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曲面ガラスを用いた建築の外観とガラス製造・加工技術
曲面ガラスを用いた建築の外観とガラス製造・加工技術 安田研究室 12_08530 田頭 宏造 (TAGASHIRA, Kozo) 1. 序 曲面ガラスは建築の外観に優雅で独特な表情を与 4. 外観とガラス製造・加工技術 横軸を工程、縦軸を技術 えている。その背景には、ガラス製造・加工において一般 の種類とすることで、外観と技術のつながりを分析した 的な技術やそれらの応用、 または新開発の技術が存在し、 ( 図 4)。まず、外観と技術のつながりに着目すると、① 多様な外観を作り出すことにつながっていると考えられ はガラスパネル製造・加工において開発技術 (7/9)、曲げ加 る。そこで本研究では、ガラス製造・加工において特殊技 工においては応用技術が多くみられる (4/6)。つまり、 融 術を使用した曲面ガラスを用いた建築 を対象に、ガラスパ 解加工の高性能ガラスが使用され、高度な熱管理技術で曲 ネル形状とパネル同士の配列方向から外観 を分類し、ガラ げ加工が行われる外観である。②は曲げ加工において開 ス製造・加工技術と併せて分析することで、建築の外観と 発技術が多くみられた (2/3)。型枠作成を必要としない 技術の関係の一端を明らかにすることを目的とする。 Cold Bending によるねじれ曲面加工や専用の機械による熱 2. パネル形状と配列方向からみた外観 外観をパネル形状 間曲げ加工により、大量生産された曲面ガラスを用いた外 1) 2) と配列方向から分析した ( 表 1)。パネル形状は二次曲面 2章 パネル形状 ねじれ曲面 (9/15) と三次曲面 (6/15) に大別でき、三次曲面は同一 平面上にある辺数から二辺以下をねじれ曲面 (3/6)、三 せて分析することで 3 つの外観タイプを得た。①②はパネル 同士が曲線方向に配列されたものであり、①はパネル形状 が二次曲面、②はねじれ曲面のものである。③はたわみ ②(3) (0) (0) ③(3) ② (1) (4) (2) ③ 表 2 註 ) 各事例に 国内を J、国外を (2) A として竣工年 順に事例番号を (1) 付けた。 M 特殊な形状の型枠 [2] B 高度な熱管理技術 [2] Ⅱ P 融解加工 [6] M 金属以外の型枠 [1] フロートガラス を製造 機械による熱間曲げ [1] ガラス曲面形状加工 型枠作成 M 曲げ加工 B スチール型枠 の作成 炉内での高温加熱 による加工 P 形状加工 M 複雑な形状の型枠 B 高度な熱管理技術 P 融解加工 M 特殊な形状の型枠 B Cold Bending の使用 P 付加加工 M 金属以外の型枠 B 機械による熱間曲げ 図 3 技術のつながり [3] 複層加工 合わせ加工 B Cold Bending 使用 [3] プレストレス加工 付加加工 [2] ガラスパネル製造・加工 P 技 術 の 種 類 二次加工 Ⅱ P 形状加工 [2] 複雑な形状の型枠 [2] 廃棄 カレット ( 砕いてリサイクルすること ) ガラス曲面形状加工 型枠作成 M 曲げ加工 B ガラスパネル製造・加工 P 出荷 素板 型枠 ( スチール ) ガラス検査 パネル 二次加工 [13] 梱包 梱包 ○ 応 用 特 技 殊 術 技 [8] 術 ● 開 発 技 術 第一次検査 除冷 加熱 Bending は型枠作成の工程を必要としない ( 図 3)。 ① (5) 曲げ加工 型枠・ガラスのセット 術、 応用技術とつながるものが多くみられた。なお、 Cold 洗浄 応用技術に集中した。また、全工程で応用技術、一般技 ベニヤゲージ 工程 技術 技術のつながりに着目すると、ガラスパネル製造・加工から 技術に集中した。型枠作成から曲げ加工では一般技術は (0) 表 2 外観別の国内・外事例数 図 2 ガラスの製造・加工工程 表 3 加工における特殊技術の分類 技術 (13/21) に分類した ( 表 3)。次に、各工程における 型枠作成では一般技術は複数に分岐し、特殊技術は一般 型枠作成 型枠の作成 般技術と異なる材料や道具、設備を使用したものを開発 ①(9) み 曲 面 ガラス曲面形状加工 素板検査 一般技術を高度に応用をしたものを応用技術 (8/21)、一 小口研磨 次加工を施す場合もみられる。まず、特殊技術について ガラス検査 スを設置し、加熱、除冷を行う曲げ加工である。また、二 素板発注 形状加工はスチールで型枠を作成する型枠作成と型枠にガラ 指示書作成 とガラスを曲面にするガラス曲面形状加工であり、ガラス曲面 ガラス製造 わる主な工程はフロートガラスを製造するガラスパネル製造・加工 受注 工における工程と技術を整理した ( 図 2)。ガラス形状に関 次 曲 面 た わ 直線 曲線 表 1~3、 図 2~4 註 ) 表中の () の数字は対象資料 15 件、 [] は抽出した技術 21 個の該当数を示す。 ガラスパネル製造・加工 ガラス発注 ヒアリング から得た情報や資料を基に、曲面ガラス製造・加 3) 図 1 分析例 ね じ れ 曲 三 面 国内 国外 曲面のガラスが直線方向に配列されたものである。また、 配列 方向 二 次 曲 面 外観タイプ ② 3・4 章 特殊技術 P P B 合わせ強化ガラ スを製造し、そ の内側に反射 コ ー テ ィ ン グ、 フリット加工を 施し、回転半径 を 2 種類もった 三次曲面ガラス を製造する機械 による熱間曲げ 加工を行う。 列方向が曲線 (12/15) と直線 (3/15) とした。それらを併 3. 曲面ガラスの製造・加工技術 ガラス製造・加工業者への パネル 形状 配列方向 曲線 辺以上をたわみ曲面 (3/6) とした。また、ガラス同士の配 事例の所在地も併せて検討した ( 表 2)。 表 1 形状と配列からみた外観 A-5 Fondation Louis Vuitton/Frank O. Gehry 観である。③は型枠作成においては応用技術 (3/3) と二 5. 結 以上、ガラス製造・加工において特殊技術を使用し 次加工が多くみられる (2/3)。複雑な形状の型枠の他に、 た曲面ガラスを用いた建築を対象に、外観と特殊技術を分 穴のあるループ状の型枠やエッジを尖らせた型枠といった特 類することで、技術同士、また外観と技術のつながりを 殊な形状の型枠がみられる。次に、技術から外観同士の 考察した。三次曲面のガラスパネルが曲線方向に配列される つながりに着目すると、曲げ加工において開発技術がみ 外観では Cold Bending が、直線方向に配列される外観では られるものは①と②のみである。つまり、パネル同士を曲 特殊な形状の型枠が使用されること、さらに、二次曲面 線方向に配列した外観は、大量のガラスを使用するため型 のガラスパネルを曲線方向に配列される外観には多様なガラ 枠を必要としない曲げ加工が用いられると窺える。型枠 スパネルが使用されるといった外観と技術の関係の一端を 作成において応用技術がみられるものは②と③のみであ 明らかにした。 る。二次加工がみられるものは①と③のみである。また、 註 1) フロート法によるガラス生産が確立した 1959 年以降の曲面ガラスを外観に用いた建築作 品のうち建築専門誌や企業などへのヒアリングを通して十分な情報が得られた 15 件を対象 事例とする。今回資料とした建築専門誌は「新建築」、「DETAIL」、 「a+u」、日本建築 学会「ガラスの建築学」SD 編集部「ガラス建築」、日本建築学会「ガラス建築」、「Anne-Line Roccati「The Fondation Louis Vuitton by Frank Gehry」、「CONNAISSANCEDES arts FONDATION LOUISVUITTON」であり、ヒアリングを行った企業・団体・設計会社は 新光硝子工業株式会社、日本電気硝子株式会社、sedak GmbH & Co. KG である。 註 2) 本研究ではガラス形状と配列方向を検討する際に用いる種立面を外観として扱う。 註 3) 一般的な曲面ガラスの製造・加工工程、特殊技術を使用した曲面ガラスを用いた建築の 事例と特殊技術の詳細、由来、建築以外への用途、技術が開発された年代を質問内容とし、 ヒアリングを行った。 事例の所在地に着目すると、曲げ加工において開発技術 は国外の事例のみ使用することが多くみられる。このこ とから、今後日本への技術輸入の可能性があることが窺 える。また、型枠作成において応用技術は国内の事例の み使用することが多くみられる (3/4)。 ガラス曲面形状加工 ガラス曲面形状加工 スチールにより形状加工された型枠 炉を用いた熱加工による曲げ加工 ガラスパネル製造・加工 型枠作成 フロートガラス /1959 ① A.3 ② J.6 A.6 ③ J.3 J.8 P 素板 形状加工 [2] ① J.1 J.2 J.4 J.5 J.7 A.1 特殊形状ガラス /2007* フロートガラスを切断し形状変化したガラス ① J.5 ③ A.7 M 型枠 ( スチール ) 特殊な形状の型枠 [2] P [ 新光硝子 ] 複雑な形状加工などをするために加熱・ 徐冷において細かい温度管理をする技術 ① J.1 J.4 J.5 ③ J.3 A.7 [ 日本電気硝子 ] 結晶ガラスを加工するために、通常温度 ( 約 600℃) よりも高い温度 ( 約 700~800℃) を使う加熱技術 ① A.1 エッジを尖らせた型枠 /2014* 技術の種類 リサイクルガラス /2009* 一度使用したガラスを融解し再利用 したガラス ① A.4 B ③ J.8 M [ 日本板硝子 ] フロートガラスを冷却する前に、Low-E 膜を形成するこ とにより、曲面加工をしても膜が歪まないガラス ① A.3 [SUNGLASS] 冷却 切断台 ① A.2 ③ A.7 機械でのねじれ曲面加工 /2014* ねじれ曲面状の型枠 /2007* 強化ガラス /1874 ② A.6 ② J.6 ② A.5 倍強化ガラス /2004* M 金属以外の型枠 [1] ① J.2 B 砂を使用した型枠 /2009* プリントガラス /2002* 機械による熱間曲げ [1] J.8 Glass Jewerly Box A.7 Elbphilharmonie P P B Ⅱ B P M B Ⅱ 3 1 1 [1] [3] [1] [2] Ⅱ M M P M B Ⅱ 2 2 1 [2] [1] [2] M J.6 銀座ベロックス A.5 Fondation Louis Vuitton P B A.6 Bombay Sapphire Distiller B 外観同士のつながり ① P ガラス 合わせガラス /2014* 技術分類 複雑な形状の型枠 [2] 応用・開発技術分類 技術個数 開発技術 M 金属以外の型枠 [1] 外観タイプ ① ② ③ M ③ Ⅱ ① 外観タイプ 特殊技術 総数 事例番号 事例名 A.1 Delfi Orchard 技術種類 1 1 応用技術 M ② 開発技術 凡例 応用技術 B B ② A.5 ③ A.5 技術使用年 B Fondation Louis Vuitton Cold Bending では加工できない大 きな曲率のガラスも型枠大量生産で きる機械を使用した技術 ① J.2 A.2 図 4 技術と外観のつながり J.3 プラダ青山エピセンター 三次曲面ガラスの大量生産 /2011* 明治・大正時代において、自転車のラ イトに使用される曲面ガラスを作るた めに使用されていた ① A.4 付加加工 [2] 技術内容 B ② 網入りガラス /1967* フロートガラス /1959 A NO.8 B NO.9、14 C NO.4、13 外観タイプ / 事例番号 B ③ プラダ青山エピセンター 人力による現場加工 /2007* たわみ曲面状の型枠 /2010 ① J.1 一般技術 A.1 Delfi Orchard A.2 The IAC Building A.3 Gare de Strasbourg A.4 Louis Vuitton ION Global Store P P P P P Cold Bending 使用 [3] ① J.7 P J.1 J.2 J.4 J.5 J.7 Cold Bending/2005* 複雑な形状の型枠 [2] 4 1 2 [9] [1] [6] [2] 21 世紀美術館 三愛ドリームセンター 電通本社ビル 21 世紀美術館 多摩美術大学図書館 銀座フェザービル 型枠、炉を使用せずに常温での曲面加工 オンライン Low-E/2009 コーティング 高度な熱管理技術 [2] 精度の高い加熱・除冷技術 /1962 ③ J.3 結晶ガラス /1960s 2 7 高温の加熱技術 /1985* 融解加工 [6] 高温加熱によって、ガラスを結晶化さ せ、ガラスの強度、耐風化性、防汚性 を高めたガラス ① A.1 溶解炉 B [ 新光硝子 ] 厚板により熱分布が不均一になるため、 高い精度が必要とされるガラス ① J.4 ① ① J.2 J.7 A.4 ② J.6 ③ J.8 穴のあるループ状の型枠 /2004* 厚く巨大なガラス /2004* 外観タイプ 曲げ加工 [1] [0] [1] [0] B P 図 4 註 1) 外観の記号は表 1 に準ずる。2)* は年代において正確な情報が得られなかったことを示し、その場合は建築作品の竣工年を記述している。