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‧ 國 立 政 治 大 學 ‧

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‧ 國 立 政 治 大 學 ‧
國立政治大學日本語文學系
碩士論文
指導教授:王淑琴
立
副教授
政 治 大
‧ 國
學
認知言語学の観点から見る
‧
「ウス-」と「コ-」の多義性と評価性
n
er
io
sit
y
Nat
al
Ch
engchi
研究生:吳佳蓁
i
n
U
撰
中華民國 102 年 7 月
v
認知言語学の観点から見る
「ウス-」と「コ-」の多義性と評価性
要旨
本稿の目的は「ウス-」と「コ-」が表す多義性と評価性を明ら
かにすることである。本稿では認知言語学の観点から「ウス-」と
「 コ - 」の 多 義 性 を 見 る 。そ し て 、
「 ウ ス - 」と「 コ - 」は そ れ ぞ れ
語 基 に ど の よ う な 評 価 性 を 付 加 す る か を 解 明 す る 。さ ら に 、
「ウス-」
と「コ-」の評価性の違いからその類義性を見る。
政 治 大
本稿は6章で構成される。第1章は序論である。第2章は先行研
立
究 で あ る 。第 3 章 で は「 ウ ス - 」が 表 す 多 義 性 、第 4 章 で は「 コ - 」
‧ 國
學
が表す多義性を解明する。第5章では「ウス-」と「コ-」との評
価性の違いを検討し、評価性に基づく類義分析の例を提示する。最
‧
後に、第6章は結論である。
従来の研究では「ウス-」と「コ-」が表す多義性に対する記述
y
Nat
sit
が不十分であり、各意味の相互関係を明らかにしていない。また、
n
al
er
io
「ウス-」と「コ-」が語基に付加する評価性も解明していない。
i
n
U
v
本稿では「ウス-」と「コ-」が各自の多義ネットワークを持ちな
Ch
engchi
が ら 、 両 方 と も <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >の 意 味 を 表
す こ と を 解 明 し た 。さ ら に 、
「 ウ ス - 」が 語 基 に 評 価 性 を 付 加 す る 場
合はマイナス評価を付加するのに対し、
「 コ - 」は プ ラ ス 評 価 を 付 加
す る こ と も あ り 、ま た 、
「 ウ ス - 」の マ イ ナ ス 評 価 は「 心 理 的 な 不 快
感 」か ら 来 た も の で 、
「 コ - 」の マ イ ナ ス 評 価 は「 軽 侮・ 軽 蔑 」の 意
味から来たものであることを明らかにした。
キーワード:多義語、多義ネットワーク、語構成要素、語基、意味
拡張、評価性、類義性
從認知語言學的觀點看
「 usu-」 和 「 ko-」 的 多 義 性 與 評 價 性
摘要
本 論 文 旨 在 闡 明 日 語 「 usu-」 和 「 ko-」 的 多 義 性 及 評 價 性 。 主 要
從 認 知 語 言 學 的 角 度 來 看「 usu-」和「 ko-」的 多 義 性 。 除 釐 清「 usu-」
和「 ko-」各 賦 予 詞 幹 何 種 評 價 性 ,並 從 兩 者 評 價 性 的 不 同 來 探 討 其 類
義性。
本論文共分 6 章。第 1 章為緒論。第 2 章為文獻探討。第 3 章分
政 治 大
析「 usu-」的 多 義 性,第 4 章 分 析「 ko-」的 多 義 性。第 5 章 探 討「 usu-」
立
和「 ko-」所 賦 予 詞 幹 評 價 性 的 差 異,並 以 兩 者 評 價 性 的 差 異 探 討 類 義
‧ 國
學
語的差異。第 6 章為結論。
過 去 的 研 究 對 於「 usu-」和「 ko-」所 表 示 的 多 義 性 記 述 不 夠 充 分 ,
‧
也 未 闡 明 各 個 語 意 間 的 相 互 關 係 。除 此 之 外,過 去 的 研 究 對 於「 usu-」
和「 ko-」賦 予 詞 幹 的 評 價 性 也 記 述 地 不 夠 充 分 。從 本 論 文 的 調 查 結 果
y
Nat
sit
得 知 ,「 usu-」 和 「 ko-」 雖 有 各 自 的 多 義 網 絡 , 但 兩 者 所 表 示 的 語 意
al
er
io
中 皆 有 「 未 達 某 個 基 準 , 程 度 低 下 」的 意 思 。 此 外 ,「 usu-」賦 予 詞 幹
n
v
i
n
C 面 評 價 來 自 於「U內 心 的 不 快 感 」,但「 ko-」
有。而「 usu-」賦 予 詞 幹 的 負h
engchi
的 評 價 性 皆 為 負 面 評 價,但「 ko-」賦 予 詞 幹 的 評 價 性 則 正 負 面 評 價 都
賦予詞幹的負面評價則來自於「輕蔑」的意思。
關鍵字:多義語、多義網絡、語彙構成要素、詞幹、語意擴張、評價
性、類義性
謝辞
政治大学日本語研究科に入って四年間にわたって やっと卒業する
ことができました。ここまで来られたのは皆様の御蔭だと存じてお
ります。本研究に関して終始ご指導ご鞭撻を頂きました本学
王淑
琴准教授に深く御礼申し上げます。論文を書く三年間ではいろいろ
と先生にご迷惑をお掛けしてしまいました。それにも関わらず、ご
教示とご助言を頂きました御蔭で、論文を無事に完成させることが
できました。本当にありがとうございました。また、口頭試問の際
にご指導頂き、なおかつ本研究に関する資料を頂きました開南大学
応用日本語学科
政 治 大
王蓓淳助教授、審査の際に有用なコメントを頂き
立
平素よりも多方面からご指導頂きました本学
蘇文郎教授・吉田妙
‧ 國
學
子教授、いつも励まして頂きました蔡瓊芳准教授、日本語の問題を
ご指摘頂きました永井隆之助教授、本学科の先生方々に心より感謝
‧
の意を申し上げます。
另外,我最要感謝的是支持我這四年研究生生涯的爸爸、媽媽。謝
y
Nat
sit
謝他們在經濟方面的援助,也謝謝他們代替我承受很多壓力,謝謝他
er
io
們支持我做的每一件事情。如果沒有他們的支持,就沒有現在寫謝辭
al
n
v
i
n
C h 惱 、 困 惑 、 難U過 之 際 , 帶 給 我 莫 大 的 幫
研究生生活的同學們。在我煩
engchi
的我。我還要感謝從各方面支持我的賴庭筠助教,以及陪我一起度過
助與支持。
마지막으로, 한국어 수업의 이현주 선생님과 친구들에게도 감사한
마음을 전하고 싶습니다. 아무리 힘들어도 한국어 수업에서 모두와
함께
지내는
시간들이
얼마나
행복한지
모르겠습니다.
한국어를
공부할 때 기분 전환을 할 수 있어 제 연구 생활에 힘이 됩니다.
너무 감사합니다.
目次
第1章
序論
1.1
研 究 動 機 と 目 的 ····························· 1
1.2
研 究 対 象 と 範 囲 ····························· 3
1.3
研 究 方 法 ··································· 4
1.4
本 論 の 構 成 ································· 6
第2章
先行研究
2.1
「 ウ ス - 」 と 「 コ - 」 に 関 す る 先 行 研 究 ······· 7
政 治 大
2 . 1 . 2 奥 秋 ( 1996) ······················· 8
立
2 . 1 . 3 玉 村 ( 2001) ······················· 8
2.1.1
壽 岳 ( 1954) ······················· 7
‧ 國
學
皆 島 ( 2003) ······················· 9
2.1.5
劉 ( 2005) ························· 10
2.1.6
呉 ( 2008) ························· 11
2.1.6
久 保 ( 2011) ······················· 12
2.1.7
先 行 研 究 に お け る 問 題 点 ············· 13
‧
2.1.4
sit
y
Nat
er
本 稿 が 導 入 す る 理 論 ························· 14
io
2.2
a多
義 語 分 析 に つ い て ·················
14
iv
l C
n
he
意味拡
張 ···························
17
ngchi U
n
2.2.1
2.2.2
2.2.2.1
メ タ フ ァ ー ················· 17
2.2.2.2
メ ト ニ ミ ー ················· 19
2.2.2.3
シ ネ ク ド キ ー ··············· 21
2.2.3
第3章
多 義 ネ ッ ト ワ ー ク ··················· 21
「ウス-」が持つ多義性
3.1
「 ウ ス - 」 の 多 義 分 析 ······················· 23
3.1.1
プ ロ ト タ イ プ ······················· 23
3.1.1.1
名 詞 に 付 く 場 合 ············· 24
3.1.1.2
連 用 形 名 詞 に 付 く 場 合 ······· 25
I 3.1.1.3
3.1.2
別 義 1 ····························· 26
3.1.2.1
名 詞 に 付 く 場 合 ············· 26
3.1.2.2
連 用 形 名 詞 に 付 く 場 合 ······· 28
3.1.2.3
動 詞 に 付 く 場 合 ············· 29
3.1.2.4
「 ウ ス - 」 が 表 す 別 義 1 ····· 30
3.1.2.5
意 味 拡 張 ··················· 31
3.1.3
別 義 2 ····························· 33
3.1.3.1
名 詞 に 付 く 場 合 ············· 33
3.1.3.2
連 用 形 名 詞 に 付 く 場 合 ······· 35
3.1.3.3
············· 37
立
3.1.3.5
「 ウ ス - 」 が 表 す 別 義 2 ····· 39
3.1.3.6
意 味 拡 張 ··················· 39
‧ 國
形 容 詞 に 付 く 場 合 ··········· 38
多 義 ネ ッ ト ワ ー ク ··························· 42
「 ウ ス - 」 が 付 く 語 基 の 性 質 ················· 42
al
n
4.1
er
io
「コ-」が持つ多義性
sit
y
Nat
第4章
3.1.3.4
‧
3.3
政動 詞治
に付く場合
大
學
3.2
「 ウ ス - 」 の プ ロ ト タ イ プ ··· 25
v
i
n
C h タ イ プ ·····················
プロト
45
engchi U
「 コ - 」 の 多 義 分 析 ························· 45
4.1.1
4.1.1.1
名 詞 に 付 く 場 合 ············· 46
4.1.1.2
連 用 形 名 詞 に 付 く 場 合 ······· 47
4.1.1.3
「 コ - 」 の プ ロ ト タ イ プ ····· 49
4.1.2
別 義 1 ····························· 49
4.1.2.1
名 詞 に 付 く 場 合 ············· 50
4.1.2.2
連 用 形 名 詞 に 付 く 場 合 ······· 54
4.1.2.3
「 コ - 」 が 表 す 別 義 1 ······· 55
4.1.2.4
意 味 拡 張 ··················· 56
4.1.3
別 義 2 ····························· 58
4.1.3.1
意 味 拡 張 ··················· 59
II 4.1.4
別 義 3 ····························· 61
4.1.4.1
4.1.5
意 味 拡 張 ··················· 62
別 義 4 ····························· 65
4.1.5.1
名 詞 に 付 く 場 合 ············· 65
4.1.5.2
連 用 形 名 詞 に 付 く 場 合 ······· 67
4.1.5.3
動 詞 に 付 く 場 合 ············· 68
4.1.5.4
形 容 詞 に 付 く 場 合 ··········· 69
4.1.5.5
「 コ - 」 が 表 す 別 義 4 ······· 70
4.1.5.6
意 味 拡 張 ··················· 70
4.2
多 義 ネ ッ ト ワ ー ク ··························· 71
4.3
「 コ - 」 が 付 く 語 基 の 性 質 ··················· 73
立
5.1
‧ 國
「ウス-」と「コ-」の評価性
學
「 ウ ス - 」 の 評 価 性 ························· 75
<厚 さ の 値 が 少 な い >の 場 合 ··········· 75
5.1.2
<濃 度 ・ 密 度 が 低 い >の 場 合 ··········· 75
‧
5.1.1
y
Nat
io
の 場 合 ····························· 76
al
n
5.2
<あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >
sit
5.1.3
er
第5章
政 治 大
i
n
U
v
「 コ - 」 の 評 価 性 ··························· 79
Ch
engchi
5.2.1
<占 め る 空 間 が 小 さ い >の 場 合 ········· 79
5.2.2
<物 理 的 な 量 が 少 な い >の 場 合 ········· 80
5.2.3
<年 齢 が 幼 い >の 場 合 ················· 80
5.2.4
<動 作 の 継 続 時 間 が 短 い >の 場 合 ······· 82
5.2.5
<あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >
の 場 合 ····························· 82
5.3
「 ウ ス - 」 と 「 コ - 」 の 評 価 性 ··············· 87
5.4
「 ウ ス - 」 と 「 コ - 」 の 評 価 性 か ら 見 る 類 義 性 · 89
5.4.1
「 薄 暗 い 」 と 「 小 暗 い 」 ············· 89
5.4.2
「 薄 寒 い 」 と 「 小 寒 い 」 ············· 91
5.4.3
「 薄 汚 い 」 と 「 小 汚 い 」 ············· 93
III 第6章
5.4.4
「 薄 馬 鹿 」 と 「 小 馬 鹿 」 ············· 95
5.4.5
「 薄 気 味 」 と 「 小 気 味 」 ············· 97
結論
6.1
ま と め ····································· 99
6.2
今 後 の 課 題 ································· 103
付録1
「 ウ ス - 」 に よ る 複 合 語 ························· 105
付録2
「 コ - 」 に よ る 複 合 語 ··························· 109
参 考 文 献 ··············································· 115
立
政 治 大
‧
‧ 國
學
n
er
io
sit
y
Nat
al
Ch
engchi
IV i
n
U
v
第1章
1.1
序論
研究動機と目的
「 ウ ス - 」と「 コ - 」は 両 方 と も 多 義 性 を 持 つ 語 構 成 要 素 1 で 意 味
が重なり合う部分が見られる。国語辞典における「ウス-」と「コ
- 」 の 語 釈 を 見 る ( 意 味 が 重 な り 合 う 部 分 だ け を 示 す )。
(1) 『 日 本 国 語 大 辞 典 』
a.「 ウ ス - 」: な ん と な く 、 ち ょ っ と の 意 を 表 わ す 。
b.「 コ - 」: 動 詞 ・ 形 容 詞 ・ 形 容 動 詞 ・ 副 詞 な ど の 上 に 付 い て 、
政 治 大
その動作・状態の量や程度が大げさでないことを表わす。すこ
立
し。なんとなく。
‧ 國
學
(2) 『 大 辞 泉 』
a.「 ウ ス - 」: な ん と な く 、 ど こ と な く 、 ち ょ っ と の 意 を 表 す 。
‧
b.「 コ - 」: 動 詞 ・ 形 容 詞 ・ 形 容 動 詞 な ど に 付 い て 、 す こ し 、 な
んとなく、などの意を表す。
y
Nat
sit
(3) 『 大 辞 林 』
n
al
er
io
a.「 ウ ス - 」: は っ き り し な い 、 な ん と な く の 意 を 表 す 。
i
n
U
v
b.「 コ - 」: 用 言 に 付 い て 、 量 や 程 度 が わ ず か な 意 を 表 す 。
Ch
engchi
上列した語釈から分かるように、
「 ウ ス - 」と「 コ - 」は 両 方 と も
1
日本語の語構成要素は内容、組み合わせの仕方と意味機能によって単純語と
合成語の2種類に大別することができる。合成語はさらに二つ以上の語根から
なる複合語と語根と接辞からなる派生語の2種類に分けることができる(風
間 ・ 上 野 ・ 松 村 ・ 町 田 2004)。 語 根 は 語 彙 的 な 意 味 を 持 つ 形 態 素 で 、 接 辞 は 機
能的あるいは文法的な意味を持つが、語彙的な意味を持たないと考えられる形
態素である。本稿の場合では「ウス-」と「コ-」が表す意味をすべて取り上
げ る 。「 厚 み が 少 な い 」 と い う 意 味 を 表 す「 ウ ス - 」と「 形 が 小 さ い 」と い う 意
味 を 表 す 「 コ - 」 は 実 質 的 な 語 彙 的 意 味 を 表 す 。 一 方 、「 ウ ス - 」 と 「 コ - 」 は
「なんとなく、少し、わずか」のような語彙的意味がやや希薄化している場合
が あ る 。 湯 ( 2012) は 日 本 語 の 接 辞 の 中 に は 語 根 と 明 確 に 区 別 す る こ と が で き
ず、互いに連続相を呈するものがあることを指摘している。本稿は「ウス-」
と「コ-」の多義性、および両者の類義関係を解明するのが目的で、語根か接
辞かを問題としない。このため、本稿においては「ウス-」と「コ-」を「前
項 要 素 」 と 呼 ぶ こ と に す る 。 な お 、「 ウ ス - 」 と 「 コ - 」 が 付 く 語 を 「 語 基 」 と
呼ぶ。
1 「なんとなく」と「少し、わずか」の意味を含んでいる。そして、
「ウス-」と「コ-」は同じ語基と共起する場合が見られ、文中で
置き換えることができる。以下の例を見る。
(4) そ し て 方 々 の 病 院 を 梯 子 し て き た の だ か ら 、 も う 日 暮 れ だ と 思
った。なんとなく薄暗い隅のほうに、お化けが立っているので
は と 思 え る よ う な 感 じ だ っ た 。( Google books・ 山 本 章 子 『 帰 っ
て き た 人 』)
(5) 雨 期 に 入 っ て 薄 寒 い 日 な の に 、 上 半 身 素 裸 の 中 年 男 が 若 者 に 付
添われ、
「 身 体 中 が 暑 く て 痛 く て 、シ ャ ツ も 着 て い ら れ な い 」そ
政 治 大
う訴えて診療を受けにきた。
( Google books・御 園 大 介『 釜 無 川 』)
立
(6) つ れ て い か れ た の は 同 じ く バ イ シ ャ 地 区 の 五 分 も 歩 か な い 薄 汚
‧ 國
學
い 安 宿 だ っ た 。( BCCWJ・ 西 牟 田 靖 『 世 界 殴 ら れ 紀 行 :: ト ラ ブ
ル だ ら け の コ テ ン パ ン 旅 日 記 ! 』)
‧
例 (4)の 「 薄 暗 い 」 は 「 少 し 光 線 が 足 り な い 様 子 」 の 意 味 を 表 す 。
y
Nat
sit
例 (5)の「 薄 寒 い 」は「 温 度 が 低 く 、少 し『 寒 い 』と 感 じ ら れ る 」の
n
al
er
io
意 味 を 表 す 。例 (6)の「 薄 汚 い 」は「 少 し 汚 れ が あ る さ ま 」の 意 味 を
i
n
U
v
表 す 。 こ の 三 つ の 例 に お い て そ れ ぞ れ 「 小 暗 い 」、「 小 寒 い 」 と 「 小
Ch
engchi
汚 い 」に 置 き 換 え る こ と が で き る 。こ れ は 、
「 ウ ス - 」と「 コ - 」が
表す意味が非常に近いことを示している。しかし、いかなる場合で
も 置 き 換 え ら れ る わ け で は な い 。 次 の 例 を 見 て い た だ き た い 2。
(7) 薄 暗 い( *小 暗 い )外 に 出 る と 、下 の 方 の 路 肩 に 止 め た 乗 用 車 の
中に慎二がいるのが見えた。
( BCCWJ・恩 田 陸『 黄 昏 の 百 合 の 骨 』)
(8) 丑 の 刻 ( 午 前 二 時 )、 虎 之 助 は 枕 元 に 薄 寒 い ( *小 寒 い ) 気 配 を
感 じ て 目 を 覚 ま し た 。( BCCWJ・ 森 村 誠 一 『 虹 の 刺 客 :: 小 説 ・
2
本稿はネイティブチェックが必要であるが、本稿における正文と非文の判断
は 主 に イ ン タ ー ネ ッ ト を 含 む コ ー パ ス の 用 例 数 に よ る も の で あ る 。例 え ば 、
「薄
暗 い 外 」は 数 千 件 以 上 の ヒ ッ ト 数 が あ る が 、
「 小 暗 い 外 」は わ ず か 7 件 し か な い
( 2013 年 現 在 )。よ っ て 、
「 小 暗 い 」は 現 代 日 本 語 で は 使 わ れ に く い と 判 断 す る 。
2 伊 達 騒 動 』)
(9) そ ん な 俺 の 薄 汚 い( *小 汚 い )感 情 に な ど 、全 く 気 付 い て い な い
様子で、先生は俺に、邪気のない笑顔を向ける。
( http://soracc.sakura.ne.jp/nvl/ss/sss/dlf/dlf06.html )
例 (7)で は「 薄 暗 い 外 」は 言 え る が 、
「 小 暗 い 外 」に 置 き 換 え る と 、
非 文 に な る 。 例 (8)の 「 薄 寒 い 気 配 」 と 例 (9)の 「 薄 汚 い 感 情 」 も そ
れぞれ「小寒い気配」と「小汚い感情」に置き換えることができな
い。今までの研究においては「ウス-」と「コ-」が持つ多義性と
評価性を解明していないから、類義関係でありながら同じ文で置き
政 治 大
換えられない理由も明らかになっていない。
「 ウ ス - 」と「 コ - 」が
立
持つ意味の全体像、及び両者が表す評価性を解明することによって
‧ 國
學
二つの語構成要素の意味の重なりが明らかになり、それによって類
義関係にある「ウス-」と「コ-」の語の意味が異なる仕組みも明
‧
らかになる。そこで、本稿では「ウス-」と「コ-」が表す多義性
を解明し両者が各意味を表す場合は語基にどのような評価性を付加
y
Nat
n
al
er
io
見る。
sit
するかを解明する。そして、評価性から類義関係にある語の違いを
i
n
U
v
以上から、本稿では次のようなことを明らかにする。
Ch
engchi
1) 「 ウ ス - 」 の 多 義 性 と 評 価 性
2) 「 コ - 」 の 多 義 性 と 評 価 性
3) 「 ウ ス - 」 と 「 コ - 」 が 表 す 意 味 の 違 い
4) 評 価 性 に 基 く 類 義 関 係
1.2
研究対象と範囲
本 稿 で は ま ず 、『 日 本 国 語 大 辞 典 』 3 か ら 「 ウ ス - 」 と 「 コ - 」 に
よる複合語を集める。そして、語彙化した語は意味の特殊化が進ん
3
『日本国語大辞典』は日本国語辞典の中で収録した見出し語が最も詳細なも
の で あ る 。 よ り 多 く の 語 を 集 め る た め 、『 日 本 国 語 大 辞 典 』 を 使 用 す る 。
3 でおり内部構造が分解できないため考察対象から除く。
ブ リ ン ト ン ・ ト ラ ウ ゴ ッ ト( 2009: 120-121)は 語 彙 化 に つ い て 次
のように定義している。
「 語 彙 化 と は 、話 者 が 、言 語 文 脈 で 、統 語 構
成や語形成を使って、形式的・意味的特徴を持った新しい内容形式
を 作 る 変 化 で あ る 」。影 山( 1993)は 語 形 成 で は 意 味 の 特 殊 化 と い う
現象が見られると指摘している。つまり、特殊化が進むと語の前項
要素と後項要素の本来の意味から複合語全体の意味が推測できなく
な る と い う こ と で あ る 。 影 山 ( 1993) は 「 春 風 」 を 例 と し て 取 り 上
げている。
「 春 風 」は 単 に「 春 に 吹 く 風 」を 指 す の で は な く 、春 に 吹
く風の中でも我々が典型的に思い浮かべる暖かく快適な風を意味す
政 治 大
る と し て い る 。本 稿 の 例 で 言 う と 、例 え ば 、
「 揚 げ る 」は あ る 物 を 低
立
い 所 か ら 高 い 所 に 移 す こ と を 指 す が 、「 コ - 」 が 付 加 す る 「 小 揚 げ 」
‧ 國
學
は特に船積みの荷物を陸揚げすることを意味し、特殊な意味を表す
ようになる。本稿は前項要素が語基に付加する意味を解明するのが
‧
目的で、このような語は意味の特殊化が進んでおり内部構造が分解
できないため、考察対象から除くことにする。
y
Nat
al
n
研究方法
er
io
1.3
sit
以上、本稿の考察対象と語収集の原則を述べた。
Ch
engchi
i
n
U
v
本稿ではまず、
「 ウ ス - 」と「 コ - 」が 表 す 多 義 性 と 意 味 拡 張 の 仕
組みを解明する。
「 ウ ス - 」と「 コ - 」が 持 つ 多 義 ネ ッ ト ワ ー ク を 明
示し、二つの語構成要素の意味関係全体を視野に入れることによっ
て よ り 包 括 的 な 意 味 記 述 が で き る 。そ し て 、
「 ウ ス - 」と「 コ - 」が
各意味を表す際にどのような評価性を表す語基に付くか、また、語
基にどのような評価性を付加するかをを検討する。最後に、評価性
の観点から「ウス-」と「コ-」の間にある類義語を分析する。
ま ず 、本 稿 が 使 う 多 義 語 4 分 析 の 方 法 を 述 べ る 。林( 2008)は 多 義
4
国 広 ( 1989: 97) は 「『 多 義 語 』( polysemic word) と は 、 同 一 の 音 形 に 、 意
味的に何らかの関連を持つふたつ以上の意味が結び付いている語を言う」と定
義 し て お り 、 本 稿 で は 国 広 ( 1989) の 定 義 に 従 う 。
4 語の意味本稿は認知言語学的アプローチを用い多義語分析を行う。
松 中 ( 2002)、 瀬 戸 ( 2007)、 籾 山 ・ 深 田 ( 2003) は 多 義 語 記 述 に お
ける課題を指摘している。まとめると次の五点になる。
(10) a.多 義 語 の プ ロ ト タ イ プ 的 意 味 の 設 定 。
b.多 義 的 別 義 の 認 定 。
c.多 義 的 別 義 の 配 列 順 序 。
d.各 語 義 の 意 味 の 相 互 関 係 の 明 示 。
e.複 数 の 意 味 す べ て を 統 括 す る モ デ ル ・ 枠 組 み の 解 明 。
政 治 大
この五つの課題の理論的背景、また、本稿においてどのように生
かされるかを2.2
立節 で 述 べ る 。
‧ 國
學
次に、
「 ウ ス - 」と「 コ - 」の 類 義 語 分 析 の 方 法 を 述 べ る 。本 稿 は
「 対 照 的 文 脈 」 と い う 方 法 を 用 い る 。 国 広 ( 1989) は 「 類 義 語 の 比
‧
較は、さらに一方の語は用いられるが他方の語は用いられないとい
う 『 対 照 的 文 脈 』( あ る い は 『 最 小 対 立 文 脈 』) を 見 付 け 出 す こ と に
y
Nat
sit
より、いっそう効果的となる」と述べている。本稿では「対照的文
n
al
er
io
脈」を作り、同じ文脈での置き換えが可能であるかによって類義語
i
n
U
v
の相違点を見出し、類義語ペアはそれぞれどのような制限が課され
Ch
engchi
る か を 解 明 す る 。例 え ば 、
「 ウ ス - 」と「 コ - 」は 両 方 と も「 - 寒 い 」
という語基と共起し、同じ文脈で置き換えられる。
(11) 雨 が 降 っ て 薄 寒 い ( 小 寒 い ) 日 で す 。( 作 例 )
しかし、あらゆる文脈で置き換えられるわけではない。次の作例
においては「薄寒い」を「小寒い」に置き換えることができない。
(12) 薄 寒 い ( *小 寒 い ) 気 配 を 感 じ た 。( 作 例 )
こ の よ う に 、「 対 照 的 文 脈 」 を 作 り 、「 ウ ス - 」 と 「 コ - 」 に よ る
5 類義関係にある複合語の違いが分かる。
以上、本稿の研究方法を述べた。
1.4
本稿の構成
本稿は「ウス-」と「コ-」が持つ多義ネットワークと評価性を
解 明 す る の が 目 的 で あ る 。し た が っ て 、本 稿 を 次 の よ う に 構 成 す る 。
第 1 章 で は 研 究 動 機 と 目 的 、研 究 対 象 、お よ び 研 究 方 法 を 述 べ た 。
第2章では先行研究と本稿が用いる認知言語学に関する理論を述べ
る。第3章では「ウス-」が持つ多義ネットワークを解明し、第4
章 で は「 コ - 」が 持 つ 多 義 ネ ッ ト ワ ー ク を 解 明 す る 。第 5 章 で は「 ウ
政 治 大
ス-」と「コ-」との評価性の違いを検討し、評価性に基づく類義
立
分析の例を示す。最後に、第6章では本稿の結論と今後の課題を述
‧
io
sit
y
Nat
n
al
er
‧ 國
學
べる。
Ch
engchi
6 i
n
U
v
第2章
2.1
先行研究と本稿が使用する概念
「ウス-」と「コ-」に関する先行研究
本節では前項要素「ウス-」と「コ-」に関する先行研究の考察
結果およびその不足点や問題点を取り上げる。
2.1.1
壽 岳 ( 1954)
壽 岳 ( 1954) は 「 コ - 」 の 意 味 と 「 コ - 」 が 共 起 す る 語 基 、 そ し
て、古典文学に現れる「コ-」に関する問題を考察している。
ま ず 、 壽 岳 ( 1954) は 前 者 に つ い て フ ラ ン ス 語 の 指 小 辞 を 日 本 語
政 治 大
の指小辞とされる「コ-」に当てはめ、語基の品詞によって複合語
立
を分けて検討し、次のことを指摘している。
‧ 國
學
「コ-」が付く語基の中で名詞が最も多い。次には形容詞ないし
は形容動詞の語幹との結合である。動詞に付くものが最も少ない。
‧
「 コ + 名 詞 」型 の 語 は 物 事 の 大 小 に 関 す る 判 断 で あ る 。
「コ+形容詞
/ 形 容 動 詞 」型 の 語 は 情 緒 に 関 す る も の が 一 層 浮 き 出 る 。
「コ+動詞」
y
Nat
sit
型 の 場 合 は 動 詞 と い う も の が そ の 意 味 上 本 来 情 意 性 に 乏 し く 、「 コ
n
al
er
io
- 」 の 付 加 に よ っ て ニ ュ ア ン ス が か け ら れ る 。 壽 岳 ( 1954) は 以 上
i
n
U
v
のことを指摘しているが、
「 コ - 」が 表 す 具 体 的 な 意 味 を 明 確 に 記 述
していない。
Ch
engchi
そして、古典文学に現れる「コ-」の複合語についても考察して
い る 。 壽 岳 ( 1954) は 「 コ + 名 詞 」 と 「 コ + 形 容 詞 」 と で は 所 生 の
時期がそもそも違っているから、その違いは「コ-」の機能にも多
少影響を与えていると指摘している。
壽 岳 ( 1954) は 「 小 汚 い 」 を 例 と し て 「 コ - 」 の 指 向 す る 価 値 を
検 討 し て い る 。「 汚 い 」 は 総 括 的 な 表 現 で あ る の に 対 し 、「 小 汚 い 」
は「ちょっぴりきたない」の意味を表し、具体的に細かく描写する
た め 、「 強 め て い う 」 と い う 評 価 が 生 じ る と 指 摘 し て い る 。
し か し 、 壽 岳 ( 1954) は 「 コ - 」 が 表 す 多 義 性 を 明 ら か に し て い
ない。そして、各語義間にどのような相互関係があるかという点も
7 解明していない。
2.1.2
奥 秋 ( 1996)
奥 秋 ( 1996) は 接 頭 辞 と し て の 「 コ - 」 に は 次 の 二 つ の 用 法 を 持
つと述べている。
(13) a.名 詞 に 付 い て 「 小 さ い 」「 わ ず か 」「 お よ そ 」 を 表 す 。
例:小犬、小雨など
b.形 容 詞 、形 容 動 詞 、副 詞 に 付 い て「 ち ょ っ と 」を 表 し つ つ 、
強調することもある。
政 治 大
例:小寒い、小ぎれいなど
立
‧ 國
學
し か し 、「 コ - 」 の 意 味 は そ れ だ け で は な い 。 例 え ば 、「 小 犬 」 は
「 犬 が 小 さ い 」の 意 味 を 表 す が 、
「 小 水 」は「 水 が 小 さ い 」の 意 味 を
‧
表すのではない。
「 コ - 」が 名 詞 の 語 基 に 付 く 場 合 は 一 つ の 意 味 を 表
すのではなく、多義性を持っている。他の品詞に付く場合も同様で
y
Nat
sit
あ る 。 つ ま り 、 奥 秋 ( 1996) は 「 コ - 」 が 持 つ 多 義 性 を 明 ら か に し
n
al
er
io
て い な い 。 ま た 、 奥 秋 ( 1996) は 「 コ - 」 が 連 用 形 名 詞 、 動 詞 に 付
i
n
U
v
く 場 合 、 ど の よ う な 意 味 を 表 す か を 述 べ て い な い 。 さ ら に 、「 コ - 」
Ch
engchi
が表す別義の間にどのような関係があるかも述べていない。
2.1.3
玉 村 ( 2001)
玉 村 ( 2001) で は 「 コ - 」 の 意 味 ・ 用 法 ・ 生 産 性 な ど に つ い て 考
察している。
「 コ - 」の 意 味 に つ い て 玉 村( 2001)は「 小 さ さ( 軽 侮
性 ・ 親 愛 感 )」、「 小 規 模 性 」、「 中 立 性 と 積 極 性 」 と い う 三 つ に 分 け 、
さらに、
「 小 規 模 性 」の 下 位 分 類 と し て「 小 規 模 性・軽 微 性・低 度 性 」
と「不足性・不十分さ」という二つを挙げている。それぞれの意味
においてはどのような語基が付くか、また、同じ意味を表しても、
異なる品詞、あるいは異なる語群に付く場合はどうであるかを明ら
かにしている。本稿と関わる部分を以下にまとめる。
8 玉 村 ( 2001) は 「 小 規 模 性 ・ 軽 微 性 ・ 低 度 性 」 の 意 味 を 表 す 「 コ
-」は動詞成分に付く場合では動作の規模の小さいことを意味し、
形容詞・形容動詞・副詞に付く場合では程度が低いことを示すと指
摘 し て い る 。 ま た 、 玉 村 ( 2001) は 「 コ - 」 の 基 本 義 で あ る 「 小 さ
さ・矮小性」が薄れて中立化したり、さらに進んで積極性に転じた
りしたものがある。
「 こ っ ぴ ど い 」、
「 こ っ ぱ ず れ る 」、
「こづらにくい」
という三つの複合語において「コ-」が付くことによって結果的に
は 程 度 の 甚 だ し い こ と を 指 す 方 向 に 語 義 が 転 じ て お り 、ま た 、
「こぎ
み よ い 」と い う 複 合 語 に お い て は 、
「 コ - 」が 付 く こ と に よ っ て 、積
極性が肯定的評価を生むに至ったと指摘している。
政 治 大
玉 村 ( 2001) の 研 究 に は 次 の 三 つ の 問 題 点 が あ る 。 一 番 目 は 各 意
立
味が各品詞に付く場合を解明していないことである。例えば、玉村
‧ 國
學
( 2001) は 「 小 さ さ 」 の 意 味 を 表 す 「 コ - 」 に つ い て 名 詞 に 付 く 場
合 だ け を 述 べ て お り 、連 用 形 名 詞 に 付 く 場 合 に 言 及 し て い な い( 例:
‧
「 小 書 き 」、「 小 切 り 」)。 二 番 目 は 語 義 に 対 す る 指 摘 が 不 十 分 と い う
こ と で あ る 。玉 村( 2001)は「 コ - 」は「 小 さ さ( 軽 侮 性・親 愛 感 )」、
y
Nat
sit
「 小 規 模 性 」、「 中 立 性 と 積 極 性 」 と い う 三 つ の 意 味 を 表 す と 述 べ て
n
al
er
io
い る 。 し か し 、「 小 猿 」、「 小 犬 」、「 小 娘 」 な ど の 語 に お け る 「 コ - 」
i
n
U
v
は「 小 さ さ 」の 意 味 を 表 す だ け で は な く 、
「 年 齢 が 幼 い 」と い う 意 味
Ch
engchi
も 表 す 。 こ の 点 に 対 す る 記 述 も 不 十 分 で あ る 。 さ ら に 、「 小 休 み 」、
「小止み」の「コ-」は「休み」と「止み」の継続時間が短いとい
う 意 味 を 表 す が 、 玉 村 ( 2001) は そ れ に つ い て 指 摘 し て い な い 。 三
番目は語義の相互関係が明らかにしていないことである。
2.1.4
皆 島 ( 2003)
皆 島( 2003)は 日 本 語 の 指 小 辞「 コ - 」
(「 小 」と「 子 」)と エ ウ ェ
語 の 指 小 辞 -ví の 意 味 ・ 用 法 に つ い て 「 文 法 化 」 の 観 点 も 含 め 対 照
言語学的考察を行っている。
日 本 語 の 指 小 辞 「 コ - 」 に つ い て 、 皆 島 ( 2003) は 「 接 頭 辞 と し
て の『 子 - 』」
「 接 尾 辞 と し て の『 - 子 』」と「 接 頭 辞 と し て の『 小 - 』」
9 を 区 別 し 、そ れ ぞ れ の 意 味 と 用 法 を 検 討 し て い る 。そ し て 、
「 コ( 小 )
-」について異なる語基と結合する場合は接頭辞「コ(小)-」の
表 す 意 味 が 違 う と 述 べ て い る 。接 頭 辞「 コ - 」に 対 す る 皆 島( 2003)
の考察を以下のようにまとめる。
「 コ - 」は 、
「 人 間 」を 含 意 す る 名 詞( 例:
「 小 男 」)、
「 動 物 」や「 生
物 」 な ど を 表 す 名 詞 に 付 く と 、「 小 さ い 」「 若 い 」 と い う 意 味 で あ る
こ と を 表 す 。 た だ し 、「 人 間 」 に 対 し て 用 い ら れ る 場 合 ( 例 :「 小 商
人 ( こ あ き ん ど )」) は 、「 重 要 で な い 」「 大 し た こ と が な い 」 と い う
ネ ガ テ ィ ブ な 意 味 を 表 す こ と が あ る 。そ し て 、
「 無 生 物 」を 表 す 名 詞
に 対 し て 用 い ら れ る 場 合 に は 「 小 さ い 」「 細 か い 」「 わ ず か で あ る 」
政 治 大
こ と を 表 す の に 用 い ら れ る 。ま た 、
「 自 然 現 象 」に つ い て 用 い ら れ る
立
場合はその現象の程度・規模が大きくないことを表す。さらに、形
‧ 國
學
容詞・形容動詞について用いられる場合には語基の指す状況の低
度・規模があまり大きくないことを表したり、漠然とした意味、あ
‧
るいは、わずかにそういう程度に達しているという意味を表す。ほ
か に 、「 軽 蔑 」 の 意 味 を 表 す 場 合 は 数 詞 に 付 き 、「 近 似 値 」 の 意 味 を
y
Nat
sit
表す場合は身体語彙に付き、その身体語彙の「一部分」を指す場合
n
al
er
io
などがあると述べている。
i
n
U
v
皆 島( 2003)は「 コ -( 小 )」が 異 な る 語 基 に 付 加 す る 意 味 の 違 い
Ch
engchi
を明らかにしたが、
「 コ - 」が 表 す プ ロ ト タ イ プ や 各 語 義 間 の 相 互 関
係を明示していない。
2.1.5
劉 ( 2005)
劉 ( 2005) は 「 ウ ス - 」 型 形 容 詞 と 「 モ ノ - 」 型 形 容 詞 を 中 心 に
他 の 接 頭 辞 も 取 り 上 げ 、合 成 形 容 詞 の 語 形 成 を 考 察 す る こ と に よ り 、
自 然 言 語 が 両 面 性 ― 「 語 彙 性 5」 と 「 規 則 性 」 ― を 検 証 し て い る 。
ま ず 、 劉 ( 2005) は 「 ウ ス - 」 が 色 を 表 す 語 基 に 付 く 場 合 は 「 少
し 」と い う 意 味 を 表 す と 述 べ て い る 。し か し 、
「 ウ ス - 」は ど の 品 詞
5
劉 ( 2005) は 、「 語 彙 性 」 は あ る 意 味 で 言 う と 「 個 別 性 」 で も あ る と 述 べ て い
る。
10 の語基に付くか、また、ほかの語基に付く場合はどのような意味を
表すか、といった点は言及されていない。
次 に 、劉( 2005)は「 コ - 」の 辞 書 の 語 釈 で は「 す こ し 」
「ちょっ
と 」の 程 度 副 詞 が 見 ら れ る と 同 時 に 、ぼ や か し 表 現 の「 な ん と な く 」
「 ど こ と な く 」も 見 ら れ る と 指 摘 し て お り 、そ し て 、
「 コ - 」は「 な
ん と な く 」、「 ど こ と な く 」 を 表 す 場 合 は 評 価 的 な 意 味 合 い も 含 ま れ
る と し 、非 典 型 的 な 場 合 で は あ る が 、
「 非 常 に 」、
「 い か に も 」な ど と
いう反対な程度表現になる可能性もあると指摘している。しかし、
劉 ( 2005) は 前 項 要 素 「 ウ ス - 」 と 「 コ - 」 が 表 す 多 義 性 に 言 及 し
ていない。
2.1.6
立
呉 ( 2008)
政 治 大
‧ 國
學
呉 ( 2008) は 上 代 、 中 古 、 中 世 、 近 世 、 近 代 と い う 五 つ の 時 代 区
別 に 分 け 、上 代 か ら 近 代 ま で の 接 頭 辞「 小 - 」6 が 語 基 に ど の よ う な
‧
意味を添えるのであろうか、それぞれの意味を持つ接頭辞「小-」
が前接する派生語数の消長及び各時代に見られる特徴を考察してい
y
Nat
sit
る 。 呉 ( 2008) は 近 代 の 「 小 - 」 に つ い て 次 の 二 つ の 特 徴 が 見 ら れ
n
al
er
io
る と 指 摘 し て い る 。一 つ は「『 そ の 数 量 に 近 い 意 味 』と い う 新 し い 意
i
n
U
v
味 が 生 ま れ た 」、 も う 一 つ は 「『 身 分 が 低 い 、 や や 軽 蔑 す る 意 味 』 は
Ch
engchi
『身分を低くする、謙遜する意味』のほうへ変わりつつある」であ
る。
呉( 2008)は 接 頭 辞「 小 - 」の 通 時 的 変 化 を 明 ら か に し て い る が 、
次 の 問 題 点 が 見 ら れ る 。ま ず 、各 意 味 の 相 互 関 係 が 解 明 し て い な い 。
そ し て 、 呉 ( 2008) は 接 頭 辞 「 小 - 」 は 「 身 分 が 低 い 、 や や 軽 蔑 す
る 意 味 」 と い う 意 味 を 表 す と 指 摘 し て い る が 、「 や や 軽 蔑 す る 意 味 」
と い う 評 価 的 意 味 は こ の 意 味 だ け 現 れ る の で は な い 。例 え ば 、
「小娘」
は「 幼 い 娘 」の 意 味 を 表 す と と も に 、
「 軽 蔑 す る 」と い う 評 価 的 意 味
も含まれている。
6
呉 ( 2008) が 「 コ - 」、「 サ - 」、「 シ ョ ウ - 」、「 ヲ - 」 と い う 異 形 態 を す べ て
研究対象に入るとしている。
11 2.1.7
久 保 ( 2011)
久 保 ( 2011) は 価 値 判 断 の 観 点 か ら 「 ウ ス - 」 と 「 コ - 」 が 形 容
詞・形 容 動 詞 と 共 起 す る 場 合 を 考 察 し て お り 、
「 ウ ス - 」が 持 つ 新 規
的表現について分析している。
久 保 ( 2011: 765) は 「 ウ ス - 」 と 「 コ - 」 の 意 味 的 分 類 と 価 値 特
性 を 次 の 表 で ま と め て い る 7。
接辞
意味
小
強意
薄
強意
小
強意
薄
価値
汚い
neg
政 汚治
い
大
neg
強意
気味悪い
neg
強意
気味好い
強意?
気味好い
強意
きれい
強意?
きれい
小
明るい
薄
程度
小
程度
薄
程度
程度?
n
al
Ch
明るい
e n g暗cいh i
暗い
y
pos
Pos?
sit
薄
Nat
小
Pos?
‧
薄
pos
er
小
‧ 國
neg
學
気味悪い
io
立
語基
i
n
U
v
Pos?
pos
neg
neg
久 保 ( 2011) は 上 の 表 に 基 づ き 、 次 の こ と を 指 摘 し て い る 。
(14) a.「 ウ ス - 」 が 強 意 8 の 意 味 を 持 ち 、 か つ 語 基 が 肯 定 的 価 値 を
示す複合語がない。
7
久 保 ( 2011) は ク エ ス チ ョ ン ・ マ ー ク ( ? ) が 付 い て い る も の は 非 正 例 的 表
現が使用されると仮定した場合に想定される分類・特性だと述べている。
8
久 保 ( 2011) は 「 度 合 い が 少 な い こ と を 表 し て い る と 考 え ら れ る も の を 『 程
度』に分類し、また、度合いを強めていると考えられる事例を『強意』に分類
した」と述べている。
12 b.「 コ - 」 が 程 度 の 意 味 を 持 ち 、 か つ 語 基 が 肯 定 的 価 値 を 示
す複合語がない。
ま た 、久 保( 2011)は 辞 典 に な い ウ エ ブ サ イ ト に あ る「 薄 ぎ れ い 」
の 例 を 取 り 上 げ 、「 肯 定 的 な 意 味 で 用 い ら れ て い る と も 考 え に く い 。
この意味を推測するならば、
『 表 面 上 は き れ い に 見 え る が 、実 際( 本
質?)はそうではない』となるように思われる」と指摘している。
久 保( 2011)は 以 上 に 基 づ き 、
「 ウ ス - 」の 新 規 的 用 法 を 以 下 の よ う
に指摘している。
政 治 大
(15) 「 ウ ス - 」 に 肯 定 的 価 値 を 持 つ 語 基 が 後 続 す る と 、 複 合 語 全
立
体の意味が否定的価値に反転する。
‧ 國
學
久 保 ( 2011) は 「 ウ ス - 」 と 「 コ - 」 が 表 す 価 値 性 を 明 ら か に し
‧
ているが、
「 ウ ス - 」と「 コ - 」が 表 す 意 味 に 言 及 し て い な い 。ま た 、
ほかの品詞の語基と共起する場合はどのような意味を表すかという
y
Nat
n
al
先行研究における問題点
Ch
engchi
er
io
2.1.8
sit
ことも述べていない。
i
n
U
v
先行研究における問題点、および不足点は以下の5点がある。
一点目は「コ-」が持つ多義性を明らかにしておらず、各語義の
相 互 関 係 も 解 明 し て い な い 。壽 岳( 1954)、奥 秋( 1996)、玉 村( 2001)、
皆 島( 2003)、呉( 2008)は「 コ - 」が 表 す 意 味 を 述 べ て い る が 、そ
の点は解明していない。二点目は「ウス-」が持つ多義性を明らか
に し て い な い 。 劉 ( 2005) は 「 ウ ス - 」 が 表 す 意 味 に つ い て 触 れ て
い る が 、「 ウ ス - 」 の 多 義 性 に 言 及 し て い な い 。 三 点 目 は 「 ウ ス - 」
と「コ-」が表す価値性と「ウス-」と「コ-」が表す意味との関
係 に 言 及 し て い な い 。 久 保 ( 2011) は 「 ウ ス - 」 と 「 コ - 」 が 表 す
価値性を明らかにしたが、
「 ウ ス - 」と「 コ - 」が 表 す 意 味 と ど の よ
うな関係があるかは述べていない。
13 2.2
本稿が導入する理論
第1章では多義語分析の課題、認知言語学における比喩の概念、
多義ネットワークの概念に触れた。本節ではこれらの概念はどのよ
うな理論的背景があるか、また本稿でどのように生かされるかを述
べる。2.2.1
小節は多義語の分析方法を、2.2.2
は意味拡張の仕組みを、2.2.3
小節
小節は多義ネットワークを述
べる。
2.2.1
1 .3
多義語分析について
政 治 大
小 節 で 述 べ た よ う に 、松 中( 2002)、瀬 戸( 2007)、籾 山 ・
立
深 田 ( 2003) は 多 義 語 記 述 に お け る 課 題 を 指 摘 し て い る 。 ま と め る
‧ 國
學
と 次 の 五 点 に な る ( 再 掲 )。
‧
(16) a.多 義 語 の プ ロ ト タ イ プ 的 意 味 の 設 定 。
b.多 義 的 別 義 の 認 定 。
y
Nat
n
al
er
io
d.各 語 義 の 意 味 の 相 互 関 係 の 明 示 。
sit
c.多 義 的 別 義 の 配 列 順 序 。
i
n
U
v
e.複 数 の 意 味 す べ て を 統 括 す る モ デ ル ・ 枠 組 み の 解 明 。
Ch
engchi
以下、この五つの課題の理論的背景、及び本稿でどのように生か
されるかを述べる。
ま ず 、(16a)の プ ロ ト タ イ プ 的 意 味 の 設 定 を 述 べ る 。語 構 成 要 素「 ウ
ス-」と「コ-」は次元形容詞「薄い」と「小さい」から来たもの
で あ る 。先 行 研 究 の 指 摘 に よ る と 、
「 薄 い 」と「 小 さ い 」の プ ロ ト タ
イプはそれぞれ「厚さの値が少ない」と「占める空間が小さい」で
あり、多義性はそこから拡張されたということである。プロトタイ
プ の 定 義 9 は 学 者 に よ っ て 異 な り 、Langacker( 1987: 371)は あ る 複
9
Taylor( 1996) の 指 摘 に よ る と 、「 プ ロ ト タ イ プ 」 と い う 用 語 は 二 つ の 解 釈 が
できる。一つはプロトタイプをカテゴリーの中心的成員、あるいは中心的成員
14 合 的 な カ テ ゴ リ ー の“ prototype”と は そ の カ テ ゴ リ ー の 拡 張・発 展
の出発点であるという位置付けが与えられると指摘している。後に
述 べ る が 、本 稿 に お け る「 多 義 の 配 列 順 序 」に つ い て よ り「 具 象 義 」、
「 知 覚 感 覚 的 意 義 」、「 身 体 的 意 義 」 と い う 特 徴 を 備 え る 意 味 を 前 に
置くことを原則とする。順序が後ろに配置される語の意味がより抽
象化されたもので、具体的な意味から拡張されたものである。われ
わ れ の 認 知 能 力 の 観 点 か ら 見 る と 、具 体 的 意 味 が 最 も 把 握 し や す く 、
具体的意味から抽象的意味へ拡張するという方向性が数多くの論文
で 指 摘 さ れ て い る( 瀬 戸 1995、国 広 2001、山 梨 2008 な ど )。本 稿 の
考 察 に お い て は「 ウ ス - 」が 表 す 各 意 味 の 中 で「 厚 さ の 値 が 少 な い 」
政 治 大
と い う 意 味 が 最 も 具 体 的 な 意 味 で あ る 。ま た 、
「 コ - 」が 表 す 各 意 味
立
の中で「占める空間が小さい」という意味が最も具体的な意味を表
‧ 國
學
す 。よ っ て 、本 稿 は 先 行 研 究 に 従 い 、
「 ウ ス - 」の プ ロ ト タ イ プ を「 厚
さ の 値 が 少 な い 」と し 、
「 コ - 」の プ ロ ト タ イ プ を「 占 め る 空 間 が 小
‧
さい」とする。
次 に 、 (16b) の 多 義 的 別 義 の 認 定 を 述 べ る 。「 多 義 的 別 義 の 認 定 」
y
Nat
sit
に つ い て 籾 山 ( 1993) が 参 考 に な る 1 0 。 籾 山 ( 1993) は 多 義 的 別 義
n
al
er
io
を認定する手掛かりとして次の六つを指摘している。
「非両立関係に
i
n
U
v
あ る 同 位 語 の 違 い 」、「 反 義 語 の 違 い 」、「 反 対 語 の 違 い 」、「 類 義 語 の
Ch
engchi
違 い 」、「 上 位 語 の 違 い 」、「 意 味 分 野 の 違 い 」 で あ る 1 1 。 本 稿 で は 主
に「 反 義 語 の 違 い 」と「 類 義 語 の 違 い 」と い う 二 つ の 方 法 を 用 い る 。
ま ず 、「 反 義 語 の 違 い 」 の 例 と し て 、 例 え ば 、「 薄 板 」 の 「 ウ ス - 」
は「厚さの値が少ない」という意味で、その反義的意味は「厚い」
で あ る 。一 方 、「 薄 青 」の「 ウ ス - 」は「 濃 度 ・ 密 度 が 低 い 」と い う
意 味 で 、そ の 反 義 的 意 味 は「 濃 い 」で あ る 。こ の よ う に 、
「 薄 板 」の
の集合体と定義するものである。もう一つはプロトタイプをカテゴリーの概念
的な核のスキーマ的表象として定義するものである。前者の定義に従うものに
は Langacker( 1987) が あ る 。
10
多 義 的 別 義 の 認 定 と い う 課 題 に つ い て 国 広 ( 1989) は 「 上 下 関 係 」、「 反 義 語
の存在」と「形態論的な相違」という三つの方法を示している。
11
な お 、 国 広 ( 1989) と 籾 山 ( 1993) は と も に 、 こ れ ら の 判 断 基 準 は 常 に 有 効
であるとは言えないと述べている。
15 「ウス-」と「薄青」の「ウス-」は反義的意味が違うから、両者
は 別 義 と 認 定 す る 。 そ し て 、「 類 義 語 の 違 い 」 の 例 と し て 、 例 え ば 、
「小娘」の「コ-」は「年齢が幼い」という意味で、その類義的意
味 は「 幼 い 」で あ る 。こ れ に 対 し 、「 小 家 」の「 コ - 」は「 占 め る 空
間 が 小 さ い 」と い う 意 味 で 、
「 幼 い 」は そ の 類 義 的 意 味 で は な い 。こ
の よ う に 、「 小 娘 」の「 コ - 」と「 小 家 」の「 コ - 」は 類 義 的 意 味 が
違うから、両者は別義と認定する。
次 に 、(16c)の 多 義 的 別 義 の 配 列 順 序 を 述 べ る 。瀬 戸( 2007)は 多
義 的 別 義 の 配 列 順 序 に つ い て 「 具 象 義 か ら 抽 象 義 へ 」、「 知 覚 感 覚 的
意 義 か ら 認 識 的 な 意 義 へ 」、「 身 体 的 意 義 か ら 精 神 的 な 意 義 へ 」 な ど
政 治 大
の 原 則 を 示 し て い る 。本 稿 で は 瀬 戸( 2007)に 従 い 、
「 具 象 義 」、
「知
立
覚 感 覚 的 意 義 」、「 身 体 的 意 義 」 と い う 特 徴 を 備 え る 意 味 を 前 に 置 く
‧ 國
學
こ と を 原 則 と す る 。例 え ば 、
「 コ - 」が 表 す 意 味 の 中 で「 占 め る 空 間
が小さい」と「年齢が幼い」とがある。前者は視覚で確認でき科学
‧
的に測れる具体的意味であるのに対し、後者は人間の一つの属性で
抽 象 的 意 味 で あ る 。し た が っ て 、
「 占 め る 空 間 が 小 さ い 」と い う 意 味
y
Nat
sit
は「年齢が幼い」という意味に比べ、より具体的意味を表すため、
n
al
er
io
配列順序が先である。
i
n
U
v
次 に 、 (16d)の 各 語 義 の 意 味 の 相 互 関 係 の 明 示 す る 方 法 を 述 べ る 。
Ch
engchi
籾 山 ( 2001) は 「 メ タ フ ァ ー 、 シ ネ ク ド キ ー 、 メ ト ニ ミ ー と い う 三
種の比喩が、複数の意味の関連づけに重要な役割を果たす」と述べ
ている。例えば、先ほど述べたように「コ-」は「占める空間が小
さい」と「年齢が幼い」という二つの意味を表す。前者は「身体」
の概念であるのに対し、後者は人間が持つ一つの属性である。山梨
( 2008) が 提 出 し た 「 所 有 物 か ら 所 有 者 を 表 す 換 喩 リ ン ク 」 に よ る
と身体から属性への拡張はメトニミーの一つである。したがって、
「コ-」が表す「占める空間が小さい」と「年齢が幼い」という二
つの意味の相互関係はメトニミーによる拡張であることが分かった。
意味拡張の仕組みについては次の小節で述べる。
最 後 に 、(16e)の 多 義 語 の ネ ッ ト ワ ー ク モ デ ル を 述 べ る 。多 義 語 の
16 ネ ッ ト ワ ー ク モ デ ル は い く つ か が あ る 。 籾 山 ・ 深 田 ( 2003) は 先 行
研 究 を 踏 ま え 、 五 つ の モ デ ル を 示 し て い る 12。 そ の 中 で 、 レ イ コ フ
はプロトタイプ理論を応用した意味分析を行い、多義語が持つ様々
な意味が互いに関連しあって一つの放射状カテゴリーをなしている
ものを「集合体モデル」とする。本稿はスキーマを抽出するのが目
的ではなく、多義語が持つ各意味の相互関係を示すのが目的である
ため、レイコフが示した「集合体モデル」を用いる。詳しくは2.
2.3
小節で述べる。
以 上 、多 義 語 分 析 の 理 論 的 背 景 と 本 稿 に お け る 生 か し 方 を 述 べ た 。
次の小節は意味拡張の仕組み、及び本稿との関連性を述べる。
2.2.2
立
意味拡張
政 治 大
‧ 國
學
前小節で述べたように、多義語が持つ各意味の間に拡張関係が存
在 し て い る 。 籾 山 ( 2001) は 「 メ タ フ ァ ー 、 シ ネ ク ド キ ー 、 メ ト ニ
‧
ミーという三種の比喩が、複数の意味の関連づけに重要な役割を果
たす」と述べている。以下、メタファー、シネクドキー、メトニミ
y
Nat
n
al
er
io
2.2.2.1
sit
ーという三種の比喩の仕組みと本稿での生かし方を述べる。
メタファー
Ch
engchi
i
n
U
v
籾 山 ( 2002) は メ タ フ ァ ー を 次 の よ う に 定 義 し て い る 。
(17) メ タ フ ァ ー:二 つ の 事 物・概 念 の 何 ら か の 類 似 性 に 基 づ い て 、
一方の事物・概念を表す形式を用いて、他方の事物・概念を
表す比喩
メ タ フ ァ ー の 種 類 と し て Lakoff and Johnson は 次 の 三 種 類 を 提 唱
12
籾 山 ・ 深 田 ( 2003) が 示 し た 五 つ の 多 義 語 の ネ ッ ト ワ ー ク モ デ ル は 「 集 合 体
モ デ ル に 基 づ く モ デ ル 」、
「 イ メ ー ジ・ス キ ー マ に 基 づ く ネ ッ ト ワ ー ク・モ デ ル 」、
「 拡 張 と ス キ ー マ に 基 づ く ネ ッ ト ワ ー ク ・ モ デ ル 」、「 現 象 素 に 基 づ く モ デ ル 」
と「 ネ ッ ト ワ ー ク と 現 象 素 を 統 合 し た モ デ ル( 以 下 、
「 統 合 モ デ ル 」と 略 称 す る )」
である。
17 している。
(18) a.構 造 の メ タ フ ァ ー ( structural metaphor)
b.方 向 性 の メ タ フ ァ ー ( orientational metaphor)
c.存 在 の メ タ フ ァ ー ( ontological metaphor)
以下、この三種類のメタファーを順に述べ、そして、本稿でどの
よ う に 生 か さ れ る か を 述 べ る ( 以 下 の 説 明 は 谷 口 ( 2003 ) と 河 上
( 1996) を 参 考 に し た も の で あ る )。
ま ず 、「 構 造 の メ タ フ ァ ー 」 1 3 を 見 る 。 Lakoff and Johnson に よ る
政 治 大
と、私たちの概念構造の大部分はこうした構造のメタファーにより
立
支えられ構成されている。そして、具体的な意味から抽象的な意味
‧ 國
學
へ拡張することが構造のメタファーによって支えられている。山梨
( 2008) は 「 概 念 メ タ フ ァ ー 理 論 で は 、 イ メ ー ジ ス キ ー マ に 基 づ い
‧
て構造化された概念領域が、より抽象的な概念領域へと写像され、
これによって後者が理解されると考えられている」と述べている。
y
Nat
sit
本稿の場合では「ウス-」は「濃度・密度が低い」という具体的な
n
al
er
io
意 味 と「 程 度 が 低 い 」と い う 抽 象 的 な 意 味 を 表 す こ と が 観 察 さ れ る 。
i
n
U
v
二つの意味は「具体から抽象へ」という拡張関係があり、構造のメ
Ch
engchi
タファーである。詳しくは3.1.3.6
小節で述べる。
次 に 、「 方 向 性 の メ タ フ ァ ー 」 1 4 を 見 る 。 時 間 概 念 を 表 す の に よ く
13
例 え ば 、「 ARGUMENT IS WAR( 議 論 は 戦 争 で あ る )」 と い う 構 造 の メ タ フ ァ ー
か ら 「 Tour claims are indefensible( 君 の 主 張 は 守 り よ う が な い )」 の よ う な
言語表現が産出される。
「 議 論 」と「 戦 争 」は 行 動 を 実 行 し て い る 点 が 同 様 で あ
り 、 違 う の は 「 議 論 」 は 「 武 力 」 に よ る 戦 争 で は な く 、「 言 葉 」 に よ る 戦 争 を 行
っ て い る 点 で あ る 。つ ま り 、
「 議 論 」と い う 経 験 の 構 造 が「 戦 争 」の 構 造 に 合 致
するから、
「 戦 争 」の 持 つ 様 々 な 側 面 を 用 い て「 議 論 」を 表 す 言 語 表 現 を 生 み 出
しているのである。
14
方向性のメタファーとは心理状態・感情・量・支配力・善悪の価値観など本
来は非空間的な経験を「上下」などの位置関係として概念化するものであり、
大 部 分 が 「 上 ・ 下 」、「 内 ・ 外 」、「 前 ・ 後 」、「 着 ・ 離 」、「 深 ・ 浅 」、「 中 心 ・ 周 辺 」
などの空間の方向性と関係し、一種の「空間化メタファー」である。例えば、
「 HAPPY IS UP; SAD IS DOWN( 楽 し い こ と は 上 、 悲 し い こ と は 下 )」 と い う メ タ
フ ァ ー か ら 「 I’ m feeling up.( 気 分 は 上 々 だ )」 の よ う な 言 語 表 現 が 産 出 さ れ
る。
18 用 い ら れ る「 未 来 が 前 、過 去 が 後 ろ 」、あ る い は「 未 来 が 後 ろ 、過 去
が 前 」と い う メ タ フ ァ ー は 空 間 化 メ タ フ ァ ー の 一 つ で あ る 。例 え ば 、
「 In the weeks ahead of us… 」、「 In the following weeks… 」 な
ど の 例 が あ る 。本 稿 の 場 合 、
「 コ - 」は「 物 理 的 な 量 が 少 な い 」と「 継
続時間が短い」という二つの意味がある。前者は空間概念を表し、
後者は時間概念を表す。両者における拡張関係は方向性のメタファ
ーの一種である空間化メタファーによるものだと考えられる。詳し
くは4.1.4.1
小節で述べる。
空間に関わる人間の基本的な経験が基盤となって「方向性のメタ
ファー」が生じたように、物理的な存在物や内容物の経験が基盤と
政 治 大
な っ て 生 じ る の が 「 存 在 の メ タ フ ァ ー 」 15で あ る 。 本 稿 で は 存 在 メ
立
タファーによる意味拡張が見られなかった。
‧ 國
學
以上、メタファーの基本的な概念、及びその下位に属する構造の
メタファー、方向性のメタファー、存在のメタファーという三種類
‧
の比喩は本稿との関連を述べた。
y
Nat
メトニミー
sit
2.2.2.2
n
al
er
io
籾 山 ( 2002) は メ ト ニ ミ ー を 次 の よ う に 定 義 し て い る 。
Ch
engchi
i
n
U
v
(19) メ ト ニ ミ ー : 二 つ の 事 物 の 外 界 に お け る 隣 接 性 、 さ ら に 広 く
二つの事物・概念の思考内、概念上の関連性に基づいて、一
方の事物・概念を表す形式を用いて、他方の事物・概念を表
す比喩
先 行 研 究 で は 多 く の メ ト ニ ミ ー の パ タ ー ン が 指 摘 し て い る 16。 本
15
存在のメタファーとは感情、思想、活動、出来事、社会現象などの境界が明
らかでないような概念を存在物や内容物、すなわち「モノ」として捉えること
である。その中に、特に「容器」に見立てるメタファーである「容器のメタフ
ァ ー 」 は 汎 用 さ れ て い る 。 例 え ば 、「 He fell into a depression( 彼 は 憂 鬱 状
態 に 陥 っ た )」 は 「 状 態 」 を 「 容 器 」 と 見 な す メ タ フ ァ ー に 由 来 し て い る 。
16
吉 村 ( 2004) は 「 隣 接 性 」 に つ い て 、「 全 体 と 部 分 」、「 容 器 と 中 身 」、「 生 産
者 と 生 産 物 」、「 場 所 と 機 関 」、「 場 所 と 出 来 事 」 と い う 五 つ の パ タ ー ン が あ る と
19 稿 で 用 い ら れ る パ タ ー ン は「 容 器 と 内 容 」と「 所 有 物 か ら 所 有 者 へ 」
という二つがある。
ま ず 、「 容 器 と 内 容 」 1 7 と い う メ ト ニ ミ ー の パ タ ー ン で あ る が 、 本
稿の場合では「コ-」は「占める空間が小さい」と「物理的な量が
少ない」という二つの意味を表すことが観察される。占める空間が
小さければ、組成成分の量も少なくなることから考えると、両者は
隣 接 関 係 に あ り「 容 器 と 内 容 」の 関 係 に あ る と 考 え ら れ る 。つ ま り 、
「コ-」が表すこの二つの意味の拡張関係は「容器と内容」という
メ ト ニ ミ ー に よ る も の だ と 考 え ら れ る 。詳 し く は 4 .1 .2 .4
節で述べる。
小
政 治 大
そして、
「 所 有 物 か ら 所 有 者 へ 」18と い う メ ト ニ ミ ー の パ タ ー ン で
立
あ る が 、本 稿 の 場 合 、
「 コ - 」は「 占 め る 空 間 が 小 さ い 」と「 年 齢 が
‧ 國
學
幼い」という二つの意味がある。人間の体は「身体」であり、年齢
は「 属 性 」だ と 言 え る 。つ ま り 、
「 コ - 」が 表 す こ の 二 つ の 意 味 の 拡
‧
張関係は「所有物から所有者へ」の中の「身体から属性」というメ
トニミーによるものだと考えられる。詳しくは4.1.3.1
n
al
er
io
sit
y
Nat
節で述べる。
小
Ch
engchi
i
n
U
v
述 べ て い る 。 Lakoff and Johnson は 「 PRODUCER FOR PRODUCT( 製 作 者 で 製 品 を
指 す )」、「 OBJECT USED FOR USER( 物 品 で そ の 使 用 者 を 指 す )」、「 CONTROLLER FOR
CONTROLLED( コ ン ト ロ ー ル す る 者 で コ ン ト ロ ー ル さ れ る も の を 指 す )」、
「 INSTITUTION FOR PEOPLE RESPONSIBLE( 機 関 で そ の 責 任 者 を 指 す )」、
「 THE PLACE
FOR THE INSTITUTION( 場 所 で そ こ に あ る 機 関 を 指 す )」、
「 THE PLACE FOR THE EVENT
( 場 所 で そ こ で 起 こ っ た 出 来 事 を 指 す )」、「 THE PART FOR THE WHOLE( 部 分 で 全
体 を 指 す )」 と い う パ タ ー ン を 提 案 し 、 山 梨( 1988) は「 容 器 と 内 容 」、「 主 と 従
の 共 存 性 」、「 主 体 と 手 段 」、「 原 因 と 結 果 」 と い う パ タ ー ン を 提 案 し て い る 。
17
例 え ば 、「 や か ん が 沸 い て い る 」 と い う 例 で は 「 沸 い て い る 」 の 対 象 は 「 や
か ん 」 と い う 容 器 で は な く 、 そ の 中 に あ る も の 、つ ま り 、「 お 湯 」で あ る 。こ れ
は「容器と内容」というメトニミーによる拡張のパターンである。
18
「 We don’ t hire longhairs.」( Lakoff&Johnson1980) の 「 longhairs」 は
「 身 体 」か ら「 人 間 」へ 拡 張 す る 例 で あ り 、Lakoff and Johnson が 提 案 し た「 THE
PART FOR THE WHOLE( 部 分 で 全 体 を 指 す )」 の 一 例 で あ る 。 山 梨 ( 2008) は こ の
拡 張 の パ タ ー ン を 「 所 有 物 か ら 所 有 者 へ 」 と し て い る 。 山 梨 ( 2008) は メ ト ニ
ミーの転用方向性を提出しており、
「 身 体 か ら 属 性 」、
「 身 体 か ら 人 間 」、
「衣類か
ら 属 性 」、「 属 性 か ら 人 間 」 と い っ た 拡 張 方 向 を 示 し て い る 。
20 2.2.2.3
シネクドキー
籾 山 ( 2002) は シ ネ ク ド キ ー を 次 の よ う に 定 義 し て い る 1 9 。
(20) シ ネ ク ド キ ー : よ り 一 般 的 な 意 味 を も つ 形 式 を 用 い て 、 よ り
特殊な意味を表す、あるいは逆により特殊な意味をもつ形式
を用いて、より一般的な意味を表す比喩
なお、本稿においてはシネクドキーという意味拡張の仕組みが見
られなかった。
2.2.3
政 治 大
多義ネットワーク
立
2.2.1
小節で述べたように、レイコフはプロトタイプ理論
‧ 國
學
を応用した意味分析を行い、多義語が持つ様々な意味が互いに関連
しあって一つの放射状カテゴリーをなしているものを「集合体モデ
‧
ル 」と す る 。例 え ば 、
「 ウ ス - 」は 三 つ の 意 味 を 表 し 、別 義 1 は プ ロ
トタイプからメタファーかメトニミーによって拡張され、別義2は
y
Nat
er
io
になる。
sit
別義1からメタファーによって拡張される。図示すると、次のよう
al
n
v
i
n
C
メタファー h e
メi タU
ファー
h
n
c
g
別義1
プロトタイプ
別義2
メトニミー
図1
「ウス-」の多義ネットワーク(仮)
一方、
「 コ - 」は 五 つ の 意 味 を 表 し 、別 義 1 と 2 は プ ロ ト タ イ プ か
らメトニミーによって拡張され、別義3と4は別義1からメタファ
ーによって拡張される。図示すると、次のようになる。
19
シ ネ ク ド キ ー に つ い て 、 学 者 に よ っ て 定 義 が 異 な る 。 山 梨 ( 1988) は 、 シ ネ
クドキーに、いわゆる「部分・全体」の関係と「類・種」の関係があると述べ
て い る 。 な お 、 谷 口 ( 2003) は 「 全 体 と 部 分 」 の 関 係 に 基 づ く メ ト ニ ミ ー は 、
特 に シ ネ ク ド キ ー と い う 。 ま た 、 瀬 戸 ( 1997) は 、「 類 ・ 種 」 の 関 係 に 基 づ く も
の の み を シ ネ ク ド キ ー と し て 分 類 し て い る 。本 論 は 籾 山( 2002)の 定 義 に 従 う 。
21 プロトタイプ
メトニミー
別義1
メタファー
別義3
メトニミー
別義2
メタファー
別義4
図2
「コ-」の多義ネットワーク(仮)
本 稿 で は 、プ ロ ト タ イ プ と 別 義 の 配 列 順 序 を 考 え 、
「 ウ ス - 」と「 コ
- 」が 表 す 多 義 性 と 語 義 の 相 互 関 係 を 解 明 し 、
「 コ - 」の 多 義 ネ ッ ト
ワークを明らかにする。
立
政 治 大
‧
‧ 國
學
n
er
io
sit
y
Nat
al
Ch
engchi
22 i
n
U
v
第3章
「ウス-」が持つ多義性
本 章 で は 、「 ウ ス - 」 が 表 す 各 別 義 を ど の よ う に 分 別 し て い く か 、
また、各品詞の語基と共起する際にどのように解釈されるかを述べ
る 。 そ し て 、 第 2 章 で 述 べ た 認 知 言 語 学 の 概 念 を 援 用 し 、「 ウ ス - 」
の多義性、及び各意味の相互関係を解明し、多義ネットワークを構
築する。
3.1
「ウス-」の多義分析
まず、3.1.1
小節で「ウス-」のプロトタイプ的意味を述
政 治 大
べ る 。 そ し て 、 第 1 章 で 述 べ た よ う に 、 本 稿 は 国 広 ( 1989) と 籾 山
立
( 1993) が 示 し た 「 反 義 語 の 違 い 」、「 意 味 分 野 の 違 い 」 な ど の 多 義
‧ 國
學
的別義を認定する方法を用い、多義語の意味を認定する。この分析
方 法 に よ っ て「 ウ ス - 」は <濃 度・密 度 が 低 い >、<あ る 基 準 に 達 し て
ら 3 .1 .3
小節か
小 節 で「 ウ ス - 」が 表 す 意 味 を 述 べ る 。最 後 に 、3 .
y
Nat
io
al
n
3.1.1
sit
小節で「ウス-」の多義ネットワークを構築する。
er
2
‧
お ら ず 、程 度 が 低 い >と い う 別 義 を 持 つ 。以 下 、3 .1 .1
プロトタイプ
Ch
engchi
i
n
U
v
次元形容詞「薄い」のプロトタイプは「厚さの値が少ない」とい
う 意 味 で あ る( 国 広 1989、頼 2005、邱 2010)。語 構 成 要 素「 ウ ス - 」
は次元形容詞「薄い」から来たもので、そのプロトタイプも「厚さ
の値が少ない」と考えられる。また、後の考察から分かるように、
「ウス-」が表す多義性の出発点は「厚さの値が少ない」という意
味 で あ る 。1 .3
小 節 で 述 べ た よ う に 、本 稿 は Langacker( 1987)
によるプロトタイプの定義を援用するため、
「 ウ ス - 」の プ ロ ト タ イ
プ を <厚 さ の 値 が 少 な い >と す る 。 そ の 反 義 的 意 味 と し て 「 厚 い 」 が
挙 げ ら れ る 。 例 え ば 、「 薄 板 」 は 「 薄 い 板 」 の 意 味 を 表 し 、「 薄 い 」
の 反 義 的 意 味 は「 厚 い 」で あ る 。そ し て 、
「 薄 塗 り 」は「 薄 く 塗 っ た
さ ま 」の 意 味 を 表 し 、
「 薄 く 」の 反 義 的 意 味 は「 厚 く 」で あ る 。形 容
23 詞 と し て 働 く「 薄 い 」と 副 詞 と し て 働 く「 薄 く 」は 品 詞 が 異 な る が 、
どちらも「物の厚さ」について叙述する概念であるため、その反義
的 な 概 念 が 同 様 で あ る 。 例 (21)が 示 す よ う に 、 プ ロ ト タ イ プ 的 意 味
を表す「ウス-」は名詞、連用形名詞、動詞の語基に付く。
(21) a.薄 板 : 薄 い 板
b.薄 塗 り : 薄 く 塗 っ た さ ま
←…→
厚い板
←…→
厚く塗ったさま
このように、語基の品詞が異なっても、反義的な概念が同様であ
るため、同一意味に分類する。
政 治 大
以下、
「 ウ ス - 」が 各 品 詞 の 語 基 に 付 く 際 に 、ど の よ う な 意 味 を 付
立
3.1.1.1
學
‧ 國
加するかを見る。
名詞に付く場合
‧
この小節では「ウス-」が名詞語基に付く場合を見る。すべてモ
ノ 名 詞 語 基 で あ る 。例 え ば 、
「 板 」、「 衣 」、
「 雪 」、
「 氷 」、
「 紙 」な ど が
y
Nat
sit
挙 げ ら れ る 。こ れ ら の 語 基 と「 ウ ス - 」に よ る 複 合 語 、例 え ば 、
「薄
n
al
er
io
板 」、
「 薄 衣 」、
「 薄 雪 」、
「 薄 氷 」、
「 薄 紙 」と い う 複 合 語 は そ れ ぞ れ「 薄
i
n
U
v
い 板 」、「 薄 い 衣 」、「 薄 い 雪 」、「 薄 い 氷 」、「 薄 い 紙 」 と い う 意 味 を 表
Ch
engchi
し、
「 ウ ス - 」は 被 修 飾 対 象 の 厚 さ の 値 が 少 な い さ ま を 修 飾 し て い る 。
つ ま り 、 前 項 要 素 の 「 ウ ス - 」 は <厚 さ の 値 が 少 な い >と い う 意 味 を
表すことが分かる。
本稿では「薄着」もこのカテゴリーに分類した。現代日本語では
「 着 」を 単 独 に は 使 わ ず 、モ ノ 名 詞 と は 考 え に く い 。し か し 、
「普段
着 」、
「 運 動 着 」、
「 訪 問 着 」、
「 外 出 着 」の よ う な「 N+ 着 」の 構 造 を 成
す複合語があり、
「 - 着 」は そ の よ う な 物 事 の た め に 着 る も の の 意 を
表すことから、
「 着 」は「 服 」の 意 味 を 表 し 語 構 成 要 素 と し て モ ノ 名
詞 に 分 類 す る こ と が で き る 。し た が っ て 、
「 薄 着 」は「 薄 い 服 」の 意
味を表し、
「 ウ ス - 」は <厚 さ の 値 が 少 な い >と い う 意 味 を 表 す こ と が
分かる。
24 3.1.1.2
連用形名詞に付く場合
この小節では、
「 ウ ス - 」が 連 用 形 名 詞 語 基 に 付 く 場 合 を 見 る 。す
べてコト名詞語基であり、
「 切 り 」、
「 焼 き 」、
「 塗 り 」と い う 三 つ の 語
基である。用例を以下に示す。
(22) タ ン 塩 や 薄 切 の 肉 の 場 合 は 、 片 面 だ け を 焼 ぐ ら い が 焼 き す ぎ
な く て い い か も 。( Google books・『 特 集 こ の 夏 は 、 蕎 麦 か 焼
肉 か !?: 手 打 ち 蕎 麦 30 軒 /和 牛 焼 肉 23 軒 』)
(23) 広 葉 樹 材 は 針 葉 樹 材 に 比 べ 、 硬 い 材 質 の も の が 多 い か ら 、 つ
政 治 大
やありで、薄塗りよりも厚塗り塗装をした方が木質感を表現
立
し や す い 。( Google books・ 職 業 訓 練 研 究 セ ン タ ー 『 木 工 塗 装
‧ 國
學
法 』)
‧
例 (22)の「 薄 切 り 」は「 薄 く 切 っ た さ ま 」の 意 味 を 表 し 、
「ウス-」
は「切る」という動作による結果産物の厚さの値が少ないという意
y
Nat
sit
味 を 表 す 。例 (23)の「 薄 塗 り 」は「 薄 く 塗 っ た さ ま 」の 意 味 を 表 し 、
n
al
er
io
「ウス-」は同様に解釈することができる。つまり、これらの複合
i
n
U
v
語 は「 薄 く <V た >さ ま 」と い う 意 味 解 釈 で あ り 、「 ウ ス - 」は「 語 基
Ch
engchi
が 表 す 動 作 に よ る 結 果 産 物 の 厚 さ の 値 が 少 な い 」、 つ ま り 、 <厚 さ の
値 が 少 な い >と い う 意 味 を 表 す こ と が 分 か る 。
3.1.1.4
3.1.1.1
「ウス-」のプロトタイプ
小節から3.1.1.3
小節で見たように、
「 ウ ス - 」 は <厚 さ の 値 が 少 な い >と い う 意 味 を 表 す 。 名 詞 語 基 に 付
く 場 合 は「 薄 い <N>」と い う 意 味 解 釈 で あ り 、語 基 が 表 す そ の も の の
形 を 修 飾 す る 。 連 用 形 名 詞 語 基 に 付 く 場 合 は 「 薄 く <V た >さ ま 」 と
い う 意 味 解 釈 で あ り 、「 ウ ス - 」 は 動 作 に よ る 結 果 産 物 を 修 飾 す る 。
そ し て 、 動 詞 語 基 に 付 く 場 合 は 「 薄 く <V>」 と い う 意 味 解 釈 で あ り 、
動作による結果産物を修飾する。
25 「ウス-」は異なる品詞の語基に付く場合は意味解釈がやや異な
るが、
「 物 の 厚 さ 」に つ い て 叙 述 す る た め 、そ の 反 義 的 な 概 念 が 同 様
である。したがって、これらの複合語における「ウス-」は同一の
意 味 を 表 す と 言 え る 。 以 上 、「 ウ ス - 」 の プ ロ ト タ イ プ <厚 さ の 値 が
少 な い >を 見 た 。
3.1.2
別義1
「 ウ ス - 」が 表 す 別 義 1 は <濃 度・密 度 が 低 い >と い う 意 味 で あ る 。
例 え ば 、「 薄 墨 」 は 「 薄 い 墨 」 の 意 味 を 表 し 、「 薄 い 」 の 反 義 的 意 味
は「 濃 い 」で あ る 。つ ま り 、「 ウ ス - 」は「 語 基 が 表 す も の の 濃 度 ・
政 治 大
密 度 が 低 い 」と い う 意 味 を 表 し て い る 。そ し て 、
「 薄 染 め 」は「 薄 く
立
染 め た さ ま 」の 意 味 を 表 し 、
「 薄 曇 る 」は「 薄 く 曇 る 」の 意 味 を 表 し 、
‧ 國
學
「 薄 く 」の 反 義 的 意 味 は「 濃 く 」で あ る 。形 容 詞 と し て 働 く「 薄 い 」
と副詞として働く「薄く」は品詞が異なるが、どちらも「濃度・密
‧
度」について叙述する概念であるため、その反義的な概念が同様で
あ る 。 例 (24)を 見 る 。 別 義 1 を 表 す 「 ウ ス - 」 は 名 詞 語 基 、 連 用 形
y
Nat
n
(24) a.薄 墨 : 薄 い 墨
Ch
←…→
i
e n g←c…h →
b.薄 染 め : 薄 く 染 め た さ ま
c.薄 曇 る : 薄 く 曇 る
←…→
er
io
al
sit
名詞語基、動詞語基に付く。
i
n
U
v
濃い墨
濃く染めたさま
濃く曇る
このように、語基の品詞が異なっても、その反義的な概念が同様
であるため、同一の意味に分類する。
以下、
「 ウ ス - 」が 各 品 詞 の 語 基 に 付 く 際 に ど の よ う な 意 味 を 付 加
するかを見る。
3.1.2.1
名詞に付く場合
この小節では「ウス-」が名詞語基に付く場合を見る。モノ名詞
語基、サマ名詞語基がある。以下、順に見ていく。
26 ま ず 、モ ノ 名 詞 語 基 に 付 く 場 合 を 見 る 。例 え ば 、
「 髭 」、
「 粥 」、
「煙」
などが挙げられる。
(25) 顎 か ら 頬 へ か け て 一 面 薄 髭 が 生 へ て 、少 し 怒 っ た 肩 の 後 姿 が 、
何 と な く 淋 し く も 哀 に 見 え る 。( Google books・『 徳 田 秋 声 全
集 』)
(26) 女 が 息 を 引 き 取 っ た の は 、 庫 裡 で 薄 粥 を 一 口 、 胃 の 腑 に 流 し
こ ん で か ら で あ っ た ( BCCWJ・ 喜 安 幸 夫 『 御 纏 奉 行 闇 始 末 果 て
な き 密 命 』)
(27) 先 刻 見 か け た 女 が ま だ 池 の 淵 に 座 っ て い て 、 傍 か ら 一 条 の 薄
政 治 大
煙 が あ が っ て い た 。( Google books・ 駒 江 衣 子 『 青 春 の 塔 』)
立
(28) ( 前 略 )、 よ う や く 足 を 洗 い に 門 の 前 の 流 れ に 出 れ ば 、 空 に は
‧ 國
學
薄 月 が か か っ て い る 。( BCCWJ・ 宮 尾 登 美 子 『 仁 淀 川 』)
‧
「 ウ ス - 」 に よ る 複 合 語 の 「 薄 髭 」、「 薄 粥 」、「 薄 煙 」 は そ れ ぞ れ
「 薄 い 髭 」、
「 薄 い 粥 」、
「 薄 い 煙 」と い う 意 味 を 表 す 。
「 薄 髭 」の「 ウ
y
Nat
sit
ス - 」は 密 度 が 低 い と い う 意 味 を 表 し 、
「 薄 粥 」と「 薄 煙 」の「 ウ ス
n
al
er
io
- 」は 濃 度 が 低 い と い う 意 味 を 表 す 。そ し て 、
「 薄 月 」に お け る「 月 」
i
n
U
v
は「 月 光 」の 意 味 を 表 す 。
「 薄 月 」は「 薄 い 月 光 」と い う 意 味 を 表 し 、
Ch
engchi
「ウス-」は濃度が低いという意味を表すと言える。つまり、前項
要 素 の 「 ウ ス - 」 は <濃 度 ・ 密 度 が 低 い >と い う 意 味 を 表 す こ と が 分
かる。
次 に 、サ マ 名 詞 の 語 基 に 付 く 場 合 を 見 る 。こ れ ら の 語 基 は「 茶 色 」、
「 緑 」、「 浅 葱 」 な ど 数 多 く 挙 げ ら れ 、 す べ て 「 色 」 を 表 す 語 基 で あ
る。
「 ウ ス - 」に よ る 複 合 語 の「 薄 茶 色 」、
「 薄 緑 」、
「 薄 浅 葱 」は そ れ
ぞ れ「 薄 い 茶 色 」、
「 薄 い 緑 」、
「 薄 い 浅 葱 」と い う 意 味 を 表 す 。
「ウス
-」は被修飾対象の濃度が低いという意味を表す。つまり、前項要
素 の 「 ウ ス - 」 は <濃 度 ・ 密 度 が 低 い >と い う 意 味 を 表 す こ と が 分 か
る。
27 3.1.2.2
連用形名詞に付く場合
この小節では「ウス-」が連用形名詞語基に付く場合を見る。コ
ト名詞語基とモノ名詞語基がある。
ま ず 、コ ト 名 詞 語 基 に 付 く 場 合 を 見 る 。
「 書 き 」、
「 染 め 」、
「 化 粧 」、
「 彩 色 」と い う 四 つ の 語 基 が あ る 。
「 薄 書 き 」、
「 薄 染 め 」、
「 薄 化 粧 」、
「薄彩色」という複合語になるが、用例を以下に示す。
(29) ペ ー ジ 番 号 は 打 ち 出 さ ず 、 原 稿 の 裏 面 に 鉛 筆 で 薄 書 き す る 。
(『 日 本 認 知 言 語 学 会 予 稿 集 』 執 筆 規 定 ( 2010 年 版 )・
http://homepage2.nifty.com/jcla/japanese/yoryo/confere
nce-book.html)
立
政 治 大
(30) 独 特 の 薄 染 め の T シ ャ ツ で す 。
‧ 國
學
( http://www.cord310.co.jp/16_327.html)
‧
例 (29)の「 薄 書 き 」は「 薄 く 書 い た さ ま 」の 意 味 を 表 し 、
「ウス-」
は「書く」という動作による結果産物の濃度が低いという意味を表
y
Nat
sit
す 。例 (30)の「 薄 染 め 」は「 薄 く 染 め た さ ま 」の 意 味 を 表 す 。
「ウス
n
al
er
io
- 」は 同 様 に 解 釈 す る こ と が で き る 。こ れ ら の 複 合 語 は「 薄 く <V た
i
n
U
v
>さ ま 」 と い う 意 味 解 釈 に な る 。 つ ま り 、「 ウ ス - 」 は 語 基 が 表 す 動
Ch
engchi
作 に よ る 結 果 産 物 を 修 飾 し て お り 、 <濃 度 ・ 密 度 が 低 い >と い う 意 味
を表すことが分かる。
次に、
「 ウ ス - 」が モ ノ 名 詞 語 基 に 付 く 場 合 を 見 る 。
「 霞 み 」、
「 霧 2 0 」、
「匂い」という三つの語基が見られる。この三つの語基は動詞から
名詞化したモノ名詞であるが、動作性が含まれていない。これらの
語 基 は 「 ウ ス - 」 と 共 起 し 、「 薄 霞 み 」、「 薄 霧 」、「 薄 匂 い 」 に な る 。
(31) 海 戦 の 日 は 「 天 気 晴 朗 」 で は な く 、 好 都 合 に も 薄 霧 が 立 ち 込
め て い た 。( Google books・ 松 村 劭 『 世 界 の 名 将 決 定 的 名 言 』)
20
『 日 本 国 語 大 辞 典 』 に お い て 「 霧 る 」 と い う 語 が 載 せ ら れ て い る た め 、「 連
用形名詞」に分類する。
28 (32) 窓 を 開 け る と 、 花 の 薄 匂 い を は ら ん だ 風 が ぬ る く 舞 い 込 ん で
髪をくすぐった。
( http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=224216)
(33) 今 日 は 昼 間 の 飛 行 で あ っ た の で 薄 霞 を 通 し て エ ー ゲ 海 の 島 々
が 見 え た 。( Google books・ 本 郷 敦 『 私 の ギ リ シ ャ の 旅 : 旅 を
通 じ て グ ロ ー バ ル な 人 々 の 関 わ り を 知 る 』)
例 (31)の「 薄 霧 」は「 薄 い 霧 」、例 (32)の「 薄 匂 い 」は「 薄 い 匂 い 」、
例 (33)の 「 薄 霞 」 は 「 薄 い 霞 」 2 1 の 意 味 を 表 す 。「 ウ ス - 」 は 被 修 飾
対 象 の 濃 度・密 度 が 低 い と い う 意 味 を 表 し 、そ の 反 義 的 な 概 念 は「 濃
政 治 大
い 」 で あ る 。 つ ま り 、 前 項 要 素 の 「 ウ ス - 」 は <濃 度 ・ 密 度 が 低 い >
立
という意味を表すことが分かる。
‧ 國
學
以上をまとめると、
「 ウ ス - 」が 付 く 連 用 形 名 詞 語 基 に は 二 種 類 あ
り 、モ ノ 名 詞 語 基 と コ ト 名 詞 語 基 で あ る 。
「 ウ ス - 」は モ ノ 名 詞 語 基
‧
に付く場合は「語基が表すものの濃度・密度が低い」という意味を
表し、コト名詞語基に付く場合は「動作による結果産物の濃度・密
y
Nat
sit
度 が 低 い 」と い う 意 味 を 表 す 。前 者 は「 薄 い <N>」と い う 意 味 解 釈 で
n
al
er
io
あ り 、 後 者 は 「 薄 く <V>-た さ ま 」 と い う 意 味 解 釈 で あ る 。 意 味 解 釈
i
n
U
v
が異なるが、どちらも「濃度・密度」について叙述する概念である
Ch
engchi
た め 、そ の 反 義 的 な 概 念 が 同 じ く「 濃 い( 濃 く )」で あ り 、
「ウス-」
は <濃 度 ・ 密 度 が 低 い >と い う 意 味 を 表 す 。
3.1.2.3
動詞に付く場合
こ の 小 節 で は「 ウ ス - 」が 動 詞 語 基 に 付 く 場 合 を 見 る 。
「 霞 む 」が
ある。
(34) 鮮 か に 滑 走 離 陸 北 東 に 針 路 を 執 り や が て 機 首 を 真 東 に 薄 霞 む
生 駒 連 山 の 北 の 端 か ら 眼 界 を 逸 し た 。( 大 阪 毎 日 新 聞
21
「 霞 」は「 朝 ま た は 夕 方 、雲 に 日 光 が 当 た っ て 赤 く 見 え る 現 象 」で あ り 、
「濃
淡」の概念が含まれると考えられる。
29 1920.3.21・
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/das/jsp/ja/ContentViewM.js
p?METAID=00104407&TYPE=IMAGE_FILE&POS=1)
例 (34)の「 薄 霞 む 」は「 霞 が 薄 く か か る 」で あ り 、
「 ウ ス - 」は 空
が か す か に 霞 ん で い る 状 態 を 表 す 。 前 小 節 で 述 べ た よ う に 、「 霞 み 」
は空の色の変化を表す現象であるため、
「 霞 」に 濃 淡 の 概 念 が 含 ま れ
ると考えられ、
「 薄 霞 」の「 ウ ス - 」は 語 基 の 濃 淡 を 修 飾 し 、そ の 反
義的な概念は「濃い」である。語基が動詞である「薄霞む」も同様
であり、
「 薄 霞 む 」の「 ウ ス - 」は「 霞 む 」の 濃 淡 を 表 し 、そ の 反 義
政 治 大
的 な 概 念 は「 濃 い( 濃 く )」だ と 認 め ら れ る 。つ ま り 、前 項 要 素 の「 ウ
立
3.1.2.4
學
「ウス-」が表す別義1
3.1.2.1
小節から3.1.2.3
小節で見たように、
‧
‧ 國
ス - 」 は <濃 度 ・ 密 度 が 低 い >と い う 意 味 を 表 す こ と が 分 か る 。
「 ウ ス - 」 は <濃 度 ・ 密 度 が 低 い >と い う 意 味 を 表 す 。 名 詞 語 基 と 連
y
Nat
sit
用 形 名 詞 の モ ノ 名 詞 語 基 に 付 く 場 合 は「 薄 い <N>」と い う 意 味 解 釈 に
n
al
er
io
なり、語基が表すものの濃淡を修飾する。連用形名詞のコト名詞語
i
n
U
v
基 に 付 く 場 合 は 「 薄 く <V た >さ ま 」 と い う 意 味 解 釈 に な り 、 動 作 ・
Ch
engchi
作用による結果の濃淡を修飾する。そして、動詞語基に付く場合は
「 薄 く <V>」と い う 意 味 解 釈 に な り 、連 用 形 名 詞 語 基 の 場 合 と 同 様 に
動作・作用による結果の濃淡を修飾する。
上 述 し た「 薄 い <N>」、
「 薄 く <V た >さ ま 」、
「 薄 く <V>」の よ う に「 ウ
ス-」が異なる品詞の語基に付く場合は意味解釈がやや異なるが、
同一意味を表す。そして、このカテゴリーに属する複合語における
「 ウ ス - 」 の 反 義 的 な 概 念 は す べ て 「 濃 い ( 濃 く )」 で あ る 。
以上から、
「 ウ ス - 」が 表 す 別 義 1 を <濃 度・密 度 が 低 い >と す る こ
とができる。
30 3.1.2.5
意味拡張
「 ウ ス - 」が 表 す 別 義 1 <濃 度・密 度 が 低 い >は プ ロ ト タ イ プ <厚 さ
の 値 が 少 な い >か ら 拡 張 さ れ た も の で あ る 。以 下 、意 味 拡 張 の 仕 組 み
を述べる。
プロトタイプが表す「厚薄」の概念は物体を外部から捉え、いわ
ゆる「次元」の概念である。そして、別義1の「濃度・密度」は液
体、気体、色を、視覚、味覚、嗅覚によって認識されるため、五感
の 概 念 で あ る 2 2 。つ ま り 、
「 厚 薄 」か ら「 濃 度・密 度 」へ の 拡 張 は「 次
元」から「五感」への拡張であると言える。
「次元」から「五感」へ拡張するのは一般的な現象であり、共感
政 治 大
覚 比 喩 2 3 で 説 明 で き る 。 頼 ( 2005) は 次 元 形 容 詞 か ら 五 感 の 視 覚 、
立
聴覚、嗅覚、味覚、触覚へ転用することがあると指摘している。頼
(40) 忍 冬 の 高 い 香
(41) 薄 い 味
(次元→聴覚)
(次元→聴覚)
a(l 次 元 → 嗅 覚 )
v
i
n
C h→ 嗅 覚 ) U
(次元
engchi
n
(39) 高 い 匂 い
io
(38) 低 い 声
Nat
(37) 大 き い 声
y
(次元→視覚)
sit
(36) 高 い 木
er
‧ 國
(次元→視覚)
‧
(35) 小 さ い 光
學
( 2005) は 次 の 例 を 挙 げ て い る 。
(次元→味覚)
(42) 香 り 高 い 味
(次元→味覚)
(43) 細 か い 感 触
(次元→触覚)
(44) 高 い 熱
(次元→触覚)
例 (35)~ (44)次 元 が 五 感 へ 拡 張 す る こ と が あ る こ と が 分 か る 2 4 。
22
「 濃 度 」 は 液 体 、 気 体 、 色 に か か わ る 概 念 で あ り 、「 密 度 」 は 物 体 に か か わ
る概念である。異なる概念であるが、液体の濃度、気体の濃度、色の濃度、物
体の密度はいずれも五感感覚で捉えられる。
23
「 共 感 覚 的 比 喩 」( synaesthesic metaphor) は 人 間 の 一 つ の 感 覚 領 域 で 用 い
ら れ る 形 容 詞 を 他 の 感 覚 領 域 に 流 用 す る 用 法 で あ る ( 国 広 1989)。
24
頼 ( 2005) は 「 大 き い ・ 小 さ い 」、「 高 い ・ 低 い 」、「 長 い ・ 短 い 」、「 太 い ・ 細
31 このような共感覚の意味拡張はメタファーか、それとも、メトニ
ミ ー か と い う こ と に つ い て 、 頼 ( 2005: 97) は 次 の よ う に 述 べ て い
る。
次 元 か ら 視 覚 へ の 転 用 が 類 似 性 に 基 づ く メ タ フ ァ ー で あ る の に 対 し て 、次
元から聴覚、嗅覚、味覚、触覚への転用の場合は、程度の概念という途中過
程 が 介 し て い る の で 、メ タ フ ァ ー と い う よ り も 、同 時 に 二 種 類 の 感 覚 を 知 覚
し、参照点に基づくメトニミーだと判断されよう。
頼 ( 2005) の 指 摘 に よ る と 、 次 元 か ら 五 感 へ の 拡 張 は 言 語 の 一 般
政 治 大
的現象であり、その拡張はメタファーかメトニミーによるものであ
立
る と 考 え ら れ る 。 し た が っ て 、「 ウ ス - 」 の 場 合 も 別 義 1 <濃 度 ・ 密
‧ 國
えられる。
學
度 が 低 い >は プ ロ ト タ イ プ <厚 さ の 値 が 少 な い > か ら 拡 張 さ れ た と 考
‧
以 上 か ら 、「 厚 薄 」か ら「 濃 度 ・ 密 度 」へ 拡 張 す る の は「 次 元 」か
ら「五感」への拡張、つまり、共感覚的比喩によって拡張されたも
y
Nat
sit
のであり、メタファーかメトニミーによって拡張されることが分か
n
al
er
io
る 。 つ ま り 、 別 義 1 の <濃 度 ・ 密 度 が 低 い >は メ タ フ ァ ー か メ ト ニ ミ
i
n
U
v
ー に よ っ て プ ロ ト タ イ プ <厚 さ の 値 が 少 な い >か ら 拡 張 さ れ た こ と が
分かった。
Ch
engchi
い 」、「 広 い ・ 狭 い 」、「 厚 い ・ 薄 い 」、「 深 い ・ 浅 い 」、「 遠 い ・ 近 い 」 と い う 8 組
の次元形容詞を取り上げ、次のようなことを指摘している。
( 前 略 )8 組 の 次 元 形 容 詞 は 、す べ て 視 覚 へ 転 用 す る 例 と 聴 覚 へ の 転 用 例
が 考 察 さ れ た 。 し か し 、 嗅 覚 、 味 覚 へ の 転 用 例 は 「 厚 い ・ 薄 い 」、「 遠 い ・ 近
い 」 に は 見 ら れ る が 、「 大 き い ・ 小 さ い 」 に は 見 ら れ な か っ た 。 そ し て 、「 高
い」と「低い」では、嗅覚、味覚、触覚への転用例は「高い」には見られる
が 、「 低 い 」 に は 見 ら れ な か っ た 。
頼 (2005)は 次 元 形 容 詞 の 感 覚 的 意 味 拡 張 は 語 に よ っ て 異 な る と 指 摘 し て い る 。
つ ま り 、 す べ て の 次 元 形 容 詞 は 五 感 に 拡 張 し て い く と は 限 ら な い 。 頼 (2005)の
調査では「薄い」は視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚への転用例がすべて見られ
る 。 つ ま り 、「 薄 い 」 に つ い て は 、 次 元 か ら 五 感 へ の 拡 張 が 可 能 で あ る 。
32 3.1.3
別義2
「 ウ ス - 」が 表 す 別 義 2 は <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、程 度 が 低 い
>と い う 意 味 で あ る 。
こ の 意 味 に 属 す る 複 合 語 は「 一 般 的 基 準 」が 含 意 さ れ て い る 。3 .
1 .2
小節で述べたように、
「 ウ ス - 」は 物 事 に 対 す る 認 識 の 平 均
値 に よ っ て 判 断 す る の で あ る 。例 え ば 、
「 薄 明 か り 」は「 少 し の 明 か
り」の意味を表し、これは「明かり」が有するべき明るさの一般的
な基準を想定し、その基準に達していない状態を「薄明かり」とい
う 。連 用 形 名 詞 語 基 の 例 と し て 、例 え ば 、
「 薄 知 り 」は「 う す う す 事
情を知ること」の意味を表す。これも「知っている」と言える基準
政 治 大
を想定してその基準に達していない状態を「薄知り」という。形容
立
詞の場合も同様に「普通、一般的基準」が含意されている。
‧ 國
學
「ウス-」のプロトタイプの反義的意味は「厚い」であり、別義
1の反義的意味は「濃い」である。これに対し、別義2の反義的意
Nat
sit
(45) a.( 名 詞 ) 薄 闇 ← … → ( *厚 い / *濃 い ) 闇
y
‧
味 は 「 厚 い 」 で も な く 、「 濃 い 」 で も な い 。 例 (45)を 見 る 。
n
al
er
io
b.( 連 用 形 名 詞 ) 薄 湿 り ← … → ( *厚 く / *濃 く ) 湿 っ た サ マ
i
n
U
v
c.( 動 詞 ) 薄 汚 れ る ← … → ( *厚 く / *濃 く ) 汚 れ る
Ch
engchi
d.( 形 容 詞 ) 薄 明 る い ← … → ( *厚 く / *濃 く ) 明 る い
別義2を表す「ウス-」は名詞、連用形名詞、動詞、形容詞の語
基に付く。
以下、
「 ウ ス - 」が 各 品 詞 の 語 基 に 付 く 場 合 、ど の よ う な 意 味 を 付
加するかを見る。
3.1.3.1
名詞に付く場合
この小節では「ウス-」が名詞語基に付く場合を見る。モノ名詞
語基、トコロ名詞語基がある。
ま ず 、モ ノ 名 詞 語 基 に 付 く 場 合 を 見 る 。
「 学 」、
「 情 け 」が 見 ら れ る 。
33 用例を以下に示す。
(46) 高 僧 や 仏 教 学 者 が 、 そ の 成 り 立 ち や 深 遠 な 思 想 を 、 い ろ い ろ
と解説してくれているが、残念ながら薄学で未熟な私には理
解出来そうにない。
( Google books・坂 内 昇『 旅 と 夢 と 散 策 と :
ノ ス タ ル ジ ッ ク な 絵 日 記 』)
(47) で も 、 そ う 言 う と 「 薄 情 だ 」 と 非 難 さ れ る 。 し か し 薄 情 、 す
なわち「薄情け」はかけられる側にとってこそ仇になる。
( Google books・ 竹 中 平 蔵 、 冨 山 和 彦 『 日 本 経 済 ・ 今 度 こ そ
オオカミはやってくる: 負けないビジネスモデルを打ちたて
よ 』)
立
政 治 大
‧ 國
學
例 (46)の「 薄 学 」は 自 分 の こ と を へ り く だ っ て い う の に 用 い 、
「薄
い 学 識 」の 意 味 を 表 し 、
「 ウ ス - 」は「『 学 識 』の 程 度 が 低 く 、
『学識
‧
が あ る 』と 言 え る 基 準 に 達 し て い な い 」と い う 意 味 を 表 す 。そ し て 、
例 (47)の 「 薄 情 け 」 は 「 心 の こ も っ て い な い 見 せ か け の 愛 情 」 の 意
y
Nat
sit
味を表し、
「 ウ ス - 」は 同 様 に 解 釈 す る こ と が で き る 。こ れ ら の 複 合
n
al
er
io
語 か ら 見 る と 、前 項 要 素 の「 ウ ス - 」は 語 基 の 状 態 が 不 足 し て お り 、
i
n
U
v
そ の 程 度 が 低 い さ ま を 修 飾 す る 。 つ ま り 、「 ウ ス - 」 は <あ る 基 準 に
Ch
engchi
達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >と い う 意 味 を 表 す と 言 え る 。
次 に 、ト コ ロ 名 詞 語 基 に 付 く 場 合 を 見 る 。
「 闇 」が 挙 げ ら れ る 。用
例を以下に示す。
(48) 東 京 駅 で こ だ ま 号 の 下 り に 乗 り 込 ん だ 時 、 街 は ま だ 薄 闇 の 中
に あ っ た 。( BCCWJ・ 鈴 木 光 司 『 リ ン グ 』)
例 (48)の 「 薄 闇 」 は 「 そ の 場 所 の 暗 さ は 物 の 姿 が や っ と わ か る 程
度 の 暗 さ 」 の 意 味 を 表 し 、「 ウ ス - 」 は 「 闇 」 の 程 度 が 低 く 、「 闇 」
と言える基準に達していないという意味を表す。つまり、前項要素
の 「 ウ ス - 」 が ト コ ロ 名 詞 に 付 く 場 合 も <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、
34 程 度 が 低 い >と い う 意 味 を 表 す こ と が 分 か る 。
3.1.3.2
連用形名詞に付く場合
この小節では「ウス-」が連用形名詞語基に付く場合を見る。モ
ノ名詞語基、トキ名詞語基、トコロ名詞語基、サマ名詞語基とコト
名詞語基がある。
ま ず 、モ ノ 名 詞 語 基 の 場 合 を 見 る 。
「 明 か り 」が あ る が 、そ の 用 例
を以下に示す。
(49) 夜 明 け 前 の 薄 明 か り の 中 、 キ ャ ッ チ し た 魚 に ス 卜 マ ッ ク ポ ン
政 治 大
プを入れて調べてみると、消化していないダンがかなり確認
立
で き た 。( Google books・ 刈 田 敏 『 フ ラ イ フ ィ ッ シ ャ ー の た め
‧ 國
學
の 水 生 昆 虫 小 宇 宙 , 第 2 卷 』)
‧
例 (49)の 「 薄 明 か り 」 は 「 薄 い 明 か り 」 の 意 味 を 表 し 、「 ウ ス - 」
は明るさが足りなく、
「 明 か り 」が あ る べ き 基 準 に 達 し て お ら ず 、程
y
Nat
sit
度が低いという意味を表す。
al
n
以下に示す。
er
io
次 に 、ト キ 名 詞 語 基 の 場 合 を 見 る 。
「 暮 れ 」が あ る が 、そ の 用 例 を
Ch
engchi
i
n
U
v
(50) 夜 に な る 前 の 薄 暮 れ の 景 色 を 見 な が ら 、 後 ろ か ら デ コ の 両 肩
を 抱 き 首 を 回 し あ っ て キ ス を し た 。( Google books・ も ろ ず み
洋 『 重 な る 愛 の 行 方 』)
例 (50)の 「 暮 れ 」 は 日 没 か ら 暗 く な る ま で の 間 に あ る 空 の 状 態 と
い う 意 味 か ら 、そ の 時 間 帯 を 指 す 意 味 も 表 す よ う に な っ た 。つ ま り 、
「 暮 れ 」が 表 す の は そ の 時 間 帯 に あ る 空 の 状 態 で あ る 。そ し て 、
「ウ
ス - 」が 付 く「 薄 暮 れ 」は 暮 れ か か っ た 頃 を 指 し 、
「 空 の 状 態 は『 暮
れ』という時間帯に表す状態に近い様子であるが、まだその状態に
達していない」という意味を表す。つまり、前項要素の「ウス-」
35 は <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >と い う 意 味 を 表 す こ と が
分かる。
次 に 、ト コ ロ 名 詞 語 基 の 場 合 を 見 る 。
「 暗 が り 」が あ る が 、そ の 用
例を以下に示す。
(51) 「 失 礼 し ま す 」 浅 見 が そ の 背 に 一 礼 す る と 、 徳 氷 は 向 こ う を
向 い た ま ま で 、「 お 元 気 で な 」 と 言 い 、 語 尾 と 一 緒 に 、 薄 暗 が
り の 中 に 姿 が 消 え た 。( Google books・ 内 田 康 夫 『 札 幌 殺 人 事
件 』)
政 治 大
例 (51)の 「 薄 暗 が り 」 は 「 少 し 暗 が り の と こ ろ 」 の 意 味 を 表 し 、
立
「ウス-」は「暗がり」が表す状態に近いがまだ「暗がり」と言え
‧ 國
學
る基準に達しておらず、程度が低いという意味を表す。
次 に 、サ マ 名 詞 語 基 に 付 く 場 合 を 見 る 。
「 湿 り 」、
「 濁 り 」、
「 禿 げ 」、
‧
「曇り」という四つの語基がある。これらの語基は「ウス-」と共
起し、
「 薄 湿 」、
「 薄 濁 」、
「 薄 禿 」、
「 薄 曇 」に な る 。用 例 を 下 に 挙 げ る 。
sit
y
Nat
n
al
er
io
(52) 薄 濁 リ が あ る 鈴 川 だ が 、 浅 瀬 で も オ モ リ な し の フ カ シ 釣 リ で
i
n
U
v
よ く 釣 れ た 。( Google books・ 葛 島 一 美 『 小 さ な 魚 を 巡 る 小 さ
Ch
な 自 転 車 の 釣 り 散 歩 』)
engchi
(53) 平 井 は 「 へ え ー ! 」 と 驚 き の 声 を 上 げ 、 薄 禿 の 頭 に 手 を の せ
た ま ま 口 を つ ぐ ん で い た 。( Google books・ 大 沼 正 吉 『 残 照 』)
例 (52)の「 薄 濁 り 」は「 少 し 濁 っ て い る 様 子 」の 意 味 を 表 し 、
「ウ
ス - 」は「 濁 る 」の 程 度 が 低 く 、
「 濁 っ て い る 」と 言 え る 基 準 に 達 し
て い な い と い う 意 味 を 表 す 。 例 (53)の 「 薄 禿 」 や 「 薄 湿 り 」、「 薄 曇
り」などの複合語も同様に解釈することができる。
最 後 に 、コ ト 名 詞 語 基 に 付 く 場 合 を 見 る 。
「 笑 い 」、
「 知 り 」と い う
二つの語基がある。
36 (54) 千 田 さ ん は 薄 笑 い を 浮 か べ て 私 の 顔 を 見 て い た 。
「十四歳も年
上の人妻と。人に言えるようなことじゃないんだけど。馬鹿
で し ょ う 」( BCCWJ・ 岩 瀬 成 子 『 や わ ら か い 扉 』)
(55) 彼 は 二 人 が 知 り 合 い と い う 事 で 、 藍 野 も そ れ を 薄 知 り し て い
ると思っていたらしい。
( http://2nov.jam3.jp/nov/kindaichi/etc/015.html)
例 (54)の 「 薄 笑 い 」 は 「 か す か に 表 情 を 動 か し た だ け の 笑 い 」 の
意 味 を 表 し 、「 ウ ス - 」 は 「 笑 う 」 の 程 度 が 低 く 、「 笑 う 」 と 言 え る
基 準 に 達 し て い な い と い う 意 味 を 表 す 。 例 (55)の 「 薄 知 り 」 に お け
政 治 大
る「ウス-」も同様に解釈することができる。
立
以上から、
「 ウ ス - 」が 連 用 形 名 詞 で あ る モ ノ 名 詞 語 基 、ト キ 名 詞
‧ 國
學
語基、トコロ名詞語基、サマ名詞語基とコト名詞語基に付く場合は
い ず れ も <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >と い う 意 味 を 表 す
‧
ことが分かる。
y
Nat
動詞に付く場合
sit
3.1.3.3
n
al
「 ぼ け る 」、「 曇 る 」、「 笑 う 」 が あ る 。
Ch
engchi
er
io
この小節では、
「 ウ ス - 」が 動 詞 語 基 に 付 く 場 合 を 見 る 。
「 汚 れ る 」、
i
n
U
v
(56) 同 じ く 薄 汚 れ た 氷 の 壁 に 掘 ら れ た ト ン ネ ル の 中 へ 入 っ て 行 く
の は 中 々 迫 力 が あ る 。( Google books・ 大 空 飛 人 『 ス イ ス は 今
日 も 晴 れ だ っ た !』)
(57) 薄 ぼ け た オ レ ン ジ 色 の ラ イ ト に 照 ら さ れ て 、 そ の 言 葉 、 カ ウ
ン タ ー の 上 で 漂 っ て い る 。( Google books・ 長 谷 川 紘 子 『 隅 で
バ ー ボ ン を 飲 ん で た 男 』)
(58) 「 蘭 芳 は お れ に と っ て 、 幸 運 の 女 神 に な る か も 知 れ ん ぞ 」 多
岐 勝 彦 が に ぶ く 薄 笑 っ た 。( BCCWJ・ 谷 恒 生 『 警 視 庁 歌 舞 伎 町
分 室 :: 三 国 志 の 殺 人 』)
37 例 (56)の 「 薄 汚 れ る 」 は 「 薄 く 汚 れ る 」 の 意 味 を 表 し 、「 ウ ス - 」
は「 汚 れ る 」の 程 度 が 低 く 、
「 汚 れ る 」と 言 え る 基 準 に 達 し て い な い
と い う 意 味 を 表 す 。 例 (57)の 「 薄 ぼ け る 」 は 「 物 の 濃 度 、 密 度 、 鮮
明 度 な ど が 減 っ て 、 か す か な 状 態 に な る 」 の 意 味 を 表 し 、 例 (58)の
「薄笑う」は「顔の表情をかすかに動かして笑う」の意味を表し、
そ し て 、「 薄 曇 る 」 は 「 薄 い 雲 が か か っ て 少 し 曇 る 」 の 意 味 を 表 す 。
これらの複合語における「ウス-」も動詞による結果や様態の程度
が 低 い こ と を 修 飾 し て い る 。つ ま り 、前 項 要 素 の「 ウ ス - 」は <あ る
基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >と い う 意 味 を 表 す 。
3.1.3.4
政 治 大
形容詞に付く場合
立
この小節では「ウス-」が形容詞語基に付く場合を見る。用例を
‧ 國
學
以下に示す。
‧
(59) ( タ チ ウ オ ) 海 の 泥 底 に す み 、 朝 や 夕 方 の 薄 明 る い と き に 海
面 近 く に 浮 上 す る 。( BCCWJ・ 玉 井 恵 『 相 模 湾 の う ま い も ん ::
y
Nat
sit
海 の 幸 を 知 り つ く し 、 味 わ い つ く す 』)
n
al
er
io
(60) つ れ て い か れ た の は 同 じ く バ イ シ ャ 地 区 の 五 分 も 歩 か な い 薄
i
n
U
v
汚 い 安 宿 だ っ た 。( BCCWJ・ 西 牟 田 靖 『 世 界 殴 ら れ 紀 行 :: ト
Ch
engchi
ラ ブ ル だ ら け の コ テ ン パ ン 旅 日 記 ! 』)
(61) 雨 期 に 入 っ て 薄 寒 い 日 な の に 、 上 半 身 素 裸 の 中 年 男 が 若 者 に
付添われ、
「 身 体 中 が 暑 く て 痛 く て 、シ ャ ツ も 着 て い ら れ な い 」
そ う 訴 え て 診 療 を 受 け に き た 。( Google books・ 御 園 大 介 『 釜
無 川 』)
(62) 聞 け ば 聞 く ほ ど 、 神 秘 的 で 妖 気 じ み て 、 何 か 薄 気 味 悪 い 感 じ
さ え し ま す ね 。( BCCWJ・ 山 本 武 臣 『 あ じ さ い に な っ た 男 』)
例 (59)の「 薄 明 る い 」は「 少 し 明 る い さ ま 」の 意 味 を 表 し 、例 (60)
の「 薄 汚 い 」は「 少 し 汚 い さ ま 」の 意 味 を 表 す 。「 ウ ス - 」は「 明 る
い 」、「 汚 い 」 の よ う な 客 観 的 な 性 質 ・ 状 態 を 表 す 属 性 形 容 詞 に 付 く
38 場合、語基が表す性質・状態の程度が低く、そうと言える基準に達
し て い な い さ ま を 修 飾 し て い る 。 一 方 、 例 (61)の 「 薄 寒 い 」 は 「 少
し 寒 さ を 身 に 感 じ る 」の 意 味 を 表 し 、例 (62)の「 薄 気 味 悪 い 」は「 少
し 嫌 な 感 じ が し て 、気 持 ち が 悪 い 」の 意 味 を 表 す 。
「 ウ ス - 」は「 寒
い 」、「 気 味 悪 い 」 の よ う な 主 観 的 な 感 覚 ・ 感 情 を 表 す 感 情 形 容 詞 に
付く場合、語基が表す感覚・感情の程度が低く、そうと言える基準
に 達 し て い な い さ ま を 修 飾 し て い る 。こ れ ら の 複 合 語 で は 、
「ウス-」
は <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >と い う 意 味 を 表 す と 言 え
る。
3.1.3.5
政 治 大
「ウス-」が表す別義2
立
3.1.3.1
小節から3.1.3.4
小節で見たように、
‧ 國
學
「 ウ ス - 」 が 表 す の は <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >と い
う意味である。名詞語基に付く場合は「語基の状態が基準に達して
‧
おらず、程度が低い」という意味を表す。連用形名詞語基に付く場
合は「動作・作用による結果や状態の程度が低く、そうと言える基
y
Nat
sit
準に達していない」という意味を表す。動詞語基に付く場合は「動
n
al
er
io
作が完全に行われておらず、該当動作という基準に達していない」
i
n
U
v
という意味を表す。形容詞語基に付く場合は「語基が表す性質・状
Ch
engchi
態、あるいは感情・感覚の程度が低く、そうと言える基準に達して
いない」という意味を表す。
3 .1 .1 .4
小節で述べたように、
「 ウ ス - 」が 異 な る 品 詞 の
語基に付く場合は意味解釈がやや異なるが、いずれも「ある基準に
達 し て い な い 」と い う 意 味 を 表 す た め 、こ れ ら の 複 合 語 に お け る「 ウ
ス - 」は 同 一 の 意 味 を 表 す と 言 え る 。以 上 か ら 、
「 ウ ス - 」が 表 す 別
義 2 を <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、程 度 が 低 い >と す る こ と が で き る 。
3.1.3.6
意味拡張
「 ウ ス - 」が 表 す 別 義 2 の <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、程 度 が 低 い
>は 別 義 1 の <濃 度 ・ 密 度 が 低 い >か ら 拡 張 さ れ た も の で あ る 。
39 別義1の「濃度・密度」は物質に含まれた組成成分の量の割合を
表 し 、「 程 度 」 の 概 念 で あ る 。 ま た 、「 濃 度 ・ 密 度 」 は 科 学 的 に 測 れ
る も の で 、具 体 性 を 持 っ て い る と 言 え る 。こ れ に 対 し 、別 義 2 の「 基
準」は話者の認識によるもので主観的である。3.1.3
小節で
述べたように、この意味は「一般的基準」が含意されている。その
「一般的基準」に達していない場合は「基準に達していない」とい
う 程 度 性 を 含 む 意 味 が 生 じ る 。話 者 に よ る 基 準 は 主 観 的 で あ る た め 、
科学的に測定できる「濃度・密度」という基準と比べると抽象度が
高 い 。つ ま り 、
「 濃 度・密 度 」の 基 準 は 具 体 的 で 客 観 的 で あ る の に 対
し、人間による基準は抽象的で主観的と言える。したがって、別義
政 治 大
2は別義1の抽象化によって拡張されたと考えられる。
立
具体的概念から抽象的概念へ拡張することを指摘した論文は数多
‧ 國
學
く あ る 。瀬 戸( 1995)は「 見 る 」を 例 と し て 挙 げ て い る 。瀬 戸( 1995)
によると、
「 見 る 」は 知 覚 的 意 味 を ベ ー ス に し て 、認 識 的 意 味 の ほ う
‧
へ大いに意味を拡張していると述べており、メタファーは常に具象
を 耕 し 、 抽 象 を 生 む と 指 摘 し て い る 。 そ し て 、 国 広 ( 2001) は 「 望
y
Nat
sit
む」という視覚を表す動詞の多義性を分析し、その拡張方向は「具
n
al
er
io
体 的 か ら 心 理 的 へ 」 と 示 し て い る 。 ほ か に 、 谷 口 ( 2006) は 子 供 の
i
n
U
v
言語習得の過程における抽象化の認知的発達を考察し、次のことを
指摘している。
Ch
engchi
子 ど も の 言 語 習 得 は 、類 推 の 発 達 に 反 映 さ れ て い る「 抽 象 化 」と い う 認 知
的 能 力 の 発 達 に 相 関 し て 生 じ 、物 体 レ ベ ル か ら 関 係 レ ベ ル へ と 複 合 的 レ ベ ル
に移行するにつれ、利用可能となる言語構造も発展していく。
つ ま り 、人 間 の 第 一 言 語 習 得 の 過 程 に お い て も「 具 体 か ら 抽 象 へ 」
という方向性が見られるということである。さらに、言語変化を特
徴づける重要なプロセスである文法化においても具体から抽象へと
い う 拡 張 方 向 が 見 ら れ る 。 山 梨 ( 1995) が 指 摘 し た 文 法 化 の 変 化 プ
ロセスの傾向のうち、
「 場 所・空 間 に 関 わ る 指 示 的 な 意 味 を 担 う 表 現
40 か ら 、抽 象 的・関 係 的 な 意 味 を 担 う 表 現 に 転 化 し て い く( 山 梨 1995:
65)」と い う 拡 張 方 向 が 見 ら れ る 。例 え ば 、山 梨( 1995)は 次 の よ う
に空間移動に関わる動詞がアスペクト的な意味を担う補助動詞に転
化していく例を挙げている。
「 道 を い く 」の「 い く 」は 本 動 詞 で あ り 、
文字通りある場所ないしは空間を移動していく表現である。これに
対し、
「 歩 い て い く 」の「 い く 」は 他 の 動 詞 に 後 続 す る 表 現 と し て 補
助 動 詞 的 に 使 わ れ て い る 。 山 梨 ( 1995) に よ る と 、 こ の 字 義 通 り の
空 間 的 な 移 動 の 意 味 は 次 第 に 薄 れ 、行 為 の 継 続 な い し は 事 態 の 変 化 、
進行を意味するアスペクト的な意味が次第に強くなっている。つま
り、文法化においても具体的な意味から抽象的な意味へ拡張する方
政 治 大
向 性 が 見 ら れ る 。こ の よ う に 、意 味 拡 張 に お い て「 具 体 か ら 抽 象 へ 」
立
という方向性は多く見られることが分かる。
‧ 國
梨 ( 2008) は 次 の よ う に 述 べ て い る 。
學
具体的な意味から抽象的な意味へ拡張する仕組みについては、山
‧
概 念 メ タ フ ァ ー 理 論 で は 、イ メ ー ジ ス キ ー マ に 基 づ い て 構 造 化 さ れ た 概 念
y
Nat
sit
領 域 が 、よ り 抽 象 的 な 概 念 領 域 へ と 写 像 さ れ 、こ れ に よ っ て 後 者 が 理 解 さ れ
er
io
る と 考 え ら れ て い る ( Lakoff1987、 1990、 1993・ Johnson1987)。 こ の 写 像 に
al
n
v
i
n
C 概 念 領 域 は 目 標 領U域 と 呼 ば れ て い る 。 例 え ば 、
造 が 写 像 さ れ る よ り 抽 象 的 なh
engchi
お い て 、基 盤 と な っ て い る 概 念 領 域 は 起 点 領 域 、そ の イ メ ー ジ ス キ ー マ 的 構
LOVE IS A JOURNEY と い う メ タ フ ァ ー に お い て は 、 < 恋 愛 > が 目 標 領 域 、 <
旅 > が 起 点 領 域 と な る 。前 者 は 後 者 の イ メ ー ジ ス キ ー マ 的 構 造 を 写 像 す る こ
とで理解される。
このように、具体的な概念から抽象的な概念への拡張はメタファ
ーによる意味拡張であることが分かる。
以上をまとめると、科学的に測定できる「濃度・密度」は具体的
で 客 観 的 で あ る の に 対 し 、人 間 に よ る 基 準 は 抽 象 的 で 主 観 的 で あ る 。
具 体 か ら 抽 象 へ と い う 意 味 拡 張 は 言 語 の 一 般 的 現 象 な の で 、別 義 2 <
あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、程 度 が 低 い >は メ タ フ ァ ー に よ っ て 別 義 1
41 <濃 度 ・ 密 度 が 低 い >か ら 拡 張 さ れ た と 考 え ら れ る 。
3.2
多義ネットワーク
こ こ で は 3 .1 .1
小 節 か ら 3 .1 .3
小 節 ま で 検 討 し た「 ウ
ス-」の別義間の相互関係について考えてみる。 プ ロ ト タ イ プ : <厚 さ の 値 が 少 な い >
別 義 1 : <濃 度 ・ 密 度 が 低 い >
別 義 2 : <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >
政 治 大
以下、プロトタイプ、別義1と別義2との関係について簡単に説
立
明する。まず、別義1はプロトタイプからメタファーかメトニミー
‧ 國
學
によって拡張された。次元から視覚への拡張はメタファーであり、
次元から聴覚、嗅覚、味覚、触覚への拡張はメトニミーである。そ
‧
して、別義2は別義1から抽象化というメタファーによって拡張さ
れた。以上の分析をまとめると「ウス-」の多義ネットワークを図
y
Nat
n
al
<厚 さ の 値 が 少
ない>
er
io
プロトタイプ
sit
3で示すことができる。
別義1
C
<濃h
度・密
e n 度gがc h i
i
n
U
v
低い>
別義2
<あ る 基 準 に 達 し て
おらず、程度が低い>
メタファー:
メトニミー:
図3
3.3
「ウス-」の多義ネットワーク
「ウス-」が付く語基の性質
この小節では「ウス-」が表す意味とその意味が付く語基の性質
42 との関係を見る。以下、品詞別で見ていく。
ま ず 、「 ウ ス - 」 が 名 詞 の 語 基 に 付 く 場 合 を 見 る 。 <厚 さ の 値 が 少
な い >の 意 味 を 表 す「 ウ ス - 」が 付 く 名 詞 は「 モ ノ 性 」を 持 つ も の( 例:
「 薄 板 」、「 薄 紙 」) で あ る の に 対 し 、 <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程
度 が 低 い >の 意 味 を 表 す 「 ウ ス - 」 が 付 く 名 詞 は 「 モ ノ 性 」 2 5 を 持 た
な い も の( 例 :「 薄 学 」、
「 薄 仲 」)で あ る 。そ し て 、<濃 度 ・ 密 度 が 低
い >の 意 味 を 表 す「 ウ ス - 」が 付 く 名 詞 は「 形 容 詞 性 」を 持 つ も の( 例:
「 薄 緑 」、「 薄 茶 色 」) が 多 い 。
次 に 、「 ウ ス - 」 が 連 用 形 名 詞 2 6 と 動 詞 の 語 基 に 付 く 場 合 を 見 る 。
<厚 さ の 値 が 少 な い >の 意 味 を 表 す 「 ウ ス - 」 が 付 く も の は 「 変 化 」
政 治 大
と い う 性 質 を 持 つ も の( 例:
「 薄 塗 り 」、
「 薄 焼 き 」)で あ る の に 対 し 、
立
<あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >の 意 味 を 表 す 「 ウ ス - 」 が
‧ 國
學
付 く も の は「 変 化 」と い う 性 質 を 持 た な い も の( 例:「 薄 曇 り 」、
「薄
笑 い 」) が 多 い 。
‧
以上から、
「 ウ ス - 」が 表 す 意 味 と そ の 意 味 が 付 く 語 基 の 間 に ど の
ような差があるのを見た。
n
er
io
sit
y
Nat
al
Ch
engchi
i
n
U
v
25
寺 村( 1968)は 名 詞 の 特 性 を 考 え 、い く つ か の 文 型 の 枠 を 設 定 し て お り 、
「実
質 性 」、「 モ ノ 性 」、「 ト コ ロ 性 」、「 有 情 」、「 非 情 」、「 コ ト 性 」、「 相 対 性 」、「 形 容
詞 性 」、「 ト キ 性 」、「 動 詞 性 」、「 形 式 性 」 と い う 名 詞 の 性 質 を 取 り 上 げ て い る 。
26
連用形名詞は動詞連用形から形成されたと考えられる名詞である(西尾
1961)。西 尾( 1961)に よ る と 、連 用 形 名 詞 は も と の 動 詞 に 近 い 性 格 の も の か ら 、
もとの動詞とはまったく別の道を辿るに至っているものまで、幅広いにわたっ
ている。ここでは連用形名詞が持つ動詞の性質の部分を動詞の場合と併せて検
討する。連用形名詞が持つ名詞の性質の部分は名詞の場合と併せて検討する。
43 立
政 治 大
‧
‧ 國
學
n
er
io
sit
y
Nat
al
Ch
engchi
44 i
n
U
v
第4章
「コ-」が持つ多義性
本章では「コ-」が表す各意味をどのように分別していくか、ま
た 、各 品 詞 の 語 基 と 共 起 す る 際 に ど の よ う に 解 釈 さ れ る か を 述 べ る 。
そ し て 、第 2 章 で 述 べ た 認 知 言 語 学 の 概 念 を 援 用 し 、
「 コ - 」の 多 義
性、および各意味の相互関係を解明し、多義ネットワークを構築す
る。
4.1
「コ-」の多義分析
まず、4.1
小節で「コ-」のプロトタイプ的意味を述べる。
政 治 大
そ し て 、第 1 章 で 述 べ た よ う に 、本 稿 は 国 広( 1989)と 籾 山( 1993)
立
が 示 し た 「 反 義 語 の 違 い 」、「 意 味 分 野 の 違 い 」 な ど 多 義 的 別 義 を 認
‧ 國
學
定する方法を用い、多義語の意味を認定する。この分析方法によっ
て「 コ - 」は <物 理 的 な 量 が 少 な い >、<年 齢 が 幼 い >、<動 作 の 継 続 時
Nat
す意味を述べる。最後に、4.2
小節で「コ-」の多義ネットワ
n
er
io
ークを構築する。
al
4.1.1
小節で「コ-」が表
y
小節から4.1.5
sit
つ。以下、4.1.1
‧
間 が 短 い >、<あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、程 度 が 低 い >と い う 別 義 を 持
Ch
プロトタイプ
engchi
i
n
U
v
次元形容詞「小さい」のプロトタイプは「占める空間が小さい」
と い う 意 味 で あ る ( 玉 村 2001、 テ イ ラ ー ・ 瀬 戸 2008)。 語 構 成 要 素
「コ-」は次元形容詞「小さい」から来たもので、そのプロトタイ
プも「占める空間が小さい」と考えられる。また、後の考察から分
かるように、
「 コ - 」が 表 す 多 義 性 の 出 発 点 は「 占 め る 空 間 が 小 さ い 」
と い う 意 味 で あ る 。1 .3
小 節 で 述 べ た よ う に 、本 稿 は Langacker
( 1987)に よ る プ ロ ト タ イ プ の 定 義 を 援 用 す る た め 、
「 コ - 」の プ ロ
ト タ イ プ を <占 め る 空 間 が 小 さ い >と す る 。そ の 反 義 的 意 味 と し て「 大
き い 」が 挙 げ ら れ る 。例 え ば 、
「 小 板 」は「 小 さ い 板 」の 意 味 を 表 し 、
「 小 さ い 」の 反 義 的 意 味 は「 大 き い 」で あ る 。そ し て 、
「 小 切 り 」は
45 「 小 さ く 切 っ た さ ま 」の 意 味 を 表 し 、
「 小 さ く 」の 反 義 的 意 味 は「 大
きく」である。形容詞として働く「小さい」と副詞として働く「小
さく」は品詞が異なるが、どちらも「物の大小」について叙述する
概 念 で あ る た め 、 そ の 反 義 的 な 概 念 が 同 様 で あ る 。 例 (63)が 示 す よ
うに、プロトタイプ的意味を表す「コ-」は名詞、連用形名詞の語
基に付く。
(63) a.小 板 : 小 さ い 板
b.小 切 り : 小 さ く 切 っ た さ ま
←…→
大きい板
←…→
大きく切ったさま
政 治 大
このように、語基の品詞が異なっても、反義的な概念が同様であ
立
るため、同一の意味に分類する。
‧ 國
學
以下、
「 コ - 」が 各 品 詞 の 語 基 に 付 く 際 に 、ど の よ う な 意 味 を 付 加
するかを見る。
‧
4.1.1.1
名詞に付く場合
y
Nat
sit
こ の 小 節 で は <占 め る 空 間 が 小 さ い >の 意 味 を 表 す 「 コ - 」 が 名 詞
n
al
er
io
語基に付く場合を見る。
i
n
U
v
<占 め る 空 間 が 小 さ い >と い う 意 味 を 表 す 「 コ - 」 が 付 く 名 詞 語 基
Ch
engchi
にはモノ名詞、ヒト名詞、トコロ名詞がある。
ま ず 、モ ノ 名 詞 語 基 に 付 く 場 合 を 見 る 。例 え ば 、
「 石 」、
「 枝 」、
「 紙 」、
「 袋 」、「 針 」 な ど が 挙 げ ら れ る 。 こ れ ら の 語 基 と 「 コ - 」 に よ る 複
合 語 「 小 板 」、「 小 枝 」、「 小 紙 」、「 小 袋 」、「 小 針 」 は そ れ ぞ れ 「 小 さ
い 板 」、「 小 さ い 枝 」、「 小 さ い 紙 」、「 小 さ い 袋 」、「 小 さ い 針 」 の よ う
に「 小 さ い N」と い う 意 味 を 表 す 。「 コ - 」は 被 修 飾 対 象 が 占 め る 空
間が小さいさまを修飾している。つまり、前項要素の「コ-」は<
占 め る 空 間 が 小 さ い >と い う 意 味 を 表 す こ と が 分 か る 。
次 に 、ヒ ト 名 詞 語 基 に 付 く 場 合 を 見 る 。
「 男 」、
「 女 房 」、
「 女 」な ど
が挙げられるが、以下は「小男」の例を示す。
46 (64) 見 物 席 の 後 方 の 槻 の 木 の 陰 か ら 、 侏 儒 の よ う な 小 男 が 走 り 出
し て き た 。( BCCWJ・ 三 田 誠 広 『 炎 の 女 帝 持 統 天 皇 』)
例 (64)の「 侏 儒 の よ う な 小 男 」か ら 分 か る よ う に 、
「 小 男 2 7 」は「 体
の 小 さ い 男 性 」の 意 味 を 表 し 、
「 コ - 」は 語 基「 男 」の 体 積 、つ ま り 、
占める空間が小さいという意味を表す。
「 小 女 」も 同 様 に 解 釈 す る こ
と が で き る 。ま た 、
「 小 女 房 」は「 小 柄 な 女 房 」の 意 味 を 表 し 、前 項
要 素 の 「 コ - 」 は 同 じ く <占 め る 空 間 が 小 さ い >と い う 意 味 を 表 す と
考えられる。
最 後 に 、ト コ ロ 名 詞 語 基 に 付 く 場 合 を 見 る 。
「 城 」、
「 里 」、
「 道 」な
政 治 大
どが挙げられるが、以下は「小城」の用例を示す。
立
‧ 國
學
(65) こ の よ う な 小 城 一 つ を 陥 し た と こ ろ で 、 さ し た る 功 名 に も な
り ま す ま い 。( BCCWJ・ 森 村 誠 一 『 太 平 記 』)
‧
「 小 城 」、「 小 里 」、「 小 道 」 は そ れ ぞ れ 「 小 さ い 城 」、「 小 さ い 里 」、
y
Nat
sit
「 小 さ い 道 」と い う 意 味 を 表 し 、
「 コ - 」は 被 修 飾 対 象「 城 」、
「 里 」、
n
al
er
io
「道」の大きさが小さいという意味を表す。ここでは「コ-」は<
i
n
U
v
占 め る 空 間 が 小 さ い >と い う 意 味 を 表 す と 考 え ら れ る 。
4.1.1.2
Ch
engchi
連用形名詞に付く場合
こ の 小 節 で は <占 め る 空 間 が 小 さ い >の 意 味 を 表 す 「 コ - 」 が 連 用
形名詞語基に付く場合を見る。
<占 め る 空 間 が 小 さ い >と い う 意 味 を 表 す 「 コ - 」 が 付 く 連 用 形 名
詞語基にはモノ名詞、トコロ名詞、コト名詞がある。
ま ず 、モ ノ 名 詞 語 基 に 付 く 場 合 を 見 る 。
「 小 灯 し 」、
「 小 切 れ 」、
「小
引き出し」などが挙げられるが、その用例を以下に示す。
27
「小男」が表す意味は二つある。一つは「年の若い男子」という意味で、も
う 一 つ は「 体 の 小 さ い 男 性 」と い う 意 味 で あ る 。
「 小 女 」も 二 通 り の 意 味 を 表 す 。
この小節では後者の意味を表す場合を見る。
「 年 の 若 い 男 / 女 」の 意 味 を 表 す「 小
男」と「小女」における「コ-」は別義3で見る。
47 (66) 明 日 も 仕 事 が あ る の だ か ら … … と 思 い 、 小 灯 を 点 け た ま ま の
部 屋 で 、純 子 は 、ひ と り 、康 一 を 見 つ め て い た 。
( Google books・
藤 代 美 沙 子 『 麻 衣 子 の 小 指 』)
(67) そ の 前 に は 何 葉 か の 小 切 れ が 展 げ て あ り 、 彼 女 の 右 側 に は 針
箱、左側には原稿用紙と筆の載った文机が配されているが、
( 後 略 )。( BCCWJ・ 亀 井 秀 雄 『 前 田 愛 著 作 集 』)
(68) そ れ か ら サ イ ド ボ ー ド の 小 引 出 し か ら 天 眼 鏡 を 取 り 出 し て 、
写 真 の 主 を し げ し げ と 眺 め た 。( BCCWJ・ 内 田 康 夫 『 耳 な し 芳
一 か ら の 手 紙 』)
立
政 治 大
「 小 灯 し 」、「 小 切 れ 」、「 小 引 き 出 し 」 は そ れ ぞ れ 「 小 さ い 灯 し 」、
‧ 國
學
「 小 さ い 切 れ 」、「 小 さ い 引 き 出 し 」 の よ う に 「 小 さ い N」 と い う 意
味を表し、
「 コ - 」は 被 修 飾 対 象「 灯 し 」、
「 切 れ 」、
「 引 き 出 し 」が 占
‧
める空間が小さいさまを修飾している。
次 に 、ト コ ロ 名 詞 語 基 に 付 く 場 合 を 見 る 。
「 小 暗 が り 」が 挙 げ ら れ
y
Nat
n
er
io
al
sit
るが、その用例を以下に示す。
i
n
U
v
(69) 溢 れ る よ う な 灯 の 光 を 離 れ た 小 暗 が り で も 、 そ こ に 繋 が れ て
Ch
engchi
い る 小 犬 も 吠 え な い 。( Google books・ 国 立 大 学 協 会 『 国 立 大
学 協 会 三 十 年 史 』)
「 小 暗 が り 」 は 「 小 さ い 暗 が り の と こ ろ 」 の 意 味 を 表 し 、「 コ - 」
は被修飾対象「暗がり」の大きさが小さいさまを修飾している。
以上から、
「 コ - 」が 連 用 形 名 詞 の モ ノ 名 詞 語 基 と ト コ ロ 名 詞 語 基
に 付 く 場 合 は <占 め る 空 間 が 小 さ い >と い う 意 味 を 表 す こ と が 分 か る 。
最 後 に 、 コ ト 名 詞 語 基 に 付 く 場 合 を 見 る 。「 小 書 き 」、「 小 切 り 」、
「 小 組 み 」、「 小 割 り 」 が 挙 げ ら れ る 。 例 え ば 、「 小 書 き 」、「 小 切 り 」
は そ れ ぞ れ 「 小 さ く 書 い た さ ま 」、「 小 さ く 切 っ た さ ま 」 の 意 味 を 表
すが、その用例を以下に示す。
48 (70) こ れ は 漢 字 部 分 を 大 字 で 書 き 、 助 詞 ・ 助 動 詞 や 活 用 語 尾 を 万
葉仮名で小書きする方法で、八世紀ごろからみられる。
( Google books・ 佐 竹 秀 雄 , 佐 竹 久 仁 子 『 日 本 語 を 知 る ・ 磨
く こ と ば の 表 記 の 教 科 書 』)
(71) 塩 鮭 は 皮 骨 を 取 っ て 小 切 り に し 、 レ タ ス は 1cm 角 に 切 る 。
( Google books・ 林 幸 子 『 パ パ ッ と 15 分 !お い し い お 弁 当 』)
「 コ - 」は コ ト 名 詞 語 基 に 付 く 場 合 、そ の 複 合 語 は「 小 さ く <V た
>さ ま 」と い う 意 味 解 釈 に な り 、修 飾 語「 小 さ く 」は「 語 基 が 表 す 動
政 治 大
作による結果産物の占める空間が小さい」という意味を表す。つま
立
り 、 前 項 要 素 の 「 コ - 」 は <占 め る 空 間 が 小 さ い >と い う 意 味 を 表 す
‧ 國
「コ-」のプロトタイプ
4.1.1.1
‧
4.1.1.3
學
ことが分かる。
小節から4.1.1.2
小節で見たように、
y
Nat
sit
「 コ - 」 は <占 め る 空 間 が 小 さ い >と い う 意 味 を 表 す 。 名 詞 語 基 に 付
n
al
er
io
く 場 合 は「 小 さ い <N>」と い う 意 味 解 釈 で あ り 、語 基 が 表 す そ の も の
i
n
U
v
の 形 を 修 飾 す る 。連 用 形 名 詞 語 基 に 付 く 場 合 は「 小 さ く <V た >さ ま 」
Ch
engchi
という意味解釈であり、
「 コ - 」は 動 作 に よ る 結 果 産 物 の 大 き さ を 修
飾する。
「コ-」が異なる品詞の語基に付く場合は意味解釈がやや異なる
が、上で述べた複合語における「コ-」は「物体の大小」について
叙述するため、その反義的な概念が同様である。したがって、これ
らの複合語における「コ-」が同一の意味を表すと言える。以上の
よ う に 、「 コ - 」 の プ ロ ト タ イ プ は <占 め る 空 間 が 小 さ い >を 見 た 。
4.1.2
別義1
「 コ - 」 の 別 義 1 は <物 理 的 な 量 が 少 な い >と い う 意 味 で あ る 。 こ
の 意 味 の 反 義 的 な 概 念 は 「 多 い ( 多 く )」 で あ る 。 例 え ば 、「 小 酒 」
49 は「量が少ないお酒」の意味を表し、この場合の「コ-」は「少な
い 」の 意 味 を 表 す の で 、そ の 反 義 的 意 味 は「 多 い 」で あ る 。そ し て 、
「小売り」は「ものを分けて売ること」の意味を表し、この場合の
「 コ - 」は「 少 な く 」の 意 味 を 表 す の で 、そ の 反 義 的 意 味 は「 多 く 」
で あ る 。こ の よ う に 、
「 コ - 」は 名 詞 に 付 く 場 合 で も 、連 用 形 名 詞 に
付く場合でも「物理的な量が少ない」という意味を表し、その反義
的な概念が同じである。ため、同一の意味に分類する。
以下、
「 コ - 」が 各 品 詞 の 語 基 に 付 く 際 に 、ど の よ う な 意 味 を 付 加
するかを見る。
4.1.2.1
政 治 大
名詞に付く場合
立
こ の 小 節 で は <物 理 的 な 量 が 少 な い >の 意 味 を 表 す 「 コ - 」 が 名 詞
‧ 國
學
語基に付く場合を見る。
<物 理 的 な 量 が 少 な い >の 意 味 を 表 す 「 コ - 」 が 付 く 名 詞 語 基 に は
‧
モノ名詞語基、ヒト名詞語基がある。以下、順に見ていく。
ま ず 、モ ノ 名 詞 語 基 に 付 く 場 合 を 見 る 。例 え ば 、
「 雨 」、
「 雪 」な ど
y
Nat
n
al
er
io
sit
が挙げられる。
i
n
U
v
(72) 朝 か ら 降 り 続 い て い る 小 雨 が 地 表 の 熱 の た め に 湯 気 と な っ て
Ch
engchi
立 ち 昇 っ て い る 。( BCCWJ・ 高 橋 克 彦 『 星 の 塔 』)
(73) 甚 兵 衛 は 佐 賀 町 で 蠟 燭 問 屋 を や っ て お り 、 一 方 で ち か く の 商
人 に 小 金 を 貸 し て 利 息 を と っ て い る 。( BCCWJ・ 南 原 幹 雄 『 箱
崎 別 れ 船 』)
(74) 時 折 、 空 か ら 小 雪 が 舞 い 降 り て は い た が 、 寒 さ は そ れ ほ ど 感
じ ら れ な い 。( Google books・ 鵜 野 峻 『 未 熟 な 外 科 医 の 研 修 旅
行 』)
例 (72)の 「 小 雨 」 は 「 降 る 量 が 少 な い 雨 」 の 意 味 を 表 し 、「 コ - 」
は 「 降 る 量 が 少 な い 」 の 意 味 を 表 す 。 例 (73)の 「 小 金 」 は 「 金 額 が
少 な い 金 」の 意 味 を 表 し 、例 (74)の「 小 雪 」は「 降 る 量 が 少 な い 雪 」
50 の意味を表す。これらの複合語は「~の量が少ない」という意味解
釈であり、
「 コ - 」は 語 基 が 表 す も の の 量 が 少 な い さ ま を 修 飾 し て い
る 。 つ ま り 、「 コ - 」 は <物 理 的 な 量 が 少 な い >と い う 意 味 を 表 す 。
一方、
「 小 声 」に お け る「 コ - 」も <物 理 的 な 量 が 少 な い >の 意 味 を
表す。次の例を見る。
(75) 彼 は 若 者 に 小 声 で 、 も う 一 つ の 用 事 が す む ま で 待 っ て く れ と
言 っ て 、奥 の 窓 際 の 席 に 腰 を 降 ろ し た 。
( BCCWJ・池 澤 夏 樹『 バ
ビ ロ ン に 行 き て 歌 え 』)
政 治 大
例 (75)の 「 小 声 」 は 「 声 の 音 量 が 小 さ い 」 の 意 味 を 表 し 、「 コ - 」
立
は「 音 量 が 小 さ い 」と い う 意 味 を 表 す 。
「 音 」は「 雨 」、「 雪 」な ど の
‧ 國
學
ように視覚で確かめることができないが、
「 音 量 」は デ シ ベ ル の よ う
な科学的な方法で測定できるもので、物理的な量の一種だと言える
。 し た が っ て 、「 小 声 」 の 「 コ - 」 は 同 じ く <物 理 的 な 量 が 少 な い >
‧
28
という意味を表すと考えられる。
y
Nat
sit
次 に 、 ヒ ト 名 詞 に 付 く 場 合 を 見 る 。「 小 商 人 ( こ あ き ん ど )」、「 小
al
n
に示す。
er
io
商 人( こ し ょ う に ん )」、
「 小 盗 人 」が 挙 げ ら れ る が 、そ の 用 例 を 以 下
Ch
engchi
i
n
U
v
(76) ひ と 昔 前 ご ろ 、 市 内 で 聞 こ え た 道 ば た の 小 商 人 た ち の 売 り 声
を 集 め た も の で あ る 。( BCCWJ・ 北 原 進 『 八 百 八 町 い き な や り
く り 』)
(77) し か し こ の 画 を み る と 、 小 盗 人 が 先 生 の 威 光 に 驚 い て 肝 を 潰
し た と い う 話 が あ る が 、 そ れ も 不 思 議 で は な い 。( Google
books・ 山 本 寛 斎 ,政 策 集 団 「 の ぞ み 」『 上 を 向 こ う 、 日 本 : わ
28
寺 村 ( 1993) は 「 モ ノ が 、 人 間 の 五 官 で 知 覚 で き る 、 つ ま り 見 た り 聞 い た り
手や肌で触れたり、舌で味わったり、匂いを嗅いだりできる種類の対象を――
つまり最もふつうの意味での「具体的」なものを――指すことができること」
と 述 べ て い る 。つ ま り 、
「 物 理 的 な 量 」と い う の は 視 覚 で 確 か め ら れ る も の に 限
らず、聴覚、嗅覚、触覚、味覚までも含まれるのである。
51 が 国 に は 世 界 に 誇 る 「 強 さ 」 と 「 希 望 」 が あ る 』)
「 小 商 人 ( こ あ き ん ど )」 と 「 小 商 人 ( こ し ょ う に ん )」 は 両 方 と
も「 わ ず か な 資 金 で 商 売 を す る 人 」の 意 味 を 表 し 、
「 コ - 」は「 資 金
が 少 な い 」の 意 味 を 表 す( 例 (76)を 参 照 )。そ し て 、例 (77)の「 小 盗
人 」は「 少 し ば か り の 盗 み を す る 者 」の 意 味 を 表 し 、
「 コ - 」は「 盗
ん だ も の が 少 な い 」の 意 味 を 表 す 。こ れ ら の 複 合 語 に お け る「 コ - 」
は 語 基 の ヒ ト 名 詞 の 動 作 結 果 の 量 が 少 な い さ ま を 修 飾 し 、<物 理 的 な
量 が 少 な い >の 意 味 を 表 す 。
「 コ - 」は ヒ ト 名 詞 の 語 基 に 付 く 際 に 、
「 体 の 大 き さ が 小 さ い 」の
政 治 大
意 味 を 表 す こ と が あ る 。例 え ば 、
「 小 男 」、
「 小 女 房 」で あ る( 4 .1 .
立
1.1
小 節 を 参 照 )。 ま た 、「 年 齢 が 幼 い 」 の 意 味 を 表 す こ と も あ
‧ 國
學
る 。 例 え ば 、「 小 娘 」「 小 坊 主 」 で あ る ( 4 . 1 . 3
小 節 を 参 照 )。
い ず れ も 人 間 そ の も の を 修 飾 し て い る 。し か し 、
「 コ - 」が「 商 人 」、
‧
「 盗 人 」に 付 く 場 合 は 動 作 結 果 の 量 を 修 飾 す る こ と に な る 。つ ま り 、
「 小 商 人 」、「 小 盗 人 」 は 「 商 売 す る 量 が 少 な い 」、「 盗 ん だ も の の 量
y
Nat
n
al
er
io
できる。
sit
が少ない」の意味解釈になる。これについて、クオリア構造で説明
i
n
U
v
ク オ リ ア 構 造 ( 特 質 構 造 ; Qualia Structure ) と い う の は
Ch
engchi
Pustejovsky( 1995)が す べ て の 品 詞 に つ い て 提 案 し た 理 論 で 、語 が
持つ多種多様な性質を四つの役割に分けている。ここで、名詞の例
のみ取り上げる。
四 つ の 役 割 は 次 の 通 り で あ る 29。
(78) a.形 式 役 割 ( Formal Role): 具 象 物 か 抽 象 物 か 、 自 然 物 か 人
工物か、性別、形状、色、大きさなどの外的な属性
b.構 成 役 割( Constitutive Role): 材 料 、材 質 、成 分 、重 さ 、
内容、~の一部分などの内的な性質
29
以 下 の 説 明 は 影 山 ( 1999) に よ る も の で あ る 。
52 c.目 的 役 割 ( Telic Role): 対 象 物 が 本 来 的 に 意 図 さ れ た 目 的
や機能
d. 主 体 役 割 ( Agentive Role ): そ れ を 産 み 出 す 動 作 や 原 因 、
成り立ち、出処
人 間 を 表 す 語 彙 は さ ま ざ ま で あ る 。 影 山 ( 2011) に よ る と 、 人 間
を 表 す 名 詞 は 「 私 」、「 あ な た 」 と い っ た 代 名 詞 や 「 男 」、「 子 供 」 の
ような生物学的に区別するような基本単語のほかに、何らかの動作
を 行 っ た り 何 ら か の 状 態 を 担 っ た り し て い る ヒ ト 名 詞 30が あ る と 述
べ て い る 。代 名 詞 と 生 物 学 的 な 基 本 単 語 を 除 き 、影 山( 2011)は「 ヒ
政 治 大
ト名詞」を次の二つに分類している。
立
‧ 國
學
(79) a.事 態 解 釈 : 現 実 に そ の 動 作 を し た / し て い る か ら こ そ 成 り
立つ性質。例:落伍者、乗客など。
‧
b.個 体 解 釈 : い ま 現 実 に し て い な く て も よ い 恒 常 的 な 仕 事 ・
機能。例:落語家、教師など。
sit
y
Nat
n
al
er
io
影 山( 2011)は 次 の よ う に 述 べ て い る 。
「 乗 客 」は「 乗 り 物 に 乗 っ
i
n
U
v
ている」といった事態の発生が前提となる。つまり、事態解釈名詞
Ch
engchi
にとっては現実の発生の仕方が重要である。これはクオリア構造か
ら 見 る と「 主 体 役 割 」と し て 記 述 で き る 。こ れ に 対 し 、
「 落 語 家 」は
病気で落語ができなくても、落語家である。つまり、個体解釈名詞
にとっては任務・機能・目的が重要である。これはクオリア構造か
ら見ると「目的役割」として記述できる。
以上から、
「 商 人 」、
「 盗 人 」の よ う な 職 業 を 表 す ヒ ト 名 詞 は 個 体 解
釈の名詞であるため、
「 形 式 役 割 」よ り「 目 的 役 割 」の ほ う が 重 要 で
あ る こ と が 分 か る 。 そ の た め 、「 コ - 」 は こ れ ら の 名 詞 に 付 く 場 合 、
30
影 山 ( 2011) は 「 ヒ ト 名 詞 」 を さ ら に 次 の 三 つ に 下 位 分 類 し て い る 。
a.職 業 を 表 す 名 詞 。 例 : 落 語 家 、 教 師 な ど 。
b.何 ら か の 動 作 を 行 う 人 間 を 表 す 名 詞 。 例 : 乗 客 、 顧 客 な ど 。
c.何 ら か の 状 態 に 陥 っ て い る 人 間 を 表 す 名 詞 。 例 : 病 人 、 迷 子 な ど 。
53 ヒト名詞の動作を修飾し、
「 目 的 役 割 」を 修 飾 す る こ と に な る と 考 え
ら れ る 。先 ほ ど 述 べ た「 コ - 」が 表 す「 体 の 大 き さ が 小 さ い 」と「 年
齢が幼い」という二つの意味はいずれも人間の「形式役割」を修飾
し て い る 。こ れ に 対 し 、
「 商 人 」、
「 盗 人 」の よ う な 職 業 を 表 す ヒ ト 名
詞は「体形」や「年齢」などの「形式役割」も含まれるが、前述し
たように、
「 目 的 役 割 」が よ り 重 要 で あ る 。
「 商 人 」の 目 的 役 割 は「 商
売 す る こ と 」で あ り 、
「 盗 人 」の 目 的 役 割 は「 盗 む こ と 」で あ る 。し
たがって、
「 コ - 」は「 商 人 」、
「 盗 人 」の 語 基 と 結 合 す る と 、そ の「 体
形 」や「 年 齢 」で は な く 、
「 商 人 」、
「 盗 人 」の 動 作 結 果 の 量 を 修 飾 す
るのである。
政 治 大
以上から、前項要素の「コ-」がヒト名詞に付く場合はコト名詞
立
連用形名詞に付く場合
‧
4.1.2.2
學
分かる。
‧ 國
に 付 く 場 合 と 同 様 に <物 理 的 な 量 が 少 な い >と い う 意 味 を 表 す こ と が
こ の 小 節 で は <物 理 的 な 量 が 少 な い >の 意 味 を 表 す 「 コ - 」 が 連 用
y
Nat
sit
形名詞語基に付く場合を見る。
n
al
コト名詞がある。用例を以下に示す。
Ch
engchi
er
io
<物 理 的 な 量 が 少 な い >の 意 味 を 表 す 「 コ - 」 が 付 く 連 用 形 名 詞 は
i
n
U
v
(80) だ が 、 元 来 は 酒 の 小 売 り の 店 で 、 そ れ が 転 じ て 安 く お 酒 が 飲
め る 店 と い う こ と に な っ た の で あ る 。( Google books・ ハ イ パ
ー プ レ ス『 い ら っ し ゃ い ま せ !雑 学 居 酒 屋 : 「 酒 」と「 つ ま み 」
の お い し い ウ ン チ ク 』)
(81) ボ ス 議 員 は ,配 下 の 議 員 や 建 設 業 者 に 情 報 を 小 出 し に し つ つ ,
み ず か ら の 影 響 力 を 誇 示 す る 。( BCCWJ・ 長 島 修 『 日 本 経 済 の
新 段 階 :: 情 報 技 術 革 命 と グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン 』)
(82) 天 保 3(1832)年 男 装 を た ね に 脅 迫 さ れ て 、脅 迫 者 と 密 会 し 、妊
娠 ,出 産 す る 。そ の 直 後 に 小 盗 み で 逮 捕 さ れ た 。
( Kotobank.jp・
http://kotobank.jp/word/%E3%81%9F%E3%81%91 )
54 例 (80)の 「 小 売 り 」 は 「 卸 売 商 か ら 買 い 入 れ た も の を 消 費 者 に 分
け て 売 る こ と 」の 意 味 を 表 し 、
「 コ - 」は 語 基 の「 売 り 」に「 分 け て
売ること」という意味を付加する。ものを分けて売る場合は一回の
売 る 分 量 が 少 な く な る 。こ こ で は 、
「 コ - 」は「 売 る も の の 量 が 少 な
い 」 の 意 味 を 表 す と 言 え る 。 例 (81)の 「 小 出 し 」 は 「 多 く あ る も の
の 中 か ら 少 し ず つ 出 す こ と 」 の 意 味 を 表 し 、 例 (82)の 「 小 盗 み 」 は
「 少 し の 物 を 盗 む こ と 」 の 意 味 を 表 し 、「 小 売 り 」 の 場 合 と 同 じ く 、
「 コ - 」 は 「 動 作 に よ る 対 象 の 量 が 少 な い 」 と 解 釈 で き る 31。
以 上 か ら 、「 コ - 」 は 連 用 形 名 詞 に 付 く 場 合 は <物 理 的 な 量 が 少 な
政 治 大
い >と い う 意 味 を 表 す こ と が 分 か る 。
立
‧ 國
「コ-」が表す別義1
4.1.2.1
學
4.1.2.3
小節から4.1.2.2
小節で見たように、
‧
「 コ - 」 は <物 理 的 な 量 が 少 な い >と い う 意 味 を 表 す 。 モ ノ 名 詞 語 基
に付く場合は「~の量が少ない」という意味解釈である。そして、
y
Nat
sit
「コ-」がヒト名詞語基に付く場合は「ヒト名詞の動作結果の量が
n
al
er
io
少ない」という意味解釈であり、連用形名詞語基に付く場合は「動
i
n
U
v
作による対象の量が少ない」という意味解釈である。
4 .1 .1 .3
Ch
engchi
小節で述べたように、
「 コ - 」が 異 な る 品 詞 の 語
基に付く場合は意味解釈がやや異なるが、いずれも「物理的な量」
について叙述するため、これらの複合語における「コ-」が同一の
意 味 を 表 す と 言 え る 。 以 上 の よ う に 、「 コ - 」 の 別 義 1 を <物 理 的 な
量 が 少 な い >と す る こ と が で き る 。
31
動 作 に よ る 対 象 の 量 が 多 け れ ば 、動 作 の 規 模 が 大 き く な り 、対 象 の 量 が 少 な
ければ、動作の規模も小さくなる。この点から見ると、3.2.2 小節で述
べた「コ-」は「量が少ない」の意味を表すと同時に「動作の規模が小さい」
の 意 味 も 表 す こ と と 言 え る 。つ ま り 、
「 コ - 」は 語 基 に「 動 作 に よ る 対 象 物 の 量
が少ない」の意味を付加し、そこから「動作の規模が小さい」という意味が生
じたのである。
55 4.1.2.4
意味拡張
「 コ - 」の 別 義 1 <物 理 的 な 量 が 少 な い >は プ ロ ト タ イ プ <占 め る 空
間 が 小 さ い >か ら 拡 張 さ れ た も の で あ る 。以 下 、拡 張 の 仕 組 み を 述 べ
る。
まず、人間は数量を空間の概念で捉える場合がある。例えば、次
のような例が見られる。
(83) 2 時 間 以 内 に 書 い て く だ さ い 。
(作例)
(84) 3 個 以 上 食 べ る と 飽 き て し ま う 。
(作例)
政 治 大
例 (83)、(84)の よ う に 、
「 以 外 / 以 内 」、
「 以 上 / 以 下 」の よ う な「 内
立
外 」、「 上 下 」 は 空 間 に 用 い ら れ る 概 念 で あ る が 、 量 の 多 少 を 表 す 際
‧ 國
學
に頻繁に用いられる。
また、量が多いことを表すには「大量」と「多量」という二つの
‧
言い方があり、量が少ないことを表すには「小量」と「少量」とい
う二つの言い方があることからも「空間」と「量」の間に密接な関
y
Nat
sit
係があることが分かる。このように、人間は量の多少を表す際に、
n
al
er
io
「大小」という空間の概念を用いることがあることが分かる。
i
n
U
v
人間の認知では占める空間の大きさが大きければ、その中に含ま
Ch
engchi
れる組成成分の量が多いと感じられ、占める空間の大きさが小さけ
れば、その中に含まれる組成成分の量も少ないと感じられる。この
ように、占める空間の大きさはその物体に含まれる組成成分の量と
の間に隣接関係が認められる。
第 二 章 で 述 べ た よ う に 、籾 山( 2002)の 定 義 に よ る と 、
「二つの事
物の外界における隣接性、さらに広く二つの事物・概念の思考内、
概 念 上 の 関 連 性 に 基 づ い て 、一 方 の 事 物・概 念 を 表 す 形 式 を 用 い て 、
他 方 の 事 物・概 念 を 表 す 比 喩 」は メ ト ニ ミ ー だ と 認 め ら れ る 。
「占め
る 空 間 の 大 き さ 」と「 そ の 物 体 に 含 ま れ る 組 成 成 分 の 量 」は「 容 器 」
と「内容」の関係にあると言えるため、その拡張関係はメトニミー
の パ タ ー ン の 一 つ で あ る「 容 器 と 内 容 」に よ る も の だ と 考 え ら れ る 。
56 メトニミーに関して、第2章で述べたように表現されたものと実
際に指示するものとの間にさまざまなパターンがある。その中に、
「容器と内容」というパターンが見られる。次の例は典型的な例で
ある。
(85) や か ん が 沸 い て い る 。
例 (85)に お け る 「 沸 い て い る 」 の 対 象 は 「 や か ん 」 と い う 容 器 で
は な く 、 そ の 中 に あ る も の 、 つ ま り 、「 お 湯 」 で あ る 。 山 本 ( 2001)
は 例 (85)に 対 し 、 次 の よ う に 説 明 し て い る 。
立
政 治 大
や か ん の 湯 が 沸 い て い る の を 認 知 す る 状 況 を 考 え て み る と 、や か ん の 中 の
‧ 國
學
湯 は 形 の な い 物 体 で あ り 、そ れ 自 体 を 認 知 す る の は 容 易 と は 言 え な い 。し か
し 、や か ん と い う 容 器 の 形 状 を 参 照 点 に す れ ば 、具 体 的 な 形 と し て 認 知 す る
‧
こ と は 容 易 に な る 。こ の 場 合 、や か ん の 中 の 湯 は 、や か ん の 形 状 を 借 り て 姿
を明らかにしているのである。
sit
y
Nat
al
n
例を見る。
er
io
こ こ で は さ ら に 、 皆 島 ( 2006) が 挙 げ た 例 を 取 り 上 げ た い 。 次 の
(86) a.頭 が 痛 い
Ch
engchi
i
n
U
v
b.彼 女 は 頭 が 良 い
c.親 父 は 頭 が 古 い
皆 島( 2006)に よ る と 、
「 頭 」を 容 器 に 喩 え れ ば 、そ の 中 身 は「 脳
み そ 」で 、「 頭 」か ら「 脳 み そ 」へ の 拡 張 は「 容 器 と 中 身 」の 関 係 に
基 づ く メ ト ニ ミ ー に よ る も の で あ る (例 86a を 参 照 )。 次 に 、「 頭 脳 」
の 働 き や 機 能 、す な わ ち「 知 性 、思 考 力 」な ど へ 意 味 拡 張 が 起 き る (例
86b を 参 照 )。 ま た 、「 知 性 、 思 考 力 」 の よ う な 意 味 は 「 融 通 の 利 か
な い こ と・人 」を 描 写 す る 表 現 で 用 い ら れ る 場 合 、
「 考 え 方 、思 考 様
57 式 」 へ の 意 味 拡 張 も 見 ら れ る (例 86c を 参 照 )。
Taylor ( 1989 ) は メ ト ニ ミ ー に よ る 意 味 の 転 移 を 前 景 化
( perspectivization ) と い う 概 念 を 使 い 説 明 し て い る 。 Taylor
( 1989) は 前 景 化 の 作 用 に よ り 「 意 味 構 造 が い く ぶ ん 複 雑 な 単 一 の
語が、異なった場で使用されることによって、フレームに基づく知
識の異なる部分が際立つことが往々にしてある」と述べている。つ
ま り 、注 意 の 焦 点 が 物 体 の 外 部 か ら そ の 中 身 に 移 動 し 、
「喩えられる
もの」を前景化させることによって「やかん」が「お湯」を指示す
る こ と が で き 、 ま た 、「 頭 」 が 「 知 性 、 思 考 力 」、 ま た 「 考 え 方 、 思
考様式」を指示することができる。
政 治 大
本稿の場合では占める空間の大きさによってその物体に含まれる
立
組成成分の量も異なるため、
「 物 体 の 大 小 」は「 容 器 」、
「組成成分の
‧ 國
學
量」は「内容」に相当すると言える。両者は隣接関係にあり、焦点
の移動によって意味が拡張される。すなわち、物体に対する焦点が
‧
「外」から「内」に移動し、概念も「物体の大小」から「組成成分
の 量 」に 変 え る と い う こ と で あ る 。し た が っ て 、
「 コ - 」の 意 味 に つ
y
Nat
n
al
er
io
成分の量」に意味拡張されたと考えられる。
sit
い て「 物 体 の 大 小 」か ら「 容 器 と 内 容 」の 隣 接 関 係 に 基 づ き 、
「組成
i
n
U
v
以上から、
「 コ - 」の 別 義 1 <物 理 的 な 量 が 少 な い >は プ ロ ト タ イ プ
Ch
engchi
<占 め る 空 間 が 小 さ い >か ら 「 容 器 と 内 容 」 と い う メ ト ニ ミ ー に よ っ
て拡張されたことが分かった。
4.1.3
別義2
「 コ - 」 の 別 義 2 は <年 齢 が 幼 い >と い う 意 味 で 、 類 義 的 意 味 と し
て「 幼 い 」が 挙 げ ら れ る 。例 え ば 、「 小 娘 」は「 幼 い 娘 」、「 小 犬 」は
「幼い犬」の意味を表す。
別義2を表す「コ-」は名詞の語基に付く。用例を以下に示す。
(87) そ れ は あ の 鳥 が 初 夜 近 く な る と 、
「 小 女 郎 、戻 っ て 寝 ん こ ろ せ 」
と啼いて、遊び浮かれて居る小娘をからかうと謂うのだが、
58 話ばかりであって終にそういう風に聴きなす折は無かった。
( BCCWJ・ 柳 田 國 男 『 全 集 日 本 野 鳥 記 』)
(88) ペ エ テ ル は 杖 に 力 を 入 れ て 起 ち あ が っ て 、 片 手 を 十 歳 に な る
小 娘 の 明 る い 色 を し た 髪 の 上 に そ っ と お く 。( BCCWJ・ 小 島 直
記 『 小 島 直 記 伝 記 文 学 全 集 』)
(89) あ の 小 坊 主 が こ こ へ や っ て き た の は 昨 晩 だ っ た そ う で ご ざ い
ま す よ 。( BCCWJ・ 井 上 ひ さ し 『 腹 鼓 記 』)
例 (87)の 「 小 女 郎 」、 例 (88)の 「 小 娘 」、 例 (89)の 「 小 坊 主 」 は そ
れ ぞ れ 「 幼 い 女 郎 」、「 幼 い 娘 」、「 幼 い 坊 主 」 と い う 意 味 を 表 し 、 前
政 治 大
項 要 素 の 「 コ - 」 は <年 齢 が 幼 い >と い う 意 味 を 表 す 。
4 .1 .1 .1
立
小 節 で 述 べ た「 小 家 」、
「 小 石 」に お け る「 コ - 」
‧ 國
學
は い ず れ も「 形 の 小 さ さ 」を 修 飾 し て お り 、つ ま り 、プ ロ ト タ イ プ <
占 め る 空 間 が 小 さ い >と い う 意 味 で あ る 。し か し 、
「 コ - 」が 動 物( 人
‧
間 も 含 め て ) を 表 す 語 基 に 付 き 「 小 男 」、「 小 猿 」、「 小 熊 」 な ど の 複
合語になる場合、
「 コ - 」は「 形 が 小 さ い 」の ほ か に 、
「年齢が幼い」
y
Nat
sit
と い う 意 味 も 表 す 。 無 情 物 に は 「 年 齢 」 の 概 念 が な い か ら 、「 コ - 」
n
al
er
io
が無情物を表す語基に付く場合は「形の小ささ」だけ修飾すること
i
n
U
v
に な る 。こ れ に 対 し 、有 情 物 に は「 年 齢 」の 概 念 が あ る た め 、
「コ-」
Ch
engchi
が有情物を表す語基に付く場合は「形の小ささ」を修飾することも
で き る し 、「 年 齢 の 小 さ さ 」 を 修 飾 す る こ と も で き る 。
4.1.3.1
意味拡張
「 コ - 」の 別 義 2 <年 齢 が 幼 い >は プ ロ ト タ イ プ <占 め る 空 間 が 小 さ
い >か ら 拡 張 さ れ た も の で あ る 。 以 下 、 拡 張 の 仕 組 み を 述 べ る 。
一般的に、有情物の体形が大きければ、年齢も大きい。このよう
に、
「 体 形 の 大 小 」と「 年 齢 の 大 小 」は 時 間 軸 に お け る 隣 接 関 係 が 認
め ら れ る 。Blank( 1999)は メ ト ニ ミ ー に は「 共 存 関 係 」と「 連 続 関
59 係 3 2 」と い う 二 つ の タ イ プ が あ る と 指 摘 し て い る 。「 共 存 関 係 」 に つ
い て Blank( 1999) は 次 の よ う に 指 摘 し て い る 3 3 。
例 え ば 、 <行 為 者 >、 <行 為 > 、 <行 為 の 影 響 を 受 け た も の > 、 < 行 為 が 起 こ っ
た 場 合 >、 及 び <時 間 >の 関 係 は 共 存 の 関 係 で あ る 。 ま た 、 あ る <人 >と そ の <属
性 > の 関 係 や 、 <属 性 >間 の 関 係 、 < 人 >/ <モ ノ > / < 活 動 > と そ の <部 分 > と の 関
係などの共存関係の一種である。
つまり、
「 人 」と そ の「 属 性 」と の 関 係 は メ ト ニ ミ ー で あ る 共 存 関
係に属するものである。
「 年 齢 」は 人 が 有 す る 一 つ の 属 性 で あ る た め 、
政 治 大
「 体 形 」と「 年 齢 」は <人 >と <属 性 >と の 関 係 で あ る と 言 え る 。
「体形」
立
と 「 年 齢 」 は 時 間 軸 に お け る 共 存 関 係 な の で 、「 体 形 」 か ら 「 年 齢 」
‧ 國
學
への拡張は共存関係というメトニミーによる拡張だと考えられる。
次 に 、共 存 関 係 に お け る 拡 張 の 方 向 を 見 る 。前 に も 述 べ た よ う に 、
‧
多くの学者はメトニミーのパターンを指摘している。そのうち、山
梨 ( 2008) は 「 所 有 物 か ら 所 有 者 へ 」 と い う 方 向 性 が 成 り 立 つ と 指
y
Nat
sit
摘 し て い る 。山 梨( 2008: 150)が 提 出 し た メ ト ニ ミ ー の 転 用 方 向 性
n
al
er
io
は次の通りである。
身体
Ch
属性
i
n
U
v
e n g c?h i 親 族 ・ ペ ッ ト
34
人間
衣類
作品
図4
メトニミーの転用方向性
図 4 は 所 有 物 か ら 所 有 者 を 表 す 換 喩 リ ン ク で あ る 。「 身 体 か ら 属
性 」、「 身 体 か ら 人 間 」、「 衣 類 か ら 属 性 」、「 衣 類 か ら 人 間 」、「 属 性 か
32
Blank( 1999) に よ る と 、 連 続 関 係 と は 時 間 的 な 連 続 関 係 の こ と で あ り 、 あ
る <状 態 >と そ の 前 後 の <状 態 >、 <行 為 >と そ の <目 的 >/ <原 因 >/ <結 果 >な ど の 関
係がこれに含まれる。
33
谷 口 ( 2003: 165) に よ る 孫 引 き で あ る 。
34
親 族 や ペ ッ ト 、 作 品 を 利 用 し た メ ト ニ ミ ー は 考 え に く い た め 、「 ? 」 を 付 け
て い る ( 山 梨 2008)。
60 ら 人 間 」 と い っ た 拡 張 方 向 が 示 さ れ て い る 。 山 梨 ( 2008) は 図 4 に
ついて、次のような例を挙げている。
(90) We don’ t hire longhairs. ( Lakoff&Johnson1980)
(91) Mrs. Grundy frowns on blue Jeans. ( Lakoff&Johnson1980)
例 (90)の「 longhairs」は「 身 体 」か ら「 人 間 」へ の 拡 張 の 例 で あ
り 、 例 (91)の 「 blue Jeans」 は 「 衣 類 」 か ら 「 人 間 」 へ の 拡 張 の 例
である。
本 稿 の 場 合 で は 「 体 形 の 大 小 」 は 「 身 体 」、「 年 齢 の 大 小 」 は 人 間
政 治 大
を特徴付ける一つの「属性」と考えられる。図4で示したように、
立
「身体」から「属性」への拡張はよく見られる一般的な言語現象で
‧ 國
學
あ る 。し た が っ て 、別 義 2 <年 齢 が 幼 い >は プ ロ ト タ イ プ <占 め る 空 間
が 小 さ い >か ら 拡 張 さ れ た と 考 え ら れ る 。
‧
以 上 を ま と め る と 、 <占 め る 空 間 が 小 さ い >の 意 味 を 表 す 「 コ - 」
が 有 情 物 に 付 く 場 合 は「 体 形 が 小 さ い 」の 意 味 を 表 す 。そ し て 、
「有
y
Nat
sit
情 物 の 体 形 が 大 き け れ ば 、 年 齢 も 大 き い 」 と い う 認 識 か ら 、「 体 形 」
n
al
er
io
と「年齢」は時間軸における隣接関係が認められ、両者は共存関係
i
n
U
v
に あ る 。 ま た 、 メ ト ニ ミ ー の 転 用 方 向 性 か ら 分 か る よ う に 、「 身 体 」
Ch
engchi
か ら「 属 性 」へ と い う 拡 張 の 方 向 性 が 一 般 的 な の で 、別 義 2 <年 齢 が
幼 い >は プ ロ ト タ イ プ <占 め る 空 間 が 小 さ い >か ら 共 存 関 係 と い う メ
トニミーによって意味拡張されたことが分かった。
4.1.4
別義3
「 コ - 」の 別 義 3 は <動 作 の 継 続 時 間 が 短 い >と い う 意 味 で あ る 。<
動 作 の 継 続 時 間 が 短 い >の 意 味 を 表 す 「 コ - 」 が 付 く 語 基 は 「 休 み 」
と「止み」だけであるが、その用例を以下に示す。
(92) 途 中 、 小 休 み の 折 、 急 い で 車 か ら 取 っ て 来 た 熱 い コ ー ヒ ー を
コ ッ フ ェ ル で 勧 め る 。( Google books・ こ ぐ れ 加 江 『 夕 陽 の 彼
61 方 に 見 え た も の は 』)
(93) 雨 が 小 止 み に な っ た 頃 、 バ ッ ク ネ ッ ト 横 の 通 路 か ら 、 突 然 、
ジャンパーを着た選手達が続々とグラウンドに現れた。
( Google books・ 山 本 武 秀 『 帰 る 海 : "あ じ あ 号 "へ の 想 い を
胸 に 。』)
例 (92)の「 小 休 み 」は「 少 し の 間 休 む こ と 」の 意 味 を 表 し 、例 (93)
の「小止み」は「雨や雪などが少しの間降りやむこと」の意味を表
す 。 こ こ で は 、 前 項 要 素 の 「 コ - 」 は <動 作 の 継 続 時 間 が 短 い >と い
う意味を表す。
4.1.2
政 治 大
小 節 で 述 べ た よ う に 、「 コ - 」 の 別 義 1 は <物 理 的 な
立
量 が 少 な い >で あ り 、動 詞 に 付 く 場 合 は「 動 作 に よ る 結 果 産 物 の 量 が
‧ 國
學
少 な い 」の 意 味 を 表 す 。
「 売 る 」、
「 盗 む 」の よ う な 他 動 詞 は 内 項 を 持
つため、内項を修飾し「動作による結果産物の量が少ない」という
‧
意 味 を 表 す 。こ れ に 対 し 、
「 休 む 」と「 止 む 」の よ う な 自 動 詞 は 内 項
を 持 た な い た め 、外 項 を 修 飾 す る こ と に な る 。
「 休 む 」と「 止 む 」は
y
Nat
sit
時間の概念を含んでおり、
「 一 時 間 休 む 」、
「 一 時 間 止 む 」の よ う に 時
n
al
er
io
間 表 現 で そ の 継 続 時 間 を 限 定 す る こ と が で き る 。し た が っ て 、
「量が
i
n
U
v
少 な い 」 の 意 味 を 表 す 「 コ - 」 が 「 休 み 」、「 止 み 」 に 付 く と 動 作 の
Ch
engchi
継 続 時 間 を 修 飾 す る よ う に な り 、 <動 作 の 継 続 時 間 が 短 い >と い う 意
味を表すと考えられる。
4.1.4.2
意味拡張
「 コ - 」の 別 義 3 <動 作 の 継 続 時 間 が 短 い >は 別 義 1 <物 理 的 な 量 が
少 な い >か ら 拡 張 さ れ た も の で あ る 。
物理的な量が多ければ、占める空間的な量も大きいため、別義1
の「物理的な量」は空間で捉えられる概念である。そして、別義3
の 「 継 続 時 間 」 は 時 間 の 概 念 で あ る 。 楢 和 ( 1998) は 時 間 概 念 と 空
間 概 念 に つ い て 、次 の こ と を 指 摘 し て い る 。
「人間は時間を線として
捉え、その線上を未来に向いて進んでいくのだという強い認識を持
62 っており、すなわち、人間は時間を空間移動のメタファーによって
理 解 し て い る 」。言 語 表 現 に お い て は「 時 間 」の 概 念 は 比 較 的 抽 象 度
の 高 い 概 念 で あ る と 考 え ら れ る 。 Heine et al.( 1991: 157) は 文 法
化や意味変化の方向性から、一般に次のような拡張の傾向(抽象度
の段階性)があると指摘している。
(94) 意 味 拡 張 の 一 般 的 方 向 性 :
PERSON> OBJECT> PROCESS> SPACE> TIME> QUALITY
(94)か ら 意 味 拡 張 に お い て は 空 間 か ら 時 間 へ 拡 張 す る と い う 方 向
政 治 大
性 が 分 か る 。 楢 和 ( 1998) Heine et al.( 1991: 157) の 指 摘 か ら 時
立
間概念は空間概念から拡張されたものだと考えられ、つまり、別義
‧ 國
學
3は別義1から拡張されたことが分かった。
で は 、な ぜ 空 間 概 念 か ら 時 間 概 念 へ の 拡 張 は 別 義 1 <物 理 的 な 量 が
‧
少 な い >か ら 拡 張 さ れ 、プ ロ ト タ イ プ <占 め る 空 間 が 小 さ い >か ら 拡 張
されたのではないだろうか。それはプロトタイプは大小の概念を表
y
Nat
sit
し、量の概念が含まれていないからである。別義3が表す時間概念
n
al
er
io
は「 継 続 時 間 」と い う「 時 間 量 」で あ り 、
「 量 」の 概 念 と 深 く 関 わ っ
i
n
U
v
ている。したがって、別義3はプロトタイプの大小の概念から拡張
Ch
engchi
さ れ た の で は な く 、別 義 1 の 量 の 概 念 か ら 拡 張 さ れ た と 考 え ら れ る 。
以下、
「 前 」を 例 に し て 空 間 概 念 が ど の よ う に 時 間 概 念 に 転 じ る か
を 説 明 す る 。「 前 」 は 空 間 概 念 を 表 す 言 葉 で あ る が 、「 2 時 間 前 に 」
のように、時間概念を表すことができる。これは人間が自分の体と
接する空間を言葉によって概念化し、その概念を自分以外のものに
投 影 す る こ と に よ っ て 認 識 さ れ る か ら で あ る 35。 こ れ は 空 間 移 動 の
メタファーによる時間認識である。
35
時 間 認 識 の 型 は 学 者 に よ っ て 異 な る 。 Lakoff( 1993) は 時 間 の 経 過 を 「 主 体
の 空 間 移 動 」と し て 概 念 化 す る も の と 、
「 も の の 空 間 移 動 」と し て 概 念 化 す る も
のの二種に分類している。
「 未 来 に 向 か っ て 進 ん で い く 」の よ う な 例 は 時 間 軸 が
静 止 し 、認 知 主 体 が 動 く こ と を 表 す の に 対 し 、
「 年 の 瀬 が 近 づ い て く る 」の よ う
な例は認知主体が静止し、時間軸が動くことを表す。
63 時 間 概 念 を 空 間 概 念 で 捉 え ら れ る の は「 2 時 間 前 に 」の よ う な「 時
間 軸 に お け る 特 定 の 時 間 」だ け で は な く 、
「 継 続 時 間 」と い う「 時 間
量 」 も あ る 。 仲 本 ( 1999) は 日 本 語 も 同 様 に 「 時 間 」 を 「 空 間 」 や
「 数 量 」の 表 現 に よ っ て 表 し 、
「 時 間 の 長 さ 」ま た は「 時 間 量 」と し
て把握する傾向があると指摘している。例えば、次のような例が見
られる。
(95) a.私 の 大 学 は 夏 休 み が 長 い / 短 い ( 籾 山 1995: 634)
b.時 間 が な く な っ て し ま っ た ( 山 梨 1995: 115)
政 治 大
「 長 い 」、「 短 い 」 は 次 元 形 容 詞 で 、 空 間 の 広 が り を 表 す 語 で あ る
立
が 、例 (95a)で は「 夏 休 み 期 間 の 長 さ 」を「 長 い 」、
「 短 い 」で 表 し て
‧ 國
學
い る 。そ し て 、
「 有 り 無 し 」も 空 間 に お け る 存 在 を 表 す 概 念 で あ る が 、
例 (95b)で は 「 時 間 」 を「 有 無 」で 捉 え ら れ て い る 3 6 。こ の 二 つ の 例
‧
から、われわれの認知では「時間量」を「空間量」で捉えることが
あることが分かる。
y
Nat
sit
以 上 を ま と め る と 、 別 義 3 <動 作 の 継 続 時 間 が 短 い >は 時 間 的 に 占
n
al
er
io
める量を表す。時間概念という抽象的な概念は空間概念に拡張され
i
n
U
v
る の が 一 般 的 で あ る 。 な お 、 プ ロ ト タ イ プ <占 め る 空 間 が 小 さ い >と
Ch
engchi
別 義 1 <物 理 的 な 量 が 少 な い >は 両 方 と も 空 間 概 念 を 表 す が 、 別 義 3
はプロトタイプから拡張されたのではなく、別義1から拡張された
のは別義1は空間的に占める量を表し量の概念が含まれるからであ
る 。 つ ま り 、 <物 理 的 な 量 が 少 な い >の 意 味 を 表 す 「 コ - 」 は 時 間 概
念 に 用 い ら れ 、 <動 作 の 継 続 時 間 が 短 い >と い う 意 味 が 生 じ る と 考 え
ら れ る 。 し た が っ て 、 別 義 3 <動 作 の 継 続 時 間 が 短 い >は 空 間 メ タ フ
ァ ー に よ っ て 別 義 1 <物 理 的 な 量 が 少 な い >か ら 拡 張 さ れ た こ と が 分
かる。
36
仲 本 ( 1999) に よ る と 、 例 (32)の よ う な 例 は 「 時 間 」 を 「 一 次 元 」 の 線 的 な
対象と考える場合である。このような「時間の流れ」を「線」で捉える考え方
は 先 ほ ど 述 べ た 楢 和 ( 1998) と 一 致 す る 。
64 4.1.5
別義4
「 コ - 」 の 別 義 4 は <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >と い
う意味である。ここで言う「基準」はわれわれが事物に対する一般
的 認 識 の 平 均 値 で あ る 。例 え ば 、
「 小 走 り 」は「 少 し 走 っ て い る こ と 」
の意味を表す。
「 走 る 」の 動 作 は 一 般 的 に 認 識 さ れ る「 走 る 」の 動 作
という基準に達していない場合は「小走り」という。動詞語基の例
で 言 う と 、例 え ば 、
「 小 隠 れ る 」は「 ち ょ っ と も の か げ に 隠 れ る 」の
意味を表すが、これも「隠れる」と言える基準を想定し、その基準
に 達 し て い な い 場 合 を「 小 隠 れ る 」と い う 。形 容 詞 語 基 の「 小 高 い 」
政 治 大
の場合も同様で、
「 普 通 、一 般 的 な 基 準 」と い う こ と が 含 意 さ れ て い
立
る。
‧ 國
學
「コ-」のプロトタイプは語基の形の大小を修飾し、別義1は語
基の量を修飾し、別義2は語基の年齢を修飾し、別義3は時間の量
‧
を修飾する。これらに対し、別義4は一般的基準を想定し、その基
準に達していないということを修飾する。
y
Nat
sit
別義4を表す「コ-」は名詞、連用形名詞、動詞、形容詞の語基
n
al
er
io
に 付 く 。以 下 、
「 コ - 」が 各 品 詞 の 語 基 に 付 く 際 に 、ど の よ う な 意 味
を付加するかを見る。
4.1.5.1
Ch
engchi
i
n
U
v
名詞に付く場合
こ の 小 節 で は <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >の 意 味 を 表
す「コ-」が名詞語基に付く場合を見る。モノ名詞とヒト名詞があ
り、
「 理 屈 」、
「 才 覚 」、
「 才 」、
「 才 子 」が 挙 げ ら れ る 。こ の よ う な 程 度
性がない名詞をこの意味に分類したのは抽象度が高いからである。
別 義 1 に 属 す る 「 雨 」、「 石 」 の よ う な 語 基 は 物 理 的 な 量 で 捉 え ら れ
るが、
「 理 屈 」、
「 才 覚 」の よ う な 語 基 は 物 理 的 な 量 で 捉 え る こ と が で
きない。
「 コ - 」は「 理 屈 」、
「 才 覚 」の よ う な 抽 象 的 な 名 詞 語 基 に 付
くと、
「 量 」を 修 飾 す る こ と が で き ず 、そ の「 基 準 」を 修 飾 す る よ う
に な る 。し た が っ て 、
「 小 理 屈 」、
「 小 才 覚 」な ど の 複 合 語 を こ の 意 味
65 に分類する。
ま ず 、モ ノ 名 詞 語 基 に 付 く 場 合 を 見 る 。
「 小 理 屈 」、
「 小 才 覚 」、
「小
才」が挙げられるが、その用例を以下に示す。
(96)
ま た 事 実 、そ の 場 で 何 々 法 が ど う の こ う の と 、ど ん な 小 理 屈
が出てこようと、結果はそうする以外はないであろう。
( Google books・ 岡 崎 久 彦 『 国 家 戦 略 か ら み た 靖 国 問 題 : 日
本 外 交 の 正 念 場 』)
(97)
小才覚があるので、若殿様時代のお伽には相応していたが、
物 の 大 体 を 見 る こ と に お い て は 及 ば ぬ と こ ろ が あ っ て 、と か
政 治 大
く苛察に傾きたがる男であった。
( Google books・森 鴎 外『 鴎
立
外 の 「 武 士 道 」 小 説 : 傑 作 短 篇 選 』)
小 才 は 縁 に 気 づ か ず と か 、中 才 は 縁 を 生 か さ ず 、大 才 は 袖 擦
‧ 國
學
(98)
り合った人とも縁を作る、という考え方ではないかと思う。
‧
例 (96)の「 小 理 屈 」は「 取 る に 足 ら な い 理 屈 」と い う 意 味 で あ り 、
y
Nat
sit
「コ-」は「理屈」と言えるものの基準に達していないという意味
n
al
er
io
を 表 す 。 ま た 、 例 (97)の 「 小 才 覚 」 は 「 ち ょ っ と し た 頭 の 働 き 」 と
i
n
U
v
いう意味であり、
「 コ - 」は「 才 覚 」と 言 え る も の の 基 準 に 達 し て い
Ch
engchi
な い と い う 意 味 を 表 す 。 例 (98)の 「 小 才 」 は 「 ち ょ っ と し た 才 知 」
と い う 意 味 で あ り 、「 コ - 」 は 同 様 に 解 釈 す る こ と が で き る 。
次 に 、 ヒ ト 名 詞 語 基 に 付 く 場 合 を 見 る 。「 小 才 子 」 だ け で あ る が 、
その用例を以下に示す。
(99)
( 前 略 )そ の 商 才 と い う も の も 、も と も と 道 徳 を 以 っ て 根 底
としたものであって、道徳と離れた不道徳、欺瞞、浮華、軽
佻の商才は、いわゆる小 才 子、小悧口であって、決して真の
商 才 で は な い 。( Google books・ 伊 藤 建 彦 『 危 機 管 理 か ら 企
業 防 衛 の 時 代 へ : 渦 巻 く グ ロ ー バ リ ズ ム の 奔 流 の 中 で 』)
66 例 (99)の 「 小 才 子 」 は 「 ち ょ っ と し た 才 知 の あ る 者 」 の 意 味 を 表
し、
「 コ - 」は「 才 子 」と 言 え る 基 準 に 達 し て い な い と い う 意 味 を 表
す 。 こ こ で も 「 コ - 」 は <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >と
いう意味を表す。
4.1.5.2
連用形名詞に付く場合
こ の 小 節 で は <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >の 意 味 を 表
す「 コ - 」が 連 用 形 名 詞 語 基 に 付 く 場 合 を 見 る 。
「 小 歩 き 」、
「 小 諍 い 」、
「 小 急 ぎ 」、
「 小 躍 り 」、
「 小 焦 れ 」、
「 小 手 招 き 」、
「 小 走 り 」、
「 小 太 り 」、
「 小 降 り 」、「 小 戻 り 」、「 小 揺 る ぎ 」 が 挙 げ ら れ る が 、 以 下 は 「 小 急
政 治 大
ぎ 」、「 小 走 り 」、「 小 降 り 」、「 小 揺 る ぎ 」、「 小 太 り 」 の 例 を 示 す 。
立
‧ 國
學
(100) 何 か し き り に 考 え な が ら も 足 取 だ け は 小 急 ぎ に 国 道 へ 出 た
が 、ち ょ う ど 通 り か か っ た 乗 合 自 動 車 を 見 る と 、急 に 手 を 挙
職 』)
‧
げ て 飛 乗 っ て 町 へ 出 た 。( Google books・ 夢 野 久 作 『 巡 査 辞
y
Nat
sit
(101) 板 前 が 頭 を 下 げ る と 、和 服 を 着 た お か み さ ん 風 の 女 性 が 小 走
n
al
er
io
り で や っ て き た 。( BCCWJ・ 大 沢 在 昌 『 夢 の 島 』)
i
n
U
v
(102) 「 雨 、止 む よ ね 。少 し 小 降 り に な っ た と 思 わ な い ? 」
( Google
Ch
engchi
books・ 淀 川 弘 志 『 ア ジ サ イ の 花 が 咲 く 頃 に 』)
(103) 剣 越 し に 主 人 を 見 上 げ る 、チ ェ ル ニ ク の 視 線 は 小 揺 る ぎ も し
な い 。( BCCWJ・ 篠 田 真 由 美 『 ド ラ キ ュ ラ 公 :: ヴ ラ ド ・ ツ ェ
ペ シ ュ の 肖 像 』)
(104) 小 太 り な 男 は 、 ト ラ ッ ク の 後 ろ の 板 を バ タ ン と 下 ろ し 、 荷 台
へ 上 っ て 来 た 。( Google books・ 赤 川 次 郎 『 大 変 身 !: マ マ の
七 つ の 顔 』)
4 .1 .5
小節で述べたように、
「 コ - 」の 基 準 は わ れ わ れ が 事
物 に 対 す る 一 般 的 認 識 の 平 均 値 で あ る 。例 え ば 、例 (100)の「 小 急 ぎ 」
は「 少 し 急 い で い る こ と 」の 意 味 を 表 し 、
「 コ - 」は「 急 ぐ 」の 基 準
67 に 達 し て い な い と い う 意 味 を 表 す 。例 (101)の「 小 走 り 」は「 小 ま た
で 走 る よ う に 急 い で 歩 く こ と 」の 意 味 を 表 し 、
「 コ - 」は「 走 る 」の
基 準 に 達 し て い な い と い う 意 味 を 表 す 。例 (102)の「 小 降 り 」は「 雨
や 雪 の 降 る 勢 い が 弱 い こ と 」 の 意 味 を 表 し 、 例 (103)の 「 小 揺 る ぎ 」
は「 少 し 揺 れ 動 く こ と 」の 意 味 を 表 し 、例 (104)の「 小 太 り 」は「 少
し 太 っ て い る さ ま 」の 意 味 を 表 し 、
「 コ - 」は 同 様 に 解 釈 す る こ と が
で き る 。い ず れ の 複 合 語 に お い て も 、
「 コ - 」は「 語 基 が 表 す 動 作 の
基準に達しておらず、程度が低い」という意味を表す。以上の説明
から、
「 コ - 」は <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、程 度 が 低 い >と い う 意 味
を表すことが分かる。
立
4.1.5.3
政 治 大
動詞に付く場合
‧ 國
學
こ の 小 節 で は <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >の 意 味 を 表
す 「 コ - 」 が 動 詞 語 基 に 付 く 場 合 を 見 る 。「 小 隠 れ る 」、「 小 突 く 」、
‧
「小手招く」が挙げられるが、その用例を以下に示す。
y
Nat
sit
(105) 婦 人 は 一 寸 立 つ て 白 い 爪 さ き を ち よ ろ ち よ ろ と 真 黒 に 煤 け
n
al
er
io
た 太 い 柱 を 楯 に 取 つ て 、馬 の 目 の 届 か ぬ ほ ど に 小 隠 れ た 。
(泉
鏡 花 『 高 野 聖 』)
Ch
engchi
i
n
U
v
(106) 五 木 は 相 手 の 肩 を 拳 で 小 突 く 。
( Google books・大 倉 崇 裕『 白
虹 』)
(107) 法 人 税 や 電 気 料 金 を 格 安 に 、小 手 招 く 韓 国 政 府 の 姿 が 目 に 浮
かぶ。何れにせよ、これ以上、企業の流出は絶対に避けなけ
ればならない。
( http://totolesson.cocolog-nifty.com/blog/2012/02/no
160-94fb.html)
例 (105)の「 小 隠 れ る 」は「 ち ょ っ と 物 陰 に 隠 れ る 」の 意 味 を 表 し 、
「コ-」は「隠れる」という動作が完全に行われておらず、動作が
「 隠 れ る 」 と い う 基 準 に 達 し て い な い と い う 意 味 を 表 す 。 例 (106)
68 の「小突く」は「相手の体を指先などでちょっと突く」の意味を表
し 、例 (107)の「 小 手 招 く 」は「 手 先 を 振 っ て 、ち ょ っ と 手 招 き す る 」
の 意 味 を 表 し 、「 コ - 」 は 同 様 に 解 釈 す る こ と が で き る 。
以上から、
「 コ - 」は <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、程 度 が 低 い >と い
う意味を表すことが分かる。
4.1.5.4
形容詞に付く場合
こ の 小 節 で は <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >の 意 味 を 表
す「コ-」が形容詞語基に付く場合を見る。
政 治 大
(108) 大 学 か ら 少 し 離 れ た と こ ろ に 小 高 い 丘 が あ り 、そ の 頂 上 に 小
立
さ な 児 童 公 園 が あ る の は 僕 も 知 っ て い た 。( BCCWJ・ 三 田 誠 広
‧ 國
學
『 僕 っ て 何 』)
(109) 商 法 は 小 煩 い か ら 、法 律 学 校 へ で も 通 っ て 勉 強 す る と し よ う
‧
か 。( Google books・ 徳 田 秋 聲 『 徳 田 秋 聲 全 集 』)
(110) 十 一 月 の 雨 が 降 る 小 寒 い 日 だ っ た 。( Google books・ 藤 井 浩
y
Nat
sit
一 『 人 権 の 周 辺 そ れ ぞ れ の 人 生 に 』)
n
al
er
io
(111) 日 本 語 に す る と 小 恥 ず か し い よ う な フ レ ー ズ で す が 、フ ィ リ
i
n
U
v
ピン語でいざ使ってみると相手の心を溶かすとても効果的
Ch
engchi
な フ レ ー ズ に な り ま す よ 。( Google books・ 白 野 慎 也 『 恋 人
た ち の フ ィ リ ピ ン 語 電 話 会 話 編 』)
例 (108)の 「 小 高 い 」 は 「 周 囲 よ り ち ょ っ と 高 い 」 の 意 味 を 表 し 、
例 (109)の「 小 煩 い 」は「 ち ょ っ と 煩 い 、少 し わ ず ら わ し い 」の 意 味
を表す。
「 コ - 」は「 高 い 」、
「 煩 い 」の よ う な 客 観 的 な 性 質 ・ 状 態 を
表す属性形容詞に付く場合、性質・状態の程度が低く、語基が表す
性 質・状 態 と い う 基 準 に 達 し て い な い こ と を 表 す 。そ し て 、例 (110)
の「 小 寒 い 」は「 や や 寒 い 感 じ で あ る 」の 意 味 を 表 し 、例 (111)の「 小
恥 ず か し い 」は「 少 し き ま り が 悪 い 」の 意 味 を 表 す 。
「 コ - 」は「 寒
い 」、「 恥 ず か し い 」 の よ う な 主 観 的 な 感 覚 ・ 感 情 を 表 す 感 情 形 容 詞
69 に付く場合、感覚・感情の程度が低く、語基が表す感覚・感情とい
う 基 準 に 達 し て い な い こ と を 表 す 。 こ の よ う に 、「 コ - 」 は <あ る 基
準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >と い う 意 味 を 表 す こ と が 分 か る 。
4.1.5.5
「コ-」が表す別義4
4.1.5.1
小節から4.1.5.4
小節で見たように、
「 コ - 」 は <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >と い う 意 味 を 表
す。モノ名詞とヒト名詞語基に付く場合は「語基の状態が基準に達
しておらず、程度が低い」という意味を表す。連用形名詞語基に付
く場合は「語基が表す動作の基準に達しておらず、程度が低い」と
政 治 大
いう意味を表す。動詞語基に付く場合は「動作が完全に行われて折
立
らず、該当動作という基準に達していない」という意味を表す。形
‧ 國
學
容詞語基に付く場合は「語基が表す性質・状態、あるいは感情・感
覚の程度が低く、そうと言える基準に達していない」という意味を
4 .1 .1 .3
‧
表す。
小節で述べたように、
「 コ - 」が 異 な る 品 詞 の 語
y
Nat
sit
基に付く場合は意味解釈がやや異なるが、いずれも「ある基準に達
n
al
er
io
していない」という意味があるため、これらの複合語における「コ
i
n
U
v
- 」は 同 一 の 意 味 を 表 す と 言 え る 。以 上 の よ う に 、
「 コ - 」の 別 義 4
Ch
engchi
を <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >と す る こ と が で き る 。
4.1.5.6
意味拡張
「 コ - 」 の 別 義 4 <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >は 別 義
1 <物 理 的 な 量 が 少 な い >か ら 拡 張 さ れ た も の で あ る 。 以 下 、 そ の 拡
張の仕組みを述べる。
「物理的な量」は科学的に測定できる、客観的、具体的な概念で
あ る の に 対 し 、「 程 度 」 は 主 観 的 認 識 で あ り 、 抽 象 的 な 概 念 で あ る 。
「具体的な概念」が「抽象的な概念」へと拡張することが一般的な
の で 、別 義 4 <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、程 度 が 低 い >は 別 義 1 <物 理
的 な 量 が 少 な い >か ら 拡 張 さ れ た と 考 え ら れ る 。
70 具体的概念から抽象的概念へ拡張するということを指摘した論文
が数多くある。第3章で述べたように、語の意味拡張は具体的な意
味から抽象的な意味に拡張していくことは先行研究によく見られる
( 瀬 戸 1995、 国 広 2001)。 ほ か に 、 谷 口 ( 2006) の 指 摘 に よ る と 、
人間の言語習得の過程においても「具体から抽象へ」という方向性
が見られるということである。さらに、日常言語の変化を特徴づけ
る重要なプロセスである文法化においても具体的な意味から抽象的
な意味へという拡張方向が見られる。具体的な意味から抽象的な意
味 へ 拡 張 す る 仕 組 み に つ い て 山 梨 ( 2008) は メ タ フ ァ ー に よ る 意 味
拡張だと指摘している。
政 治 大
では、なぜ具体から抽象への拡張は別義1の「物理的な量」から
立
拡張され、プロトタイプの「占める空間の大きさ」から拡張された
‧ 國
學
の で は な い の だ ろ う か 。 プ ロ ト タ イ プ の <占 め る 空 間 が 小 さ い >は 体
積を表すので、視覚で捉える場合も物理的に測定する場合も基準値
‧
の 概 念 が 明 確 で な い 。 こ れ に 対 し 、 別 義 1 の <物 理 的 な 量 が 少 な い >
は物理的に測定でき、具体的な数字で量が多いか少ないかを判断す
y
Nat
sit
ることができるため、基準値の概念が体積に比べるとより顕著であ
n
al
er
io
る 。 別 義 4 の <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >と 判 断 で き る
i
n
U
v
のは基準値の概念が含まれるからである。したがって、別義4の<
Ch
engchi
あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、程 度 が 低 い >は 基 準 値 の 概 念 が 顕 著 で あ る
別 義 1 の <物 理 的 な 量 が 少 な い >か ら 拡 張 さ れ た と 考 え ら れ る 。
以 上 か ら 、 別 義 4 の <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >は 別
義 1 の <物 理 的 な 量 が 少 な い >か ら 抽 象 化 に よ る メ タ フ ァ ー に よ っ て
意味拡張されたと考えられる。
4.2
多義ネットワーク
こ こ で は 4 .1 .1
小 節 か ら 4 .1 .5
小 節 ま で 検 討 し た「 コ
-」の別義間の相互関係について考えてみる。 71 プ ロ ト タ イ プ : <占 め る 空 間 が 小 さ い >
別 義 1 : <物 理 的 な 量 が 少 な い >
別 義 2 : <年 齢 が 幼 い >
別 義 3 : <動 作 の 継 続 時 間 が 短 い >
別 義 4 : <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >
以下、この五つの別義の関係について簡単に説明する。まず、別
義1と別義2は両方ともプロトタイプからメトニミーによって拡張
さ れ た 。プ ロ ト タ イ プ が 表 す「 形 が 小 さ い 」、別 義 1 が 表 す「 組 成 成
分 の 量 が 少 な い 」と 別 義 2 が 表 す「 年 齢 が 幼 い 」は 隣 接 関 係 に あ る 。
政 治 大
「 形 が 小 さ い 」 は 「 外 見 」 に 、「 組 成 成 分 の 量 が 少 な い 」 は 「 中 身 」
立
に、
「 年 齢 が 幼 い 」は「 属 性 」に 焦 点 を 絞 る 。つ ま り 、三 つ の こ と は
‧ 國
學
「 外 見 」、「 中 身 」、「 属 性 」 の ど れ か に 焦 点 を 絞 る こ と に よ っ て プ ロ
トタイプ、別義1あるいは別義2が成り立つということである。
‧
次に、別義3は別義1から「空間→時間」というメタファーによ
って拡張され、別義4は別義1から抽象化というメタファーによっ
y
Nat
sit
て拡張された。以上の分析をまとめると「コ-」の多義ネットワー
a l別 義 1
v別 義 3
i
n
C 的な量
<物 理h
e n g c h i U <動 作 の 継 続 時 間 が
n
プロトタイプ
er
io
クを図5で示すことができる。
<占 め る 空 間
が小さい>
が少ない>
短い>
別義2
別義4
<年 齢 が 幼 い >
<あ る 基 準 に 達 し て
お ら ず 、程 度 が 低 い >
メタファー:
メトニミー:
図5
「コ-」の多義ネットワーク
72 4.3
「コ-」が付く語基の性質
この小節では「コ-」が表す意味とその意味が付く語基の性質と
の関係を見る。以下、品詞別で見ていく。
ま ず 、「 コ - 」 が 名 詞 の 語 基 に 付 く 場 合 を 見 る 。 <占 め る 空 間 が 小
さ い >と <物 理 的 な 量 が 少 な い >の 意 味 を 表 す「 コ - 」が 付 く 名 詞 は「 モ
ノ 性 」 を 持 つ も の ( 例 :「 小 板 」、「 小 家 」;「 小 風 」、「 小 水 」) で あ る
の に 対 し 、<あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、程 度 が 低 い >の 意 味 を 表 す「 コ
- 」が 付 く 名 詞 は「 モ ノ 性 」を 持 た な い も の( 例 :「 小 才 覚 」、
「小理
屈 」)で あ る 。<年 齢 が 幼 い >の 意 味 を 表 す「 コ - 」が 付 く 名 詞 は「 有
情性」を持つものである。
立
政 治 大
次 に 、「 コ - 」 が 連 用 形 名 詞 と 動 詞 の 語 基 に 付 く 場 合 を 見 る 。 <占
‧ 國
學
め る 空 間 が 小 さ い >と <物 理 的 な 量 が 少 な い >の 意 味 を 表 す「 コ - 」が
付 く も の は「 変 化 」の 性 質 を 持 つ も の( 例:
「 小 書 き 」、
「小切り」
;
「小
‧
買 い 」、
「 小 出 し 」)が 多 い 。こ れ に 対 し 、<あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、
程 度 が 低 い >の 意 味 を 表 す「 コ - 」が 付 く も の は「 変 化 」の 性 質 を 持
y
Nat
sit
た な い も の( 例:「 小 急 ぎ 」、
「 小 走 り 」)で あ る 。<動 作 の 継 続 時 間 が
n
al
er
io
短 い >の 意 味 を 表 す「 コ - 」が 付 く も の は 時 間 の 概 念 を 含 む も の( 例:
「 小 休 み 」、「 小 止 み 」) で あ る 。
Ch
engchi
i
n
U
v
以上から、
「 コ - 」が 表 す 意 味 と そ の 意 味 が 付 く 語 基 の 間 に ど の よ
うな差があるのを見た。
73 立
政 治 大
‧
‧ 國
學
n
er
io
sit
y
Nat
al
Ch
engchi
74 i
n
U
v
第5章
「ウス-」と「コ-」の評価性
本章では「ウス-」と「コ-」が付く語基から「ウス-」と「コ
-」の評価性を見る。5.1
2
小節は「ウス-」の評価性を、5.
小節は「コ-」の評価性を見る。そして、5.3
小節は「ウ
ス-」と「コ-」の評価性の違いを検討する。さらに、5.4節で
は「ウス-」と「コ-」の評価性の違いからその類義性を見る。
5.1
「ウス-」の評価性
第 3 章 で 見 た よ う に 、「 ウ ス - 」 は <厚 さ の 値 が 少 な い >、 <濃 度 ・
政 治 大
密 度 が 低 い >、<あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、程 度 が 低 い >と い う 三 つ の
立
意 味 を 表 す 。以 下 、
「 ウ ス - 」が 各 意 味 を 表 す 際 に 語 基 に ど の よ う な
‧ 國
<厚 さ の 値 が 少 な い >の 場 合
‧
5.1.1
學
評 価 性 を 付 加 す る か を 順 に 見 て い く 37。
<厚 さ の 値 が 少 な い >の 意 味 を 表 す 「 ウ ス - 」 は 語 基 に 評 価 性 を 付
sit
y
Nat
加しない。
n
al
er
io
ま ず 、「 ウ ス - 」 が 名 詞 の 語 基 に 付 く 例 と し て 「 薄 板 」、「 薄 皮 」、
i
n
U
v
「 薄 鍋 」、「 薄 刃 」、「 薄 雪 」 な ど が 挙 げ ら れ る 。 こ れ ら の 複 合 語 は 評
Ch
engchi
価性を持たないので、
「 ウ ス - 」は 語 基 に 評 価 性 を 付 加 し な い と 考 え
ら れ る 。「 ウ ス - 」 が 連 用 形 名 詞 の 語 基 に 付 く 場 合 、 例 え ば 、「 薄 切
り 」、「 薄 塗 り 」 も 同 様 に 考 え ら れ る 。
以 上 か ら 、 <厚 さ の 値 が 少 な い >の 意 味 を 表 す 「 ウ ス - 」 が 語 基 に
評価性を付加しないことが分かった。
5.1.2
<濃 度 ・ 密 度 が 低 い >の 場 合
<濃 度 ・ 密 度 が 低 い >の 意 味 を 表 す 「 ウ ス - 」 は 語 基 に 評 価 性 を 付
加しない。
「 ウ ス - 」が 名 詞 の 語 基 に 付 く 例 と し て 、
「 薄 藍 」、
「 薄 青 」、
37
「ウス-」による複合語は付録1を参照。
75 「 薄 痘 痕 」、
「 薄 煙 」、
「 薄 髭 」な ど が 挙 げ ら れ る 。
「 藍 」、
「 青 」、
「 痘 痕 」、
「 煙 」、
「 髭 」な ど の 語 基 は 中 立 的 評 価 を 表 し 、
「 ウ ス - 」に よ る 複 合
語も中立的評価を表すため、
「 ウ ス - 」が 語 基 に 評 価 性 を 付 加 し な い
と 考 え ら れ る 。ま た 、
「 ウ ス - 」が 連 用 形 名 詞 の 語 基 に 付 く 場 合 、例
えば、
「 薄 書 」、
「 薄 化 粧 」、
「 薄 染 」も 同 様 で あ る 。さ ら に 、
「薄霞む」
という動詞語基の例も連用形名詞の場合と同じく評価性を持たない。
以 上 か ら 、 <濃 度 ・ 密 度 が 低 い >の 意 味 を 表 す 「 ウ ス - 」 は 語 基 に
評価性を付加しないことが分かった。
5.1.3
<あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >の 場 合
政 治 大
<あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >の 意 味 を 表 す 「 ウ ス - 」
立
は 語 基 に マ イ ナ ス 評 価 を 付 加 す る こ と が あ る 。<あ る 基 準 に 達 し て お
‧ 國
學
ら ず 、程 度 が 低 い >の 意 味 に は「 も と の 状 態 に 比 べ 、徹 底 し な い 状 態
にある」という評価が生じる場合がある。人間は「徹底しない、中
‧
途 半 端 」の も の に 対 し 、大 体 好 感 を 持 た な い 。例 え ば 、
「 熱 い 」、
「冷
た い 」は 中 立 的 な 評 価 を 表 す が 、
「 温 い 」は マ イ ナ ス 評 価 を 表 す 。も
y
Nat
sit
う 一 つ の 類 似 し た 現 象 と し て「 ナ マ -( 生 )」と い う 語 構 成 要 素 が 挙
n
al
er
io
げられる。
「 ナ マ - 」が 表 す 意 味 の 中 に「 本 物 に な る に は 、ま だ 幾 分
i
n
U
v
かの距離がある状態」という意味があり、つまり、望ましい状態に
Ch
engchi
達 し て い な い と い う 意 味 で あ る 。 例 え ば 、「 生 新 し い 」、「 生 返 事 」、
「 生 齧 り 」 な ど の 複 合 語 が 挙 げ ら れ る 。「 新 し い 」、「 返 事 」、「 齧 り 」
などの語基は「ナマ-」の付加によって、マイナス評価に転じる。
それと同様に、
「 ウ ス - 」が 持 つ「 も と の 状 態 に 比 べ 、徹 底 し な い 状
態にある」の意味は語基にマイナス評価を付加すると考えられる。
以 下 、「 ウ ス - 」 が 各 品 詞 の 語 基 に 付 加 す る 評 価 性 を 見 る 。
ま ず 、「 ウ ス - 」 が 名 詞 の 語 基 に 付 く 例 と し て 、「 薄 学 」、「 薄 情 」、
「 薄 仲 」な ど が 挙 げ ら れ る 。
「 学 」、
「 情 け 」、
「 仲 」の よ う な 語 基 は 中
立的評価を表すが、
「 ウ ス - 」が 付 い た「 薄 学 」、
「 薄 情 」、
「 薄 仲 」は
マ イ ナ ス 評 価 を 表 す 。こ れ は <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、程 度 が 低 い
>の 意 味 を 表 す「 ウ ス - 」は 名 詞 の 語 基 に マ イ ナ ス 評 価 を 付 加 す る た
76 めであると考えられる。
次に、
「 ウ ス - 」が 連 用 形 名 詞 の 語 基 に 付 く 場 合 を 見 る 。
「 薄 暮 れ 」、
「 薄 曇 り 」、「 薄 湿 り 」 の よ う な 例 に お い て は 語 基 は 中 立 的 評 価 で 、
そ の 複 合 語 も 中 立 的 評 価 を 表 す 。つ ま り 、
「 ウ ス - 」は 語 基 に 評 価 性
を 付 加 し な い 。一 方 、
「 薄 笑 い 」、
「 薄 知 り 」の よ う な 例 に お い て は 語
基は中立的評価を表すが、複合語はマイナス評価を表すことから、
「 ウ ス - 」は 語 基 に マ イ ナ ス 評 価 を 付 加 す る と 考 え ら れ る 。
「 暮 れ 」、
「 曇 り 」、
「 湿 り 」は あ る 現 象 を 描 写 す る 語 で あ る の に 対 し 、
「 笑 い 」、
「 知 り 」は 人 の 言 動 を 描 写 す る 語 で あ る 。つ ま り 、<あ る 基 準 に 達 し
て お ら ず 、程 度 が 低 い >の 意 味 を 表 す「 ウ ス - 」が 人 の 言 動 を 描 写 す
政 治 大
る連用形名詞語基に付く場合は語基にマイナス評価を付加すること
立
が分かる。
‧ 國
學
次 に 、「 ウ ス - 」 が 動 詞 の 語 基 に 付 く 場 合 を 見 る 。「 ウ ス - 」 は 自
然 現 象 を 描 写 す る 語 基 に マ イ ナ ス 評 価 を 付 加 し な い 。例 え ば 、
「薄曇
‧
る 」、
「 薄 ぼ け る 」、
「 薄 汚 れ る 」な ど が 挙 げ ら れ る 。
「 曇 る 」、
「ぼける」
などの語基は中立的評価を表し、
「 ウ ス - 」に よ る 複 合 語 も 中 立 的 評
y
Nat
sit
価 を 表 す 。そ し て 、語 基「 汚 れ る 」は マ イ ナ ス 評 価 を 表 し 、
「ウス-」
n
al
er
io
に よ る 複 合 語「 薄 汚 れ る 」も マ イ ナ ス 評 価 を 表 す 。つ ま り 、
「ウス-」
i
n
U
v
はこれらの自然現象を表す語基に評価性を付加しないと考えられる。
Ch
engchi
一 方 、「 笑 う 」 は 中 立 的 評 価 を 表 す が 、「 薄 笑 う 」 と い う 複 合 語 は マ
イナス評価を表すことから、
「 ウ ス - 」が 語 基 に マ イ ナ ス 評 価 を 付 加
す る と 考 え ら れ る 。こ れ は「 笑 う 」は 人 の 言 動 を 表 す た め 、
「 曇 る 」、
「 暮 れ る 」な ど の 自 然 現 象 よ り マ イ ナ ス 評 価 が 生 じ や す い の で あ る 。
つ ま り 、 <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >の 意 味 を 表 す 「 ウ
ス-」が動詞の語基に付く場合は連用形名詞に付く場合と同様に人
の言動を描写する語基にマイナス評価を付加することが分かる。
最 後 に 、「 ウ ス - 」 が 形 容 詞 ・ 形 容 動 詞 の 語 基 に 付 く 場 合 を 見 る 。
まず、
「 ウ ス - 」は マ イ ナ ス 評 価 を 表 す 形 容 詞・形 容 動 詞 語 基 に 付
く 場 合 、複 合 語 の マ イ ナ ス 評 価 が 高 ま る 。例 え ば 、
「 薄 汚 い 」、
「薄気
味悪い」が挙げられる。用例を見る。
77 (112) つ れ て い か れ た の は 同 じ く バ イ シ ャ 地 区 の 五 分 も 歩 か な い
薄 汚 い 安 宿 だ っ た 。( 再 掲 )
(113) 聞 け ば 聞 く ほ ど 、 神 秘 的 で 妖 気 じ み て 、何 か 薄 気 味 悪 い 感 じ
さ え し ま す ね 。( 再 掲 )
例 (112)で は「 汚 い 」だ け を 使 う と 単 に そ の 環 境 に マ イ ナ ス 評 価 を
下すが、
「 薄 汚 い 」を 使 う と「 汚 い 」の 状 態 が 徹 底 せ ず 、さ ら に 心 理
的不快感というマイナス感情が加わるため、マイナス評価が高く感
じ ら れ る 。 例 (113)の 「 薄 気 味 悪 い 」 も 同 様 で あ り 、「 気 味 悪 い 」 は
政 治 大
明確に自分のマイナス感情を表すのに対し、
「 薄 気 味 悪 い 」を 使 う と
立
心 理 的 不 快 感 が 加 わ る 。つ ま り 、
「 ウ ス - 」が マ イ ナ ス 評 価 の 形 容 詞・
‧ 國
學
形容動詞の語基に付く場合はマイナス評価が一層高くなる。
次に、
「 ウ ス - 」は 中 立 的 評 価 を 表 す 形 容 詞・形 容 動 詞 語 基 に 付 く
‧
場 合 、複 合 語 が マ イ ナ ス 評 価 に 転 じ る 。例 え ば 、
「 明 る い 」と「 白 い 」
は評価性を伴わないが、
「 薄 明 る い 」と「 薄 白 い 」は マ イ ナ ス 評 価 を
y
Nat
n
i
n
U
(114) a.明 る い 未 来 が 待 っ て い る 。( 作 例 )
Ch
engchi
er
io
al
sit
表す。次の例を見る。
v
b.*薄 明 る い 未 来 が 待 っ て い る 。( 久 保 2011: 765)
(115) a.白 い 肌 で い た い 。( 作 例 )
b.*薄 白 い 肌 で い た い 。( 作 例 )
例 (114a)の 「 明 る い 未 来 」 は 「 期 待 が 持 て る 未 来 」 と い う 肯 定 的
意 味 を 表 す 。し か し 、
「 ウ ス - 」が 付 い た「 薄 明 る い 」に 置 き 換 え る
と 、 例 (114b)の よ う に 非 文 に な る 。 例 (115a)の 「 白 い 肌 」 は き れ い
な 状 態 に あ る 「 肌 」 の 意 味 を 表 す が 、 (115b)の よ う に 「 薄 白 い 肌 」
に置き換えることができない。これらの複合語に含まれるマイナス
評価は「ウス-」が持つ「徹底しない状態」という意味から来たも
の で あ る と 考 え ら れ る 。つ ま り 、<あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、程 度 が
78 低 い >の 意 味 を 表 す「 ウ ス - 」は 形 容 詞・形 容 動 詞 の 語 基 に 付 く 場 合
はマイナス評価を付加することが分かる。
以上をまとめると、
「 ウ ス - 」は 人 の 言 動 を 描 写 す る 連 用 形 名 詞 と
動詞の語基、形容詞・形容動詞の語基にマイナス評価を付加するこ
と が あ る 。こ れ は「 ウ ス - 」が 表 す <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、程 度
が 低 い >の 意 味 に は「 も と の 状 態 に 比 べ 、徹 底 し な い 状 態 に あ る 」と
いう評価が生じる。このような「徹底しない状態」は心理的な不快
感をもたらすから、状態が低下することに伴いマイナス評価が付随
するのである。
5.2
「コ-」の評価性
立
政 治 大
第 4 章 で 見 た よ う に 、「 コ - 」 は <占 め る 空 間 が 小 さ い >、 <物 理 的
‧ 國
學
な 量 が 少 な い >、 <年 齢 が 幼 い >、 <動 作 の 継 続 時 間 が 短 い >、 <あ る 基
準 に 達 し て お ら ず 、程 度 が 低 い >と い う 五 つ の 意 味 を 表 す 。以 下 、
「コ
‧
-」が各意味を表す際に、語基にどのような評価性を付加するかを
順 に 見 て い く 38。
n
al
er
io
<占 め る 空 間 が 小 さ い >の 場 合
sit
y
Nat
5.2.1
i
n
U
v
<占 め る 空 間 が 小 さ い >の 意 味 を 表 す 「 コ - 」 は 語 基 に 評 価 性 を 付
Ch
engchi
加 し な い 。ま ず 、
「 コ - 」が 名 詞 の 語 基 に 付 く 例 と し て「 小 家 」、
「小
池 」、「 小 顔 」、「 小 城 」、「 小 船 」 な ど が 挙 げ ら れ る 。 そ れ ら の 複 合 語
は評価性を持たないので、
「 コ - 」は 語 基 に 評 価 性 を 付 加 し な い と 考
え ら れ る 。次 に 、
「 コ - 」が 連 用 形 名 詞 の 語 基 に 付 く 例 と し て「 小 切
り 」、「 小 割 り 」 な ど が 挙 げ ら れ る 。 そ れ ら の 複 合 語 も 同 様 で あ る 。
以 上 か ら 、 <占 め る 空 間 が 小 さ い >の 意 味 を 表 す 「 コ - 」 は 語 基 に
評価性を付加しないことが分かった。
38
「コ-」による複合語は付録1を参照。
79 5.2.2
<物 理 的 な 量 が 少 な い >の 場 合
<物 理 的 な 量 が 少 な い >の 意 味 を 表 す 「 コ - 」 は 語 基 に 評 価 性 を 付
加 し な い 。ま ず 、
「 コ - 」が 名 詞 の 語 基 に 付 く 例 と し て「 小 金 」、
「小
酒 」、「 小 城 」、「 小 雨 」 な ど が 挙 げ ら れ る 。 そ れ ら の 複 合 語 は 評 価 性
を持たないので、
「 コ - 」は 語 基 に 評 価 性 を 付 加 し な い と 考 え ら れ る 。
次に、
「 コ - 」が 連 用 形 名 詞 の 語 基 に 付 く 例 と し て「 小 売 り 」、
「小買
い 」、「 小 払 い 」 な ど が 挙 げ ら れ る 。 そ れ ら の 複 合 語 も 同 様 で あ る 。
以 上 か ら 、 <物 理 的 な 量 が 少 な い >の 意 味 を 表 す 「 コ - 」 は 語 基 に
評価性を付加しないことが分かった。
5.2.3
政 治 大
<年 齢 が 幼 い >の 場 合
立
<年 齢 が 幼 い >の 意 味 を 表 す 「 コ - 」 は 名 詞 の 語 基 に 付 き 、 プ ラ ス
‧ 國
學
評 価 を 付 加 す る 場 合 と マ イ ナ ス 評 価 を 付 加 す る 場 合 と が あ る 。以 下 、
順に見ていく。
‧
<年 齢 が 幼 い >と い う 意 味 に は「 親 愛 の 情 」と い う イ メ ー ジ が あ る 。
これはわれわれは「小さいもの」に対し容易に親近感が湧いてくる
y
Nat
sit
の で あ る 。 玉 村 ( 2001) は 「 コ - 」 が 表 す 矮 小 性 は 自 然 に 小 さ く 可
n
al
er
io
愛 ら し い も の に 対 す る 親 愛 の 情 を 呼 び 起 こ す と 述 べ て い る 。「 コ - 」
i
n
U
v
に は「 親 愛 の 情 」と い う 評 価 が 生 じ る た め 、
「 小 猫 」、
「 小 熊 」、
「小稚
Ch
engchi
児 」、「 小 姫 」 な ど の よ う に 小 さ さ か ら 親 愛 の 情 を 生 み 出 し 内 包 さ れ
る 複 合 語 が 見 ら れ る 。 語 基 「 猫 」、「 熊 」、「 稚 児 」、「 姫 」 は 中 立 的 な
評 価 を 表 す が 、「 コ - 」 が 付 く と プ ラ ス 評 価 に 転 じ る 。 つ ま り 、「 コ
-」は語基にプラス評価を付加すると考えられる。
しかし、矮小性は親愛の情を呼び起こす反面、そこから転じてマ
イ ナ ス 評 価 を 表 す こ と も あ る 。玉 村( 2001)の 指 摘 に よ る と 、人 間 ・
職業・身分・地位などを表す語基の中には実質的客観的に小柄であ
ることを表すものと、矮小性から転じて卑小性あるいは軽侮性を内
包するものとが含まれており、語によっては両義兼備のものも見ら
れ る 。例 え ば 、
「 小 女 」の 場 合 は ① 年 の 若 い 女 、② 体 が 小 さ い 女 と ③
年少の雇い女という三つの意味を表す。②の意味は客観的に小柄で
80 あることを表し、③の意味は卑小性が内包され、①の意味は両義兼
備 で あ る 。 も う 一 つ の 例 と し て 「 小 娘 ( こ む す め )」 を 挙 げ て い る 。
「小娘」は「少女」の意味を表すだけでなく、年齢、精神、身体な
どの未熟な少女という意味が含まれ、軽いあざけりの気持ちを含ん
で い る 。 そ の た め 、「 生 意 気 な 小 娘 だ 」 な ど の 表 現 は よ く 使 わ れ る 。
ま た 、「 き れ い な 娘 」 は 言 え る が 、「 き れ い な 小 娘 」 に な る と 、 皮 肉
の 意 味 合 い が 生 じ る 。ほ か に 、
「 小 坊 主 」、
「 小 僧 」な ど の 例 も 同 様 で
あ る 。つ ま り 、
「 コ - 」は 人 間 を 表 す 語 基 に 付 く 場 合 は マ イ ナ ス 評 価
が生じることがある。
以 上 か ら 見 る と 、 <年 齢 が 幼 い >の 意 味 を 表 す 「 コ - 」 は 人 間 の 語
政 治 大
基に付く場合はマイナス評価が生じるが、動物の語基に付く場合は
立
マ イ ナ ス 評 価 が 生 じ な い 。つ ま り 、動 物 を 表 す 複 合 語 は「 親 愛 の 情 」
‧ 國
學
の意味に止まり「軽蔑」の意味が現れないが、人間を表す複合語は
「軽蔑」の意味が現れる。この点について次のように考えられる。
Nat
y
‧
テ イ ラ ー ( 2008) は 次 の こ と を 指 摘 し て い る 。
sit
「大」に対する「小」は、一般に価値の低い方向に傾く。これは大人に対
er
io
す る 子 ど も の 価 値 と も 並 行 的 で あ る 。子 ど も は 、ま だ 半 人 前 の 存 在 な の で あ
al
n
v
i
n
C
と な る 。( 中 略 ) 対 象 は 人 を 表hすeも の か ら 人 の
n g c h i 特U質 に も 及 ぶ 。 た と え ば 、「 小
る 。こ の「 小 」に 伴 う マ イ ナ ス 評 価 は 物 事 を 矮 小 化 し て 軽 蔑 し 軽 視 す る 態 度
馬鹿」
「小賢しい」
「小利口」
「小器用」
「 小 才( が 利 く )」
「 小 理 屈 」な ど 。
(中
略)非難・軽蔑の意味がこもる表現である。
人間には「思考・言動」という属性がある。年齢の変化に伴い、
「思考・言動」という属性も良い方向へ変化していくのが一般的で
あ る 。つ ま り 、
「 年 齢 が 若 い 」と い う 段 階 で は「 思 考 ・ 言 動 」と い う
属性はまだ良い方向に変化しておらず未熟であるため、
「 軽 視 」の 意
味が現れるのである。これに対し、動物は「思考・言動」という属
性 を 持 た ず 、 年 齢 が 重 な っ て も 精 神 的 に 「 未 熟 」、「 成 熟 」 と い う 区
別がない。そのため、動物を表す語基には「軽視」の意味が現れな
81 いのである。
以 上 を ま と め る と 、 <年 齢 が 幼 い >の 意 味 を 表 す 「 コ - 」 は 「 親 愛
の 情 」が 含 ま れ る た め 、語 基 に プ ラ ス 評 価 を 付 加 す る 。一 方 、
「コ-」
が 表 す「 矮 小 性 」か ら「 軽 蔑 、軽 視 す る 」と い う 評 価 が 生 じ る た め 、
人間を表す語基に付く場合はマイナス評価を加えることが分かる。
5.2.4
<動 作 の 継 続 時 間 が 短 い >の 場 合
<動 作 の 継 続 時 間 が 短 い >の 意 味 を 表 す「 コ - 」は「 休 み 」、
「止み」
という二つの連用形名詞の語基に付く。
「 休 み 」、
「 止 み 」は 評 価 性 を
持たず、
「 コ - 」が 付 い た「 小 休 み 」、
「 小 止 み 」と い う 複 合 語 も 評 価
政 治 大
性 を 表 さ な い 。 こ の よ う に 、 <動 作 の 継 続 時 間 が 短 い >の 意 味 を 表 す
立
「コ-」は語基に評価性を付加しない。
‧ 國
學
5.2.5
<あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >の 場 合
‧
<あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >の 意 味 を 表 す 「 コ - 」 は
語基に評価性を付加することがある。
y
Nat
sit
まず、
「 コ - 」は「 理 屈 」の よ う な 中 立 的 評 価 を 表 す 名 詞 の 語 基 と
n
al
er
io
「 才 覚 」、
「 才 子 」の よ う な プ ラ ス 評 価 を 表 す 名 詞 の 語 基 に 付 く 。
「コ
i
n
U
v
- 」 が 付 い た 「 小 理 屈 」、「 小 才 覚 」、「 小 才 子 」 は マ イ ナ ス 評 価 に 転
Ch
engchi
じ る 。こ れ は「 コ - 」が 表 す <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、程 度 が 低 い
>と い う 意 味 と そ の 意 味 か ら 生 じ た「 卑 小 性・軽 侮 性 」と い う 評 価 的
意味から来たものである。普通、基準に達することはプラス評価さ
れるが、基準より低く、基準を下回る場合はマイナス評価が与えら
れる。5.2.3
小 節 で 述 べ た よ う に 、 玉 村 ( 2001) の 指 摘 に よ
ると「コ-」が表す矮小性から転じて卑小性あるいは軽侮性を内包
す る 現 象 が 見 ら れ る 。 つ ま り 、「 コ - 」 が 表 す <あ る 基 準 に 達 し て お
ら ず 、程 度 が 低 い >と い う 意 味 か ら「 卑 小 性・軽 侮 性 」が 生 じ る た め 、
語基にマイナス評価を与えるのである。
次に、形容詞の語基に付く場合を見る。形容詞語基が表す評価性
と複合語が表す評価性をまとめると、次の通りである。
82 (116)
形容詞語基
プラス評価
コ
複合語
⇒
プラス評価
+
マイナス評価
中立的評価
⇒
中立的評価
マイナス評価
⇒
マイナス評価
まず、
「 コ - 」が プ ラ ス 評 価 を 表 す 語 基 に 付 く と 、複 合 語 は プ ラ ス
評価を表すものとマイナス評価を表すものがある。プラス評価を表
政 治 大
す 複 合 語 の 例 と し て「 小 忠 実( こ ま め )」、
「 小 楽 し い 」、
「小気味好い」
立
などがあり、それらの語基は評価形容詞と感情形容詞である。例を
‧ 國
學
見る。
‧
(117) ち ょ う ど 、卵 が 産 ま れ て い て 、母 か 父 か 分 か ら な い が・・・、
風 通 し を 良 く し た り 温 め た り し て 、小 忠 実 に 世 話 を 続 け て い
y
Nat
sit
た 。( 中 納 言 ・『 Yahoo!ブ ロ グ 』)
n
al
er
io
(118) ど う か し た 都 合 で 、 そ の 場 に 居 合 わ せ た 男 が 、 女 の 一 家 が 焼
i
n
U
v
け出される有様を小気味のいいことに思って眺めている。
Ch
engchi
( 中 納 言 ・ 江 戸 川 乱 歩 『 算 盤 が 恋 を 語 る 話 』)
「 忠 実 」、
「 気 味 好 い 」は プ ラ ス 評 価 を 表 し 、複 合 語「 小 忠 実 」、
「小
気 味 好 い 」も プ ラ ス 評 価 を 表 す 。つ ま り 、
「 コ - 」は プ ラ ス 評 価 を 表
す語基に評価性を付加しないことがある。
一方、
「 コ - 」は プ ラ ス 評 価 を 表 す 語 基 に 付 く 場 合 は マ イ ナ ス 評 価
に 転 じ る 場 合 も 見 ら れ る 。例 え ば 、
「 小 器 用 」、
「 小 賢 し い 」、
「 小 利 口 」、
「 小 綺 麗 」、「 小 工 面 」 な ど が あ り 、 評 価 形 容 詞 で あ る 。 次 の 例 を 見
る。
(119) 新 し い 立 場 に 立 つ 、 新 し い 仕 事 を 持 つ と い う よ う な 場 合 、 人
83 に よ っ て は 、た ち ま ち の う ち に そ の 要 領 を 覚 え て 小 器 用 に こ
な し て ゆ く 、 そ う い う 人 も あ る 。( Google books・ 松 下 幸 之
助 『 そ の 心 意 気 や よ し 』)
(120) 「 死 ぬ ほ ど の 努 力 」 を せ ず 、 要 領 よ く 仕 事 を こ な し 、 小 賢 し
い 知 識 を 振 り 回 し 、小 利 口 に 振 舞 っ て い か に も す ぐ れ た 人 格
者 を 演 じ た り し て い る 。( Google books・ 江 口 克 彦 『 経 営 者
の 教 科 書 : 実 践 し な け れ ば な ら な い 経 営 の 基 本 100』)
(121) そ ん な 彼 女 が 、 ど う や っ て 生 活 費 を 手 に 入 れ て い る の か 。 小
綺 麗 な マ ン シ ョ ン に 住 ん で 、手 の 込 ん だ 料 理 を 作 れ る よ う な
生 活 を 維 持 す る 費 用 を 。( Google books・ 石 持 浅 海 『 賢 者 の
贈 り 物 』)
立
政 治 大
例 (119)~ (121)か ら 分 か る よ う に 、
「 器 用 」、
「 賢 し い 」、
「 利 口 」、
「綺
‧ 國
學
麗 」は プ ラ ス 評 価 を 表 す 語 基 で あ る が 、
「 コ - 」が 付 い た「 小 器 用 」、
「 小 賢 し い 」、「 小 利 口 」、「 小 綺 麗 3 9 」 は マ イ ナ ス 評 価 に 転 じ る 。 こ
‧
れは名詞の場合と同様に、
「 コ - 」が 表 す <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、
sit
y
Nat
程 度 が 低 い >と い う 意 味 と そ の 意 味 か ら 生 じ た「 卑 小 性・軽 侮 性 」と
いう評価的意味から来たものである。先ほど述べたように、基準よ
io
n
al
er
り低く、基準を下回る場合はマイナス評価が与えられる。そして、
Ch
i
n
U
v
「コ-」が表す矮小性から転じて卑小性あるいは軽侮性を内包する
engchi
現 象 が 見 ら れ る 。 つ ま り 、「 コ - 」 は <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程
度 が 低 い >と い う 意 味 を 表 す と と も に 、「 卑 小 性 ・ 軽 侮 性 」 と い う 評
価的意味も表すため、語基にマイナス評価を与え、プラス評価を表
す語基をマイナス評価に変えるのである。
39
道 浦 ( 2003: 357) で は 次 の こ と を 指 摘 し て い る 。
新築のモデルルームでまだ誰が住んでるわけでもない部屋を見た時には、
「きれいな部屋ね」とは言っても「こぎれいな部屋ね」とは言いません。こ
の 場 合 、「 部 屋 」 と い う 物 質 そ の 物 に 対 し て は 、 感 情 を 交 え ず そ の 状 態 を 評
価 (「 き れ い だ 」 と ) で き る わ け で す 。 と こ ろ が 、 あ ま り 快 く 思 っ て い な い
人 の 家 に 招 か れ て 、 そ の 部 屋 が 思 い の ほ か き れ い だ っ た り す る と 、「 こ ぎ れ
いな部屋ね」などと憎まれ口を叩いたりしてしまう。
こ の よ う に 、「 小 綺 麗 」 は マ イ ナ ス 評 価 が 含 ま れ る と 考 え ら れ る 。
84 次に、
「 コ - 」が 中 立 的 評 価 を 表 す 語 基 に 付 く 場 合 を 見 る 。例 え ば 、
「 小 高 い 」、「 小 早 い 」 な ど が あ り 、 そ れ ら の 語 基 は 知 覚 形 容 詞 と 関
係形容詞である。例を見る。
(122) 大 学 か ら 少 し 離 れ た と こ ろ に 小 高 い 丘 が あ り 、そ の 頂 上 に 小
さ な 児 童 公 園 が あ る の は 僕 も 知 っ て い た 。( BCCWJ・ 三 田 誠 広
『 僕 っ て 何 』)
(123) 小 早 く 数 歩 あ る き 手 を 浮 か し 転 ぶ 起 き て 手 を 出 し 、首 を 曲 げ 、
手が実をつかみひっくりかえし羽根をつけトナカイのフォ
ル ム の カ タ カ タ と の び て 、大 き く 上 に の び て あ る き ― ヤ モ リ
政 治 大
を ガ ラ ス の 上 に 映 す 。( 中 納 言 ・ 土 方 巽 『 土 方 巽 全 集 』)
立
「 高 い 」、
「 早 い 」は も と も と 中 立 的 評 価 を 表 し 、複 合 語「 小 高 い 」、
‧ 國
學
「 小 早 い 」も 中 立 的 評 価 を 表 す 。つ ま り 、
「 コ - 」は 中 立 的 な 評 価 を
表す語基に評価性を付加しないと考えられる。
‧
最後に、
「 コ - 」が マ イ ナ ス 評 価 を 表 す 語 基 に 付 く 場 合 、複 合 語 も
sit
y
Nat
マ イ ナ ス 評 価 を 表 す 。 例 え ば 、「 小 汚 い 」、「 小 生 意 気 」、「 小 面 倒 」、
io
er
「 小 馬 鹿 」、「 小 煩 い 」 な ど が あ り 、 そ れ ら の 語 基 は 評 価 形 容 詞 4 0 で
ある。次の例を見る。
n
al
Ch
engchi
i
n
U
v
(124) 「 お れ は 小 汚 い 悪 党 が 大 嫌 い な ん だ 。こ そ こ そ し て せ せ こ ま
40
こ こ で 言 う 形 容 詞 に 対 す る 分 類 は 吉 田 ( 2005) の も の で あ る 。 吉 田 ( 2005)
は 湯 ( 2003) が 示 し た 形 容 詞 の 体 系 的 分 類 を 次 の よ う に 修 正 し て い る 。
A.属 性 形 容 詞 :
1.知覚形容詞
① 次 元 形 容 詞 。 線 ・ 面 ・ 体 の 大 小 等 を 表 す 。「 大 き い 」「 狭 い 」
② 視 覚 ( に よ っ て 識 別 さ れ る 属 性 を 表 す ) 形 容 詞 。「 暗 い 」「 赤 い 」
③ 聴 覚 ( に よ っ て 識 別 さ れ る 属 性 を 表 す ) 形 容 詞 。「( 音 が ) 大 き い 」
④ 味 覚 ( に よ っ て 識 別 さ れ る 属 性 を 表 す ) 形 容 詞 。「 甘 い 」「 渋 い 」
⑤ 嗅 覚( に よ っ て 識 別 さ れ る 属 性 を 表 す )形 容 詞 。
「 臭 い 」⑥ 触 覚( に よ っ て 識
別 さ れ る 属 性 を 表 す ) 形 容 詞 。「 す べ す べ だ 」
2 . 評 価 形 容 詞 : 対 象 に 対 す る 話 者 の 評 価 を 表 す 形 容 詞 。「 偉 い 」
3 . 関 係 形 容 詞 : 相 対 的 ・ 関 係 的 な 属 性 を 表 す 形 容 詞 。「 駅 か ら 遠 い 」
B.感 情 形 容 詞
1 . 感 覚 形 容 詞 : 話 者 の 生 理 状 態 を 表 す 形 容 詞 。「 痛 い 」「 冷 た い 」
2 . 情 意 形 容 詞 : 話 者 の 心 理 状 態 を 表 す 形 容 詞 。「 う れ し い 」「 悲 し い 」
85 し い 。 こ ん な 奴 ら 、 み て い て 腹 が 立 つ 」( Google books・ 氷
浦 朱 鷺 『 武 装 幽 霊 』)
(125) 「 も う 、 い ち い ち 小 う る さ い わ ね 。( 高 田 に ) と に か く 、 こ
う な っ た の は 全 部 あ ん た が 悪 い ん だ か ら 、あ と は な ん と か し
と い て よ ね 。 そ れ じ ゃ よ ろ し く ゥ ー 」( 中 納 言 ・ 楡 一 郎 『 医
療 機 関 は ト ラ ブ ル が い っ ぱ い 』)
(126) 「 ど こ か の 世 間 知 ら ず の 浅 は か で 小 生 意 気 な お 嬢 ち ゃ ん で
し ょ う 。 そ の 人 に 会 っ た ら と め て あ げ る わ 」( 中 納 言 ・ 檜 山
良 昭 『 消 え た 「亜 細 亜 号 」』)
(127) ( 前 略 )、 私 が ほ ん と に そ う で ご ざ い ま す な ん て 返 事 を し た
政 治 大
私 は 返 事 が で き な く て 、た だ ニ ッ コ リ 笑 う 。
( Google books・
立
『 青 鬼 の 褌 を 洗 う 女 』)
ら却って先さまを軽蔑、小馬鹿のように扱う気がするから、
‧ 國
學
例 (124)~ (127)の 例 に お い て は 「 小 汚 い 」、「 小 う る さ い 」、「 小 生
‧
意 気 」、「 小 馬 鹿 」 を 使 う 場 合 は 語 基 の 「 汚 い 」、「 う る さ い 」、「 生 意
sit
y
Nat
気 」、「 馬 鹿 」 だ け を 使 う 場 合 に 比 べ 、 マ イ ナ ス 評 価 が 高 く 感 じ ら れ
io
er
る。これは先ほど述べたように「コ-」は矮小性の意味を表し、そ
こ か ら 転 じ て 卑 小 性 あ る い は 軽 侮 性 を 内 包 す る か ら で あ る 。つ ま り 、
al
n
v
i
n
「 コ - 」 は マ イ ナ ス 評 価C
を表す評価形容詞の語基に付くと、複合語
hengchi U
のマイナス評価が高まるのである。
以 上 を ま と め る と 、 <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >の 意
味 を 表 す「 コ - 」は 名 詞 の 語 基 に マ イ ナ ス 評 価 を 付 加 す る 。そ し て 、
「コ-」は形容詞語基に付く場合、中立的な評価を表す語基に評価
性を付加しないが、マイナス評価を表す語基に付くと、複合語のマ
イ ナ ス 評 価 が 高 ま る 。そ し て 、
「 コ - 」は プ ラ ス 評 価 を 表 す 形 容 詞 の
語基にマイナス評価を付加する場合と評価性を付加しない場合があ
る 41。
41
「 コ - 」が 一 部 の プ ラ ス 評 価 を 表 す 形 容 詞 に マ イ ナ ス 評 価 を 付 加 し な い 理 由
は今の段階ではまだ解明しておらず、今後の課題としたい。
86 5.3
「ウス-」と「コ-」の評価性
5.1
小節と5.2
小節はそれぞれ「ウス-」と「コ-」が
表す評価性を見た。この小節では「ウス-」と「コ-」が語基に付
加する評価性を見る。
ま ず 、「 ウ ス - 」 と 「 コ - 」 が 表 す 意 味 と 評 価 性 と の 関 係 を 見 る 。
「 ウ ス - 」は 三 つ の 意 味 を 表 し 、<あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、程 度 が
低 い >と い う 意 味 を 表 す 場 合 は 語 基 に 評 価 性 を 付 加 す る 。 一 方 、「 コ
- 」は 五 つ の 意 味 を 表 し 、<年 齢 が 幼 い >と <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、
程 度 が 低 い >と い う 意 味 を 表 す 場 合 は 語 基 に 評 価 性 を 付 加 す る 。
政 治 大
「 ウ ス - 」と「 コ - 」は 両 方 と も <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、程 度
立
が 低 い >と い う 意 味 を 表 す 場 合 、 語 基 に 評 価 性 を 付 加 す る 。 同 じ く <
‧ 國
學
あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、程 度 が 低 い >の 意 味 を 表 す「 ウ ス - 」と「 コ
- 」が 付 く 語 基 の 評 価 性 、及 び 語 基 に 付 加 す る 評 価 性 の 異 同 を 見 る 。
y
Nat
「コ-」
er
io
sit
表1
「ウス-」
a複l 合 語
語基 iv
n
Ch
U
engchi
n
語基
‧
その違いを表1のようにまとめる。
複合語
プラス評価
例:
「小忠実」
「小
楽しい」
―
―
プラス評価
マイナス評価
例:
「小器用」
「小
利口」
中立的評価
マイナス評価
中立的評価
例 :「 薄 明 る い 」、「 薄 白 い 」
マイナス評価
中立的評価
例 :「 小 高 い 」、「 小 早 い 」
マイナス評価
マイナス評価
例 :「 薄 汚 い 」、「 薄 気 味 悪 い 」
マイナス評価
例 :「 小 汚 い 」、「 小 煩 い 」
87 表1から分かるように、
「 ウ ス - 」は プ ラ ス 評 価 を 表 す 語 基 に 付 か
ないのに対し、
「 コ - 」は プ ラ ス 評 価 を 表 す 語 基 に 付 く 。例 え ば 、
「ウ
ス - 」と「 コ - 」は 両 方 と も「 汚 い 」と い う 語 基 に 付 く が 、
「ウス-」
は「 綺 麗 」に 付 か な い が 、
「 コ - 」は「 綺 麗 」と い う 語 基 に 付 く( 例
17)。
(128) a.薄 汚 い / 小 汚 い
b.*薄 綺 麗 / 小 綺 麗
政 治 大
また、
「 ウ ス - 」は 中 立 的 評 価 を 表 す 語 基 に マ イ ナ ス 評 価 を 付 加 す
立
る が 、「 コ - 」 は 中 立 的 評 価 を 表 す 語 基 に 評 価 性 を 付 加 し な い 。
‧ 國
學
そして、
「 ウ ス - 」と「 コ - 」は 両 方 と も マ イ ナ ス 評 価 を 表 す 語 基
に 付 き 、複 合 語 も マ イ ナ ス 評 価 を 表 す 。5 .1 .3
小節で述べたように、
「 ウ ス - 」と「 コ - 」は マ イ ナ ス 評 価 を 表
‧
5
小 節 と 5 .2 .
す語基に付く場合、その複合語のマイナス評価が高まり、つまり、
y
Nat
sit
マイナス評価を表す語基にさらにマイナス評価を付加するというこ
al
n
1 .3
er
io
と で あ る 。し か し 、両 者 が 付 加 す る マ イ ナ ス 評 価 が や や 異 な る 。5 .
i
n
U
v
小節で述べたように、
「 ウ ス - 」の 場 合 は 心 理 的 な 不 快 感 を
Ch
engchi
もたらすため、状態が低下することに伴いマイナス評価が付随する
の で あ る 。一 方 、
「 コ - 」の 場 合 で は 矮 小 性 か ら 転 じ た 軽 侮・軽 蔑 の
意味が現れ、マイナス評価が生じるのである。
以 上 か ら 、 同 じ く <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >の 意 味
を表す「ウス-」と「コ-」が付く語基の評価性、及び語基に付加
する評価性の違いは表2にまとめられる。
88 表2
付く語基の評価性
「ウス-」
「コ-」
プラス評価の語基に
プラス評価の語基に
付かない
付く
心理的な不快感
軽侮・軽蔑の意味
マイナス評価を表す
語基に付加するマイ
ナス評価の違い
2 .1 .6
節 で 見 た よ う に 、久 保( 2011)は「『 ウ ス - 』に 肯 定
的価値を持つ語基が後続すると、複合語全体の意味が否定的価値に
政 治 大
反転する」と指摘しており、本稿の考察では複合語全体の意味が否
立
定的価値に反転するのは「ウス-」が語基に「心理的な不快感」を
‧ 國
學
付 加 す る か ら で あ る こ と が 分 か っ た 。そ し て 、久 保( 2011)は「『 コ
-』が程度の意味を持ち、かつ語基が肯定的価値を示す複合語がな
‧
い 」 と 述 べ て い る が 、 本 稿 の 考 察 で は 「 小 忠 実 」、「 小 楽 し い 」 と い
う 複 合 語 が 見 ら れ 、 久 保 ( 2001) の 指 摘 に 反 す る も の が あ る こ と が
sit
n
al
er
io
5.4
y
Nat
分かった。
i
n
U
v
「ウス-」と「コ-」の評価性から見る類義性
この節では5.1
Ch
e n g c h i小 節 で 考 察 し た 結 果 に 基 づ
小節から5.3
き「ウス-」と「コ-」の評価性から両者の類義性を見る。類義分
析 の 例 と し て 「 薄 暗 い ・ 小 暗 い 」、「 薄 寒 い ・ 小 寒 い 」、「 薄 汚 い ・ 小
汚 い 」、「 薄 馬 鹿 ・ 小 馬 鹿 」 と 「 薄 気 味 ・ 小 気 味 」 と い う 五 つ の 例 を
取り上げる。
5.4.1
「薄暗い」と「小暗い」
「 ウ ス - 」と「 コ - 」は「 暗 い 」と 共 起 し 、
「 薄 暗 い 」と「 小 暗 い 」
は 両 方 と も「 光 線 が や や 足 り な い が 、
『 暗 い 』と 言 え る 基 準 に 達 し て
い な い さ ま 」 の 意 味 を 表 す が 、 ニ ュ ア ン ス が や や 異 な る 。「 薄 暗 い 」
は 光 が 少 な く 、 不 気 味 な 感 覚 が す る 状 態 を 表 す の に 対 し 、「 小 暗 い 」
89 はちょっと暗く、よく見えないという状態を表す。5.1.5
小
節 で <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、程 度 が 低 い >の 意 味 を 表 す「 ウ ス - 」
は語基にマイナス評価を付加し、そのマイナス評価は心理的な不快
感 か ら 来 た も の で あ る と 述 べ た 。つ ま り 、
「 ウ ス - 」が 語 基 に 心 理 的
な不快感の意味を付加するから、
「 薄 暗 い 」に は 不 気 味 な 感 覚 が 含 ま
れ る と 考 え ら れ る 。一 方 、
「 コ - 」が 語 基 に 付 加 す る マ イ ナ ス 評 価 は
軽 侮・軽 蔑 の 意 味 か ら 来 た も の で あ る 。
「 暗 い 」の よ う な 属 性 を 表 す
形容詞を軽蔑することができないと考えられるため、
「 小 暗 い 」は 評
価性を持たず、単に「暗いという基準に達していない」という意味
を表すのである。 政 治 大
「薄暗い」と「小暗い」の違いは意味だけではなく、修飾対象も
立
やや異なる。
「 薄 暗 い 」は 具 体 的 な も の と 抽 象 的 な も の を 修 飾 す る こ
‧ 國
學
とができるのに対し、
「 小 暗 い 」は 具 体 的 な も の を 修 飾 す る こ と が で
きるが、抽象的なものを修飾することができない。次の例を見る。 ‧
(129) 主 人 公 の 女 は 華 や い だ 都 会 に 恋 を し た 、 薄 暗 い ( *小 暗 い )
y
Nat
sit
過 去 を 背 負 っ た す れ っ か ら し だ っ た 。( Google books・ 古 手
n
al
er
io
川 春 『 ホ ッ ト ミ ル ク 』)
i
n
U
v
(130) 相 変 わ ら ず 、 抑 制 の 効 い た 繊 細 な 曲 が 多 く 、 三 曲 目 の "Feel
Ch
engchi
Like Makin' Love"、 ま た 九 曲 目 の "This Harmony"は ロ ン ド
ン や 、 東 ヨ ー ロ ッ パ の し っ と り と し て 薄 暗 い ( *小 暗 い ) 気
分が漂ってくるようである。
( http://phil.flet.keio.ac.jp/person/sakamoto/rewind/
colman.html)
(131) も ち ろ ん 信 長 に も そ の 性 格 に 陰 が あ る こ と は 認 め る に 吝 か
で な い が 、 義 昭 の 薄 暗 い ( *小 暗 い ) 性 格 は 信 長 の そ れ と は
根 本 的 に 違 っ て い る 。( http://texpo.jp/texpo/disp/33524)
例 (129)の「 過 去 」、例 (130)の「 気 分 」、例 (131)の「 性 格 」は い ず
れも大小で捉えられない抽象物であり、
「 薄 暗 い 」を「 小 暗 い 」に 置
90 き換えると非文になる。
先ほど述べたように、
「 薄 暗 い 」は 光 が 少 な く 、不 気 味 な 感 覚 が す
る状態を表すのに対し、
「 小 暗 い 」は ち ょ っ と 暗 く 、よ く 見 え な い と
いう状態を表す。
「 暗 い 」と い う 語 は 性 格・音 声・気 分・雰 囲 気 な ど
抽象的なものを修飾する際に「陰気な様子」という不快な気持ちを
表 す 。「 薄 暗 い 」 に は 「 不 気 味 な 感 覚 」 と い う 意 味 が 含 ま れ る た め 、
「 過 去 」、
「 気 分 」、
「 性 格 」の よ う な 抽 象 物 を 修 飾 す る こ と が で き る 。
一方、
「 小 暗 い 」に は「 不 快 感 」と い う 意 味 が 含 ま れ な い た め 、抽 象
物を修飾することができない。 以上をまとめると、
「 ウ ス - 」が 語 基 に 心 理 的 な 不 快 感 の 意 味 を 付
政 治 大
加するため、
「 薄 暗 い 」は 光 が 少 な く 、不 気 味 な 感 覚 が す る 状 態 を 表
立
す 。こ れ に 対 し 、
「 コ - 」が 持 つ 軽 侮 ・ 軽 蔑 の 意 味 は「 暗 い 」と 結 合
‧ 國
學
することができないため、
「 小 暗 い 」は「 薄 暗 い 」と 違 い 、単 に 暗 い
と い う 基 準 に 達 し て い な い と い う 状 態 を 表 す 。ま た 、
「 薄 暗 い 」は「 不
‧
気味な感覚」という意味が含まれるため、抽象物を修飾することが
できるのに対し、
「 小 暗 い 」は 単 に 暗 い と い う 基 準 に 達 し て い な い と
y
Nat
al
n
5.4.2
「薄寒い」と「小寒い」
Ch
engchi
er
io
sit
いう意味を表すため、抽象物を修飾することができない。 i
n
U
v
「 ウ ス - 」と「 コ - 」は「 寒 い 」と 共 起 し 、
「 薄 寒 い 」と「 小 寒 い 」
は両方とも「身体感覚で感じ取った冷覚が『寒い』と言える基準に
達していないさま」の意味を表す。例えば、次の例を見る。
(132) 雨 期 に 入 っ て 薄 寒 い ( 小 寒 い ) 日 な の に 、 上 半 身 素 裸 の 中 年
男 が 若 者 に 付 添 わ れ 、「 身 体 中 が 暑 く て 痛 く て 、 シ ャ ツ も 着
て い ら れ な い 」 そ う 訴 え て 診 療 を 受 け に き た 。( Google
books・ 御 園 大 介 『 釜 無 川 』)
(133) 十 一 月 の 雨 が 降 る 小 寒 い( 薄 寒 い )日 だ っ た 。
( Google books・
藤 井 浩 一 『 人 権 の 周 辺 そ れ ぞ れ の 人 生 に 』)
91 例 (132)の 「 薄 寒 い 」 と 例 (133)の 「 小 寒 い 」 は 両 方 と も 「 身 体 感
覚で感じ取った冷覚がやや少ない」の意味を表し、互いに置き換え
ることができる。
一 方 、「 薄 寒 い 」 は 心 理 的 寒 さ を 修 飾 す る こ と が で き る が 、「 小 寒
い」は心理的寒さを修飾することができない。次の例を見る。
(134) 丑 の 刻 ( 午 前 二 時 )、 虎 之 助 は 枕 元 に 薄 寒 い ( *小 寒 い ) 気 配
を 感 じ て 目 を 覚 ま し た 。( BCCWJ・ 森 村 誠 一 『 虹 の 刺 客 :: 小
説 ・ 伊 達 騒 動 』)
(135) 竜 司 は 、自 分 の 出 題 し た 暗 号 を 安 藤 に 解 読 さ れ た と き の シ ョ
政 治 大
ックを、舞に打ち明けた。…心の内を読まれたようで、薄 寒
立
く ( *小 寒 く ) な っ た よ 。( BCCWJ・ 鈴 木 光 司 『 ら せ ん 』)
‧ 國
學
例 (134)の 「 薄 寒 い 」 の 修 飾 対 象 は 「 気 配 」 で 、 例 (135)「 薄 寒 く
‧
なった」は話者の心が感じた温度を指し、いずれの場合も共感覚的
比 喩 に よ っ て 非 感 覚 へ の 転 移 現 象 42で あ り 、 心 理 的 寒 さ を 修 飾 し て
y
Nat
sit
いる。この二つの例における「薄寒い」は「小寒い」に置き換える
n
al
er
io
こ と が で き な い 。こ の よ う に 、
「 薄 寒 い 」は 共 感 覚 比 喩 に よ る 拡 張 が
i
n
U
v
できるのに対し、
「 小 寒 い 」は 共 感 覚 比 喩 に よ る 拡 張 が で き な い 。前
Ch
engchi
に述べたように、
「 ウ ス - 」は 語 基 に 心 理 的 な 不 快 感 を 付 加 す る 。こ
のため、
「 薄 寒 い 」は 心 理 的 状 態 を 描 写 す る の に 用 い ら れ る 。こ れ に
対し、
「 コ - 」は 単 に 温 度 が 寒 い と い う 基 準 に 達 し て い な い と い う 意
味を表すため、
「 小 寒 い 」は 心 理 的 状 態 を 描 写 す る の に 用 い ら れ な い
のである。
「 小 寒 い 」は 心 理 的 寒 さ を 修 飾 す る こ と が で き な い こ と は
以下の例からも窺える。
(136) a.背 筋 が 薄 寒 い ( 作 例 )
b.*背 筋 が 小 寒 い ( 作 例 )
42
楠 見 ( 1988) に よ れ ば 、 感 覚 か ら 思 考 、 心 的 活 動 な ど の 分 野 へ の 感 覚 転 移 は
すべて共感覚的比喩表現と見なされる。
92 「背筋が寒い」は「恐怖などのためにぞっとする」という心理的
様 子 を 描 写 す る 意 味 を 表 す 。例 (136)で は「 背 筋 が 薄 寒 い 」は 言 え る
が 、「 *背 筋 が 小 寒 い 」 は 非 文 に な る 。
以上をまとめると、
「 薄 寒 い 」と「 小 寒 い 」は 両 方 と も「 身 体 感 覚
で 感 じ 取 っ た 冷 覚 が や や 少 な い 」の 意 味 を 表 す 。
「 ウ ス - 」は 語 基 に
心理的な不快感を付加するため、
「 薄 寒 い 」は 心 理 的 寒 さ を 修 飾 す る
こ と が で き る 。こ れ に 対 し 、
「 コ - 」は 単 に 温 度 が 寒 い と い う 基 準 に
達していないという意味を表すため、
「 小 寒 い 」は 心 理 的 寒 さ を 修 飾
することができない。
5.4.3
立
政 治 大
「薄汚い」と「小汚い」
‧ 國
學
「 ウ ス - 」と「 コ - 」は「 汚 い 」と 共 起 し 、
「 薄 汚 い 」と「 小 汚 い 」
は両方とも「対象物が表す汚れている状態は『汚い』と言える基準
‧
に達していない」の意味を表すが、その修飾対象はやや異なってい
る 。ま ず 、
「 薄 汚 い 」と「 小 汚 い 」は 両 方 と も 実 際 の 汚 れ を 修 飾 す る
y
Nat
n
er
io
al
sit
ことができる。用例を以下に示す。
i
n
U
v
(137) つ れ て い か れ た の は 同 じ く バ イ シ ャ 地 区 の 五 分 も 歩 か な い
Ch
engchi
薄 汚 い ( 小 汚 い ) 安 宿 だ っ た 。( BCCWJ・ 西 牟 田 靖 『 世 界 殴 ら
れ 紀 行 :: ト ラ ブ ル だ ら け の コ テ ン パ ン 旅 日 記 ! 』)
(138) 十 八 は 完 全 に 打 ち の め さ れ ま す 。か ろ う じ て 持 っ て い た 金 で
勘 定 を す ま し 、履 物 を 履 い て 帰 ろ う と 土 間 を 見 ま す と 、汚 い
下駄が出ています。十八は「芸人がこんな小汚い(薄汚い)
下 駄 を 履 く か い 。今 朝 買 っ た ば か り の 新 し い 下 駄 が あ っ た ろ
う 」( Google books・ 童 門 冬 二 『 人 生 で 必 要 な こ と は す べ て
落 語 で 学 ん だ 』)
例 (137)の 「 薄 汚 い 」 と 例 (138)の 「 小 汚 い 」 は 対 象 物 の 外 見 に 汚
れが付いている様子を述べている。そして、次の例では具体的な汚
93 れではなく、抽象的な汚さ、つまり、卑劣・下品であることを修飾
している。
(139) 移 動 の 自 由 を 保 障 さ れ て い る は ず の 市 民 を 隠 し 撮 り す る あ
の 薄 汚 い ( 小 汚 い ) 機 械 で 写 さ れ て い た っ て ? ( BCCWJ・ 有
栖 川 有 栖 /本 格 ミ ス テ リ 作 家 ク ラ ブ 『 本 格 ミ ス テ リ 』)
(140) 「 お れ は 小 汚 い ( 薄 汚 い ) 悪 党 が 大 嫌 い な ん だ 。 こ そ こ そ し
て せ せ こ ま し い 。 こ ん な 奴 ら 、 み て い て 腹 が 立 つ 」( Google
books・ 氷 浦 朱 鷺 『 武 装 幽 霊 』)
政 治 大
例 (139)の 「 薄 汚 い 」 は と 例 (140)の 「 小 汚 い 」 は あ る 対 象 が や っ
立
て い る こ と が 下 品 で あ る こ と を 述 べ て い る 4 3 。 以 上 の 例 (137) ~
‧ 國
きる。
學
(140)に お け る「 薄 汚 い 」と「 小 汚 い 」は 互 い に 置 き 換 え る こ と が で
‧
「 薄 汚 い 」 と 「 小 汚 い 」 に つ い て 、 飛 田 ・ 浅 田 ( 1991) に よ る と
「薄汚い」はなんとなく不潔そうな感じがするという意味であり、
y
Nat
sit
嫌悪感が強く暗示されるのに対し、
「 小 汚 い 」は 汚 れ て い る 状 態 を 侮
n
al
er
io
蔑 す る 暗 示 が 含 ま れ る 。前 述 し た よ う に 、
「 ウ ス - 」が 語 基 に 付 加 す
i
n
U
v
るマイナス評価は心理的な不快感から来たものである。このため、
Ch
engchi
「 薄 汚 い 」に は 嫌 悪 と い う 意 味 が 含 ま れ る 。こ れ に 対 し 、
「 コ - 」が
語 基 に 付 加 す る マ イ ナ ス 評 価 は 軽 侮・軽 蔑 の 意 味 で あ る た め 、
「小汚
い」には侮蔑の意味が含まれると考えられる。このことは次の例か
ら も 窺 え る 。例 (141)と (142)に お い て は「 薄 汚 い 」が 用 い ら れ る が 、
それを「小汚い」に置き換えることができない。
(141) そ ん な 俺 の 薄 汚 い ( *小 汚 い ) 感 情 に な ど 、 全 く 気 付 い て い
ない様子で、先生は俺に、邪気のない笑顔を向ける。
43
飛 田 ・ 浅 田 ( 1991) は 「 彼 は 小 汚 い や り 口 で 商 売 敵 を 蹴 落 と し た 」 と い う 例
を 挙 げ 、「( 小 汚 い は ) や り 口 ・ 手 段 な ど が 卑 劣 で あ る と い う 意 味 に 用 い ら れ る
が、その他の抽象的な意味では普通用いられない」と指摘している。
94 ( http://soracc.sakura.ne.jp/nvl/ss/sss/dlf/dlf06.html )
(142) き っ と 彼 は 自 分 の こ の 薄 汚 い ( *小 汚 い ) 思 い を 知 っ て い た
の だ ろ う 。( http://blogri.jp/gth1046/category/5/4/)
例 (141)で は 話 者 が 自 分 の 感 情 に 対 し て 嫌 悪 の 気 持 ち を 表 す 。 例
(142)も 同 様 で あ る 。つ ま り 、例 (141)と 例 (142)に お い て は 軽 蔑 の 意
味 で は な く 、嫌 悪 の 気 持 ち を 表 す た め 、
「 薄 汚 い 」で 修 飾 で き る が「 小
汚い」で修飾できない。
「 ウ ス - 」と「 コ - 」は 語 基 に <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、程 度 が
低 い >の 意 味 を 付 加 す る た め 、複 合 語 が 表 す 状 態 は 語 基 が 表 す 状 態 よ
政 治 大
り 少 な く 感 じ ら れ る が 、 評 価 性 に つ い て 言 う と 例 (137)~ (142)に お
立
ける「薄汚い」と「小汚い」は「汚い」よりマイナス評価が高いと
‧ 國
學
感 じ ら れ る 。こ れ は「 薄 汚 い 」に は 嫌 悪 感 の 意 味 が 含 ま れ 、
「小汚い」
に は 侮 蔑 の 意 味 が 含 ま れ る か ら で あ る 。普 通 、
「 汚 い 教 室 」の よ う な
‧
例においては対象の状態を叙述するだけで、感情的な意味が含まれ
て い な い 。し か し 、
「 薄 汚 い 教 室 」、
「 小 汚 い 教 室 」に な る と「 嫌 悪 感 」、
y
Nat
sit
「 侮 蔑 」の よ う な 感 情 的 な 意 味 が 含 ま れ 、
「 汚 い 」よ り マ イ ナ ス 評 価
n
al
er
io
が 高 ま る 。 つ ま り 、「 ウ ス - 」 と 「 コ - 」 の 付 加 に よ っ て 「 薄 汚 い 」
i
n
U
v
と「小汚い」はさらにそれぞれ「嫌悪感」と「侮蔑」の意味が付け
Ch
engchi
加 え ら れ る た め 、「 汚 い 」 よ り マ イ ナ ス 評 価 が 高 く 感 じ ら れ る 。
以上をまとめると、
「 薄 汚 い 」は な ん と な く 不 潔 そ う な 感 じ が す る
という意味を表し嫌悪感が含まれるのに対し、
「 小 汚 い 」は 汚 れ て い
る状態を侮蔑するという意味を表す。両者は「汚い」に比べ感情的
意味が含まれるため、マイナス評価が高く感じられることが分かっ
た。
5.4.4
「薄馬鹿」と「小馬鹿」
「馬鹿」は主に二つの意味を表す。一つは「記憶力・理解力の鈍
さが常識を超える様子」であり、もう一つは「社会通念としての常
識 に ひ ど く 欠 け て い る さ ま 」で あ る 。
「 ウ ス - 」は「 記 憶 力・理 解 力
95 の 鈍 さ が 常 識 を 超 え る 様 子 」の 意 味 と 結 合 す る の に 対 し 、
「 コ - 」は
「社会通念としての常識にひどく欠けているさま」の意味と結合す
る 。そ し て 、
「 薄 馬 鹿 」は 名 詞 と し て 用 い ら れ る が 、
「 小 馬 鹿 」は「 小
馬 鹿 に す る 」 と い う 用 法 の み あ る 。 ま ず 、「 薄 馬 鹿 」 の 用 例 を 見 る 。
(143) ( 前 略 )、 内 も 外 も 変 わ り な く 、 た だ の べ つ 幕 無 し に 人 間 の
生活から逃げ廻ってばかりいる薄馬鹿の自分ひとりだけ完
全 に 取 残 さ れ 、 堀 木 に さ え 見 捨 て ら れ た よ う な 気 配 に 、( 後
略 )。( Google books・ 太 宰 治 『 人 間 失 格 ・ 富 嶽 百 景 』)
(144) ひ と り で 、 喜 ん で 、 笑 っ て い る 。 薄 馬 鹿 み た い な よ う で あ る
政 治 大
が、どうも薄気味わるくて、うちとけられない。すると、半
立
平 は 、 又 、 ち ょ っ と 考 え 深 そ う な 顔 に か え っ て 、( 後 略 )。
‧ 國
學
( Google books・『 現 代 忍 術 伝 』)
‧
例 (143)の「 薄 馬 鹿 」は 自 分 を 責 め 、不 快 の 気 持 ち を 表 す 。例 (144)
の「薄馬鹿」は知力が低下するような様子を描写し、心理的な不快
y
Nat
sit
感 を 表 す 。つ ま り 、
「 薄 馬 鹿 」は「 や や 記 憶 力・理 解 力 の 鈍 さ が 常 識
n
al
er
io
を 超 え る 様 子 」 の 意 味 と 心 理 的 な 不 快 感 を 表 す 。 そ し て 、「 小 馬 鹿 」
の用例を以下に示す。
Ch
engchi
i
n
U
v
(145) ( 前 略 )、 私 が ほ ん と に そ う で ご ざ い ま す な ん て 返 事 を し た
ら却って先さまを軽蔑、小馬鹿のように扱う気がするから、
私 は 返 事 が で き な く て 、た だ ニ ッ コ リ 笑 う 。
( Google books・
『 青 鬼 の 褌 を 洗 う 女 』)
(146) 「 あ あ … 、 例 の 『 臨 時 君 』 ね 。 話 は 聞 い て い る 」 開 口 一 番 、
どこか小馬鹿にしたような口調で言われてムゥ〜ッとなる。
ハ ッ キ リ 言 っ て 、第 一 印 象 最 悪 っ !( BCCWJ・斑 鳩 サ ハ ラ『 漆
黒 の 薔 薇 に く ち づ け を 』)
例 (145)と (146)の 「 小 馬 鹿 」 は 「 社 会 通 念 と し て の 常 識 に ひ ど く
96 欠けているさま」の意味と「軽侮・軽蔑」の意味を表す。
前 述 し た よ う に 、 <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >の 意 味
を表す「ウス-」が語基に付加するマイナス評価は心理的な不快感
か ら 来 た も の で あ る 。こ の た め 、
「 薄 馬 鹿 」は「 記 憶 力・理 解 力 の 鈍
さが常識を超える様子」の意味と心理的な不快感を表す。これに対
し、
「 コ - 」が 語 基 に 付 加 す る マ イ ナ ス 評 価 は 軽 侮・軽 蔑 の 意 味 で あ
るため、
「 小 馬 鹿 」は「 社 会 通 念 と し て の 常 識 に ひ ど く 欠 け て い る さ
ま」の意味と「軽侮・軽蔑」という評価的意味を表す。先ほど述べ
た よ う に 、「 小 馬 鹿 」 は 「 小 馬 鹿 に す る 」 と い う 用 法 で 用 い ら れ る 。
「馬鹿にする」は「相手を愚か者のように扱い、対象とする事柄を
政 治 大
軽 視 し た り 、な め て か か っ た り す る 」の 意 味 を 表 し 、
「 コ - 」が 表 す
立
軽 侮・軽 蔑 の 意 味 と 融 合 す る た め 、
「 小 馬 鹿 に す る 」が 用 い ら れ る の
‧ 國
學
である。
以 上 を ま と め る と 、「 薄 馬 鹿 」 は 名 詞 と し て 用 い ら れ る が 、「 小 馬
‧
鹿」は「小馬鹿にする」で用いられ、形容詞的意味を持っている。
意味の面においては「薄馬鹿」は「記憶力・理解力の鈍さが常識を
y
Nat
sit
超 え る 様 子 」の 意 味 と 心 理 的 な 不 快 感 を 表 す の に 対 し 、
「 小 馬 鹿 」は
n
al
軽蔑」という評価的意味も表す。
5.4.5
Ch
engchi
er
io
「 社 会 通 念 と し て の 常 識 に ひ ど く 欠 け て い る さ ま 」の 意 味 と「 軽 侮・
i
n
U
v
「薄気味」と「小気味」
『 日 本 国 語 大 辞 典 』に お い て は「 薄 気 味 」は「 薄 気 味( が )悪 い 」
が載せられており、
「 小 気 味 」は「 小 気 味( が )い い 」と「 小 気 味( が )
悪 い 」 の 両 方 が 載 せ ら れ て い る 4 4 。 し か し 、『 現 代 日 本 語 書 き 言 葉 均
衡 コ ー パ ス 』( 中 納 言 1.1.0) で 検 索 し て み る と 、「 薄 気 味 」 は 「 悪
い 」 と し か 共 起 せ ず 、「 小 気 味 」 は 「 い い 」 と し か 共 起 し な い 4 5 。 ま
44
劉 ( 2007) は 「[ こ [ 気 味 好 ]] い 」、「[ こ [ 気 味 悪 ]] い 」 の 2 語 は 内 部 構 造
か ら 見 る と 、 中 心 部 の 「[ 気 味 好 ] い 」、「[ 気 味 悪 ] い 」 は 「 名 詞 + 形 容 詞 」 か
らの複合語であり、それらの先頭にまた「こ-」が付け加えられて、全体が派
生(複合)形容詞になると述べている。
45
「 薄 気 味 」 の 119 件 の 検 索 結 果 は す べ て 「 悪 い 」 と 共 起 し 、「 小 気 味 」 の 91
件の検索結果はすべて「いい」と共起している。
97 た 、「 小 気 味 ( が ) 悪 い 」 の 例 が 見 当 た ら な い 。 用 例 を 以 下 に 示 す 。
(147) 「 ど う し て そ ん な こ と を な さ る ん で す 。薄 気 味 悪 い じ ゃ あ り
ま せ ん か 。」( 中 納 言 ・ 車 谷 長 吉 『 贋 世 捨 人 』)
(148) ど う か し た 都 合 で 、 そ の 場 に 居 合 わ せ た 男 が 、 女 の 一 家 が 焼
け出される有様を小気味のいいことに思って眺めている。
( 中 納 言 ・ 江 戸 川 乱 歩 『 算 盤 が 恋 を 語 る 話 』)
例 (147)の「 薄 気 味 悪 い 」は 対 象 に 対 す る 嫌 な 気 持 ち を 表 し 、不 快
感 が 含 ま れ る 。前 述 し た よ う に 、
「 ウ ス - 」が 語 基 に 付 加 す る マ イ ナ
政 治 大
ス 評 価 は 心 理 的 な 不 快 感 か ら 来 た も の で あ る 。こ の た め 、
「薄気味悪
立
い」は「気味悪い」に比べ不快感が含まれると考えられる。一方、
‧ 國
學
「小気味好い」は「物事の行なわれ方があざやかで、見たり聞いた
り し て 気 持 が 良 い 」と い う プ ラ ス 評 価 的 意 味 を 表 す 。例 (148)の「 小
‧
気味好い」は相手の失敗などを見て痛快な気持ちを表し、プラス評
価と認められる。 y
Nat
sit
以上をまとめると、
「 薄 気 味 」は「 悪 い 」と し か 共 起 で き な い の に
n
al
er
io
対 し 、「 小 気 味 」 は 「 い い 」 と し か 共 起 で き な い 。「 薄 気 味 悪 い 」 は
i
n
U
v
対象に対する「嫌い」の気持ちを表し不快感が含まれる。これに対
Ch
engchi
し、
「 小 気 味 好 い 」は「 物 事 の 行 な わ れ 方 が あ ざ や か で 、見 た り 聞 い
たりして気持が良い」というプラス評価的意味を表す。 98 第6章
結論
6.1
まとめ
従来の研究は「ウス-」と「コ-」に対する意味記述が不十分で
ある。
「 ウ ス - 」と「 コ - 」が 表 す 評 価 性 と 両 者 が 持 つ 多 義 ネ ッ ト ワ
ークを解明しておらず、
「 ウ ス - 」と「 コ - 」に よ る 複 合 語 の 類 義 関
係も明らかにしていない。
本 稿 は ま ず 、異 形 態 と 類 義 語 と い う 側 面 か ら「 ウ ス - 」と「 コ - 」
の 言 語 特 性 を 見 る 。考 察 の 結 果 、
「 ウ ス - 」の 異 形 態 と し て「 ウ ス ラ
- 」と「 ウ ソ - 」が あ る 。
「 ウ ス ラ - 」は「 ウ ス - 」よ り 感 覚 的 な 表
政 治 大
現を表し、
「 ウ ソ - 」は「 ウ ス ラ - 」よ り さ ら に 人 間 感 覚 を 描 写 す る 。
立
一 方 、「 コ - 」 の 異 形 態 と し て 「 コ ッ - 」 と 「 オ - 」 が あ る 。「 コ ッ
‧ 國
學
- 」 は 程 度 緩 和 の 「 コ - 」 と 違 い 、 程 度 強 調 の 意 味 を 表 し 、「 オ - 」
は「コ-」に比べ、接辞化の程度が高まっている。そして、類義語
‧
に比べ「ウス-」はマイナス評価を表し、プラスイメージの語と共
起しにくく、
「 ウ ス - 」は 物 事 の 程 度 に 対 し 人 間 認 識 の 平 均 値 に よ っ
y
Nat
sit
て判断する。一方、類義語に比べ「コ-」は「量が少ない」の意味
n
al
er
io
を表すと同時に、
「 動 作 の 規 模 が 小 さ い 」の 意 味 も 表 す 。さ ら に 、
「ウ
i
n
U
v
ス-」と「コ-」は両方とも語基にマイナス評価を付加する場合が
Ch
engchi
あるが、
「 ウ ス - 」の 場 合 は 心 理 的 な 不 快 感 の 意 味 が 含 ま れ る の に 対
し 、「 コ - 」 の 場 合 は 軽 侮 ・ 軽 蔑 の 意 味 が 含 ま れ る 。
次に、
「 ウ ス - 」と「 コ - 」が 表 す 多 義 性 を 解 明 す る こ と を 試 み た 。
研究結果を以下に示す。
「 ウ ス - 」の 多 義 ネ ッ ト ワ ー ク は 次 の 通 り で
ある。 99 プロトタイプ
別義1
別義2
<厚 さ の 値 が 少
<濃 度・密 度 が
<あ る 基 準 に 達 し て
ない>
低い>
おらず、程度が低い>
メタファー:
メトニミー:
図3
「ウス-」の多義ネットワーク(再掲)
プロトタイプから別義1への拡張は「次元→五感」という共感覚
政 治 大
的比喩によって拡張され、メタファーやメトニミーによるものであ
立
る。そして、別義1から別義2への拡張は「具体→抽象」という抽
‧ 國
學
象化によって拡張され、メタファーによるものである。 一 方 、「 コ - 」 の 多 義 ネ ッ ト ワ ー ク は 次 の 通 り で あ る 。 ‧
別義1
sit
別義3
<物 理 的 な 量
<動 作 の 継 続 時 間 が
er
io
<占 め る 空 間
y
Nat
プロトタイプ
a lが 少 な い >
v短 い >
i
n
Ch
engchi U
n
が小さい>
別義2
別義4
<年 齢 が 幼 い >
<あ る 基 準 に 達 し て
お ら ず 、程 度 が 低 い >
メタファー:
メトニミー:
図5
「コ-」の多義ネットワーク(再掲)
100 プロトタイプから別義1への拡張は「容器→内容」というメトニ
ミーによるものである。プロトタイプから別義2への拡張は「身体
→ 属 性 」と い う メ ト ニ ミ ー の 一 種 で あ る 共 存 関 係 に よ る も の で あ る 。
別義1から別義3への拡張は「空間→時間」というメタファーによ
るものである。別義1から別義4への拡張は「具体→抽象」という
抽象化によって拡張され、メタファーによるものである。 そして、本稿は「ウス-」と「コ-」が各意味を表す場合は語基
にどのような評価性を付加するかを見た。
「 ウ ス - 」が 表 す 三 つ の 意
味 の 中 に <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >と い う 意 味 を 表 す
場 合 に 限 り 語 基 に 評 価 性 を 付 加 す る 。一 方 、
「 コ - 」が 表 す 五 つ の 意
政 治 大
味 の 中 に <年 齢 が 幼 い >と <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >と
立
いう意味を表す場合では語基に評価性を付加する。
「 ウ ス - 」と「 コ
‧ 國
學
- 」 は 同 じ く <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >と い う 意 味 を
表すが、
「 ウ ス - 」は プ ラ ス 評 価 の 語 基 に 付 か な い の に 対 し 、
「コ-」
‧
は プ ラ ス 評 価 の 語 基 に 付 く 。そ し て 、
「 ウ ス - 」と「 コ - 」は マ イ ナ
ス評価を表す語基にさらにマイナス評価を付加するが、
「 ウ ス - 」が
y
Nat
sit
語基に付加するマイナス評価は心理的な不快感から生じたものであ
n
al
er
io
るのに対し、
「 コ - 」が 語 基 に 付 加 す る マ イ ナ ス 評 価 は 矮 小 性 か ら 転
じた軽侮・軽蔑の意味である。 Ch
engchi
i
n
U
v
以上の結果を踏まえ「ウス-」と「コ-」による複合語の類義関
係を明らかにした。結果は次の通りである。
「 ウ ス - 」と「 コ - 」は 同 じ く <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、程 度 が
低 い >の 意 味 を 表 し 、 さ ら に 、 両 方 と も 「 暗 い 」、「 寒 い 」、「 汚 い 」、
「 馬 鹿 」と「 気 味 」と い う 語 基 と 共 起 す る 。
「 ウ ス - 」と「 コ - 」の
違いは表3の通りである。
101 表3
「ウス-」と「コ-」の違い
語基に付加する
マイナス評価の違い
「ウス-」
「コ-」
心理的な不快感
軽侮・軽蔑の意味
「ウス-」と「コ-」が表す評価性の違いは次のように類義語に
反映している。
ま ず 、「 薄 暗 い 」 は 不 気 味 な 感 覚 が 含 ま れ る の に 対 し 、「 小 暗 い 」
は光の明暗に重点を置き、よく見えないという状態を表す。このた
め、
「 薄 暗 い 」は 抽 象 物 を 修 飾 す る こ と が で き る の に 対 し 、
「小暗い」
政 治 大
は抽象物を修飾することができない。 立
次 に 、「 ウ ス - 」 は 語 基 に 心 理 的 な 不 快 感 を 付 加 す る た め 、「 薄 寒
‧ 國
學
い 」は 心 理 的 寒 さ を 修 飾 す る こ と が で き る の に 対 し 、
「 コ - 」は 心 理
的な不快感を表さないため、
「 小 寒 い 」は 心 理 的 寒 さ を 修 飾 す る こ と
‧
ができない。
そして、
「 薄 汚 い 」は な ん と な く 不 潔 そ う な 感 じ が す る と い う 意 味
y
Nat
sit
を 表 し 、嫌 悪 感 が 含 ま れ る の に 対 し 、
「 小 汚 い 」は 汚 れ て い る 状 態 を
al
n
高く感じられる。
er
io
侮蔑するという意味を表す。両者は「汚い」に比べマイナス評価が
Ch
engchi
i
n
U
v
また、
「 ウ ス - 」と「 コ - 」は 両 方 と も「 馬 鹿 」と い う 語 基 に 付 く
が、
「 ウ ス - 」は「 記 憶 力・理 解 力 の 鈍 さ が 常 識 を 超 え る 様 子 」の 意
味と結合するのに対し、
「 コ - 」は「 社 会 通 念 と し て の 常 識 に ひ ど く
欠 け て い る さ ま 」の 意 味 と 結 合 す る 。
「 薄 馬 鹿 」に は 心 理 的 な 不 快 感
と い う 感 情 的 意 味 が 含 ま れ る の に 対 し 、「 小 馬 鹿 」 は 「 軽 侮 ・ 軽 蔑 」
と い う 評 価 的 意 味 を 表 す 。そ し て 、
「 薄 馬 鹿 」は 名 詞 と し て 用 い ら れ
る が 、「 小 馬 鹿 」 は 「 小 馬 鹿 に す る 」 と い う 連 用 形 と し て 用 い ら れ 、
形容詞的意味を持っている。
最 後 に 、「 薄 気 味 」 は 「 悪 い 」 と し か 共 起 で き な い の に 対 し 、「 小
気 味 」は「 い い 」と し か 共 起 で き な い 。
「 薄 気 味 悪 い 」は 対 象 に 対 す
る「 嫌 い 」の 気 持 ち を 表 し 、不 快 感 が 含 ま れ る の に 対 し 、
「小気味好
102 い」は「物事の行なわれ方があざやかで、見たり聞いたりして気持
が良い」というプラス評価的意味を表す。 6.2
今後の課題
本 稿 で は「 ウ ス - 」と「 コ - 」の 多 義 性 と 評 価 性 、そ し て 、
「ウス
-」と「コ-」による複合語がどのような類義関係にあるかを考察
したが、いくつかの問題点が残っている。 まず、
「 薄 暗 い・小 暗 い 」の 類 義 語 と し て「 仄 暗 い 」が 挙 げ ら れ る 。
次の例がある。
政 治 大
(149) 仄 暗 い 密 室 で 、ふ た た び 段 差 の っ い た 肘 掛 の あ る 椅 子 へ 身 体
立
を 埋 め た と き 、な ん と も い え な い 嫌 な 気 分 が 、予 期 し な か っ
‧ 國
學
た 暗 い 濃 度 で 胸 を 覆 っ て い る の を 原 は 感 じ た 。( Google
books・『 独 身 生 活 』)
‧
例 (149)の「 仄 暗 い 」は「 日 光 や 灯 火 な ど の 光 が 弱 く て 、少 し 暗 い 」
y
Nat
sit
の 意 味 を 表 し 、「 薄 暗 い 」 や 「 小 暗 い 」 に 置 き 換 え る こ と が で き る 。
al
n
次の例がある。
er
io
ま た 、「 薄 気 味 ・ 小 気 味 」 の 類 義 語 と し て 「 底 気 味 」 が 挙 げ ら れ る 。
Ch
engchi
i
n
U
v
(150) 日 外 一 度 取 調 べ ら れ て か ら 、ど こ と な く 底 気 味 の 悪 い 刑 事 だ
と 思 っ て い た 根 岸 が 、時 も 時 、ひ ょ っ こ り 眼 の 前 に 立 っ て い
た の だ か ら 、浅 田 の 驚 き は 大 抵 で な か っ た 。
( Google books・
『 支 倉 事 件 』)
例 (150)の「 底 気 味 」は「 心 の 底 に 何 と な く 感 じ ら れ る 気 持 」の 意
味 を 表 し 、「 薄 気 味 」 や 「 小 気 味 」 に 置 き 換 え る こ と が で き る 。「 仄
暗い」と「底気味」のように「ウス-」と「コ-」と類義関係にあ
る語が見られる。これらの語は「ウス-」と「コ-」とどのような
類義関係にあるかは問題として残される。
103 次 に 、 劉 ( 2007) は 「 ウ ス - 」 の 異 形 態 と し て 「 ウ ス ラ - 」 4 6 と
「 ウ ソ - 」を 挙 げ て い る 。
「 ウ ス - 」と「 ウ ス ラ - 」は 同 じ 語 基 に 付
く 場 合 が 見 ら れ る 。例 え ば 、
「 薄 明 か り・薄 ら 明 か り 」、
「 薄 日・薄 ら
日 」で あ る 。
「 ウ ス - 」と「 ウ ソ - 」も 同 じ 語 基 に 付 く 場 合 が 見 ら れ
る 。例 え ば 、
「 う す 汚 い・う そ 汚 い 」、
「 う す 気 味 悪 い・う そ 気 味 悪 い 」、
「うす暗い・うそ暗い」などが挙げられる。異形態は同じ形態素が
それぞれほんの少しだけ異なる姿で現れることから考えると、
「ウス
- 」、「 ウ ス ラ - 」 と 「 ウ ソ - 」 は 同 じ 語 基 に 付 く こ と は 興 味 深 い 現
象である。これらの語はどのような違いがあるかは問題として残さ
れる。
政 治 大
本稿は「ウス-」と「コ-」について見てきたが、まだ多くの問
立
題が残されている。今後は本稿における不足な点に加え以上の問題
‧
‧ 國
學
を課題として取り組んでいきたい。
n
er
io
sit
y
Nat
al
Ch
engchi
i
n
U
v
46
劉( 2007)は「 形 容 詞『 う す い 』の 語 幹 で あ り 副 詞 的 に 用 い ら れ て い る の で 、
接 辞 で は な く 、 一 つ の 『 語 幹 』 で あ る 」 と 述 べ て い る 。 ま た 、 湯 ・ 劉 ( 2012)
は「『 う す - 』と『 う す ら - 』は 、語 幹 と 接 頭 辞 と の 間 に 位 置 づ け ら れ る 連 続 相
的な存在ではなかろうか」と述べている。第1章で述べたように、本稿は「ウ
ス-」と「コ-」の多義性、および両者の類義関係を解明するのが目的で、語
根か接辞かを問題としない。
104 付録1
「ウス-」による複合語
1 . プ ロ ト タ イ プ <占 め る 空 間 の 大 き さ が 小 さ い >
(名詞)
うすいた【薄板】
う す く ち び る【 薄 唇 】 う す な べ 【 薄 鍋 】
うすえり【薄襟】
うすぐも【薄雲】
うすば【薄歯】
うすかわ【薄皮】
うすごおり【薄氷】
うすば【薄刃】
うすがね【薄金】
う す こ は く【 薄 琥 珀 】 う す ば お り【 薄 羽 織 】
うすがみ【薄紙】
うすじお【薄塩】
うすめ【薄目】
うすぎ【薄着】
うすじ【薄地】
うすゆき【薄雪】
うすぎぬ【薄衣】
うすだたみ【薄畳】
立
うすぎぬ【薄絹】
‧ 國
學
政 治 大う す わ た 【 薄 綿 】
(連用形名詞) うすぬり【薄塗】
‧
うすぎり【薄切】
うすやき【薄焼】
sit
y
Nat
al
n
(名詞)
er
io
2 . 別 義 1 <濃 度 ・ 密 度 が 低 い >
うすあい【薄藍】
Ch
i
n
U
v
e n gうcすhすi お う 【 薄 蘇 芳 】
うすあお【薄青】
うすずみ【薄墨】
うすあおげ【薄青毛】
うすちゃいろ【薄茶色】
うすあか【薄赤】
うすづき【薄月】
うすあさぎ【薄浅葱】
うすにび【薄鈍】
うすあばた【薄痘痕】
うすねずみ【薄鼠】
うすかば【薄樺】
うすはないろ【薄花色】
うすがき【薄柿】
うすはなざくら【薄花桜】
うすがすみ【薄霞】 うすひげ【薄髭】
うすがゆ【薄粥】
うすび【薄日】
105 うすきん【薄金】
うすびん【薄鬢】
うすくりげ【薄栗毛】
うすふたあい【薄二藍】
うすくれない【薄紅】
うすべに【薄紅】
うすけむり【薄煙】
うすみどり【薄緑】
うすこうばい【薄紅梅】
うすむらさき【薄紫】
うすしたじ【薄下地】
うすもえぎ【薄萌葱・薄萌黄】
うすじょうゆ【薄醤油】
うすもや【薄靄】
うすやみ【薄闇】
(連用形名詞) 政 う治
すざいしき【薄彩色】
大
うすがき【薄書】 立
うすぎり【薄霧】 うすぞめ【薄染】
‧ 國
‧
(動詞)
うすにおい【薄匂】
學
うすげしょう【薄化粧】 うすがすむ【薄霞む】
sit
y
Nat
al
n
(名詞) er
io
3 . 別 義 2 <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >
うすあきない【薄商】
Ch
うすがく【薄学】
i
n
U
v
e n gうcすhなi か 【 薄 仲 】
うすなさけ【薄情】
(連用形名詞) うすあかり【薄明】
うすはげ【薄禿】
うすぐれ【薄暮】
うすぐもり【薄曇】
うすくらがり【薄暗がり】
うすわらい【薄笑】
うすじめり【薄湿】
うすじり【薄知】
うすにごり【薄濁】
106 (動詞)
うすよごれる【薄汚れる】
うすわらう【薄笑う】
うすぼける【薄ぼける】
うすぐもる【薄曇る】
(形容詞) うすあかい【薄明い】 うすさむい【薄寒い】 うすあかるい【薄明るい】 うすじろい【薄白い】 うすぎたない【薄汚い】 うすどん【薄鈍】 うすぎみわるい【薄気味悪い】 うすのろ【薄鈍】 うすぐらい【薄暗い】 うすのろい【薄鈍い】 うすぐろい【薄黒い】 立
政 治 う大
すばか【薄馬鹿】 うすさびしい【薄寂しい・薄淋しい】 ‧
‧ 國
io
sit
y
Nat
n
al
er
學
Ch
engchi
107 i
n
U
v
立
政 治 大
‧
‧ 國
學
n
er
io
sit
y
Nat
al
Ch
engchi
108 i
n
U
v
付録2
「コ-」による複合語
1 . プ ロ ト タ イ プ <占 め る 空 間 の 大 き さ が 小 さ い > 4 7
(名詞)
こあざ【小字】
こしょうぎ【小床几・小
こばた【小旗】
こあし【小足】
将几】
こばち【小鉢】
こいえ【小家】
こしょうじ【小障子】
こばと【小鳩・子鳩】*
こいき【小息】
こじろ【小城】
こばね【小羽根】
こいけ【小池】
こじわ【小皺】
こはば【小幅】
こいそ【小磯】
こしんでん【小寝殿】
こばり【小針】
こいた【小板】
こすぎ【小杉】
こいぬ【小犬・子犬】
政 治 大こばんし【小半紙】
立こ す ぎ は ら 【 小 杉 原 】
こひきめ【小蟇目・小引
目】
こうたせあみ【小打瀬網】
こすず【小鈴】
こひげ【小髭】
こうで【小腕】
こすずめ【小雀・子雀】*
こびさし【小庇・小廂】
こうま【小馬・子馬・仔
こすずり【小硯】
こひっさきもとゆい【小
こすだれ【小簾】
引裂元結】
こすみ【小隅・小角】
こひつじ【小羊・子羊】*
こえん【小縁】
y
sit
er
a lこ ず み 【 小 炭 】
こvび と 【 小 人 】
i
n
C hし 【 小 草 紙 ・ 小U
こぞう
e n g c hi 双 こびな【小雛】
n
こえり【小襟】
io
こえだ【小枝】
Nat
馬】
‧
‧ 國
こすげ【小菅】
學
こいも【小芋・子芋】
こお【小緒】
紙】
こひょう【小兵】
こおけ【小桶】
こぞりは【小反刃】
こびょう【小俵】
こおとこ【小男】*
こだいこ【小太鼓】
こびょうぶ【小屏風】
こおんな【小女】*
こだいこく【小大黒】
こびん【小瓶・小罎】
こがい【小貝】
こたか【小鷹】
こぶくろ【小袋】
こがいな【小腕】
こたかつき【小高坏】
こぶさ【小総】
こがお【小顔】
こだち【小太刀】
こぶし【小節】
こがた【小形・小型】
こたば【小束】
こぶすま【小衾】
47
「 *」 が 付 い た 複 合 語 は 同 時 に <占 め る 空 間 の 大 き さ が 小 さ い >と <年 齢 が 幼 い
>と い う 二 つ の 意 味 を 表 す も の で あ る 。
109 こがたな【小刀】
こだま【小玉】
こふだ【小札】
こかたびら【小帷子】
こだん【小段】
こふたもの【小蓋物】
こかぶら【小鏑】
こちょう【小帳】
こふで【小筆】
こかべ【小壁】
こちょんの【小手斧】
こぶな【小鮒】
こがま【小窯】
こづか【小柄】
こぶね【小船・小舟】
こがみ【小紙】
こづち【小槌】
こぶみ【小文】
こがら【小柄】
こづつ【小筒】
こべんとう【小弁当】
こがらす【小烏・子烏】
こつづみ【小鼓】
こぼうしょ【小奉書】
こからびつ【小唐櫃】
こづつみ【小包】
こぼとけ【小仏】
こかりぎぬ【小狩衣】
こつぶ【小粒】
こぼね【小骨】
こかわらけ【小土器】
こつぼ【小壺・小坪】
政 治 大こほん【小本】
立こ づ め 【 小 爪 】
こぎ【小木】
こま【小間】
こまく【小幕】
こぎつね【小狐・子狐】*
こてんぐ【小天狗】
こまつ【小松】
こぎね【小杵】
こど【小戸】
こまつばら【小松原】
こきりど【小切戸】
こどうぐ【小道具】
こまと【小的】
こどころ【小所】
こみせ【小店】
ことり【小鳥】
こみだし【小見出】
こぐるま【小車】
y
sit
a lこ な ぎ な た 【 小 長 刀 ・ 小 iこvみ ち 【 小 道 ・ 小 径 】
nこみね【小峰】
Ch
U
薙刀】
engchi
n
こぐま【小熊・子熊】*
er
io
こぐし【小串】
Nat
こぐさ【小草】
‧
‧ 國
こづら【小面】
學
こぎく【小菊】
ここうじ【小柑子】
こなすび【小茄子】
こもじ【小文字】
こごうし【小格子】
こなべ【小鍋】
こもの【小物】
こござぶね【小御座船】
こなみ【小波】
こもん【小門】
こざお【小竿】
こなわ【小縄】
こや【小矢】
こざか【小坂】
こにもつ【小荷物】
こや【小屋】
こざかな【小魚・小肴】
こにょうぼう【小女房】*
こやかた【小屋形】
こざさ【小笹・小篠】
こにわ【小庭】
こやっこ【小奴】
こさじ【小匙】
こぬさ【小幣】
こやど【小宿】
こざしき【小座敷】
こね【小根】
こやね【小屋根】
こざと【小里】
こねこ【小猫・子猫】*
こやま【小山】
110 こざね【小札・小実】
こねずみ【小鼠・子鼠】*
こやり【小槍】
こさび【小皺】
こねまき【小寝巻】
こゆみ【小弓】
こざら【小皿】
このき【小軒・小簷】
こよぎ【小夜着】
こざる【小猿・子猿】*
このぼり【小幟】
こよろい【小鎧】
こじとみ【小蔀】
こばえ【小蠅】
こわきざし【小脇差】
こしば【小柴】
こはぎ【小萩】
こいし【小石】
こしばい【小芝居】
こばこ【小箱・小筥】
こかげ【小陰】
こしほう【小四方】
こはし【小端】
こしんでん【小寝殿】
こじま【小島】
こはじとみ【小半蔀】
こじょいん【小書院】
立
(連用形名詞:モノ名詞)
政 治 大
こづくり【小作】
こぞなえ【小備】
こともし【小灯】
こじかけ【小仕掛】
こひきだし【小引出・小抽出】
‧
‧ 國
學
こがまえ【小構】
こぎれ【小切】
sit
y
Nat
al
n
こがき【小書】
er
io
(連用形名詞:デキゴト名詞)
こぎり【小切】
Ch
i
n
U
v
こぐみ【小組】
e n gこcわhりi 【 小 割 】
(連用形名詞:トコロ名詞)
こくらがり【小暗がり】
2 . 別 義 1 <物 理 的 な 量 が 少 な い >
(名詞)
こかぜ【小風】
こざかもり【小酒盛】
こにんずう【小人数】
こがね【小金】
こしお【小潮】
こばみ【小食】
こきず【小傷・小疵】
こしょく【小食】
こ び ゃ く し ょ う【 小 百 姓 】
こげた【小桁】
こじち【小質】
こみず【小水】
111 こごえ【小声】
こぜに【小銭】
こめし【小飯】
こさけ【小酒】
こちゅうはん【小昼飯・
こもんじ【小文字】
こさつ【小札】
小中飯】
こゆき【小雪】
こさめ【小雨】
(連用形名詞:ヒト名詞)
こぬすびと【小盗人】
こしょうにん【小商人】
こあきんど【小商人】
政 治 大
(連用形名詞:デキゴト名詞)
こあきない【小商】
立こ ざ い く 【 小 細 工 】
こぬすみ【小盗】
こばらい【小払】
こうんそう【小運送】
こづもり【小積】
こびき【小引】
こがい【小買】
こづり【小釣】
こぶち【小扶持】
こがえし【小返】
こどり【小取】
こわけ【小分】
sit
y
Nat
al
n
こおとこ【小男】*
er
io
3 . 別 義 2 <年 齢 が 幼 い >
(名詞)
‧
‧ 國
こだし【小出】
學
こうり【小売】
v
i
n
C hし き 【 小 雑 色 】U こ め ら わ 【 小 女 童 】
こぞう
engchi
こおんな【小女】*
こちご【小稚児】
こめろ【小女郎】
こかんじゃ【小冠者】
こでっち【小丁稚】
こめろう【小女郎】
こぎつね【小狐・子狐】*
ことのばら【小殿原】
こもの【小者】
こぎみ【小君・子君】
こにょうぼう【小女房】*
こゆな【小湯女】
こきんだち【小公達】
こねこ【小猫・子猫】*
こよね【小娘】
こぐま【小熊・子熊】*
こねずみ【小鼠・子鼠】*
こわかぎみ【小若君】
こけいせい【小傾城】
こばと【小鳩・子鳩】*
こわかしゅ【小若衆】
こごしょう【小小姓・児
こひつじ【小羊・子羊】*
こわらわ【小童】
小姓】
こぼうず【小坊主】
こたろう【小太郎】
こざむらい【小侍】
こむすこ【小息子】
こだんな【小旦那】
112 こざる【小猿・子猿】*
こむすめ【小娘】
こひめ【小姫】
こじょろう【小女郎】
こめ【小女】
こわらわ【小童】
こすずめ【小雀・子雀】*
こめくら【小盲】
4 . 別 義 3 <動 作 の 継 続 時 間 が 短 い >
こやすみ【小休】
こやみ【小止・小歇】 5 . 別 義 4 <あ る 基 準 に 達 し て お ら ず 、 程 度 が 低 い >
(名詞)
政 こ治
ざいし【小才子】
大
こさい【小才】
立
こさいかく【小才覚】
こりくつ【小理屈・小理窟】
‧ 國
學
(形容詞と形容動詞)
こながい【小長い】
こうるさい【小煩い】
こなまいき【小生意気】
‧
こいき【小意気・小粋】
y
Nat
こきみよい【小気味好い】
こにくらしい【小憎らしい】
er
n
al
sit
こにくてい【小憎体】
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こがら【小辛】
こぎたない【小汚い】
こぎてん【小機転】
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こぎよう【小器用】
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こぬるい【小温い】
e n gこcはhずi か し い 【 小 恥 ず か し い 】
こばか【小馬鹿】
こぎれい【小綺麗】
こばやい【小早い】
こくめん【小工面】
こぶかし【小深し】
こぐらい【小暗い】
こまだるい【小間怠い】
こ さ び し い【 小 寂 し い・小 淋 し い 】 こ ま め 【 小 忠 実 】
こさむい【小寒い】
こみじかい【小短い】
こざかしい【小賢しい】
こむずかしい【小難しい】
こしゃく【小癪】
こむやくしい【小無益しい】
こじたたるい【小舌怠い】
こめんどう【小面倒】
こじれったい【小焦れったい】
こやかましい【小喧しい】
113 こぜわしい【小忙しい】
こりこう【小利口】
こたのしい【小楽しい】
こじんじょう【小尋常】
こだかい【小高い】
(動詞連用形) こあるき【小歩】
こばしり【小走】
こいさかい【小諍】
こぶとり【小肥・小太】
こいそぎ【小急】
こぶり【小降】
こおどり【小躍】
こもどり【小戻】
こじれ【小焦】
こゆるぎ【小揺】 政 治 大
こてまねき【小手招】 立
學
(動詞) ‧ 國
こがくれる【小隠れる】
‧
こづく【小突く・小衝く】
こてまねく【小手招く】
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Stanford
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