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経営戦略 (2013)
第1回 経営戦略の概念と体系 経営戦略とは何か? 「戦略」とはどのようなものだと思いますか? 皆さんが知っている会社の中で、「この会社は 戦略的だ!」 と思うのはどの会社ですか? それはなぜですか? 2 様々な組織の戦略 戦略は、企業だけのものではない ➤ ➤ ➤ ➤ ➤ 大学 野球チーム 劇団 東京都 日本 e.g. 学習院大学の戦略 e.g. シアトル・マリナーズ e.g. 劇団四季 e.g. オリンピック誘致 e.g. 新成長戦略 企業を含め、すべての「組織」の有効かつ効率的な運営の ためには必ず戦略が必要となる 3 経営戦略の概念 定義 ➤ 「環境要因と自社資源との関係の中で、組織のあるべき姿・進むべき 方向性を明らかにし、それを実現するためのシナリオ(道筋)を設計 すること」 あるべき姿 進むべき方向性 外部環境 戦略 シナリオ 自社資源 成長戦略、 競争戦略… 現状 4 戦略を立てるとは?(経営戦略の構成要素) 企業のあるべき姿・進むべき方向性の決定 経営目標 ➤ ▸ 成長・利益・存続… 目標 (どこに向かって) 事業領域(ドメイン) ➤ ▸ どのような分野で、どんな事業を行うか? あるべき姿を実現するためのシナリオの設計 成長の戦略 ▸ 企業の持つ資源をどのように創造・展開・配分して 企業の持続的な成長を実現していくか? ➤ • 新規事業や新製品・サービスの開発、新市場の形成… 競争の戦略 ▸ 企業間の競争にどのように対処し、利益を獲得してい けるか? ➤ • 競争排他性の設計、競争優位性の設計、競争と協調のバ ランシング… 業務分野の戦略 ➤ ▸ 領域 (どのような分野で) 打ち手 (何を行うか) 方法 (どのように行うか) 論理 (なぜうまくいくか?) 戦略の実現のために、どのような人を採用・育成し(人事戦略)、 どのように資金を獲得し(財務戦略)、どのような技術を開発・ 権利化していくか(研究開発戦略、知財戦略)… 5 経営戦略の体系 経営戦略 ➤ 全社戦略(企業戦略) ▸ 多角化戦略(新規事業の開発) ▸ M&A戦略 全社戦略 ▸ グローバル戦略・・・ ➤ B 事 業 戦 略 C 事 業 戦 略 事業戦略 ▸ 競争戦略 ▸ 新製品・サービス開発戦略 ▸ 市場戦略 ▸ 提携戦略(協調戦略)・・・ ➤ A 事 業 戦 略 機能分野別戦略 財務戦略 人事戦略 研究開発戦略 知財戦略 ▸ 財務戦略 ▸ 人事戦略 生産戦略 ▸ 研究開発戦略 ▸ 知財戦略・・・ 6 戦略を立てるとは?(経営戦略の構成要素) 企業のあるべき姿・進むべき方向性の決定 経営目標 (全社戦略) ➤ ▸ 成長・利益・存続… 目標 (どこに向かって) 事業領域(ドメイン) (全社戦略) ➤ ▸ どのような分野で、どんな事業を行うか? あるべき姿を実現するためのシナリオの設計 成長の戦略 (全社戦略、事業戦略) ▸ 企業の持つ資源をどのように創造・展開・配分して 企業の持続的な成長を実現していくか? ➤ • 新規事業や新製品・サービスの開発、新市場の形成… 競争の戦略 (事業戦略、機能分野別戦略) ▸ 企業間の競争にどのように対処し、利益を獲得してい けるか? ➤ • 競争排他性の設計、競争優位性の設計、競争と協調のバ ランシング… 業務分野の戦略 (機能分野別戦略) ➤ ▸ 領域 (どのような分野で) 打ち手 (何を行うか) 方法 (どのように行うか) 論理 (なぜうまくいくか?) 戦略の実現のために、どのような人を採用・育成し(人事戦略)、 どのように資金を獲得し(財務戦略)、どのような技術を開発・ 権利化していくか(研究開発戦略、知財戦略)… 7 「戦略」と「戦術」の違い 「戦略」と「戦術」 ➤ 戦略とは「将軍」の術 ▸ 将軍は自ら刀や槍を持って直接 敵軍と戦うわけではない。将軍の役目は、戦いの 意図を明確にし、 戦う相手の兵士の数はどのくらいか、もし戦うとしたらどの地域を 戦場に決めるか、そしてどの様な陣型にし、どの様な戦い方を するかを決める。 ▸ 「頭の中」で決めることであるから、目には見えにくい ➤ 戦術とは「兵士」の術 ▸ 兵士は刀や槍などの武器をもって直接敵兵と戦う。作戦計画に基づき敵の兵士と技 を競う ▸ 戦術と は目で見えるもの 「戦略」と「作戦」と「戦術」と「兵站」 ➤ 戦略: 「イベントを開催するべきか、いくらの予算をかけて、 どんな成果を求めるか?」 戦 略 ➤ 作戦: 「いつ開催するか、どこで開催するか、どんなイベント にするか、どこで宣伝するか?」 ➤ 戦術: 「受付のシステムはどうするか、VIPが来た時には誰が 案内するか、講演者の昼食はどうするか?」 ➤ 兵站: 講演者集め、会場下見・設営、会場受付スタッフの調達、 来場者向けのネームタグの準備、弁当の手配… 8 企業経営における戦略の役割 日常の事業展開・業務活動の指針 ➤ 戦略は、企業が中・長期にわたってどこに、どのように向っていくかがを指し 示す道標となり、事業部門や管理部門、そしてそこで働く個々の従業員の思 考・行動の枠組みを提供するという役割を持つ 組織成員の一体感・凝集性の醸成 ➤ 戦略は、企業における従業員の一体感や凝集性を高め、組織的な秩序を生 み出す 事業活動の評価軸 ➤ 戦略として計画した成長戦略や競争戦略のシナリオがしっかり実行されてい るかどうか、あるいはその戦略シナリオが果たして適切だったのかどうかなど、 事業活動を振り返り、評価・改善していくための準拠点となる 学習のための仕掛け ➤ 戦略は、事業活動の出発点であると同時に、事業活動から得られる様々な知 識や情報を通じて進化していく ➤ 戦略は行動を促し、その行動から学習するための契機となる 9 アルプス山脈で見つけた地図(K. WEICK, 1987) ハンガリーの軍隊がアルプス山脈で冬季軍事演習をしていた。ある日の夕 刻、部隊長である中尉は、演習を終えた隊員に基地の設営を指令するとと もに、数名を明日の演習に備えて偵察に送り出した。 ところがそれまで良好だった天候がその直後に崩れた。雪が降り始めたの である。降雪は二日間続いたが、その間、偵察隊は戻ってこなかった。隊長 は隊員の遭難を確信し、自分が部下たちを死に追いやったのでないかと思 い悩み同じ場所を動かなかった。 しかし、三日目になって、偵察隊は全員 無事に帰ってきた。肩を抱いて喜ぶ中尉に、偵察隊長が報告する。 「われわれは吹雪の中で道に迷い、もう終わりだと思いました。そのとき、 隊員の一人がポケットの中に地図をみつけました。そのおかげで冷静にな れました。われわれはテントを張って野営し、吹雪に耐え抜きました。それ からこの地図を手がかりに帰り道をみつけました。そして、ここにたどり着い たわけです」。 中尉が「なるほど」と偵察隊の命を救った地図を手にとってじっくりと見ると、 驚いたことに、それはアルプス山脈の地図ではなく、ピレネー山脈の地図 だった。 戦略とは「強固な思い込み」である! 組織成員の凝集性を高め、行動を喚起する 10 「ドン・キホーテ」の戦略?(1) 「商品を店内にぎゅうぎゅうに詰め込んで、床から天井まで積み上げられ た商品の間をすりぬけるように買い物をする。買い物と言うより宝捜しと いうべきだろうか。深夜営業は便利だけど・・・」。 いまや全国に107店舗、売上高は2330億円、経常利益で130億円を上 げるドンキホーテは、ナイトマーケット(深夜市場)を切り開き、「圧縮陳 列」「ジャングル売り場」という新しいマーケティング戦略のコンセプトを生 み出した。 しかし、このような考え方は、創業当時からの構想ではなかった。むしろ、 それは「すべてが苦肉の策だった」(安田)。1978年に手持ち資金800万 円で杉並区桃井に開いた雑貨屋は、わずか20坪。最初に店舗を借りて しまったために、保証金などで肝心の商品を仕入れる資金がなく、仕方 なく激安のバッタ品やサンプル品、廃番品などを仕入れるはめになった。 仕入れた商品は、大型ダンボールに積み込まれ、トラックで次々と店に 到着する。もちろん、倉庫を借りる余裕などない。だから、すべて狭い店 の中に押し込まなければならなかった。通路も商品とダンボールに占拠 され、売り場はまるでジャングル状になった。 11 「ドン・キホーテ」の戦略?(2) 開業当時は、アルバイトを雇う余裕もなかった。営業時間は朝10時から 夜10時までの12時間であったが、商品の入れ替えや陳列は閉店後の 夜間に1人でやるしかなかった。当然、店の玄関は開けっ放し、店内に は煌々と明かりが灯っていた。それを営業中と勘違いした客がふらりと 入ってきた。 このようなことがきっかけとなって、「あの店はごちゃごちゃとおもちゃ箱 をひっくり返したような変わった店で、深夜も営業している」と地元で評判 になり、開業数年後には年商2億円という繁盛店になった。 戦略とは、学習プロセスである 行動の結果をどのように次につなげるか、 事 後的解釈能力が戦略の有効性を左右する 12 現実の企業経営と戦略 経営実務家の「戦略」に対する認識 ➤ 経営は「泥臭い」営みであり、計画通りには行かない ▸ どんなに分析してもすべてを見通すことなどできない ➤ 優れた戦略というのも、多くは「後付け」的に意味づけられたもので ある ▸ 戦略とは結果論ではないのか? 仮説としての戦略 ➤ 「計画」と「実行」 ▸ 計画の緻密さ、正確さ ➤ 「仮説」と「検証」 ▸ 行動の結果得られる様々な知識・情報に基づいて、新しい行動の方向性 についての「仮説」を立てる。仮説としての戦略は、常に完全なものである とは限らない ▸ 戦略の実行とは、その仮説の「検証」のプロセスであり、それが新たな「仮 説」設定(=戦略策定)のきっかけとなる ▸ 戦略の立案と実行は「仮説作りと検証」のプロセスであり、その繰り返しを 通じて戦略の完成度は高まっていく 13 経営戦略を学ぶことの意義 より確実性の高い戦略(仮説)を立案する能力としての戦略 的知識 ➤ ➤ 「でたらめな」戦略では意味がない 信頼でき、行動を喚起する戦略の立案のために… 実行(検証)の結果を事後的に解釈する能力としての戦略 的知識 ➤ ➤ すべて当初の想定通りには進まない 結果を解釈し、何が良かったのか、何が悪かったのかを理解して、 より適切な戦略を導くために… 14