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動詞の意味とその動詞パターンの構造的意味の相関性 The
飯田 : 動詞の意味とその動詞パターンの構造的意味の相関性
動詞の意味とその動詞パターンの構造的意味の相関性
The Relationship between Verb Meanings and the Structural
Meanings of the Verb Patterns
飯田 鉄夫
要 約
本稿では、動詞に内在する意味が、動詞のパターンの選択に介在することを前提として、それがどの程度であるか、
どのように関与しているかを見る。今回は類似の意味を持つ動詞グループの動詞パターンとして、文法要素(ここで
は目的語、不定詞、動名詞、前置詞句)を選択するものを選び、動詞パターンがどれほど相互に類似するかを見る。
更に目的語、不定詞、動名詞、前置詞句の持つ構造的意味について考察する。
1. 動詞が要求する文法要素
意味と密接に関係があり、
前置詞の語義そのものとも言え、
ここでいう構造的意味とはレベルにおいて異なるとも言え
動詞がそれぞれにもつ固有の動詞パターンは、その意味
る。しかし本稿においては、文法的要素として機能し、そ
に主として依存すると考えられる。Bolinger (1977:13)は、
れが動詞パターンの選択上大きな影響を持つと考えること
動詞が不定詞と動名詞のいずれかを選ぶかに関し、不定詞
から、同列に扱いたいと思う。
文法要素の持つ構造的意味と、ある動詞の持つ意味、す
と動名詞とは自動的変異形(automatic variants)であるとす
なわち意味素性とが両立する時、動詞は特定の文法要素を
る立場に対して反論し、次のように述べる。
選択する。このように動詞パターンは特定される。このよ
I refer to the idea that there need not be any feature present in
うに考えると、同様の意味をもつ動詞群は、類似の動詞パ
the verbs that take infinitive complements that causes them to
ターンを取ると言うことが予想される。言いかえればどの
do so, and similarly with the verbs that take gerunds. Whatever
ような意味素性がどの文法要素の構造的意味と結びついて
features may distinguish the infinitive from the gerund are not
いるのかを明らかにすることで、同義動詞の意義素性の構
matched by compatible features in the respective governing
成を逆に明らかにすることができると考える。
verbs.
2. [与える] の意味をもつ動詞
主格、目的格名詞句(直接目的語、間接目的語)、不定
詞句、動名詞、補文、前置詞句、などの文法要素は、それ
[与える] の意味を持つ動詞を Reader's Digest Family
ぞれがなんらかの意味(単一とは限らない)を持っている
Word Finder の provide, confer, furnish の項を中心にして
と考えられる。この意味を文法要素のもつ構造的意味と称
拾ってみると次のような動詞を得る。
し、動詞と文法要素が結合して生じる文法的意味を、動詞
give, provide, supply, furnish, present, offer, grant,
のパターンのもつ構造的意味と称する。上述の文法的要素
confer, bestow
のうち、前置詞句を他のものと同列に扱うことには若干問
これらの動詞のとる動詞パターンを辞書はどのよう
題があるかもしれない。前置詞句の持つ意味は、前置詞の
に記述しているかをみたのが次ページの表 1 である。辞
1
飯田 : 動詞の意味とその動詞パターンの構造的意味の相関性
えての表現となっている。
書パターン表示と例文に示されたパターンを掲げる。表
すなわちこのパターンの特徴は<場所の変化>を表すと
中の N は NP を表す。
いうことであり、譲渡物が移動をすることを意味する。
表1
COBUILD SRD
Macmillan
Longman
NP1 は与格であり受領者を表す。受領者は間接目的語
OALD
で表す場合と前置詞句で表す場合に分かれる。間接目
give
VNN
VN to N
VNN
VN to N
provide
VN with N
VN for N
VN with N VN with N VN with N VN with N
VN for N
VN for N
VN for N
VN for N
VN to N
VN to N
VNN
VN with N
VN for N
VN to N
VNN
VN with N
VN for N
VN to N
的語は授與・利害・影響などを受ける与格である(市
supply
VN with N
VN to N
VN with N VN with N VN with N
VN to N
VN to N
VN to N
furnish
VN with N
present
VN with N
VN to N
VN with N VN with N VN with N VN with N
VN to N
VN to N
VN to N
VN to N
offer
VNN
VN to N
VNN
VN to N
河(1953:262))。 この動詞パターンの構造的意味は、
<譲渡物が受領者の手に移動する>という比較的無色
の意味を表すと考えてよいだろう。
V NP2 to NP1(動詞 + 目的語 + 前置詞句)
VN with N VN with N VN with N
VN to N
VN to N
give, offer, present, supply, そして一部の辞書
の provide, furnish に現れるパターンである。 [V
VNN
VN to N
VNN
VN to N
VNN
VN to N
(N = NP ; COBUILD = Collins COBUILD; SRD = (小学
NP1 NP2]のパターンと同意であるが、V NP に前置詞
句が付加されたものである。 to 前置詞句は、前置詞
to が方向を表すことから、前置詞句自体も方向を表す。
所有権の変化の方向、すなわち受領者を意味する。[V
Macmillan =
NP1 NP2]と同意であろうとも、この動詞パターンの意味す
Longman = Longman
るものは、あくまでも譲渡の方向を表すにすぎない。この
Dictionary of Contemporary English; OALD = Oxford
両パターンの相違について石橋(1978 : 1090)が次のよう
Advanced Learner’s Dictionary)
に述べる。
館)ランダムハウス英和大辞典;
Macmillan English Dictionary;
...いったい2重目的語は文意の成立上きわめて消極的
(1) 表1の動詞パターンの持つ構造的意味
な役目をするに過ぎません。 ...それに対して、...の
動詞パターンはそれぞれどのような構造的意味を持って
to her は文尾という重要な位置を占め、...動詞にとっ
いるか検討する。
て必要な付加的要素です....
V NP1 NP2(動詞 + 間接目的語 + 直接目的語)
すなわち、前置詞の付加により方向を明確に示すパター
give, offer などに現れるパターンである。主として[V
ンであるということができる。
NP to NP]と同意であると考えられる。
give の意味において,池上(1988: 13)は次のような類型
V NP with NP(動詞 + 目的語 + 前置詞句)
化を試みる。give と provide の対立において、前者は基本
的に X GO TO Y という<場所の変化>の形式、後者は Y
provide, supply, present に見られる動詞パターンであ
BECOME WITH X という<状態の変化>の形式に基づいて成立
る。 NP は[V NP NP]パターンと同じ間接目的語とは言
しているとする。
えないとしても、与格であることは明らかであり、受領者
を意味する。前置詞句 with NP は、道具・手段・材料・供
給の意味を表す with を持つ前置詞句である。
... PROVIDE Y WITH X の方は譲渡の過程よりも、その結
果として生じる状態(Y BECOME WITH X)への到達と言
このパターンの持つ構造的意味は、<受領者・受領場所>
う点に焦点を当てた言い方になっており、GIVE が X(譲
が NP を受領し、
受領することでなんらかの意義ある状態に
渡の対象)の移動を踏まえての<所有権の変化>であると
なることを含意すると考えられる。池上(1988)が述べる
すれば、PROVIDE は Y(受領者)の<状態の変化>を踏ま
ように、単なる give のように移動・譲渡ではなく、受領者
2
飯田 : 動詞の意味とその動詞パターンの構造的意味の相関性
がなんらかの利益を得る状態へ変化したことを意味する。
渡対象物の二つが必要であり、基本的には give と同じ
V NP2 for NP1(動詞 + 目的語 + 前置詞句)
であると言える。
offer 文法要素 [受領者][ 譲渡の対象物 ]
表 1 の provide, supply, furnish にみられるパターンで
意味素性 [申し出][ 譲渡による所有権の変化]
あるが、目的語に前置詞句が付加されたものであり、構造
このことから、所有権の変化を申し出る offer には[V NP
的意味に前置詞の意味 for が大きく影響している。すなわ
NP]と譲渡の方向を表す[V NP to NP]が共存する。
ち[...の為に]の意味である。
動詞の意味面から考えると、give の[与える]という意
(iii) provide の意味素性と構造的意味の相関
味が無色であると考えると、これらの動詞は多かれ少なか
OALD は次のように定義する。
れこれに少し意味が加えられていることがわかる。
to give sth to sb or make it available for them to use
意味としては単なる give に加えて、
受領者が譲渡物を利
(2) 表 1 の動詞の持つ意味素性と構造的意味の相関
用・享受できる状態にあるという意味が加わる。
それぞれの動詞のもつ意味素性が、動詞パターンの持つ
provide 文法要素 [受領者] [譲与の対象物]
構造的意味と合致した場合に、その特定のパターンを動詞
意味素性 [譲渡による所有権の変化][受領者
が採用すると考える。以下この仮定がどの程度妥当なもの
の譲渡物利用・享受]
かを、動詞の意味素性を考察することで検討する。
provide は、このことから[V NP for NP]では[受領者
(i) give の意味素性と構造的意味の相関
のため] との構造的意味と[受領者の利用]という意味素
OALD は give の定義を次のように記す。
性が合致する。 [V NP with NP]も同様である。provide
hand sth to sb so that they can look at it, use it
には[V NP to NP](Longman), [V NP NP](SRD) が
or keep it for a time; to hand sth to sb as a present ;
見られるが、これは意味素性[譲渡による所有権の変化]
to allow sb to have sth as a present ; to provide sb
に重点を置いたパターンといえる。次の例文にその違いが
with sth
感じられる。
give は物を移動させる意味。その譲渡目的は特定されず、
(1) …it may poison fishing grounds and oyster beds,
種々の目的を包括していることが分かる。受領者は受領物
which provide Morocco with thousand of jobs and
を種々の使い方をすることになり、give 自体の意味はそれ
sizable export revenues.
(TIME)
(2) …that would provide the poor with “simple,
にまったく関知しない。池上(1988)の用語を借りれば、
decent, affordable housing.”
基本的には譲渡対象の場所の変化を表し、譲渡の対象の移
(TIME)
動による[所有権の変化]を表す一般的な広い意味を持っ
( 3 ) "If the National Security Adviser of the
た語であるといえる。give は、文法要素として[受領者]、
President of the U.S. and other high officials do
[譲渡の対象]の二つを必要とする。
not provide complete and accurate answers to the
give 文法要素 [ 受領者 ] [ 譲渡の対象物 ]
Congress, what can we do?"
(TIME)
(4)Thus Volcker has made it plain that he intends
意味素性 [ 所有権の変化 ]
to provide only a bit more money to the economy
このことから、
一般的な所有権の変化を表す give には
[V
this year than he did in 1981.
NP NP]と譲渡の方向を表す[V NP to NP]が共存する。
(TIME)
例文(1),(2)には[受領者の利用]という意味が強く
感じられる。(3)の場合は意味的には非常に(1),(2)
(ii) offer の意味素性と構造的意味の相関
OALD は次のように定義する。
に近似する。しかし answer が[譲与の対象物]ということ
to say that you are willing to do sth for sb or give
を考えると、[所有権の変化]に重点が置かれているとい
sth to sb
うニュアンスが読み取れる。
(4)では[受領者]が economy
となっていることに注意したい。
意味としては[give の申し出]である。受領者と譲
3
飯田 : 動詞の意味とその動詞パターンの構造的意味の相関性
[V NP with NP]が主要パターンであり、これに[V NP
(iv) supply の意味素性と構造的意味の相関
OALD は supply に次の定義を掲げる。
to NP],[V NP for NP]が見られる。SRDは[V NP for NP]
to provide sb/sth with sth that they need or want,
のパターンも挙げる。
especially in large quantities.
(vi) present の意味素性と構造的意味の相関
Longman の定義はすこし異なる。
provide people with something that they need or want,
OALD は present の定義として、
especially regularly over a long period of time
to give sth to sb, especially formally at a ceremony
いずれにしても、大量、期間的に大きい意味が感じられる
を掲げる。
以外は provide に近似する。
present 文法要素 [受領者][譲与の対象物]
supply 文法要素 [受領者][譲与の対象物]
意味素性 [譲与による所有の変化][受領者
の譲与物利用・享受][正式・儀礼]
意味素性 [譲渡による所有権の変化][受領者
各辞書は[V NP with NP], [V NP to NP]のパターン
の譲渡物利用・享受][量][長期]
動詞パターンも provide 同様、[V NP with NP], [V NP
を挙げる。[V NP for NP]が見られないのは、[贈り物]
to NP], [V NP for NP], [V NP NP](SRD)と一揃い
としての贈呈という行為を意味するため、
[譲渡物の享受]
が可能である。その理由は provide と同様と考えられる。
を強調する for とはうまく一致しないためと思われる。
ただし、[V NP for NP]は SRD のみの記載であり、[V NP
(3) 意味素性による段階性
to NP]が一般的となっているようである。この点では[譲
渡による所有権の変化]という意味合いが大きくなってい
意味素性の[単なる所有の変化]から[受領者の譲渡物
るのかもしれないが、この点は更に検討を要すると考えて
利用・享受]への意味の重点の変化と、[V NP NP], [V NP
いる。
to NP], [V NP with NP], [V NP for NP]の動詞パタ
ーンの変化が平行していると考えると、この授与を表す動
ちなみに、次の例は[受領者の譲渡物利用・享受(状態)]
詞群は次のように並べることが出来よう。
を表した例といえる。また provide と使い分けていること
にも注目する必要がある。
[所有の変化]
(5) Throughout the world the forests are chopped
[受領者の譲与物利用・享受]
give →offer →present →furnish →supply →provide
to clear land, provide firewood or supply the
timber market.
→
(TIME)
3. 「好き」の意味をもつ動詞
(v) furnish の意味素性と構造的意味の相関
OALD は furnish の定義として、
「好き」の意味を持つ動詞 want, like, love, prefer,
(fml) to supply or provide sb/sth with sth; to supply
enjoy について考察する。ここでは考察を「...するのが好
sth to sb
き」という不定詞、動名詞を従えるものに限る。
を記す。SRD の provide の<類語>欄で「特に居住に必要
これらの動詞パターンは次ページ表 2 に示されるように、ど
な便宜や設備を供給する」と記されているように、もと
の辞書の記述も一致する。
もとはこの意味から転義して「与える」という意味が生
まれたことを考えると、単に[譲渡物の移動]であるだ
(1) 表 2 の動詞パターン V to do と V doing の持つ構造的
けでなく、[受領者の譲渡物享受]の意味に重点がある
意味
ことを示唆する。
動詞が不定詞をとるか、動名詞をとるかについてはこれ
furnish 文法要素 [受領者][譲与の対象物]
までにも種々の文法書で議論されてきた。またこれが持つ
意味素性 [譲与による所有権の変化][受領
それぞれの意味についても、意味の差が現れるシチュエー
者の譲与物利用・享受][formal]
ションと、
そうでない場合があるとする説が大勢を占める。
4
飯田 : 動詞の意味とその動詞パターンの構造的意味の相関性
動名詞[ 名詞的 ] ; 不定詞[ 動詞的 ]
Want
V to do
Like
V to do
V doing
して機能する割合が大きいということであり、[動詞的]
Love
V to do
V doing
とは動詞の意味を持つことはもちろんであるが、動詞的な
prefer
V to do
V doing
機能が濃厚ということである。しかし名詞的、動詞的な要
V doing
素がどの程度表面に現れるかについてはかなり流動的であ
enjoy
ここで言う[名詞的]とは動詞の意味を持つが、名詞と
表2
ると考えられる。それぞれの動詞にもよるし、またその発
話全体の意味にもよる。
Zandvoort (1962 :28-29) は次のように述べる。
不定詞が動詞的であると言う典型的な例は、will, shall,
... it applies especially to to hate, to like, to
need などににつく不定詞(bare infinitive)であろう。
love, and to prefer.
このような例では助動詞、動詞と一体化して意味を形作っ
After these verbs the in-
ている。
finitive is mostly used with reference to a special
occasion, the gerund being more appropriate to a
(2) 表 2 の動詞の意味素性
general statement.
want の意味素性
OALD は want の定義を次のように記す。
また石橋(1978 : 757)は、
(1) I like playing baseball.
と(2) I like to play baseball.と I would like ∼ . の
to have a desire or a wish for sth
3 文について、
want は非常に強い願望を表す。ある動作に対する願望 =
「...したい」の意味となる。動作に対する客観的な好き嫌
いではない。
例文の(1)と(2)の 2 つの文は同じ意味です。 I would
like ∼ の文では to play は続きますが、playing は
want は、文法要素として次の要素を必要とする。物・事
続きません。… Hownby (Guide, p.49)は、「like の
を目的語とする場合を考慮外とすれば、[願望としての動
ように好き嫌いを示す動詞の後では、一般的なことを述
作]と述べることが出来る。
べるときは動名詞を用い、特殊な場合について述べると
want
文法要素 [ 動作的目的格 ]
き(とくに would や should とともにその動詞を用いる
意味素性 [ 動作に向かう強い願望 ]
時)には to-Infinitive が好まれる」と言っています。
want には[願望としての動作]を必要とするため、動詞
パターン V to do を要求する。
と述べる。
like の意味素性
不定詞・動名詞について、乾(1954 : 2)は次のように述
OALD は次のように定義する。
べる。
to find sb/sth pleasant, attractive or satisfactory;
準動詞のうち、不定詞(Infinitive)は現代英語では動
to enjoy sth
詞の基体(Base)と形を同じくしてしまっているが、本
to prefer to do sth; to prefer sth to be made or to
来は動詞的名詞であって、…。 動名詞(Gerund)は不
happen in a particular way
like の意味は、対象物・事を心地よく感じ、これに
定詞以上に強い名詞的性質を有していて、もとは動詞由
心が引かれること、動作に向かった気持ちである。
来の純然たる抽象名詞、即ち動作名詞(Noun of action or
like
Action-noun)であった...。
文法要素[動作的目的格、名詞的目的格 ]
意味素性[対象者・物に対する好きという気持]
この性質は現代英語でもかなり残っていると考えられる。
[動作に向かった願望 ]
この 2 つの異なる意味素性をlikeが含んでいることが文
ここから次のような構造的意味を得る。
5
飯田 : 動詞の意味とその動詞パターンの構造的意味の相関性
[対象物に対する好きと言う気持ち] + [選択] が
法要素の動作的目的格(不定詞)、名詞的目的格(動名詞)
prefer doing1 to doing2 というパターンを選択し、[動
をそれぞれ取る理由であると考えられる。
作に向かった好み] [選択] が prefer to do rather than
このlikeにはI would like to do, I'd like to doのパ
to do というパターンを選択する。
ターンが多く見られる。
このwouldの存在は動作に向かった
願望を意味する。したがって、*I'd like doingは見られな
選択するという行為は、普通は動作に向かったものであ
い。映画のクローズドキャプションによるダイアローグ資
る場合が普通である。 映画ダイアローグ資料*では prefer
料*による調査では、like to do が 21 例であったのに対し、
to do 4例、'd prefer to do 2 例であり、prefer doing
I'd /would like to do のパターンは 97 例に達し、like
の例は見られなかった。
が動作に向かった願望の意味が強いこと示唆する。ちなみ
enjoy の意味素性
にlike doingは 12 例である。
OALD は enjoy の定義として、
to get pleasure from sth
loveの意味素性
OALD は次のように定義する。
を挙げる。enjoy は対象となる動作から楽しみを得るとい
to have very strong feelings of affection for sb ;
うことから、動作をひとつのまとまった行為と考えている
to like or enjoy sth very much:
ことがわかる。これは[動作に向かった好み]ではなく、
like のように、なにかに引きつけられる以上に強い愛情
[行為から楽しみを引き出す]という意味だからである。
を持つことを意味する。対象物に対する愛情の気持ちが主
したがって文法要素は[名詞的]なものであり、意味素性
要意味で、動作に向かった願望は比較的少ないと考えられ
は[楽しみを得るもとのものとしての対象物]となる。
る。
enjoy
love
文法要素
[ 動作的目的格、名詞的目的格 ]
意味素性
[ 対象物に対する愛情][動作に向
文法要素 [ 名詞的目的格 ]
意味素性 [楽しみを得るものとしての対象物]
(3) 意味素性による段階性
かった愛着 ]
意味素性の対象物に対する愛情は、名詞的目的格を選択
意味素性を、[ 動作に向かった好み ] [ 対象物に対
し、動作に向かった愛着が動作的目的格を選択する。また
する好きという気持ち ] が不定詞と動名詞の選択と平行
love にも I'd love to do のパターンが見られる。この I
していると仮定すると、この[好く]という気持ちを表す
would, I'd は動作に向かった愛着をあらわす。したがっ
動詞群は次のように並べることが出来る。
て like の場合と同様、 I 'd love doing の形は見られな
い。同上の映画ダイアローグ資料*によれば、love to do が
[動作に向かった好み]→[対象物に対する好きという気持]
4例、'd love to do が4例、love doing が5例である。
V to do
→
want →
prefer 、 like
V doing
→
love
→
enjoy
prefer の意味素性
(4) 動作に向かった好み・気持と対象物に対する好きと
OALD は次の定義を掲げる。
いう気持
to choose one thing rather than sth else because you like
[好き]という気持ちの対象物は、名詞目的語にて表さ
it better
れる。動作を表す場合は動名詞となる。石橋(1978)に見
「好き」という意味が基本であるが、一方を他方よりもよ
り好きで、それを選択するという意味が加わる。
られる V doing が一般的な事を表し、特殊な場合は V to do
prefer
文法要素 [ 動作的目的格、名詞的目的格 ]
というのも、これが妥当する場合が多くなることから当然
意味素性 [ 対象物に対する好きという気持 ]
と言える。この区別は日本語において、動作に対する好み
と動作に対する願望とでは異なる構文をとることに注目す
[動作に向かった好み ][ 選択 ]
る必要がある。
6
飯田 : 動詞の意味とその動詞パターンの構造的意味の相関性
(8)a.
(6) a. 私は旅行をするのが好きです。
b. 私は旅行をすることを好みます。
c. 私は旅行したい。
b.
山に登りたいと思っています。
(9)a.
話が上手な人に会いたいです。
b.
(6c) は丁度 need do のように動詞と[たい]を直接
来月あの山に登りたいと思っています。
話が上手な人に会うのは好きです。
(8a)が特殊の意味を持つことは当然としても、(8b)
に結んで意味を表している。
もう一つ注意すべきことは、この意味素性の違いは、常
も特殊とも一般的とも取れる。 (9a) は特殊の意味を持
に動名詞が一般的なことを表し、不定詞が特殊な場合、す
つ、(9b)が一般の意味を持つように解釈されるのは当然
なわちこれから行う動作を表すとは限らないということで
としても、一般的な発言を装いながら特殊な意味(今会い
ある。但し、そのような可能性が大きいということは言え
たい)
を持つようにも解釈されないことはない。 ただし、
る。というのも、特殊な場合でも繰り返し行う事、長期間
この場合は(8 a,b)の場合と比較して、その程度はかなり
にわたることなどは、一般的と考えられなくもないからで
低いと言えよう。同様のことは動名詞パターンにも当ては
ある。
まりそうである。
(7)a. “Do come with me.”
“Me, go abroad?”
註
“You'll like it. You like to climb.”
(Goodbye, Mr.Chips)
*
b. “Come to the dance tonight. Bring your
* 映画クローズドキャプションダイアローグからなる収集
friend.”
資料で、次の映画からなる。
“Like to go to dance?”
c.
La Bamba;
Giant; The
(Karate Kid 2)
Graduate; Anne of Green Gables; Hustler; Karate Kid2;
I like meeting a high-class mama that can
Lawrence of Arabia; Mission; The Mosquito Coast; Ninja;
snap back at you.
Platoon; It Happened One Night; Princess Bride; Rocky;
(It Happened One Night)*
d.
ET; Goodbye, Mr. Chips;
*
Sleeping Beauty; Sound of Music; Roman Holidays; Stand
I like thinking he'll return before the
By Me; Star Trek; Wall Street; Waterloo Bridge; Wanted
leaves fall.
Dead or Alive; Dance with Wolves; Doctor Zhivago; Mulan;
(Goodbye, Mr.Chips)*
For Whom the Bell Tolls; The Last of the Mohicans; The
Grapes of Wrath; Apocalypse Now; The Lady Vanishes
(7a) は「山に登るのが好きだろう」の意味で一般的な
ことを言っているととれる。(7b) は特殊な「これからダ
参考辞書
ンスに行きたいかい」の意味。
(7c) は一般的な意味。
(7d)
は特殊の意味である。
Collins COBUILD English Language Dictionary. (CD ROM).
このように動名詞パターンが一般的、不定詞パターンが
特殊な場合を表すとは一概に言えない。しかし完全な規則
1994 HarperCollins Publishers
Longman Dictionary of Contemporary English, 3rd edition.
性が見られないのはそれなりに当然のことでもある。不定
詞は[動作に向かっての好きという気持ちを表す]もので
(CD ROM) 2000 Pearson Education
Macmillan English Dictionary. 2002 Macmillan Pub-
ある限り、これが一般的な意味合いを持っても何等不思議
ではない。また動名詞の場合はこれが特殊な意味合いをも
lishers
Hornby, A.S. et al., Oxford Advanced Learner's Dic-
つことも可能である。ただし、動名詞パターンが、一般的
なニュアンスをもちながら特殊な意味を表す、あるいは不
tionary of Current English, 6th edition.
定詞パターンが特殊なニュアンスもちながら一般的な意味
(CD ROM ). 2000
を表すことは可能である。
7
Oxford University Press
飯田 : 動詞の意味とその動詞パターンの構造的意味の相関性
『ランダムハウス英語辞典』. (CD-ROM) 1998-1999 小学
館
Reader's Digest Family Word Finder.
1978
The
Reader's Digest Association
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乾亮一 (1954)『分詞・動名詞』. (英文法シリーズ第 15
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中島邦夫 (1967)『英語学論究』. 南雲堂
小川三郎 (1954)『不定詞』. (英文法シリーズ第 16 巻)
研究社出版
空西哲郎 (1967)『動詞』. (英文法シリーズ第 10 巻)
研究社出版
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