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Title 東京歯科大学市川総合病院の機能を活かした Translational

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Title 東京歯科大学市川総合病院の機能を活かした Translational
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東京歯科大学市川総合病院の機能を活かした
Translational Research の構築
片倉, 朗
歯科学報, 115(4): 306-312
http://doi.org/10.15041/3715
Right
Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,
Available from http://ir.tdc.ac.jp/
306
歯学の進歩・現状
東京歯科大学市川総合病院の機能を活かした
Translational Research の構築
片倉
本稿はオーラルメディシン・口腔外科学講座の講座主任就
任にあたり,第297回東京歯科大学学会(例会)
特別講演(平成
26年6月7日)
で発表した内容をまとめたもので,本文中の
職位等は当時のものである。
朗
も増し,現在は市川市の地域拠点病院として24の診
療科と口腔がんセンター・リプロダクションセン
ター・角膜センターなど5つのセンターを有する
570床の総合病院にまで発展した。当講座の前身は
開院当初からの歯科診療部門であるが,1981年に口
はじめに
腔を1単位として隣接・遠隔臓器との関連をさせた
人口構成と疾病構造の変化に伴い歯科に求められ
オーラルメディシンを発展させ教育・臨床・研究に
る医療スキルも大きく変化している。いずれの先進
寄与することを目的として故 川島
国もこれから訪れる超高齢社会であるが,唯一日本
授)
を講座主任とした日本で初めてのオーラルメ
はすでに超高齢者の中で歯科医療を展開しており,
ディシン講座が発足した。口腔診断学,口腔粘膜の
そのパイオニアとなっている。日本におけるオーラ
病変と糖尿病や肝疾患などの全身的疾患との関わり
ルメディシンは,従前からの口腔診断,口腔粘膜疾
についての研究,合わせてそれらを軸とした診療と
患,口腔顎顔面疼痛,全身と口腔の病態の関連など
教育にあたった。1996年には山根源之教授(現 名誉
を扱ってきた。そして2025年を到達目標とした医療
教授)
が講座主任を引き継ぎ,口腔外科学を基盤に
制度改革の中で「超高齢社会」
・「地域包括医療」
・
老年歯科医学,医学的問題点を有する患者の歯科医
「チーム医療」
・「医科歯科連携」がキーワードとな
療,口腔粘膜疾患,口腔機能管理など高齢社会への
り,医療と介護がボーダーレスに変化に呼応して,
変化に呼応して幅広い分野で実績をあげ,講座名も
オーラルメディシンは医科と歯科が一元化されつつ
オーラルメディシン・口腔外科学講座と改称して講
ある医療現場の中で歯科医学の貢献性を探索,提供
座はさらに発展し,2011年には㈳日本口腔内科学会
する領域であるべきと考えている。
の設立に多大な貢献をした。
康教授(名誉教
現在,当講座が担当する診療科(歯科・口腔外科)
1.オーラルメディシンの歩みと現況
は総合病院の中で歯科の3次医療を担うため,口腔
市川総合病院は1946年の12月に歯科教育に一般医
外科領域のみならず歯科全般の疾患を幅広く扱って
学知識をより広く取り入れることを最大の目的とし
000名(救急外来を
いる。2013年の初診患者数は約6,
て歯科・内科・外科を標榜する病院として東京歯科
000名)
で,70%が院外歯科ならびに院
合わせると7,
大学が開設した。市川市の発展とともに病院の需要
内の他科からの紹介であり,そのうちの約75%が何
キーワード:translational research,オ ー ラ ル メ デ ィ シ
ン,口腔内科,医科歯科連携
東京歯科大学口腔病態外科学講座
(2015年3月27日受付)
(2015年4月27日受理)
別刷請求先:〒101‐0061 東京都千代田区三崎町2-9-18
東京歯科大学口腔病態外科学講座 片倉 朗
Akira KATAKURA : Establishment of translational research for taking advantage of the function of Tokyo
Dental College Ichikawa General Hospital
(Department of
Oral Pathobiological Science and Surgery, Tokyo Dental
College)
― 20 ―
歯科学報
Vol.115,No.4(2015)
307
らかの医学的問題点を有している患者である1)。そ
科と多くの職種がチームとして医療を展開すること
のため,医科各科と連携して診療を行う機会も多
を病院全体の目標として掲げていることから,それ
い。院内各科と連携した取り組みとして扁平苔癬や
らを実現するのに絶好の環境である。また地域包括
天疱瘡などの口腔粘膜疾患に対する皮膚科との難治
型の医療の中で歯科の使命は,口腔医療を通じた健
性粘膜疾患外来,脳卒中センター・口腔がんセン
康長寿への貢献である。当院は東葛南部のがん診療
ターなどでの摂食嚥下評価とそのリハビリテーショ
地域拠点病院を担う地域中核病院であり,当科は口
ン,外科や心臓血管外科と連携した周術期の口腔機
腔機能の維持とリハビリテーションにおいて「脳卒
能管理,内科と連携した糖尿病・慢性閉塞性肺疾患
中地域連携パス」に「摂食・嚥下機能評価シート」
患者の口腔衛生管理,産婦人科と連携した周産期の
を付与し,在宅診療に対応できる歯科医師の紹介窓
母親教室などがある。これらは診療に留まらず得ら
口を設けるなど地域医療と連携したシステムを整え
れたデータから臨床基礎研究を行い,その成果を医
つつある(図1)
。
科と歯科の双方の学会や学術誌で発表を行ってい
る。
当講座の研究は,臨床に還元できる Translational
research であること,ストーリー性があること,を
生活環境の変化と超高齢社会の到来に伴い,口腔
念頭にプロジェクトを運営している。主な研究テー
軟組織疾患,口腔機能の低下,全身的背景をもつ口
マは口腔粘膜疾患の診断と治療に関する研究と口腔
腔領域の疾患,またその背景因子となる内科疾患の
顎顔面の機能に関する研究に分けられる。口腔粘膜
病態を最新の情報をもって体系的に勘案した治療計
疾患では,前癌病変および口腔癌の早期診断・自己
画の立案が重要となった。当講座の臨床と教育での
免疫性口腔粘膜疾患の病態2)・金属アレルギーの免
責務はそれらに呼応した対応を実践,またそれがで
疫の研究3,4)を行っている。口腔顎顔面の機能では,
きる人材を育成することである。市川総合病院は各
摂食嚥下機能の中枢制御5,6)・口腔機能管理に関する
図1
平成24・25年度市川総合病院 診療科別紹介患者数
紹介患者数の推移。写真は地域の歯科医師会と当院との間で交わした医療連携協定書
― 21 ―
308
片倉:市川総合病院での Translational Research
細菌学7,8)・インプラント植立に関する力学9,10)・口
診により同様の結果を得た標本で CK13,CK17の
腔機能と呼吸生理・疼痛に関する神経機能学等の研
発現を免疫細胞化学的に検討した。その結果,CK
究を行っている。
13,CK17の発現状態は口腔擦過細胞診で最も重要
な診断因子のライトグリーン好性表層細胞の形態学
2.研究成果と今後の展望
的診断を補完し,腫瘍性変化を診断するのに有効で
(図2)
。さらに従来の口腔
あることが示唆された12)
①口腔扁平上皮の上皮異形成の診断に関する研究
当講座は当院臨床検査科病理の田中陽一教授と共
細胞診に免疫細胞染色を応用して新たなに他の臓
同して主に口腔癌の早期発見を目的とした口腔粘膜
器の細胞診の診断基準に汎用されている Bethesda
検診を市川市ならびに市川市歯科医師会と「市川市
system を応用する検討も行っている。
口腔癌早期発見システム(OCDSIN)」を構築し展開
11)
また,舌扁平上皮癌細胞が浸潤してゆく過程にお
してきた 。特に検診ならびに日常のスクリーニン
けるタンパク質の発現の解析を昭和大学歯学部の
グ検査では,液状細胞診を積極的に取り入れ検査の
立川哲彦教授から提供していただいたヒト由来口腔
簡便化と精度向上を図ってきた。早期癌の診断では
癌細胞株を用いて検証した。幹細胞の自己修復機能
口腔粘膜上皮の上皮異形成を的確にとらえること,
を制御するタンパクである BMI1,上皮間葉移行
すなわち上皮の浅層と深層の細胞での異型性の違い
の主な調節因子といわれている ZEB1を用いて,
を把握したうえで診断することが重要になる。そこ
舌扁平上皮癌の発癌過程における上皮間葉移行への
で当講座では,上皮細胞の細胞骨格を成す中間径
役割について in vivo,in vitro において検討した。
フィラメントのサイトケラチン(cytokeratin:CK)
その結果,本研究より BMI1と ZEB1は舌扁平上
のうち,角化扁平上皮の表層細胞と分化型扁平上皮
皮癌の上皮間葉移行および癌の浸潤,進展の推進因
癌に発現する CK13,CK17に注目し,その発現状
子として重要なマーカーであることが解明された。
況を検討してきた。ヒトの口腔粘膜上皮で上皮性異
さらに現在,慶應義塾大学先端生命研究所と共同
形成と診断された部位を免疫組織化学的に観察する
で口腔癌患者の全唾液を試料としてメタボロミクス
と,相反した性質を持つ CK13と CK17が共に高い
解析を行っている。唾液中に特徴的に発現する口腔
発現を認める上層部と,高い癌化能を有する下層部
癌の代謝産物は200種類以上あることが分かったが,
が存在することが明らかとなった。また,液状細胞
さらにこれらの中から感度の高い物質を抽出し口腔
図2
口腔粘膜上皮における細胞診の精度向上
核面積,核周囲長,核円形度,LS ratio,NC ratio を計測致し,免疫組織化学染色は細
胞質に明瞭な発色を認めたもののみを陽性とした。細胞形態と免疫組織化学染色性の有無
について t 検定を行ったところ,CK13,17免疫細胞化学は口腔擦過細胞診で採取された
ライトグリーン好性表層細胞の形態学的診断を補完し,腫瘍性病変の判定に有効であるこ
とが示唆された12)
― 22 ―
歯科学報
Vol.115,No.4(2015)
癌の非侵襲的なスクリーニング検査方法を確立する
309
④口腔の機能管理(摂食嚥下リハビリテーション,
ことが目標である。
専門的口腔ケア)
に関する研究
超高齢社会となった我が国において,医療保険と
②口腔扁平上皮癌に対する化学療法に関する研究
介護保険費用の軽減は重要な国策のひとつである。
口腔癌は手術療法が主体となるが,進展症例や病
各ライフステージに応じて歯科が介入する事によっ
理組織学的に転移や再発が懸念される症例には術前
て,口腔機能の管理による誤嚥の防止や経口摂取の
ならびに術後に補助的に化学療法を行う。その場
維持による健康維持と QOL の向上に寄与する。こ
合,白金製剤であるシスプラチン(CDDP),代謝拮
れらの成果が医療保険と介護保険費用の軽減につな
抗薬である5-FU 製剤を組み合わせて用いることが
がるという考えのもと医療政策,保険制度は変換し
多い。シスプラチンは副作用の筆頭としてとして腎
つつある。これらのエビデンスを構築するために要
毒性があげられ,この発症の予防と腎への蓄積の軽
介護高齢者の摂食嚥下機能に関する研究や周術期の
減が化学療法を完遂する重要な要素となる。そこ
口腔機能管理に関する疫学的・臨床的研究に取り組
で,本学薬理学講座と共同して CDDP 誘発性腎障
んでいる。
害に対する DMPS,DMSA の保護効果を実験的に
当講座ではかねてより東京都健康長寿医療セン
検証した。その結果,CDDP の単独投与では BUN
ター研究所平野浩彦先生,国立長寿医療センター渡
を30%増加したが,DMPS と DMSA を前処置した
邊
場合は CDDP の増加作用は抑制された。DMPS は
それらの研究成果で,アルツハイマー型認知症の患
裕先生のグループと共同研究を継続してきた。
CDDP と複合体を形成し細胞通過性を亢進するこ
者でリンシング(ブクブクうがい)
に支障を認める患
とで腎排泄と組織保護を促し,結果として CDDP
,
(図3)
者は嚥下障害をきたす危険性があること13)
の細胞毒性を減弱することが示唆された。
5%に誤嚥を認め,誤嚥
要介護高齢者では全体の50.
また,市川総合病院皮膚科の高橋教授・河野講師
と舌運動・口唇閉鎖・リンシングが関連すること,
と共同で非病原性天疱瘡抗体 PX44を用いた表皮へ
地域在住高齢者において咀嚼機能はサルコペニアに
のドラッグデリバリーシステムの開発を行ってい
対して年齢と同程度のオッズ比で関連すること14),
る。口腔扁平上皮癌の原発巣および転移リンパ節に
が示唆された。これらの結果は介護施設での誤嚥予
天疱瘡の病因である表皮細胞間接着分子デスモグレ
防,特に後期高齢者での口腔機能のリハビリテー
イン3が高発現していることに注目し,治療分子に
ションにとって重要な因子を示唆した結果である。
非病原性天疱瘡抗体の PX44を接続して組織特異的
当院では病院全体の取り組みとしてチーム医療の
な治療効果を得ることが可能かを検証するもので,
推進が行われ,2012年の保険収載以前から周術期の
平成26年度の本学学長奨励研究のテーマに選択され
口腔機能管理を積極的に行ってきた。主に外科・脳
現在 in vitro で実験を進めている。
神経外科・神経内科・心臓血管外科等の急性期の入
院患者を対象に歯科医師・歯科衛生士が専門的な口
③口腔粘膜の免疫に関する研究
腔のケアを行い,肺炎をはじめとする術後合併症の
当講座ではかねてから口腔粘膜疾患の中で特に自
予防や在院期間の短縮に貢献してきた。特に乳癌患
己免疫疾患である天疱瘡と金属アレルギーに関する
者の術前化学療法における専門的な口腔ケアの介入
研究を臨床と基礎の両面から行ってきた。現在,新
の効果についての臨床研究では,口腔粘膜炎の発症
たな Pd アレルギーモデルマウスの作製および,そ
予防に「専門的な口腔のケアを実施すること」が最
のモデルを用いた Pd アレルギーに お け る Hista-
も重要な因子であることが統計学的に示唆され,多
mine の関与について T 細胞に着目した研究を東
くの施設で化学療法の際の口腔のケアのエビデンス
北大学加齢医学研究所と共同で行っている。Hista-
となっている7,8)
(図4)
。また口腔のケアの主たる対
mine が T 細胞からの IFN-の産生を促進し,Pd ア
象となる口腔細菌によるバイオフィルムの形成を免
レルギー発症に関与していることが確認されてい
疫化学的に抑制することを目的とした基礎研究を微
る。
生物講座と共同で行い C. ocharacea のバイオフィル
― 23 ―
310
図3
片倉:市川総合病院での Translational Research
アルツハイマー型認知症の嚥下障害の抽出法
介護施設入所者を対象にした東京都健康長寿医療センター研究所との共同研究。アルツハイマー型認知症患者でリン
シング(ブクブクうがい)
に支障を認める患者は嚥下障害をきたす危険性があることが示唆された13)
Normal
%(n)
Items
Univariate
Relative risk
OR(95%CI)
Dysphagia
%(n)
P
Occlusal contacts
Presence
Absence
53.
5
(83)
22.
7
(35)
9.
1
(14)
14.
9
(23)
3.
8
(1.
8-8.
3)
0.
001
Tongue function
Better
Worse
66.
9
(95)
12.
7
(18)
12.
0
(17)
8.
5
(12)
3.
7
(1.
5-9.
1)
0.
004
Rinsing ability
Better
Worse
59.
3
(86)
17.
9
(26)
6.
9
(10)
15.
9
(23)
7.
6
(3.
2-18.
0)
001
<0.
Gargling ability
Better
Worse
32.
8
(43)
42.
7
(56)
3.
8
( 5)
20.
6
(27)
4.
1
(1.
5-11.
7)
0.
007
Limb contractures
Absence
Presence
52.
9
(74)
22.
9
(32)
7.
9
(11)
16.
4
(23)
4.
8
(2.
1-11.
1)
001
<0.
Storing food
Absence
Presence
70.
3
(97)
12.
3
(17)
13.
8
(19)
3.
6
( 5)
1.
5
(0.
5-4.
6)
0.
474
Stuffing food
Absence
Presence
71.
7
(99)
10.
9
(15)
5.
2
(21)
2.
2
( 3)
0.
9
(0.
2-3.
6)
0.
931
Multivariate
Relative risk
†OR(95%CI)
P
8
4.
(1.
9-12.
1)
0.
001
Examinations of associations between various items and dysphagia
The left side : The frequency and number of each item by swallowing function.
The right side : Associations between dysphagia and each item(univariate and multivariate analysis)
.
†The odds ratio adjusted by age, sex, and CDR.
図4
乳癌化学療法患者の口腔粘膜炎と口腔環境の影響
乳癌の化学療法を受けている患者の口腔粘膜炎の発症について口腔機
能管理群(POHC)
とセルフケ群に分け評価項目について χ2検定を行っ
た。OAG(Oral Assesment Guide)による評価,口腔粘膜炎のグレード
評価,PCR 評価を行ってケアをした群は有意差をもって口腔粘膜炎の
発症の予防と軽減ができた。がん化学療法における支持療法として専門
的口腔管理の有効性が示唆された7)
Self care(n=14)
n
POHC(n=12)
n
P value
64.
3%( 9)
8.
3%( 1)
0.
005
Oral mucositis grade
28.
60%( 4)
0.
00%( 0)
0.
044
PCR
57.
10%( 8)
8.
30%( 1)
0.
012
35.
70%( 5)
41.
70%( 5)
0.
536
Mucus
21.
40%( 3)
33.
30%( 4)
0.
404
electrogustometer
21.
40%( 3)
25.
00%( 3)
0.
596
OAG
Saxon test
TM
Deterioration rates of oral environment assessment parameters
(χ2 test)
ム形成に LuxS が関与することが示唆されている。
れた。当科は院内の本学口腔がんセンターと連携し
た診療体制をとっており,小宮山彌太郎臨床教授,
⑤口腔外科手術後の口腔機能の再建に関する研究
木津康博臨床講師の指導のもとインプラント治療を
広範囲の顎骨欠損に対しての口腔機能の再建とし
行っている。広範囲の上顎欠損で義歯による顎補綴
てインプラント治療が,2012年に歯科保険に収載さ
では対応できない症例には上顎洞を経由して頬骨体
― 24 ―
歯科学報
Vol.115,No.4(2015)
に維持を求めるザイゴマインプラントが用いられ
材を育成,輩出することとであると考えている。
る。そこで有限要素法モデルを用いてザイゴマイン
謝 辞
プラントの力学的解析を行ったところ,負荷された
咬合力に対する応力は頬骨体よりもインプラント体
が経由する上顎骨歯槽突起部に集中することがわか
り,ザイゴマインプラントの破断の要因が解明され
た。また,早期の舌癌などで切除後の創面の二次治
癒を図る場合,ポリグリコール酸シートなどの生体
材料により創面を被覆する。そこでシート材より汎
用性の高いゲル状の材料の応用を検討するため,
臨床検査病理学講座と共同で4-Methacryloxyethyl
311
本文中に記述した内容は当講座の講座員ならびに大学院生
の研究成果である。結果を提供してくれた酒井克彦助教,齊
藤寛一レジデント,木村絵美子レジデント,木所 亮レジデ
ント,金 美良レジデント,栗原絹枝レジデント,大石晶子
レジデント,村上正治レジデント,齊藤教子大学院生,鈴木
大貴大学院生,井口直彦大学院生,矢島由香大学院生,さら
に講座の諸兄に感謝の意を表す。
本論文の内容は第297回東京歯科大学学会(例会)
(平成26年
6月7日)
で発表した。
trimellitate anhydride(4-META)
レジンの上皮組
織の創傷治癒効果を観察し4-META レジンの方が
従来から用いられてきた同様の材型のシアノアクリ
レートに比べて炎症反応が少ないことが示唆され
た15)。
⑥医科との臨床研究
診療科が総合病院内にあることを活かして,現
在,呼吸器内科,産婦人科,皮膚科と臨床研究なら
びに基礎研究を行っている。呼吸器内科とは歯周病
と慢性閉塞性肺疾患(COPD)の発症の関連,産婦人
科とは低体重児出産と歯科的要因の関連についての
当院を受診した患者データをもとに解析を行ってい
る。皮膚科とは先に述べた天疱瘡抗体を用いたド
ラッグデリバリーシステムの研究の他,毎年,さま
ざまな口腔粘膜・皮膚疾患の症例報告を日本口腔内
科学会で発表している。さらに新たに泌尿器科と腎
移植の際の周術期の口腔機能管理の影響についての
研究を開始した。
3.今後の講座の展望
2025年を目標にした医療制度改革の中で医科と歯
科の連携による生活習慣病の予防,要介護高齢者の
増加の抑制,さらには口から食べることを維持する
結果としての生活の質の向上と健康長寿があげられ
ている。歯科大学の附属病院で570床を有する総合
病院に診療科を有する当講座の大きな責務は,上記
の主眼である周術期管理の分野,口腔機能の向上の
分野において歯科と医科の連携の先端モデルを構築
し,得られた成果をエビデンスとすべく発信してゆ
くことである。また,これらを展開できる多くの人
― 25 ―
文
献
1)伊藤泰隆,野口沙希,三條祐介,齊藤朋愛,酒井克彦,
吉田恭子,浮地賢一郎,有坂岳大,武安嘉大,佐藤一道,
片倉 朗:東京歯科大学市川総合病院歯科・口腔外科にお
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片倉:市川総合病院での Translational Research
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