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平成21年度 政策課題研究「四王寺塾」
ICTを活用した行政サービス
∼
自治体を越えたワンストップ大作戦
第1班
久留米市
土 井
徹
大牟田市
枝 折
明 里
飯 塚 市
大 久 保
新 宮 町
堺
福 岡 県
福 澤
‐ 1 ‐
芳 彦
好 行
毅
∼
もくじ
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
第1章
ICTの概念と現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
第1節
ICTとは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
第2節
ICTの主な特徴・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
第3節
情報通信の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
第4節
これまでの国の動向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8
第5節
今後の国の動向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9
第6節
福 岡 県 の 動 向 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 10
第2章
行 政 サ ー ビ ス の 現 状 と 課 題 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 11
第1節
窓 口 業 務 の 現 状 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 11
第2節
事 務 処 理 の 現 状 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 12
第3節
紙 ベ ー ス で の 文 書 行 政 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 14
第4節
市 町 村 職 員 数 の 減 少 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 14
第5節
進 ま な い オ ン ラ イ ン 申 請 の 利 用 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 15
第6節
求 め ら れ る 広 域 行 政 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 17
第7節
こ れ か ら の 行 政 に お け る 課 題 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 18
第3章
課 題 解 決 へ の 方 向 性 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 19
第1節
行 政 窓 口 の ワ ン ス ト ッ プ サ ー ビ ス ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 19
第2節
シ ス テ ム の 標 準 化 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 21
第3節
安 全 性 の 確 保 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 22
第4節
I C T 弱 者 へ の 対 応 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 25
第5節
地 域 協 働 の 推 進 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 25
第6節
P D C A サ イ ク ル の 導 入 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 26
第4章
事 例 研 究 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 27
第1節
文 献 調 査 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 27
第2節
先 進 地 視 察 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 31
第5章
政 策 提 言 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 43
第1節
総 合 窓 口 の 実 現 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 43
第2節
ポ ー タ ル サ イ ト の 構 築 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 47
第3節
他 の 組 織 と の シ ス テ ム 連 携 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 50
第4節
我 が 班 の 提 言 (ま と め )・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 53
お わ り に ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 55
‐ 2 ‐
はじめに
コンピューターや通信技術の急速な発展は、情報流通の費用と時間を劇的に低下させ、
密度の高い情報のやり取りを容易にすることにより、人と人との関係や人と組織との関
係、人と社会との関係を一変させようとしている。
民間企業の活動を例にとってみると、宅配便などで荷主や荷物の受け取り側が宅配状
況を確認できるシステムやICカードなどを用いてチケットレスで鉄道やバス、航空機
などに乗れる電子乗車券など、企業が業務効率や顧客満足度などを向上させるために投
資したシステムは、国民に高い利便性を提供している。
このように、民間分野においては、情報通信技術(ICT)を活用したサービスが普
及しつつある。しかし、行政分野においては、電子申請や電子申告サービスなどが提供
されているものの、利用者が利便性を感じることができるサービスとはなっておらず、
利用率は非常に低いまま推移している。
ICTを利活用した公的サービスの利便性を向上させるためには、デンマークやイギ
リスなど諸外国の事例を含め先進的なサービスを分析するほか、市町村業務自体の見直
しも必要である。そのため、我が班では、市町村業務の現状と課題を分析し、先進事例
を検討した上、総合窓口と行政ポータルを用いた究極のワンストップサービスを提案す
る。
‐ 3 ‐
第1章
第1節
ICTの概念と現状
ICTとは
I C T と は 、 Information
and
Communication
Technology の 略 で 、 情 報 ・ 通 信 に
関 連 す る 技 術 一 般 の 総 称 で あ る 。 多 く の 場 合 、「 情 報 通 信 技 術 」 と 訳 さ れ て い る 。
日 本 で は 従 来 、同 様 の 意 味 を 持 つ 言 葉 と し て I T( Information
Technology)と い う
言葉が普及していたが、人と人とを繋ぐ手段として情報技術を活用する事例が増えてき
た た め 、I T に C( Communication)を 加 え た I C T と い う 言 葉 が こ こ 数 年 用 い ら れ る よ
うになってきている。国際的にもITよりもICTという呼称のほうが一般的であり、
また総務省の「IT政策大網」も、2004年以降は「ICT政策大網」に名称が変更
されている。
第2節
ICTの主な特徴
ICTの持つ特徴と能力については下記のような点が挙げられる。
・情 報 の デ ジ タ ル 化 に 伴 い 、大 容 量 の 様 々 な デ ー タ を 蓄 積 、高 速 に 処 理 で き 、情 報
の収集・分析が可能。
・高速・大容量通信技術の発展により、時間的・空間的制約が克服され、遠隔地と
の情報共有、データ伝送が可能。
・ 人 々 が 、年 齢 、 職 業 、 居 住 地 な ど の 属 性 に 関 係 な く 多 様 な 形 態 で 双 方 向 の コ ミ ュ
ニケーションや情報交換が可能。
・ 携 帯 電 話 等 の モ バ イ ル 端 末 の 普 及 に よ り 、自 宅 か ら だ け で な く 、職 場 や 外 出 先 か
らでもネットワークに参加が可能。
第3節
情報通信の現状
1.インターネットの利用者数及び人口普及率
平成20年末のインターネット利用者数は、平成19年末より280万人増加して9,
0 9 1 万 人( 対 前 年 比 3 .2 % 増 )、人 口 普 及 率 は 7 5 .3 %( 対 前 年 比 2 .3 % 増 )と
なっている。図表1に示すとおり、平成12年頃から急速に普及していることがうかが
える。これは家庭用パソコンの普及や携帯電話等のモバイル端末からインターネットを
利用することができるようになったことが影響していると考えられる。
‐ 4 ‐
図 表 1 インターネットの利 用 者 数 及 び人 口 普 及 率 の推 移
【出 典 】 総 務 省 「平 成 20年 通 信 利 用 動 向 調 査 」
2. インターネット利用端末の種類
個人がインターネットを利用する際に使用する端末については、平成20年末のモバ
イ ル 端 末 利 用 者 が 、平 成 1 9 年 末 よ り 2 1 9 万 人 増 加 し て 7 ,5 0 6 万 人( 対 前 年 比 3 .
0 % 増 )、 パ ソ コ ン か ら の 利 用 者 は 、 4 4 2 万 人 増 加 し て 8 , 2 5 5 万 人 ( 対 前 年 比 5 .
7%増)となっている。
また、パソコンとモバイル端末の併用者が、6,196万人となっていることから、
場所と場面によって利用端末を使い分けているものと想定される。
さらに、最近ではテレビやゲーム機からインターネットに接続する人が増えているこ
とから、インターネット利用端末の多様化が進んでいることもうかがえる。
図 表 2 インターネット利 用 端 末 の種 類 (平 成 20 年 末 )
【 出 典 】 総 務 省 「平 成 20年 通 信 利 用 動 向 調 査 」
‐ 5 ‐
3.年代別インターネット利用状況
平成20年末における個人の世代別インターネット利用率は、13歳∼49歳までは
9割を超えているが、60歳以上の世代では依然として低い。インターネット利用率が
他の年代よりも低い要因として、キーボードで入力するなどの操作能力が低いことや、
パソコンを使用する明確な動機があまりないことが挙げられる。例えば、学生や社会人
は、勉強や業務上でパソコンを利用する必要があるが、高齢者にはそのような機会、環
境、状況はほとんどない。そのため、あまりパソコンやインターネットを利用する必要
性を感じていないことが関係していると考えられる。
図 表 3 年 代 別 インターネット利 用 状 況
【出 典 】 総 務 省 「平 成 20年 通 信 利 用 動 向 調 査 」
4.インターネットの利用目的
平成20年末におけるインターネットの利用目的について見てみると、パソコンから
の 利 用 は「 企 業・政 府 な ど の ホ ー ム ペ ー ジ( ウ ェ ブ )・ブ ロ グ( ウ ェ ブ ロ グ )の 閲 覧 」が
56.8%と最も高くなっている。また、平成19年末から最も利用が伸びたのはデジ
タルコンテンツ(音楽・音声、映像、ゲームソフト等)の入手・聴取であり、前年から
3.1ポイント増となっている。一方、携帯電話からの利用は「電子メールの受発信」
が54.5%と最も高くなっており、また、利用の伸びも最も大きく前年から6.3ポ
イント増となっている。
‐ 6 ‐
図 表 4 インターネットの利 用 目 的
【 出 典 】 総 務 省 「平 成 20年 通 信 利 用 動 向 調 査 」
‐ 7 ‐
第4節
これまでの国の動向
∼電子自治体への取組み∼
国は、平成12年11月に高度情報通信ネットワーク社会の形成に関する基本方針を
定めた「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)」を成立させ、平成
13年1月に内閣総理大臣を本部長とする「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本
部(IT戦略本部)」を設置している。
IT戦略本部は、すべての国民がITを積極的に活用でき、かつその恩恵を最大限に
享受できる「IT革命と知識創発型社会への移行」などを掲げ、平成13年1月に「e
‐ J a p a n 戦 略 」を 策 定 し 、I T 革 命 へ の 本 格 的 な 取 組 み を 開 始 し た 。さ ら に 平 成 1
5年7月には、ITの利活用により「元気・安心・感動・便利」社会の実現を目指し、
軸足をこれまでの情報通信基盤整備からITの利活用へと移行させる「e‐Japan
戦略Ⅱ」を策定した。また、この戦略に基づく「電子自治体推進指針」も策定され、こ
の指針を踏まえ、各自治体では電子自治体の基盤整備と行政手続きのオンライン化等が
推 進 さ れ て き た 。こ れ ら の 戦 略 で は 、情 報 通 信 基 盤 の 確 立 と 機 器 の 普 及 に 重 点 が 置 か れ 、
世界最先端のIT国家を目指した情報通信技術の普及と進展を推進する施策を展開して
おり、前節のインターネット普及率などを見ても情報通信基盤が着実に整備されている
ことがうかがえ、一定の成果が上がっていると考えられる。
しかしながら、多くの国民がその成果を実感するまでには至らなかった。その点を踏
ま え 、平 成 1 8 年 1 月 に 、
「 い つ で も 、ど こ で も 、何 で も 、誰 で も I T の 恩 恵 を 実 感 で き
る社会の実現」を目標に「IT新改革戦略」を策定し、「世界最先端のIT国家」の実
現に向けて取組みを進めてきた。
これらの経緯をふまえ、総務省は、平成19年3月に「新電子自治体推進指針」を策
定し、「2010年度(平成22年度)までに利便・効率・活力を実感できる電子自治
体を実現すること」を目的とした取組みを進めている。
図表5
我 が国 のIT戦 略 と電 子 自 治 体 の展 開
新電子自治体
推進指針
(2007年3月)
電子政府・電子自治体推進
プログラム(2001年10月)
IT革命に対応した地方公共団体
における情報化施策等の推進に
関する指針(2000年8月)
(電子自治体の目標)
2010年度までに利
便・効率・活力を実感
できる電子自治体を
実現
電子自治体推進
指針
(2003年8月)
・共同アウトソーシング
の推進等
・LGWAN、住基ネットの整備など
◆IT基本法
◆IT戦略本部設置(本部長:内閣総理大臣)
e-Japan戦略
(2001年1月)
IT基盤整備
2001
e-Japan戦略Ⅱ
(2003年7月)
IT利用・利活用重視
2003
IT新改革戦略
(2006年1月)
(電子行政の目標)
世界一便利で効率
的な電子行政
−2010年度までに
オンライン申請率
50%達成等
ITの構造改革力の追求
2006∼
【出 典】 総 務 省「 総 務 省 における電 子 自 治 体 推 進 の主 な取 組 み 」
‐ 8 ‐
第5節
今後の国の動向
IT戦略本部は自民党政権下において、平成21年7月6日に「i‐Japan戦略
2015」を公表している。この新たな戦略は、以下の3つの柱に関する政策としてい
る。
(1)三大重点分野
①電子政府・電子自治体分野
②医療・健康分野
③教育・人財分野
(2)産業・地域の活性化及び新産業の育成
(3)デジタル基盤の整備
その中でも、電子政府・電子自治体分野においては、2015年までにデジタル技術
による「新たな行政改革」を進め、国民利便性の飛躍的向上、行政事務の簡素効率化・
標準化、行政の見える化の実現を目標としている。その方策には、以下のような注目す
べき点がある。
(ア ) 過 去 の 計 画 の フ ォ ロ ー ア ッ プ と P D C A の サ イ ク ル を 行 い 、適 切 な 評 価 に 基 づ
く不断の見直し、改善を徹底していき、その結果を公表していく。
※
(イ ) ク ラ ウ ド コ ン ピ ュ ー テ ィ ン グ な ど の 新 し い 技 術 を 導 入 す る こ と に よ り 、 業 務 ・
システム最適化、行政情報システムの全体最適化を図る。
(ウ ) 国 と 地 方 の 既 存 の ネ ッ ト ワ ー ク を 十 分 活 か す よ う 、 制 度 、 シ ス テ ム 等 の 問 題 点
を点検し、改善を図る。
(エ ) 行 政 オ フ ィ ス に お け る 徹 底 し た 業 務 プ ロ セ ス を 見 直 し 、 ま た ペ ー パ ー レ ス 化 を
図る。
(オ ) 「 希 望 す る 国 民 ・ 企 業 に 提 供 さ れ る 、 電 子 空 間 上 で 安 心 し て 年 金 記 録 等 を 入 手
し、管理できる口座であり、社会保障分野のみならず幅広い分野でワンストッ
プの行政サービスをするものである」と定義された「国民電子私書箱」構想。
(カ ) 電 子 政 府 ・ 電 子 自 治 体 を 強 力 に 推 進 す る た め の 法 制 度 の 整 備 。
上記のような内容が盛り込まれた今回の「i‐Japan戦略2015」ではあった
が、平成21年8月30日の衆議院議員選挙の結果、民主党が新政権を発足させ政権交
代がなされた。民主党政権において、平成21年度補正予算執行見直しや行政刷新会議
による事業仕分けなどが行われ、その結果ICTの利活用に関する事業についても大幅
な事業見直しが行われている。
「 i ‐ J a p a n 戦 略 2 0 1 5 」に つ い て も 、今 の と こ ろ
実質的に実行されていない状況であり、今後民主党政権の下、どのようなIT戦略が行
われていくか明らかになっていない。
‐ 9 ‐
・・・
語句説明
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
※ クラウドコンピューティング :従来は手元のコンピューターで管理・利用していたようなソ
フトウェアやデータなどを、インターネットなどのネットワ
ークを通じてサービスの形で必要に応じて利用する方式。
IT業界ではシステム構成図でネットワークの向こう側を雲
(cloud:ク ラ ウ ド )の マ ー ク で 表 す 慣 習 が あ る こ と か ら 、こ の
ように呼ばれる。
参考:IT用語辞典
http://e-words.jp
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・
第6節
福岡県の動向
福 岡 県 で は 、 平 成 1 4 年 に 、「 高 度 な 情 報 通 信 基 盤 」、「 国 際 競 争 力 を 持 っ た 人 材 の 育
成 」、「 行 政 の 電 子 化 推 進 」 を 3 つ の 柱 と す る 「 ふ く お か I T 戦 略 」 を 策 定 し 、 様 々 な 先
進 的 I T プ ロ ジ ェ ク ト に 取 り 組 ん で き た 。さ ら に は 、平 成 2 0 年 3 月 に は 、
「ふくおかI
T 戦 略 」の 成 果 を 踏 ま え 、
「 豊 か な 福 岡 県 の 実 現 」や「 世 界 に 開 か れ た 福 岡 県 の 実 現 」を
目標に「新ふくおかIT戦略」を策定し、取組みを推進している。
ま た 、「 新 製 品 ・ 新 市 場 ・ 雇 用 創 出 」 を 目 的 と す る プ ロ ジ ェ ク ト を 取 り ま と め た 「 福
岡ニューディール計画」において、社会コストの削減と国際競争力のある電子社会の構
築を目指して、
「 情 報 シ ス テ ム 共 通 基 盤 の 開 発 に よ る 次 世 代 電 子 政 府・自 治 体 の 実 現 」に
取り組むこととしている。
‐ 10 ‐
第2章
第1節
行政サービスの現状と課題
窓口業務の現状
近 年 、I C T は 急 速 に 発 達 し 、民 間 部 門 で は I C T を 活 用 す る こ と に よ っ て 様 々 な サ
ービスを向上させている。
例 え ば 、銀 行 で は A T M を 銀 行 内 部 だ け で な く 、シ ョ ッ ピ ン グ セ ン タ ー や コ ン ビ ニ エ
ンスストアなど、様々な場所に設置している。それにより、従来は銀行窓口まで行き、
順 番 待 ち し て 入 出 金 や 振 込 作 業 を し て い た の が 、よ り 近 い 場 所 で 、よ り 短 い 時 間 で 行 う
こ と が で き る よ う に な っ て い る 。ま た 、手 続 き の で き る 時 間 帯 も 、従 来 は 銀 行 の 営 業 時
間 内 に 限 ら れ て い た が 、現 在 は コ ン ビ ニ エ ン ス ス ト ア 等 の 店 舗 で 2 4 時 間 手 続 き 可 能 と
な っ て い る 。さ ら に 、最 近 で は イ ン タ ー ネ ッ ト 上 で お 金 の や り 取 り が で き る よ う に な っ
た。買い物についても、家に居ながらインターネット上で簡単に商品を探して購入し、
自宅で受け取ることができるようになった。
こ の よ う に 、民 間 部 門 で は 、I C T を 活 用 し て 人 々 は 少 な い 時 間 や 労 力 で 多 く の サ ー
ビスを享受できるようになっている。
一方、役所の窓口業務においては、申請書等を自治体のホームページからダウンロー
ド で き る よ う に す る な ど の サ ー ビ ス が 行 わ れ て は い る が 、行 政 手 続 き の 多 く は 現 在 で も 、
従来どおり役所の窓口まで出向いて行う必要がある。また、役所の窓口は、そのサービ
スの種類や内容ごとに個別に設けられており、手続きやサービス提供時間も役所の開庁
時間内に限られている自治体が多い。このため、住民が持つ役所の窓口のイメージは、
「 何 箇 所 も た ら い ま わ し に さ れ る 」、
「 時 間 が か か る 」、
「手続きが平日しかできないため、
仕事を休んで役所に行く必要がある」というようなものであった。
このように、サービスの内容や必要な手続き自体はICTを活用する前とあまり変わ
っておらず、行政のICTの活用が直接的に住民サービスの向上につながっているとは
言えない。
現在の役所の窓口の問題点としては次のようなものが挙げられる。
・引越しや退職などでは様々な手続きが必要となり、その一つ一つの手続きでそれ
ぞれ別の窓口に行かなければならない。
・手続きは市町村の役所の窓口だけでは終わらず、運転免許証の住所変更など、い
くつかの役所へ行かなければならない。
・それぞれの窓口で申請書を書く必要があって手間がかかる。
・申請書への記入内容が部署ごとに異なり、煩雑である。
・同じ役所内でもそれぞれの窓口で、運転免許証や健康保険証などの提示により本
人確認をされたり、押印を求められることがある。
・同じ役所内であるにも関わらず、住民票や戸籍謄抄本などの証明書を添付する必
要があることが多い。
・他の窓口の手続きについて質問した場合、その情報をもたないため、一般的な回
‐ 11 ‐
答しか得られず、詳しいことは担当部署で尋ねなければ分からない。
このようなことから、住民が引越しや退職などで様々な手続きが必要となる場合、多
くの時間をかけて窓口をまわり、労力を費やすため、住民の負担は大きいものとなって
いる。
図 表 6 現 在 の引 越 しの際 の手 続 きのイメージ
第2節
事務処理の現状
役 所 に お い て は 、I C T を 活 用 す る こ と に よ っ て 事 務 処 理 速 度 が 向 上 し 、住 民 票 や 戸
籍 謄 抄 本 な ど の 証 明 書 の 発 行 に か か る 時 間 が 短 縮 さ れ る な ど 、内 部 の 事 務 処 理 能 力 は 向
上している。
し か し な が ら 、前 節 で 述 べ た よ う に サ ー ビ ス 内 容 や 行 政 手 続 き 自 体 が 簡 略 化 で き て い
ない。それは、自治体内部で情報が共有されていないためである。
自 治 体 が 行 う 事 務 は 複 雑 化・高 度 化 し て お り 、担 当 す る 部 署 は そ の 分 野 に 関 す る 豊 富
な 知 識 や 経 験 等 が 求 め ら れ る た め 、多 く の 自 治 体 で は 各 業 務 に お い て 効 果 の 最 大 化 を 図
れるよう、規則や要綱などによって業務を細分化することで対処している。その結果、
縦 割 り 組 織 の 形 態 が 形 成 さ て い る 。こ の 縦 割 り 組 織 の た め に 各 業 務 の シ ス テ ム も 、そ れ
ぞ れ の 業 務 ご と に 開 発 さ れ て お り 、独 自 仕 様 が 多 い も の と な っ て い る 。そ の た め 、各 業
務 間 の シ ス テ ム 連 携 が 困 難 で あ り 、情 報 の 共 有 が な さ れ て お ら ず 、結 果 的 に 業 務 が 非 効
率となっていると考えられる。
ま た 、「 個 人 情 報 の 保 護 に 関 す る 法 律 」 が 施 行 さ れ た こ と に よ り 、 自 治 体 に お い て も
「 個 人 情 報 保 護 条 例 」を 制 定 し 、個 人 の 権 利・利 益 の 保 護 に つ い て の 取 組 み が 行 わ れ て
‐ 12 ‐
い る 。原 則 的 に 、個 人 デ ー タ の 利 用 に つ い て は「 個 人 情 報 の 目 的 外 利 用 の 制 限 」が 設 け
ら れ て お り 、当 該 業 務 の 目 的 の 範 囲 を 超 え る 利 用 が で き な い こ と も 共 有 化 さ れ て い な い
理由として挙げられる。
そのため、役所内部の事務処理の問題としては、次のようなものが挙げられる。
・部署間で情報を共有化していないため、事務処理をするために同じ役所が発行す
る住民票や戸籍謄抄本を添付することが必要となる。
・部署間で住民の情報を共有していないため、住民が引越しの手続きなど、複数の
窓口での手続きが必要な場合にも、住民に対してどこの窓口での手続きが必要か
適切な案内ができない場合がある。
上 記 の よ う な 問 題 か ら 、住 民 と し て は ど こ の 窓 口 に 行 っ た ら 必 要 な 手 続 き が で き る の
かわかりづらく、窓口をたらいまわしにされていると感じることになる。
ま た 、役 所 内 の 事 務 処 理 で は 、同 じ 内 容 の 住 民 情 報 を 部 署 毎 に シ ス テ ム へ 入 力 す る 作
業が必要となり、手間が余計にかかることになっている。
図 表 7 現 在 の自 治 体 窓 口 のイメージ
【出 典】 総 務 省「 総 合 窓 口 検 討 部 会 資 料 」
‐ 13 ‐
第3節
紙ベースでの文書行政
現 在 、行 政 事 務 は ほ と ん ど が 紙 ベ ー ス で 行 わ れ て い る 。行 政 の 意 思 決 定 に 当 た っ て も 、
起案者が紙ベースで起案文書を作成し、それを関係者に回付しながら、最終的に決裁権
者が印鑑を押すことによって意思決定が完了するという、いわゆる「紙とハンコ」によ
る文書行政を行っている。
また、住民からの申請に関しても、多くの申請手続きでは紙による申請書類の提出及
び押印を必要としている。
このような、紙で作成され、保存されている文書は、その所在の検索や取り扱いに多
大な労力を要することから、有益な資料等が共有化されず、有効活用されていない。
このように、現在の紙ベースでの文書行政が、業務の効率化、簡素化の妨げとなって
いる原因の一つとして考えられる。
第4節
市町村職員数の減少
平成20年4月1日現在における市町村の総職員数は1,338,623人で、前年
よ り 3 2 ,8 9 5 人( 対 前 年 増 減 率 △ 2 .4 % )の 減 少 と な っ て い る 。こ れ は 、1 2 年
連続の減少であり、また、過去最大の減少数である。
その背景としては、人口の減少、少子・高齢化の進展、低成長経済による税収減少に
より財政状況が悪化し、行財政改革の取組みを進めてきたことが挙げられる。このこと
は、ベテラン職員の大量退職による技術、ノウハウの継承の問題を引き起こす結果とな
っている。
一方、住民ニーズは多様化・高度化しており、住民サービスの維持・向上を行ってい
く上で、職員一人当たりの事務負担は大きいものとなっている。
図表8
市 町 村 の職 員 数 の推 移
(単位:千人)
【出 典 】 総 務 省 総 務 省 自 治 行 政 局 公 務 員 部
「平 成 20年 度 地 方 公 共 団 体 定 員 管 理 調 査 結 果 」
‐ 14 ‐
第5節
進まないオンライン申請の利用
1.国の現状
国では、住民の利便性の向上を図るため、ICTを活用して様々な行政への申請手続
をオンライン化し、
「 電 子 申 請・届 出 シ ス テ ム 」の 運 用 を 開 始 す る な ど の 政 策 を 進 め て き
た。従来の申請・届出等は、行政窓口へ持参するか郵送等で提出する必要があったが、
この電子申請・届出の受付サービスを利用すれば、パソコンにより作成した申請書を電
子データのままで、自宅や職場からいつでも申請することができるようになる。
し か し 、オ ン ラ イ ン 化 が 進 む 一 方 で 、そ の 利 用 率 に つ い て は 決 し て 高 い と は 言 え な い 。
例えばパスポートの電子申請が平成15年度の導入より3年間で133件しかなされず、
電子申請が廃止に追い込まれるなど、なかなか電子申請は普及していないというのが現
状である。
国の行政機関が行う申請・届出等手続のオンライン化の状況とオンライン利用状況に
ついては以下のとおりである。
図表9
【出典】
国 の行 政 機 関 が扱 う手 続 き
総 務 省 「平 成 20年 度 における行 政 手 続 オンライン化 等 の状 況 」
2.地方公共団体の現状
一方、市町村においては、行政手続に関するオンライン化の取組み自体が進んでいな
い。住民向けサービスに関しては、ホームページにより提供される情報の内容や提供方
法も改善がなされるとともに、電子申請、電子入札、公共施設予約などの行政手続等の
オンライン化を実施する市町村は増加する傾向にある。しかし、全自治体について見て
みれば、行政手続等のオンライン化を実施済の市町村は一部にとどまっている。
‐ 15 ‐
すでにオンライン利用促進のための取組みを行っている市区町村は242団体(13.
4%)にとどまり、行政手続のオンライン化実現に関する計画を策定している団体は、
412 団体(22.7%)、オンライン利用促進に関する計画を策定している団体は、
189 団体(10.4%)であった。
図 表 10
行 政 手 続 きのオンライン化 及 びオンライン利 用 促 進 (市 区 町 村 )
【出 典 】 総 務 省 地 方 自 治 情 報 管 理 概 要 「平 成 20年 度 電 子 自 治 体 の推 進 状 況 」
また、総務省が平成18年7月に定めた「電子自治体オンライン利用促進指針」にお
い て 選 定 し た オ ン ラ イ ン 利 用 促 進 対 象 手 続 の 平 成 1 9 年 度 の オ ン ラ イ ン 利 用 率 は 、2 3 .
8%であった。
図 表 11
地 方 公 共 団 体 の行 政 手 続 等 に係 るオンライン利 用 状 況
【出 典 】 総 務 省 通 知
「平 成 19年 度 地 方 公 共 団 体 の行 政 手 続 等 に係 るオンライン利 用 状 況 について」
‐ 16 ‐
3.オンライン申請利用率低迷の原因
オンライン申請の利用率が低迷している理由としては次のようなものが考えられる。
利用者側に存在する低迷の理由
(ア ) パ ソ コ ン の 設 定 を 電 子 申 請 の た め に 整 え な け れ ば な ら な い 。
(イ ) 電 子 証 明 の 取 得 に 手 間 や 費 用 が か か る 。
(ウ ) 電 子 申 請 の 入 力 が 難 し く 手 間 が か か る 。
(エ ) 添 付 書 類 の 郵 送 が 必 要 な 場 合 が あ り 、 結 局 役 所 の 窓 口 へ 行 く 必 要 が あ る 。
(オ ) 電 子 申 請 の セ キ ュ リ テ ィ 面 に 不 安 を 感 じ る 人 も い る 。
(カ ) 役 所 の 窓 口 で 相 談 し な が ら 申 請 を し た い 。
(キ ) パ ソ コ ン を 使 い こ な せ な い 。
自治体側に存在する低迷の理由
(ア ) シ ス テ ム の 導 入 及 び 維 持 に 経 費 が か か る 。
(イ ) シ ス テ ム を 導 入 し た に も か か わ ら ず 、 作 業 量 は 減 ら な い 。
(ウ ) 住 民 か ら サ ー ビ ス が 向 上 し た と い う 意 見 が 聞 か れ な い 。
また、電子申請に必要な住民基本台帳カードの普及もなかなか進んでいない。カード
の取得目的も電子申請のためではなく、主に高齢者などが身分証明書として使用するた
めに取得するという理由が多い。
以上の理由から、電子申請を普及させるためには、パソコンを使いこなせない人への
対策を十分に検討したうえで、住民にとっても、自治体にとっても大きなメリットを感
じられるようなシステム作りが必要となってくる。
第6節
求められる広域行政
ICTの進歩や交通網の整備により、住民の活動範囲は行政区域を越えて広域化して
お り 、環 境・福 祉・都 市 基 盤 整 備 な ど 多 く の 課 題 も 広 域 化・多 様 化 し て い る 。一 方 、国 、
県、市町村を通じた財政事情は極めてひっ迫しており、市町村は行財政基盤を強化し、
住民負担を抑えながら、新たな行政需要に対応していく必要がある。このような状況に
自治体が適切に対応するため、広域的な視点から近隣市町村が連携・調整して行政を進
めていく広域行政といった取組みが進んでいる。
窓口サービスにおいても、近隣市町村と連携して、住民票や戸籍謄抄本、その他各種
証明書等を、それぞれの市町村で相互に交付する「広域行政窓口サービス」を実施する
自治体が出てきている。
福岡県内で見てみると、同じ生活圏内にある志免町・宇美町・粕屋町が、共同で利用
できる広域自動交付機を設置することによって、居住する町の役場まで行く必要をなく
して住民の利便性を向上させている。また、共同調達、共同利用によりイニシャルコス
ト、ランニングコストを抑えるなど財政面においても効果的である。
このように、市町村が連携することによって、利便性の向上、財政面の負担軽減が期
‐ 17 ‐
待できる広域行政の推進に今後より一層取り組んでいく必要がある。
第7節
これからの行政における課題
第1節から第6節にかけて行政の現状について述べてきたが、これらの現状をふまえ、
これからの行政における課題を整理すると、以下のようなものが挙げられる。
(1)行政内の情報連携
住民サービスの向上、事務処理の改善を図る上で、情報の共有化が必要不可欠
である。
(2)行政事務の簡素化、効率化、高度化
職員の減少やベテラン職員の大量退職による技術、ノウハウの継承の問題、ま
た多様化・高度化する市民ニーズに的確に対応するため、ICTを活用した行
政の内部事務の簡素化、効率化、高度化が不可欠となっている。
(3)ICTを活用した住民サービスの利用促進
市 町 村 に お け る オ ン ラ イ ン 化 は ま だ 不 十 分 で あ り 、住 民 が 十 分 に 電 子 的 な サ ー
ビ ス を 利 用 で き て お ら ず 、そ の 恩 恵 を 実 感 で き て い な い 。今 後 、住 民 サ ー ビ ス
向 上 に 向 け て 、申 請・届 出 等 の オ ン ラ イ ン 化 を 進 め 、利 用 促 進 の た め の 効 果 的
な対策を検討し、確実に実行に移していかなければならない。
(4)行政間の連携
広 域 的 な サ ー ビ ス 提 供 を 展 開 し て い く た め 、国 、県 、市 町 村 の 垣 根 を 越 え た 連
携の必要がある。
‐ 18 ‐
第3章
第1節
課題解決への方向性
行政窓口のワンストップサービス
第2章で行政の現状と課題について述べたが、住民サービス向上の観点から課題解決
に取組み、新たなサービスを実施する自治体も出てきている。我が班では、1つの窓口
で1回手続きを行えば、関連する様々な手続きをすべて完了させることのできる「ワン
ストップサービス」の実現が行政手続きに関する利便性を最も向上させると考え、その
主な実現方法について検討することとする。
1.総合窓口の導入
総合窓口とは、自治体が住民に対して行う各種複数の行政サービスを、1か所で手続
き可能とする窓口のことを言う。
総合窓口を設置した場合の効果としては、次のようなものが挙げられる。
(ア)住民票や印鑑登録証明書の発行、年金や国民健康保険への加入手続きなど、従
来は行政サービスを受けるときに複数にまたがっていた窓口を1か所に集約す
ることで、住民の利便性・サービスの向上を図ることができる。
(イ)行政内の情報連携が図れ、内部にある情報を参照することで添付書類が不要と
なる。
(ウ)手続きや書類の見直しで、効率的な業務が実現できる。
(エ)窓口における総業務時間を減らすことができ、原課事務の効率化や省力化によ
る業務処理時間の短縮を図ることができ、必然的に職員の人員削減の効果を生
みだすことが可能となる。
2.行政ポータルサイトの構築
「ポータル」とは、元々、玄関や入口を意味する言葉であり、「ポータルサイト」と
はインターネットの世界への入口、玄関となるサイト(ホームページ)のことを言う。
代表的なものとしては、ヤフーやグーグルなどの検索用サイトがある。
ここでいう「行政ポータルサイト」とは、インターネット上の膨大な行政情報や行政
サービスにアクセスする玄関口となるホームページのことであるが、情報の提供だけが
目的のサイトではなく、申請や届出など行政サービスに関連する手続きを一度に行うこ
とができるサービスを提供するものである。
行政ポータルサイトを構築した場合の効果としては、次のようなものが挙げられる。
(ア)それぞれのサービスを提供する窓口に直接足を運ぶ必要がなくなり、行政の
縦割りを意識せず、窓口を一本化することが可能となる。
(イ)窓口の開庁時間に関わらず、24時間365日、行政手続き等を行うことが
できる。
(ウ)窓口における業務(応対、入力作業等)が軽減され、結果的に職員数の削減
‐ 19 ‐
や事務の効率化につながる。
図 表 12
【出 典 】
地 方 公 共 団 体 のポータルサイト構 築 イメージ図
総 務 省 「電 子 自 治 体 推 進 パイロット事 業 報 告 書 」
3.ワンストップサービス化における業務切り分けの考え方
ワンストップサービスにおいては、利用者の利便性向上のため、利用者の活動起点と
なるライフイベント単位で手続きをワンストップ化し、利用者が必要な手続きに即した
サービスの提供を目指す必要がある。また、手続きによっては、複雑で専門性が高いも
のもあり、ワンストップサービス化せずに、引き続き各業務窓口で利用者とやり取りを
行いながら手続きを進めることが望ましいケースもあるため、ワンストップサービス化
する業務としない業務とを個別に判断していく必要がある。
図 表 13
ワンストップサービス化 業 務 切 り分 けの考 え方
‐ 20 ‐
第2節
システムの標準化
業務間の情報連携を行う際、システム同士を連携させ、業務処理の連携、データ共有
を 可 能 に す る 必 要 が あ る た め 、 各 シ ス テ ム の デ ー タ や A P I (Application
Program
※
Interface) 等 の 標 準 化 が 求 め ら れ る 。一 部 の 自 治 体 に お い て は 、
「地域情報プラットフ
ォーム」の取組みにより、データ、APIの標準化が進められているところであるが、
全国的にはまだまだ普及していない。
「地域情報プラットフォーム」とは、自治体が持つ情報システムをはじめとした、地
域内外のあらゆる情報システムを全国規模で連携させるための共通基盤のことである。
具体的には、システム間連携を可能にするために各システムが準拠すべき業務的・技術
的 な ル ー ル を「 地 域 情 報 プ ラ ッ ト フ ォ ー ム 標 準 仕 様 」と し て オ ー プ ン な 形 で 定 め て い る 。
自治体においては、地域情報プラットフォームを活用したシステム再構築を行うこと、
つまり、地域情報プラットフォームの考え方に従ってシステム全体を設計し、地域情報
プラットフォーム標準仕様に準拠した個々のシステムを調達することにより、次のよう
な効果を期待することができる。
・システムの仕様がオープンなので、特定の開発業者による囲い込みが解消され、
競争環境が整い、コスト削減につながる。
・システム間連携が可能になるため、複数のシステムに同じデータを重複して入力
するといった無駄を省くことができるようになり、業務が効率化される。
・住民にとっては、ワンストップで複数の手続を済ますことができるようになり、
利便性が向上する。
・地域情報プラットフォーム標準仕様に準拠したシステムを構築した他の地方公共
団体のほか、国や民間でも、地域情報プラットフォーム標準仕様を参照してシス
テムを構築すれば、それらのシステムとの連携も可能になるので、様々なシステ
ムを連携させ、高度なサービスを提供することができるようになる。
このように、地域情報プラットフォーム標準仕様に準拠したシステムを導入するメリ
ットは大きく、住民サービス向上と業務効率化において有効的であると考える。
‐ 21 ‐
図 表 14
地 域 情 報 プラットフォーム構 想
【出 典】 総 務 省「地 域 情 報プラットフォーム推 進 事 業」
・・・
語句説明
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
※ A P I : Application
Program
Interface の 略 語 。A P I と は 、あ る プ ラ ッ ト フ ォ ー ム
(O S や ミ ド ル ウ ェ ア )向 け の ソ フ ト ウ ェ ア を 開 発 す る 際 に 使 用 で き る 命 令 や 関
数 の 集 合 の こ と 。ま た 、そ れ ら を 利 用 す る た め の プ ロ グ ラ ム 上 の 手 続 き を 定 め た
規約の集合。
参考:IT用語辞典
http://e-words.jp/w/API.html
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
第3節
安全性の確保
1.個人情報の保護
行政内での情報連携を行う場合においても、個人情報の受け渡しが発生することにな
り、
「 個 人 情 報 の 保 護 に 関 す る 法 律 」の 理 念 に 基 づ き 制 定 さ れ て い る「 個 人 情 報 保 護 条 例 」
に抵触する可能性がある。
この法律は、平成15年5月に、誰もが安心して高度情報通信社会の便益を享受する
ための制度的基盤として成立している。内容については、官民を通じた個人情報保護の
基本理念等を定めた基本法に相当する部分と民間事業者の遵守すべき義務等を定めた一
般法に相当する部分から構成されている。
この法律では、個人情報取扱事業者の義務が定められており、概要は以下のとおりで
‐ 22 ‐
ある。
(1)利用目的の特定、利用目的による制限(15条、16条)
(2)適正な取得、取得に際しての利用目的の通知等(17条、18条)
(3)データ内容の正確性の確保(19条)
(4)安全管理措置、従業者・委託先の監督(20条∼22条)
(5)第三者提供の制限(23条)
(6)公表等、開示、訂正等、利用停止等(24条∼27条)
(7)苦情の処理(31条)
(8)主務大臣の関与(32条∼35条)
(9)主務大臣(36条)
これらの規定は、行政機関を直接拘束するものではないが、これらの理念に基づく法
律や条例の制定が求められている。そのため、行政内での情報連携を行う場合は、上記
の( 1 )に 該 当 す る 可 能 性 が あ り 、利 用 目 的 の 明 示 や 関 係 法 令 等 と の 整 理 が 必 要 と な る 。
図 表 15
個 人 情 報 保 護 に関 する法 体 系 イメージ
【出 典 】 内 閣 府 「個 人 情 報 保 護 に関 する法 体 系 イメージ」
2.個人認証方法
オンライン申請を行う場合、他人による「成りすまし」や通信途中でのデータの改ざ
んが行われる可能性がある。そのため、高度な本人確認の手段が必要となるが、一般的
に公的個人認証サービスが利用されている。しかしながら、公的機関以外でこのサービ
‐ 23 ‐
スを利用できるのは下記の2者のみとなっている。
・電子署名法第8条に規定する認定認証事業者(平成21年4月1日現在)
N T T ド コ モ 、日 本 司 法 書 士 会 連 合 会 、日 本 土 地 家 屋 調 査 士 会 連 合 会 、全 国 社 会
保険労務士会連合会、日本商工会議所などの18事業者
・電 子 署 名 法 第 2 条 第 3 項 に 規 定 す る 特 定 認 証 業 務 を 行 う 者 で あ っ て 政 令 で 定 め る 基
準に適合するものとして総務大臣が認定する者(平成21年4月1日現在)
認定認証事業者と同様の18事業者
上記の認定を受ける要件としては、
「 電 子 署 名 及 び 認 証 業 務 に 関 す る 法 律 」で 定 め ら れ
て い る 下 記 の 要 件 を 満 た す 必 要 が あ る 。( 第 6 条 第 1 項 )
①業務の用に供する設備(第1号)
・電子証明書の発行に利用する「発行者署名符号」の厳重な保管
・安全・信頼性を有する設備の使用
等
②利用者の真偽の確認の方法(第2号)
・公的機関の発行する証明書の提示を求める
等
③その他の業務方法(第3号)
・認証業務の実施に関する規程を定め適当な権限分散を図っていること
・失効リストの適切な開示
等
また、禁錮以上の刑や本法違反による刑に処せられた者又は認定を取り消された者等
は、一定の期間認定を受けられないこととなっている。(第5条)
こ の た め 、他 の 民 間 事 業 者 が こ の サ ー ビ ス を 利 用 す る た め に は 制 度 改 正 が 必 要 と な る 。
現行制度下では、官民連携を行うにあたっては別の認証方法を用いなければならない。
図 表 16
主 なオンライン認 証 手 段 のメリット・デメリット
【出典】 総務省
「公 的 個 人 認 証 サービスの利 活 用 のあり方 に関 する検 討 会 (第 6回 会 合 )資 料 5」
‐ 24 ‐
3.ICT利用環境の整備
すべての住民がICTを安心して利用でき、その恩恵を享受することができるようネ
ットワークを整備する。コンピューターウイルスや不正アクセス等のサイバー攻撃への
対処、暗号を用いた安全な最適通信手段を確立し、ネットワークの安全性・信頼性を確
保できるようにする。
第4節
ICT弱者への対応
第1節で述べた「行政ポータルサイト」こそ、外出が難しい高齢者などには最適の仕
組みと考えられる。しかし、高齢者などの住民の一部には、インターネット環境がなく
ICTに不慣れな人たちが多く存在する。このような人たちのために、ICTの利用環
境の整備を推進するとともに、情報リテラシーの向上やそれを支援する人的なサービス
を築いていく必要がある。
具体的には、ICT弱者をなくすため、受講者を募りICT講習会を数多く実施する
ことや、公共施設にインターネット端末を設置し、住民に開放して操作に慣れてもらう
などの取組みが考えられる。その実施に際しては、指導員や補助員の採用・育成、民間
ボランティアやNPO法人の活用などにも取り組む必要がある。
第5節
地域協働の推進
I C T を 活 用 し 、地 域 と の 情 報 共 有 、コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン が 活 発 化 す る こ と を 通 じ て 、
地域協働のより積極的な推進が可能となる。
自治体が行政サービス等の新たな政策立案や評価を行う場合、住民の情報・意見等を
集約・蓄積するためにICTを活用することは非常に有効的である。それだけでなく、
必 要 か つ 有 効 な 情 報・意 見 を 選 別 し 、ト ッ プ の 意 思 決 定 や 政 策 形 成 に 活 用 す る と と も に 、
住民サイドにおいても住民自らがICTを活用することで政策決定に参加することも可
能となる。
具体的な取組みとしては、インターネットの普及に伴い、ホームページや電子会議室
を活用してパブリックコメントを募集することなどである。
ICTを通じて、行政が多量な情報を入手するだけでなく、住民などに対する効率的
かつ的確なレスポンスを可能とする仕組みを構築することで、行政と住民、NPO法人
や関係機関との双方向的な関係を構築することが可能となる。あわせて、その仕組みを
通じて行政と住民が情報や問題意識を共有し、住民が積極的に行政組織運営、地域協働
に参画していく新たな協働の形を実現することも可能となる。
‐ 25 ‐
第6節
PDCAサイクルの導入
P D C A と は 、計 画( Plan)・実 行( Do)・評 価( Check)・改 善( Act)の プ ロ セ ス を 順
に実施するマネジメントサイクルの一つである。自治体においても、行政評価(政策評
価)を導入する自治体が増えており、PDCAサイクルを念頭に置くことでより高い効
果が期待できる。
また、このプロセスのすべての段階において住民参加が可能であり、協働の視点から
も有効的と考えられる。
‐ 26 ‐
第4章
第1節
事例研究
文献調査
英 国 の 引 越 し ワ ン ス ト ッ プ サ ー ビ ス ∼ Iammoving.com∼
海 外 の 事 例 を 見 て み る と 、 英 国 に 「 Iammoving.com」 と い う 引 越 し ポ ー タ ル サ イ ト が
ある。
「 Iammoving.com」は 、1 9 9 9 年 に 創 設 さ れ 、英 国 内 の 個 人 を 対 象 と し た も の で 、
利用登録をし、旧住所と新住所を入力すれば、自治体、パスポートや運転免許証などの
政 府 機 関 、電 気・ガ ス・水 道 な ど の 公 共 サ ー ビ ス 、金 融 機 関 、ク レ ジ ッ ト カ ー ド・保 険 ・
スポーツクラブなどの民間企業への住所変更手続きを一括して行うことができる。参加
団体は24のカテゴリに分かれており、約750団体ある。
図 表 17
「Iammoving.com」のイメージ図
‐ 27 ‐
住所変更を行う団体のカテゴリ
Councils ( 地 方 自 治 体 )
Travel ( 旅 行 サ ー ビ ス )
Telecoms ( 電 話 )
Subscription ( 雑 誌 購 読 )
Gas ( ガ ス )
Charities ( 慈 善 団 体 )
Electricity ( 電 気 )
Mail Order& Home Shopping( 通 販 )
Television& TV License( テ レ ビ )
Trade Unions ( 労 働 組 合 )
Banks ( 銀 行 )
Gyms& Health Clubs( ス ポ ー ツ ク ラ ブ )
Internet ( イ ン タ ー ネ ッ ト )
Professional Bodies ( 専 門 団 体 )
Government ( 政 府 機 関 )
University& Alumni Association
(学校・同窓会)
Store Cards& Loyalty Cards
Pensions ( 年 金 )
(ロイヤルティーカード)
Clubs/Memberships( ク ラ ブ・会 員 権 ) National Blood Service
(国営血液センター)
Credit Cards ( ク レ ジ ッ ト カ ー ド )
Insurance ( 保 険 )
ま た 、 運 営 面 に 関 し て は 、「 Iammoving.com」 は 、 住 所 変 更 を 行 う 利 用 者 か ら は 料 金 を
取らず、約750に上る手続き可能な団体から料金を徴収するとともに、広告収入(ペ
ージ内バナー等)や、連携プロモーション(引越しに関係して必要なサービスサイトへ
の誘導など)により、事業採算性を向上させている。
図 表 18 「Iammoving.com」の画 面
「Iammoving.com」のホームページを引 用
http://www.iammoving.com/
‐ 28 ‐
利 用 者 に 関 す る デ ー タ に つ い て も 、「 Iammoving.com」 は 、 住 所 変 更 処 理 を 代 行 す る サ
ービスであるため、個人ユーザアカウントを維持する情報以外は保持していない。個々
の事業者が独自で必要となる情報については、利用者から事業者への受け渡しのみを行
っている。
◆ 我が班の考察 ◆
地方自治体をはじめ約750団体と、多数の団体の参加者を獲得できていることは大
変評価できる点である。また集められた個人情報は蓄積されることなく、用件が済み次
第削除されている点は見習うべきことである。団体、利用者ともに多くの参加があるた
め ス ポ ン サ ー に よ る 広 告 収 入 等 で 採 算 性 を 上 げ て お り 、ビ ジ ネ ス モ デ ル を 確 立 し て い る 。
デンマークの国民ポータル
デンマークでは、国や各自治体で提供されていた電子行政サービスを統合し、ワンス
ト ッ プ で ア ク セ ス で き る 「 borger.dk」( 国 民 ポ ー タ ル ) を 2 0 0 7 年 に 設 立 し て い る 。
図 表 19
「borger.dk」のホームページ
【出 典 】 総 務 省 情 報 通 信 白 書 平 成 21年 版
「 borger.dk」で は 、利 用 者 が 該 当 す る テ ー マ を 選 択 す る と 、関 連 す る 法 律 や 手 続 き 方
法 か ら 厚 生 省 が 出 す 健 康 情 報 ま で 、あ ら ゆ る 政 府 提 供 の 情 報 を 閲 覧 す る こ と が 出 来 た り 、
自己申請に必要なページを呼び出し、手続き等を行うことができる。また、電子署名を
取 得 す る こ と で 個 人 の ニ ー ズ に 応 じ て サ イ ト を 編 集 で き る「 Min side( 私 の ペ ー ジ )」と
‐ 29 ‐
いう機能を利用することができるようになる。このページでは、自治体からの連絡、公
的 機 関 へ の 質 問 送 信 や そ れ に 対 す る 返 信 、医 療 機 関 や 医 師 と の 連 絡 、教 育 、納 税 、税 金 、
年金記録などの個人の社会保障情報がひとまとめで、管理・閲覧ができたり、利用者が
必要な申請手続きの窓口を一つに集約できるようになる。
利 用 者 層 に向 けた分 野 横 断 的 なテーマ17種
①労働・雇用
②住居・引越し
③交通・旅行
④海外居住デンマーク人
⑤家族・子ども・青少年
⑥消費・お金・金融
⑦障害者
⑧文化・余暇
⑨環境・エネルギー
⑩年金
⑪警察・司法・弁護
⑫社会・権利
⑬学校・教育
⑭健康・病気
⑮デンマーク在住外国人
⑯高齢者
⑰経済・税金
こ の 国 民 ポ ー タ ル サ イ ト 「 borger.dk」 は 、 利 用 者 が 使 い や す い よ う に 利 用 者 の 視 点
に 立 っ た サ ー ビ ス の 提 供 が な さ れ て い る 。こ れ に よ り 、I C T 弱 者 と い わ れ る 高 齢 者 に
お い て も 、高 い 利 用 率 に つ な が っ て い る と 考 え ら れ 、デ ン マ ー ク に お け る 公 的 分 野 の I
CTサービスの利用が促進されている。現在では、1週間に10万人(2008年第1
四半期現在)の国民に利用され、大変活気のあるポータルサイトとなっている。
こ の よ う な こ と か ら 、デ ン マ ー ク に お け る 国 民 ポ ー タ ル の 取 組 み は 、世 界 的 に 注 目 さ
れている。
◆
我が班の考察
◆
国 や 自 治 体 が 中 心 と な っ て 開 設 さ れ た ポ ー タ ル サ イ ト で あ る た め 、前 段 で 紹 介 し た イ
ギ リ ス の ポ ー タ ル サ イ ト よ り 、さ ら に 多 く の 行 政 サ ー ビ ス の 手 続 き が で き る こ の サ イ ト
は 、大 変 魅 力 的 で あ る と 思 え る 。多 く の 行 政 サ ー ビ ス が 登 録 さ れ て い る と い う 点 で 、行
政 サ ー ビ ス を 利 用 す る 利 用 者 層 を タ ー ゲ ッ ト に し た 設 定 を 行 い 、そ れ ぞ れ の 利 用 者 層 に
合 わ せ た 情 報 や サ ー ビ ス を 提 供 し て い る と い う こ と が う か が え る 。ま た 利 用 者 側 が よ く
利 用 す る テ ー マ や サ ー ビ ス を カ ス タ マ イ ズ し 、申 請 手 続 き を 一 括 管 理 で き る 機 能 が あ る
ことも大いに見習う点である。
‐ 30 ‐
第2節
先進地視察
我 が 班 は 「I C T を 活 用 し た 行 政 サ ー ビ ス 」と い う テ ー マ を 掲 げ 、 自 治 体 や 民 間 企 業 な
どの組織を越えたシステム連携によるワンストップサービスについて研究してきた。し
かしながら、このワンストップサービスの形態を完全に実現させている団体は現在のと
ころ、国内には存在していない。
しかし、研究を進めるうちに、総合窓口やポータルサイトなど、基礎となるシステム
や制度を構築し運用している団体が存在しているということが判ってきた。
我が班では、それらの団体の制度やシステムについて事前に精査し、視察を行った。
大野城市役所
総合窓口(まどかフロア)
写 真 : http://www.city.onojo.fukuoka.jp/outline/shisetsu/cityhall.html
訪
問
日
:
平成21年7月20日
相手先担当者
:
自治経営課
参 加 班 員
:
堺 ( 新 宮 町 )、 土 井 ( 久 留 米 市 )、 福 澤 ( 福 岡 県 )、
IT政策担当
森永 氏
枝 折 ( 大 牟 田 市 )、 大 久 保 ( 飯 塚 市 )
大野城市の概要
人
口 : 9 4 ,2 8 7 人 ( 平 成 2 1 年 3 月 末 現 在 )
面
積:26.88k㎡
職員数:387人
平 成 2 0 年 度 一 般 会 計 決 算 額 : 歳 入 2 7 ,6 5 6 ,1 7 8 千 円
歳 出 2 7 ,1 6 7 ,2 4 3 千 円
総合窓口の概要
平成17年に当選した現市長がマニフェストの項目の一つとして総合窓口の設置を実
施重点課題に置いたことに起源をもつ。この総合窓口は転出入の手続、各種証明書の取
得の際に、市民が処理内容ごとに各課を回るのではなく、受付窓口を一元化することに
より、市民の窓口移動の動線を極力短くする方法を採用したものである。庁舎1階の窓
口をワンストップ化し総合窓口「まどかフロア」を開設した。
‐ 31 ‐
総合案内センター
役 所 の 業 務 や 、ま ど か フ ロ ア 各 窓 口 に 提 出 す
る申請書などの書き方や手続きの方法を案
内 し て い る 。玄 関 を 入 っ て す ぐ の わ か り や す
い 場 所 に 配 置 し て い る 。こ の 他 に も フ ロ ア 内
にフロアマネージャーと呼ばれる専門の職
員 が 常 駐 し て お り 、住 民 が 手 続 き に 迷 う こ と
がないよう、誘導している姿が見えた。
証明コーナー
戸籍の証明・住民票の写し・印鑑登録証明・
税証明などの証明業務全般を一括して受け
付ける。
異動受付コーナー
出 生・婚 姻 な ど の 戸 籍 手 続 き や 、転 入・転 出・
転居などの住所変更についての手続き、及
び、これに伴う国民健康保険や乳幼児医療・
小 中 学 校 の 指 定・児 童 手 当 な ど の 手 続 き が で
きる。
写 真 : http://www.city.onojo.fukuoka.jp/shisei/madoguchi/madokafloor.html
‐ 32 ‐
現 在 の と こ ろ 、業 務 シ ス テ ム の 連 携 を と ら ず 、そ れ ぞ れ の 担 当 が 総 合 窓 口 に 集 結 し 住
民のワンストップサービスに貢献している。しかし、役所を訪れる住民に住民満足度を
調査する実態調査では、この総合窓口は多くの住民から高い支持を得る事に成功してい
る 。 住 民 の 多 く は 、「 総 合 窓 口 」 の 考 え 方 に 利 便 性 を 感 じ て い る よ う で あ る 。
図表20
住民満足度調査による総合窓口の満足度
【出 典 】 大 野 城 市 窓 口 サービス顧 客 満 足 度 調 査
この総合窓口に集結された業務は申請件数が多く、専門性の薄い手続であるため、配
置された多くの職員を民間委託の職員に変換することに成功している。この結果、大野
城市の財政問題や職員不足問題の解消に大きく貢献することができた。
住民、行政双方に利便性を提供している総合窓口の取組みは成功であると言える。
∼
総合窓口の今後
∼
庁舎内で各部署に設置されていたシステムを1か所に集結し、訪れた市民にわかりや
すくて使いやすい窓口の構築を成功させた大野城市「まどかフロア」であるが、本市の
総合窓口の取組みはこれで終わったわけではない。
今後は政府が提案する「地域情報プラットフォーム」を共通基盤としたシステムを構
築し、庁舎内のシステムを連携させることはもちろん、さらに多くの手続きがこの窓口
で行えるよう、他自治体や組織、民間の企業との連携を行い、官民連携・協働によるワ
ンストップサービスを実現することで、全ての人にやさしい、わかりやすい、心地よい
市民本位の窓口サービスの提供が実現し、利便性の高い窓口サービスに進化することを
目指している。
‐ 33 ‐
大阪府(自動車保有関係手続のワンストップサービス)
日本国内では、数箇所の都府県で民間企業や公的機関が連携し、複雑な自動車の登録
に関する手続きを行えるポータルサイトがあることが判った。我が班では、利用が特に
盛んな大阪府のポータルサイトの存在について事前に調査を行い、視察を行った。
自動車ワンストップサービスの概要
自動車を保有するためには、多くの手続(検査登録、保管場所証明申請等)と税・手
数料の納付(検査登録手数料、保管場所証明申請手数料、保管場所標章交付手数料、自
動車税、自動車取得税、自動車重量税等)が必要となる。それらの手続きを完了させる
為には、申請者(代行業者)は国や県の機関の窓口を何度も訪れなければならない。さ
らに添付しなければならない書類も多く、手続きは専門的で煩雑である。
図 表 21 自 動 車 ワンストップサービス(OSS)の概 要
【出 典 】 国 土 交 通 省 自 動 車 保 有 手 続 のワンストップサービス
http://www.oss.mlit.go.jp/portal/top_menu/osstowa.html
警察署への手続き(保管場所証明)
都道府県税事務所への申告手続き
・保管場所証明申請
・自動車税申告
・保管場所標章交付申請
・自動車取得税申告
運輸支局への申告手続き(自動車検査登録)
・新規検査登録申請
‐ 34 ‐
その自動車を保有するために必要な手続と手数料の納付をオンライン申請で、一括し
て行うことを可能にしたのが、
「 自 動 車 保 有 関 係 手 続 の ワ ン ス ト ッ プ サ ー ビ ス( 以 下「 自
動車OSS」という)である。このオンライン申請を用いることにより、現在、紙を媒
体にして行われている申請手続が、インターネットを使ってパソコン上で実現できると
いうものである。このシステムを使えば、申請のために複数の機関の窓口に足を運ぶ必
要がなくなる。
国土交通省の呼びかけによって平成17年12月から、東京・神奈川・愛知・大阪の
4都府県から始められた自動車OSSであるが、この大阪府は、参加都府県の中では群
を抜いて利用率が高い。
図 表 22 ワンストップサービス利 用 状 況 の推 移
参 加 都 府 県 :東 京 ・神 奈 川 ・愛 知 ・大 阪 ・埼 玉 ・静 岡 ・岩 手 ・群 馬 ・茨 城 ・兵 庫
【出 典 】 LASDEC:平 成 21年 度 電 子 自 治 体 推 進 セミナー資 料
我が班では、このシステムの利便性を多角的な方向から検証するために、次の3組織
を訪問し、それぞれ担当者から話を聞いた。
(1)
大阪府
総務部
(2)
近畿運輸局
(3)
大 阪 ト ヨ タ (株 )
税務室
徴税対策課
大阪運輸支局
‐ 35 ‐
納税グループ
(1)
訪
問
大阪府
総務部
税務室
徴税対策課
納税グループ
日
:
平成21年9月15日
相手先担当者
:
副主査
参 加 班 員
:
堺 ( 新 宮 町 )、 土 井 ( 久 留 米 市 )、 福 澤 ( 福 岡 県 )、 大 久 保 ( 飯 塚 市 )
矢田
康晃 氏
まず、我が班は、自動車OSSの一端である大阪府総務部徴税対策課を訪問した。自
動車OSS内でのこの部署の役割は、主に自動車購入時の自動車取得税の課税を行うこ
とである。数多く存在する自動車の車種から、適切な課税標準額を決定し、課税作業を
行う。これまでは多くの部署(運輸支局、警察、自動車販売店)から課税の基礎となる
資料が紙を媒体として送られてきていた。このシステムの導入により、それらの作業は
ネットワークを介し瞬時に行われるようになり、事務の効率化と精度向上に大きく貢献
している。現在のところ、利用率は30%ほどにとどまっているが、普及すればするほ
どその魅力は増すと思われる。
今後の課題はさらなる利用率の向上であるが、手数料収入の減少を懸念する自動車販
売店への働きかけや、個人購入者への啓発など多くの難題が存在している。また、現在
は自動車の新規登録のみに取り扱いが限定されているが、今後政府が計画している中古
車登録、名義変更や抹消登録に利用されれば、かなりの効果が期待できる。
‐ 36 ‐
(2)
訪
問
近畿運輸局
大阪運輸支局
日
:
平成21年9月16日
相手先担当者
:
登録部門
参 加 班 員
:
堺 ( 新 宮 町 )、 土 井 ( 久 留 米 市 )、 福 澤 ( 福 岡 県 )、 大 久 保 ( 飯 塚 市 )
首席運輸企画専門官
中條 氏
公 道 を 走 る 自 動 車( 軽 自 動 車 、原 付 等 を 除 く )は 、
この運輸支局で登録が行われ、管理されている。人
が生まれたり死亡したりした際は届出を役所の市民
課窓口に提出するのと同様に、新しく利用される自
動車は、この運輸支局へ新規届出が提出される。車
にとってみれば、ここは市民課窓口のような位置づ
けである。
我々が訪問した近畿運輸局大阪運輸支局は大阪
北部19市町村に籍を置く自動車について登録管理
業務を行っている。管理されるナンバープレートは
「 大 阪 」ナ ン バ ー で 、そ の 数 は 1 0 8 万 台 を 超 え る 。
我が班は、訪問した近畿運輸局大阪運輸支局が、
このシステムの稼働により業務の効率化が最も進ん
でいると考えたため、多くの期待をもって訪問した。
受付窓口となる事務所は広大な敷地の中にあり、まず我々は従来どおりの申請書を提
出する窓口を見学した。その日もそこには大勢の申請者が訪れていて驚いたが、登録の
ピーク時(年度初、連休明け)にはさらに多くの申請者が殺到し、一度に多くの申請書
が提出されているということである。事務所内にはその申請を処理するために、広い窓
口と大勢の職員が配置されていた。
次に、我々は、自動車OSSのシステムにより申請を受け付ける部署を見学した。シ
ステムの導入によってそれらの作業を行う部署は、2台の端末だけで構成されていた。
既に申請の受付作業は終了しており、端末がそこにあるだけであった。検算や処理終了
後の文書整理も一切無く、また瞬時に処理を終えることができるため、これだけの設備
で十分であるということを聞き、班員一同とても驚いた。
システム利用による登録は、まだ申請全体の10%ほどであるらしいが、これだけで
‐ 37 ‐
も窓口の混雑解消にかなり貢献しているという。
従来の申請書の窓口提出方式であれば、記入の誤りや不備をチェックし、さらにその
情報をシステムに入力する作業があった。また入力作業の段階で入力ミスが発生するこ
と も あ る 。さ ら に は 提 出 さ れ た 膨 大 な 量 の 申 請 書 の 保 管 整 理 と い う 作 業 が 発 生 し て い た 。
自動車OSSの利用件数が増えることは、これらの作業からの解放を意味し、職員や
経費の削減に大いに貢献するであろうと担当の方は説明されていた。
このような点をふまえ、管轄する国土交通省は、この自動車OSSの普及を背景に、
大幅な人員削減効果を期待しているとのことである。
現在では、参加都府県の中で最大の利用率があるものの、運用当初は個人システム利
用者が思ったほど増えない、販売店の協力が得られないなど、多くの問題点を抱えてい
た。その解消にむけた取組みの説明を聞いた。
〈利用率が増えなかった大きな理由〉
・個人でも申請ができることについては、あまり知られていなかった。
・本人確認のため、申請には住民基本台帳カードが必要であった。
・販売店が代行手数料の減収を懸念して賛同しなかった。
・申請に関しては新車登録しか認められておらず、廃車や中古車、名義変更申請は従
来どおりである。
〈利用率向上に対する大阪府の取組み〉
・個人に対して、自動車購入時に代行手数料の軽減というメリットがあるということを
中心に啓発活動を行った。
・それまで住民基本台帳カードが必要であったが、印鑑証明と実印の販売店提出という
手段を緩和措置として導入した。
・手数料の減収は利用率が30%を超えるあたりから、営業社員の人件費をカバーでき
るという点を積極的にアピールし、各販売会社の幹部へ啓発活動を盛んに行った。
・中古登録や名義変更などにおいてのシステムの利用が認められない点については、大
阪 府 も 販 売 会 社 も 政 府 に 対 し 、新 車 以 外 の 申 請 を 、こ の シ ス テ ム を 用 い て 行 え る よ う 、
再三にわたり要望している。
‐ 38 ‐
(3)
大 阪 ト ヨ タ (株 )
訪 問 日 時
:
平成21年9月16日
相手先担当者
:
車両登録担当
参 加 班 員
:
堺 ( 新 宮 町 )、 土 井 ( 久 留 米 市 )、 福 澤 ( 福 岡 県 )、 大 久 保 ( 飯 塚 市 )
藤敦 隆志 氏、野村
豊 氏
次に、自動車OSSの情報の起点となる自動車販売店を訪問した。大阪府内全域のト
ヨ タ 店 系 列 で 販 売 さ れ た 新 車 は 、こ の 事 務 所 で 自 動 車 O S S に よ り 一 括 登 録 さ れ て い る 。
ここでは、実際の使い勝手や企業にとってどのようなメリットがあるのかを、直接、営
業担当者に尋ねた。
販売店にとっては、自動車OSSの利用により事務手数料収入が減少するという短所
があるが、それも利用率が30%を超えれば手続きに動員される人件費をカバーでき、
そこにコスト面でのメリットが発生するということであった。机上で簡単に複数の登録
が行えるシステムであるので、今後は一般新車登録に限らず、業務用新車(タクシー・
レンタカー)にも開放してもらいたいという話であった。
この自動車OSSは、参加当初はどの企業においても、コスト面などでデメリットは
存在するようではあるが、利用率を増やすことで、より便利で実用性のあるシステムで
あることには間違いはないと我が班は感じた。
大 阪 ト ヨ タ (株 )に お い て は 、 新 車 販 売 に 関 わ る 自 動 車 O S S の 利 用 率 は 5 0 % ほ ど に
な っ て い る 。つ ま り 、顧 客 が 自 動 車 O S S を 利 用 す る こ と に よ り 、5 ,2 5 0 円 の 手 数 料
の減収となっている。月平均500台の新車を販売するこの会社においては、月約13
5万円の収入減となってしまうのである。しかしながら、利用率が30%を超えている
ことで、営業担当者の営業余力を生み出し、その余力をさらなる営業活動につなげ、損
失以上の収益を得ることが期待できるという。
大阪府は実施都府県の中でも群を抜いた利用率である。大阪府内の販売会社全体の利
用 率 は 3 0 % ほ ど で は あ る が 、利 用 率 が 8 0 % を 超 え る 積 極 的 な 他 販 売 会 社 も 多 く あ り 、
自動車OSSにコスト削減と増益の可能性を見つけ出そうとしているようである。
‐ 39 ‐
関西引越し手続きサービス(関西手続きワンストップ協議会)
訪
問
日
:
平成21年9月16日
相手先担当者
:
(財)関西情報・産業活性化センター
情報化推進チーム
参 加 班 員
:
参事補
平塚
伸治 氏
堺 ( 新 宮 町 )、 土 井 ( 久 留 米 市 )、 福 澤 ( 福 岡 県 )、 大 久 保 ( 飯 塚 市 )
関西ワンストップ協議会の取組み
これまでは個人の引越しの際に、役所に対して転出入の手続きを行うだけではなく、
民間企業に対しても多くの連絡をしなければならなかった。大阪を中心に始まった関西
ワンストップサービスは、インターネットを利用することにより、引越しの際、煩雑で
重複した住所、名義変更手続きなどを無料で一度に済ませることができるポータルサイ
トを運営する取組みである。
図 表 23
関 西 ワンストップ協 議 会 ポータルサイトのイメージ
‐ 40 ‐
<利用可能な主な団体と手続き>
事業者
行える手続き
サービス時間帯
廃止手続き
関西電力
対象エリア
関西地区全域
24時間
開始手続き
停止・開始手続き
廃止手続き
月 ∼ 土 7:30∼ 2:00
開始手続き
日 ・ 祝 7:30∼ 22:00
停止・開始手続き
3営業日以降
NTT西日本
住所変更手続き
24時間
北陸以西の全県
日本経済新聞社
住所変更手続き
24時間
全国
NHK
住所変更手続き
24時間
全国
ニッセン
引越しの連絡
24時間
全国
24時間
神戸市内
24時間
京都市内
24時間
高槻市全域
大阪ガス
関西地区全域
廃止手続き
神戸市水道局
開始手続き
中止・開始手続き
廃止手続き
京都市
上下水道局
開始手続き
中止・開始手続き
廃止手続き
高槻市水道部
開始手続き
中止・開始手続き
ラ イ フ イ ベ ン ト で あ る「 引 越 し( 住 所 変 更 )」を テ ー マ と し た 官 民 を 問 わ な い 連 携 は 、
まさに我が班の目指すスタイルである。平成16年度より現在の運営を続けており、こ
の分野では草分け的な存在である。また、システム運用の技術、個人情報保護やセキュ
リティについての考え方も高水準である。しかしながら、参加加入料のわりに申請件数
が 少 な い こ と に 加 え て 、昨 年 か ら の 景 気 の 急 激 な 悪 化 に と も な っ て 参 加 企 業 が 激 減 し た 。
しかも、国や県などからの補助金や助成金が一切なく民間企業からの年会費だけが運営
資金となっているために、存続が危ぶまれている。利用した個人からは一度で複数の住
所 変 更 手 続 き が で き る 点 で 、高 い 評 価 を 受 け て は い る が 、
「 引 越 し 」と い う ラ イ フ イ ベ ン
トが頻繁にあるものではないために、リピーターが増えず大変苦戦している。今後は、
低コストで知名度を向上させる方策が必要であると思われる。
前節で紹介した多くの行政手続を有するイギリスやデンマークの国民ポータルと比
‐ 41 ‐
べると、行政分野での手続きが少ない。多くの行政手続きがこのポータルサイト内で可
能となれば、利用率や知名度は格段に向上すると思われる。
まとめ
この節の冒頭で述べたとおり、我が班が目指すワンストップサービスを実行している
団体は国内には存在していない。しかし、大阪府の自動車OSSや引越しワンストップ
サービスといった新たな構想のもとで、新規に構築したシステムを共有し、官民がそれ
ぞれの立場で利用することによって、住民をはじめ多くの団体の間で利便性を生み出し
ている。
また、大野城市のようにシステムは連携していなくても、従来のシステムを工夫して
1か所に集結し、利用者にワンストップでサービスを受けられるようにするだけでも、
住民に多くの利便性を感じてもらえることがわかった。
我が班が考える組織の垣根を越えた「総合窓口」や「ポータルサイト」といった考え
方は、少しずつ我々の暮らしの中に入ってこようとしている。
ワンストップサービスを成功させ、維持していくためには、官と民、そして住民個人
が何らかの利便性を獲得出来ないと存続は出来ないことがわかった。官には事務の効率
化、民にはコストの削減と収益の増大、また、住民個人に対しては安全で便利な事務手
続きを提供する事が肝要である。
‐ 42 ‐
第5章
第1節
政策提言
総合窓口の実現
前章における先進組織の取組みにも見られるように、総合窓口の設置やICTを活用
したワンストップサービスの仕組みは住民に多くの利便性を提供することが判った。
我 が 班 が 目 指 す 「自 治 体 を 越 え た ワ ン ス ト ッ プ 大 作 戦 」を 成 功 さ せ る 第 一 段 階 と し て 、
庁舎内の総合窓口の設置を提言する。総合窓口を設立することにより、次のような効果
がもたらされる。
・住民票や印鑑登録証明書の発行、年金や国民健康保険への加入手続きなど、従来は
行政サービスを受けるときに複数にまたがっていた窓口を、1か所に集約すること
で住民の利便性・サービスの向上を図ることができる。
・行 政 内 の 情 報 連 携 が 図 れ 、内 部 に あ る 情 報 を 参 照 す る こ と で 添 付 書 類 が 不 要 と な る 。
・手続きや書類の見直しで、効率的な業務が実現できる。
窓口における総業務時間を減らすことで、原課事務の効率化や省力化による業務処理
時間の短縮を図ることができ、必然的に職員の人員削減の効果を生みだすことが可能と
なる。
我が班が提言する総合窓口実現の手順は、以下のとおりである。
1.総合窓口化すべき業務の洗い出し
ま ず は 、窓 口 業 務 を 見 直 し 、総 合 窓 口 に 統 合 す べ き 業 務 の 洗 い 出 し を 行 う 必 要 が あ る 。
そのため、関係部署の部長・課長による「総合窓口化検討会議」の設置を行い、その下
に関係各課の実務担当者で構成する「ワーキンググループ」を設置して、総合窓口に統
合すべき業務を選定していくことが第1段階と考える。
総合窓口に統合すべき業務については、基本的にライフイベントで発生する複数の手
続き業務を対象にすべきである。
どのようなライフイベントが我々の身の回りに存在するのか検討した結果、以下の1
1個のライフイベントを抽出した。
出 産 ・妊 娠
子育て
成 人
仕 事 (就 職 ・退 職 )
結 婚 ・離 婚
けが・病 気
死 亡
新 築
‐ 43 ‐
就 学
引越し
(転 入 ・転 出 ・転 居 )
介 護 ・高 齢 者
上記のライフイベントで発生する手続き業務の集約を行い、その手続き業務の専門性
や発生件数について解析を行う。その結果、基本的には専門性が低く、申請件数が比較
的多い手続き業務に関しては、総合窓口に統合する。
下記は総合窓口で取り扱うべきと考える一般的な業務である。
証明手続業務
戸籍謄抄本
異動申請業務
戸籍手続
住民票
印鑑証明
転 入・転 出 手 続 き
税証明
国 保・乳 幼 児 医 療
児童手当
2.住民ニーズの把握、住民意見の募集
総 合 窓 口 設 置 の 計 画 段 階 に お い て 、現 在 の 窓 口 サ ー ビ ス を 住 民 が ど う 感 じ て い る の か 、
どのような窓口サービスを望んでいるのかを確実に把握し、計画に反映させる必要があ
る。そのため、来庁者に対するアンケート調査やホームページ上でのアンケート調査・
提案募集等により、住民ニーズや住民意見の集約を行う。
3.組織再編の検討
総合窓口に統合すべき手続き業務を選定すると、当然原課の業務の内容や量が変わっ
てくるため、部署の新設や統廃合の必要が出てくる。
そのため、機構改革を行い組織の再編を行わなければならない。
手続き業務を集約させた「総合窓口課」を設置するとともに、引き続き原課で対応す
ることとなった業務の量により部署の統廃合を行い、適切な人員配置を検討する。
また、
「 総 合 窓 口 課 」に お い て は 、受 付 、審 査 、入 力 と い っ た よ う に 係 員 を 分 離 し 、ラ
イン化して手続き業務を行うようにして、業務の一連の流れをマニュアル化する。これ
により、住民サービスの質を低下させない範囲での比較的単純な作業については、民間
事業者へ外部委託することなども検討を行う。
4.フロア改修の検討
総合窓口では、1つの窓口で複数の手続きを一度に行うことを可能にする。しかしな
がら、それは裏を返せば、多くの来庁者が1つの窓口に集中するということである。そ
のため、受付窓口の増設や待合スペースの確保を行う必要がある。
まずは、フロアのレイアウト変更について検討すべきである。しかしながら、庁舎の
構造上、レイアウトの変更だけでは対応できない自治体も出てくるであろう。その際、
有効活用できるスペースがあれば、不足する業務スペースや待合スペース用に改修する
ことを検討する。
5.関連業務のシステム連携
総合窓口を設置するにあたっては、各業務システムを連携させる必要がある。
総合窓口を設置した場合、一職員が多岐にわたる業務を取り扱う必要があり、関連業
務に関する個人データを参照しなければならない。また、参照するだけでなく、個人デ
‐ 44 ‐
ータを更新する必要も生じる。
また、一職員が取り扱う業務の幅が広がるため、専門的知識と経験が不足しがちとな
り、適切な判断ができない可能性が高い。
そのため、部署間の垣根を越えた横断的なシステム連携が可能であり、また、職員を
サポートする機能を備えた「総合窓口支援システム」の構築・導入をすべきである。
6.費用対効果の検討
上記で述べたような総合窓口を設置するためには、フロア改修費やシステム構築費な
どの膨大なコストが新たに発生する。
総合窓口を設置した場合の費用対効果を明確化することは難しいが、住民の利便性が
どの程度向上するのか、人件費の削減額がどの程度になるのかを試算し、新規コストと
比較させながら、総合窓口設置の費用対効果について検討していく。
7.条例等の改正
関連業務及び個人情報保護条例を見直し、必要に応じて条例を改正する。
8.高付加価値のあるサービスの提供
以上述べてきたとおり、総合窓口を設置するにあたっては、様々な検討事項がある。
ど の 事 項 も 欠 か す こ と の で き な い 重 要 な も の で あ る が 、そ の 中 で も 、我 が 班 が 考 え る「 総
合窓口」において最重要視するのは「総合窓口支援システム」の構築・導入である。
我が班が提言する「総合窓口」とは、複数の窓口を統合し、住民の手続き時間の短縮
や窓口移動の動線を短縮するワンストップサービスに加え、ICTを利活用した付加価
値のあるサービス提供を行うものである。
先にも述べたように、
「 総 合 窓 口 支 援 シ ス テ ム 」の 構 築・導 入 に よ り 、他 部 署 間 で の 横
断的なシステム連携が可能となるということは、各部署が持っている個人データを統合
することができるということである。今まで、各部署は断片的な個人データしか参照す
ることができず、本来提供可能なサービスがあるにも関わらず、職員の知識、経験不足
などからサービスの提示をすることができないケースが見受けられた。しかし、個人デ
ータを統合することで、各個人のライフイベントに沿った提供可能なサービスをシステ
ムが判断して提示することが可能となる。つまり、住民からの申請を受けてのサービス
提供に止まらず、行政から住民に対して提供可能なサービスを提示・通知することが可
能となる。
このように、これからの行政サービスは申請主義から脱却し、情報提供型(プッシュ
型)に転向していくべきであると考える。
‐ 45 ‐
図 表 24
総 合 窓 口 のイメージ図
9.担当者連絡会議の実施
総合窓口を設置した際には、1∼2か月に1回程度の頻度で担当者連絡会議を開く。
会議の目的は、総合窓口課職員と関連業務担当者の情報交換である。窓口でのトラブ
ル内容の報告や住民の反応、法改正等の情報を共有し、サービスレベルを維持させてい
くために必要と考えられる。
10.住民満足度調査の実施
総合窓口の設置は職員の自己満足の産物であってはならない。常に来庁者の視点に立
つ為にも、総合窓口に対するアンケート調査を定期的に行い、職員の対応、手続きの処
理時間、全体的な満足度などについて調査を行う。
11.事後評価の実施
更なる改善のためにPDCAサイクルを用いて、総合窓口課設置前と設置後の待ち時
間や手続き処理時間の比較検証を行い、計画当初に見込まれた効果が上がっているのか
どうかの評価を行う。
次に、評価の結果及び住民満足度調査結果を基に、計画を見直し、改善すべき点を洗
い出し、改善を図っていく必要がある。
この事後評価については、単年度ではなく、複数年度にかけて行っていくことが肝心
である。
以上述べてきたように、総合窓口の実現のためには多くの費用と十分な検討時間を要
しており、今すぐにできるわけではない。
‐ 46 ‐
総合窓口化する業務においても、都市部、ベットタウン、高齢化の進んでいる地域と
いった地域性や自治体内部の問題により、自治体によって異なってくると思われる。ど
の程度の「総合窓口」を構築するのか、住民の利便性と費用対効果を見極めながら、合
理的な範囲での「総合窓口化」について検討を重ねていく必要がある。
そのためには綿密なスケジュールを策定する必要があり、その目安となるスケジュー
ルを下記に例示しておく。
図 表 25
第2節
総 合 窓 口 設 置 スケジュール(参 考 )
ポータルサイトの構築
我 が 班 で は さ ら な る I C T 利 便 性 の 追 求 を 研 究 し た 結 果 、総 合 窓 口 の 構 築 に 加 え 、「行
政 ポ ー タ ル サ イ ト 」の 構 築 と い う 結 論 に 至 っ た 。我 が 班 が 提 言 す る ポ ー タ ル サ イ ト と は 、
専門性が薄く申請件数が多い行政手続きや民間の手続きが、時間に関わりなく自宅や外
出先のパソコンから行える唯一のWebサイトを指す。我が班が提言する行政ポータル
サイトは、行政窓口への入口となるポータルサイトであり、インターネット上に存在す
る総合窓口となる。
第2章でも述べたが、現在ではほとんどの自治体で行政ポータルサイト(ホームペー
ジ)を開設している。しかし、情報の発信が主であり、電子申請システムの整備は一部
にとどまっている。これでは、住民のニーズに十分対応しているとは言えない。
住民のニーズに応え、住民の利便性を高めるため、新たなサービス機能の追加と、そ
‐ 47 ‐
の基盤となる仕組みを構築する必要がある。
ここでは、行政ポータルサイトを通じて、住民のニーズに対応した新たなサービスを
提供する仕組み作りについて提言する。
1.サービス機能の追加
(1)電子申請・届出システムの構築
時間的・距離的制約のない電子申請・届出システムポータルサイトを積極的に構築す
る。電子化する申請・届出については、基本的に総合窓口で取り扱う手続きを中心に、
できる限り多くの手続きを対象とする。
図 表 26 電 子 申 請 ・届 出 イメージ
(2)マイ・ページの構築
事 前 に 利 用 者 登 録 を 行 う こ と で 、個 人 ご と に 利 用 で き る マ イ・ペ ー ジ 機 能 を 構 築 す る 。
個人ごとのマイ・ページを持たせることにより、個人の状況に応じた情報や受けること
が可能なサービスについて、ポータルサイトを通じて閲覧することや自治体からの通知
を受けることができるようにする。
‐ 48 ‐
図 表 27
マイ・ページのイメージ図
2.構築にあたって配慮すべき点
第2章第5節で述べたように、オンライン申請の利用率は低迷している。ポータルサ
イトを構築する際には、その原因を考慮しながら構築していく必要があり、下記の点に
ついて配慮すべきと考える。
(1)電子申請・届出の普及促進のための施策
電子申請・届出の利用率を高めるため、利用者には料金割引やポイント付加制といっ
た特典を設ける。窓口申請との差別化を図ることで、利用率向上を促していく。
(2)わかりやすい仕組み作り
ポータルサイトが総合窓口と大きく異なる点は、どのような人が申請を行おうとして
いるのかが判らないことや、住民が窓口担当職員の助言無しで、申請の手続きや入力を
行わなければならないということである。したがって、ポータルサイト内の表現や表示
方法は、極力「お役所ことば」を使用せず、誰もが分かりやすいものでなければならな
い。
構築にあたっては、ユニバーサルデザインの考え方に基づき、若者から高齢者、心身
の条件や利用する環境に関係なくポータルサイトにアクセス、利用できるようにする。
(3)個人認証のあり方
ポータルサイト上で電子申請・届出や自分の個人情報を閲覧するなどの場合、何らか
の形で個人認証を行う必要がある。基本的に本人確認を必要とする手続きについては公
的個人認証サービスを利用する。しかしながら、本人確認を必要としない手続きや、仮
に成りすまし等が生じても個人の権利関係の回復が容易な手続きについては、利便性を
‐ 49 ‐
考慮し、IDとパスワードでの認証方法を用いるようにする。
(4)利用環境の整備
極力多くの住民にポータルサイトを利用してもらうように利用環境を整備する。
インターネット環境や機器のない人たちのために、各地域公民館や体育施設などの公
共施設に利用端末を設置するとともに、テレビ電話を設置し、操作方法について不明な
点などがあれば問い合わせできるような体制を設ける。
また、利用端末については、比較的簡易な申請・届出や、個人への通知関係などはパ
ソコンだけでなく、携帯電話等のモバイル端末からの利用も可能にする。
(5)住民・NPO法人との協働によるポータルサイト構築
ポータルサイトは住民のためのものであり、住民のニーズの把握や利用者視点による
ポータルサイトの改善点などを常時把握していく必要がある。
そのため、ポータルサイト上でパブリックコメントを募ることの他に、電子申請・届
出の利用者に対して、申請画面上でアンケート項目を設けるなど、住民と一緒にポータ
ルサイトの機能向上を目指していく。
また、住民からボランティアを募るほか、NPO法人と連携して、高齢者等のICT
弱者に対しての支援を行っていく必要がある。
(6)費用対効果
総合窓口と同様に、ポータルサイトにおいても、経費(人件費)削減は期待される。
総合窓口と並行で運用されることで、窓口混雑の回避効果がさらに高まることとなる。
ポータルサイトにより集められた申請は、直接、申請者を窓口の待合所で待たせている
わけではないため、時間を分散して処理できる。また、ポータルサイトによって寄せら
れた申請は、申請者の入力の段階で誤記入などの単純なミスがチェックされているため
事務処理の効率化に大きく貢献できるものと考える。
第3節
他の組織とのシステム連携
1.公的機関とのシステム連携
個人が役所内で申請を行い取得した証明書などの提出先の多くは、国や県の組織、ま
たは他の自治体などの公的な機関である場合が多い。個人にとってみれば、同じ公的機
関の窓口であるにも関わらず、目的を達成するために、市町村窓口や国・県の機関の窓
口 を 行 っ た り 来 た り し な く て は な ら な い 。広 い 視 点 で み れ ば 、こ れ ら は 庁 舎 内 に お い て 、
それぞれの窓口が独立して業務を行っていることと同じことである。
自治体を越えたワンストップを実現するために、我が班は市町村役所をはじめ、国や
県の機関との公的機関のシステム連携を提言する。実現のためには、安全なネットワー
クシステムの活用とともに、現在施行されている各種法律、条例、規則の大幅な見直し
が必要となってくる。
‐ 50 ‐
連携すべきと考える公的機関の例は次のとおりである。
自治体
市町村
県 の機 関
一部事務組合 広域連合 消防 保健所
都道府県
税務署
国 の機 関
検察
県税事務所
保健所
社会保険事務所
法務局
福祉事務所
国保連合会
入国管理局
病院
警察 病院
運輸支局
裁判所
住 基 ネット
システムが連携することで「個人情報の保護」との兼ね合いを懸念する声が多く上が
るがことが予想される「
。ある機関に集約された情報を別の機関で利用することは目的外
の使用ではないか?」という考え方である。我が班が提言するシステムの連携は、本人
の 同 意 の 下 に 行 わ れ る こ と が 原 則 で あ る た め 、基 本 的 に は 問 題 は な い と 考 え る 。た だ し 、
利用者は同意事項をよく理解しないまま、すぐさま同意してしまう傾向が多く見られる
ため、十分な理解を得られるような仕組み作りを行う必要がある。また個人の同意を得
ない組織間の情報の連携は、法的根拠に基づいた「公用照会」として現在も紙文書で行
われているため、問題はないと考える。
とはいえ、住民からの信頼を保持するためにも、統一されたルールのなかで連携によ
り交換する情報は必要最小限のレベルにする努力や、大量の情報をネットワーク上で預
かる自覚と責任感を忘れてならない。
2.民間事業者とのシステム連携
公的機関との連携が達成できれば、次にインターネットを利用して民間事業者とのシ
ステム連携を提言する。
シ ス テ ム が 連 携 す る こ と で 便 利 に な る と い う こ と は 、電 気 、ガ ス 、電 話 、交 通 、学 校 、
金融機関、病院などの社会生活基盤型の事業者にも同様のことが言える。これらの組織
の窓口で住民票や公的な証明書の提出を求められるケースは多くある。これらの組織は
法的な制約により業務を行っていることが多く、その業務の遂行に際し、公的機関が交
付した各種証明書による事実確認が必要となることが多い。しかし、紙を媒体にした証
明書の提出に依存しているため、利用者個人に労力的・金銭的負担を強いている。
もし、市町村をはじめとする公的機関と民間事業者のシステムが連携し、必要な情報
を共有することが可能になれば、証明書を交付する窓口の混雑は大幅に解消され、公的
機関の窓口の混雑解消と人的コストの削減にも大きく貢献することができる。そしてな
によりも、便利になることで、住民個人にICTの利便性を多く感じ取ってもらうこと
が可能となる。
我が班では民間事業者ともシステムの連携をすすめ、必要な事実関係が、連携したシ
ステムを介し即座に反映し、確認作業ができる環境の構築を目指す。
連携すべきと考える民間組織の例は次のとおりである。
電力会社
ガス会 社
クレジット会 社
電話会社
公共交通
NHK
私立学校
‐ 51 ‐
銀行
新聞
郵便
病院
公共性の高い業種で、ライフイベントにより申請手続きが生じることがある民間組織
については、システムの連携を行うべきである。
3.共通したシステムの利用
各組織においてシステムを連携させるためには、それぞれの組織が統一したルールに
従い、システムの構築を行わなければならない。現在、各自治体は同じ法律に基づいて
同じ業務を行っているにもかかわらず、異なるメーカーの異なるシステムを利用して行
政サービスを提供している。自治体独自で開発やカスタマイズを行うため、そのコスト
は増大し、割高なものとなっている。地域の特性やニーズは異なるため多少の差別化は
必要であるが、今日のように異なるシステムがそれぞれに独立して利用されていること
は、非常に不効率で不経済なものとなっている。
また、自治体は他社のシステムに変更しようと考えた場合、所有するデータの移管に
多くの労力と時間を必要とする。このため、なかなか他社のシステムに変更することが
できない。一度システムの開発を受注した業者(ベンダー)はその後も居座り続けるこ
とが多く、次回のシステム更新時に、数億円規模のシステム導入事業を随意契約で受注
す る よ う な こ と に な っ て い る 。こ の よ う な 市 場 競 争 原 理 が 完 全 に 機 能 し て い な い な か で 、
現在のシステム構築費用が本当に適正なものであるのかという疑問の声は多い。
これらの弊害を解決するためにも、共通化されたシステムの開発を行い、それを利用
することによってシステムの連携を成功させるべきである。
このような問題を克服するためにも我が班では、政府の構想にある「地域情報プラッ
ト フ ォ ー ム 」に 準 拠 し た シ ス テ ム の 構 築 を 行 う こ と が 最 善 策 で あ る と 考 え て い る 。ま た 、
※
※
公 的 機 関 同 士 を 結 ぶ ネ ッ ト ワ ー ク は 既 存 の L G W A N 、霞 ヶ 関 W A N の 利 用 が 安 全 で
確実と考える。
・・・
語句説明
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
※ LGWAN
: L G W A N ( Local Government Wide Area Network) と は 、 地 方 自 治
体 の コ ン ピ ュ ー タ ネ ッ ト ワ ー ク を 相 互 接 続 し た 広 域 ネ ッ ト ワ ー ク 。都 道
府 県 、市 区 町 村 の 庁 内 ネ ッ ト ワ ー ク が 接 続 さ れ て お り 、中 央 省 庁 の 相 互
接続ネットワークである霞ヶ関WANにも接続されている。
※ 霞ヶ関WAN
: 霞 ヶ 関 W A N ( Wide Area Network) と は 、 中 央 省 庁 の コ ン ピ ュ ー タ ネ
ッ ト ワ ー ク を 相 互 接 続 し た 広 域 ネ ッ ト ワ ー ク 。1 9 9 7 年 1 月 か ら 運 用
さ れ て お り 、2 8 機 関 が 接 続 さ れ て い る 。2 0 0 2 年 か ら は 、地 方 自 治
体 間 の 相 互 接 続 ネ ッ ト ワ ー ク で あ る L G W A N (行 政 総 合 ネ ッ ト ワ ー
ク )と も 接 続 さ れ て い る 。
参考:日立電子行政用語集
http://www.hitachi.co.jp/Div/jkk/glossary/index.html
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・
‐ 52 ‐
4.組織間の文書対応
多くの公的機関では、業務を遂行するために他の公的機関に対し公用照会や通知文書
という形で所得や住所の照会を紙媒体による郵送方式により行っている。部署によって
は膨大な文書量となることも多く、このことで回答に時間を多く費やすこともある。規
模の大きな団体では、この膨大な量の照会文書に対する回答作業に専任の職員が取り組
んでいる。全国の自治体がそれぞれに文書をやり取りしていることを考えると、その量
とそれに関わる時間と費用は膨大なものであることは、容易に想像がつく。
ま た 、現 在 の 文 書 に よ る 照 会 で は 、誤 記・誤 配 や 紛 失 の 問 題 が 発 生 す る だ け で は な く 、
回答が遅れることで、その情報を必要とする公的機関は対応が遅れ、その結果住民サー
ビスの質の低下につながっている。
このような手作業による事務手続きこそ、ネットワークを駆使し合理的に解決すべき
であると我が班は考える。公的機関同士でのシステムの連携を構築することで、これら
の照会文書が激減することは間違いないと思われる。送り方、受け方の事務量は大幅に
縮小されるばかりでなく、迅速で正確な対応がとれることにより、住民サービスのレベ
ルが向上する。
ネットワークにて情報を交換するべき照会・通知
・滞 納 整 理 用 照 会 ・国 保 賦 課 用 所 得 照 会 ・所 在 確 認 用 住 所 照 会
・児 童 手 当 用 所 得 照 会
第4節
・原 付 バイク廃 車 通 知
・転 入 通 知
・戸 籍 附 票 通 知
我が班の提言(まとめ)
住民にICTの利便性を多く感じ取ってもらうために、国内全ての自治体は、現在の
窓口業務について手順や住民ニーズを十分考慮したうえで、総合窓口や行政ポータルサ
イトといったワンストップのサービスに取り組むべきである。そして、その総合窓口や
ポータルサイトは組織のワクを超え、他の公的機関や民間企業と連携を行い情報の共有
を図るべきである。
ここまでの提言が可能となれば、住民は一つの窓口で一度に、手続きを行う組織に関
係 な く 複 数 の 手 続 き を 迅 速・正 確 に 行 う こ と が で き る 。こ の 時 点 で 、我 が 班 が 唱 え る「 自
治体を越えたワンストップ大作戦」は完成すると考える。
提言達成後は、住民は行政サービスの中に今日のICTの利便性を多く感じ取っても
らえるはずである。また、情報の連携を行う各機関同士では業務を合理的に遂行し、多
くの利便性が発生するはずである。
今後、行政はこれまでの縦割りの意識を捨て、思いきった情報の連携を行うべきであ
ると考える。
‐ 53 ‐
図 表 28
我 が班 が考 えるシステム連 携
‐ 54 ‐
おわりに
我々が幼かった頃、生活の中にデジタルという言葉はほとんど存在しなかった。
カメラで撮影した写真は数日経たないと見ることはできなかったし、ポケットに入れ
て持ち運べる電話などもなかった。そのような時代に今日のデジタル技術の発達を正確
に予想できた人間は、当時どれくらい存在したであろうか?
毎日のように新しい用語が生まれてくるICT技術の世界は、今後も驚異的なスピー
ドで進化を遂げるはずである。おそらく今から40年後は、全く想像もつかない夢のよ
うなICT社会が構築されているであろう。
今回の提言以外にも、ICTを行政の業務に取り込んで、更なる合理化を目指すべき
である。ICTでできることは全て機械に任せてよいのである。
し か し 、「 窓 口 で の 笑 顔 」 や 「 住 民 と の 何 気 な い 世 間 話 」、「 細 や か な 気 配 り 」 な ど 、
どんなに技術が進んでも、機械には不得意な人間らしいサービスがある。今回の提言で
多くのICTの利用について述べたが、アナログの時代に育ちデジタル時代に生きる
我 々 世 代 は 、今 後 生 ま れ て く る 完 全 デ ジ タ ル 世 代 に 対 し 、
「 人 間 ら し い サ ー ビ ス 」を 提 言
していかなければならないと考える。
最後にアドバイスを頂いた講師の皆様、貴重なお時間を頂いた視察訪問先の担当の皆
様、ご迷惑をおかけした福岡県市町村職員研修所職員の皆様、この場を借り、深く感謝
申し上げます。誠にありがとうございました。
‐ 55 ‐
参考文献
第1章
IT用語辞典バイナリ
http://www.sophia-it.com/
総 務 省 :「 平 成 2 0 年 通 信 利 用 動 向 調 査 」
総 務 省 :「 情 報 通 信 白 書 平 成 2 1 年 版 」
総 務 省 :「 総 務 省 に お け る 電 子 自 治 体 推 進 の 主 な 取 組 み 」
厚生労働省:電子申請に関するアンケート調査結果(平成20年度)
http://www.mhlw.go.jp/sinsei/torikumi/11/
総務省:地方自治情報管理概要∼電子自治体の推進状況∼(平成20年10月)
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/2008/081031_1.html
NIKKEI
NET:旅券の電子申請は廃止を・財務省が予算執行の無駄指摘
http://it.nikkei.co.jp/business/news/index.aspx?n=AS3S04011+04072006
内 閣 府 : I T 戦 略 本 部 :「 i − J a p a n 戦 略 2 0 1 5
∼国民主役の「デジタル安心・活力社会」の実現を目指して∼
」
次 世 代 電 子 行 政 サ ー ビ ス 基 盤 等 検 討 プ ロ ジ ェ ク ト チ ー ム ( 首 相 官 邸 ):
次世代電子行政サービス(eワンストップサービス)の実現に向けたグランド
デザイン
総合窓口検討部会:資料i−Japan戦略2015(IT戦略本部)
福 岡 県 : http://www.pref.fukuoka.lg.jp/life/list.html?id=28
http://www.soumu.go.jp/denshijiti/index.html
福 岡 県 :「 新 ふ く お か I T 戦 略 」
http://www.pref.fukuoka.lg.jp/d08/new-itstrategy.html
福 岡 県 :「 福 岡 ニ ュ ー デ ィ ー ル 政 策 」
http://www.pref.fukuoka.lg.jp/z01/teirei-kisyakaiken20090220.html
第2章
総務省自治行政局:「平成20年地方公共団体定員管理調査結果」
総務省自治行政局:「地方自治情報管理概要
総務省
∼電子自治体の推進状況∼
」
報 道 資 料 :「 平 成 2 0 年 度 に お け る 行 政 手 続 オ ン ラ イ ン 化 等 の 状 況 」
総 務 省 :「 広 域 行 政 」
http://www.soumu.go.jp/kouiki/kouiki.html
LASDEC:「3 町対等の協定書方式で証明書広域交付システムを運用」
http://www.nippon-net.ne.jp/its/bestpractice/20/a04.html
消 費 者 庁 :「 個 人 情 報 の 保 護 」
http://www.caa.go.jp/seikatsu/kojin/index.html
山 口 県 ホ ー ム ペ ー ジ :「 山 口 県 電 子 県 庁 推 進 ア ク シ ョ ン ・ プ ラ ン 」
http://www.pref.yamaguchi.lg.jp/cms/a12600/e-kentyou/actionplan .html
‐ 56 ‐
第3章
総 務 省 :「 平 成 1 5 年 度 電 子 自 治 体 推 進 パ イ ロ ッ ト 事 業 報 告 書 」
総 務 省 : 「地 域 情 報 プ ラ ッ ト フ ォ ー ム 推 進 事 業 」
内 閣 府 : 「個 人 情 報 保 護 に 関 す る 法 体 系 イ メ ー ジ 」
http://www5.cao.go.jp/seikatsu/kojin/
総 務 省 :「 公 的 個 人 認 証 サ ー ビ ス の 利 活 用 の あ り 方 に 関 す る 検 討 会 ( 第 6 回 ) 資 料 5 」
西尾
隆 :「 住 民 ・ コ ミ ュ ニ テ ィ と の 協 働 」( 2 0 0 4 . 6 )
情報マネジメント:
「PDCAサイクル」
http://www.atmarkit.co.jp/aig/04biz/pdca.html
第4章
イ ギ リ ス :「 引 越 し ポ ー タ ル サ イ ト ( Iammoving.com)」
http://www.iammoving.com/
デ ン マ ー ク :「 国 民 ポ ー タ ル ( borger.dk)」
https://www.borger.dk/Sider/default.aspx
大 野 城 市 :「 ま ど か フ ロ ア 」
http://www.city.onojo.fukuoka.jp/shisei/madoguchi/madokafloor.h tml
国 土 交 通 省 :「 自 動 車 ワ ン ス ト ッ プ ( O S S )」
http://www.oss.mlit.go.jp/portal/
近畿運輸局大阪運輸支局:
http://wwwtb.mlit.go.jp/kinki/osaka/
LASDEC:平成21年度
電子自治体推進セミナー資料
第5章
総 務 省 :「 ユ ビ キ タ ス ネ ッ ト 社 会 に お け る 新 た な 地 域 I C T サ ー ビ ス の 実 現 に 関 す る
事業」
次 世 代 電 子 行 政 サ ー ビ ス 基 盤 等 検 討 プ ロ ジ ェ ク ト チ ー ム ( 首 相 官 邸 ):
「次世代電子行政サービス(eワンストップサービス)の実現に向けたグランド
デザイン」
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