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高性能鋼について

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高性能鋼について
【鋼構造_12】
あなたの専門とする鋼構造物の立場から、高性能鋼を2種類以上挙げ、その特徴と使用
にあたっての設計、施工上の留意点についてあなたの意見を述べよ。
1.高性能鋼の種類
鋼橋に汎用的に使用されている鋼種と比較して、強度、じん性、溶接性、曲げ加工性、
耐腐食性において、より優れた性能を有する鋼種、鋼材を総称して高性能鋼という。
橋梁向けで実用化されている代表的なものとして以下のものがある。
:引張強さ 690N/mm2 以上の高強度の鋼材
・高強度鋼
・降伏点一定鋼:板厚に関係なく規格降伏点を保証した鋼材
・高じん性鋼
:冷間曲げ加工や寒冷地での使用に対応した鋼材
・耐ラメラテア鋼:板厚方向の強度特性を改善した鋼材
・予熱低減鋼:溶接施工時の予熱温度低減が可能な鋼材
・大入熱溶接対策鋼:大入熱溶接が可能な鋼材
・耐候性鋼:緻密なさびによってさびの進展を抑制するため無塗装での使用が可能な
鋼材
・LP 鋼板:長手方向に直線的に板厚を変化させた鋼板
・橋梁用高強度ワイヤ:吊橋のケーブルに使用される高強度のワイヤ
・BHS 鋼:SM570 や HT780 の強度特性を有し、溶接性を改善させた鋼材
設計、施工上の留意点を述べる場合には、比較的多用されている耐候性鋼と降伏点一
定鋼、および近年開発された BHS 鋼について述べるのがよい。
2.耐候性鋼の設計施工上の留意点
耐候性鋼は、適量の Cu、Cr、Ni などの合金元素を含有し、大気中での適度な乾湿の
繰り返しにより表面に緻密なさびを形成する鋼材である。緻密なさびが鋼材表面を保護
しさびの進展が時間の経過とともに次第に抑制される。
耐候性鋼は、溶接構造用鋼材としての優れた特性を有するとともに、適切な計画設計、
施工、維持管理により無塗装で優れた防食性能を発揮するため、橋梁のライフサイクル
コスト(LCC)の観点から魅力的な素材である。主にニッケルを多く添加し、従来の JIS
耐候性鋼に対し耐塩分特性を高めた新しい鋼材(ニッケル系高耐候性鋼)も開発されて
いる。
設計施工上の留意点としては、表面に緻密なさびを形成できるような周辺環境で採
用し、湿潤状態を避け乾燥しやすいような詳細構造(溶接部のスカーラップや添接板の
工夫等)に配慮する。また、橋梁端部のような比較的環境が厳しい箇所では、部分的に
塗装を行うなどの配慮が必要である。
3.降伏点一定鋼の設計施工上の留意点
降伏点一定鋼は板厚 40~100mm の鋼材で、通常の JIS 材が 40mm を超えると降
伏点が低下するのに対し降伏点が下がらない鋼材であり、規格記号は「-H」となる。
降伏点一定鋼の許容応力度は、板厚に関係なく下表の値となり、鋼重低減による経済
効果が得られ、設計上の煩雑さを回避することができる。
軸方向引張応力度および許容曲げ引張応力度(N/mm2)
設計時では、図面上での明記を適切に行い、降伏点変化鋼材との混用を避けるなど工
場での施工性に配慮する必要がある。
4.予熱低減鋼の設計施工上の留意点
橋梁の長大化にともない、鋼材の合金元素量が多い SM570 材以上の高張力鋼が適用
されるようケースに増加している。鋼材を溶接する場合、一般に鋼材の合金元素量が多
いほど、また、板厚が厚いほど溶接割れが生じやすくなるため、予熱が必要になるが、
100℃以上の高温予熱作業は施工管理に各種の制約がある。その課題を解決するために
開発された鋼材が予熱低減鋼である。予熱低減鋼は、合金元素の量を低くし、溶接割れ
感受性組成(Pcm)を低くした鋼材で溶接時の予熱温度の低減が可能で、施工性が向上する。
設計時では、図面上での明記(鋼種名の後に“-EX”を付記)を適切に行い、同一鋼種で
の混用を避けるなど工場での施工性に配慮する必要がある。
5.橋梁用高性能鋼(BHS 鋼)の設計施工上の留意点
BHS(Bridge High-performance Steel)鋼は、鋼橋の建設コスト縮減のために産学
連携研究プロジェクトの成果に基づき開発された高性能高張力鋼材である。
これまでの SM570 材に対し BHS500 と BHS500 材、HT780 材に対し BHS700
材が対応する。特に BHS500 材では、SM570 材に比べ、降伏強度で 9~19%(+40
~80N/㎜ 2)向上し、溶接時の予熱作業が省略できる等、加工性・溶接性が従来鋼よりも
優れ、SM490Y と同等の製作性を有している。BHS 鋼を有効に活用すれば、設計およ
び製作の面での合理化が可能である。設計、施工上の留意点としては、道路橋示方書に
規定されない鋼材のため、以下のような事項を検討する必要がある。
①設計時に必要な許容応力度および最小板厚の定式化
②フランジの局部座屈および桁の横倒れ座屈強度の定式化
③補剛材間隔等の照査式の定式化
なお、この鋼材は、東京港臨海大橋(仮称)で使用され、鋼重で約3%の減、材料製
作費で約12%のコスト縮減が期待できると報告されている。
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