Comments
Description
Transcript
鱗翅類による刺症(毛虫等による刺症)
公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報 【鱗翅類による刺症(毛虫等による刺症)】Ver.1.00 公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報 鱗翅類による刺症(毛虫等による刺症) 1.概要 鱗翅類(イラガ、ドクガ、チャドクガなど)による刺症は、主にその幼虫であ る毛虫によって引き起こされる刺症であるが、成虫の蛾や蝶、またはサナギ(繭) によっても引き起こされる。 中毒の原因成分はヒスタミンや、蛋白分解作用を持つ熱に不安定な蛋白質(ト リプシン、キモトリプシンなど)、プラスミノーゲン活性を持つ成分などが報告 されているが、鱗翅類の種類によって異なり、詳しい成分組成は不明である。 2.毒性 1 匹の毛虫、蛾や蝶による曝露でも、またごくわずかの毛や棘の接触でも中 毒症状が出現する。なお、反応は様々で、生物種、感受性、曝露程度に依存する。 海外では SATURNIIDAE MOTH CATERPILLAR(本邦にはいない種)による死亡 例の報告がある (1) 3.症状 ・症状は、毛虫や蛾の種類、感受性、曝露程度により様々である。また、毛 虫は毒針毛を空中へ発射することもあるため、直接接触しなくても、近づい ただけで被害を受けることがある (1)(3) ・一般的な症状は皮膚接触による皮膚の紅斑、掻痒、疼痛、腫脹であるが、 嘔吐、頭痛、リンパ節症、麻痺、痙攣、ショックの報告もある (1) ・経口摂取による口腔の刺激、流涎、蕁麻疹などが起こる (1) ・毛や棘の吸入により咽頭痛、気管支炎、呼吸困難などが起こる場合がある(1) ・毛や棘が眼に入ることにより結膜炎などが起こる場合がある (1) 呼吸器系:咽頭痛、鼻咽頭炎、気管支炎、呼吸困難 神経系 :疼痛、頭痛、被刺激性、倦怠感、興奮、痙攣が生じることがある 消化器系:嘔吐、口内炎、流涎、嚥下困難、腸炎を生じることがある 皮膚 :軽度の紅斑、掻痒、浮腫、疼痛、小水疱形成、壊死 (程度は種類と曝露程度による) 眼 :眼の刺激、角結膜炎、羞明、流涙、結節性眼炎 鼻 :鼻咽頭炎 血液系 :出血、白血球増加症、好酸球増加症を生じることがある 骨格筋 :毛虫に接触して筋肉痙攣を生じ、慢性的に手のひら、指の骨炎、 硬直が起きたという報告がある 4.処置 家庭で可能な処置 ・経口:吐かせてはいけない 希釈:直ちに 120~240mL の水か牛乳で希釈する(小児では 120mL 未満) ・経皮:毛や棘が皮膚により深く突き刺さることになるので、ひっかいたり、 こすったりしないよう注意する 1)除去:接触部位にスコッチテープを貼ってはがす。虫眼鏡で見ることが 可能なほど十分に大きい棘は、ピンセットで除去できる 2)付着部分を石鹸と流水で十分洗う 3)必要に応じて市販の痒み止めを塗布する 1/3 copyright © 2009 公益財団法人 日本中毒情報センター All Rights Reserved. 公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報 【鱗翅類による刺症(毛虫等による刺症)】Ver.1.00 ・眼 :水か微温湯で少なくとも 15 分以上洗浄する 医療機関での処置 ・経口 除去:テープやガーゼを使用したり、舌圧子で軽く擦ると取り除きやすく なることがある。内視鏡検査が必要な場合もある 禁忌:催吐(食道などに対する刺激を助長する) 活性炭・下剤の投与:通常、勧められない (毒素を吸着するが毛の物理的刺激には作用しない) 解毒剤、拮抗剤はない 対症療法 ・経皮 必要に応じて抗ヒスタミン剤、鎮痛剤、ステロイドなどを塗布する。こ れらの複合剤の痒み止めを塗ると効果的であるといわれている その他、必要に応じて外科的処置、過敏症に対する処置、血液凝固傷害、 アレルギー反応に対する処置などを行う ・眼 :眼の中に入っている場合は顕微鏡下で注意深く除去し、対症療法 5.確認事項 1)曝露部位 2)曝露状況 3)患者の状態:症状の有無、アレルギー反応の有無 6.情報提供時の要点 1)症状が残る場合、症状が顔面部や眼の場合、広範囲に及ぶ場合は受診を指示 2)アナフィラキシー反応など、全身症状が認められる場合には受診を指示 7.体内動態 吸収:毛虫や蛾の毒素は、毛が皮膚に突き刺さるとよく吸収される 排泄:皮膚に刺さった棘は、数週間から数ヵ月で脱落する (1) (1) 8.中毒学的薬理作用 (1)(5) ・毛や棘に含まれる毒(ヒスタミン、蛋白分解酵素など)による症状 ・アレルギー反応による症状 ・物理的な刺激、傷害による症状 9.治療上の注意点 口からの毛や棘の除去の際に、内視鏡検査が必要な場合もある 10.原因種 日本において、刺症を引き起こす種類は主に、イラガ科、カレハガ科、 ドクガ科、ヒトリガ科、マダラガ科等である (4)(5) ・イラガ科 アオイラガ(レイシムシ)、アカイラガ、イラガ(イラムシ)、 クロシタアオイラガ、ヒメクロイラガ、ヒメシロイラガ、 ヒロヘリアオイラガ、ムラサキイラガ ・カレハガ科 クヌギカレハ、タケカレハ、ツガカレハ、マツカレハ(マツケムシ)、 2/3 copyright © 2009 公益財団法人 日本中毒情報センター All Rights Reserved. 公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報 【鱗翅類による刺症(毛虫等による刺症)】Ver.1.00 ヤマダカレハ ・ドクガ科 キドクガ、サカグチキドクガ、タイワンキドクガ、チャドクガ、ドクガ、 フタホシキドクガ、モンシロドクガ(キンケムシ、クワノキンケムシ、 モンシロドクガモドキ) ・ヒトリガ科 シロホソバ、ヤネホソバ(ヤネムシ、イタヤムシ、ジコウボウ) ・マダラガ科 ウメスカシクロバ(ハラアカ、コシダカケムシ、ウメクンガ)、 タケノホソクロバ、リンゴハマキクロバ 11.参考文献 (1)POISINDEX(2005) (2)大滝倫子:調剤と情報,10(6):716-723,2004 (3)佐藤明子,安部好弘:調剤と情報,10(6):724-729,2004 (4)Anthony T.Tu:毒物・中毒用語辞典,(株)化学同人,2005 (5)梅谷献二:野外の毒虫と不快な虫,全国農村教育協会,2002 12.作成日 20050920 Ver.1.00 ID M70350_0100_2 3/3 copyright © 2009 公益財団法人 日本中毒情報センター All Rights Reserved.