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「カワサキグリーンガスエンジン」14基で構成する
最 線 カメラル ポ 新時代へ向かう電気 エネルギー 最前線カメラルポ 前 「カワサキグリーンガスエンジン」 の魅力 85 イラストぎじゅつ入門−⃝ クリーンな燃焼で環境にやさしい、 独自の構造のごみ焼却設備 「カワサキ・アドバンストストーカシステム」 のしくみ 現場を訪ねて 途中で分岐した大小2本のトンネル工事 世界初、 シールド掘進機が口径比の大きい大口径トンネルを 超近接で同時に掘り進み、途中で分岐に成功 (第二溜池幹線及び勝どき幹線工事) 産業活動や暮らしに欠かすことのできない エネルギー、電気。 東日本大震災による福島第一原発事故を機に、 わが国では電気の安定供給が危ぶまれる状況 になっている。そのため、工場などでは自家用 発電設備の導入が増え、また、新電力(特定規 模電気事業者: P. P. S. )の活動も活発化している。 こうした折り、高圧受変電設備の保安管理業 務や省エネコンサルティング業務などをベー スに、 新電力事業も展開している日本テクノ (株) の、 「日本テクノ袖ケ浦グリーンパワー」 (出力 11万kW)の建設が進んでいる。 川崎重工が自社開発し、世界最高の発電効 率49. 0%を実現した「カワサキグリーンガスエ ンジン」 14基で構成される発電所で、 ガスエン ジンを用いた発電所としては国内最大である。 そこで、建設中の「日本テクノ袖ケ浦グリー ンパワー」の話題と「カワサキグリーンガスエ ンジン」の魅力を探ってみた。 活況を呈する神戸工場の「カ ワサキグリーンガスエンジン」 組立工場。通路の右側で組 み立て、左側で完成品の試 運転を行なう。 間・大豊・安藤建設共同企業体(特) 9 川に見る・日本の四季⃝ 秋田の川の「春」を追う 春爛漫の川岸から、 遥かに望む白い鳥海山。 新製品・新技術 ■“薄膜太陽電池”の製造ライン向けに、世界最速の 加工能力を誇る「レーザパターニング装置」を開発 ■地球環境にやさしい“水”を冷媒にして小型化した 世界初の「水冷媒小型ターボ冷凍機」を開発 ●表紙説明● 整然と並んだ装置−写真からは、 写っていない左右 にも同じように並んでいることが想像できます。実はこれ、 「カ ワサキグリーンガスエンジン」の点火装置などにカメラをぐっ と近付けて撮った一枚です。 川崎重工が、 モーターサイクルエンジンなどの研究開発 で確立した独自の流体解析技術などを駆使して開発した 「グリーンガスエンジン」は、 世界最高の発電効率49. 0%と 世界最高水準の低NOx (窒素酸化物)排出量を実現し た最新鋭のエンジンです。今、 このガスエンジン14基で構 成される日本テクノ (株) の発電所「日本テクノ袖ケ浦グリー ンパワー」 (出力: 11万kW、 千葉県袖ケ浦市) の建設を川 崎重工が進めています。 川崎重工には国内外から「グリーンガスエンジン」に関 する問い合わせや引き合いが多数寄せられており、 2011 年には海外も含めて20基以上を受注しました。その生産 を担当している神戸工場(神戸市) は活況を呈しています。 (詳しくは「最前線カメラルポ」 をご覧ください) 発 行……2012年5月 編 集 ……川崎重工業株式会社 広報部 発行人 広報部長 西野 光生 東京都港区浜松町2ー4ー1 世界貿易センタービル TEL 03-3435-2133 http://www.khi.co.jp 1 「カワサキグリーンガスエンジン」 14基で構成する出力11万kWの発電所 「日本テクノ袖ケ浦グリーンパワー」 の建設進む 千葉県袖ケ浦市で今、 日本テクノ (株) の「日本テクノ袖ケ浦グリーンパワー」の 建設が進んでいる。 川崎重工が自社開発した、 世界最高 の発電効率49. 0%を誇る 「カワサキグリー ンガスエンジン」 (KG18V型、 発電出力: 7, 800kW) 14基で構成する発電所で ある。 この規模の発電所になると、 ガスター ビンが用いられるのが一般的だ。今回 のように、 ガスエンジンだけで10万kWを 超える発電所が構成されるのは国内初 である。 ちなみに川崎重工はこの発電所の設 計、 発電機器の供給および据え付け・土 日本テクノ (株) の 馬本英一代表取締役社長。 うま もと 木建築からなる建設工事一式をフルター ンキーで請け負っている。 「袖ケ浦グリーンパワー」に「グリーンガ スエンジン」 を選んだ理由を、 日本テクノの うまもと 馬本英一代表取締役社長はこう話す。 「発電効率の高さや環境にやさしい、 あるいは短納期による即応性といった 特長だけではありません。それは、私た ちが単なる新電力(特定規模電気事業 者:P. P. S. ) ではなく、 電気の安全・安心 を守ることを事業の根幹として、 すでに全 国の約3万9, 000事業所をお客さまとし て事業展開しているということ。そういう 私たちの視点からみて『カワサキグリー ンガスエンジン』が最適と考えたのです」 「基盤事業の付加サービスとしての 新電力です」 日本テクノ (本社:東京都新宿区) は、 提携技術者約750名を含む多数の電 気技術者を擁し、 高圧受変電設備の保 守管理や、省エネコンサルティングなど 幅広い業務を展開している。 「昨今、 電気の需要状況が双方向で 把握できるスマートメータが話題になっ ていますが、私どもでは創業間もない 1996年から、 いち早く電気の“見える化” わ か “理解る化” を推進し、 町工場や事業所、 小売店など各種事業所の省エネに貢 献してきました。こうして積み上げてきた 運用改善事業を基盤に、 需要に波があっ て電力単価が下がらず、省エネ効果の 出にくい事業所に対しては、弊社の安 価な電力による電力料金の負担軽減を 提案しています。つまり、電気に関して 保安、 省エネコンサルから電力供給まで すべてワンストップで解決できるというこ とであり、 単なる新電力ではないといった のはこういう意味です。 私たちは常にお客さまの電力最適化 を目指しています。新電力事業において も電力負荷率の低いお客さまに安価な 電力を提供するため、電力需要に柔軟 に対応できる発電設備を捜し求めてい ました。複数台設置により、 いかなる需 要状況でも高い発電効率を維持しつつ、 柔軟に出力を変えられる 『カワサキグリー ンガスエンジン』は、 まさにうってつけだっ たのです」 (馬本英一社長) 7月1日に7基、 8月中旬に全14基が運用開始予定 「袖ケ浦グリーンパワー」は、今年の 7月1日に「グリーンガスエンジン」 14基の うち、 7基(1∼7号機)が、同8月中旬に 7基(8∼14号機) が運用開始の予定に なっている。着工が2011年11月なので、 計画期間を含めてもわずか1年で発電 容量11万kWの発電所が運転開始と なる。短納期による即応性も 「グリーンガ スエンジン」の大きな魅力である。 建設現場では、 4月初旬からガスエン ジンや特別高圧設備などの搬入が始まり、 工事は急ピッチで進んでいる。 馬本英一社長にあえて「グリーンガス エンジン」への注文を聞くと、 「さらなる発電効率の向上を期待した いですね。 50%といわず51%、 あるいは それを超える数字を目指していただきたい」 と言い、 「私どもも省エネビジネスを一層 進め、 また、昨今の増加率でお客さまが 増えていけば、新電力として電力供給 100万kWも夢ではないと思います」 と結 んだ。 2011年には 海外も含めて20基以上を受注 「グリーンガスエンジン」は、 ここに紹 介した「袖ケ浦グリーンパワー」向け14 基を含め、 2011年に20基以上を受注し た。エンドユーザーは化学メーカや自動 車会社、 食品メーカーなどさまざまである。 このほか、 川崎重工・神戸工場(神戸 市) にも1基 (KG−12型、 出力: 5, 000kW) を設置している。稼働開始は2010年1月。 社内で運用することで、 より高い運用ノウ ハウを蓄積し、 設備導入からオペレーショ 東京 千葉 東京湾 袖ヶ浦 「日本テクノ袖ケ浦グリーンパワー」 (出力: 11万kW) の完成予想イラスト。 ン、 アフターサービスにわたる一層の提 案力強化を目指している。 受注済みの中には、海外向けが2基 含まれている。 シンガポール初のLNGター ミナル向けのもので、 2基ともKG−18− V型(出力:7, 800kW)。 東南アジアを中心に 海外での販売活動に注力 「グリーンガスエンジン」の販売実績は、 国内市場が先行しているが、 川崎重工 ガスタービン・機械カンパニー機械ビジネ スセンター発電プロジェクト部の杉本智彦 部長は、 「東日本大震災後は国内市場 を最優先していますが、 注力エリアは当 初から海外です」 と話す。 海外では新興国を中心に工業化・経 済発展により電力需要が旺盛であり、 自 家発電や小規模発電所といった分散 型電源へのニーズが高いためだ。 「東南アジア各国で販売活動を展開 しており、 また、 『カワサキグリーンガスター ビン』でも取り引きのある、 インドネシアの エンジニアリング会社との協業による販 売活動にも力を入れています。アジア以 外の各国でも同様に販売活動を推進し ています」 (杉本智彦部長) 「日本テクノ袖ケ浦グリーンパワー」の建設現場では発電所建屋の工事が進み ( ) 、 「カワサキグリーンガスエンジン」の搬入作業も進んでいる ( 、 )。この発 電所は14基のガスエンジンで構成されるが、 今年の8月中旬には14基すべてが運用開始の予定。計画期間を含めてもわずか1年ほどで発電容量11万kWの発電 所が運転開始になるわけで、 短納期による即応性も「グリーンガスエンジン」の魅力のひとつである。 2 Kawasaki News 166 2012/5 3 世界最高の「発電効率」と極めて 高い「環境性能」を実現 GREENは “環境にやさしいエンジン”を表現 1919年にディーゼルエンジンの製造 を開始して以来、 さまざまなエンジンの技 術開発・製造の歴史を積み上げてきた 川崎重工が、 「ガスタービン・機械カンパニーのガス エンジンプロジェクトと技術研究所がタッ グを組み、 モーターサイクル用エンジンな どの開発で確立した独自の流体解析技 術などを駆使し、 開発期間4年で完成さ せた」 (杉本智彦部長) のが「グリーンガ スエンジン」である。 「グリーンガスエンジン」のGREENは、 Ge t Re l i ab l e,Ec o−f r i end l y Ene r gy Nowの頭文字を並べたもの。グリーンと いう誰もが抱くさわやかなイメージの言 葉を冠につけ、 「環境にやさしいエンジン」 を表現している。 燃料にクリーン燃料の天然ガス・都市 ガスを使用し、発電効率や環境性能を 上げることで環境負荷を大幅に低減さ せたエンジンである。 ノッキング(異常燃焼)が少なく 完全燃焼するエンジン ところで、 エンジンは一般的にシリンダ (気 筒)内部で燃料を爆発(膨張) させる→ その圧力でピストンを往復運動させる→ 往復運動を回転エネルギーに変える、 と いう仕組みの内燃機関である。そして、 ディーゼルエンジンやガソリンエンジンが 液体燃料を用いるのに対して、 ガスエン ジンは、エンジンの仕組みに変わりはな いが、 燃料にガスを用いる点が異なって いる。 川崎重工が「グリーンガスエンジン」 の開発に取り組んだ頃、 既存のガスエン ジンの発電効率(使用するガスのエネル ギー量に対して、 得られる電力量から算 出)は46%程度だった。そこで川崎重 工では“世界最高性能”を目標に開発・ 研究に取り組んだ。ポイントになったのが、 「主室(シリンダ内部のことで、 燃焼室 ともいう) と副室(予燃焼室) の形状の最 適化と、 シリンダごとのガス・空気量の制 御です」 (杉本智彦部長) 主室および副室の形状は、 川崎重工 が各種エンジンの開発経験で培った独 自の流体解析技術などを活用して最適 化した。 主室および副室にはそれぞれ独立し た電磁弁で燃料ガスを供給しているため、 噴射タイミングや噴射量などが常に最適 化されている。 また、 すべてのシリンダ (型 式により12気筒と18気筒ある) のガス電 磁弁、点火タイミング、空燃比調整が主 制御装置でトータルに制御されている。 これらのことから、発電効率の向上を妨 げるノッキングが起こりにくくなり、 強く早く 完全燃焼するので燃焼効率がぐんと高 まった。 発電効率は48. 5%から 49. 0%へさらに向上 「グリーンガスエンジン」は、 世界最高 の48. 5%という発電効率を実現した。そ の後、 過給器(エンジンに圧縮した空気 を送り込む装置の総称) に可変ノズルを 採用したさらなる高効率タイプを開発し、 「カワサキグリーンガスエンジン」。世界最高の発電効率49. 0%を実現し、 さらに同50%という高い数字を目指して研究開発を続けている。 発電効率は49. 0%に達している。開発 開始当初の一般的なガスエンジンの 発電効率より約3ポイント (この分野では 極めて大きな数字) も向上させたのである。 「グリーンガスエンジン」は、 起動指令 から10分以内に定格負荷運転が可能で、 運転範囲は30∼100%と広く、部分負 荷においても高い発電効率を維持する という特長もある。 世界最高水準の 低NOx (窒素酸化物)排出量を実現 ガスエンジンは通常、燃料にクリーン な天然ガスを使用するため、 液体燃料を 使うディーゼルエンジンに比べてCO2 (二 酸化炭素) は約30%、 NOxは約90%低 減することになっている。 「グリーンガス エンジン」の環境性能はこれをさらに上 回り、 「CO2は従来のガスエンジンより5% 以上、 NOxは同じく約50%低減しました。 NOx排出値は200ppm (O2=0%換算) 以下と低く、 これは世界最高水準の環 境性能です。ローカル規制に対応する ため、仮に脱硝装置を付ける場合でも、 触媒のアンモニアや尿素の消費量が少 なくて済み、 そもそも規制値が200ppm の地域では、脱硝装置そのものが不要 というメリットがあります」 (杉本智彦部長) 加工場では最新の自 動加工機により、 高精 度の加工作業が効率 的に進められている。 国内外からの問い合わせなど多数、 工場も活況 「グリーンガスエンジン」のラインアップ は現在、 大別して発電効率48. 5%の「標 準型」 と同49. 0%の「高効率型」がある。 さらに、 それぞれシリンダ数12と18に分 けられるので全4機種。 「グリーンガスエ ンジン発電設備」 としては、 いうまでもなく 50サイクルと60サイクルの周波数に対 応しており、 さまざまなニーズに応えられ るラインアップになっている。 川崎重工では、 「50%というさらなる 発電効率アップを目指して鋭意開発中」 (杉本智彦部長) である。 「グリーンガスエンジン」には国内外か ら多数の問い合わせや引き合いが寄せ られており、川崎重工ではこれらのニー ズに応えるため生産能力を増強し、 月産 4基体制を構築した。 「グリーンガスエンジン」を生産してい る神戸工場(神戸市)は活況を呈して いる。 組立工場では組立作業が順調に進んでいる。川崎重工は「カワサキグリーンガスエンジン」 の内外のニーズ増大に対応し、 生産を担当する神戸工場の生産能力を月産4基に増強した。 写真右は 「グリーンガスエンジン発電設備」が運転中の川崎重工・神戸工場の神戸パワーセンター。 4 Kawasaki News 166 2012/5 5 イラストぎじゅつ入門― 85 ■「カワサキ・アドバンストストーカシステム」の納入例 グ ミ ●岸和田市貝塚市クリーンセンター ●韓国「亀尾」市MSWI P ●枚方市東部清掃工場 1日のごみ焼却能力:531 t (177 t×3炉) 発 電 能 力:1万2, 000kW 竣 工:2007年3月 1日のごみ焼却能力:200 t (100 t×2炉) 発 電 能 力:2, 940kW 竣 工:2010年12月 1日のごみ焼却能力:240 t (120 t×2炉) 発 電 能 力:4, 500kW 竣 工:2008年12月 ※MSWI P:Mun i c i pa lSo l i d Wa s t eI nc i ne r a t i onP l an t 高温高圧蒸気 高温の燃焼ガスとごみが並行に流れて 完全燃焼する ごみの焼却設備には近年、環境への影響を より少なくすることや燃焼エネルギーの高効 率利用などが一層強く求められている。 こうした“時代の要請”に応えたのが「カワ サキ・アドバンストストーカシステム」である。 ごみが高温で完全燃焼するのでCO (一酸化炭 素)やダイオキシンなど有害物質の排出量が 極めて少ない。また、少ない空気量で完全燃焼 するので、環境へ放出するガス量も減らすこと ができる。さらに、 ごみが燃え切り、未燃物を含 まないクリーンな灰になるので、セメント原料 などとして有効利用できる。 カワサキ独自の「並行流焼却炉」は、従来型 の中間流焼却炉と異なり、高温の燃焼ガスがご みと並行に流れる構造にしたことで、 ごみを完 全燃焼できる。 ●ろ過式集じん器 少ない空気量で完全燃焼できるので 排ガス量が減り、 排ガス処理設備は小型・ 単純化できる。 ●排ガス ●蒸気タービン発電機 ●ごみクレーン ●煙突 ごみ ●ごみ計量機 へい こう りゅう 燃焼エネルギーで高効率発電しながら、 維持管理が容易な設備 ごみが燃えて発生する熱エネルギーは、高 性能ボイラで効率よく高温高圧の蒸気をつくり、 蒸気タービンを回して高効率で発電できる。 ごみを上流から下流に移動させながら燃や すストーカは、一般家庭ごみを連続的に焼却す るのに適している。また、間接水冷構造で長持 ちするので、維持管理が容易な設備となって いる。 この「カワサキ・アドバンストストーカシステ ム」はすでに国内4件、海外3件の納入実績が あり、国内で3件が建設中である。 ●飛灰 ●ごみピット ●排ガス誘引ファン ●ごみ投入ホッパ ●二次空気 ●排ガス再循環 ●ボイラ ごみを上流から下流へ移動させながら燃焼さ せる装置がストーカである。少ない空気量で 燃焼させると冷却性能が不足するため、間接 水冷構造にして寿命を延ばすとともに信頼性 がより向上した。 固定 可動(後退時) 固定 ●従来型焼却炉の構造と並行流との比較 再燃焼域 未燃ガス ごみ 乾燥段 燃焼段 二次空気 高温ガス ごみ 乾燥ゾーン 後燃焼段 燃焼ゾーン 固定 可動(前進時) 固定 ●可動ストーカの動き 強制撹拌混合 一次空気 ●主灰 冷却水 166 2012/5 再燃焼域 二次空気 ちゅうかんりゅう Kawasaki News ボイラ 撹拌ゾーン(ノーズ) 二次空気 冷却水 後燃焼ゾーン ●一次 空気 完全燃焼するので灰の発生 量が少なく、 しかも未燃物を含 まないクリーンな灰で、 セメント 原料などとして再利用できる。 一次空気 灰 ※従来型(中間流焼却炉) 6 ろ過式集じん器で浄化された排ガスの一部を 炉内に吹き込むことで、燃焼に必要な空気量が さらに少なくて済む。また、空気より酸素濃度が 低いので炉内の局部的な過高温を抑え、 NOx (窒 素酸化物) を減らすことができる。 ごみが燃えて発生する熱エネルギーを効率的に高 温高圧の蒸気に変える。つくられる蒸気は約400℃・ 約40気圧(4MPaG) で、 この蒸気で蒸気タービンを 回して発電する。従来型が発生する熱エネルギー の10∼13%を電気に変えられるのに対し、 このシス テムは20%以上という高効率発電も可能である。 ●水冷階段ストーカ 高温の燃焼ガスは、焼却炉のほぼ 中央から撹拌ゾーン(ノーズ) を経 て再燃焼域に導かれる。ノーズ部 で二次空気が供給され、 その酸素 供給と混合撹拌効果で未燃ガス が再燃焼する。そのため、多量の二 次空気が必要となる。 ※並行流焼却炉 灰 高温の燃焼ガスが、後燃焼ゾーンで燃え残りの灰と並行して流れる構造なので、 灰に含まれる未燃分が高温で燃え切る。また、燃焼ガスの流れが反転する所で、 二次空気を噴射して強制的にガスを混ぜ合わせて高温を維持する。そのため、 再燃焼ゾーンで排ガス中の未燃物も完全燃焼し、 ダイオキシンの発生量を抑 えることができ、 COやダストなども少ない。例えば、 COは従来の10∼20ppmから 0∼10ppmへ、 NOxは120∼150ppmから70∼90ppmに減らすことができる。 炉内で空気(酸素) を有効利用できるので、従来型のごみ燃焼の必要空気量を 2とすると、 この炉は1. 3∼1. 4で済む。それだけ環境への排出ガス量を少なくできる。 7 現 場 を 訪 ね て SNo.3特殊人孔 西新橋ー交差点 虎ノ門交差点 JR新橋駅 TNo.2立坑(到達立坑) 勝どき幹線 勝鬨橋 深さ約5 0mの立坑下部のトンネル発進口。 ここから約280m先の分岐点まで、 ふたつ のトンネルは間隔がわずか約30cmの超 近接で並走している。 8 Kawasaki News 166 2012/5 築地市場 第二溜池幹線 分岐点 隅田川 TNo.1立坑(発進立坑) 勝どきポンプ所予定地 9 現 場 を 訪 ね て 大きなトンネル(左:第二溜池幹線、仕上がり内径8m) と小さなト ンネル (右:勝どき幹線、 同3.5m) の分岐点。分岐点のセグメントは、 直線部では鉄筋コンクリート製を使用し、 分岐後のカーブ掘進(施 工)部には鋼製を使用しているため色が変わっている。 トンネル内 右下の2本のパイプは泥水を送るためのものである。 中央制御室。マシンからの位 置情報を把握し、 微調整しな がら口径比が約2. 5倍もある 大口径横2連のシールド掘 進機を真っ直ぐに推進させた。 川崎重工が製作した「横2連 分岐型泥水式シールド掘進 機」。新開発の接合機構が 両者間の偏った荷重の影響 をなくし、接合部材には分離 の際に水の侵入を防げる特 殊なボルトとナッ トを採用した。 世界初、シールド掘進機が口径比の大きい大口径トンネルを 超近接で同時に掘り進み、途中で分岐に成功 掘削直径が9mと約4mの ゲリラ豪雨などの 大口径トンネル 排水用トンネル整備の一環 今、東京の都心、 それも地下約40m という大深度で、大きさの異なる2本のト ンネル工事が行なわれている。工事名を 「第二溜池幹線及び勝どき幹線工事」 (発注者:東京都下水道局、 施工者:間・ 大豊・安藤建設共同企業体 (特) ) という。 川崎重工・播磨工場(兵庫県加古郡 播磨町) で製作したシールド掘進機によ るシールド工法で、大きいトンネル(第二 溜池幹線) はシールド掘進機の掘削直 径が9m (仕上がり内径8m)、 小さいトン ネル (勝どき幹線) は同4. 15m (同3. 5m) 。 長さは大きいトンネルが約2, 323m、 小さ いトンネルが約1, 016mである。 シールド工法というのは、 シールド掘進 機(鋼製のトンネル掘削機) の装置前面 のカッター (カッターヘッド) を回転させな がら地盤を掘り進む工法だ。シールド掘 進機は装置全体を頑丈な外枠(シール ド=盾) で覆っているのでこう呼ばれる。 一定距離を掘るごとに、 セグメント (鉄筋 コンクリート製あるいは鋼製の分割ブロッ ク) を設置してトンネルを保護していく。 10 Kawasaki News 166 2012/5 東京都では大雨の浸水被害を防ぐ ため、各地で排水管(管渠)やポンプ所 の整備を進めているが、 この大小2本の トンネルもゲリラ豪雨などの排水用である。 このトンネルが掘られる赤坂、 溜池、 銀座、 築地地区などは既設の管渠の排水能 力が不足し、豪雨時にはたびたび浸水 被害が発生している。 また、 一定量以上 の雨が降ると、下水道汚水が混じった 雨水の一部を河川などに流出させる仕 組みが、 皇居内堀や築地川など閉鎖的 な水域の水質悪化の一因となっている。 そこで、排水能力の向上と閉鎖的水域 の水質改善を目的として計画されたの がこのトンネルである (第二溜池幹線は 計画全体延長約4. 5kmのうち、 上流側 約2kmは整備済み)。 2本のトンネルを同時に掘る例は皆無 ではなく、川崎重工も2連型シールド掘 かん きょ 進機の製作実績があるが、今回はさら に条件の厳しいケースだ。 というのも、 と もに大口径ながら口径比が約2. 5倍とな るトンネルを同時に掘削し、 しかも途中で 分岐するというのは世界でも例がない。 現地に行ってみた。 新開発のスライダー方式接合機構で とだ。掘削に用いられているのが、川崎 重工製の「横2連分岐型泥水式シール ド掘進機」である。 「シールド掘進機を横に並べて連結 しているので、 2本のトンネルを超近接で 掘れるだけではなく、 2本を同時施工で きるので工期を短縮できます。 また、 用地 幅や発進立坑のサイズを最小限にでき ます」 (間・大豊・安藤建設共同企業体 (特)第二溜池幹線及び勝どき幹線工 事 副所長・監理技術者の滝沢究さん) 課題は、 口径比がこれだけ大きいシー ルド掘進機を左右につないで運転すると、 大径機と小径機の連結部に偏った荷 重が働き、 小径機が大径機の大きなパワー の影響を受けやすいことだ。そこで、川 崎重工は研究を重ね、 連結部をしっかり きわむ 2台を連結 東京都中央区勝どき。 隅田川のすぐそば、 勝どきポンプ所予 定地に立坑(発進立坑:深さ約50m。 地上は防音ハウスで覆われている)が 設けられている。 JRや地下鉄、首都高 速道路、 電力・通信洞道など多くの構造 物と近接して施工するため、 大深度のト ンネル工事となった。 工事用エレベータで立坑下に降りて いく。 2本のトンネルは、立坑から隅田川 に向かって同時に発進した。驚くのは、 その間隔がたったの約30cmしかないこ かちどき 立坑の地上部に設けられた防音ハウスの壁面には、 勝鬨橋の中央から見た隅田川 (前ページ「略図」参照) 。 掘進方向にふたつのトンネルが実寸大で描かれ、 ふたつのトンネルは左岸の防音ハウスから隅田川の地 名称やサイズが明記されている。 下を右方向に掘削された。 深さ約5 0mの立坑下部に鉄筋コンクリー ト製セグメントが降ろされてきた。 分岐点におけるシールド掘進機の分離 作業のひとコマ。 さまざまに考案した接 合部材を採用した効果で、分離作業は 1週間ほどで問題なく完了した。 トンネル掘削の最前線。大きなトンネル は1日 (24時間運転) に約12m、小さな トンネルは同約14mと順調に掘り進め られている。 固定せず、上下・左右の2方向に移動 可能な (力を逃がせる) スライダー方式 接合機構を開発した。 「実は分岐点まで、 2台のシールド掘 進機を真っ直ぐに推進させることが最 大の課題でした。この点は、新開発の 接合機構に加え、連通管を通して大径 機から小径機のレーザ距離計に向けて レーザを発信し、 お互いのマシンの位置 をリアルタイムで把握。中央制御室で演 算しながらマシンの位置を微調整するこ とでクリアできました」 (滝沢究さん) 分岐点での2台の分離作業は スムーズに完了 掘削工事は2011年9月に本格化し、 同12月半ばに発進位置から約280m、 つまり分岐点に達し2台のシールド掘進 機は分離された。 2台のシールド掘進機の接合部材には、 川崎重工が考案した両者を結び付ける 機能と、 上下・左右に力を逃がすための レールのボルトを外しても外部からの水 の侵入を阻止できる機能を有した特殊 なボルトとナットが採用されている。その ため、 「接合部の分離作業は非常にスムー ズに進み、 1週間ほどで問題なく分離で きました」 (滝沢究さん) 掘削作業は順調、 工期は今年の7月初旬 取材時点(2012年2月半ば) では、 第 二溜池幹線が約540m、勝どき幹線が 約500mまで掘り進んでいた。それぞれ のトンネルの先端部まで滝沢さんにご案 内いただいた。 トンネル内では、資材運搬車がレール 上を行き来し、 また、 太いパイプが2本設 置されている。泥水式シールド掘進機な ので、掘削した土砂を泥水中にとりこん でパイプ輸送しているのだ。地上で土砂 と泥水に分離し、 泥水は再利用する。泥 水式は軟弱地盤や河底など水圧の高 い所での工事に適している。 「掘削地 点の水圧が高いこと、 それに地層が砂 層なので泥水式が最適です」 (滝沢究 さん) 立坑の発進口からトンネルに入り、 し ばらく歩くと滝沢さんが立ち止まり、 「ここ が分岐点です」 と話された。分岐後はセ グメントが鉄筋コンクリート製ではなく、 鋼 製が用いられていて色変わりしている。 分岐後でトンネルは右にカーブを切り、 し ばらくすると左に曲がって直進する。取 材時点では、直線部を並行して掘り進 んでいた。 「シールド掘進機は24時間運転をし ており、工事は順調に進んでいます」 (滝沢究さん) 工期は今年の7月初旬までの予定となっ ている。 (左)県北東部の大館市から米代川を下流に向 かい、 途中から支流の岩瀬川に入る。白神 山地東端の田代岳が源流だ。 上流に向かうに従い川幅が狭まっていき、 岩瀬川渓流と呼ばれている。両岸は若葉 に萌え、清流が春の陽に輝きながら飛沫を 上げて下っていた。 JR花輪線(愛称:十和田 (右)米代川の上流。 はち まん たい 八幡平四季彩線) が川と並行して走る花 輪盆地。 堤に桜並木を見つけた。満開を少し過ぎた か、 そよ風に乗って花吹雪が舞う。米代の 川面が白く光る。北国の春を満喫しながら シャッターを切った。 12 Kawasaki News 166 2012/5 13 新製品・新技術 “薄膜太陽電池”の製造ライン向け「レーザパターニング装置」を開発 太陽電池の生産性向上で コスト削減に寄与 昨年8月、 「再生可能エネルギー特別 措置法」が成立し、 再生可能エネルギー によって発電した電力を、 国が定める価 格で電力会社が全量買い取る制度が 今年の7月にスタートする。この法律が 定める対象は太陽光、 風力、 中小水力、 地熱、 バイオマスで、 中でも太陽光発電 は導入しやすいシステムとして企業や戸 建て住宅などで普及が進んでいる。 太陽光発電の基本は光を電力に換 える太陽電池だ。太陽光発電のより一 層の普及には、光を電力に換える変換 効率の向上と生産性の向上によるコスト 削減が課題といわれている。 川崎重工が開発した新しい「レーザ パターニング装置」は、 太陽電池の生産 性を向上させてコスト削減に大きく寄与 するものである。 特殊な固定型レーザ照射装置が 超高速で溝加工 太陽電池には多くの方式があるが、 一般的に普及しているのがシリコン系 の半導体を用いるシリコン系太陽電池だ。 シリコン系太陽電池も種類があり、 その ひとつが今後の大きな伸びが期待され る薄膜シリコン型太陽電池(以下、 薄膜 太陽電池) である。 その構造はイラストのように、 ガラス板 の表面に透明の電極膜→シリコンの膜 →金属の膜を積み重ねたもので、 この構 造により光を直接電気に換えて取り出 せる。 3層の膜といっても、 それぞれ数百 ナノ (1ミクロンは1000000分の1ミリ) と いう薄さで、 超のつく薄膜である。 その製造工程では膜を張り付けるご とに、 ミクロン単位の幅の溝を切り、電気 を取り出すための回路を形成しなけれ ばならない。この溝を切る作業をパター ニングと呼び、 レーザを用いるレーザパター ニング装置が使われている。太陽電池 の製造では、 パターニングの高速化が製 造コスト削減の大きな要素となっている。 14 Kawasaki News 166 2012/5 ●薄膜太陽電池の構造 太 陽 光 ピッチ10mm程度 50ミクロン程度 ガラス:厚み3∼5mm程度 透明電極膜 各数百ナノ シリコン 膜 金 属 膜 電気の流れ 加工溝(スクライブ部) レーザによるパターニング 従来型は、間欠的に横送りするレー ザ照射装置に対し、 ガラスを往復運動さ せながら溝を切る方式だ。 これに対して川崎重工が開発した新 装置は、 ガラス基板が固定型の特殊なレー ザ照射装置の上を通過すると同時に、 超高速でレーザによる溝切りが行なわれ る。 レーザの走査速度は1秒間に10∼ 20mで、 これは世界最速だ。そのため、 従来方式に比べて10∼20倍という加 工速度が実現した。製造ラインに組み 込みやすい設計の装置であり、 また、幅 が均一で凹凸やバリの少ない溝を加工 できるため、 溝の幅を従来より小さくする ことも可能だ。溝の幅が小さくなれば太 陽電池の発電面積が増え、発電効率 の向上にもつながって一石二鳥である。 なお、 この装置は、薄膜シリコン型太 陽電池と同じく今後の伸びが期待され ている、 CIGS (化合物系) と呼ばれる 薄膜太陽電池の製造ラインにも適用で きる。 川崎重工ではこの装置と、 すでに発 売している高圧ウォータジェット洗浄機な どを組み合わせた、 より効率的なシステ ムの販売活動を国内外で展開していく としている。 世界で初めて、小型の「水冷媒ターボ冷凍機」を開発 水は“究極の冷媒”といわれる 無害な冷媒 ビルや工場などの空調に用いられるター ボ冷凍機は、 装置の中で冷水をつくるた めに“冷媒”が必要である。その冷媒に、 かつては特定フロンが使われていたが、 オゾン層を破壊する原因となり、 また、 地 球温暖化の一因になることから国際的 に使用が禁じられた。現在は特定フロン に代わり代替フロンが主流となっている。 代替フロンは、 オゾン層を破壊するこ とはないが、地球温暖化への影響は依 然大きいままである。そこで、 地球環境に やさしい冷媒として“自然冷媒”が冷凍 機の次世代冷媒として注目されている。 自然冷媒にはアンモニアや炭化水素、 二酸化炭素、 水などがあげられるが、 前 3者は毒性や可燃性、 地球温暖化への 影響などそれぞれ問題がある。これに 対して水は、 オゾン層を破壊しない、地 球温暖化に影響しない、 毒性がない、 燃 えないなどの特性があり、 冷凍機用の冷 媒としては“究極の冷媒” といわれて研究・ 開発が進められている。 こうした中、 川崎重工が世界で初めて、 代替フロンを使わず水を冷媒とした、 し かも小型のターボ冷凍機を独自の技術 で開発したのである。 圧縮機など構成機器を 高度な総合技術で小型化 冷凍機は、 冷媒を低温で蒸発(沸騰) させ、 蒸発する気化熱を利用してパイプ の中を通る水を冷やすという仕組みだ。 “低温で蒸発”には違和感があるかもし れないが、 水は圧力を下げると低温でも 蒸発する。 「気圧が低い富士山頂では 100℃以下で蒸発する」 とはよく聞くこと である。 川崎重工が開発した「水冷媒小型ター ボ冷凍機」は、蒸発器の圧力を約100 分の1気圧に下げて冷媒の水を6℃で 蒸発させ、 パイプの中の水を7℃まで冷 やす。この冷水によって冷風をつくり冷 房する、 というものだ。 (イラスト参照) ところで、今まで水冷媒ターボ冷凍機 がなかったわけではない。 しかし、蒸発 器内の圧力を大幅に下げるため圧縮 機が極めて大型になり、 設置スペースや 使い勝手の面で課題があった。 そこで、川崎重工では、 これまで培っ てきた回転機械技術などを駆使し、専 用の小型・高性能の新型圧縮機を開発 した。一般に、 冷凍機のエネルギー消費 効率性能はCOPという指標が使われる。 川崎重工が開発した水冷媒ターボ冷 凍機はCOP5. 1であり、代替フロンを使 用した冷凍機と同等の性能を実現した のである。 しかも、新型圧縮機の開発と並行し て高速モータなど主要機器も、 幅広い総 合技術を結集して自社開発で小型化し た。そして、 圧縮機や熱交換器などを高 度なエンジニアリング技術で最適にレイ アウトすることにより、 「既存の冷凍機との 置き換えが可能なサイズ」にまでコンパ クト化することに成功したのである。 この「水冷媒小型ターボ冷凍機」は、 一 般 的な事 務 所ビルの場 合 、 1台で 3, 000m2程度の冷房が可能だ。 ●水冷媒ターボ冷凍機の原理 廃熱 凝縮器 冷却塔 高温、高圧 圧縮機 M 12℃ この冷水で 冷風をつくる 100分の1気圧 低温、低圧 7℃ 6℃で沸騰し蒸発する 冷媒の水 蒸発器 冷凍機 レーザ走査速度が世界最速で、 薄膜シリコン型太陽電池の製造コスト削減に大きく寄与できる新開 発の「レーザパターニング装置」。 地球環境にやさしい安全な水を冷媒に用い、 川崎重工の総合技術を 駆使して小型化した世界初の「水冷媒小型ターボ冷凍機」。 冷媒の流れ 15 ボーイング社向け「777型機」 1, 000号機用の胴体パネルを出荷 潜水艦「けんりゅう」を引き渡し 川崎重工は神戸工場(神戸市)西浜岸壁 において、 防衛省向け潜水艦「けんりゅう」 を引 き渡した。引渡式には防衛省の杉本海上幕僚 長、細谷海上幕僚監部装備部長、佐藤装備 施設本部副本部長など多くの関係者が出席 した。 本艦は、潜水艦「そうりゅう」型の4番艦で、 優れた水中運動性能を持ち、 船体には高張力 鋼が使用されている。 また、 スターリング機関採 用による潜航性能の向上、各種システムの自 動化、高性能ソーナー装備による捜索能力の 向上、 ステルス性能の向上などが図られている とともに、 諸安全対策も十分に施されている。 川崎重工は、 米国ボーイング社向けに「777 型」シリーズ機の1, 000号機用胴体パネルを出 荷した。 1995年に就航したボーイング「777」は、 現在、 世界各国の64のエアラインで運航されている。 川崎重工は、 1991年から「777」の開発に参 画し、民間旅客型機および貨物型機を含む 「777型」シリーズの前胴・中胴パネル、 中胴下 部構造、 貨物扉、 圧力隔壁の分担製造を担当 しており、 このたび累計1, 000機相当のコンポー ネントを出荷した。今回出荷した製品は、 「777 −300ER (Ex t ended Range)型」機用前部 胴体パネルの一部で、 川崎重工が担当する他 の部位についても出荷が完了し、 3月初旬に米 国シアトルのボーイング社工場にて1, 000号機 完成式典が開催されている。 マレーシアにガスタービンのオーバーホール工場を新設 川崎重工は、 1999年にガスタービン発電設 備のアジア地域の販売・サービス拠点として、 カ ワサキ・ガスタービン・アジア社 (KGA、 マレーシア・ クアラルンプール) を設置し、 アフターサービスま で含めた顧客対応を展開してきたが、 このほど、 オーバーホール工場を新設することになった。 今回の工場新設は、 近年、 経済発展によりガス タービン・コージェネレーション設備に対する需 要が増大しているアジア地域において、 アフター サービス体制を一層強化するためである。 クアラルンプール近郊に建設する新工場は 敷地面積約5, 200m2、 建屋面積約1, 300m2で、 アジア地域における主力機種となっている6, 000 ∼8, 000kWクラスのガスタービンの分解・点検・ 3万kW級の純国産高効率ガスタービン「L30A」の販売を開始 川崎重工は、 カワサキガスタービンの最大出 力機種である3万kW級の純国産高効率ガス タービン「L30A」の開発を完了し、 販売を開始 した。 「L30A」は、 川崎重工が長年培ってきた 産業用中小型ガスタービンの開発技術と、航 空用ジェットエンジンの高度な要素技術を結集 して開発したものである。 圧縮機の高圧力比化や先進の耐熱材料の 適用、 タービン冷却技術の改良などにより、 同出 力クラスでは世界最高の発電効率40%以上 を達成し、 同機を用いたコージェネレーション (熱 電併給) システムの総合効率は83%以上、蒸 気タービンとの組み合わせによるコンバインドサ イクル発電プラントは50%を超える発電効率を 実現できる。環境性能も高く、 独自開発のドライ 低エミッション (DLE)燃焼器により、 NOx (窒素 酸化物) の排出量を世界最少レベルの15ppm (O2=15%)以下に抑えている。 また、最新の 高度技術と従来機種で培った経験をベースに、 メンテナンス性に優れた構造を採用するとともに、 最適なメンテナンス周期の提案でライフサイク ルコストの大幅な削減を可能にした。 部品修理および交換・組立・運転試験の一貫 作業を行なう。 このオーバーホール工場の新設 により、 すべてのアフターサービス業務をKGA が現地で実施できるようになり、ユーザーに密 着したきめ細かいサービスが実現する。 運用開始は2012年11月からの予定。 インドに建設機械用油圧ポンプの製造・販売・サービスの合弁会社を設立 川崎重工は、 インド・バンガロール市のウィプ ロ社と、 インドに建設機械用油圧ポンプの製造・ 販売・サービス会社(代表者:嶋村英彦) を設 立することに合意した。 インドでは、 急速な経済発展を背景に、 油圧ショ ベル市場が活況を呈しており、 2010年の総需 要(約1万2, 000台) は2005年の約3倍という 大幅な成長を遂げている。今後の経済発展と インフラ投資の拡大に伴い、 2017年には年間 約3万台規模の市場となり、世界最大の中国 市場に次ぐ規模に成長するものと期待されて いる。 今回の合弁会社設立は、 このような旺盛な 油圧ショベル需要を背景にした顧客からの現 地生産要請に応えるものだ。川崎重工の油圧 機器に関する高い技術力と、 ウィプロ社の油圧 シリンダ分野における豊富な納入実績や強力 な販売力を結合することで、 インド市場における 建設機械用油圧ポンプの拡販を図る。 新会社では、 カルナタカ州バンガロール市に 建設機械用油圧ポンプの製造工場を設け、 2012年7月からの稼働を計画している。操業 当初は年産能力4, 000台で製造を開始し、 2015年には年産能力1万5, 000台の供給体 制を整える計画になっている。 都城市からごみ焼却施設の建設・維持管理事業を受注 川崎重工は、 宮崎県都城市から 「都城市クリー ンセンター」の建設・維持管理事業を受注した。 本事業は、 同市がDBM方式(Des i gn:設計、 Bu i l d :建設、 Ma i nt enance :維持管理) により 発注する事業で、川崎重工はごみ焼却処理 施設の建設工事と20年間の維持管理業務を 一括して行なう。 受注したごみ焼却処理施設は、 1日の処理 能力が230 t (115t×2炉)。低空気比高温燃 焼が可能なストーカ式並行流焼却炉(本誌「イ ラストぎじゅつ入門(85)」参照)の採用や、焼 却炉で発生する排ガスに対して、 ろ過式集塵 器(バグフィルタ) や触媒脱硝装置などの設置、 排ガス再循環システムの導入という万全の大 気汚染防止対策により環境負荷の低減を実 現する。 本施設は、焼却炉に高温高圧ボイラと抽気 復水タービンを組み合わせることで、最大発電 量4, 990kW、 基準ごみ時の発電効率約20% という優れた環境・省エネルギー性能も実現。 発電した電力で施設の電力需要を賄い、 余剰 電力を売電することで温室効果ガス (CO2) の 排出量低減に貢献する。 維持管理事業(受託期間: 2015年3月1日 ∼2035年3月31日) は、特別目的会社「グリー ンパーク都城(株)」 を設立し、 確かな運営と地 域とのつながりを大切にしながら、 都城市の廃 棄物処理に貢献する。 「川崎MAGターボ」の最大機種「MAG−M35型」を連続受注 川崎重工は、 磁気浮上式高速電動機直結 単段ターボブロワ「川崎MAGターボ」シリーズ の最大機種である「MAG−M35型」を、 大阪 市中浜下水処理場向けに水処理プラントエン ジニアリング最大手のメタウォーター (株) から2基、 荒川左岸南部流域処理場向けに埼玉県から 3基受注した。 「川崎MAGターボ」は下水処理場において、 微生物の働きで汚水を再生させる生物反応 槽へ空気を供給する送風機として用いられる 装置である。川崎重工が新たに自社開発した 「MAG−M35型」は、 主要機器をすべて自社 16 Kawasaki News 166 2012/5 開発し、 最適化することで総合効率の向上を図っ た。 また、 インバータ制御式高速電動機のロー タに羽根車を直接取り付けた構造と、 磁力によ りロータを浮上させる磁気軸受の採用により、 ロー タが軸受と機械的に接触せずに高速回転す るので、 高効率・省エネルギーが実現し電力消 費量を低減できる。さらに、機械的に非接触な ので潤滑油・冷却水の供給が不要でメンテナ ンス性が向上するとともに、従来型ブロワに必 要な潤滑油系統・冷却水系統の補機更新が 不要など多くの特長がある。 “日本発のスマートシティ”を目指す「スマートシティプロジェクト」に参加 川崎重工は先ごろ、 一般社団法人フューチャー デザインセンターの第一弾プロジェクトとして、 2009年9月に世界のリーディング企業8社で始 動した「スマートシティプロジェクト」に、 新しく他 の5社とともに参加した。 スマートシティは、 太陽光発電など再生可能 エネルギーを最大限活用するとともに大型蓄 電池を設置し、 IT (情報技術) を通じて地域や 家庭の効率的な電力利用を図る“次世代環 境都市”のことである。近年、 世界的にエネルギー 利用のあり方を見直す気運が高まり、国内外 で開発研究や計画が進んでいる。 このプロジェクトに参加した川崎重工は、小 水力発電、 バイオマス発電などの再生可能エ ネルギー機器や高速充放電が可能な大型ニッ ケル水素電池「ギガセル」、世界最高の発電 効率を誇る 「カワサキグリーンガスエンジン発電 設備」 (本誌「最前線カメラルポ」参照) などを 活用したシステムで、低炭素型環境都市や防 災拠点の構築に貢献したいとしている。 川崎重工の最新情報はホームページでもご覧いただけます。 http://www.khi.co.jp 17 金山平三の世界 《雨のプラス・ピガール》 1915(大正4)年 60.1×72.1cm 油彩・布 兵庫県立美術館蔵 相 良 周 作 ︶ ︵ 兵 庫 県 立 美 術 館 学 芸 員 叙 情 的 な 画 面 の 中 で 構 築 性 を 際 立 た せ て い る 。 形 の 植 栽 は 、 い く ぶ ん 幾 何 学 的 な 要 素 と し て 、 一 方 で 、 鮮 や か な 緑 で 表 現 さ れ た 噴 水 周 り の 円 通 り を 行 き 交 う 車 や 人 が 的 確 に と ら え ら れ る 描 に よ っ て 、 雨 に 濡 れ る 路 面 や 建 物 、 ク リ シ ー 大 組 ん だ 金 山 な ら で は と い え る 。 印 象 派 風 の 点 き 分 け る の は 、 湿 度 や 水 面 の 表 現 に 終 生 取 り さ せ る 姿 勢 だ が 、 気 候 の 違 い を 主 眼 に お い て 描 さ ま ざ ま に 表 現 し た ク ロ ー ド ・ モ ネ を ほ う ふ つ と 作 品 も 存 在 す る 。 同 じ 場 所 の 異 な る 時 間 帯 を 情 景 を と ら え た ︽ 昼 の プ ラ ス ・ ピ ガ ー ル ︾ と い う の で あ ろ う 。 ほ ぼ 同 じ 構 図 の 習 作 と 、 好 天 時 の 泊 し て い た と さ れ 、 本 作 は そ の 頃 に 描 か れ た も 五 年 に 、 こ の 広 場 に 面 し た マ ー キ ス ・ オ テ ル に 宿 近 い こ と も あ っ て か 、 金 山 は 留 学 最 終 年 の 一 九 一 広 場 ︵ プ ラ ス ・ ピ ガ ー ル ︶ だ が 、 モ ン マ ル ト ル に ほ ど な 今 い で の こ は そ 、 こ パ の リ 頃 の の 歓 経 楽 験 街 に と よ し る て 。 有 名 な ピ ガ ー ル 念 が な か っ た 。 金 山 の 作 品 が 年 を 経 て も 色 あ せ が け る と と も に 本 場 の 油 彩 絵 具 の 研 究 に も 余 ヨ ー ロ ッ パ 中 を く ま な く 巡 り 、 多 く の 作 品 を 手 間 、 ヨ ー ロ ッ パ に 私 費 留 学 し た 。 フ ラ ン ス を 中 心 に 金 山 は 一 九 一 二 ︵ 明 治 四 十 五 ︶ 年 か ら 約 四 年 雨ヨ にー 濡ロ ッ れパ る留 パ学 リ中 のに 広描 場い た 金山平三と川崎重工 金山平三画伯は、1883年(明治16年)神戸に生まれ、1964年(昭和39年)80歳で生涯を終えました。 1909年(明治42年)東京美術学校(現在の東京芸術大学) を首席で卒業した後、 欧州各地で制作を重ね、 1916年(大正5年) には、 第10回文展に出品した作品が特選第二席になりました。生涯にわたって旺盛な創 作活動を続け、 自然風土を相手に多くの名画を残し、 その業績は近代洋画史上に燦然と輝いています。 川崎重工は第11回文展に出品された「造船所」が縁となり、 その後、 交流を深めました。画伯の晩年には、 自選作品138点の永久保管の依頼を受け、 その作品を預かるほどでした。後になり川崎重工は、 一部の作 品を残して、 兵庫県立近代美術館(現・兵庫県立美術館) にすべて寄贈しました。 ご案内/「日本の印象派・金山平三」展が、 2012年4月7日 (土) から5月20日 (日) まで兵庫県立美術館、 2012年9月15日 (土) から11月4日 (日) まで ひろしま美術館で開催されます。