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牛の生理機能を活かした安定的過剰排卵技術の開発

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牛の生理機能を活かした安定的過剰排卵技術の開発
牛の生理機能を活かした安定的過剰排卵技術の開発
北海道立畜産試験場・研究職員 平山 博樹
■ 目 的
牛の体内受精卵を生産するための過剰排卵処理技術は、個体毎にその反応性が異なり、なかには殆
どホルモンの投与効果が得られない場合もある。受精卵移植プログラムを活用して効率的に家畜の増
産をはかるためには、安定かつ計画的に受精卵を生産する必要があり、過剰排卵処理に対する反応の
個体差は長い間克服すべき課題となっている。近年、黄体形成ホルモン(LH)のサージ前に主席卵胞を
吸引除去すると、黄体が形成されず低い血中プロジェステロン(P4)濃度を維持する「黄体不形成モデ
ル」が示された。黄体不形成モデルでは、卵胞刺激ホルモン(FSH)などを投与しなくても高率に 2 つの
主席卵胞が選抜され、およそ半数でダブル排卵が起こる。
本研究では、黄体不形成モデルにおける内因性の卵胞発育の亢進が、通常行われている外因性の
FSH 投与による過剰排卵処理に及ぼす効果を調査し、牛の生理機能を活かした安定的な過剰排卵処理
方法の開発を目指す。
■ 方 法
黄体不形成モデルを作製するためのプロスタグランジン F2α
(PG)の投与は、発情後 7 あるいは 9 日
目に行った。PG 投与の 36 ∼ 38 時間後に超音波ガイド卵胞吸引装置を用いて、吸引可能な卵胞をす
べて除去した。翌日より 3 日間にわたり 20 I.U. の FSH を漸減投与し、FSH 投与終了の翌日に黄体形
成ホルモン放出ホルモン(LHRH)を投与した。人工授精は、LHRH 投与の 24 時間後
(一部 12 および 24
時間後)に行った。FSH 投与開始時から 1 日おきに 3 回(D1、D3 および D5)採血し血漿 P4 およびエ
ストラジオール(E2)濃度を測定するとともに、卵胞の長径と数を超音波画像解析装置を用いて測定し
た。対照は、膣内留置型プロジェステロン製剤(CIDR)を用いた通常の採卵を行い、同様の項目を解析
した。人工授精の 7 日後に子宮還流による採卵を行い、推定黄体数、回収卵数および正常卵数を記録
した。
■ 結果および考察
黄体不形成モデルでは、FSH 投与の開始時(D1)および 3 日目(D3)において対照よりも有意に低い血
漿プロジェステロン濃度を示した。FSH 投与終了後(D5)における血漿エストラジオール濃度は、黄体
不形成モデルにおいて低い傾向を示したが、試験区間に有意差はみられなかった。黄体不形成モデル
における D1 の大卵胞(長径 8mm 以上)の数は、対照よりも有意に少なかった。しかし、その他の卵巣
観察日では、試験区間に卵胞数の差がみられなかった。採卵成績は、発情後 7 日目に黄体不形成モデ
ルの作製を開始した場合に回収卵数が少ない傾向を示し、正常受精卵は回収されなかった。同様に発
情後 9 日目に開始した場合は正常受精卵を回収できたが、対照に比較して採卵成績の向上はみられな
かった。以上、本研究では黄体不形成モデルにおける過剰排卵効果の向上は認められず、今後は過剰
排卵処理や人工授精のタイミングをより詳細に検討する必要があると考えられた。
■ 結 語
本研究では、黄体不形成モデルにおける過剰排卵成績の向上は認められず、過剰排卵処理や人工授
精のタイミングをより詳細に検討する必要があると考えられた。
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