Comments
Description
Transcript
超 産 業 戦 略
香 川 大 学 経 済 論 叢 第83巻 第4号 2 0 1 1年3月 3 3 5−36 6 資 料 超 産 業 戦 略 ―― 内子フレッシュパークからりの事例 ―― 板 倉 宏 昭 1.は じ め に 本稿では,内子フレッシュパークからりの事例を検討することを通じて,地方圏に 有効な地域力創出モデルとして,内部力(ジモティ)と外部力(ヨソモノ)の新結合 (Neue Kombination)による超産業戦略を示したい。 わが国は,世界最先端の成熟化社会に突入している。農林水産省の2 0 1 0年の農林 業センサス(速報値)によると,日本の2 0 1 0年の農業就業人口は2 0 0 5年より7 5万 人減少し,2 6 0万人になった。5年間の減少率は2 2. 4%である。また,過去1年以上 作付けがなく,今後も数年は耕作する見通しのない耕作放棄地が5年前より2. 6%増 加し,初めて4 0万ヘクタールに達した。耕作放棄地の面積は,香川県の2倍以上で, 鳥取県よりも広く,滋賀県とほぼ同じ面積である。農業の就業人口の平均年齢は6 5. 8 歳と5年間で2. 6歳上昇した。地方圏は,さらに,高齢化している。平均年齢が最も 高い広島県は,7 0. 5歳であり,山口県や島根県も7 0歳を超えている。わが国は,子 ! 9 9 0 供と老人の人口比率が低く,生産年齢人口の比率が高い人口ボーナスが消失し,1 年代から人口構成が重荷となる人口オーナス期に入っている。 成熟化が先行する地方圏では,地方圏に合った成熟戦略が必要である。地域の素材 には,良質なものでも埋もれてしまっているものも多い。そのため,高付加価値を提 (1) 人口ボーナスとは,人口ボーナス指数とは,子どもや高齢者などの“従属人口”に対 して,“労働人口”が何倍いるかを示したもの。生産年齢人口(1 5歳∼64歳) ÷従属人 口(0歳∼1 4歳,6 5歳以上)で表される。指数が2を超える期間が人口ボーナス期で, 経済成長が加速するといわれる。 −336− 香川大学経済論叢 688 供できる可能性を生かせていない。 成熟化社会における地域力創出のためには,新たな産業観が必要である。こうした 状況では,新たな耕作地を開拓することより,既存の耕作放棄地をまとめて,後継者 に引き継ぐことが有効である。引退する農家などが農地を他の農業法人等に貸与する 傾向がある。2 0 1 0年の農林業センサス(速報値)によると,法人を含む経営体数で 見ると,経営規模が5ヘクタール未満が減少し,5ヘクタール以上が増加した。経営 体の平均経営面積は5年前より0. 3ヘクタール拡大し,2. 2ヘクタールに拡大した。 また,農業経営の多角化がみられる。農産物加工に取り組む農業経営体が4割以上増 えて3万4, 0 0 0となり大幅に増加した。 超産業戦略 外部力 成果 (パフォーマンス) 素材 加工・製造 サービス 内部力 地域プロデューサー 地域コミットメント 経済 訪問 購入 居住 の 魅力度 2.超産業化の概念 超産業化とは,素材を生かしながら,加工・製造によって付加価値を高め,さら に,サービスを提供する産業を超えたビジネスモデルである。農業で言えば,素材で ある農産物栽培だけでなく,農産物を加工・製造し食品として,付加価値を高める。 さらに,レストラン,農業体験,観光などのサービス業を行うことである。6次産業 化,あるいは,農業の総合産業化といった概念に近いが,超産業は,3次産業から1 次産業や2次産業への融合あるいは,2次産業から1次産業への融合も含まれる。 超産業戦略は,既存の概念とどのように違うのであろうか。垂直的統合(Vertical 689 超産業戦略 −337− Integration)は,牽制関係にある上流(川上) ・下流(川下)工程を取り込む行動を指 す。例えば,自動車メーカーが自動車販売会社や部品供給会社を系列化する行動を指 す。また,垂直的統合は,競争の激化から,コスト削減と安定供給を図ることが主な 目的である。これに対し,超産業化は,消費者に新しい価値を提供する新たな新結合 ! を指す。 スマイルカーブで示されるように,コモディティ化している製品・サービスの場 合,加工・製造段階で付加価値を得ることは難しくなってきている。アーキテクチャ ーが共通化され,オープン化・モジュール化すると,加工・製造プロセスは,安い労 働コストの国や地域で行うことになる。したがって,労働コストが高い日本で,十分 な利益を得て,競争優位性を獲得する可能性は低い。素材といった上流のプロセス, あるいは,下流のサービスのプロセスでの企業戦略が求められている。 素材型の製造業は,組み立て型の製造よりも比較的競争優位が継続しやすい。例え ば,四国地域は,紙,化学,繊維などが比較的多い。例えば,徳島県阿南市の日亜化 学工業などの LED,高知市にあるニッポン高度紙工業(NKK)の土佐和紙からシフ トした世界シェア7 0%のコンデンサのセパレータ,愛媛県松前町の東レの炭素繊 維,スポーツ用品や小物への展開がみられる香川県東かがわ市の手袋産業,愛媛県今 治市のタオルなどである。 なお,超産業戦略は,地方ビジネスに限らない。グローバルなビジネスに当てはま る。加工・製造(第2次産業)からのサービス(第3次産業)への超産業化の例とし ては,アップル社が挙げられる。ハードウェアのアイポッド(iPod)と音楽配信サー ビス iTune を結合している。iPad は,専用の OS で,アプリケーションソフトもアッ プルストアからしか買えない。映画,音楽,書籍などのコンテンツもアップルから購 入する。アップルの戦略は,1 9 9 0年代に進行した水平的統合とは,異なる戦略と捉 えることができる。IBM 社はハードウェア中心のビジネスから,サービスビジネス に大転換した。PC 事業は,中国のレノボに売却した。ハードディスク事業は日立製 (2) 垂直的統合と同様に,垂直的多角化は,現在の製品の上流(川上)や下流(川下)へ の多角化である。なお,上流(川下)への多角化を前方的多角化,下流(川上)への多 角化を後方的多角化と呼ぶことがある。 −338− 香川大学経済論叢 690 作所へ売却した。 第3次産業から第1次産業,第2次産業への超産業化の例としては,ワタミがあげ られる。ワタミは,農業へ進出して,農業生産法人!ワタミファームを通じて7つの 直営農場を経営している。ワタミは,有機 JAS チーズやバター,バニラやチョコレー トのソフトクリームミックスなどの食品を加工・製造している。 また,ワタミは,介護ビジネスにも進出している。外食事業のノウハウを生かし て,おいしく,安全で食べやすい介護食の提供を通じて満足度を高めている。介護分 野は,労働力不足で,有効求人倍率が1を超える例外的な産業である。高齢化社会で 介護サービスの需要は,今後益々増加し,2 0 1 5年に必要な労働力は,1 0 0万人程度で ある(野口,2 0 1 0) 。ワタミの他,セコム,ベネッセ,ニチイ学館,明治乳業,キュ ーピー,ユニチャーム,INAX なども他業種からの参入である。財政措置で抜本的な 措置を講じて促進する必要がある(野口,2 0 1 0) 。 わが国の純金融資産は1, 0 8 3兆円と GDP の2倍以上であり,そのうち6 5歳以上が 8 6 2兆円と8割以上を占めている。高齢者向きの介護や医療などのサービスは,魅力 的な業界である。 第2次産業から第1次産業への超産業化として,植物工場が挙げられる。鉄鋼大手 の JFE が JFE ライフとして参入したほか,オリンパス,カゴメ,キユーピーなどが 参入している。三菱化学は,カタールなど中東へコンテナ式植物工場を輸出してい る。天候に左右されず,LED を使うことで電気代を節減でき,放熱も少ないメリッ トがある。これらは,工場内の遊休地を活用したことが元になっている。成熟化した 我が国では,余剰設備や遊休地を活用するための戦略が必要である。 3.超産業戦略の要素 それでは,超産業化のための戦略の要素とは何であろうか。 第1に, 「地域コミットメント」である。これは私がネーミングしたものであるが, 人々と地域の関係性を示すものであり,地域愛,地域を自分のこととして内在化させ ること,功利的に関与すること,地域への使命感の4つの要素からなっている。 地域コミットメントの延長線として「ゾーニング」という概念を挙げたい。特定の 691 超産業戦略 −339− ビジネス上でまとまった空間を設定することであるが,必ずしも行政区画と一致する 必要はない。むしろ広めすぎないほうがいい。例えば一つの県単位で何か売り込もう とすると, 「この商品とあの商品の売り込みを平等に扱わなければならない」といっ たジレンマも起きる。国単位,県単位ではなく,もっと小さい単位だからこそより効 果が生まれることもある。地方ビジネスにおいては,地域コミットメントを通じた顔 の見える関係が重要な働きを示す。 第2に,地域の担い手の地域プロデューサーを挙げることができる。本稿では,産 業を限定せずに,地域プロデューサーを「地域に造詣が深く,地域愛をもち,地域の 内部力(ジモティ)と外部力(ヨソモノ)を結び付ける地域活性化の担い手」と定義 する。地域プロデューサーに対する期待が高まっている。例えば,経済産業省は,農 ! 9 7人 商工連携事業の一環として,地域プロデューサー事業を行い,現在の登録数は3 に上っている。観光庁は,観光振興により地域活性化を図る市町村を対象に,観光地 域プロデューサーモデル事業を平成1 9年度から行ってきた。 地域プロデューサーの潜在的な希望者は多いと思われる。内閣府の社会意識に関す る世論調査[3]によると,2 0 0 8年から社会貢献意識が急増し,約7割の者が社会 のために役立ちたいと回答している。しかし,実際の場が限られており,情報も不足 していることから,実際の活動に踏み切れないという人が多い。 地域内部だけでは人材も資金も需要も不足している。そこで外部力(ヨソモノ)と 内部力(ジモティ)を結び付ける能力に注目する。地域の担い手は,地域内部の狭義 の先導型のリーダーシップの要素だけではなく,異なる複数の要素が必要であり,担 い手も外部力(ヨソモノ)が大きな役割を演じていることが多いからである。 第3に,その外部力(ヨソモノ)である。地域外の専門家,文化人,企業などによ る課題発見力,需要動向の把握力,企画・デザイン力,販路開拓力があげられる。地 域内だけでは,人材も資金も不足していることが多い。いかに外部力(ヨソモノ)を 取り込むかが課題である。 なお,成果(パフォーマンス)の考え方は,経済的指標だけで十分であろうか。そ (3) 経済産業省は農商工連携と呼んでいる。本稿では,1次,2次,3次産業を意識して 農工商連携と呼んでいる。 −340− 香川大学経済論叢 692 うではないだろう。もはや,高齢化,人口減少,コモディティ化した製品サービスの 加工・製造プロセスの海外移転を前提としなければならない。図の右側の成果 (パフォ ーマンス)の指標は,経済的指標だけではなく,例えば,その地域を訪問したいかと いう「訪問魅力度」 ,地域の製品・サービスを購入したいかという「購入魅力度」 ,そ の地域に居住したいかという「居住魅力度」等で測ることが有効であろう。 以上のように,地域コミットメントが基盤となり,地域プロデューサーが内部力 (ジモティ)と外部力(ヨソモノ)の新結合(Neue Kombination)を図り,素材を生 かして,加工・製造や付加価値の高いサービスと組み合わせて,超産業化する戦略 が,超産業戦略である。以下では内子フレッシュパークからりを事例に検討する。 4.内子フレッシュパークからりの事例 4. 1 概要 株式会社内子フレッシュパークからりは,愛媛県内子町と農業協同組合と農家1 5 8 人を含む町民3 7 3人が出資した第3セクターである。資本金を2 0 0 7年に増資し7, 0 0 0 万円となった。 内子町は,松山市から南西4 2km に位置し,2 0 0 5年1月1日に,旧内子町,旧五 十崎町,旧小田町の3町が合併し,人口1 8, 9 2 6人(2 0 1 0年1 0月) ,うち農業人口は 2割強を占める。 世帯数は,7, 0 0 0戸で推移しており,農業主体とした生活基盤である。2, 5 0 0戸が 農業を営み,内4 5 0戸が専業農家,後は第3次産業などに関わる兼業農家である。 からりは,特産物直売所とパン工房・薫製工房・シャーベット工房・あぐり加工場 などの農産物加工施設,レストランからりやあぐり亭の飲食施設や通信販売という超 産業化を通じて地域活性化に貢献している。 図の「素材」に関しては,内子町の7 7%は山林であり,役場付近の標高1 0 0メー トルからスキー場のある1, 0 0 0メートルの小田深山まで標高差があり,谷あい,山あ いに,帯状,棚状に田畑が点在し,平均耕地面積は,8 6a と小規模ながら多種類の農 業が営まれている。棚田米も生産している。泉田の棚田は,最も美しい棚田として, 農林水産省から指定を受けている。 693 超産業戦略 −341− 内子フレッシュパークからりの超産業戦略 素材 加工・製造 サービス 外部力 ・デザイナー山内氏に ・「森の中の直売所」 ・小規模ながら よるパッケージ 多種類の農業 (武智氏デザイン) (果樹,シイタケ) ・シャーベット,パン, のレストラン パスタ,内子バーガー, ・テーマパーク ・気候の多様性 ・内子豚 ソーセージ (河原・からり橋) ・町並(和ろうそく ・からりネットによる ・キャンプ場隣接 の商家や内子座) トレーサビリティ ・1,000 m 級の山並 ・内子のものを使う み,村並み 安全・安心 ・小田川の河原 地域プロデューサー: 内部力 野田文子(からり特産物直売所運営協議会名誉会長) 稲本隆壽(内子フレッシュパークからり初代支配人,現内子町長) 山内敏功(ビンデザインオフィス有限会社代表取締役) 武智和臣(Atelier A&A 代表取締役)建物設計 地域コミットメント: ・知的農村塾・運営協議会・アグリベンチャー 21 を通じた農家女性 の経営者意識 ・からりネットや第 3 セクターへの出資による参加意識 成果 (パフォーマンス) ・買 物 客 累 計 500 万人突破 (2009 年 8 月) ・売上 7.23 億円 (2008 年度) (内農産物 4.6 億円・内子町 農業生産高の 13%) ・雇用 48 人 (2010 年 3 月) ・農業経営者と しての誇りと 自信 ・国内外交流 (農業加工体 験や研修) −342− 香川大学経済論叢 694 標高1 0 0メートルから4 0 0メートルの中腹を中心に,葉タバコや栗,柿,梨,葡 萄,桃,リンゴ,キウイフルーツ,ミカンなどの果樹やシイタケなどが栽培されてい る。 葉タバコは,四国の1/2の生産量,全国1,2位を争う生産量を誇ったが,過疎 化高齢化,後継者不足によって,葉タバコ生産は1/5に低下している。落葉果樹生 産の中で,柿は,四国1位,全国8位である,沢山の種類ができるが産出高では,規 模が小さいため,全国的な産地という訳ではないが,多くの種類ができるのが内子町 の特徴である。 スキー場があるような地形の標高差を利用して,気候の多様性を取り込むことがで きている。栽培時期の幅ができ,ある場所で終わったときに他の場所で出荷が始ま る。 内子町は,観光の町として知られてきた。江戸時代から明治時代に和蝋燭で発展し た商家の町並が国の重要伝統的建造物群保存地区に指定され,木造の歌舞伎劇場「内 子座」など観光資源に恵まれた町である。全国から年間5 0∼6 0万人の観光客が訪れ る。 なお,からりを流れる小田川には,からり橋という吊り橋がかかっており,河原が 695 超産業戦略 −343− あり,子供たちが1日中遊ぶことができる。 「加工・製造」については,内子でとれたトマトなどのシャーベット,パン,パス タ,内子豚を使ったソーセージなど内子の素材を生かした製品が製造されている。 シャーベットは,夏場には,1日1, 0 0 0本も販売されることがある。また,デザイ ナー山内氏によるパッケージには一貫性がある。 「サービス」については, 「森の中の直売所」というコンセプトで,1級建築士の武 智氏デザインのレストランやからり亭が人気である。3 8 0円の 「内子豚もろみ焼きバー ガー」は,内子町内の醸造所でつくった「もろみみそ」をスライスした豚肉に塗って 焼き,地元の新鮮なレタスと玉ねぎを組み合わせた。からりは内子町以外のものを扱 わない。からりでだけしか味わえない限定性による付加価値を通じたスノッブ効果が あり,2 0 0 8年度は年間2万5, 0 0 0個を販売した。 4. 2 内子フレッシュパークからりの設立の経緯 こうした内子の原動力は,1 9 8 5年から活動を開始した「知的農村塾」という学習 会である。塾長は,愛媛大学農学部教授の白石雅也氏であり,農村における高齢者や 女性の役割についての学習会を行った。 1 9 9 3年に,小さな直売所を作ってトレーニングと実験を行った。物の売り方,生 産の仕方,どのような物がお客さんに好まれるのか,売れるのか,といったことに, 農家が当番で売り場に来て,農家自ら販売して,消費者との交流が始まった。 1 9 9 5年に,国の補助を受けて地域振興のための特産物の直売所,内の子市場を 作った。これは,当時全国的にさかんであった。内子町でもという感じであったこと は確かである(内子フレッシュパークからり代表取締役社長,冨永昌枝氏) 。 1 9 9 6年に,地域振興を目的とした第3セクターとして,株式会社内子フレッシュ パークからりが設立された。専業農家の減少,兼業農家弱体化,農地が遊び荒廃と いった衰退していく農業を元気にするのが目的であった(内子フレッシュパークから り代表取締役社長,冨永昌枝氏) 。 町が半分,生産者が半分を出資した。設立に際して募集された株式は,1 6 9株の募 集に対して4 5 5株の申し込みがあったことからも,当時農家からの関心が非常に高 −344− 香川大学経済論叢 696 かったことがうかがえる。 資産土地は内子町が保有,指定管理者として株式会社内子フレッシュパークからり が運営している。地産地消にもとづいた経営をレストランやパン工房などで行ってい る。地域で製造・生産したものしか売らないというコンセプトである。企画は,各部 門の主任による合議体(主任会議)で企画をおこなう。どんな商品を作るか,どのよ うに宣伝するか,マスコミに取り上げてもらえるか,月1回会議を行う。景観を大切 にしたり,内子のものに限定していこうというコンセプトが生まれている。 「自動販売機をおかない。ペットボトル(お茶とお水)は売店で売っている。 道の駅なのに自動販売機がないとは何ゴトゾ,とよく言われる(笑)うちも,考 え方なんでねぇと(答える) 」 (内子フレッシュパークからり代表取締役社長,冨 永昌枝氏) 。 高齢化や人口減少が進む内子町の山間部では,後継者不足や価格低下によって,主 要地産品のひとつである葉タバコの生産減少が課題となっていた。また, 「山ぎりの 農業」即ち,山間部の農業で「いいものを作れば売れるはず」の限界や将来の不安が あった。JA の規格どおりに「言われたままに作る」には,展望がなく,後継者が育 つはずがないと考えていた。 「自分は専業農家だった。山の上の生活,町にはあんまり出てこなかった。山村 の農業ギリで自分が一生終わるのはすごくみじめだというような想いが強かっ た。なんとかここを成功して,自分の農業とこことを結びたいという強い夢が 在った。 」 「自分は山の暮らしをしてたから,町と農村を!ぎたいという大きな夢があっ た。此処に直販所を開くという話があったとき,飛びついてしまった。申し込ん だ所,1番という大きな会員番号をもらった。 」 「実験室というようなことを始めていただいて,新しい農業の姿に感動してし まった。こういう農業だったら山村の農業も楽しく取組んでいける。 自分がそう, 697 超産業戦略 −345− 思い込んでしまった。此処に夢中になった。 」 「結婚してから2 7年,4 8歳ぐらいだったから,山村の農業のくらしは痛い程自 分がわかっていた。なんとかしてこういうような山村ギリの農業をしていたので は絶対活性化しないと思っていた。 」 「だんだん農業が衰退していくし,自分自身が楽しくないものをなぜ後継者が山 で活性化することができることは絶対ないと思っていた。自分が面白くないんで すから。 直販に取組んだときは別世界だった。4 8歳ぐらいだから未だ元気があった。 これだったら自分の中山間地の山で物をつくって,この内子町の町に出て来れ る,山ギリじゃなくて,山とこの町との農業ができるという想い。ほんとに,別 世界の農業を見たっていう,感じでした。 」 (からり特産物直売所運営協議会名誉 会長 野田文子氏) 知的農村塾を通じて内子のフルーツパーク構想が計画されていった。その3つの方 針とは,農業にサービス業的視点を導入すること,都市と農村の交流を促進するこ と,農業の情報化を図ること,である。こうした3点を柱とした構想を元に,内子町 と農家が一体となり,経営者意識の形成と第3セクターへの出資を通じた参画がもた らされた。 地域プロデューサーの野田文子氏は,1 9 9 7年に,からりの取締役に就任して経営 に携わる一方,1 9 9 8年に,からり特産物直売所運営協議会会長に就任し,現在は名 誉会長となっている。 野田氏は, 「作るだけの農業」からドライフラワーなどを「工夫して作り,加工し, サービスする」経営者に変わった。 「消費者が買い物に行ってレジのところで清算す るとき,いかに自分の商品がそのカゴの中に入れられているか」を考え,売れる商品 作りをするようになった。 以下は,野田氏のからり以前の葉タバコやしいたけ生産など従来の農業に関する発 言である。 −346− 香川大学経済論叢 698 「葉タバコ,椎茸生産は,大量生産大量出荷。そうしないと農業経営できない。 葉タバコは一町歩から上,作っていた。それは休む暇もないというような感じ よ。葉タバコにしたって椎茸にしたって,ゆずにしたって。だから,それぐらい しないと農業所得というのが,農業ギリで,専業農家で食べていくということは できないからね。大量生産大量出荷だった。葉タバコは専売公社,椎茸は森林組 合,県森連。乾燥物ですから。生椎茸でパックにして JA 関連もやった。ゆずも 大量に一町歩から作っていた。それも JA(内子町)だった。 」 「うちの農業経営は,おとうさんものすごい働き者だったから,四桁農業(1千 万円)やらんといかんのだというて,四桁農業常に目標立ててやっていたから。 」 「葉タバコよりは椎茸の方が消毒しなくても楽だけど,年取ったらできないでき ない。もう限界が来ている私たちにも。原木だから。原木椎茸も植えてきたし, 人の買わなくても出来るように,計画立ててやってきたから。だから限界がある んですよね。 」 「葉タバコは真夏の仕事なんです。反収的にも5 0万ぐらい取っていた。だから, 良かったんですよ,私たちが止める時点では。だけど,今では耕作者が減ってし まっているし,価格も低迷しているし,結局止めていてよかった。時代の流れ, これも。とてもじゃないし,真夏だし。葉タバコというのは根っこからとって, ぼすんと乾燥するんじゃないから。一枚一枚,下からはいで1ヶ月か2ヶ月かけ て取っていくんだから,色味ながら。だから大変な仕事,雨が降ろうと日は照ろ うと,一乾燥する間は,採り始めたら,一つの乾燥が満杯になるようにやらない といけないから。雨が降ろうと日が照ろうと休むことできないの,その乾燥機一 杯にするためには採らなきゃいけないから。 」 「消毒もしないと病気になって,全滅だめになっていくし。葉と葉の間に芽が伸 びるし,その芽を常に,葉タバコ採って乾燥機に入れたら,すぐ芽取をしないと 699 超産業戦略 −347− いけない。それはとてもじゃない,農業つらいんですよ,大変なんですよ,タバ コは。労働力がすごく要るし,労働時間がすごくかかるし。もう,葉タバコして たら,その収穫終わるまでは他の作物で来ません。若い人のやる仕事じゃない し,金ができたらやる仕事じゃないなと,わたしは思ってきた。専業農家ほど大 変だと思います。だって月給じゃないから所得が入ってこないから,いい物つ くって,しっかりと販売しないと。 」 「大変ではありますよ,ゆずは新芽が伸びていくから,剪定しながら集めて焼い て。JA さんの方針,何月に肥料,何月に消毒しなさいっていう,に合わせて, 消毒をしていた。作っていい商品であれば,いい値段で買っていただいていた。 だから専業農家では,イイモノ作り,秀品づくり。だから,消毒もする。これか らの農業は浴びるような消毒したんではいけない,減化学肥料,減農薬になって きた。時代に合わせた農業経営の取組み方をやってきた。 」 「人でも減ったし,おとうさん(義父)も亡くなったし,二人がやれる農業経営 は椎茸しかないって,消毒もしなくていいし。専業農家で椎茸作りをやろうと二 人で決めた。それはここが始まる前の話。 だから,椎茸に!けてやろうと言って, 取組もうとしていた。それこそ愛媛県でも一位ぐらいの植込みをしないと,それ 専業のプロでやろうとするんですから。計画を立ててやりよったんだけど,わた しは,椎茸作りよりも,ここの方にすごく魅力があったから,おとうさんの希望 に合わすことができなかったんだけど。そこで,すごい葛藤があった,これに椎 茸に専業農家としてやっていこうとしている矢先に,直売所が始まったから。主 人と私とのすごい葛藤があって,そこで。平成5年に葉タバコやめて,椎茸一本 に絞ったんだから。専業農家として誇れる農業経営をやろうと言って。 だけど,これだったらいつも私は山に引っ込んで,町に出ることないし,いい 物作りだから,それに専念しないといけないし。だから,それよりもずっと,わ たしは,山でずっと引っ込んでおる農業よりも,人と出会ってふれあってやる農 業のほうがこれから先,自分にはすごく農業が楽しいと思ったから,そちらの方 −348− 香川大学経済論叢 700 を選んでしまったの,私自身。だからここが一番大変だった。 」 「ここがこんなに成功すると思わなかったし,先が見えなかったんだから。これ を切りかえようとするから,自分が。なかなか安定して入る所得が,入ら無くな るじゃないですか,私がこっち向いたら。そしたら農業経営をどうするんだ,と いうことになって。 」 「主人が,おまえがこっち向いたら,金になるやら成らんやら分からんのにか ら,なんで,というけど,やっぱり,山の中でずっとと自分が,自分の一生が終 わるんだと思ったときに,自分は農業をやっていて,こんな椎茸作り物作りに励 んでいて,自分はすごく寂しいし,わたしはみんなと一緒になっていろんな情報 を聞きながら,みんなと一緒に交流しながら,新しい農業に向けて,こっちのほ うがやりたかったから,やらせてくれって,お願いして,一生懸命やるからって 言って。でもこっち成功したからよかったの。成功していなかったら大変なこと に成っていたと思う。収入が途絶えるんですから,私やらないし,できないんだ から,こっち走るから。専業だったら二人が助け合いながら,それに取組んでい くから。 」 (からり特産物直売所運営協議会名誉会長 野田文子氏) 以下は,野田文子氏が,商品を工夫して作り,組み合わせて,サービスする,とい う経営の楽しさについて語ったインタビューである。 「商品を売るアイデアは,わたしは切り花用の花を作っていた。良く売れる花だっ たら,みんな真似して作る。次の年,できますよ。先私は走る,先頭立って。要 は売れる物を作らないと行けない。こんなことしよったんではいけない,生花で 売れなくて取って帰るようなことしていたんではいけない。それを加工に向け て,これは加工にしてドライフラワーに!げていった。 」 「自分で売ってみて,売れる花と売れない花がある。売れる花はどんどん次の年 701 超産業戦略 −349− も作っていく,売れない花はパスしていく。いろんな試行錯誤して作った。いろ んな包装の仕方によって値段の変化をつけたり。花束の組み合わせとか,いろん な変化をつけて,取り合わせをしながら商品化,品数を増やしていった。同じ物 を大きく一束にして出すのではなくて,小さくしてみたり,何か違う物を添えた り変化を付けて束ねて,自分のものがたくさん売れていく仕組みをつくった。 」 「一つだけそれを売るよりも変化を付けてその品物を売っていく方が,買う人の 想いがあるから,売れる範囲が広いじゃないですか,小分けしていろんなパター ンを作っていく方が。だからそうやって,品数を増やしていったんです。 」 「だから,売れる商品作り,自分が考えて,売れる動向を見ながら消費者が飛び つくような商品作りをしないといけないから,自分が工夫,工面をして,そうい う変化をつけて,売れる商品作りをしていた。 」 「楽しかったですよ,自分が作り上げていく,売れていく,そういうスリルが あったからすごく楽しかったです。 」 「そういうふうにしながら,自分が売れる商品作りをしていたから,こういう風 にしたら売れるんだとか,これは,売れない商品が出てくるじゃないですが,な んぼか作りよって。あっ,これは,こういうことしたらいけないんだということ を,自分がやりながら自分が勉強していった。直売ならではのスリル。 」 「私はよくみんなに,生産者に言ったんだけど,消費者が買い物に行ってレジの ところで清算するとき,いかに自分の商品がそのカゴの中に入れられているか, そういう風な物作りをして出さないと,売上げが自分に!がらないよって,それ をよく言ってきた。いかにそのカゴに自分の商品が入れられているかで勝負が決 まると。結局そうなんですよ,自分の商品がカゴのなかに入れられることによっ て自分の売上げに!がっていく。毎日のことですから。 」 −350− 香川大学経済論叢 702 「からりに出荷するのは,兼業も多いし,最近は専業も多い。こんなに人が来た ら,兼業ではやっていけないと思う。わたしたちも専業でずっと葉タバコ作っ て,ゆず作って,椎茸つくって,やっていたけど,わたしはすべて此処にやって しまったの,農業経営を。わたしは全部よそに出すことはない,皆ここで売って しまう。 それでも,1, 0 0 0万近く売ったから。だから,やり方によったらね。楽しい農 業の方がよかったよんよ。だんだん人が来て物が売れだしたから。おとうさんの 椎茸だって,ここで完売してしまうんですよ。一番最高で売ったときは,おとう さんの椎茸だけで6 0 0万超えていた。おとうさんの椎茸の方が価格も高いから所 得もあげたけどね。 」 (からり特産物直売所運営協議会名誉会長 野田文子氏) 野田氏は,生産者の顔が見える安全・安心な農産物を追求し,リース教室ツアーな ど年間をとおした農業体験活動を実践するとともに,研修等の講師など農村女性起業 家や観光カリスマとして活躍している。 野田氏は,ラベンダー作りの工夫について,下記のように,インタビューで語って いる。 「ドライフラワーは1年間にかけて,ドライフラワー作りをする。時期があるか ら。今一生懸命,鷹の爪,とんがらし,赤い。あれを人に頼みながらこしらえて いる。それを1年間使えるぐらい補充しておくんですよ,今の時期じゃないとで きないから。で,おとうさんの椎茸乾燥の箱を使わせていただきながら,それで 囲うておくんです,1年中出せる様に。麦もそうだし,鷹の爪もそうだし,そこ の中にはいっている玉すだれっていうキリなんですけど,それもドライフラワー には必要だからそれも作っているし,ラグラスとか貝細工とかドライになるもの は常に。今の時期に芙蓉の実がなるんですよ,それは走りよったら農家の人が 作っている,それを見ては分けてくださいと言って,そこで買い込んどくんで す。必要になる物は自分の目で見て,農家のひとに貰いながら集めてそれを1年 中使える様に。これから百合の実が乾いてくるから,その実を農家の人に頼んだ 703 超産業戦略 −351− り,自分が見つけて採って集めたり。それが集まって初めてドライの花束が出来 ていくんです。 」 (からり特産物直売所運営協議会名誉会長 野田文子氏) 「ここが始まったときに,私はなんとかして消費者に,どういう所に住んでい て,どういうものを,自分の地域を見てもらいたいという想いがあって。うちの 地域はラベンダーの評価が高いから,まず植えてみようと思って。ラベンダーの 苗を5株ぐらい買った。ラベンダーの品種がいっぱい在るから,どの花が自分の 地域にふさうんだろうかということで,それをいろいろと取り合わせながら自分 が挿し木して増やしてきた。もう5,6年かかった,畑を一反半ぐらい作った。 出来上がってから,ラベンダー狩りというのを此処で取組んでやった。野田さん の園にラベンダー狩りにいきませんか,っていうのを此処に出して,ここでレス トランの食事を取り込んで,ここの研修室を借りて,ラベンダーの工作,とって きたのでバンドルつくったりバスケットつくったり,体験学習みたいなものを取 組んできた。2, 5 0 0円の会費でイベントとして。 」 「参加する人は此処で募集するから,ここに買い物に来られた方がそれを見て やってくる。そして住所と電話番号をいただく。次にその人にご案内をだしてい く。こんどはリース教室ですから,もうぼつぼつご案内していかないけんなと思 いよるんだけど,クリスマスリースとか,リース作りをしませんかといって,こ こに広告を出していくんですよ。かならずレストランとセットしながらイベント を作り上げていく,2, 5 0 0円,リース教室をします。主婦の方と,子供をまじえ て。主婦が多いですね。若い人もいるし年取った方もいるし,いろいろさまざま ですね。ここで,からりで募集するから。松山からも来られますね。今回は,もっ と遠い新居浜の方の人にもご案内だそうかなと思っています。ドライフラワーす るんだけどからりに来ませんかって,おうた人に,いつも。行きたいな,ご案内 くださいという人には,必ず住所と電話番号もらいます。わからなくなったらい けないから,すぐに,ここの事務局でパソコンに登録してもらう。そして,日程 が設定できたら事務局がご案内を出してくれるんですよ。参加しませんかといっ −352− 香川大学経済論叢 704 て,それで何日までにご返事くださいという案内をだしてもらって。返信しても らって,そして,人数を取っていくんです。ファン作りです。お友達を連れてき てくれたり,バスや乗用車できたりいろんなパターンがある。 」 「最初はドライフラワー部会といって農家の人がグループを作ってやっていたん だけれど,打ち合わせしないといけないし,なかなか大変なんです。だからもう だいたい2人か3人がぐらいでやるんですよ,勝手に。その方がずっとまとまり やすいんです。すごくリースが好きなひとを講師として雇うんですよ,生産者で すけど。わたしが集める人になっていくんですけど。人集めですから,会社が施 設を借してくれるんです。そういうことを,直売所の会長を1 0年やっていて, いまは名誉会長という役職を貰っているんですけど,会社にも,人集めをやって よ,と言われるから,個人的に,リース教室するよっていって,会社から,事務 所から流してもらった方が私もやりよいから。ここの施設を利用するから事務所 も協力して。だからやりやすいんですよ。 」 「材料は私たちが,誰かにお願いして採っていただくし。そうやってするから, からりのファンがおるんです。ここのレストランバイキングを取り込んでやった りするから。だから私向けのファンじゃなくて,からり向けのファン作りをやっ て,いろんなイベントをしながら。個人的だったら,ここは使わせてもらえない し。だから,此処を巻き込みながらうまく,消費者を取り込んでいく,そしてか らりのファンを増やしていく。 」 「わたしはからりが自分の仕事場だと思っているから,個人的にはやらない,自 分の会社だと思っている。だからいかにファンを増やしながらここのお客を増や していくかというのをやりたいと自分は思っている。個人的だったら,生産者も いろいろいうけど,会社向けだから,別に,私がどうこう集めても何も言わな い。 」 (からり特産物直売所運営協議会名誉会長 野田文子氏) 705 超産業戦略 −353− 4. 3 外部力(ヨソモノ)の取り込み 松山市のビンデザインオフィス有限会社代表取締役であり愛媛大学農学部客員准教 授の山内敏功氏が,アイスクリームの箱のデザイン,パスタの箱のデザインなど内子 フレッシュパークからりのコンセプトづくりとその維持に深く継続的に関わってい る。 「からりのデザインの決め方は,デザインはスタッフで“こういったものがいい ね”と案を出して,あとビン先生の方でいくつか出していただいて,想いを説明 していただいて決まるというか,想い, “どうして白なの”ってなったときに− “無添加なので,まわりは白だね”とか言う感じで。そんな感じのものをいろい ろと説明していただいて。私たちは, “ここピンクがいいよね,とか紫がいいよ ねってなって,どうしてここ白なの”というと,そういう説明をしていただい て。 」 「小さい手がたくさん−みんなの手で,一人じゃ出来ないから,農家の方の手を かりながら,皆さんの手を借りながらびん先生が考えて,内部と意見交換をしな がら,いろいろお話をしてイメージをわかさせてもらって。 」 (内子アグリベン チャー2 1,山田重美氏) なお,建築のデザインは,伊予市の有限会社アトリエ A&A 代表取締役の武智和臣 氏が担当した。行政で決めるのではなく,デザイナーと生産者が一緒になって作り上 げていった。 外部力(ヨソモノ)としては,コンサルタントの愛媛サポートからも支援を受けて いる。同社は,愛媛,四国のものを手がけている。東京のレストラン,ホテルへ紹介 を行ってもらっている。消費者の嗜好として, 「重い物はよくない,田舎なら自動車 であるが,電車,徒歩での買い物が多いから,小包装がいい。トマトケチャップな ら,ビンは重い。 」といったアドバイスを受けている。 −354− 香川大学経済論叢 706 4. 4 からりネット 内子フレッシュパークからりの情報ネットワーク「からりネット」は,消費者と生 産者を結ぶトレーサビリティとからり会員を支援する農業情報を提供する。出荷者が すべての商品に添付するバーコードシールは,顧客が問い合わせをする際に管理さ れ,その情報は,生産者別,商品別にからりネットのサーバーに情報が蓄積される。 生産者には,自分の商品の売り上げが電子メールや電話やファックスにて送付され る。出荷者は,そのデータを元に日々の商品を出荷したり,今後の出荷計画を立てる ことが可能となった。 POS レジについては,1 5年前から導入し,販売管理を行っている。 情報のネット化については,農家−からり−直売所が直結している。POS レジと 連動し,現在の販売状況がリアルタイムにわかる。今の時点の売上げを配信してい る。電話ガイダンス,FAX 配信,インターネット,携帯電話による配信を行ってい 707 超産業戦略 −355− る。メールアドレス登録によって,希望時間に売上げ情報を生産者へ自動配信するこ とも可能である。 例えば,朝,3 0本,大根を出荷のうち午前1 1時現在,2 8本売れているという情報 を配信して,生産者が午後の出荷準備ができ,直売所に多くの品揃えが可能となり, 消費者の購買利便性が上昇する。また,販売状況コメントを生産者に流すこともでき る。例えば, “今,店にはスイカがないですよ,品薄ですよ” , “お客さんが○○○を 求めています” , “今日,大型バスが2台入ってきます”といった販売状況コメントで ある(からり代表取締役社長,富永氏) 。 インターネット販売は,楽天市場へ商品提供している。楽天でインターネットを通 して購入可能となっている。これは,実施して1年足らずである。一方,ふるさと小 包販売を役場とタイアップして行っている。これは,電話に依る取引である (からり, 岩井氏) 。 サーバー構成については,販売管理(POS システム)とデータベースサーバーは, 一台で行っている。他に,栽培履歴管理サーバーと売上げデータ携帯メール配信, FAX 配信,音声配信サーバーがある。なお,携帯メール配信が一番利用頻度が高い。 サーバーは自前で立てている。システム開発はメーカーへ委託した。栽培履歴に関す る登録は生産者が行う。入力端末はバーコード発行 PC と直売所内の同じ場所に設置 し,履歴サーバーへ情報を格納する。登録情報に不備がないか,事務所の管理端末に て確認している。生産履歴の運営は,役場・からり・生産者の3者である。農薬など のマスター情報は役場の支援センターが提供している。生産者は栽培履歴を直配所で 登録する。自宅では入力できない。消費者は,インターネットを通して web サイト にアクセスし,バーコードシール番号を入力すると生産履歴を参照できる。なお, バーコードシール番号には,生産者番号,商品番号,単価が含まれる。一つの商品に ついて一つの履歴となる。 システム開発,管理は,地元のソフトハウスへ委託している。当初は NEC であっ たが,保守管理費1 5 0万円/年と NEC より安いので,変更した。なお,生産者のシ ステム利用研修は,生産者同士で教え合うことにつながっている。 −356− 香川大学経済論叢 708 「うちは全部トレーサビリティーを5年位前から取組んで,記帳しながら履歴作 りをしてきたから。ここには履歴のないものは置いてないんですよ。これが生き 残りなんだと言って。ほんとに役場もよくやってくれて,農家も取組んでくれ て。安心安全,トレーサビリティ。うちもずっと取組んで,よそに負けない位取 り組みができていると思います。農家の人も,専業農家で山の仕事やっていたか ら,こういう農業,すごくあたらしかったから,みんな興味があって,取組む姿 勢でがんばってきた,1 0年間程。 」 「パソコンはからりが始まってから,家に取り寄せてもらった,インターネット も!いでもらった。けどね,農業というのは座って習う時間,とてもじゃない, できない。私たちは物作りだから,パソコンを座って習得するのがとてもじゃな い,時間が。私にとっては,無駄でした,無駄になるっていうか,時間がなかっ た。もうこれは,パソコンは無しでいこうと。パソコンを習得しないと見ること も面白く見えないし,それを使いこなすことに依って,あのパソコンは役に立つ のであって,ちょっと見るからって自分には役に立たなかった。だから止めてし まったんだけど。畑で物作りをしないと,出来ないんですから物が。物を作って 直販に出すことが所得に!がるのが大きかったから,すべてからりに任せて,か らりが最低限のパソコンを農家が使える様な段取りをしてくれた。だから,それ で十分だったと思います,私自身にとっては。バーコードを出すように教えてく れるし,携帯で!いで,ここからの売上げが見えるようなこともしてくれたし。 今現在は何が足りないよ,何が売れているよというメールも来るし。これは農家 にとっては,最小限の情報が自分に入ってくれれば,他には何にも必要と思わな かった。私たちは農家の販売するのが目的ですから,その販売の売れ行き,売れ 高,何が売れているよという情報,其れが来れば不自由していない。 」 「情報をいただいて,それを作付けに使う。売れた時点では,農業って言うのは, 3ヶ月半年かかるんだから,そういう情報を自分に取り込んで,次はこれを植え てみようかなと,自分の計画が立てられる。 」 709 超産業戦略 −357− 「だけど私たちは,出荷に毎日にこの直売所にきているから,何が売れているか というのは自分の目で確かめられるから,それほど前もってこの情報を見てやら ないといけないということもない。 」 「もし自分が今現在持っている物がよく売れているという情報がはいることに よって自分のものを束ねて持ってくることは出来る。だから次の年にこれを植え ようかなという計画性は立てられると思う。でも現場に出てるから,それほど は。今現在自分の畑に持っているものが売れてるよっていう情報をもらえれば明 日持っていこうかな,という取り組みは出来る。 」 (からり特産物直売所運営協議 会名誉会長 野田文子氏) 4. 5 内子アグリベンチャー2 1 からりの運営に大きくかかわっているもう一つの組織が,農家の女性3 8名(2 0 1 0 年9月現在)で構成されている内子アグリベンチャー2 1である。内子アグリベン チャー2 1は,農産物の加工を研究する組織として農林水産省の補助金を得て設立さ れた。素材,惣菜,製麺,菓子製造の4部門で活動している。からりとは別に,法人 格をとっており,名本良子氏が会長である。 2 0 0 1年2月に設立された。からりの中にある。内子アグリベンチャー2 1との連携 によって,あぐり亭もレストランからりとともに人気を集めてきた。アグリベン チャー2 1では,地元生産品を生産して販売しているほか,からりで生産している各 種農産品の体験教室を実施するなどして,女性による新しい農業の可能性を切り開こ うとしている。 内子アグリベンチャー2 1には4つの部門がある。菓子製造部は,柿のようかんな どの研究を行っている。内子町の小麦粉を使ったクッキー,ボーロなどを焼いてい る。また,大判焼き,たこ焼きは,毎日店舗で販売している。大判焼きは内子町のよ もぎ,!麦を使っている。 次に,製麺部は,内子独特の!麦うどんを開発して,あぐり亭で販売している。香 川県へ出向いて,研究を進めた。惣菜部は,お弁当などを販売している。からりと競 −358− 香川大学経済論叢 710 合しないように注文生産である。なお,素材部は,内子町内の素材を活かす,椎茸, かぶ,トマトの研究をしている。トマトケチャップを開発した。もったいない精神か ら,直売所に出して売れ残ったトマトを使う。農家の方は持ってかえっても処分に困 る。何か出来るものは無いかという依頼からトマトケチャップを開発した。体験教室 は,お菓子作り,うどん,そば,櫓!などである。 農家の婦人のみで,加入した後は,4部門の中から,自分が活動出来る所へ自由に 参加する。部門は兼ねても構わない。内子の兼業農家のおかあさんが,農家の仕事を しながら合間をみて参加する研究組織である。 収益は,菓子,製麺,素材,惣菜の売上げであるが,研究組織であるので,仕入れ を引いた残りは,賃金に回している。利益はとらない。賃金も協議して決める。 4. 6 からり出荷者協議会組合 4 3 0名の生産者が,からり出荷者協議会組合に加入している。組合とからりが委託 販売契約を結んでいる。売上げの1 5%をからりへ,そのうち8%を組合へ手数料と して還元している。1 0 0円の売上げがあれば,1 5円がからりの売り上げとなり,1円 2 0銭が組合還元となる。組合還元費の使途は,事務局員の雇用,委員会諸雑費,事 務経費である(内子フレッシュパークからり代表取締役社長,冨永昌枝氏) 。 組合は,4つの部会を通して,自治的に運営している,第1は,イベント委員会で あり,集客力を高めるためのイベント企画を行っている。第2は,店舗レイアウト委 員会である。どのような品物をどのようにディスプレーすれば,生産者,消費者に気 持ちよく販売できるかを検討している。第3に,品質管理委員会は,消費クレームの 対応である。運営方法として,からりと組合が対等に協議しながら運営している。第 4に,トレーサビリティー推進協議会である。食の安心安全のため,生鮮野菜にすべ て栽培履歴,審査をパスしなければ出荷できない。また,トレーサビリティ推進協議 会は,からり,組合,内子町で組織され,抜き打ちの残留農薬検査を年間5 0 0回から 6 0 0回行っているが,これまで違反はない(内子フレッシュパークからり代表取締役 社長,冨永昌枝氏) 。 直売所の商品は,品質管理委員から,期限を過ぎたものを展示していないかチェッ 711 超産業戦略 −359− クされる。担当者は,期限が過ぎたものや品質が落ちたものは,その場で撤去してい く。また,直売所のもうけられた端末機にバーコードシールをかざすことにより,一 つ一つの商品が誰によってどのように作られたのか肥料・農薬の使用状況まで詳細に 確認できるようになっている。トレーサビリティシステムが,からりの商品が安心, 安全であることを伝え,からりブランドへの信頼を高めるものとなっている。 4. 7 地域と一体となった取り組み 内子は,稲本隆壽(内子フレッシュパークからり初代支配人,現内子町長)など行 政と一体となった取り組みが特徴である。 「うちの町長が社長だったから。うちの町長が,割と自然が好きな人。森の中の 直売所をイメージして作られた。どういう直売所にするか。自然を大事にする, 森の中の直売所のイメージを作り上げた。おうどん,ちょっとした丼物は商店街 にいけば,たくさんそういうお店はあるから,ちょっと素敵なお洋服を着てきて 素敵な会食ができるような様式,そういう形でレストランをやりたい。農家の人 も誕生会,結婚記念日,ここでお食事できるようなレストランにしたいというこ とで作られた。四苦八苦しながらなんとか,やっと順調にたどりついた。直売所 の食材を使って,みなさんに食べてもらう。 」 「完全にこれだと決めるまでに,5∼6回,3 0人位集まっていた。あれでもな い,これでもない,飲み会したり。みんなが納得するようなやり方でやってき た。役場も,何が何やらわからず,農家を巻き込んでやった。すごかったなと思 います。 」 「役場,農家,デザイナー一緒になって,役員が集まって,お酒を酌み交わしな がら,一つに成って,そうやって作った施設。みんなそれぞれに,農家であった り,役場であったり,関わった人は,みんな,ここに対する思い入れがあるんで すよね。ただ,デザイナーが,ぱぁっと,ここにマークを作ったりするようなの −360− 香川大学経済論叢 712 とは違ったんですよ。常に何度となくデザイナーさんと,農家も交えて協議しな がらやったから,ここに対する思いがみんな強いんだと思います。お酒を酌み交 わしながら,会をやったら,みんな言いたいことを,言いたい放題いうて,やっ た。何年かそういうふうにしてやった。役場の支配人,事務所の方,農家の方。 そういう風にやらないと,なかなか盛り上がらないと思います。 」 (からり特産物 直売所運営協議会名誉会長 野田文子氏) からりの目指す新しい農業の考え方は,もともと内子町の農業と深く関係してい る。地球を汚さない環境保全型農業と,農家の所得向上を図るという方針を早くから 打ち出していた内子町は食の安心,安全を核とすることを目指して農業支援センター を設立し,肥料・農薬の低減を目指した農業を指導し続けてきた。この農業支援セン ターでは,体に悪影響を及ぼすといわれている硝酸塩が含まれていないか,農産物に 残留している農薬の量はどの程度か,この分析センターでは,支援センターのスタッ フによって年間1 5 0回もの商品検査を行い,そのデータを元に農家への指導を行って いる。また,肥料や農薬を低減する方法として最も有効な土壌の改良についても,各 農家を訪問しながら土壌検査を行い,化学物質を使わない土づくりを指導している。 からりの脇には,小田川が流れ,吊り橋がかかっている。直接に,河原に降りるこ とができ,子供たちが1日遊べるようになっており,テーマパーク化している。 「川であそべる相乗効果。知清(ちせい)河原という大きな河原があったが,そ こには人が集まってなかったけれど,からりができることによって,だんだんと お客さんが来て,下の河原で遊んでいた。だんだんと人が,チスイガラにテント を張る様になって,今は凄いですよ。ここをこういう風に作って,とか別に作っ たんでは失敗する可能性があるけれど,お互いにこういう施設ができて徐々に人 が来て場所を知ることによって,人が集まるという自然な形ができた。そこに自 然に人が集まってきたということが,ぱぁと消えないだろうなと思っています。 ちゃんとして,ここはこうやるんだ,ここはこうするんだ,で物を先に立ち上げ て出来た物は人がくるやら来ないやらわからないし,成功するやらしないやらわ 713 超産業戦略 −361− からないけど。お客さんから進んで自分が見つけて,そこに人が集まってくる場 所っていうのは,お客さんが魅力があるから何度となくここに訪れてくるんで あって,だから,多分,だんだんと人が集まってくる要因はあるんだろうなと 思っている。この直売所に人が来て,自動車を入れかえにして,直売所のものを どんどん買って貰ってもらたら,いいんだけど。遊びにくる人は一日遊べる,だ から車をとめて一日おられると,うちの回転が悪いんですよね(笑) 。だから, 今後,もう少し回転ができるような駐車場を考えないといけないと思っている。 大勢ここに来る,真夏。高速道路無料化だけでなく,河原っていうのは,テント を張って,子供を一日中,安く遊べる。水,トイレ,体験施設がある。利用者が 自由に使えて,口コミで広がっているんだと思う。河原に来た人が,直売所で買 い物をバーベキューしてくれるからいいことなんですよ。 」 (からり特産物直売所 運営協議会名誉会長 野田文子氏) からりの運営方針は,収益性だけではない。 第1に,内子町の農業振興,農業支援施策の実践の場となっている。からりは町の 施策と連動して動いているのである。 第2に,高齢者,兼業農家の主婦,多くの生産者の交流の場所となっている。毎日 楽しんで,元気に出荷することから,生き甲斐対策になっている。 第3に,これは超産業化と関係するが,作ったものを売るだけでなく,付加価値を 付けて全国に売ることである。 からりは,女性パワーが特徴である。当初,ほとんどの会員が女性だった。農業は 男の世界という考えがある。兼業農家の主婦,おかあさん中心に出荷・販売し,消費 者との交流ができた。信頼関係の構築で,安心・安全という評判が高まり,リピー ターが増加した。さらに,専業農家,高齢者の参加へと広がった。現在,会員の6 7% が女性である。 「内子町の農村の女性が元気になった。私が思うのは,女性も経営をやらんとい かんなと思いました。ただ使われるギリじゃなくて。一緒になって自分がどれだ −362− 香川大学経済論叢 714 け働いて,どれだけの所得を得て,どれだけ支出が要るのかとか。その金の運用 も個人個人がやっていかないと,そこに意欲というものが湧かないんだというこ とが分かりました。 」 「よくうちの主人が言ったのは,サラリーマンと同じ感覚にならないと,農業は よくならないということをよく言っていました。農業者もサラリーマンと一緒で すよね。月に2回清算してもらうんですよ,上で。1 5日に一遍。ここは,1 5% 要るから,1 5%引かれた残りが農協の通帳に振り込まれて行きます。会員になっ た人は自分の通帳を作りましょうということにしましたから,自分の通帳をもっ て,自分の売上げがそこに入って行くという形で,やってるんです。それでやっ ぱり元気が出るんじゃないかなと思うんです。1 5日と2 5日だったかな。通帳見 たら,あっ増えてるって(笑) 」 (からり特産物直売所運営協議会名誉会長 野田 文子氏) からりでは,体験滞在型の農業体験に取り組んでいる。農業体験を通じて,都市部 や海外からの人との交流を楽しむメイクツーリズムやドライフラワーなど加工品の体 験教室も注目を集めている。また,からりでは,インターンシップによる販売実習も 受け入れていて,からりの魅力を発信する活動は,広がりを見せている。 加工品は,市場を獲得することができれば,天候等の影響が少ない。高齢者は,葉 タバコの栽培は不可能である。加工品用であれば,傷や肥料などをあまり気にせず に,取り組むことができる可能性が拡大するため,農産加工に取り組む農家は増加し ている。消費者は,加工品に対して,価格よりも,安心,安全,内子ならではの限定 性,洗練されたデザインなど物語性を求めている。近年は,内子の素材をいかに確保 するかと加工・製造技術が課題となっている。例えば,ハムやソーセージは,ドイツ のローテンブルグ市で3年間ハム・ソーセージ作りを学んできた山口佳一氏が内子豚 とドイツの香辛料と製法を組み合わせて,加工・製造,販売している。まさに,内部 力(ジモティ)と外部力(ヨソモノ)の組み合わせである。 715 超産業戦略 −363− 5.最 後 に からりの買物客の累計は5 0 0万人を突破し,売上高は,2 0 0 8年度で7. 2 3億円と なった。農業をやってみたいという県外からの若者も増えている。知的農村塾の学習 を原点として,経営者意識が生まれた。内子のものしか売らないというコンセプトや デザイナーなど内部力(ジモティ)と外部力(ヨソモノ)の新結合(Neue Kombination) をもたらす野田氏を代表とする地域プロデューサーが生まれる場となったのである。 からりは,内子町の農業生産販売額の1 3%を占めている。 「1割ちょっとだから, たいしたことないじゃないか?」と言われるが,からりは専業農家を対象とした販売 所ではない。兼業農家・零細農家が対象であり,農家の副収入になる。専業農家は青 果市場,JA へ出荷する。いままでは作ってもそんなに売れなかった。青果市場,JA には, 「はんぱもの」 (規格外の農産物)は出せなかった。耕地を荒らさないように, 兼業農家の副収入になるように,ということから,からりは,始まっている。今は, 専業農家も JA へ出荷できないはんぱものを直販所のからりで販売している。少量多 品の世界は,例えば,だいこん2 0本,はくさい1 0束,はまもの3 0袋,まきずし2 0 パック,ばらずし3 0パックといいった単位である。 特産物直配所には,毎朝地域の農家から新鮮な農産物や加工品が運ばれてくる。野 菜,果物,加工食品,1年を通じて旬の野菜や加工品が並べられ,その数は年間8 0 0 種類に上る。 売り上げについては,毎日5品から7品出荷して,販売額は,3万円/日となる。 経費を差し引いて平均1 0万円/月程度の収入となる。これまでなら,兼業農家では 稼げなかった金額である。生産者同士の交流,消費者との交流が生まれ,楽しさ,生 き甲斐が生まれている。 年間3 0 0万円から1, 0 0 0万円の収入は,専業農家が中心となる。からりを舞台にし た専業化も始まっている(冨永昌枝氏) 。 からりでは,4 8人の雇用が生まれ,農業経営者として誇りと自信,すなわち,地 域コミットメントを持った女性や高齢者が国内外との交流を広げている。 −364− 香川大学経済論叢 716 参 考 文 献 板倉宏昭「地域コミットメントの多次元性」『経営システム学会誌』 ,Vol.2 6,No.1,pp.1− 6 20 0 9 板倉宏昭『経営学講義』勁草書房 2 0 1 0 Itakura Hiroaki “Analysis Framework of Regional Corporations” IEEE PICMET pp.975−9802010 野口悠紀雄『世界経済が回復するなか,なぜ日本だけが取り残されるのか』ダイヤモンド社 2 0 1 0 注 本稿の研究は,科学研究費補助金(研究課題番号:2 2 5 3 0 4 1 3) (研究代表者:板倉 宏昭)の援助を受けている。 謝 辞 インタビューなど研究にご協力していただいた株式会社内子フレッシュパークから りの方々に深く御礼申しあげます。特に,代表取締役の冨永昌枝氏,総務部システム 管理の岩井文男氏,からり特産物直売所運営協議会名誉会長の野田文子氏,アグリベ ンチャー2 1の山田重美氏に多くの資料を提供していただきました。深く感謝いたし ます。 717 超産業戦略 株式会社内子フレッシュパークからり −365− 会社概要 施設 特産品直売所・レストラン・パン工房・薫製工房・あぐり加工場 営業内容 特産品・農産物販売、加工品製造販売、レストラン 経営主体 資本金7千万円(内子町5 0%,株主6 7 7人) 1 9 9 7年4月1日創立 代表取締役会長 稲本 !壽(いなもと たかとし) 代表取締役社長 冨永 昌枝(とみなが しょうし) 2 0年度売上額 7. 2 3億円 雇用者 4 8人 株式会社内子フレッシュパークからり組織図 内子フレッシュパークからりの構成 直販部門 シャーベット工房 レストラン部門 季節の果物を中心に常時 20 種類以上の品目 1 階(80 席),2 階(60 席),レストランウェディングなどのパーティー 加工部門 燻製工房 レストラン,あぐり亭に製品を供給,パン売り場 内子産の SPF 豚,ドイツ仕込みの製造技術,ソーセージ作り体験教室 あぐり亭 農家のお母さんの店,地元の小麦・そば粉を使用 パン工房 農産物加工部 地元産の契約栽培農作物を使用,新商品の研究・開発 からり出荷者運営協議会 出荷者による直売所の取り決め,イベントの企画 内子アグリベンチャー 21 菓子製造部 内子町の小麦を使ったクッキー,ボーロ,大判焼き,たこ焼き 製麺部 内子独特の 素材部 内子町内の素材を生かす研究,トマトケチャップを開発 麦うどんを開発,あぐり亭で販売 総菜部 お弁当などを販売 総務部門 各部門の総合調整 情報部門 観光情報などの案内,新規就農などの相談窓口,各種研修会の 開催,からりネット −366− 香川大学経済論叢 沿 革 1 9 8 6年1月 内子町知的農村塾開講(以後毎年実施) 1 9 92年10月 内子フルーツパーク基本構想策定 1 9 93年11月 フルーツパーク集落説明会 1 9 9 4年7月 産直実験施設「内の子市場」開設 1 9 9 6年5月 特産物直売所,情報センターオープン 1 9 9 6年9月 第3セクター創立準備研究会発足 1 9 9 7年2月 株式募集開始 1 9 9 7年3月 第3セクター創立総会(資本金2千万円) 1 9 9 7年4月 !内子フレッシュパークからり設立 1 9 9 7年6月 レストランオープン 1 9 9 8年3月 農畜産物処理加工施設完成(パン,薫製等) 1 9 99年1 2月 !内子フレッシュパークからり増資(2千万円) 2 0 0 0年3月 農林大臣賞受賞(交流部門) 2 0 0 1年3月 農畜産物処理加工施設完成(農産加工場) 2 0 0 1年7月 あぐり亭オープン(農家婦人グループ) 2 0 0 2年7月 全国農業コンクール名誉賞受賞 2 0 0 3年9月 特産品直売所利用者2 0 0万人突破 2 0 04年1 1月 !内子フレッシュパークからり増資(1千800万円) 2 0 04年12月 日経地域情報化大賞地域活性化センター賞受賞 2 0 0 5年1月 旧内子町,旧五十崎町,旧小田町の3町が合併 2 0 0 5年2月 オーライ!ニッポン大賞受賞 2 00 5年3月 日本農業賞食の架け橋賞審査員特別賞受賞 0 0 5年7月 2 直売所,レストラン,パン工房模様替工事完成 2 0 0 5年7月 特産品直売所買物客3 0 0万人突破 2 0 0 6年3月 日本農業賞特別賞受賞(集団組織の部) 2 0 0 7年1月 !内子フレッシュパークからり増資(1千200万円) 2 0 0 7年2月 創業・ベンチャー国民フォーラム「地域貢献賞」 2 0 0 7年4月 第2 4回ふるさと振興賞受賞(愛媛銀行) 2 0 0 8年7月 農商工連携8 8選認定 2 0 07年12月 野田文子氏,国土交通省より観光カリスマに選任される 2 0 0 9年8月 特産品直売所買物客5 0 0万人突破 出所: 『内子フレッシュパークからり』 (http://www.karari.jp/about/company.php#outline)を元に加筆・修正 718