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患者の「体重」も副作用予防に役立てる
添付文書に聴く(9) のまま利用できません。そこで標準体重(身長 m ×身長 m 山村 重雄 城西国際大学薬学部教授 ます。SCr の値から推定したよりも、実際の腎機能は低く、 添付文書に記載されている情報を実際に応用する場合、 患者さんの検査値データをそのまま使うと思わぬ勘違いを することがあります。今回は患者さんの「体重」も考慮し て投与量の変更を判断する必要がある例をみていきます。 B さんは、SCr の値からやや腎機能が低下しているように 患者の「体重」も副作用予防に役立てる × 22=56.32kg)から Ccr を求めると約 60 m L/min となり 医薬品によっては投与量の変更が必要になります。 みえますが、スポーツ選手の筋肉量は一般の人よりも多いと 考えられます。従って通常でも、SCr の値は高い値となって いると考えられるので、正常と考えて問題なさそうです。 一番問題なのは高齢の C さんです。SCr から判断すると ●腎機能の低下で投与量を変更する医薬品 腎機能は正常のようですが、C さんのように小柄で体重の軽 腎臓から排泄される医薬品のうち、腎機能が低下した際に い人は元々筋肉量が少ないので腎機能が正常でも SCr は低 投与量を変更する必要のある医薬品の添付文書の記載例を表 くなります。CG 式で Ccr を求めると 44mL/min となり、表 1 に示しました。いずれも使用頻度の高い医薬品です。腎機 1に示した医薬品ではいずれも投与量の変更が必要になりま 能の評価には、血清クレアチニン値(SCr)がよく用いられ す。さらに、高齢でもあり、腎機能の低下による副作用発現 ます。クレアチニン(Cr)は筋肉の最終代謝産物で毎日一 の心配があります。 定量産生されて、すべてが腎臓から排泄されます。SCr の正 以上、添付文書に記載されている情報を実際の患者さんに 常域は男性で 0.8 〜 1.3mg/dL、女性で 0.5 〜 0.9mg/dL 程度 応用する場合、患者さんの検査値データをそのまま使うと思 です。腎機能が低下すると Cr の排泄が悪くなり、SCr は上 わぬ勘違いをしてしまうおそれがあることを示しました。今 昇します。腎機能を正確に評価するにはクレアチニンクリア 回は体重の値を示しましたが、患者さんが肥満か、かなり痩 ラ ン ス(Ccr) が 用 い ら れ ま す。Ccr の 値 は、 健 康 人 で せているかが分かるだけでも、同じような推論から腎機能を 100mL/min 程度であり、70mL/min 以下になると腎機能が 正しく評価することが可能になります。つまり、患者さんの やや低下したと判断できます。Ccr の値は Cockcroft-Gault 全体状況を確認することがとても大切です。 の式(CG 式)を用いて推定することもできます。 Ccr(mL/min)=[(140−年齢)×体重]÷(72×血清クレアチニン値mg/dL) 〔女性の場合は筋肉量が少ないのでこれに 0.85 を掛ける〕 ●腎機能の評価は体重も考慮して判断 では、表 2 に示した 3 人の患者さんのうち、腎機能が低下 していると考えられる患者さんは誰でしょうか。SCr だけか 表 1 腎機能が低下したときに投与量の変更が必要な医薬品の例 医薬品 X 薬(H₂ 受容 体拮抗薬) 添付文書上の記載例(抜粋) Ccr (mL/min) :Ccr>70:1回150mg 1日 2回 Ccr(mL/min) :30>Ccr:1回75mg 1日 1回 Y 薬(フィブラート Ccr:60mL/分≦Ccr:400mg/日(200mg×2) 系脂質異常症治療薬) Ccr:50mL/分<Ccr<60mL/分:200mg/日(200mg×1) 腎機能がやや低下しているように見えます。CG 式で求めた Z 薬(経口第3世代 Ccrが40mL/min及び腎不全患者では腎機能の低下に従 セフェム系抗菌薬) い延長し,Cmaxも高値を示し,AUCも増大する傾向を 示した。73∼78歳の高齢患者に食後単回経口投与したと き、Ccrの程度により,T1/2は延長する傾向を示した。 Ccr は、A さん:117 m L/min、B さん:85mL/min、C さん: 表 2 3人の患者さんのうち腎機能が低下しているのは誰? ら判断すると A さんと C さんの腎機能は正常で、B さんの 44mL/min となりました。SCr と Ccr、さらに体重を考慮し て3人の腎機能を評価してみましょう。 A さんはかなりの肥満で体脂肪が多そうです。肥満の人 は体重に比例して筋肉量があるわけではないので CG 式をそ 10 No.9 性別 年齢 身長 体重 SCr(mg/dL) A(肥満型) 男 48 歳 160㎝ 110㎏ 1.2 B(スポーツ選手で筋肉質) 男 32 歳 175㎝ 85㎏ 1.5 C(体重が軽い高齢者) 女 81 歳 148㎝ 38㎏ 0.6 No.9 11