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新しい感染症について

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新しい感染症について
新しい感染症について
昨年(2003 年)は SARS に始まり、ウエストナイル熱、トリインフルエンザと目新しい
感染症が世間を賑わせました。幸い日本ではいずれの疾病についても患者の発生は
見られませんでした(2004 年4月現在)が、今後いつそれらの患者が現れるかも知れ
ませんし、或いはさらに別の新しい感染症が登場してくるかもわかりません。
今回の SARS や 1981 年に突如登場したエイズなどのように新しく出現した感染症の
ことを「新興感染症」と言います。O157 やエボラ出血熱などもそうです。これら新興感
染症の一部を表にします。
年 次
病 原 体 名
疾 患 名
主な流行地
1967
マールブルグウイルス
マールブルグ病
アフリカ
1968
インフルエンザウイルス
A(H3N2)
インフルエンザ
1969
ラッサウイルス
ラッサ熱
1973
ロタウイルス
乳幼児嘔吐下痢症
1976
エボラウイルス
エボラ出血熱
西・中アフリカ
1981
HIV
エイズ
アメリカ
1982
大腸菌O157
出血性大腸炎・HUS
アメリカ
西アフリカ
※
1992
ビブリオコレラO139
新型コレラ
インド
1994
ヘンドラウイルス
脳炎
オーストラリア
1997
インフルエンザウイルス
インフルエンザ
香港
脳炎
マレーシア
A(H5N1)
1999
ニパウイルス
1999
ウエストナイルウイルス ウエストナイル熱
アメリカ
2003(2002)
SARSコロナウイルス
中国 香港
SARS
※ HUS:溶血性尿毒症症候群
WHO では新興感染症の定義を「それまで知られておらず、新しく認識された感染症
で、局地的、或いは国際的に公衆衛生上問題となる感染症」としていますが、その典
型的な例がSARSです。2002 年 11 月、中国に出現したこの疾病は 2003 年になって、
香港、中国を中心に世界 30 か国に広がり、8000 人の患者を数えるに至りました。そ
れまでまったく存在しなかった疾病です。原因については、もともと動物が持っていた
ウイルスが突然ヒトに感染しやすい型に変異し、人間界に侵入してきたものと考えら
れています。
時代は戻りますが、AIDSは 1981 年にアメリカにおいて初めて患者の報告がなされ、
その後、世界中で患者発生が見られたのは周知のとおりです。1983 年に原因ウイル
スが発見されました。この疾病は我々には突然の出現のように見えましたが、その後
調査してみると、少なくとも 1959 年にはアフリカに存在していたことがわかりました。
おそらく風土病として局所的に存在していたこの感染症が、1970 年代になって密かに
世界に広がっていき、ついにアメリカで「AIDS」という診断名で認識されたものと考え
られます。その起源についてはウイルス遺伝子の解析からチンパンジー或いはオナ
ガザルの一種ではないかと言われています。
ウエストナイル熱も昨年は日本に上陸はしませんでしたが、アメリカでは 9858 人が
罹患し、262 名が死亡しました。この疾病は 1999 年夏、突如ニューヨークに出現しまし
た。出現当初はアメリカ常在のセントルイス脳炎と思われていましたが、その後の調
べで、アフリカ、中東、ヨーロッパでしばしば見られるウエストナイル熱であることが判
明しました。この病原ウイルスは 1937 年ウガンダの患者から既に分離されており、全
くの新しい疾病ではないのですが、アメリカ大陸に飛び火し大流行を起こしたことには
誰もが驚きました。アメリカ東海岸に上陸したこのウイルスはその後西進し、遂に西
海岸にまで辿り着きました。飛行機などによる日本への持ち込みが心配されるところ
です。
インフルエンザは数十年ごとに大きな流行を起こしています。1918 年のスペインか
ぜ、1957 年のアジアかぜ、1968 年の香港かぜです。これは遺伝子的に(ヒトにとって)
新しいタイプのインフルエンザウイルスが登場したためで、前記3つはそれぞれH1N
1型、H2N2型、H3N2型と分類されます。その「H」や「N」の遺伝子の由来はトリイン
フルエンザウイルスと考えられています。新型インフルエンザの登場にはトリインフル
エンザウイルスが大きな鍵を握っているのです。
1997 年、香港で発生したH5N1型ウイルスによるインフルエンザではトリからヒトに
感染し、18 名が入院し、そのうち6名が亡くなりました。このH5N1型トリインフルエン
ザは昨年(2003 年)末、アジア各地のニワトリ間で流行し、一部ヒトにも感染しました。
そして本年初め、遂に日本にも上陸し、多くのニワトリが死亡または屠殺処分となった
ことは周知のとおりです。幸い日本でヒトへの感染がなかったことは冒頭に述べたと
おりです。
このような新しい感染症がなぜ起きるのか。ひとつは相手(病原微生物)側の事情
です。生物ですからしばしば変異は起きます。新しい病原体にたいしてヒトは必ずしも
十分な対応がとれません。人類側の原因としては、森林の伐採などにより自然環境
を破壊する結果、森林の奥深くに生息する動物が保有する病原体を顕在化させてし
まう、ということが挙げられます。また、交通手段の発達により、人的、物的輸送が拡
大し、高速化した現代において、一地方に出現した感染症が瞬く間に world wide に拡
散してしまうこと、なども挙げられます。いずれにしても我々は常にこれら感染症の脅
威に曝されることになります。
しかし世界の研究者はいち早く新しい病原体をキャッチし(AIDSは2年、SARSは
数ヶ月!)その検査法と治療法、対処法を確立させるべく努力しています。
私達はむやみに恐れるのではなく、個々の感染症に対する正しい認識を持ち、冷静
に対処することが大切です。
(微生物グループ)
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