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SSの経営力強化に係る実態調査
平成27年度石油産業体制等調査研究 SSの経営力強化に係る実態調査 報告書 2016 年 3 月 株式会社野村総合研究所 目次 I 本調査事業の背景・目的・検討会の開催状況 ............................................................ 2 II SS 経営状況に関する分析........................................................................................... 5 1 SS を取り巻く経営環境 .............................................................................................. 5 2 SS 経営状況の推移...................................................................................................... 8 3 石油販売業のサプライチェーンの維持 ..................................................................... 15 4 諸外国との比較、生産性向上の余地等 ..................................................................... 18 今後の SS 経営の目指すべき方向性(8類型)と先行事例..................................... 24 III 1 2 地域・顧客のニーズに応える「価値創造型」 .......................................................... 27 類型1. 顧客満足度の向上 ................................................................................. 27 類型2. 地域の多様なニーズや社会的課題への貢献 ......................................... 28 類型3. 人材力・多様性を活かした価値の提供 ................................................ 30 類型4. 多角的な事業展開による「事業ポートフォリオ最適化」 ................... 31 燃料油販売を徹底して効率化する「生産性向上型」 ............................................... 33 類型5. 仕入れの共同化 (商流の合理化).................................................... 33 類型6. 物流の合理化 ........................................................................................ 34 類型7. 受注の共同化 ........................................................................................ 37 類型8. 個店レベルでの効率化 ......................................................................... 38 SS 経営を改善するための手法・ツール・支援策 .................................................... 40 IV 1 2 3 地域・顧客のニーズに応えるためのツール・支援策 ............................................... 40 デザイン思考の活用によるニーズの掘り起こし ............................................... 40 防災協定の締結と官公需の受注による経営安定化 ........................................... 41 事業承継・経営統合等による事業規模拡大・多角化 ........................................ 41 中小 SS の①創業・新規分野への進出、②事業承継・事業再生支援 ............... 42 生産性向上のためのツール・支援策 ........................................................................ 44 ボランタリーチェーン化(サプライチェーンの見直し)................................. 44 事業連携しやすい企業体の選択(LLP 等) ...................................................... 44 中山間地域等の供給不安地域における共同タンク運営・配送等の取組........... 45 官公需の電子精算システム ................................................................................ 45 高効率機器の導入、駆けつけ給油などの個店の競争力強化 ............................. 45 SS の経営力強化に向けた各方面からのサポート .................................................... 46 全石連としての取組とサポート......................................................................... 46 元売・商社等としての取組とサポート .............................................................. 48 石油流通課(国)としての取組みとサポート ................................................... 50 -1- 本調査事業の背景・目的・検討会の開催状況 I 背景 全国のサービスステーション(以下、 「SS」という。 )数は、人口減少及び省エネルギー の進展、後継者難等により減少し続けており、今後も石油製品の需要は減少する見通しで ある。また、SS 事業者の約半数が赤字経営の状況にある。このような中、石油関連産業は、 依然として日本の「稼ぐ力」を支える産業として力を発揮することが求められている。更 に、先の東日本大震災においても石油製品が人々のライフラインを支える重要な物資であ ることが再確認されたところであり、石油製品流通網の維持・強化の必要性は変わること がない。 石油販売業の強じん化及び石油製品流通網の維持・強化のためには、SS 事業者間の健全 な競争環境を維持しつつ、経営基盤の強化を可能とする利益を確保できるよう、ソフト面 及びハード面の両面による事業基盤の整備が必要である。 目的 本事業では、SS の経営力強化に係る調査・分析を行うとともに、石油業界、有識者等に よる SS 事業者の経営力強化に向けた検討会(以下、「検討会」という。)を開催し、SS 事 業者の経営力強化に向けた方策の検討を行うことを目的とする。 検討会の開催状況 本事業では、検討会と作業ワーキング(WG)をそれぞれ設置し、検討会は全 2 回、WG は全 3 回開催した。 検討会及び WG の委員及び各回の議題について、以下に示す。 SS 事業者の経営力強化に向けた検討会委員名簿 <座長> 後藤 康浩 日本経済新聞社 編集局編集委員 <委員> 森 洋 株式会社富士オイル 代表取締役社長(全石連副会長) 根本 一彌 根本石油株式会社 代表取締役会長(全石連副会長) 西尾 恒太 旭油業株式会社 代表取締役社長(全石連副会長) 喜多村 利秀 株式会社喜多村石油店 代表取締役社長(全石連副会長) 浜田 忠博 株式会社新潟シェル 代表取締役社長(全石連副会長) 宇佐美 三郎 株式会社宇佐美鉱油 代表取締役社長(全石連副会長) 河本 博隆 全国石油商業組合連合会 副会長専務理事 -2- 岩井 清祐 JX 日鉱日石エネルギー株式会社 常務執行役員 小池 健一 EMG マーケティング合同会社 執行役員 営業供給統括部長 川崎 武彦 出光興産株式会社 上席執行役員 販売部長 奥田 真弥 石油連盟 松山 真裕 全国農業協同組合連合会 燃料部 新井 博 伊藤忠エネクス株式会社 代表取締役 兼 専務執行役員 小川 恒正 中小企業基盤整備機構 事業承継・引継ぎ支援センター長 西田 明徳 フロンティアターンアラウンド株式会社 代表取締役専務 佐合 達矢 資源エネルギー庁 石油流通課長 専務理事 部長 第 1 回検討会(平成 27 年 9 月 17 日) (1) SS事業者の経営力強化に向けた検討会及び今後の検討スケジュール等について (2) SS事業者の経営力強化に係る実態調査の結果報告 第 2 回検討会(平成 28 年 3 月 10 日) (1) 今後のSS経営の目指すべき方向性について SS 事業者の経営力強化に向けた検討会 WG 名簿 原谷 真人 北見石油販売株式会社 佐藤 義信 丸山株式会社 照沼 正輝 株式会社照沼商事 澁谷 彰樹 株式会社シブヤエネックス 石川 昌司 渥美石油株式会社 芝野 哲郎 滋賀石油株式会社 細川 将史 株式会社冨士商 山田 正敏 山田石油株式会社 三原 英人 三原産業株式会社 藤岡 秀則 株式会社フジオカ 永岡 壯三 大分石油株式会社 第 1 回 WG(平成 27 年 8 月 21 日) 1. SS事業者の経営力強化に向けた検討会及び作業WG設置趣旨及び今後検討スケジ ュール等について 2. SS事業者の経営力強化に係る実態調査の結果報告 3. SS経営力強化に係るアンケート紹介 -3- 第 2 回 WG(平成 27 年 12 月 17 日) 1. 検討会の今後の進め方について 2. サプライチェーンのあり方と個店磨きに関する議論 (1)全日食チェーンの取り組みについてプレゼンテーション・質疑応答 (2)デザイン経営についてプレゼンテーション・質疑応答 3. 優秀事例集(通称百選)の作成プロセスについて 第 3 回 WG(平成 28 年 2 月 25 日) 1. 石油販売業の生産性向上の方策について 2. 事業の拡大、多角化について -4- II SS 経営状況に関する分析 SS の競争力強化を検討するにあたり、その背景となる SS の経営状況に関して、SS 経 営を取り巻く環境、SS 経営状況の推移、石油販売業による流通網の維持、諸外国との比較、 生産性向上の余地等について、石油販売業経営実態調査等の各種の統計資料等を基にして 分析を行った。 1 SS を取り巻く経営環境 SS の主たる商品であるガソリン需要は、自動車のコンパクト化(日本自動車工業会実施 の 2013 年度乗用車市場動向調査によれば、2001 年と比較すると 2013 年には大中型が6→ 3%、軽自動車が 19→33%となっている) 、低燃費化(国土交通省 自動車燃費一覧(平成 26 年 3 月)によれば、ガソリン乗用車の平均燃費は、2000 年の 13.2km/l が、2012 年には 21.1 km/l に改善している)、若者の車離れ(ソニー損保が実施した「2016 年 新成人のカ ーライフ意識調査」によれば、≪“若者の車離れ”とは自分自身のことだ≫の項目に対し、 『あてはまる』(「とてもあてはまる」と「ややあてはまる」の合計)が 41.2%、『あてはま らない』(「全くあてはまらない」と「あまりあてはまらない」の合計)が 34.4%、「どちら とも言えない」が 24.4%となっており、車離れしていると考えている若者が多い結果とな っている)等の影響を受けて。2004 年をピークに減少しており、今後についてもそれが続 くことが見込まれている。 一方、SS 数は 1994 年をピークに減少に転じており、需要と SS 数の双方が減少する中 で、SS 当たりの販売数量は、増加してきている。 図表 II-1 ガソリン販売需要の推移 出所)各種資料より NRI 作成 -5- ガソリンマージンは、過去 10 年間を見ると 10 円前後で推移しており、SS 当たりの販売 数量(130kL/月)での粗利は、130 万円/月となり、人件費(専業の 1SS1 ディ-ラーの平 均従業員数は、店主からアルバイトまで全て含めて 5.1 人(内アルバイト 1.3 人) (参考資 料参照)であり、粗利の全てを人件費に回すこととし、アルバイト分を月 10 万円、店主・ 正社員(単純平均は月約 30 万円/人)へも支払うことで、赤字転落となることが考えられる (2013 年の全国の世帯平均所得は、年 528.9 万円(厚生労働省 国民生活基礎調査)であ り、月 30 万円の所得はこの水準に達しない。 )ことから、ガソリン販売で黒字経営を成り 立たせることは難しい状況にある。 図表 II-2 ガソリンマージンの推移(円/㍑) 出所)全国石油協会「石油製品販売業経営実態調査報告書」 また、セルフ SS が増加しつつあり、全体に占める割合も 30%弱まで占めており、人件 費削減と同時に、利益率よりも販売量の確保を目指す戦略の中で、更なる価格競争が行わ れている。 -6- 図表 II-3 セルフ SS 数の推移 出所)エネ研・石油情報センター資料等より NRI 作成 SS 事業者の状況から見ると、1SS 保有事業者が全体の約 70%を占めており、中小企業 がほとんどの業界となっている。 参考資料に示した、 「SS 事業者の類型と特徴」によれば、1SS 事業者の月の平均販売数 量は 50kl であり、セルフ化による人件費削減、低価格化、販売量増大の実現が困難な小規 模店となっている。 図表 II-4 保有 SS 数別事業者構成比(N=1,567) 出所)全国石油協会「石油製品販売業経営実態調査」(平成 26 年度調査版) -7- 2 SS 経営状況の推移 SS の経営状態を、個別 SS 店舗ベースではなく、企業ベースの統計データである「石油 販売業経営実態調査」の個票データを用いて、分析を行った。 SS 事業者の営業利益ベースでの黒字・赤字比率は、40~50%程度で推移しており、約半 数の事業者は赤字経営となっている。 図表 II-5 黒字比率・赤字比率の推移(営業利益ベース) 100% 80% 54.2% 48.6% 51.1% 56.0% 57.5% 52.0% 60% 40% 20% 45.8% 51.4% 48.9% 44.0% 42.5% 48.0% 0% 2008 2009 2010 2011 2012 2013 赤字 黒字 出所)全国石油協会「石油製品販売業経営実態調査」(平成 21~26 年度調査版) -8- 粗利額・粗利率は、減少傾向にあり、厳しい経営状況と考えられる。 図表 II-6 油種別 年間粗利額の推移(1企業あたり) (千円/年) 30,000 25,286 25,000 20,000 18,472 17,480 17,449 16,700 15,353 15,000 13,252 11,974 10,548 7,907 10,000 5,020 3,216 5,000 12,434 10,842 10,252 7,650 2,575 8,635 8,549 8,186 2,646 11,585 2,557 2,255 0 2008 2009 2010 ハイオク 図表 II-7 油種別 レギュラー 2011 軽油 2012 2013 灯油 粗利率の推移(1企業あたり) 20.0% 15.0% 12.3% 11.8% 10.8% 10.2% 10.0% 9.1% 7.3% 8.0% 6.9% 7.7% 9.3% 7.6% 7.3% 5.0% 10.5% 9.3% 7.0% 6.8% 10.0% 9.4% 9.0% 6.5% 6.3% 7.7% 5.9% 5.7% 0.0% 2008 2009 ハイオク 2010 レギュラー 2011 軽油 2012 2013 灯油 出所)全国石油協会「石油製品販売業経営実態調査」(平成 21~26 年度調査版) -9- SS 事業の特性を見るために、関係の深い自動車関連の販売業等を中心とした、以下の業 種の中小企業との比較を行った。 【比較対象業種】 ・コンビニエンスストア ・自動車小売業 ・中古自動車小売業 ・自動車部品小売業 ・自動車賃貸業(レンタカー) ・自動車一般整備業 ・総合スーパー ・金属製品製造業 ・広告業 ・フィットネスクラブ ・普通洗濯業(クリーニング) SS の粗利率は、20%を下回っており、他業種と比較すると最も低い。中小企業としては、 黒字比率は、多くの業種で 50%を下回っており、SS 事業者の黒字比率は、他業種と同程度 である(SS 事業者の赤字比率は、いわゆる中小企業の中では、一般的な水準であり、SS 事業だけが特殊な状況に置かれている訳ではない。 ) 図表 II-8 業種別粗利率 - 10 - 黒字企業比率 粗利率 SS 事業 45.1% 14.1% コンビニエンスストア 43.6% 26.4% 自動車小売業 55.1% 21.9% 中古自動車小売業 43.3% 20.5% 自動車部分小売業 45.8% 32.9% 自動車賃貸業 48.6% 35.0% 自動車一般整備業 46.3% 30.7% 総合スーパー 59.7% 26.1% 金属製品製造業 50.5% 20.3% 広告業 43.1% 30.6% フィットネスクラブ 36.0% 89.8% 普通洗濯業 32.3% 60.7% 注)粗利率: (売上高-売上原価)/売上高で算出。 出所)平成 25 年版「TKC 経営指標」 注)TKC 経営指標は、税理士、会計士の業界団体である。TKC 全国会が発行しており、平 成 25 年版には、224,668 社の財務データで構成されている。 SS 事業の粗利率は、他の小売業と比べても低く、石油製品が価格以外での差別化が難し い商品であること(どの SS で購入しても品質が変わらないことから、消費者は価格の安い SS での購入を嗜好。 )が影響している。 また、一方で売上原価の高さ(今回の調査業種で唯一 80%を超えている)も影響してい ると考えられる。SS 事業における売上原価には、ガソリン小売価格に占める税の割合が 40%以上占めており、小売価格を引き上げることも、売上原価を下げることも難しい状況 にある。 - 11 - 図表 II-9 費用構成比 出所)平成 25 年版「TKC 経営指標」 注)TKC 経営指標は、税理士、会計士の業界団体である。TKC 全国会が発行しており、平 成 25 年版は、224,668 社の財務データで構成されている。 図表 II-10 ガソリン小売価格構成比(平成26年4月) 流通マージン 8.4円 精製マージン 16.9円 15% 消費税 12.2円 揮発油税 53.8円 42% 石油石炭税 2.54円 原油コスト 70.5円 43% 平成26年4月: 164.3円/リットル 注)平成 26 年 4 月の全国平均 SS 店頭小売価格、卸価格、原油 CIF 価格を基に作成。 流通マージン:販売管理費+マージン(消費税抜小売価格-卸価格) - 12 - 精製マージン:精製費+備蓄費+販売管理費+マージン(税抜卸価格-原油コスト) 出所)石油流通における現状と課題について平成 26 年 6 月 資源エネルギー庁 SS 事業者の規模の面から、経営状況を見ると、運営する給油所数が増加するほど、赤字 比率が低減する傾向がみられる。 図表 II-11 給油所数別の赤字・黒字比率(全体/営業利益ベース) 100% 80% 47.9% 56.9% 62.1% 60% 71.3% 84.2% 40% 20% 52.1% 43.1% 37.9% 28.7% 15.8% 0% 1か所 (N=1063) 2か所 (N=246) 3~4か所 (N=145) 赤字 5~9か所 (N=94) 10か所以上 (N=19) 黒字 ・・・サンプル数が少ないため、参考値とする。 出所)全国石油協会「石油製品販売業経営実態調査」(平成 26 年度調査版) また、規模を販売数量で見ても、販売数量が増加するほど、赤字比率が低減する傾向が みられる。 - 13 - 図表 II-12 販売数量別の赤字・黒字比率(全体/営業利益ベース) 注)数字は企業当たり 100% 80% 44.0% 48.3% 57.1% 61.7% 67.9% 60% 77.2% 88.9% 40% 56.0% 51.7% 20% 42.9% 38.3% 32.1% 22.8% 11.1% 0% 月間 40KL未満 (N=352) 40KL80KL未満 (N=292) 年間 500KL 未満 500KL -1,000KL 未満 80KL250KL420KL830KL- 1,670KL以上 250KL未満 420KL未満 830KL未満 1,670KL未満 (N=18) (N=315) (N=60) (N=78) (N=57) 1,000KL -3,000KL 未満 3,000KL -5,000KL 未満 赤字 黒字 5,000KL -10,000KL 未満 10,000KL -20,000KL 未満 20,000KL 以上 ・・・サンプル数が少ないため、参考値とする。 出所)全国石油協会「石油製品販売業経営実態調査」(平成 26 年度調査版) 給油所数、販売数量共に、規模が拡大することは、参考資料の「SS 事業者の類型と特徴」 に示したように、給油所数が増加すると月平均の販売数量も増加する。従って、仕入れ数 量の増加にも繋がり、ボリュームディスカウントの観点から仕入れ価格の低減にも効果が もたらされていると考えられる。また、給油所数の増加により、一般的なタイヤ、バッテ リー、アクセサリーを中心とした油外商品から洗車、車両メンテナンスといった収益性の 高い油外商品の販売が増加することも 黒字につながる要因と考えられる。 - 14 - 3 石油販売業のサプライチェーンの維持 東日本大震災等の大規模地震発生時のガソリン等の輸送用燃料供給、暖房用の灯油や非 常用発電機のための燃料供給等、一定の貯蔵が可能で、独立・分散的に活用可能な石油製 品のサプライチェーンが、全国的に維持されていることは緊急時対応として重要である。 一方、前述のように、燃料油販売の縮小に伴い、SS 数が減少しており、当該市区町村内 に SS が 3 店舗以下となる過疎 SS 市町村が全国に生まれている。過疎 SS 市町村の住民に とっては、自動車のガソリンや農業機械の軽油などの給油や、高齢者への冬場の灯油配達 などに支障が出るといった、 「SS 過疎地問題」が顕在化しており、石油製品供給のサプラ イチェーンに綻びが見え始めている。 平時のサプライチェーンに問題が生じつつある中で、緊急時も見据えたサプライチェー ン維持に取り組んでいくことが必要となっている。 サプライチェーンの維持に当たっては、末端の供給事業者である SS 事業者の担う役割 は重く、経営の効率化等の手立てを通じたSSの経営力の強化がSSの維持・存続のため に必要である状況に変わりはない。 図表 II-13 過疎 SS 市町村 出所)石油流通における現状と課題について 平成 26 年 6 月 資源エネルギー庁 平成 20 年度石油販売業者経営高度化調査・実現化事業(マーケティング等リサーチ事業) 「SS 過疎地対策のための調査研究」事業報告書(以下、SS 過疎地報告書)によれば、当 時の過疎 SS 市町村数である 222 の内、 「過疎地域自立促進特別措置法(以下、特措法)」 における過疎地は、137 町村で、61.7%が重複している。このため、過疎 SS 市町村といわ - 15 - ゆる過疎地には、一定の共通項も存在すると考えられることから、過疎 SS 市町村の特徴を 過疎地の特徴として見てみる。 総務省による「平成 26 年度版「過疎対策の現況」について」によれば、過疎地域が全国 に占める割合は、市町村数で 46.4%、人口で 8.9%、面積で 58.7%となっている。また過 疎地域と全国との比較では、高齢者比率が約 10 ポイント高く、若年者比率は 4 ポイント低 く、財政力指数は半分となっている。 図表 II-14 過疎地域が全国に占める割合 出所)平成 26 年度版「過疎対策の現況」について 総務省 図表 II-15 過疎地域と全国との比較 出所)平成 26 年度版「過疎対策の現況」について 総務省 - 16 - これらの地域においては、広い地域に人口が分散し、人口密度が低いことから、相当程 度の地域を束ねたとしても、燃料油需要には限りがあり、例えば灯油では広域での配送も 必要となることからコストが嵩む可能性が高く、都市部の SS と異なり事業継続のためのボ リュームが確保できないという問題が生じており、若年者層が少ないことも含めて、後継 者難の問題(石油連盟が平成 26 年度に行った「SS 過疎問題における調査研究」における、 過疎 SS 市町村における事業者アンケート結果によれば、35.3%が後継者の見通しがついて いない、16.7%が廃業を予定していると回答。 )もあり、SS の維持が困難な状況となって いる。 - 17 - 4 諸外国との比較、生産性向上の余地等 SS 数は、米国は 15 万か所以上あるが、英国、ドイツ、フランスは 1.5 万か所以下とな っており、日本の 3.5 万件よりもかなり少ない水準となっている。国土面積、人口、自動車 保有台数からは、国土構造の違いも影響していると考えられるが、日本の過剰感が浮かび 上がる。 日本の SS 減少率は、1990 年から 2013 年で 40%程度であり、英国、フランスの 50% 減と比較すると小さい減少率となっている。 図表 II-16 給油所数の推移(実数) (単位:か所) 250,000 1.2 210,120 1.0 200,000 152,995 150,000 1.0 0.8 0.6 100,000 0.4 58,614 19,317 0.2 14,272 10,950 8,611 0.0 19,465 日本 米国 英国 ドイツ フランス 出所) 日本: 揮発油販売業法(現「品確法」 )に基づく登録給油所数(可搬式含み) 米国: NPN 誌調査 ( )内は商務省調査 英国: IP Petroleum Review Supplement ドイツ: ドイツ石連(MWV) 1985 年以前は旧西ドイツのみ フランス: フランス石油製品販売業者組合 - 18 - 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 0 34,706 24,500 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 50,000 日本 米国 ツ 図表 II-17 給油所数の推移(指数化:1990年=1) 1.2 1.0 152,995 1.0 0.8 0.6 0.7 0.7 0.6 0.4 0.4 0.4 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 0.2 14,272 10,950 8,611 0.0 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 34,706 フランス 日本 米国 英国 ドイツ フランス 出所)図表 II-16 と同様 図表 II-18 給油所数の実数及び指数 実数 国土面積 (k ㎡) 指数(日本を 100%にした場合) 自動車保 人口 有台数(千 SS 数 台) 日本 377,972 126,535,920 米国 9,629,091 310,383,948 76,619 国土面 積 自動車 人口 保有台 SS 数 数 36,349 100% 100% 100% 100% 252,715 152,995 2548% 245% 330% 421% 英国 242,495 62,035,570 36,468 8,714 64% 49% 48% 24% ドイツ 357,121 82,302,465 47,015 14,328 94% 65% 61% 39% フランス 551,500 62,787,427 38,200 11,168 146% 50% 50% 31% 自動車千台あたりの給油所数は、全体的に低下してきているが、近年、英国、ドイツ、 フランスでは横ばい傾向にある。 水準は、米国が千台あたり 0.6 か所で最も高い。英国、 ドイツ、フランスは、0.3 か所程度となっている。日本はその中間の 0.5 か所弱となってい る。 - 19 - 図表 II-19 自動車千台あたり給油所数 (単位:か所) 1.20 1.11 1.02 1.00 0.86 0.80 0.74 0.60 0.61 0.59 0.48 0.40 0.31 0.20 0.29 0.24 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 0.00 日本 米国 英国 ドイツ フランス 出所)石油便覧及び世界自動車統計年報より NRI 作成 日本の 1SS 当たりの自動車燃料平均販売量(欧州においては、ディーゼル車が普及して いることから、ガソリンと軽油を合計して自動車用燃料として分析を実施)は、年々増加 しているが、水準は欧米諸外国の半分程度となっている。また、日本は年々増加している が、欧米諸国は近年横ばいに近くなっている。 水準は、英国は、400KL/月超、米国、ドイ ツ、フランスも 300KL/月超であり、日本の 200KL/月未満と比較すると日本は半分程度の水 準となっている。 図表 II-201給油所あたりの販売数量(KL/月) 500 431 400 340 356 338 300 282 205 200 202 156 100 111 189 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 0 日本 米国 英国 ドイツ 出所)石油便覧及び IEA 統計 注)販売量は、ガソリンと軽油(運輸用)の合計値。 - 20 - フランス 売上コスト構成からは、原油コスト、トータルマージンの水準はそれ程、大きな差はな い。各国共に全体価格に影響が大きいものは税となっている。 図表 II-21 売上コスト構成(円/㍑ 実額:2015年7月) 250.0 200.0 26.9 28.1 150.0 31.3 20.7 126.9 100.0 59.2 32.2 15.5 47.6 43.9 日本 米国 50.0 86.9 76.5 51.0 49.8 49.7 英国 ドイツ フランス 0.0 原油コスト 税 トータルマージン 図表 II-22 売上コスト構成(割合:2015年7月) 100.0% 22.6% 80.0% 60.0% 42.9% 13.1% 17.1% 14.1% 62.0% 52.7% 52.1% 24.9% 30.2% 33.8% 英国 ドイツ フランス 35.1% 16.9% 40.0% 20.0% 47.9% 34.5% 0.0% 日本 米国 原油コスト 税 トータルマージン 出所)IEA 統計を基に NRI 作成 注)売上コストはガソリン、軽油の販売量ベースの加重平均。 (為替レート 1$=124.21 円) 諸外国との比較では、日本は 1SS 当たりの販売数量で大きく劣っており、生産性向上の 余地があるものと考えられる。 一方で、国内の SS 経営状況からも、生産性向上の余地が見える。 給油所数や販売数量といった指標を見ると、規模が大きい SS 事業者ほど売上高・粗利 - 21 - に占める兼業・油外割合が高い事業者が増加している。規模の拡大により、燃料油だけに 頼らない油外事業も兼ねた経営が実現し、一般的には燃料油販売のマージンより油外収益 のマージンが大きいことから、生産性の向上が期待される。 図表 II-23 SS 数別売上高に占める兼業・油外割合 100% 80% 3.4% 5.7% 4.3% 6.1% 4.2% 5.3% 12.5% 11.2% 12.6% 4.5% 5.4% 9.8% 39.5% 48.2% 25.9% 60% 33.7% 4.3%0.0% 17.4% 60.9% 40% 52.6% 20% 44.7% 38.4% 32.1% 17.4% 0% 1か所 (N=1,821) 0 2か所 (N=347) 25%未満 3~4か所 (N=190) 25%-50% 5~9か所 10か所以上 (N=112) (N=23) 50%-75% 75%以上 ・・・サンプル数が少ないため、参考値とする。 図表 II-24 SS 数別粗利に占める兼業・油外割合 100% 4.8% 6.3% 80% 12.7% 5.8% 7.8% 15.0% 4.7% 12.6% 13.7% 0.0% 8.7% 4.5% 8.0% 13.4% 17.4% 22.8% 60% 27.7% 30.0% 40.2% 52.2% 40% 53.4% 20% 43.8% 38.9% 33.9% 21.7% 0% 1か所 (N=1,821) 0 2か所 (N=347) 25%未満 3~4か所 (N=190) 25%-50% 5~9か所 10か所以上 (N=112) (N=23) 50%-75% 75%以上 ・・・サンプル数が少ないため、参考値とする。 注)集計は事業者単位の売上ベース、粗利ベースとなっている。 出所)全国石油協会「石油製品販売業経営実態調査」(平成 26 年度調査版) - 22 - 図表 II-25 販売数量別売上高に占める兼業・油外割合 100% 4.5% 4.3% 2.5% 6.4% 11.4% 13.7% 3.8% 7.0% 80% 14.6% 60% 29.0% 26.0% 27.7% 1.6% 3.9% 0.0% 6.7% 5.6% 13.0% 8.2% 4.2% 0.0% 8.3% 13.1% 13.3% 39.0% 45.9% 62.5% 48.9% 40% 53.8% 20% 45.5% 49.8% 44.2% 31.1% 25.6% 25.0% 0% 40KL未満 (N=527) 40KL80KL未満 (N=396) 80KL250KL420KL830KL- 1,670KL以上 250KL未満 420KL未満 830KL未満 1,670KL未満 (N=24) (N=408) (N=77) (N=90) (N=61) 25%未満 0 25%-50% 75%以上 50%-75% ・・・サンプル数が少ないため、参考値とする。 図表 II-26 販売数量別粗利に占める兼業・油外割合 100% 5.3% 7.2% 80% 15.6% 4.5% 6.6% 3.3% 6.4% 6.5% 5.6% 10.5% 9.1% 13.3% 10.0% 14.3% 8.2% 0.0% 8.3% 12.5% 12.9% 21.3% 16.7% 21.2% 60% 23.8% 25.2% 24.7% 50.0% 34.4% 38.9% 40% 54.8% 20% 46.7% 49.3% 45.5% 32.8% 25.6% 29.2% 0% 40KL未満 (N=527) 40KL80KL未満 (N=396) 0 80KL250KL420KL830KL- 1,670KL以上 250KL未満 420KL未満 830KL未満 1,670KL未満 (N=24) (N=408) (N=77) (N=90) (N=61) 25%未満 25%-50% 50%-75% 75%以上 ・・・サンプル数が少ないため、参考値とする。 注)集計は事業者単位の売上ベース、粗利ベースとなっている。 出所)全国石油協会「石油製品販売業経営実態調査」(平成 26 年度調査版) - 23 - III 今後の SS 経営の目指すべき方向性(8類型)と先行事例 前章において、ガソリン需要の減少、粗利率の減少傾向、約半数のSSが営業利益ベー スで赤字の状況にあること等、SSを取り巻く情勢の厳しさが再確認された。しかしなが ら、消費者に石油製品が届けられるための燃料供給ネットワークを維持していく重要性に 変わりはない。過疎地の拡大や、近い将来に起こる可能性が指摘されている首都直下地震・ 南海トラフ地震等の自然災害に対する備えの必要性等を踏まえると、全国各地域において、 SSが中長期的に燃料安定供給の役割を果たすために、経営力を向上させていくことは不 可欠である。 SS経営を更に磨き上げていくに当たって、まず、地域・顧客のニーズに応える「価値 創造型」の取組が重要である。WGにおいて、全日食チェーン(全日本食品)より、最適 な販売価格設定や顧客情報のデータ管理の取組について紹介があった。全日食チェーンで は、情報システムだけで約100億円を投資し、加盟店に導入したPOSシステムから日々 集まってくるビックデータを分析するとともに、地域別に売れ筋商品を選定している。S S業界にとっても、大いに示唆に富む取組といえよう。WG委員からも、SS は来店頻度の 多さを活かして、更に発展させる可能性があるとの意見が多く出された。顧客のニーズを 捉えるためのアプローチとして、顧客の行動を徹底的に観察し顧客の潜在ニーズを創造す る「デザイン経営」について紹介された。また、フロンティア・ターンアラウンドより、 事業ポートフォリオのあり方を見つめ直すことの重要性について説明があり、商圏の現状 を踏まえて事業戦略や財務体質を入念に見直した上で、個別のSSにおける事業撤退も含 めた事業ポートフォリオの選択と集中、親族承継、M&A等の他社との連携等を判断して いくべき旨の提言がなされた。 こうした議論を踏まえて、地域・顧客のニーズに応える「価値創造型」の取組として、 4つの類型、すなわち「類型1. 顧客満足度の向上」、 「類型2. 地域の多様なニーズや社会 的課題への貢献」 、 「類型3. 人材力・多様性を活かした価値の提供」、 「類型4. 多角的な事 業展開による「事業ポートフォリオ最適化」を提唱したい。 これに加えて、燃料油販売を徹底して効率化する「生産性向上型」の取組が重要である。 前章で見てきたとおり、他の先進国も我が国と同様に需要の中長期的な減少に晒されてい るものの、給油所当たりの販売数量を伸ばすことにより、生産性を向上して一定のネット ワークを維持している。また、我が国においても運営する給油所数の増加や販売量の増加 に伴い、赤字企業の割合が減る傾向にあることも、明らかとなった。これに関連して、W Gの委員より先行的な取組が紹介された。三原委員より、貯蔵タンクや配送ローリー・人 員を共同化するとともに、元売系列が異なる地元特約店3社が協同組合(LLP)を設立 することにより、物流の効率化を進めている事例が紹介された。JAグループからも、石 油製品輸入の推進、複数元売からの調達により元売に対する価格交渉力を高める取組や、 - 24 - 石油基地の整備、自社ローリーによる配送、POSシステム開発等を通じて、物流を徹底 的に合理化した取組等も紹介された。また、全日食チェーン(全日本食品)が、中小小売 店のボランタリーチェーン(VC)を展開し、大手総合スーパーなどに対抗する事例が紹 介された。 こうした議論を踏まえて、燃料油販売を徹底して効率化する「生産性向上型」の取組と して、4つの類型、すなわち「類型5. 仕入れの共同化 (商流の合理化) 」、「類型6. 物 流の合理化」 、 「類型7. 受注の共同化」、「類型8. 個店レベルでの効率化」を提唱したい。 以下に、具体的に「8つの類型」及び関連する「先行事例」を記載する。 - 25 - 1 地域・顧客のニーズに応える「価値創造型」 類型1. 顧客満足度の向上 • • 自動車周辺ビジネス等へ展開し、ワンストップサービスを提供する経営 デザイン経営・IT 武装により顧客ニーズを徹底把握する経営 類型2. 地域の多様なニーズや社会的課題への貢献 • • 高齢化が進む過疎地域における見回り事業など、地域に求められる価 値・サービスを提供する経営 災害時の安定供給に貢献するとともに、官公需等の固定的な受注を通し て経営を安定化させる経営 類型3. 人材力・多様性を活かした価値の提供 • 女性や高齢者、中途社員など、多様な人材の活用により、顧客ニーズに きめ細かく対応する経営 類型4. 多角的な事業展開による「事業ポートフォリオ最適化」 • • 経営の立ちゆかなくなった SS を M&A で引き取ることにより事業を再生さ せるとともに、スピーディーに業務拡大する経営 プライスリーダーの出現リスクを考慮して他事業への転業可能な立地に 出店する経営 2 燃料油販売を徹底して効率化する「生産性向上型」 類型5. 仕入れの共同化 (商流の合理化) • • 類型6. 物流の合理化 • 灯油の貯蔵タンクや配送ローリーを共同利用する等、複数社で協力して 物流の効率化を図る経営 類型7. 受注の共同化 • ボランタリーチェーンのような共同仕入れ化を進めることにより、ボリュー ムディスカウントなど取引先との交渉力強化を図る経営 複数の仕入れ先を確保することで仕入れの競争力を高める経営 官公需等の組合受注による、精算手続きの IT 化・省力化による業務効率 化を図る経営 類型8. 個店レベルでの効率化 • 駆けつけ給油による人件費削減、高効率設備の導入等、個店レベルで 効率化を図る経営 以下に 8 類型の内容について、事例も交えながら説明する。 - 26 - 1. 地域・顧客のニーズに応える「価値創造型」 類型1.顧客満足度の向上 ガソリン等の燃料油は差別化しにくい財であり、価格競争に陥りやすい。しかしながら、 SS 顧客の潜在ニーズに応えるサービスを提供することにより、価格競争からは一線を画し て、固定客を維持し、しっかりとマージンを確保できている SS も存在する。自動車の燃費 向上や代替エネルギー車の普及に伴い燃料油の需要減少が見込まれているものの、人口当 たりの自動車輸送ニーズとして見れば、大きく変わることはない。 WG委員からも先進的な取組が紹介された。 「燃料油市場はレッドオーシャンである一 方、すぐそばに車検、板金、車販、保険等の自動車関連ビジネスというブルーオーシャン のアフターマーケットがある。SS は、収益の柱を作るコア(自動車関連ビジネス)のため のサテライト(顧客接点)として機能できれば、より魅力的な市場への窓口となる。」 、 「SS での顧客接点を活用してコミュニケーションを密にしていく事で、お客様のSS来店時の 燃料油関連サービスだけではなく、家庭用太陽光発電システムの提案販売、自動車保険、 車販売等の生活に入り込んだ事業の顧客接点を活かしていきたい。」、 「SS に併設してコー ティングのラボを設置した。ラボの中にお客様が落ち着いて待てるきれいなスペースを用 意し、全ての商談を、そのスペースで行うと以前よりうまくいくようになった。 」等の新た な視点が紹介された。今こそ、燃料油販売に限らず、顧客ニーズにトータルで応えていく こと、自動車関連ビジネスや顧客の生活ニーズ全般にきめ細かく対応することにより、SS ビジネスの差別化を進めていくモデルは有効である。 こうした顧客ニーズの取り込みには、 「デザイン思考」の活用が有効である。デザイン思 考とは、既存の顧客を深く洞察・理解し、顧客の価値を体現するサービスを試作する手法 であり、①顧客価値を発見・定義するために顧客を深く理解することを目的とした「行動 観察」と、②顧客価値をカタチにするために短期間に試作を繰り返す「仮説検証」のアプ ローチが提唱されている。WGにおいてデザイン経営の専門家(NRI坂口剛氏)より、 SS 業界での行動観察の実践にあたって、①SS にいらっしゃる顧客の行動を観察する、② 観察するにあたって、これまで業界の「あたりまえ」を徹底的に疑う、③顧客に対して「何 を行なって欲しいですか?」という問いかけを行なっても「安くして欲しい」以上の答え はないので、顧客のニーズを探るのではなく、顧客の潜在ニーズを創造すべき等の提言が なされた。 更には顧客履歴を分析することにより、顧客ニーズをきめ細かくなおかつ効率的に管理 することも重要である。WGにおいて、全日食チェーン(全日本食品)より、最適な販売 価格設定や顧客情報のデータ管理の取組について紹介があった。全日食チェーンでは、情 報システムだけで約100億円を投資し、加盟店に導入したPOSシステムから日々集ま ってくるビックデータを分析するとともに、地域別に売れ筋商品を選定している。SS業 界にとっても、大いに示唆に富む取組といえよう。POS情報の顧客履歴を、ITを用い - 27 - て整理、分析、共有し、例えばタイムリーな販促メールをピンポイントで送る、自動車周 辺ビジネスへ展開させていく等の取組が考えられる。 【先行事例:シブヤエネックス】 ○ 顧客のニーズにトータルに応える「トータル・カーケア・ステーション」 売上を伸ばすには、客数を上げるか、単価を上げるしかない。集客施策に加 えて、自動車関連ビジネス(洗車、コーティング、TBASP販売、車検、 車販、レンタカー等)を強化することにより単価を上げるアプローチを採用 している。 SS を自動車関連ビジネスのための顧客接点(サテライト)としても位置付 けて、SS での「ワンストップサービス」を提供している。これにより、燃 料油粗利だけでなく、アフターマーケット収益の拡大を図っている。 自社 SS のみならず、他社 SS と業務提携して自動車関連ビジネスの顧客接 点の拡大を図っており、今後 5 年間で、自社 SS 数 11 から 20 店舗への拡大 を目指している。 図表 III-1 シブヤエネックスでのトータル・カーケア・ステーションの取組 出所)WG 澁谷委員ヒアリング、シブヤエネックス「百選」申請書より 類型2.地域の多様なニーズや社会的課題への貢献 ガソリンや灯油などは、地域の生活・経済を支える必需品である。過疎地や災害時対応 を含めた安定供給の役割を担う SS の維持は地域にとっても一層重要性を増している。 人口減による需要減少により、SS 過疎地では灯油配送やガソリン給油に支障を来す事例 が見られている。更に、高齢化により自力での買物が困難となる場合や、そもそも毎日の 健康の確認が必要な高齢者も生活している中、SS が高齢者の御用聞きや見回りの役割も果 たしている取組も進んでいる。 WG委員からも、 「過疎地では、人は少なく土地が多いため、都会とはビジネスの仕方が 異なる。地方にあったビジネスとして、土地の広さを活かした太陽光パネル設置等の再生 可能エネルギーによる発電・売電や、灯油の配り置き等の地域の消費者ニーズにマッチし たサービスの提供に取り組んでいる」、「人口減少の流れが止まらず、燃料油事業だけでは - 28 - 限界があるため、油外事業の拡大を目指している」等の取組が紹介された。 地域の燃料安定供給の役割を担う SS の維持のためには、地元の自治体・SS・国が知恵 を出し合い、地域の多様なニーズを捉まえた持続的なビジネスモデルをオーダーメードし ていくことが不可欠となっている。 またSSは、平時のみならず災害時においても燃料供給の役割を果たすことが求められ ている。石油組合は、都道府県や市町村との防災協定やこれに基づく防災訓練に日々取り 組んでいる。昨年、改正官公需法に基づく「国等の契約の基本方針」において、災害協定 を締結した地域の中小石油販売業者への配慮措置が明記された。地域からSSに求められ るニーズを認識し、地道に防災訓練等の行動を積み上げていくことが、結果的にSSの固 定客の維持、安定的な顧客確保に繋がると考えられる。 【先行事例:大分石油・小関石油】 ○ 地域の課題を克服することにより、地域との共存を図る経営 過疎化が進んだ大分県杵築市の太田地区では、かつて 5 軒あったSSが 2013 年に小関石油のみとなり、高齢者の灯油調達に支障が生じていた。 大分県の小関石油(販売店)、大分石油(特約店) 、自治体(大分県、杵築市) 、 地元住民が連携して「買い物弱者支援事業」のスキームを構築。過疎地での 灯油の配り置きの仕組みを作り、地域の課題を克服するとともに、経営を安 定化させることに成功している。 具体的には、灯油の配置販売を行った。山間部の各家庭に 90 リットルのホ ームタンクを無料設置し、ローリーが定期的に巡回して満タンにする配置販 売という形をとった。注文がある度に配達するのではSSの負担が大きすぎ るという制約を、効率的な配送システムの構築により乗り越えた事例と言え る。 小関石油は、1 日に 5~10 戸に対して灯油を届けるとともに、見守りパトロ ールの役割も果たし、地域の多様なニーズに貢献している。 図表 III-2 灯油の配り置きの様子 出所)小関石油「百選」申請書より - 29 - 類型3.人材力・多様性を活かした価値の提供 人口減少や高齢化により、経営者層の高齢化に伴う後継者の確保、スタッフ人材の確保 は、SS 業界全体にとって深刻な問題となっている。 しかしながら、女性や高齢者など、従来の SS スタッフの中心的なイメージではないよ うな人材を巻き込み、活躍の場を提供することにより、こうした人材確保難の課題を乗り 越えている事例が存在する。しかも、人材の多様性を活かすことにより、多様な顧客のニ ーズにきめ細かく対応できる等のメリットも見られている。 多様な人材の活躍の場を提供するには、多様な働き方が認められ、受け入れられること が不可欠である。中途採用者を受け入れられやすい環境の整備や、女性の働きやすい柔軟 なシフト編成等の工夫・知恵が求められる。 委員からも、 「セルフSSでフロントを全て女性スタッフにする斬新なスタイルを作るこ とにより、女性のお客さまから今まで以上に情報収集できるような店舗を築き上げたい」、 「SSの従業員に工業用潤滑油の取扱資格を取得してもらい、販売を開始。農業用機械に ついては、メーカー指定のものだけを使っていることが多いため、安くて良いものを提案 することでビジネスにつながっている。 」との工夫事例が紹介された。 また、自動車整備や危険物取扱い等の特殊資格を有する人材の確保は、特に困難であり、 計画的な人材育成や、撤退する SS の人材の転職支援等による能力・人材の有効活用を図っ ていくべきである。 【先行事例: タナカエネルギー】 ○ 女性や高齢者、中途社員などの多様な人材が活躍できる SS 各 SS の所長を対象に、お客様目線で自社 SS を見直すという研修を実施し た際、男性と女性では感じ方・見ている部分が全く違うことに気がついた。 SS スタッフが、女性客の視点について重点的に理解することにより、女性 客を増やす余地があると判断した。 そこで、田中社長は、社内に極端な上下関係を作らず、社歴、年齢、男女関 係なく意見が言える環境を作り、良いものは取り入れていく風通しの良い職 場づくりを実践した。これにより、各スタッフが自分の SS や部署にこだわ らず、会社をチームとして捉え全員で向上していく姿勢を持ってもらうこと ができた。 高齢なスタッフの体調を考慮しながら、全員で助け合うことにより、高齢者 が長く働ける環境を醸成している。同社には、 70 代の SS スタッフも在籍 している。欠員が出て SS が回らない場合は SS 同士、他部署間で応援体制 を取り、本社、配送センターからも応援に行く。これにより、違う SS や部 署を経験することで、お互いの理解も深まるメリットもあった。 - 30 - 40 代、50 代のスタッフの中途採用も行っており、知識、経験、資格などを 考慮して正社員として採用している。売上など実績についてプレッシャーを 与えるよりも、若い SS スタッフに対する技術や知識の継承・育成に期待し ており、効果が出てきている。 図表 III-3 タナカエネルギーの多様な人材活用 出所)タナカエネルギー「百選」申請書より 類型4.多角的な事業展開による「事業ポートフォリオ最適化」 需要減少など厳しい環境下において SS の経営を安定化させるには、事業の多角化・兼 業化・リスク分散の観点から、企業体としての事業ポートフォリオを最適化させていくこ とが不可欠となる。SS 事業・他事業の事業性を客観的に評価し、次の 10 年間残していく、 或いは新たに始める事業は何か吟味すべきである。 特定の SS における事業性が芳しくない場合であっても、社内外の他の SS との統合・ 集約による合理化メリットや、役割分担・棲み分けによる強みの創出など、企業全体とし て見たときの経営力向上の選択肢は複数存在する。WG委員からも、 「元々、京都・滋賀で 別々の特約店として運営していたが、社長が一緒であったため 2 社を統合したところ、本 社機能が集約され効率が良くなった。更に京都と滋賀で市況が異なることが多いため、社 単位での売上げの平準化によるリスクヘッジ効果も非常に高くなった。加えて、売上高規 模も大きくなり、投資の際のリスクが相対的に低くなったことで、積極的な投資ができる ようになった。 」との事例が紹介された。また、自社SSのスクラップ・アンド・ビルドを 通じて、閉鎖SS跡地で飲食ビジネスを展開するなどの多角化により、企業体としての競 争力を維持・強化した事例も紹介された。 SS 業界は経営者・スタッフの高齢化が顕著であり、後継者難・人材確保難の問題を抱え る SS が多数存在しており、個社の取組を越えて、複数社での統合・集約により、競争力あ るSSをそれぞれに地域に残していくことアプローチも有効である。委員からも、 「後継者 がいない他系列の特約店の資本を買い取ったことにより、新しい地域で事業展開が可能に なり、既存の SS とは異なる元売りとの関係性ができたことで、仕入れ先の多様化によりコ ストも削減できた。買収先の特約店や系列化した販売店において、自動車関連事業の展開 - 31 - による増収や、経営・総務・経理を親会社が兼務することで、子会社のコストが下がり、 収益を親会社に還元できた。 」との事例や、「廃業予定SSの運営を引き受けて自社でSS を改装・改良、ローコストオペレーションによる運営を徹底し、販売量・収益をアップさ せたSSの再生した」事例が紹介された。こうした議論を踏まえて、これまで燃料安定供 給に貢献してきた人材・資産を社会的に有効活用する意味でも、円滑な事業の再構築・事 業承継により、可能な限り事業再生を促していくべきである。 【先行事例:酒井商事と大油屋商店の経営統合・事業承継】 ○ 老舗 2 社がSS存続のために企業合併した事例(大油屋商店「百選」申請書より) 福井県大野市内に 3 店舗を営業する「酒井商事(株)」 (酒井社長)は、県内 中心地への顧客流出や安売り店との厳しい競争等によるマージン低下に悩 まされ、後継者不在の課題に直面していた。酒井社長は、悩んだ末に親族へ の承継を断念し、同市内の 「(株)大油屋商店」の廣瀬社長に経営委譲した 方が良いとの考えに至った。 経営統合により両社の強みを活かした合併が実現。具体的には、燃料油の配 送やタイヤ販売に強い(株)大油屋商店と、指定整備工場を持ち、車検に強 い酒井商事(株)が上手く事業分野を棲み分けた。これにより、燃料油事業 の仕入ロットが大きくなり、コスト競争力が高まった。 また、比較的隣地に立地する 2SS(フル)を閉鎖し、立地・設備の良い SS へ統合、維持管理コストの削減実現で効率性・生産性を向上させた。配達出 荷基地の一本化で両社併せて 8 台あったミニローリーを 6 台に集約化し、統 合シナジー効果でコスト削減も実現した。 結果として、売上は約 2 倍、1SS 当たり販売量は 150%まで改善した。 - 32 - 2. 燃料油販売を徹底して効率化する「生産性向上型」 類型5. 仕入れの共同化 (商流の合理化) 共同仕入れは、例えば運送会社と共同で仕入れることボリュームディスカウントが生じた り、取引先との交渉力が強化することによる生産性の向上が期待できる。これは元売にと っても、安定的かつ効率的な供給先・販売先が確保できるメリット及び信用リスクなどを 特約店に委ねられるメリットがある。 WGにおいて、全日食チェーン(全日本食品)が、中小小売店のボランタリーチェーン(V C)を展開し、大手総合スーパーなどに対抗する事例が紹介された。 「中小企業が単独で取 り組むには限界があり、皆で力を合わせてチェーンを組んでいく方が良い」旨のVCのメ リットが示された。JAグループからも、グループ内のSSに対して一括して仕入れると ともに、石油製品輸入の推進、複数元売からの調達により元売に対する価格交渉力を高め る取組が紹介された。WGの委員からも、 「親会社の関連会社が物流会社であるため、利用 する燃料をまとめて仕入れ交渉力を発揮してきた」事例、 「トラックの運送組合との共同調 達により安く仕入れ、組合員に安く燃料を提供している」事例が紹介された。これに対し て、 「共同仕入れや共同購買でロットを大きくして安く仕入れる取組は、タイヤ・ケミカル 商品などでは既に行われており、対象を広げていくことは可能。燃料油についても石油組 合や地域の特約店が組んでやっていくことも可能」との見解も示された。 また、複数の事業者が協力することにより、IT の利活用や、先物取引など専門性の高いビ ジネスモデルに取り組みやすくなるメリットも生じることとなる。米国のジョバーは、固 定価格で燃料を購入したい顧客のニーズに対応すべく、先物取引を活用している事業者も 見られる。 なお、今後元売の経営統合が進むことで「仕入ソースの選択肢がなくなってくるため、自 由な仕入れができなくなる可能性がある」ことを指摘する意見や、「SS単位で仕入れ元を 変えても商標違反にはならないはずだが、元売りに圧力をかけられるのではないかという 懸念を感じて断念せざるを得ないことがある。公正取引委員会に対して、優越的地位の濫 用に該当する具体的な元売りの行動を示すよう働きかけていくべきではないか」との意見 も出された。 【先行事例:全日食チェーンの取組】 ○ ボランタリーチェーンとして、中小スーパー加盟店への商品供給事業と、ビッグデー タを活用した顧客への売り方提案を実施 商品供給事業:全日食チェーンは、全国に 2000 店舗弱の加盟店への商品供給を担 っている。仕入れを本部でまとめることで、大手流通(スーパー)と同じ原価で仕 入れられるだけの交渉力を持っている。 - 33 - 顧客への売り方提案:全日食チェーンは、ビッグデータを活用することにより、品 揃え、最適売価、在庫管理、顧客別マーケティングをシステム化により効率的に行 っている。 品揃え:加盟店の POS データを分析し、商品の取扱い率や売れ行きから、 エリア別に売れ筋商品の選定を本部で実施。 最適売価:加盟店の POS データを分析し、販売価格と販売数量の関係から、 最も利益が出る最適売価を算出し、加盟店に提案している。最適売価は原価 によって変わり、原価を下げることにより、数量・利益が何倍にもなる可能 性を指摘。 在庫管理(自動発注):個店の販売実績と在庫を本部システムが把握し、商 品発注の最適数量を算出することにより、システムが自動発注を行う。発注 量は、個店ごと、商品ごとに毎日算出している。 顧客別チラシ:顧客ごとの販売履歴から、来店時に個別の“特売チラシ”を 顧客ごとに打ち出している。 図表 III-4 全日食チェーンの事業構造イメージ 出所)第二回 WG 全日食チェーン講演より 類型6. 物流の合理化 SS の燃料油販売の生産性向上の手段として、タンクローリーの大型化など規模の経済の 追求や、顧客の情報管理などの物流合理化の余地はまだ残っている。 なお、米国では大規模な共同仕入れモデルが存在しており、卸売り先の販売店数は平均 60SSを越えており、日本が平均3SS程度であることを考えると、大幅な仕入れの共同 化・大規模化が進んでいると言えよう。 委員からも、 「同地域の異なる特約店同士で共同事業を立ち上げ、灯油の配送を協業化し、 人員、地域ルート、車両台数の効率化が図れた。また、大型ローリーの所有により倉取り を行ったり、各社の所有タンクを融通して使用することで、受け入れロットが大きくなり、 仕入れコストの低減につながった。 」等の先進事例が共有された。 販売拠点(貯蔵タンク等)及び配送ローリーの共同利用により、①小ロットを何度も運 ぶのではなく、大ロットで効率的に運べるようになる。②設備の稼働率向上により、物流 コストの効率化が期待できる。③在庫量の IT 管理による最適な配送スケジュールの管理が - 34 - 可能となるメリットが期待できるところ、石油流通課の予算等も活用しながら、こうした 取組を着実に増やして行くべきである。 【先行事例:三原産業(株)のイニシアチブによる共同物流会社設立事例】 三原産業(株) (エネオス系)は、平成 21 年 4 月、地元特約店 2 社(コスモ系、E M系)と共同出資し、 「有限責任協業組合宇和島共同配送センター」を設立。組織形 態として LLP を採用し、事業設備は主に三原産業(株)よりリースを受けることで、 スムーズな組織設立が可能となった。毎期、やや黒字で、出資した 3 特約店に利益 (各社数十万円)を戻している。 ①車両等の設備の集約化による回転率・稼働率の向上、②人員体制の効率化、③配 送ルートの効率化により、灯油の配達の合理化が図られている 。 三原産業(株)が所有・管理する宇和島油槽所(容量レギュラー50KL、灯油 50、 軽油 100、A重油 490×2 のタンク)を共同で利用している。 人員体制は運転手 5 人、事務職員 1 名の計 6 名。 数年前から、共同出資者の 3 社だけでなく、地元のPB業者やJAの一部からも委 託を受け、5 社合計約 1,000 件の顧客に対し、ミニローリーで灯油の持届けを行っ ている(配達料は¥10/Ⅼ) 。顧客からの注文は、各特約店・業者に入り、FAX で協業組合事務所に知らされる。 また、大型ローリー2 台(16KL、18KL)を所有 (リース)し、特約店のオーダーを受けて、 燃料油を配送し、運賃収入も得ている。 現在は、灯油だけであるが、今後は、軽油やA重油の配送も視野に入れ、効率化を 図っていく。 類型5,6の参考事例:JA JA は、地域農協のスタンドへの燃料供給により、大きなボリュームを確保し、全国に 7 カ所の油槽所の保有を通じて、国内石油元売から蔵取りした燃料を自社ローリーで供給し ている。また、臨海油槽所において燃料油の輸入も行い、国内石油元売に対して強みを活 かしながら価格交渉しており、結果として、高い価格交渉力を保有している。 - 35 - 図表 III-5 配達の効率化のイメージ 【従前】 【効率化後】 出所)三原委員へのヒアリングより NRI 作成 共同タンク利用は、類型5.仕入れの共同化(商流上の合理化) 、類型6.物流の合理化 の両方のメリットが見込まれ、生産性向上に有効である。 石油流通課は、当検討会及び WG、精販協議会での議論を踏まえて、中山間地域等の供給 不安地域における共同タンク運営・配送等の取組の支援が本年3月より開始された(石油 製品安定供給体制整備事業 平成 27 年度補正予算額 50.0 億円の内数) 。 - 36 - 図表 III-6 中山間地域等の供給不安地域における共同タンク運営・配送等の取組のイメージ 【合理化前】 A社のSS B社のSS 【合理化後】 A社の顧客に配送 B社の顧客に配送 A社はB社から購入 効率よく配送 B社所有 効率よく配送 共同利用タンクの新設・入換・補修 出所)資源エネルギー庁 石油流通課 類型7. 受注の共同化 組合や複数事業者による共同受注も生産性の向上に有効である。 例えば、官公需等を組合受注し、精算手続きの IT 化を実施すれば、手続きの簡素化・省 力化による業務効率化が可能となる。同時に、発注者側の業務削減にもなるため、官公需 の受注拡大も期待できる。 地元自治体と組合が災害協定を結ぶ事例が増えてきており、それに伴って官公需の受注 が実現し経営の安定化に繋がっている事例も見られる。 委員からも、 「石油商業組合という観点からみると、1SS1ディーラーが7割を占めて おり、彼らに対して組合が何をできるかが課題。組合として、共同受注として官公需の取 り込みを考えていくべきだと思う」との意見があった。 共同受注は、顧客・消費者にとっても給油可能な SS のネットワークが広がることによ り利便性の向上が期待できる。 【先行事例:神奈川県石油商業組合】 ○ 組合カードシステムを開発し、官公需受注の決済・精算手続きを省力化 神奈川県石商は神奈川県と災害時燃料供給協定を締結し、地域における災害時の燃料供 給体制の構築に貢献するとともに、平時の官公需の受注を通して、安定的な需要確保による 組合員の SS 経営安定化を図っている。 従前の官公需の精算手続きでは、手書き伝票と Excel シートへの入力(データの送信)作業 の繁雑さが課題となっていた。また、県警察側も各警察署から提出される伝票の処理方法統 一化が課題となっていた。 - 37 - 神奈川県石は決済事務等の効率化を図るために、新たなカードシステムを開発。①SSのス タッフにとって操作が簡便であること、②利用する官公庁にあっても決済方法が統一され、事 務効率化・簡素化につながること、③県内利用だけ、あるいは官公需利用だけに限定される ことのない汎用性を有することの 3 点を意識した。 発注者から見れば、特定の元売の系列 SS で使用可能なカードシステムに比べても、組合員 の広範な SS ネットワークで給油できる点において、利便性の改善が期待できる。 システムの稼動実験において、SS のスタッフから「簡単で使用しやすい」との好評価を得てい る。電子化によって記入ミス等がなくなり、確認時の作業効率化も格段に向上する効果も期 待できる。 図表 III-7 神奈川県石商における官公需システム 出所)神奈川県石油協同組合「百選」申請書より 類型8. 個店レベルでの効率化 個店レベルでの効率化の例としては、①高効率型洗車機等の省エネ型設備の導入、②在庫 の IT 管理による調達タイミングの最適化、顧客履歴管理・精算手続きの省力化、③漏洩検 査等のメンテナンス・コストの削減、④灯油配送ルートの最適化等が挙げられる。 特に、過疎地など需要の減少が見られる地域では、コストの削減により中長期的に燃料供 給を継続するための工夫が必要であり、いわゆる駆け付け給油や、SS とゆうパック取扱所 との兼務等による人件費の削減も有効と考えられる。 委員からも、 「価格競争で戦う気は無い。SS の来店頻度の多さを分母として、発展させて いける、買って頂ける仕組みを作ることで、例えば燃料マージンゼロでも運営でき、毎年 昇給できる仕組みも作った。 」 、との意見があった。 【駆けつけ給油のメリット】 現在、SS敷地内に従業員(危険物取扱者)を常駐させることが義務付けられており、 資格者の確保やその人件費負担も廃業の理由の一つとなっている。 SSの来客時に、近隣の店舗等から駆け付けて給油できるようになれば、人件費の削 減による業務効率化が期待できる。 - 38 - 石油流通課・消防庁は、全国石油商業組合連合会や全国農業協同組合連合会と協力し、 ガソリンスタンドに隣接する店舗等の従業員が給油客に対応する「駆けつけ給油」の実 証実験を行った。 消防庁は実験結果を基に、安全性確保を前提とした最適な運用やインフラ整備のあり 方をまとめ、全国の自治体や消防関係機関、関係業界等へ通知する予定。 実験を通じて、隣接する店舗等との兼務でも安全確保が可能な運営形態を確立し、人 件費削減を実現して廃業に歯止めをかけたい。 図表 III-8 駆けつけ給油のイメージ SS 車両検知 センサー 店舗等 看 板 出所)資源エネルギー庁 石油流通課 - 39 - IV SS 経営を改善するための手法・ツール・支援策 SS 経営を改善するための手法・ツール・支援策を今後のSS経営の目指すべき方向性(8 類型)と先行事例において活用された手法やツール・支援策として、取りまとめた。また、 SS 経営力強化に向けて行われている各方面のサポートについて、全石連、元売・商社等に ついて、整理した。 最後に、国としての取組として、石油流通課からの支援可能性について、検討した。 1 地域・顧客のニーズに応えるためのツール・支援策 デザイン思考の活用によるニーズの掘り起こし 顧客のニーズを掘り起こすに当たり、近年では、「デザイン思考」と呼ばれるスキームが 注目されており、SS 経営にも応用できると思われる。デザイン思考とは、既存の顧客を深 く洞察・理解し、顧客の価値を体現するサービスを試作する手法である。SS 店舗で実際に デザイン思考を活用する際の留意点として以下の 3 点が挙げられる。 ①SS に来店する顧客の行動を徹底的に観察する。 ②観察するにあたって、これまでの業界内での「あたりまえ」を徹底的に疑う。 ③顧客のニーズを探るのではなく、顧客の潜在ニーズを創造する。 (顧客に対して「何 を行なって欲しいですか?」という問いかけを行なっても、 「安くして欲しい」以上 の答えはない。 ) デザイン思考の具体的な手法としては、「エスノグラフィー」、「ラピッド・プロトタイピ ング」がある。 「エスノグラフィー」とは、「行動観察」のことを指し、顧客価値を発見・定義するため に顧客を深く理解することを目的とした手法である。利用者の現場に入り込み、リアルな 状況を観察することで、利用者自身も気づいていない潜在ニーズを洞察する。 「エスノグラフィー」を活用して成功した事例としては、アキレス(株)の「俊足」が挙 げられる。 アキレス(株)は、小学校の運動会で、子どもたちの足元、走り方、靴の履き方等を観察。 開発リーダーは、自分の子どもの小学校の運動会で、毎年、全学年すべての子ども・親の 足元の写真を撮影し、写真を開発メンバーと共有した。すると、小学校のトラックは、ほ ぼ左回りであり、コーナーでバランスを崩す子どもが多い事に気が付いた。そこで、左回 りのコーナーで、子どもたちが安心して踏み込んで駆け抜けられる機能をつけた「左右非 対称ソール」 (左右非対称のスパイク配置)を開発。 100 万足売れれば、大ヒットといわれ るジュニア靴市場で、累計販売数 4,000 万足超えを達成した。 次に、2 つ目の「ラピッド・プロトタイピング」と呼ばれる手法は、 「仮説検証」のことで あり、 「エスノグラフィー」により発見された顧客価値をカタチにするための代表的な手法 である。 - 40 - アイデアが生煮えの段階から具体化し、検証することを繰り返し、世の中にない価値・コ ンセプトの有効性を確認しながら実現する。 「ラピッド・プロトタイピング」の成功事例と しては、任天堂(株)「Wii」のスティック型コントローラーの開発が挙げられる。 防災協定の締結と官公需の受注による経営安定化 地方自治体からの官公需を組合が受注し、経営安定化に役立てることが考えられる。前 述のように神奈川県石油商業組合においては、神奈川県と災害時燃料供給協定を締結し、 地域における災害時の燃料供給体制の構築に貢献するとともに、平時の官公需の受注を通 して安定的な需要確保による組合員の SS 経営安定化を図っている。 同様な取組は、各地域でも可能なものと考えられる。 事業承継・経営統合等による事業規模拡大・多角化 複数社による経営統合・事業承継は、スピーディーに事業を拡大・多角化する好機にもな り得る。第三回 WG では、WG 委員より、事業ポートフォリオに関する先行的な取組が紹 介された。 ・冬の灯油配送と夏場のタンク洗浄業務・農作業への従事を組み合わせることで 季節間の業務平準化を図る。 ・広域(複数県)に SS 展開することで、市況の変動による影響を平準化する効果 が見られた。 ・廃業予定の SS を改装・改良して再生し、顧客ターゲットを見直すことにより経 営を立て直した。 ・強力な競争者の出現に際して、SS 事業を撤退し不動産業や飲食ビジネスに転換 した。 ・他系列の特約店を買収することにより、仕入れ先が多角化され、交渉力が増し た。 ・合併先との本社・管理機能の集約により業務の効率化が図られた。 事業承継は、承継先に応じて①生前贈与・相続、②経営統合・M&A 等、様々な形式があ り得るものの、検討すべき要素に大差はない。具体的には、①事業性の評価、②承継のた めの人的体制・後継者教育、③相続税対策等の金融面の工夫について検討する必要がある。 この中でも特に重要なのが①事業性の評価であり、市場の成長性や競合他社との差別化要 素等の事業面における価値を客観的に評価することが重要である。 そして、今後の事業戦略については、他社との連携、事業分野からの撤退などの可能性も 含めてゼロベースで見直し、経営資源の選択と集中を実行すべきである。 - 41 - ① 事業戦略面:事業性の客観的評価・事業の成長・拡大、または撤退判断 ・外部環境の変化(地域内の人口動向、産業構造の変化、業界動向)を踏まえ、事業戦略 を見直す。 ・事業戦略や財務体質を入念に見直し、事業の選択と集中、他社との連携などを検討する。 ② 人材面:承継のための人的体制・後継者教育 ・検討した新たな事業戦略に沿う次期経営者を選択する。 ・カリスマオーナーの後継者選びの際は、一人の後継者という固定概念を払しょくし、複 数の者による経営チームを作り対応する(金融機関からの出向者の役割) 。 ③ 金融面:相続税対策・経営者個人保証などの対策 ・近視眼的な株式の承継の対処のみならず、同時に事業戦略に沿った経営の継承を検討す る。 ・ファンドや外部資本家の起用も柔軟に検討する。 中小 SS の①創業・新規分野への進出、②事業承継・事業再生支援 独立行政法人中小企業基盤整備機構の支援は、中規模・小規模といった比較的規模の小さ なところ、売上規模で言えば 3 億~5 億、従業員数 20 名程度の事業者をターゲットとして いる。このような中小企業の事業者数は減少を続けており、年間 3 万社程度が減っている。 この中の 1~2 割は、実際には黒字であって、事業としては継続できるが、後継者がいな いために廃業している。これを食い止めるために、全国に「事業引継ぎ支援センター」を 設置する動きが進んでいる。今年度中に全ての都道府県に同センターが設置されることに なっており、中小機構はその全国本部との位置付けで、同センターの立ち上げを始め、様々 なバックアップを行っている。 「事業引継ぎ支援センター」の業務は、同センター自身による売り手と買い手のマッチン グや、M&A 専門組織や地銀、信金などの支援機関との橋渡しをしながら事業継続を図って いくことである。また、 「事業引継ぎ支援データベース」の運用を開始し、事業を譲りたい 者と譲り受けたい者をマッチングさせ、事業の存続を図られるよう実際の契約や資金の清 算の支援まで行っている。 全国の「事業引継ぎ支援センター」を窓口に、中小企業に対する国からの支援策を提供し ており、SS事業者も様々な経営の局面で、これら支援策を活用できると考えられる。 - 42 - 図表 IV-1 中小SS向け支援ツール一覧:①創業・新規分野への進出支援 図表 IV-2 中小SS向け支援ツール一覧:②事業承継・事業再生支援 - 43 - 図表 IV-3 中小SS向け支援ツール一覧:③その他 出所)中小企業基盤整備機構パンフレット・HP より作成 2 生産性向上のためのツール・支援策 ボランタリーチェーン化(サプライチェーンの見直し) 前述のように他業界ではあるが、全日食チェーンは、中小スーパーをボランタリーチェ ーンとして束ねることにより、共同での仕入れを可能とし大手スーパーチェーンと変わら ない仕入れ価格を実現することで、生産性を高めている。このように、中小事業者であっ ても、まとまることで仕入れ交渉力を高めることが可能である。 このため、ボランタリーチェーンのような事業者の緩やかな集合体を、仕入れ交渉力向 上のためのツールとして活用することも考えられる。 事業連携しやすい企業体の選択(LLP 等) 複数社による連携に当たっては、事業連携しやすい企業体の選択は重要であり、有限責任 事業組合(LLP)の形を活用することも有効である。LLP 設立のメリットとしては、①二重 課税の防止、②議決権の決定の自由、③無限責任の回避の 3 点が挙げられる。まず、①の 二重課税の防止であるが、LLP での事業に利益が出れば、LLP 自体にではなく、損益分配 割合に従って各組合員に帰属する利益に課税されるため、二重課税(配当課税と法人税の 二重課税)を防ぐことが可能。また、構成員課税となるため、損失が出れば各組合員の所 得と通算できる。次に、②組合員の貢献度にあわせて、組合員間で出資比率に拘わらず議 決権と損益分配割合を柔軟に設定できる。③組合事業から発生するリスク(債務)に対し て、各々が出資額の範囲で責任を負う(無限責任の回避)。 - 44 - 図表 IV-4 LLP の優位点 出所)各種資料より NRI 作成 中山間地域等の供給不安地域における共同タンク運営・配送等の取組 中山間地域においては、SS の減少、住民の高齢化により、SS まで石油製品を購入しに 行くことの困難性が増加する中で、配送も難しいという課題を抱えている。一方、住民か らは配送ニーズが高いことから、ニーズに応えるためには、配送の効率化による生産性の 向上が必要となっていた。前述の大分石油・小関石油の事例のような配送業務の効率化が 考えられる。具体的には、各顧客先にホームタンクを設置し、個別の顧客からの注文によ る配送ではなく、一定ルートによる巡回配送により、効率化を果たしている。 前述のように、国において、新たに開始予定の中山間地域等の供給不安地域における共 同タンク運営・配送等の取組の支援(石油製品安定供給体制整備事業 平成 27 年度補正予 算額 50.0 億円の内数)の活用も考えられる。 官公需の電子精算システム 前述のように神奈川県石油商業組合においては、官公需取引の精算の際、購入側である 先方においても伝票が統一されてなく作業が繁雑であるといった問題が生じていたことか ら、その問題を解決し、自らにとっても利便性が向上する新たなシステムを構築し、生産 性向上を果たしている。 高効率機器の導入、駆けつけ給油などの個店の競争力強化 個別店舗においても、生産性の向上は可能である。例えば、セルフ洗車機の導入により、 人手をかけずに洗車サービスの提供が可能となる。また、前述のように過疎地においては、 給油所に常時の人員配置は難しいことから、例えば、近隣の小売店舗の従業員として働き - 45 - ながら、来客時には SS へ駆けつけて給油を行うことにより 1 人 2 役による生産性の向上が 図られることとなる。 3 SS の経営力強化に向けた各方面からのサポート SS の経営力強化に向けた各方面からのサポートとして、①全石連、②元売・商社等、③ 石油流通課(国)の主体別に整理した。 全石連としての取組とサポート 全国石油商業組合連合会(全石連)及び全国石油協会としては、①人材育成関連サポート、 ②金融サポート、③SS 収益サポートの 3 つの取組を実施している。 また、平成 28 年度から全石連は、組合員ニーズや元売集約・統合の動きに対応するために、 新たなSS事業領域の開拓・拡大および組合員の統合・集約・アライアンスを深化させる目 的の「SS経営革新部会」 (仮称) 、さらには、海外先進事例を含む水素エネルギーや電気 自動車等の各普及を包括した「次世代部会」 (同)を各新設する。 ① 人材育成関連(HV 研修、あり方研修、災害研修等) ・HV 研修は、当初は「低電圧研修」 、26 年度から「スキャンツール研修」を追加している。 ・SS あり方研修は、 「業界展望」 「SS 成功事例」「人材育成確保」の 3 テーマで実施。 ・災害研修は、中核 SS を中心とする有事対応・訓練(発電機作業手順等) ・自治体防災訓練は、東日本大震災以降、増加傾向にあり、規模も拡大する傾向。 ② 金融サポート(SS 業の特性を踏まえた全国石油協会による信用保証事業等) 全国石油協会の信用保証事業は、(1)主取扱商品であるガソリンは高率のガソリン税が課せ られ取引金額が多額化する。(2)仕入代金の支払いと販売代金の回収までの期間に必要とす る運転資金の負担が増大する。(3)原油や石油製品、更には為替の乱高下により、資金需要 の多寡が大きく発生、しかも急を要する。――といった SS の事業特性に沿った 7 メニュ ーを用意。 - 46 - 図表 IV-5 金融サポート/信用保証事業の実績推移 ②金融サポート/信用保証事業の実績推移 5,850 36,500 累計 ㊧金額(億円) 累計 件数㊨ 5,800 35,857 5,782 36,124 36,000 35,503 5,739 5,750 5,700 35,500 35,000 34,849 5,675 5,650 34,500 5,600 34,000 5,570 5,550 33,500 H24年度末 H25年度末 H26年度末 H27年度 出所)全石連 ③ SS 収益サポート(スケールメリットを活かした各種共同事業、自家共済保険事業) 全石連のスケールメリット=バイイングパワーを活かして、共同事業として約 100 品目 の商材・消耗品をあっ旋販売している。全石連推計で、給油伝票 26%、洗車タオル 15%の マーケットシェアを有する事業もあり、中小企業 SS にスケールメリットを還元する一方、 都道府県石油組合の財務状況向上にも寄与している。事業場内の事故・災害被災(人と器物) や経営者とスタッフの福利厚生に寄与する共済・保険商品も展開。SS ニーズに即した新商 品を適宜、導入している。 また、都道府県等石油組合における取組として、以下が実施されている。 【地域社会貢献関連】東日本大震災を契機に、災害時における SS と石油製品が再評価され ることとなった。 特に平成 27 年度においては、全石連と都道府県石油組合の連携によって、 地方自治体等における「災害協定の締結」と「官公需需要の石油組合への配慮」の結びつ きが強まった。地域インフラとしての地場 SS の拠点性能、小規模・分散型エネルギーとし ての石油製品の有用性・有効性の面が大きく評価され、こうした側面を活用した組織活動が 広がっている。 〈45 都道府県において燃料供給協定締結〉 - 47 - 【人材関連サポート】SS スタッフの募集、育成、スキルアップという日常業務の人材力を 高めるためのサポートとともに、防災訓練の実施・参加等を通じた災害時における有事対応 力の強化への取組が広がるなど、 「頼りになる SS スタッフ」を育成している。 〈41 都道府県で人材育成事業実施〉 【SS 収益下支えサポート】燃料油の需要減と低粗利が続く中、地域の石油組合による SS 収益を下支えする各種の事業が展開されている。石油連盟と日本ガス石油機器工業会が主 催し、全石連が協賛して全国規模で実施されている「灯油でほかほかキャンペーン」を、 地域の石油組合が独自の工夫を付加し PR に活用するなど、地域の石油販売業界ぐるみで取 り組まれている。 〈37 都道府県(含む、予定。 )で官公需資格取得〉 【経営合理化サポート】地域の石油組合として、その構成員の購買力や個別ニーズを集約 した多様なサポート事業が各地で行われている。 「計量機」「燃料タンク」 「産廃物リサイク ル・共同処理」に関するものが大勢を占めるが、 「売掛金・債権の回収」等の金融的なサポ ートや日常の収益業務につながる「潤滑油(モーターオイル)共同購入」も行われている。 元売・商社等としての取組とサポート 元売や商社は、石油製品の供給先である石油販売業者が健全な経営を継続することが望ま しいことから、SS 経営のリテールサポートに注力している。 リテールサポートの観点としては、①集客力といった顧客の増加、②新たな商品・サービ スによる売上増加、③コスト削減を 3 本柱として、この 3 本柱を支えるために石油販売業 者サイドの人材育成にも力を入れている。人材育成については、経営層、マネージャー層、 現場スタッフ層といった階層別に実施しており、現場の技術力・経営力向上に貢献してい る。 ① 集客力といった顧客の増加 SS 店頭のスタッフは合理化が進んだ影響で人数が減っているため、スタッフに手を煩わ せずに集客力を高めてもらう施策を実施している。具体的には、人気キャラクターを使っ た集客キャンペーンを元売主導で実施している。また、自社のクレジットカードを活用し た SS への顧客誘導やコンビニやカフェといった異業種との提携による SS への送客による 増客活動の支援を実施している。 ② 新たな商品・サービスによる売上増加 自社ブランドの高品質の合成オイルやバッテリーの提供、更にトータルでのカーライフ サポートとして、車検・整備等を取り込むために、顧客の車両の生涯履歴の管理が可能と - 48 - なる車両管理システムの提供も実施している。車両の生涯履歴管理システムの仕組みの検 討のために、地域の自動車ディ-ラーを買収した例もある。 ③ コスト削減 石油販売業者の間接コストを削減するために、経理等のアウトソースを受託するサポー ト会社を用意したり、企業の統合で、複数の POS が並存している事業者は、統合後の新た な POS システムを導入することにより、ローコスト化を図っている。 また、元売の団体である石油連盟は、業界全体からの取組として、透明な市場を構築によ り競争条件が整備されることが重要と考え、需給を適正に反映した指標価格の醸成と現在 提供している各情報の信頼性を高めていくことを第一の取組としつつ、以下の取組を行っ ている。 ① サプライチェーン維持に向けた自治体への啓発との取組として、県レベルよりも市町村 レベルの意識を高めてもらうことが重要と考え、様々な訪問提案活動を実施している。 例えば、災害時に備え、平時のサプライチェーンの維持が重要であることを認識しても らい、更には、燃料備蓄を進めてもらうことで、需要維持につなげている。また、石油 は長期保存で品質が劣化するという認識を持ってもらい、地場の SS に関して、燃料供 給拠点としての役割だけではなく、燃料油備蓄をする拠点として、自治体在庫の委託管 理を SS が行うといったような、様々な提案をしている。 ② SS 関連規制の緩和のために、規制当局への働きかけを行い、建設コストや運営コスト の低減に繋げていく。具体的な取組としては、過疎化対策として、タンクローリーから ポータブル給油機への直接給油が可能となるよう規制当局への働きかけを行っている。 ③ 石油販売業者への啓発面では、暖房機や発電機といった最新の石油機器の紹介や、石油 事情に関する啓発セミナーの開催などを行っている。 ④ 全石連と協調しながら、一般消費者を対象に、石油の重要性等の様々な PR を実施して いる。一般消費者だけでなく、例えば、建築設計事務所といった一般消費者の手前のサ ブユーザーを対象にしたセミナーにより、石油製品の需要開拓につながる取組を行って いる。 - 49 - 石油流通課(国)としての取組みとサポート 人口減少、自動車燃費の改善や若者の車離れ等により、燃料油需要は中長期的に減少し 続ける見込みであり、SS業界を取り巻く環境は極めて厳しい。しかしながら、SSは生 活・経済活動に不可欠な財たる石油製品が消費者に安定的かつ低廉に届けられるための拠 点としての役割を担っており、過疎地や災害時対応等の経済合理性を越えた領域まで、そ のネットワークの維持が求められるという意味において、公共インフラとしての性質を備 えている。日本全国での石油サプライチェーンの維持のためには、SS 事業者が創意工夫を 凝らして、生き生きと活躍し続けていただくことが不可欠である。 本検討会の枠組みに併せて、 「SS 経営に関する優秀事例集(通称:百選) 」を作成した ところ、百人百様のアプローチが見られた。一人一人の顧客や地域ニーズに正面から向き 合い、周辺事業者や取引環境を考慮しながら、生産性を最適化できるように経営資源・ビ ジネスモデルをカスタマイズしていくという地道なアプローチが不可欠である。こうした 取組を着実に、徹底的に突き詰められたSSこそが、厳しい競争環境においても他社の追 随を許さぬ揺るぎない立ち位置を形成している実態が改めて浮き彫りになった。 SSビジネスに王道はない。言うまでもなく、国のサポートありきの姿勢で上手くいく ほど、SSビジネスは甘くはない。過疎地等における燃料安定供給の役割を担うSSに対 しては、石油流通課により、生産性向上に資する取組に対する支援策が講じられているが、 こうした枠組みを活用する者は、中長期的に石油製品の安定供給の役割を果たすために、 自らのビジネスモデルをどのように改善していくのか、再考する契機とすべきである。そ して、定期的に自ら立てた経営改善目標がどの程度達成できているのか、自主的にPDC Aを回してフォローアップしていくべきである。自らの運命は自ら切り開くのが、経営者 の基本である。 とはいえ、民間事業者の自助努力のみでは如何ともしがたい課題があるのも事実である。 まず、精販の間での公正な取引環境の整備は急務である。米国のジョバーはSS毎にブラ ンドを管理して、先物取引等を含めて調達先を多角化することにより、仕入れコストに鋭 敏なビジネスを展開している。WGにおいて、SSがこうした取組を行おうとしても、元 売の機嫌を損ねるのではないかと無用の懸念を感じて断念してしまうケースもある旨の発 言があった。個別審査的アプローチはある程度は仕方ないのかもしれないが、予見性がな く、抑止力も効きにくい。元売りの経営統合も予想される中で、SSが生産性を向上させ るための方策が制限されることのないように、望ましくない行為の類型があらかじめ示さ れるべきである。 加えて、石油サプライチェーンを現場で担っているのは、多くの中小企業であることを 忘れてはならない。個社の枠を越えて、中小SS同士で連携する動きが見られている。全 石連では、当該検討会の潮流を受けて、先ごろボランタリーチェーン(VC)検討会を開 催し、地域の独立店が単独の経営体を維持しつつ、組織と行動のシステムを通じて、志を 同じくする人たちが大きな束になって戦うひとつの選択肢の勉強会を開催した。こうした - 50 - 自助努力の動きが大きな潮流となるように、SS業界とともに方向付けていくべきである。 石油流通課は、平成 27 年度補正予算において、灯油の共同仕入れ化による物流の合理化を 促す新たな支援措置を導入したが、これもそうした方向付けの一貫と言えるであろう。 また、SS 過疎地の問題は、今後益々深刻化していくと思われ、民間のSS事業者の自 主的努力だけでは、SS の維持ができない地域も、更に増加していくことが想定される。こ れらの地域においては、石油業界のみならず、国、地方自治体の積極的な関与の上で、そ れぞれの地域のニーズに合った取組をカスタマイズしていくことが必須である。過疎地こ そ、需要の減少に見合った生産性の向上が不可欠であり、国の支援措置も配送合理化等そ うした方向性に舵を切っていくべきである。 最後に災害対応は、経済合理性を越えた取組が求められる領域であり、政策による介 入・支援が正当化され易い分野である。それとともに、見方を変えれば、SSが社会的に 求められている役割に応えていくことにより、逆に地域に支えられていく側面があること も忘れてはなるまい。地元の石油商業組合が、災害時の最後の砦としての役割・責任を自 負・自覚し、地元の都道府県・市町村と災害協定を締結するとともに、平時より防災訓練 に取り組む事例が増えてきている。こうした取組の積み重ねにより、石油商業組合による 官公需受注は増えてきており、過疎地をはじめSSの収入安定化に寄与している事例があ る。国として必要な支援は継続しつつも、災害時の対応能力の実効性の向上、地元とSS の結びつきの強化を促すような支援のあり方を引き続き模索していくべきではないか。 - 51 - 【参考資料】SS 事業者の類型と特徴 「石油製品販売業経営実態調査」の個票データより浮かび上がった類型別 SS 事業者の特徴 を整理した。 これらの各類型の平均像であり、自社が置かれた位置を確認した上で、自社と各類型に 示されている指標の差を見ていくことにより、自社の置かれた状況が明確にできる。 これらの分析結果も踏まえながら、類型に示されたような経営力強化をどのような方向 で考えていくことが重要であり、その第一歩として活用願えれば幸いである。 - 52 - 「専業×1SS1ディーラー」の平均像 「専業×中規模ディーラー」の平均像 - 53 - 「専業×大規模ディーラー」の平均像 「兼業×1SS1ディーラー」の平均像 - 54 - 「兼業×中規模ディーラー」の平均像 「兼業×大規模ディーラー」の平均像 - 55 - 【参考資料】 全石連・石油協会におけるサポートの取組状況 ◇人材関連事業 - 56 - ◇金融サポート事業 - 57 - ◇SS 収益サポート事業 - 58 - ◇石油組合のSS経営力強化事業総覧【地域社会貢献】 ◇石油組合のSS経営力強化事業総覧【人材関連】 - 59 - ◇石油組合のSS経営力強化事業総覧【収益下支え】 ◇石油組合のSS経営力強化事業総覧【経営合理化】 - 60 - (様式2) 二次利用未承諾リスト 報告書の題名 平成27年度石油産業体制等調査研究 S 委託事業名 平成27年度石油産業体制等調査研究(SS 受注事業者名 株式会社野村総合研究所 頁 10 11 12 18 19 19 20 20 図表番号 II-8 同上 II-9 II-16 II-17 II-18 II-19 II-20 タイトル 業種別粗利率 同上 費用構成比 給油所数の推移(実数) 給油所数の推移(指数化:1990年=1) 給油所数の実数および指数 自動車千台あたり給油所数 給油所あたりの販売数量(KL/月)