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伊藤 弘 - NTT
フォトニクス技術の電波天文観測機器への応用 主役登場 世界最高の技術を目指して 伊藤 弘 NTTフォトニクス研究所 主幹研究員 グループリーダー 突然の電話 どを訪問してその現実を目の当たりにするうちに,天文学 それは1999年の夏のことでした.大学時代に同じ研究 者たちが目指している技術レベルの高さと目的の壮大さに 室で机を並べていた友人からの久しぶりの電話が始まりで 感銘を受け,自分たちの持てる技術がどこまで通用するの した.何でも,「NTTで開発したフォトダイオードの話を かを試してみたいという気持ちが強くなっていきました. 聞きたい」ということでしたが,「そういえば彼は天文物 深夜に及ぶ実験 理学を目指していたはずだが,いったい通信技術とはどん 天文観測は夜中に行うのが当たり前といえますが,それ な接点があるのだろうか?」といぶかるばかりでした.初 は私たちの生活とは少し異なるものです.そしてこれも当 めて耳にする「アルマ」という言葉も,チリという地名か たり前ですが,実験はいったん始めると終わるまではやめ ら連想される古代インカ帝国のイメージも,なにやら謎め られないという宿命にあります.共同研究に関与する私た いた雰囲気を醸し出すのに十分でした. ちは,午前0時を過ぎるまで野辺山や三鷹の実験室でデー 相次ぐ来訪 タ採取のために粘ったり,電波望遠鏡を用いた徹夜の天体 相前後して,当時私の上司であり単一走行キャリア・フォ 観測に協力したりと,体力勝負の苦労もいろいろとありま トダイオード(UTC-PD)の発明者でもある石橋忠夫さん したが,その一方で人類の財産となる科学に貢献できると の元へ,日米欧の主要な研究機関の天文学者から,相次い いうことに,ある種の充実感も覚えたものです. で来訪を希望する旨の 連絡が舞い込んできました.実際 世界最高の技術を目指して 会ってみると,出てくる話といえば,南米チリの5 000 m オリンピックもそうですが,何事につけても一番になる 級の 山岳地帯だとか,宇宙の起源や 生命誕生の 謎を解き ことには大きな喜びがあります.私たちの仕事では技術的 明かすだとか,1 000 GHzまでの高周波信号をつくり出 なチャンピオンを目指しています.技術の世界では,1人 すだとか,およそ現実世界を超越した夢物語のような話ば の力だけで大きな前進が得られることはまずありません. かりで,それが今日のような技術に発展するとはまだ想像 世界中の研究者との連携,切磋琢磨も必要です.左上の写 することはできませんでした. 真は前述の英国の研究所の入り口ですが,ノーベル物理学 共同研究の始まり 賞受賞者2人の名前を冠したこの研究所からは,世界の主 結局日本の国立天文台を窓口とし,NT T未来ねっと研 要な天文台へ高周波部品や観測装置が提供されています. 究所の川西さん,盛岡さん,NT Tマイクロシステムイン 私たちの土俵は光通信技術ですが,このような世界最高レ テグレーション研究所の 永妻さんたちの 計4グループ で ベルの技術を持ち,それをさらに磨くことによって,NTT 連携してALMA計画への 研究協力が始まりました.その からも世界をリードする技術を継続的に創出・発信し続け 後,野辺山宇宙電波観測所や三鷹の国立天文台,米国国立 ることができるよう,これからもさまざまな挑戦を続けて 電波天文台,英国国立ラザフォードアップルトン研究所な いきたいと思います. 58 NTT技術ジャーナル 2004.11