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液体蚊取り - 日本中毒情報センター
公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報 【液体蚊取り】Ver.1.00 公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報 液体蚊取り 1.概要 液体の入った小さいボトルに芯が付いており、その芯に液体がしみこみ、電気の 熱によって殺虫成分を蒸散させるものである。芯の付いた液体ボトルは、それらを 包む形のプラスチック容器に入っており、ボトル 1 本の容量は 30~50mL で、ピレス ロイド剤(dl・d-T80-アレスリン、d・d-T80-プラレトリン、d-T80-フラメトリン) を殺虫成分として 0.66~2.8%(1 本中 198~1,260mg)含有し、香料や酸化防止剤 を微量に添加し、灯油が溶剤として使われている。 最近では、灯油のかわりに界面活性剤(10%以上)と水が含有されている水性タ イプの商品もある。当センターへの問い合わせは小児の誤飲がほとんどであるが、 液体ボトルは開かない構造になっているので、実際に液体を大量に飲み込むことは ない。ほとんどの場合、液体のしみこんだ芯や外側のプラスチック容器をなめると いったような事故である。 2.毒性 製品として、ラット、マウスでの経口 LD50 は 10mL/kg 以上(メーカー資料) dl・d-T80-アレスリン :マウス経口 LD50 370mg/kg (1) d・d-T80-プラレトリン:ラット経口 LD50 オス 460mg/kg (2) d-T80-フラメトリン :ラット経口 LD50 オス メス>10g/kg (3) 灯油:気管内に誤嚥しなければヒト経口推定致死量 90~120mL、 誤嚥すれば数 mL 以下 (4) 非イオン界面活性剤:マウス・ラット経口 LD50 8~30g/kg (6) 3.症状 なめた程度では、中毒症状の発現はない。故意に大量摂取した場合、殺虫剤成分 よりむしろ灯油による中毒作用に注意する ピレスロイド系殺虫剤:大量摂取では、嘔気、嘔吐、下痢、口唇・舌のしびれ感、 めまい、顔面蒼白、痙攣 過敏症者では、皮膚炎、アナフィラキシーショック 灯油:大量摂取では、口腔・咽頭・胃の灼熱感、嘔吐、下痢、傾眠、昏睡 気管内誤嚥の場合:過呼吸、チアノーゼ、頻脈、発熱、肺水腫、肺出血 眼に入った場合:結膜炎 皮膚接触では、接触性皮膚炎 界面活性剤:口腔・咽頭の炎症、悪心、嘔吐、下痢、しゃっくり、鼓腸 中毒量を誤飲した場合:1 時間以内に嘔吐がみられる (7) 大量服用時:神経系症状として運動麻痺、体温低下、痙攣、血圧低 下、肝症状として GOT・GPT 上昇の報告あり (8) 4.処置 液体のしみこんだ芯やプラスチック容器をなめた程度ではとくに処置を施す 必要なし 家庭で可能な処置 灯油含有製品:口をゆすがせ様子をみる 吐かせてはいけない(気管内に誤嚥する危険性あり) 界面活性剤含有製品:経口:牛乳(120~240mL、幼児 15mL/kg 以下)、 1/3 copyright © 2009 公益財団法人 日本中毒情報センター All Rights Reserved. 公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報 【液体蚊取り】Ver.1.00 眼 卵白などを与える :流水で 15 分以上洗浄 医療機関での処置 小児の誤飲程度なら積極的処置不要 大量服用時は一般的な中毒に対する処置、対症療法 ただし、灯油含有製品の場合:胃洗浄を行うときは灯油による誤嚥に留意 気管内誤嚥時:呼吸管理、化学性肺炎対策 (胸部 X 線による肺障害の診断重要) 5.確認事項 1)商品名、成分の確認:従来の製品か、水性タイプか 2)摂取状況:芯やプラスチック容器をなめたのか、液体として飲み込んで いる可能性があるか 3)患者の状態:嘔吐の有無。とくに誤嚥して咳込んだり、苦しそうな呼吸 をしていないか 6.情報提供時の要点 1)どちらの製品でも芯やプラスチック容器をなめた程度なら、家庭で様子をみる 2)界面活性剤含有の製品の少量誤飲は、牛乳などを取らせ刺激を緩和する 3)症状のある場合は受診を指示 4)灯油含有製品を誤嚥した可能性のある場合は化学性肺炎を起こすおそれが 強いので症状がなくてもすぐに受診を指示 5)眼に入った場合、洗浄後も充血・痛みの残るときは眼科に受診を指示 7.体内動態 ピレスロイド剤 吸収:速やかに吸収:ラットでは、摂取 30 分~1 時間半後に脳で最高 血中濃度を示し、症状発現をみたとの報告あり (7) 分布:あらゆる組織に分布。哺乳類ではエステルの分解と酸化が速やか に行われるので低毒性を示す (7) 灯油 吸収:揮発性が低いので、常温では蒸気で吸入することは少ない。消化 管からの吸収は少ない (7) 陰イオン界面活性剤:消化管から吸収され数時間後に肝臓で代謝を受ける。 24 時間以内にほとんど尿・糞に排泄 8.中毒学的薬理作用 ピレスロイド剤:哺乳類に対する毒作用機序は不明だが、中枢神経刺激作用と 痙攣誘発作用あり (4) 灯油:中枢神経抑制作用、粘膜刺激作用。心筋の内因性カテコールアミン に対する感受性を高める 界面活性剤:細胞膜の脂質に作用して膜の機能を消失させる:直接的な 粘膜刺激作用 9.治療上の注意点 灯油による中毒時、エピネフリンの使用は不整脈や心室細動を誘発する危険が あるので禁忌 (7) 2/3 copyright © 2009 公益財団法人 日本中毒情報センター All Rights Reserved. 公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報 【液体蚊取り】Ver.1.00 11.参考文献 (1)RTECS (1997) (2)薬事法施行規則 (3)日本殺虫剤工業会中毒情報カード(原体用) (4)Clinical Toxicology of Commercial Products(1984) (5)救急医学、12(10):1415、1988 (6)救急中毒ケースブック(1986) (7)Poisindex(1997) (8)急性中毒情報ファイル(1996) 12.作成日 19900215 Ver.1.00 ID M70027_0100_2 3/3 copyright © 2009 公益財団法人 日本中毒情報センター All Rights Reserved.