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ヒアルロン酸とコラーゲンを基材と したマトリックスにヒト線維芽細胞 を
●第 47 回日本人工臓器学会大会 技術賞 受賞レポート ヒアルロン酸とコラーゲンを基材と したマトリックスにヒト線維芽細胞 を組み込んだ同種培養真皮の開発 * 1 北里大学医療衛生学部人工皮膚研究開発センター, * 2 北里大学医学部形成外科美容外科 黒柳 能光* 1,久保 健太郎* 1,山田 直人* 2 Yoshimitsu KUROYANAGI, Kentaro KUBO, Naoto YAMADA 件で多施設臨床研究を行った。 1. 目 的 当該プロジェクト多施設臨床研究の共同研究機関の協力 皮膚欠損創の治療には,一般的に人工皮膚が使用される。 で,human immunodeficiency virus(HIV) , hepatitis B virus 人工皮膚は, 「創傷被覆材」と「培養皮膚代替物」に大別さ (HBV) , hepatitis C virus(HCV) , human T-cell leukemia れる。培養皮膚代替物は,さらに,角化細胞を使用した「培 virus(HTLV), treponema pallidum hemagglutination test 養表皮」 ,線維芽細胞を使用した「培養真皮」,角化細胞と (TPHA)の検査において陰性であった患者から,手術時に 線維芽細胞を使用した「培養皮膚」に分類される。患者自 余剰となった皮膚小片(1 cm × 1 cm 以下)の提供を受け, 身の細胞を使用したものは「自家」という接頭語を,他人由 線維芽細胞を採取し,これを継代培養してマスターセルと 来の細胞を使用したものは「同種」という接頭語をつける。 ワーキングセルを作製した。凍結保存したマスターセルの 本研究は,他人由来の線維芽細胞を使用した「同種培養真 一部を使用して,HIV, HBV, HCV, HTLV, TPHA, parvovirus 皮」の開発である。同種培養真皮は,線維芽細胞から産生 の検査を行い,陰性であることを確認した。ワーキングセ される種々の細胞成長因子による創傷治癒促進作用と,基 ル を 順 次 解 凍 し て 継 代 培 養 し,同 種 培 養 真 皮 を 製 造 し 材自体による創傷治癒促進作用の相乗効果が発揮されるよ た 1) ∼ 3) 。 うに設計することが重要である。さらに,凍結保存できる 同種培養真皮のマトリックスは,ヒアルロン酸スポンジ 材料設計も重要である。そこで,ヒアルロン酸とコラーゲ 層とコラーゲンスポンジ層の 2 層構造に設計した。ヒアル ンの 2 層構造スポンジ状シートにヒト線維芽細胞を組み入 ロン酸の分子間架橋は水溶性エポキシ化合物で化学的に導 れた同種培養真皮を開発し,その性能と安全性を評価した。 入し,コラーゲンの分子間架橋は紫外線照射により導入し た。ヒアルロン酸スポンジ層には不織布が組み込まれてい 2. 方 法 るため,培養真皮は,凍結・解凍・保存液のリンス・臨床 厚生労働科学再生医療ミレニアムプロジェクト(2000 ∼ 使用の工程において十分な操作性を持っている。同種培養 2005 年)として,各医療機関の倫理委員会の承認を受けて, 真皮の凍結保存は,培養液を凍結保存液に交換した後,毎 皮膚の提供,同種培養真皮の他施設への搬送,および多施 分− 1℃の速度で 4℃から− 60℃まで冷却して凍結させ, 設臨床研究を行った。なお,多施設臨床研究はプロトコー さらに− 152℃の超低温フリーザー内で保存した。 ルを遵守して行った。臨床研究報告書は,当人工皮膚研究 凍結保存した同種培養真皮の他施設への供給は,ドライ 開発センターにおいて保管し,必要に応じて公開できる条 アイスを入れた発泡スチロールの箱に納めて冷凍便で搬送 ■著者連絡先 北里大学医療衛生学部人工皮膚研究開発センター (〒 228-8555 神奈川県相模原市北里 1-15-1) E-mail. [email protected] 36 した。同種培養真皮を受け取った施設は,− 85℃あるいは − 152℃のフリーザー内で保存した。臨床使用する際には, 37℃で急速解凍した後,乳酸リンゲル液でリンスして凍結 保存液を除去してから使用した。 人工臓器 39 巻 1 号 2010 年 5. 独創性 本研究で開発した同種培養真皮の独創性は,創傷治癒促 進効果の顕著なヒアルロン酸とコラーゲンの 2 層構造スポ ンジをマトリックスとした点である。ヒアルロン酸スポン ジ層は分子間架橋剤で架橋を導入し,コラーゲンスポンジ 層は紫外線照射により架橋を導入した。培養・凍結・解 凍・保存液のリンスという一連の過程において,マトリッ クスが溶解しない程度に分子間架橋を導入し,同種培養真 皮を創傷面に貼付すると,1 週間以内に酵素分解により ヒアルロン酸もコラーゲンも架橋が外れて遊離した分子状 図 1 同種培養真皮の機能 態になる。ヒアルロン酸分子は細胞と基質との脱着を促し て細胞移動を促進し,コラーゲン分子およびコラーゲン由 来のポリペプチドは線維芽細胞に対する走化性因子として 作用する。このような材料設計が第 1 の特徴である。 3. 結 果 材料設計の第 2 の特徴は,ヒアルロン酸スポンジとコ 1 人の皮膚提供者の皮膚小片(1 cm × 1 cm 以下)から作 ラーゲンスポンジが培養液中で剥離しない設計である 9)。 製したワーキングセルを使用して,約 1,000 枚の同種培養 分子間架橋度の低いヒアルロン酸スポンジは培養液中で膨 真皮(10 cm × 10 cm)の製造が可能であった。実際に,5 潤する特性を持つ。一方,分子間架橋度の低いコラーゲン 人の皮膚小片から約 5,000 枚の同種培養真皮を製造した。 スポンジは線維芽細胞の作用により培養液中で収縮する特 この同種培養真皮を− 152℃で 2 年間保存した場合,血 管新生に関与する血管内皮成長因子(VEGF),肝細胞成長 性を持つ。この相反する特性が相殺されることにより, マトリックスのサイズが保持されるように設計している。 因子(HGF) ,塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)の産生能 はかなり保持されていた。さらに,この培養液中に含まれ るサイトカインは,ヒト血管内皮細胞の増殖を促進する能 力を持っていた 4),5) 。 当人工皮膚研究開発センターで製造された約 4,700 枚の 同種培養真皮は全国 31 の医療機関に搬送された。そして, 重症熱傷ならびに難治性皮膚潰瘍などの 415 症例を対象と し て 多 施 設 臨 床 研 究 が 行 わ れ,優 れ た 結 果 が 得 ら れ た 6) ∼ 8) 。 4. まとめ 凍結・解凍後の同種培養真皮中の線維芽細胞は,血管新 生を強力に促進する VEGF, bFGF, HGF などのサイトカイ ンを産生するため,創傷治癒を促進する効果がある。一方, マトリックスの素材であるヒアルロン酸分子は細胞移動を 促進する効果を発現し,コラーゲン分子およびコラーゲン 由来のポリペプチドは線維芽細胞に対する走化性因子とし ての働きを持つ。それゆえ,線維芽細胞から産生される細 胞成長因子による創傷治癒促進効果とマトリックスを構成 する生体材料自体による創傷治癒促進効果の相乗作用によ り,極めて優れた治療効果が得られる(図 1)。 文 献 1) 黒柳能光,久保健太郎,松井宏道,他:同種培養真皮の 製造と供給システム(厚生労働科学再生医療ミレニアムプ ロジェクト).熱傷 29: 28-38, 2003 2) Kuroyanagi Y, Kubo K, Matsui H, et al: Establishment of banking system for allogeneic cultured dermal substitute. Artif Organs 28: 13-21, 2004 3) Hashimoto A, Kuroyanagi Y: Standardization for mass production of allogeneic cultured dermal substitute by measuring the amount of VEGF, bFGF, HGF, TGF-β, and IL-8. J Artif Organs 11: 225-31, 2008 4) Kubo K, Kuroyanagi Y: The possibility of long-ter m cryopreservation of cultured dermal subsitute. Artif Organs 29: 800-5, 2005 5) Kubo K, Kuroyanagi Y: A study of cytokines released from fibroblasts in cultured dermal subsitute. Artif Organs 29: 845-9, 2005 6) 黒柳能光:人工皮膚.人工臓器 34: 187-90, 2005 7) Yamada N, Uchinuma E, Kuroyanagi Y: Clinical trial of allogeneic cultured dermal substitute for intractable skin ulcers of the lower leg. J Artif Organs 11: 100-3, 2008 8) Yamada N, Uchinuma E, Matsumoto Y, et al: Comparative evaluation of re-epithelialization promoted by fresh or cryopreserved cultured dermal substitute. J Artif Organs 11: 221-4, 2008 9) 黒柳能光:組織再生用基材,移植用材料及びそれらの製 法.特許第 4273450 号 人工臓器 39 巻 1 号 2010 年 37