Comments
Description
Transcript
効率性指向と反応性指向
衣料品SPA型企業の ロジスティクス戦略の類型化に関する研究 ――効率性指向と反応性指向―― 法政大学経営学部李ゼミ 斎藤佳美 鈴木貴大 祁睿珊 榮田智裕 1、はじめに 衣料品市場の特性 1、 「ライフサイクルの短期性」 2、 「高度の不安定性」 3、 「低い予見可能性」 4、 「頻繁な衝動買い」 →ロジスティクス管理が重要な課題となり得る →SPA(Specialty store retailer of Private label Apparel)の出現 …ブランドを有する小売り企業がメーカー機能(商品 企画から販売)を持ち、消費者に直結するシステム ●SPAのメリット クイックレスポンスを達成し、需要への素早い対応を していくことと考えられている。 →よって、SPA事業全般として反応性の指向性が強い と考えられてきた。 SPAの企業が全て反応性指向なのか、または効率性 指向の企業があるのかを、SPA型企業であるユニク ロ、ZARA、青山商事、仕入れ体制をとっているしま むらの事例を取り上げて考察・議論する。 2、先行研究 商品による需要予測の特性 • 企業は商品のライフサイクル、需要予測、商品バラ エティー、リードタイムを考慮し効率的なサプライ チェーンを構築。 • Fisher,M.L(1997)は商品需要の方法として2つの分 類方法を見出した。それは商品が、機能的であるか 革新的であるかであった。 機能的商品と革新・刷新的商品の需要における違い 機能的(需要予測可能) 革新・刷新的 (予測不可 能) 商品ライフサイクル 2年以上 3か月~1年 マージン率 5%~10% 20%~60% 商品バラエティー 低い(10から20) 高い(100) 商品導入期における平均 不良マージン 10% 40%~100% 平均在庫切れ率 1%~2% 10%~40% 平均値下げ率 0% 10%~25% リードタイム 6ヵ月から1年 1日から2週間 出典:Fisher,M.L,1997,pp.106-107 効率性指向と反応性指向のサプライチェーンの特性について 効率性指向 反応性指向 重要目的 可能な限り低コストで事前予 測可能な需要に供給する 予測不可能な需要に対し、在 庫切れ、直面する値下げ、廃 れた商品の在庫を最小化す るために素早い反応をする 製造重点 平均的に高い利用率を維持 する 過剰な緩衝在庫を有効活用 する 在庫戦略 一般的な高い回転率そして供 給網を通して在庫を最小化す る 一部の商品あるいは退化した 商品の相当の緩衝在庫を有 効活用する リードタイムの重点 コストを上げない限りの短い リードタイム リードタイム削減のために積 極的な投資 サプライヤーの選択 コストと質に重きを置いて選 択 スピード、柔軟性、質に重きを 置いて選択 製品のデザイン戦略 パフォーマンスを最大化しコス 可能な限り製品の派生を延期 トは最小化 するためにモジュール化(基準 となる)したデザインを使う 機能的商品・刷新的商品におけるサプライチェーンの 適性 機能的商品(需要予測可 能 革新・刷新的商品(予測不 可能) 効率性指向 適合 不適合 反応性指向 不適合 適合 企業は上記の表を参考に、商品にどのサプライチェーンプ ロセスが適しているのかを判断材料として使うことができる。 3、SPA型企業のQRの先行研究 ●SPAの本質 川上と川下のプロセスを情報上統合して情報共有し、 リアルタイムに近い形で製品企画・計画から調達、生 産、物流、販売までのプロセスをモニタリング。 →意思決定を迅速化して意図せざるリスクを最小限に 抑制するという点(橋本,2008)。 SPA形態をとることにより… 店頭にある在庫を自社在庫としての管理 →データ分析とともに新商品の店別配布量の決定 を自動化 →消費者の需要に対して素早い対応をすることが できる。 これが意味することは、SPAがQR(クイックレ スポンス)体制に特徴を持つということであ る。 4、ユニクロのロジスティクス戦略 ・通常、店舗別の担当者が行う業務を本部で集中管 理することにより効率化 ・POSデータを利用した完全な単品管理体制 ・日本人の担当者が中国の工場に駐在して、生産状 況を事務所に毎日メールで報告 ・売れ筋商品をマーケットインする場合素材から手当 てすると約2ヵ月かかるが、染色して用意していれ ば、約1カ月で商品を供給できる。 ユニクロ ・工場を24時間稼働。他の企業なら商社に追加注文 しても、商社に断られればそれまでだが、これにより 厳しい注文にも対応できる。 これらの特徴から反応性指向と言える。 5、ZARAのロジスティクス戦略 • わずか15日でデザイン、製造、流通をさせ、全世界 の店舗に最新作を陳列。 • 製造工程の約半分を自前でまかなっている。 • ヨーロッパにあるサプライヤーには近さというメリット を活かして最新のトレンド商品をクイック・レスポンス で生産させている。 • アジアのサプライヤーにはあらかじめ生産スケ ジュールが決まっている定番製品を生産させている ZARA ・ヨーロッパの店舗なら発注から24時間以内、アメリカ なら48時間、日本なら48−72時間で納品。 ・ 2週間以上店舗にとどまることがないようにシーズン 前の在庫は極力抑えている。シーズンが開始してから 売れ筋を見極めながら迅速に商品を投入。 →反応性指向 6、青山商事のロジスティクス戦略 • 物流は自前主義。 • 生地の調達は商社を介さず直接購入することでコストを削減。 • 縫製は人件費の安い中国の工場で行い,最終価格に含まれて いたロスを徹底的に排除。 • 大量の商品を安い時期に仕入れて、売り切れても補充しない。 デザインから店頭までのリードタイムは平均6ヶ月。 →SPA型企業であるにも関わらずコスト削減重視の 効率性指向 7、しまむらのロジスティクス戦略 • リピート(追加仕入れ)不要、売り切れ御免 • マーケットの流行に合わせて商品仕入れができる多頻 度小口物流。 • 物流は100%自前主義 • 在庫回転率は14回と多い。 • リードタイムは30日~40日。 8、4社の比較 • ユニクロやザラは顧客の需要に素早く対応す る戦略 • 青山商事としまむらは追加の仕入れをせず に売り切れ御免の戦略 …SPA型企業ではないしまむらはともかく、SPA型 企業である青山商事もユニクロやザラとは異 なった戦略をとっている。 形態 物流 デザインから 店頭までの リードタイム 在庫回転率 ユニクロ SPA型 完全アウトソー (染色していれ シング ば)1か月 約11回 ZARA SPA型 自前主義 2週間 約11回 青山商事 SPA型 自前主義 平均6か月 約2~3回 しまむら 仕入れ型 自前主義 30日~40日 約14回 筆者ら作成 Functional(需要予測可能) Innovative(予測不可能) 商品ライフサイクル 2年以上 3か月~1年 商品バラエティー 低い(10から20) 高い(100) リードタイム 6ヵ月から1年 1日から2週間 Fisher,M.L,1997,pp.106-107より一部の項目を抜粋 ●リードタイム 青山商事の約6か月は機能的(需要予測可能)商品 に分別され、他の3社のリードタイムは革新的(予測不 可能)商品に分別される ●商品ライフサイクル 青山商事の紳士服は他の3社よりも長い。 ●商品バラエティー 他の3社よりも紳士服を販売する青山商事の方が断 然少ない。 →つまり、Fisherの製品カテゴリー別で行われてい た類型化は、製品カテゴリーといった枠を越えて SPA型アパレル企業である3社と仕入れ型アパレル 企業の1社において適用することができる。 9、先行研究との相違点 • Fisher,M.L(1997)は、製品が機能的であるか、 また革新・刷新的であるかの違いによって効 率性指向・反応性指向といった類型化がなさ れると主張。 しかし、我々の研究を踏まえると… それらは製品別といったカテゴリーを越えて、ア パレル企業の中のSPAといった小さな枠組みの 中でも適用することができる。 • ZARA、ユニクロ、しまむらの3社は反応性指 向・クイックレスポンス。 • 青山商事に関しては、デザインから店頭まで のリードタイムは平均6ヵ月、在庫の回転率 は平均2~3回と他3社と比べてみても効率 性指向。 →よって、SPA企業=QR体制を活用する反応性 指向であるという定説は実際のところ覆される。 9、衣料品SPA型企業における異なる 指向性の可能性 • ユニクロやZARAはSPA型をとっており、リードタイ ムを短期化させ在庫の回転率を上げることで需 要への対応を迅速に行っている。 →反応性指向 ・青山商事は需要への対応は行わず、コストの削 減に重きを置き、大量に仕入れ、在庫はなくなって も補充はしない。先に述べられているように在庫の 回転率も低い。 →効率性指向 • しまむらはSPA型をとっていないが、マーケット の流行に合わせて商品を仕入れ1〜2着とい う細かい単位で商品を動かす多頻度小口物 流を行い、売り場の新鮮さを維持している。 →反応性指向 このように、SPA型をとらずして、問屋やメーカー から商品を仕入れ、反応性に重きをおいている 企業もある。 我々は研究を通して、 ・SPAは従来反応性指向が強いと考えられてき たが、中には効率性指向の強い企業もあるとい う発見があった。 ・アパレル産業の中のさらに小さなカテゴリーで あるSPAといった業態の中でもこの反応性と効 率性といった分別をすることができるという結論 に至った。