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1 吉野川北岸用水路系の施設操作方法の検討 〇(株)チェリー
吉野川北岸用水路系の施設操作方法の検討 〇(株)チェリーコンサルタント 姜 華英 中国四国農政局 四国東部農地防災事務所 佐藤秀樹 (株)チェリーコンサルタント 1 植田 昌宏 はじめに 吉野川北岸用水地区の用水路は、徳島県に位置し、幹線水路の延長約69km、施設容量約 15m3/sの長大開水路系施設である(図1参 照)。 営農形態及び農業水利状況の変化によ って用水路内で生じる諸問題(調整池水面 の急激な低下によるパイプラインへの空 気混入や満水位操作による無効放流)を解 決するため、その方法の一つとして宮川内 図 1 用水路概念図 調整池の容量を拡大(2000m3 ⇒ 35000m3) した。 しかし、水需要変動に対応した供給を図りつつ、送水効率を高めるためには、施設容量の 拡大だけでは、根本的な問題解決にはならない。従来とおりの水管理方法を用いると、調整 池水面の急激な低下は解消するものの、幹線水路内流況の把握が難しく、多大な労力と多く の無効放流が生じかねない。従って、施設容量の拡大とともに施設の操作をソフト面から支 援し、用水到達時間を加味した施設操作方法の策定が急務である。 本論文では、吉野川北岸用水の幹線水路システムを例として、不定流シミュレーション 手法を用いて、水需要変動に対応可能な施設操作方法について検討を行い、最適な施設の 操作方法を明らかにした。その結果について報告する。 2 数理モデルの概要及び操作対象施 設の検討 池田T 分水工名 B A 分水グループ1 吉野川北岸用水路は、池田取水工で 取水し、13 のチェック工、制水工、調 チェック工 昼間 * 開度=f(t) 分水工名 通して地区内へ農業用水を供給してい る。幹線水路をモデル化すると、図 2 チェック工 太刀野 * 開度=f(t) 幹線水路は曽江谷制水工を中心とし けるチェックゲートの操作は異なる。 上流水路区間では、白昼集中分水に対 応するため、幹線水路において夜間貯 分水工名 分水工名 分水グループ8 分水工名 チェック工 滝谷 * 開度=f(t) チェック工 曽江谷 * 開度=f(t) 分水グループ12 チェック工 遠光 * 開度=f(t) 分水工名 分水工名 分水グループ9 分水工名 チェック工 伊沢谷 * 開度=一定 チェック工 滝谷 * 開度=f(t) 分水グループ13 チェック工 市場 * 開度=一定 分水工名 分水工名 分水グループ4 分水グループ10 分水工名 て、上流水路区間と下流水路区間にお 分水グループ11 チェック工 伊勢 * 開度=一定 分水グループ3 に示すとおりになる。 分水工名 分水グループ7 チェック工 大谷川 * 開度=f(t) 分水グループ2 整池、パイプライン及び 83 の分水工を 分水工名 チェック工 大久保谷 * 開度=一定 分水グループ14 施設名 宮川内調整池 * 開度=一定 分水工名 分水グループ5 チェック工 荒川 * 開度=f(t) パイプライン区間 B 分水工名 分水グループ6 新設調整池 1(30,000m3) 新設調整池2 チェック工 野村谷 * 開度=f(t) 留白昼放流の操作を行っている。下流 (3,000m3) 流入工 A 余水 既設調整池(2,000m3) 水路区間におけるチェックゲートにつ 図2 いては水位一定操作を行う。従って、 1 モデル概要 曽江谷制水工上流水路区間における7つのチェックゲートが本システムの操作対象施設に なる。また、幹線水路のチェックゲート操作は、 宮川内調整池の水面変動を観察しながら行って 新設調整池 1(30,000m3) いることから、調整池を正確にモデル化するの 新設調整池2 (3,000m3) も重要である。調整池の水面変動は下記の式で 表せる。 H(t)=f(Qin,Qout) 流入工 Qin:不定流シミュレーションにより求める。 余水 既設調整池(2,000m3) なお、調整池の概要は図 3 に示すとおりであ 図 3 調整池の概念図 る。 3 水利用実態の把握及び算定条件の設定 幹線水路の流況及び主分水工の観測データから下記の水利用 実態が明らかである。 期別 期間 1 4/16∼4/30 2 5/1∼5/31 3 6/1∼6/10 4 6/11∼6/30 (1) 池田取水工 の取水量は 期別によっ て異なる。 主に4つの 期間に分けられる(表1参照)。 (2) 本地区では 早期米対策 として、渇 水期(4月 ∼5月)に は用水区域を2つのグループに分け、番水を行う。 (3) 渇水期の幹線水路の流況は期別・グループ別に異なる。 表 1 期別 実測データをもとに、期別・番水グループ別における各分 水工の分水パターンを推定する。 4 期別施設操作方法の検討 期別の池田取水工の取水量、推定分水パターン、宮川内調整池の水深などを幹線水路モ デルの境界条件とし、様々なチェックゲート操作パターンについて流況シミュレーション を行う。シミュレーション結果(チェックゲート部及び宮川内調整池流況)の一例を図 4 に示す。 チェックゲート部の流況 大谷川チェックの流況 大谷川チェックの流況 3.50 3.5 78.50 3.00 78.50 3 78.00 2.50 78.00 2.5 77.50 水位(m) 77.00 1.50 2 77.00 水位(m) 2.00 流量(m3/s) 流量(m3/s) 77.50 1.5 76.50 76.50 1.00 1 76.00 1:50 2:25 2:59 1:15 0:40 0:05 23:30 21:45 22:20 22:55 21:10 20:35 20:00 18:50 19:25 18:15 17:40 16:30 17:05 15:55 14:45 15:20 14:10 13:00 13:35 12:25 11:50 9:30 10:40 11:15 8:55 経過時間(hh:mm) 10:05 7:10 7:45 8:20 6:35 75.50 3:05 3:40 4:15 1:15 1:50 2:25 2:59 22:20 22:55 23:30 0:05 0:40 20:00 20:35 21:10 21:45 18:50 19:25 17:05 17:40 18:15 15:55 16:30 13:35 14:10 14:45 15:20 12:25 13:00 11:15 11:50 9:30 10:05 10:40 7:10 7:45 8:20 8:55 4:15 4:50 5:25 6:00 6:35 3:05 3:40 76.00 0 75.50 5:25 6:00 0.00 通過流量 水位 計画水位 最大水位 0.5 4:50 通過流量 水位 計画水位 最大水位 0.50 経過時間(hh:mm) 調整池流況 調整池の水深変化 調整池の水深変化 2.50 2.5 2.00 2 水深(m) 1.00 B.P.1(既設)水深(m) B.P.2(新設)水深(m) B.P.1(既設)流入壁高 B.P.2(新設)流入壁高 余水高 1.5 水深(m) B.P.1(既設)水深(m) B.P.2(新設)水深(m) B.P.1(既設)流入壁高 B.P.2(新設)流入壁高 余水高 1.50 1 0.5 0.50 0 3:05 3:35 4:05 4:35 5:05 5:35 6:05 6:35 7:05 7:35 8:05 8:35 9:05 9:35 10:05 10:35 11:05 11:35 12:05 12:35 13:05 13:35 14:05 14:35 15:05 15:35 16:05 16:35 17:05 17:35 18:05 18:35 19:05 19:35 20:05 20:35 21:05 21:35 22:05 22:35 23:05 23:35 0:05 0:35 1:05 1:35 2:05 2:35 3:05 3:35 4:05 4:35 5:05 5:35 6:05 6:35 7:05 7:35 8:05 8:35 9:05 9:35 10:05 10:35 11:05 11:35 12:05 12:35 13:05 13:35 14:05 14:35 15:05 15:35 16:05 16:35 17:05 17:35 18:05 18:35 19:05 19:35 20:05 20:35 21:05 21:35 22:05 22:35 23:05 23:35 0:05 0:35 1:05 1:35 2:05 2:35 0.00 経過時間(hh::mm) 経過時間(hh::mm) 流況検討: 1. 夜間チェックゲート間の貯水位が満水位に回復できない。 2. 宮川内調整池で余水が大量に発生している 図 4 第 1 期(渇水期)のシミュレーション結果一例 2 各操作パターンに対応する各チェックゲート部の流況及び調整池の水面変動を考察・評 価(図 5 参照)し、中から期別の水需要の変動に対応し、用水の安定供給が可能で、無効 放流量が最小になる操作方法を選出する。 期別 名 グループ A,B 施設の操作パターン 流況検討 同じ操作パターンの場合 1. .夜間チェックゲート間の貯水位が満水位に 回復できない。 2. 宮川内調整池で余水が大量に発生している。 × 1. 夜間チェックゲート間の貯水位が満水位に 完全回復できる。 2. 調整池で余水発生量が少ない。 ○ ゲート開度パターン 0.4 0.35 0.3 曽江谷 大谷川 野村谷 荒川 滝谷 太刀野 昼間 開度(cm) 0.25 異なる操作 1 0.2 0.15 0.1 0.05 0 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 経過時間(hh) 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 ン ー タ ゚ ハ ゲート開度パターン の場合 0.4 0.35 0.3 曽江谷 大谷川 野村谷 荒川 滝谷 太刀野 昼間 開度(cm) 0.25 0.2 0.15 0.1 0.05 0 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 図5 5 14 15 16 経過時間(hh) 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 代表的な操作方法についての合否判定 まとめ 農業水利状況が大きく変化する今日、用水地区の水需要変動に対応可能な施設操作方法 は用水管理上不可欠である。しかし、吉野川北岸用水路システムのような水路延長が長く、 施設の操作が複雑である場合、水路内流況の予測は困難である。用水需要の変動に対応す る施設操作方法の策定についての研究はあるものの、実用化したケースが少ない。 本論文では、不定流シミュレーションにより吉野川北岸用水路システムにおける用水需 要の変動に対応した施設(チェックゲート)の操作方法を明らかにしただけでなく、施設 操作方法の策定手法についても明らかにした。 (1) 用水管理データを基に現況流況及び操作施設について検討を行い、操作対象施設を 選出する。 (2) 幹線水路の諸元を基に数理モデル化を行う。 (3) 主分水工の分水実態を基に、期別の分水パターンを推定し、その結果に基づいて各 分水工の分水パターンを算定する。そして設定した計算条件を基に、様々なチェッ クゲート操作パターンについて流況シミュレーションを行う。 (4) シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 結 果 を 基 に 各 操 作 パ タ ー ン に 対 応 す る 各 チ ェ ッ ク ゲ ー ト 部 の 流 況及び調整池の水面変動を考察・評価(図 5 参照)し、中から期別の水需要の変動 に対応し、用水の安定供給が可能で、無効放流量が最小になる操作方法を選出する。 6 参考文献 1. 白石英彦・中道宏:農業水利計画のための数理モデルシミュレーション手法,1993年9月 2. 農業土木学会:農業土木ハンドブック 3. 農業工学研究所水工部:長大水路水管理制御システムの検討,平成13年3月 3