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考えることが好きな生徒のための「力自慢」実践報告

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考えることが好きな生徒のための「力自慢」実践報告
考えることが好きな生徒のための「力自慢」実践報告
深川 久(府立大手前高校)
1
はじめに
昨年度,1年生を対象に世界各地で行われている数学
コンテストの中から選んだ問題を生徒向けに印刷配布し
て答案を募り,優れた答案を紹介するとともに若干の講
評をつけたプリントを作成して配布する,という取り組
みを年間を通して行った。
実はこの取り組みを昨年度 1 年生を対象に始めたのは
澤井勲先生であり,
「力自慢」というタイトルも澤井先生
による。その後,学年主任としてきわめて多忙な澤井先
生に代わり,転勤したばかりで比較的時間に余裕のあっ
た私が第 3 号以降を引き継ぐ形で続けることとなった。
本稿では,本実践の背景とねらい,具体的な実施方法,
生徒から寄せられた答案と配布した講評の実例,今後の
展望について述べる。
2
背景とねらい
多くの場合,数学の授業は,新しい概念や方法を習い,
それを用いた問題の解き方について解説を聞いたり質問
に答える形で誘導されつつ解き方を「見つけ」たりした
後に,同種の問題が解けるよう練習をする,という形で
進行する。教科書にある数学的概念や方法は,長い時間
のうちに先人の思考が積み重ねられた結果はっきりとし
た形をとり,教科書に書けるまでに整理されてきたもの
である。後から学ぶものが,先に述べたような「効率的」
な授業を通じてその成果を受け継ぎ,習得することは必
要であり,重要であると考えている。
一方,数学の魅力の一つに,初めて目にする問題を自力
であれこれ考え,失敗してはやりなおし工夫を重ねるう
ちにようやく問題を巡る状況がはっきりと理解でき,つ
いにその問題が解けたときの喜び,というものがある。
これらは車の両輪のようなものであり,前者のような
地道な学習で身につけた知識や方法は後者のようなアプ
ローチをする際に有効なものの見方や道具となってくれ
るだろう。また後者のような喜びが前者のような知識習
得の動機付けとなることが望ましい。
今回報告する実践は,後者のような姿勢で数学に取り
組む場面を設定することを第一のねらいとしている。ま
た,応募された生徒の答案の中から優れたものを紹介し,
簡単な講評をつけたものを学年全生徒に印刷配布するこ
とにより,自力で工夫しながら考えることの好きな生徒
の活動を単に個人の活動として終わらせるのではなく,他
の生徒にも影響を与え得るものとして活用することを第
二のねらいとした。
なお,先行する実践事例として,公庄庸三先生(海陽
中等教育学校)による「清風高校数学オリンピック」
([4],
[5])がある。上に述べたねらいは,本会会誌に掲載され
ている公庄先生の報告に述べられているねらいと重なる
ところが多い。また,形態は異なるが私自身前任校の土曜
講座として実施した「豊中高校数学セミナー 2003」
([1])
の中で「世界の数学コンクール問題に挑戦」という企画
を実施したことがある。今回利用した問題の中にも,こ
れら先行する取り組みで用いられた問題を再利用したも
のが多い。特に本会会誌第 45 号の記事 [1] を読まれた方
は,そこで取り上げられている問題の多くが以下の記事
の中にも登場することに気づかれるであろう。これら 2
つの事例だけに限らず,今回の取り組みを澤井先生から
引き継いだ後,無事年度末まで通算 15 号を発行できたの
は本会の活動を通じて見聞きしていた多くの先生方の実
践事例に助けられた部分が大きいことを付記しておく。
3
実施方法
実施方法について,問題の選定,生徒への配布,答案
の回収,講評の作成,の順に述べる。
問題はすべて,過去の他の先生方の実践報告の中に現
れるもの,数学オリンピック予選の問題,世界各地で実
施されている様々な数学コンテストの問題,ときには面
白い大学入試問題などからの借り物である。この取り組
みは生徒の中に「進んで考える」という活動を引き起こ
すことがねらいであり,新作問題の出来を競うことが目
的ではない。そこで,問題選定段階では作ることにでは
なく選ぶことに力を注ぐことにした。選定してみて感じ
たことは,数学オリンピックの問題は問題を読んだとき
の第一印象がやや硬く,生徒をつかむという点ではなか
なか難しいと感じた。むしろ,諸外国で実施されている
地域の数学コンテストなどの中に手ごろな問題が多い。
生徒には,問題を 1 問掲載した B5 サイズのプリント
を作って授業の際に 1 年生全員に配布した。提出は任意
なので,職員室の数学教員席付近に専用の提出箱を置い
ておき,解いた生徒は各自で箱に入れにくることとした。
この方法では,自分では問題を解いているのだが提出し
ていないという生徒が一定数いた。講評配布時に聞こえ
てきた生徒間の会話などから実は解いていたことがわか
ほとんどの人は,これを当然のこととして説明抜きに述
り,次回は提出するよう勧めたところ,その後常連提出
べて利用していました。奇数という言葉一つ出すだけで,
者となったという例もあった。今年度は,より提出しや
不可能性が明確に表現できますね。
すいように,提出箱の設置場所を職員室の外に変えた。
講評は,生徒の答案のうち優れているものを必要に応
じて多少の手直しをして掲載し,そこにコメントを一言
つけるという形で作成した。この講評には正解者のクラ
ス,名前をすべて記載した。定期考査の点数や席次と異
なり,いわば課外活動として,スポーツで優れた成果を
A,B の 2 人が次のようなゲームをした。2 人が交
互に 1 以上 6 以下の数をひとつ自分で選ぶ。1 つの
数が選ばれるたびに,それまでに選ばれた数の合計
が計算される。合計がちょうど 22 になるような数を
選んだ方の勝ちとなる。たとえば,
挙げた生徒が表彰されるように優れた解答を寄せた生徒
A が 2 を選んだ。合計は 2
を称揚する場があってよいと考えた。
B が 6 を選んだ。合計は 8
A が 3 を選んだ。合計は 11
B が 6 を選んだ。合計は 17
A が 5 を選んだ。合計は 22 よって A の勝ち。
以上が実施手順である。
4
生徒の解答および講評例
以下,生徒に配布した講評の抜粋を紹介する。これ以
後の本節の文章は,生徒氏名をイニシャルで置き換えた
以外,生徒向けに書いたものそのままである。
下図のような 2 × 12 の長方形 A に,1 × 2 の長方
形 B を 12 個詰め込むとき,その詰め込み方は何通
りあるでしょうか。ここで,長方形 B は縦向き・横
向きどちらの向きで詰め込んでもよいものとします。
A が先手とするとき,A の必勝戦略が存在するこ
と,すなわち,先に数を選んだ方が必ず勝てること
を示せ。また,必ず勝つためには,最初に A はどの
数を選ばなければならないか。
解答は,大きく分けて 3 通りのタイプがありました。
後ろからさかのぼるタイプ,前から後ろへと進めて行く
タイプ,そして,いったん最初から最後までを見渡した
上で,A が最初に選ぶべき数について考えているタイプ
長方形 A:
です。これらについて,順に見て行きましょう。
長方形 B:
一番多かったのが後ろからさかのぼるタイプでした。
ここでは,8 組の T さんの解答を紹介します。
【S 君の解答】長方形 B を横向きに使うとき,上段と下段
で
のようにずれた置き方をすると,この置き方を
【T さんの解答】1 以上 6 以下の数を足して 22 になる数
は,21,20,19,18,17,16 である。よって,A が数を
した 2 個の B より左側にある部分,および右側にある部
選んだときの合計が 15 になれば B は合計を 16,17,18,
分の升(ます)の個数がともに奇数になるため,B をどの
19,20,21 のうちのどれかにしかできないので,A は勝
つ。A が合計を 15 にするためには,それまでの合計が
14,13,12,11,10,9 である必要がある。B が合計を
これらの数にしかできないようにするには,その前の合
計が 8 である必要がある。A が合計を 8 にするには,そ
れまでの合計が 7,6,5,4,3,2 である必要がある。B
が合計をこれらの数にしかできないようにするには,A
ように置いても A をちょうど覆うように詰めることはで
きない。したがって,長方形 B を使うときは必ず
の
ように上下の位置が揃った形で使うことになる。このと
き,長方形 A に長方形 B を詰め込む方法の数は,1 × 12
の長方形に と
を詰め込む方法の数に等しい。
の個数を n とすると,0 5 n 5 6 であり,このと
き の個数は 12 − 2n である。これらの並べ方は,同じ
ものを含む順列の考え方を用いて,
¤
次に,前から後ろへ進めていくタイプの解答の代表と
して,3 組の Y 君の解答を紹介します。
(12 − n)!
(通り),0 5 n 5 6
n!(12 − 2n)!
【Y 君の解答】最初に A が 1 を選ぶとする。次に B が a
という数を選んだとすると,A は a + l = 7 となるように
となる。したがって,求める場合の数は,
12! + 11! + 10! + 9! + 8! + 7! + 6!
0!12!
1!10!
2!8!
3!6!
4!4!
5!2!
6!0!
これを計算して,233(通り)
は最初に 1 を選ぶ必要がある。
¤
S 君の解答の良いところは,B の横向きの使い方が
しかないということの理由を明確に記述している点です。
l を選ぶようにする。次に B が b という数を選んだとする
と,A は b + m = 7 となるように m を選ぶようにする。
次に B が c という数を選んだとすると,A は c + n = 7
となるように n を選ぶようにする。ここで,
1 + a + l + b + m + c + n = 1 + 7 + 7 + 7 = 21
よって,A には必勝戦略が存在する。
り A は勝てない。したがって,A が必ず勝つためには最
また,必ず勝つためには,最初に 1 を選ばなければな
らない。
¤
最後に,全体を見渡した後に最初に選ぶ数を指摘する
タイプの解答の代表として,3 組の A 君の解答を紹介し
ます。
初に 1 を選ばなければならない」と明記しておけば,よ
り良い答案となったでしょう。
図の配列の中にある 25 個の数から 5 個の数を選
ぶ。このとき,図の配列において,その 5 個の数のど
の 2 つも同じ行にはなく,またどの 2 つも同じ列に
【A 君の解答】まず,22 = 1 + 7 + 7 + 7 である。この 7
もないとき,このような 5 個の数の組を「良い 5 個
は,B がどの数字を選んでも A が(7 − B が選んだ数)を
組」と呼ぶことにする。たとえば,{1, 8, 10, 17, 25}
選ぶことでそのターンの合計を 7 にすることを表し,こ
は良い 5 個組であり,{2, 6, 12, 20, 22} は良い 5 個組
れだけが絶対に可能なことである。1 つのターンの (B が
ではない。良い 5 個組のそれぞれについて,5 個のう
選んだ数) + (A が選んだ数) を 7 にして合計をちょうど
ちの最大数が決まる。このとき,この最大数の,良
22 にするには,初めに A が 1 を選んでから (B が選んだ
数) + (A が選んだ数) = 7 を 3 回繰り返す。これが,最
初の等式の表している内容であり,A が初めに選ぶ数字
は 1 である。
¤
い 5 個組全体にわたっての最小値を求めよ。
1
2
3
4
5
16
17
18
19
6
15
24
25
20
7
ここに掲載した答案は,それぞれのタイプの中でも読
14
23
22
21
8
みやすく,解答者の考えがはっきりと伝わってくるもの
13
12
11
10
9
ばかりです。もちろん,他にも良い答案はたくさんあり
ました。
さて,ここで 14 名と 1 グループすべての答案に対して
改善点を指摘します。それは,問題文の末尾「必ず勝つ
ためには,最初に A はどの数を選ばなければならないか」
【S 君の解答】まず,最大数が必ず 17 以上であることを
示す。そのために,17 から 25 までの数が良い 5 個組み
に少なくとも 1 つ含まれることを証明する。
1,2,3,4,5 の数は同じ行にあるので,この中の
に対する解答を,答案の中でもっと明確に打ち出したほ
数は 1 つしか含まれない。同様に,5,6,7,8,9 の中の
うが良いという点です。いずれの答案も,
「1 を選べば勝
数も 9,10,11,12,13 の数も,13,14,15,16,1 の
てる」ことにはしっかりと理由を書いていましたが,
「1
中の数もそれぞれ 1 つしか含まれない。よって,1 から
を選ばなければならない,言い換えれば,1 以外の数を
16 までの数は最大で 4 つしか含まれない。ゆえに,少な
選んでしまうと B が正しく応じれば負けてしまう」こと
くとも 1 つは 17 以上の数を含む。
の理由が明確に記述されていませんでした。
また,{3, 7, 10, 14, 17},{4, 8, 11, 15, 17} などのよう
上に紹介した第一の答案では,
「A は最初に 1 を選ぶ必
に 5 個組を定めると最大数が 17 である良い 5 個組が得
要がある」と書いてあり,この「必要である」という言
られる。これらから,良い 5 個組の最大数の最小値は 17
葉が「1 を選ばなければならない」ということを表現し
である。
ていると読めますが,しかし,そこまでの過程を仔細に
見ると,
「A が数を選んだときの合計が 15 になれば B は
合計を 16,17,18,19,20,21 のうちのどれかにしかで
きないので,A は勝つ」という所では,
「A が合計 15 をと
れば必ず勝つ」ことは指摘されていても「A が必ず勝つ
ためには合計 15 になる数を A が選ぶ必要がある」こと
は指摘されていないようです。また,第 2 の答案では末
尾に「また,必ず勝つためには,最初に 1 を選ばなけれ
ばならない」とは明記してありますが,その理由が書い
てありません。第 3 の答案も,
「これだけが絶対に可能な
ことである」という表現の中に,他の数を選んだら勝て
ないというニュアンスを読み取ることもできますが,や
はり明確さには欠けるようです。
1 を選べば勝てることを示した後,
「A が最初に 2 以上 6
以下の数を選んだ場合,次に B が 6 以下の数を選んで合
計 8 にすることができるので,その時点で B が必勝とな
¤
解答のポイントは 2 点あります。第 1 点は,1 以上 16
以下の数だけでよい 5 個組を作ることはできない,とい
うことを理由と共に示してある事。第 2 点は,最大数が
17 であるような良い 5 個組が実際に存在する,というこ
とを明確に示している事。
何人かの答案では,
「1 以上 16 以下の数だけを用いて良
い 5 個組をつくることはできないので,
」と書いてあるだ
けで,不可能である理由を説得力を持って記述すること
がなされていませんでした。また何人かの答案では,16
以下の数だけを用いて良い 5 個組みを作ることができな
いことを示しただけでただちに「よって最大数の最小値
は 17 である」という結論を導いていたり,理由なく「17
を選べば他の 4 つは 16 以下の数から選ぶことができる」
と書くだけで終わっていました。
上記 2 点を理由と共に記述して始めて「最大数の最小
値は 17 である」という結論が書けるという事を理解して
中心に,I,J,K,L,M,N と名前をつけました。
ください。ここに示した澤田君の答案では,その両者が
A
D
しっかりと述べられており,ここに紹介するにあたって
M
ほぼ原文のまま手直しをする必要がありませんでした。
B
さて,
「1 以上 16 以下の数だけでよい 5 個組を作ること
C
L
I
はできない」理由として,1 組の A 君,2 組の匿名さん
K
J
は,上に紹介した解答と同じ理由を挙げていました。
E
別解として,2 組の N さん,3 組の A 君,5 組の O 君
H
N
の考えた理由を紹介します。
F
G
さて,方針の異なる 2 人の解答を紹介しましょう。ま
【N,A,O 君の解答の一部】
ず,1 組 S 君の解答です。
1
2
3
4
5
16
17
18
19
6
15
24
25
20
7
1 つの面の緑の個数について,4 頂点に奇数個緑が
14
23
22
21
8
あれば中心が緑より,偶数個。4 頂点に偶数個緑があれ
13
12
11
10
9
ば中心が赤より,この場合も偶数個。
【S 君の解答】
図において,影をつけた部分を含む中央 3 列に注目
すると,その中で影のない部分は 3 列に対して 2 行しか
ないから,この 3 列から列・行が重ならないように 3 つ
の数を選ぶためには影をつけた部分から少なくとも 1 つ
の数を選ばなければならない。したがって,1 以上 16 以
下の数だけでよい 5 個組を作ることはできない。
¤
表現はそれぞれ違いますが,3 人とも原理的には同じ
根拠に基づいていました。
今回の問題では,
「良い 5 個組」というここだけの言葉
を問題の中で定義していたり,
「最大数の最小値」を求め
るなど,問題文の意味を正確に把握することが必要でし
た。この点については,ほとんどの答案提出者が正しく
把握できていました。それに対して,前回・今回とも,
「A
ならば B である。また,B であるためには A でなけれ
ばならない」の両方を示すことが必要なときに片方だけ
ですませていたり,
「16 以下では不可能である。17 では,
実際に構成できる」の両方が必要なときに後半がおろそ
かになるなど,論理的な詰めが甘い答案が目立ちました。
これは,夏休み以後「数学 A」で学ぶ「論理」や「必要
条件・十分条件」という項目に関わる事項です。このよ
うな事にも意識を向けながら,論理的に正確な文が書け
るよう心がけてください。
立方体の頂点に A から H の点を定め,立方体 ABCDEFGH とおくと,面 ABCD と面 EFGH に共通する点は
ない。面 ABCD,EFGH の中の緑の点の数はそれぞれ
2m 個,2n 個とおける。面 ABCD,EFGH に属さない点
は面 ABFE,BCGF,CDHG,DAEH のそれぞれの中心
の 4 点。この 4 点の緑の個数を考える。
点 A,E の 2 つのうち緑の個数を a,同様に B,F の
うちの個数を b,点 C,G のうちの個数を c,点 D,H の
うちの個数を d とおく。a + b が奇数のとき面 ABFE の
中心は緑,偶数のときは赤,b + c,c + d,d + a でも同
様のことが言える。
a + b,b + c,c + d,d + a の中の奇数の個数が 4 点
の緑の数。
(a + b) + (b + c) + (c + d) + (d + a) = 2(a + b + c + d)
(a + b) + (b + c) + (c + d) + (d + a) は偶数より,4 つの
うち奇数は偶数個。よって,4 点のうちの緑の個数は 2l
個とおける。
立方体全体の緑の個数は 2m + 2n + 2l = 2(l + m + n)
個。l + m + n は整数より,2(l + m + n) は偶数。赤と緑
の個数が同じになるとすると,個数はともに 7 個。7 は
奇数より,緑の個数が 7 にないので題意は示された。 ¤
説明しにくい状況を,頂点をうまくグループ分けして
立方体の頂点にそれぞれ赤または緑の色を塗る。
的確に表現しています。
がって色を塗る:その面の 4 頂点のうち緑の頂点が
7 組 N 君の解答。
【N 君の解答】 立方体のそれぞれの色を塗る場所に図の
奇数個であれば面の中心に緑を塗り,それ以外の場
ように A∼N と名前ををつける(前頁の図)。面 ABCD と
合には面の中心には赤を塗る。結局,14 点に色が塗
面 EFGH に分けて考える。頂点がすべて緑のとき(· · · P),
られる。このとき,赤い点の個数と緑の点の個数は
中心点はすべて赤となり,緑が 8 個,赤が 6 個となる。次
決して同じ個数にはならないことを示せ。
に,頂点の緑を 1 個減らしてみる。仮に点 C を赤にする
さらに,この立方体の各面の中心に次の規則にした
と,中心点 M,J,K は属する面の 4 頂点のうち緑のも
図を描いておきます。立方体 ABCD-EFGH の各面の
のが奇数個となり,全体として緑 10 個,赤 4 個になる。
最初の状態から辺の両端にある 2 頂点を赤にすると,そ
く,さらに試合を続けるとしたらどうなるか,という点に
の辺に接した 4 面(辺を BC とすると,左図では中心が
ついて考えを進めています。初戦で負けた B が第 3n + 1
I,J,K,M の 4 面)の中心点は緑 2 つ,赤 2 つとなり,全
体としては緑 8 個,赤 6 個となる。
このように,P の状態から赤の点を増やしていくとき,
その頂点を含む面の数が 3 つだから,緑点の数が奇数に
なることはない。赤と緑の点の個数が同じになるには,そ
れぞれが 7 個ずつになる必要があるが,そのような事は
ありえない。
¤
戦目までに優勝する確率を,上の解答で使用した図をさ
基本的なアイディアは次のようなものです。どのよう
に色が塗られた状態も,すべての頂点が緑の状態から始
めて 1 個ずつ緑の頂点を赤に変えるという操作を繰り返
すことにより到達できる。各ステップにおいて,1 個の
頂点の色を変えると,全体として 4 点の色が変わること
になる。4 点の色が逆転したときに,緑の個数の変化は
常に偶数個であり(ここがポイント),初期状態で緑の
点の個数が偶数であることから,どのような状態におい
ても常に緑の点の個数は偶数となる。
S 君,N 君それぞれに違った発想で解決しています。
じっくりと味わってほしいと思います。
大相撲で同じ勝星の力士が A,B,C の 3 人いた
ので,優勝決定戦のともえ戦を行なうことになった。
まず A と B とが対戦し,次には勝った方と C とが対
戦する。同じ力士が 2 番続けて勝てば優勝となるが,
もし 1 つ前に勝った力士が負ければ,そのときの勝
者と 1 つ前に負けた力士とが対戦し,これを繰り返
す。ただし,合計 7 戦してまだ優勝者が決まらない
ときには,そこで打ち切り優勝者なしとする。A,B,
C の 3 人ともが実力が同じで,どの対戦でも一方が
1 ずつとするとき,第 1 回目に負けた力
勝つ確率は
2
士が優勝する確率を求めよ。
【Y 君の解答】初戦で勝った力士を A,負けた力士を B,
残りの力士を C とする。右図のように,B が優勝するに
は第 3 戦と第 4 戦を勝つか,第 6 戦と第 7 戦を勝つしか
ないので,
(i)第 3 戦と第 4 戦を勝つとき
X
ここで,
=
n
X
1
23k
k=1
=
n
X
1
k
8
k=1
というのは数学 B の「数列」のところで出
てくる和の記号です。じつは,これは等比数列というも
X
のの和になっており,数列について学べば最終的には
を使わない(かつ,· · · による省略も使わない)形に書き
表すことができます。このあたりの詳しい話は授業で扱
うまで待っていてください。いずれにしても,ある問題
が解けたら,少し条件を変えてみたり一般化したりして,
問題自体を作り変えたときに何が起こるかを考えてみる
のはとても良いことです。
3 辺の長さが 2,3,5 の直方体がたくさんある。1
辺の長さが 90 の立方体の中に,この直方体を同じ向
きに,きちんと並べて,いっぱいになるまで積み重
ねる。このとき,大きい立方体の 1 つの対角線が貫
通する小さい直方体の個数を求めよ。
正解は 1 組の S1 君と S2 君の 2 名です。S1 君の解答を
紹介します。
【S 君の解答】直方体は縦に 45 個,横に 30 個,上に 18 個
並ぶ。対角線は縦の方向に 44 回,横の方向に 29 回,上
の方向に 17 回直方体の面を通過する。ただし,始点,終
点を含まない。
対角線が面を 1 つ通過するごとに貫通する直方体が
1 つ増えるので,最初の 1 つから 44 個,29 個,17 個増
えて,1 + 44 + 29 + 17 = 91 個と考えられる。しかし,
次の 2 つの場合がある。
i) 対角線が辺を貫通するとき
2 つの面を同時に通るので,面を 2 つ通過しても直方
ii) 対角線が頂点を貫通するとき
3 つの面を同時に通るので,面を 3 つ通過しても直方
(ii)第 6 戦と第 7 戦を勝つとき
体の増加は 1 つのみ。
ii) について 45 と 30 と 18 の最大公約数は 3 であり,こ
れは通過する頂点の数である。ただし,この 3 点には終
1 × 1 × 1 × 1 × 1 × 1 = 1
2
2
2
2
2
2
64
1 + 1 = 9
8
64
64
1 + 1 + ··· + 1
23
26
23n
体の増加は 1 つのみ。
1 × 1 × 1 = 1
2
2
2
8
(i)(ii)より,
らに延長することにより,次のように求めていました。
¤
Y 君は問題に答えた後,もし,合計 7 戦してまだ優勝者
が決まらないときにはそこで打ち切るというルールがな
点が含まれているので,これを除くと,2 点である。
i) について,縦の面と横の面でできる辺を通過するのは,
45 と 30 の最大公約数の 15 本であるが,この中には終点
と ii) の 2 点とが含まれているので,これを除くと 12 本
である。同様に,残り(横の面と上の面,上の面と縦の
面)は 3 本と 6 本なので,全体で 21 本である。
ii)(A) 右端のバーが 1 つの枠
i) のとき増える直方体の数が 1 つ減り,ii) のとき増える
ii)(B) 右端のバーが 2 つの枠
直方体の数が 2 つ減るので,求める数は 91−21−2×2 = 66
よって,ii) のときは 3 通りあります。
¤
(個)
S2 君の解答も,本質的には同様の考え方に基づいてい
ました。また,塩見君は,2,3,5 の最小公倍数が 30 で
あることに注目し,直方体を 1 辺の長さが 30 の立方体に
詰め込んだときに立方体の対角線が直方体を幾つ貫通す
るかを求めてそれを 3 倍すればよいことを指摘して,利
用しています。
,
[以下省略するが,このようにして丁寧に数え上げなが
ら,
「20 通り」という結果を導いている。]
¤
数え上げの問題では,
「もらさず,重複せず」数えるこ
と,そのためにはやみくもに数えるのではなく分類の基
準を明確にして規則的な数え上げをすることが大切です。
この解答は,数え上げの第一歩がしっかりと押さえられ
ています。その上で,特別な場合には計算で簡単に個数
が求められることがあり,実はこの問題もある見方をす
連続する n 個の枠を左から順に白と黒に塗り分け
れば容易に結果が求まります。不正解だったもう一人の
たものを,n 枠のバーコードという。黒く塗った枠
提出者は,計算で簡単に結果を出す方法はわかっていた
の一続きをバーといい,白く塗った枠の一続きをス
のですが,問題文の「スペースで始まるバーコードの総
ペースという。
数」を単に「バーコードの総数」と早とちりして,バー
下の図は, 2 個のスペースと 2 個のバーからなる
7 枠のバーコードのうち,(a) はスペースで始まる例
であり,(b) はバーから始まる例を示している。
(a)
(b)
で始まるものも含めてしまったため,結果が 2 倍の値に
なっていました。
計算で求める方法を説明します。2 個のスペースと 2
個のバーからなる 7 桁のバーコードには,隣り合う枠の
境界線 6 本の中に,スペースからバーへ,あるいはバー
からスペースへと色が切り替わる境界線が 3 本あります。
(1) 7 枠のバーコードを考える。このうち,2 個のス
ペースと 2 個のバーからなるスペースで始まる
バーコードの総数を求めよ。
また,逆に,隣り合う枠の境界線 6 本の中から色の切り
(2) n 枠のバーコードを考える。k をうまく選んで,
k 個のスペースと k 個のバーからなるスペース
で始まるバーコードの総数が,100 を超えるよう
にしたい。このことができる最小の n の値を求
めよ。また,そのときの k の値を求めよ。
のバーコードが唯 1 つ決まります。従って,求めるバー
【H さんの解答】条件より,必ず右端はバーになります。
私は,左端のスペースがいくつの枠からなるのか,右端
替わる境界線を 3 本選べば,スペースから始まるという
条件の下では,2 個のスペースと 2 個のバーからなる 7 桁
コードの個数は,6 本の線から 3 本を選ぶ選び方の総数
6C3
= 20 個です。
(2) すぐ上に書いた方法を用いれば,n 枠のバーコー
ドで k 個のスペースと k 個のバーからなるものの個数は
n−1C2k−1
であることがわかります。n を決めたとき,組
み合わせの値
···,
n−1C0 ,
n−1C1 ,
n−1C2 ,
n−1Cn−1
のバーがいくつの枠からなるのか,に視点をおいて考え
ます。
は,パスカルの三角形を思い浮かべてみればこの並び方
まず,スペースがいくつの枠からなるのかだけを考える
で中央にあるものほど大きく,両端にあるものほど小さ
と,次の 4 つの場合があります。
いことが予想されます。このことを考慮し,初めて 100
i) 左端のスペースが 4 つの枠からなる場合
を超えるところを探すと,8C3 = 56,9C5 = 126 より,答
ii) 左端のスペースが 3 つの枠からなる場合
は n = 10,k = 3 であることがわかります。きちんとし
iii) 左端のスペースが 2 つの枠からなる場合
た証明にするには埋めなければならない部分があります
iv) 左端のスペースが 1 つの枠からなる場合
が,核心部分はこれだけです。
i) のとき
左端のスペースの右隣は少なくとも1つは黒に塗られ,
右端は必ずバーになるので,この 1 通りしかありません。
ii),iii),iv) では,さらに右端のバーがいくつの枠から
なるかを考えます。
半径 1 の球に内接する正 12 面体がある。この正 12
面体のすべての頂点間の距離の 2 乗の和を求めよ。
【S 君の解答】正 12 面体の 20 個の頂点のうち 1 つを A
とし,A と正反対の位置にある点を B とする。正 12 面
体に外接する球の中心を O とすると,O,A,B は一直
線上にある。
正 12 面体の頂点のうち A,B ではない頂点のうち 1 つ
を C とする。O,A,B,C は同一平面上にある。球を,
O,A,B,C を通る平面で切断すると,切断面は図のよ
うになる。
C
A
中心の
O
B
に書く数の選び方は 7 通り。その外側の
に書く数の決め方は,残り 6 つの数から 3 つ選ん
で円順列を作るので,6C3 (3 − 1)! = 40 通り。もう回転し
て同じになることはないので,さらに外側の
に書
AB は直径であるから,∠ACB = 90◦ より AC2 +BC2 =
(2AO)2 = 4
A = C のときや B = C のときも AC2 + BC2 = 4 である
から,C を 20 個の頂点のうちどれに定めても AC2 + BC2
は 4 で一定である。このことから,点 A からのすべての
【T さんの解答その 2】正多面体は,向かい合う 2 頂点を
頂点までの距離の 2 乗の和と,点 B からのすべての頂点
通る軸に関して対称である。1 つの頂点から次のように
までの距離の 2 乗の和の合計は 4 × 20 = 80 である。点
展開する。
く数の決め方は 3! = 6 通り。よって,7 × 40 × 6 = 1680
通り。
¤
さらに,別解を与えて確認してありました。
A,B のような正反対の位置関係にある頂点は 10 組ある
ので,80 × 10 = 800。ただし,これは 2 つの頂点間の
距離の 2 乗を 2 回足してしまっているので,求める数は
800 ÷ 2 = 400
¤
正解です。ところで,この結果を見ると,正 12 面体の
頂点の個数の平方になっています。
「半径 1 の球に内接す
る正 12 面体の頂点間の距離の 2 乗の総和は 202 = 400」
これは偶然ではありません。一般に,半径 1 の球に内
接する正多面体の頂点間の距離の 2 乗の総和は,頂点の
個数の 2 乗になります。空間内の正多面体に限らず,平
面においても,半径 1 の円に内接する正多角形の頂点間
内側の 4 面への数字の書き入れ方は 8C4 (4 − 1)! = 420
通り。次に,外側の 4 面への数の書き入れ方は 4! = 24
通り。頂点は 6 個あるから,420 × 24/6 = 1680 通り。¤
の距離の 2 乗の総和は頂点の個数の 2 乗です。正 n 角形
【K 君の解答】すべての面を区別すると,8 つの面への数
で,n が偶数の場合には,頂点全体の集合は原点に関し
字の書き入れ方は 8! 通り。この数え方の中で,回転して
て対称だから澤田君の議論がそのまま使えます。しかし,
数の配置が同じになるものが幾つ分に数えられているか
n が奇数の場合には,1 つの頂点 A に対して原点に関し
を考える。特定の面 ABC に注目すると,回転によって,
て対称な点 B は頂点ではなくなってしまいます。それで
この面がどの面に重なるかが 8 通りあり,重ねる面を決
も,結果は正しいのです。なぜでしょうか?
めたときに正三角形をどのように重ねるかが 3 通りづつ
あるから,全部で 8 × 3 = 24 通りの回転の仕方がある。
正 8 面体の 8 つの面に 1 から 8 までの数を 1 回ず
これは,回転によって同じ配置となる数の書き入れ方を
つ書いてさいころを作る。このようなさいころは何
区別しなければ 1 通りと数えられるものが,区別したと
通りできるか。ただし,回転して数の配置が同じに
きには 24 通りに数えられていることを表すから,さいこ
8! = 1680 通りある。
¤
ろの作り方は,
24
なるものは同じさいころとみなす。
【T さんの解答その 1】1 を書いた面を固定し,残りの面
への数字の書き方を数える。固定した面を除いた残りの
部分の展開図は次のようになる。
20 円以上の任意の値段分の切手は 5 円切手と 6 円切
手の組み合わせとして買えることを示してください。
ここでは,一番すっきりと解答をまとめている Y 君の
答案を紹介します。
【Y 君の解答】20 円から 24 円までは,次のように 5 円切
手と 6 円切手で買える。
20 円 5 円 × 4 枚 + 6 円 × 0 枚
21 円 5 円 × 3 枚 + 6 円 × 1 枚
22 円 5 円 × 2 枚 + 6 円 × 2 枚
23 円 5 円 × 1 枚 + 6 円 × 3 枚
24 円 5 円 × 0 枚 + 6 円 × 4 枚
【S 君の解答】次の 2 つの場合について考える。
(1) 左端が黒石のとき
その黒石が条件を満たす。
(∵ 碁石は 1 つも残らない)
(2) 左端が白石のとき
左端から白石と黒石の数を数えていく。左端の石 1
つのみを数えると,白石 1 個,黒石 0 個と白石が多く,す
べての石を数えると白石 180 個,黒石 181 個と黒石が多
いことから,k を 2 以上 360 以下の偶数として左から k
番目の石までの白石と黒石の個数が一致し,左から k + 1
番目の石まで数えると黒石が白石より 1 つ多くなる k が
25 円以上は,20 円から 24 円のいずれかに 5 円切手を増
やすことにより必ず買える。よって,20 円以上の任意の
値段分の切手は 5 円切手と 6 円切手の組合せとして買え
る。
¤
¤
存在する。このとき,k + 1 番目の石は黒石で,その黒石
で割った余りは 0,1,2,3,4 のいずれかであること
左端から順に石の色をカウントしていったときに,最
に注目したわかりやすい解答です。
が条件を満たす。
よって,すべての場合において条件を満たす黒石が
¤
存在することが示された。
初は白が多く,最後には黒が多くなっているのだから,ど
こかで黒が白を追い越すはずだ。はじめて黒の個数が白
トランプのダイヤのカード 13 枚をよく切った後,
1 枚ずつめくって机の上に左から右へ一列に並べて
ゆく。ただし,めくったカードがそのときの右端に
あるカードより小さいときは,めくったカードは捨
てる。並べ終わったとき,7 が机の上の列に残ってい
る確率を求めよ。
の個数を上回るところを左から k + 1 番目とすると,確
かに「左から k 番目の石までの白石と黒石の個数が一致
し,左から k + 1 番目の石まで数えると黒石が白石より
1 つ多くなる」という条件を満たしています。1 個数える
石を増やすと,黒石と白石の個数の差は 1 づつ変化する
ことから,この論法が成立します。
【Y 君の解答】1 枚づつ大小を比較しながら並べる方法と,
一辺の長さが 1 の正方形 ABCD 内の任意の 2 点を
13 枚並べてから左から大小比較していく方法とは,同じ
P,Q とするとき,
結果を与える。7 以上の数のカードを○(7 枚),7 未満
AP + BP + PQ + CQ + DQ
の数のカードを△(6 枚)とする。13 枚を並べてみると,
7 が残る条件は 7 未満のカード(△)の位置にかかわら
の最小値を求めよ。
ず,7 以上のカード(○)の中で 7 が最も左側にあるこ
とである。(下図参照)
【S 君の解答】図のように,点 R,S,T,U を 4ABR,
4APS,4CQT,4CDU がすべて三角形になるように
△△○△○○○△○△○○△(これは一例)
↑
とる。
ここが 7 でなければ 7 は残らない。
D
A
7 枚ある 7 以上のカードのうちどれが左端に来るかは
Q
1 である。
等確率だから,求める確率は
¤
S
T
7
R
U
たくさんの計算をして正しい結果にたどり着いている
P
答案もありましたが,上の考え方がもっともすっきりと
してシンプルでしょう。
B
このとき,4ABP と 4ARS において
AP = AS,AB = AR
白石 180 個と黒石 181 個の合わせて 361 個の碁石
が横に一列に並んでいる。碁石がどのように並んで
いても,次の条件を満たす黒の碁石が少なくとも一
つあることを示せ。
条件 その黒の碁石とそれより右にある碁石をすべ
て除くと,残りは白石と黒石が同数となる。ただし,
碁石が一つも残らない場合も同数とみなす。
C
また,
∠BAP
= ∠PAS − ∠BAS
= ∠BAR − ∠BAS
=
∠RAS( ∵ ∠PAS = ∠BAR = 60◦ )
∴ 4ABP ≡ 4ARS(∵ 二辺夾角相等) よって,BP = RS
また,AP = SP より,AP + BP = RS + SD
下図は 2 つの町 A,B とその間にそびえる岩山(斜
同様にして,CQ + QD = QT + TU
線部)を表している。今,町 A,B を直線道路で結べ
したがって,
るように,岩山にトンネルを掘ることになった。岩山
AP + BP + PQ + CQ + DQ = RS + SP + PQ + QT + TU
点 R,U は定点であり,線分 RU の長さは一定である。
RS+SP+PQ+QT+TU は点 R と U の間を折れ線で結ん
だ各線分の長さの総和であるから,6 点 P,Q,R,S,T,
U が同一直線上にあるとき RS+SP+PQ+QT+TU = RU
で最小である。下図のようになるとき,6 点 P,Q,R,
S,T,U は一直線上に並ぶ。
A
D
30◦
30◦
30◦
B
途中でぴったりトンネルが繋がるように,掘り進め
る方向を定めたい。ただし,A と B の一方から他方
を直接見通す事はできず,したがって直接方向を定
めることはできない。また,AB 間の距離を直接測る
こともできない。平面上の 2 点を結ぶ線分が岩山に
ぶつからない場合に限り,その 2 点間の距離を直接
測ることも,また一方から他方を見通す方角を直接
決定することもできる。この条件のもとで次の方法
30◦
P Q
S
R
の A 側と B 側のそれぞれからトンネルを掘り進め,
を考え,説明せよ。
U
T
(1)岩山の A 側および B 側のどの地点からどの方
角へトンネルを掘り進めればよいかを決定する
C
よって,AP + BP + PQ + CQ + DQ は点 P,Q を下
√
図のようにとったとき最小値 3 + 1 をとる。
A
D
30◦
30◦
方法
(2)トンネルの長さを求める方法。
B
Q
P
A
◦
30
30
B
◦
C
¤
枝分かれした線分の長さの和を,2 点を結ぶ枝分かれ
のない折れ線の長さにとりかえることによって解いてい
ます。とても巧妙なうまい方法です。
*
*
*
3 名の提出がありました。1 名が準正解,1 名が正解,
1 名は答案の中に穴があり,正解とはいえないのですが,
よく工夫して考えています。まず,5 組の Y 君の答案を
検討しましょう。
【Y 君の解答】
ここで,生徒に配布した講評の文章をいったん中断す
B
る。次に挙げる問題は,G. ポーヤ「自然科学における数
Q
学的方法」([7])の冒頭の節「1.1.1 トンネル」からとっ
た。たまたま書店で新刊の同書を手にとってみたときに
目に留まり,ちょうど 1 年生が授業で三角関数を扱って
A
C
P
いる時期でもあったので,出題した。このような取り組
みをしていると,問題探しの観点からいろいろな本を手
にとってみることになる。それはそれで自分にとっても
楽しみであった。
この問題に対する生徒の答案は,正解・不正解を含め
て,他の問題に対する答案以上に多様であった。生徒が
自力で工夫を重ねている様子が伺えたという意味で印象
に残っている。
(1)A,B からそれぞれ 同じ方角
1
°
で,かつ距離が等
しい地点 C,D を定める(この時,平面上の線分 BC,
CD,DA が岩山にぶつからないようにする)と平面図は
下図のようになる。図において四角形 ABCD について
仮定より BC // AD
2
°
である。また,BC = AD。よって
一組の対辺が平行でかつ長さが等しいので,四角形 ABCD
講評の文章に戻る。
*
D
*
*
は平行四辺形である。
∴ AB // DC,BC = DC
A から B への方角と D から C への方角は同じなので,
掘り進める地点と方角が定まった。
(2)図より,DC の距離から AP,BQ の距離を引け
ばよい。
¤
1 について考えてみましょう。
まず,下線部°
「平面上の
2 点を結ぶ線分が岩山にぶつからない場合に限り,その
2 点間の距離を直接測ることも,また一方から他方を見
通す方角を直接決定することもできる」というのが問題
の条件でした。この条件から「A,B からそれぞれ同じ方
角」を定める事ができれば,この答案の方法はうまく機
能します。
ところで,
「一方から他方を見通す方角を直接決定する
こともできる」ということの意味を詳しく見てみます。
ような平行線が引けるということを言えば,完全になる
でしょう。
続いて,S 君の答案です。出題者が想定していた解答
は実はこの方法によるものでした。今授業で扱っている
三角比を利用して,掘り進める方角を決定する筋道を簡
潔に説明しています。
B
A
C
【S 君の解答】
(1)A,B 両方から見える地点を 1 つとり,C とす
る。AC 間の距離,BC 間の距離と角 C が計測できる。
B
=⇒
C
A
BC = a,CA = b,AB = c とおく。余弦定理より,c2 −
a2 + b2 − 2ab cos C 。a,b,C は値がわかっているので,
c の値も計算できる。
また,
2
2
2
2
2
2
cos A = b + c − a ,cos B = c + a − b
2bc
2ca
より,A,B の値も分かる。A,B の値から,トンネルを
B
~v
掘り進める方角を決定できる。
(2)c の値が分かっているから,図のように D,E を
C
A
とったときの AD,BE の長さが求められれば計算でき
る。A から見た D の方角は分かり,A から D は見通せる
ので点 D は求まり,AD の長さも求められる。BE につ
いても同様である。AB − AD − BE の値を求めれば,こ
れがトンネルの長さである。
上図において,線分 BC が岩山とぶつからないとき,仮
定により B から C を見通す方角が定まります。これは,
次に,1 組の Y 君の答案のうち,
(1)の部分を検討し
ます。
言い換えれば,B にいながらにして図の短い有向線分(矢
印)~v がかけるといってもよいでしょう。ここでさらに, 【Y 君の解答の一部】
「A からも同じ方角の直線が引ける」というためには,こ
の有向線分 ~v を A を始点とした位置に移す(A を始点と
R B
◦
して ~v と平行なベクトルがかける)ことが必要です。現
実的な意味づけをした問題設定をしているので,たとえ
ば「方位磁石で方角を決定して他の位置に移す」という
A ◦
P
のも考えられないわけではありませんが,ここでは磁気
◦
現象を利用するのではなく,数学の問題として考えて見
Q
ましょう。
答案の中でも,
「同じ方角」であるという事を後で利用
2 のように,
する際には,°
「BC // AD」として利用して
います。上の説明でもわかるように,結局のところ「直
線 AC と直線外の一点 B が与えられたときに,B を通り
AC に平行な直線が引ける」ことがきちんと言えれば上
で指摘した問題は解消します。岩山を避けながら,この
¤
右図で,上方を北とする。A,B の両方から見通
すことができ,∠APB,∠AQB が直角となる点 P,Q
をとる。 四角形 ABPQ は円に内接するので,
1
°
∠PQB = ∠PAB
また,B から PA に 平行な直線をとる
2
°
を入れ替えて一桁おきの各位の数の和の差が 11 になるの
と,
は,もとの状態よりも差が 6 だけ増えたときだから,1 と
∠PAB = ∠ABR(平行線の錯角)
4,3 と 6,5 と 8 を入れ替えたときである。よって,求
める数は 423156789,126453789,123486759 の 3 つであ
る。
¤
よって,
∠PQB = ∠PAB = ∠ABR
したがって,点 A からは AP に対して北に ∠PQB の角
この答案の中の,ある整数が 11 の倍数であるための判
度,点 B からは BR に対して南に ∠PQB の角度で掘れ
定法を,S 君と Y 君は答案中で証明していました。次に
ばよい。
¤
平面幾何の知識をうまく使って,A,B 両地点から掘
り進める方向を表す角を岩山を避けて離れた所に移そう
1 や
としています。工夫のあとが伺えますが,下線部の°
2 について,
°
「∼となる点をとる」
「∼となる直線をとる」
といったときには,
「本当にそのような点や直線がとれる
のか」を常に考える習慣をつけてください。また,図を
利用する際にも,問題に一例として書いてある図の上に
書き込んでとれそうだというだけではなく,一般に A,B
が問題の設定を満たすどのような位置にあっても,答案
にあるような P,Q がとれるのかどうか,を考えておく
ことが大切です。実は,この問題の場合,A,B が岩山に
非常に近いときには,上の性質をもつような 2 点 P,Q
をとることができません。
以上,いくつかの問題点はありましたが,今回は三人
三様さまざまなアプローチが現れました。それぞれ工夫
を凝らして考えている様子が伺え,興味深く読むことが
できました。
N = 123456789 とする。N の各位に現れる数字の
うち,1 と 4 を入れ替えると 423156789 となり,こ
の数は 11 の倍数であることがわかる。この例のよう
に,N の各位に現れる数字のうち,ちょうど 2 つを
入れ替えてできる 11 の倍数を全部あげよ。
最初の提出者である Y 君の解答を紹介しましょう。
【Y 君の答案】ある数が 11 の倍数であるかどうかは,次
のように判定できる。
数 N が 11 の倍数である
⇐⇒ 1 桁おきの各位の数の和の差が 11 の倍数である
今の場合,N = 123456789 であり,1 桁おきの各位の
数の和は 1 + 3 + 5 + 7 + 9 = 25 と 2 + 4 + 6 + 8 = 20 で
ある。従って,その差は 5。
紹介するのは,この部分の S 君による証明です。
【S 君による 11 の倍数の判定法の証明】整数 n の m 桁目
の数を nm (m は正の整数)と表す。このとき,
n = n1 ×100 +n2 ×101 +n3 ×102 +n4 ×103 +n5 ×104 +· · ·
と表される。このとき,
n = n1 + (11 − 1)n2 + (11 × 9 + 1)n3 + (11 × 91 − 1)n4
+ (11 × 909 + 1)n5 + · · ·
= 11(n2 + 9n3 + 91n4 + 909n5 + 9091n6 + · · · )
+ (n1 − n2 + n3 − n4 + n5 − n6 + · · · )
n2 + 9n3 + 91n4 + 909n5 + 9091n6 + · · · は整数より,n
が 11 の倍数ならば n1 − n2 + n3 − n4 + n5 − n6 + · · · も
11 の倍数であり,逆に,n1 − n2 + n3 − n4 + n5 − n6 + · · ·
が 11 の倍数のとき n も 11 の倍数である。
¤
Y 君は,合同式の記法を用いて答案を書いていました。
ここで,整数 a,b,p に対して a ≡ b (mod p) とは,
「a − b
が p で割り切れる」ことを意味します。
【Y 君による 11 の倍数の判定法の証明】N = a1 × 108 +
a2 × 107 + a3 × 106 + · · · + a8 × 10 + a9 とすると,
N ≡ 0 (mod 11) ⇐⇒ N が 11 の倍数
である。ここで,
108 ≡ 106 ≡ 104 ≡ 102 ≡ 100 ≡ 1 (mod 11),107 ≡
105 ≡ 103 ≡ 101 ≡ −1 (mod 11)
だから,
N ≡ a1 − a2 + a3 − a4 + · · · + a9 ≡ (a1 + a3 + a5 + a7 +
a9 ) − (a2 + a4 + a6 + a8 )
従って,N が 11 の倍数であるための必要十分条件は,
(a1 +a3 +a5 +a7 +a9 )−(a2 +a4 +a6 +a8 ) ≡ 0 (mod 11)
となること,すなわち,(a1 + a3 + a5 + a7 + a9 ) − (a2 +
a4 + a6 + a8 ) が 11 の倍数となることである。
*
*
¤
*
各位の数の合計は 45 なので,一桁おきの各位の数の
講評の文章を中断する。上の答案における合同式のよ
和の差が偶数(0 も含む)になることはない。また,1 桁
うに,生徒の中には学校とは別にいろいろな知識を持っ
おきの各位の数の差が最も大きく変化するのは,1 と 8,
ている者がいる。このようなものも,他の生徒の目に触
2 と 9 を入れ替えたときで,その時の差は 5 ± 14 だから,
とりうる差の値は −9 以上 19 以下の奇数である。
れさせることで,新たな関心を引き起こすきっかけにな
この間の 11 の倍数で奇数であるものは 11 のみだか
ら,差を 11 にするような入れ替えを考えればよい。2 数
るかもしれない。
生徒向け講評に戻る。
*
*
*
ある王が遺書を金庫に保管した。王は,金庫にい
んで答案を作成していました。
くつかの錠前をとりつけ,それぞれの錠につき,そ
この問題のためだけに,減少数という用語を,2 桁
の錠を開けることのできる鍵を複数作った。彼は,次
以上の整数でそれぞれの位の数字が左から右へと真
の条件を満たすように 5 人の息子に鍵を分け与えた
という。その条件とは,5 人のうち 3 人が揃えば(ど
の 3 人であっても)すべての錠を開けて金庫の中を
に減少しているような数,と定義する。
(1) 3 桁の減少数はいくつあるか。
見ることができるが,2 人では(どの 2 人であって
(2)減少数の桁数は最大何桁になりうるか。
も)足りない鍵があって金庫の中を見ることができ
(3)減少数は全部でいくつあるか。
ない,というものである。この条件を満たす為には,
金庫に最低いくつの錠前を取り付けなければならな
いか
【S 君の解答】
(1) 0 から 9 までの数から異なる 3 つを選
ぶと,左から順に大きい数から小さい数へと並べること
により,3 桁の減少数が作れる。選んだ 3 つの数に対し
【Y 君の解答】
て,減少数となる並べ方はこのような並べ方ただ 1 つで
5 人の息子を A,B,C,D,E とする。A と B の 2 人
に足りない鍵と,B と C の 2 人に足りない鍵が同一のも
のであるとすると,A と B と C の 3 人が揃ったとしても
全ての錠前を開けることができず,条件と矛盾する。A
と B,C と D に足りない鍵が同一である場合も同様であ
る。よって,異なる 2 人組のそれぞれにとって足りない
鍵は,別の種類のものでなければならない。
5 人から異なる 2 人を選ぶ方法は 5C2 = 10 通りだから,
すくなくとも 10 本の異なる種類の錠前が必要である。
逆に,10 種類の錠前があれば,別表のようにその鍵を
5 人に分配すればどの 2 人でも金庫を開くことは出来ず,
どの 3 人でも金庫を開くことが出来る。ここで,表の中の
1 から 10 までの数字は 10 種類の異なる鍵を表している。
したがって,条件を満たすためには金庫に錠前を最低
10 個つけなければならない。
A
B
C
1
1
1
2
2
3
3
D
ある。よって,異なる 3 つの数の選び方の総数が減少数
の総数であり,10C3 = 120(個)。
(2) 左端の数が同じ場合,左から右へと 1 ずつ数が
減少するとき最も桁数が大きくなる。また,左から右へ
と 1 ずつ数が減少する場合,左端の数が最大のときに桁
数も最大になる。したがって,左端が 9 で左から右へと 1
ずつ数が減少するときに桁数最大の減少数ができる。こ
れは 9876543210 であり,10 桁
( 3)
(2)より,減少数は 2 桁から 10 桁まで存在し,n
桁の減少数は(1)と同様に考えて 10Cn 個あるので,
10C2
+ 10C3 + 10C4 + 10C5 + 10C6 + 10C7 + 10C8
+ 10C9 + 10C10
= 10C0 + 10C1 + 10C2 + 10C3 + 10C4 + 10C5 + 10C6
+ 10C7 + 10C8 + 10C9 + 10C10 − (10C0 + 10C1 )
= (1 + 1)10 − (10C0 + 10C1 )
E
= 210 − 11
= 1013(個)
2
3
4
4
5
5
6
6
7
7
8
8
9
10
¤
4
5
数字を並べてできる整数の桁数を考える問題では,通
6
常最高位の数が 0 にならないようにという事が気をつけ
るべき点ですが,この問題では「それぞれの位の数字が
7
左から右へと真に減少している」という条件より,選ん
8
9
9
10
10
だ 2 個以上の数を並べる際に 0 が最高位にくることはあ
りません。したがって,実は非常に単純な問題になって
¤
います。(3)の計算では上のように二項定理を利用する
と計算が簡単になりますね。
まず,少なくとも 10 種類は必要であることを示し,次
に,10 種類あれば実際に可能であることを具体例を作っ
て見せています。この 2 段階の手順を踏むことによって,
「10 種類」というのが問題の条件を満たすための必要十分
条件であることを明確に示しています。この手法は,こ
れまでの力自慢の中でも何度か出会ったもので,もうお
なじみですね。3 人とも,この両方をしっかりと書き込
5
実践の特質
かつて前任校で実施した「豊中高校数学セミナー 2003」
では,年間 9 回のうち奇数回では講義形式で数学にまつ
わるさまざまな話題を取り上げ,偶数回では「世界の数学
コンクールに挑戦」と題して生徒が問題に取り組み,解
けた生徒がその場で黒板の前にでて説明するという形の
した。さらに常連投稿者に声をかけるなどした結果,8 月
実践を行った。このうち,奇数回の部分については,そ
に実施された日本数学コンクールには大手前高校から 8
の後数学に限らず「サイエンス」という観点から間口を
名が参加し,うち 4 名が奨励賞を受賞した。日本数学コ
広げ,理科の先生方とも協力して「豊中高校サイエンス・
ンクール大阪会場の運営には本会が関わっており,昨年
セミナー」へと発展していった。これについては,本会
度大阪会場の様子を研究セミナー第 46 号 [3] に掲載して
会誌第 48 号 [2] で報告している。一方,今回の取り組み
いる。また,日本数学オリンピックには 1 名が参加し,1
は,偶数回の部分の延長線上にあるものと自分では考え
次予選を通過した。今年度は,対象を 1 年・2 年に拡大
ている。
し,名称を「大手前数リンピック」と改めて継続実施し
同種の取り組みを他の先生方のアイディアを取り入れ
ながら少しずつ手直しをしたり,かつて準備した素材を
再利用したりしながら何度か行ううちに意識するように
なった考えを 2 点述べる。。
一つ目は,実践における繰り返しの重要性である。私
たちは,去年の生徒に対して行った取り組みが効果があ
り手ごたえがあれば,今年の生徒に対しても実施したい
と考える。これは自然なことである。個人レベルでの繰
り返しだけではなく,他校での取り組みが効果があった
ている。これについても,また機会があれば記録の意味
もかねて紹介したい。
参考文献
[1] 深川久,土曜講座「豊中高校数学セミナー 2003」実
践報告,大阪高等学校数学教育会会誌第 45 号,2004.
[2] 深川久,実践報告『豊中高校サイエンス・セミナー
2006』,大阪高等学校数学教育会会誌第 48 号,2007.
と聞けば,それを参考にして取り入れることがないかと
[3] 深川久,2007 年度日本数学コンクール大阪会場報告,
考える。ここには,人がやっていない・自分が初めて明ら
大阪高等学校数学教育会研究セミナー第 46 号,2007.
かにしたという点に価値を見出す世界とは異なった価値
観がある。同時に,どのような繰り返しも対象となる生
徒が異なり,実施する学校が異なり,実施した時期・時
代が異なれば,すでにまったく同一のものとはいえない。
その時々に置かれた状況に応じた修正を加えながら繰り
返し,そこで得られた知見を蓄積していくことに実践に
とって重要な意味があると考える。
二つ目は,記録することの重要性である。繰り返しの
中で小さな修正を積み重ね,少しずつ着実によいものに
していくためには,その小さな修正を書きとめ,参照可
能な形で保存することが必要である。個人的経験の蓄積
の範囲に留まる場合ですら,記憶だけでは難しく,書き
留めたものが後日大いに役立つという経験をしてきた。
まして他の数多くの実践事例を参照したり,そこでの成
果を利用するためには記録が不可欠である。また記録の
存在は,再利用の際の手間を大幅に減らし,多忙な中で
この種の取り組みを実施する際のハードルを下げる働き
をする。記録を参照し,過去の実践事例とそこで一度使
われた素材を再利用することは,それが現在の生徒に対
してよい効果を生むならば,価値ある実践である。
以前からこのような考えを持っていたが,本稿をまと
めるにあたり書き留めておく。
6
終わりに
講評を全員配布するという形態をとることにより,授
業を担当しているクラスだけではなく,学年全体に対し
て連絡通信の手段を確保できることとなった。この手段
を利用して,講評だけに限らず,日本数学コンクールや
数学オリンピックの募集案内などを掲載し,生徒に周知
[4] 公庄庸三,清風高校数学オリンピック,大阪高等学校
数学教育会研究セミナー第 17 号,1993.
[5] 公庄庸三,清風高校数学オリンピック,大阪高等学校
数学教育会研究セミナー第 19 号,1994.
[6] 公庄庸三,算額神社繁盛記,大阪高等学校数学教育会
研究セミナー第 22 号,1995.
[7] G. ポーヤ,自然科学における数学的方法,シュプリ
ンガー数学リーディングス第 12 巻,シュプリンガー・
ジャパン,2007.
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