Comments
Description
Transcript
エリスリトール
エリスリトール Erythritol 融点:119 ℃ 1.概 要 融解熱:約 320 J/g CAS:149-32-6 沸点:約 330 ℃ 化学名:1,2,3,4-Butanetetrol 粘度:3.0 cp(25 ℃,30 w/w%) 解離定数:1.25×10(18 ℃,Ka) 氷点降下:-4.1 ℃(20 w/w%) 水分活性:0.91(25 ℃,36 w/w%) 吸湿性:吸湿せず(20 ℃,RH90) 耐熱性:150 ℃まであり 着色性:150 ℃までなし エリスリトールは,糖アルコールの一種で,果 浸透圧:1,861 mOsm/kg(15 w/w%,20 ℃) 実やキノコ類のほか,ワイン,しょうゆ,みそな 溶解度:36 w/w%(水,25 ℃) どの発酵食品に含まれている天然の糖質であり, 溶解熱:-42.9 cal/g ブドウ糖を原料として酵母の発酵で生産されるブ エリスリトールは他の糖類アルコールと同様に ドウ糖発酵甘味料である。天然界におけるエリス 安全性が高く,食品として広く利用されている。 リトールの分布を表 1 に示す。 特徴は次のとおりである。 〈一般物性〉 ①カロリーゼロの甘味料 比重:1,099(25 ℃,30 w/w%) ②非う蝕性の糖質 表 1 天然界におけるエリストリールの分布 生物中のエリストリール 地衣類 アサの葉 キノコ類 0.3~5(%) 0.1 2~4 食品中のエリストリール 白ワイン 赤ワイン アウスレーゼ シェリー酒 清 酒 醤 油 170(mg/l) 280 300 160~272 150~180 910 動物中のエリストリール ウシの精液 ニワトリの精液 ヒトの精液 ヒトの血清 ヒトの尿 69(mg/l) 50 定性 0.45 1,600~3,300(μg/h) 80 月刊バイオインダストリー12月号校了.indb BIO INDUSTRY 80 2009/11/09 12:00:05 メーカー 2 社合計で 4,500~5,000 トン程度とみら れる。また,カーギルジャパンが輸入販売してい る。 4.需 要 エリスリトールは,カロリーゼロ,冷たい食感, 甘味度はショ糖(スクロース)の 70~80%であっ 図 1 エリスリトールの製造法 さりした後味など,他の糖質系甘味料にはみられ ない多くの特性を生かし,多くの用途に向けられ ③大きな冷涼感が得られる ている。ここ数年急速に需要拡大してきた。2008 ④味質改善 年の国内需要量が輸入品を含めて 6,500 トン程度 ⑤ショ糖の約 75%の甘味度 とみられ,特に最近はノンカロリー食品への応用 ⑥吸湿性が低く,取扱いが容易 が広がっている。 ⑦緩下作用が小さい 〈毒 性〉 表 2 にエリスリトールの用途例と使用効果を 示す。エリスリトールの用途の中で,最も需要が 急性毒性:マウス,LD50,7 g/kg 高いのは飲料への利用である。 ①低カロリー飲料:エリスリトールはカロリー 2.製 法 を抑えた清涼飲料,美容飲料,ダイエット飲料な 一般に糖アルコール類は,糖類を原料に高温高 どの甘味料として最適である。これらの飲料に 圧下,水素を添加して製造されるが,エリスリ は,高甘味度甘味料の後味を抑え,砂糖に近い後 トールはブドウ糖を原料として酵母の発酵により 味とボディー感ある甘味を与えることができる。 菌体分離,クロマト分離,脱塩,脱色,晶析,結 ②コーヒー,紅茶:エリスリトールを使用して 晶分解,乾燥の工程を経て生産される食品である キレのある味の低カロリーコーヒー,紅茶などの (図 1)。 調整が可能である。また,これまで知られなかっ た機能として,無糖コーヒーに対して 0.5~1.0% 3.生 産 程度添加することによりコーヒーの渋味を抑制す 農林水産省食品総合研究所と日研化学の共同開 る効果があり,実質的にカロリーを変えないで若 発により発酵生産の基本技術が確立され,三菱化 干の甘味付与と渋味が抑制された缶コーヒーの調 学の協力を得て量産体制が実現した。 整が可能になる。 1990 年春から日研化学が総発売元となり,同 ③野菜飲料:エリスリトールはその独特のキレ 社および三菱化学フーズが商業販売をはじめた。 のよい甘味質により,野菜ジュースに 0.5~1.0% また,日研化学と三井物産の共同出資により日研 程度添加することで,明らかに青臭みが抑制され 化成が設立され,ソルビトールおよび糖アルコー ることが確認されている。また,ジュースに限ら ル類の生産を開始した。2002 年 10 月に日研化学 ず,野菜汁を配合した各種デザート,菓子などに より化成品事業も営業も譲り受け,日研化成が製 も同様の効果が確認されている。 造・販売を一本化していたが,2008 年物産フー ④栄養ドリンク:栄養ドリンクにはビタミン類 ドサイエンスに社名を変更した。その後,三菱化 や生薬エキスなどが配合されているが,エリスリ 学フーズも生産開始し(生産はレンゴー),国内 トールはこれらの味の改良にも効果がある。ビタ メーカーは 2 社となっている。 ミン類,特に B 群には苦味の強いものがあり, なお,2008 年のエリスリトール国内生産量は, Vol.26 No.12 2009 月刊バイオインダストリー12月号校了.indb その苦味の抑制,ビタミン臭さの抑制に効果があ 81 81 2009/11/09 12:00:05 表 2 エリスリトールの用途 ノンカロリー食品 ノンカロリー飲料 ダイエット食品 ダイエット飲料 ○ ○ ○ ○ ノンカロリー甘味料 ダイエット甘味料 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ その他の効果 ○ ○ ○ ○ ○ 糖尿病患者用代替甘味料 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 矯味・調味・水和作用 チョコレート チューインガム キャンディー 錠 菓 冷 菓 もち,水ようかん ゼリー ケーキ上がけ,ホンダン 緩下性が少ない 卓上甘味料 ○ ○ ○ ○ ○ 吸湿性が少ない 健康食品 清涼飲料 乳飲料,ヨーグルト コーヒー飲料 アルコール飲料 栄養ドリンク 冷涼感が得られる 和洋菓子類 虫歯の原因にならない 飲料 低カロリー 用途例 使用効果 ○ ○ 化粧品用,医薬品添加物用,工業用 る。 コーヒー,紅茶,ココアなどをはじめとする粉末 ⑤アルコール飲料:エリスリトールは,より低 タイプの飲料に適している。 濃度でエタノールの水和を促進することができる ⑦その他:エリスリトールのキレのある甘味質 ため,少量の添加でエタノールの刺激を緩和する により,糖質の 10~20%使用することにより, 作用を持っている。カクテルのような低アルコー 果汁の味覚改善に効果がある。 ルのリキュール類に使用することにより,まろや かな味の低カロリーアルコール飲料を調整でき る。 価格:800~900 円/kg(食品用) ⑥粉末飲料:エリスリトールは吸湿性が低く, 82 月刊バイオインダストリー12月号校了.indb 5.価 格 用途により価格差がある。 BIO INDUSTRY 82 2009/11/09 12:00:06