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東洋大学「実システムのプログラミング基礎」

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東洋大学「実システムのプログラミング基礎」
3-3. 東洋大学「実システムのプログラミング基礎」
(1)キャッチフレーズ
~実務におけるプログラミング技術を学ぶ~
(2)講座実施の狙い・目標
①狙い
近年、産業界では、入社後すぐに活躍できる“即戦力”を求める声が強ま
っていますが、即戦力の中核となるのは、この講座が対象とする実践的なプ
ログラミング技術です。
この講座は、基本的なプログラミングスキルを習得した学生が、即戦力と
して大きくステップアップするための講座として位置づけています。
②学生育成目標
プログラミング能力だけではなく、プログラマ、SE に必要なプログラム読
(育成人材像)
解力を身につける。
③学習・教育目標
・Java のクラスライブラリを活用できる。
(習得内容等)
・Java で簡単な GUI アプリケーションを作成できる。
・Eclipse でアプリケーションを開発できる。
<座学>
・座学による多人数教育で、人材のすそ野を広げる。
<演習>
・コードリーディングは語学の小作品理解と同様の位置づけであり、他人の
書いたソースコードを理解できる力を養う。
・コードライティングは語学の小作品の製作に該当する位置づけであり、100
行程度のプログラムを記述できる力を養う。
④習得目標とする共通
大分類:基礎理論
キャリア・スキルフレ
中分類:アルゴリズムとプログラミング
ームワーク(知識)
⑤対象とする J07 領域
領域:CS(コンピュータ科学)
知識:プログラミング言語、プログラミングの基礎、
グラフィックスとビジュアル・コンピューティング
(3)講座計画・実施における産学連携体制
①担当大学教員、連携
担当教員:上原稔教授(他 2 名)
企業、TA
連携企業:(株)FUJITSU ユニバーシティ、(株)富士通ラ-ニングメディア
TA:3 名
②産学役割分担
[平成 23 年度]
大学側:講義内容検討、演習内容検討、補助教材作成、講義実施、演習実施、
成績評価、TA 指導、環境整備
企業側:講座実施補助(講師派遣)
、FD への協力
[平成 24 年度(計画)]
大学側:講義内容検討、演習内容検討、補助教材作成、講義実施、演習実施、
成績評価、TA 指導、環境整備
企業側:講座実施補助(講師派遣)
、FD への協力
39
(4)講座構築プロセス
①実践的教育の検討
大学側が抱える問題意識(例えばプログラミング技能の育成が不十分であ
ること)と産業界が望む人材像のギャップ(設計のためにも必要十分なプロ
グラミング技能が必要であること)を認識し、行うべき教育を模索した。本
講座では初等プログラミングから高等プログラミングへの移行期に当たる 2
年生を対象として、いち早く実システムのプログラミングを体験させること
に意義があると考える。
②産学マッチング体制
構築
③実践的講座開発
平成 21 年度「IT 人材育成強化加速事業」の拠点大学支援部会において、東
洋大学と(株)FUJITSU ユニバーシティ、(株)富士通ラ-ニングメディアのマッ
チングを決定。
拠点大学支援部会の中に東洋大学マッチング WG を設置し、実践的講座の実
施に向けた具体的な検討を行った。同 WG での検討経緯は次のとおり。
第 1 回 WG(平成 21 年 9 月 18 日)
・講座検討の進め方の確認
・講座の実施原案の検討(学内手続き、講座テーマ、進め方、スケジュー
ル、実施環境等)
第 2 回 WG(平成 21 年 10 月 20 日)
・講座詳細内容の検討(大学側教員体制、受講定員、実施環境、教材、コ
マ割等)
第 3 回 WG(平成 21 年 11 月 10 日)
・講座詳細内容の検討(進め方、コマ割、実施環境、教材、講師用プレゼ
ンテキスト等)
第 4 回 WG(平成 21 年 12 月 1 日)
・講座詳細内容の検討(産学役割、コマ単位の内容、実施スケジュール、
受講定員、講座評価、成績評価等)
第 5 回 WG(平成 22 年 1 月 19 日)
・企業提供教材に係る内容確認・検討
第 6 回 WG(平成 22 年 2 月 17 日)
・講座詳細内容の検討(企業提供教材、事前リハーサル、実施スケジュー
ル等)
④実施に向けた準備
ワーキンググループを構成し、1 年前から数度にわたり検討を行った。概要
としては、大まかなガイドラインを大学が示し、次に企業側が教材を含めた
提案を行った。大学がそれを受けて、内容を精査した。大学は受講者を見積
もり、教員および TA を手配した。TA は 30 名あたり 1 人を目安とした。本学
の制度では TA の事前指導が義務付けられており、これは全学的に実施されて
いる。教材は企業研究教材を本講座用にカスタマイズしたものを用い、生協
を通じて販売した。演習では Eclipse をベースとした開発環境を整備した。
(5)講座内容
①講座の概要・特長
この講座は、プログラミング演習の総仕上げであり、ソフトウェア工学を
学ぶための前提科目として位置づけており、企業で実際に用いられているソ
ースコードを用いて、コードを読む訓練と書く訓練を繰り返し行います。学
生に対してあえて手加減せず、企業が提供する難易度の高い素材を用いるこ
40
とで、企業における実務の水準を学生に体験させることが可能です。また、
作法や規約の重要性など、実務の基本となるソフトウェア工学の基礎につい
ても理解が深まります。企業の実務の一部を体験できるこの講座の受講によ
って、学生は、学部の早い段階から、IT 業界における実際の仕事のイメージ
をつかむことができるようになります。
授業では、Java のライブラリを活用したグラフィックス、イベント処理、
並行処理、GUI について学び、演習を通じて、企業で実際に使用されているソ
ースコードを利用したやや難易度の高い課題に取り組みます。企業の参画に
より実現された実践性の高いカリキュラムです。
②講座構成
第 1 回 ガイダンスおよび序論
第 2~4 回 アプレット講義
第 5 回 プログラミング演習
第 6~8 回 AWT講義
第 9 回 AWT を用いたプログラム作成演習
第 10 回 Java Window アプリケーション演習
第 11 回 スレッドプログラミング講義+演習
第 12~15 回 総合演習
③対象
総合情報学部 総合情報学科 2 年次 定員 180 名
④実施時期、時間割
<実施時期>
(平成 23 年度)
2011 年 6 月 3 日~7 月 19 日(毎週 2 コマ)
<時間割>
火曜日 9:00~10:30
金曜日 9:00~10:30
⑤単位付与評価方法
試験
:50%
レポート :50%
平常点評価:0%(際立った活躍に対して若干プラス)
その他
:0%
・演習では達成度により技術の習熟を評価する。
・期末試験では知識を評価する。
・成績評価に企業は関与しない。
⑥実施環境、教材
<実施環境>
・Windows PC(Linux も可)
・ Java, Eclipse
<教材>
・テキスト:プログラミング技法Ⅱ
→(株)富士通ラ-ニングメディアより購入
・参考書:
「Eclipse で学ぶはじめての Java」木村聡 SoftBank Creative
(6)実施結果及び評価
41
①学生アンケート結果
0%
20%
40%
60%
80%
100%
1 講義の内容は明快でわかりやすかった
2 教材の内容は明快でわかりやすかった
5 演習内容は取り組みやすかった
6 演習内容はやりがいがあった
7 熱意をもって取り組んでいた
8 わかりやすい説明だった
9 時間配分、資料の見やすさ、声の聞き
取りやすさに十分配慮していた
10 学生の質問に積極的に対応していた
12 熱意をもって取り組んだ
13 不明点などの質問、調査を行った
14 学習目標を達成することができた
16 IT業界に対する関心が高まった
17 今後の学習に対する意欲が持てた
18 この講座を後輩へ薦めたいと思う
そう思う
ややそう思う
あまりそう思わない
そう思わない
平成 22 年度は問題の難易度が平均して高かった。平成 23 年度では問題を
難易度別に分類したことで適切に出題できたが、総合問題は難易度が高いま
ま残された。
アンケートの有効回答率は 71%である。本学コース管理システムを用いてア
ンケートしたため、強制力が低く、回答率が上がらなかった。
ほとんどの設問に対して半数以上の有効回答は肯定的である。有効回答率
の半分である 35%ラインで見ればすべて肯定的である。60%を閾値とすれば、
例外として問 5 と問 14 の評価が低かったといえる。問 5 に関しては、演習内
容の難易度の設定に調整が必要である。問 14 は総合問題の達成度に依存する
と考えられる。総合問題の進行にも改善の余地がある。
②企業による評価
<良かった点>
平成 22 年度の実施を踏まえ、事前に情報交換を実施し、難度別問題集とサ
ンプルプログラムをご用意いただいたお陰で、学生の進捗に併せて細やかな
対応を行うことができました。
<課題>
学生の前提知識の差により、実習問題の進捗差が生じる可能性があること。
空き時間での自主学習はありますが、限られた時間の中で学生が回答する実
習数の差が少しでも縮められることができれば、より効果的な講座になると
思います。
③大学教員による評価
平成 22 年度の反省を受けて、平成 23 年度は授業法を改めた。
<良かった点>
・テキスト・教材は昨年同様であったが、難度別問題集とサンプルプログラ
ムを追加した。問題を難易度別に出題することで評価が公平になった。
・出題のヒントも段階的に提示し、模範解答も解説した。
・授業経費は計画通り削減されており、順調に自立化できている。
<課題とその解決策>
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・しかし、内容に対して授業時間が短く、授業の進行はかなり速かった。全
体的にスケジュールを前倒しで行った。これは震災の影響もある(7 月中に
授業を終了するため)。次年度は若干余裕のあるスケジュールにできる。
・総合問題は難易度が高いままであった。総合問題の講義方法を技術移転す
るために企業講師に依頼したが、平成 24 年度では大学教員が行う。
・GUI プログラミングの勘所が十分に伝わっていないようなので、次年度では
重点的に講義する。
(7)今後の自立化・発展に向けた取り組み
(大学記載)
平成 23 年度に実施要項を完成させ、平成 24 年度に自立化を目指す。原則として企業との協力関係を
継続させるが、学内での運営予算が確保できない場合でも運営可能なようにスキル移転に努める。本講
座の場合、平成 24 年度はコース数を削減し、うち半数では大学教員のみによる運営を行う。
平成 23 年度は習熟度別問題集および独自教材を作成した。独自教材はオープンソース化も可能であ
る。平成 24 年度は e-learning 教材の開発を行い、時間外指導を充実させる。
更なる発展のためには、本講義に関しては内容を高度化するより、いかに分かりやすくするかが課題
である。これは企業側の問題ではなく、大学側の問題といえる。大学側が教材に対する理解を深める必
要がある。
既に企業連携を発展させる方向に進んでいる。
(企業記載)
平成 23 年度は、講座の一部を弊社からの講師が登壇し、講義を担当しました。平成 24 年度も、引き
続き当該部分を担当させていただく可能性がありますが、東洋大学様の予算等の関係によっては、勉強
会等の別方法によるノウハウの移転なども考えられます。
(8)実施に当たっての課題と工夫
①立ち上げ時
(大学記載)
1)講座立ち上げ時の工夫について
・既にカリキュラムが完成していたことと、新設学部であったことから、新
しく開講される科目で、なおかつ実施年度に開講予定の科目に限定された。
しかし、今回の連携は第一歩であると考えれば、適用可能な科目は数多く
存在する。また、担当教員の理解と協力が不可欠であり、連携に対して積
極的である必要がある。
2)学科の協力体制について
・企画時から学部長、学科主任の了解を得ていたため、学部は協力的であっ
た。これは実施予算を確保する上で重要であった。また、他教員へは趣旨
を説明したうえで、原案を回覧し、最終的にキックオフミーティングにて
詳細に説明した。
3)他教員への周知・協力依頼について
・本講座は複数名で担当するため担当者間の連絡が重要であった。キックオ
フミーティングにおいて十分な趣旨説明を行った。
43
②実施準備時
(大学記載)
1)カリキュラムの工夫
・必要となる専門性の度合いに応じてコースを選択できるようにした。入門
編では Java に依存しないプログラミングの一般論を教え、中級編ではオブ
ジェクト指向プログラミングを中心に教え、本講義ではそれらの後で実シ
ステムを扱うための知識を補う。
・本講座の原案は既に大学側が作成していた。それに対して企業側コンテン
ツとマッチングを行った。講座設計の際には、相互の意見を真摯に出し合
い、安易に妥協しないことが必要である。連携すること自体が目的なので
はなく、よりよい教育をすることが目的だからである。結果として、やや
盛り込み過ぎな内容になってしまった。
2)時間割
・秋学期のソフトウェア工学へ繋げるため週 2 回で実施した。
3)学習効果向上のための工夫
・学生の興味を引くゲームやアニメーションなどの教材を取り入れた。
4)教材の配布方法
・教材は企業研修のテキストであり、その配布には制限があった。テキスト
自体は学生に生協を通じて販売した。課題のプログラムも学外には非公開
となる学習管理システム上で配布した。本学の講座はすべて学習管理シス
テム上にコースを持つ。
5)事前トレーニング
・企業講師が演習環境を把握できるように事前の下見を行った。また、学内
アカウントを発行した。
・大学側教員は教材を理解するために事前の準備に時間を使った。それでも
一年目の授業では課題の難易度について問題が発生した。その問題は授業
の存立を危うくするものではないが、改善すべき課題であったため、2 年目
に改善した。学生のレベルなど現実に合わせて柔軟に対応する必要がある。
(企業記載)
1)使用教材の選定
・企業で使用している教材をそのまま適用することは困難ですので、初めに
東洋大学様のニーズをお伺いした上で、ニーズを満たせる可能性のある教
材を提案し、その中で今回の教材に決定いたしました。
2 教材内優先度とカリキュラムの決定
・使用教材の決定後、東洋大学様のニーズに基づき、教材内で取り扱うべき
項目や比重(その単元に何コマ分使用するか)を決定いたしました。
・その際、使用教材を熟知しているものが打ち合わせに参加し、使用教材の
カスタマイズに伴う整合性の判断や東洋大学様の疑問に対する応答を行
い、カリキュラムを作成いたしました。
・なお、企業内研修と異なり、大学での講義は 1 コマ(90 分)での構成とな
ると共に、場合によっては 1 週間程度の間隔が空きますので、前回のフォ
ローアップなどの配慮が必要になるかと思います。
※本講座に限らず企業内研修を適用する場合は、可能であれば 1 日に複数
コマを使用できることが望ましいです。
44
3 実習環境の事前確認
・企業内教材を使用する際、企業で用いる PC 環境と東洋大学様で使用する PC
環境が異なるため事前に実習環境を提示した上で、大学側と PC 環境(OS
やインストールされているアプリケーション、PC 内設定等)の確認が必要
になります。
③講座実施時
(大学記載)
1)大規模受講生に対する対応
・初年度は 200 名を超えたため 4 コースに分けた。しかし、コースに分けて
も、それぞれのコースが必ずしも少人数クラスになるわけではない。そこ
で、演習時には大学教員、企業講師、そして TA の 3 名で指導するようにし
た。
・次年度は 3 コースで収まった。また、演習時のポイントが予めわかってい
たため、大学教員だけでも十分指導できた。その企業講師の空いた分を総
合問題へ重点的に分配した。
2)受講生レベルのバラツキに対する対応
・能力別編成が困難であったため、教材の課題を注意深く見直し、どのレベ
ルの学生にもそれぞれ適切な課題を与えることができるように配慮した。
・学生同士が教えあることを奨励し、できる学生のモチベーションを維持す
るようにした。
(企業記載)
1)新人研修等、若年層社員研修の登壇経験者の起用
・大学生を対象に講座を実施する際には、通常の成人向け研修に比べて、講
師の振る舞いが異なるため、企業において学生に近い世代である新入社員
や若年層社員の登壇経験がある社員が講師となることが望ましいです。
2)サポートの確保
・本講座の実習は、個人演習となっており各生徒で進捗が異なると共に、同
じ箇所で質問が生じる可能性があります。そのため、登壇する講師以外に
サポートが可能な教員や上級生の TA に相当する方が必要です。
・企業では、受講者 20 名を目安にサポートを 1 名つけております。本教材を
使用する際は、1 教室の受講者数に応じてサポートを付けていただくことが
望ましいです。
④評価時
(大学記載)
1)評価に関する産学の役割分担
・評価に関しては大学側が全責任を負うため、すべて大学側で評価した。こ
れは連携企業の希望でもあった。
2)評価方法
・期末試験 50%と演習 50%で評価した。期末試験は Java の参考書を持ち込み
可としたマークシート方式で実施した。演習点として総合問題を評価した。
演習は原則として個人単位である。
3)アンケートについて
・本学部ではすべての科目に対して学生による授業評価アンケートを実施し
ている。その結果は、約半年後に提示される。
45
・本プログラムによるアンケートは、Google ドキュメントの機能を用いて電
子的に行った。この方法は大人数に対して便利である。しかし、強制力が
弱いため、回収率が低くなる。この結果は、本報告等を通じて連携企業と
共有される。また、この結果から改善点を見つけ、次年度に活かすように
している。
⑤継続・拡大時
(大学記載)
1)企業から大学への教授法等の移転について
・毎年、試験結果やアンケート結果を見て、授業の課題を振り返っている。
そして見つけた課題を改善するうえで、企業講師の教授法が参考になる場
合、その担当を変更する。例えば、今年度は前年度課題となった総合問題
の教授法を移転できるように企業講師に担当していただいた。
2)教材のカスタマイズ
・学習者のレベルに応じて出題できるように課題をカスタマイズした。今後
は総合問題の教授法についてもカスタマイズを行う。
(9)その他(ユニークな取り組み、アピールポイント、メッセージ等)
本講義の特徴は私大ならではの多人数講義である。プログラミング演習は本来少人数で実施した方が
教育効果は高い。しかし、コスト意識の高い私大では多人数の演習に対するニーズが高い。本講義では
多人数という条件下で教育効果を高める工夫をしている。
平成 23 年度は平均を見極める必要があったが、平成 24 年度ではクラス内での習熟度別指導が可能と
なった。今後は e-learning を活用した個別指導を試みる。
(10)参考資料(5.参考資料に収録)
①習熟度別問題集
②追加サンプルプログラム
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