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第3章 日本におけるバイオマス燃料,同エネルギー利用の状況

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第3章 日本におけるバイオマス燃料,同エネルギー利用の状況
第3章
3-1
日本におけるバイオマス燃料,同エネルギー利用の状況
北海道地方における事例
北海道地方におけるバイオマスのエネルギー利用は,家畜糞尿などのガス化(バイ
オガス)によるものが増加しつつある.これは,家畜糞尿による土壌汚染および水質
汚濁の顕在化への対応策として,平成11年に「家畜排泄物の管理の適正化及び利用の
促進に関する法律」が施行されたことが契機となっている.NEDO北海道支部(2001)は,
道内におけるバイオガスプラントの稼働数は平成12年度末時点で10箇所(うち乳牛7
箇所,肥育豚2箇所,生ゴミ1箇所),平成13年度中に建設,運転予定のものが6箇
所(いずれも乳牛),休止中2箇所(乳牛,肥育豚各1箇所)と報告している.
一方,木質バイオマスの利用については,家畜糞尿の場合に比べ立ち遅れている状
況で,試験的段階を除けば実現化している施設,企業は存在しない.しかし,第二次
オイルショック後に「沢町木材工業」と「奥野林業」の2社がバークや端材を原料と
した木質ペレット生産を行っていた.ここでは,これら2社の事例について報告する.
前者については当時の新聞記事などの資料により取りまとめた.後者については
2001(H.13)年6月に行った元社員2名からの聞き取り調査の結果と,提供頂いた木質
ペレット生産事業に関する社内資料により取りまとめた.さらに最近の動きとして,
カラマツ製材業社「(株)サトウ」における,バークおよび木くずなどを原料とした木
質燃料活用への取り組みについてもその概要を報告する.
3-1-1
沢町木材工業
北海道地方における民間企業による木質ペレットの生産は,1983(S.58)年9月から
本格生産に入った沢町木材工業(本社:後志管内余市町,工場:同管内仁木町)が最
初とされる.同社は製紙会社に原料を納入するチップ業者で,バークを中心に年間3
千トン近い廃材が産出されるため,木質ペレット生産は,これの有効活用を目的とし
ていた.ペレット製造設備は,タケウチ(本社:旭川市)が開発したもので,チップ
工場内に設置している.生産能力は800kg/1時間で,販売量は地元の後志地区を中心
に月間40tonとされている.当時,自動供給タンク付きのペレットストーブを商品化し
た石油ストーブメーカーのコロナ工業(本社:徳島県鴨島町)と代理店契約を結び,
ストーブと木質ペレットを抱き合わせて売り込む戦略を取った.ただし,その後の本
社の動向については,今回,調査できなかった.
3-1-2
奥野林業
奥野林業(本社:胆振管内平取町)は,沢町木材工業と同様,チップ生産業者であ
り,廃材の有効利用を目的として木質ペレット生産に着手した.前出のコロナ工業と
原料−生産−流通に関して提携を結んでおり,生産設備導入においては,平取町によ
る融資制度「地場産業振興対策補助事業」を受け,さらに(財)新エネルギー財団によ
る「地域エネルギー開発利用事業普及促進融資」を受けている.設備はタケウチ製(前
出)で,生産能力は1ton/1時間で,沢町木材工業よりも若干高い能力である.
以下,聞き取り調査,および社内資料の結果を要約する.
1)木質ペレットプラント建設の理由
奥野林業のチップ・製材工場からの廃材,バーク産出量が年間約8千tonで,これ
らは全て消却していた.また,チップ工場においてチッパーの新型機導入によって
生産性が向上したことによって,社員数名の余剰人員が生じた.これらのことから,
廃材の有効利用と雇用安定のための労務対策の一環として,ペレットプラントを建
設することとなった.これには1970年代の2度のオイルショックが社会的背景とし
てあり,木質燃料の生産と販売が経済的に大きな効果があるものと期待していた.
2)資金の調達
全て自社資本で賄うことが不可能であることと,個人企業であることから,本事
業に適切な補助事業が極めて少なかったため,資金の調達に苦慮した.結果的に2
件の融資を得ることとなり,自社資金を含めて7千万円を資金とすることとなった.
*平
取
町:
3,000万円(比率43%)
「地場産業振興対策補助事業」
*新エネルギー財団:
3,000万円(比率43%)
*自
「地域エネルギー開発利用事業普及促進融資」
1,000万円(比率14%)
社
資
金:
計
:
7,000万円
3)研究グループの結成
本事業は当社として初の試みであり,道内では一部小規模の工場(沢町木材工業)
があるのみであったため,関連文献を収集するとともに,道立工業試験場に照会す
るなどを行った.しかし,プラント建設から運営に至るまで多くの問題点があった
ため,当社社長を中心に,同町森林組合,沙流川地区林産組合などと研究グループ
を結成し,これら会員の協力を得,本プラントの着工にこぎつけた.なお,本研究
グループに要した費用は,当社が負担した.
4)プラント建築の内訳
本プラント建築に要した費用内訳の概算値は下記の通りである.
*機械設置の基礎工事
1,850
*ペレット製造器機
45,650
*電気工事
10,000
*水道工事
*倉庫(4棟)
500
12,000
計
70,000千円
5)プラント施設・設備の規模
本プラントの施設・設備の規模は下記の通りである.
*敷地面積
*工場建物(既設)
1,000㎡
322㎡(鉄骨平屋)
*第二工場建物(既設)
*製品倉庫(4棟)
*機械設備
36㎡(鉄骨平屋)
360㎡(木造平屋)
バーク一次粉砕機,同二次粉砕機,乾燥機,
成型機,貯蔵タンク
6)生産システムの概要
*カラマツ間伐丸太から得られるバークおよび廃材を,乾燥しやすいように,
20mm以下にまで粉砕する(図3-1-1の4).
*粉砕された原料を一時貯蔵し,次の工程に定量供給する.(同図の5).
*原料を乾燥する(同図の6).
*サイクロンにより粉塵を除く(同図の7).
*成型機によって,ペレット状に成型する(同図の8).
*冷却の後サイロに貯蔵,袋詰めし出荷する(同図の9-10).
図3-1-1
奥野林業における木質ペレット製造工程(同社パンフレットより)
図3-1-1において示した奥野林業における木質ペレット製造工程の内,粉砕−乾燥の
工程においては,詳しくは「一時粉砕−乾燥−二次粉砕−水分調整」と2回の粉砕
を行っている.
7)事業の収益予測
奥野林業では,本事業の計画段階において事業収益の予測を行っている.年間生
産量,総売上高,売上原価(原材料費,労務費,光熱水道料,減価償却費など)を
産出し,年間での利益を算出したことろ,初年度(S.59)2,250ton生産で6,008千円,
第2年度(S.60)2,400ton生産で8,669千円,第3年度(S.61)2,400ton生産で11,379
千円を見込んだ.労務費(年5%の上昇),修繕費の増加を見込んでも,減価償却
費の減少によって,年収益は1.3∼1.4倍の速度で上昇するものと予想していた.
8)実際の事業の状況
製造プラント自体のハード面における問題は特になかったものの,オイルショッ
クにより急騰した灯油価格も,その後,値下がりが著しく,木質ペレットの燃費に
おけるメリットが小さくなってしまった.昭和61年6月現在における他の燃料との
発熱量当たりの単価比較において(表3-1-1),木質ペレットは石油代替効果と経費
節減効果を果たすものと思われた.しかし,ストーブおよびボイラーの価格が高く,
ことコロナ社製ストーブについては自動着火が不可能なため,普及が思うように進
まなかったた.このため,燃料である木質ペレットの販売も予想を下回る結果とな
った.
表3-1-1
燃
料
他の燃料との経済性の比較
発熱量
単価
(昭和61年6月現在)
1,000 kcal単価
8,700 kcal/l
25 yen/kg
20 yen/kg
60 yen/l
5.56 yen
4.44 yen
6.90 yen
木質ペレット
4,500 kcal/kg
灯
油
A
重
油
9,000 kcal/l
65 yen/l
7.22 yen
L
電
P
G
力
13,000 kcal/kg
860 kcl/kwh
289 yen/kg
25 yen/kwh
22.23 yen
29.07 yen
備
考
工場渡し価格
奥野林業社内資料より
顧客に対する責任上,1990(H.2)年頃まで生産を続けたが,本社の主事業である製
材,チップ生産自体の経営が悪化したため,会社全体として資金繰りが困難となっ
たため倒産するに至った.
3-1-3
(株)サトウ
北海道東部の十勝地方はカラマツ林業・林産業の盛んな地域であり,(株)サトウ(本
社:十勝管内帯広市)は,カラマツ原木の年間購入量が13万m3 を越える本地域トップ
の製材能力を持つ企業である.
板紙原料として使われるカラマツチップは,古紙利用量の増加によって,需要量と
価格が急落している.安価な外材の影響のみならず,チップ価格の下落はカラマツ林
業,林産業の経営をより一層厳しいものにしている.このような状況において,当社
は大量に出るバーク,木くずを原料に,木質ペレットの生産を計画している.ただし
前記2社の場合と大きく異なる点は,木質ペレットを製造し,これを一般に販売する
ことを第一義せず,工場内の製材機や木材乾燥機などに使用される電力や熱源として
活用し,光熱費の軽減を目指していることである.また,木質ペレットをエネルギー
源とした工場内暖房を整備し,冬季における労働環境の改善を考えている.このよう
に,基本的に自社内消費型ではあるが,余剰分のペレットについては販売ルートを開
拓するものと思われる.当社は,トップレベルのカラマツ製材企業であることから,
将来,木質燃料の大きな市場を開拓,形成していく中心的役割を果たすことも期待さ
れる.
3-2
東北地方における事例
國崎 貴嗣
東北地方における木質バイオマス燃料の生産,利用に関する事例として,木質ペレット
(以下,ペレットとする)の生産会社1社と利用者1社の事例を紹介する.いずれの会社
も20年近くにわたり,ペレットを生産あるいは利用してきた実績がある.2社への聞き取
りは2000年7月,および2001年1月に実施した.さらに,本節では木質バイオマスエネルギ
ーの利用に関する最近の動向について,岩手県内の事例を中心に紹介する.
3-2-1
ペレット生産会社の事例∼葛巻林業株式会社∼
(1)ペレット生産の背景
葛巻林業株式会社(以下,葛巻林業とする)は岩手県に所在する会社である.製紙用の
広葉樹チップの生産をはじめとして,ペレットやおがこによるキノコ培地,緑化資材,家
畜の敷料など,多様な木質製品を開発,販売している.葛巻林業がペレット生産に着手し
たのは第二次オイルショック時の1981年のことである.その背景には工場廃材の処理問題
があった.チップ生産に伴い大量の樹皮が発生するため,岩手県内のチップ会社では,1970
年頃まで,樹皮を山あるいは空き地に放置していた.しかし,自然発火による山火事の危
険性が指摘されるにつれ,こうした処分方法が問題となり,葛巻林業では樹皮を焼却処分
するようになった.ところが,1970年代に2度にわたるオイルショックが生じたことによ
り,チップの引取先である製紙会社の経営状態が悪くなり,それが波及する形でチップ会
社の経営状態も悪くなった.こうした状況により,樹皮を焼却処分する経費にも節約の必
要性が生じてきたため,樹皮をバーク堆肥など資源化する方向で検討を始めた.ただし,
当時はまだバーク堆肥に関する認識も高くなかったこと,および1979年からの第二次オイ
ルショックにより石油の代替燃料として木質資源が再び注目されていたことから,樹皮処
分の対策として,樹皮から石油代替燃料を開発することを思い立ったという.今日のよう
な地球温暖化防止や資源循環型利用という観点はなく,チップ工場から出る樹皮の焼却経
費を節約するためであった.
樹皮の堆肥化や燃料化は,各地のチップ会社でアイディアとしては出されるものの,実
例はなかった.そのような状況の下,岩手チップ工業会の音頭取りにより,葛巻林業で県
内最初にペレット生産試験へ取り組むことになった.余談であるが,葛巻林業がペレット
生産試験に成功したら,県内の各チップ工場でペレット生産を順次進めていき,各自の工
場で出る樹皮や廃材を自ら処理する計画もあった.この計画が青写真通りになっていれば,
岩手県内38ヶ所のチップ工場で,計6万2,000tのペレットが供給可能になったという.ま
た,この計画が成功した暁には,バイオマス発電へ着手することも考えていたという.
(2)1980年代におけるペレット生産の状況
1981年より,葛巻林業は日本の大手総合商社(三井物産),大手製作所(日本製鋼所)
と共同してペレット工場の建設に着手した.しかし,初回のペレット生産試験は失敗に終
わった.当時,直径12mmのペレットを生産しようと試みたものの,成型化できなかったの
である(ちなみに現在は直径6mm,長さ15mmのペレットを生産している).その後,アメ
リカ合衆国から成型機を輸入し,技術者を呼ぶなどして,葛巻林業では製品化に成功した.
なお,ペレット生産システムの導入にあたって,補助金は一切利用していない.
1982年11月に生産を開始した直後から,ペレットの需要が急速に増大した.そのため,
葛巻林業では県内に協力工場を募り,ペレット生産は葛巻林業の葛巻工場とともに,雫石,
茂市,釜石の4チップ工場で実施されるようになった.さらに,1984年には上記4工場と
久慈のチップ工場で北岩手木質燃料生産共同組合を結成した.ペレットの販売については,
県内は葛巻林業が主導で,県外では三井物産が主導で行った.三井物産は葛巻林業からペ
レットを買い取り,それを販売した.燃焼装置(ストーブ,ボイラー)の販売にも三井物
産は関係していた.この当時,ペレットの大口顧客は静岡のメロン栽培農家であり,温室
栽培のための熱源としてペレットは利用された.静岡までの長距離配送だったものの,当
時はA重油や灯油の価格が70∼90円/Lだったこともあり,購入者は輸送費を負担しても,
ペレットを使用する方が経済的であった.例えば,1984年9月時点では,対石油(A重油や
灯油)末端価格と比べて36∼47%のコスト低減を達成していた.しかし,石油価格の低下
により,翌年にはコスト低減率は9%となり,さらに経年的に石油価格が低下するにつれ,
コスト低減効果が上がらなくなった.この石油価格の低下に伴い,三井物産はペレット販
売から撤退した.さらに,岩手県以外の各地にペレット工場が建設されるようになった.
林野庁や通産省の助成制度により,最盛期は全国30ヶ所以上にペレット工場があったとい
う.このように,長距離配送では他県のペレット工場に対抗できなくなったため,1980年
代後半には岩手県に重点をおき,ペレットを販売してきた.ただし,石油の低価格安定化
だけでなく,日本製のペレット燃焼装置(ストーブ,ボイラー)の一部が燃焼効率や粉っ
ぽさなどの点で十分に改良されないまま販売され,確かな信頼が得られなかったこともあ
り,ペレットの需要は急速に減少した.その後,県内4つの協力工場はペレット生産から
撤退し,葛巻林業自身もペレット生産量の大幅な減退を余儀なくされた.
(3)ペレット生産の現状
現在生産されているペレットの大きさは直径6mm,長さ15mm程度である.国内外のペレ
ットの多くは,おがこを原料とする.しかし,葛巻林業では先述のような経緯で樹皮を原
料としている.使用されるのはブナ,ナラ,カエデなど広葉樹の樹皮である.木部はチッ
プにされ,上質紙用原料として県内の製紙会社に販売されている.広葉樹原木価格は1m3
あたり約1万円である(聞き取り当時).直営素材生産(葛巻林業葛巻工場の工場長が交
渉により立木買いする.作業班は全員で10名ほど)が40%,残りの60%は葛巻町森林組合
を含む近隣の素材業者から購入している.1日あたり約1haの素材をチップにする.チッ
プ生産ラインは年間278日稼動している.
ペレット生産ラインの敷地面積は約500m2 である.この中には破砕機,生産されたペレ
ットの貯留タンクの分も含まれている.電力設備容量は約300kwである(その主な内訳は,
破砕機90kw,粉砕機55kw,成型機90kw,その他コンベヤ,送風機などに約60kw).電力消
費量は約180kwhであり,これは容量の約6割に相当する.ペレット生産ラインの運転時間は,
冬季には1週間あたり5日で1日あたり8時間,その他の季節には1週間あたり3日で1日
あたり6時間である.ペレット生産ラインの運転は1人で担当する.このペレット生産ラ
インにより,1時間あたり1tのペレットが生産される.
ペレット生産のフローは以下のとおりである.
a)ペレットの原料となる広葉樹樹皮はローリングバーカーにより分離され,コン
ベヤにより破砕機に投入される.
b)樹皮は約20mmに破砕された後,定量供給フィーダーにより一定量が運ばれ,乾燥機
(ロータリードライヤー)に投入される.
c)乾燥機により含水率を13%前後にする.樹皮の含水率が13%より高いと,生産され
たペレットがふやけて崩れたり,燃焼効率が悪くなる.ちなみに,乾燥機の温風は樹皮や
端材を燃料とした木屑焼却炉から供給されている.冬場は燃焼効率をよくするためペレッ
トも使用している.
d)乾燥された原料は粉砕機に投入され,粉砕される.その後,振動篩により粉砕物と
未粉砕物に分けられる.このうち,粉砕物は一時貯留タンクにまわり,未粉砕物は再び粉
砕機にかけられる.
e)一時貯留タンクから,定量供給フィーダーにより一定量が運ばれ,成型機でプレス
加工される.リグニンが約240℃で溶け出すことを利用し,瞬間的に240℃の熱(摩擦熱)
を加えることにより,ペレットに成型される.
f)成型機により作られたペレットは,トロンメル(回転スクリーン)により,成型物
と未成型物とに分離される.未成型物は再び一時貯留タンクにまわされる.
g)成型物は空気冷却され,製品貯留タンクに運ばれる.自然冷却ではなく,クーラー
を使用するのは,冬季の結露防止のためである.
葛巻林業では,最盛期に1日あたり約10t,1年あたり約3,000tのペレットを生産して
いた.しかし,先述のように,現在ではその需要はなく,最盛期の3分の1である約1,000
∼1,300tを1年で生産している(売上は約2,000万円).販売形態は小口と大口に分けら
れる.小口の場合,15kgの袋で販売され,価格は20円/kgである.一方,大口の場合,1
m3 のフレキシブルコンテナバッグと呼ばれる折り畳み可能な袋(1袋あたり約550kg)で
販売され,価格は18円/kgである.ちなみに,小口を15kg袋にしたのは,当時のペレット
ストーブのタンクを15kgに設定しており,女性でも持てる重さにするためである.販売価
格については,加工費と人件費から10数円/kgのコストがかかることが反映されているよ
うである.また,ペレットの発熱量(低発熱量)は,約4,300kcal/kgであり,灯油1L当
たり発熱量の約半分であることも考慮したという.ちなみに,1984年当時のペレット価格
(大口)は23円/kgであり,現在も価格はほぼ横這いである.
ペレットの一番の大口顧客は県内の衣川村国民宿舎であり,1年あたり約600t使用して
いた(ただし,2000年10月のボイラー切り替えを契機にペレット使用を中止した).その
次が花巻(1984年∼)と二戸(1990年代)のスイミングスクール2社であり,それぞれ1
年あたり約100∼150t使用している.地方自治体の施設(葛巻町炭の科学館)でも1年あ
たり約40tを使用している.また,冷泉の温めに盛岡や花巻周辺の温泉旅館が使用してい
る.その他,小口ながら近隣の畜産,ビニールハウス農家でもペレットを使用している.
さらに,最近では住田町世田米保育園が2001年度に新規導入したペレットボイラー用とし
てペレットを使用する予定である.1998年の秋頃から問い合わせが再び増加し,ペレット
燃焼装置を新規で使ってみたいという問い合わせも多い.
(4)ペレット以外での樹皮の利用
葛巻林業では,1月あたり約1,600m3 の原木を消費し,かさで約800m3 の樹皮が発生する.
チップ生産で発生した樹皮のうち,約半分をペレット生産に,その残りを家畜の敷料生産
にあてている.敷料は近隣の畜産公社や畜産農家に1,600円/m3(3,200円/t)で販売さ
れている.敷料はチップ生産時の樹皮だけでは足りず,近隣のチップ工場から1月あたり
300t,1,000円/tで購入している.敷料の販売は14∼15年前からであり,石油価格の低
下に伴いペレットの需要が激減した1980年代後半から敷料として販売されていることにな
る.敷料としての樹皮の需要は高く,敷料の売上高がペレットのそれを上回ったこともあ
る.これに伴い,当然,社内からペレット生産を中止しようという意見も出されたという.
しかし,ペレット生産を中止すれば,これまでペレットを使用している顧客に迷惑がかか
ること,また,将来的にバイオマス発電をやる場合にペレットは必要になるだろうから,
技術継承のためにもペレット生産を続けてきたという.
なお,畜産農家は使用した敷料を堆肥屋に販売しており,資源状態に応じた段階的な利
用(資源のカスケード型利用)が行われている.
(5)焼却灰の処理
ペレットを燃焼させれば,当然灰が出る.樹皮ペレットからは重量比でペレットの約5
%に相当する灰が出るといわれている.そのため,特に大口顧客の場合,灰の処理が問題
となる.灰の処理に関しては,顧客の処理ルートの有無で3つの流れがある.1つ目は顧
客が自分で使用する場合であり,これは小口のビニールハウス農家が相当する.2つ目は
顧客が独自で灰の引取先を開拓する場合であり,花巻のスイミングスクールでは近隣の農
業試験場に無料で引き取ってもらっている.もう1つは顧客が独自で灰の引取先を開拓で
きない場合である.これは先ほどのスイミングスクールを除く大口顧客の場合で,焼却灰
を葛巻林業がペレット配達時に無償で引き取り,これを近隣のたばこ農家に輸送費とほぼ
同程度の価格(2,000円/t)で販売している.
(6)ペレット生産における課題
今後,全国にペレット工場が増える可能性の高いことから,葛巻林業の遠藤保仁社長に
ペレット生産の課題について説明して頂いた.
第一に,樹皮の確保の問題がある.岩手県全体でみた場合,外国産チップに押され,チ
ップ生産量が経年的に減少している.そのため,ペレットの原料となる樹皮も減少してい
る.岩手県では1990年当時にはチップを約100万m3 生産していたものの,現在ではそのお
よそ半分に減少している.また,最近ではバーク堆肥や家畜の敷料など,樹皮の新たな需
要が生じ,燃料用資源としての樹皮が確保しにくくなっている.
第二に,生産費削減の問題がある.燃料としての市場性を守るため,葛巻林業ではペレ
ット価格を据え置きにしている.そのため,ペレットを含めた製品全体で生産費をいかに
削減できるかが問題となっている.生産費削減は,機械化や機械稼働率上昇による生産性
の向上,間伐材の利用などにより可能である.また,ペレット配送費の削減も検討する必
要がある.
第三に,ペレット需要の問題がある.東北の場合,ペレットの夏場の需要は非常に少な
い一方で,冬場の需要は非常に多くなる.このため,夏場の出荷量に比べ,秋からの出荷
量は何倍にも増加する.こうした需要の季節変動に対応するために,ペレットを予め多め
に生産・保管しておかねばならず,保管経費が余分に必要となる.しかし,ペレット会社
からすれば,年間を通しての安定生産が望ましい.そのため,家庭用ストーブへのペレッ
ト供給よりむしろ,宿泊施設やプール,事業所など業務用ペレットボイラーへの供給先を
きちんと確保することが重要である.また,当然だが,ペレット生産が始めにありきでは
なく,いかなる需要があるのか,開拓できるのかという出口の部分からきちんと考えてい
くことが重要である.かつて全国的にペレット生産が広まった頃,一部の工場ではペレッ
トの供給先の見通しもなく,補助金がつくからという理由でペレット生産ラインを導入し
たケースもある.これでは長続きしない.
第四に,燃焼装置の問題がある.外国産のストーブやボイラーはあるものの,輸送費を
含めて価格が高い.国内産の安価で良質な燃焼装置がなければペレットは普及しない.1981
年に葛巻林業がペレット生産試験を始めた頃,燃焼装置メーカーは「ペレットがないから
燃焼装置は製造できない」といい,葛巻林業は逆に「燃焼装置がないのに,燃料は製造で
きない」といった.こうした堂堂巡りは,現在でも起こりうる問題である.ペレットだけ
でなく,燃焼装置の開発・生産も同時に検討する必要がある.また,燃焼装置からの灰の
処理も問題である.使用すればするほど灰が出るため,掃除が大変である.今後,燃焼装
置を普及させるのであれば,灰を自動的に送り出すこと,固形化することが必要ではない
かと考えている.
第五に,森林資源の総合的利用の重要性が指摘される.残材や廃材を燃料として利用す
る場合,ペレットだけでなく,用途やニーズに応じて,薪,チップ,炭,オガライト(お
がこを直径5? 8cm,長さ40cm程度に成型した燃料)など多様な利用形態を検討すべきであ
る.また,森林資源の有効利用の観点からすれば,樹皮はペレットだけではなく,敷料と
しても使えばよい.先述のとおり,敷料に使われた後の樹皮は堆肥として農家に販売され
る.また,ペレットの焼却灰も農家に販売されている.このように,林業―酪農―農業と
いう地域内資源循環がなされている.いずれにしても,林業,林産業の範疇だけで木材利
用を検討するという発想はあまり有効でないと考えている.
3-2-2
ペレット利用者の事例∼花巻スイミングスクールサンフィッシュイトー∼
(1)ペレット利用の経緯
利用者である花巻スイミングスクールサンフィッシュイトー(以下,花巻スイミングと
する)は岩手県花巻市に所在するスイミングスクールであり,1984年より営業している.
スイミングプールの建設段階では,ペレットボイラーではなく,重油ボイラーの使用を計
画していた.しかし,第二次オイルショック時であり,ペレットボイラーへの融資が低金
利であったため,これを設置することにした.ペレットボイラーは維持管理にボイラー技
師免許が必要ない解放式であり,県外のメーカー(静岡県二和エンジニアリング)から直
接購入した.ペレットボイラーの価格は重油ボイラーのそれに比べて幾分高かったという.
なお,ペレットボイラーの燃料は,創業以来,先述の葛巻林業から購入し続けている.
(2)ペレットボイラーの構造
このペレットボイラーは,約10m3 のペレット用サイロ,燃料庫,ボイラ−,温水槽,熱
交換機から構成されており,構造は非常に単純であるという.循環させる温水の温度は約
90度に設定されており,自動的にこの水温が保たれるようになっている.灰の溜まりすぎ
等で火が消えた場合でも,水温の低下は極めて緩やかである.約90度という設定は,試行
錯誤の結果得られた値であり,この温度設定により,温水槽の腐食が少なく長持ちするだ
けでなく,年間の燃料代が少なくて済むという.
夏期の点検で1週間程度ボイラーの運転を停止することはあるものの,通常は種火を灯
した状態にしてあるため,再点火の必要はない.再点火する場合には,燃焼台にペレット
を置き,灯油を少量しみこませた上で直接点火し,送風,燃料送りスイッチを入れるだけ
である.
(3)ペレット利用と焼却灰の処理
花巻スイミングではペレットボイラーを2機(
50万kcal,30万kcal)導入しており,
1機はプール温水用とシャワー用として,もう一機は主に暖房用として利用している.ペ
レット使用量は1年あたり150∼200tであり,運送会社により定期的(冬期は1週間あた
り2回,夏期は10日あたり1回)に搬入されている.冬期のペレット使用量は夏期のそれ
の約3倍となり,季節変動が大きい.
ペレットボイラーからの焼却灰の掻き出しは,夏期に2週間あたり1回,冬期に5∼10
日あたり1回のペースで実施している.焼却灰の掻き出し作業は1名で担当し,それに要
する時間は30∼60分程度である.なお,焼却灰はボイラー内の保温に有効であるため,掻
き出し過ぎは禁物であるという.掻き出された灰は,自動的に外にあるドラム缶に運ばれ
る仕組みになっている.焼却灰は,近隣の農業試験場に土壌改良材として無償で提供して
いる.
3-2-3
木質バイオマス燃料に関する最近の動向
(1)岩手県
岩手県農林水産部林業振興課では,県木質バイオマス資源活用検討委員会を設立し,木
質バイオマス資源高度活用計画を2001年度に策定した.岩手木質バイオマス研究会のメー
リングリストによれば,「県木質バイオマス資源活用計画調査報告書」では,県内を5流
域に分け,家庭系エネルギーの需要分布,林地残材,製材廃材の最大可採量の推計,ペレ
ットや木材チップ生産の可能性のある設備の分布などを提示しているという.また,木質
バイオマス活用の基本方針として,分散型の木質バイオマス資源供給システムを構築する
ことを挙げ,以下の7方針を立てているという:地産地消のエネルギー利用,多様なエネ
ルギーの利用,段階的な推進,生産供給施設の地域内整備,市場の形成,普及拡大のため
の支援制度,エネルギー関連事業の地域内での創出.さらに,同林業振興課では木質バイ
オマス資源の利用促進を目的に,ペレットストーブを県内に10台,ペレットボイラーを県
内に2基設置する予定である.
岩手県林業技術センターでは,上述の木質バイオマス資源活用検討委員会にかかり,木
質バイオマス資源量の調査を実施した.その他,ペレットストーブやボイラーを導入し,
木質バイオマス燃料の燃焼試験等を実施している.
岩手県工業技術センターでは,2001年度から国産ペレットストーブ(FF方式)の開発に
着手している.開発方針は以下のとおりである.葛巻林業の樹皮ペレットの使用を前提と
する.最大熱出力8,000kcal程度とし,熱交換効率を上げて排気温度を下げたり,完全燃焼
によって排気をクリーン化する.縦長のデザインにより省スペース化を図る.地場産品で
ある南部鉄器を使用し,岩手型ストーブとして特徴づける.安らぎを与えるよう,耐熱ガ
ラス窓から炎が見えるようにする.ペレットタンクと灰のストッカーは一体化して別置き
とする.ペレットの供給と灰の排出は自動化する.リモコンをつける.温度制御を自動化
する.2001年度には,ストーブの燃焼部分を研究し,燃焼装置のテスト運転を繰り返して
いる.2002年度には共同開発の企業を募集し,具体的な試作機を開発する予定である.さ
らに,冬期に公共施設などをモニターにして試運転する.発売は2003年度を目標にしてい
る.
岩手県企業局では,木質バイオマス発電について調査検討をすすめている.
(2)岩手県二戸地域
製材廃材や間伐材をペレット化し有効利用するため,二戸地域の製材工場,5市町村,
二戸地方振興局,岩手大などで二戸地域木質バイオマス利用推進会議を2001年6月に設立
した.岩手木質バイオマス研究会へペレット事業化の調査を委託し,最終報告書は年度内
にまとめられた.その間,9月に葛巻林業のペレット生産ラインやペレットストーブを視
察したり,11月にスウェーデン製ペレットストーブを購入し,ストーブの展示やモニター
(市役所や農協に依頼)制度を実施している.
(3)岩手県住田町
岩手県住田町は,2000年度にNEDOの地域新エネルギービジョン策定事業を実施した.そ
して,2001年度から住田町木質エネルギー利用検討委員会を設立した.住田町では,1999
年の豪雨による木石流被害を教訓に,町内森林に存在する林地残材を適切に処理したいと
いう意向が強い.本委員会では,岩手木質バイオマス研究会へ調査研究を委託することで,
住田町内の林地残材・製材廃材の賦存量推定,林地残材の伐出・輸送システムの検討,木
質バイオマス燃料の生産・利用システムの検討を実施している.報告書は2001年度末にま
とめられる.また,住田町では,2001年度に町内の保育園へペレットボイラーを導入して
いる.さらに,町内におけるペレット生産の可能性も検討しつつある.
(4)岩手県沢内村
岩手県沢内村は,2000年度にNEDOの地域新エネルギービジョン策定事業を実施した.そ
して,2001年度には北上振興局から補助金を得て,雪国文化研究所内にチップボイラーを
設置し,岩手県林業技術センターとともに燃焼試験を実施している.燃料には,村森林組
合の製材工場で生じるチップを主に使用する予定である.燃焼試験ではチップの形状,含
水率が燃焼効率や燃焼装置に与える影響などを調査研究している.実用化は2002年度以降
を目指している.こうした事業を支援するため,同村と北上振興局,県試験機関,森林組
合,湯田町などで西和賀地域木質バイオマス利活用推進会議を設置している.
(5)岩手県衣川村
岩手県衣川村は,1999年度にNEDOの地域新エネルギービジョン策定事業を実施した.そ
して,2001年度から木質バイオマスガス化発電事業の実現可能性を検討するため,日本林
業技術協会,東北電力,東北経済産業局,岩手県,水沢地方森林組合らで検討委員会を設
置し,調査研究(NEDOのFS調査)を実施している.木質バイオマス燃料は,村内の間伐材,
周辺地域の建築廃材等で賄えるとの試算が行われている.しかし,その一方で発電の経済
性(施設の減価償却費,燃料輸送費,人件費,売電価格など)については課題が残されて
いるという.
(6)岩手県遠野市
岩手県遠野市は,2001年度にNEDOの地域新エネルギービジョン策定事業を実施した.ま
た,同年度から森林総合研究所が遠野地域木質バイオマスエネルギープロジェクトを実施
している.
(7)三菱製紙北上工場(岩手県内)
三菱製紙は,岩手県北上市に所在する北上工場へ木質バイオマス発電設備の導入を検討
している.着工は2003年以降の予定である.蒸気タービンによる出力16,000kwの発電機で,
廃プラスチック,廃タイヤ等の産業廃棄物や建築廃材,製材廃材,間伐材などの木質バイ
オマスを燃料として見込んでいる.
同工場では,これまでパルプ黒液を燃料に自家発電することで,電力需要をほぼ満たし
てきた.しかし,2001年度から感光材料用レジンコート紙(写真印画紙用原紙)の製造工
場が新規に稼働し始めたため,従来のパルプ黒液による発電だけでは電力需要を賄いきれ
なくなったという.
(8)岩手木質バイオマス研究会
岩手という地域特性を生かした木質バイオマス燃料の活用推進のために,県内の林産業,
林業,建設業の有志を中心に2000年7月に設立された研究会である.会員は林業,林産業,
燃焼器メーカー・販売業,行政,大学など各分野から集まり,2001年度には会員数が130
人を超えている.
研究会では,木質バイオマスに関する情報の収集と提供,木質バイオマスに関する調査
研究,燃焼に関する調査研究と技術開発,燃焼機器に関する調査研究と技術開発,各地域
における木質バイオマス利用システム確立に関する調査研究,および木質バイオマス利用
推進に関する政策提案等を目的として活動を行っている.
研究会の設立以来,ペレットをはじめとする木質バイオマス燃料の普及啓蒙に関するシ
ンポジウムやパネルディスカッション,木質バイオマスに関するパネルや燃焼装置の展示
を県内各地で開催している.また,日本貿易振興会(JETRO)の支援を受け,スウェーデン
やオーストリアのバイオマス発電所,燃料生産会社,燃焼装置メーカーに視察団を派遣し,
視察報告会を数回開催している.その一方で,やはりJETROの支援を受け,スウェーデンか
らバイオマス燃料,燃焼装置に関する企業幹部や技術者を招聘し,葛巻町,住田町,二戸
市などの市町村におけるバイオマス利用の可能性について講演会・意見交換会を開催して
いる.さらに,2001年度からは二戸地方振興局や住田町からの調査研究を受託し,各地域
における木質バイオマス利用システムの検討を行っている.
このように,本研究会は,行政,企業,一般市民への情報提供やバイオマス利用検討事
業を援助するNPO的役割を果たしている.
(9)秋田県二ツ井町
秋田県二ツ井町は,1999年度にNEDOの地域新エネルギービジョン策定事業を実施した.
その後,2000年度にスウェーデン製と国産ペレットストーブの展示会を,2001年度にはガ
ス化コジェネレーション(CHP)システムのデモ用小型システムの展示会を実施している.
(10)秋田県能代森林資源利用協同組合
秋田県能代市に所在する能代森林資源利用協同組合は,東北電力グループの東北エネル
ギーサービスにコジェネレーション(CHP)システムの建設を発注した.建設費は約14億円
で,国や秋田県から補助を受ける.発電設備は出力3,000kwで,1時間あたり24tの蒸気を
供給する能力を備える計画である.能代地域は全国でも有名な木材産業地帯であるが,零
細な製材工場が多い.そのため,ダイオキシン対策のための新規焼却炉の導入が困難であ
り,従来焼却処分していたスギの樹皮や製材廃材の処理が緊急課題となっていた.計画で
は年間5万tの樹皮,製材廃材を受け入れ,良質なスギの樹皮(約1,200トン)はボードの
材料として利用する.残りの廃材は燃料として使用する.着工は2002年3月,稼働は2003
年1月頃の予定である.
(11)東北電力
岩手木質バイオマス研究会によれば,東北電力の子会社(アグリパワーという社内ベン
チャー企業)が福島県内でペレット工場の建設を予定しているという.建設費は約1億
8,000万円で,年間700トンのペレットを生産する見込みである.主な原料はダム流木であ
る.また,ペレットの他にキノコ培地用のおがこを生産・販売する予定である.
3-3 関西地方における現状
松下幸司・田口
標
3-3-1 はじめに
2000年度において,森林バイオマスの利用に関連し,近畿の2府6県(京都府,大阪府,
兵庫県,和歌山県,奈良県,滋賀県,福井県,石川県)に問い合わせたところ,次のよう
な結果であった.
第1に,何らかの取組みが見られるのが,大阪府,滋賀県,兵庫県である.大阪府では,
高槻市森林組合(現・大阪府森林組合)がペレット工場を2001年度林業構造改善事業によ
り建設しようとしている.滋賀県では,2000年度,県単独事業により彦根県事務所が森林
発電プロジェクトを進めている.兵庫県は,1999年3月に「森のゼロエミッション基本構想」
を発表,2000年3月には県内一宮町及び青垣町において地域計画が策定された.
第2に,福井県と石川県では,2000年度予算において資源調査を予定している.福井県は,
「木質系資源有効利用促進対策事業」(2000∼2002年度)として,①製材加工業より発生
する端材等の実態調査,②木質資源有効利用システムの検討,を行うとしている.2000年
度には,アンケート調査により発生量調査を行うことになっている.②のシステムには,
「木質バイオマスエネルギー等未利用木質資源の有効利用推進方策」の検討が含まれてい
る.石川県は,2000年度に,「木質系廃材リサイクル推進事業」として,①木質系廃材リ
サイクルシステム,②高付加価値製品の研究開発,を行うとしている.両県ともに,廃棄
物処理法等の法規制の強化に伴い調査を開始したものである.
第3に,京都府,和歌山県,奈良県では,特に関連する事業を行われていない.
以上の通り,森林バイオマスをめぐる府県の取組状況にはかなりの違いがみられる.本
項では,第1のグループ,すなわち大阪府,滋賀県,兵庫県を対象に,①森林バイオマス利
用の方向,②補助金,収支等の資金面の現状,を検討した.なお,本項の記述内容は主に
2000年度調査に基づいていることを断っておく.
3-3-2 大阪府−高槻市森林組合−
3-3-2-1 組合の概要
高槻市森林組合は大阪府高槻市を管轄区域とする森林組合で,大阪府下で最も積極的な
活動を行ってきた森林組合である.2001年には,大阪府下16の森林組合が合併し大阪府森
林組合が設立された.これは一都道府県一森林組合としては最初のものである.従って,
現在,高槻市森林組合は存在しない.しかし,本報告書では合併前の旧高槻市森林組合に
ついて記述するという意味で合併前の旧組合名を使用する.
高槻市森林組合は,森林観光センター,木材加工センター,森林リサイクル事業,森林
土木事業,環境緑化事業,樹木の維持管理事業等を行っている.当組合の特色としては,
①観光事業,②リサイクル事業,③林業労働力の確保,の3点である.
まず,観光事業であるが,1976年に森林観光センターを建設,1986年に温泉施設を完成
させた.森林観光事業は,バーベキューレストラン,槻の郷荘(コテージを含む),木工
クラフトセンター,喫茶,やまびこの森,地域特産品売店等からなり,1998年度の利用者
数は142,641人,売上金額は1.8億円となっている.
林業労働力の確保については,1992年度に一般求人誌を使った募集を行い142名の応募者
を集めた.8名を採用し,月給制の導入,住宅建設等の雇用条件の改善を図るとともに,名
称を森林林業士と改めた.
森林リサイクル事業は1995年に開始した新しい事業である.この事業の開始が契機とな
ってバイオマス利用へとつながっていく.高槻市森林組合がリサイクル事業に取り組む契
機となったのは,①隣接の茨木市の開発問題,②ダイオキシン問題,③市長の姉妹友好都
市視察,である.まず,①茨木市の開発問題であるが,茨木市では都市基盤整備公団が「大
阪国際文化都市」という都市づくりを実施しており,林地600haが開発中である.開発の過
程で発生する大量の伐採木について従来は焼却していたが,この方式を継続していくのは
困難との判断から,森林組合に相談があった(茨木市にも森林組合はあるが事業実績がな
い).森林組合は,樹種・径級ごとに,用材利用,チップ利用,椎茸原木利用及び木炭利
用,土壌改良剤利用を行うという提案を行った.②のダイオキシン問題であるが,1993,
1994年頃,既存の市焼却炉についてダイオキシン問題との関係で建て替えが議論された.
その際,市内で発生する剪定枝800トン全部を焼却炉で燃やすことは無理ということになっ
た.③の姉妹都市交流であるが,高槻市はオーストリアのクィーンズランド州トゥーンバ
(Toowoomba)市と姉妹友好都市となっている.市長が,現地訪問の際に剪定枝をチップ
化し堆肥を生産している現状を視察,帰国後,高槻市でも間伐材を含めて何かできないか
検討が始まった.このような状況のもとで,1995年,高槻市単独事業として森林リサイク
ル事業が始まった.街路樹剪定枝をチッパーにかけ堆肥化し,市内の公園で利用したり,
市民に無償配布したりしている.事業は,高槻市が高槻市緑化森林公社に委託し,同公社
が高槻市森林組合に再委託する形となっている.1998年度の事業規模をみると,「森林伐
採,リサイクル事業」は8,900万円,「樹木チップ化事業」は8,700万円となっている.
3-3-2-2 ペレット工場
高槻市森林組合がバイオマス利用の検討を始めた契機は次の通りである.まず,事業面
であるが,森林リサイクル事業は,チップ化による堆肥作りだけでは量的な限界があった.
観光事業についても,90年代に入り伸び悩み,2000年は淡路博と競合した.このような状
況下で,何か新たな事業展開を図りたいとの考えがあった.リサイクル事業で炭や堆肥を
作っても販路の拡大が困難であった.検討の結果,昔のように「燃やす」ことの復活が里
山の維持管理には重要ではないか,との考えに至り,燃料生産について検討することにな
った.なお,燃料生産については,最終的にはペレットの生産及び利用という形になった
が,市担当者は当初発電事業のほうに関心を持っていた.しかし,発電事業については通
産省所管となり,蒸気ボイラーに関連して,① 2級ボイラー技師免許所有者の配置,②毎年
の点検作業,が必要なことから,森林組合レベルでの導入は困難と判断,断念した.
ところで,上記の経緯とは別に,高槻市は,森林観光センターを単独で全面新築する計
画を持っていた.これは,3年程前から温泉ボイラーの老朽化が目立ってきたためである.
新施設のボイラーには,当初,A重油が予定されていたが,ここにペレットを使用できな
いかどうかが検討された.なお,森林観光センターでは,これまでA重油ではなく白灯油
を使ってきた.森林観光センターを作った時期はオイルショックの後だった事もあり,当
時も木質エネルギーの利用可能性を検討したが適当な機械が見あたらず職員が毎日薪をく
べるのは大変ということで見送りになったという経緯がある.その意味では,高槻市森林
組合の場合は,バイオマス利用という話が急に出てきたというわけではない.さらに,ペ
レットを購入すると重油利用に比べて約2割程燃料費が高くなることから,ペレット工場の
建設についても検討が行われた.
これらの構想をまとめたものが,「さとやまMORI-MORI構想」である.この構想では,
「森林と市民の交流」,「地域の活性化」,「森林資源の有効活用」の3つが基本目標とな
っている.「森林資源の有効活用」に,木炭工場,木質発電所,原木加工場,木材破砕工
場が含まれており,ペレット工場は木材破砕工場の一部となっている.「地域の活性化」
には森林観光センターが含まれており,その一部が木質熱源利用施設すなわち温泉という
位置づけである.
ペレット工場の生産規模は年2,000トンの予定となっている.当面の需要先としては,森
林観光センターの温泉ボイラーが600トン,ペレット生産プラントの木材乾燥用に50トン,
森林観光センターのペレットストーブに50トンの計700トンである.従って,余剰分は1,300
トンとなる.高槻市としては,今後,大阪府下を対象に,ペレット利用のP Rを検討したい
とのことである.
3-3-2-3 原料
ペレット工場で用いることが可能と思われる原料には,①森林組合の木材加工センター
で発生する残り物,②森林組合が実行している間伐材,③高槻市及びその周辺の開発地で
発生する支障木,がある.①は量が少ない.②であるが,森林組合が実施している間伐は,
全部切り捨てである.現状では道端の間伐であっても切り捨て状態である.無料で入手す
ることが可能かどうかは今後の課題としている.期待できるのは③の開発支障木である.
想定される支障木発生源としては,茨木市の開発地(国際文化公園都市開発)300ha,高槻
市の公園墓地,第二名神,林道支障木,があげられる.ダイオキシン問題により支障木の
焼却が難しいため,公共事業では支障木処分費を計上しておく必要があるとしている.概
算では,m3 あたり3,000円の処分料(ペレット工場着)をもらうことができれば,ペレット
工場でペレットを生産し,それを温泉ボイラーに使用しても採算上問題はないとしている.
単に支障木を処分するだけでは,支障木は廃棄物という扱いになってしまい,産廃事業そ
のものである.あくまでもペレット生産工場の原料という位置づけを与える必要があると
している.
2001年3月7日に高槻市において開催された北摂東部地域の間伐材等未利用資源の有効利
用の方策等を検討する検討委員会の「別紙資料6
高槻市森林組合のペレット生産プラント,
素材供給見通し,生産能力と需要先」より,当面,森林組合で消費予定の700トンのペレッ
ト生産に必要な年間素材供給見通しがどうなっているかをみてみよう.まず,原料として
は,①間伐材,②素材生産時の副林木,③未利用残材に3区分されている.最終的には,ペ
レット用素材として,①②から年400m3 ,③から年2,000m3 を計上している.当初の計画通
り,開発に伴い発生する支障木に多くを期待している.もう少し詳しくみてみると,①の
間伐材については,人工林の間伐(90ha,間伐率20%,利用率20%)が360m3 ,里山林整備
のための伐採(4ha,間伐率50%,全部利用)が200m3 ,竹林等の間伐が40m3 の計600m3 と
なっている.②の素材生産の際に生ずる副林木については300m3 を見込んでいる.①②あわ
せて900m3 の利用可能な素材があり,このうち500m3 を堆肥生産に,400m3 をペレット生産
に振り向けるとしている.③の未利用残材であるが,林地開発面積15haから4,500m3 の未利
用残材が生じる.この未利用残材のうち紙パルプ用素材として利用可能な分は2,000m3 程度
で,残りの低質材(根及び枝葉など)は2,500m3 となる.この2,500m3 のうち500m3 を堆肥生
産に,2,000m3 をペレット生産に振り向けるとしている.
3-3-2-4 補助金及び収支
ペレット工場及び温泉ボイラーは,林業構造改善事業による.事業期間は2000年度及び
2001年度で,2000年度は補正予算である.計画では,2000年度が温泉ボイラー,2001年度
がペレット工場及び関連整備となっている.補助金の区分及び補助対象は,2000年度が「木
質エネルギー等利用促進施設」のなかの「木質エネルギー等利用促進施設装置」(ボイラ
ー及び建物一式),2001年度が,「森林バイオマス再利用促進施設」のなかの「森林バイ
オマス加工施設装置」(選別機,チッパー,作業用建物,管理棟,貯木場整備新設,成形
施設,計量・梱包装置)と「森林バイオマス再利用促進用機械」(フォークリフト,トラ
ック,バックホゥ)となっている.事業総額は552百万円で,内訳をみると,木質資源利用
ボイラー施設(一式)が233百万円,森林バイオマス加工施設装置が284百万円,森林バイ
オマス再利用促進機械が35百万円となっている.負担比率は,国が50%,大阪府が5%,高
槻市が20%,地元が25%(公庫融資20%,高槻市森林組合5%)である.
2001年7月にはペレット貯蔵庫及びボイラーが設置された.ボイラーは木質ペレット専用
である.導入予定ボイラーは,同等の性能を持つA重油使用タイプと比べ割高となってい
る.重油に比べると点火に時間がかかる難はあるが,原料は完全自動供給方式なため運転
にあたり特に人手を必要とするものではない.ボイラーで使用するペレットの生産工場は
2001年度事業により年度末に新設されるため,ペレット工場の稼働開始は2002年度となる.
そのため,2001年度は,ペレットを購入によりまかなっている.
3-3-3 滋賀県−彦根県事務所による森林発電プロジェクト−
3-3-3-1 プロジェクトの概要
本プロジェクトは,県単独事業(地域活性化促進事業,事業年度:2000年度)によるも
ので,具体的には,①炭窯,②木炭自動車,③木炭水質浄化システム,④森林発電所の4
つからなる.これらの施設の設置場所は,滋賀県多賀町の高取山ふれあい公園である.同
公園は,1990年,林業構造改善事業による整備が始まった.その後は,林構だけでなく,
農業関連補助金,治山事業,造林事業,町単独事業により各種の施設整備が進んでいる.
2000年度には,1999年度林業構造改善事業の繰り越し事業により,森林体験施設が建設さ
れる予定である.
プロジェクトの事務局は滋賀県彦根県事務所林業課におかれている(2000年度限り).
本プロジェクトは県事務所のプロジェクトと位置づけられているため,事務局スタッフは
林業課を中心に県事務所各課から計17名があたっている(事務局長は林業課長).プロジ
ェクト全体の運営は,実行委員会方式が採用され,実行委員は,多賀町長,高取山ふれあ
い公園管理組合長,滋賀県立大学次長,滋賀県東北部工業技術センター所長,近江高等技
術専門校長,滋賀県森林センター所長,彦根県事務所長,彦根・愛知・犬上地区林業協会
幹事の計8人である.設置場所の町長,公園管理組合長以外に,技術面での指導を受けるこ
とを想定し,滋賀県東北部工業技術センター及び近江高等技術専門校を含めている.また,
彦根市にある滋賀県立大学をメンバーに含めることにより,研究面でのバックアップを期
待している.同大学は関連シンポジウムの開催会場にも使用されている.シンポジウムは,
これまで,2000年5月27日,2001年3月11日,2002年3月16日と毎年開催されている.
本プロジェクトの特色は,ボランティアの参加である.従来の補助事業や整備事業は,
行政が勝手にやっているという印象が強かったため,事務局は,県の内外を問わず,プロ
ジェクトに関心のある人の参加を広く求めている.「森林発電プロジェクト参加者募集」
には,「このプロジェクトは,森林資源の有効利用を多くの市民の参加によって実現して
いこうというものです.この活動を支えるのは,環境保全や資源循環型社会への理解と,
市民の方々の思いです.木炭自動車の製作をはじめ,数々の取り組みを市民の方々との共
働作業で行っていきますので,多数のご参加をお待ちしています」と記されている.プロ
ジェクトの基本方針の最初に書かれているのが「市民参画による共働作業」となっている.
3-3-3-2 森林発電所
このプロジェクトは,主に町内の未利用間伐材を用いて木炭を作る部分と,製造した木
炭を利用する部分に分けることができる.利用先として計画されているのは,木炭自動車,
水質浄化システム,森林発電所の3箇所である.水質浄化システムで用いる木炭は10日程度
で交換する必要があるが,同システムで使用後の木炭は,木炭自動車または森林発電所に
て再使用される.森林発電所の電力は,水質浄化システムのポンプ動力及び森林体験施設
にて使用される.なお,木炭自動車は具体的に何かを運搬するということではなく,森林
発電プロジェクトのP Rが主要目的である.水質浄化システムは,公園内の池にて稼働させ
るもので,この池を琵琶湖にみたてた形での環境教育の実施を予定している.
発電機は市販の発電機を改良して使用する.規模は10kw,ガソリン併用である.森林体
験施設は円形・テント屋根で,内部が4分割できるようになっている.必要に応じて照明を
つけることになるが,この照明を森林発電所でまかなうことになる.なお,発電機を入れ
る発電所については間伐材を利用し,ボランティアによる建設を予定している.
3-3-3-3 原料
木炭の原料は,多賀町内の間伐材,特に未利用のまま放置されているものを使用する計
画である.また,一部は,新たに間伐を行う予定である.未利用材の搬出作業と,要間伐
林分の間伐作業は,ボランティアに期待されている.作業に必要な簡易集材機は滋賀県森
林センターが,チェーンソーは県事務所とボランティアが持ち寄り,運搬に必要な車両は
事務局がリースする予定である.
高取山ふれあい公園は大滝山林組合(一部事務組合)の所有地であるが,同山林組合は
公園周囲に数カ所のスギ・ヒノキ人工林を所有している.何れも間伐が必要な状況のため,
当面は公園周囲の人工林の間伐を行う予定である.
3-3-3-4 補助金及び収支
本プロジェクトは滋賀県単独事業「地域活性化促進事業」による.この事業は2000年度
限りの事業で,県事務所ごとに1プロジェクト(予算1,000万円)が採択された.彦根県事
務所分として,この森林発電プロジェクトが採択されたため,プロジェクトは県事務所全
体のプロジェクトという位置づけになる.1,000万円の予算の内訳は,概数で,発電所400
万円,木炭自動車150万円,水質浄化システム100万円,炭窯150万円,ソフト事業その他200
万円となっている.
この予算には,人件費及び間伐材の代金が含まれていない.発電所ログハウス建設に使
用する間伐材,木炭製造の原料となる間伐材を購入する予算がないため,これらの間伐材
をただで手に入れる必要がある.「市民参画による共働作業」が本プロジェクトの基本方
針として強調されているが,ボランティアによる労力提供は人件費及び間伐材購入費がな
い当プロジェクトにとっては必須のものともいえる.発電所のログハウスに使用する間伐
材は今年度限りであるが,木炭の原料については毎年必要となるため,ボランティアを継
続的に確保する必要がある.当プロジェクト自体は今年度限りのため,事業終了後の2001
年4月,「おうみ木質エネルギー研究会(仮称)」の設立が検討されている.施設整備,設
備製作等にかかわったボランティアに,本年度事業の終了後も引き続きボランティアとし
てとどまってもらうことが,費用面からも求められている.
3-3-4 兵庫県−森のゼロエミッション計画−
3-3-4-1 森のゼロエミッション計画
兵庫県は1999年3月,「森のゼロエミッション基本構想」を発表した.この構想自体は,
県内の特定地域を対象に計画されたものではなく,考え方を提示したものである.同構想
では,森のゼロエミッションを「森林・農地が産業・生活空間の主体をなす中山間地域で,
持続可能な循環型社会構築の方途を探り,地域特性を踏まえた様々な取り組みの指針を設
定する」と定義している.この構想に基づく基本的取組のキーワードは,①再利用可能な
ローカルエネルギーの導入,②産業・生活分野をつなぐ廃物活用と処理による適正な地域
内物質循環系の再構築,③木質系素材・資材等エコマテリアルの開発と多段的利用の促進,
④人と自然にやさしい生活文化の醸成,となっている.①では,「自然エネルギーの利用
や地域内のバイオマス系廃棄物等の活用により,再生可能で環境に負荷を与えない中山間
地域独自なエネルギーを創出し,化石系エネルギーの削減・代替えを行い,地域エネルギ
ーの自給能力の向上と多元化を図る」ことが指摘されている.すなわち,バイオマス発電
・熱供給が,構想全体のキーワードになっている.
兵庫県は本構想を公表後,県内の市町村を対象に,モデル地区を公募したところ,一宮
町と青垣町から補助の申請があった.1999年度予算にて調査事業を組み(県単独),2000
年3月に調査報告書が完成した.両町とも今すぐ何か事業が開始されるという状況にはない.
3-3-4-2 モデル地区①(一宮町)
一宮町では5年ほど前から提案型の地域づくり事業により,「しそう森林王国ビジョン」
の策定を行ってきた.これは住民主体で地域づくりの考え方をまとめようというもので,
県の施策と直接結びつくものではない.この段階ではバイオマス発電という考え方はなか
ったとされる.3年前,県が,大阪営林局山崎営林署管内(当時)国有林の購入を打診され
たことをきっかけに,県庁内において環境を切り口に地域振興関係予算の確保を図ること
が可能かどうかについての検討が始まった.検討過程で,ゼロエミッション構想で検討中
の発電施設を設置してはどうかということになり,県の「森のゼロエミッション基本構想」
では,一宮町を対象に,森林バイオマス発電を行った場合の試算結果が計上されることに
なった.また,一宮町は,県の基本構想と「しそう森林王国ビジョン」をふまえ,「第一
次森のゼロエミッション整備実施計画書」を 2000年3月にまとめた.「しそう森林王国ビジ
ョン」との違いは,県の施策(補助事業)との関係が明確になった点である.
一宮町の計画をみると,全体計画の目標は,①森のゼロエミッションによるまちづくり,
②地域資源循環システムの構築,③再生可能エネルギーの活用,の3点があげられている.
森林バイオマスエネルギーに関連しそうな項目をひろってみると,①には,自然エネルギ
ーの活用や省エネルギー施設を備えた中学校の木造寄宿舎の建設,が含まれているが,こ
れは太陽光である(文部省・通産省によるエコスクール事業, 2000年度).②には,「木質
資源循環システムの研究開発」とうい項目があり,リグニン利用の実証プラントの誘致を
図りたいとしている(林構事業,2001∼2004年度目標).②には,「製材廃材を熱源とし
た木材乾燥」も計上されているが,内容としては,「森林組合で発生する木屑等の再利用
化時の熱利用の木材乾燥施設や木質発電への発展の可能性検討」となっている(林構事業,
2001∼2004年度).③は主に太陽光,風力,水力が対象となっているが,「オガ粉の固形
燃料化」という項目が計上されている(関連補助事業はない).
3-3-4-3 モデル地区②(青垣町)
青垣町は,2000年3月,「青垣町森と里のゼロエミッション基本構想」を公表した.基本
構想では4つの取組が示されている.すなわち,①有機性廃棄物(バイオマス)によるメタ
ノール生産・販売−エネルギー産業の企業化−,②森林の新たな経営スタイルの確立−総
合的森林保全活用経営の推進−,③地域資源開発研究組織の編成−地元シンクタンクの育
成−,④青垣町森林塾の開校−都市との交流・支援体制の構築−,⑤ゼロエミッション型
まちづくりへの誘導,である.
①は,バイオマス・メタノールの生産・販売事業,コンポスト生産・畜産糞尿共同処理
事業,廃熱利用事業(地域内売電事業,温室野菜工場事業,地域冷暖房サービス事業)か
らなっているが,メタノールの生産が本構想の目玉である.地域内売電事業は,メタノー
ル製造時に発生する廃熱を利用するもので,温室野菜工場事業と地域冷暖房サービス事業
は,メタノール廃熱利用による発電後の廃熱を利用しようというものである.メタノール
の生産については,2000年度,企業も入り具体的な計画を策定する予定である.②は間伐
材についてもふれているが,間伐により生産される木材の3分の2をメタノール生産事業に
活用したいとしている.
3-3-4-4 補助金及び収支
兵庫県のゼロエミッション計画については,県レベル,町レベルとも計画段階にあり,
具体的な事業が予定されているわけではない.一宮町の計画については,期待している補
助事業名が記されているが,林業構造改善事業に期待している.
収支については,県の基本構想に計上されている一宮町を対象とした木質発電のコスト
計算がある.重要な点は間伐材のコストである.この計算では,伐倒済みの間伐材等を搬
出・集材・搬入する費用としてm3 あたり15千円を見込んでいる.この結果,間伐材コスト
が発電総費用の67.6%を占めている.間伐材コストを含む発電価格は18.2円/kwとなり,
最も有利な自治体発電価格(一般廃棄物発電,昼間帯)の10円で売ったとしても8.2円の赤
字となる計算になる.
3-3-5 おわりに
以上,関西地方の事例として示したプロジェクト等は何れも進行中または計画中であり
はっきりしたことはいえないが,高槻と彦根のケースをみると資金面において次のような
共通点が観察されるように思われる.
第1に,使用されている補助金であるが,高槻が林構事業,彦根が県事務所単位のプロジ
ェクトを対象とする県単独事業となっており,通産省,NEDO等の新エネルギー関係の補
助金は全く関係していない.生産したエネルギーを利用する施設に対しては,高槻も彦根
も林構事業で補助金が交付されている.設置場所となる高槻市森林センターと多賀町の高
取山ふれあい公園は,何れも主に林構事業により整備されてきている.結局,現在のとこ
ろ,国の予算で頼りになるのは林構事業だけという状況で,あとは府県や市がどこまで支
援するかにかかっている.
第2に,森林バイオマスによるエネルギー生産とその利用を一体的に検討している点であ
る.購入電力より高い生産コストのもとで何の補助もなく売電もできないとすると,単に
生産するだけではなく,生産したエネルギーを利用する場も同時に整備する必要がある.
炭やペレットにしても,例えば,どれだけ専用暖房器具が売れるかは未知数である.高槻
市森林組合の場合であれば,ペレット工場と温泉ボイラーの両方を,彦根の森林発電プロ
ジェクトの場合であれば,発電所と森林体験施設の照明器具・水質浄化システムのポンプ
の両方を,整備するとしている.同様の例としては,四国地方の事例として述べる徳島県
のペレット工場の場合をあげることができる.生産したペレットの主たる利用先である病
院は,ペレット工場の同じ系列の病院である.ペレット生産者とペレット利用者が同じと
いう点で,高槻市森林組合と徳島県のペレット工場は同じケースといえる.
第3に,現状では採算があわないため原料費を可能な限り安くするという発想である.高
槻市森林組合の場合は,開発支障木を扱い,処分料をもらうことも検討している.彦根の
場合は,ボランティア労働に期待し,無料で原木を入手することが計算の前提となってい
る.補助事業により施設整備は可能であるが,高コストでエネルギー生産を継続的に実施
していくためには,削れる部分は原料費しかないということになる.
謝辞
本調査の実施にあたり,吉田嘉治氏(高槻市産業市民部・高槻市緑化森林公社),小柿
正武氏(高槻市産業市民部),氏原修氏(高槻市森林組合,現・大阪府森林組合),赤井
俊夫氏(大阪府森林管理課),大塚秀一氏(滋賀県彦根県事務所林業課),松田博文氏(兵
庫県林務課),石川県森林管理課,福井県林政課より資料の提供等を頂いた.これらの御
協力に対して厚く御礼申し上げる.
文献
青垣町(2000)青垣町森と里のゼロエミッション基本構想, 34pp.
一宮町(2000)第一次森のゼロエミッション整備実施計画書, 17pp.
兵庫県(1999)森のゼロエミッション基本構想, 54pp+巻末資料28pp.
3-4
中国地方における事例
吉田 茂二郎
中国地方における木質バイオマス燃料の生産,利用に関する事例として有名なのは,銘
建工業(株)(岡山県勝山市)と中国木材(広島県呉市)であろう.特に前者は,バイオ
マス利用の事例では欠かせない存在で,多くの見学者を引きつけているし,関連記事も多
い.したがって,ここで改めて取り上げるのは得策ではないと思われる.実は,筆者もこ
の研究を始めた当初の1999年11月にこの工場の見学を行っている.視察時に得た情報をこ
こでは述べたい.後者の中国木材は,バイオマス発電システムを2002年に立ち上げること
が知られているのでこの概要を次に述べる.さらに最近の情報では,中国電力もバイオマ
スに興味を持っている様である.これについても簡単に概要を述べてみたい.
この他として、以前、徳島県にあるツツイ産業(現在もペレット生産を行っている企業)
に行った折りに,島根の益田産業のことが話題になった.この会社も以前は,ペレットを
生産していたが,近年その生産を中止した.しかし,ペレット生産をやめた現在でもペレ
ットを製造していた当時の顧客が存在している(つまりペレットボイラーが存続している)
限り,元業者としては燃料を供給する使命がある.よって今でもツツイ産業からペレット
を購入しているとのことであった.このペレット生産については,小嶋の文献にもその存
在が示されている.したがって,中国地方には今でも木質ペレットの利用者が存在してい
ることになる.
3-4-1
銘建工業の事例
銘建工業は周知のとおり,集成材や人工乾燥材を作っている会社である.材料はすべて
海外から輸入し,ヨーロッパには自社製材工場を持つほどである.したがってその取扱量
は膨大で,そこから出てくる廃棄物,プレナーかす,関連の製材工場から出る製材廃材お
よび樹皮を燃料に自家発電を行っている.本来が集成材を製造している会社であるから乾
燥の工程は欠かせない.したがって,視察した当時は分からなかったが,いろいろな施設
を見る中で,このような流れは必然であったように思われる.唯一の誤算は,中国電力に
売電できなかったことであるが,これは当時の余剰電力の買い取り価格が非常に安かった
ため(約3円/kWh)と基本的に電力会社が充分の電力を確保しており,余剰電力を購入す
る理由がなかったこと等による.買い取り価格について,九州の電力会社で調べてみたが,
風力,太陽光には高い買い取り価格が設定されているが,バイオマスにはその様なものは
存在しなかった.ただし,地方自治体等が行うのであれば,約13円での買い取りメニュー
が存在するということであった.とにかくその様な理由で売電を断念せざるを得ず,よっ
て自社工場内での利用に限っていたのであった.しかし,その後の情報では2000年春には
新しい柱用の集成材工場を造り,そこでの電力として利用することで100%の出力を発揮さ
せているようである.
ここの視察で感じたことは,一つは会社の規模が非常に大きく,大量に出てくる廃棄物
処理が以前から大きな問題であったことが大きな要因であったこと,ボイラーの維持に非
常に経費がかかること,バイオマスボイラーは非常に単純であることであった.廃棄物の
問題は集成材工場の特性のようで,短くなった端材を利用したとしてもその歩留まりは約
50%程度ではないかと思われる.その後,いくつかのバイオマスボイラーを見る機会を得
たが,基本的には非常に単純なシステムのものが大半であった.
3-4-2
中国木材の事例
中国木材は,製材を核に乾燥加工をはじめとした住宅用構造材のメーカーである.中国
木材は銘建工業の視察をした時点で,話題に上っていた.残念ながら見学する機会を得な
かったが,その存在ならびに行動は気になっていた.その矢先のバイオマス発電システム
の建設である.この情報は,業界新聞である電気新聞に掲載されている記事(2002 年 1 月
10 日付け)を基にしている.
それによれば,木材を加工した端材を利用してボイラーを焚き,その蒸気で発電をする
システムで定格出力は 2,000kWh で,2002 年 6 月に稼働開始の予定であると報じている.
システムの内容は,以下の通りである.このシステムによって,導入コストを算入して
も約年間 7,000 万円の電力コストの削減につながる計算となっている.
年間廃棄物量:18,500 トン
ボイラー出力:1.96 メガパスカル
蒸気温度:260 度
定格出力:2,000kW
年間発電量:1,400 万 kWh
設備コスト:8 億 5,000 万円
用途:自家用
このシステムの規模は,先に紹介した銘建工業のそれとほとんど同じであるのは,非常
に興味深い.
3-4-3
中国電力の事例
前出の中国電力であるが,電力各社電力の自由化に伴って,これまでにはない競争に対
抗するためにいろいろな手だてを講じている.筆者は,第 6章で述べるように,電 力会社で
のバイオマス利用に期待を寄せている.したがって、九州の電力会社での利用を検討・協
議中であり,NEDOへの申請も考えているところである.
そのNEDOの平成13年度「バイオマスエネルギー高効率転換技術開発」に係る委託先とし
て,中国電力が他の企業と連携し,「石炭・木質バイオマス混焼技術の研究開発」という
ことで採択されている.概要は,木質バイオマスを石炭火力発電所で5∼10%程度混焼し,
発電所の安定運転を維持できるとともに,現状の環境規制値をクリアし,かつ発電効率の
低下を最小限にする石炭・木質系バイオマスの混焼技術を開発するものである.まさに,
筆者らが考えていることであり,その成果が期待される.地元の電力会社で同様の研究さ
らには実用化を強く望んでいる.
引用文献
日本の木質バイオマス利用の現状レポート−岡山県・銘建工業(株)の場合−.ぐりーんも
あ7.12(1999)
木質バイオマス発電導入へ.電気新聞(2002年1月10日付け)
NEDOのHP;http://www.nedo.go.jp//
3-5 四国地方における現状
松下幸司・吉田茂二郎
3-5-1 はじめに
四国地方では,徳島県市場町のツツイ産業においてペレット製造が行われている.本項
では,ツツイ産業の事例を述べる.同社への聞き取り調査は2000年10月18日に実施してお
り,本項の数値等は当時のものである.同社のペレットを使用している県内施設の見学は
2001年3月21日,北摂東部地域林業確立検討委員会の徳島視察の一環として行った.
まず,会社の概要について述べる.ツツイ産業は広葉樹のチップ製造業者で,ペレット
製造開始当時は神崎製紙(現・王子製紙)が取引先であった.従業員は21名で,昔の手作
業時代の約50人と比べると相当減少している.主な生産品目及び生産量をみると,広葉樹
チップが約3,000生トン(約1,800絶乾トン),針葉樹チップが約1,200生トン(約700絶乾ト
ン),木質ペレットが約1,200トン,オガライトが約1,000トン,シイタケ培地原料が約1,500
トンである.オガライトは,炭化用の原料,工業用(溶鉱炉の保温剤として利用),家庭
用(風呂用で大阪,岡山,兵庫など県外に出荷)として販売している.上記品目以外では,
肥料の製造を行った.これは,海外での植林時に用いられる肥料で,N樹皮,Lチップ,白
い粉(石灰?)を原料とするペレットで50トンを製造した.苗を植え付けるときに,この
ペレットに水を加えて柔らかくし,苗周辺に混ぜるとのことである.
木質ペレット製造の経緯を簡単に説明しておく.18年前,徳島県鴨島町(ツツイ産業の
ある市場町の南東に隣接, 12km離れている)のコロナ工業(新商品の開発・販売会社,美
顔器等で財をなし現在は生ゴミ処理機を作っている)がペレットストーブを製造するにあ
たり,燃料としてのペレット生産をチップの生産過程で生ずる樹皮の処理に困っていたツ
ツイ産業に話を持ちかけたことが生産のきっかけとのことである.コロナ工業は既にペレ
ットストーブの生産を中止しているが,ツツイ産業はペレットの生産を継続している.生
産当初は年2,000トンの生産規模であったが,現在は1,200トンにまで減少している.
3-5-2 原料及び木質ペレットの生産工程
原料は,①樹皮,②建築廃材(屋根材と柱材),③オガクズである.樹皮は自社工場に
おいてチップ製造過程で発生するものを使用する.建築廃材は廃材業者の持ち込み(無料),
オガクズは羽ノ浦町内の製材所から自社トラックでもらってくる(無料).
建築廃材は3年前頃に向こうから持ってきた.当初の1,2年間は何でも持ってくる状態で,
こちらで切って使っていた.現在は良材(屋根材と柱材に限る)でしかも適当な長さに切
り揃えられたものを入れてくれるよう依頼しているため,良質の短材が入るようになった.
建築廃材の入荷量は月80∼100トン程度と推定される.なお,建築廃材の量であるが,小さ
な家を解体すると4トントラック1台分なので3∼4トン,大きな家だと2∼3台は必要になる.
建築廃材は春と秋の建て替えシーズンに多い.チップ生産は近年になり数量低下・価格下
落が大きいため,現在では針葉樹チップの80%を建築廃材が占める.
最近,近隣のある業者が,木材市場で売れない間伐材(直径約10-15cm,車に載せられる
長さに採材)をチップとペレット両方の材料として持ち込んでいる.昨年以来の買い取り
回数は2回,3,000円/生トンで,計約100トンを購入した.この程度の単価であれば,購入
を続けたいとの意向を持つ.建築廃材に比べて異物の混入がないため良質で,原料として
は好ましいが,オガクズ,バーク等があって初めて経費的にも成り立つのであり,これば
かりでは採算が合わないとのことである.
以上見てきたように,原料は無償で得ているため廃棄物処理にはあたらない.従って,
廃棄物取扱い等に関連した規制は適応されない.処理代をもらうとボイラーの改造等が必
要になる.また,廃棄物処理ではないので,排気に関しても規制を受けない.
次に,製造工程であるが,基本的には原料を粉砕し,乾燥機で乾燥させた後に,圧縮機
にかけてペレットを製造する.ただし,建築廃材には釘,ボルトや塗装などの異物が含ま
れているので,塗料は粉砕の段階で,釘等の金属は,粉砕後磁石等で除去する必要がある.
製造に当たり,原料となる材料の種類,粉砕した原料の粒子,原料の乾燥度合い等に気を
つけている.なお,古い原料は揮発分がないため使えない.乾燥のための燃料として,異
物の多く含んでいる建築廃材と背板(消火に向けての終業時の熱量管理用で,製材所に無
料で取りに行く)を利用しており,重油等の燃料は一切利用していない.乾燥に利用する
材は3∼4トン/日程度と思われる.
近年,ペレット生産で注目されるようになり,特に2000年3月以降は,見学者が多くなっ
ている.現有システムを製造した広島市の機械メーカーも見学にきている.なお,現在使
用しているチップ製造システムは,当時約1億円で,補助金はもらっていない.
3-5-3 木質ペレットの販売
生産されるペレットの90%は,系列病院(鴨島病院)のボイラー用である.残りの10%
は,羽ノ浦町町民プール,森林組合(高知県土佐郡大川村,冬場の苗木ハウスの熱源),
島根県の益田産業に販売している.益田産業では,木質ボイラーを利用している旧顧客(冷
泉を暖めるために使用)に販売するために購入している.これは冬場が中心で,夏は少な
くなる.
まず,最大の利用先の病院であるが,冷暖房,お風呂,厨房にペレットボイラーが使用
されており,電気以外は全てペレットという状態である.ボイラーより170度相当の蒸気が
病院内に送られるようになっている.現在のボイラーは1986年5月製造のもので,煤塵対策
もとられており,30∼40年は持つと考えている.立ち上げ時間は30分程度と短い.ボイラ
ー施設は病院構内の入口附近にあり,2名の担当者が管理にあたっている.なお,彼等はボ
イラーだけでなく病院施設全般の管理も行っている.ボイラー自体の維持費はほとんどか
からないが,定期的に手入れが必要である.これは機械の特定部位に灰が付着するため除
去する必要があるとのことで,木質系機械では避けることのできないものである.灰の発
生は4%とのことである.
羽ノ浦町の町民プールは,10年前から使用している.これは,発生する背板等をツツイ
産業に持ち込んでいる羽ノ浦町内の製材工場が町役場にかけあうことで実現したものであ
る.ペレットはプールの暖房(温水プール)に使用している.シャワーもあるためボイラ
ーの設定温度は75度で,プールの温度は30度に設定されている.暖房費・維持費がかかる
上に利用者も少ないため,12月から2月を休館としている.そのため,ペレットの購入は3
月から11月までである.季節的には,夏期の利用が少ない.使用数量は年により異なるが,
1998年度が約180袋(約64トン),1999年度が約220袋(80トン)となっている.運転時間
が1日5時間と短いこともあり,担当者は重油より安いのではないかとの印象を持っている.
ボイラーのメンテナンスも年1回だけと楽で,重油のほうが汚れやすく年3∼4回のメンテナ
ンスが必要となる.また,油系の場合は錆の心配があるが,木質燃料の場合はその心配も
ないとのことである.
15年前の販売当初は,農家のハウス用(ラン栽培)の燃料としても利用されていたが,
ガス・石油の方が安く,その上,手間もかからないことから使用されなくなった.10年前
には町営プールでの使用もあったが,現在は使用していない.何れの場合もコロナ工業製
のストーブを使用していたが,ボイラーが不完全であったため故障が多かったほか,温度
が十分に上がらないといった問題点が指摘された.着火,灰の処理等に手間がかかり人件
費を要することから,結果的に高くつくことになり,ボイラー交換時に他の燃料を用いる
燃焼機器に代わった.ツツイ産業の事務所では昨年までコロナ工業製のペレットストーブ
を使用していたが,部品がないため使用を中止した.
なお,販売単価であるが,徳島県内で25円/kg(15年前の価格は,15円程度)となって
おり,20kg入の袋で販売している.大口購入先には配達しており,この料金は配達料込み
である.森林組合及び益田産業は引き取りに来ている.
3-5-4 考察
ツツイ産業は我が国で現存する2つしかないペレット工場の一つである.そのため,この
事例からは,ペレット生産にかかわる興味深い状況が観察される.以下,①木質ペレット
の利用先,②木質ペレットの原料,の両面から若干の考察を加えるものとする.
3-5-4-1 木質ペレットの利用先
木質ペレットについては結局のところ利用先の確保がなければどうにもならないという
点はツツイ産業も同じであることが確認された.高槻市森林組合の場合も自ら大口需要先
を作っているが,同じことがツツイ産業にもいえる.ところで,系列病院以外の小口出荷
先であるが,量的な限界はあるものの何れも興味深い内容を含んでいる.
森林組合のハウス暖房利用であるが,森林組合が苗木ハウスに木質ペレットを使用する
というのはある種の循環的側面があり興味深い.製材工場や製紙工場で,発生する木質廃
棄物から取り出した熱・電力を再度同一工場内で利用するのと比べると,より広い範囲の
循環といえる.同一工場内での再利用は,結局のところ,工場経営問題という印象を受け
る.しかし,「建設廃材・背板→ペレット→苗木生産」となると,森林・林業・木材分野
での循環という側面が生まれる.なお,同じハウス利用であるラン栽培については安い重
油に移行したのに森林組合は使い続けているのはなぜだろうか.森林組合の場合も経費的
には厳しいものがあると想定される.コロナ工業製のボイラーが壊れないため,あるいは
新しいボイラーを買う余裕がないためであろうか.また,ペレット使用による単年度ベー
スの負担増が僅かなものとすると,補助金による暖房器具導入は有効ということになるの
かも知れない.
羽ノ浦町町民プールの利用は,ツツイ産業が背板を利用している製材工場が町にかけあ
うことで実現したという.製材工場から発生する事実上の廃棄物を処理してもうら代わり
にそこから生産されるペレットの利用に協力するという発想は重要と思う.小さな製材工
場では背板等だけを燃やしても熱源・電力として利用できない.ペレット製造者が取りに
行くという形で背板が有効利用されている点が重要である.そして,羽ノ浦町で発生した
背板が市場町でペレットに加工され再び羽ノ浦町に戻りプールの熱源として利用されると
いうシステムも示唆に富んでいる.製材工場等の林材業だけでの循環ではなく地域内部で
の循環につながっている.さらに言えば,隣接町の協力関係という点からも興味深い事例
である.全ての市町村が完結したシステムを独自に持つのは林材業だけのシステムと同様
に非効率である.一つのペレット工場があり,周辺の数市町村から原材料を集め,完成し
たペレットを原材料集荷地域の市町村で利用するというのも一つの考え方と言える.羽ノ
浦町の事例を発展させると,このようなモデルが提案できるのではないか.
島根の益田産業の事例であるが,ストーブ本体があるためペレットの購入を続けている
という.冷泉を温めるために用いているということだが,コスト計算はどうなっているの
か興味深い.単に,ボイラー改造費が捻出できないため少々割高でもやむなく毎年購入し
ているということであろうか.輸送費はそれほどの負担ではないのかも知れない.また,
全体の収支のなかで何とか捻出できる金額なのかも知れない.利用者の購入価格はどうな
っているのか.製品としてのペレットがトラックで全国を走り回るのは何か非効率な印象
を受けるし,総合的に見た環境への負荷についても計算を必要とするように思われるが,
実は結構,広域に流通可能かも知れないことを示唆している.なお,高槻市森林組合は2000
年度にペレット利用の温泉ボイラーを導入,そして2001年度にペレット工場を建設する.
最初の1年間は自前のペレットがないためツツイ産業から購入する予定である.
3-5-4-2 木質ペレットの原材料
このチップ工場及びペレット工場では,間伐材及び建築廃材が利用されていることがわ
かり,幾つか興味深い点がある.具体的には,①建築廃材の利用が予想以上に進んでいる
こと,②無料であれば建築廃材を扱うことが可能なこと,③間伐材には生トン3,000円を払
うことが可能ということである.
建築廃材の利用であるが,今後,他地域でも観察可能なことを含んでいるように思われ
る.柱材などのより良質な部分に限定している点が重要である.家一軒分ではないにせよ,
建築廃材が利用可能でその一部がチップ・ペレット工場に運ばれているという点が重要で
ある.建築解体分野のほうでも解体後の廃材の処分に困っていることから,柱や屋根組な
どについて一定の採材を行った上で持ち込んでいる.材積にしてどれくらいが利用可能な
のかは不明である.
建築廃材は無料ということで,解体業者とツツイ産業の間に取引関係が生じていないと
いう形になっている.廃棄物行政との関係では,無料であれば広範な原料が利用可能かも
知れないことをこの事例は示唆している.針葉樹チップの80%が建築廃材ということは,
建築廃材の利用が明らかに可能であることを示している.針葉樹チップの場合,建築廃材
がばらされてチップになり再度出荷されることから,明らかに原料という位置付けが可能
なのであろう.建築廃材はペレットそのものの材料の一部をなしており,この部分につい
ては明らかにチップと同じである.集荷した建築廃材がペレットとなって出荷されるので
あり何ら問題はないことになる.一方,建築廃材をペレット製造に必要な熱源として使う
とこれは燃やしただけで重油の代わりである.熱を取るという面はあるが,燃やすという
部分が含まれることから廃棄物処理との関係が微妙ということになる.もしも建築廃材が
チップ製造にもペレット原料にもなっていなかった場合,無料であっても建築廃材を継続
的に利用することは可能なのであろうか.この点が重要である.
間伐材には生トン3,000円という価格が付いている.建築廃材には釘等の異物が混入する
ことを考えると,原材料としては間伐材のほうがより望ましい面はあるだろう.間伐材が
持ち込まれた状況ははっきりしないが,素材業者には木材市場に持ち込むより確実に販売
できるという判断があったのであろうか.はっきりわからないが,チップ原料として購入
しており,その一部をペレット製造に回しているということであろうか.
ツツイ産業が建築廃材や間伐材を利用出来るのは,チップ製造とペレット製造の両方を
行っている点が関係しているように思われる.両事業の組合せ関係については今ひとつは
っきりしない部分があるが,この事例は,ペレット工場単独で運営するよりチップ製造と
の兼営または何らかの協力関係を持つことが事業継続の一つのパターンであることを示唆
している.国産チップ業の現状を考えると新たなチップ工場を設立することは無理といえ
るが,既存のチップ業者に隣接するような形での事業実施が可能かも知れない.チップ製
造がないと,建築廃材や間伐材についてもペレット製造に必要な分だけあればよいことに
なり,量的な限界があるものと思われる.
謝辞
本調査の実施にあたり,ツツイ産業工場長の平石光司氏より資料の提供等を受けた.ま
た,北摂東部地域林業確立検討委員会の徳島視察にあたっては,羽ノ浦町町民プール,鴨
島病院の関係者より設備の説明を受けた.以上の皆様の御協力に対し厚く御礼申し上げる.
九州地方における新エネルギーとしての木質バイオマスについて
3-6
安元 岳玄・吉田 茂二郎
3-6-1
はじめに
今日,地球温暖化の原因になる温室効果ガス排出に大きな影響を与えていたエネルギー
利用体系から,環境にやさしいエネルギー利用体系への転換が検討されている.環境とエ
ネルギーの調和を達成するための取り組みにはいくつかの側面からのものがある.一つは
省エネルギーであるが,その効果は生活が豊かになるに従って増大するエネルギー需要に
相殺される部分がある.また,省エネルギーだけに頼った取り組みは産業活動や一般活動
に制約を生む可能性もある.そこで環境への負荷の小さな新エネルギーが期待される.新
エネルギーは経済発展をベースとした豊かな社会を維持,発展させながらエネルギーと環
境の調和を図っていくための効果的な手段である.なかでも木質バイオマスエネルギーは,
その機能からカーボンニュートラルと言われるように,森林資源の計画的な利用と植林等
による再生により大気中のCO2 を増加させないという特徴をもつため注目されている.
木質バイオマスエネルギーを含め新エネルギーは再生可能でクリーンであるという
だけでなく地域をベースにした分散型・循環型のエネルギーであるということもあり,
近年国レベルのみでなく地方公共団体において導入が検討されている.
そこで本研究は現存する資料から九州地方において新エネルギー,木質バイオマスエネ
ルギー導入の現段階を把握するとともに,木質バイオマスエネルギーの新エネルギー導入
における位置付けを明らかにすることを目的とした.
3-6-2
方法
3-6-2-1
資料
NEDOの新エネルギー導入促進事業の主体である地域新エネルギービジョン策定等事業
による調査報告書を用いた.調査資料とした各報告書には地域の新エネルギー賦存量,新
エネルギー活用の基本方針,新エネルギーを土台にしたプロジェクトに関する内容等が盛
り込まれている.九州地方における地方公共団体の事業の実施状況を年度別・県別に整理
したのが表3-6-1,3-6-2である.事業実施件数が年々増加してきていること,県別では南九
州における件数が多くなっていることが分かる.
表3-6-1
九州地方における実施状況(年
度別)
年度
平成7
平成8
平成9
平成10
平成11
平成12
合計
県 市町村 広域連合 合計
2
5
1
8
1
10
0
11
0
11
0
11
2
19
0
21
2
14
0
16
2
22
0
24
9
81
1
91
表3-6-2 九州地方における実施状況(県別)
表2 九州地方における実施状況(県別)
県
福岡県
佐賀県
長崎県
熊本県
大分県
宮崎県
鹿児島県
沖縄県
合計
0
2
2
1
1
1
1
1
9
市町村 広域連合合計
8
0
8
0
0
2
5
0
7
21
0 22
4
0
5
3
0
4
27
0 28
13
1 15
81
1 91
3-6-2-2
木質バイオマスに関する定義
新エネルギーの分類については具体的に確定されたものはなく,地方公共団体により多
少ばらつきがあるが,今回は既存の文献(1)(2)を参考に図3-6-1のように定義した.この
分類では新エネルギーには4つのタイプがある.まず,再生可能エネルギーは地球上で発生
している自然のエネルギーから電力や熱を作成したもので,リサイクルエネルギーは使わ
ないで棄てられているエネルギーを有効に利用したものである.次に,バイオマスエネル
ギーは生物資源をエネルギーとして利用するもので,再生可能エネルギーとリサイクルエ
ネルギーの中間に位置するものとされている.さらに具体的に,本研究におけるバイオマ
ス,木質バイオマスに関する定義は小木による分類(3) を用い図3-6-2のようにした.バイ
オマスに関しては,一般的に産業系,生活系も含ませるケースもあるが本研究においては
除外した.これらの定義をもとに分析を行った.
新エネルギー
太陽光発電
再生可能エネルギー
風力発電
太陽熱利用
中小水力エネルギー
海洋エネルギー
バイオマスエネルギー
未利用エネルギー
リサイクルエネルギー
廃棄物熱利用
廃棄物発電
高効率エネルギー利用
燃料電池
コージェネレーション
その他新技術
クリーンエネルギー自動車
図1
図3-6-1 新エネルギーの分類
新エネルギーの分類
間伐材、林地残材(枝条、小径木)等
農林業系
森林資源
畜産系
農業系
林産系
工場残廃材、建築廃材
廃棄物
木質バイオマス
糖質資源、でんぷん資源、炭化水素資源、油脂資源
陸域系
未利用・廃資源
バイオマス
生産系
水域系
廃棄物系 産業系(下水汚泥、パルプスラッジ等)
【今回は除外】 生活系(家庭ごみ、し尿等)
図2
バイオマス・木質バイオマスについて
図3-6-2
バイオマス・木質バイオマスについて
3-6-3 結果
3-6-3-1 バイオマスに関する報告数
現在まで新エネルギービジョンを策定した地方公共団体の状況は先の表表3-6-1,3-6-2の
ようであるが,その中で将来的にバイオマスエネルギーについてもエネルギーの一つとし
て検討している地方公共団体についてその傾向を把握するために,新エネルギー賦存量推
計の中でバイオマスについても賦存量推計を実施した地方公共団体の数について整理した.
その結果は表表3-6-3,3-6-4のようである.年々事業実施件数の増加とともに,バイオマス,
木質バイオマスエネルギーについて推計した地方公共団体の数も増加している.又,収集
可能だった報告書総数のうち9割弱の地方公共団体でバイオマスエネルギーの賦存量を計
算し,同エネルギーの利用可能性について検討したことが分かる.さらに木質バイオマス
エネルギーについては約4割の地方公共団体で検討されている.県別の方では新エネルギ
ー全体では南九州に多くみられ,バイオマスでは熊本県・鹿児島県が多く,木質バイオマ
スでは熊本県の多さが目立った.さらに大分県は報告数合計が少ない中でほぼ全てで木質
バイオマスエネルギーの賦存量計算が行われていた.熊本・大分が主要な産業に林業があ
げられる県であることと関係していると思われる.又,鹿児島の結果は同県が畜産業の盛
んな県であることと関連していると思われる.
表3-6-3表3 バイオマスを検討した地方公共団体数
バイオマスを検討した地方公共団体数(年度別)
(年度別)
年度
実施 収集 バイオマス 木質バイオマス
平成7
8
8
5
3
平成8
11
7
4
3
平成9
11 10
8
3
平成10
21 21
15
7
平成11
16 15
15
6
平成12
24 22
22
12
合計
91 83
69
34
収集は実施の内数
バイオマスは実施、収集の内数
木質バイオマスは実施、収集、バイオマスの内数
表3-6-4
バイオマスを検討した地方公共団体数(県別)
県
報告数合計 バイオマス 木質バイオマス
福岡県
8
6
4
佐賀県
2
2
2
長崎県
7
5
2
熊本県
22
16
11
大分県
5
4
4
宮崎県
4
3
2
鹿児島県
28
25
6
沖縄県
15
8
3
合計
91
69
34
3-6-3-2
賦存量推計における基準
調査報告書のなかの賦存量推計においては基本的な考え方として図3-6-3に示すような
定義がみられた.これは本来基本となるものであるが,今回調査対象となった地方公共団
体の中には,開発可能量,利用期待量といった独自の表現・定義が使用されるケースもあ
った.しかし,今回は定義内容より僅かな表現の違いと解釈し基本的な分類に当てはめ,
最大可採量,期待可採量,利用可能量ごとに地方公共団体の数を年度別・県別に整理した
ものが表3-6-5,3-6-6である.なおここでは木質バイオマスエネルギーの賦存量推計を実施
した地方公共団体に絞り分析した.これによると約7割の地方公共団体では期待可採量に
よる推計を実施しており最大可採量での推計は約1割と少なかった.推計の際出来る限り
利用を前提とした算出方法をとろうという意識の現われと考えられる.さらに県別の結果
より熊本県では利用可能量推計の場合も多くみられ,利用に対してより積極的な姿勢をみ
せていると考えられる.
賦存量 地理的要因 エネルギーの集積状況 変換効率 他用途との競合 社会的条件 経済的条件
潜在賦存量 理論的に算出しうる潜在的なエネルギー資源量
最大可採量
期待可採量
利用可能量
図3 賦存量に関する定義
図3-6-3
賦存量に関する定義
表3-6-5
図中の は考慮する範囲を示す
エネルギー量推計における対象とした賦存量(年度別)
表5 エネルギー量推計における対象とした賦存量(年度別)
年度
平成7
平成8
平成9
平成10
平成11
平成12
計
最大可採量
0
1
0
1
1
0
3
期待可採量 利用可能量 合計
3
0
3
1
1
3
2
1
3
6
0
7
3
2
6
9
3
12
24
7
34
平成11年度の最大可採量及び期待可採量についてはそれぞれ
1地方公共団体ずつ前年に重複する
表3-6-6
エネルギー量推計における対象とした賦存量(県別)
県
最大可採量
福岡県
1
佐賀県
0
長崎県
2
熊本県
0
大分県
0
宮崎県
0
鹿児島県
0
沖縄県
0
計
3
期待可採量
2
2
0
7
4
2
5
2
24
利用可能量 合計
1
4
0
2
0
2
4
11
0
4
0
2
1
6
1
3
7
34
次に,各賦存量の推計方法に着目し,その着眼点に関しキーワードとして整理したのが
図3-6-4である.期待可採量と利用可能量については,全体的に図をみるように似た推計方
法がとられている.本来賦存量の定義は図3-6-3のようなものであるが,その両者の違いと
なる社会的条件,経済的条件の設定が困難であるからと思われる.実際に,ある地方公共
団体の報告書では特にバイオマスに関しては期待可採量と利用可能量を区別する必要がな
い,という文言が盛り込まれていたが,この背景には先に述べたようなことも含まれると
思われる.
【最大可採量】
【期待可採量】
【利用可能量】
0.2
森林資源の成長量 成長量×林野利用率×
0.2
成長量の5%
バイオマス利用可能率
流通の川上側
蓄積量の2%を間伐・製材廃材
伐採量×廃棄率
(林内)
(約30∼40%)
未利用間伐材の量
未利用間伐材の量
実際に管理されている竹林の間伐量
素材生産量
流通の川下側
素材生産量の2割
素材生産量のうち未利用分
伐採材積×廃材の比率
(製材工場)
廃材発生量
廃材発生量×利用可能率
建築廃材×廃木材の割合
素材生産量の2割
丸太の生産量×
廃材発生率
廃材発生量
図4 賦存量算出における着眼点
図3-6-4
賦存量算出における着眼点
3-6-3-3
バイオマス・木質バイオマスの割合
バイオマスエネルギー,そして木質バイオマスエネルギーについてどの程度を見積もっ
ているのか,どの程度期待を寄せているのか分析した.方法は,各地方公共団体で推計し
た賦存量,さらに各々の推計方法にも差がみられるという事情のため賦存量そのものでな
く賦存量の割合をみることにした.具体的には各地方公共団体のバイオマスエネルギー/
新エネルギー,木質バイオマスエネルギー/新エネルギー,木質バイオマスエネルギー/新エ
ネルギーについて調べ,大きさで5つに分けた各段階に属する地方公共団体数をまとめた
のが図3-6-5∼図3-6-7である.なおここでは熱エネルギーとして利用を考えるエネルギーに
ついてのみ分析対象とした.次に,各々の割合の平均値についても調べた.結果は順に0.64,
0.33,0.51であった.そして,県別の平均値は表3-6-7のようになった.もともと事業実施
が県レベルのみの佐賀県,畜産業が主要な産業である鹿児島県,バイオマス以外の再生可
能エネルギーの占める割合が大きい沖縄県以外では,新エネルギー全体に対する木質バイ
オマスは0.3∼0.4前後,バイオマスに対する木質バイオマスは0.4∼0.7前後を占め,熱エネ
ルギーとして木質バイオマスの新エネルギーに占める位置付けの大きさが確認できた.
0.0∼0.2
(5)
0.0∼0.2
0.2∼0.4
0.4∼0.6
0.6∼0.8
0.2∼0.4
(5)
0.8∼1.0
0.8∼1.0
(16)
カッコ内は実数
0.4∼0.6
(2)
0.6∼0.8
(2)
図3-6-5
0.0∼0.2は0.0より大きく
0.2以下を意味する
バイオマス/新エネルギーにおける地方
公共団体の内訳
0.8∼1.0
(4)
0.0∼0.2
0.2∼0.4
0.6∼0.8
(3)
0.4∼0.6
0.0∼0.2
(14)
0.4∼0.6
0.6∼0.8
0.8∼1.0
(2)
カッコ内は実数
0.0∼0.2は0.0より大きく
0.2以下を意味する
0.2∼0.4
(7)
図3-6-6
木質バイオマス/新エネルギーにおける
地方公共団体の内訳
0.0∼0.2
0.8∼1.0
(9)
0.0∼0.2
0.2∼0.4
(10)
0.4∼0.6
0.6∼0.8
0.8∼1.0
0.6∼0.8
(5)
(4)
図3-6-7
カッコ内は実数
0.2∼0.4
0.0∼0.2は0.0より大きく
(2)
0.2以下を意味する
0.4∼0.6
木質バイオマス/バイオマスにおける地
方公共団体の内訳
表3-6-7表7 賦存量の割合の県別の平均値
賦存量の割合の県別の平均値
福岡県 佐賀県 長崎県 熊本県 大分県 宮崎県 鹿児島県 沖縄県
バイオマス/新エネルギー
0.59
0.37
0.54 0.74 0.54
0.90
0.66
0.37
木質バイオマス/新エネルギー 0.34
0.03
0.32 0.44 0.34
0.37
0.19
0.15
木質バイオマス/バイオマス
0.68
0.07
0.59 0.58 0.60
0.42
0.24
0.47
3-6-4 まとめ
大まかな推計ではあるが木質バイオマスエネルギーについて検討した地方公共団体にと
って同エネルギーは熱エネルギー全体の中で約3分の1を占めるものと位置付けられてお
り,新エネルギーにおける位置付けという点で考えて期待の大きさを感じられた.なかで
も林産業が主要な産業でもある県において木質バイオマスエネルギー賦存量の推計を行っ
ている市町村数が多く,賦存量推計の際も利用段階を想定した推計方法の導入が試みられ
ていた.しかし,現実には木質バイオマス利用の際に問題となる諸条件の設定が困難で,
その影響もあり特に流通経路の川上側における木質バイオマスを対象とした推計方法に関
してはばらつきがでていたと考えられる.
ここで我が国の施策に目を移すと,COP3の合意等を踏まえて1998年に「長期エネルギー
需給見通し」が改定された.それによると2%程度の経済成長と既定の施策の実行を前提と
した基準ケースと,様々な対策を追加した場合の対策ケースが設定され,各ケースの新エ
ネルギー供給の見通しが示されている.基準ケースでは新エネルギー全体で940万klに対し,
木質バイオマス利用は517万kl,対策コースでは新エネルギー全体で1,910万klに対し木質バ
イオマス利用は592万klとなっている.割合にすると基準ケースでは0.55,対策コースでは
0.31となっている.なお,この見通しでは発電・熱利用ともに原油換算されている.
全国見通しと今回の九州における分析結果とを比較してみる.九州における分析では木
質バイオマスについて検討していない地方公共団体数が多かったので,全体でみると木質
バイオマスエネルギーの熱エネルギーに占める割合は先の3分の1よりかなり小さくなる.
さらに分析では熱エネルギーとして利用を考える賦存量のみを対象としているのでこれに
発電利用として賦存量を多く抱える太陽エネルギー,風力エネルギー等を加味するならば,
その割合はさらに小さな値となる.そう考えると国の新エネルギー供給の見通しにおける
0.55,0.31という割合は大きい.
現在,地域新エネルギービジョン策定等事業が導入され,九州において実施する地方公
共団体が増加しているが,以上の事からも地域レベルで木質バイオマス利用を検討し,利
用可能な賦存量を推計する際に必要な諸条件の整理が急務であると思われる.
参考文献
(1)井熊均・岩崎友彦(2001)図解よくわかるリサイクルエネルギー.160pp,日刊工業
新聞社,東京
(2)中村太和(2001)自然エネルギー戦略−“エネルギー自給圏”の形成と市民自治−.
188pp,自治体研究社,東京
(3)小木知子(1999)バイオマスエネルギーの特性−エネルギー資源としての観点から
のバイオマスの分類の特徴−.日本エネルギー学会誌78(4).232-238
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