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罰とステレオタイプ抑制の関連性の検討
日心第71回大会 (2007) 罰とステレオタイプ抑制の関連性の検討 ○小河妙子・野村理朗 (東海学院大学) Key words: ステレオタイプ,罰,SCR (skin conductance reflex) ステレオタイプ (stereotype) とは,特定の集団に属する成 するために,プライミング語彙判断課題を実施した.課題で 員に対する,性格特性や能力などに関する過度に一般化され は,プライム刺激として,意味プライム (男性/女性/文化) が た知識をさす. 呈示され,続いてターゲット刺激として属性 (ネガティブ/ポ ステレオタイプが対人認知に影響する過程は,活性と適用 ジティブ/統制) が呈示された.実験参加者は,ターゲット刺 の 2 段階に分けられる.適用段階では,ステレオタイプは想 激に対する語彙判断が求められた. 起されるまでに比較的時間を要し,その影響は意識的に統制 フェイズ 2 終了後,平等主義的性役割態度尺度スケール短 される.一方,活性段階では,ステレオタイプは対象に出会 縮版 (鈴木, 1994) およびデブリーフィングを実施した. ってから急速に想起されるために,維持されやすく意識的に 結果と考察 統制されない. 語彙判断課題の反応時間について,無関連条件 (文化プラ しかし近年,活性段階でステレオタイプが抑制される可能 イム) から男性プライム条件 (ポジティブあるいはネガティ 性が報告されている.野寺・唐沢 (2005) は,罰 (嫌悪音) が ブ) を減算し,反応促進量とした.図 1 は,ポジティブおよ 女性ステレオタイプ活性に対して抑制効果を持つことを明ら びネガティブ属性についての各条件の反応促進量を示す. 反応促進量を従属変数として,罰×平等主義の程度×属性 かにした.これは,罰によって不安感が生起し,それが女性 の 3 要因の分散分析を行った.その結果,平等主義の程度の とネガティブステレオタイプの連合に抑制効果を持ったと考 み有意傾向が認められた (F(2,32) = 3.24, p < .06).下位検定を えられている. 行った結果,罰なし条件のポジティブ属性に対する反応促進 本研究の目的は,野寺・唐沢 (2005) の研究をもとに,女 量が,平等主義低群 (-48 ms) よりも高群 (128 ms) で大きい 性の実験参加者に対して,罰 (嫌悪音) の適用が男性ステレ ことが確認された (p < .05). オタイプ活性を抑制するか否かを検討することにある.併せ SCR については,ターゲットが呈示された直後 3 秒間の反 て 自 律 神 経 系 の 指 標 で あ る 皮 膚 伝 導 度 反 応 (SCR : skin 応振幅の絶対値をもとに平均値を求め,分析に用いた.これ conductance reflex) により,実験参加者の感情状態について間 らの平均 SCR 値に対して,罰×属性の 2 要因分散分析を行っ 接的に計測した. た結果,属性の主効果のみが有意であった (F(2,72) = 4.58, p 方 法 < .05).下位検定を行った結果,ネガティブ条件の振幅が, 実験参加者 女子大学生 38 名 (平均 21 歳) が参加した.装置 ポジティブ条件のそれよりも大きいことが示された. ポリグラフシステム (MP100system,BAIOPAC 社製) を用い 本研究の結果,反応促進量と SCR のいずれにおいても,罰 た.参加者の人差し指と中指に電極を装着し,SCR を計測し による効果は観察されなかった.このことは,本研究が女性 た.刺激の呈示と行動指標の記録には,パーソナルコンピュ の実験参加者に対する男性ステレオタイプを扱っているため ータ (FMV-E8120,Fujitsu 製),および心理実験用ソフト Super に,男性の実験参加者に対する女性ステレオタイプの抑制と Lab 2.0 (Cedrus 社) を用いた. 刺激材料 嫌悪音:予備調査 は異なり,罰による抑制機能が十分に働かなかったからかも で嫌悪度が最も高い評定値を得た音 (1000 Hz) を用いた.ス しれない.ステレオタイプ反応の抑制が可能であるのは,平 テレオタイプ語:予備調査で得られたネガティブおよびポジ 等主義者に限られるという報告がある.ステレオタイプ活性 ティブなステレオタイプ語から,各 24 語を選択した. が罰によって抑制される程度が,平等主義の弱者と強者のい 実験計画 罰 (罰あり/罰なし)×平等主義 (高/中/低)×属性 ずれに属する成員であるかによって異なる可能性について, (ネガティブ属性/ポジティブ属性) の 3 要因計画であった. 手続き 実験は,罰 (嫌悪音) を与えるフェイズ1とプライ 今後の検討が必要とされる. ミングパラダイムを用いてステレオタイプ活性を測定するフ 引用文献 野寺綾・唐沢かおり (2005). 罰がステレオタイプ活性に対し ェイズ 2 の 2 フェイズで構成された.フェイズ 1 では,参加 てもつ抑制効果の検討 社会心理学研究, 20, 181-190. 鈴木 者は CRT 画面上に呈示される 2 単語の拍数を答える課題を行 淳 子 (1994). 平 等 主 義 的 性 役 割 態 度 ス ケ ー ル 短 縮 版 った.罰あり群には,男性ステレオタイプ連合を形成させる (SESRA-S) の作成 心理学研究, 65, 34-41. 謝辞 音刺激の作 ために,単語「男性」とネガティブな評価性を持つ男性ステ 成にご協力頂きました阿瀬見典昭氏 (産業総合研究所) に感 レオタイプ語 (e.g., 乱暴) を一緒に呈示した際に罰を与えた. 謝します.本研究は,平成 18 年度東海女子大学の可知葉瑠奈 罰なし群には, さんの卒業論文として実施された. 150 男性ステレオタ (OGAWA Taeko, NOMURA Michio) ネガ イプ連合ではな 反 ポジ 0.025 応 100 い連合を形成さ 反 罰なし 促 応 0.020 罰あり せるために, 「分 進 50 振 量 野」と無関連語 幅 0.015 0 (e.g., 曜 日 ) を m 0.010 s -50 呈示した際に罰 m を与えた. v 0.005 -100 フェイズ 2 で 高 中 低 高 中 低 0.000 は,ステレオタ 罰なし 罰あり ネガ ポジ 統制 イプ活性を測定 ( ( ) ) 図1 語彙判断課題における反応促進量 図2 条件ごとの SCR 振幅平均