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訪日外国人の増加による航空産業の現状と 今後

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訪日外国人の増加による航空産業の現状と 今後
東海大学工学部
航空宇宙学科航空操縦学専攻
2015年度卒業研究論文
訪日外国人の増加による航空産業の現状と
今後についての考察
2016 年 2 月
学番:2BEO1214 氏名:後藤 大志
指導教員:中川 淳雄 教授
目次
第一章 はじめに
1.1 研究の背景
1.2 研究の目的
1.3 研究の方法
第二章 調査・研究内容
2.1 訪日外国人旅行客招致にむけた日本政府の取り組み
2.2 ビジットジャパンキャンペーンについて
2.3 国籍別訪日外国人旅行者
2.4 近隣諸国の航空産業の反応
2.5 日本の航空産業の反応
2.6 航空会社における海外航空会社の買収
2.7 航空産業の最新の動きについて
第三章 考察
3.1 訪日客の増加と航空産業の現状
3.2 国内航空会社の今後について
3.3 訪日外国人は今後も増え続けるのか
第四章 結論
4.1 4.2 4.3 4.4 日本のエアラインの苦戦
航空会社の買収について
今後の訪日需要について
本研究の課題
謝辞
参考文献
2
第一章 はじめに
1.1 研究の背景
私が本研究を始めた背景として、現在日本は少子高齢化による市場の縮小な
ど暗いニュースが多い中、訪日外国人の増加は今のこの国において唯一と言っ
ても良い成長事例であると考えたからである。2014年の国際旅行収支(日
本人が海外で落としたお金と、外国人が日本で落とした金の収支)は55年ぶ
りに黒字に転じ、2015年には45年ぶりに訪日外国人数が出国日本人数を
上回った。これは時代の大きな転換点であり、島国である日本においてこの訪
日外国人旅行客の増加は航空産業に大きな影響を与えている。訪日外国人旅行
市場が拡大しているというのが現在の航空産業において最大のトピックである
と考える。今回の訪日外国人の増加は円安等の経済的な背景が大きなものだと
いう意見もあるが私はそう思わない。図1.1、図 1.2をご覧頂ければわかると
思うが今回の円安(2012年頃から続く円安)は訪日外国人旅行客の増加に
多少の影響はあると思うが、その前の円安の時期(2003年あたり)を見て
頂ければ必ずしも円安=訪日外国人旅行客の増加とは結びついていないのであ
る。私はこの訪日外国人旅行市場拡大の背景として、様々な要因があると考え
た。本論文はその分析とともに、日本と海外の航空産業の現状と今後の展望に
ついて提言していくものである。
3
図 1.1 訪日外国人旅行客の推移
国土交通省観光局
4
図 1.2 2003 年からの為替変動(US ドル/日本円)
¥140
¥120
¥100
¥80
¥60
¥40
¥20
¥0
2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
世界経済のネタ帳 US ドル/円の為替レート推移
1.2 研究の目的
本研究の目的は、現在航空産業にとって最大のトピックである訪日外国人旅
行客の増加による国内外のエアラインの現状を知る事と、それに対して今後の
予想を行うことにより航空産業の現状をより深く知るためのものである。また、
予想を立てる上で、私が思うこれからの航空産業について提言して行きたいと
思う。
1.3 研究の方法
訪日旅行促進事業(ビジット・ジャパン・キャンペーン)を行っている国土
交通省観光庁や日本政府観光局のホームページから確実な訪日外国人客の国籍
5
等を調べる。
また、書籍からは最近の訪日外国人の兆候や、今後の予想を立てる上での情報
を参考にして分析にあてる。最新の航空産業のニュースからは現在の動向を知
り、今後の展望を探りたいと思う。
6
第二章 調査・研究内容
2.1 訪日外国人旅行客招致にむけた日本政府の取り組み
経済波及効果の大きい観光は、急速に成長するアジアを始めとする世界の観
光需要を取り組む事により、地域経済の活性化、雇用機会の増大等の効果を発
揮出来る。2003年に小泉純一郎総理(当時)が日本を観光立国にするべく
『観光立国懇談会』を開催し、その年の4月にビジット・ジャパン・キャンペ
ーン(訪日旅行推進事業)が開始した。
2.2 ビジット・ジャパン・キャンペーン
ビジット・ジャパン・キャンペーンの具体的な施策として、以下のような事
が行われた。
1 訪日ビザの大幅な要件の緩和
中国、タイ、マレーシア等近隣アジア諸国の訪日ビザ要件を大幅に緩和し訪日
意欲をかき立てた。さらに、ビザ要件緩和国では集中的な PR 活動が行われた。
最近のビザ要件緩和国は写真 2.1 の通りである。
7
写真 2.1
JNTO 調べ
2 免税店で買い物をする際、消費税の免税対象を拡大する
免税店の拡大とともに、免税対象を増やし、訪日外国人旅行客の増大に加えて
より多くの外貨を日本の市場へと運び込んだ。
8
JNTO 調べ
3 在外公館等連携事業
各国の在外公館(大使館等)と連携し、世界各国の展示会や旅行フェアに参加
し海外広報や日本紹介事業により、日本の事を知ってもらい訪日意欲につなげ
る。
写真 2.2 JNTO 海外展示会での日本ブースの様子
国土交通省観光庁ホームページより
4 官民連携しての訪日 PR
海外進出日系企業やグローバル企業が有する海外ネットワークやブランド力、
キャラクター、ノウハウを活用し、または連携し行うプロモーション事業。政
府としては、企業のノウハウを使い PR するのでより効果の高い PR が出来る。
企業としても、海外での知名度の上昇につながるのでお互いにメリットがある。
具体的事例:海外 WATAMI 店舗と連携しての訪日 PR(写真 2.3)
9
写真 2.3
国土交通省観光庁ホームページより
5 地方連携しての訪日 PR
国と地方(自治体及び観光関係団体)が広域に連携して取り組む訪日プロモー
ション事業。訪問地の多様化や滞在期間の長期化を図る。
具体的事例:九州オルレ(トレッキング+温泉・宿泊)
写真 2.4
九州オルレホームページより
10
円安等の経済的な背景だけではなく政府の訪日ビザ要件の大幅な緩和のような
政策に加え、このような日本の政府が中心に行われたプロモーション活動によ
り、政府が掲げている2020年までの訪日外国人旅行者数の目標である20
00万人の達成もほぼ確実視されている。
(2015年の訪日外国人旅行者数は
1973万人)
2.3 国籍別訪日外国人旅行者
表 2.1
順
国
人数
前年比
1
中国
499 万 3800
+52%
2
韓国
400 万 2100
+32%
3
台湾
367 万 7100
+24%
4
香港
152 万 4300
+40%
5
アメリカ合衆国
103 万 3200
+14%
6
タイ
79 万 6700
+18%
7
オーストラリア
37 万 6200
+20%
8
シンガポール
30 万 8800
+27%
9
マレーシア
30 万 5500
+19%
10
イギリス
25 万 8500
+15%
その他
省略
合計
1973 万 7400
+32%
(JNTO 速報値)
表 2.1 の国籍別訪日外国人旅行者で記した TOP10 のみならず、2015年は
ほぼ全ての国が過去最大の訪日外国人旅客数を記録した。上位5カ国はこの1
0年変わらないが、2014年にはこれまで不動の首位であった韓国をはじめ
て追い抜き、2015年はこれまで急激に伸びを見せていた中国が初の一位に
躍り出た。中国人観光客増加の一番の要因は、消費税の免税対象の拡大と円安
等、買い物に関するものが大きいと考える。もちろん、訪日ビザ要件の大幅な
緩和により、日本を気軽に訪れる事が出来たというのも大きな要因であるが、
11
中国人旅行客と言えば今年流行語にもなった『爆買い』である。中国では現在
年率 15%もの勢いで富裕層が増え続けている。それに比例し消費も増え、円安
で『割安感』のある日本でたくさん買い物をし、ついでに観光をするといった
中国人観光客が増えるのは自然の流れとも言える。
では、その増え続ける中国人観光客はどのようにして日本を訪れているのか。
陸路で国々がつながる欧州やアジア諸国と違い、島国である日本が訪日客を増
やすにはクルーズ船等を除き、航空便の増便や、新規路線の就航により座席数
を増やすしかない。つまり、訪日客の伸び率が高い中国ではその分航空便の座
席が増えたという事に成る。
2.4 近隣諸国の航空産業の反応
訪日客の大幅な伸び率を見せている中国では中国ナンバーワン LCC の春秋航
空の大幅な訪日路線の拡充と天津航空の新規就航等、増え続ける訪日需要を取
り込むべく動きが進んでいる。春秋航空は2013年までの上海から茨城、高
松、佐賀の 3 路線に加え、中部、羽田、関空、新千歳の4路線等を新規就航さ
せた。さらには日本に春秋航空日本(スプリングジャパン)を就航させている。
これは中国人客の乗り継ぎ需要を活かし B737 という比較的小さな飛行機で地
方の空港から都心や地方の大型都市へと運ぶという新たな動きである。春秋航
空が日本に輸送した年間旅客数が2013年の2万人から、2014年には6
万人、2015年には30万人に達していて、今後もさらに増え続ける可能性
は高い。また、春秋航空日本は国際線キャリアの資格を取得し2016年は親
会社春秋航空とともに更なる日中路線の開拓に着手する可能性も大いにある。
一方、2014年に台湾に追い抜かれるまで不動のトップに君臨していた韓国
でも14年から15年にかけて約32%もの訪日客の伸びが見られ、こちらも
過去最高の数字を更新した。韓国航空産業の動きとしても、主にエアプサン、
ティーウェイ航空などの LCC の路線拡充が目立つ。訪日外国人旅行客の増加に
は今まであったレガシーキャリアの動きよりも LCC の新たな動きの影響が大き
い。
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2.5 日本の航空産業の反応
図 2.2 訪日・中国・韓国人推移
訪日中国・韓国人推移 6000000
5000000
4000000
3000000
2000000
1000000
0
2012
2013
中国人 2014
2015
韓国人 JNTO 調べ
本来、航空路線の拡充は日本と海外の双方向の人の流れが基調と成るべきで
あるが、図 2.2 をご覧頂きたい、日本から中国・韓国方面への渡航者は一方的に
減少しているのが現状である。原因としては政治的な緊張感の高まりだ。近年、
中国や韓国との間には領土問題や歴史認識の問題等がある。中国や韓国では
大々的なデモが行われ日本を牽制する運動等が行われているが訪日客は伸び続
けている。一方日本人は日本国外では『サイレントクレーマー』と呼ばれ、大
きな運動等は起こさないが、日本人消費者は政治面や中国の環境問題等に対し、
何も言わずに牽制し、離れて行ったと考えられる。これにより、日本のエアラ
インは思い切った路線の拡充に踏み切る事が出来ず訪日外国人旅行客増加の恩
13
恵を十分に受ける事が
出来ていないのが現状である。結果として拡大するアジアの訪日旅行市場は海
外のエアラインのレジャー路線拡充に大部分を持って行かれている。そのため
日本のエアラインは従来から利用してくれていたビジネス路線に注力せざるを
えない状況である。今後、訪日客が増えるであろう ASEAN 諸国の新興国に関
しても現地の物価が日本よりも低いため、人件費等の運航コストを下げ、運賃
を安くする事が出来るため、レジャー客はそちらに流れてしまう可能性が高い
のである。
図 2.3 訪中・訪韓日本人のグラフ(2011~2014)
4000000
3500000
3000000
2500000
2000000
1500000
1000000
500000
0
2011
2012
韓国 2013
2014
中国 日本旅行業協会
日本のブランド力を活かす
そういった厳しい状況の中、日系エアラインが生き残りをかけ競争の優位を保
つためには従来の方法として MADE IN JAPAN のブランド力を全面的に展開
し、そのクオリティの高さを売りにして行く方法があります。ビジネス路線に
力を入れる場合は安さよりも、定時到着やきめ細かいサービスなど質の高い運
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航をしていれば、お客様のリピートにつながり安定して旅客を保つ事が出来る
と考える。レジャー路線とは異なり個人のお財布からでは無く、会社の費用を
使っているため少し割高なチケットでも売れる可能性が高いのである。
海外航空会社の買収
一方、レジャー路線はそれと真逆で極端ではあるが、チケットが安ければ安い
程売れるこういった市場に日本のレガシーキャリアが食い込むのは難しいであ
ろうと考える。しかし、新たな方法として現地に新たな航空会社を設立するか、
もしくは既存の航空会社を買収する事も考えられます。
2.6 航空会社による海外航空会社の買収
日本の航空会社がもし、海外の航空会社を買収した場合どのようなメリット
があるのか。現地に会社を構える事が出来れば、人件費を削減しながら新興国
のエアラインの課題である、安全面やサービス等が得意分野の日本のエアライ
ンのノウハウを得る事が出来る。これにより、安い運賃で質の高い運航が可能
になります。さらには、現地の航空会社を買収した場合、その現地会社が持っ
ているその国でのシェアを丸ごと付いてくるので競合相手が減ると言ったメリ
ットもある。一方、海外航空会社買収のデメリットはどうであろうか。買収す
るという事は一括りで同じグループになるため売り手企業との融合が必要にな
る。今まで培ってきた社風や従業員の待遇等を上手く融合出来なければ社内の
雰囲気の悪化やストライキ等に繋がりかねない。また、民族が異なれば、他に
も様々な問題が出てくる事は容易に想像出来ます。もし、買収した航空会社で
事故や問題を起こされた場合、親会社の経営にも直接関わってくる可能性があ
るのでかなりの覚悟を持つ必要があると言える。
現在、海外の航空会社で他の航空会社の買収を行っている企業ではどうか。2
005年にスイスインターナショナルエアラインズを買収し、2009年には
オーストリア航空の買収を行ったドイツのルフトハンザ航空や、2014年に
アリタリア航空はじめ、エアベルリン、更にはインドの航空会社等数多くの航
空会社を買収または出資しているアラブ首長国連邦のエティハド航空など、メ
ガキャリアと呼ばれる超巨大航空会社による国外航空会社の買収は珍しい事で
15
はない。また、LCC の祖国と言ってもいいイギリスでは LCC による他の LCC
の買収が進んでいる。イギリスの大手 LCC のイージージェットはブリティッシ
ュエアウェイズがイージージェットに対抗するために、1998年に格安航空
会社の『GO FLY』を設立するものの、2002年にはそのライバルであるイー
ジージェットに買収されている。2008年には同じくブリティッシュエアウ
ェイズ傘下である『GB Airways』もイージージェットに買収されている。これ
は、実質的には LCC がレガシーキャリアの事業の一部を買収しているとも見て
取れる。今後、日本やアジアの航空業界でも LCC が他の大手航空会社系 LCC
を買収する動きが見られる可能性は大いにあると言えるのである。
紹介したいずれの航空会社の買収のケースは、経営危機に陥った場合や規模の
小さい航空会社がメガキャリアに飲み込まれるなどで、今回私が、提言した日
本の航空会社による海外航空会社の買収の理由とは違うものの、航空会社によ
る他国の航空会社の買収は決して珍しい事ではない事がわかった。
私はこの訪日需要の高まりに乗じて日本の大手航空会社が『アジアのメガキャ
リア』に成りうるチャンスがあると考えた。乗り越えるべき壁は高く、リスク
が高いものの、今後は訪日客の増加だけではなく、アジア全体で航空需要が伸
びる事は確実視されている。日本の高い信頼感を上手くアピールする事が出来
れば、日系の航空会社がアジアの覇権を握る可能性も少なくないと考えられる
のである。
2.7 航空産業の最近の動きについて
2016 年1月 ANA HD は国営ベトナム航空に出資し提携する事を発表した。
アジアの航空旅客需要の増加を見込んでの投資であると見られる。ベトナム航
空は日本—ベトナム間の国際線の約50%のシェアを誇るベトナム最大の航空
会社である。しかも、このシェアは日本航空との共同運行によるものが多いが、
もちろん今回の出資により日本航空との共同運行は解消される。ANA HD は同
路線でのシェアを丸々拡大出来る事になりこちらもかなりのメリットである。
更に、ベトナム航空にとっても課題であるサービス面などが世界最高基準であ
る日本の航空会社と業務提携出来る事は大きなメリットであり双方メリットの
ある投資であったと言える。
16
それに対して、日本のもう一つの大手航空会社である日本航空は2010年に
破綻してから現在まで経営再建中であるために新規の大型投資は事実上禁止さ
れている。しかし、2016年度以降今回の ANA HD のように、国外のエアラ
インとの提携や、出資がある可能性は高いと考える。
17
三章 考察
今日(2016年 2 月現在)のこの訪日外国人旅行客の急増はグローバル化
が進んでいる世界の流れの一つであると私は考える。オープンスカイ協定やビ
ザ要件の大幅な緩和により、より簡単で気軽に世界に出て行ける環境を作り上
げた。そのような中で日本政府が行ったビジット・ジャパン・キャンペーンに
より近隣諸国を中心に訪日需要が高まり、それに加え円安という経済的な背景
もあり、今回の訪日外国人旅行客の急増に繋がったのである。更に、2016
年2月現在、欧州や中東、南米等は政治的に不安が高まっている現状もありそ
ちらに行く予定の旅行者が流れてきた可能性も高い。治安が良く夜出歩いてい
ても凶悪犯などに巻き込まれる可能性が低い、買い物も円安で割安感がある、
更には島国で他のアジア諸国とも違った文化を体験したいと思う事は容易に想
像出来る。まさに、今の日本人気は合理的であると言える。
3.1 訪日客の増加と航空産業の現状
この増え続ける訪日外国人旅行客を取り込んだのは、他国の LCC である。そ
の背景としては訪韓・訪中日本人の低迷があるのだが、それだけでなく、国際
線を運航している日本の航空会社はほとんどレガシーキャリアであるからだ。
訪日客のほとんどがレジャー客であるために他国の LCC に対抗出来ていないか
らである。
3.2 国内航空会社の今後について
今後、日本の LCC が国際線の増便を行えば海外からのレジャー客の選択肢に
入り込む事は十分可能であると考える。日本の大手航空会社がこの、訪日需要
を取り込む方法を二つ上げた。
18
1 従来の方法で MADE IN JAPAN を全面的に押し出してクオリティの高さ
をアピールする。
2 新たな方法として現地に新たな航空会社を設立するか、もしくは既にある
航空会社を買収する。
1の方法では、主にビジネス客の増加に繋がると考える。ビジネス客は運賃の
安さはもちろん重要ではあるがそれよりも定時運行率等の運航の質の高さが最
も重要であるからだ。ビジネス客は自腹で出張しているのではなく、会社の経
費で移動するため、レジャー客よりも運賃に対しては柔軟に対応出来るからだ。
一方レジャー客は、運賃の安さが最重要であるため日本の大手航空会社を選ん
でくれるレジャー客が多く見込めないのは言うまでもない。
一方2の方法ではもし、新興国の航空会社等を買収する事が出来れば人件費が
下がるため安いチケットを提供する事が可能になる。日本の質の高いサービス
や定時出発率の高さ等を、上手く伝える事が出来れば質の高い運航を安い運賃
で提供出来る。もちろん、リスクも大きいがまだ発達しきっていないアジアの
航空産業において、日本の大手航空会社がアジアのメガキャリアに成りうる可
能性を高く秘めていると考える。
3.3 訪日外国人は今後も増え続けるのか
では、このまま訪日外国人旅行客は増え続けるのであろうか。私はこのまま
増え続ける保証はどこにも無いと考える。2020年のオリンピックまでは、
増え続けるかもしれないが、その後どうなるかは今のままのやり方では確実性
に乏しい。まず、この2、3年高い伸び率を見せた ASEAN 諸国の訪日ビザの
要件緩和の効果はすでに一巡し、伸び率は鈍化する可能性がある。
19
表 3.1
2015年国籍別訪日客 TOP5 の国民総人口と訪日客の比率
訪日客
総人口
人口比率
一位 中国
499 万 3800 人
13 億 6000 万人
0.36%
二位 韓国
400 万 2100 人
5143 万人
7.7%
三位 台湾
367 万 7100 人
2346 万人
15.6%
四位 香港
152 万 4300 人
718 万人
21.2%
五位 米国
76 万 6700 人
3 億 6000 万人
0.2%
JNTO 調べ
表 3.1 をご覧頂きたい。2015年三位になった台湾と四位になった香港の数値
に注目すると、台湾は国民の 15.6%、香港は国民の 21.2%もの人々が日本を訪
れている。1 割を超えただけでも驚異的な数値と言えるが、ここまで高い数値は
言うまでもなく過去最高ではあるが伸びしろはもう大きくないと考えられるの
である。
そうなると、頼りは巨大なポテンシャルを感じる中国市場となる。2015年
訪日客の数ではじめて頂点となった中国であるが500万人近い大人数が日本
を訪れたのにも関わらず総人口との割合で言えば 0.36%でしかない。日中関係
が最悪と言われる中、中国からの訪日客が増えているのに戸惑いを感じる人々
も多いかもしれない。この点は中国の消費者の立場から言えば中国のメディア
がどんなに騒ごうと、個人レベルでは「日本にいってみたい」というニーズは、
とりわけ消費者が増えている上海を中心に確実に存在する。一方、日中間の航
空路線の拡充は上海に集中しており、中国の全国的な動きとはまだ言えない面
もある。また、一部報道では「もし、日中関係がもっと良好であれば今の二倍
は日本に行っていてもおかしくない」という声もある。2014年に韓国へ約
600万人もの中国人旅行客が訪れたと聞くと、政治的に蜜月関係にあると言
われる中韓両国の政治がいかに旅行市場に与える影響が大きいのかを物語って
いる。今後の訪日外国人観光客が増えるか減るのかは政治的な一面もかなり影
響してくる。こういった要因があればある程、今後訪日客が増え続けるのか予
想するのは難しいが、航空産業としても日中・日韓関係というのに注目してい
く必要がある事がわかった。
20
四章 結論
本研究では、2016年2月現在の訪日外国人の急増は経済的な背景だけで
なく2003年からの政府の取り組みであるビジット・ジャパン・キャンペー
ンの具体的な中身や、訪日外国人を国籍別に分け分析する事により、なぜ増え
ているのかについて理解する事が出来た。また、国籍別に伸び率を記した事に
より、より大きい伸び率を記録した中国についてエアラインの動き等を追いそ
れにより、日本のエアラインの現状が見えてきた。
4.1 日本のエアラインの苦戦
日系エアラインの苦戦の背景には訪中・訪韓日本人旅行客の減少がある事が
わかった。また、日本人旅行客の減少は政治面・環境面での不安が大きい事等
が上げられた。また、それに対して、日本の大手エアラインがどのようにして
この訪日需要を取り込めるのかという事で、従来通りに MADE IN JAPAN の
ブランド力を活かし富裕層やビジネス客を呼び込む方法や、新たな方法として
現地に新たな航空会社を設立するか、既にある航空会社を買収するかを提言し
た。新たな方法として提言した航空会社の買収について世界の事例を並べる事
により、世界の航空業界ではあまり珍しい事ではない事もわかった。また、航
空会社買収のメリットやデメリット、リスク等についても分析する事により今
後の注目点が明確になった。
4.2 航空会社の買収について
そして、最新の航空業界の動きとして ANA HD のベトナム航空への出資を取
り上げ、私が提言している海外航空会社の買収の動きとして近いものを取り上
げる事が出来た。今回のこの ANA HD の動きはまさに私が提言した海外航空会
社の買収のメリットを享受する事が出来ると考えている。日本のもう一つの大
21
手エアラインである日本航空に関しても、2016年度末に、経営再建中とい
う足かせが取れ、自由に新規で大型な投資をする事が可能となるため、ANA HD
のベトナム航空出資に近い動きや、あるいは資金潤沢である日本航空は一気に
海外航空会社買収の動きを見せるかもしれない。
4.3 今後の訪日需要について
今後の訪日外国人伸びとしては、国籍別訪日外国人の TOP5 を出し、国民の
総人口とのパーセンテージを表に出す事によりどの国からのどの程度の訪日客
を期待出来るか等を予想する事が出来た。その中で、やはり桁違いの市場を持
っている中国に期待出来る事と、やはり政治面での関係が旅行客の増減が大き
く関わる事が判明した。今後、訪日客が増えるかどうかは、日中関係をはじめ、
政治面での日本政府の世界での立ち振る舞いが重要であると言える。
4.4 本研究の課題
本研究の課題としては、やはり日本の大手航空会社である日本航空の動きを
最後まで見る事が出来ず単なる予想にすぎない事である。2016年度後の日
本航空の動きに注目したい。更に、訪日外国人旅行客は伸び続けるのかについ
て、今後伸びるであろう東南アジア諸国については現状ではまだまだ、訪日客
の伸び率が少ないために具体的な予想が出来ず、ほとんど中国、韓国のみにつ
いての予想になってしまった事である。今後、東南アジア方面の訪日客が増え
る事によりそれぞれの国で伸び率の違い等が見られ、分析に十分な情報が集ま
ると考える。
22
謝辞
本研究を行うに当たり、ご指導いただいた中川教授に感謝致します。また、
日頃、有益な議論をして頂いた研究室の皆様に感謝致します。
23
参考文献
(1 国土交通省 観光庁 http://www.mlit.go.jp/kankocho/
(2 日本政府観光局(JNTO)
http://www.jnto.go.jp/jpn/news/data_info_listing/index.html
(3 ジャーナリスト中村正人監修、トラベル・航空、産学社、2014
(4 東京オリンピックで躍進する航空・鉄道
http://www.nri.com/~/media/PDF/jp/opinion/teiki/chitekishisan/cs
201404/cs20140404.pdf
(5 国土交通省 観光白書
http://www.mlit.go.jp/statistics/file000008.html (6 入国管理局
http://www.immi-moj.go.jp/toukei/index.html (7 訪日旅行推進事業
http://www.mlit.go.jp/kankocho/shisaku/kokusai/vjc.html (8 一般社団法人 日本旅行業協会 https://www.jata-net.or.jp/data/stats/2015/index.html
24
Fly UP