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消化管X線検査の ポテンシャルを引き出す
Seminar 第100回 日本消化器病学会総会ランチョンセミナー 日時:2014年4月24日 場所:東京国際フォーラム 共催:東芝メディカルシステムズ株式会社 消化管X線検査の ポテンシャルを引き出す ●座長 東海大学 今井 裕 先生 ─現状の位置づけと今後の展開─ 点は画像を見れば一目瞭然だ。図 2 は浅いⅡ c 型早期胃癌だが、FPD の画像は非常にシャ ープになっている。矩形チャートで空間分解 能を比較すると、FPD ではベースのノイズが 慶應義塾大学病院予防医療センター 杉野吉則 先生 きわめて少ない。さらに、CFSS と DR、FPD の空間分解能を比較すると FPD は CFSS とほ ぼ同等であり、そこに画像処理を加えるので 画像はさらに鮮明になる。 近年、消化管X線診断の領域では本格的な デジタル化が進んでいる。X線検出器の変 遷としてイメージ・インテンシファイア(I.I.) /TV系と、100万画素CCDカメラを搭載し たDR(1M-DR)、そして400万画素CCD カメラを搭載したDR(4M-DR)が開発さ れ、フィルム/スクリーンを凌駕する鮮明な 画像が得られるようになった。その後、平面 検出器(Flat Panel Detector:FPD)が 登場し、解像度や検出量子効率の向上など X線画像診断はさらに進歩した。また、FPD を搭載したCアーム式寝台により、多方向 からの透視・撮影が可能となっている。X線 装置・検査法・撮影寝台・造影剤の各側面か ら、消化管X線診断の現状と可能性につい て述べる。 4M-DRの登場で X線装置のデジタル化が 本格化 改良に取り組んできた。 FPD はさらに進化し、X 線をデジタル信号 まず、X 線装置についてだが、消化管の X に変換する方式の方向性も変わってくる。 線診断装置は 1990 年初頭まではフィルム/ ス FPD は蛍光体(シンチレータ)を使用するか否 クリーン方式による撮影装置(conventional かにより大きく「直接変換方式」と「間接変換 film-screen system;CFSS)が主流を占めてい 方式」に分かれる。 た。1993年に、I.I./TV を用いた 100 万画素 直 接 変 換 方 式 は、 ア モ ル フ ァ ス セ レ ン のデジタルラジオグラフィ装置(1M-DR)が (a-Se)により X 線の強弱を直接電気信号に変 開発され、消化管 X 線装置のデジタル化が進 換し、これを TFT(薄型トランジスタ)スイッ んだ。しかし、当時の DR は解像度の点では チで読み取る。そこからの出力信号は電流信 CFSSに 及 ば な か っ た。 そ の 後、1999 年 に 号に変換され、デジタル信号になる。一方、 4M-DRが開発され、ようやく CFSS と変わら 間接変換方式は入射した X 線はまずヨウ化セ ない精度で撮影することが可能になった。図 1 シウム(CsI)シンチレータで光に変換され、 は未分化Ⅱc 胃癌症例の画像における 1M-DR 光の強弱が TFT に読み取られ、同様に最終的 と4M-DRとの比較だが、後者は拡大しても にデジタル信号に変換される。 輪郭がシャープであるのがわかる。このあた 初期の FPD は直接変換方式であり、非常に りから消化管 X 線装置のデジタル化、とくに 評価が高かった。光の変換を介さないので、 DRを使った検査が主流になってきたと考え 光の散乱がなく空間分解能が高い。しかし、 ている。 当時 FPD は消化管 X 線撮影だけに使うのでは なくテレビ寝台での血管造影などにも使わ 最新の間接変換方式FPDは 直接変換方式の限界解像 度とほぼ同等に れ、透視画像を用いる頻度が多くなった。直 接変換方式は S/N 比が低いため低線量の透視 画像ではきれいに見えないというデメリット があった。また、製造工程が難しく量産化に 向かない、撮影室の温度管理なども難しいと X 線で早期胃癌などの消化器癌を確実に診 断することを目標に、われわれはこの40年、 2000年になると、新しい X 線検出器とし いったマイナス要因もあった。これに対して X 線装置・前処置・造影剤・検査法の開発・ てFPDが登場した。I.I. と比較した FPD の利 間接変換方式は、空間分解能では直接変換方 KEY Sentence ●1M-DRに続く4M-DRの登場によって、消化管X線装置のデジタル化が本格的し、DRを使った検査が主流になった。 ●空間分解能が非常に高いFPDが開発されて、CFSSやDRと同等以上に解像度の高いX線画像が得られるようになった。 ●最新の間接変換方式FPDの空間分解能は直接変換方式とほぼ同等であり、濃度分解能は間接変換方式の方が優れている。 ●FPD搭載Cアーム型撮影寝台によって多方向からの観察を行うことで、消化管の微細な病変の描出が可能になった。 ●高濃度低粘性造影剤の使用は、微細な粘膜面がコントラストのよい鮮明な画像として得られるとともに粘液除去効果が 高い。 2 (2014) Vol.12 No.6 図1 1M-DRと4M-DRの比較(1999年) 図2 4M-DRとFPDの比較(2002年) タル装置は X 線の情報量を信号に変える効率 が高いため、撮影線量が少なくてすみ、患者 の被曝線量が減る。撮影線量が軽減される と、とくに消化管の場合は撮影時間が短縮で きてブレが少なくなる。また、画像処理が可 能なため診断しやすい画像が得られるという メリットもある。 私がとくに有用性を感じているのは「連続 撮影」の機能である。連続撮影を使うことで タイミングを逃さずに撮影できるし、造影剤 の付着状態が違った画像が簡単に撮れるため に多くの情報が得られる。 さらに、「リアルタイム画像表示」も有用 だ。検査中に病変を発見できるので無駄な被 図3 曝をさせずにすむし、簡単に撮り直しができ バーガーファントム るので撮影の失敗がなくなる。とくに検診で 非常に重宝するのは、検査中の追加撮影であ り、リアルタイム画像表示はうってつけであ 式に劣るものの、S/N比が高いため低線量の 方式FPDは、空間分解能チャートの撮影で る。追加撮影により検査中に病変を発見でき 透視画像でもきれいに見える。さらに、製造 は、直接変換方式の限界解像度とほぼ同等だ る率が高くなる。 に特殊技術が必要であるものの量産化が可能 った。とくにバーガーファントムでは、S/N 一方、消化管におけるデジタル装置には欠 で、環境制限が少ないというメリットがあっ 比の高い間接変換方式の方がコントラスト分 点もある。DR では空間分解能が低く、視野 た。コントラスト比に関しては直接変換方式 解能に優れていた(図 3)。こうして間接変換 の大きさが変わると分解能も変わる。とく と間接変換方式は同等だった。 方式のデメリットがほぼ解決され、FPD は間 に、大きな視野で全体を見たときには空間分 その後、間接変換方式のFPDの改良が進め 接変換方式が主流となっていく。 解能が落ちてしまう。また、画像の滲みこみ られた。ポイントはCsIシンチレータの成膜 があり、撮っているときにハレーションのよ 技術の進化だった。CsI シンチレータ膜は うな体外からの線が DR の画面に入り込むと ファイバー状の細い柱状結晶から成るが、こ の構造の改良により検出量子効率が改善する とともに、光の散乱を抑え込むことで空間分 解能も向上した。この改良された間接変換方 式 と 直 接 変 換 方 式 のFPDで、X線 チ ャ ー ト 消化管における デジタル装置の利点は 「連続撮影」と 「リアルタイム画像表示」 コントラストが落ちてしまう。しかし、FPD ではこの問題は解決されている。また、装置 によってはダイナミックレンジが狭いが、こ れは画像処理を活用することで修正できる。 もう一つの問題は低濃度域での S/N 比の低 下である。たとえば椎体と骨陰影などが重な (X-Check)ファントムとバーガーファントム を用いて空間分解能と濃度分解能を測定する X線装置のデジタル化は多くの利点をもた ると、低濃度に白っぽくなり、S/N 比が悪い テストを行った。その結果、最新の間接変換 らした。まず、撮影線量の軽減である。デジ ため、微細な濃度差が見えなくなる。 Vol.12 No.6 (2014) 3 図4 連続撮影の有用性(DR) 図5 0 Ⅱc+Ⅱa SM3 Cアーム搭載の 撮影寝台により 多方向からの消化管の 観察も可能に X 線検査において、これまで撮影寝台の改 良についてはあまり重視されてこなかった。 われわれは 2000 年より FPD 搭載 C アーム型 寝台を使用している。C アームは患者の体位 変換による負担が少なく、オーバーチューブ とアンダーチューブを切り換えることができ るので任意の方向からの透視・撮影が可能で 図6 ある。管球を少し振るだけで被検者の角度が 残胃 0 Ⅱc 12mm T1(SM2) 1) 変えられ、広い範囲を描出することができる。 C アームの活用により、Ⅱc(表面陥凹)型、 早期癌など微細病変の診断精度が向上した。 デジタル装置を使うには、利点を生かして ため、粘膜ひだの状態がよく観察できるよう とくに、造影剤をきれいに付着させて撮影す 欠点をカバーする検査法が必要になる。とく になる。その変化を読んでいくのがポイント る(図 6)、観察しにくい箇所の病変を正面像 に、前述した連続撮影とリアルタイム画像表 で、ひだの辺縁や輪郭などの形状を連続した としてとらえる(図 7)、といったことが可能 示というメリットを最大限に生かすべきであ 画像で観察すれば病変のある箇所を指摘でき になった。 る。たとえば食道癌の場合、DRでは造影剤 る。ようするに、連続撮影で陰影斑とひだの なお、FPD を C アームに搭載しても 20°以 を口に含ませて飲ませた瞬間を連続撮影し、 変化を追いかけることで、ヨード染色による 内であれば画像の劣化はほとんどない。斜入 画像を確認できるため、CFSSでは診断でき 内視鏡検査を行わないとわからなかった微細 による撮影は消化管撮影には非常に有用であ なかった微細な病変も検出しやすくなる。ま な病変も発見できる(図 4)。 る。頭尾方向の回転は、とくに横胃に有効で た、食道癌では造影剤の通過の早い部位など リアルタイム画像表示の利点を示したの あり、病変の長径や噴門・幽門からの距離測 の細かい病変は診断が難しいが、連続撮影は が 図5 だ。これは SM3 の食道癌だが、撮っ 定がしやすい。左右方向の回転は幽門前部の 細かな病変を発見するのにも有用である。 た写真を見直すと一瞬では気づきにくい陰影 病変の描出に優れる。このように C アームを 食道を連続撮影で撮ると、バリウムの付着 斑が見える。そこで、食道左後壁をバリウム 任意の方向に振ることによって、従来では撮 状態の違った画像が撮影できるとともに、壁 が通るようにして撮影すると病変部位がきれ 影できなかった画像が得られるため微細な病 の伸展度合いの変化もあらわすことができる いに描出される。 変の診断も可能になった。 4 (2014) Vol.12 No.6 図7 L Less 0 Ⅱc 15mm T1(SM2)1) 高濃度低粘性造影剤は 「粘膜の描出能」と 「粘液除去効果」に 優れる 図8 交互変換より回転のほうが洗浄効果がある 薄く造影剤を溜めるとⅡc 型早期癌が明瞭に れを把握すること。そして、実際に画像を見る 描出される(図 8)。 ときにはできるだけ拡大して表示し、疑わし いときはさらに拡大あるいは白黒反転して見 「基準撮影法」の登場と 今後の展開 る必要がある。モニター診断では、モニター 機器によって解像度や色調、性能、劣化具合 などが違うことを考慮しなければならない。 さらに、読影者と画像を作る人間が別である こと、画像の作りこみがアナログであること、 X 線で微細な病変を観察するには造影剤の 改良も不可欠だった。1990年台前半にわれ 消化管X 線検査における高濃度低粘性造影 PACS 側で画像が補正されていることがある われの提案で国産の高濃度低粘性造影剤が作 剤の使用は、スクリーニング検査においても などにも注意すべきだ。基本的には読影端末 られた。それに伴って検査法も進化した。高 癌の存在診断のみならず質的診断も可能にし 側での画像の微細な調整が必要である。 濃度低粘性造影剤の最大のメリットは「粘膜 た。それに伴って、撮影方法も二重造影像を また、施設内検診での消化管検査は内視鏡 の描出能」に優れていることで、微細な粘膜 主体とする撮影体位に移行した。われわれは の比重が増えつつある。しかし、内視鏡と X 面がコントラストのよい鮮明な画像として得 「基準撮影法」 (NPO 法人日本消化器がん検診 線では守備範囲が違うことを認識しなければ られる。また、低粘性で流動性・拡散性に優 精度管理評価機構)を提示した。日本消化器 ならない。内視鏡は微細な所見を得るのに適 れているので、胃全領域を二重造影像で描出 がん検診学会では、二重造影像主体の撮影法 しているが、X 線は広い範囲を描出すること できる。 普及のために「新・胃 X 線撮影法ガイドライ ができるので病変部位や全体像がよくわか さらに、早期癌発見のためには粘液除去が ン」を発行している。基準撮影法に準拠し る。X 線には消化管壁の厚さや側面像を映す 重要となるが、高濃度低粘性造影剤は「粘液 て、その基本は、高濃度低粘性バリウム造影 ことができる利点もある。CT などに比較す 除去効果」が高く、微細な所見も描出できる 剤を使用し、粘液を除去するような体位変換 ると、X 線は動的な変化や微細な所見が診断 ことがわかってきた。早期癌発見を目的とし として360°すくなくとも3 回転を最初に行う できるとともに、検査中に手を加えることも て従来のバリウムで二重造影を行うには、何 こと、二重造影により胃全域を盲点なく撮影 可能だ。消化管検査は、X 線、内視鏡、CT と 度も体位を交互に変換しなければ粘液を除去 し、腹臥位前壁撮影では圧迫用フトンの使用 いった複数のモダリティによる情報を集める できず、表面陥凹などの病変を描出するのに を原則とすること、である。基準撮影法は簡 ことで診断精度が向上するものと考えている。 手間がかかった。だが、高濃度低粘性造影剤 単に習得できて効率よく検査ができる方法で を使えば簡便に二重造影像を得ることができ あり、これをマスターすることで検診のレベ る。 ルの底上げを目指す。 体位変換による粘液除去の方法について 近年、デジタル装置の普及に伴ってフィル は、試行錯誤を繰り返した結果、粘液除去に ムを使わないモニター診断が盛んに行われる は交互変換よりも回転の方が洗浄効果のある ようになった。モニター診断にあたっては、デ ことがわかった。とくに、右側臥位方向360° ジタルの良さを生かすための撮影方法を工夫 で 3 回転の体位変換を行って、観察する面に する必要がある。まず、読影しやすい撮影の流 <文献> 1) 杉野吉則ほか: 新しい画像検査・診断法と今後の展開─胃 X線検査における平面検出器(FPD)を搭載したCアーム 式装置の有用性. 胃と腸39(12): 1572-1582, 2004 Vol.12 No.6 (2014) 5