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第8章 ロシアの部品産業の現状

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第8章 ロシアの部品産業の現状
第8章 ロシアの部品産業の現状
1.概況
ロシアの自動車部品工場の技術レベルは低く、外国車の現地生産においても、部品の現地
調達率は低率に留まっている。
現在、ロシアで最も進展しているフォードの現地生産のケースでは、当初、
「投資契約」と
「投資契約」制度では、生産開始から1年毎にロ
いう特恵関税制度の下で実施されており31、
ーカル・コンテンツの割合を10%ずつ上げ、5年目で50%を達成することが義務付けられて
いたが、結局フォードは4年目の段階(ローカル・コンテンツ義務40%)で、当該義務を達
成することができなかった。この制度には、人件費や生産に必要な光熱費等もローカル・コ
ンテンツに含まれていたようだが、フォードが生産を開始し、インセンティブの切り替えを
行なうまでの約4年間で、達成できた厳密な意味でのローカル・コンテンツ義務(現地部品
調達率)は10∼20%未満だったといわれている。具体的に言えば、現地調達出来た部品は、
シート、サイドガラス、リアガラス、タイヤ、ワイパー等に限定されており、エンジン、ト
ランスミッション、電装品、鋼板等の基幹部品は輸入に依存していた。フォードは部品の現
地調達率を向上させるための努力は行なっていたものの、試作品段階では問題がなくとも、
量産になると不良品率が非常に高くなるといったケースが多く、状況改善に至らなかったと
いわれている。
また、ロシア資本のセヴェルスターリ・アフト(自動車メーカー)が韓国の双竜のSUVの
現地生産を開始したが、現地調達する部品はタイヤ、内装用のプラスチック製品、シート、
ガラス、バッテリーに限定されており、やはり電装類やエンジン等はすべて輸入に依存して
いる。フォードと双竜以外にも、ロシアでは現代、起亜、BMW、ルノー等の乗用車が現地
生産されているが、部品の現地調達状況はフォードや双竜のケースと大差ない状況である。
なお、サイドガラス等の現地調達が可能な部品についても、供給源がロシアの純国産メーカ
ーではなく、外国企業の現地法人もしくは外資との合弁企業であるケースが多く、現時点で
は、部品系外資系企業の数も限定されている(ミシュラン、ノキアン、グラバーベル、ジョ
ンソン・コントロール、テネコ、オートモーティブ・ライティング等)
。
しかしながら、トヨタ、日産、VW、GM等が相次いで現地生産の開始を表明した結果、一
部の外資系部品メーカーが積極的に始動しており、ロシア企業との間に合弁企業を設立する
事例が増加している。2006年11月初めには、ドイツのシーメンスがカルーガ州の部品メーカ
ー「AVTEL」との間に合弁企業を設立し、エンジン制御装置やセンサーの現地生産を開始す
る意向を表明した。カルーガ州ではVWが現地生産を開始する予定となっており、シーメン
スの合弁企業はVWの現地工場を主要納入先として想定しているものと推測される。また、
11月下旬には、カナダの大手部品メーカー「マグナ・インターナショナル」が、ロシアの自
2006 年夏にトヨタ等の工場と同じ工業アセンブリー措置というインセンティブに切り替えら
れた(工業アセンブリー措置については、p92 参照)
。
31
99
動車メーカー「GAZ(ゴーリキー自動車工場)
」と共同で複数の部品製造合弁企業を設立す
る計画を発表している。その他、イタリアのマグネット社がロシアでの現地生産を検討中と
のことである。
今のところ日本の部品メーカーの動きは必ずしも活発ではない面があるが、
その背景には、
トヨタ、日産の現地生産台数が5万台程度と、採算性との関連等で検討課題が少なくないた
めである。
なお、自動車部品産業の現地調達の現状は、家電部品産業と比べると、遥かに良好な状態
であり、ロシア政府も自動車産業の裾野拡大に関心は高く、具体的な進出を検討する企業の
動きもみえることから、今後は徐々に状況は改善していくものと思われる。
しかしながら、家電部品産業においては、そのような裾野の広がりの可能性を示唆するよ
うな動きは殆ど見受けられず、引き続き、外国から完成度の高いキットを輸入し、それを組
み立てる生産方式が継続するものと想定される。ロシア政府でも、このような状況を改善す
る意欲、すなわち家電産業の裾野拡大の必要性を認識している様子は見受けられず、ロシア
の家電部品産業が今後短期間で急激に成長する可能性は低い状況である。
今後カリーニングラード州で薄型テレビの委託生産を積極的に行う意向を表明している日
本メーカーのケースも、上記のような輸入キット組み立て(はめ込み)方式が採用される予
定である。
2.比較的レベルの高い部品産業部門について
ロシアの自動車部品の中で、比較的技術レベルの高いといわれるタイヤ、板ガラス、バッ
テリー部門の状況を紹介する。
(1) タイヤ
① 生産の状況
ソ連邦解体後、
他の多くの産業部門同様、
ロシアのタイヤ生産部門も極度の不振に陥った。
ソ連解体後、商用車と農業機械の生産量が激減したことに加え、アフターマーケットにおい
ても、商用車や農業機械の主な所有者である軍、生産財生産企業、農業企業、バス運行会社
が深刻な資金不足に陥り、タイヤの交換需要が激減したためであり、特に商用車(トラック、
バス)および農業機械用のタイヤの生産の落ち込みが顕著であった。ロシア経済が回復に転
じた2000年以降、状況は若干改善されてきているものの、商用車および農業機械用タイヤの
需要は本格的には回復しておらず、ここ3年は、生産量がほぼ横ばいの状態が続いている。
一方、乗用車用タイヤの方は、需要の減退傾向がそれほど顕著ではなかったこともあり、
ソ連解体後も生産量が商用車用タイヤほど極端に落ち込むことはなかった。また、生産回復
の足取りも、商用車用タイヤや農業機械用タイヤと比較すると、遥かにしっかりしたものと
なっており、1999年には、1990年の水準を超え、それ以降も順調に生産が伸び続けている。
100
図表1-86 ロシアのタイヤ生産量の推移
(単位 100万本)
タイヤ
1990 1995 1996
の種類
乗用車用 15.9 10.6 11.2
商用車用 19.7
6.9
8.6
農機用
6.6
0.5
0.7
その他
5.5
0.8
0.7
合 計
47.7 18.8 21.2
(出所)ロシア連邦国家統計局
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
14.0
9.0
0.9
0.9
24.7
14.6
7.4
0.8
0.7
23.5
17.6
8.5
0.9
1.0
28.0
17.7
10.1
1.1
1.0
29.9
19.7
11.4
1.6
1.0
33.7
22.2
10.8
1.6
1.2
35.8
24.3
11.7
1.7
1.1
38.8
25.1
11.7
1.7
1.0
39.5
27.2
11.7
1.7
n.a.
n.a
② 主要メーカー
主要メーカーの動向は、以下の図表1-87 のとおりである。
図表1-87 主要タイヤメーカーの動向
アムテル・フレデンシュタ ・ インド系シンガポール人のスドヒル・グプタ氏が筆頭株主兼経
イン
営者となっている持ち株会社で、元々はアムテルという名称で
あったが、2005年春にオランダのタイヤ会社「フレデンシュタ
イン」を約3億ドルで買収した後、現在の名称となった。
・ フレデンシュタインの工場の他に、ロシア国内に2つのタイヤ
工場(キーロフとヴォロネジ)を保有しており、2005年のタイ
ヤ生産量は合計で約1,500万本であった。
シブール・ロシア・タイヤ ・ ガスプロム傘下の化学会社「シブール」の子会社で、ボルタイ
ル、オムスクシーナ、ヤロスラブリ・タイヤ、ウラルシーナの
4社を傘下におさめる他、スロバキアのマタドール社との合弁
企業「マタドール・オムスクシーナ」の株式の50%を保有して
いる。これら5工場の2005年の生産量の合計は約1,600万本で
あった。
ニジネカムスクシーナ
・ タタルスタン共和国を拠点とする大手石油会社「タトネフチ」
傘下のタイヤ会社。年間生産量は1,000万本を超える。
ノキアン
・ 一時、アムテルとの間に合弁企業を設立し、アムテル傘下のキ
(フィンランド)
ーロフ・タイヤ工場で自社ブランドのタイヤの生産を行ってい
たが、アムテルとの間に何らかの問題が生じ、2004年に合弁企
業は解散した。
・ ノキアンは合弁企業解散とほぼ時期を同じくして、レニングラ
ード州のフセヴォロジスクで自社工場の建設を決定し、2005
年9月には早くも現地生産を開始した。2005年の生産量は約30
万本で、2006年には約190万本を生産することを目標としてい
る。さらに、今後約1億4,000万ユーロの追加投資を行い、2008
年には年産400万本を達成することを目指している。
ミシュラン
・ 2001年からモスクワ州のダヴィドヴォで自社工場の建設を開始
(フランス)
し、2004年夏から創業を開始している。2005年には約200万本
のタイヤが生産されたが、今後、設備の拡充を実施し、最終的
には年産800万本を目指すようである。
・ なお、ミシュランの現地工場はR15タイヤのフセヴォロジスク
のフォードの現地工場への納入を2006年9月ごろより開始して
いる。ちなみに、それまでは、上記のノキアンがR15タイヤの
フォード工場への納入を行なっていたようである(R16タイヤ
の納入はコンチネンタルが行なっている)
。
(出所)各種資料を基に作成
101
(2) バッテリー
① 生産の状況
ソ連時代の1991年には750万個であったロシアの自動車用バッテリーの年産量はソ連解体
後激減し、1998年には212万個にまで落ち込んだ。しかしながら、1998年8月のロシア経済
危機に伴うルーブル・レートの大幅下落の結果、輸入品の攻勢が弱まり、1999年からロシア
の自動車用バッテリーの生産量は回復基調に転じた(図表1-88)。2000年以降には複数の新
規バッテリー工場が本格稼動を開始したことも、生産の回復基調をより強固とし、自動車用
バッテリー市場における国産品のシェアは、2005年時点で50%強にまで回復したといわれて
いる。
図表1-88 自動車用バッテリーの生産量の推移
(単位 1,000個)
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
3,712
4,931
5,168
5,426
6,162
5,908
5,686
(注)2005年は前年比で若干生産量が減少したが、2006年に入り生産は好調に転じており、1
∼5月期の生産量は前年同期比で57%増となっている
(出所)ロシア連邦国家統計局
② 主要メーカー
ロシアの自動車用バッテリー・メーカーは、大別して、ソ連時代から稼動を続けている古
参メーカーと、1999∼2000年以降に本格的な生産を開始した新興メーカーの2つに大別され
る。更に、後者は、部品の大半を外国から輸入し組み立てるだけのアセンブラーと、部品の
内製も行っているメーカーとに分類される。最近、ロシアの自動車用バッテリー生産部門で
は特に後者の新興メーカーのプレゼンスが急激に高まっており、同生産部門を牽引する存在
になりつつある。
ロシアには、現在、主要なものだけで20近くのバッテリー・メーカーが存在するが、以下
では、その中でも比較的生産規模の大きな数社の概況を紹介する。
チュメニ・
バッテリー工場
TUBOR
・ 1941年に設立されたロシア最大の生産量を誇る古参バッテリー・メーカ
ーで、従業員数は約1,400名。
・ 古参メーカーの中では最も新技術導入に積極的で、2005年には米国Wirtz
社の極板製造ラインを導入したほか、2005年には、ACCU(オーストリ
ア)
、Technofin(イタリア)との間に、プラスチック部品製造の合弁企
業を設立している。
・ 製品(ブランド名はTyumen battery)の大半はアフターマーケット向
けとなっており、ロシアの25地域に販売センターが存在する。一方、自
動車工場(新車)向けについては、KamazやUralといったトラック工場
への納入が中心となっている。その他、カザフスタン等への輸出も行っ
ている。
・ ニジェゴロド州のボール市に所在する新興メーカー(従業員数は250名)
。
・ 地元のエヴラジヤという企業が、米国のEXIDE社(正確にはその欧州支
社)の協力を得て設立した工場で、2001年から生産を開始している。
・ 製品はTitanおよびArcticというブランド名で販売されている。
・ 同社のバッテリーは、値段はやや高めであるが、Ca/Ca、Sb/Ca、Ca/Silver
102
AKOM
・
・
・
AkTexバイカル
・
・
・
といったロシアの基準でいえば最新式の技術が採用されており、品質が
良いことで知られている。販売経路は、30%が自動車工場(新車)向け、
45%が国内のアフターマーケット向け、25%が輸出となっている。
サマラ州のジグリョフスク市に所在する工場で(従業員数は370名)
、2002
年にロシアのエネルゴテフマシとEXIDEグループのTudor社の合弁企
業として設立された(合弁企業にはSpago Tradingという外国企業も参
加していたようである)
。
その後、Tudor社はプロジェクトから脱退し、現在、エネルゴテフマシ
はドイツのVarta社との提携を強化している。
販売の中心は自動車工場(新車)向けとなっており、全体の58%を占め
る。以下、国内アフターマーケット向けが37%、輸出が5%となってい
る。
ノーバヤ・レアーリナスチというイルクーツクの新興財閥が中心になり、
スビルスク市のヴォストシブエレメントという工場を改修する形で、
1999年に設立された工場。
AkTex、VSA、ズベーリというブランドのバッテリーを生産している。
製品の販売経路は、国内アフターマーケット向けが最も多く40%、輸出
が36%、自動車工場(新車)向けが24%となっている。
(出所)各種資料を基に作成
(3) 板ガラス
①生産の状況
ソ連時代の1985年には年間約300万tの板ガラスが生産されていたが、ソ連解体後、生産
量は減少に転じ、1995∼2003年までは年間100万t前後の水準で推移していた。2004年以降、
若干生産量は増加しているものの、2005年時点で約120万tにすぎない。このように急激に
生産量が落ち込んだ最大の要因は、内外市場でニーズのある高品質板ガラスを生産しうる工
場の数が限定されていることにある。
「内外市場でニーズのある高品質板ガラス」とは、具体的には、フロート法という近代的
な生産方式で生産された板ガラス(フロート板ガラス)のことを意味している。ロシアには
約20の板ガラス生産工場が存在するといわれているが、その大半がフルコール法という旧式
の技術を採用しており、フロート法の生産ラインを有する工場はつい最近までボール(グラ
バーベル傘下工場)
、サラトフ(ロシア資本)
、サラヴァト(ロシア資本)の3工場にすぎな
かった。そのためこの3工場では、ほぼフル稼働の状態が続いており、2004年には合計で約
90万tの板ガラス(フロート板ガラス)が生産されている。
最近、ロシアではフロート板ガラスに対する需要が急増しているため、既存工場での板ガ
ラスの製造ラインの増強工事や、フロート法を採用した新工場の建設が積極的に行なわれて
いる。2005年にはサラヴァトのガラス工場の増強工事が行なわれた他、モスクワ郊外で外資
系の新工場が稼動を開始しているその結果、2004年末時点では約110万tであったロシアの
フロート板ガラス生産能力は、現在、約170万t強に達している。
103
② 主要メーカー
ロシアのフロート板ガラス製造工場のうち、ボール、グラバーベル・クリン、ピルキント
ン・ロシアの3つが外資系となっている。
ボール・ガラス工場とグラバーベル・クリンは、日本の旭硝子の子会社であるグラバーベ
ル社の傘下工場である。ボール・ガラス工場は1970年に稼動を開始した工場で、グラバーベ
ルは1997年に、同工場の株式の約40%をロシアの新興財閥「アルファ・グループ」から取得
している。その後、グラバーベルは、EBRDやIFC等からも同工場の株式を取得し、現時点
では、同社の持ち株比率は80%以上に達している。グラバーベル・クリンは、グラバーベル
が2005年秋に約1億6,000万ユーロと約2年の年月を費やして、モスワクの北西105kmのとこ
ろにあるクリンに完成させた工場である(年間生産能力は22万t)
。
ピルキントン・ロシアは、英国のピルキントン社(既述のとおり最近日本板硝子の傘下に
入ることが決定している)が、AIG Emerging Europe Infrastructure Fundという投資ファ
ンドと共同で2006年初めに完成させた最新式の工場で(年間生産能力は24万t)
、モスクワ
の南東35kmのジューコヴォ村付近(ラメンスコエ地区)に所在する。投資総額は約1億9,000
万ユーロであるが、そのうちの約1億ユーロはEBRDとIFCからの融資により賄われた。
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