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数学科の授業における携帯電話を活用した

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数学科の授業における携帯電話を活用した
数学科の授業における携帯電話を活用したプログラムの研究開発
高知県立高知南高等学校
1
教諭 川島 真一郎
はじめに
数学教育の目的は、生徒に多くの公式や解法パターンを身に付けさせ、型通りの問題を解決できる能
力を育成することではない。むしろ、最低限必要な公式や解法パターンを身に付けた上で、未知の問題
に遭遇した場合でも、既知の公式や解法に結びつけることで発見的に問題解決を図ろうとする能力や態
度を育成することであると考えられる。
日本学術会議数学研究連絡委員会附置・数学教育小委員会は「『算数』・『数学』はなぜ学校教育に必
要なのか」[1]で次のように述べている。
「学ぶ楽しみを数学教育はもっと重視すべきである。数学の問題を解く過程では様々な試行錯誤が必
要とされる。
(中略)
『受験にのみ役立つ数学』は、
『数学は公式を暗記してそれに数値を当てはめて問題
を解くこと』という誤解を広め、多くの『数学嫌い』の生徒を生み出している。
」
また、高等学校学習指導要領(平成 11 年3月告示、14 年5月、15 年4月、15 年 12 月一部改正)に
よると、高等学校数学の目標は「数学における基本的な概念や原理・法則の理解を深め、事象を数学的
に考察し処理する能力を高め、数学的活動を通して創造性の基礎を培うとともに、数学的な見方や考え
方のよさを認識し、それらを積極的に活用する態度を育てる。」ということである。
つまり、数学教育には生徒自身が試行錯誤しながら自分の力で問題解決することが望まれている。従
って、教師は必要な公式や解法パターンを指導した後は、生徒自ら発見的に問題の解決を図る場面を設
定することが多い。その際、一定の知識や公式、解法は身に付けているにもかかわらず、問題にほとん
ど着手できない生徒たちが存在する。この事実に注目し、それらの生徒たちが知識などを問題解決に十
分に利用できない原因として、メタ認知能力の不足を考える。従って、生徒のメタ認知能力の向上が問
題解決能力の向上に繋がると考える。
次に、数学教育を支援するツールとしての教具に視点を移すと、大きな期待を寄せられているものと
してIT機器がある。中でも携帯電話は、ここ数年の目覚しい高機能化により、現在パソコンで行われ
ているeラーニング等の教育用コンテンツの一部が携帯電話に移植される可能性が高いと考えられる。
以上のことから、本研究では数学教育の目的達成を支援する手軽なIT機器として携帯電話を考え、
教育用プログラムを開発する際の基礎理論の構築を目指す。具体的には、メタ認知能力の向上に寄与す
るようなコンテンツを作成するための基礎研究を行う。まず、問題解決方略の構造を分析し、体系化を
試みる。次に、問題解決方略がメタ認知能力と密接に関係していることに着目し、メタ認知能力の向上
を図る方法について考察する。次いで、重松[2]の先行研究を基に、問題解決方略がメタ認知に作用する
問題解決のモデルを提案する。最後に、高等学校数学の2次関数を対象領域として、体系化した問題解
決方略からヒントを生成する試作システムについて述べる。
2
研究目的
数学教育の目的達成を支援する手軽なIT機器として携帯電話を考え、教育用プログラムを開発する
際の基礎理論の構築を目指す。本研究ではメタ認知に着目して、その能力の向上を図るために、まず問
題解決のモデルを提案し、問題解決方略を体系化する。次に、体系化した問題解決方略からヒントを生
成する試作システムを設計する。
1
3
研究内容
(1) 数学における問題解決とメタ認知
①
問題解決
問題解決とは、目的や目標がわかっているにもかかわらず、それに到達するための手段や方法のわ
からない問題場面・課題場面において、そこに含まれるいろいろの条件を考え出し、その条件間の関
係を整理し関係づけることによって、1 つの解決方法を見つけ出す働きである。この問題解決におい
ては、概念作用・判断作用・推理作用が一緒に働くことになる。
この問題解決においては、問題場面に対してすでに学習した原理・法則を単に適用するということよ
りも、新奇な場面に対して新しい解決を「つくり出す」という点を重視する[3]。
②
メタ認知
認知活動についての認知をメタ認知(metacognition)と呼ぶ。メタ認知概念は、ブラウン(A. Brown)
やフラベル(J. H. Flavell)によって 1970 年代に提唱された。メタ認知は、自己学習力を高めるため
にも不可欠である。メタ認知は、まずメタ認知的知識(meta-cognitive knowledge)とメタ認知的活
動(meta-cognitive activity)に分かれ、それぞれがさらに細かく分かれる。
メタ認知的知識とは、メタ認知の中の知識成分を指す。メタ認知的知識は、人間の認知特性につい
ての知識、
課題についての知識、課題解決の方略についての知識の 3 つに分けて考えることができる。
メタ認知的活動とは、メタ認知の中の活動成分を指す。メタ認知的活動は、メタ認知的モニタリン
グ、メタ認知的コントロールの 2 つに分かれる。メタ認知的モニタリングとは、認知状態をモニター
することである。認知についての気づき(awareness)、認知についての感覚(feeling)、認知につい
ての予想(prediction)
、認知の点検(checking)などが含まれる。メタ認知的コントロールとは、認
知状態をコントロールすることである。認知の目標設定(goal setting)、認知の計画(planning)、
認知の修正(revision)などが含まれる[4]。
③
数学における問題解決
数学における問題解決学習の試みとして小学校や中学校で見受けられるのは、教科書で習った公式
を当てはめるだけの問題演習を繰り返すのではなく、生活の中などに算数・数学の教材を発見し、そ
れらを授業に用いることで数学を身近に感じさせるというものである。高校の数学においても身近な
生活の中に数学の教材を発見する試みは重要で、機会を捉えて実施するべきものと考える。ただし、
指導する内容や授業時数を考えた場合、現実問題としてそのような機会を数多く設定するのは難しい。
その代わりに、問題解決的な場面として主に位置づけられているのは、各単元の最後に設定してある
問題演習の時間である。それ以外にも、一定の必要な知識、公式や解法パターンの説明が終了したと
考える時点で、教師は小さな問題演習の場面を設定することが多い。問題演習の場面では、教師は生
徒が自力で問題を解決することを狙っている。これらの演習の時間が本来の意味での問題解決学習に
なっていれば望ましいが、多くの生徒にとってはそうなっていない。
生徒が自力で問題解決することを狙って実施される、問題演習の時間の実態について検討を加えて
みる。与えられた問題にすぐに取り掛かれる生徒もいるが、ほとんど手を出すことができないといっ
た生徒たちが少なからず存在する。この「手を出すことができない」生徒たちは大きく 2 種類に分類
される。1 つは、基本的な用語の意味が分かっていない、公式の暗記が出来ていないといった基礎の
部分ができていない生徒たちである。もう 1 つは、一定の知識や公式、解法は身に付けているにもか
かわらず、問題にほとんど着手できない生徒たちである。この後者の生徒たちに着目する。この生徒
たちは教師からの少しの助言があれば問題に着手できる場合が多い。つまり、これらの生徒たちは少
し自信がないだけで、教師からの後押しの一言が必要なだけであったり、問題文のどこに着目するか
の指摘だけが必要であったりする。あるいは、自力で問題を解くときには覚えた公式や解法パターン
の活用の仕方が分からない場合や、問題解決のための基本的な方針は正しいけれども、途中の些細な
場面で計算間違いなどをすることで正解にたどり着けない場合もある。従って、これらの生徒たちは
2
教師の少しの助言で問題を解けるようになる。
以上のことから、生徒自身の中に教師の助言の役割を果たすものを構築することができれば、問題
解決に有効と考えられる。それが「内なる教師」としてのメタ認知である。つまり、生徒が数学の問
題を解けないというとき、その大きな要因として、このメタ認知的な能力が十分に働いていないこと
が考えられる。このことから、「内なる教師」としてのメタ認知の育成が問題解決に有効であると考
える。
(2) 数学における問題解決モデルの提案
①
問題解決方略
メタ認知的知識の中の問題解決方略が問題解決の場面では大きな役割を果たすから、これの構造を
考える。問題解決方略は、一般的な方略(対象領域に依存しない方略)と領域依存の方略(対象領域
に依存した方略)に分類される。
ポリアは問題解決の過程として、次の4つの段階をあげている[5]。
1
問題を理解すること(Understanding the Problem、以下 UP)
2
計画を立てること(Devising a Plan、以下 DP)
3
計画を実行すること(Carrying out the Plan、以下 CP)
4
ふり返ってみること(Looking Back、以下 LB)
辰野[3]によると、デューイやワラス、ブランスフォードなども問題解決の過程として、4ないし5
段階をあげている。各人によって提案されている問題解決の過程は、小さな差異は有っても、ほぼ同
義であるといえる。そこで、本研究では問題解決に関する部分はポリアの研究を基に進めることにす
る。
問題解決の場面において、これらの各段階を絶えず意識することが有効である。例えば行き詰った
ときでも、どの段階に問題があるか、次に何をすればよいかなど、問題解決の大まかな道筋が見えて
くる。これらの各段階の目的を実現するために、その手段を具体的な手続きの形にしたものをポリア
は(問題解決のための)リストと呼んでいる。これが問題解決方略と呼ばれている。
ポリアの問題解決方略の例を以下に挙げる。
・
図をかけ。適当な記号を導入せよ。
・
似た問題を知っているか。役にたつ定理を知っているか。
・
問題をいいかえることができるか。それを違ったいい方をすることができないか。定義にかえれ。
・
データをすべてつかったか。条件のすべてをつかったか。問題に含まれる本質的な槻念はすべて
考慮したか。
これらの方略は、困難な問題を解決するときのメタ認知的な知識である。これらの方略を使って、
問題を解決する際の認知活動をモニターしたり、コントロールしたりできるようになると、それがメ
タ認知的活動となる。従って、教師はこれらの方略が生徒の内面に定着し、問題解決の場面で生徒が
困難に直面したときこれらの方略を思い起こして問題解決して欲しいと考える。これらは一般的な方
略であり、数学以外も含めてどんな分野の問題に対しても有効である。ある程度数学の問題に慣れた
生徒であれば、これらの方略の中の適当なものを教師がヒントとして示すことで、行き詰っていた局
面を打開できる。しかし、数学の問題を解き慣れていない大部分の生徒たちには一般的な方略だけで
は不十分で、より具体的な問題依存の方略が必要である。その例として2次関数の問題を考えてみる。
3
(例題)3点 (-3,0)、(2,0)、(1,12) を通る放物線をグラフとする 2 次関数を求めよ。
この問題に対して、一般的な方略を与えられても問題に着手できない生徒たちには、教師は具体的方
略をヒントとして少しずつ与えていくことが多い。生徒自身の力で解決した部分を少しでも大きくして、
達成感を感じさせるためである。これらのヒントは教師が頭の中で模範解答を作成し、その解答の順序
に対応する形で示される。例えば、教師は次のような流れで順次ヒントを出していく。
「2次関数はどうおけばよいか?」
このヒントでは生徒が問題に着手できないときは、
「2次関数のおき方は、y=ax2+bx+c か y=a(x-p)2+q である。」
このヒントでも生徒が問題に着手できないときは、続けて、
「頂点や軸に関する情報があるときは y=a(x-p)2+q の形を使う。
」
このヒントでも生徒が問題に着手できないときは、更に、
「(この問題には頂点や軸に関する情報はないから)y=ax2+bx+c とおく。3点を通ること
から、a、b、cの満たす関係式を導き、それらから、a、b、cの値を求める。
」(以下略)
その際に注意が必要なのは、一般的な方略を省略して、問題依存の方略のみを解法のテクニックのよ
うに指導することは一見効率的だが、そうなると発見的な問題解決から程遠い暗記中心の学問になって
しまい、数学教育の本来の目的から外れることになってしまう点である。
②
問題解決のモデル
単に問題依存の方略だけを指導するのではなく、適宜、一般的な方略と関連付けることで、徐々に一
般的な方略が生徒たちの身に付くことが期待される。これらはメタ認知的知識となる。これまでに述べ
た考えと重松によるモデルを元に作成したのが図 1 である。
生徒は問題が提示されると、これを解決
しようと、
まず通常の認知活動が開始する。
問題が複雑になるとメタ認知の活動が活発
になる必要がある。しかし、メタ認知的知
メタ認知(もう一人の自分)
問題※
メタ認知
的活動
モニタ
識の部分が貧弱な生徒や、メタ認知能力の
認知
働かせ方に慣れていない生徒は、少し複雑
評価
問題依存方略
コントロール
な問題になると解決に向けた行動が一切取
れなくなる。
解決
メタ認知
的知識
このようなとき、教師は問題に応じた具
自己
体的な方略を示すことをしばしば行う。こ
一般的な方略
方略
課題
の問題依存の方略によって、生徒は問題の
解決に向けて行動を開始することが多い。
このとき、問題依存の方略は主に図1のメ
タ認知的活動の中のコントロール部分に作
図1 メタ認知能力と問題解決方略との関係のモデル
用していると考えられる。
最初に、問題依存の方略のみが提示される場合を考える。経験を繰り返すことで、メタ認知的知識に
おける「課題に関する知識」や「自己に関する知識」の部分は若干は強化されると考えられる。しかし、
メタ認知的知識における「方略に関する知識」の部分の強化はほとんど期待できない。何故なら、生徒
自身による、一般的な方略と問題に関係した知識を組み合わせて、問題に応じた方略を創造するという
作業が抜け落ちているので、生徒の内面に一般的な方略が定着することがほとんど期待できないからで
ある。この場合、生徒自身による発見的な要素が少ない、アルゴリズム暗記型の授業になりがちと考え
る。更に、方略が問題のパターンに応じて多数暗記するべきものと捉えられ、自分自身による発見的な
要素も少ないので、方略のよさや数学のよさを感じることが少なくなることも予想される。
4
以上のことから、問題依存の方略のみが提示される授業の場合、大部分の生徒においてはメタ認知能
力の向上は期待できない。問題が与えられたときの解決の方法は、問題のパターンを見抜き、それに応
じた方略を思い出して、機械的に当てはめるというものになる。この場合、少しでも問題を変形・応用
されると、解けなくなる生徒が多数現れることが予想される。
次に、一般的な方略と問題依存の方略が併せて提示される場合を考える。この場合は一般的な方略か
ら具体的な方略が生成されることが意識される。問題解決の際のメタ認知的活動はメタ認知的知識と連
携したものになる。次いで、
メタ認知的知識における方略の部分が徐々に強化されることが期待できる。
方略を使って問題解決を繰り返す中で、課題に関する知識や自己に関する知識の部分が強化され、メタ
認知的知識全体も強化される。その後、生徒自身が一般的な方略から具体的な方略を生成できるように
なる。その結果、メタ認知的活動部分のモニター機能やコントロール機能の働きも活発になる。最終的
に、全体としてのメタ認知能力の向上が期待される。
(3) 問題解決方略の体系化
具体的な領域依存の方略は、一般的な方略と対象領域に関する知識を組み合わせて生成する。そして、
この具体的な方略が、生徒たちが問題解決を図る際にヒントとして働くと考えられる。そこで、一般的
な方略と対象領域に関する知識をオントロジーを用いて体系化した。
対象領域を2次関数として、知識を、(1) 単元、(2) 公式、(3) 解法、の3種類に分類する。解法は
公式ではないが、操作を含んだ用語に類するものである。
一般的な方略は、ポリアの方略を基に 27 個作成した。ポリアの方略は、数学の問題以外への適応も
視野に入れた抽象度の高いものであるが、今回作成した一般的な方略は、高等学校の数学への適応を主
に考えていることから、ポリアの方略の中から取捨選択し、若干の追加と表現の改変を加えた。27 個の
うちの 23 個はポリアの方略に準じるもので、残りの4個は新たに追加したものである(付録Aの一般的
な方略の 11、12、13、24 番)
。
目標設定を高等学校の教科書レベルの問題ということにして、これらの問題に対し有効なヒントとし
て働く、領域依存の方略が生成できる一般的な方略群として作成した。
(4) 試作システムの概要
本研究で提案した問題解決モデルと、体系化した問題解決方略を利用して試作システムを構築した。
システムの概念図を図2に示す。今回構築する試作システムでは、問題依存の方略だけでなく、一般的
な方略も適宜示す。
この一般的な方略は、問題に依存
Webサーバ
した方略よりは数が少ないので、生
徒にそのよささえ認識されれば、問
領域オントロジー
解き方
問題
・単元
題に依存した方略より速やかな定着
Web
ブラウザ
る。更に、一般的な方略と問題に関
出力機構
係した知識とを組み合わせて、問題
に応じた方略を創造するという生徒
自身による作業が含まれているので、
問題解決
エンジン
診断機構
オントロジー
組み)も早期に安定すると考えられ
問題抽出
が期待され、
問題解決のスキーマ(枠
・解法
・公式
問題解決方略
オントロジー
方略生成機構
発見的に問題を解決することが、問
題依存の方略のみの場合より多くな
図2 システムの概念図
ることが期待される。
本システムでは数式の画面表示に MathML(http://www.w3.org/Math/)を利用した。MathML は
5
XML ベースの数式記述言語である。
試作システムは高等学校数学の2次関数を対象としている。システムは Web アプリケーションとして
PHP と Java、JavaScript を利用して構築した。
システムの使用方法は、生徒は Web ブラウザ上の問題文を読み、画面上の数式入力用のボタンを使っ
て、解答を作成する。
通常の PC 端末のキーボード操
作よりは、問題用紙に解答を手
書きするような感覚に近づけて
いる。表示画面は MathML で
記述し、数学の記号も自然な形
パラメータ
を設定
で表示される。システムは問題
のパターンと解き方をデータベ
模範解答
出力モード
ースとして保持していて、問題
の数値の変更も可能である。生
徒の解答を受け取ったサーバ側
は診断機構を使って、生徒の解
解答入力モード
に移行
答を解釈し、生徒の解答状況を
把握できる。
例えば、「3点を通る放物線」
の問題を選ぶと図3のパラメー
タ設定場面に移動する。この図
の場合生徒は3点の座標が適当
図3 パラメータ設定場面
に設定できるので、例えば、教科書
の問題の数値に合わせて入力できる。
その後、模範解答表示モードか解答
指導モードを選ぶ。模範解答表示モ
ードはその名の通り、教科書の例題
に見るような記述の仕方で模範解答
を表示する。このシステムのメイン
ヒントを
表示
となるのは解答指導モードである。
こちらを選ぶと、図4の解答入力画
面に移動する。解答は、画面上側の
入力ボタンを使って入力する。入力
した生徒の解答は画面下側に表示さ
れる。
生徒はチェックを受けたいとき、
チェックボタンをクリックすること
解答入力用ボタン
で、自分の解答の大まかな進行状況
を把握できる。その際、ヒントボタ
ンをクリックすれば、方略生成機構
入力した解答を表示
が一般的な方略や問題依存の方略を
生成し、出力機構を使って、画面右
図4 解答入力場面
側にヒントとして順次提示する。
入 力さ れた 数式は内部で
6
MathML に変換され、必要なパラメータを抜き出して、演算プログラムへの代入や模範解答との比較に
用いる。連立方程式等は問題解決エンジンに代入して生徒の計算手続きの正誤を判断して、次に生徒が
導き出すべき計算式を逐次算出できる。これを元に、生徒が次の式を打ち込めば、その正誤を判定でき
るようになっている。
(5) 評価
本システムは、メタ認知能力の向上による問題解決能力の向上を狙いとして、問題解決のモデルを基
に試作された。従って、試作システムにおいてその狙いが実現されているか、作成したモデルは正当性
があるのかを検証する必要がある。そこで、高等学校の数学科の教員 3 名に対して本研究で提案した一
般的な問題解決方略およびシステムの有効性について評価実験を行った。
最初に、システムの狙いについて簡単な資料を配布の上、口頭で説明した後にアンケートに回答して
もらった。その後、聞き取り調査も行った。アンケートは4択式が3項目と自由記述が1項目である。
評価項目は、(1) システムが提示するメッセージの有効性、(2) 一般的方略の定着への有効性、(3) メ
タ認知能力や問題解決能力の向上への有効性、(4) 感想、の4項目である。
アンケートの結果を見ると、(1)については 2 人が「ある程度役に立つ」と答え、1 人が「ある程度役
に立つ」と「ほとんど役に立たない」の両方にチェックしていた。原因として考えられるのは、問題解
決モデルとしては、一般的方略と具体的方略の両方提示することで漸進的に一般的方略の定着を目指し
ていたが、実際に完成したシステムでは具体的方略の提示ができなかったので、ヒントとして考えた場
合、方略は抽象的と受け取られたと考えられる。(2)については、全員が「ある程度役に立つ」と答えた。
(3)については、2 人が「ある程度役に立つ」と答え、1 人が「ほとんど役に立たない」と答えた。ある
程度有効と受け取られたと考えられるが、システム改善の必要性を示唆しているとも考えられる。
また、自由記述や聞き取りで得られた意見には、「途中のつまずきに対して、ヒントが幾つか出るの
で、生徒に考えさせる場面が増えて、良いのではないか。
」等、有効性を認めるものが多かった。
4
まとめ
本研究では、携帯電話向けのプログラムを開発する際の基礎理論の構築を目指した。まず問題解決方
略の構造を分析し、これがどのようにメタ認知に作用するかを考察して関係モデルを作成した。次に、
考察したモデルに基づいて、生徒のメタ認知能力の向上が図れるような学習支援システムを試作した。
評価実験の結果を見ると、問題解決方略をヒントとして生徒自らが試行錯誤しながら問題解決を図る、
という方法についてはその有効性を認める意見が多かった。
今後の課題としては、今回試作したシステムが現在の携帯電話の能力では動作しないということが挙
げられる。しかし、 Windows Mobile という OS を載せた携帯電話が発売されるなど、携帯電話の高機
能化は継続している。従って、近い将来今回試作したシステムが携帯電話上で実現できると考えられる
から、その実現に向けた研究を継続したい。
参考文献
[1]日本学術会議数学研究連絡委員会附置・数学教育小委員会、
『「算数」
・
「数学」はなぜ学校教育に必要
なのか』、中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会算数・数学専門部会(第2回)2004 年5
月 31 日 配付資料。
[2]重松敬一、『算数教育における教師の職能成長のシステムの開発研究』
、科学研究費補助金(基盤研究
(C)(1))研究成果報告書;平成 13 年度~平成 14 年度、2003。
[3]辰野千壽、『学習方略の心理学』
、図書文化社、1997。
[4]日本教育工学会編、
『教育工学事典』
、実教出版、2000。
[5]G.ポリア(垣内賢信訳)、
『いかにして問題をとくか』
、丸善、1975。
7
付録A
一般的な方略
目標設定を高等学校の教科書レベルの問題ということにして、これらの問題に対し有効なヒントとし
て働く、領域依存の方略の生成が可能な一般的な方略群をポリアの方略を基に作成した。それが、以下
のものである。
各方略につけているタグの意味は次の通りである。
<題>題目的ストラテジー:ポリアの 4 段階に相当する大きな方略
<分>分解的ストラテジー:問題を分析、分解する方略
<合>統合的ストラテジー:分析した問題を再統合する方略
<補>補助的ストラテジー:時々有効となる方略
<検>検討的ストラテジー:検討用の方略
<助>援助的ストラテジー:側面から援助する働きの方略
<眼>着眼的ストラテジー:着眼の仕方を示す方略
<針>解法の方針的ストラテジー:解法全体の方針を発見する方略
<経>経験利用ストラテジー:経験を有効利用する方略
<予>予備的ストラテジー:別の方略の準備となる方略
<困>やや難問用ストラテジー:通常の解法で解決しない場合用の方略
1. <題>問題の理解に努める。[大事そうなところに下線を引く、式を抜き出してみる、等々](UP)
2. <分><合>求めるもの(答え)は何で、与えられた条件は何か。[問題文の分析と再構成。問題
は「・・・のとき、~を求めよ(解け)。」という形が多い。](UP)
3. <補><検>条件は十分か。[一見すると条件が足りない感じのとき、与えられた条件の1つが強
力に働くときや、問題文の中には無い、隠れた条件が有るときがある。(例)平面上の点P(x、y)
といえば、x、yは実数である。](UP)
4. <助><眼>図(、グラフ、表、・・・)をかいて全体を見通す。[問題を自分のものとする。見通し
を持つと、頭が良く働く。解答を進めるときにも役に立つことが多い。](UP)
5. <助>記号や文字を利用する。[数学で扱い易い形にする。3辺の長さをa、b、cとおく。yの
変化の割合を dy/dt と表す。言葉で書かれた条件を式にする。方程式を立てる。後で使いそ
うな式には番号を付けておく。等々](UP)
6. <眼>(解く手掛かりとなる)注目すべきポイントは何か。(キーワード等)(UP)
7. <題>求めるもの(答え)と、与えられた条件の関係を発見せよ。[関係は直接的に見えるときも
あれば、仲介物を通して初めて見えて来るときもある。例えば、中間的な目標を設定せよ。(例)(a
+b+c)(bc+ca+ab)-abc を因数分解せよ。](DP)
8. <眼><針>関係の有りそうな公式は何か。(DP)
9. <経><予>似た問題を思い出せ。(DP)
10. <経><眼><針>似た問題の方法や結論を利用できないか。[(例)x、yの対称式は x+y と
xy で表せる。](DP)
11. <眼><針>求めるもの(答え)の形を考え、それを具体的に(例えば式に)できないか。[また、
その形のどの部分を求めればよいか。それを求めるのに、条件をどのように使えるか。](DP)
12. <眼><針>与えられた条件や式を、使い易いように変形できないか。[場合によっては、結論の
8
式から解答を進めて、後で比較するのが有効なときも有る。](DP)
13. <助><検>(方針の選択や解答の進め方について)解法の大筋を捉える。[大まかな見通しを持
つことが、解答への着手を促し、右往左往したり、袋小路に入ったりするのを防ぐ。(例)増減表
を書けば解けそう。判別式を利用できそう。等々](DP)
14. <経><眼><針>前に使った方法が直接使えないとき、補助的な工夫を加えることで使えるよう
にならないか。[(例)角度の問題で、補助線を引く事で三角形の問題と捉える。](DP)
15. <眼><針>求める結果が得られたと仮定して、逆向きに解けないか。[求める結果を明確にイメ
ージすることで、必要となる道筋が見えてくることが有る。](DP)
16. <眼><針>定義に帰ることで、手掛かりが得られることが有る。[2次関数関連の問題と判別式
の関係。微分係数の定義。等々](DP)
17. <困><眼><針>問題を言い換えることで、容易になったり、既習の解法が使えたりしないか。
(そのとき、与えられた条件はどう変わるか。)[問題を違った視点から見る。(例)sinθ+cos
θ の最大値を求めるのに、単位円周上の点P(x、y) を利用する。](DP)
18. <困><眼><針>問題を一般化することで、容易になることがある。[(例)具体的な数値の問
題を、一般的な文字に置き換えることで見通しが良くなることが有る。](DP)
19. <困><眼><針>問題を特殊化することで、解決の糸口がつかめるときがある。[(例)直方体
の対角線の長さを求める問題で、高さが0の場合を解いてみる。](DP)
20. <困><分><眼><針>条件の一部からどんなことが分かるか。[条件を幾つかの部分に分けら
れないか。全体の解答とどう関係するか。](DP)
21. <困><眼><針>解き易い類題を考えることが、元の問題の手掛かりになることがある。[問題
の一部は解けるか。どういう条件が付加されていれば解き易いか。等々](DP)
22. <補><検><助>条件の使い忘れはないか。(DP)
23. <題><検>方針に従い解答を進め、適当な段階で検討を加え、必要に応じて方針を見直す。(CP)
24. <補>自信の持てるる解き方から試みよ。[大抵の問題は、何通りか解き方がある。(例)基本的
な公式だけを使う。図形を利用する。微分を利用する。等々](CP)
25. <題>結果の検討。[少しの検討が、長い目で見ると大きな効果をもたらす。](LB)
26. <検><眼>別の解法はないか。得られた答えが別の簡単な解法や、答えの意味を示しているとき
が有る。(LB)
27. <検><眼>使った方法や結果を総括する。他の問題に応用できないか。(LB)
9
付録B
ポリアのリスト(問題解決方略)
◇
未知のものはなにか。与えられているもの(データ)は何か。条件は何か。
◇
条件を満足させうるか。条件は未知のものを定めるのに十分であるか。又は不十分であるか。又は
余剰であるか。又は矛盾しているか。
◇
図をかけ。適当な記号を導入せよ。
◇
条件の各部を分離せよ。それをかき表すことができるか。
◇
前にそれをみたことがないか。又は同じ問題をすこしちがった形でみたことがあるか。
◇
似た問題を知っているか。役にたつ定理を知っているか。
◇
未知のものをよくみよ!そうして未知のものが同じか又はよく似ている、
みなれた問題を思い起せ。
◇
似た問題ですでにといたことのある問題がここにある。それを使うことができないか。
その結果をつかうことができないか。その方法を使うことができないか。それを利用するためには、
何か補助要素を導入すべきではないか。
◇
問題をいいかえることができるか。それをちがったいい方をすることができないか。定義にかえれ。
◇
もしも与えられた問題がとけなかったならば、何かこれと関連した問題をとこうとせよ。もっとや
さしくてこれと似た問題は考えられないか。もっと一般的な問題は?
もっと特殊な問題は? 類
推的な問題は? 問題の一部分をとくことができるか。条件の一部をのこし、他をすてよ。そうす
ればどの程度まで未知のものが定まり、どの範囲で変わりうるか。データを役立たせうるか。未知
のものを定めるのに適当な他のデータを考えることができるか。未知のもの若しくはデータ、ある
いは必要ならば、その両方をかえることができるか。そうして新しい未知のものと、新しいデータ
とが、もっと互いに近くなるようにできないか。
◇
データをすべてつかったか。条件のすべてをつかったか。問題に含まれる本質的な槻念はすべて考
慮したか。
◇
解答の計画を実行するときに、各段階を検討せよ。その段階が正しいことをはっきりとみとめられ
るか。
◇
結果をためすことができるか。議論をためすことができるか。
◇
結果をちがった仕方でみちびくことができるか。それを一目のうちに捉えることができるか。
◇
他に問題にその結果や方法を応用することができるか。
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付録C
アンケート
問題解決方略アンケート
お手数ですが、今回のシステムの感想について、簡単なアンケートにご協力ください。
このシステムは、個々の問題に即した具体的な方略だけでなく、一般的な方略も提示することで、徐々
に一般的な方略が生徒に定着することを目指しています。次に、この一般的な方略が、教師の助言のよ
うな働きをするようになることで、生徒の問題解決能力が向上することを目指しています。
1
2
3
4
ヒントとして表示されるメッセージは、生徒が問題を解くとき、
a 非常に役に立つ
b ある程度役に立つ
c ほとんど役に立たない
d 全然役に立たない
ヒントとして表示されるメッセージは、生徒に一般的な方略が定着するのに、
a 非常に役に立つ
b ある程度役に立つ
c ほとんど役に立たない
d 全然役に立たない
ヒントとして表示されるメッセージは、生徒のメタ認知能力や問題解決能力を高めるのに、
a 非常に役に立つ
b ある程度役に立つ
c ほとんど役に立たない
d 全然役に立たない
自由な感想をお書きください。
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