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超小型衛星試験の国際標準化プロジェクトの紹介

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超小型衛星試験の国際標準化プロジェクトの紹介
トピックス
超小型衛星試験の国際標準化プロジェクトの紹介
国立大学法人 九州工業大学
宇宙環境技術ラボラトリー 施設長・教授
趙孟佑 Ph.D.
1.はじめに
一方、小型・超小型衛星(本稿では、超小
米国のSpace Foundation財団が2011年に発表
型衛星は50㎏/50㎝程度よりも小さいものを指
したレポート(文献1)によれば、2010年末
している)は、地上民生品(COTS: Commercial-
の時点において全世界で52ヵ国が衛星を保有
Off-The-Shelf)を使用することによって低価
し、2012年末迄に30の国が250機の衛星を打
格・短納期を達成する事を特徴とし、従来の
上げるだろうと予想している。今や人工衛星
中・大型衛星とは異なった作り方が求められ
は、一部の先進国だけが開発できるものでは
る。そのため中小企業であっても、優れた地
なく、途上国においても自国のニーズに合っ
上民生品技術をもっていれば新規参入の余地
た衛星を自ら開発できるようになりつつあ
が充分にあり、また世界各地での小型・超小
る。このように衛星開発技術が世界中に広
型衛星への需要を考えると、従来とは全く異
がっていこうとする中で、衛星開発の第一歩
なった未開拓の市場が待ち構えている。特に、
としての超小型衛星開発に対する需要が急速
未だ商業市場が充分に育っていない超小型衛
に高まっている。また先進国においても、大
星は、中小企業が宇宙への新規参入をはかる
学・中小企業を中心として超小型衛星開発の
ための格好の入り口であり、国内宇宙産業基
動きが非常に活発になっている。これらは全
盤の縮小を食い止める切り札として期待され
て、従来の宇宙開発・利用とはあまり関わり
ている。
を持ってこなかった新規参入者といえよう。
従来の中・大型衛星を中心とした宇宙開発、
超小型衛星の低価格・短納期という利点は、
地上民生品の広範な利用と、非宇宙の中小企
特に衛星製造等のフライトセグメントの分野
業 で の 製 作 に よ っ て 可 能 と な っ て い る。
においては、平和・軍事用途を問わず官需に
COTS品は元が宇宙での使用を想定していな
大きく依存してきたがために、極めて高い信
い。そのため、超小型衛星の低価格・短納期
頼度が要求されてきた。高信頼度の要求が衛
という利点は、信頼度をある程度犠牲にして
星の価格を押しあげ、更に価格が上昇したこ
いることで達成されているといえる。実際、
とによって、より高い信頼度が要求されると
いくつかの統計によると超小型衛星の軌道上
いうスパイラル効果による高信頼度と高価格
での成功率は低く、文献2によれば、過去に
(そしてそれらに付随する長い納期)が中・
打上げられた10㎏以下の衛星の場合、軌道上
大型衛星を特徴づけてきた。そのような世界
に到達してからミッション成功に至ったのは
に、中小企業が新規参入しようとしても、顧
48%しかない。大学や非宇宙の企業にて作ら
客から要求される高信頼度要求を達成するた
れた衛星の場合、10㎏を超えると成功率が極
めのコストや時間が障壁となって、なかなか
端に低下するという報告もある(文献3)。衛
参入が果たせない状態が続いてきた。
星の不具合は初期故障が大半を占めるが(文
6
平成24年2月 第698号
献4、5、6)、特に衛星サイズが小さくなる程、
基準の構築」というプロジェクト(英語名称は
初期故障の割合が大きくなるという特徴があ
Nano-satellite Environment Test Standardization
る(文献7)。超小型衛星の場合は、特に初期
でNETSプロジェクトと略す)が、九州工業
故障の発生が顕著である(文献3)。
大学と基準認証イノベーション技術研究組
超小型衛星の低い成功率は、その目的が教
合、日本航空宇宙工業会、宇宙開発合同会社
育や技術実証であれば、ある程度許容できる
の4者を実施主体として2011年9月にスタート
ものである。しかしながら、超小型であって
した。NETSプロジェクトは、経済産業省の
も価格が1億円を超えることを考えると、商
アジア基準認証推進事業費補助金による支援
業目的として打上げられる衛星の場合は、そ
を受けて実施されている。プロジェクトの目
の許容度合いは狭められてくる。超小型とい
標は
えども「失敗できない衛星」に近づいてくる。
・超小型衛星システムの試験方法
将来において、百機のコンステレーションの
・超小型衛星搭載機器の試験方法
中の一機が失敗したとしても、その失敗は許
・超小型衛星試験の文書体系
容できるかもしれない。しかし、未だその段
の3項目を含むISO国際標準規格を制定するこ
階には至っておらず、商業衛星としての利用
とである。規格では、主として認定試験と受
は、単機ないし、せいぜい3∼4機による同時
け入れ試験を対象とし、大部分が振動・真空
運用が現状である。超小型衛星の利用ビジネ
等の環境試験であるが、機能試験等も含むこ
スは、従来の宇宙利用の固定概念にとらわれ
ととなる。
ない斬新な利用方法に対する新たな投資家の
支援を得て進めることができれば、飛躍的に
3.試験規格のニーズ
発展する可能性がある。しかしながら、もし
超小型衛星試験規格は、各界の様々なニー
も軌道上での失敗が現状のように続けば、超
ズに応えることを目指している。超小型衛星
小型衛星全般に対する信用が傷つき、投資家
のシステム開発者の場合、搭載機器を自社で
からの信頼を克ちとる前に現在の超小型衛星
開発せずに市場から調達する、即ち「買える
開発の世界的ブームが失速し、超小型衛星は
ものは買う」ことが衛星を安く早く作るため
教育や技術実証を目的としたものだけが残っ
には大事であるが、従来の衛星作りと違って
ていくことになろう。そうなれば、宇宙産業
購買決定前に製造元を訪問する時間もお金も
を再生させる折角の機会を失ってしまうこと
ない。既に「超小型衛星対応」を謳った搭載
になる。それ故に、超小型衛星の信頼度を向
機器のインターネットショップがある(10㎝
上させることは、宇宙産業全体の将来にとっ
級のキューブサットであればバスシステムの
ても重要で且つ緊急の課題である。低価格・
全てをネットで買うことすら可能である)が、
短納期という利点を維持したまま、信頼度を
それらの商品が、設計方法は勿論、どのよう
向上させるという困難な課題の解決が迫られ
な試験を経て「宇宙対応」とされているのか
ている。
という情報が、客には非常に不透明である。
軌道上実績があったとしても、全く同じ部品
2.NETSプロジェクト
で構成されているという保証もない。そのた
超小型衛星の信頼度を向上させることを目
め、もし「宇宙で動く」ことを確実にしたけ
的として、「超小型衛星の耐宇宙環境性評価
れば、未だに多くの場合がよく知られた宇宙
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トピックス
企業によって作られた宇宙向け部品を買いが
ることができる。ガイドラインに沿った試験
ちである。そうなれば、結局は納期と価格が
を実施していくことによって、初めて作られ
増え、超小型衛星の長所が失われる。市場で
た超小型衛星であっても、その信頼度を改善
売られる商品が、既知の環境試験を経たもの
することが可能となる。
であるという保証があれば、最低限の安心感
試験規格は、打上げ事業者と衛星側とのイ
をもって搭載機器を調達することが可能とな
ンターフェース調整における問題を解決する
る。
のにも役立つ。超小型衛星の開発者としては、
試験規格は、超小型衛星の売買契約上の
打上げロケットに依存しない設計・検証・試
ニーズにも応えることができる。中・大型衛
験プロセスを取り入れることで、運用したい
星の売買契約においては、買う側も売る側も、
軌道に打上げられるロケットであれば、どの
過去50年間の宇宙活動の経験に基づいて、ど
ロケットでも空きスロットさえあれば、ピ
の程度まで試験をすればいいかという暗黙の
ギーバックを利用して速やかに打上げられる
了解が存在している。しかしながら、超小型
ようにしたい。しかしながら、現状では、衝
衛星の場合、売る側(作り手)も買う側も宇
撃試験方法等に関してロケット側でピギー
宙ビジネスに新規参入の場合が多く、両者の
バック衛星の試験方法に対する考え方が統一
間にどの程度まで試験すべきなのかという意
されているとは言いがたい。ロケットと衛星
識にずれが生じる危険がある。買う側として
の間のICD(Interface Control Document)で単
は、たとえ超小型衛星といえども1億円を超
に「???試験方法については、ISO-???に準拠」
える価格である以上「徹底した試験」を求め
とあれば、インターフェース調整(多くの場
るが、試験のイメージが中・大型衛星での試
合、違う国なのでコミュニケーション自体が
験のイメージに引きずられることがある。売
大変である)が非常に簡単になると共に、衛
る側は、超小型衛星なので、低価格・短納期
星開発における柔軟度も増す。
を達成するためには省略できる試験は省略し
たいし、試験レベルや期間も緩めたいと思う
4.プロジェクト内容
かもしれない。現在のところ、超小型衛星の
筆者は過去に衛星搭載太陽電池パネルの帯
試験や検証について両者が一致できるレベル
電放電試験方法の国際標準規格(ISO-11221)
は存在しない。そのようなレベルは、時間が
を作成するプロジェクトリーダーを担当した
経って軌道上での成功や失敗の実績が積み上
経験をもつ。プロジェクトは2005年に実質的
がるにつれて、あるレベルに収斂していくが、
に ス タ ー ト し、2007 年 に NWIP(New Work
超小型衛星をとりまく状況の変化の早さを考
Item Proposal)が承認され、2011年8月に第1版
えると、悠長に10年、20年と軌道上実績が積
が正式に出版された(このプロジェクトの詳
み上がるのを待っている訳にもいかないのが
細な経過は文献8を参照)。この時の経験から、
現状である。明確に書かれた国際標準の試験
国際規格を作成する際のポイントは以下の点
規格があれば、超小型衛星システムの売買契
にあると考えている。
約の作業を円滑に進めることが可能となる。
・豊富な試験実績と基礎データを保有し、積
試験規格は、宇宙環境試験の知識に乏しい
中小企業等の宇宙への新規参入者に対して、
実施可能な環境試験のガイドラインを提供す
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極的にデータを開示していく
・専門家間の団結を保ち、よりよいものを作
ろうとする気持ちを共有する
平成24年2月 第698号
図1 NETSプロジェクトにおける試験規格作成の方向性
・旅費を出してでも、ワークショップ等に海
外から人を呼ぶ
・議事運営を日本が握っているISOのWGで進
める
・規格を成立させるために、妥協すべきとこ
affordable且つreliableな超小型衛星向け試験規
格を作成していく。一方で、合理的な理由を
得るための基礎研究も合わせて実施し、その
中で生まれる新たな知見を随時超小型衛星向
け規格に取り込んでいく予定である。
ろは妥協する
今回のプロジェクトの進め方の根幹は、こ
の経験に基づくところが大きい。
上記の方向性に基づいて、NETSプロジェ
クトでは以下の項目について活動を行なう予
定であり、幾つかの項目を除き、既に実行段
図1は、NETSプロジェクトでどのようにし
階に入っている。
て試験規格を作成していくかを示している。
(1)現在の各種衛星試験規格の調査と比較
衛星の環境試験方法については、既に幾つか
(2)過去に超小型衛星プロジェクトを実施し
の国内・国際規格が存在する。国際規格とし
た団体への聞き取り調査
て は、ISO-15864(Space systems ̶ General
(3)基礎研究
test methods for space craft, subsystems and
(4)ラウンドロビン試験
units)が2004年に出版されている。国内規格
(5)アジア諸国との共同研究
としては、JAXAのJERG-2-002や欧州のECSS-
(6)規格草案の作成と国際調整
E-ST-10-03C等、各国に存在する。これらの
規格は、50年間を超える過去の経験に基づい
(1)の調査においては、ISO-15864, SMC-S-
たものであるが、中・大型衛星への適用を念
016, NASA-STD-7002A, ECSS-E-ST-10-03C,
頭においたものである。それ故、それらの規
JERG-2-002等々の現行の衛星試験規格の比較
格に準拠して試験を行なうことは非常に高価
対照表を作成している。(2)の調査では国内
であるが、一方で信頼度の高い衛星を打上げ
で過去に超小型衛星を打上げた20近い団体に
ることも保証している。NETSプロジェクト
対して、どのような試験規格を参考にしたか、
においては、これらの現在の規格を合理的な
どの試験を行い、どの試験を行なわなかった
理由に基づいてテーラリング(手直し)して、
か、行なわなかった場合の理由、試験中並び
9
トピックス
に軌道上にて露見した不具合、試験文書はど
る。我々は、熱真空試験、熱サイクル試験、
のように作成されたか、どのような試験モデ
真空試験(常温)を行い、果たして真空試験
ルを作成したか、等々の聞き取り調査を行っ
と熱サイクル試験の組み合わせで、熱真空試
ている。
験を代替できるかどうかを検証する。もし、
(3)の基礎研究では、X帯送信機(RF, 3W
出力)と電力制御器(PCU、最大200W、28V
それが可能であれば、試験コストを大きく削
減することが可能になる。
出力)の二つの搭載機器について各々複数の
RFやPCUといった搭載機器以外にも、過去
供試体を用意し、性能がノミナル値を逸脱し
に地球観測をミッションとして開発された50
はじめるまで様々な環境負荷に曝す。試験と
㎏/50㎝の超小型衛星をベースとして、RF・
しては、熱真空、熱サイクル、放射線、振動、
PCU・バッテリー・コンピュータといった基
衝撃、等を実施予定である。図2にPCU供試
本的衛星機能を備えたダミー衛星を作成す
体の写真を示す。例えば、現在のところ、全
る。図3に現在製作中のダミー衛星の写真を
ての環境試験規格では熱真空試験がRFやPCU
示す。他の機器は、ヒーター内蔵のダミーマ
といった電子電気機器には義務づけられてい
スであるが、搭載される機器については超小
図2 電力制御器供試体の写真
図3 ダミー衛星の写真
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平成24年2月 第698号
図4 九州工業大学超小型衛星試験センターでの試験風景
(左:7㎏/30㎝の鳳龍弐号のEM振動試験、右:50㎏/50㎝のQSAT-EOSの熱平衡試験)
型衛星のフライト品と同等の品質をもたせた
力を要請していく予定である。
ものである。このダミー衛星の内部に熱・加
これら基礎研究や調査の結果は、超小型衛
速度センサーを多数つけ、熱並びに機械試験
星開発者、搭載機器メーカー、JAXA、研究
において、衛星内部の温度、加速度分布がど
機関、学界等で構成する委員会(プロジェク
のようになるかを計測する。これらの試験は
トのステアリングを担うプロジェクト委員会
九州工業大学超小型衛星試験センターにて実
とシステムと搭載機器の基礎研究結果を話し
施する。図4に九州工業大学にて衛星試験を
あう2つのWGにて構成)にて詳細に吟味され
行なっている模様を示す。尚、図3でもわか
る。
るようにダミー衛星は2機製作しており、1機
NETSプロジェクトにおいては、専門家間
は九州工大にて試験を行い、1機は外国の共
での合意を形成するために、一連のワーク
同研究機関にてラウンドロビン試験の供試体
ショップ(WS)を開催していく。WSは超小
として使用する予定である。
型衛星の試験に興味をもつ人々が自由に意見
また、搭載機器を使用した試験だけでなく、
や情報を交換できる場として機能し、コミュ
試験戦略の最適化に関する研究も実施中であ
ティとしての一体感を醸成するための鍵とな
る。現在、搭載機器や衛星システムのそれぞ
るものである。WSでは、科学的な議論に基
れ で 認 定 試 験(QT)や 受 け 入 れ 試 験(AT)
づいて結論を出せるよう、基礎研究の成果を
を実施したり、あるいはプロトフライト試験
参加者の元で共有する。第一回のWSが2011
(PFT)を実施したりしているが、QT、AT、
年12月に北九州国際会議場で開催された。第
PFTを搭載機器と衛星システムの試験におい
一回の目的はキックオフであるため、試験規
てどのように組み合わせれば、衛星開発のシ
格の必要性とメリットを参加者で共有し、日
ス テムライフサイクルの中でコスト・スケ
本が試験規格作成のイニシアティブをとるこ
ジュール・信頼度が最適化できるかを、確率
とを認めてもらうことを目的とした。国外か
論的なシミュレーションにより調べていこう
ら36名、国内から54名が参加し、標準化の必
とするものである。システムライフサイクル
要性とメリット・作業項目・ステークホル
の各段階でのコストや時間等の基礎データに
ダー・体制・ロードマップ等々について議論
ついては、超小型衛星コミュニティに広く協
を行なった後、国際標準規格が超小型衛星の
11
トピックス
図5 第一回ワークショップでの議論風景
発展にとって重要であること、専門家として
してISO/TC20/SC14/WG1に提出する予定であ
規格作成に協力していくこと、の2点を参加
る。それら公式チャンネルでの動きと平行し
者全員で決議して閉会した。次回は2012年12
てWSで専門家間の議論を行い、SC14の場で
月に同じく北九州で開催するが、その際は参
の議論や投票を円滑に進めていく。現在想定
加者を絞り込んで、1週間に亘って、九工大
しているロードマップを表1に示す。2013年
でのデモ実験や規格草案の逐条審議等を行な
春にNWIPを提出した後、3年以内の2015年秋
う予定である。また、メイルリストとファイ
迄にISO規格として正式に出版されることを
ル共有のサーバーを九工大に設置し、国際的
目指している。
な情報交換を行なうこととなった。
現 在、規 格 の 目 次 案 を 作 成 中 で あ る が、
規格草案は、草案をまずNETSプロジェク
NETSプロジェクトの国内委員会やWSでの議
トの国内委員会で吟味した上で、日本航空宇
論に基づいて、試験規格の目的については、
宙工業会のISO分科会で審議し、日本提案と
超 小 型 衛 星 の 軌 道 上 で の 初 期 故 障(infant
表1 超小型衛星試験国際標準規格作成に向けたロードマップ
12
2011年12月
第1回ワークショップ(@北九州)
2012年春
目次案の公開と配布
2012年夏
Working Draft ver.1
2012年12月
第2回ワークショップ(@北九州)
2013年3月
Working Draft ver.2 をNew Work Item Proposalとして提出
2013年夏
第3回ワークショップ(@東京)
2013年秋
Committee Draft ver.1(CD/C)
2014年3月
Committee Draft ver.2(CD/V)
2014年秋
DIS/V 登録と投票
2015年春
DIS/V 投票終了。FDIS として編集作業
2015年秋
ISO規格として出版
平成24年2月 第698号
mortality)の改善に重点をおくことを明確に
5.おわりに
する方向性が固まりつつある。これは、衛星
超小型衛星の開発と利用が世界的に注目を
の軌道上寿命を保証する以前に、現在のあま
浴びる中で、超小型衛星の商業利用を拡大さ
りにも高い初期故障率を改善することがまず
せる為に信頼度の向上が喫緊の課題となって
求められていることによる。また、新たな発
いる。地上民生品を多用する超小型 衛星に
明を阻害しないように注意しつつ、主として
とって宇宙環境試験は必須であるが、低コス
衛星の認定試験と受け入れ試験の要求と方法
ト・短納期の維持と信頼度の向上という二つ
について述べる。但し、中・大型衛星向けの
の相反する命題が突きつけられている。超小
従来の試験規格と区別するために、超小型衛
型衛星開発と利用の拡大を望む各界のニーズ
星特有の低コスト・短納期を追求する設計・
に応えるべく、超小型衛星試験の国際標準規
検証・試験思想を強調し、単機からコンステ
格を作成するNETSプロジェクトが経済産業
レーションまでの衛星プログラムに応じた試
省の支援の下で始動した。2014年3月までの2
験戦略、低コスト・短納期・信頼度を最適化
年半のプロジェクト期間中に、国内の叡智を
するための試験戦略を述べた上で、具体的な
集めた基礎研究によって試験データを蓄積
試験要求・試験方法を述べていく予定である。
し、各国専門家が集うコミュニティでの議論
NETSプロジェクトにおいては、ISO制定後
を通じて、2015秋のISO規格出版に道筋をつ
の認証ビジネスの展開も念頭において、宇宙
けるべく、活動を行なっている。
新興国、とりわけアジア諸国への規格の普及
50㎏/50㎝以下の超小型衛星の現在の用途
も活動項目の一つとしてあげている。現在の
は、教育や技術実証が殆どを占めるが、技術
計画では、アジア諸国で開発中の衛星を日本
革新が進むにつれ、今後数年のうちに商業衛
に持ち込み、技術者も同時に招聘して、国際
星としての利用が本格化するのは間違いな
標準規格の草案に基づいた試験を日本の研究
い。超小型衛星には今のところは業界標準が
メンバーと一緒に実施することで、試験規格
存在しないが、商業用途が進んだ後に国際標
を普及させることとなっている。これは、昨
準規格を作成しようとしても、利害関係者の
今 注 目 を 浴 び て い る 宇 宙 分 野 で の Capacity
調整が非常に難しくなる。商業利用の揺籃期
Buildingの一環とも言え、将来的な宇宙イン
にある今のうちに国際標準を作ってしまうこ
フラ輸出の可能性をも秘めているものであ
とが肝要である。その際には、できる限り専
る。宇宙新興国が日本発のISO規格を採用し、
門家間で科学的議論を尽くした上で標準を作
国際的な超小型衛星機器の調達ネットワーク
ることが大事であり、その枠組みを第一版で
を利用しようとした時、この規格に沿った試
作っておけば、その後に起きる様々な事例を
験を実施した機器を調達したいということに
反映させて改訂を行なっていくことも容易で
なる。その時には、ISO規格に準拠した試験
ある。また、日本発で試験方法の国際標準規
をしたかどうかを認証してもらえる機関への
格を作成することが、国内の中小企業が超小
ニーズが発生するであろう。最終的には、こ
型衛星機器で海外市場に進出する助けとなる
の認証ビジネスを日本の企業が担うことを目
ことは言う迄もない。
指している。
超小型衛星を商業衛星として用いた場合、
最も真価を発揮するのは数10機以上の衛星の
同時運用(コンステレーション)による利用
13
トピックス
であると考えられる。超小型衛星であれば、
(3)斉藤宏文、“軌道上故障統計とコストを
大型衛星1機分程度の価格で、全球をカバー
考慮した信頼性工学の試み”、JSASS-2010-
する衛星網を構築可能である。コンステレー
4050、第 54 回 宇 宙 科 学 技 術 連 合 講 演 会、
ションは、世界のあらゆる場所での多地点の
2010
常時観測・常時アクセスを可能にするもので
(4)M a r k T a f a z o l i ,“A s t u d y o f o n - o r b i t
あり、昨年の東日本大震災で明らかになった
s p a c e c r a f t f a i l u r e s ”, 5 8 t h I A C , A c t a
宇宙利用の限界を克服し、「環境にやさしく、
Astronautica 64(2009)195–205
安全・安心・快適な生活」を提供するための
(5)Jean-Francois Castet and Joseph H. Saleh,
革新的な社会インフラとなりうる。超小型衛
“Satellite Reliability: Statistical Data Analysis
星試験の国際標準規格は、そのような社会イ
and Modeling”, Journal of Spacecraft and
ンフラに必須の信頼度を提供する助けとなり
Rockets Vol. 46, No. 5, 2009
うるであろう。
NETSプロジェクトに関する詳細は、http://
cent.ele.kyutech.ac.jp/nets_web.html をご覧くだ
さい。
(6)OECD, The Space Economy at a Glance,
OECD 2011
(7)Gregory F. Dubos, Jean-Francois Castet and
Joseph H.Saleh,“Statistical reliability analysis
of satellites by mass category: Does spacecraft
参考文献
(1)Space Foundation,“The Space Report 2011”
.
size matter?”, Acta Astronautica67(2010)
584–595
(2)J. Bouwmeester, and J. Guo,,“Survey of
(8)趙孟佑、今泉充、「衛星搭載太陽電池パ
worldwide pico- and nanosatellite missions,
ネルの帯電放電試験方法のISO国際標準規
distributions and subsystem technology”, Acta
格(ISO-11221)について」、日本航空宇宙
Astronautica, Vol. 67, pp. 854–862, 2010
学会誌 59(688), 142-148, 2011-05-05
14
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