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Title 霊長類進化の科学( p. 346 ) - Kyoto University Research

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Title 霊長類進化の科学( p. 346 ) - Kyoto University Research
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霊長類進化の科学( p. 346 )
京都大学霊長類研究所; 松沢, 哲郎; 髙井, 正成; 平井, 啓久;
國松, 豊; 相見, 滿; 遠藤, 秀紀; 毛利, 俊雄; 濱田, 穣; 渡邊,
邦夫; 杉浦, 秀樹; 下岡, ゆき子; 半谷, 吾郎; 室山, 泰之; 鈴
木, 克哉; HUFFMAN, M. A.; 橋本, 千絵; 香田, 啓貴; 正高,
信男; 田中, 正之; 友永, 雅己; 林, 美里; 佐藤, 弥; 松井, 智子;
林, 基治; 大石, 高生; 三上, 章允; 宮地, 重弘; 脇田, 真清; 松
林清明; 榎本, 知郎; 清水, 慶子; 鈴木, 樹理; 宮部, 貴子; 中
村, 伸; 浅岡, 一雄; 上野, 吉一; 景山, 節; 川本, 芳; 田中, 洋
之; 今井, 啓雄
京都大学学術出版会. (2007)
2007-06
http://hdl.handle.net/2433/192771
Right
Type
Textversion
Book
publisher
Kyoto University
よって実施された。
[1]Harcourt A. H., Harvey P. H., Larson S. G., Short R. V. 1981: Testis weight, body weight
and breeding system in primates. Nature 293: 55-57.
[2]Dixon A. F. 1995: Sexual selection and ejaculatory frequencies in primates. Folia Primatol
64:146-152.
[3]Short, R.V.(1979)
. Sexual selection and its component parts, somatic and genital selection,
as illustrated by man and the great apes. Advances in the study of behavior, 9: 131-158.
[4]松林清明,榎本知郎,長戸康和,中野まゆみ,小菅正夫,秋久成人,葉山杉夫,1996. ニシロー
ランドゴリラ 3 頭の精巣組織所見。霊長類研究 12:299.
[5]松林清明 , 榎本知郎 , 中野まゆみ 1997: 大型類人猿の精巣組織の光顕的特徴 . 霊長類研究
13:279.
[6]Matsubayashi K., Enomoto T., Nakano M., Fujii-Hanamoto H. 2001: Reproductive
strategies of great apes in a vew of testicular histology. The XVIII Congress of the
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[7]松林清明 , 榎本知郎 , 中野まゆみ , 花本秀子 2000: ゴリラ精巣の組織学的特徴(2). 霊長類
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[8]Enomoto T., Matsubayashi K., Nakano M., Fujii-Hanamoto H., Kusunoki H., 2004:
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ed), Florida, Academic Press, Pp. 589-600.
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[13]Bellis M. A., Baker R. R. 1990: Do female promote sperm competition? Data for humans.
Animal Behaviour 40: 997-999.
[14]Enomoto T., Matsubayashi K., Nagato Y., Nakano M., 1995: Seasonal changes in
spermatogenic cell degeneration in the seminiferous epithelium of adult Japanese macaques
(
)
. Primates 36: 411-422.
[15]榎本知郎 , 中野まゆみ , 松林清明 , 長谷川有美 2001: ニホンザルの成長・加齢に伴う精子形
成の変化 . 霊長類研究 16: 296.
2 霊長類の生殖内分泌現象の特性
動物は自然環境に適応しながら,ときにはそれを積極的に利用して生殖を効率
的に行うことにより,種を維持してきた。すなわち,たえず変化する日長や外気
温など外的環境に応じて,それぞれの動物種が独自の繁殖期を持ち,逆に繁殖の
成功率が低い環境のもとでは性腺の働きを抑えることによってエネルギーを浪費
346
第Ⅴ部 体をみる
することなく,効率的に種を維持している。このためには,生体の内外の環境を
的確に把握し,個体の恒常性を維持すると共に,これに対して合目的的かつ適切
に対処する能力を備えている必要がある。動物のこの能力を可能にしているのが
生体内の情報伝達機構である。これらの機構のうち,ここでは,ニホンザルの,
とくに種の維持を担う生殖の機構について,我々のこれまでのデータを紹介する
とともに,類人猿やヒトのそれと比較する。
■霊長類の季節繁殖性
一般に,動物の分布域が赤道から遠ざかるほど,季節繁殖性がより明確に現れ
てくることが知られている。このことは霊長類においてもよく当てはまる。例え
ば,ニホンザルを含むマカカ属のサルは約 10 数種がアジアに生息しているが,
このうち,インドネシアやインドシナなどの赤道域に生息するカニクイザルやブ
タオザルは周年繁殖動物であり,特定の繁殖期がなく,年間を通して月経が見ら
れ,繁殖する。しかし,赤道域にあっても,雨季,乾季などの季節変化が激しい
環境下では特定の季節に出産が偏る傾向がみられる。一方,それより北の中国か
らインドにまたがる地域に生息するアカゲザルは,季節繁殖を示す傾向が強い。
さらに高緯度の日本に生息するニホンザルでは,明瞭な繁殖期の季節性がみられ
る。ニホンザルの季節繁殖性は屋内飼育条件でも明確に維持されるが,アカゲザ
ルを屋内で飼育すると,周年繁殖化の傾向が強くなる[1]。これらの知見は,霊
長類においても,環境条件が厳しくなるほど生殖の季節性が,種の生存にとって
より不可欠な遺伝形質となることを示している。
■ニホンザルの繁殖季節
ニホンザル(
)は,ヒトを除く高等霊長類の中で,地球上で最北
限に生息するサルであり,屋久島から本州最北端の下北半島に至る日本各地に生
息している。さらに,マカカ属のサルの中でも例外的ともいえるほどの明瞭な繁
殖期の季節性をもっている。このニホンザルの繁殖期は晩秋から冬で,短日発情
型の季節繁殖をおこなう。メスは 4 才の繁殖期に初潮を迎え,月経周期が開始す
る個体が多い。成熟メスでは繁殖期に入ると,ヒトや類人猿同様に約 26 ∼ 28 日
第 10 章 生理と薬理
347
の性周期に伴う規則的な膣出血すなわち月経が見られ,排卵を伴う。非繁殖期に
は月経は見られない,もしくは,あっても無排卵性月経である。さらに,顔や性
皮が,また,オスでは陰嚢が赤く腫脹する。その反応は初発情の場合はとくに著
しい。また,
求愛の行動が見られるようになる。ニホンザルの生殖行動は,
決まっ
たオスとメスのコンソート・ペアを形成し,多数回のスラスト,多数回交尾型で
行われる。交尾は排卵前後に限定されないという著しい性行動の特徴を持つ。こ
れはヒトおよび類人猿と共通している特徴であり,排卵時にのみ交尾を行うキツ
ネザルや多くの哺乳類とは大きく異なっている。ただし,交尾の頻度は排卵時期
に当たる月経周期の中頃が最も高い傾向を示す。妊娠すると,ほぼ半年の妊娠期
間の後,春から初夏にかけて子どもが産まれる。ニホンザルが季節的に交尾を行
うのは,子育てに都合の良い時期に出産を迎えるために他ならない。ニホンザル
は,ほとんどが一産一子であり,初発情後 6 才までには大半のメスが初産をむか
え,出産間隔は約 2 年,20 才前後で最後の出産がみられることが多いようである。
一方,オスニホンザルは概ね 5 才の繁殖期になると精子形成が始まるが,おとな
の体格になるのは 7 才以降である。
ニホンザルの季節性繁殖リズムの発現機構については未だ不明な点が多い。気
温,降水量,日照時間などさまざまな信号を感知し,まずメスが月経周期を開始
し,その後オスの生殖系が発達すると推測されている。これらの信号を制御して
サルを飼育しても,本来の季節性は失われなかったとする結果から,ニホンザル
は強力な内因性の時計を持っていることが示唆される。一方,緯度と出産期の相
関が相当強いこと,すなわち,高緯度に分布するニホンザルほど出産期が早いこ
とから,日照時間が季節性の要因との報告もあり,地域ごとに微調整された強い
内因性の時計の存在が示唆されている。近縁のアカゲザルでは,北半球と南半球
の動物園の間で出産期が正確に半年ずれるという。さらに,1980 年に日本から
オーストラリアのタスマニア島に移植されたニホンザルの群れでは,翌 1981 年
3 月に 1 例出産があり,その後は 1981 年 11 月に 2 例,さらに 1982 年には 11 月
と 12 月にそれぞれ 1 例の出産が観察された。つまり,彼らの繁殖リズムは,移
植直後は日本のリズムを保っていたものの,わずか 1 年以内に半年ずれたことに
なる。しかし,ニホンザルのメスを人工的に照明時間や環境温度を一定にして長
期間飼育しても多くの個体は繁殖期に入ると月経が始まり,繁殖期が終わると停
止するなど,繁殖のリズムはほとんど崩れない[2]。これらのことから,ニホン
348
第Ⅴ部 体をみる
ザルの繁殖リズムの決定には内因性の概年リズムと光周期や気温などの環境要因
が複雑に組み合わさっていると考えられている。
ニホンザルの出産月は 5 月をピークとする 3 月から 8 月までの間に限局してお
り,それ以外の時期に出産例はない。妊娠期間は,私たちの観察結果では,屋内
の個別ケージ飼育で約 167 日,屋外の放飼場では約 170 日であった。また,半野
生の餌付け群の記録によると約 173 日であり,ニホンザルの妊娠期間は飼育条件
により若干の違いがあることが分かる。一般的に,動物の妊娠期間は種によって
決まっている。しかし,それは霊長類ですらも固定したものではなく,栄養状態
の変動や環境の変化によって変動しうるものであることが分かっている。高タン
パクの食餌を与えることにより妊娠期間が 8.5 日も短くなったり,夏期に妊娠し
たサルの妊娠期間が冬に妊娠したサルよりも長い傾向がある。また,一般に体重
が重い種ほど妊娠期間が長くなる傾向があり,マカカ属サルの妊娠期間を比べた
結果でも,妊娠期間は,体重の重いものほど長く,ニホンザルでは 167.4 日であ
るが,カニクイザルでは 163.5 日となっている[3]。
■ニホンザルの月経周期と内分泌動態
メスニホンザルの排卵性月経周期に伴う各種生殖関連ホルモンの血中量の変化
を図 1A に示した。黄体形成ホルモン(Luteinizing hormone, LH)は,卵胞期には
全体的に低値を示し,卵胞刺激ホルモン(Follicle stimulating hormone, FSH)分泌
は卵胞期前半に亢進する。この FSH の作用により卵胞の発育が始まる。卵胞発
育に伴いエストラジオールが増加する。エストラジオールは,はじめは徐々に,
次いで卵胞の急速な発育とともに急増し,排卵直前にピークを形成し,その後急
減する。LH は卵胞期中期,後期を通じて低値を示すが,エストラジオールのピー
クに引き続き上昇し鋭い山を作る。これが LH の一過性大量分泌(LH サージ)で,
多量の LH が成熟卵胞に作用すると卵胞破裂が起こり,卵が排出される。また,
プロゲステロンは副腎皮質からも分泌されており,排卵前にも少量は存在してい
るが,排卵直前の LH サージが卵巣に作用し,排卵がおこると,卵巣黄体でプロ
ゲステロンが合成される。すなわち,排卵後は黄体が形成され,プロゲステロン
は LH サージ後約3日目頃から上昇しはじめ,黄体が完全に成熟する排卵後7日
前後で最大量に達する。妊娠が成立しなければ,その後,黄体は退縮しはじめ,
第 10 章 生理と薬理
349
それにつれてプロゲステロン量も減少する。さらにこれが刺激となって血中 LH
および FSH のレベルの上昇がはじまり,次の新しい月経周期が始動する。この
ように,卵胞期後半におけるエストラジオールの上昇,排卵前の LH のサージ,
黄体期におけるプロゲステロンの上昇など,ニホンザルの月経周期にともなう一
連のホルモン動態はヒトや同じマカカ属のサルであるアカゲザルやカニクイザル
などとよく一致している。しかし,ヒトで見られる黄体期のエストラジオールの
上昇は,これらマカカ属のサルでは見られない。また,ニホンザルのエストラジ
オールのレベルはアカゲザルより高いという報告もある。月経は旧世界ザルの仲
間に広く認められる。ニホンザルの月経周期の長さは,
およそ 26 ∼ 30 日である。
ちなみにアカゲザルの月経周期長は 26 ∼ 30 日,カニクイザル 28 ∼ 30 日とニホ
ンザルとほぼ同じであり,ヒトともさほど変わらない[4]。1 繁殖期の間に平均 3
∼ 4 回の排卵がみられる。
また,メス同様,ニホンザルのオスの性機能も季節変化を示す。繁殖期に入る
と性皮や陰嚢は赤くなり,血中テストステロン量は上昇し,繁殖期が終わると精
巣は小さくなり,テストステロン量は激減する。ゴードンらは環境要因がオスメ
スどちらに作用しているのかを調べるために,オスアカゲザルを用いて,メスと
一緒に飼育されるオスのグループ,オスだけの群れであるがメスが見える場所で
飼育されるグループ,他の集団から全く隔離されたオスだけのグループの三つに
わけ,観察をおこなった[5]。繁殖期に入ると前の二つのグループでは血中テス
トステロン量は上昇し,交尾,オス同士のマウンティングが観察されたが,他の
集団から全く隔離されたオスだけのグループにはほとんど見られず,血中テスト
ステロン量の上昇はごくわずかであった。これらのことから,環境要因はまずメ
スに作用し,さらにメスからの影響でオスに生理変化が生じると彼らは述べてい
る。しかし,メスと完全に接触を絶たれたオスの集団でも血中のテストステロン
の値はわずかではあるが,季節により上昇するとの報告もあり,これらから,オ
スにも独自の繁殖リズムが存在するが,そのリズムにメスからの影響がさらに働
くことで,オスの性機能が活発化すると考えられている。我々の実験でも,オス
メス一緒に飼育されている群れのオスの血中テストステロン動態には季節変化が
あり,繁殖期に高く,非繁殖期に低いこと,非繁殖期にメスニホンザルを人為的
に排卵誘起すると,オスがこれに追従して発情し,交尾を行い,妊娠に至ること
もあるという結果を得ている。
350
第Ⅴ部 体をみる
■ニホンザルの妊娠中の内分泌動態
図 1B にニホンザルの受精から分娩までの血中内分泌動態を示した。
LH サージ後,卵巣黄体が働いている妊娠 10 日目頃までは,プロゲステロン分
泌動態は非妊娠周期と妊娠周期で差はない。その後,妊娠が成立すると絨毛性性
腺刺激ホルモン(chorionic gonadotropin, CG) の作用により黄体が賦活化され,
妊娠 11 日目には,妊娠黄体となってプロゲステロン分泌をさらに亢進させる。
ところが,この妊娠黄体の寿命は 10 日程度のため,CG 分泌の最盛期であるに
もかかわらず,卵巣からのプロゲステロン分泌は低下する。この頃より,プロゲ
ステロンの主たる産生源が胎盤に移行し,プロゲステロンの第 2 番目のピークが
妊娠 35 日頃に見られる。その後血中プロゲステロンは減少し,妊娠 45 日頃には
中程度のレベルとなる。妊娠末期まで胎盤からのプロゲステロンの分泌は持続し
一定の値を維持するが,分娩前になるとプロゲステロンは再び上昇し,分娩直前
には最高値に達する。分娩後血中プロゲステロンは直ちに激減する。エストラジ
オールの産生源も妊娠初期では黄体であるが,妊娠 11 日以降,その主たる産生
源が胎盤に移行すると,C 19 アンドロゲンを分泌し,胎盤性のエストラジオー
B
900
Progesterone
200
4
100
2
Estradiol-17β (pg/ml)
6
Progesterone (ng/ml)
Estradiol-17β (pg/ml)
Estradiol-17β
700
4
500
2
300
Estradiol-17β
100
0
0
6
Progesterone
Progesterone (ng/ml)
A
300
0
10
700
LH (pg/ml)
LH (pg/ml)
8
500
300
100
6
4
2
0
-5
0
5
10
days
15
20
0
50
100
days of pregnancy
150
図 1 A:ニホンザルの正常月経周期における末梢血中エストラジオール,プロゲステロン,
LH 動態。LH サージの日を day 0として表示。B:妊娠ニホンザルの末梢血中エストラジオー
ル,プロゲステロン,LH/CG 動態。妊娠した周期の LH サージの日を day 0として表示。
第 10 章 生理と薬理
351
ルが分泌されるようになり,エストラジオールは妊娠経過と共に漸増する。プロ
ゲステロン同様エストラジオールも分娩後は直ちに激減する。CG はトロフォブ
ラストの絨毛細胞から分泌されるが,着床によって母体血中に検出可能となる。
妊娠前,測定限界以下であった血中 CG は,受胎後 8 ∼ 12 日頃より血中や尿中
に現れ測定可能となり,その後急激に増加して 22 日頃ピークに達する。その後
は漸減し,35 日頃までには基礎レベル以下に下降する。妊娠中期,後期には測
定限界以下の量しか存在しない。各種霊長類における着床,血中 CG 検出開始日
の模式図を示した(図 2)[6]。ヒト,マカク,類人猿では CG は着床直後に上昇
しはじめ,ヒトと類人猿では妊娠前期の終わりには減少するものの,分娩まで測
定可能である。一方マカクは着床後1ヶ月以内には CG の値は低くなり測定限界
以下となる。マーモセットでは CG の立ち上がりは,他の種に比べ遅く,さらに
そのピークは妊娠中期に見られる[6]。このように類人猿やヒトでは妊娠中期,
後期を通じて分娩直前まで相当量の CG が分泌されているが,この違いがホルモ
ン測定によるマカカ属サルの妊娠診断法のネックとなっている。私たちが開発し
た尿中 CG 測定法によっても,CG が尿中に出現し始めるのは,ニホンザルでも
アカゲザルでも妊娠 12 日頃,最高値は 3 週間目頃に見られ,そして妊娠 35 日前
後には消失するという結果を得ている[7]。
このように,霊長類の妊娠中のおもなホルモン動態と代謝機構はヒトと大差は
ない。しかし,定性的には,マカカ属サルでは,例えばエストロゲンに関しては,
特にエストリオール(E 3)の生成は測定できないほど微量である。母体血中のプ
ロゲステロンもヒトや類人猿では妊娠経過と共に漸増するが,マカカ属のサルで
は妊娠初期にピークがあった後は低い値を示す。妊娠 50 日頃まで高値を示し,
とくに 20 ∼ 25 日にピークを示す。これは CG が妊娠卵巣黄体を再賦活すること
によるものとされている。サルでは妊娠中のステロイドホルモン産生は妊娠 20
日前後に卵巣から胎盤への切り替えが行われて,主として胎盤性のホルモンが妊
娠を維持することになる。事実,黄体期に CG を1日 25IU ずつ連日注射すると
血中プロゲステロン値は数日間倍ほどに上昇し,以後漸減する。また,妊娠 22
∼ 24 日目に卵巣を摘除しても母体血中のステロイドホルモンや CG に影響のな
いことからも証明されている。プロゲステロンは妊娠中期から末期にかけて再び
上昇する。この末期の上昇は胎児−胎盤ユニットから妊娠黄体が刺激を受けて起
こるとされている。
352
第Ⅴ部 体をみる
ヒト
CG 量
出産日
類人猿 ヒト
マーモセット マカク
類人猿
マカク
マーモセット
1
170
270
妊娠期間(日)
図 2 ヒト,類人猿,マカク,マーモセットにおける妊娠中 CG 分泌動態および分泌量の比較。
縦の矢印はそれぞれの出産時期を表す。
(Hodgen, 1979 を改変)
■ニホンザルの加齢に伴う月経周期と内分泌動態の変化
前節で述べたニホンザルの月経周期と内分泌動態は成熟個体にみられる現象で
ある。この節では,ニホンザルの成長にともなう月経周期と内分泌動態の変化に
ついて述べる。
まず,胎児期においては,胎盤性エストロゲンの影響を受けて,胎児の下垂体
前葉よりゴナドトロピンが分泌されるが,その後すぐにネガティブフィードバッ
クが起こり,減少する。新生児期においては,分娩により胎盤性エストロゲンが
消滅し,それに反応して下垂体前葉でネガティブフィードバックが起こり,ゴナ
ドトロピン分泌が亢進する。その後は,中枢神経系に抑制機構が働き,視床下部
のゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)分泌が抑制され,その標的組織である
下垂体前葉のゴナドトロピン分泌も極度に低下する。3 ∼ 4 才の繁殖期になり春
機発動期といわれる頃になると,それまで抑制されていた中枢神経系の機能が解
放され,中枢神経系が成熟する。これにより視床下部から律動的に GnRH が神
経を経由して分泌され,下垂体門脈を通り下垂体前葉に伝わる。その結果,下垂
第 10 章 生理と薬理
353
体前葉よりゴナドトロピンの FSH と LH が分泌される。このゴナドトロピンは
メスでは卵巣に作用することにより,卵巣はエストロゲンほか,アンドロゲン,
排卵後にはプロゲステロンなどの性ステロイドホルモンを分泌させる。
一方,老化にかんしては,ニホンザルもヒトと同様に月経周期の加齢は閉経と
いう形で現れる。40 年間にわたり飼育されたアカゲザルでの報告によると,22
才頃から月経数が著明に減少しはじめ,26 ∼ 28 才で月経が停止したという。こ
のコロニーのサルの寿命は明らかではないが,最高齢で死亡した個体は 30 才で
あったことから,それを寿命と仮定すると閉経後の生存期間はわずか 2 ∼ 3 年で
あったと報告されている[8]。ニホンザルではこのような長期にわたる記録はな
いが,当施設での記録でも 32 才程度が最高齢である。すなわち,マカカ属サル
の生殖可能年齢以降の無生殖の期間は寿命の 20%に満たないことになる。ヒト
のそれが 50% 近くにもなることを考えると,霊長類の中でヒトは閉経後の生存
期間が極端に長いといえよう。
繁殖期におけるニホンザルの血中エストロゲン,プロゲステロンおよび LH の
年齢別変化をみると,性成熟に達していない 3 才のニホンザルではいずれのホル
モンも値は低く,周期的変化も季節による変化もない。出産率の安定した出産適
齢期の 13 才頃では,LH の基礎値が高くなり,排卵を示すエストロゲンとプロ
ゲステロンのピークや LH サージが繁殖期に規則的に見られるようになる。20
才台後半になると,ほとんどの個体で排卵を示すエストロゲンとプロゲステロン
のピークやその周期的な分泌が見られなくなり,LH サージも見られず,その基
礎値が上昇する。この LH の基礎値は,繁殖期に高く,非繁殖期に低いという季
節変動が見られるようになる。30 才にもなるとエストロゲンとプロゲステロン
の値は平坦でピークは見られず,LH はさらに高くなる。勿論,LH サージは見
られない。すなわち,ニホンザルでは 20 才頃から不妊となる個体が増加するが,
20 才台前半の個体では不妊であっても卵巣機能はほぼ正常に保たれていると言
える。20 才台後半になると,卵巣機能の低下が顕著となり,ゴナドトロピンに
対する卵巣の感受性の低下を示し,ゴナドトロピン分泌亢進を伴った典型的な閉
経状態を呈するようになる。また,血中 LH の基礎値は 16 才頃から上昇する。
この LH の基礎値の上昇は卵巣ホルモンのネガティブフィードバック作用に対す
る視床下部ー下垂体の感受性の低下によるものとされているが,この頃から卵巣
機能の低下が始まる。LH 濃度は,閉経前のサルでは年間を通して安定している
354
第Ⅴ部 体をみる
のが,閉経後のサルでは,繁殖期に高く,非繁殖期に低い明瞭な季節変動を示
す[9]。
■類人猿の非妊娠月経周期のホルモン動態
マカカ属サルとは異なり,類人猿ではホルモン測定のための頻回採血は容易で
はない。そこで我々は類人猿の糞,尿中ホルモン測定法を確立した。国内外の動
物園および当施設で飼育されているゴリラ,オランウータン,ボノボ,チンパン
ジーの尿を用いて血中ステロイドホルモンの代謝産物である estrone conjugates
(E1C),pregnanediol 3 glucronide(PdG)や,FSH および CG 量を測定し,比較
をおこなった。さらにこれをヒトおよびマカクのそれと比較した[10]。
ゴリラ,オランウータン,ボノボ,チンパンジーおよびカニクイザルとヒトの
非妊娠月経周期中の E1C,PdG,FSH 動態を図 3 に示した。また,これらの月
経周期を表1に示した。
オランウータンの月経周期の長さは 27 ∼ 28 日(平均 27.3 日),卵胞期は平均
14.3 日,黄体期は平均 13.8 日でありヒトとほぼ同様である。尿中 E1C 濃度は排
卵期周辺のピークに加え,黄体期も高い。PdG は卵胞期に低く,排卵後上昇し,
黄体期に高いという定型的なパターンを示す。尿中 FSH は卵胞期初期と排卵期
に高い。
ゴリラは,月経周期の長さは 28 ∼ 34 日(平均 30.0 日),卵胞期および黄体期は,
それぞれ平均 16.7 日および平均 13.3 日であった。尿中 E1C 濃度は排卵期周辺に
最大値を示し,黄体期にも山が観察された。PdG は卵胞期に低く,排卵後上昇し,
黄体期に高い定型的なパターンを示す。ゴリラの尿中 FSH は卵胞期に二つのピー
クと排卵期周辺にもピークが見られる。
チンパンジーでは,月経周期の長さは 31 ∼ 35 日(平均 33.3 日),卵胞期およ
び黄体期は,それぞれ 16 ∼ 22 日(平均 18.6 日)および 14 ∼ 17 日(平均 15.2 日)
であった。他の類人猿と同様に尿中 E1C 濃度は排卵期周辺にピークを示し,黄
体期にも山が観察された。PdG も卵胞期には低く,黄体期に高い定型的なパター
ンを示した。尿中 FSH は排卵期周辺に鋭いピークを示した。
ボノボはの月経周期の長さは 42 ∼ 54 日(平均 47.7 日)であり,他の種と比較
して大変長い。卵胞期および黄体期は,それぞれ 28 ∼ 31 日(平均 29.5 日)およ
第 10 章 生理と薬理
355
140
0.5
100
0.4
80
4
80
0.3
60
3
60
0.2
40
2
0.1
20
1
0
0
オランウータン
5
100
40
20
0
14
14
12
12
10
10
8
8
6
6
4
4
2
2
0
-21 -18 -15 -12 -9 -6 -3
0
3
6
100
12
E1C (ng/mg Cr)
チンパンジー
6
9 12 15 18
12
10
300
8
8
60
6
200
6
40
4
4
100
20
2
2
0
0
14
14
12
12
10
10
8
8
6
6
4
4
0
2
0
-21
-21 -18
-18 -15
-15 -12
-12 -9
-9 -6
-6 -3
-3 0
0
3
3
6
6
0
-21
-21-18 -15 -12 -9 -6 -3
9
9 12
12 15
15 18
18
100
12
ヒト
E1C (ng/mg Cr)
3
ボノボ
2
00 3
6
9 12 15 18
1.0
200
マカク
10
80
0.8
150
8
60
0.6
6
100
40
0.4
4
50
20
0.2
2
0
0
FSH (ng/mg Cr)
0
400
10
80
0
FSH (ng/mg Cr)
0
-21 -18 -15 -12 -9 -6 -3
9 12 15 18
PdG (μg/mgCr)
FSH (ng/mg Cr)
0
PdG (μg/mgCr)
ゴリラ
0
0
14
14
12
12
10
10
8
8
6
6
4
4
2
2
0
-9 -6 -3
-21 -18 -15 -12 -9
0
-21 -18 -15 -12 -9 -6 -3
0
3
6
9 12 15 18
Days from FSH peak
PdG (μg/mgCr)
E1C (ng/mg Cr)
120
図 3 各種霊長類の正常月経
0
3
6
9 12 15 18
周 期 に お け る 尿 中 E1C,
PdG,FSH 動態の比較。
Days from FSH peak
表 1 各種霊長類の月経周期の長さ
種
月経周期(日)
卵胞期(日)
黄体期(日)
オランウータン
27.3 ± 0.5
14.3 ± 0.5
13.8 ± 1.5
ゴリラ
30.0 ± 2.8
16.7 ± 2.5
13.3 ± 0.9
チンパンジー
33.5 ± 3.9
19.8 ± 4.4
13.8 ± 0.8
ボノボ
47.7 ± 4.9
29.5 ± 1.5
13.3 ± 0.5
ヒト
28.4 ± 1.8
14.9 ± 1.5
13.4 ± 1.0
マカク
29.4 ± 1.7
15.4 ± 1.6
14.0 ± 0.9
356
第Ⅴ部 体をみる
び 13 ∼ 14 日(平均 13.3 日)であった。尿中 E1C 濃度は排卵期周辺にピークを示
したのち,黄体期にも山が観察された。PdG も他の種と同様に,卵胞期には低く,
黄体期に高い定型的なパターンを示した。尿中 FSH は卵胞期の中頃と排卵周辺
にピークを示した。
これら4種の類人猿のホルモン動態は,いずれも,E1C のピークと同時にまた
はそれに続く FSH の上昇,そして,引き続き観察された PdG の上昇という形で
あり,明瞭な卵胞期と,それに続く黄体期が観察され,これらの周期が排卵周期
であったことが推定される。また,概ねヒトおよびマカクと同様のパターンを示
した。しかし,いくつかその種に特徴的なパターンがみられる。例えば,月経周
期の長さは,ボノボは例外的とも言えるほど長いが,他の種ではほぼ変わらない。
とくに黄体期の長さは概して一定であり,この月経周期の長さの違いは主に卵胞
期の長さの違いによるものであることが分かる。また,これらの類人猿のホルモ
ン動態はカニクイザルよりヒトに近いことが分かった。最も顕著な差は黄体期に
おける E1C 動態である。類人猿の E1C 動態はヒトと類似し,黄体期の E1C の上
昇が見られるが,マカクではこれはほとんど観察されない。尿中 PdG 分泌パター
ンはこれらの種で大きな差は見られなかったが,量的には大きな差が見られた。
ヒト,チンパンジーおよびボノボは同じ傾向を示したが,ゴリラの尿中 PdG は
これらと比較して低い。さらに,オランウータンの尿中 PdG は他の種の 1/10 の
レベルであった。オランウータンの繁殖率にはこの尿中 PdG の低さが影響を及
ぼしている可能性があるかもしれない。カニクイザルも尿中 PdG は他の類人猿
と比較して低かったが,これは,カニクイザルのプロゲステロンの主たる代謝産
物が類人猿およびヒトとは異なっていることによると考えられる。尿中 FSH で
は分泌パターンは同じであるが,オランウータンの月経中期における値は他の種
と比較して低い傾向があった。また,一般的に尿中 FSH のピークは卵胞期に二
つ観察されるが,ゴリラのそれは卵胞期に三つのピークが見られた。この三つ目
のピークの意味は不明であるが,FSH の上昇はその後に続く卵胞の選択に関与
すると考えられており,また,ヒトでは,この FSH の上昇が見られない場合に
は次の周期は排卵がないか,もしくは遅れることが報告されており[11],興味深
い問題である。
第 10 章 生理と薬理
357
■チンパンジーの妊娠中および授乳期初期のホルモン動態
先に述べた尿中ホルモン測定法を用いて調べた妊娠チンパンジーのホルモン動
態について述べる。当研究所の 4 例のチンパンジーの妊娠のうち,3 例は自然分
娩で健常児を得た。これらの妊娠日数はそれぞれ 231,233,237 日であり,平均
233.7 日であった。これら 3 例の妊娠中および授乳期初期の E1C,PdG,FSH,
CG 動態を図 4 に示した。ホルモン動態から見ると,妊娠を示す最も早い兆候は
周期中頃の FSH ピーク(推定排卵日)から 10 日ほど後に,E1C と CG の上昇,
同時に起こる FSH の下降として観察された。尿中 PdG は引き続き上昇し,15
∼ 18 日頃に一旦低下,その後再び上昇するか一定値を維持した。E1C は,受胎
後も上昇し続け,22.3 日頃ピークに達した。その後 E1C は一旦低下するが,分
娩に向けて上昇した。分娩後,E1C は急減し,非妊娠レベルに戻った。尿中 PdG
は黄体期に上昇しはじめ,妊娠初期に二つのピークを示した。その後はゆっくり
上昇し,分娩直前にかけて急増するかもしくは高値を示した。分娩後は PdG は
急減した。CG の急上昇は妊娠 13.6 日以降に見られ,そのレベルは妊娠 100 ∼
150 日頃まで続いた。CG のピークは妊娠 20.6 日頃に見られ,PdG のピークと同
調していた。その後 CG は徐々に減少し,分娩後は非妊娠レベルに戻った。尿中
FSH は受胎後減少し,分娩後直ちに上昇を始めた。
このように,尿中ホルモン動態は受胎後あきらかに非妊娠月経周期とは異なる
動態を示した。チンパンジーの妊娠は尿中ホルモンを調べることにより,早いも
のでは受精後 12 日,より正確には 15 日以降で確認できる。妊娠は E1C と PdG
が正常月経周期の長さを越えて上昇が続くこと,周期半ばのゴナドトロピンの
サージの後に CG の上昇と FSH の下降が同時に起こることで推定される。これ
までに CG の確認による妊娠診断は様々な霊長類において行われてきた。しかし,
CG による方法はトロフォブラストの存在を調べるものであり,胎児の生存に関
しては診断できない。例えば,胎児が死亡しているにもかかわらず,トロフォブ
ラストが残っている場合は CG の値が維持される。したがって正確な診断のため
には他の方法を併用することが望ましい。すなわち,正確な妊娠診断は,FSH
測定に加え E1C,PdG の測定と CG 測定を行うことによって行うことができ,そ
れにより,着床や胎盤機構についての情報を得ることができる。
チンパンジーの妊娠経過および胎児発育についての情報は少ない。今回の結果
358
第Ⅴ部 体をみる
100
b
5
100
5
CG
4
60
3
40
2
20
1
0
5000
FSH
80
CG(ng/mg Cr)
FSH
FSH(ng/mg Cr)
CG(ng/mg Cr)
80
0
50
60
3
40
2
20
1
0
5000
0
50
E1C
E1C
30
出産
2000
20
1000
10
0
0
0
20
40
60
80
100 120 140 160 180 200 220 240
Gestational days
PdG
死産
4000
E1C(ng/mg Cr)
E1C(ng/mg Cr)
3000
40
PdG(μg/mg Cr)
PdG
4000
4
FSH(ng/mg Cr)
CG
3000
30
2000
20
1000
10
0
20
40
PdG(μg/mg Cr)
a
0
0
20
40
60
80
100 120 140 160 180 200 220
Gestational days
20
図 4 a:妊娠期および授乳初期のチンパンジーの尿中 E1C,PdG,CG,FSH 動態。正常出産例。
矢印は分娩した日を,横軸は妊娠日数および分娩からの日数を表す。b:妊娠期および分娩
後のチンパンジー尿中 E1C,PdG,CG,FSH 動態。この妊娠は死産であった。矢印は分娩
した日を,横軸は妊娠日数および分娩からの日数を表す。
では,チンパンジーの妊娠中ホルモン動態はヒヒやヒトと同様のパターンを示し
たが,マカクとは異なったパターンを示した。アカゲザルやニホンザルでは E1C
は妊娠末期に向けて上昇をせずほぼ一定量を維持するが,チンパンジーでは妊娠
末期に向けて上昇し続け分娩直前に最大値を示した。一方 PdG は,ヒトでは妊
娠末期に向けて上昇するが,チンパンジー,マカクともに個体による差が見られ,
一定のパターンは見られなかった。このように,妊娠中のステロイドやゴナドト
ロピンの分泌動態は種によって差がみられる[12]。
*
これまで述べてきたように,ニホンザルの生殖生理学的特徴は,ヒトや類人猿
のそれと良く類似している。しかし,ニホンザルと近縁のアカゲザルやカニクイ
ザルの生殖生理学的特徴にもわずかながら差がある。また,類人猿のそれは,マ
カクよりはどちらかというとヒトに近い。このように,多くの種における生殖現
象を比較内分泌学的に検討することで,自然界における様々な動物種が,適応・
第 10 章 生理と薬理
359
進化,多様性の成立にどのように対応してきたのか,また個々の動物種が,その
繁殖戦略をどのように担ってきたのか,ということに考察を加えることができる
かもしれない。
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第Ⅴ部 体をみる
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