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全日本モトクロス選手権シリーズ第3戦(中国大会)

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全日本モトクロス選手権シリーズ第3戦(中国大会)
最
線 カメラル
ポ
前
最前線カメラルポ
新開発の大型LNG運搬船の
建造進む
79
イラストぎじゅつ入門−⃝
最新鋭の旅客機用
ターボファンエンジン
「Trent1000」のしくみ
現場を訪ねて
カワサキ勢が「国際A級」2クラスを
完全制覇
全日本モトクロス選手権シリーズ第3戦(中国大会)
(グリーンパーク弘楽園/広島県世羅町)で
“ライムグリーン”が圧倒的な強さを発揮
川崎造船が新開発した「 17万7,
000m3 型LNG運搬船」へ球形タンクを搭載
川崎造船・坂出工場の第3ドックで、
新開発のLNG
(液化天然ガス)運搬船の建造が進んでいる。
17万7,
000m3型LNG運搬船(以下、
「177型LNG
3※
船」)で、積載容量は17万5,
000m 。船主の東京
エルエヌジータンカー(株)
(東京ガス(株)の100%
子会社)および日本郵船(株)から提供されたLNG
輸送に関するノウハウをベースに、川崎造船が新
たに開発した極めて大型のLNG運搬船である。
川崎造船 のこれまでの 標 準 船型である14万
7,
000m3型LNG運搬船(積載容量:
14万5,
000m3)
の、世界の主要なLNG基地に入港できる汎用性や
優れた推進能力などの特長をそのまま生かし、
LNG
を積載する球形のタンク容量を増やして輸送能力
を高めた。また、主機関に初めて導入する新開発
の「川崎アドバンストリヒートタービンプラント(川
崎URA型タービンプラント)」により、燃料消費率
が従来の蒸気タービンプラントに比べて約15%も
向上した。
貨物タンク(モス型球形タンク)は4基搭載され
るが、
3つ目のタンクを搭載する日に建造現場をカ
メラで追った。
※非常に大まかにいって、人口20∼25万都市の一般家庭消費量のほぼ1年分に
相当。
「17万7,
000m3型LNG運搬船」の完成予想イラスト。
2
川に見る・日本の四季⃝
利根川水系の「夏」を追う
“川面の里山”
に感じた、
微かな涼風。
新製品・新技術
大胆なカラーデザインのJR東日本「秋田新幹線用新型車両(E6系)
」
の量産先行車1編成(7両)のうち4両を納入
●表紙説明●
泥を跳ね上げながら、
起伏の激しいコースを激走する
“ラ
イムグリーン”
(カワサキのレースカラー)
の「KX450F−SR」
(450cc)。ライダーは、
川崎重工直属のレーシングチーム
・
16日に広島県
(KRT)
MXの新井宏彰選手−5月15
世羅町のグリーンパーク弘楽園で開かれた、
モトクロスの
国内トップレベルのレース、
「全日本モトクロス選手権シリー
ズ」第3戦(中国大会)
でのひとコマです。
この大会でカワサキ勢は、
国際A級の「IA1」
(450c
c)
、
同「IA2」
(250cc)の決勝4ヒートを完全制覇。シリーズ
ランキングでも
「IA2」の勝谷武史選手が1位、
「IA1」の
新井宏彰選手が6位と今年も快進撃を続けています。
(詳
しくは「現場を訪ねて」
をご覧ください)
かつ や
発 行……2010年7月
編 集
……川崎重工業株式会社
広報部
発行人
広報部長 西野 光生
東京都港区浜松町2ー4ー1 世界貿易センタービル
TEL 03-3435-2133
http://www.khi.co.jp
本誌は再生紙を使用しています
1
視野を圧倒する大きさ―
全長300m、型幅52m
川崎造船・坂出工場(香川県坂出市)
で、新造船の大型建造ドックとして使わ
れている第3
ドック。
ここで建造中の「177
型LNG船」は、
全長300m、
型幅52mと
いう巨大なサイズだ。
「本船は船主殿の要望で、
当社の標準
船型
(12隻の建造実績)
の14万7,
000m3
型LNG運搬船よりも貨物容量を約20%
増量しました。
しかし、
既存のLNG基地は、
従来の標準サイズである12万5,
000m3
∼14万5,
000m3のLNG船の受け入れ
を想定して建設されており、
むやみに大
型化すると、
既存のLNG基地を利用で
きなくなる怖れがあります。そこで、既存
基地の状況を綿密に調べ、
できるだけ
多くのLNG基地が利用できるサイズとし
て全長を300m、
計画喫水(水面から船
底までの深さ)
を11.
5mとしました。当社
の今後の標準船型となるものです」
(川
崎造船・技術本部造船設計部機装設
計グループ長の鹿野健司参与)
また、
エアドラフト
(喫水から船の最上部
までの高さ)
も、
ヨーロッパの主要なLNG
荷揚基地で、
エアドラフトの制限がある仏・
モントアール港に入港可能な数値になっ
ている。
ちなみに、
これまでの標準船型の14万
3
7,
000m 型LNG運搬船の全長は289.
5m
なので、
全長はプラス10.
5m、
また、
型幅
は49mに対して52mと、
いずれも少し増
えた程度である。
それにしても全長300m、
型幅52mで
ある。
ドックのそばで船体を一望すると、
その巨大さに唖然とさせられる。
川崎造船が行なっている
球体での一体搭載法
工事用エスカレータで、
その甲板に昇る。
すでにブリッジ側に2基のモス型球形
タンク
(以下、
球形タンク)
が搭載済みで、
その隣に3つ目のタンクを受け入れる巨
大な“受け皿”が構築されている。球形
タンクは、
従来の標準型の直径41.
42m
に対して44.
05mとやや大きくなり、
4基と
も同一直径(同一容量)
である。
「4基とも同一容量のタンクにすることで、
貨物装置がシンプルになり、
また、
メンテ
ナンスやオペレーションが容易になるといっ
たメリットがあります」
(鹿野健司参与)
球形タンクは、
150枚近いパネル(厚
さ約30mmのアルミ合金製厚板)
を組
み合わせ、特殊な自動溶接で球形にし
たものだ。素材のアルミは低温に強く、
球
体にすると収縮圧力が均等にかかり、
力学的に安定する。いずれも、
約−160℃
という極低温のLNGを運ぶLNGタンク
に必要な高い信頼性と安全性に対応
する要素だ。
タンクは完全な球形ほど強固になるが、
そのためにはアルミ合金製パネルの一
枚一枚を設計図通りの曲面に仕上げな
ければならない。パネルの微妙な仕上げ
作業は、
プレス機と人間の手の技との合
作で行なわれる。川崎造船が豊富な経
験で培ったこれらの高度な加工技術が
あってこそ、球形タンクの製作が可能な
のである。
球形タンクは、坂出工場内の専用工
場でふたつ
(地球に見立てて“北半球”、
“南半球”
という)
に分けて製作する。そ
して、船体への搭載は、以前はまず“南
半球”を搭載し、
その上に“北半球”を
かぶせて合体させる方法だった。
しかし、
川崎造船では2003年から、専用工場
で“南半球”と“北半球”を合体させ、
球体に完成させたものをそのまま運んで
据え付ける方法(一体搭載法)
で行なっ
ている。
現在、
国内の造船所で、
一体搭載法
を全面的に行っているのは川崎造船だ
けである。
空中を移動する
重量約1,
100
tの球形タンク
そのために設置した国内最大級の
800t門型クレーン2基が、
3つ目の球形
タンク
(重量約1,
100
t)
を吊り揚げる。ゆっ
くりと空中を移動していく球形タンク。
甲板上の係員がクレーンのオペレーター
と通信装置で頻繁にやり取りしながら指
示を出し、
球形タンクは巨大な“受け皿”
に向かって着実に進む。そして、
その真
上に達すると慎重に位置の微調整が行
“着地”
した球形タンクからワイヤロープを外す。
さまざまな作業の確実な履行が川崎造船だけ
の一体搭載法を支えている。
全長300m、型幅52mという巨大な船体は写
真のフレームに収まりきらない。作業する人間
がこの通り小さく見える。
なわれ、
球形タンクはゆっくりと降ろされて
いく。
直径約44mの巨大な球形タンクが目
の前を降下していく。その迫力は圧倒
的だ。
そして、
“着地”。その誤差の許容範
囲はミリ単位という厳しさ。
「球形タンクを工場内で合体、
完成さ
せられるので、
品質が非常に向上しまし
た。また、高度な加工技術で“受け皿”
の加工・据え付けも1∼2mmという厳し
い精度をクリア。こうしたそれぞれの高
い精度と品質が、球体のまま船体に搭
載する、
一体搭載法を可能にしたといえ
ます」
(川崎造船・坂出工場工作部外
業課船殻係の谷口尚係長)
事を済ませた後、
タンクの防熱工事を行
なう。
防熱工事は、
川崎造船が独自に開発
した川崎パネル方式という断熱パネルで
タンクの外側全面を覆う。この断熱パネ
ルは、
フェノールフォームとポリウレタンフォー
ムを用いた二重構造になっており、
さらに
外側にアルミニウムの薄い膜が張り付け
てある。極めて高い断熱効果があり、
ボ
イルオフレート
(自然気化率)
は1日当たり
積み荷の0.
1%と非常に低い。
タンクの外側全面を
自社開発の断熱パネルで覆う
“受け皿”
に着地した球形タンクは、
“赤
道部”がタンクスカートで支持され、
タンク
スカートの下端は船体に直接溶接で固
定される。
また、
北半球に鋼製のタンクカ
バーを設置。そして、
溶接などの火気工
■LNG
(液化天然ガス)
って?
天然ガスは、
主成分がメタンで不純物をほと
んど含んでいない。そのため、燃やしてもSOx
(硫黄酸化物)
の発生量はゼロで、
NOx
(窒素
酸化物)、
CO2
(二酸化炭素)
も石油、石炭に
比べると極端に少ない。地球にやさしいクリー
ンなエネルギー源として世界中で需要が増大
している。
天然ガスに圧力をかけながら約−160℃まで
冷却して液化したものがLNG
(液化天然ガス)
だ。液化すると体積がガスの約600分の1に
なるので、船での輸送や貯蔵が容易になる。
LNGを輸送する専用船が、
ここに紹介した
LNG運搬船である。
2基の800
t門型クレーンに吊
られて、
重さ約1,
100
tの球形タ
ンクが空中をゆっくりと移動し
てきた。甲板の大きな穴
(手前)
がその“受け皿”だ。
“ 受け皿 ”にゆっくりと降ろさ
れていく球形タンク。
“ 受け皿 ”
の底の中心で を
見上げるとこうなる。
順調に降下する球形タンク。
“受け皿”の底部が少し見える。
“ 着地 ”間近の球形タンク。
球形タンクは、誤差の許容範
囲がミリ単位という厳しい条件
をクリアして計画通りに“着地”
した。
2
Kawasaki News
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3
ドックサイドで組み立てられたブリッジ
(下5階分)。
開発1号船でも
ドックでの建造期間は約3か月
3基目の球形タンクの搭載後、
クレーン
でブリッジを吊り揚げ、船尾側に据え付
けられた。
10階建てのビルに相当する
高さがあるブリッジの下5階分だ。ブリッ
ジはドックサイドで5階相当分ずつ組み
立てられている。
ブリッジに限らず、
ドックサイドでは、船
体ブロックの大型化が行なわれる。大組
立工場で組み立てた船体ブロックをいく
つか組み合わせてさらに大きなブロック
にするのである。
「177型LNG船」の場合、大組立工
場で製作されるブロックはおよそ300。そ
れをドックサイドで95ほどに大ブロック化
する。大ブロックといっても、
仕上げ精度
1∼2mmをクリアした精密加工品だ。
ドッ
クサイドでのこうした大ブロック化により、
建造期間(ドックでの建造作業)はおよ
そ3か月という短さだ。
「『177型LNG船』は開発1号船な
ので通常よりやや時間がかかっています
が、
同型2号船からはもっと短縮できると
思います」
(谷口尚係長)
クレーンで甲板に吊り上げられる。
つの大きな特長が、
燃料消費率の飛躍
的な向上である。
主機関に新開発の川崎アドバンスト
リヒートタービンプラント
(川崎URA型ター
ビンプラント)
を搭載したからだ。
「川崎
URA型タービンプラント」の搭載は、本
船が初めてである。
LNG運搬船の推進プラントは、貨物
タンクからのボイルオフガスの取り扱いが
容易、
信頼性が高いなどの理由で、
これ
までほとんどが蒸気タービンプラントを採
用してきた。
しかし、
従来の蒸気タービン
プラントは効率が低いことから、
最近、
二
元燃料ディーゼルエンジン搭載の電気
推進システムなど新しい方式が登場し
てきた。
しかし、
まだ技術的な評価が定まっ
ていないことなどもあり、
船主からは蒸気
タービンプラントの効率向上を望む声が
依然として強くある。
そこで川崎造船では、過去にVLCC
(20万t級の大型タンカー)
などで多くの
実績がある再熱(リヒート)
タービンプラン
ト
「川崎UR型タービンプラント」
をベースに、
最新の材料、
制御技術、
電子・パワーエ
レクトロニクスおよび解析技術などを駆
使して、新たに効率も信頼性も高い再
熱タービンプラント
「川崎URA型タービン
プラント」を開発。その第1号プラントが、
この「177型LNG船」に導入されたの
である。
甲板に据え付けられた。
総合エネルギー効率は
約20%も大幅に向上
LNG運搬船では、貨物タンク内で自
然気化したボイルオフガスをボイラで燃
やして
(必要に応じて燃料油を燃やすこ
とも可能)蒸気をつくり、
その蒸気でター
ビンを回して推進エネルギーとしている。
従来型の蒸気タービンプラントでは、
ボ
イラから送られた蒸気は、
まず、
高圧ター
ビンを回し、
高圧タービンを回し終えた蒸
気がそのまま低圧タービンに送られ、低
圧タービンを回すという流れになっている。
これに対してリヒートタービンプラントは、
「高圧タービンを回し終えた蒸気をいっ
たんボイラに戻し、排
ガスエネルギーを利用
して再 加 熱してから
中圧タービンに送る点
ドックサイドで据え付けを待つブリッジの上5階分。
が異なります。中圧タービンを回し終えた
蒸気は、
そのまま低圧タービンに送って
低圧タービンを回転させます。これに加
えて蒸気の高温高圧化やタービン、
ノズル、
ブレードの改良などを行なうことにより、
燃
料消費率が約15%も向上しました。
リヒートタービンプラントは配管量が増
える分、加工数が増え、限られたスペー
スのエンジンルームでの設置工事も容易
でありません。
しかし、
当社には設計を形
にする加工技術、
それを配置・施工する
工事技術があります。
これらの高度な技
術と船舶の設計が“クルマの両輪”
となっ
て、
LNG運搬船の建造を支えているの
です」
(鹿野健司参与)
「177型LNG船」は、
リヒートタービン
プラントの導入に加え、
船体形状
(船首部・
船尾部)
の最適化、川崎造船が開発し
たプロペラの効率向上にかかわるコント
ラフィン付きセミダクトやフィン付きラダー
バルブなどの省エネルギー付加物の採用、
さらには、
プロペラの低回転化による推
進性能の改善なども図られた。その結果、
「177型LNG船」の総合エネルギー効
率(単位貨物当たりの燃料消費量)
は、
約20%の向上という驚異的な数値になっ
たのである。
●
「177型LNG船」は、
5階分とはいえ
ブリッジも据え付けられて一層船らしい
形を整えてきた。
この後、
6月下旬に進水し、
ほぼ今年
末までかけて艤装工事が行なわれる。
さ
らに、年末から3か月ほどかけて川崎造
船による調整や試験、
それに海上での試
験運転などが計画されており、
2011年に
船主に引き渡される予定になっている。
■取材は6月7日に行ないました。
新開発の
“リヒートタービンプラント”を初搭載
ブリッジのさらに船尾側の甲板が大き
な矩形に切り取られており、
見下ろすとカ
バーのかかったさまざまな機器装置がびっ
しりと並んでいる。エンジンルームだ。
従来より貨物容量が約20%増えたに
もかかわらず、
船型の工夫で世界の多く
の既存LNG基地に入港できるという特
長に加えて、
「177型LNG船」のもうひと
4
Kawasaki News
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(左)新開発の川崎アドバンストリヒートタービンプラント
(川崎URA型 川崎造船が開発したプロペラの効率を向上させるコントラフィ
タービンプラント)
の搭載で、
燃料消費率が飛躍的に向上する。 ン付きセミダクトやフィン付きラダーバルブなども採用されている。
(上)船内のエンジンルームに設置された川崎URA型タービンプラント。
5
イラストぎじゅつ入門― 79
■最先端の加工・組立技術を駆使して
西神工場で量産中
「T
r
en
t
1000」エンジンのI
PCモジュー
ルの製造・組立を担当している川崎重工・
西神工場(神戸市西区)では、専用の
第二工場を建設して対応している。
専用工場には世界で1台だけという
高速放電加工機、世界に数台という電
子ビーム溶接機など最先端の加工装
置を導入。これらの加工装置によって
超精密に加工された部品が、
自社開発
の「Tren
t1000組立システム」
(RR社
から20年先を先取りしたと評された、作
業手順と作業実績記録の完全電子化
[ペーパーレス化]
システム)により、求
められる品質に確実に応えながら組み
立てられている。量産作業は順調に進
んでいる。
パートナー企業として
開発に基本設計段階から参画
川崎重工は、
「Trent
1000」エンジンの開発にRR社のパー
トナー企業として基本設計段階から参画してきた。そして、
エンジンの重要な部位である中圧圧縮機モジュール(以下、
IPCモジュール)の設計・製作および組み立てのほか、開発
プログラムの一環であるエンジン運転試験の一部を担当し
ている。
IPCモジュールはファンと高圧圧縮機との間にセットされ
る圧縮機で、
ファンから送り込まれた圧縮空気(約1.
5気圧)
を約10気圧に高める役割を担っている。
●バイパス
エンジンとエンジンカバーの間の空間で、
ファン(=低圧圧縮機)
で吸入・
圧縮した空気のかなりの部分(Trent1000では90%以上)
がここを流れる。
吸入・圧縮した空気のうち、
そのままバイパスに流す空気の量と中圧圧縮
機に送る空気の量(1とする)の比率をバイパス比という。バイパス比が高
い(バイパスに流す空気の量が多い)
ほど燃費向上や騒音低減につながる。
「Tren
t1000」エンジンのバイパス比は、
これまでのエンジンでは最大の
約11
(11
:
1)
で、
きわめて静かで燃費がよい。
「ボーイング787
ドリームライナー」
ガス噴出
流入空気
燃料
●ファン
いわば扇風機のように羽根を回転させて大量
の空気を吸い込み、圧縮して後方の圧縮機お
よびバイパスへ送る。直径が3m近い大きなサ
イズで、羽根の形状は空気の吸入・圧縮の効
率向上を図るための工夫がなされている。大き
な羽根のほうが吹き出す風量が多く、
比較的ゆっ
くり回転(といっても1分間に約3,
000回転)
さ
せるのは、
そのほうが静かで燃料が少なくて済
むからである。
(大きい扇風機のほうが静かで
涼しいのに似ている)
●高圧圧縮機∼燃焼器∼タービン
高圧圧縮機では、中圧圧縮機から送られた圧縮空気の圧力をさらに高め、40気圧以上に昇圧する。
燃焼器では高圧圧縮器から送り込まれた高圧の空気に燃料を吹き込み、均一に混合させて燃やす。
熱せられた空気の温度は1,500度以上。この燃焼ガスをタービンに送り込む。
タービンは、燃焼器から送られた高温高圧の燃焼ガスを受けて回転し、
そのエネルギーを回転エネ
ルギーに変換する。
圧力と温度が高いほどタービンを回すエネルギーが大きく、
それによって大きなファンを回すこと、即
ちバイパス比を高くすることができ、燃費性能を向上し、地球にやさしいエンジンとなる。
■3軸構造
エンジン部イラスト
「T
r
en
t
1000」エンジンは、
ファンを回す低圧タービン、中圧圧縮器を回す中圧タービン、
高圧圧縮器を回す高圧タービンがそれぞれの軸でつながれた3軸構造で、
これがRR社の
特徴である。
それぞれを回すタービンが並び、
エネルギーを無駄なく使うことができる。
画像提供/ロールスロイス
※3軸構造ではファン、中圧圧縮機、高圧圧縮機を最も効率的な回転数に設定できるため、燃費
をより一層向上させられる。
■飛行機はなぜ飛ぶのか
飛行機が前進し、主翼の上下を空気が流れると、翼型の作用により上面
の圧力が下面のそれより小さくなる。その圧力差によって主翼に揚力が生じ、
飛行機は浮揚する。飛行機に前進するための推力を与えるのがジェット
エンジンだ。ジェットエンジンは燃料(通常は灯油系)
を燃やして、
その燃焼
ガスを高速の噴流として後方に噴出する。そうすると飛行機に前向きの力が
働く。これが推力になる。
IPC部
エンジン
反作用力
流入空気
ジェット
作用力 (燃焼ガス)
●ジェットエンジンによる推進
6
Kawasaki News
159 2010/7
「ボーイング787ドリームライナー」
(以下、
「787」)
は、大型窓や地上により近い機内
の気圧・湿度の設定、清浄な空気、
やわらかな照明など空の旅の快適さを徹底追求した
次世代航空機である。機体全体に最先端複合材を使用して軽量化を図り、
また、燃費のよ
い「T
r
en
t
1000」エンジンを搭載することなどで、同規模の航空機に比べて約20%減とい
う非常に高い燃費性能の向上を実現した。
川崎重工は「787」の国際共同開発にパートナー企業として当初から参画し、前部胴体、
主脚格納庫および主翼固定後縁という重要部位の開発・製造を担当している。
「787」のエンジンは、
RR社を
含む2社のエンジンから航空会社
が選択することになっており、
「787」
のローンチカスタマー
(最初のユー
ザー)
となった全日本空輸(株)
(ANA)は「Tren
t1000」エンジ
ンを選んだ。
「T
r
en
t
1000」エンジ
ン搭載の「787」は、
今年中にANA
写真提供:ANA
に納入される予定である。
IPCローター
「ボーイング787ドリームライナー」に
搭載決定
「Trent1000」は、英国ロールス・ロイス社(以下、
RR社)
が世界各国のパートナー企業とともに開発した最新鋭のジェッ
トエンジンである。米国ボーイング社が、国際共同作業で開
発中の次世代旅客機「ボーイング787ドリームライナー」へ
の搭載が決定しており、世界の航空会社から受注が相次い
でいる。
ジェットエンジンは大まかにいうと、装置前面のファンで吸
入・圧縮した空気に運動エネルギーを与えて噴流(ジェット)
を生み、
その反作用によって推力を得る仕組みだ。近年のジェッ
トエンジンは、
ファンで吸入・圧縮した空気の大半をバイパス
(エンジンとエンジンカバーの間の空間)にそのまま流し、
排気ノズルからの燃焼ガスと合流させて、飛行速度に近い
速度で比較的ゆっくり噴出させるターボファンエンジンがほ
とんどである。こうすると推進効率が向上し、騒音も大幅に
減少する。
■「ボーイング787ドリームライナー」は
今年中に全日空(ANA)に初納入の予定
I
PCモジュールは「T
r
en
t
1
000」
エンジンのこの部分に組み込
まれる。
RR社・ダービー工場にて。
●中圧圧縮機(I
PC)モジュール
川崎重工が設計・製作・組立を担当している
圧縮機で、全長1,
240mm、直径1,
350mm、
重量約600kg。素材のほとんどが軽くて強度
が高く、錆びないチタン合金である。
回転羽根(動翼)の付いた8段のディスクを一
体化したドラム
(ロータ)
と、
内側に固定羽根(静
翼)が付いたケースなどで構成されている。こ
こで、
ファンから送り込まれた圧縮空気(約1.5
気圧)
を約10気圧に昇圧する。
●エンジン回転方向
中圧圧縮機・中圧タービンと高圧圧縮機・
高圧タービンは回転方向が逆である。こう
することで空気の流れを真っ直ぐにして効
率よく作動させることができる。
低圧
中圧
高圧
低圧
中圧
7
現 場 を 訪 ね て
全日本モトクロス選手権シリーズ第3戦
全日本モトクロス選手権シリーズ第
戦(中国大会)
(グリーンパーク弘楽園/広島県世羅町)
スタート直後、舞い上がる土埃を背に1周目のみ右に急カーブを切る。
ここでのトップ
(ホールショッ
ト)争いは激烈だ。
8
Kawasaki News
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9
現 場 を 訪 ね て
﹁
国
際
A
級
﹂
ク
ラ
ス
の
決
勝
4
ヒ
ー
ト
︵
レ
ー
ス
︶
と
も
優
勝
、
表
彰
台
で
歓
喜
の
シ
ャ
ン
パ
ン
フ
ァ
イ
ト
「I
A1」決勝のヒート2。新井宏彰選手(ゼッケン331)
が激しく上位に
迫る。散水したコースから泥が跳ね上がる。
10
レース前、
「勝つために毎日、
厳しいトレー
ニングを積んでいる」
と語っていた「IA2」
の勝谷武史選手は、
ヒート1では、
5位か
ら徐々に追い上げ、
16周目でトップに
立つとそのままゴール。またヒート2では、
スタート直後にトップに立ち、
そのまま他
の追随を許すことなく大差でゴールし、
シ
リーズ第1戦に続いてパーフェクトVを達
成した。
自然の地形を生かしたコースのほぼ全体を見渡せるのが
モトクロスの特徴のひとつである。
「絶対両方(ヒート1
・
2)勝ちたかった」勝谷 1位でゴール直後の新井宏彰選手。
「ヒート1のトラブ
武史選手の喜びのシャンパンファイ
ト。
シリー ルがなければ完全優勝が可能だったと思います」。
シ
ズランキング1位を堅持。
リーズランキングは6位。
起伏に富んだ荒れ地を激走し、
年間10戦、
大空に飛ぶ
耳を聾する爆音。起伏に富んだジグ
ザグのコース。激走するモーターサイクル。
大地を蹴る。大空に大きく飛ぶ。舞い上
がる土埃。沸き上がる歓声−。
モトクロスは、丘陵など不整地に設け
られた未舗装の周回コースでスピードを
競うレースだ。
レースに用いられるモーターサイクル
は荒れ地のコースを走るため、
サスペンショ
ンのストロークを長く取り、灯火類を省く
など徹底して軽量化を図っている。
その見どころは、
「まず、
ロードレースと異なり、
コースの
ほぼ全体を見渡せるので、
レース状況
全体を見ながら楽しめること。スタートも、
予選順位で縦に並ぶロードレースと異な
り、横一線のスタート。スタートダッシュが
決め手のひとつで、
スタート直後の第一コー
ナーでのトップ(ホールショット)争いが最
初の見どころ。それに、
コースが自然の
地形を生かした勾配に加え、
人工的なジャ
ンプ台などがあり、
国際A級では20∼30m
の豪快なジャンプを見られるのも醍醐味
です」
(川崎重工 モーターサイクル&エ
ンジンカンパニー技術本部第四設計部
の甲斐誠一部長)
フープス
(洗濯板)
と呼ばれる凸凹コース。いかにリズムに乗って抜け
出るか。テクニックとライン取りで差がつく。
「IA2」決 勝
「ラス
ト 最高」
カワサキは今年も好スタート
モトクロスの国内トップレベルのレース
が、
「全日本モトクロス選手権シリーズ」
(主催:財団法人日本モーターサイクル
スポーツ協会[MFJ])
だ。各地で年間
10戦が行なわれ、
各大会のポイント合計
によって年間シリーズチャンピオンを争う。
その第3戦
(中国大会)
が5月15
・
16日、
広島県世羅町のグリーンパーク弘楽園
で開かれた。大会は好天に恵まれ、
約
1万1,
000人の観客(主催者発表)
で賑
わった。
レースはIB2
(国際B級クラス)、
レディ
ス、
チャイルドクラスなどがあるが、川崎
重工直属のカワサキレーシングチーム
(KRT)MX
(田澤豊晃監督[川崎重
工 モーターサイクル&エンジンカンパニー
技術本部第四設計部第二課])
が参戦
しているのが、
国際A級の「IA1」
(4
50
c
c)
クラスと
「IA2」
(250cc)
クラスだ。
「カワサキは、
1967年の全日本選手
権シリーズの始まりとともに参戦しており、
とりわけ2003年の4ストロークエンジン投
入後は、
『IA2』
クラスで年間シリーズチャ
ンピオンを逸したのは2004∼5年だけと
いう抜群の成績。今年もいけそうです」
のヒート2。独走の勝谷武史選手に田澤豊晃監督が
と書いた余裕のボードを示す。
(甲斐誠一部長)
今年、
「IA2」の専属ライダー、勝谷
武 史 選 手は1∼2戦を終えた時 点で
シリーズランキング1位。同じく井上眞一
選手は11位。
「IA1」の新井宏彰選手
は4位 。このクラスでカワサキに乗る
田中教世選手(TEAM TAKASE)
が3位。
各選手とも予選を経て決勝レースに
進出した。
かつ や
たか せ
決勝4ヒートとも
“ライムグリーン”が優勝
30分+1周で争われる決勝レースは、
1大会で2回行なわれる
(ヒート1、
ヒート2
という)
のが通例。各ヒートで得たポイント
が年間ポイントに加算されていく。
さて、
その決勝レース。
約30台のマシンが横一線でダッシュ
するスタートは圧巻だ。スタート直後、右
に急カーブを切る。激しいホールショット
争い−。
国際A級クラスの決勝は「IA2」
(ヒー
ト1)
、
「IA1」
(ヒート1)
、
「IA2」
(ヒート2)
、
「IA1」
(ヒート2)
の順に行なわれ、
4ヒー
トとも
“ライムグリーン”
(カワサキのレース
カラー)
が制した。
「IA1」のヒート1。
「目標は年間シリー
ズチャンピオン。
このコースはアスファルト
のように路面が硬いが、
自分に合ってい
る」と語っていた新井宏彰選手だが、
2位からトップに肉薄した際、スリップ
ダウンに前輪パンクというトラブルで順
位を落とした。このレースを制したのが、
TEAM TAKASEを率いる田中教世
選手。カワサキ「KX450FSR」を駆っ
て見事に優勝した。
ヒート2は、
雪辱に燃
えた新井宏彰選手が、
4番手から激しく
追い上げ、
13周目でトップに立ち、
今シー
ズンの初優勝を飾った。
マシンは「KX450FSR」と
「KX250FSR」
カワサキのファクトリーマシンは 、
「IA−1」
クラス
(450cc)が「KX450F−
SR」、
「IA−2」クラス
(250cc)が「KX
250F−SR」。
「カワサキの強みは、
エンジンがパワー
十分で力強く、
スタートダッシュがよい、
つ
まりホールショットを取りやすいこと。車体も、
直進の安定性がよいので荒れたコース
でも車体が振られません。それでいて車
体全体のバランスがよく、
コーナリング特
性に優れています」
(田澤豊晃監督)
「カワサキは、
ファクトリーマシンを市販
車の先行開発マシンの位置づけで開
発を行っています。今日のレースで快走
したマシンとほぼ同じ性能のマシンが市
販されるわけで、
こうしたことがファンから
強く支持されています」
(甲斐誠一部長)
ところで、
カワサキのモトクロスでの快
進撃は国内だけではない。例えば、
米国
の2010年AMAスーパークロス選手権
250c
cクラスでC.
プーセル選手が東地区、
J.
ワイマー選手が西地区のシリーズチャ
ンピオンを獲得するなど他を圧倒している。
●
全日本モトクロス選手権シリーズは、
ス
ポーツランドSUGO
(宮城県)
での第10
戦(10月)
まで激戦が続く。
レースの直前まで、
カワサキレーシングチームの
スタッフがマシンを入念に整備する。完全制覇
はチームワークの勝利だ。
Kawasaki News
159 2010/7
11
(草木湖)
を過ぎると谷が浅く
(左)渡良瀬渓谷を上流へ。草木ダム
なり、
川岸に下りられる。大小の岩を飛び越えて水辺に近づく。
よく晴れた夏の陽の下で、
清流が岩に砕けて白い飛沫が上がる。
丸みを帯びた岩が、
清流に洗われ続けた長い長い年月を物語っ
ている。
棚下
(中)山道から200段もの急な石段を昇ると姿を現わしたのが、
不動の滝(渋川市赤城町)
だ。雄滝と雌滝があり、
これは雄滝
(落差37m)。不動堂があり、修験者の修業の場として知られ
ている。滝の裏側の洞窟は薄暗くてひんやりとしており、
水のカー
テン越しに見る山間の景色には神秘的な雰囲気が漂っていた。
(右)谷川岳ロープウェー・土合口駅から湯檜曽川沿いに美しいブ
ナ林を40分ほど、森林浴を堪能しつつ歩いていると急に視界
が開けた。そそり立っているのは日本三大岩場の一つ、
谷川岳
の岸壁だ。水がきりりと冷たい。
12
Kawasaki News
2010/7
159 2010/7
新製品・新技術
川崎重工・兵庫工場で1編成
7両のうち4両が完成した「E
6系」
新幹線車両の量産先行車。
川崎重工が手がけた
大胆にして気品ある外観デザイン
穏やかで落ち着いた雰囲気のグリーン車客室。
安らぎの旅を楽しめる室内デザインである。
米どころ秋田を走るところから、豊かに実った稲
穂の中へ分け入るイメージの普通車客室。
改良型ハンドル形電動車いすに対応した大型
洋式トイレなどバリアフリー設備も充実している。
JR東日本「秋田新幹線用新型車両(E6系)
」の量産先行車1編成(7両)のう ち4両を納入
川崎重工は先頭車両を含む4両を
兵庫工場で製作
先頭車両の鼻の部分がおよそ13mも
ある、
いかにも高速イメージのシャープな
ロングノーズタイプで、
カラーデザインは車
体色が飛雲ホワイトで上部色が鮮やか
な茜色、
車体中央にアローシルバーのラ
イン−秋田新幹線用新型車両(以下、
「E6系」)の量産先行車(1編成7両)
が完成した。
秋田新幹線は、
東京−盛岡間を東北
新幹線車両と連結して走行し、盛岡駅
で分離。盛岡−秋田間は在来線の軌
道を改修した線路を走行している。新
幹線と在来線の両方を走るので“新在
直通車”
といわれる。
東北新幹線は八戸−新青森間が延
伸(今年12月4日に営業運転開始)
され、
2011年春に投入される新しい車両「E5
系」
(はやぶさ)
は、
2013年春には最高
時速320kmでの営業運転が計画され
ている。
これに伴い、
「E5系」
と連結して
走る秋田新幹線も最高時速320kmで
営業運転が可能な新型車両「E6系」
の開発を進めていた。
川崎重工は、
量産先行車
(1編成7両)
のうち、
先頭車両を含む4両を兵庫工場
(神戸市兵庫区)
で製作した。
14
Kawasaki News
159 2010/7
国内最速の最高時速
320kmでの営業運転を計画
「E6系」は、
2012年度末に秋田新幹
線に投入され、
当初は新幹線区間(東
京−盛岡)
を最高時速300kmで営業
運転を開始し、
2013年度末に国内最
速の最高時速320kmでの営業運転を
始める計画である。
「E6系」の鼻が長いのは、
この形状
にすることで高速列車がトンネルに入る
とき、
出るときのいわゆるトンネルドンとい
われる音(トンネル微気圧波)
を小さく抑
えられるからだ。
「『E6系』は東北新幹線の『E5系』
先頭車両の製作。ロン
グノーズのシャープな曲
線は主に手作業で創り
出される。
2009年12月に兵庫工
場内に完成した新塗装
工 場で塗 装され、乾 燥
中の先頭車両。
大胆なカラーデザインに
加えて、
先頭車両のヘッ
ドライトもひと味違った
デザインになっている。
これらのデザインはすべ
て川崎重工車両カンパ
ニーデザイン課によるも
の。監修を奥山清行氏
が行なった。
と連結して走るため、先頭車形状や走
行性能などが『E5系』
に準拠しています。
一方で、在来線も走る『E6系』は通常
の新幹線車両に比べて幅が狭く、
また、
カーブが通常の新幹線軌道に比べてき
つい在来線に対応して車体長も短くなっ
ています。
この狭い・短いという条件下で、
『E5系』に準拠した車両をつくるのに苦
労しました」
(川崎重工 車両カンパニー
技術本部設計部艤装設計課の大橋
良和担当課長[新幹線グループ長])
ちなみに、
現行の秋田新幹線「E3系」
は6両編成だが、
「E6系」では「E5系」
の環境性能を確保するとともに、
バリアフ
リー設備を充実させ、
「E3系」の6両編
成と同じ定員を確保するために7両編
成となっている。
冬期対策として新開発の
「融雪ヒーター」を設置
「E6系」は「E5系」
と同様、
全車に「フ
ルアクティブサスペンション
(車体動揺防
止制御装置)
」や、
「車体傾斜制御装置」
を設置する仕様となっており、走行中の
快適性の向上が図られている。連結部
には空力音を低減するための「全周ホロ」
も搭載した。
また川崎重工は「E3系」などの、
雪国
の在来線と新幹線の双方を走行する
“新
在直通車”
を多く製作してきたことで培っ
た経験や技術を「E6系」に注ぎ込んで
いる。そのひとつが雪害対策だ。
いうまでもなく秋田新幹線は冬期には
雪の中を走らなければならず、
車輪が跳
ね上げた雪が床下に付着して走行の妨
げになることがある。そこで、
「融雪ヒー
ター」
を開発し、
床下端部に設置した。
改良型ハンドル形電動車いすに対応
した大型洋式トイレと多目的室などバリ
アフリー設備も充実。セキュリティとして
客室内およびトイレ内に非常通話装置を、
またデッキ部に防犯カメラを設置した。
照明は、
客室を除いて電力消費の少
ないLED
(発光ダイオード)
を採用して
環境に配慮している。
ところで、
「E6系」の車体カラーデザイ
ンは、
従来の新幹線と比べて大分ちがう。
実は、
「E6系」のエクステリア
(外観)
デ
ザインおよびインテリアデザインは、川崎
重工が新幹線の営業車では初めて担
当した。
このように単独メーカーがデザイ
ンを担当することは初めてである。川崎
重工車両カンパニーのデザイン課はこれ
までにも直接・間接に各種車両のデザイ
ンを担当してきた。今回の「E6系」デザ
インでは、
上部色の茜色が“気品ある大
胆さ”を見事に演出している。
「インテリアデザインは、
“ゆとり”
と“や
さしさ”、
“あなたの”をキーワードに、
“丁
こしら
あつら
寧な拵えと誂え”がコンセプトです。
普通車は、
米どころ秋田路のイメージ
から、豊かに実った稲穂の中へ分け入
る時の高揚感や自然の恵みを感じられ
る空間を創出しました。グリーン車は、
穏
やかな落ち着いた空間で、
安らぎの旅を
ゆっくり楽しめる空間となっています」
(川
崎重工 車両カンパニー技術本部設計
部デザイン課の亀田芳高主事)
なお、
自動車のデザインなどで国際的
に有 名な工 業デザイナー、奥山 清 行
(Ken Okuyama)氏とコラボレーション
し、
デザインに反映させている。
普通車の座席は、
川崎重工グループ
で座席の設計・製造を担当している川
重車両コンポ
(株)
( 川崎重工・兵庫工
場内)
が製造して納入した。
●
「E6系」車両は、
これから性能確認
のための試験走行が重ねられていく。
はしけ
この量産先行車は6月上旬、
川崎重工・兵庫工場から艀で
神戸港まで行き、
そこで本船に積み替え仙台港に搬送した
後、
JR東日本・新幹線総合車両センター
(宮城県利府町)
に搬入された。
ワシントン首都圏交通局向け
新型地下鉄電車の受注内定
再生医療向けに高品質・高効率の「細胞自動培養ロボットシステム」を開発
川崎重工と独立行政法人産業技術総合研
を図るとともに、過酸化水素蒸気による除染機
川崎重工は、米国の現地法人Kawasak
i
究所は、将来の大きな成長が期待される再生
能を装備し、
装置内を常に無菌状態に保つこ
医療向けに、
多人数の細胞を同時に、
高品質・
とで、多人数の細胞を同時に取り扱うことが可
能になった。
また、
培養以外の作業についても、
装置内で手作業ができるように人介入機構を
装備してシステムの汎用性を高めた。さらに、
画像処理によって細胞の培養状態を判断する
自動判定機能やユーザーの運用をサポートす
る遠隔監視機能の装備など、医療現場のさま
ざまな要求に的確に対応している。
Ra
i
l Car,I
nc(K
. RC:ニューヨーク州ヨンカー
ス市)
を通じて、
全米第3位の地下鉄電車の車
両 保 有 数を誇るワシントン首 都 圏 交 通 局
(WMATA)
から、
同交通局向けとしては初の
地下鉄電車(7000系)
428両の発注内示を
受けた。
受注金額は約8.
8億ドル(約810億円)で、
車両の構体製作および機器取付、
最終組立、
試験をリンカーン工場(ネブラスカ州)
で行ない、
2013年から2016年にかけて納入の予定。
7000系地下鉄電車は、
ダレス国際空港へ
の延伸計画、
老朽化した既存車の更新計画、
ならびに、混雑緩和など旅客サービス向上計
画に従って導入される。WMATAとしては初
めてのステンレス鋼製構体を採用し、従来、各
車両に設置していた運転室を2両当たり1か所
とすることで客席数が増加している。
また、
デジ
高効率に完全自動培養する
「細胞自動培養ロ
ボットシステム」の実用機を開発した。
再生医療は、病気やけがなどで機能を失っ
た臓器や組織を、
培養した細胞・組織を使って
回復させる先端医療である。
今回開発したシステムは、
2台のクリーンロボッ
トが並行動作を行なうことで、
熟練技術者の複
雑な動作を再現して培養作業の完全自動化
イフリ ート ビ ート
大型貫流ボイラ「I
f
r
i
t Beat」用
世界初の燃焼ターンダウン10
:
1制御システムを新発売
タルコンテンツ表示装置やCCTVカメラ、
情報
伝達システムなど、
従来車にはない最新システ
川 重 冷 熱 工 業( 株 )は、大 型 貫 流ボイラ
「I
f
r
i
tBea
t」
(以下、
イフリートビート)
のガス焚
き仕様「6
t/h」および「5
t/h」
タイプにおいて、
貫流ボイラとしては世界で初めて連続燃焼に
よる負荷調整可能領域を大幅に拡大した燃
焼ターンダウン10:
1制御システムを開発し、発
ムを採用した新型車両である。
シンガポールの地下鉄工事向けにシールド掘進機5基を連続受注
川崎重工は、
シンガポールの地下鉄建設
工事に投入されるシールド掘進機5基を受注
した。今回の受注は、
SK Eng
i
neer
i
ng &
Construction( 韓 国 )から3基 、GS
Eng
i
nee
r
i
ng & Cons
t
ruc
t
i
on
(韓国)
から
2基を連続受注したもので、
2010年9月から
2011年1月にかけて順次、
納入の予定。
受注したのは泥水式シールド掘進機(直径
6.
63m)で、現在、
シンガポール陸上交通庁
(LTA)が進めている地下鉄ダウンタウンライン
第2期建設工事(全長約16.
6km)のうち、
ふ
たつの工区に投入され、
合わせて上下線全長
約7kmを掘削する。
今回受注した泥水式シールド掘進機は、軟
弱土層の掘進に用いられるシールド掘進機の
技術と、岩盤や礫層などの掘削に用いられる
TBM(トンネルボーリングマシン)の技術を融
合した岩盤対応型の掘進機で、
複雑な土質を
1基の掘進機で掘削できる。
また、
曲線部の掘
削に対応するため中折れ式を採用するなど工
区特性に合わせた仕様になっている。
インドに二輪車の輸入・販売の現地法人を設立
川崎重工はインドに、
二輪車の輸入・販売を
行なう現地法人I
nd
i
a Kawas
ak
i Mo
t
o
r
s
Pv
t.
Lt
d(
.IKM:インディア カワサキ モーター
ス、
代表者:谷川佳裕、
マハラシュトラ州プーネ市)
を設立した。
IKMは、
主に250c
c以上のスーパースポーツ、
スポーツ、
クルーザーなどのモデルを数機種導
入し、
2010年には約1,
000台の販売を見込ん
でいる。
インドの二輪車市場は、
2009年には約780
万台と中国に次ぐ世界第2位の規模で、経済
の発展に伴って201cc以上の中・大型クラスの
市場(約3万台)拡大が見込まれている。川崎
重工は、
得意とする中・大型二輪車の販売で、
インド市場に本格的に参入した。
新開発の3万kW級発電用新型ガスタービンの実証運転でダイセル化学工業(株)と合意
川崎重工は、
3万kW級の発電用新型ガスター
ビン「L30A」を開発し、
2010年7月から試運
転を開始した。
「L30A」は、
同出力クラスでは
世界最高の発電効率と環境性能を誇る、
川崎
重工製ガスタービンの最大出力機種である。
また、
ダイセル化学工業(株)姫路製造所網
干工場に、商用1号機となる「L30A」を原動
機としたコージェネレーションシステムを設置し、
2012年度から実証運転を始めることに合意し
た。
この実証運転により、
同網干工場に電力と
熱(蒸気)
を供給し、
CO2削減に貢献するととも
ンシステムでの総合熱効率は80%以上、
コンバ
インドサイクル発電プラントでの発電効率は50
%以上を実現した。
しかも、
独自開発のドライ低
エミッション
(DLE)燃焼器の搭載により、
NOx
(窒素酸化物)
の排出量を15ppm
(O2=15%)
売した。
燃焼ターンダウンというのは、燃焼制御が可
能な最大燃焼量と最小燃焼量との比で、
通常、
最小燃焼量を「1」で表す。今回、発売した制
御システムは、
バーナの燃焼量を最大燃焼量
の10分の1まで制御することで、
ボイラ燃焼の
ON−OFF切り替えを最少限に抑え、
省エネル
ギーと環境負荷低減に寄与できる。本システム
を搭載していない従来機
(燃焼ターンダウン6
:
1)
と比べると、
燃料消費量およびCO2を最大13%
(蒸気負荷10%での川重冷熱工業による測定
値の比較)削減が可能になる。
本システムの有効な利用先としては、
蒸気負
荷変動が激しく、現状のボイラでは頻繁なON
−OFF運転を余儀なくされているケースや、
燃
料消費量の大きな削減が期待できるコージェ
ネレーションシステムなどのバックアップ用熱源
などが挙げられる。
ナイキジャパンのキャンペーンでカワサキロボットが活躍
南アフリカ共和国で開かれ、世界中を熱狂
させた「2010 FIFA ワールドカップ」
(6月11日
∼7月11日)。
この大会に関連したナイキジャパ
ンの「Tu
l
i
o Twi
t
t
erSt
atue」キャンペーン
(5月11日∼6月24日)
で、
カワサキロボットが活
躍した。
このキャンペーンは、
日本代表の田中マルク
ス闘莉王選手の活躍を願い、サポーターから
寄せられたメッセージを同選手の像(St
a
tue)
にロボットが刻んでいくというもの。川崎重工グ
ループは、高精度NC
(数値制御)
ロボット技
術と
「KCONG f
o
rMILLING」で協力した。
「KCONG f
o
r MILLING」は、
製品形状
の3次元CAD
(コンピュータによる設計)
データ
を元にして、
ロボットによる3次元切削加工の動
作プログラムを自動作成するソフトウェア。
オペレー
タの負担を軽減したマウスクリックによる簡単操
作で、
コストと期間の大幅な削減を実現した。
適用例として発泡スチロールやウレタン、
木材、
石材などの切削加工が挙げられる。
キャンペーンでは、選ばれた激励メッセージ
がカワサキロボットに装着したドリルで鮮やかに
刻まれていき、
話題を呼んだ。
以下に抑えた。
これは、
世界最高レベルである。
(左)田中マルクス闘莉王選手の
像を自動的に削り出すカワサキロボッ
ト
(川崎重工・明石工場)。
(右)同選手の像にサポーターから
寄せられた“がんばれメッセージ”
を刻んでいるところ
(N
I
KE原宿店
店頭にて)。
に、
「L30A」の耐久性と信頼性を確認する。
「L30A」は、
圧縮機の高圧力比化、
新開発
の耐熱材料の適用、
タービン冷却技術の改良
などにより、
同出力クラスでは世界最高の発電
効率40%以上を達成。
また、
コージェネレーショ
16
Kawasaki News
159 2010/7
川崎重工の最新情報はホームページでもご覧いただけます。 http://www.khi.co.jp
17
金山平三の世界
「メリケン波止場(神戸)
」 1956-60年(昭和31-35年) 33.3×53.0cm 油彩・布 兵庫県立美術館蔵
相
良
周
作
︶
︵
兵
庫
県
立
美
術
館
学
芸
員
を
画
す
る
も
の
と
し
て
い
る
。
そ
れ
が
本
作
を
単
な
る
都
市
の
描
写
と
は
一
線
は
、
空
や
水
面
の
微
妙
な
雰
囲
気
の
表
現
で
あ
り
、
度
以
上
に
本
作
で
金
山
が
主
眼
に
置
い
て
い
る
の
人
々
に
親
し
ま
れ
た
。
し
か
し
地
誌
学
的
な
精
一
九
八
六
年
︵
昭
和
六
一
年
︶
ま
で
長
ら
く
神
戸
の
戸
商
工
会
議
所
で
、
和
洋
折
衷
様
式
の
建
物
は
、
一
九
二
九
年
︵
昭
和
四
年
︶
に
建
造
さ
れ
た
旧
神
独
特
の
五
角
形
の
フ
ァ
サ
ー
ド
を
示
す
建
築
物
は
、
び
親
し
ま
れ
て
い
る
。
ま
た
画
面
中
央
左
寄
り
の
、
通
称
と
な
っ
た
も
の
で
、
現
在
も
な
お
人
々
に
呼
明
治
時
代
ア
メ
リ
カ
領
事
館
が
あ
っ
た
こ
と
か
ら
れ
﹁ て
メ い
リ る
ケ 。
ン
波
止
場
﹂
の
名
称
は
、
こ
の
北
側
に
か
ら
東
を
望
む
構
図
で
、
港
町
神
戸
が
と
ら
え
ら
市
所
蔵
の
﹁
港
﹂
︶
と
と
も
に
、
メ
リ
ケ
ン
波
止
場
少
な
い
そ
の
う
ち
の
一
点
で
、
類
似
の
作
品
︵
神
戸
に
し
た
作
品
は
そ
れ
ほ
ど
多
く
な
い
。
こ
れ
は
数
手
が
け
た
風
景
画
の
中
で
、
故
郷
神
戸
を
題
材
神
戸
生
ま
れ
の
金
山
だ
が
、
生
涯
に
わ
た
っ
て
金山平三と川崎重工
金山平三画伯は、1883年(明治16年)神戸に生まれ、1964年(昭和39年)80歳で生涯を終えました。
1909年(明治42年)東京美術学校(現在の東京芸術大学)
を首席で卒業した後、
欧州各地で制作を重ね、
1916年(大正5年)
には、
第10回文展に出品した作品が特選第二席になりました。生涯にわたって旺盛な創
作活動を続け、
自然風土を相手に多くの名画を残し、
その業績は近代洋画史上に燦然と輝いています。
川崎重工は第11回文展に出品された「造船所」が縁となり、
その後、
交流を深めました。画伯の晩年には、
自選作品138点の永久保管の依頼を受け、
その作品を預かるほどでした。後になり川崎重工は、
一部の作
品を残して、
兵庫県立近代美術館(現・兵庫県立美術館)
にすべて寄贈しました。
数故
少郷
な神
い戸
一
点を
描
い
た
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