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ー 図画工作科授業 「すてきな 『おっとっ と』 をつくろう」 の検討
学校教育実践学研究, 1998,第4巻, 79-86頁 図画工作科授業 「すてきな『おっとっと』をつくろう」の検討 半 直 哉* ・若 元 澄 男 (1997年11月21`日受理) An Examination of "Making Fantastic 'Oops'Mobile Toys" in Arts and Crafts Naoya Nakaba and Sumio Wakamoto Abstract. We can hardly say that art education in Japan as it is justifiably evaluated. At the same time, it would be regrettably true to say that we can observe very few practices of art education worthy of justifiable evaluation. In the present art education, we can recognize many situations where teachers either stick to the traditional view of art education or they never challenge the ways of art education based upon their personal experiences. Under these circumstances, at present, the authors are declaring the idea of three-H's (Heart, Head, and Hand) approach to art education as a way of defining the appropriate state of art education. The present artic一e aims to give a general idea about three-H's approach to art education and to introduce its concrete procedure by citing a sample classroom lesson. I 問題の所在一美術教育の現状「こんな美術教育ならいらない」 「日本の美術教 育は今や瀕死の状態にある」 「このままでは美術 教育は自滅する」とは,毎年開催されてきた中国 新聞社の主催する1996年度第73回児童・生徒新年 作品選奨大会図画部門審査終了直後の赤裸々な筆 者の所感である。審査を進めつつの総括的所感で あり実態を数量的に示すことはできないが,この 数年来続いている「看過できない事実」を,今年 もまた審査過程で確認し,冒頭のような所感を持 つに至った。 「看過できない事実」とは,教師用のマニュア ル(シナリオ)に依存し,子ども達に単なる作品 づくりを要求したとしか考えられない「うんざり するほどの同質の作品群(総出品数の半数に近い と思われる)」への遭遇である。それらの作品に 表現された内容は, ① 電信柱と送電線 ② 近景に花(例:コスモス,すすき)をあしら い,遠景に自分の学校や町並み ② 自転車に乗る自分 ③ 笛を吹く友達 ④ 友達の顔(おもしろくはあるが,同質のある 種の表情を持った顔) 6)雑巾がけ (む 芋掘り(手前に芋があり両手が左右から芋に 伸びている) ⑦ シャボン玉をしている様子(みんなの顔が等 しく天を仰いでいる) 等々である。まさに,同じ主題,同じ形の画用 紙(これは,児童・生徒新年作品選奨大会の応募 規定だから応募サイドからはやむを得ないところ がある。しかし,今後,募集者サイドの「四つ切 り以下」というような配慮があってもよいのかも しれない),同じような構図,似通ったニュアン スの配色,同質のタッチ,これでもかといわんば かりの作品群で,第73回の審査会場は埋め尽くさ *広島大学附属三原小学校 -79- 半 直 哉 れた。 ところで,これらの作品群の背後には,全国の 書店で販売されている「酒井式描画指導法」や 「キミ子方式」など,教師のための「手引き書」 の存在が見え隠れする。いまや,類書の存在を背 景に,日本全国どの学校に行っても同じニュアン スの作品を探し出すのに苦労はないだろう。これ は異常事態である。しかし,この異常事態こそ, 最もよく我が国の教育の現状を象徴し,とりわけ 美術教育の実態を反映している。 それにしても,こうした美術教育の中で一体何 を育てることができるのだろうか。何のためにこ うした方法を教室に持ち込み,同じニュアンスの 絵を描かせねばならないのだろうか。極論するな ら,美術教育は,答えが子どもの数だけあって, それが許容される唯一無二の教科ということもで きる。にもかかわらず,この最大のメリットを放 棄し,何故,子ども達に同じことをさせなければ ならないのだろうか。 Ⅱ 3H図画工作のススメ さて,筆者は,上述のような問題が発生する原 因について,現職教員へのインタビューや学生に 対する実態調査などから,教科理解の不足や美術 教育の目的及び機能に関する理解の欠如などを考 えている。こうした認識に基づき,この厄介な現 実を克服するため,あらゆる場,そしてあらゆる 時をとらえ提起し続けてきたのが「3H図工のス スメ」である。 以下,本小稿においては,3Hの内容を概説し, この理念にオーバーラップする事例として,広島 大学附属三原小学校,半 直哉教諭の図画工作科 授業「おっとっと」を,3Hの視点から分析し, 同時に,半教諭自身の報告と併載することにより, 3H図画工作の具体像を明らかにしていきたい。 1 3Hとは まず3Hのこと。とりもなおさず,これは美術 教育の機能を「3H」の育成,すなわちHeart(感 じる心),Head(考える頭),Hand(つくる手) の育成に求めるべきであることを指摘するもので ある。従前,幾多の先達が美術教育の目的や役割 を言及してきた。そうした過去先達の諸論を統合 若 元 澄 男 すれば,美術教育の機能はおおよそこの三つにま とめることができると筆者は考えている。そして これこそが美術教育の究極の目的であろう。 2 いまなぜ3H美術教育(図画工作) ところで,この3H美術教育の具体像をなんら かのフレーズに置き換えるとするなら,「ワクワ クドキドキ美術教育」ということであり「好きこ そものの上手美術教育」などというところが妥当 なところであろう。 それにしても,なぜ今,「3H美術教育のススメ」 なのか。その理由の第-は,この図式は教育の本 質的課題ともいえる「自己教育力の育成」のそれ と重なる1)からである。自己教育の図式は自分が 自分の意思で主体的に動いたときにこそ発生す る。子ども達が興味・関心のあることに出会った 時,驚くべき集中力と行動力を発揮し様々なこと を学び取っていく。もし我々が心ときめく美術教 育,楽しくて,嬉しくて,元気のでる美術教育を 準備できれば子ども達は自ずと頭を働かせ,手を 動かし,まさに自分で自分を鍛えていくことが期 待できるからである。のみならず,あらためて言 うまでもなく自己教育力こそ「生きる力」の中核 を為すものと考えるからである。 3H標樺の第二の理由は,これが美術教育の 「基礎基本」だからである。「筆への水の含ませ方」 「パレットへの色の置き方」「釘の打ち方」などを のみ,美術教育の基礎基本とする誤解釈への一石 である。基礎基本の誤解は,技術を身に付けさせ なければ美術教育は始まらないという図式を惹起 し,子ども達に意に沿わぬ「訓練」や「トレーニ ング」を強要していくことにつながる。この教科 に技術・技能が不可欠であることは,もとより筆 者も承知している。しかし,だからと言って決し てそれが先行するものではない。喜びながら,楽 しみながらという内発的要求から発する活動展開 の中でこそ自己教育力の獲得や主体性育成への連 鎖が期待できる。一切の強制や訓練は美術教育に はなじまない。いま,なおかつ混乱に満ちたこの 教科の「基礎基本」に関する解釈に,あらためて 一石を投じておきたい。 3 3H美術教育(図画工作)とは ー80- さて,以下において筆者の求める3H図画工作 図画工作科授業「すてきなrおっとっと」をつくろう」の検討 の具体像を半教諭の実践に重ねて明らかにしてお きたい。 (1)Heart(感じる心)の視点から 半教諭の授業における指導目標には「やじろ べえの仕組みを生かした造形活動の楽しさを味 わわせ表現できるようにする」と掲げられてお り,まさにワクワクドキドキをベースにした授 業づくりへの姿勢が伺われる。このことは, 「内発的意欲の喚起」「楽しくしかも感動的な出 会い」「自由に遊ぶ中で」などの学習指導案に おける表記からも推察できる。 ところで,ワクワクドキドキの形成を最優先 課題とするなら,まず問われなければならない のは,題材への出会わせ方,すなわち,導入指 導のあり方ということになるだろう。図画工作 の授業の成否は,ここで決定されると言っても 過言ではない。言うまでもなく,いつもそうで あるように,半教諭の導入は,緻密な計画とユ ーモアのセンスに溢れた比類のない優れたもの であった。題材名の「おっとっと」はそのこと を最もよく象徴している。この半流の「導入指 導」を包含しつつ設計された「学習のオリエン テーション」は,単元学習の論理を図画工作に 導入しようとする試みである。こいうした半教 諭の「授業づくり」への積極的なチャレンジは 今後も注目していきたいと考えている。なお, この授業におけるオリエンテーションの内容 は,①題材名の予想,②題材名の正体,③学習 の見通し,④参考作品,⑤造形活動への思いを 温めるというものであり,子ども達を,ゆっく り,じっくり,明るく,楽しく,「おっとっと (やじろべえ)」の世界に誘ったと言えよう。な えている。すなわち,半教諭は,まず,十分に 「昔の人々の知悪と遊び心に触れ」させる場を つくり,子ども達の「弥次郎兵衛」に対するワ クワクドキドキを形成していたからである。一 人一人の子ども達が,「自分も作りたい」とい う思いに駆られ,そこに考える必要が発生して いた。しかも,参考作品を通して「支点やおも しの工夫」「横棒の形や色の工夫」「材料の工夫」 等々が工夫のポイントであることを子ども達に さりげなく体感させ,理解させることを忘れて いなかったのである。 さらに,「自分なりの工夫」を保証するため 「試し作り」という活動を設定し,子ども達に, 各々の頭を最大限に働かせ,自分の考えを展開 することが各々の課題になることを自然な形で 要求していた。なお,この「試し作り」は, Headの活動のみでなく,次の,Hand(つくる 手)にも連鎖する重要な意味を持っている。 (3)Hand(つくる手)の視点から この授業の指導目標として「表現したいとい う思いを持たせるとともに,自分なりの方法で 工夫し,「試行」の中で自己表現力を高めさせ ていく」ということが掲げられている。このフ レーズは半教諭の授業づくりを象徴している。 活発な手の動きを引き出すためにはなによりも 安心して自分の思いを実験できる雰囲気・状況 は不可欠であろう。半教諭はこれを保証したの である。そしてこのフレーズこそ3Hに整合す るものである。「r試行』の中で自己表現力を高 めさせていく」という図式は,自らの手を働か せながら,自ら手を鍛えていく営みに他ならな いからである。(若元澄男) お,詳細については「Ⅲ授業の計画と概要(半 Ⅲ 授業の計画と概要 1授業実施学年及び人数 教諭執筆分)」を参照いただきたい。 (2)Head(考える頭)の視点から 第5学年 男子19名 女子19名 後述の「Ⅲの3の(2)児童について」において, 半教諭は発想について抵抗感を持っていないの は,6名(38名中)のみという実態を報告して いる。しかし,筆者の観察では,この授業にお 2 授業実施期間 1995年1月下旬∼2月上旬 いて「発想すること」や「考えること」に抵抗 を示した子どもは皆無にみえた。むしろ,考え ること,アイデアを繰る苦労を楽しんでいる様 子ととらえた。こうした子ども達の様子は,こ の授業に限っては,むしろ必然であったとも考 3 題材「すてきなrおっとっと」をつくろう」 (1)題材について "やじろべえ''は,日本に古くから伝わる玩 具の一つとして親しまれてきているが,「すて ー81- 半 直 哉 きな『おっとっとj をつくろう」という本題材 は,この`やじろべえ"のつりあいの仕組みを 使って,楽しく造形活動を展開していこうとす るものである。 "やじろべえ"の教材としてのおもしろさは, まず,短い立棒に湾曲した細長い横棒をつけ, その両端に重しを取りつけた,いわゆる「弥次 郎兵衛」と呼ばれる,もののつりあうおもしろ さと張り子の虎のようにゆらゆらとする動きを 楽しめるところにある。次に,支点やおもし・ 横棒の形や色などを工夫したりつりあう形を複 雑にしたり,また,材料を考えたりすることで, 造形のおもしろさと美しさを表現していけると ころにある。子どもたちは,"やじろべえ"作 りを通して,昔の人々の知恵と遊び心に触れな がら,楽しく学習に参加してくるであろう。 この題材において,子どもたちが,自分の考 えや方法で自分らしさを発揮しながら創造的な 表現活動をしていくためには,「試し作り」と いう活動が大切なポイントとなってくる。つり あいの仕組みに気づいたりアイデアを獲得した り,また,製作の見通しを持ったりすることが, 「試し作り」の活動の場で保証される。この活 動を子どもたちに意識させ,その場を設定して いくことによって,子どもたちの試行錯誤やふ り返り・修正を生み,新たな思考や発想へとつ なげていきたいと考える。 (2)児童について 本学級の子どもたちは,"やじろべえ''とい う玩具についての事前調査(38名)によると 「"やじろべえ"を知っていますか」という問い に対して,「知っている(37名)・知らない (1名)」であり,「`やじろべえ"を今まで作っ たことがありますか」という既習体験の有無に ついては,「はい(16名)・いいえ(22名)」と 答えている。さらに,おもりや棒の長さがつり あいと関係しているという"やじろべえ"の原 理の理解度を調査したところ,半数以上の22名 の子どもたちが正解していた。 「何か作るときにすぐにアイデアが浮かんで くるはうですか」という発想に関する意識は, 「はい(6名)・少しは浮かんでくる(24 名)・あまり浮かんでこない(8名)」という 若 元 澄 男 が浮かぶまでに何らかの手だての必要性を感じ ていることが分かる。従って,教師の参考作品 や友達との交流によって,アイデアが浮かんで きたり創作意欲を持つことができたりすると考 えられる。 (3)指導について 指導に当たっては,最初の時間に「学習のオ リエンテーション」の場を設定する。視聴覚機 器を活用したり参考作品を提示したりする中 で,題材との,楽しくしかも感動的な出合いを 作る。また,「玩具コーナー(弥次郎兵衛・首 振り牛)」や「参考作品コーナー」「試し作りコ ーナー」を作り,子どもたちが自由に遊ぶ中で, やじろべえのおもしろさや仕組み,発想の楽し さ等を感じながら造形活動への思いを温める。 この「学習のオリエンテーション」を行うこと によって,学習の内発的意欲の喚起を図り,学 習の見通しを持たせ,主体的に創造的な学習を 行う支援としたい。 この「学習のオリエンテーション」の後は, アイデアスケッチをしたり友達のアイデアを交 流し合ったりする中で,子どもたちが個々の造 形活動への思いをふくらませながら,工夫や試 行錯誤を繰り返し,創造的な活動へと誘ってい きたい。 (4)指導目標 ○"やじろべえ"の仕組みを生かした造形活 動の楽しさを味わわせ表現できるようにす る。 ○ 表現したいという思いを持たせるととも に,自分なりの方法で工夫し,「試行」の中 で自己表現力を高めさせていく。 〇 日分や友達の表現や活動のよさに気づき, 互いに認め合う態度を養う。 (5)指導の計画(全7時間) 第一次"やじろべえ〝の仕組みを生かした造 形活動への思いを温める。(学習のオ リエンテーション)……………1時間 第二次 造形活動を楽しみ表現する。・‥4時間 第三次 発表会と学習のふり返り………1時間 (6)準備するもの 1)教師 ①教師自作のVTR「おっとっととは,実は, 結果が得られ,多くの子どもたちは,アイデア ー82- ……」(約4分) 図画工作科授業「すてきなrおっとっと」をつくろう」の検討 写真1玩具①「弥次郎兵街」 写其3 参考作品「雪だるま」 写真2 玩具②「首振り牛」 写真4 参考作品「松ぼっくり」 (む玩具各種(弥次郎兵衛,首振り牛等) (参材料各種 発泡スチロール,竹ひご,針金,油粘土, 画用紙等 ④参考作品 「ハンドツリー」,「雪だるま」,「バラン ストンボ」,「松ぼっくりやじろべえ」 ⑤その他 アイデアスケッチ,板書用資料 2)児童 (D材料(各自で必要なものを用意) (7)授業の概要及び考察 的な意欲を喚起し,主体的で意欲に満ちた造形 活動を生む。ワクワクドキドキする題材との出 合いが,子どもたちの発想や思考を全開させ, 個性的な造形活動の状況を作ると言える。 次に,その主な内容について述べる。 ①題材名の予想 まず,「おっとっと」という題名から学習 内容を予想する。「片足でおっとっとという 感じがする。」「お菓子のおっとっとだ」等の 愉快な意見が出され,楽しい学習のスタート となった。 ②題材名の正体 「では,おっとっとの正体は何か。それが 分かるビデオを用意してきました。」と子ど 第一次「学習のオリエンテーション」 もたちに,rおっとっととは実は……』とい う教師自作のビデオを見せていった。「ビデ 題材との感動的な出合いと,造形活動への思 いを温める場の設定 子どもたちの好奇心に火をつけるような題材 との感動的な出合いを作ることは,学習の内発 -83- オを見ていて,正体が分かったら発表してく ださいね。」と言いながら,ビデオのスイッ チを入れた。 半 直 哉・若 元 澄 男 このビデオの内容は,市販の弥次郎兵衛を, 頭→腕→胴体→顔→机にうつる弥次郎兵衛の 陰→全体という順番で撮影したものである。 部分から全体へと展開的な見せ方をすること により,子どもたちの興味や関心が徐々に高 まっていくことをねらったものである。 実際に,子どもたちは,「あ,もしかして, ……」「分かった!」等つぶやきながら,ビ デオに見入っていった。ビデオの最後に, 「おっとっとの正体は,実は,バランス名人 のやじろべえだった」という壁に貼られたカ ードが映し出されると,子どもたちは,正体 の名前を発表しようと,全員が一斉に手を挙 げた。 (勤学習の見通し 次に,学習係の司会によって,次のような ことが話し合われた。 ○ この学習で大切にしたいこと ・失敗してもあきらめない。 ・工夫に工夫を重ねる。 ・ざつにせずていねいに作る。 ○ 学習の方法・手順 ・アイデアスケッチをしてアイデアを考え る。 ・材料を考え集めて作る。 ・作品の発表会をする。 ④参考作品「ハンドツリー」 話し合いの後,次の図1を提示し,「先 生は,やじろべえの上にやじろべえを乗せ と説明した。 子どもたちは,「上に乗せることができる だろう」「いや,できない」等,反応が揺 れ,学習に熱中していった。 「そこで,本当にできるのかできないの か試し作りを行ってみました。」と,発泡 スチロールと粘土・竹ひごを材料とした簡 単な試作品を提示した。バランスに気をつ けながらやじろべえの上にやじろべえを乗 せていく。二つ三つと乗せていき,とうと う最後の四つ昌を乗せたとき,左右に揺れ ながらもバランスを保つやじろべえに子ど もたちは拍手を送った。 たたみかけるように,「これで自信を得 た先生は,こんな作品を作ってみました。」 と子どもたちに投げかけていった。それが, 参考作品「ハンドツリー」である。先と同 様に,手形をおもりとしたやじろべえを台 に乗せていき,最後のやじろべえが乗った とき子どもたちの驚きの歓声が教室に響き 渡った。 こうして,試し作りが発想を広げるのに 有効であることに気づかせていった。 ⑤各種コーナー 参考作品を見た後,子どもたちは,教師 が設定した「玩具コーナー」「参考作品コ ーナ∵」「試し作りコーナー」で自由に活 動を行っていった。「参考作品コーナー」 では,「ハンドツリー」以外に「バランス ることができないかと考えてみました。」 崩 図1 やじろべえの上にやじろべえを乗せられるか? 写真5 子ともたちに人気のあった参考作品ハンドツリー ー84- 図画工作科授業「すできなrおっとっと」をつくろう」の検討 子どもたちは,前時の「学習のオリエンテー ション」の時間での試し作りをもとに,アイデ アスケッチに取り組み,すてきなおっとっと作 りの学習に入っていった。 作品1の子どもは,アイデアスケッチ(図3) A曹m騒桁 のように両端の重しの上に,さらにやじろべえ を乗せるとどうなるだろうかという発想をひら めいた。そこで,発泡スチロールや油粘土等の 写真6 参考作品「バランストンボ」 簡単な材料を使って実際にできるかどうか試し 作りを行っている。写真7「試し作り作品」の トンボ」にも人気が集まり,つりあいの不 思議さを楽しんでいた。 ように見事にバランスよく釣り合わせることが できた。そこで,その子どもは,紙粘土や角材 多くの子どもたちは,「試し作りコーナ 等を材料にして,さらに工夫しながら意欲的に ー」に殺到した。教師があらかじめ用意し 製作に取り組んだ。 発表会では,「ニコちゃんのメリーゴーラン ておいた発泡スチロール,つまようじ,竹 ひご,油粘土,画用紙等を使って,やじろ べえを自由に作り,すてきな「おっとっと」 作りへの思いを温めていたようである。 そんな中,「先生,A君がすごいのを作 っているよ。」と教えてくれる声がした。 A君は,「試し作りコーナー」でやじろべ えを作っている中,次の図2のようなバラ ンスを発見をした。早速,学級のみんなに 紹介をすると,A君は,喜びを体中で表し 次から次へとやじろべえ作りに没頭してい った。 図3 アイデアスケッチ 写真7 試し作り作品 図2 A君が発見したやじろべえ 一85- 半 直 哉・ 若 元 澄 男 使って作った作品等様々である。作品4の「グ ニヤグこヤツリー」の子どもは,台として坂を 使い模様をかき入れている。「台をおもしろい 形にしたい。」という思いから,糸のこを使っ て仕上げるなど,熱心に取り組んだ姿も発表す ることができた。こうして,これまでの造形活 動を楽しい雰囲気の中でふりかえることができ た。 (半 直哉) ド」という楽しい作品名で紹介を行っていった。 発表を聞いていた他の子どもたちも,「とても 迫力があった。台の上にやじろべえを乗せ,そ の上に二つのやじろべえが乗せてあるところが とてもよく考えられていた」等,多くの賞賛の 声が出された。 ∠ゝ コミ 学習のまとめとして「作品発表会」を開い た。 註 次に紹介する作品1から4は,そのときの作 品の一部である。つり合いの楽しさを生かしな がら作った作品や鍵や針金等の身辺材を上手に 写真8 完成した「二コちゃんのメリーゴーランド」 1)若元澄男「3H図工のススメー地球人を育て るために」教育美術,1996年5月(No.647) 写真9 作品1「空を飛ぶ馬」 写真10 作品2rUFO」 写真11作品3「かぎっこ」 写真12 作品4「グニヤグ二ヤツリー」 -86-