%
80%
4%
100%
■多面的・総合的な評価を重視 ■客観性・透明性を重視 ■わからない ■その他 ■未回答
国 =国立大 公 =公立大 私 =私立大
◆ 各学部が求める人物像に沿った選抜方法や評価基準となるため、
ることに重点が置かれている日本でそれを行うのは難しい。 公
大学全体で統一的な選抜にはなりにくい。また、丁寧な評価を行う
◆ 高校間に厳然として存在する、学力の格差が問題となる。学校の
には、高等学校や高校生から評価の根拠となるような提出書類が必
学力格差がある以上、それをそのまま入試の評価に反映するわけに
要であり、高等学校への負担が増大することになる。さらに多面的・
はいかない。そうした点を今後予定されている「達成度テスト」で
総合的な評価を行うには、相当の経費、マンパワー、期間が必要で
解消できるのか、今後の推移を見守りたい。また、資格・検定試験
あり、この選抜方法を支えるアドミッション・センターのような組
や、多様な課外活動を評価する一定の基準を定めることは難しく、
織の充実が必要である。 国
制約になる可能性は高い。 私
◆ 学力検査以外の選抜方法(面接、小論文試験、その他)では、大
◆ 本学における特有の現象ではなく、大学全体での状況と認識して
学側の人的問題や時間的制約があるため、受け入れる受験生に限り
いるが、多面的・総合的な評価をするための手法と評価を行うこと
がある。このため、現在の一般入試に導入することは難しい。 国
◆ 「多面的」の定義が曖昧。入学することよりも卒業することが難し
のできる人材が、大学にどれだけいるのかというのが最大の問題で
ある。 私
い海外の大学であれば多面的な入試の効果が発揮されるが、入学す
Kawaijuku Guideline 2014.9 21
Part 4
私はこう考える
今後は大学入学者選抜の全体像など
マクロな視点での制度設計が望まれる
大阪大学 川嶋 太津夫 教授
新しい大学入学者選抜について有識者はどのような見
解をお持ちなのか。このパートでは、3人の有識者にご
意見を伺った。
次期の学習指導要領で
「活用力」の明示が重要
最初にこれまで中央教育審議会の部会の委員を多く務
──大学で必要な能力を「発展
め、現在は、高等学校教育部会の委員でもある大阪大学
レベル」で測定するとなると、
未来戦略機構の川嶋太津夫教授に聞いた。
高校の学習指導要領との関係はどうなりますか。
大学で必要な能力とは何かを
明確にすることが重要
川嶋太津夫 教授
現在、学力の3要素として「基礎的・基本的な知識・
技能の習得」「知識・技能を活用して課題を解決するた
めに必要な思考力・判断力・表現力等」「学習意欲」が
──達成度テストを導入する目的、意義から解説してください。
掲げられています。しかし、「知識・技能を活用する力」
現在の共通試験である大学入試センター試験(以下、
に関して具体的な内容についての共通理解が得られてい
センター試験)は、高校の学習指導要領に準拠した内容
ない点が問題です。近く学習指導要領改訂の諮問が出さ
が出題されていますが、では大学で学ぶために必要な能
れるようですが、そこでどのような検討がなされるのか、
力を測定する試験になっているかというと、必ずしもそ
注目しています。
うはなっていません。一方で、公立高校の授業料無償化
もちろん、学習指導要領は、大学教育や大学入学者選
により、国として高校教育の質を保証する必要性も生じ
抜のために改訂するわけではありません。しかし、子ど
てきました。そこで、高校で学んだことが身についてい
もたちがこれから生きていく上で必要な力を明らかにし
るかは「基礎レベル」
、大学で学ぶために必要な能力に
て、それを幼稚園から大学までどのように育成していく
ついては「発展レベル」と、目的の異なる2つのテスト
のかを明示することは非常に重要なことです。学習指導
に分けて実施するという設計になったのです。
要領で活用する力の内容を明示しないと、達成度テスト
──「基礎レベル」
「発展レベル」は、どのような内容
で問うといっても、高校までの学習や努力と結びつかな
ですか。
いテストになってしまう恐れがあります。
まだ議論の途上ですが、「基礎レベル」はおそらく教
私が特に懸念しているのは、知能テストのような生得
科・科目型試験として出題されるでしょう。小・中学
的能力を測るテストに陥ることです。いくら大学で求め
校の「全国学力・学習状況調査」のように、A(主と
る能力を重視するといっても、生まれつきの能力を測っ
して知識)、B(主として活用)の2つのタイプの問題
ているにすぎないテストでは問題があります。高校まで
が出題される可能性があると思います。
に学習したことと十分に関連性のある出題にすることが
問題は「発展レベル」です。そもそも大学で学ぶため
求められます。
に必要な能力とは何か、議論が進んでいないのです。言
語運用能力や数的処理能力などが必要という話は出てい
ますが、いずれも非常に広い概念です。言語運用能力を
知識・技能を活用する力を問うのなら
教科・科目の知識を組み込むべき
例にとれば、文章を書く能力なのか、そうであれば文法
──そのほか、達成度テストについて、課題だと感じて
的に正しい文章が書ける力なのか、論理的な整合性のあ
いらっしゃることはありますか。
る文章なのかなどその能力を明確にしなければ、テスト
「発展レベル」で「知識・技能を活用する力」を測定・
の設計が不可能です。
評価するという話が出ていますが、基本的な知識が身に
22 Kawaijuku Guideline 2014.9
これからの大学入学者選抜を考える―達成度テストを中心に
ついていることを確認した上で、活用する力も測るとい
視するのか、選抜の仕組み全体の中で、どこにエネル
う前提がなければ、さまざまな問題が生じるでしょう。
ギーを傾注するのかが、重要なポイントになります。
現在、ほとんどの国公立大学では、センター試験と個
一方、私立大学にとっては、発展レベルに「合教科・
別試験の2段階で選抜しています。センター試験で5
科目型」「総合型」が導入されると、これまでのように
(6)教科7科目の知識・理解がきちんとできているか
教科・科目を指定して共通試験を利用することが困難
を確認した上で、個別試験で各大学が工夫して論理的思
になります。センター試験を利用する私立大学が増加
考力や応用力・活用力を問う試験にしています。それを、
したのは、アラカルト方式が採用されたからです。発展
共通試験である「発展レベル」が論理的思考力や応用力・
レベルの出題内容や、科目指定が可能かは、私立大学の
活用力を測定する内容になったら、教科・科目の基礎的
共通試験への参加状況に大きな影響を与えるでしょう。
な知識・理解を確認できなくなります。教科・科目は「基
これまでは達成度テストの設計を中心に議論してきま
礎レベル」
、知識・技能を活用する力は「発展レベル」
したが、今後は個別試験や全体の制度設計も議題にのぼ
と分けて、大学進学希望者は両方を受験させればいいと
る予定だと聞いています。
いう考え方もあるかもしれませんが、生徒にとっては負
──どのような議論が中心になるのでしょうか。
担が大きくなります。
面接や小論文で客観的な評価が担保できるのかも課題
──大学は教科・科目について一定の知識・理解がある
です。日本人は公平性、平等性を重視する国民性ですか
かを確認したいのですか。
ら、学科試験の点数による選抜の方が納得を得られてい
それが前提となります。教科・科目の知識・理解を組
た面もあります。主観的評価で合格者を決めることに対
み込んで活用する力を問うのならよいのですが、活用す
して、受験生や保護者がどう捉えるか、どのようにすれ
る力を重視するあまり、教科・科目の学習が軽視される
ば納得が得られるか、十分に検討する必要があります。
議論が浮上しているように感じられ、懸念しています。
また、今回の議論とは別ですが、個人的には、グロー
──「合教科・科目型」
「総合型」についてはどのよう
バル化で学事暦変更を検討している大学があることも影
なご意見でしょうか。
響すると考えています。学生の海外留学を促進するため
達成度テストは複数回実施をめざしていることもあっ
には、6月までに1タームを終える必要があります。従
て、1日で終了するテストを構想しています。となると、
来のように4月第2週からの授業開始では、それまでに
センター試験のように2日間にわたって、5(6)教科
授業を終えることができません。実際、4月1日から授
7科目を課すのは困難です。科目を集約する必要があり、
業を開始する大学も増えています。そうなると、国公立
「合教科・科目型」
「総合型」の案が出てきたと理解して
大学では後期日程の試験の実施は負担が大きいため、後
います。現在の審議では、正直なところ、具体的にイメ
期日程の試験を廃止して、代わりに推薦・AO 入試を導
ージできていないのですが、いずれにしても、高校での
入する大学が増える可能性があるでしょう。その際、達
学習成果が反映されるような内容にすることが大切です。
成度テストが複数回実施され、大学が現在のセンター試
験より早く成績を入手することができれば、国公立大学
大学入学者選抜の全体像に関する議論が必要
も推薦・AO 入試を導入しやすいと思います。しかし、
──大学入学者選抜の全体の仕組みについては、どのよ
これまでは達成度テストをどうするかという議論が先
うな問題意識をお持ちですか。
行していましたが、今後は、大学入学者選抜の全体像、
それが今後、検討すべき最大の焦点になります。達成
大学教育の方向性なども含めて、マクロな視点で多角的
度テストは共通試験の話です。共通試験だけか、共通試
な検討を進める必要があります。もっと言えば、国民の
験を課してさらに個別試験を課すのか、入学者選抜の全
価値観も踏まえた、極めて大きな社会変革を伴う制度設
体像が見えていません。
計が求められることを意識して、検討を進めることが大
国公立大学の場合は、
「発展レベル」と個別試験を組
切になると考えています。
複数回実施も多くの課題があります。
み合わせた選抜にするのか、個別試験での面接などを重
Kawaijuku Guideline 2014.9 23
「基礎レベル」と「発展レベル」を一本化して検討すべき
北星学園大学 佐々木 隆生 教授
2008 ~ 2010 年文部科学省の委託事業である「高
そうなのですが、問題は日本
等学校段階の学力を客観的に把握・活用できる新たな仕
では、汎用的能力とは何か、概
組 み に 関 す る 調 査 研 究 」 の 研 究 代 表 を 務 め、IRT や
念自体が明確に定義づけられ
CBT を利用した「高大接続テスト(仮称)
」を提案した、
ていないし、そうした基本的な
北星学園大学の佐々木隆生教授に話を聞いた。
議論にすら踏み込んでいない
佐々木隆生 教授
ことです。
高校までの教育で身につけたことを測定すべき
例えば、アメリカには、CLA
(注2)
という大学生対象
の汎用的能力を測定するテストがあります。そこで課さ
──達成度テストを中心とした議論について、どのよう
れ る エ ッ セ イ の 評 価 基 準 を 示 し た『Academically
な問題意識をお持ちですか。
adrift』という本には、CLAのエッセイで要求する能力
ゴールが見えない迷走状態に陥っていると感じていま
として「critical thinking(批判的思考力)」「analytical
す。最大の要因は、
達成度テストが「基礎レベル」と「発
reasoning( 分 析 的 で 論 理 的 な 推 論 力 )」「problem
展レベル」に分かれ、別々に審議されていることです。
solving(課題解決能力)」の3つが示されています。そ
同じ達成度を測るテストであるはずなのに、2つのテス
の上で、これらの中に、
「証拠や資料が吟味されているか」
トの間で整合性を欠くことになってしまいかねません。
「情報の統合が図れているか」「分析に基づく結論が妥当
高校教育の達成度の測定と、大学入学者選抜の改革は、
に導き出されているか」「他の選択肢が検討されている
初等中等教育、高等教育の双方にとって共通の課題です。
か」の4つの観点が含まれています。また、採点の基準
文部科学省、大学、高校が垣根を超えて、一体となって
として、文章の「簡潔・明確」「論理構成」「議論の組
議論を進めなければ高大接続の課題を解決することはで
み立てがよく検討されているか・説得的か」「文法の適
きません。やや遅きに失した感じもありますが、今から
切さ・正確さ」「読み手を意識しているか」の5点を評
でも「基礎レベル」と「発展レベル」の2つのテストを、
価すると記載されています。
1つのテストとして検討する方向をめざすべきだと、私
このように、アメリカでは汎用的能力に関する内容が
は考えています。
定義づけられ、どのような能力が必要か、明確になって
また、高大接続特別部会の審議経過報告では、「発展
います。これはとても重要なことなのです。
レベル」の試験内容として「知識・技能の活用力や汎用
的能力等
」を問う問題を構想しています。もちろん、
(注1)
汎用的能力の重要性は否定しませんが、達成度テストで
普通教育の瓦解が高大接続に大きく影響
測定するならその前提として、小学校から高校までの教
もう1つ、私が懸念しているのは、今回の審議におい
育で、どのように汎用的能力を育成するのか、教育課程
て「普通教育」という言葉が登場していないことです。
の構築から議論をしなければならないでしょう。達成度
学校教育法によると、小学校から普通教育が開始され、
テストは、高校までの教育の上に成り立つものです。高
高校で完成するとなっています。そして大学で専門教育
校までに行われていないことを、達成度テストで問うこ
を行うというのが、基本的な教育の流れです。ところが、
とはできないのです。
1984 年に設置された臨時教育審議会で「個性の重視」
──達成度テストで問うのであれば、前提として汎用的
が言われ、それが普通教育と対立する概念であるかのよ
能力を育成する教育への転換が必要だということですね。
うに捉えられてしまいました。その結果、高校で幅広い
(注1)
2014 年3月の高大接続特別部会の審議経過報告では、知識・技能の活用力や汎用的能力等の例がいくつか挙げられている。例えば、習得した基
礎的な知識・技能や体験的な学習等から得られた経験を統合し、答えのない課題に挑戦し、解を見いだしていくために必要な能力等。
(注2)
Collegiate Learning Assessment
24 Kawaijuku Guideline 2014.9
これからの大学入学者選抜を考える―達成度テストを中心に
教科・科目をきちんと習得させるのではなく、必履修科
──達成度テストを「教育による接続」の面から考える
目の多様化が進みました。生徒は苦手意識を少しでも持
上で重要になるのは何でしょうか。
つと、その科目から逃げてしまっているのが現状で、そ
生徒1人ひとりが学習目標を定めて、それがどの程度
れが逆に生徒の学びの機会を奪っている気もします。大
達成できたかを測ることができるテストである必要があ
学入学後、高校で勉強しておけばよかったと後悔する科
ります。そのためにも複数回実施は不可欠です。1回目
目もあるでしょう。
で自分の改善点を見つけて努力をして、次のテストで改
「個性重視」の考え方は、大学入試にも影響を与え、
善できたという手応えを得て、もっと頑張ろうというモ
大学入試でアラカルト方式が増加し、普通教育は瓦解し
チベーションにつなげられるような、教育効果が期待で
てしまいました。高大接続にさまざまな課題が生じるよ
きるテストにすべきだからです。ですから、達成度テス
うになった根源は、そこにあるのです。
トは、初めて見る問題だけに限定する必要はなく、教科
──普通教育の瓦解はどのような影響を及ぼしているの
書程度の標準的な問題が解けるかどうかを生徒自身が確
でしょうか。
認できるようにする必要があります。その上で、IRT
科目選択の自由化が進み、履修していない科目が増え
(項目反応理論、p 14 〜 15 を参照)を導入すれば、生
れば、普遍的な知識を習得することができず、視野の狭
徒に応じた難易度の問題も提供でき、1人ひとりに応じ
い人材が増えてしまいます。当然、学際化が進行する学
た柔軟性の高い出題も可能です。
問の世界や、幅広い視野から課題発見・課題解決を求め
いずれにしても、達成度テストは「教育による接続」
る社会のニーズにも対応できないでしょう。それに、幅
の観点から設計することが重要です。それを「選抜によ
広い知識がなければ、汎用的能力を高めることもできな
る接続」、つまり大学入学者選抜の改革の視点で構築し
いのです。普遍的な知識があって初めて、総合的に物事
ようとするとさまざまな問題が生じてしまうのです。
を捉え、幅広い観点から自分なりの考えを構築すること
また、大学の個別試験を論文や面接中心にするという
ができます。ですから、まず、高校までの普通教育の再
方向性が示されていますが、高校までに論文を書く教育
構築が必要です。それぞれの教科教育の中で、いかにし
を導入せずに、個別試験でいきなり論文試験を課すのは
て普遍的な知識を身につけさせるのかを検討すべきで
本末転倒です。
す。
私のこれまでの経験では、論文試験の成績分布は、か
なり背の高い山型になりがちでした。つまり、素材文を
達成度テストは
「教育による接続」から設計すべき
読み込んで論点を整理するところまではできている答案、
──大学入学者選抜については、どのようなご意見をお
占めています。大学としては、論点整理を踏まえて、自
持ちですか。
分なりの見解を示せる受験生を入学させたいと考えるで
高大接続には「教育による接続」と「選抜による接続」
しょうが、それは約5%程度の一握りにすぎません。そ
の2つがあります。従来の高大接続は大学入試に過度
の5%で定員を満たすには、大変な母数の受験生が必要
に依存してきました。けれども、大学入試は定員を上
になります。他はほぼ同質の力の受験生であり、差がつ
回る受験者を落とすための「選抜試験」であり、「選抜
かないのです。そのため、論文や面接だけで選抜するの
による接続」の側面しかありません。その点を是正して、
は難しく、結局、それ以外の資料に頼らざるを得ないで
逆にいえばそこまでしかできていない答案が8~9割を
「教育による接続」の側面から設計しようというのが達
しょう。逆に、自分の意見は未成熟なものの、論点整理
成度テストです。その際、
「教育による接続」と「選抜
まではできる8~9割の受験生を、後は大学入学後に鍛
による接続」を分けて制度設計することが肝心です。審
えればいいと考えることもできます。
議経過報告では、高校教育、大学教育、入学者選抜の一
そうした現実を踏まえないままに、論文や面接による
体的改革が強調されていますが、現在の審議を見ると、
試験という理念を先行させても、机上の空論になってし
どうも達成度テストを「選抜による接続」の面から捉え
まう可能性が大きいと考えています。
る動きになっている気がして、危惧しています。
Kawaijuku Guideline 2014.9 25
新しい学力観や、高校・大学の教育内容、大学入学者選抜の
評価方法などを国民も考え、意識を共有することが重要
海城中学高等学校 教頭 中田 大成 先生
高校では、達成度テストや中央教育審議会の議論につ
従来の学力は、知識獲得型、
いて、どのように感じているのだろうか。国際バカロレ
知識を記憶することが重要な
ア(IB)日本アドバイザリー委員会の委員でもあった
学力でした。教科書に象徴され
海城中学高等学校教頭の中田大成先生に話を聞いた。
る体系的な知識をまずは正確
知識獲得型から課題設定・解決型へ
新しい学力観に対する意識の共有が重要
中田大成 教頭
に覚えて、必要に応じて素早く
アウトプットできる力です。それに対して、本校では
「自
ら課題を設定する力」「情報を収集・分析し、深く考え
──大学入学者選抜が大きく変わろうとしていることに
る力」「唯一無二の解がないかもしれない中で、価値選
対して、どのようなご意見でしょうか。
択する力」「周囲にわかりやすく表現する力」を、新し
新しい入学者選抜が求められるようになった背景には、
い学力と位置づけています。それに加えて、独創性や創
日本が置かれている環境の変化があります。グローバル
造性、およびその基盤となる批判的な思考力も重要にな
化の進行とともに、国内では成熟社会が到来する中で、
ると考えています。
さまざまな課題が山積しています。これまでは欧米のキ
──そうした新しい学力はテストで測れるのでしょうか。
ャッチアップをしていれば、課題が解決できたかもしれ
教育学者・ブルームのタキソノミー(教育目標分類表)
ませんが、例えば、少子高齢化は世界で最も早く進行す
によると、人間の学力には「知識」
「理解」
「応用」
「分析」
るなど、日本が初めて直面する課題も少なくありません。
「総合」「評価(自己決定)」の6段階があるとされてい
つまり、キャッチアップではなく、自ら解決策を見出す
ます<図>。日本の従来の中等教育では、この6段階の
力が求められるわけです。そうした環境の変化に対応で
うち、カリキュラム化されているのは「分析」の途中段
きる人材を育成するためには、新しい学力観や、高校・
階までで、残りは個々の教員の力量に依存して、いわば
大学の教育内容、大学入試の評価方法などを、国民全体
暗黙知として教えられているだけでした。カリキュラム
が真剣に考え、意識を共有することが大切です。
化されていないわけですから、その能力を測ることもし
幸い、ここ数年で、
「知識獲得型から課題設定・解決
ていませんでした。しかし、課題設定・解決型の学力に
型へ」
「内容知から活用知へ」
「近代型能力からポスト近
は、まさに残された「総合」「評価(自己決定)」の力が
代型能力へ」や「21 世紀スキル」など、表現はさまざ
不可欠になります。
まですが、新しい学力・能力が必要だという認識は一気
その能力は測れないという先入観があるようですが、
に広まったと感じます。海城学園では、20 年以上前から、
世界では、すでにこの部分の能力をきちんと測定してい
新しい学力観に基づく教育を展開してきましたが、これ
る試験や区分している規格も存在しています。イギリス
まで、なかなか理解してもらえない面もありました。そ
の GCE のAレベル、IB のディプロマ
れがここ数年で大きく変化しており、共通認識が得やす
AP(Advanced Placement)、CEFR(英語のコミュニ
い状況が生まれていると思います。
ケーション能力のレベルを示す国際標準規格)の最高レ
、アメリカの
(注)
ベルであるC1・C2などです。私が特に注目している
IBのディプロマを参考にすれば
新しい学力も十分に測定可能
のがIBのディプロマであり、この仕組みを参考にすれ
ば、新しい学力も十分に測定可能だと考えています。
──先生は新しい学力とはどのようなものだと考えてい
──I
Bのディプロマの仕組みを教えてください。
ますか。もう少し詳しくご紹介ください。
IBのディプロマの評価は、教育目標設定や教育内容
(注)
IB ディプロマ・プログラム(DP)とは、国際バカロレア機構によって提供されている教育プログラムのことであり、16 歳~ 19 歳までが対象で、
合格すると世界各国で認められている大学入学資格を得られる最終試験があるプログラムである。DP のカリキュラムは、「言語と文学」「言語習得」
など 6 つのグループにより構成されており、ディプロマ資格を取得するためには、上級レベル又は標準レベルとして、合計 6 科目を 2 年間履修する。
26 Kawaijuku Guideline 2014.9
これからの大学入学者選抜を考える―達成度テストを中心に
<図> 21 世紀型教育とブルーム型「認知タキソノミー」
20世紀型教育
21世紀型教育
知 識
知 識
理 解
理 解
応 用
分 析
英国 A レベル
IB の DP
米国 AP
CEFR の C1C2
知識
用語・意味・配列・読む・書く・聴く・マッチング・
整理・引用・5W1H の事実確認・測る
理解
要約・記述・比較・相違・共通・置き換え・推測・
議論
認 知
応用
具体と抽象・解く過程・因果関係・対照関係・
変換・関係・分類・選択・説明
分析
分析視点・識別・差異・カテゴライズ・組織化・
結合・編集・論説
応 用
分 析
メタ認知
総合
統合視点・再編集・計画・創造・仮説・一般化・
批判・矛盾逆説
自己決定
評価
矛盾解決・評価・決定・ランク分け・基準・
確信・判断・結論・ビジョン・脱構築
総 合
暗黙知
評 価(自己決定)
※ 本間勇人氏作成・中田先生提供
と密接な関係があります。細かい
「評価基準表」
(criteria)
というのも、新しい学力の必要性は 20 年以上前から
があり、何を学ばなければならないのか、どのような観
提言されています。実際に育成する場として「総合的な
点で評価されるのかなどを、教員と生徒、およびIB機
学習の時間」が導入されましたが、授業内容が明確でな
構の試験官が共有しています。
かったため、「総合的な学習の時間」がうまく活用でき
また、IBの評価には、統一テストの成績だけでなく、
ていないのが現状でしょう。
各学校での学習成果に対する評価も組み込まれます。も
しかし、別の期待できる動きも出てきています。例え
ちろん、そうした成果物に対する評価表も用意されてお
ば、「IB認定校 200 校計画」や「スーパーグローバルハ
り、細かく基準が明示されています。それでも、甘い評
イスクール(SGH)事業」などです。後者においては、
価の教員、厳しい評価の教員がいて、教員による評価の
グローバルな社会課題を発見・解決できる力の養成をめ
違いが生じるのではないかと考える向きもあるでしょう。
ざしています。そうした学校の取り組みや成果が、高校
IBではそれを防ぐために適切化(moderation)を行っ
ています。教員が評価したレポートやプレゼンテーショ
ンなどの一部を、IB機構に届け出ることを義務づけて
おり、それを確認することで、評価の統一化を図ってい
るのです。
教育変革のモデルの役割を果たすことが期待されます。
課題設定・解決能力や共生力などを養う
多彩なプログラムを用意
──海城学園では、新しい学力、新しい人間力を先取り
した教育を展開しています。いくつか特徴的な取り組み
「日本語DP」「SGH」などがモデルに
を紹介してください。
──こういった取り組みを実施するには日本の高校教育
して調べて、ディスカッションして考えを深めて、自分
全体が変わっていく必要がありますね。
なりの解決策をまとめて、原稿用紙 30 枚以上の論文を
IBが優れている点は、試験だけではなく、高校の教
仕上げます。取材を義務づけている点が特色です。とい
育プログラムと連動していることです。ですから、日本
うのも、生の情報を核にすることが重要だからです。し
では、学習指導要領が重要になります。従来の知識獲得
かも、夏休みの自由研究のような、生徒に内容を任せて
型の観点ではなく、生徒が何をできるようにするのかと
いるプログラムではありません。中1から現地取材を伴
いうアウトカムベースの方向で整備し、さらに、教員と
う調べ学習を行い、毎学期レポートにまとめて提出しま
生徒、高校と大学とで共有することが大切です。とはい
す。最初は7~8枚のレポートを課し、少しずつ枚数を
え、
学習指導要領の改訂だけでは難しい面もあるでしょう。
増やしていく、教員の指導の下、内容を積み重ねていく
中3の「社会科総合学習」では、自分でテーマを設定
Kawaijuku Guideline 2014.9 27
学習になっています。
になるのです。中3では、プロの演劇人による指導もあ
中1・2では「プロジェクトアドベンチャー」を実施
り、生徒たちは創造する楽しさにも目覚め、よりクリエ
しています。生徒たちはグループごとにさまざまなアク
イティブな作品を作ろうという意欲を高めます。創造性
ティビティに取り組みます。例えば丸太の上にメンバー
や独創性が飛躍的に向上し、それが他教科の学習におけ
がまずはランダムに並び、次に①丸太から降りない、②
るプレゼンテーションの際にもよい影響を与えています。
一切言葉を発しないという条件の下、片方の端から生年
今後はさらに、リベラルアーツを重視しようとしてい
月日順に並び直すという活動です。活動後、振り返り、
ます。グローバル化に伴いビジネスのスピードが速まる
気づきの時間を設けますが、その際、生徒たちは体格の
なか、素早く高度な価値判断を下すには、ぶれない評価
違いなど、それぞれの特性をうまく引き出しあって並び
軸と大局観を持つことも重要ですが、実はその基盤とな
直したことを思い出し、仲間と協働することの大切さに
るのがリベラルアーツだと私は考えています。2年前に
気づきます。また、言葉を使わなくても意思が疎通でき
グローバル教育部を発足させましたが、そこではリベ
ることを知るとともに、その裏返しとして言葉の便利さ
ラルアーツ教育の推進も行っています。すでに放課後
にも気づき、言葉を学ぶ重要性を再認識するようにもな
講習・夏期講習の一部で、ガロアを統一テーマにして
ります。
学ぶ数学リレー講座や、英語と理科、数学と理科の融
中2の「ドラマエデュケーション」の授業では、延べ
合講座などを実施しています。
50 名を超えるさまざまな職業・経歴の大人たちに来校し
──高校現場でも、さまざまな教育の工夫が要求される
ていただき、その方々の人生で最も印象的な場面を語っ
ようになっていきそうですね。
てもらいます。数名の生徒のグループでそれを聞き書き
新しい大学入学者選抜が1つの契機となって、高校教
して、シナリオを作り、演じるのですが、同じ話を聞い
育の質的転換が図られることが理想です。いろいろな困
たはずなのに、生徒1人ひとりの思い描くシーンは異な
難が予想されていますが、それでも、新しい学力を評価
ります。まずはそうした異質性に気づくことが大切です。
する方向へ進む大学が増え、高校・大学双方の教育を変
続いて異質なイメージのすり合わせをしてシナリオを作
えていくことが、日本が進むべき方向だと、私は考えて
成する過程が、まさに対話的コミュニケーションの基本
います。
まとめに代えて-編集後記
今回、特集を行うきっかけとなったのは、センター試験
今回の特集を通じてわかったことがいくつかあった。そ
や大学の個別試験に対する批判に対して、センター試験や
のうち3つを挙げると、1つは、高校教員も大学教員も「知
個別試験を1つの目標にして学習指導をしている高校の先
識を活用する能力」の前提として、教科・科目に関する一
生方はどうお考えになっているのか、聞いてみたいと思っ
定の知識・理解は必要であり、重要だと考えているという
たことだ。もう1つは、達成度テストの仕組み・内容とし
ことだ。実際に、学部・専攻単位で入試が行われている現
て提案されている CBT や IRT、教科・科目の知識・理解
状を考えると、教科・科目について一定の知識・理解を求
だけでなく言語運用力や数理分析力といった能力を測ると
めないわけにはいかないのだろう。この点をいかに選抜の
いう新しい試験の内容について、従来の教科・科目の学力
仕組みに組み込んでいくのか検討が必要だ。
をベースにした試験を前提としている私たちにとっては理
もう1つは、IRT・CBT、
「合教科型」
「総合型」といっ
解が難しい面がある。しかし、そこを理解した上で、どの
た試験の内容、複数回の実施についてなど、具体的な議論
ような大学入学者選抜の在り方が、これからの時代を担う
がされていない点だ。これらについて早急に専門家による
若い人たちにとって望ましいのかを考えてみたいと思った
議論を詰めないと全体的な議論にも影響するのではないか。
からである。
最後に、達成度テストは、現在、センター試験がその役
実際話を聞いて、教科・科目型ではない「合教科型」
「総
割を担っている共通試験に相当する。しかし、センター試
合型」の試験の内容、教科・科目の知識・理解を問う試験
験を使って大学に入学していない受験生が増加しており、
の結果に基づく合否判定だけではない多面的・総合的な評
既にすべての大学入学者がセンター試験を利用しているわ
価の具体的な内容など、いまだイメージが難しいものも多
けではない。共通試験を変えるだけでは大学入学者選抜の
い。従来型の考え方が染み付いているせいだろうか。期待
改革にはならないということだ。
できる面もあると思うと同時に、試験のイメージ、考え方、
今後、中央教育審議会でも大学入学者選抜全体の制度設
利用方法など私たちの考えを変えることも求められている
計について議論がされる予定だと聞く。このような点につ
と感じた。
いても深い議論が進むことを期待したい。
28 Kawaijuku Guideline 2014.9
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