...

雲とそのモデリング

by user

on
Category: Documents
13

views

Report

Comments

Transcript

雲とそのモデリング
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(1/52)
雲とそのモデリング - 基本の仕組みから気候モデルでの取り扱いまで –
中村晃三
地球環境フロンティア研究センター
水循環変動予測研究プログラム
◎ ご注意
ここに書かれていることが全て無条件に正しいとは信じないでください。
未だによくわかっていない事も含まれていますし、
中村が誤解している部分があるかもしれません。
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(2/52)
目次
Ⅰ.はじめに
雲:IPCCの温暖化予測の不確定性の原因の1つ
Ⅱ.雲粒・雨粒のでき方とエアロゾル
1 気象学の基礎知識
雲生成の鍵は? 凝結核
核の個数分布が雲→雨の速度を決める
2 雲微物理過程モデルの結果を使った気候モデル
→エアロゾルの間接効果の不確かさを減らす
Ⅲ.いろいろな雲の効果をどのように表すか?
(対流雲の空間スケールはモデル格子よりも小さい)
1 気象学の基礎知識
静的に不安定な成層で対流が起こる
2 対流雲を扱える?モデルの構築
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(3/52)
IPCC温暖化予測。気温変化の予測
2100年までの全球平均気温変化の予測例。
A2シナリオ
(多元化社会)
でのモデル間の
差。
IPCC:
気候変動に
関する政府間パ
ネル
IPCC第3次評価報告書、第1作業部会報告書
http://www.grida.no/climate/ipcc_tar/wg1/350.htm#fig95より
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(4/52)
大気・地表面系の放射→雲の役割
雲による(直接的)効果: 反射(日傘)効果と温室効果
太陽(短波)放射
太陽からの入射量を
6 20
100とする↓100
地表面(海陸)
4
赤外(長波)放射と運動による輸送
26
6 38 地表付近から
よりも少ない
放射が外へ
雲によ
る反射
上層
(低温)
↓51
地表付近
(高温)
114
92
5 24
太陽からの入射を100としたときの太陽放射の行方、赤外放射の起源、乱流による輸送
量。教養の気象学(朝倉書店)よりそれぞれの値は最近の評価では少しずれている。
日傘効果は高さにあまりよらないが、温室効果は、高い雲ほど(同じ水なら)大きい。
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(5/52)
温暖化実験のモデルによる雲の影響の差
大気トップでの雲による放射強制力の変化
太陽放射(短波)、地球放射(長波)に対する雲の影響
IPCC第3次報告書から、
但し、LeTreut and
McAvaney(2000)の
引用
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(6/52)
温暖化実験のモデルによる気温変化と雲
CO2増加実験(1%/yr)での
CO2倍増に相当する時期の
平均温度変化(CMIPのいく
つかのモデルの結果)
温度変化に大きな違いが出た2つの
モデルでの下層雲の雲量変化。
上:GFDLモデル、下:NCARモデル
Stephens, J.Climate, 18,
237-273, 2005 より。
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(7/52)
温暖化実験のモデルによる気温変化差の例
2つの雲物理パラメータでの結果:値への依存性
降水量
変化
温度変化
青三角:第3次報告書での最大と最小
赤四角:2004年のWGでの各モデルの結果
星印:ここで議論したモデルの結果
Ogura、第2回共生プロジェクト国際ワークショップ資料から
http://www.prime-intl.co.jp/kyosei-2nd/PDF/24/03_Ogura.pdf
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(8/52)
温暖化実験のモデルのイメージ図
イメージのわきやすい格子モデル
地球全体を格子で覆う。
通常、
水平格子間隔:100kmオーダー
鉛直格子間隔:100m~数km
予測する物理量
風速
温度
気圧
水蒸気量
(雲水量、
雨水量、…)
各格子の代表値
(雲量は?)
↑全球大気モデルのイメージ図(気象庁の資料から)
↑全球モデルから1つのコラムを
取り出したイメージ図
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(9/52)
数値モデルでの簡単な雲物理過程 バルクモデル
凝結水を雲水(落下を考えない)と雨水(落下する)に分ける
格子モデル
上の格子
から
雨か氷が
落下
雨か氷
温度
水蒸気
飽和水
蒸気圧
蒸発 もしくは 凝結
(雲量)
熱
雲か
雲氷
Auto-Conversion
下へ落下
予測する水の量:
水蒸気量、
雲水(雲氷)量、
雨水(氷)量。
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(10/52)
温暖化実験のモデルによる気温変化差の例
あるモデルでの2つの雲物理パラメータモデルへの依存性
モデル
氷雲と水雲の
共存する範囲
融けた氷がな
るもの
氷の落下と雲
→雨の変化率
High-sens.
-25~-5
雲水
早い
Low-sens.
-15~0
雨水(落下)
ゆっくり
←過冷却水の扱い
(0℃~-40℃間で存在)
氷雲と水雲が共存する範囲
と、その範囲での割合(液
水/(液水+氷水)の変化。
どちらのモデルも現時点で
の不確かさの範囲内。
Yokohata,Ogura
第2回共生プロジェクト
国際ワークショップ資料から
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(11/52)
温暖化実験のモデルによる気温変化差の例
2つの雲物理パラメータでの結果:値への依存性
降水量
変化
温度変化
青三角:第3次報告書での最大と最小
赤四角:2004年のWGでの各モデルの結果
星印:ここで議論したモデルの結果
Ogura、第2回共生プロジェクト国際ワークショップ資料から
http://www.prime-intl.co.jp/kyosei-2nd/PDF/24/03_Ogura.pdf
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(12/52)
IPCC温暖化評価。何がどの程度影響したか。
1850~2000年の間の大気組成変化による放射強制力の変化
エアロゾルの間接的影響(第1種)の不確かさに注目してください。
第2種はよくわからない。(第1種と第2種の違いはp24) 修正してください
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(13/52)
Ⅱ.雲粒・雨粒のでき方とエアロゾル
気象学の基礎:雲や雨のでき方を調べる→雲微物理学
•雲:水蒸気が凝結した液体の粒の集まり。
•凝結は、飽和水蒸気よりも多い水蒸気があるとき
起こる。
水蒸気のみ
液水
蒸発しない液体
•飽和蒸気圧とは平衡蒸気圧のこと。
•基本的に温度だけの関数。他の気体があると
その影響をごくわずかに受けるが、実用上は
その効果は無視できる。
閉じた容器内での蒸発平衡、
つまり、飽和蒸気圧を示す図
蒸気圧相当の重さ
•飽和しているというのは、どういうことか?
•水面からは絶えず水分子が蒸発している。
•水面へは絶えず水分子が凝結している。
•蒸発と凝結が同じ割合で起きるとき:平衡。
•通常は、飽和していない→蒸発が凝結より大
•冷えたりすると、凝結が蒸発より多くなる。
真空
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(14/52)
飽和蒸気圧の温度変化
• 分子の熱運動が活発なほど液面から分子が飛び出しやすい。→温
度は熱運動の活発さを示すので、温度が高いほど分子が飛び出や
すくなる。そのため、平衡水蒸気圧が高くなる。
低温の液体
飽和水蒸気圧(hPa)
分子数
高温の液体
蒸発できる分子
分子の運動エネルギー
• 温度は、平均的な熱運動の激し
さをあらわす。ある運動エネル
ギーよりも大きな分子が蒸発で
きる。
気温℃
1m3の空間に含まれる最大水蒸気量の変
化(1気圧、過飽和のない場合)
大雑把な値:0℃で5g、10度ごとに2倍
天気のことがよくわかる本、藤井幸雄著、西東社
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(15/52)
過飽和の話
水滴の中の分子が
出て行く(蒸発す
る)のを周りの分
子が妨げるが、
相対湿度(%)
飽和蒸気圧は平らな水面の場合に平衡になる水蒸気圧。
飽和蒸気圧の空気の中では、小さな水滴は、蒸発する。
半径(μm)
分子約
100個
雲粒
平衡相対湿度
(pr/p∞)
10-3
2.19
1
1.001
雨粒
1000
1.000001
平衡飽和
未飽和
蒸発
凝結
ケルヴィンの曲率効果
「微粒子が気候を変える(中公新書)より
1
水滴の中の分子が出て行く(蒸発する)
のを周りの分子が妨げるが、水滴の大き
さが小さいと、周りの分子の数が少なく
そのため、ひきつける力が弱いので、蒸
発が起こりやすい→平衡蒸気圧が高い。
水滴の半径(  m  1000 m m  10 m)
6
きれいな空気を静かに飽和させると、100%を超え
ても凝結が起こらない。(過飽和になる)
相対湿度は(水蒸気/飽和水蒸気)
分子の大きさについては次頁、雲粒内の分子数は後。
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(16/52)
*小水滴のでき方を分子の大きさから考える
はじめに、モルとアボガドロ数を思い出す。(高校の化学でやった?)
1モルは、質量数と(g単位で)同じ数の物質の量。つまり、
水(H2O)の場合、質量数が(1x2+16=18)なので、1モルの水とは18gの水のこと。
1モルの物質の中に含まれる分子の数がアボガドロ定数。値は、約6x1023。
(この値の求め方は、例えば、http://ja.wikipedia.org/wiki/を参照)
つまり、18gの水には、 6x1023 個の分子が含まれる。
計算の便利のために、たて、横、高さが3cmの立方体の水を考えると、
この水は、27gで、その中の分子の数は、 およそ、9x1023 ≒ 1024個。
縦、横、高さ方向に同じように
並んでいるとすると、3cmの中に、
108 個が並んでいることになる。
つまり、
1つあたりの分子が占める長さは、
3x10-8cm=3x10-10m=3x10-4μm。
だから、前頁の表の 10-3μm は、
数個の分子が集まった長さ。
この程度の粒は偶然にできるかも
しれないが、すぐ蒸発する。
通常、観測される飽和度は1+ほんのちょっと。
下図:参考に
中学校理科、
大日本図書より
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(17/52)
小水滴のでき方:観測されたエアロゾル
小さな粒子があると、その上に凝結することで、雲粒の生成・成長
が始まる。 一般に小さな浮遊粒子のことをエアロゾルと呼び、その
うち、雲粒の生成に関係するものを雲核とか、凝結核とか呼ぶ。
熱帯海上の対流雲の雲底付近の高
度で得られたエアロゾルの例
A:NaCl、海塩 (p19の図)
B:硫酸塩(主にCa, 他にNa,
Mg, K)
C:鉱物ダスト
他:硫酸アンモニウム
Kojima et al. JGR.110,
D09203, 2005
海以外のエアロゾルの起源として、土壌粒子、火山、大規模
火災、人間活動によるものなどがある。(黄砂、花粉)
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(18/52)
溶解性の粒子が核になる場合
臨界飽和比
飽和 未飽和
臨界半径
•
小さな粒子が水に溶ける物質のとき、飽和(平衡)蒸気圧
は、溶けている物の量(モル濃度)に応じて、減少する。
(ラウールの法則)イメージとしては↓
•
ものが溶けた水の表面には、水以外の分子も存在する。純
粋な水の場合に比べて水の蒸発が起こりにくくなる。つま
り、高い水蒸気圧の状態で平衡になる。
•
左図は、塩化ナトリウム(NaCl)の粒子(10-15 と10-16g)
があったときの水滴の半径による平衡相対湿度の変化。小
さい水滴では高濃度になるため下がり方が大きい。
•
図の見方。
•
10-16gのNaClでは、相対湿度が100.4%以下の状況では、
その相対湿度での平衡半径より小さな粒には水蒸気が凝結
して粒が大きくなる。このとき、周囲の水蒸気が減り、そ
れが周りから補償されながら、平衡となる粒が形成・維持
される(例えば、飽和していなくても、もやっているのは
こんなとき)。
•
相対湿度が100.4%を超えていると、小さな水滴に周囲
から水蒸気が凝結して臨界半径を超えると、平衡蒸気圧が
半径の増加で減少するため、成長に水蒸気を使ってもその
半径での平衡蒸気圧以上であれば、どんどん成長を続けて
いく。
←ケーラー曲線。雲と雨の物理(水野量著、朝倉書店)より
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(19/52)
雲と雨のでき方:エアロゾルの粒径分布
粒子濃度(cm-3) 海塩粒子生成のイメージ図
1個mm-3 10-4
10-3
0.01
0.1
1
10
100
半径(μm) 陸上で著しく汚染された空気中の エアロゾル(エーロゾル)の粒径分布
半径(cm) 粒径分布とは?
大きさごとに、どのくらいの数の
粒子があるかを表すもの
(図はJunge(1952)で、「雲と雨の物理」
メイソン著など多くの本で引用しているも
の。横軸の単位を変更した)
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(20/52)
雲(のようなもの)をペットボトル内に作る実験
• 目的:雲ができるときの核の重要性を実感するために。
• 用意するもの。
フィズキーパー(炭酸抜けま栓、加圧するもの)
ペットボトル(250~300ml程度、炭酸飲料のもの)
• 手順 (今日は500ml 30回でやる予定)
1.ペットボトルを中身を空にしてきれいに洗う(意識的でない程度の少量の
水を残す)。
2.ペットボトルにフィズキーパーを取り付ける。
3.フィズキーパーのふたを閉め、フィズキーパーをポンピング(20回ぐらい)
して空気を入れペットボトルの中の圧力を上げる。(気圧と温度が高まり、
その平衡蒸気圧になる程度まで待つ?)
4.コックを押して栓をイッキに開ける。
5.すると右の写真のようにペットボトルの中で雲のようなものが出来る。
(ここまでで十分な雲ができたら空気が結構汚れていることを意味する?)
6.一度フィズキーパーをはずして、ペットボトルの中に線香の煙を数秒入れ
る。(このとき、煙は見えなくなるが、小さな粒がいっぱい浮いている)
7.3~5を行うと、雲のようなものがよくできる。
このような雲を作る実験はいろいろなところで紹介されています。ここでは、
手軽にできるものとして、フィズキーパーを利用するものを紹介しました。
雲の親戚:ドライアイスの煙、湯気、
フィズキー
パー
写真は、下記のペー
ジから使わせても
らいました。
http://www.kenis.co.jp/experiment/environment/006.html#top を参考に
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(21/52)
雲粒と雨粒のイメージ
雲と雨の境目は、一応 r=0.1mm(連続的な分布なので、特に顕著
な差があるわけではない。便宜的なもの。落ち方の差?)
◎代表的な雲粒は、いく
つの分子からできてい
るか?
○分子1つ分の長さが、
3x10-4μmだから、
10μmには3x104個。
○ (3x104)3≒3x1013。
◎代表的雲粒はいくつ集
まると代表的雨粒にな
るか?
(102m)3 = 106個
数の方は、106 →1
便宜的な雲粒と
雨粒の間の境目
r = 100
V = 70
代表的凝結核
r = 0.1
n = 106
V = 0.0001
代表的雲粒
r = 10
n = 106
V =1
大雲粒
r = 50
n = 103
V = 27
注:
r = 半径(μm)
n = 1㍑中の個数
V = 終端速度
(cm s-1)
代表的雨粒 r=1000 n = 1 V = 650
右上:凝結核、雲粒、雨粒の比較図。McDonald,1958を元に、豪雨と降水システム(二
宮洸三著、東京道出版)などいろいろな本に出ている有名な図
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(22/52)
雲から雨への成長過程:凝結成長と併合成長
◎ 凝結成長
◎ 併合成長(図は「教養の気象学」)
周囲の水蒸気が雲粒に凝結して成長。 落下速度が異なる粒が衝突して
大きくなると時間がかかる。
合体することで成長。適当な大
下の表。気温-10℃、湿度100.25%の条件
きさの差が必要。下左:異なる
での成長。値は一般気象学から。
大きさの水滴がぶつかる様子
凝結
半径
最初の直径 10分間の直径の増加(%)
(mm)
水滴の成長 氷粒の成長
0.001
1900
13900
雲粒
0.002
910
6900
0.005
310
2700
0.01
125
1320
霧雨粒
0.02
41
615
0.05
11
200
0.1
2
73
雲雨境
0.2
0.5
22
雨粒
0.5
0.08
4
1.0
0.02
1
2.0
0.005
0.25
5.0
0.0008
0.04
併合
時間
◎ 凝結成長と併合成長(上右)
最初のうちは、凝結成長が効く
が、時間が経つ(大きく)なる
と、併合成長が効くようになる。
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(23/52)
*雨粒の落下:終端速度
「雲はなぜ落ちてこないのか(佐藤文隆著、岩波書店)」は面白い
•「雲は落ちてこない」は不思議か? 「重力
があるから落ちるべき」という科学的な疑問
→(空気が支えて終端速度で落ちる)
•「空気はなぜ落ちないのか?」透明でかなり
軽くても質量がある以上重力を受けるはず。
→(上空ほど気圧が低く、その圧力差で支え
ると説明するが、それはどういうことか?)
•「重力があれば落ちて下にたまる」は空気分
子では誤り。落ちたらエネルギの保存ではね
る。温度に応じた速度で飛び回って衝突して
いるのを平均的にみたのが圧力。
•雨はなぜ落ちるか? 支えが弱いからだが、
自由落下よりはるかにゆっくり落ちてくる。
(自由落下の速度は、「速度2=2xgx高さ」
より、高さ500mとして100ms-1)
半径 終端速度
(mm) (cm s-1)
0.03
雲粒 0.001
0.002
0.1
0.004
0.5
0.008
2.0
3.0
(霧雨 0.01
4.7
粒とも) 0.02
0.04
17.5
0.08
52.7
71.0
雲雨境 0.1
0.2
160.0
雨粒
0.4
325.0
0.8
565.0
1.0
649.0
2.0
883.0
1km落下
する時間
1ヶ月
11日
2日8時間
14時間
9時間
6時間
1.5時間
32分
24分
10分
5分
3分
2.5分
2分
右上の表。雨滴の終端速度(20℃,1000hPaの場合)(メイソン,1971)より
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(24/52)
雲の放射特性に対するエアロゾルの影響
放射に関係しそうな雲の性質:
雲量(寿命)、高度、幾何学的厚さ、光学的厚さ、液水量と氷水量、粒径分布
エアロゾルが多くあると、小さな雲粒が多くできる。
• 凝結した水の質量が同じ場合、多くの数の小さな雲粒は、少しの数の大きな雲
粒に比べて幾何学的面積が大きい。
• エアロゾルの数が多くて、小さな雲粒が多くできると、放射に対する雲の効果
が大きくなる。第1種のエアロゾルの間接効果:Twomey効果とも呼ばれる
左の粒の半分の大
きさの8つの粒
小さな雲粒が多くできると
• 同じような大きさの小さな雲粒が多
くできると→衝突が起こり難くなり
→雨への成長が遅れ→雲でいる時間
が長くなり→雲の効果が増加する。
• これが第2種のエアロゾルの間接効
果。
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(25/52)
雲のでき方に対するエアロゾルの影響の例
層雲の下を船が通ると、船の軌跡(但し、風で流される)が反射率
の大きな線として可視画像に見える。(カリフォルニア沖での図)
Track内では、平均で
は、雲水量やや減少、
サイズ分布は広くな
り、周囲との反射率
の違いはTwomeyの
式(雲粒密度の差)
でよく表される。
Ackerman, et al.
2000, JAS,
57,2684-2695. よ
り
http://cimss.ssec.wisc.edu/goes/misc/980715.htmlより
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(26/52)
雲粒粒径分布の航空機観測
雲粒粒径分布観測の写真
Merlin IV of Meteo France with PMS probes
BBC-Workshop(Leipzig)13.05.-16.05.2002での
Nagel@GKSSの発表から(次ページも)
PMSはparticle measuring systems Inc.
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(27/52)
航空機観測で得られた雲粒粒径分布の例
粒径が広い範囲にわたる
ので、3つの測器の結果
を結合して粒径分布とす
る。10秒間の結果。
PMS FSSP-ER /
PMS FSSP-100
10
6
10
5
10
4
10
3
10
2
10
1
10
0
F S S P -E R
2 D 2 -C
2 D 2 -P
m e r g e d s p e c tr a
-1
-1
dN/dD [ l µm ]
50 % limit
10
-1
10
-2
10
-3
10
-4
10
-5
10
-6
PMS OAP 2D2-C
25 % limit
50 % limit
PMS OAP 2D2-P
1
10
100
e q u iv a le n t d ia m e t e r [ µ m ]
1000
等価直径(μm)
13.09.01 Merlin flight 41, leg 8
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(28/52)
雲のでき方に対するエアロゾルの影響
Monterey Area Ship Track Experimentより
上の線:雲粒粒径分布、雲内
(破線)と周囲(実線)左軸。
下の線:液水量、右軸。
Ferek, et al. 2000, JAS, 57, 2707-2728. より
上の線:全
ての雲粒
から計算
した液水
量の空間
変化、
下の線:大
きな雲粒
から計算
した液水
量。Ship
trackで減
少
上下の図は
それぞれ
別々の測
器のもの。
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(29/52)
雲のでき方に対する船の影響
↑ρ(可視)
↑ρ(λ)
散乱
w
雲粒子安定
浮力
↑数
↓サイズ
凝結
散乱
↑LWC
↑雲粒径
過飽和
臨界サイズ
の減少
気温
凝結
↑CCN
気体ー粒子
変換
断熱
膨張
w
直接
粒子放出
直接
熱放出
運動量
輸送
水蒸気
水蒸気
放出
エアロゾル
活性化
↑S気体
↑N気体
↑HC
直接
ガス放出
船のすぐ後ろで
の ship track
のできる過程の
説明図。長方形
は過程、楕円は
↑増加、↓減少
の効果を表す。
(黒矢印は観測
で確認されたも
の)
Durkee, et al.
2000, JAS,
57,25232541. より
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(30/52)
ship track、その他の話題
1994年6月に観測された ship track
◎煙突と雲の様子のビデオ。学芸大
学の森さんが環境エネルギー館(横
浜市鶴見区)で撮影。
けむり自身は見えなくても、煙突
の上で雲がたつことがわかります。
http://buran.ugakugei.ac.jp/XOOPS/
から教育用素材に入って見つける
ことができます。
◎都市の雲のでき方に週変化がある。
Jin et al. JGR 2005
◎9.11テロの後、航空機が飛ばなかっ
たら天気がよかった。(?)
Durkee, et al. 2000, JAS, 57,2523-2541. より
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(31/52)
雲解像モデルでの暖かな雲物理過程 ビンモデル
雲粒を粒径によってグループ(ビンと呼ぶ)に分け、グループごとの質
量で粒径分布を表す。
格子モデル
上の格子から
全てのビンでそれぞ
れの終端速度で落下
温度
水蒸気
飽和水
蒸気圧
熱
蒸発か
凝結
下へ落下
雲量とい
うより光
学的厚さ
凝結核
併合の例
粒径によってグループに分けて、それぞれの質量(+
粒子数)を予測。併合は全ての組み合わせで計算
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(32/52)
詳細な雲物理過程の結果から大循環モデルへ
正確な気候予測モデルに何が必要か?
エアロゾル:化学的性質、粒径分布、生成場所、生成量
性質:NaClなどはよくわかっているが、未解明なものが多い
なぜ?
粒径分布の重要性
凝結核の粒径分布と上昇流の大きさで、どのような初期雲粒粒
径分布になるかが決まる。→雨への成長も変わる。
エアロゾル
の種類と
粒径分布
雲底での
上昇速度
雲底付近での
最大過飽和度
と活性化する
数密度
放射特性
雲粒数密度
雲粒の成長
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(33/52)
エアロゾル化学輸送モデルに出てくるエアロゾル観測例
衛星搭載の
MODISというセ
ンサーで得られ
た4種のエアロ
ゾルの光学的厚
さ(物質の量)。
(青から近赤外の
4つの波長)
DST:土壌起源、
CRB:炭素性、
SLF:硫酸塩、
SSL:海塩起源。
各月の平均値
東大気候システム研究センターのホームページ、APEX最終報告書よりの引用
http://www.ccsr.u-tokyo.ac.jp/docs/Nakajima/activities/CREST.Sympo0410.NKJ.pdf
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(34/52)
エアロゾル化学輸送モデルで再現された有効粒子半径
下層雲(雲頂温度が273
度以上)の有効粒子半径
(μm)の全球分布。
衛星観測で得られた結果
(上、Kawamoto et
al.,2001)と、
エアロゾル化学輸送モデル
の結果(下、Takemura
et al., 2005)
東大気候システム研究センターのホームページ、気候と放射研究グループの紹介からの引用
http://www.ccsr.u-tokyo.ac.jp/docs/Nakajima/activities/jcliradg.html
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(35/52)
大気組成変化の影響の再評価
1850年~の大気組成変化による大気上端での放射強制力の変化
エアロゾル化学輸送モデルを使った結果(Takemura et al. 2004)
p12
「気候変動の将来の見通しの向上を目指したエアロゾル・水・植生等の過程のモデル化に関する研究」(神沢博)より
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(36/52)
雲解像モデルでの冷たい雲物理過程 バルクモデルの例
水蒸気
雲氷
雲水
雪
雨水
あられ
CReSS(http://cf.tokyo.rist.or.jp/、坪木)の場合
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(37/52)
Ⅲ.いろいろな雲の効果をどのように表すか?
雲の大きさのいろいろ(層状の雲と鉛直に発達する雲)
7月9日10時赤外画像
積乱雲
10km
12740km
1km
10km
右図は、佐藤正樹さん、平成14年度地球フロンティア成果発表会 の資料から
全球画像は、気象庁http://www.jma.go.jp/JMA_HP/jp/gms/ball/gms-m.htmlから
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(38/52)
層状の雲はどのように表されているか?
中緯度の高・低気圧の周りの雲
•中緯度の高・低気圧の周りの雲のタイ
プと、1000hPa面での速度、高度の
分布。高低気圧の周りで合成したもの。
•上は、ERAという解析データから得ら
れた結果、下は、その中でモデルで2
4時間予測をした結果。
•各色の意味は↓雲頂高度と光学的厚さ
•大雑把に見れば、特徴がよく再現され
ている。
が、詳しく見てみると、問題もある。
Klein and Jakob, 1999 Mon. Wea.
Rev., 127, 2514-2531. より
H
H
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(39/52)
層状の雲も細かく見ると構造がある
大きなスケー
ルの構造の
中に小さな
スケールの
構造が埋め
込まれてい
る。
衛星写真の
実例:次頁
一般気象学(小
倉義光著、東京
大学出版会)か
ら
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(40/52)
衛星写真でみた梅雨前線の雲の構造
長崎豪雨のときの衛星写真です。赤い部分が活
発な対流雲の塊で、それが集団を作っています。
文部省科学研究費「集中豪雨のメカニズムと予測に
関する研究」研究成果報告書、平成2年3月より
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(41/52)
鉛直に発達する雲をどう扱うか?
格子間隔が大きいと、雲の効果を含む平均的な量を
予測する必要がある。
雲対流の(暖かく湿った空気を上へ運ぶ)効果と、
雲量を適当なモデルで表す。
パラメタリゼーションの任意性→曖昧さ
100kmのオーダー
格子間隔を小さくして、雲の効果をあらわ
に計算すれば、雲対流の曖昧さはなくなる。
雲物理過程や乱流過程はまだパラメタリゼー
ション。
10kmのオーダー
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(42/52)
雲モデルの理解→上昇する空気の塊の温度変化
上昇すると、気圧が低いので
膨張し、仕事をするので
冷える。
山で温度が低いのはこのため。
多くの水蒸気がある場合、凝
結しながら上昇すると、
温度の減り方が小さい。
凝結なしの温度の減る割合を
乾燥断熱減率、
凝結ありの温度の減る割合を
湿潤断熱減率と呼ぶ。
次ページの図で、乾燥断熱線
と湿潤断熱線が上昇気塊
の温度変化を表す。
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(43/52)
観測された温度分布と雲のでき方
今年の6月28日、新潟で豪雨が起きた日の輪島での高層観測結果(skewT表示)
縦軸:気圧(対数メモリ)
横軸:温度(斜めに等値線)
青紫線:温度の等値線
緑線:乾燥断熱線(飽和しない上昇
気塊の温度変化の線)
青線:湿潤断熱線(飽和した上昇気
塊の温度変化の線)
赤紫線:飽和水蒸気量を表す線
黒線は温度(右)と露点温度(左)
の高度分布を表す。
露点温度の線を赤紫線で読めば、湿
度(水蒸気)がわかる。
右の矢羽は風速と風向を表す。
この日、下層はほぼ飽和。地上付近
で暖められた気塊は、凝結しな
がら上昇する。対流は断熱減率
の成層を作る。
この種の図は、ワイオミング大学のページで簡単に作ることができます。
http://weather.uwyo.edu/upperair/sounding.html
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(44/52)
観測された温度分布と雲のでき方
東京で豪雨が起きた(練馬で91mm/hour)1999年7月21日の朝の筑波の観測
線の説明は、前の図と同じ。
東京では、気温が34℃まで上がっ
たということで、上層の温
度が午前9時のこの観測の
ままだとしたら、
地表付近の空気は、上昇して
870hPaぐらいで凝結し、
周囲と混ざらなければ
150hPa程度まで到達しう
るので、非常に活発な対流
が起こると考えられる。
但し、このような対流は周囲の清
掃を断熱減率にするもので
はない。
図は、http://weather.uwyo.edu/upperair/sounding.htmlで作成
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(45/52)
雲モデルの考え方の例
例1.対流調節過程
•地面付近で暖められた空気
は上昇し、入れ替わりに周
囲を降りてきた空気が次に
暖められる。
•この過程を繰り返すと、地
面付近には、断熱減率の温
度分布ができる。
•下が暖かい成層ができそう
になったら、温度分布が断
熱減率になるようにする。
但し、飽和になりそうなら
ば、湿潤断熱に、ならなけ
れば乾燥断熱に、部分的に
なりそうならば、その中間
にする。
例2.Arakawa-Shubert 型スキーム
•格子の一部を雲が上昇する。雲は周りから空気
を取り込み、また周りに空気を吐き出す。
•周囲と混ざることで、浮力を失う高度まで上昇
する。到達高度は大きさによって異なる。
•適当な量の雲ができることで、(大規模場によ
る不安定化をある程度解消した結果として)適
度な成層が維持される。
Arakawa
and
Schubert,
1974, JAS,
31, 674701.より
難しそうな点:特に雲と雲の間の関係
最初の雲が残した水蒸気の豊富なところは上昇しやすい。
何もないと発達しないが、下降流や冷気プールがあるとトリガーとなって発達。
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(46/52)
格子間隔による再現降水量の違い
現在の気候での日本付近の7月の
月平均降水量の再現結果。
GPCP:(衛星データを含む)観
測データをまとめたもの。格
子間隔は 2.5 度
他は、格子間隔(正確には切断波
数)を変えた全球気候モデル
の結果。
格子間隔に依存:どこまで?
重要な対流(群)を十分に解像できる
モデルを作る。十分細かい格子で
共生プロジェクトワーク
ショップの楠さんの資料
から。気象集誌に投稿中
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(47/52)
積雲対流をパラメタライズしない?全球モデル
Cloud-resolving convection parameterization. Super-parameterization(Grabowski)
全球モデルで、各格子(黒い線で表される)中央を
詳細な2次元雲解像モデルで結び、その雲解像モ
デルで小さなスケールの運動の効果を表現する。
例えば、dx=2km 程度が使われる。
Randall et al., 2003, Bull.Amer.Meteor. Soc.,
1547-1564.より、
結果の一例。熱帯の降水強度、
200hPaと850hPaの東向き
速度、外向き赤外放射の経度・
時間断面図。但し、20~
100日振動成分を取り出した。
(初期のもので、2次元モデ
ルは各格子で独立)
左図は通常の全球モデル、右図
がこの方法のモデルの結果。
観測されているMadden-Julian
振動に似た変動が得られた。
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(48/52)
積雲対流をパラメタライズしない全球モデル
全球雲解像モデルのメッシュの切り方:世界を三角に切る~正20面体格子
分割→
分割→
分割→
分割→
7回分割
(~56km)
8回分割
(~28km)
3回分割
2回分割
1回分割
分割→
分割→
9回分割
(~14km)
→分割
を繰り
返す
分割→
分割→
10回分割
(~7km)
図は、佐藤正樹さん、平成14年度 地球フロンティア成果発表会 の資料から
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(49/52)
全球雲解像モデル非静力学正20面体格子大気モデル
NICAM: Nonhydrostatic ICosahedral Atmospheric Model
地球フロンティアモデル統合化領域次世代大気大循環モデル開発グループの人々の成果
初めから Earth Simulater の上で走らせることを想定して構築
全地表面が海としたと
きの結果。外向き赤外
放射。(高い雲の部分
で白く、低い雲の部分
で灰色に見えている。)
積雲のパラメタリゼー
ションを使わずに、自
然に、熱帯では雲クラ
スターが、中緯度では
低気圧の雲が再現され
ている。
図は、佐藤さんのページ http://www.ccsr.u-tokyo.ac.jp/~satoh/nicam/から
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(50/52)
今日のセミナーで出てくる(普段よく使う?)代表的な数値
やや正確な値
大雑把な値
地球半径
赤道 6378km
極 6357km
直径:10000km
重力加速度
太陽定数(平均の4倍)
摂氏温度0度
空気の密度(1気圧,0℃)
空気の分子量
水の分子量
9.8 m s-1
1370 W m-2
273.15 K
1.293 kg m-3
28.97 g mol-1
18.016 g mol-1
1g cm-3=103 kg m-3
液体水の密度
普遍気体定数
空気の気体定数
水蒸気の気体定数
アボガドロ定数
高さ方向にたした水の量
10 m s-1
平均 342 W m-2
273K、常温300K
1.0 kg m-3
8.314 J kg-1 mol-1
287 J kg-1 K-1
461 J kg-1 K-1
6.0221367x1023
6x1023
1~5 g cm-2
1億(108)はすごく大きな数。1秒に1ずつ数えると、3年で約1億。150億年で宇宙の始まり。
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(51/52)
*衛星で観測された放射フラックス
International Satellite Clouds Climatology Project 国際衛星雲気候計画、198307-200109
正味上向
き全フラッ
クス
全雲量
正味上向
き長波フ
ラックス
正味上向
き短波フ
ラックス
地球情報館公開セミナー 35
2005/07/09(52/52)
Thank you.
◎ 現在の科学で定説になっていると言われても
1.ほぼ確実な言説、
2.確率的な話、
3.現在、もっとも有力な仮説(にすぎない)、
の場合がある。確実性に違いがあることを認識するのは重要だ。
(やぶにらみ科学論、池田清彦著、ちくま新書、p61の内容です)
積雲対流パラメタリゼーションは定説とはいえませんが、
よりよいものにすることが、また、できるかぎりの対流を
直接表すようなより確かなモデルが望まれていると思います。
◎ 引用した図を使わせていただいた方々に感謝します。
Fly UP