...

EMCソリューションビジネスの市場展開

by user

on
Category: Documents
12

views

Report

Comments

Transcript

EMCソリューションビジネスの市場展開
低ノイズ蛍光灯
IPネットワークインフラを支えるEMC技術
シールドバウルト
電磁波センサ
EMCソリューションビジネスの市場展開
や ま ね
山根
こばやし
EMC対策技術を応用したさまざまなソリューションサービスの展開につい
ひろし
おくがわ
ゆういちろう
宏 /奥川 雄一郎
りゅういち
た じ ま
きみひろ
小林 隆一 /田島 公博
て,その代表例として低ノイズ蛍光灯,シールドバウルト,電磁波を用いた
NTT環境エネルギー研究所
防犯センサについて紹介します.
通信設備を取り巻く電磁環境
すます重要になっています.
EMCの問題解決に向けて,NTT環
機器では,インバータ技術を搭載した
ものが広く市場で販売されています.
ブロードバンドサービスの普及によ
境エネルギー研究所ではさまざまな取
特に,蛍光灯をインバータ式のものに
り,企業だけでなく一般の家庭におい
り組みを行っています.また,これま
交換することは,環境問題への関心か
ても,容易にインターネットへのアク
で蓄積したEMC技術を応用して新た
ら省エネルギーを実現するための手段
セスが可能となっています.これによ
なビジネス展開に向けて取り組んでい
であると考えられます.しかしこのよう
り,いわゆる白物家電と呼ばれる電気,
ます.本稿では,EMC技術を活用し
なインバータ方式の蛍光灯は,電力制
電子機器がネットワークに接続され,
たビジネス展開に向けたプロダクト例
御による省エネ効果というメリットが
さまざまな情報がインターネット経由
として,低ノイズ蛍光灯,iDCシール
ありますが,電磁環境的にみるとイン
で配信されつつあります.そのため,
ドバウルト,電磁波センサについて解
バータの動作周波数に起因する電磁妨
メタリック線を利用した多様な高速通
説します.
害波を発生させる場合があるというデ
信技術が開発され,その伝送信号周波
数が高周波化しています.
一方で,ユビキタス社会の実現に向
低ノイズインバータ蛍光灯
最近の家電製品や蛍光灯等の照明
メリットがあります.そのため,病院
やコンピュータルームなど,電磁妨害
波に敏感な精密機器が設置されている
けてさまざまな近距離無線通信技術が
発展し,より高い周波数を広帯域で利
用する技術が登場してきています.さ
電子安定器
らに,環境問題への関心の向上から,
家庭内の電力消費をコントロールする
蛍光灯器具
ため,インバータ技術等が電気機器に
導入されています.このように,通信
内部
環境は劇的に変化しており,同時に通
信システムを取り巻く状況も大きく変
定常ノイズ抑制回路
化しています.そのため,通信環境は
過渡電流ノイズ抑制回路
ますます複雑になり,同時に電磁気的
な環境も複雑化してきています.した
がって,これら通信技術の発展ととも
に新たなEMCの課題も生まれており,
その解決に向けた技術の研究開発がま
90
NTT技術ジャーナル 2007.9
蛍光ランプ
図1 電磁妨害波抑制回路
アジリティの追求
特
集
環境では,インバータ式の蛍光灯から
来の高周波インバータ方式蛍光灯に比
放射される電磁妨害波が,機器の動作
べ,発生するノイズを極めて少なくす
この低ノイズインバータ方式蛍光灯
に影響をおよぼすことがないようにその
ることに成功し,従来のラピッドスター
の実現により,これまで,電磁妨害波
利用が制限されている場合や,対策を
ト型蛍光灯器具と比較して28%省エ
の問題でインバータ方式蛍光灯の導入
講じたうえで利用している場合があり
ネ,および過渡電流ノイズと定常ノイ
が困難であった環境でも,省エネル
ます.
ズの両方で約100分の1以下の抑制を
ギー対策が可能となります.さらに,
我々は,このインバータ技術を搭載
実現しました.これにより定常ノイズ
発光効率の高い小径(15.5 mm)の
した蛍光灯に対して,これまで蓄積さ
に対して150 kHz以下の伝導性妨害
蛍光ランプと組み合わせることで,長
れたEMC技術を適用することにより,
波における国際規格(CISPR15)の
寿命と高い(50%)省エネ効果を確
従来よりも低ノイズのインバータ蛍光
許容値を大幅に下回る結果が得られま
認しており,製造,廃棄の面でも環境
した(図2,3).
(1)
灯を開発しました
.
インバータ方式の蛍光灯は,付属の
電子安定器で商用電源周波数
(50 Hz/
(dBμV)
140
60 Hz)より高い周波数(数10 kHz
120
∼)でスイッチング制御を行っている
ため,小型で高い省エネ効果(通常
30%程度)をもたらす半面,点灯・
消灯時の過渡電流ノイズや定常時の放
100
CISPR15許容値
雑
音 80
測
定
値 60
射ノイズ(定常ノイズ)が,従来のラ
従来型製品
A
B
C
D
E
F
G
H
I
100分の1
に低減
40
ピッドスタート方式蛍光灯や電子ス
20
タータ方式蛍光灯より大きいという課
今回開発技術の
定常ノイズ特性
0
題がありました.
10
そこで,過渡電流ノイズと定常ノイ
ズの両方を抑制できる新たなフィルタ
100
周波数
1 000(kHz)
図2 150 kHz以下における伝導電磁妨害波レベル
回路を開発し,電子安定器のインバー
タ回路に一体化することで,省エネ効
果を保持したまま小型,低コスト化を
実現しました(図1).定常ノイズ抑
制のためのEMIフィルタに加え,電源
ON・OFF時の急激な電圧,電流変
振幅:±30 A
0.3
0.2
20
0.1
10
約100分の1
0
動 を抑 制 するために, M O S F E T に
よってバイアス回路の負荷インピーダ
ンスを徐々に遷移させる機能を実現さ
せました.
その結果,インバータ回路が有する
振幅:±0.2 A
40
30
0
―10
―0.1
―20
―0.2
―30
―40
―0.0004 ―0.0003 ―0.0002 ―0.0001
―0.3
0
0.0001 0.0002 0.0003 0.0004
(a) 従来インバータ方式
― 4.00E ― ― 3.00E― ― 2.00E ― ― 1.00E ― 0.00E+00 1.00E―04 2.00E―04 3.00E―04 4.00E―04
04
04
04
04
(b) 抑圧回路適用時
図3 突入電流を抑圧する回路を適用
本来の省エネ効果を保持したまま,従
NTT技術ジャーナル 2007.9
91
IPネットワークインフラを支えるEMC技術
(2)
に優しい照明器具を実現しました
.
iDCシールドバウルト
個 人 情 報 の保 護 や電 子 決 済 等 ,
ネットワークでの重要な情報の流通,
データセンタにおける高いセキュリティ
ン(個室)としての機能を付与するこ
要求にこたえる電磁波シールドルーム
とも可能です.
構成技術を具体化してきました.その
適用分野としては,PKI(公開鍵認
1つが,「iDCシールドバウルト」の開
証局)や金融・電子商取引などに代
(3)
発です
(図4)
.
表される重要データの保護を目的とし
蓄積に伴って,データセンタのセキュ
iDCシールドバウルトは,データセ
た既存データセンタへの電磁シールド
リティは年々重要な課題となってきて
ンタ,サーバルームで汎用性の高い,
メニューの追加,お客さまデータセン
います.特に,情報の重要度の増大に
19インチキャビネットラックに構造体
タ・サーバルームでの電磁波シールド
伴いフィジカルセキュリティの必要性
として震度6強でも倒壊しない耐震性
の構築,あるいは電磁環境の悪化傾向
が重要視され,その中の課題として
能を持たせたものです.簡易な金属パ
にあるオフィスや工場などへのサーバ
データセンタ設置のサーバ類からの漏
ネルの接合方法を用いることにより,
ルーム構築等が挙げられます.さらに
洩電磁波により重要な情報が盗まれる
50 dB以上のシールド性能を有しつつ
この技術は,小規模なシールドルーム
(TEMPEST)問題や,データセンタ
軽量で,構築費も含めて既存の5∼2
構築に直接利用できることから,ユビ
周辺から強力な電磁波によるシステム
分の1の低価格を実現した電磁波シー
キタス通信機器の開発に必要な無線技
の破壊や誤動作を発生させる電磁波攻
ルドルームです.お客さまの機器の増
術開発用実験室への応用や,無線機
撃からの防御等が注目され始めていま
減に伴うラック数の変化に応じて,こ
器が多数使われることが予想されるユ
す.またユビキタス社会の進展により,
れまでシールドルームでは困難であった
ビキタス対応オフィスなどへの応用の
携帯型・小型の無線機器が,データ
拡張性も確保し,二重扉構成の前室
可能性があると考えています.
センタ内で利用されるシーンも増加し
設置により,シールド性能を確保した
ていると考えられます.重要なデータ
ままラック扉の開閉が可能となってい
装置(サーバ等)の近傍での無線機器
ます.そのため保守作業中でも,電磁
利用が日常となることで,それら機器
波の漏洩や強い電磁波からの防護が可
がつくる電磁界によって装置が誤動作
能であり,セキュリティを確保するこ
しないように防御することも重要に
とができます(図5).また施錠装置
なってきています.
の追加により,セキュリティ用キャビ
これら電磁波漏洩や外部からの電磁
(a) 外観イメージ
波から装置を守る手段の1つとして,
電磁波シールドが考えられます.しか
し,既存のデータセンタ等で電磁波
シールドを施すことは,コストが高く
設計から竣工までの工期が長くなるだ
けでなく,拡張性がないといった問題
がありました.
(b) 拡張イメージ
こうした状況の中,我々は,これま
で培ったE M C 対策技術・電磁波セ
キュリティ評価対策技術を利用して,
92
NTT技術ジャーナル 2007.9
図4 iDCシールドバウルト
図5 iDCシールドバウルトの
概観および拡張イメージ
特
集
構成を図6に示します.まず,一定時
これは,受信電圧の変動だけでは,人
間間隔で検波したアンテナ受信電圧の
が存在した場合としない場合とを区別
近年,住居侵入をはじめとする侵入
時間変化量を計算し,さらにその絶対
することが困難であるということを意
犯罪の増加により,防犯サービスに対
値を算出します.前述したような環境
味します.そこで,図8(a),(b)の結
するニーズが増大しています.人の侵
による受信電圧の急激な変動と人の侵
果に対して,前述の積算処理を行った
入を検知する方法としては赤外線を用
入による変動とを区別するため,人が
結果を図8(c)に示します.青線が人
いる方法が多用されていますが,ペッ
動く場合の受信電圧変動の継続時間
のいない場合,赤線は人が移動と静止
トの体温や室温の上昇によって誤検知
が外部環境の変動よりも十分長くなる
を繰り返した場合です.これらを比較
する可能性があり,すべての領域に適
ことを利用し,一定時間幅で時間変化
すると,人がいる場合のほうが,人の
用できないのが現状です.そこで,携
量を積算する方法を考案しました.こ
動きと連動して処理値が大きくなって
帯電話基地局の電波など,身の回り
れにより人の侵入による受信電圧変動
いることが分かります.
にすでに存在する電波のアンテナ受信
のみを抽出することを実現しています.
電圧が人の移動によって変動すること
本手法の適用性を確認するための測
た方法によって,外部環境の変化によ
を利用し,侵入検知を行う方法が提案
定環境と測定系を図 7 に示します.
る誤検知の可能性を低減することが可
.この方法は既存の電
実験には5ãの会議室を用い,ダイ
能になりました.今後は,検知を行う
波の受信電圧変動を利用しているとい
ポールアンテナを室内中央に設置して
う点に特徴を持ち,新たな電波発信源
います.この状態でアンテナの周囲を
が不要なため周囲の電磁環境に影響を
人が移動し,そのときのアンテナ受信
与えないことや,温度に依存しないこ
電圧変動の検出と積算処理をレシーバ
電磁波を用いた防犯センサ
(4)
されています
とから赤外線で問題となっていた領域
とPCで行っています.なお,測定の受
への適用が可能といったメリットがあ
信電波としてNTTドコモの携帯電話
ります.
サービス「FOMA」の基地局電波を
しかし,携帯電話基地局の電波な
利用しました.
どは受信電圧が常に安定しているわけ
測定結果を図8に示します.図8(a)
ではなく,外部環境の変化によってご
のグラフは人がいない状態,図8(b)
く短時間に急激な変動を生じることが
は人が一定時間間隔で移動と静止を
あります.したがって,この方式のデ
繰り返した場合の受信電圧差分の絶対
メリットとして単純に受信電圧変動の
値をそれぞれ示しています.また,図
時間差分から異常を検出すると,人の
8(b)のグラフでは人が移動している時
侵入と環境要因による変動とを誤検知
間帯を緑色の網掛けで示しています.
する可能性が考えられます.
これらの結果を比較すると,図8(b)
我々は,受信電圧の時間変動をさ
のグラフでは人が移動している時間帯
らに一定時間幅で積算し,人の侵入に
で受信電圧差分が大きくなっています
よる特徴量を抽出する方法を考案して
が,図8(a)のグラフでは人がいないに
(5)
実用化に向けた検討を行っています .
もかかわらず,受信電圧差分が大きく
電波センサによるセンシング方法の
なっている時間帯が存在しています.
これらの検討の結果,我々が考案し
アンテナ
検波部
時間変化量計算部
絶対値処理部
記憶部
積算処理部
しきい値設定部
判定部
センサ部
図6 電波センサの構成
受信周波数:2.137 GHz
分解能帯域幅:1MHz
測定間隔:100 ms
ダイポールアンテナ
静止
移動
静止
静止
移動
PCレシーバ
移動 人の移動経路
机
図7 測定環境および測定系
NTT技術ジャーナル 2007.9
93
IPネットワークインフラを支えるEMC技術
うえで重要なしきい値の設定手法につ
(dB)
5
いて検討を行い,新たなセンサ技術と
4.5
して防犯等のセキュリティ関連ビジネ
スへの展開を目指して研究開発を行っ
4
受
信 3.5
電
圧 3
差 2.5
分
の 2
絶
対 1.5
値
1
ていく予定です.
■参考文献
0.5
0
0
10
20
30
40
50
時 間
(a) 人がいない場合の受信電圧差分(絶対値)
60(s)
10
20
60(s)
(dB)
5
4.5
(1) 菅 野 ・ 田 島 :
“インバータ式蛍光灯の過渡
電流抑制方法の検討,”信学技報,EMCJ,
Vol. 106, No.508, pp.45-49, 2007.
(2) 佐尾・馬杉・富永・山根:“電磁波セキュリ
ティ対策用シールドバウルトの構築,”2005
信学ソ大, B-4-6, 2005.
(3) http://www.ntt-at.co.jp/product/ecolonlight/
index.html
(4) 西・吉田:“TV放送波を用いた屋内侵入検知
システムの提案,”2005信学総大,B-1-41,
2005.
(5) 奧川・秋山・田島:“電波を用いた侵入検知シ
ステムの精度向上に関する検討,” 2005信学
総大, B-1-30, 2006.
4
受
信 3.5
電
圧 3
差 2.5
分
の 2
絶
対 1.5
値
1
0.5
0
0
30
40
50
時 間
(b) 人が移動と静止を繰り返した場合の受信電圧差分(絶対値)
300
(後列左から)小林 隆一/ 奥川 雄一郎
人がいない場合
人が移動と静止を繰り返した場合
250
(前列左から)山根 宏/ 田島 公博
200
NTT環境エネルギー研究所 電磁環境技
術グループでは,これまでに蓄積された電
磁波関連のEMC技術を活用し,セキュリ
ティ等新たな分野における技術開発を実行
し,研究開発成果のビジネス化に取り組ん
でいきます.
処
理 150
値
100
50
◆問い合わせ先
0
0
10
20
30
40
時 間
(c) 積算処理の結果
図8 測定結果
94
NTT技術ジャーナル 2007.9
50
60(s)
NTT環境エネルギー研究所
第一推進PT EMCDP
TEL 0422-59-3381
FAX 0422-59-3314
E-mail [email protected]
Fly UP