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ビデオを活用したワークショップによる搾乳衛生改善対策
ビデオを活用したワークショップによる搾乳衛生改善対策 下越家畜保健衛生所 後藤靖行 渡邉章子 内山保彦 渡辺誠市 小野島学 五十嵐利男 わりにファシリテーターと称し、参加者の考 はじめに えを導き出すための支援役が存在する。この 酪農経営において、所得のロスを減らし経 役を家保が担った。 営の安定化を図るためには、乳房炎をいかに コントロールするかが重要である。新潟県で 参加者には、参加・尊重・共感というルー は、疾病を軽減し生産性を上げ所得をアップ ルを設けてあるのが一般的であるが、参加者 させることを目的に、本年度から「所得アッ を積極的に参加させるためにアイスブレイク プ」畜産生産性向上対策事業を開始、事業目 という手法を用い緊張をした雰囲気を和ませ 標を全農場の平均体細胞数20万/ml以下として ることも重要で、ゲームや演劇などを行うこ い る が 、 当 所 管 内 の 成 績 は 、 平 成 19年 度 で は とも多い。 27.0万/ml、20年度では30.2万/mlであ り、 20 我 々 に と っ て 、 初 の 試 み で あ る こ と か ら、 年度に平均体細胞数20万/ml以下を達成した農 開催 に 当 た っ て は文 献[1]や 書籍等 (2) 場は85農場中24農場と3割程度である。 ( 3 )( 4 )( 5 )( 6) を 参 考 に 、 関 係 者 ら を 交 え綿密な打合せを行った。 これまでの対応は、家保が一方的に課題を 指摘し改善策を提案するなど、どちらかとい 第1回ワークショップ うと指導的な立場を取っていたが、体細胞低 減のためには農場が自主的に考え改善策をみ 1 趣旨の説明 いだすことが必要で、家保は支援的な立場で 8月 に 開 催 し た 第 1回 ワ ー ク シ ョ ッ プ で は、 の対応が望ましいと思われたため、ワークシ 25名 参 加 ( 写 真 1 )、 最初 に 今 回 の 趣 旨 に つ い ョップ形式を取り入れた研修会を開催したの て、衛生的な搾乳方法について考えるために で紹介する。 事前に撮影した管内4農場の搾乳作業のビデオ を活用しグループ討論するよう説明した。 2 ワークショップとは アイスブレイク ワ ー ク シ ョ ッ プ と は 、「 参 加 体 験 型 グ ル ー 参 加 者 ど う し 誕 生 日 を 聞 き 合 い 1月 1日 に 近 プ学習」などと訳される。講義型学習法のよ い人を先頭に一列に並んでもらい、これを参 うな講師による一方通行的な講義方法と異な り、ワークショップでは参加者全員が教え役 となり各自の知識や経験を話し合う学習方法 である(図1 )。そのため講師は存在せず、代 講師 講義型学習法 図1 ワークショップ 写真1 講義型学習法とワークショップの違い 1 研修会風景 写真2 課題1のグループ討論 写真3 4農場の搾乳作業(開始から2分後) 考に4班に編成、またサポート役として各班に これらは搾乳に当たっては常識といわれる 家保職員を1名配置した。その後、各自で名札 ことであり、知識としては持っていても正し を作成後、班内で自己紹介してもらった。こ く 実 行 さ れ な い こ と が 多 い よ う に 思 わ れ た。 の自己紹介の時には、名前だけではなく農場 4 課題2 の自慢や悩み、将来の目標、趣味など1分程度 1頭について、搾乳の開始から終了までの手 話をしてもらったが、これらの話が昼食時の 順や経過時間を比較するため、4農場の搾乳作 雑談に引き継がれ、和やかな雰囲気作りがで 業の映像を同時に映した。写真3は、作業開始 きたものと思われた。この後、課題検討に取 から2分を経過したものであるが、A及びB農場 り組んでもらった。 はミルカーが装着されていなかった。このこ 3 とから、非効率的な作業のためミルカー装着 課題1 管内A農場の搾乳作業のビデオを参考に、搾 までの時間が長い、併せて過搾乳やライナー 乳 衛 生 に つ い て グ ル ー プ 討 論 し て も ら っ た。 ス リ ッ プ が み ら れ る な ど の 意 見 が 多 か っ た。 ワ ー ク シ ョ ッ プ の 手 法 の 一 つ で あ る KJ法 を 参 5 講義 考に、検討内容を人の動き、牛の生理、搾乳 最後に、意識トレーニングによる経営改善 手順、飼養環境の4項目に絞り、色違いの用紙 方法などについて講義を行いこの日のワーク に区分して記入してもらった(写真2 )。 シ ョ ッ プ は 終 了 し た 。 後 日 、 A及 び B農 場 に つ 検討内容を班の代表者が発表、その内容を いては、作業効率の見直しについて個別に検 黒板に記した。意見をまとめると、 討した。以下、B農場の事例について紹介する。 ・人の動き:作業動線は短く。道具類は手の 届く場所に配置する。ムダな動きはせず。搾 改善事例 乳に集中する。手袋の着用する。 1 ・牛の生理:オキシトシンとアドレナリンの B農場の概要 搾 乳 牛 35頭 を 飼 養 し 、 構 造 は 対 尻 式 、 導 入 関係を理解する。 実績はここ数年なく全頭自家育成である。搾 ・搾乳手順:ミルカー装着までを効率よくす 乳については、本人と母親の2人で実施しミル る。前搾り5回以上としストリップカップを使 カ ー は 1人 3台 使 用 、 自 動 離 脱 装 置 を 備 え て い 用する。過搾乳やライナースリップ等を防止 る。20年度のバルク乳体細胞数は33.5万/mlと、 する。 これまでも農場側と対策を検討したものの成 ・飼養環境:こまめな除糞と敷料の散布。尾 績の向上には至らなかったが、ワークショッ 毛のカットまたは断尾。子牛はカウハッチ等 プを契機に農場が主体的に改善に取り組んだ 。 で飼養する。 2 2 作業効率の改善例 になった(図2)。 作業効率については、これまでは牛舎中央 バルク乳体細胞数は、これまで30万/ml台で に留めた台車に道具類を置き、常に台車を経 推移し、特に夏から秋にかけて乳質が悪化す 由して作業に取りかかっていたが、腰ベルト る傾向で、ペナルティ基準である40万/mlを超 やタイマーを活用し作業を効率化した。 えることも度々あったが、改善後は乳質が安 3 定し20万以下で推移するようになった(図3)。 搾乳機器の取替え 搾乳機器については、クロー部分をステン 今後は、更に成績が向上するものと期待され レス製からプラスティック製に取替え軽量化 る。 したことにより搾乳時の乳頭にかかる負担が 軽くなった。併せて、自動離脱用ワイヤーを 第2回ワークショップ 調整したことにより自動離脱後のクローの反 1 転が抑制され、ティートカップからの生乳の 改善例の紹介 B農 場 の 改 善 事 例 に つ い て 、 第 2回 ワ ー ク シ 漏出が軽減された。 ョップで紹介し、参加者同士で意見を交換を 4 行った。B農場に感想を聞いたところ、成績の 改善効果 これまでミルカー装着まで平均3分30秒かか 良い農場と比較して何が違うのか考えていた っていたものが、1分20秒に短縮。搾乳時間も が、ワークショップが良いきっかけとなった 。 6分 20秒 か ら 5分 20秒 と な り 、 過 搾 乳が 軽減 さ 作業方法の変更には抵抗を感じたが、慣れれ れた。これらを併せると、1頭当たりの作業時 ば特に気にならない。もし、成績に行き詰ま 間 が 3分 短 縮 さ れ 、 約 7分 で 作 業 を 行 え る よ う りを感じているようなら、勇気をもって変え てみるのも手であるとのことであった。 2 改善前 ミルカー装着まで 搾乳時間 3分30秒 6分20秒 経営目標の設定 この回では参加者に将来の経営目標につい て考えてもらった。主なものとしては、地域 ブランド乳や乳製品の生産及び販売、生乳や 繁殖等の成績アップ、施設の改善、自給飼料 改善後 ポストディッピング の生産、教育ファームなど酪農経営に関する 1分 20秒 こと、その他にプライベートに関することな 約3分短縮 5分20秒 ど様々なものがあった。この目標の実現に向 0 図2 け た 行 動 計 画 に つ い て 検 討 し て も ら っ た が、 12 (分) 6 頭ではわかっているつもりでも、紙に書くと B農場の1頭当たりの作業時間 思ったほど書けないといった感想が多く聞か れた。 H19 60 H20 H21 まとめ (万/ml) 搾乳衛生改善に向けた取組みとして、搾乳 作業を撮影したビデオを活用したワークショ 40 ップを開催した。ワークショップは初めてと いう参加者も多く最初はやや戸惑いもみられ 20 たが、時間の経過とともに活発な意見交換が ワークショップ なされるようになり、本音の部分も聞かれた 。 0 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 第1回終了後にアンケートを行った。回答者 3 (月) 17人 中 14人 が 良 か っ た と 回 答 、 主 な 理 由 と し 図3 B農場のバルク乳体細胞数の推移 3 てはワークショップが良かった、他の農場の 参考文献 搾乳作業が見られた、眠くならなかったとい [ 1] 門 平 睦 代 、 堀 北 哲 也 、 天 野 は な 、 島 村 うものであった。改善点として、時間が短い 、 剛:臨床獣医,Vol.25,№5,7-25(2007) 参集範囲をもっと広く、生乳成績との関連を (2)中野民夫:ワークショップ,岩波新書,東 知りたい、講義形式を希望などの意見もあっ 京(2001) たが、参加者からは概ね好評であった。また 、 ( 3) 中 野 民 夫 : フ ァ シ リ テ ー シ ョ ン 革 命 ,岩 巡回等を通じ意見を聞いたところ経営改善の 波アクティブ新書,東京(2003) 参考としたいと話していた農場も多く、うち ( 4) 中 野 民 夫 ら : フ ァ シ リ テ ー シ ョ ン ,岩 波 一農場ではワークショップを契機に搾乳衛生 書店,東京(2009) の改善に取組み成績が向上した。 (5)山本浩通:だれも教えてくれなかった。 この改善例について第2回ワークショップで 農場をうまくやる方法,㈱デーリィ・ジャパン 紹介、併せて将来に向けての経営目標につい 社,東京(2006) ても討論してもらったが、ここでも多くの意 ( 6) 山 本 浩 通 : 整 理 整 頓 !?人 間 力 !?,㈱ デ ー 見交換がなされ、活気のある研修会となった 。 リィ・ジャパン社,東京(2008) 酪農は個人経営が多く、他の農場と意見交 換する機会が少ない。したがって、農場同士 が集まり、話し合い、知識や技術を共有し合 う場として、ワークショップの有用性は高い ものと思われた。また、ビデオを活用したこ とで改善意欲がより向上したとして農場から は好評であった。 今後、この活動の幅を広げ、より多くの農 場での意識改革に努めたい。 4