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「カワサキグリーンガスタービン」と コー

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「カワサキグリーンガスタービン」と コー
最
線 カメラル
ポ
新時代へ向かう電気 エネルギー 前
最前線カメラルポ
「カワサキグリーンガスタービン」と
コージェネレーションシステム
86
イラストぎじゅつ入門−⃝
夢の最新鋭中型旅客機
「ボーイング787ドリームライナー」が
“空の旅の革命”といわれる理由
現場を訪ねて
風速計の精度・構造を検定
気象庁気象測器検定試験センター
(茨城県つくば市)
ウラジオストク
ウラジオストク
札幌
21の国と地域の首脳が集う今年のAPEC
(ア
ジア太平洋経済協力)サミットが、
9月にロシア
のウラジオストク市で開催される。
現地では今、会場整備が進んでいるが、関連
するエネルギー施設に「カワサキグリーンガス
タービン」
(合計7基)
を中核とするコージェネレー
ション(熱電併給)システムが導入された。
コージェネレーションシステムは、ガスター
ビン発電設備の排熱を、
ボイラで回収して蒸気
や温水をつくる仕組みだ。電力だけではなく、
生産や暖房に必要な熱を同時に得られ、シス
テムの総合的な効率が約80%と高く、省エネ
ルギー効果が大きいことから国の内外で導入
が進んでいる。
今回は、ロシア・ウラジオストク市を訪れ、
APECサミット関連のエネルギー施設の整備
状況を取材した。また、世界最高の発電効率
40%超を実現した「L30A」
(3万kW級)が仲
間入りした「カワサキグリーンガスタービン」と、
コージェネレーションシステムの魅力を探った。
金角湾横断橋
ルースキー島橋
ルースキー島
APECサミット
主会場(中央)サイト
ウラジオストク市は札幌からおよそ750
km。成田からでも約850
kmで、
わずか
2時間のフライ
トである
(ちなみに、
モスク
ワからウラジオストク市までは9,
288
km
もある)。
海洋センターサイト
10
川に見る・日本の四季⃝
秋田の川の「夏」を追う
青空の峰雲を映し、
悠然と流れる雄物川。
ロシア・ウラジオストク市のルースキー島で建設が
進む熱併給火力発電所
(上の地図の「AP
ECサミッ
ト主会場
(中央)
サイ
ト」)
の全景。
「カワサキグリー
ンガスタービン発電設備」が5基設置されている。
●表紙説明●
ゆるやかな円周の上に規則正し
く立ち並ぶ無
ばち
数の撥のようなもの−実はこれ、
「カワサキグリー
ンガスタービン」の最新機種、
「L30A」の圧縮翼
を接写したものです。撥のように見えるのは、
ロー
タに取り付けられた大小の翼(ブレード)
で、
ロータ
の回転により、
吸い込んだ空気を圧縮するのです。
カワサキガスタービンの最大出力機種である
「L30A」
(3万kW級)
は、
川崎重工が長年培っ
てきた産業用中小型ガスタービンの開発技術と、
航空用ジェットエンジンの高度な要素技術を結
集して開発したものです。発電効率は同出力ク
ラスでは世界最高の40%超を達成し、
本機を用
いて構築するコージェネレーション
(熱電併給)
シ
ステムの総合効率は83%を超えます。
また、
独自
の燃焼技術によりNOx
(窒素酸化物)
の排出量
は世界最少レベルに抑えています。
(詳しくは「最
前線カメラルポ」
をご覧ください)
発 行……2012年7月
編 集
……川崎重工業株式会社
広報部
発行人
広報部長 西野 光生
東京都港区浜松町2ー4ー1 世界貿易センタービル
TEL 03-3435-2133
http://www.khi.co.jp
1
■ロシアでのAPECサミット関連の エネルギー施設に合計7基を納入■
ウラジオストク市街遠望
今年のAPECサミットの舞台は
ルースキー島
ロシア・ウラジオストク市の6月は雨が
多いという。
しかし、
この日は薄日が差し、
街路樹の緑が一層鮮やかに映った。
APEC開催を控えて、
インフラ整備が進
む街は活況を呈しており、
いたる所で道
路や建物の改修工事が行なわれている。
ウラジオストク市の街並み
市場には新鮮な野菜や海産物が山の
ように積まれ、
ヨーロッパ風の街並みを散
策する多くの観光客の姿を目にすること
ができる。
ウラジオストク市は、
ロシア連邦沿海
地方の南部、
日本海に突き出たムラヴィ
ヨフ・アムールスキー半島の南端に展開
している。その半島と東ボスポラス海峡
の先に浮かぶのが、
今年のAPECサミッ
トの舞台となるルースキー島だ。ウラジオ
ストク港からフェリーで20分余りである。
島では、壮大な開発事業が進められ
ている。
というのも、
APECサミット会場
施設はサミット開催後、
沿海地方の大学
3校を合併した極東連邦大学の新キャ
ンパスとなる計画で、
キャンパス関連施
設の建設が同時に進んでいるからだ。
極東電力からガスタービン発電設備を
合計7基受注
川崎重工はロシアの極東電力から、
双日
(株)
(以下、双日)
を主契約会社と
して、
「GPB70D」型ガスタービン発電
設備をルースキー島の「APEC主会場
(中央)サイト」熱併給火力発電所向け
に5基、
「海洋センターサイト」熱併給火力
発電所向けに2基の合計7基受注した。
これら7基は、
7,
000kWクラスの「カワサ
キグリーンガスタービンM7A−02D」を
搭載している。
(上)
APECサミッ
トで首脳会議
が行なわれる主会場の建
設風景。
(右)
その内部。首脳会議場と
なる大ホール。
「APECサミット主会場(中央)サイト」の
5基はすべて据え付けが完了
まず、
「APECサミット主会場(中央)
サイト」に向かう。
発電所の建屋には紅白に塗り分けた
煙突が立ち並び、完成した発電所のよ
うに見える。ここには5基納入され、
すべ
て据え付けが完了している。
5基のガスター
ビン発電設備が整然と並んだ様子は壮
観である。
なお、
ガスタービン発電設備は川崎重
工が納入し、温水ボイラなどの付帯設
備は双日が別途、
調達・納入している。
据え付けられた5基のうち、
2、
3号機
は試運転が完了している。これらの発
電設備は、通常時は天然ガスを燃料と
して運転するが、天然ガスの供給が不
安定になるなど万一の際には軽油を使
えるよう、
デュアル燃料型ガスタービンが
採用されている。
ロシア・ウラジオストク市ルースキー島で
のAPECサミットの主会場に電力と温水
を供給する熱併給火力発電所(「APEC
サミット主会場(中央)
サイト」)の内部。
カワサキグリーンガスタービン発電設備」
が5基並んで壮観である。
5基の発電設備には「カワサキグリーン
ガスタービン M7A−02D」が搭載されて
いる。
5基の発電設備をコントロールする制御盤。
ガスタービン発電設備の排熱を回収し温
水を供給する排熱ボイラの調整が行な
われている。
2
■このプロジェクトに寄せられた各界の声①
サミットを支える
川崎重工のエネルギー技術に期待
在ウラジオストク日本国総領事館 総領事
伊藤伸彰氏
1860年に海軍基地としてスタートし
たウラジオストク市は、一時期閉鎖都市
となりましたが、
1989年にソ連市民に、
1992年には外国人にも開放されました。
坂が多く、非常にきれいな街並みで、季
節的には夏の8、
9月が快適です。日本
語を習っている人も多く、着物やお茶な
ど日本文化への関心は非常に高いです。
家電や車は日本製が圧倒的な評価を
得ています。
この地域ではAPECサミットに向けて、
3年ほど前から巨額の資金が投じられ
て港湾や橋梁、
その他のインフラ整備が
進められており、地域の発展に大きく寄
与しています。
このほど、
「APECサミッ
ト主会場
(中央)
サイト」の内部を見学させていただき、
そ
の整然とした仕事の進め方を見て、
やは
り日本のきちんとしたやり方は良いなと思
いました。川崎重工が手がけているエ
ネルギー・プラントが計画通りに運転され、
サミット運営の基盤を川崎重工の技術
が支えた、
ということになれば現地公館
としても、
こんなにうれしいことはありません。
本件は日本の技術力の高さをロシア
の人々に直接見ていただける素晴らし
い機会となっていますので、
これにより日
露間の経済連携がより強化されることを
期待しています。 ロシアでは天然ガス関連のさまざまな
プロジェクトが計画されており、
日本の高
い技術力による協力ができれば、
日本の
エネルギー源供給先の多角化につなが
るとも考えています。
9月のウラジオストク市の素晴らしい環
境の中、
日本の技術力による電気が首
脳たちの顔を照らし、
APECサミットが成
功裡に終ることを心から祈っています。
(談)
Kawasaki News
167 2012/7
3
木製人形マトリョーシカ
「信頼性と経済性で
カワサキを選びました」
極東電力
のパラモニク
副社長による
と、
「 工 事は
順 調に 進 ん
でいる」との
こと。同副社
長に、
「グリー
ンガスタービ 極東電力のパラモニク副社長
ン」を選んだ
理由を聞いてみた。
「何よりも高い信頼性と経済性、
それに、
高効率でCO2の排出量も少ない、環境
にやさしい設備だからです。加えてコン
パクトで、
騒音が非常に低く、
振動も少な
い。非常用発電設備ならビルの屋上に
設置できるほどですからね。定期点検の
オーバーホールまでの期間が約4年と長
いのも運転効率を高めます」
同副社長は2、
3号機の試運転に立
ち会った。
「試運転は2基とも全負荷で8時間運
転しました。
カワサキの技術者の現場対
応には大変満足しています。APECに
向けて、現在は次の1台の試運転を開
始しています。
本件はAPECに向けた準備という大
変注目度の高いプロジェクトですが、
カワ
サキは、分散型発電プロジェクトに確立
されたソリューションを提供できることを
示しました。これは、
カワサキがロシアに
おいて橋頭堡を築くためのよい機会に
なったのではないかと思っています」
“東洋最大級”の水族館に
電力と温水を供給
「海洋センターサイト」は、
同副社長が
「東洋最大級」
と胸を張る水族館に電
力と温水を供給する。同水族館の水槽
の水の総量は約2万5,
000トンに上ると
いう。これだけの規模の施設を維持す
るためには、信頼性の高い電力と温水
の供給が求められる。
「海洋センターサイ
ト」
には2基のガスター
ビン発電設備が納入された。
2基とも据
4
Kawasaki News
167 2012/7
市場に並ぶ新鮮な野菜と海産物
え付けが完了しており、試運転開始に
備えて準備中である。
最後に、
同副社長はこう結んだ。
「ウラジオストク市でAPECサミットが
開かれることは大変名誉なことで、誇り
に思います。サミットを機に、
エネルギー
関連をはじめ種々の施設や新しい道路
が建設され、
島と本土を結ぶ橋も架けら
れました。これらのインフラ整備により当
地域の大きな発展が期待され、
喜ばしく
思っています」
※ロシアでの現地取材は6月上旬に行ないました。
「極東地域のコージェネレーション化
プロジェクト」に参画
ところで、
在日ロシア連邦通商代表部、
エゴロフ主席代表の談話にある「ハバ
ロフスク州や沿海州で燃料のガス転換
が始まる」
というのはどういうことだろうか。
「地域によりますが、
寒いロシアでは自
治体が年間8か月程度、住民に暖房の
ための温水を提供する義務があります。
そのための設備は、極東ロシアでは石
炭焚きボイラが多く、
しかも老朽化してい
るのでエネルギー効率は40%を下回っ
ています。
ところが、
このクラスのガスター
ビンコージェネでは投入燃料を100とす
ると、
およそ30は電力、
50は熱として回
収できるので、
エネルギー効率は約80%
になります。需要先のすぐそばで、
ニーズ
に合った小型ガスタービンコージェネを
設置すれば、
送電・送熱ロスも非常に小
さくなり、
エネルギーを大幅に節約できる
のです」
(川崎重工 ガスタービン・機械
カンパニーガスタービンビジネスセンター
産業ガスタービン海外営業部の三浦
良三理事)
ロシアの極東地域では、
サハリンで産
出した天然ガスを、
ハバロフスク経由で
ウラジオストクまで輸送するパイプライン
が建設され、極東地域のガス化が可能
になった。そこで、
既存の石炭焚きボイラ
を、
ガスタービンコージェネレーションに換
えていこうというのが「極東地域のコージェ
ネレーション化プロジェクト」だ。
2011年9月に開催された日露経済諮
問会議で本件が取り上げられ、
ロシア側
のパートナーとして、
プロジェクト実現力の
6月6日、
ロシア・カザンで開かれた「第5
回日露投資フォーラム」での調印風景。
枝野経済産業大臣らが見守るなか、川
崎重工の衣斐正宏執行役員が覚書に
調印。
極東電力のパラモニク副社長が「東洋最大級」
と胸を張る、
APECサミッ
ト周辺施設の水族館の完成予想イラスト。
高いRAO Ene
r
gy Sy
s
t
em Vo
s
t
ok社
(東部電力)が選定された。川崎重工
は同社および双日と協議を重ね、
この
6月6日、
ロシア・カザンで開催された「第
5回日露投資フォーラム」において、
「ロシ
ア極東におけるコージェネ・プロジェクト
の実現に向け協力する」などのメモラン
ダムに調印しており、将来の大きな発展
に期待がかかっている。
左:熱併給火力発電所(「海洋センターサイ
ト」)
の外観。右:その内部。
「カワサキグリーンガスタービン発電設備」
(GPB70D)
が2基設置され、
試運転開始を待っ
ている。
■このプロジェクトに寄せられた各界の声②
ロシア極東のエネルギー改革 に必要な
“カワサキの技術”
在日ロシア連邦通商代表部 主席
ウラジオストクで開かれるAPECサミッ
ト本会場および周辺施設向けに、
カワサ
キがガスタービン発電設備を受注、
納入
されたことは、露日間の貿易拡大を目指
す我々としても非常にうれしく、
また、感
慨深いものがあります。ロシアは、
資源国
であるが故に「省エネルギー」はその緒
についたばかりで、
経済近代化の5つの
柱のひとつにあげられているのが現状
です。
両国間の経済交流に関わる大型事
業として、
サハリン−ハバロフスク−ウラ
ジオストクを結ぶガスパイプラインの敷設
があげられますが、
これによりハバロフス
ク州や沿海州で燃料のガス転換が始ま
ります。そして、
これらの地域でカワサキ
の高効率ガスタービン発電設備によるコー
代表
セルゲイ
・
エゴロフ氏
ジェネレーションの採用が進めば、同地
域のエネルギー効率が大きく改善されま
す。また、
ヤクーツク−ハバロフスク間の
ガスパイプライン敷設などを考え合わせ
ると、
ロシア極東の多くの地域がその恩
恵を受けることになります。
本年6月、
カザンで開かれた「第5回
露日投資フォーラム」でも、
カワサキのガ
スタービン発電設備によるコージェネレー
ション・システムは積極的に取り上げられ、
わが国の関係各機関がこぞってカワサ
キを高く評価しており、今後のロシアの
省エネに大きく貢献願えるのではと考え
ています。我々も、
カワサキのロシアでの
事業発展はイコール露日共通利益の拡
大であると確信し、
その成功・成長に大
いに期待しています。
(談)
省エネルギー技術を核に、
日露間の一層の経済交流を
経済産業省
通商政策局 ロシア・中央アジア・コーカサス室 室長
本年のAPECサミット会場向けガスター
ビン・コージェネ設備の納入、
おめでとう
ございます。
ロシアのエネルギー効率は日本の10分
の1以下であり、
ロシア政府の成長戦略
には「エネルギーの効率的利用の促進」
があげられています。一方、
わが国政府
の新成長戦略では、
高度成長期の負の
側面である公害問題や二度にわたる石
油危機を技術革新の契機として獲得す
るに至った「省エネ分野の世界最高技
術」を活かすことがうたわれており、
この
点で日露両政府の戦略がみごとに一致
しています。
本年6月のカザンでの「第5回日露投
資フォーラム」でもこれが主要議題のひ
とつとして取り上げられ、川崎重工にも
津田隆好氏
ご参加いただけましたことをうれしく思い
ます。
川崎重工のような、
エネルギー効率の
高い最先端技術を持つ日本企業のロシ
アへの進出は、
ロシア側も大きな期待を
寄せています。このたび、川崎重工が、
各国首脳が集うAPECサミット関連施
設向けにコージェネ設備を納入されたこ
とは、
日本の先端技術の有用性が実証
されたことでもあり、
非常に意義深いこと
と思います。
今後、
ロシア極東地域などにおいてエ
ネルギー効率改善を目指す大規模なコー
ジェネレーション・プロジェクトが顕在化す
ると予想されています。本件を契機に、
日露間の経済交流がさらに拡大するこ
とを期待しています。
(談)
5
■世界最高の発電効率40%超を達成し た「L30A」を市場投入■
シベリア鉄道の起点、
ウラジオストク駅
モスクワから9,
288kmを表す
「石造りのキロポスト」
(ウラジオストク駅)
200kW級から
3万kW級までシリーズ化
川崎重工が、
大型旅客機用エンジン
の国際共同開発・分担製造などで培っ
た高い技術力を、
発電機や機械の駆動
源として活かそうと自社技術で開発した
のが、
純国産の産業用ガスタービン
「グリー
ンガスタービン」である。
現在、
200kW級から3万kW級まで
のシリーズ化を図り、
これを駆動源とした
非常用発電設備、
およびガスタービン発
電設備を中核として構築するコージェネ
レーションシステムが、国の内外で極め
て高い評価を得ている。
“高温・高圧のガス”で
タービンを高速回転させる
ガスタービンエンジンは、
ディーゼルエ
ンジンやガソリンエンジンと同じ内燃機
関の一種だ。その作動原理は、空気を
吸い込む→圧縮する→燃料を燃焼させ
る→排気する、
というサイクルで作動さ
せる。
しかし、
その基本的な運動が、
ディー
ゼルエンジンやガソリンエンジンがピスト
ンを往復させるのに対して、
ガスタービン
は回転運動である点が大きな相違点だ。
つまり、
圧縮した空気を燃焼器に導い
て燃料を混入させ、
これを燃焼させてで
きる「高温・高圧のガス」を、
タービン
(円
板に多数の翼を付けた翼車)
に当てて
高速回転させるのである。このタービン
に直結した発電機で発電するのがガス
タービン発電設備で、
燃料は天然ガスと
灯油・軽油などの液体燃料である。
小型・軽量で大出力が可能、
冷却水が不要
ガスタービンの大きな特長は、
まず、
自
己冷却式のため冷却水を必要としない
システムが作れることだ。そのため、
冷却
水設備や配管などの工事が不要なの
で工事費が安く、
メンテナンスも容易で
ある。設置場所も自由に選べる。
毎分3,
000∼10万回転という高速回
転なので、本質的に小型・軽量で大出
力が可能だ。
ピストンエンジンの往復運動と異なっ
て回転運動なので、
振動がほとんどない。
そのため、
設置場所や基礎構造に制約
を受けない。
耐震性能にも優れている。
というのも、
ディーゼルエンジンのように振動対策とし
ての防振ゴムやスプリングなどの弾性支
持がほぼ不要なので、
地震波のような低
周波の振動と共振現象を起こさないか
らである。
コージェネレーションシステムで
総合熱効率がぐんと向上
「グリーンガスタービン」単体の熱効
率は、例えば、
カワサキ「M7A−03」の
場合、
このクラス最高水準の約34%だが、
コージェネレーションシステムを構築する
と80%超に向上する。
「製紙工場や繊維工場、
化学工場な
どでは生産工程で電気と熱を同時に必
要としますので、
コージェネレーションシス
テムは一石二鳥のシステムといえます。
燃料に天然ガスを使用すればNOx
(窒
素酸化物)
などの排出量が非常に少な
いので地球環境にやさしく、
また、
エネル
ギー有効利用という観点からも効果の
高いシステムです」
(川崎重工 ガスター
ビン・機械カンパニーガスタービンビジネ
スセンターの能美伸一郎理事)
“世界のリーダー”になるのが
目標です。
常務取締役
ガスタービン・機械カンパニー プレジデント
これまで日本では、
電力が安定供給さ
れていたので、
分散型発電といっても限
られたものでした。
ところが昨年の大震
災以降、電力をめぐる諸情勢が様変わ
りし、分散型発電が見直されています。
つまり、
カワサキの「グリーンガスタービン」
や「グリーンガスエンジン」の機能をより
一層活かせる状況になったわけで、市
場がさらに大きくなるものと期待しています。
ガスといえば、
米国などでシェールガス
が採掘され、天然ガスが世界的に注目
されています。クリーンな燃料なので環
境負荷を低減でき、経済的側面でも石
油とのコスト差は縮まりつつあります。こ
うしたことからも、
基本的に天然ガスを燃
料とする
「グリーンガスタービン」
と
「グリー
ンガスエンジン」は、
まさに時代に適合し
たエンジンと言えます。
コージェネレーションシステムを構築すると、
総合熱効率が83%を超える「L30A」
川崎重工・明石工場で試運
転中の「カワサキグリーンガ
スタービン L30A」
(出力3万
kW級)。
「L30A」を中核に
コージェネレーションシステム
を構築すると、
総合熱効率は
83%超となり省エネルギー効
果が非常に高い。また、
NOx
の排出量は世界最少レベル
に抑えている。
6
川崎重工がこのほど販売を開始した
グリーンガスタービン「L30A」は、
出力が
3万kW級でグリーンガスタービンの最大
出力機種だ。
国内外で100台以上の実績を有す
る
「M7A」の基本構造を踏襲し、
「L20A」
の技術も活かしながら圧縮機の高圧力
比化や先進の耐熱材料の適用、
タービ
ン冷却技術の改良など多くの斬新な技
術、
アイデアが盛り込まれた。
その結果、
「L30A」は世界最高の発
電効率40%超を達成。
コージェネレーショ
ンシステムでの総合熱効率は83%を超
える。
また、
蒸気タービンとの組み合わせ
によるコンバインドサイクル発電プラントで
は50%を超える発電効率が実現する。
環境性能も極めて高く、
独自開発のド
い き
井城譲治
両者のうち、燃焼器の中で燃料を連
続燃焼させる回転機械である「グリーン
ガスタービン」は、長時間の連続運転に
適しており、
一方、
ピストンの往復運動を
回転エネルギーに換える「グリーンガス
エンジン」は、部分負荷においても高い
発電効率を維持できます。つまり、部分
負荷性能が高いので、
日毎や繁閑期、
季節ごとなどの負荷変動に的確に対応
できます。事実、両者はそのメリットを活
かして使い分けられていますが、
私はガ
スタービンとガスエンジンを組み合わせた
使い方もあると思っています。ガスタービ
ンがベースロードを担い、
ガスエンジンが
変動部分を担うというものです。
「グリーンガスエンジン」はさらに性能・
品質をアップ(発電効率50%超)
し、
コ
ストや納期などもより良いものにします。
また、
舶用ガスエンジンの開発に着手し、
2013年度中にも市場投入する計画です。
「グリーンガスタービン」は、
「L30A」の
開発でさらに幅広いニーズに対応できる
ようになりました。今後、
米国、
欧州、
東南
アジア、中東、
日本を含むアジア極東の
5極体制を強化します。また、
ガスタービ
ンのネットワークを活用してガスエンジン
の拡販を図り、当カンパニーの2020年
ビジョンである事業規模2倍超を目指し
ます。
さらに、
ガスタービンを発電だけではな
く機械駆動源に用いるなど利用法を広げ、
また、幅広い製品を世界のユーザーに
アピールし、
ガスタービン・ガスエンジンの
分野で“世界のリーダーシップ”が取れ
るようになりたいと考えています。
(談)
ライ低エミッション
(DLE:水や蒸気などを
使わずにNOxの排出を低減させる燃焼
システム)燃焼器により、
NOxの排出量は
世界最少レベルの15ppm
(O2=15%)
以下に抑えている。
3大案件といえるでしょう」
(能美伸一郎
理事)
1号機が化学会社で実証試験、
市場は世界に広がる
この「L30A」の1号機が
(株)
ダイセル・
姫路製造所網干工場に設置され、
実証
試験が10月から始まる予定である。
こうした動きとともに、
「L30A」には問
い合わせや引き合いが多数寄せられて
いる。
「国内はもとより、海外にも大きく伸ば
したいですね。寒冷地で熱需要が見込
まれるロシア向け、特にドイツで実績が
伸びている欧州の工場や暖房需要向け、
東南アジアの工場向けが可能性の高い
(株)
ダイセル・姫路製造所網干工場に「L
3
0A」
が搬入された。
Kawasaki News
167 2012/7
7
イラストぎじゅつ入門― 86
川崎重工はボーイング社のパートナー企業です。
●共同開発・製造パートナーとして当初から参画した「777」。
「いつまでも乗っていたい」
快適な乗り心地
米国ボーイング社が、国際共同開発で実現
させた革新的な中型旅客機「ボーイング787
ドリームライナー」
(座席数210∼250、以下、
「787」)が世界中で話題を呼んでいる。
「787」の革新性は数多くあげられるが、乗
客にとって何よりもうれしいのは環境性能が
ぐんとよくなったことだ。機内はLED(発光ダ
イオード)照明で明るく、天井が高いため非常
に開放的。窓は大きく、視野が広い。機体に、強
度が高く防腐性に優れた炭素繊維複合材を多
用しているため、肌荒れを起こさない快適な
湿度に保てる。また、飛行高度に関わらず地上
に近い状態の気圧が保たれるので、不快な耳
鳴りが減少する。
●機体デザイン
スーパーコンピュータによる計算流体学に基づ
くしなやかな流線型で、全体にやわらかな印象
の機体。
軽くて強い炭素繊維複合材の多用などで、
従来の同型機に比べて燃費が約20%、運航コ
ストが約30%向上した。そのため、従来は大型
機でなければ飛べなかった長い距離の飛行が
可能になった。中型機でありながら、日本から
米国東海岸や欧州にノンストップで飛べるの
である。
川崎重工は「787」の国際共同開発に参画し、
主要部位の前部胴体、主脚格納部および主翼
固定後縁の開発・製造を担当。また、搭載され
る2社のエンジンのうち、英国ロールス・ロイス
社のエンジンの開発にも参画し、エンジンの中
枢部である中圧圧縮機(IPC)モジュールの設
計・製造を担当している。
は川崎重工の担当部位です。
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Kawasaki News
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機体構造の約50%(重量比)に軽くて強い炭
素繊維複合材を使用し、
また、機内構造物など
も軽量化が図られている。機体構造にこれほど
多くの複合材を使用した飛行機は、世界で初め
てである。
●パートナー企業として担当部位を製造した「767」。
●主翼の形状
独特の形状が空気抵抗を最小化し、燃費効率
を向上させた。
●大きな窓
●主翼固定後縁
複合材の多用で機体の強度が増したため
窓を大きくでき、視野が広がった。また、遮
光調節はシャッターではなく、ボタン操作
による電子制御でできる。
●肌荒れを起こさない快適湿度
腐食に強い複合材の多用で加湿器の導入が
可能になり、
“乾燥した機内”から開放された。
快適な湿度で、
肌荒れ知らずの空の旅を楽しめる。
●不快な耳鳴りが減少
燃費向上などで中型機でありながら
長距離飛行が可能
●機体を軽量化
強度に優れた複合材の多用で、飛行高度に関
わらず地上に近い状態の気圧に保たれるので、
気圧差による不快な耳鳴りに悩まされることが
少なくなる。
●やわらかな機内照明
照明はLED
(発光ダイオード)
で、今まで以上に
リラックスして過ごせる機内空間となった。
●高い天井、広い機内
天井が高いため、機内は広々として開放的。
座席も通路も広い。
●主脚格納部
「T
r
en
t1000」
エンジン
●前部胴体
従来法では、何枚かのアルミのパネルを組み
合わせて丸い胴体にするが、
「787」では柔ら
かな炭素繊維複合材を自動積層機で大きな
芯(直径約6m)に一定幅で巻き重ねて成形
する。
前部胴体の設計・製造を担当している川崎重
工では、一度に積層できる幅が世界最大級で、
窓枠部などを部分的に厚く積層できる最先端
の自動積層機を使用している。積層後は、乾燥・
硬化、機械加工や非破壊検査を経て配管・配
線などの艤装工事まで行なって完成となる。
完成した前部胴体は、中部国際空港(セントリ
ア)
から専用輸送機(ドリームリフター)
で米国
に輸送している。
●エンジン「Tren
t1000」の
中圧圧縮機(I
PC)モジュール
「787」では、搭載するエンジンをユーザーのエ
アラインが2社のエンジンから選べる。
川崎重工は、英国ロールス・ロイス社のエンジ
ン「T
r
en
t1000」の開発に参画し、中圧縮機
(I
PC)
モジュールの設計・製造を担当している。
I
PCモジュールは、
エンジンのファンで吸入した
圧縮空気(約1.
5気圧)
を約10気圧に昇圧し、
高圧圧縮機に送り出す役目を持つ重要な部位
である。
川崎重工が設計・製作を担当して
いる中圧圧縮機
(I
PC)
モジュール。
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現 場 を 訪 ね て
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現 場 を 訪 ね て
茨城県
茨城県つくば市の気象庁気象測器検定試験センター風洞検査棟の外観。
川崎重工が担当した風洞設備(風速計検査用風洞装置)のほか、建築
設備、
電気設備、
機械設備の4社の協力で建設した。
秒速0.
35∼108mの風を起こせる
「風速計検定用風洞装置」を気象庁に納入
只今、秒速2.
5mで
風速計の測定精度を検査中
前ページ
(見開き)
の写真は、
川崎重
工が設計・製作して気象庁気象測器検
定試験センター
(茨城県つくば市)
に納
入した「風速計検定用風洞装置」に、
検定する風速計をセットしてその精度検
査を行なっている場面である。風洞は、
気流(空気の流れ)
を人工的に調節す
るトンネル型の試験装置のことだ。
撮影時の風速は秒速2.
5m。風は左
側の吹出口から出て風速計を回転させ、
右側の吸込胴に入っていく。
強弱の風を当て、
風速計の精度と構造を検査
風速計などの気象測器は、
政府機関
または地方公共団体が気象観測を行
なう場合、
あるいは一般の方が災害防
止に利用するなどのために気象観測を
行なう場合には、一定の精度を持つ気
象測器を使用する必要があり、法律に
基づき、観測に適した精度・構造を有し
ているかを検査する「検定」が義務づ
けられている。
また、気象庁が観測に使
用する気象測器についても、
自ら部内検
査を行なって観測精度の確保を図って
いる。
「これまで風速計の検定、部内検査
は東京・大手町の気象庁本庁にある風
洞装置で行なっていましたが、
風洞装置
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Kawasaki News
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測定室から見た検査風景。
高性能風洞装置の導入で、
風速計1台当たりの検査時
間が短縮されたという。
の老朽化と本庁舎の移転を機にここに
秒速0.
4∼90mまでの風速を段階的に
新設し、
今年の4月1日から運用していま
設定し、
測定精度が規定値内にあるか
す」
(気象庁観測部観測課・気象測器
を確認する精度検査。
もうひとつは、規
検定試験センター課長補佐の荻原裕之
定により測定上限の1.
2倍、秒速108m
さん)
(測定上限90mの風速計の場合)
の風
気象測器は風速計のほか、温度計
に風速計が耐えられるかどうかを試験
や気圧計、湿度計、
日射計、雨量計、雪
する構造検査である。
量計が検定対象に指定されており、風
ちなみに、測定上限の秒速90mでも
速計を除く測器の検定と部内検査は別
想像を絶する超強風だが、
1966年9月
棟で行なわれている。
5日、
台風下の宮古島(沖縄県)
で最大
この風洞装置の機器配置は右図の
瞬間風速(秒速)
85.
3mを記録したとい
ようになっており、風路全長は58.
4m
(う
う。自然の猛威としか言いようがない。
ち開放型の測定部は1.
0m)。風は、電
動機に直結させた送風機を回転させて
正八角形の吹出口と吸込胴は
起こす。
大小を交換可能
「検定申請される風速計のうち、
測定
この風洞装置は、
川崎重工が持つ「高
範囲が最も広いものは秒速0.
4m∼90m
度な流体解析技術を駆使して設計し、
ですが、
この装置は、測定下限値より遅
製作したもの」
(川崎重工・機械ビジネス
く起動検査に必要な秒速0.
35mから、
耐風速検査に必要な測
冷却塔
定上限値の1.
2倍である
風洞装置用
秒速108mまで起こすこと 空気冷却設備
電気室
受電設備
ができ、国内の風洞装置
冷却
変流部
風洞室
としてはおそらく他にないと
変流部 電動機
送風機
コイル
風の流れ
思います」
(同センター第
三検定係長の中村信一
整流部
さん)
秒速0.
4mなどという超
変流部
微風の測定は、
大気環境
検定台
変流部
汚染などを測定する際に
操作台
必要なのだという。
検定処理装置
風洞を使用する検査
制御装置
測定室
機器配置
は主に2項目で、
ひとつは
センター空力機械部プラント設計課の
山路晶・基幹職)
で、
「秒速0.
35mという
風は、
電動機の回転数が毎分10回転く
らいで起こりますが、電動機は毎分4回
転から制御できますので、
もっと遅い風を
起こすことも可能です。回転数の上限
は毎分1,
370回転で、
これにより測定部
の吹出口に秒速0.
35∼108mの風を送
ることができます」
(山路晶・基幹職)
風は、
吹出口の直前の整流部で金網
などを通して乱れのないきれいな流れに
整えられる。吹出口は、
風が全面に均等
に吹き出すように正八角形になっている。
左図のように大型電動機や受電設
備などは検定台から離れた場所にまとめ、
電気的ノイズが計測に影響を及ぼさな
いように配慮。機器の配置室は半地下で、
検定台にセットした風速計が操作台の
オペレータの目線になるように工夫され
ている。
また、
大型電動機や送風機など
からの騒音対策として、検査建屋の外
壁の一部を盛り土で覆うなどしている。
吹出口と吸込胴は大小2種類あり、
大型の超音波式風速計を検査する場
合は、
風を当てる面積を大きくするため、
サイズの大きな吹出口と吸込胴を使用
する。その交換は、
レール上を移動させ
ることで容易にできる。超音波式風速計
は、環境汚染物質の拡散状況の測定
などに使われるという。
つくば市
川崎重工は経験豊富な
国内有数の風洞装置メーカー
ところで風洞は、
飛行機などの模型を
セットし、空気抵抗などを測定するのに
欠かせない装置だ。川崎重工自身も航
空機や車両、
大型構造物などの開発業
務を通じて風洞装置を活用している。そ
うした豊富な経験で培った高い技術力
を活かし、
幅広い風速域での風洞装置
を設計・製作・納入してきた。
例えば、土木・建築・環境用風洞(風
速は秒速0.
5∼10m)、
自動車・車両用
風洞
(最高風速は時速180km)
、
航空機・
飛翔体用風洞(マッハ0.
3∼4.
0の風速
領域をカバーする国内最大の高速風洞)
などさまざまな設計・製作実績がある。
こうした実績の一例が示すように、川
崎重工は国内有数の風洞装置メーカー
で、
高いシェアを誇っている。
アジア第二地区の
測器センターとしても活動
さて、測定室では風速を段階的に上
げながら検査が進められていく。風洞の
風速、
検査している風速計からのデータ
は検定処理装置で計算処理される。併
せて、
検査している風速計の合否判断、
計測データの保存、検査成績書および
ふたつのサイズが用意された吹出口(右側)
と吸込胴(左側)。吹出口
の開口対辺寸法は1m
(右側奥)
と1.
2m
(右手前)
である。
川崎重工の納入実績の例。
(上)
は富士重工業
(株)向けの実車風洞。
(下)
は独立行政法人
宇宙航空研究開発機構(JAXA)向けの最新
の遷音速風洞測定部カート。
検定証書の発行まで行なえるようになっ
ている。
「風速計の検定は年間2,
500台前後。
このうち、大型の超音波式風速計は多
くて20台ほどでしょうか。風速計の検定
の有効期間は5年であり、
5年後には再
検定を受ける必要があります。
この風洞
装置は運用開始以来、
順調に稼働して
います」
(中村信一さん)
気象測器検定試験センターは、国連
のWMO
(世界気象機関)のアジア第
二地区の測器センターに指定されている。
アジア第二地区は中近東やインド、
中国、
モンゴル、
韓国などだ。
「今後、
これらの国々から風速計の校
正などの依頼が増えるものと思います」
(荻
原裕之さん)
なお、
毎年夏の「お天気フェア」では、
各地でさまざまなイベントが催されるが、
今年からはこの「風速計検定用風洞装
置」
も公開されるという
(今年は8月1日
の予定)。
検定台に検査する風速計を設置する。
3台
まで設置でき、
スライドできるので検査を効
率的に行なえる。
風速は秒速0.
4m。この超微風にも風速
計はきちんと反応した。
この風洞の最高風速に近い秒速1
0
7.
9m。
このように広い測定範囲で、短時間に安
定した強弱の風を発生させられる。
13
川
に
見
る
・
日
本
の
四
季
⑩
秋
田
の
川
の
﹁
夏
﹂
を
追
う
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青
空
の
峰
雲
を
映
し
、
悠
然
と
流
れ
る
雄
物
川
。
雄物川の夏を求めて、横手市から河口に向かう。
雄物川は秋田県南東端の栗駒連峰に源を発し、
全長約130km。
東北第5の長流である。源流を皆瀬川といい、やや下って成
瀬川と合流し、雄物川となる。そして、穀倉地帯の秋田平野を
悠々と流れていき、秋田市郊外で日本海に注いでいる。
横手一帯は田園風景が続く。
濃い緑色に育った稲が夏の陽を浴びて輝いている。豊かな
実りを連想させる緑の絨緞だ。風が吹くと葉が裏返り、薄緑
色の波が稲田をせわしなく動いていく。
しばらく緑の中を走ると、にわかに川幅が広くなった。堤
に上り、少し走ってから川辺に下りてみた。雄物川は満々と
水を湛えている。流れは極めて穏やかで、青い夏空に湧いた
入道雲を鮮やかに映している。岸辺の植物群も水面にきれい
しずか
に見える。周辺にはこれといった音もなく、閑かな時が流れ
ていく。中天の陽の下で、しばし暑さを忘れてシャッターを
押した。
こ よしがわ
この後、子吉川の上流で清流の夏を捜して走り回り、さら
に田沢湖周辺まで足を延ばした。秋田の夏も暑かった。
だ。
3つの滝からな
(上)子吉川の源流は玉田渓谷(由利本荘市鳥海町)
る法体ノ滝の上流に位置している。広葉樹林の中に、甌穴や淀みな
ど変化に富んだ渓谷美を展開している。荒々しい岩肌の間を、
清流が
飛沫を上げて白く流れていた。
おう けつ
は水深(約423m)
が日本一で、
透明度が高いことで
(下)田沢湖(仙北市)
有名だ。湖畔道路を走った。湖面は濃い藍色で、風もなく穏やかだ。
畑仕事をしているおばちゃんが「今が一番いい季節だよ」
と笑う。その
会話を湖畔の花菖蒲が聞いていた。
防衛省から新多用途ヘリコプター「UH−X」を受注
を最大限活用することで開発に関わる技術リ
スクを低減するとともに、
ライフサイクルコストの
低減を図る。
川崎重工はこれまで、
防衛省向けヘリコプター
では、
陸上自衛隊向け観測ヘリコプター「OH−
1」の主契約者として国産開発を行なうとともに、
陸上・航空自衛隊向け輸送ヘリコプター「CH
−47」や陸上・海上自衛隊向けヘリコプター
「OH
川崎重工は、
防衛省から陸上自衛隊向けの
新多用途ヘリコプター「UH−X」を受注した。
「UH−X」は、
陸上自衛隊の多用途ヘリコプター
「UH−1J」の後継機として、
兵員・物資輸送な
どの各種任務に使用される。
今回の開発は、
現在、
川崎重工が量産して
いる陸上自衛隊向け観測ヘリコプター「OH−1」
を改造母機とし、
「OH−1」の技術・製造基盤
台湾高鉄から高速鉄道車両を受注
川崎重工と
(株)東芝は、台湾の台湾高速
鉄路股 有限公司
(以下、台湾高鉄)から高
扮
代
−6」など豊富な納入実績がある。
また、
海上自
衛隊の掃海・輸送ヘリコプター「MCH−101」
の国産製造会社として現在も納入を行なって
いる。
H−ⅡAロケット21号機用「衛星フェアリング」を設計・製作
ら左右に2分割して衛星を分離する。今回の
衛星フェアリングは、
同時に2基の衛星を搭載
できるデュアル・タイプ(4/4D型、全長16m、
直径4.
1m)
で、
JAXA
(宇宙航空研究開発機
今年5月に打ち上げられたH−ⅡAロケット21
号機は、
2基の衛星をそれぞれロケット先端部
の衛星フェアリングから分離して無事、
軌道へ
投入した。
この衛星フェアリングを設計・製造し
て組み立て、種子島宇宙センターに納入した
のが川崎重工である。
衛星フェアリングは、
衛星を格納する部分で
ロケット先端部に取り付けられ、打ち上げ後の
空力加熱や音響(振動)
などの過酷な環境か
ら衛星を保護するとともに、大気圏外に達した
構)
の第一期水循環変動観測衛星(しずく)
と、
韓国航空宇宙研究院の多目的実用衛星3号
機を搭載した。
川崎重工はこれまで、
H−ⅡAの前身である
H−Ⅱロケット向けに合計7基のフェアリングを納
入。H−ⅡAロケットについてもシングル・タイプや
(二酸化炭素)やSOx
(硫黄酸化物)
につい
ても段階的に排出規制が強化されていくことに
なっている。
川崎重工は、
自社開発で世界最高の発電
効率49.
0%、
NOx排出量200ppm以下(O2
の主機関となる舶用ガスエンジンの開発は、
国
内では初めてである。
2016年1月から実施されるIMOの3次規制
は、
1次規制に比べてNOx
(窒素酸化物)排
出量を80%削減しなければならない。
また、
CO2
=0%換算)
などを実現した、経済性・環境性
に優れたカワサキ発電用ガスエンジンをベース
に、舶用ガスエンジンの開発に取り組む。開発
デュアル・タイプなど各種衛星フェアリングを開発・
製造し、
合計20機分の豊富な納入実績がある。
テーマとしては、
舶用ならではの負荷変動によっ
て生じるノッキング
(不完全燃焼)への対応技
術などがあげられる。
2013年度中には約2,
500kW(6シリンダ)
の舶用ガスエンジンの実証機を完成させ、船
級承認を取得して2,
000∼8,
000kW(5∼18
シリンダ)の出力エンジンから順次、市場に投
入する予定である。
大型ニッケル水素電池「ギガセル®」を用いたスマートグリッドの実証実験を開始
三菱電機尼崎地区の拠点に設置した太陽光
発電システム
(4,
000kW)
と、火力発電・揚水
発電・負荷などを模擬した実証実験設備にギ
ガセルシステムを連系させ、天候によって出力
が左右されやすい再生可能エネルギーが電
力系統に大量に導入された状況下で、
周波数
変動の抑制など電力品質維持に関わるギガ
セルシステムの技術検証を行なう。ギガセルシ
ステムでは、
電力品質維持、
災害時などの自立
川崎重工は、
三菱電機(株)
のスマートグリッ
ド・スマートコミュニティ実証実験設備に、
自社
開発の大型ニッケル水素電池「ギガセル」
を用
いた実証試験装置(ギガセルシステム)
を設置
し、運転を開始した。川崎重工は三菱電機と
共同で、
ギガセルシステムの系統安定化分野
への適用化技術の開発を目指している。
ギガセルシステムは、
18モジュール
(合計38
kWh)
のギガセルとパワーコンディショナで構成。
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167 2012/7
同型式電車の安定した運行実績および信頼
性が高く評価されたものである。
工はバイア州で建設が開始された同社造船
所の建設と、
ドリルシップ建造に関する技術を
供与する。
ブラジルでは、
超大深水プレサル層から相次
いで油田が発見され、
その開発・掘削のための
ドリルシップや、
洋上石油・ガス生産設備をはじ
めとする各種船舶の需要が急増している。
EEP
は、
ブラジル国営石油会社・ペトロブラスが用
船するドリルシップ6隻について、本船注文主
から発注内示を受けるなど積極的な受注活動
を行なっている。
アブダビ首長国の下水道建設工事向け泥土圧式シールド掘進機3基を完納
川崎重工は、
アラブ首長国連邦アブダビ首
長国の下水道建設工事向けシールド掘進機
3基を完納した。初号機は2011年12月に納入
し、
このほど最終号機(3号機)
の納入となった。
3基のシールド掘 進 機は、
2011年3月に
サムスン物産(株)
(韓国)
から、
中東地域向けと
しては初めて受注したものである。
完納したシールド掘進機は泥土圧式シール
ド掘進機(直径5.
22m)で、
3基は、現在、
アブ
ダビ下水サービス公社(ADSSC)が進めてい
るSTEPプロジェクト
(全長約42km)
のうち、
ア
ブダビ都心部からムサファ工業団地に至る工
区(全長約16.
2km)
に投入される。掘進開始
運転、再生可能エネルギー大量導入時の系
統安定化の3点を実証および検証する。高速
充放電が可能な「ギガセル」は、
再生可能エネ
ルギーの急激な変動に応答可能だ。
「ギガセル」はすでに、
太陽光発電や風力発
電の出力安定化、
災害時の自立運転システム
をはじめ、
船舶向け蓄電装置、
鉄道システム用
地上蓄電設備(BPS)
などさまざまな分野での
用途展開が図られている。
は2012年夏頃の予定。
泥土圧式シールド掘進機は、
軟弱土層の掘
進に用いられるシールド掘進機の技術と、
岩盤
や礫層などの掘削に用いられるTBM(トンネル
ボーリングマシン)
の技術を融合した複合地質
対応型の掘進機である。
また、
本機は、
曲線部
の掘削に対応するため中折れ式を採用してい
るほか、
1基で約5kmの長距離トンネルを施工
するため、
耐久性と高速性を重視した仕様となっ
ている。
川崎重工はこれまで、国内外で約1,
400基
以上のシールド掘進機・TBMの納入実績を有
している。今回の受注は、川崎重工の高い技
術力と難易度の高い地質での豊富な実績が
高く評価されたものである。
オーストラリアのイクシスLNGプロジェクト向け低温タンクを受注
「スーパーコンピュータ施設『京』の電気設備」が電気設備学会賞を受賞
16
川崎重工は、
ブラジルでドリルシップ(油田・
天然ガス田の探査掘削を目的とした船型の浮
体式海洋掘削装置)建造などの合弁事業に
参画することとし、
合弁契約書に調印した。
川崎重工は、
ブラジル・バイア州の造船所、
エスタレーロ エンセアーダ ド パラグワス社
(EEP)への30%の出資と同社への技術移転
を行なう。
EEPは、
ブラジルの大手総合建設会
社であるオデブレヒト社とOAS社、
およびUTC
社の3社により各種海洋構造物、各種船舶の
製造販売を目的に設立された会社で、
川崎重
※「ギガセル」は川崎重工の
登録商標です。
けい
川崎重工の6,
000kW級カワサキガスタービン
2基を用いて構築するコージェネレーションシス
テムを導入した、
独立行政法人理化学研究所
計算科学研究機構の「京速コンピュータ施設
『京』の電気設備」が、電気設備学会賞(技
術部門 施設奨励賞)
を受賞した。
この電気設備は、
スーパーコンピュータ
「京」
を格納する計算学会の総合研究施設
(神戸市)
を安定的に支えるために構築されたものである。
で初めて海外へ輸出した車両である。今回は
700T型と同形式の発注であり、開業以来の
ブラジルでドリルシップ建造などの合弁事業に参画
国内初、新しい環境規制に対応する舶用ガスエンジンの開発に着手
川崎重工は、
IMO
(国際海事機関)の3次
規制に対応する舶用ガスエンジンの開発に着
手した。ガス専焼で、
大出力(2,
000kW以上)
速鉄道車両4編成48両を共同受注した。
本契約では、
プロジェクト全体の統括、車体
および台車の設計・製造を川崎重工が行ない、
電気機器、
空調、
車上無線システムの設計・供
給を東芝が行なう。最初の編成の納入は2012
年12月を予定しており、以降、
2015年11月に
かけて順次、
納入の予定。なお、
本契約には最
大4編成48両までのオプションがついている。
台湾高鉄は2007年1月の営業運転開始以
来、
乗客数が増加しており、
列車本数を増発し
ている。
また、
2015年に開通予定の台北駅∼
南港駅間(5.
7km)
の路線延長などに対応す
るため本契約が結ばれた。
川崎重工と東芝は、
2000年12月に台湾高
速鉄道機電システムプロジェクトを受注した
台湾新幹線(株)
の日本連合のメンバーとして、
700T型車両360両の設計・供給を担当した。
700T型電車は、東海道・山陽新幹線で運行
されている700系新幹線電車をベースに台湾
高鉄向けに設計変更し、高速鉄道として日本
ここに採用された川崎重工のコージェネレーショ
ンシステムは、
発電とともに蒸気を利用する蒸気
吸収式冷凍機でスーパーコンピュータの冷却
や設備の冷房を行なっており、
発電効率約30%、
熱回収率45%、総合効率約75%という高効
率の運転状態を維持している。
また、
このコージェ
ネレーションシステムは、重要負荷設備の無停
電保護対策にも使用されており、
スーパーコン
ピュータの非常時の保護にも活躍している。
電気設備学会賞は、電気設備に関する学
術と技術の進歩を図ることを目的に、
特に顕著
な功績、
優秀な学術・施工・技術開発などの業
績を表彰するものだ。今回の受賞は、
この設備
の電源の多様化や安定供給、
メンテナンス性、
省エネルギー、安全性などに配慮した施設計
画が高く評価されたことによる。
川崎重工は、
オーストラリアの大手建設会社
ラング・オルーク社(シドニー市)
と共同で、
LNG
(液化天然ガス)
プラント向けの低温タンク4基
を受注した。国際石油開発帝石(株)の関係
会社、
イクシスLNG社(パース市)がオーストラ
リア北部のダーウィン市郊外で建設するプラン
ト向けの4基
(LNGタンク2基、
LPGタンク2基)
で、
日揮(株)
、
米国KBR社、
千代田化工建設(株)
で構成されるジョイントベンチャー
(JKC J/V)
からの受注である。
受注した設備は、
LNGが気化しないよう
−168℃に保つため、
タンクの内側に極低温用
材を用いるなどしたタンク容量16万5,
000m3
のPC
(プレストレストコンクリート)地上式LNG
タンク2基のほか、
容量8万5,
000m3のプロパン
3
タンク1基、
同6万m のブタンタンク1基で構成さ
れる。
イクシスLNGプロジェクトは、国際石油開発
帝石が中心になって推進するもので、
生産され
る天然ガスをLNGやLPGなどに加工して出荷
する。
2016年末の生産開始が予定されており、
生産されたLNGの7割相当が日本に出荷され
ることが確定している。そのため日本にとって、
エネルギーの安定供給、
天然ガス供給元の多
様化の観点から非常に重要な案件と位置付
けられている。
なお、
川崎重工は国内における大型LNGタ
ンクでは近年、
50%超のシェアを占めている。
ま
た、海外でもチリや中国でLNGタンク4基を建
造中である。
川崎重工の最新情報はホームページでもご覧いただけます。 http://www.khi.co.jp
17
金山平三の世界
《無題(円塚山・だんまり)》 制作年不詳 22.9×30.2cm 油彩・紙 兵庫県立美術館蔵
相
良
周
作
︶
︵
兵
庫
県
立
美
術
館
学
芸
員
す
る
そ
の
独
得
の
感
覚
を
も
明
ら
か
に
し
て
い
る
。
の
踊
り
の
写
真
に
代
表
さ
れ
る
、
人
体
の
動
き
に
対
練
り
上
げ
る
タ
イ
プ
の
画
家
で
あ
る
と
と
も
に
、
自
身
在
は
、
金
山
が
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し
ろ
構
図
な
ど
を
入
念
に
構
想
し
側
面
が
強
調
さ
れ
が
ち
で
あ
る
が
、
︿
芝
居
絵
﹀
の
存
表
金 現
山 し
は て
実 い
る
景 。
に
基
づ
く
風
景
画
の
巨
匠
と
し
て
の
舞
台
装
置
ま
で
余
す
こ
と
な
く
、
的
確
な
描
写
力
で
中
死
闘
を
繰
り
広
げ
る
情
景
で
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り
、
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リ
な
ど
の
節
と
犬
川
荘
助
が
﹁
だ
ん
ま
り
﹂
と
称
す
る
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︶
八
犬
伝
﹄
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う
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﹁
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塚
山
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﹂
に
て
、
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山
道
作
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作 に
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題 一
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い
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は た
、
﹃ 。
︵
南
総
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さ
れ
た
﹁
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山
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居
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き
た
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ら
れ
、
一
九
六
〇
︵
昭
和
三
五
︶
年
に
日
本
の
ほ
か
に
は
ほ
と
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ど
人
目
に
触
れ
る
こ
と
も
な
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ら
は
藤
島
武
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を
は
じ
め
と
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る
一
部
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画
家
仲
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た
、
一
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芝
居
絵
﹀
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リ
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で
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る
。
そ
れ
き
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め
た
の
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、
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い
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の
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戸
で
の
記
憶
に
基
づ
い
屋
外
で
の
制
作
は
ま
ま
な
ら
ず
、
ふ
と
思
い
立
っ
て
描
何
と
か
一
命
を
と
り
と
め
た
も
の
の
、
体
力
の
必
要
な
を
制
作
中
の
金
山
は
大
病
を
患
っ
た
。
手
術
に
よ
っ
て
念
絵
画
館
の
た
め
の
壁
画
大
作
︽
日
清
役
平
壌
戦
︾
一
九
二
八
︵
昭
和
三
︶
年
九
月
、
明
治
神
宮
聖
徳
記
金山平三と川崎重工
金山平三画伯は、1883年(明治16年)神戸に生まれ、1964年(昭和39年)80歳で生涯を終えました。
1909年(明治42年)東京美術学校(現在の東京芸術大学)
を首席で卒業した後、
欧州各地で制作を重ね、
1916年(大正5年)
には、
第10回文展に出品した作品が特選第二席になりました。生涯にわたって旺盛な創
作活動を続け、
自然風土を相手に多くの名画を残し、
その業績は近代洋画史上に燦然と輝いています。
川崎重工は第11回文展に出品された「造船所」が縁となり、
その後、
交流を深めました。画伯の晩年には、
自選作品138点の永久保管の依頼を受け、
その作品を預かるほどでした。後になり川崎重工は、
一部の作
品を残して、
兵庫県立近代美術館(現・兵庫県立美術館)
にすべて寄贈しました。
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﹀
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一
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