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4. 諸外国における児童の扶養の取扱い

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4. 諸外国における児童の扶養の取扱い
らない。第二には、アメリカで EITC の不正(misconduct)受給が全体の 3 割に達するという
報告があるように52、申告納税制度の下では詐害行為や計算誤り等による還付が発生する恐
れがある。所得税が申告納税制度を採る以上、コンプライアンスの問題はあらゆる場面で
不可避であるが53、過少申告や適用誤り等に起因する不公平が非納税者に拡大する危険があ
る54。控除の要件や計算の複雑さは誤りを誘発するから、要件等は簡素なものが望ましいこ
とはここでも当てはまる。また、非納税者に対するエンフォースメントの確保に要する事
務量を考慮する必要がある。
これらの課題は、税制が非納税者への給付を行うことが控除の持つ運営コストのメリッ
トを大きく損なう危険を示しており、還付可能な税額控除の採用のためには、非納税者へ
効率良く給付を行う方法が求められる。例えば、(a)多くの給与所得者の所得税には年末調
整が適用され、(b)給付制度として児童手当の制度が存在するという現状55を前提として、
納税者は年末調整又は確定申告の際に通常の税額控除を行い、非納税者は児童手当の手続
きにより申請・受領できることとする方法も考えられる。この方法は、控除と手当の双方
の得失を考慮した上で納税者と非納税者という区分で役割を分担しようとするものである。
また、わが国で低所得者向けの非納税者への給付を伴う In-work credits が所得税に導入
された場合に、そこでの給付と併せて行うことも考えられよう。
4
諸外国における児童の扶養の取扱い
4.1 税額控除の増加
OECD 諸国では、所得税の児童に係る扶養控除を廃止し児童手当に一本化する傾向が 1970
52
General Accounting Office, FEDERAL TAXES Information on Payroll Taxes and Earned Income Tax Credit
Noncompliance, March 2001, pp.10-11.
53
田近=八塩・前掲注 40、106 頁は、給与所得者は年末調整を利用することができるが、納税者番号制度の導入等によ
る所得捕捉の向上が必要であるとする。
54
アメリカの EITC・CTC では、要件と計算過程の複雑さが適用誤り・適用漏れの一因と考えられる。See, The President’s
Advisory Panel on Federal Tax Reform, Simple, Fair, and Pro-Growth: Proposals to Fix America’s Tax System,
November 2005, pp.68-69.
55
所得税では、給与所得者の多くは確定申告を要せず、事業所得者・年金所得者・年末調整を受けない給与所得者等は
申告義務のある場合に確定申告を行う。そのため、税務署の直接把握する納税者数は限られる。児童手当については、
被用者(公務員を除く)・非被用者のいずれも居住する市区町村へ認定請求書や現況届を提出して給付を受ける。(図表3)
【図表3:所得税と児童手当の手続きの流れ】
市区町村
児童手当担当
課税情報の照会
住民税担当
申
告
情
報
給与支払報告書
の提出
児童手当の届出
現況届の提出
年末調整
年事
金業
所所
得得
者者
等・
給
与
所
得
者
事業主
税
務
署
確定申告(申告義務ありの場合)
確定申告(申告義務ありの場合)
【出典】筆者作成
12
年代を中心に北欧・西欧諸国等で見られたが56、旧西ドイツで 1983 年に扶養控除(所得控除)
が復活したほか、イギリスやオランダが 2001 年に児童税額控除を導入するなど、税制上の
控除を採用する動きもある。OECD 加盟国においては、2002 年時点で加盟 30 カ国中 19 カ国
で子の扶養に係る所得税の控除の採用が確認され、税制の控除と手当の両方を用いる国も
なお多い(図表4)。
【図表4】OECD 諸国における児童の扶養の税制上の取扱い(1974 年・2002 年)
(未定稿)
国名
1974年
2002年
備考
オーストラリア
所得控除
なし
○
手当(Family Tax Benefit)は税額との相殺可能
オーストリア
税額控除
なし
○
1978年以降控除なし。税務当局が手当を給付
ベルギー
税額控除
税額控除
○
カナダ
所得控除
なし
○
デンマーク
なし
なし
○
手当(注)
税務当局が手当(Canadian Child Tax Benefit)を給付
フィンランド
なし
なし
○
フランス
家族除数
家族除数
○
ドイツ
所得控除
所得控除
○
手当(Kindergeld)は税額控除として控除可能
ギリシャ
所得控除
税額控除
×
1984年税額控除へ変更
アイスランド
(不明)
なし
○
アイルランド
所得控除
税額控除
○
イタリア
税額控除
税額控除
○
日本
所得控除
所得控除
○
ルクセンブルグ
(不明)
税額控除
○
1999年税額控除へ変更
オランダ
所得控除
税額控除
○
1978年所得控除を廃止、2001年税額控除を導入
ニュージーランド
(不明)
税額控除
○
1977~2000年は税額控除あり
ノルウェー
(不明)
なし
○
ポルトガル
所得控除
税額控除
○
1999年税額控除へ変更(免税点方式)
スペイン
所得控除
所得控除
○
1979年税額控除へ、1999年所得控除へ変更
スウェーデン
所得控除
なし
○
1985年以降控除なし
スイス
所得控除
所得控除
×
トルコ
(不明)
なし
×
イギリス
所得控除
税額控除
○
1979年所得控除を廃止、2001年税額控除を導入
アメリカ
所得控除
所得控除・税額控除
×
1997年税額控除を導入
メキシコ
なし
×
チェコ
所得控除
○
税額控除
○
ポーランド
なし
○
韓国
所得控除
×
スロバキア
所得控除
○
ハンガリー
(不明)
(注) 「手当」欄は、名称にかかわらず児童に関連する手当の有無を表記している。
【出典】:以下の資料などを元に筆者作成。
OECD, The Treatment of Family Units in OECD Member Countries under Tax and Transfer Systems , 1977
OECD, Personal Income Tax Systems under Changing Economic Conditions , 1986
OECD, Taxation in OECD Countries , 1993
OECD, Taxing Working Families: A Distributive Analysis , December 2005.
56
例えば、スウェーデン(1948 年)、デンマーク(1960 年)、ノルウェー(1960 年)、旧西ドイツ(1975 年)、オーストラリ
ア(1976 年)、オランダ(1976 年)、イギリス(1977 年)、オーストリア(1978 年)、カナダ(1993 年)。
13
控除の形式に関しては、かつては所得控除を採用する国が多く、1974 年時点では加盟 24
カ国中少なくとも 15 カ国が所得控除を、3 カ国が税額控除を採っていたことが確認できる。
近年では税額控除を採用する国が増加する傾向にあり、2002 年時点で上記 19 カ国中 9 カ国
に上る(所得控除は 8 カ国。両方を採用する米国を含む)。この税額控除化の傾向は、子供
の控除だけではなく本人・配偶者などの他の人的控除にも見られ、例えばオランダやカナ
ダが基礎控除を税額控除とした例がある。人的控除の税額控除化の根拠は、各国の経済社
会状況や歴史的経緯などを反映したものであり多様であるが、おおむね (a)所得控除の持
つ逆進性を回避し垂直的公平性を確保することと(b)児童の扶養等に着目した支援を目的
とすることに集約できるものと思われる。
4.2 税務当局を通じた給付
所得税による子育て支援の例としては、アメリカ・オランダの児童税額控除のように所
得税の控除として計算されるもののほか、所得税の計算とは独立した給付制度であるが税
務当局が完全にないし部分的に支給に関与するものがある。例えば、税制として行われる
制度はイギリスとカナダに、税額との相殺に限って税制と関わる給付とする制度はオース
トラリアとドイツに認められる (図表5。6 カ国の制度の概要等は別紙を参照)。
【図表5】税制を通じた児童関連給付の例
国名
名称
内容
アメリカ
Child Tax Credit
所得税からの税額控除。引き切れない場合は、一部還
付可能。
オランダ
Child Tax Credit
所得税及び社会保険料(同時に課される)からの税額控
除。
イギリス
Child Tax Credit
通常の所得税の計算とは分離した税務当局からの給
付。
カナダ
Child Tax Benefit
通常の所得税の計算とは分離した税務当局からの給
付。申告時に申請する。
オーストラリア
Family Tax Benefit
選択により所得税額との相殺が可能な給付
ドイツ
Kindergeld
(child benefit)
所得税額との相殺が可能な給付
所管官庁
税務当局
所得税との相殺に
限り税務当局
【出典】筆者作成
給付事務を税務当局が取り扱う利点は、税務当局が課税の目的で納税者の存在と所得を
把握していること、納税者(受給者)から見れば手続きを同じ機関で行うことができ、納税
と受給という二度手間を避けることができることである。オーストラリアとドイツの手当
について税額との相殺に限って税務当局が関与するのは、このメリットを認識し、納税者
と行政の事務負担を抑えようとするものと評価できる。また、カナダのように申告を受給
の要件とすることは、受給率の上昇に繋がる効果が期待される。さらに、イギリスでは、
Child Tax Credit のほか、Child Benefit の給付事務についても税務当局が執行するもの
とされたが、これは両者で非納税者を中心に受給者が重複することを踏まえ、納税者の便
宜と行政の効率化を図ったものと言えよう。
税制の控除のうち、とりわけ税額控除のメリットを積極的に評価したものとしては、勤
労奨励策である Working Tax Credit(WTC)と子を持つ世帯への財政的支援である CTC の 2 つ
14
の控除を 2003 年に導入したイギリスの例がある57。そこでは、税制と社会保障制度が別々
の制度として運営され、
「納税者」と「受給者」という異なるラベリングをするように完全
に分離しているという認識から、両者を一体的な制度とすることが企図された。そこでは、
税額控除を(a)同額の支援を与え、還付可能とすることで非納税者への給付が可能であり、
(b)現金等価であるため政府との財制的関係を明確にすることから、税と社会保障給付を統
合する手段として有効であると評価したという。その際、所得税制を活用するメリット-
スティグマや申請の手間の除去など-をできるだけ活用しつつ、そのデメリット-例えば、
個人単位の査定による世帯間の不公平-を最小化する制度としたという。
なお、これらの国々では、控除・給付額が所得の増加に従い消失するものが多い。低所
得者の控除・給付額を手厚くすることは、支援の必要の最も高い世帯に集中する役割を果
たすが、この場合、世帯間(特に片稼ぎと共稼ぎとの間)の公平の観点からは、個人ではな
く夫婦ないし世帯の所得により控除・給付額を求めることになる。
5
総括
最後に、4までにおけるサーベイを踏まえ、子育てを支援する方法としての児童税額控
除の採否の判断に際しての課題を総括する。
(1) 現行の扶養控除は税負担能力の観点から家族構成を反映するものとして位置付けられ、
児童の扶養も担税力の減殺として認識してきたが、これに対して、児童の扶養を財政的支
援の対象と捉える考え方が現われてきた。扶養を担税力の観点から認識すべきかという問
題と財政的支援の必要性は本来別次元の議論であり、現行の扶養控除に加えて児童税額控
除を設けるのが論理的であるという指摘がある一方で58、「あるべき税制の構築に向けた基
本方針」が示した案のように、個人単位を徹底して扶養控除等を廃し、子育てに対する財
政的支援として別途税額控除を設けるという整理も可能であろう(あるいは、簡素の見地か
ら二本立てとしないものとも捉えられるかもしれない)。いずれにしても、児童税額控除の
検討に当たっては、児童を含む家族の所得税における取扱いという見地から、従来担税力
の観点で捉えられた従来の基礎的人的控除のあり方についても税制改正のパッケージとし
て併せて整理されることが望ましい。
(2) 児童税額控除の導入に関しては、対象となる世帯、控除・給付の水準等を考慮した上
で、それが必要なベネフィットを提供する方法として効率的なものであるかを精査する必
要があろう59。機能の類似した直接給付である児童手当との比較では、非納税者に対する影
響、財源構成及び執行コストの相違が強調される。税制上の控除の長所は税務手続きと併
せて行うため、執行コストが小さく適用漏れが少なくなるという利点がある一方で、非納
HM Treasury, “Tax Credits: reforming financial support for families, The Modernisation of Britain’s Tax and
Benefit System Number Eleven”, March 2005.
58
田中康男「所得控除の今日的意義-人的控除のあり方を中心として-」税大論叢第 48 号(2005 年 6 月)95-96 頁。
59
子育てに対する財政的支援を行うに当たっては、子を持つことによる家計の経済的負担の程度が考慮される一方、財
政状況や財源の確保の目処等の制約を受ける。本稿は財政的支援の「手段」の検討に留まるが、支援の対象や規模によ
り選択される方法が異なることがあり得る。
57
15
税者に支援が及ばないこと、明確かつ画一的な基準が求められることなどのデメリットが
ある。わが国においては、所得税の確定申告が一般化していない現状を踏まえると、税務
手続きと併せて適用できるという控除の利点は年末調整の制度に乗せたものとしなければ
活かされないだろう。また、税制の控除と児童手当の財源の相違にも留意する必要がある。
現行の扶養控除と児童手当の関係については、前者が税負担能力の観点から設けられた
という整理からは、後者の持つ所得保障等の趣旨とは異なるものと整理される。しかし、
いずれの制度も他方の存在を考慮して設計されていない。最近では「負担の公平」を重視
する税制単独の問題設定だけでなく、「分配の公平」を重視して政府の他の活動や市場取引
との相互作用の検討の必要性も指摘されており60、家族関連の分野においてもこのような視
点は重要である。
(3) 還付可能な児童税額控除は、非納税者に対する効果がないという所得税の控除の欠点
を克服することができ、税制による支援をより広範に行う手段として期待される。しかし、
税務当局が非納税者への適正な給付を行うための追加的な執行コストが増加し、所得税の
控除のメリットを減殺する危険がある。したがって、給付に伴う執行コストを抑える仕組
みが構築できるかがポイントとなる。わが国では、非納税者に申告義務が無く、また、給
与所得者の多くに年末調整が適用される現状では、非納税者への給付に税務当局を関与さ
せることは現行の執行体制の大きな変更を伴うものとなる可能性が高い。さらに、申告納
税制度の下で不適切な給付を防止する体制を取ることができるかも課題でなる。
(4) OECD 諸国においては、かつては児童の扶養控除を廃止し手当に一本化する傾向があっ
たが、近年では税制の控除が持つメリットを見出して税制が税務当局に給付に関与させる
例が見られる。それらは大別すると、非納税者への給付を含めて税務当局に執行させるも
の(これは還付可能な税額控除となる)と、納税者に税額控除を認めることに限って税務当
局が部分的に関与するものがある。これら諸外国の経験は、児童の扶養に対する適切な財
政的支援を効率的に行うために税制を活用しうる可能性を示唆するとともに、所得税制あ
..............
るいは税務当局がどこまでのことが可能であるかの認識が必要であることを示していると
思われる。租税支出には公平性の観点などから根強い批判があり、それが税法を含む法令
の他の規定や執行体制を錯乱する危険も大きいが、直接給付より有効な補助の方法となる
ケースも場合によってはあるのかもしれない。
(5) 法的観点では、わが国所得税が扶養の事実を所得控除として認識することは憲法(特に
25 条)の趣旨を反映したものと解されているが、判例が租税法や社会保障法の措定につき広
範な立法裁量を認めており61、税額控除の方式のみならず、所得税の控除を廃し直接給付へ
一本化することや両者の併用などによることも、憲法上の問題を直ちに生じさせるもので
60
増井良啓「税制の公平から分配の公平へ」江頭憲治郎・碓井光明編『法の再構築[I]国家と社会』(東京大学出版会、
2007 年 3 月)78 頁。
61
前掲注 45(大嶋訴訟)は、「租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての
正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を
尊重せざるを得ない・・・」とする。また、生活保護法における保護基準については、最判昭和 42 年 5 月 24 日民集
21-5-1043(朝日訴訟)を参照。
16
はないと考えられる。そのことを前提として、人的控除と児童手当の制度及び執行のあり
方は、両者がともに家族を認識することを求められている限り、分配の公平と効率的な支
援を実現するために一体として議論することが必要であろう。
そして、これらを検討する過程で、子育て支援というわが国の重要な政策課題において
所得税制及びそれを執行する税務当局が何らかの役割を本当に果たしうるのか、併せて、
所得税にとって重要な要素と考えられた家族配慮の在り方はどうあるべきかが明らかにな
ることが望まれる。
参考文献・資料
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19
別紙
1
諸外国の所得税制における児童税額控除等の事例
アメリカ
従来から所得控除である人的控除(personal exemption)が納税者及びその扶養親族に認
められているが、「個人所得税の構造が、家族規模の増大による家族の担税力の減少を適切
に反映するのに十分なほど税負担を減少させていない」
「扶養子女を持つ家族への税額控除
は・・・扶養子女を養育する財政的責任をより認識し、家族の価値を高める」62という趣旨
で、1997 年に児童税額控除(Child Tax Credit)が導入された。
児童税額控除は 17 歳未満の児童を対象として児童 1 人当たり 1,000 ドルが控除される。
人的控除と同時に適用可能であるが、所得が一定額を超えると控除額が消失する控除とさ
れる(この所得は夫婦の場合は合算所得であり、夫婦個別申告では控除の適用を認められな
い)。また、EITC と同様に一定額以上の勤労所得を得ていることを控除の要件としている。
児童税額控除は本来税額を超える還付は認められないのであるが、(a)勤労所得を年間一
定額以上有する場合63と(b)適格な児童を3人以上扶養する場合には、税額を超える還付が
認められることがあり(この部分を“Additional Child Tax Credit”という)、通常の所得税
の還付と同様の方法で内国歳入庁(Internal Revenue Service)から支払われる。
なお、アメリカには児童手当に相当する制度は存在しない。
※参考
2005 年 11 月に公表された「税制改革に関する大統領諮問委員会報告書」では、
「税制簡素化案」と「成
長・投資案」の 2 種類の税制改革案が勧告された。個人所得税に関しては、いずれの案においても、人
的 控 除 (personal exemption) 、 概 算 控 除
【図表6】諮問委員会報告書の統合案
家族関連の税制上の措置
(standard deduction)、児童税額控除(child
Standard Deduntion(概算控除)
tax credit) 、 勤 労 所 得 税 額 控 除 (earned
Personal Exemption(人的控除)
income tax credit)等の家族に関連する諸控
除を「家族控除(Family Credit)」及び「勤労
Head of Household Filing Status and Tax Bracket
(独身世帯主申告ステータス及び税率表)
控除(Work Credit)」の2つの税額控除に統合
Child Tax Credit(児童税額控除)
Family Credit
(家族控除)
するという 内 容が盛 り込 ま れてい る( 図表
勤労関連の税制上の措置
6)64。
EITC(勤労所得税額控除)
提案された家族控除は、定額の税額控除 65
Refundable Child Tax Credit
(還付可能な児童税額控除)
(基礎部分 3,300 ドル(夫婦の場合)、子供 1 人
Work Credit
(勤労控除)
当たり 1,500 ドル加算、他の扶養者 1 人当た
【出典】諮問委員会報告書を元に筆者作成 62
Report of the Committee on Ways and Means, House of Representatives, U.S. Congress, March 21st, 1995.
導入当初は子女が 3 人以上の場合のみ還付可能であったが、The Economic Growth and Tax Relief Reconciliation Act
of 2001 により、子女が 2 人以下の場合にも一部還付可能となった。
64
The President’s Advisory Panel on Federal Tax Reform, Simple, Fair, and Pro-Growth: Proposals to Fix America’s
Tax System, November 2005, pp.63-67.
65
現行の児童税額控除は、勤労所得による逓増部分があることから、EITC と同様の In-work benefits としての要素が
ある。
63
20
り 500 ドル加算)とされ、税額を超えた還付はないとされる66。
報告書の問題意識は、家族に関連する所得税の控除などの規定が多岐に亘る(EITC も子どもの数によ
り控除額が異なる)のみならず、適格な子供の定義や適用要件、計算方法が区々となっており複雑である、
それにより適用誤り・計算誤謬が誘発される危険があり、その結果として所得税の公平と簡素が損なわ
れる、というものである。これは、報告書全体を貫徹する税制の簡素化の方向性-複雑な税法規定は不
公平感の原因となるほか租税回避の機会を作り出す原因となるため-に沿っている。現在所得控除であ
る人的控除67や概算控除も含めて税額控除へ統合するという本報告書の内容は注目すべきものであるが、
法制化の可能性は現時点では具体化されておらず不透明な情勢である。
なお、報告書においては、
「家族控除は、現行制度と同様に低所得者から所得税負担を免除する」68も
のであるとして、人的控除が持つ基本的な役割が維持されることを明確にしている。
2
オランダ
児童の扶養に対する所得控除が 1978 年以降廃止されていた(別途、児童手当あり)が、2001
年に所得税が二元的所得税に類似した”Box system”を導入した際に、基礎控除・勤労控除等
を所得控除から税額控除へ変更し、児童税額控除・老年者税額控除等を導入した。人的控
除を税額控除とする意義は、課税ベースの拡大と税率のフラット化により生ずる垂直的不
公平の緩和であったとされる69。
児童税額控除は 18 歳未満の児童を対象とし、その金額(2004 年度)は基本部分が 110 ユー
ロであり、夫婦の所得 59,612 ユーロ以下の場合にのみ適用可能である。さらに、夫婦の所
得が 28,097 ユーロ以下である場合には、547 ユーロの追加控除が認められる70。
各種の税額控除は、Box1 所得(勤労所得等)、Box2 所得(大口株主の配当所得)、Box3 所得
(貯蓄・投資所得(みなし収益))にそれぞれ異なる税率(Box1 所得は累進税率、他は単一税率)
を適用して求めた税額の合計額から控除され、Box1 所得に対して所得税と併せて課される
社会保険料からも控除される(所得税・社会保険料の合計額が限度となる)。
このほか、直接給付として児童手当の制度があり、子供を持つ世帯に対して支給される。
3
イギリス
1979 年に所得税の扶養控除(所得控除)が廃止され児童手当(Child Benefit)に統合されて
いたが、2001 年に(旧)児童税額控除(Children’s Tax Credit)を導入した。旧 CTC は税額を
超える還付のない税額控除であったが、2003 年に現行の児童税額控除(Child Tax Credit)
66
現行の EITC 及び CTC は一定の勤労所得の稼得を要件として税額を超えた部分の一部の還付を認め、勤労インセンティ
ブを与える仕組みであるが、この機能は勤労控除に集約するという。
67
Adam Carasso and C. Eugene Steuerle, “Personal Exemption Not What It Used to Be”, TAX NOTES, April 28, 2003
は、personal exemption の所得に対する割合の低下や、後発である EITC 及び CTC の方が子を持つ家族にとって相対的
に価値が高くなったことから、personal exemption の相対的重要性が低下した、とする。
68
The President’s Advisory Panel, supra note 64, p.66.
69
篠原正博「資本所得と資産保有課税-租税思想史からのアプローチ」証券税制研究会編『二元的所得税の論点と課題』
(日本証券経済研究所、2004 年 6 月)97 頁。
70
夫婦の所得が 28,097~29,807 ユーロの場合には、363 ユーロの追加の控除が認められる。
21
に改組され還付可能な税額控除とされた71。Child Tax Credit は、「親であることに伴う責
任を認識し、子女を扶養する家族をサポートすること」「低所得世帯など最困窮者へ最大の
援助の提供により、子供の貧困に対処すること」72等 を目的とし、原則として 16 歳未満の
子女等を扶養する納税者に適用される。
児童税額控除の金額(2005-06 年度)は、原則として、基本となる”family element” 545 ポ
ンド(1 歳以下の児童がいる場合には 545 ポンドを追加)と子供 1 人当たり 1,690 ポンド
...
の”child element”の合計額となる。両親の所得が一定額以上の場合に控除額が消失する、
低所得者向けのプログラムである(児童手当は所得にかかわらず定額の給付である)。
児童税額控除は通常の所得税とは別に計算され(フォームも別である)、納税者の選択に
より毎週又は4週ごとの銀行口座への振込み等により支給されることから、事実上は税務
当局である歳入関税庁(HM Revenue & Customs)からの給付である。
なお、児童税額控除の導入以降、旧内国歳入庁(Inland Revenue)が児童手当と児童税額
控除の両方の執行を担当することとなった。この体制とした当初は給付が遅れるなど若干
の混乱が見られたようである73。
4
カナダ
所得控除である児童控除に加えて、1979 年に還付可能な児童税額控除が導入されていた
が、1988 年に人的控除を含む多くの控除が所得控除から税額控除に変更され、児童控除は
児童税額控除となった。この変更の理由は、所得控除の逆進的効果に対する批判が強かっ
たためであるという74。その後、1993 年に児童税額控除、還付可能な児童税額控除及び家族
手当(Family Allowance)は、児童手当(Child Tax Benefit)に統合された。
現行の Canada Child Tax Benefit は 18 歳未満の児童を対象としており、basic benefit
と低所得者向けの National Child Benefit Supplement(NCBS)から成る。前者の金額は原則
として児童 1 人当たり年額 1,255 ドル(カナダドル。金額は 2006-07 年度支給分。以下同
じ)であるが、世帯所得が 36,378 ドルを越えると金額が逓減する。NCBS は、1 人目は年額
1,945 ドル・2 人目は同 1,720 ドル・3 人目以降は同 1,637 ドルであるが、世帯所得が 20,435
ドルを超えると支給額が逓減する。
CCTB の申請は、所得税の申告書にこの手当に係るフォームを添付して行うこととされて
いる。この方法により、単独の給付プログラムにおける申請の煩わしさや受給のスティグ
マが低くなり、受給率が高まるという75。給付は歳入庁(Canada Revenue Agency)の所掌事
務とされ、毎月 20 日頃に振込(又は小切手)により直接支給される。
71
森信・前掲 47、295 頁以降に詳しい。
HM Treasury, The Child and Working Tax Credits, The Modernisation of Britain’s Tax and Benefit System Number
Ten, April 2002, p.3
73
従来と異なる所得・家族等の認定事務等への不慣れ、制度変更に伴う新システムの不具合等が生じ、2003 年には給付
が大幅に遅れる事態が続出したという(厚生労働省『2003~2004 年 海外情勢報告』(2004 年 9 月))。
74
水野忠恒『租税法〔第 3 版〕』(有斐閣、2007 年 4 月)269 頁。
75
Christa Freiler, Felicite Stairs and Brigitte Kitchen with Judy Cerny, “Mothers as Earners, Mothers as Carers:
Responsibility for Children, Social Policy and the Tax System”, Status of Women Canada, March 2001, p.59.
72
22
5
オーストラリア
1976 年以降、児童に係る扶養控除は廃止され、家族手当(Family Allowance)に統合され
ていた。普遍的な税制上の措置が復活するのは、1996 年以降の Family Tax Payment である。
これは、子どもがいる場合に免税所得(tax-free threshold)を増加させるものである(非納
税者には手当が支給された)。さらに、2000 年に Family Tax Payment は Family Allowance
等の各種手当と統合され、現行の家族手当(Family Tax Benefit)に衣替えされた。
FTB は所得制限等の異なる Part A と Part B から成る。Part A は 21 歳未満の児童(フル
タイム学生の場合 25 歳未満)の扶養を要件とした給付であり、児童の年齢及び人数に応じ
た所得制限がある(例えば 17 歳未満の児童 2 人を扶養する場合には世帯所得 114,769 豪ド
ル未満)。Part B は最年少の子が 16 歳未満であること(最年少の子がフルタイム学生の場合
は 18 歳になる年)を要件とした主に片稼ぎ世帯を対象とする給付であり、所得の低いパー
トナーの所得が多いほど給付額が逓減する。
FTB の適用を受けるに当たっては、納税者は家族援助局(Family Assistance Office)76へ
受給を申請するか、国税庁(Australian Taxation Office)へ申請して所得税額と相殺する
かを選択することができる。前者の場合は2週間ごと又は年1回の一時払いにより支払わ
れ、後者の場合は ATO から送付される課税通知において FTB が税額から控除される。
6 ドイツ(旧西ドイツ)
1977 年に所得税の扶養控除(所得控除)を廃止して児童手当(kindergeld)に一本化してい
たが、1983 年に児童扶養控除(Kinderfreibetrag)を復活させ児童手当との二本立ての制度
に改正した。さらに、1995 年改正により、児童扶養控除と児童手当のいずれか有利な方を
選択する制度へ改正した。通常、児童扶養控除による所得税額の軽減が児童手当より大き
い納税者(すなわち相対的に所得の高い納税者)は確定申告の際に児童扶養控除を適用する
が、児童手当の水準が高いために児童扶養控除を選択する者は全体の 10%以下であるとい
う77。対象となる児童は 18 歳未満(フルタイムの学生等の場合は 27 歳未満78)である。児童
手当の支給金額は第 1 子から第 3 子までは 1 人当たり月額 154 ユーロ、第 4 子以降は 1 人
当たり月額 179 ユーロであり、受給に関して所得制限はない。他方、児童扶養控除の金額
は夫婦合算申告の場合 1 人当たり 3,648 ユーロである。
また、1995 年改正では、児童手当は原則として雇用主を通じて給与に対する源泉徴収税
額から税額控除される方法で行うこととされた。非納税者に対しては児童手当を所掌する
連邦雇用庁家族金庫(Familienkasse)の地方事務所から支給される。
76
家族・コミュニティサービス・先住民省(Department of Families, Community Services and Indigenous Affairs)
に属する組織であるが、国税庁(Australian Taxation Office)・社会福祉事務所(Centrelink Customer Service Centre)・
メディケア(Medicare Australia)に窓口を設け、家族関連給付の手続きをワンストップで行うサービスを提供している。
77
内閣府経済社会総合研究所「フランスとドイツの家庭生活調査」(2006 年 4 月)82 頁。
78
2007 年度から段階的に 25 歳未満に引き下げられる予定である。
23
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