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航空レーザー測量を活用した深層崩壊 の前兆現象の抽出手法の開発
航空レーザー測量を活用した深層崩壊 の前兆現象の抽出手法の開発 -平成23年9月19日に高知県安芸郡北川村で発生した 深層崩壊発生斜面の地形的特徴- 高知大学 笹原克夫 2015年10月5日 1 研究の動機 ・航空レーザー計測データの有効利用が必要 国交省、林野庁が精力的に計測を行っている。 ・航空レーザーデータは地形を詳細に計測できる。 ・概査段階として「地形を見たうえでの危険斜面の 抽出」 がまず必要と考える。 2 1. 災害の概要 平成23年7月19日に台風6号により,高知県安芸郡北川村にお いて,大規模崩壊が3箇所,表層崩壊が1箇所,狭い範囲で群 発した. 対象地域の位置 台風6号は19日には四国沖で東に向きを 変え,20日午前0時30分に徳島県南部に 上陸し,その後10時頃潮岬を通過した. このため17日から20日にかけて高知県 東部には大雨が降った. 3 台風6号による高知県東部の降雨状況 時間雨量(mm/h) 80 20mm/h以 上の降雨が 24時間以上 継続した. 60 40 20 7/20 1:00~ 7/19 19:00~ 7/19 13:00~ 7/19 7:00~ 7/19 1:00~ 7/18 19:00~ 7/18 13:00~ 7/18 7:00~ 7/18 1:00~ 7/17 19:00~ 0 日時 今回の対象地域は最も降雨量の 多かった地域に位置する. 時間雨量は年超過確率1/2程度で あるが,最大24時間雨量は年超 過確率1/200を越す. 高知県和田観測所 連続雨量:1015mm(17日19:00~20日 3:00 ) 日 最大24時間雨量:755mm(18日20:00~19 4 地形の概要 小島 平鍋 奈半利川が北東~南 西に流れ,標高600~ 1,000mの主稜線がそ れに平行に位置する. 奈半利川の支流 および主稜線から派 生した尾根は北西~ 南東方向の向きを持 つ. 和田 崩壊分布図 地質の概要 新生代第三紀に形成された四万十層群室戸半島層群の奈半利川層. 砂岩・泥岩の互層が分布し,北東~南西方向に走る断層が地層を多数に区切り, 5 区切られた地層内で褶曲が発達する. 2. 過去の深層崩壊跡地の判読 (1) 使用した地形データ 四国山地砂防事務所が平成21年に取得した航空レーザーデータを1mメッシュで表 現したELSA MAP(国際航業㈱)。標高と傾斜を同時に表せる。 (2) 深層崩壊跡地の抽出 1) 遷急線と遷緩線で挟まれ,下 部に向かって凹型の形状を し た滑落崖を抽出。そのうち 傾斜 がおおむね60度以上を崩壊 跡 地,60度以下を地すべりと する。 2) 上記のうち,現地調査や空中 写 真,Google earth等により土 砂が 流出した部分,植生状況が 明ら かに周囲と異なるもの,な どを深 6 3.深層崩壊発生斜面周辺の地形的特 徴 3.1 平鍋東渓流 崩壊跡を西方から見る。この部分だ け植生が広葉樹で異なっている。 平鍋東渓流における深層崩壊跡地,地すべ りと山頂緩斜面の分布 7 平鍋東渓流における深層崩壊,地すべり発生斜面の地形的特徴 深層崩壊の跡 地 山頂緩斜面 100m ・広大な山頂緩斜面の辺縁部で大規模な崩壊、地すべりの 発生 ・山頂緩斜面内に段差地形が確認される 8 3.2 平鍋 平鍋渓流の崩壊跡地、地すべりと山頂緩斜面の分 布 9 崩壊① 200m 国土交通省四国地方整備局所有 の愛ランド号より筆者撮影 地形図 ・地形図,斜め写真では特別な地 形情報は得られない. ・航空レーザー測量図を見ると, 地形図には表現されない微地形 情報が得られる. (崩壊前の地形 ) 国土交通省四国山地砂防事務所による1mメッシュの計測結 果をELSA MAP(㈱国際航業)で表現 10 崩壊発生前の微地形を見ると・・・ 緩斜面 崖錐 今回の崩壊斜面の上 方の稜線上には,山 頂緩斜面が存在し, その東方は崩壊跡地 の頭部と考えられる 遷急線が発達してい る。また斜面中部に も崩壊跡地が確認さ れる。 ポイント ・斜面中腹の緩斜面 ・緩斜面直下は急崖 ・その下部に崖錐の存 在 11 崩壊①,②, ③ ・山腹斜面内の尾根状地形の中腹に小規模な緩斜面 ・緩斜面直下の急斜面に大規模な崩壊(跡) 12 地すべり①, ② ・稜線上に山頂緩斜面の存在 ・山頂緩斜面の直下に地すべり が 存在 ただし地すべり②は斜面下方にももう 一つ地すべりが存在し、それは平成23年 秋頃より移動を開始し,平成26年8月の 台風により崩壊した。 13 3.3 小島 小島における地すべりと深層崩壊跡地およ び山頂緩斜面の分布 14 (a) 平成23年7月に発生した深層崩壊周辺 表層崩壊多発 今回の崩壊 崩壊は稜線付近の緩斜面下部 の薄い崖錐層で発生した。 (崩壊発生後計測 ) 15 主稜線付近の段差地形と線状凹地 奈半利川の方向 主稜線上の線状凹地 地点Aの平坦地(奥行き20m程度 16 (b) 小島渓流中流部 ・稜線上に広い山頂緩斜面 ・山頂緩斜面辺縁部に古い地すべり地形 ・その下部で大規模な崩壊や地すべりが発生 17 地形図での表現は・ ・・ 小島 平鍋 和田 以上検討してきたよう な山頂緩斜面等は地形 図では表現されにくい 。航空レーザー計測に よる1mDEMで初めて表 現される。 崩壊分布図 18 4. まと め 本地域における深層崩壊発生斜面の特徴は以下の通りである 。 ・稜線付近の山頂緩斜面の中に段差地形が多い箇所の辺縁部や , その下方の斜面が崩壊する場合(平鍋東渓流,平鍋左岸側の 地 すべり,小島)。山頂緩斜面辺縁部には地すべり地形や表層 崩壊 跡とみられる遷急線が存在する場合も多く,これも微地形レ ベルで の特徴である。 ・山腹斜面中腹の尾根状斜面の中に小規模な緩斜面があり,そ れ 19 が横方向に連続していると,その下部の急斜面が崩壊する場 最後に・・・ 既存の大規模な崩壊に対する危険度評価手法として,平成26年3月 に林野庁が以下のマニュアルを策定している。 ① 大規模崩壊リスク評価マップ作成マニュアル:県域レベルの危険度 評価 手法 ② 大規模崩壊潜在斜面危険度判定マニュアル:単位斜面毎の危険度判 定 手法 今後斜面単位での危険度判定手法や、深層崩壊発生危険斜面の抽出 を行う場合は、上記マニュアルとの差別化を図る必要がある。 その際に、 地形判読の個人差をどのように解消するか、 が大きな課題となる。 20