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平成 18 年 3 月 28 日 上海産業情報センター 駐在員 稲熊浩一 一般調査
平成 18 年 3 月 28 日 上海産業情報センター 駐在員 稲熊浩一 一般調査報告書 上海語研究で初めての辞書作編さん、始まる 中国では、北京方言を基礎にした普通話(プートンファ)が公式言語で、 政府、公的機関などの公式の場や小中高の教育現場では、現在でも、この普 通話以外の使用を厳格に禁止しています。しかし、揚子江以南の華東、華南 地区では、上海語、広東語を始め数十の方言が存在し、生活の場では従来か らのこれら方言が圧倒的でした。近年の沿岸部への人口流動(地方からの労 働者流入)や都市化の波により、上海語などの地方方言の使用頻度は年々減 っています。そんな中、上海語使用の動きを追ってみました。 当上海センターのアシスタント黄君は吉林省出身の根っからの東北人で、面 接で上海に来るまで、上海語といっても日本の方言みたいなものだろうと思っ ていたそうです。実際に当地で生活してみて、アパートの大家さんと話が通じ ず、隣の人を呼んで通訳をしてもらってから認識を改めたそうです。やはり, 「上海語は外国語」だと。大連市などの遼寧省や吉林省などの東北地域では地 方ごとに方言はあるものの、いわゆるなまり程度ですが、上海語や広東語にな りますと、謝謝你(シェシェ−・ニ−)がシャヤ・ノンあるいは多謝(トウチ ェ−)になりますから、推測しろというほうが、無理でしょう。 そうした中、近年上海語を話す人が極端に減っているとの声が聞かれるようにな りました。一般論として、10 年くらい前までは、デパートでも普通話を話しても、 なかなか通じなかったり、いやな目で見られたりしたものだそうです。最近では、 普通話を話す方が浙江省温洲(自営業者が多く、裕福な地方都市)あたりの人では ないかとのことで、お金持ちに見えるとのことです。 先日センター内の某上海人現地スタッフ(女性)が先輩スタッフに、叱られてい るのを目撃しました。どうも上海語をめったに話さないことを言われているようで、 「上海人なら、上海人らしく上海語を使いなさい。」とのきついお咎めです。後で、 叱られた当の本人に聞いてみますと、彼女も根っからの上海人でしたが、今の 20 そこそこの世代と 30 台では、上海語使用頻度の差において断絶があるようです。 20 代前半の世代では、会社などの公式の場だけではなく、友人との会話や家庭生 活の場においても、普通話を主に話す人が優勢であるようです。 彼女によりますと、原因は 3 つあるそうです。まず、普通話教育の浸透、以前は 小学校レベルで留まっていた上海語使用禁止の年次が下って、幼稚園でも先生が普 通話を強要し、上海語を母語として使用できる環境が減ったこと、二番目は、いわ ゆる上海外から仕事で来ている、いわゆる外地人の増加の問題です。レストランや マッサージ店で勤務する人は主にこれら外地の人ですから、そういう場所でも上海 語は使用しづらくなりました。それから 3 番目に、外来語、専門用語の増加がもた らしている影響もあります。これはIT用語や外来文化を表す言葉(漢字)はまず、 普通話に翻訳されるので、上海語では言い換えできない場合も多いとのことです。 また、若い人の中では、感情表現も上海語ではしっくりこないといって、普通話し か話さない人も多いようです。 上海市言語工作委員会では、上海語の使用環境が年々減っていく現状に警鐘を鳴 らし、保護育成の気運を盛りあげるため、今後5,6年かけて、上海語の方言辞書 を編さんしていくことに決定しました。またこのための地方法規を整備する考えで す。この計画に合わせて上海語の歴史と使用環境の調査をするべく、復旦大学と共 同の研究チームを結成しました。事業決定の理由としては、大学生レベルで上海語 の使用頻度が下がっていること、また彼ら自身へのアンケート調査でも、普通話を 第一使用言語としていることがわかったからです。 上海語は上海市民 1700 万人のうち、少なくとも 1400 万人は話したり、少なく とも聞くことはできる状態にあり、将来も消滅することはないと見られますが、幼 稚園でも使用ができない現状というのはどうでしょうか。 地方文化というのは方言とともにあるわけで、普通話でしか言い表せない専門用 語もあるのと同時に、上海語でしか言い表せない言葉、文化、感情表現も無数にあ るはずです。大雑把にいいまして、中国文化の多様性も南方の様様な方言に裏打ち されていたはずで、その意味からいっても、最近の地方文化保護の動きは望ましい 方向にあると思います。