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概要
この十数年間において,家計の貯蓄・遺産行動に関し,理論分析と実証分析の双方において著
しい進展がみられた.理論面では,たとえば,オイラー方程式を用いた異時点間の配分の分析,
流動性制約の分析,不確実性の分析,非加法的な効用関数を用いた分析などがあげられる.また
実証面では,ミクロ・データを用いた精密な分析,各種のシミュレーション分析などがあげられ
る.
ところで,どの分野の実証分析であれ,分析結果に影響するのは当然のことながら理論モデル
と使用されるデータである.したがって,実証分析から得られた結果は,モデルから得られる理
論的インプリケーションと整合的に吟味され解釈される必要がある.
この研究では,こうした観点から,家計の貯蓄・遺産行動について,できるだけ新しい理論と
実証結果を取り入れながら,かつ理論分析と実証分析をできるだけ結びつけながら検討すること
を目的としている.ただし,この研究では,政策課題の分析および政策提言を目的としていない
ので,日本の家計と諸外国の家計との間に存在する貯蓄・遺産行動の慣習形成や特性の違いを意
識はするが,むしろ底流にある各国に共通したメカニズムに注意を向ける.
第1章では,家計の貯蓄行動について検討する.まず,1990年代後半において,家計貯蓄率が
低下するとの予想に反して,実際には横這いで推移してきたがその原因がどこにあるのかを検討
する.結果は以下のようである.①標準的なライフサイクル・モデルが予想するように,平均的
な家計は退職後のために貯蓄するという理論的想定が実証分析からも確かめられる.②しかし,
最近では稼得所得の不確実性などの理由によって,予備的動機による貯蓄が増加している.ちな
みにZhou(2003)によれば,1996年において,日本総貯蓄に占める予備的貯蓄の割合が勤労者で
64.3%,自営業者で64.3%である.同様に,米国において,Carroll and Samwick(1998)によれば,
50歳代の家計において予備的貯蓄が正味資産の45%を占めている.③駒村・他(2000)によれば,
59歳以下の現役世代では減収,介護,死亡の各リスクが貯蓄率を高め,60歳以上の高齢世代では
医療と死亡の各リスクが貯蓄率を高める.高齢世代において介護リスクではなく医療リスクが有
意に作用している要因として,介護費用より長期入院などの医療費のほうが高くつくとの判断が
ある.④双方の効果が相殺し合い,1990年代後半の家計貯蓄率は結果として横這いで推移してき
た.
次に,家計貯蓄を説明できる有力なモデルは何かという問題である.結果は以下のようになる.
①標準的ライフサイクル・モデルは有力なものの,全ての所得層,年齢層の貯蓄行動を普遍的に
説明できる訳ではなく,ケース・バイ・ケースで特定のモデルを用いる必要がある.例えば,稼
得,医療費,生存期間の不確実性を含むモデルによる分析が必要になる.②退職前に十分な資産
を蓄積しない家計が多数存在するという事実は,ライフサイクル・モデルの一つのパズルである.
1
第2章では,家計の遺産行動について検討する.家計の資産蓄積において遺産はどの程度を占
めているのか,遺産はどのように分配されるのか,親が遺産を分配する基準は何か,といった問
題である.まず,家計の資産蓄積において遺産はどの程度を占めているかという点については,
①日本においては,ホリオカ・他(2002)によれば,正味資産の40%以上が遺産から蓄積され,②
米国では,Gale and Scholz(1994)によれば,正味資産の50%以上が遺産から蓄積されている.
次に,遺産はどのように分配されるかという問題である.これについては以下のようにいえる.
①日本においては,大半の家計が「均等」ないし「面倒を見てくれた子」に遺産を残したいとい
う意識をもっている.ごく大雑把にいえば,勤労者家計では「均等」ないし「面倒を見てくれた
子」に分配し,事業を行っている家計では事業を継ぐか事業の手伝う子に遺産を分配,長男・長
女が家を継ぐ慣習がある家族では長男・長女に遺産を分配すると推測できる.②諸外国,特に米
国では,贈与は不均等に分配され,遺産は均等に分配される傾向にあるとの結果を得た実証分析
が多い.
親が遺産を分配する基準は何かという問題については,理論モデルを用いて家計の遺産動機を
分析した後で実証分析を検討した.理論モデルによる分析では,①利他的モデル,交換モデルを
中心に利己的モデルを含めて分析し,モデルから得られる家計の遺産行動に関する理論的予想の
違いを明示するとともに,実証分析において用いられる推定式と理論モデルの予想との関係を明
確に示した.その結果,②「面倒を見てくれた子」に残すのは交換モデルで,「事業を継ぐ子」
や「長男・長女」に残すのは王朝モデルで,「均等分配」するのは利己的モデルでそれぞれ説明
できる,③日本においては,大半の家計が「均等」ないし「面倒を見てくれた子」に残したいと
の意識をもっていることから,利己的モデルと王朝モデルの適合性が高く,③諸外国では,贈与
の不均等分配と遺産の均等分配という傾向があり,利己的モデルと利他的モデルの適合性が高い,
ということが明らかになった.
第3章では,世代間移動の問題を検討する.富裕層の貯蓄率はなぜ高いのか,年齢層,所得層
別の資産格差はどのようになっているのか,裕福な親の子はどの程度裕福なのか,親子の裕福さ
はどのようなメカニズムで結びついているのか,といった問題である.
まず,富裕層の貯蓄率はなぜ高いのかという問題である. Carroll(2000)によれば,富裕層の貯
蓄行動は,消費の限界効用よりも資産増加の限界効用が大きく資産の増加それ自体に大きな満足
を得る「資本家精神モデル」(capitarist spirit model)によって説明できるといえる.また,
Charles and Hurst(2003)によれば,子が親の行動を見習う点や似通った選好をもつことも想定さ
れる.いずれにしても,富裕層の貯蓄・遺産行動については,今後さらに詳しい分析が必要とい
える.
次に,年齢階層,所得階層別の資産格差はどのようになっているのかという問題である.日本
においては以下のようにいえる.①年齢階層別の貯蓄現在高では,40歳代から60歳代が相対的に
貧しくなってきている.②,年齢階層別の貯蓄総額の変動係数の変化をみると,どの年齢階層に
おいても変動係数が上昇してきており,資産格差が増加している.③家計年収別にみると,年収
2
が500万円未満の所得層では資産格差に縮小傾向がある一方,年収が1,500万円以上の所得層との
間で資産格差が拡大傾向を見せている.④年収が1,000-1,500万円の所得層を除くと,どの所得階
層でも保有資産のばらつきが大きくなって来ている.また,米国では以下のようにいえる.④家
計間で資産格差が拡大している.⑤人種間,年齢階層間で資産格差が拡大している.⑥1980年代
に資産の集中度が増大し1990年代には減速したが,これは所得格差と資産格差の変化によって生
じた.⑦家計における遺産の伸びは財産の増加以上である.
最後に,裕福な親の子はどの程度裕福なのか,親子の裕福さはどのようなメカニズムで結びつ
いているのかという問題である.①Charles and Hurst(2003)によれば,年齢を調整した世代間の
資産弾力性は0.37であり,親の資産が平均から50%上位にあると,子の資産は平均から18%上位
にある.②また,子が親の貯蓄・投資行動をまねるとか似たような選好を持つことなどが考えら
れる.
第4章では,家計の貯蓄・遺産行動および世代間移動の分析を通して得た結果から,郵便貯金
が果たすべき役割について論じる.
まず,若年期における貯蓄の重要性についてである.論点は,①米国において,退職前に十分
な資産を蓄積しない家計が多く存在するが,その原因が若年時に貯蓄しなかったことにあると指
摘されている.②日本においても同様で,老後生活に不安を抱いている家計が多い.ちなみに,
退職後の月々の生活費は30万円程度,退職前までに貯蓄すべき額は2,000万円程度といわれる.と
ころが,2003年の郵政研究所『家計における金融資産選択等に関する調査』のデータによれば,
50-59歳の年齢層の貯蓄現在高の平均値が1,484万円,中位値が800万円,また60-69歳では平均値
が1,777万円,中位値が1,100万円である.このように,退職前の50歳代では準備不足であり,退
職金などが含まれている60歳代でも十分とはいえない状態にある.③したがって,若年世代を中
心に貯蓄の重要性を認識させ,貯蓄意識を高めることが重要である.④こうした状況を踏まえ,
ライフサイクルを視野に入れて安定した家計が営めるよう,若年者や低中所得層の貯蓄形成を支
援していく役割が重要ある.
次に,安定・安心の金融商品の提供についてである.論点は以下のようである.①年金に不安
のある家計では金融資産保有額が多い,高齢者世帯では平均余命の伸びとともに介護費用への備
えが重要になっている.②最近,高齢者の貯蓄が外貨貯蓄に向かっているが.リスクを負担しつ
つ高収益を期待できる高齢者の家計は割合としてはそう高くないであろう.③こうした点で,郵
便貯金は,老後において安定した生活がおくれるように,できるだけ安全かつ収益性の高い商品
を引き続き提供していく必要がある.
最後に,資産格差の拡大との関連である.論点は以下のようにまとめられる.①同一世代内に
おいて,稼得と消費・貯蓄の選択の違いから資産蓄積に格差が生じる.資産は教育や生前贈与,
遺産を通して次の世代に移転され,次の世代における資産格差が生じる.②実証分析の結果から,
富裕者の貯蓄率が他の所得層よりも貯蓄率が高く,かつ遺産の生涯稼得弾力性も高いことから,
裕福な親の子は裕福であるとの結果が得られる.③こうしたメカニズムによって,低中所得層と
3
高所得層との資産格差が増大し,資産格差が次世代に波及する.④したがって,郵便貯金として
は,各家計が,必要な貯蓄額を,ライフサイクルのそれぞれの時点で確保できるように支援して
いく機能が求められる.
4
はじめに
この十数年間において,家計の貯蓄・遺産行動に関し,理論分析と実証分析の双方において著
しい進展がみられた.理論面では,たとえば,オイラー方程式を用いた異時点間の配分の分析,
流動性制約の分析,不確実性の分析,非加法的な効用関数を用いた分析などがあげられる.また
実証面では,ミクロ・データを用いた精密な分析,各種のシミュレーション分析などがあげられ
る.
ところで,どの分野の実証分析であれ,分析結果に影響するのは当然のことながら理論モデル
と使用されるデータである.したがって,実証分析から得られた結果は,モデルから得られる理
論的インプリケーションと整合的に吟味され解釈される必要がある.
この研究では,こうした観点から,家計の貯蓄・遺産行動について,できるだけ新しい理論と
実証結果を取り入れながら,かつ理論分析と実証分析をできるだけ結びつけながら検討すること
を目的としている.ただし,この研究では,政策課題の分析を目的としていないので,日本の家
計と諸外国の家計との間に存在する貯蓄・遺産行動の慣習形成や特性の違いを意識はするが,む
しろ底流にある共通したメカニズムに注意を向ける.
第1章では,家計の貯蓄行動について検討する.家計はなぜ貯蓄するのか.1990年代後半にお
いて,家計貯蓄率が低下するとの予想に反して,実際には横這いで推移してきたがその原因がど
こにあるのか.家計貯蓄を説明できる有力なモデルは何か.
第2章では,家計の遺産行動について検討する.家計の資産蓄積において遺産はどの程度を占
めているのか.遺産はどのように分配されるのか.親が遺産を分配する基準は何か.
第3章では,世代間移動の問題を検討する.富裕層の貯蓄率はなぜ高いのか.年齢階層,所得
階層別の資産格差はどのようになっているのか.裕福な親の子はどの程度裕福なのか.親子の裕
福さはどのようなメカニズムで結びついているのか.
第4章では,家計の貯蓄・遺産行動および世代間移動の分析を通して,郵便貯金が果たすべき
役割について論じる.
第1章
家計の貯蓄行動
1.貯蓄率の推移
OECD諸国の家計貯蓄率の推移は表1で示されている.林(1992)は1990年までの結果から,マク
ロの側面では,日本の高貯蓄率は1970年代後半から80年代の高度成長期に限られ,84年から90年
までの上昇トレンドは財政バランスの改善の影響によるとし,今後は,人口構成の高齢化によっ
て国民貯蓄率は徐々に低下していくと予想している.1 確かに,マクロ的には国民貯蓄率は低下傾
5
向を示すと予想され,国民所得統計ベースでみた家計貯蓄率も1975年から90年にかけて低下して
きたことが確認される.
しかし,国民所得統計ベースでみた家計貯蓄率は90年以降もそれほどの低下傾向は示さず,『家
計調査報告』や『貯蓄動向調査』によって年収別や年齢別でみると家計貯蓄率は上昇傾向を示し
ていることが読み取れる.2
この点に関して,下野・大月(1997)は1973年から94年までの家計部門の貯蓄率と資産・可処分
所得比のデータを使い,自己回帰モデルで貯蓄率の推定を行っている.その結果から,資産価格
に大幅な変化が起きなければ,1990年代後半において家計貯蓄率は低下傾向を見せるとしても大
きな低下は起こらないと結論している.また,人口構成の高齢化が貯蓄率の低下をもたらすとい
表1
家計貯蓄率
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
8.1
6.4
6.8
7.2
7.8
8.7
9.7
10.4
9.8
11.2
10.0
11.3
10.8
10.4
11.0
11.5
12.0
ドイツ
12.7
12.9
13.4
12.6
13.7
13.1
13.0
12.3
11.6
11.2
10.8
10.4
10.3
9.8
9.8
10.3
10.6
日本
16.5
14.0
13.2
13.3
14.0
14.6
13.9
13.5
12.3
11.9
9.8
9.8
11.2
11.1
9.8
6.9
5.9
韓国
20.0
23.1
25.1
23.6
22.0
24.0
22.8
20.6
19.4
16.8
15.9
15.4
23.0
16.0
11.5
7.7
7.6
8.2
7.3
7.8
7.5
7.8
8.3
8.7
7.1
6.1
5.6
4.8
4.2
4.7
2.6
2.8
2.3
3.7
28.9
28.4
27.7
27.4
27.8
26.8
25.5
25.1
23.6
22.5
23.3
20.2
17.2
15.2
14.4
15.4
15.9
8.0
6.4
4.9
6.6
8.0
10.2
11.6
10.8
9.3
10.0
9.3
9.6
6.4
5.3
5.5
6.7
5.3
純貯蓄
フランス
アメリカ
粗貯蓄
イタリア
英国
(資料) OECD Economic Outlook No.74. Annex Table 24.2004.
う予測は,高齢者の貯蓄取り崩しが前提になっているが,中高齢者は貯蓄の取り崩しをしないこ
とも想定され,そうした場合は家計貯蓄率の変動は小さい可能性があると予想している.この予
想が現実の貯蓄率の推移と整合していることが上の表からも確認できる.
2.貯蓄動機
では,1990年代後半から現在にかけて,国民所得統計ベースでみた家計貯蓄率はそれほどの低
下傾向は示さず,家計調査でみると家計貯蓄率は上昇傾向を示している要因は何であり,どの程
度効いているのであろうか.
人々が貯蓄する動機は様々であるが,大まかに分類すれば,所得と支出が生じる時間的ずれを
調整し生涯消費を平準化するための「ライフサイクル目的」と,収入や支出の不確実性に備える
ための「予備的動機」,子に遺産を残すための「遺産動機」に分類される.3
6
ここでは,主要な動機である「ライフサイクル目的」と「予備的動機」についてみることにす
る.「遺産動機」は貯蓄動機としてウエイトが低いものの,遺産は世代間移転として,また世代
間移動の原因として重要であるので章を改めて論ずることにしたい.4
(1) ライフサイクル目的
家計が貯蓄する最も基本的な動機は「ライフサイクル目的」である.この動機に基づいた貯蓄
理論はModigliani and Brumberg(1954)によって提示され,貯蓄のライフサイクル・モデル
(Life-Cycle Model)と呼ばれる.5
一般的なライフサイクル・モデルは,個人が生涯の予算制約,
Ct
T
(1.1)
∑
t =1
∏υ
t
=1
(1 + rυ )υ −1
+
BT
∏υ
t
=1
wt Lt
T
(1 + rυ )υ −1
≤W +∑
t =1
∏υ
t
=1
(1 + rυ )υ −1
の下で,効用関数を,
(1.2)
U = U (C1 , C 2 ,L, CT , L1, , L2 ,L, LT , B)
とおいて,効用を最大化するモデルとして定式化される.ここで,Ctはt期の消費,BTは死亡時
点での遺産,Wは遺産として受け取った初期資産,wtはt期の賃金率,Ltはt期の労働供給, rt
はt期の利子率,Tは非確率的な生涯期間である.
ライフサイクルと貯蓄の関係を明確化して示すために,個人は初期資産を持たない,1期と2
期に労働所得を得る,3期は退職期で労働所得はない,第3期末に死亡し遺産も負債も残さない,
利子率は通時的に一定と想定しよう.これから貯蓄のライフサイクル・モデルは,個人が生涯の
予算制約,
(1.3)
C1 +
C3
C2
I
+
= I1 + 2
2
1 + r (1 + r )
1+ r
の下で,効用関数を,
(1.4)
U = U (C1 , C 2 , C 3 )
とおいて,生涯の効用が最大になるように消費計画を実行するというモデルで表される.ここで,
It,Ct,rはそれぞれ,t期の労働所得,t期の消費,利子率である.1期末の貯蓄S1,2期末
の貯蓄S2はそれぞれ,
(1.5)
S1 = I 1 − C1
(1.6)
S 2 = I1 +
I2
C2
− C1 −
(1 + r )
(1 + r )
で与えられる.個人に借り入れ制約がない場合は第1期末の貯蓄は負になりうるが,第2期末の
貯蓄は退職後の生活費を賄うため正でなければならない.このモデルと現実の個人の貯蓄行動と
を対比させると,S1は子供の教育や子供の結婚,住宅購入のための貯蓄や貯蓄の取り崩しと対応
し,S2は老後の生活のための貯蓄と対応しているといえる.6
7
日本においては,大竹・ホリオカ(1994),Horioka et al.(1996),ホリオカ・横田・他(1996),
Horioka(1997),Horioka and Watanabe(1997),Horioka and Okui(1999),Wakabayashi(2001)な
ど多くの実証分析があるが,基本的にライフサイクル・モデルの現実適合性が高いとの結果を得
ているものが多い.
Horioka(1997)は,人口の年齢構成が家計貯蓄率に与える影響を分析している.理論モデルは
Modigliani(1970)のライフサイクル貯蓄モデルであるが,家計貯蓄率の推定の便宜上,消費と貯
蓄は年齢とは独立,生産性の成長はない,遺産やそれ以外の世代間移転はない,利子率はゼロで
あると仮定しモデルを簡略化している.これらの仮定の下で家計貯蓄率SRは,
(1.7)
で与えられる.7
SR = ( D + R) / L − (W / L) * DEP − (W / L) * AGE
ここで,Dは労働開始年齢,Wは労働年数,Rは退職年数,Lは死亡時の年齢,
DEPは未成年(19歳以下)人口の労働年齢(20-64歳)人口に対する比率,AGEは退職人口(65歳以上の
老年人口)の労働年齢人口に対する比率である.上式から,家計貯蓄率はDEPとAGEに関して減少関
数であることが理論的に予想される.そこで,1955年から93年にかけての時系列データを用いて
共和分分析を行い,
8
未成年者の労働年齢人口に対する比率も,老年人口の労働年齢人口に対す
る比率も,ともに家計貯蓄率と有意な負の関係があるとの結果を得ている.これから,遺産など
世代間移転の比重が大きくライフサイクル・モデルが当てはまりにくいと思われている日本にお
いてもライフサイクル・モデルの適合性が高いとしている.
Horioka and Okui(1999) は,1996 年の郵政研究所『貯蓄に関する日米比較調査』ミクロ・デ
ータを用いて,退職貯蓄の日米比較を行っている.それによれば,退職貯蓄に関しては米国の方
が日本より重要であること,両国において退職貯蓄が退職期間の期待生活費によって影響を受け
ること,退職のための目標資産は米国の方が遙かに高いという結果になっている.
Wakabayashi(2001)は,Horioka and Okui(1999)の推定を改善しつつ,1996 年の生命文化保険
センター『公的保障と自助努力に関する意識調査』のミクロ・データを用いて退職後の貯蓄の目
標資産仮説を検証している.推計結果から,日本の家計は将来の社会給付や退職金,恒常所得等
を考慮して退職貯蓄を決定しており,目標資産仮説とライフサイクル仮説が確認されるとしてい
る.
諸外国においても,Bernheim et al.(1985),Cox(1987),Hurd(1987,1989),Browning and
Lusardi(1996),ホリオカ・藤崎・他(1998),Thornton(2001)など多くの実証分析がある.
Hurd(1987)は,1969年から79年のLongitudinal Retirement History Surveyのミクロ・データ
を用いて,厳密なライフサイクル・モデルの方が遺産を含むモデルよりも現実のデータにフィッ
トするとの結果を得ている.同様に,Hurd(1989)は,Hurd(1987)と同一のデータを用いて,ほと
んどの遺産は,死亡時点が不確実であることによって生じるという意味で偶発的(accidental)で
あるとの結果を得ている.
8
ホリオカ・藤崎・他(1998)は,1996年の郵政研究所『貯蓄に関する日米比較調査』のミクロ・
データを用いて,日米両国においてライフサイクル・モデルが当てはまるが,適合性は日本の方
が米国よりも高いという結果を得ている.
Thornton(2001)はHorioka(1997)と同一のモデルと分析手法を用い,米国の1956年から95年まで
の時系列データで年齢構成と個人貯蓄率の関係を推計し,Horiokaの実証結果が米国にも当てはま
るのとの結果を得ている.
(2) 予備的動機
最近の家計貯蓄の研究では予備的動機が果たす役割が強調されている.9 日本において,
Horioka and Watanabe(1997)は,1994年の郵政研究所『家計における金融選択に関する調査』の
ミクロ・データを用いて,予備的動機に基づく貯蓄が貯蓄全体の55.99%(内訳は,病気目的29.93%,
安心目的26.06%)を占めているという結果を得ている.
駒村・他(2000)は,リスクと認識する要因の数が多いほど家計の予備的貯蓄動機が強まると予
想されることから,リスク認識と貯蓄率の関係を推定するための家計貯蓄率の推定式を,
(1.8)
s = α1Y + α 2 FW + α 3 R
と特定化している.ここで,sは貯蓄率,FWは金融資産残高,Rは主観的リスク要因である.ま
た,リスク要因は,医療,老後生活,所得減少,介護費用,死亡(遺族の生活費)にかかわるリ
スクが採用されている.彼らは,1997年の第一生命経済研究所『社会保障および指摘保障に関す
る意識調査』のミクロ・データを用いて,個別リスクと家計貯蓄率との関係およびリスクの数と
家計貯蓄率の関係を推定している.推定から,個別リスクに関して,59歳以下の現役世代では減
収,介護,死亡の各リスクが5%以下の有意水準で貯蓄率を高め,60歳以上の高齢世代では医療
と死亡の各リスクが5%の有意水準で,そして減収が10%の有意水準で,有意に貯蓄率を高める
という結果を得ている.高齢世代において介護リスクではなく医療リスクが有意に作用している
要因として,介護費用より長期入院などの医療費のほうが高くつくと判断していると解釈されて
いる.また,リスク数と貯蓄率との関係では,現役世代では5%の有意水準で,高齢世代では10%
の有意水準で,それぞれリスク数が有意に貯蓄率を高めるとの結果を得ている.
中川(1999)も,貯蓄率関数の推定を通して,若年者,中高年者,老齢者のリスクを分析し,リ
スクの高まりの認識からそれへの備えとして貯蓄率が高まっていることを確認している.貯蓄率
関数の推定式は,
(1.9)
si = β i 0 + β i1r + β i 2 yfi + β i3 riski
で与えられる,ここで,siは家計iの平均貯蓄率(季節調整済),rは実質金利,yfiは家計iの将
来所得環境,riskiは家計iの所得リスク,iは所得階層(低所得者,中所得者,高所得者)である.
1976年から98年のデータによる推計から,低所得者と中所得者ではriskの係数が正かつ有意水準
1%で有意,高所得者は金利,所得,リスクの係数はいずれも有意水準1%で有意でないとの結
果を得た.このことから,低所得層のリスクを年齢階層別に分析し,高齢者は要介護者になる不
9
安の増大,中高年の低所得者は雇用の不安,若年層は年金の不安を,それぞれ90年代に入ってリ
スクとして強く意識していることを明らかにしている.
Zhou(2003)は,1996年の郵政研究所『家計における金融選択に関する調査』のミクロ・データ
を用いて家計の消費関数を推定し,予備的動機による貯蓄の割合を推定している.消費関数の推
定式は,
(1.10)
C = a0 + a1Y p + a2 ASSET + a3 SSW + a4V (Y ) + u
で与えられる.ここで,Cは消費,Yp は恒常労働所得,ASSETは非人的資産,SSWは社会保障資産,
V(Y)は労働所得の分散,uは誤差項である.所得の分散が増大しリスクが増大すると家計は消
費を減少(予備的貯蓄を増大)させると予想されるから,V(Y)が予備的貯蓄の必要度を表すと
みなせる.彼は上の式を推定し,a4 の推定値を利用して総貯蓄に占める予備的貯蓄の割合を求め,
勤労者で5.56%,自営業で64.3%であるとの結果を得ている.
また,村田(2003)は,1995年の家計経済研究所『消費生活に関するパネル調査』のミクロ・デ
ータを用いて,30歳代を中心とした家計において年金不安に基づく予備的動機の貯蓄が保有金融
資産の1/4-1/3程度を占めるとの結果を得ている.
他方,アメリカでは,Carroll and Samwick(1998)が,Panel Study of Income Dynamicsのデー
タを用いて,所得の分散で測られる所得不確実性が目標資産に有意に影響するとの結果を基にシ
ミュレーション分析を行い,50歳以下の対象家計においては予備的貯蓄の割合が純金融資産の
50%,純総資産の45%を占めるという結果を得ている.
また,Hubbard et al. (1994)は,家計が退職後の消費のために貯蓄するというライフサイクル・
モデルの予想に反し,多くの家計が退職を前にしてわずかな資産しか蓄積していないという現実
があり,このパズルを解くためにモデルに不確実性を導入している.パズルの具体的内容は,低
生涯稼得層では完全市場ライフサイクル・モデルが予想する退職前資産と比較して保有資産が少
なすぎ,高生涯稼得層では退職前にかなりの資産を保有しているという意味で貯蓄行動がライフ
サイクル・モデルの予想と整合するという点である.モデルに付加した不確実性は,家計が直面
している保証されない特異なリスクの最も重要な源泉と考えられる,稼得,医療費,生存期間に
関する不確実性である.彼らは,これらの不確実性を含むライフサイクル・モデルを構築すると
ともに,1984年から89年にかけてのPanel Study of Income Dynamicsのデータを用いて実証分析
を行い,家計が貯蓄しない理由を検証している.それによれば,貯蓄しない理由には2つある.
1つは,社会保障給付を受けている低所得家計では給付を受けつつ貯蓄を増加させることは受給
資格を失うことに繋がるという点で,社会保障給付の資力テストが貯蓄を阻害していることであ
る.他の1つは,稼得と医療費がかなり固定的であり,
このために少ない消費と少ない貯蓄という状態が続き資産がなかなか蓄積されないことである.
Kageyama(2003)は,ライフサイクルにおける生存期間の伸長と家計貯蓄率との関係を分析して
いる.経済成長と生存期間の伸びを含む世代重複モデルを構築し,生存期間の伸びが総貯蓄を増
加(貯蓄率を上昇)させることを明らかにするとともに,1960年から89年の生命表に基づく平均
10
寿命の年平均伸びと1080年から89年の平均家計貯蓄率の国際的なデータを用いて理論的予想が実
証結果によって裏付けられることを示した.日本のケーススタディでは,家計平均貯蓄率は11.3%
であるが,生存期間の年平均伸長が0.35年以上あったものが平均値の0.2年まで低下すると家計貯
蓄率は3.63%まで低下し,さらにデンマークの生存期間の年平均伸長と同じ0.10年まで低下する
と家計貯蓄率は-0.80%とマイナスになるとの結果を得ている.この結果から,今後日本の平均寿
命の伸びが鈍ると家計貯蓄率が大きく低下する可能性があると指摘している.
第2章
家計の遺産行動
1.遺産の重要性
Modiglianiは基本的に,家計の貯蓄行動はライフサイクル・モデルで説明できる,貯蓄(資産
の蓄積)は退職後の消費をまかなうためである,遺産のための蓄積は重要ではない,とし遺産な
ど世代間の移転がそれほど重要な問題ではないと解釈した.
しかし,1970年代から世代間移転に関して関心が高まった.発端は,Barro(1974)が一定の条件
の下で公債の中立性が成立することを理論モデルによって論証したことと,Feldstein(1974)が実
証分析によって社会保障給付が貯蓄率を低下させることを見出したことである.Barroは,親の効
用関数が,
(2.1)
U i = U i (C iy , C io , U i*+1 )
と表されるものと想定した.ここで,iは世代であり,iは親,i+1は子,i+2は孫を示す.また,
C iy , C io , U i*+1 ,はそれぞれ,親(世代i)の若年期の消費,親(世代i)の老齢期の消費,子(世
代i+1)の効用である.このように想定すると,親は子の,子は孫の,孫は曾孫の,効用を配慮す
ることから,結果として親は末代までの子孫のことを配慮することになり,親の予算制約は末代
までの計画期間を含むことになる.こうした状況の下で公債によって公共投資を行うと,将来の
所得増加の効果と公債償還のための増税効果が相殺し合うことにより,所得増加効果はゼロとな
る.10
また,Feldsteinは消費関数を,
(2.2)
Ct = α + β1Yt + β 2 REt + γ 1Wt −1 + γ 2 SSWt
と特定化し,年金が消費を増加(貯蓄を増加)させるか否かを1229年から71年のデータによって
検定した.ここで,Cは消費,Yは恒常所得,Wは家計資産のストック,REは企業の内部留保,
SSWは社会保障資産,tは期間tの期末である.推計の結果,γ2の値が正であり社会保障が消費
を増加(貯蓄を減少)させることを見出した.彼らがそれまでとは逆の結果を示したことにより
70年代から世代間移転に関して関心が高まったといえる.11
さらに,1980年代に入って,Kotolikoff and Summers(1981)は,資産蓄積の80%が世代間移転
で形成され,ライフサイクル貯蓄が20%にすぎないことを実証分析によって得た.これに対し,
11
Ando and Kennickel(1987)は,アメリカ合衆国において自己蓄積資産の比率は1974年から80年に
おいて80%から85%の間に入ることを見出している.また,Modigliani(1988)は,Kotolikoff and
Summers(1981)への反論を展開し彼らが得た結論は,数学的な不注意と定義の仕方の違いによって
得られたのであり,それらを修正すると資産に占める遺産は20%程度過ぎないという結果になる
としている.Kotolikoff and Summers(1988)はModigliani(1988)に反論している.Blinder(1988)
は,Kotolikoff and Summers(1988)とModigliani(1988)とを詳細に比較検討している.2つの結
果の相違が移転の定義の仕方,特に教育支出の扱い方,過去の遺産による利子の蓄積,耐久財の
扱い方にから生じている部分があることを指摘している.しかし,これら2つの結果のどちらが
正しいとはいえないとしている.
Dekle(1989)は,1968年から1983年の『家計調査』および『貯蓄動向調査』のデータに基づいて
推定し,資産に占める遺産は3-27%であるという結果を得ている.
Hurd and Mundaca(1989)は,1984年の時点で推定しているが,その結果によれば子の財産に占
める世代間移転の割合は15.1-27.6%であり,最良の推定値は約20%であるとしている.また,ほ
とんどの家計について遺産の方が贈与より重要であるとの結果を得ている.
Barthold and Ito(1991)は,日本の1988年のデータでは,保有資産に占める遺産の割合は,23%
-49%の間との結果を得ている.アメリカ合衆国の1935-88年のデータでは,17%-38%の間との結
果を得ている.結論として,日本とアメリカでは資産保有額の25-40%が遺産によるもので日本の
方が高いとの結果を得ている.また,Kotlikoff and Summers(1981)の結果の約半分との結果にな
ったことについては,どちらが真実かは今後の研究にかかっているとしている.
下野(1991)は,日本の1981年のデータからの推定結果から,45才から59才までの雇用者の場合,
資産保有の71.3%が遺産からなっているとの結果を得ている.
Gale and Scholz(1994)は,1986年のデータを用いて,推定世代間移転を,意図された移転,大
学経費,遺産に分類し,これらの資産に占める割合を推定している.意図された移転は20.8%,
大学経費は12.0%,遺産は31.0%と推定されている.この結果,資産に占める世代間移転は52-64%
となり,大学の経費を世代間移転とみなすか否かで12.0%の違いが生ずるとしている.
Campbell(1997)は,1975年から1984年の『全国消費実態調査』および『家計調査』のデータに
基いて推定し,資産に占める遺産は0-28.67%であり30%を下回るとの結果を得ている.
ホリオカ他(2002)は,1996年の郵政研究所『家計における金融資産選択に関する調査』のミク
ロ・データを用いて,全世帯のケースでは,過去に受け取った遺産の正味資産に占める割合は
23.89%,過去に受け取った遺産と将来に受け取る予定の遺産を合計した遺産額については正味資
産に占める割合は40.49%であるとの結果を得ている.
以上の諸結果をまとめたのが表2である.
12
表2
資産に占める遺産の割合
データないし推定時点
世代間移転/資産 (%)
Campbell(1997)
1974-84
28.1 以下
Dekle(1989)
1968-83
3.0-27.0
Barthhold and Ito(1992)
1975-1988
27.8-41.4 以上
Tachibanaki and Takata(1994)
1990
44.5
下野(1991)
1981
71.3(45-59 歳の雇用者)
ホリオカ・他(2002)
1996
40.5 *
Ando and Kennickell(1987)
1960-80
15.0-41.2
Kotrikoff and Summers(1981)
1974
20.0-67.0 以上
Menchik and David(1983)
1946-64
18.50
Hued and Mundaca(1989)
1984
15.1-27.6
Barthold and Ito(1992)
1976-1988
25.0 以上
Gale and Scholz(1994)
1986
51.8-63.8 以上 *
日本
アメリカ
(注) *は正味資産に占める割合であることを示す.
2.遺産分配
遺産分配の問題は,第1に,親が遺産の渡し方を決める要因は何か,第2に,親は現実にどの
ように遺産を分配しているのか,第3に,遺産が不均等に分配される場合,遺産の差は子の間の
稼得力の差を補償するものか,あるいは差を拡大するものなのか,といった点にある.
(1) 日本
高橋(2003)は,2001年の郵政研究所『家計における金融資産選択に関する調査』(第7回)のデ
ータを用いて,相続未経験者と相続経験者(親が相対的に裕福と想定される)では遺産動機がど
のように異なるのかを分析している.それによれば,相続未経験者の場合の遺産分配の意識は,
均等分配が56.3%,面倒をみてくれた子25.7%,事業を継いだ子2.8%,所得の低い子1.0%,長
女・長男8.0%,その他6.4%となっている.他方,相続経験者全体の遺産分配の意識は,均等分
配が35.9%,面倒をみてくれた子36.5%,事業を次いだ子9.1%,所得の低い子1.5%,長女・長
男9.9%,その他7.4%となっている.なお,相続経験者の遺産の授受の方法については,均等に
受け均等に残すが64.9%で,以下面倒を見たので遺産を受け面倒をみた子に遺産を残す54.1%,
事業を継いだので遺産を受け事業を継ぐ子に遺産を残す41.4%,長女・長男であることで遺産を
受け長女・長男に遺産を残す40.0%などとなっている.
13
Horioka(2002),ホリオカ・山下・他(2002)も,1988年から2001年の郵政研究所『家計における
金融資産選択に関する調査』のデータを用いて日本人の遺産動機を分析し,高橋(2003)と同様の
結果を得ている.12
以上から,相続未経験者と相続経験者がともに,大半が「均等」ないし「面倒を見てくれた
子」に残したいとの意識をもっていること,また相続経験が遺産分配の意思決定に大きな影響を
持っていることが読み取れる.ごく大雑把にいえば,勤労者家計では「均等」ないし「面倒を見
てくれた子」に分配し,事業を行っている家計では事業を継ぐか事業を手伝う子に遺産を分配,
長男・長女が家を継ぐ慣習がある家族では長男・長女に遺産を分配すると想定される.いずれに
しても,「面倒を見てくれた子」に残すのは交換モデルで,「事業を継ぐ子」や「長男・長女」
に残すのは王朝モデルでそれぞれ説明可能であるが,13 「均等分配」を説明するモデルが別に必要
である.
(2) 諸外国
遺産については,ほとんどの実証研究では均等分配の結果が得られている.また,贈与につい
ては不均等分配の結果が得られる傾向にある.
Tomes(1988a)は,遺産が不均等に分配されるとの結果を得ている.彼が得た結果は以下のよう
である.第1に,正確に財産を均等分配する親の比率は21.1%,ほぼ均等に財産を分配する親の
比率は50.4%である.第2に,兄弟(siblings)の所得の不均等の程度が大きくなればなるほど遺
産を受ける相続人(跡継ぎ)が等しく遺産を受ける確率が小さくなる.第3に,親による物的資
産の遺贈は,貧しい子供が裕福な子供よりも多く受け取るという意味で補償的であり,家族内で
は不均等な遺産分配が事後的に不均等を減少させる結果となっている.第4に,親の効用関数に
おいて,相続人の生涯所得と遺産との間の代替の弾力性は一定と仮定するモデルが統計的にも支
持 さ れ る こ と か ら , Behrman et al.(1982) の 「 稼 得 - 遺 産 分 離 可 能 モ デ ル 」 (separable
earnings-bequest model)を棄却できる.14
Menchik(1988)は,米国のクリーブランド州において正確に財産を均等分配する親の比率は
84.3 % を 占 め , ほ と ん ど の 親 が 財 産 を 均 等 に 分 配 す る と い う 結 果 を 得 た . こ の 発 見 は
Becker-Tomes(1976)の「補償的遺産モデル」(compensated bequest model)と整合せず,Behrman et
al. (1982)の結果と整合する結果となっている.15 また,財産を均等に分配する理由として4つ
あげている.第1に,財産を不均等に分配したときのコストが大きいことである.第2に,利他
的な親が子供の厚生を考慮するというよりも家族(dynasty)全体の集合的な厚生を考慮すること
である.第3に,遺言を残す人は彼の血統(line)や遺伝子(gene)を残すように配慮し,分家(family
branch)の再生産が途切れる確率が最小になるように子供たちに遺産を分けることである.第4に,
非予備的な取引コストであって,相続人の間で見いだされる信頼や結束を低下させるようなえこ
ひいきを避けるためである.
14
Dunn and Phillips(1997)は,アメリカ合衆国において,1992年のAsset and Health Dynamics
among the Oldest Old(AHEAD)のデータを用い,贈与について実証分析を行っている.子供の所得
が少なければ少ないほど親からの現金贈与が大きい,低所得の子供ほど親と同居する傾向がある
という結果を得ている.この現金贈与は,親にとって子供たちの間で所得の限界効用を等しくす
るという意味で補償的な性格を持ち,Becker and Tomes(1976)らの利他的移転モデルと整合的で
ある.一方,親の死亡時点での移転である遺産は,90%の親が全員の子供に分配する意志を示し,
その内の95%はほぼ均等に遺産を分配する意志をもっているという結果を得ている.この結果は,
利他的モデルの予想とは整合しない.彼らは,全体として,親が資産を分配するルールが資産の
タイプと移転のタイミングに依存していることを示唆するとしている.
Stark(1998)は,親の利他主義と遺産の均等分配が必ずしも排他的ではないことをモデル分析に
よって論証している.簡単に示せば,各々の子は遺産が平均額以下であれば他の兄弟たちよりも
相対的に貧困な状態にあると感じる,あるいは不満を持つといえよう.換言すると,遺産につい
ては平均額よりも少なければ少ないほど,遺産についての効用はマイナスになると想定すること
ができる.また,兄弟の数が小さければ小さいほど,この感情が強く働き,平均額より小さいく
なるときの遺産の限界不効用はかなり大きいとみなすことができる.以上のようなケースにおい
ては,利他的に行動する親は子の所得の格差の存在にかかわらず,遺産を均等分配するといえる.
実証すべきことは,子の数の多寡によって遺産の分配の仕方が異なるものか,子の数が同じとし
て子の居住する地域間の距離に応じて遺産分配の仕方が異なるものか,子の年齢差によって遺産
分配の仕方が異なるのか,といった点であろう.
Lindholm and Ohlsson(2000)は,贈与については送り手の親と受け取る子だけが情報をもつが
遺産の場合はすべての子が情報をもつようになるとの仮定と,親は死後に残る遺産分配の仕方に
ついての評判を気にかけるが,その場合遺産分配に格差が大きいほど評判は落ちるという仮定を
設ける.これらの仮定の下では,利他主義の親の最適選択は贈与については補償的に分配し,遺
産については均等に分配することであるとの結果を得ている.この理論モデルの予想はDunn and
Phillips(1997)が得た実証結果と整合的である.
Wilhelm(1996)は,米国の1982年の連邦財産税申告のデータを用いて不動産や遺産の分配の仕方
を実証分析している.得られた結果は以下のようなものである.第1に,二人以上の子のある親
でみると正確に均等分配(±2%の違いの範囲で均等分配)している比率は68.6%(76.6%)であり,
このうち2人の子の場合は比率が69.7%(77.6%),5人の子の場合は比率が67.2%(79.3%)であ
る.したがって富裕者の大半は子孫に等しく財産を分けており,子の数によって分配比率が大き
く変わるというものでもない.
第2に,遺産を不均等に分配されるケースでは,平均稼得のみで遺産の分配を回帰したときの
係数は-0.13でありかつ10%水準で有意ある.このことは,子の稼得が平均から1ドル少ないと遺
産が0.13ドル多くなることを示すが効果は非常に小さい.これから係数が-1という利他的モデル
の予想が棄却される.また,財産が不均等に分配されるケースでは,遺産の平均稼得に対する回
15
帰係数-0.196である.平均稼得が1ドル減れば0.196ドルの遺産が増加するということで,遺産が
低い稼得を補償する性格を有しているといえるがその効果も非常に小さい.ただし,この推定値
は10%水準で有意でない.
第3に,低い平均稼得をもつ子が親からより多くの遺産を受け取ることは統計的に有意とはい
えない.しかし,子が1人の家族では,世代間の補償の係数が統計的には有意ではないとはいえ
-1.136と大きく,遺産が利他的動機でなされる傾向があるが,これはこうした家族では交換動機
が弱いからである.同時に,トップの資産家の遺贈データは子供の受領者の所得税申告と対応し
ているが遺産が報償であるという証拠は提供しない.
Solon(1992)は米国のケースで,父の所得と子の所得との回帰分析,父の恒常所得の対数と子の
恒常所得の対数との回帰分析から,回帰係数の値は0.4-0.5であるとの結果を得ている.また,生
物的な移転が潜在的に重要なことを示している.
Burnheim and Severinov(2003)はこうしたことを背景にして,利他的な効用最大化行動をと
る親が子供たちの間でどのように財産を分配するのかをモデル分析している.標準的なモデルに
追加した新しい仮定は,親の愛情の知覚が子の主観的幸福に直接影響するというものである.こ
の仮定に基づいたモデルから,生前贈与が子の間で差別的に分配され,遺産が均等に分配される
ことを整合的に予想できるとういう結果を得ている.
3.遺産動機
(1) モデル分析
親と子の行動モデルは,Bernheim et al. (1985),Cox(1987),Cox and Rank(1992),Altonji et
al.(1995),Laitner and Ohlsson(2001)などによって展開されている.このうち親の遺産動機と
移転との関係を明確に分析できる基本的なモデルはCox(1987)のモデルであるといえる.そこで,
Coxのモデルを用いて遺産行動の理論的分析を行う.
Cox(1987)は,Bernheim et al.(1985)のモデルを拡張し,親の遺産動機と遺産行動を明示的に
分析できるようにしている.
子は利己的で自らの消費Ckと親への気配りsのみを考慮して行動するものとすると,子の効用
関数は,
(2.3)
V = V (C k , s)
と表される.
また,子は自らの所得Ikと親から受け取る移転Tから消費すると想定すると予算制約は,
(2.4)
Ck ≤ I k + T
で表される.他方,親の効用は,自らの消費Cpと親が子から受ける気配りs,および子の効用V
の関数として,
(2.5)
U = U [C p , s,V (C k , s)]
16
と表される.親は,自らの所得Ip から子への移転Tを差し引いた額から消費すると想定すると,
予算制約は,
(2.6)
Cp ≤ I p −T
と表される.
ここで消費は親と子の双方にとって正常財であり, U c = ∂U ∂C p > 0 , Vc = ∂V ∂C k > 0 と
仮定する.子の親への気配りについては,親の限界効用は正, U s = ∂U ∂s > 0 , 子にとって親
に対する気配りの限界効用は負, Vs = ∂V ∂s < 0 ,であると仮定する.また,親は利他的であっ
て, U v = ∂U ∂V > 0 と仮定する.
ところで,子の気配りの限界効用は負であり,移転の限界効用は消費の限界効用に等しいか
ら,移転との関係で子が気配りを行う条件は,親に気配りし親から移転を受ける正味の効用が,
親に気配りせず移転なしで消費を行う時の効用 V0 ( I k ,0) 以上でなければならない.つまり,
(2.7)
V ( I k + T , s) ≥ V0 (C k ,0)
が成立していなければならない.
予算制約が有効であるとすると親の効用最大化問題は,
(2.8)
L = U [ I p − T , s,V ( I k + T , s)] + λ[V ( I k + T , s) − V0 ( I k ,0)]
と表される.16
ここで,λはラグランジュ乗数である.親はaとTに関してLを最大化する.ク
ーン・タッカーの1階条件は,
(2.9)
∂L
∂L
= −U c + U vVc + λVc ≤ 0 , T
=0
∂T
∂T
(2.10)
∂L
= −U s + U vVs + λVs ≤ 0 ,
∂s
(2.11)
∂L
= V ( I k + T , s) − V0 (C k ,0) ≥ 0 ,
∂λ
s
∂L
=0
∂s
λ
∂L
=0
∂λ
で与えられる.ここで
親が利他的動機で子への移転を行う場合は,子の気配りの程度とは関係なく子の所得によって
移転を決定するので,子の予算制約は有効ではない.従ってλ>0である.
1階条件をまとめると,
(2.12)
− U c + U vV c = 0
(2.13)
− U s + U vV s = 0
となる.(2.12)-(2.13)を全微分してまとめると,
(2.14)
2
⎡ A B ⎤ ⎡dT ⎤ ⎡ U cc dI p + (U cvVc − U vvVc − U vVcc )dI k ⎤
⎢C D ⎥ ⎢ ds ⎥ = ⎢− U dI − (U V + U V V + U V )dI ⎥
⎥
cs
p
sv c
vv c s
v cs
k⎦
⎣
⎦ ⎣ ⎦ ⎣⎢
を得る.ここで,
A = U cc − U cvVc + U vvVc2 + U vVcc
B = −U cs − U cvVs + U vvVcVs + U vVcs
17
C = −U cs + U svVc + U vvVcVs + U vVcs
D = U ss + U svVs + U vvVs2 + U vVss
である.比較静学の結果から,
(2.15)
∂T
∂T
> 0,
<0
∂I p
∂I k
を得る.つまり利他的デルは,移転は親の所得の増加とともに増加すること,および移転は子の
所得の増加とともに減少することを予想する.同様に,
(2.16)
∂s
∂s
=
∂I p ∂I k
となることを予想する.この式は,所得と親への気配りの関係は親と子との間で同一であること
を意味している.これは,親が利他的動機に基づいて移転を行う場合,予算制約式からわかるよ
うに,親子の消費を固定したとき,親の所得が1単位増加したとすると,その所得を子に移転し
た場合気配りsが増加するから,結局,親にとっては,最適解において, ∂s ∂I p と ∂s ∂I k とは
同等となっていなければならないという意味に他ならない.さらに,
(2.17)
∂T ∂T
−
=1
∂I p ∂I k
が導かれる.この関係は,移転が親子それぞれの予算制約に対称的に作用すること,つまり親が
子に1円移転すると親の総所得は1円減少し,子の総所得は1円増加することから生じる.例え
ば,親子合わせた家族の所得が所与の場合,子の所得の1円の増加は,親の所得の1円の減少な
いし親から子への1円の移転増加の効果に等しい.したがって,家族の所得が所与の場合,子の
1円の所得増加は1円の移転減少をもたらすことになることを表している.また, ∂T ∂I p < 1 な
らば ∂T ∂I k < 0 ,つまり,親の消費が正常財ならば子の所得の増加にしたがって移転は減少する.
この式が利他的モデルの適合性を判断する1つの基準になる.
次に,子の予算制約が有効(λ>0)な場合は,子が気配りしない(s=0)一方で移転を受けな
い(T=0)という状態を基準とすると,交換動機をもつ親の効用最大化問題は,
(2.18)
L = U [ I p − T , s,V0 ( I k ,0)] + λ[V ( I k + T , s ) − V0 ( I k ,0)]
と表される.17
ここで,μ(μ>0)はラグランジュ乗数である.親はsとTに関してLを最大
化する.クーン・タッカーの1階条件は
(2.19)
∂L
∂L
= −U c + µVc ≤ 0 , T
=0
∂T
∂T
(2.20)
∂L
= −U s + µVs ≤ 0 ,
∂s
(2.21)
∂L
= V ( I k + T , s ) − V0 (C k ,0) ≥ 0 ,
∂µ
s
∂L
=0
∂s
で与えられる.
18
µ
∂L
=0
∂µ
1階条件をまとめると,
(2.22)
− U c + µ Vc = 0
(2.23)
− U s + µV s = 0
(2.24)
V ( I k + T , s ) − V0 (C k ,0) = 0
となる.(2.22)-(2.24)を全微分してまとめると,
⎡ U cc + µVcc
⎢ − U + µV
cs
cs
⎢
⎢⎣
Vc
(2.25)
− U cs + µVcs Vc ⎤ ⎡dT ⎤ ⎡ U cc dI p + (U cvV0' − µVcc )dI k ⎤
⎢
⎥
U ss + µVss
Vs ⎥⎥ ⎢⎢ ds ⎥⎥ = ⎢− Vcs dI p − (U svV0' + µVcs )dI k ⎥
⎥
Vs
0 ⎥⎦ ⎢⎣dµ ⎥⎦ ⎢⎣
(V0' − Vc )dI k
⎦
を得る,またUとVとが加法分離可能と想定すると親の最適条件は以下のようになる.
∂T
>0
∂Ip
,
∂a
<0
∂Ip
,
∂a
>0
∂ Ik
,
∂p
>0
∂ Ip
ここで, T = ps を利用すると,
(2.26)
∂s
∂T
∂p
=
p+
s
∂I k ∂I k
∂I k
であるから,これを書き換えて
(2.27)
∂s
∂T
∂s p
=
p[1 /(
) + 1]
∂I k ∂I k
∂p s
となる.これから φ = (
∂s p
) と お く と , φ < −1 な ら ば ∂T ∂I k > 0 , ま た φ > −1 な ら ば
∂p s
∂T ∂I k < 0 となる.
ところで,親と子の所得と移転の確率との関係も重要な問題である.まず,利他モデルでは,
親は自らの消費の限界効用と子の消費が増加することによる限界効用とを比較し,後者が大きい
ならば移転を決定するであろう.したがって,限界効用が逓減することを仮定すると,子の所得
が増加するにしたがって自らの消費の価値と比べて移転の価値が低下することから,子の所得の
増加は移転の確率を低下させると想定できる.他方,親の所得の増加は,自らの消費の限界効用
が逓減することから,移転の確率が増加すると想定できる.次に,交換モデルでは,子の所得が
増加すると親への気配りによって受け取る移転の価値が低下する,言い換えると,親への気配り
の供給価格が上昇するから,気配りの対価として遺産を受け取る機会の低下につながる.このた
め,子の所得の増加は移転の確率を減少させると予想できる.他方,親の所得の増加は子から受
ける気配りの需要価格が上昇するから移転の確率が上昇すると想定できる.
以上を要約すると,移転が利他的動機に基づく場合,子の所得の増加は移転の確率と移転額の
双方を減少させることになる.移転が交換動機に基づく場合,子の所得の増加は移転の確率は減
少させるが移転額は増加する.ただし,気配りと移転が正の関係を持つのは利他的モデルの場合
にも生じることから,気配りと移転との間に正の関係が見いだされたら直ちに交換モデルが支持
19
されるというわけにはいかない.逆に,交換モデルでは気配りと移転との間に正の関係が成立す
る必要があり,もし負の関係が見いだされたとしたら交換モデルが棄却されるといえる.
(2) 実証分析
Bernheim et al.(1985)は,親が子の気配り(attention:親を訪問する,世話をする,電話をか
けるなど親に対して気配りすること)に対して,このサービスに対する報償の意味を含めて遺産を
与えることもあるであろうし,また,逆に子が親に冷たい態度をとれば遺産を与えないというよ
うなことをほのめかして子供の行動に制約を加えることもあり得るとする.Bernheim et al.は,
こうした状況を強調し,遺言する人が潜在的な遺産受領者の行動に影響するように遺産を与える
動機を「戦略的遺産動機」(strategic bequest motive)と名付け,この動機に基づく親の遺産行
動モデルを構築するとともに実証分析を行っている.
基本的な考え方は,子の気配りの程度が親の遺贈可能な資産の額に影響されるのかどうかを推
定することにある.なぜなら,親が裕福で遺産として残す資産が多いほど子供の気配りの程度が
大きいという結果が得られれば,親が子に遺産による影響力をもっていると判断できるからであ
る.推定式は,
(2.28)
Vi = β 0 + β 1bi + ε i
で表される.ここで,親への気配りの程度Viは,
(2.29)
Vi =
4 ⋅ VWi ⋅ VM i
4 ⋅ Ci
で測定される.ただし,Ciは子の数,VWiは1週間当たりでの訪問ないし電話で親と接触をもった
子の数,VMiは1ヶ月当たりでの訪問ないし電話で親と接触をもった子の数である.また,親の遺
贈可能額は金融資産,家屋敷等の不動産,生命保険の名目価値で測定され,biは,子の数で割っ
た,子1人当たりの遺贈可能額である.
彼らは,まず複数の子がいる家族の場合で推定を行った.最小2乗法によって推定するとbiの
係数がβ1=0.33と正であるがt値が低くbiの影響がゼロであることを棄却できなかった.そこで
親の生涯稼得を用いて2段階最小2乗法で推定した結果,biの係数がβ1=2.30と著しく高くなり
かつ有意水準も高くなることから
親子の接触が親の遺産と強い正の関係にあるという結果を得
た.またこの正の関係は複数の子がいる場合に得られた.
しかし,親との接触に影響するのは遺贈可能額ばかりでなく,親の健康状態や就労状態も影響
を与えるであろう.そこで彼らは,説明変数を追加的し,
(2.30)
Vi = β 0 + β 1bi + Z i γ + ε i
という推定式で推定を行った.Ziは,年齢,健康ダミー(BHi,WHi)と退職ダミー(RETi)を含
むベクトルである.ただし,この式に基づく推定では,β1=2.57とbiの係数の大きさにも大きな影
響はなく,また,有意水準にも影響はほとんどなく改善が見受けられなかった.
20
次に彼らは,親の資産が遺産相続が可能な通常の資産ばかりでなく,年金といった相続不可能
な擬似資産から構成されることから,両者を区別して推定を行った.
(2.31)
Vi = β 0 + β 1bi + β 2 awi + Z i γ + ε i
ここでawiは,親の年金資産(遺産不可能)を子の数で割った,子1人当たりの年金資産額である.
すると,awiの係数はβ2=-1.78と負で統計的に有意,biの係数はβ2=4.58と正で高い水準で有意
な結果が得られた.なお,Ziを構成する変数について相互の影響を見るため,bi・AGEi,bi・BHi,
bi・WHiを変数に加えて追加的な推定を行っている.その結果,統計的に有意なのは,awi,WHi,
およびbi・WHiの係数だけであった.またawiの係数はβ2=-1.85と元々の推定の場合とほとんど変
わらず,WHi係数は負,bi・WHibiの係数は大きく正との結果であった.
この結果から,親の富裕度が遺贈可能額で定義される場合,金持ちで健康状態のよくない親ほ
ど子からの気配りが多いことが強く示唆される.
子が1人の家族では,biの係数はβ1=-2.37と負,awiの係数はβ2=1.26と正であり,複数の子
がいる家族の場合と符号のパターンが逆になっている.また,biの係数の大きさの程度は複数子
供のケースのawiの係数の大きさとほぼ同じ,WHiの係数は負といったことから,彼らは戦略的遺産
動機が少なくとも複数の子がいる家族でのみ生じると主張している.
Cox(1987)は,世代間移転の問題は2つの異なる問題として捉えられるとしている.第1に,受
取手の所得水準と移転の発生とがどのような関係にあるかという問題である.利他的モデルと交
換モデルはともに受取手の所得水準と移転とは負の関係にあることを予想する.第2に,受取手
の所得水準と移転額との関係がどのようになっているかという問題である.利他的モデルでは,
子の所得が多くなれば遺産額が減少するというのが理論的予想であり,交換モデルでは逆である.
彼は1979年のPresident’s Commission on Pension Policy(PCPP)のデータを用いて実証分析を
行っている.家計単位iが受け取る移転を決定する潜在変数をtiとすると推定式は,
(2.32)
t i = α 0 Z i + α 1 I ki + α 2 I pi i + µ i
と表される.ここで,Ziは受け取る移転に影響する所得以外の変数のベクトルであり,教育年数,
年齢,および結婚の状態,性別,人種に関するダミー変数を含んでいる.ti>0 の時かつその時
のみTi>0であり,その他のtiの値の時にはTi=0である.係数の値については,移転動機のいか
んにかかわらずα1<0,α2>0と予想される.μiは平均ゼロの正規分布誤差項である.Probit法に
よる推定結果で,18
子の所得の係数はα1=-0.345x10-50と推定され,子の所得と遺産を受け取る確
率との間の関係は負であqることが実証された.ただしこの結果は,いずれの動機とも整合性を有
する.そこでCoxは以下の式に基づいて移転額の推定を行っている.
(2.33)
Ti = β 0 Z i + β 1 I ki + β 2 I pi + (ε i | Ti > 0)
εiは確率的な誤差項である.係数の値については,利他的動機の場合β1<0,交換動機の場合β1>0
とそれぞれ想定される.また,β2についてはいずれの動機の場合もβ2>0と想定される.Tobit法
による推定の結果,19
子の所得の係数に関してはβ1=0.0269と正でありかつ高い水準で有意であ
った.つまり,実証結果は交換モデルの予想と整合し利他的モデルの予想に反するものであった.
21
また,労働所得と移転との間に正の関係が認められるが,教育は移転に対して無視しうる効果し
か持っていないことから,過去の移転が高い教育水準と結びつき高い労働所得をもたらすという
利他モデルの経路の可能性は小さいことが示唆される.さらに,Coxは家族構成を単一の家族であ
る独立家族,複数の家族単位からなる家計のなかで主として家計を代表し家計を支える主たる家
族,および,主たる家族から移転を受けている従属家族に分類して,所得と移転の確率との関係
を実証分析している.Probitモデルを用いた推定では,独立家族のケースにおいて子の所得の係
数はβ1=-0.116x10-4と負で有意,また,従属家族のケースにおいてはβ1=0.315x10-4と正で有意の
結果が得られた.独立家族においてβ1<0となるのは利他的モデルと交換モデルの双方と整合する
が,従属家族のケースでβ1>0となるのは交換モデルと整合するが利他的モデルとは矛盾する.得
られたその他の結果を簡単に記しておこう.まず,既婚のケースの係数は負で有意である.この
結果は,単純に理解すると,移転が利他的動機に基づいてなされるならば,妻と夫がそれぞれの
親から移転を受け取るので結婚によって移転の確率が増加すると予想される.他方,移転が交換
動機に基づいてなされるならば,結婚によって夫婦の所得水準が上昇すると親への気配りが減少
し,そのため移転の確率が減少すると考えられるから係数が負であることとは整合的である,し
たがって,結婚の係数が負であるとの実証結果は,移転が交換動機によってなされることを支持
する要因である.次に,性別で女性である場合の係数は正で有意の結果が得られた.利他的動機
を前提とすると,女性は賃金水準が男性と比べて低ければ移転の確率は高くなるから,係数が正
であることと整合する.ただし,賃金が低いと親への気配りの価格が低くなることや,女性は家
事手伝いを行うことから親のサービス需要価格が高いと想定される.これらから,女性のケース
の正の係数は交換動機とも整合的である.
以上の諸結果から,生存者間の移転は家族間でのサービスへの支払いと解釈でき利他モデルよ
りも交換モデルが支持されると主張している.
Cox and Rank(1992))はCox(1987)のモデルの変種のモデルを構築し,その下で1987年から88年
の間で調査されたNational Survey of Families and Householdsのデータを用いて実証している.
彼らによれば,移転が資本市場の不完全性による借り入れ制約を緩和するためになされていると
いう結果を考慮し,移転が経常所得ばかりでなく恒常所得や移転のタイミングにも依存すると想
定し,変数に恒常所得と関係のある諸変数を含めている.移転決定の潜在変数をtiとすると,
(2.34)
t i = α 0 + α 1 I ki + α 2 I pi + α 3 ai + α 4 Di + ε i
と表される.ここで,Diは恒常所得と結びついた変数で,教育年数,年齢,人種に関する変数の
他に,生存する子の数を含むベクトルである.ここで,ti>0 の時かつその時のみTi>0であり,
その他のtiの値の時にはTi=0である.
係数の値については,移転動機のいかんにかかわらずα1<0,α2>0と予想される.
α3は親への気配りと移転との関係を示す係数であり,交換モデルではα3>0と想定される.同様に,
相互利他的動機の場合にもα3>0と想定される.
移転額の推定式は,
22
(2.35)
Ti = β 0 + β1 I ki + β 2 I pi + β 3 ai + β 4 Di + (ηi | Ti > 0)
で表される.ηは確率的な誤差項である.係数の値は,交換動機の場合β1>0,β2>0,β3>0,利
他的動機の場合β1<0,β2>0と想定される.移転確率tiはProbit法で,また移転額Tiは一般化
Tobit法で推定している.推定の結果,係数はα1=-0.162x10-5,α2=0.115x10-4,β1=0.055,β2=0.052,
β1-β2=0.003と推定された.α1<0,β1>0,は交換モデルの予想と整合的であり,かつ利他モデル
の予想(β1-β2=-1)とは矛盾する.なお,親との接触の係数はα3=0.638x10-4と正であって,交
換モデルおよび相互利他モデルのいずれと整合的か判断できない.そこで,変数として親との距
離を追加して推定したところ,移転の確率および移転額について距離の係数は負であった.親子
の距離は,利他的行動というよりは労働市場の条件に左右されると考えられることから,α3>0が
相互利他的行動というよりも交換動機の結果とみなしうる.これらの結果から,彼らは,移転行
動は利他的モデルより交換モデルに近いと結論している.
Stark and Falk(1998)は,利他主義モデルというよりは私利モデルを構築している.そこでは,
移転は利他的というより私利のためと見なされる.しかし,贈与が私利からなされたとしても贈
与によって受取手に共感の気持ちが形成されると仮定すると,受取手から贈与する側に逆の移転
を行う可能性が生じる.したがってこのようなケースでは,標準的モデルの想定とは逆の結果,
つまり,移転は移転前の所得と負の相関をもつという結果も生じる.
Perozek(1998)は,Bernheim, et al. (1985)の研究を拡張している.第1点は,親への気配り
に影響する個人および家族の特性を制御することにより戦略的な遺産動機の諸側面を考慮できる
ようにしたこと,第2点は,1987年から88年の間で調査されたNational Survey of Families and
Households(NSFH)のデータを用い,Bernheim et al.の結果とできるだけ比較可能なように新しい
データセットを複製し,追跡調査していることである.なお,NSFHでは親の生涯所得に関しての
データがないために社会経済指数(SEI)を用いて2段階最小2乗法による推定を行った.回帰式は,
(2.36)
Vi = β 0 + β1bi + β 2' Z i + β 3' Z p + β 4 N f + ε i
で表される.biは,子一人当たりの遺産可能額,Ziは,子の特性ベクトルで,子の性別,親の居
所からの距離,子の年齢,子の結婚の有無,子に子供がいるか否かの変数を含む.Zpは親の特性
ベクトルで,親の性別,親の年齢,主観的親の健康状態を含む.Nfは,家族にいる成人した子の
数である.
結婚した親で離れて暮らす成人した2人以上の子がいる標本に基づきBernheim et al.の分析の
結果を複製したところ,β1=0.25かつ10%水準で有意であった.これは,彼らの得た係数の値よ
りは小さいものの,遺産可能資産額が親への気配りに正の効果を持っていることが確認されたこ
とになる.
しかし,遺贈可能資産の親への気配りに与える効果はいろいろな特定化に関して頑健ではない.
子や家族の特性が加えられて特定化されるときに遺産可能額と気配りとの結びつきが小さくなる.
まず,気配りおよび遺贈可能額と子の数の間の問題である.一定の所得の下では,子の数が多く
なればなるほど教育費などの支出が多くなるのでそれだけ遺贈可能額が小さくなる.したがって,
23
遺贈可能額と気配りとの間に正の相関が見受けられるとしても,子の数が影響するので,それが
戦略的遺産動機のためとは必ずしもいえないことである.実際に,推定結果から子の数が多くな
るほど気配りが減少することが確かめられた.次に,親の健康状態および遺贈可能額と気配りと
の関係である.推定された結果は,悪い健康状態(POORHLTH/100)の係数は正であるが,遺贈可
能額と悪い健康状態との積((b/106 )x POORHLTH)の係数は負である.このことは,親の健康状
態が悪いほど子の気配りが多いが,親の遺贈可能額が多いほど気配りが減少するというように解
釈できる.戦略的遺産モデルでは,遺贈可能額が多いほど気配りが増加すると想定されるから,
この結果は戦略的遺産行動モデルとは整合せず,むしろ利他的モデルから予想がつくといえる.
これらの結果から,以前に行われた実証分析の頑健性に疑問を投げかける結果になった.子の
特性が親への気配りに大きな役割を果たしていることがわかった.娘や生存している子が数少な
い場合である.例えば,一人っ子や子供を持たない子の場合,親への気配りは著しく小さいこと
があげられる.
McGarry(1999)は,利他主義モデルでは生存者間移転と遺産が子の所得と負の関係をもつと予想
されるが,現実の遺産分配は均等分配との結果で出ている.MaGarryは,Cox(1987)のモデルを拡
張して3期間モデルを構築し,利他的な親の生前贈与と遺産の双方の意思決定を含む問題を分析
している.モデルでは,親は利他的である,生前贈与は流動性制約に応じてなされる,親は子の
恒常所得を正確には知らないので分布を信じて行動し,実現した各期の経常所得の情報から信念
を改訂すると想定される.したがって,生前贈与は流動性制約に直接に依存し,遺産は恒常所得
に間接的に依存する構造になっている.
モデルからは3つの予想が得られる.第1に,生前贈与の確率と額は双方ともに経常所得と負
の関係にあり,恒常所得とは正の関係にある.第2に,生前贈与がなされていない家族では遺産
は経常所得と負の関係にある.第3に,生前贈与がなされている家族では,遺産と経常所得との
関係は不明確である.
彼は,The Health and Retirement Study(HRS)とAsset and Health Dynamics Study(AHEAD)の
データを用い.親の生前贈与ないし遺産を子の所得関連の変数(平均所得,平均年齢,平均在学
期間など)に回帰させて実証分析されている.推定結果から以下のことが得られた.第1に,生
前贈与については,子の経常所得と関連する変数(平均所得,平均年齢など)とは負の関係にあ
り,恒常所得と関連する変数(在学期間など)とは正の関係がある.第2に,遺産については,
生前贈与のない家族では経常所得と遺産に弱い負の関係があること,生前贈与のある家族では遺
産が平均所得と有意な正の関係にあることから,経常所得と正の関係にある.遺産が経常所得と
正の関係を持つという結果は標準的な利他的モデルが予想しない結果であるが,生前贈与がなさ
れている家族においては理論的にも実証的にも矛盾しないことが確かめられたといえる.第3に,
生前贈与は子の経常所得の差に正の関係をもって,また遺産は在学期間の差に正の関係をもって
差別的に分配される傾向がある.
24
利他的モデルにおいては,拡張された家計が子の所得の限界効用を等しくするように行動する
ことにより,家族内の資源の分配の仕方が消費の仕方に影響しないと予想することから,家族内
の資源配分が消費の配分に影響するか否かによって利他的モデルが適合するか否かを判断できる.
Altonji et al. (1992)は,1976年から1985年のPanel Study of Income Dynamicsデータを用いて,
資源の分配の仕方が消費の分配の仕方に影響するか否かを検証し,影響するという結果を得た.
この結果から利他的なモデルが棄却され,また,拡張された家族の所得と食料の消費の関係から
はライフ・サイクルモデルが相対的に支持されるとしている.
Altonji et al. (1997)は,Cox(1987)でなされた移転の静学的な理論モデルを動学的なモデル
に展開した上で,利他的モデルの適合性をアメリカ合衆国のケース1988年のPanel Study of
Income Dynamicsデータを用いて検証している.基本的な問題設定は,動態的な利他的モデルにお
いても,
(2.37)
∂T ( Z ,η ) ∂T ( Z ,η )
−
=1
∂I pt
∂I kt
が成立し偏微分係数の差が1になることから,この関係が実際に成り立っているか否かを検証す
ることである.ここで,IptとIktは親と子のt期の非資産所得,ZはZ={Ipt,Ik,X}と表され,
Xはベクトルで資産と将来期待所得の決定要因,観察された選好シフト因子を,またηはベクト
ルで観察されない選好要因である.
親の経常所得ないし恒常所得と移転の関係を1989年の純資産のデータを用いて推定したところ,
標本平均の場合で ∂T ∂I p = 0.033 , ∂T ∂I k = −0.100 , ∂T ∂I p − ∂T ∂I k = 0.133 いう結果を得
た.親の所得と移転が正の関係にあり,子の所得と移転が負の関係にあるという結果は利他的モ
デルの予想と整合するが,親の100ドルの所得の増加に対し移転は3.3ドルと増分はわずかであり,
子の所得の増加に応じて移転を減らす額もわずかである,係数の差も利他的モデルが予想する値
1よりも極端に小さい.これらの結果は,関数の形,子の数,所得の定義,所得や資産の測定誤
差を変えても大きく変わることのない頑健性を有し,世代間利他的モデルが強く棄却されると結
論している.
Tomes(1988a)は,Becker and Tomes(1979)の欠点は,親の効用が子供の消費ではなく子供の所
得や資産に依存していること,人的資本の形態での移転が物的資産の移転と区別されていないこ
と,完全な先見性が子供の子孫の能力の不確実性の役割を消してしまっている,資本市場の完全
性を仮定している,結婚が無視されている,家族の規模が外生的に固定されていることである.
この論文ではこれらの仮定をゆるめ効用最大化行動の下での諸結果を示す.特に特徴的なこと
は,不平等と家族の増加(rise)と減少(fall)に関して結果が著しく変わる
ということである.
Hayashi(1995)は, 家族の構成員が利他的に結びついているならば,家族内の資源の配分が変
化したとしても各財への需要のシェアは不変である,つまり需要の中立性が成立するというのが
理論的結論である.エンゲル曲線はこの支出のシェアを示すことから,エンゲル曲線の推定によ
って家族内に利他主義が存在する否かを吟味できる.
25
彼は,日本の場合で,1984年の全国消費実態調査データを用いてエンゲル曲線の推定を通し,
世代間利他主義の存在を検討している.日本では,2世代が同居する家族の割合が高く2世代家
族の親子関係を捉えられることや,世代間で食物に対する選好が大きく異なり所得シェアの高い
世代の選好が支出のシェアに影響すると予想されることから,世代間に利他主義が存在するかを
吟味するのに適した状況にあることが特徴としてあげられる.
エンゲル曲線の推定には,
(2.38)
s j = Z 'α j + β j log(x) + ε j
の回帰式が用いられている.ここで,xは食費,sjは食費構成要素jへの予算支出シェア,Zは
人口学的状態および雇用状態のベクトル,εj は誤差項である.なお,食料は,穀類,海産食物,
食肉および乳製品,野菜,外食の6種類の構成要素に分類されている.
推定の結果,需要の中立性が強く棄却された.これは,高齢世代の所得のシェアによって支出
のシェアが影響を受けるということが原因している.この結果から,彼は日本においては世代間
の利他主義の存在が否定されると主張している.
Browning et al.(1994)は,カナダにおける子のない夫婦のデータに基づき,婦人衣料品と紳士
衣料品への支出から家計内配分を実証分析し,需要の中立性が棄却されるとしている.得られた
2つの特徴は以下のようである.第1に,家計所得に占める妻のシェアが増加すると家計総支出
に占める妻のシェアも増加するがそれほど大きいものではないということである.妻の家計所得
シェアが25%から75%へ増加しても総支出のシェアの増加は2.3%程度にとどまっている.第2に,
妻の所得のシェアを固定した場合,家計支出の増加の効果が著しいということである.総支出が
60%増加しても妻の支出シェアは12%の増加にとどまる.
Laitner and Ohlsson(2001)は,スウェーデンと米国のデータの対比から,スウェーデンの方が
遺産が優位である,条件なしの遺産はスウェーデンの方が絶対額が小さい,生涯稼得に対する受
取遺産額は米国の方が相対的に大きいとの結果を得ている.スウェーデンでは,1961年から91年
の間のLevel of Livings Surveyのデータを用いると,遺産額の生涯稼得に関する係数は負であり,
5%水準でゼロとは異なっているが係数自体の値は小さいとの結果を得ている.米国では,1984
年のPanel Study of Income Dynamics(PSID)データを用いると,遺産額の子の生涯稼得に関する
係数は正である.結婚状態は遺産額には影響が小さいが女性であると負に作用している.子の教
育年数を変数に加えると子の稼得に関する係数は減少するとの結果を得ている.また,2式体系
での推定結果では,子の生涯所得が増加すると遺産額は減少し,親の生涯稼得が増加すると遺産
額も増加する.このことから,利他的モデルないし交換モデルが支持される結果となっている.
また, ∂T / ∂I p − ∂T / ∂I k の点推定値は4つの標本で0.0516-0.0817であった.この推定値は1%
の有意水準で1であることが棄却される.以上の結果から,スウェーデンとアメリカ合衆国にお
いて利他主義モデルが当てはまるが,その程度は理論的な利他的モデルが予想するよりもずっと
小さいと結論している.
26
Horioka(2002)は,日本と米国のデータに基づいて,利己的モデル.20 利他的モデル,王朝モデ
ルの適合性を検討している.どのモデルをとってもいずれかの国に普遍的に適用可能という結果
は得られなかった.3つのモデルの内では,利己的なライフサイクル・モデルが日本とアメリカ
の両国において適合性が高く,2国の内では日本の方がライフサイクル・モデルの適合性が高い
という結果を得た.また,2国で比較すると,日本では王朝モデルの方が,アメリカでは利他モ
デルがそれぞれ相対的に適合性が高いという結果が得られた.
Sloan et al.(2002)は,中年の子から高齢の親への移転をモデル分析するとともに,Health and
Retirement Studiesのデータを用いて,移転が利他主義によるのか否か,移転が現金によるか現
物よるのかといった点を実証分析している.まず,彼らのモデルからは中年の子と高齢の親の効
用関数はそれぞれ,
(2.39)
V = V (C k ,U )
(2.40)
U = UC p , s, g )
と表される.ここで,V,U,Ck,Cpはそれぞれ子の効用,親の効用,子の消費,親の消費であ
る.sは子から親への時間移転で訪問や手伝いなどを含む.gは公的介護など政府から親への現
物移転である.また,子は自らの資産ykと労働所得から親への貨幣的移転Tを引いた額から消費
すると想定すると,子の予算制約は,
(2.41)
C k ≤ y k + w( H − s ) − T
で表される.wは賃金率,Hは最大労働可能時間である.親は退職しており資産と子からの金銭
的移転から消費すると想定され,
(2.42)
Cp ≤ I p +T
と表される.
このモデルは,Cox(1987)のモデルにおいて親子関係を逆転した利他主義モデルと解釈できる.
子の効用最大の1階条件は,
(2.43)
VuU s − wVc = 0
(2.44)
VuU c − Vc = 0
として求まる.これから,U s / w = U c である.この式は,子が行うサービスは,賃金で測った1
円分のサービスの限界効用が現金1円の移転の限界効用に等しくなるまで提供されることを意味
する.
(2.43)-(2.44)を全微分してまとめると,
(2.45)
⎡ A B ⎤ ⎡dT ⎤ ⎡ E ⎤
⎢ D A⎥ ⎢ ds ⎥ = ⎢ F ⎥
⎣
⎦⎣ ⎦ ⎣ ⎦
を得る.ここで,
A = w(VcuU c − Vcc ) + (Vcu − VuuU c )U s −V uU cs
B = w(VcuU s − wVcc ) − ( wVcu − VcuU s )U s −V sU ss
D = (VcuU c − Vcc ) + (Vcu − VuuU c )U c −V uU cc
27
E = (VcuU s − wVcc )dy k + [VcuU s ( H − s ) − Vc w( H − s )]dw
+ (VuU cs + VssU U s − wVcuU c )dy p + (VuU sg + VuuU sU g − wVcuU g )dg
F = (VcuU s − Vcc )dy k + [VcuU c ( H − s ) − Vcc ( H − s )]dw
+ (VuU cc + VuuU cU s + Vcc − VcuU c ]dy p + (VuU cg + VuuU cU g −VcuU g )dg
である.また,効用関数については,1階偏微分係数の符号は正,2階偏微分係数の符号は,Vcu > 0 ,
Vuu < 0 , U cc < 0 , U cs > 0 , U cg > 0 , U ss < 0 , U sg > 0 , U gg < 0 ,と仮定される.これか
らB>0である.Aの符号は, VuU cs の大きさに依存して決まるが,子の利他的動機が十分に弱
くて Vu が小さいものと想定し,A>0と仮定する.21
比較静学の結果からsとTについて以下のような理論的予想ができる.子の資産が増加すれば
sとTは増加する.賃金率が上昇すればTは増加する.親の資産が増加すればTは減少しsは増
加する,gが増加するとsが減少する.
彼らは,Health and Retirement Studyのデータを用いてこのモデルを実証分析し,以下の結果
を得ている.第1に,子は裕福なほど親と一緒に住まない傾向にある.第2に,親の資産が子よ
り多いと金銭的移転の確率が小さくなる.第3に,子が裕福なほど親への金銭的移転が多くなり,
子の資産弾力性は0.13,子の賃金率弾力性は0.27である.第4に,裕福な子,あるいは賃金率の
低い子が親と接触する頻度が高い.第5に,介護や家事などの時間移転については,子の資産の
影響は小さく,親の資産との関連性は明確でない.第6に,親がナーシングホームにいることで,
子の時間移転は減少するが,子から親へより多く金銭的贈与がなされるという傾向はない.
以上のことから,モデルの予想と実証結果との整合性がかなり高いといえる.ただし,親の資
産が増加すればsは増加するというモデルの予想は実証分析では裏付けられていない.また,モ
デルではgのTへの影響を予想できないが,実証結果は影響をもたないことを示している.
Stark and Falk(1998)は,標準的な交換モデルでは移転は子の移転前所得と正の相関があると
予想するのに対して,標準的な交換モデルに贈与による共感形成という概念を導入すると,移転
が子の移転前所得と負の相関を持ち得ることを明らかにした.これは双方向の利他主義が存在す
るケースとも受け取ることができる.
第3章
資産ダイナミックス
ライフサイクル・モデルを支持する研究者は一般に,予想される生涯所得と予想される生涯支
出はほぼ同じで,遺産はサービスの代償かあるいは偶然によって生じるので,世代間移転はそれ
ほど重要視する必要はないと判断している.しかし,これまでにもみたようにライフサイクル・
モデルは平均的家計を対象にした消費・貯蓄モデルであり,必ずしも低所得層や高所得層の消費・
貯蓄行動をうまく説明できているとはいえない.また,世代間移転を通して生じる資産格差およ
28
び同じ所得階層の内部において選好の違いや稼得の違いによって生じる資産格差は,社会保障や
教育,雇用といった公共政策の観点からは重要な問題である.
世代間移動に関しては,Becker(1981),Tomes-Becker(1979),Tomes(1988b),Tachibanaki and
Takata(1994),Auten and Joulfaian(1996),橘木(1998),Wolff(1998),Venti and Wise(1998),
Huggett and Ventura(2000),Carroll(2001),ホリオカ・他(2002),Charles and Hurst(2003),
Ziliak(2003)などがある.
1.所得階層間の不均一性
標準的なライフサイクル・モデルは,所得階層間の消費・貯蓄行動の異質性を想定していない
ので,富裕層の貯蓄は低所得層の貯蓄をスケールアップしたものと予想する.しかし,現実には
ライフサイクル目的や予備的動機の強さなどは資産保有額によっても異なると考えられる.
Carroll(2000)は,こうした観点から最富裕層の貯蓄・遺産行動が他の大多数の人々のそれとは
異なることを強調し,最富裕層の実際の消費・遺産行動と整合的な行動を予想しうるモデルを検
討している.22
まず,ライフサイクル・モデルについては,モデルに不確実性を導入すれば平均
的な家計の貯蓄行動をうまく説明できるが,最富裕層の実際の貯蓄率はライフサイクル・モデル
に強い予備的動機と気長さを導入したモデルが予想する貯蓄率よりも高く,ライフサイクル・モ
デルは最富裕層の貯蓄行動をうまく説明できないとしている.
次に,王朝モデルについては,1992年のSurvey of Consumer Financesのデータによれば最富裕
1%層で遺産を最も重要な貯蓄動機としてあげているのは2%に過ぎず,また大多数の親は遺産
を均等に分配するという事実から,王朝モデルも最富裕層の貯蓄行動をうまく説明できないとし
ている.
その上で,消費の限界効用よりも資産増加の限界効用が大きく資産の増加それ自体に大きな満
足を得る個人を想定した「資本家精神モデル」(capitarist spirit model)であると主張している.
ここで,資本家精神モデルを説明しておこう.個人は,t期において,期首に資産をWtだけ持っ
てCtの消費を行い,期末にWt+1の資産を残し,効用は消費の効用,
(3.1)
u (C t ) =
C t1−σ
(1 − σ )
と,期末の資産から得られる効用,
(3.2)
v(Wt +1 ) =
(Wt +1 + κ )1−θ
(1 − θ )
の和からなると仮定する.すると,個人の効用最大化問題は,予算制約,
(3.3)
Wt +1 = Wt − C t
の下で,消費と期末の資産から得られる効用,
(3.4)
U t = u (C t ) + v(Wt +1 )
を最大化する問題として表される.効用最大化の1階条件は,
29
(3.5)
∂u (C t ) ∂v(Wt +1 )
=
∂C t
∂Wt +1
であり,これから,
(3.6)
CT−σ = (WT − CT + κ ) −θ
を得る.ここで,結果の単純化のため,最富裕層は十分な初期資産を保有しており消費が資産を
超えないとの制約のみを受ける, σ = 2 , θ = 1 , WT > 1 とそれぞれ想定する.これからCTにつ
いて解き,貯蓄率(ST/WT)と資産との関係を求めると,
(3.7)
∂ ( S T / WT ) / ∂WT > 0 ,
∂ 2 ( S T / WT ) / ∂WT2 < 0
を得る.この結果は,貯蓄率は資産の増加とともに逓減的に上昇し,資産が無限大に近づけば貯
蓄率は100%近づくことを示す.もし, WT ≤ 1 ならば貯蓄率はゼロであり,標準的なライフサイ
クル・モデルが当てはまる.例えば,Auten and Joulfaian(1996)は,遺産の生涯所得に関する弾
力性の点推定値が1.3であり,遺産の伸びが財産の増加以上であるとの結果を得ている.Carroll
の指摘のように,富裕層は他の所得層とは異なる貯蓄行動を取っているといえる.富裕層の消費・
貯蓄行動を今後さらに詳しく分析する必要があろう.
2.資産格差の動態
日本における資産格差の動態は,郵政研究所『家計における金融資産選択に関する調査』用い
て,年齢別と年収別に見ることができる.ここでは1995年(第4回調査)と2003年(第8回調査)の
データを用いる.まず各年齢階層の平均貯蓄総額(金融商品保有総額の平均値)の全家計の平均
貯蓄総額に対する比率の変化をみると,20-29歳では0.20から0.23へ,30-39歳では0.64から0.47
へ,40-49歳では0.87から0.71へ,50-59歳では1.24から1.13へ,60-69歳では1.57から1.35へ,70
歳以上では1.22から1.44へ,それぞれ変化している.これから,40歳代から60歳代が相対的に貧
しくなってきていると見ることができる.
次に,年齢階層別に貯蓄総額に関する変動係数の変化をみると,20-29歳では1.39から1.53へ,
30-39歳では1.12から1.45へ,40-49歳では1.02から1.32へ,50-59歳では1.14から1.38へ,60-69
歳では1.06から1.15へ,70歳以上では0.97から1.23へと,全ての階層で増加している.これから,
個人金融の拡充などで消費・貯蓄の選択の自由度が大きくなり,それと対応してどの年齢階層に
おいても資産格差が増しているとみることができる.
今度は家計年収別にみることにする.各年収階層の平均貯蓄総額(金融商品保有総額の平均値)
の全家計の平均貯蓄総額に対する比率の変化をみると,年収が200万円未満の所得では0.59から
0.61へ,200万円以上300万円未満の所得層では0.59から0.60へ,300-400万円では0.71から0.79
へ,400-500万円では0.66から0.83へ,1,000-1,500万円では1.61から1.42へ,1,500-2,000万円
では2.02から2.20へ,2,000万円以上では1.95から3.11へ,それぞれ変化している.年収が500万
円未満の所得層では資産格差に縮小傾向がある一方,年収が1,500万円以上の所得層との間で資産
格差が拡大傾向を見せているといえる.
30
年収別階層の変動係数は,年収が200万円未満の所得層では1.27から1.48へ,200万円以上300
万円未満の所得層では1.53から1.68へ,300-400万円では1.36から1.13へ,400-500万円では1.60
から1.39へ,1,000-1,500万円では1.02から1.01へ,1,500-2,000万円では0.73から1.21へ,2,000
万円以上では0.60から0.99へ,それぞれ変化している.年収が1,000-1,500万円の所得層を除くと,
どの所得層でも保有資産のばらつきが大きくなって来ていることがうかがえる.
ところで,Venti and Wise(1998)は,米国において,退職時における保有資産のばらつきのう
ちどの程度が生涯にわたって貯蓄に回せる資源の違いによって説明できるのか,また,ばらつき
のどの程度が利用可能な資源から貯蓄する,しないの違いによって生じるのかといった点を分析
している.彼らは,1992年に実施されたHealth and Retirement Surveyの50-61歳世代のデータか
ら,退職時の資産のばらつきの原因を実証分析し次のような結果を得ている.低所得層でも貯蓄
しない家計があればかなり貯蓄する家計もある.高所得層でも貯蓄しない家計と相当に貯蓄する
家計もある.したがって,資産のばらつきの小ささが貯蓄余力のなさから生じているとはいえな
い.投資選択も資産のばらつきの大きさを十分説明できない.また,機会も資産のばらつきの大
きさの説明にはならない.こうしたことから,退職時における資産のばらつきの大きさは,若年
期の貯蓄と支出の選択によって生じているとしている.
松浦・滋野(2001)は,1996年の郵政研究所『家計における金融資産選択に関する調査』のミク
ロ・データを用いて,日本の家計の遺産動機がどのように形成されているかを実証分析している.
そのなかで,利他的モデル・王朝モデル的に行動する家計の遺産について以下のような結果を得
ている.利他的モデル・王朝モデル的な遺産動機をもつ家計では,実物資産を6,479万円,金融資
産を2,500万円,それぞれ保有しているのに対し,遺産動機をもたない家計では実物資産1,752万
円,金融資産1,000万円である.また,利他的モデル・王朝モデル的な遺産動機をもつ家計は全体
の家計の20.6%を占め,保有する資産は実物資産全体の35.9%にのぼる.こうしたことから,遺
産動機をもつ20%の家計とその他の家計で,1家計当たり3,000万円以上の世代間格差が生じると
の結果を得ている.
Wolff(1998)は,米国について,1983年から95年の間のSurvey of Consumer Financesのデータ
を用いて,全体の資産集中度がどのように変化しているか,資産の不均等が人種や年齢でどのよ
うに変移しているか,資産不均等の変化の原因は何か,米国の資産不均等は諸外国と比較してど
んなものか,といった点を実証分析している.明らかになった点は,第1に,資産格差が拡大し
ていることである.資産集中度をみると,純資産については上位1%の家計のシェアが1983年の
33.8%から1995年の38.5%へ,上位20%の家計の純資産シェアが81.3%から83.9%へそれぞれ増
大している.これに対し,下位40%の家計の純資産シェアは0.9%から0.2%へ減少し,また純資
産がゼロかマイナスの家計の割合が15.5%から18.5%に増大している.
第2に,人種間,年齢階層間で資産格差が拡大していることである.人種間でみると,非スペ
イン系黒人の保有する平均純資産の,非スペイン系白人の保有する平均純資産に対する比率が
1983年の0.19から1995年の0.17に低下しており,人種間で格差が拡大していることがわかる.こ
31
の理由として遺産の違いがある.例えば,1995年では24%の白人の家計が遺産を受け取ったのに
対し黒人の家計では11%に過ぎない.次に,全家計の平均純資産に対する各年齢階級の平均純資
産の比率を1983年から1995年にかけての変化でみると,35歳未満の年齢層では0.21から0.16,
35-44歳では0.71から0.65,45-54歳では1.53から1.39へそれぞれ低下し,若年層が相対的に貧し
くなってきていることがうかがえる.
第3に,1980年代に資産の集中度が増大し1990年代には減速したが,これは所得格差と資産格
差の変化によって生じたということである.資産集中度の変化の原因を探るため,彼は資産の不
均等の源泉の推定式を,
(3.8)
WLTHTOP1 = β 0 + β1 INCTOP5 + β 2 SP / HOUSE
と特定化している.ここで,WLTHTOP1は上位1%の家計で保有される市場化可能資産のシェアで
測定される資産の不均等,INCTOP5は上位5%の家計によって稼得される所得のシェア,SPは株価
(Standard and Poor 500 index),HOUSEは中位住宅価格である.推定式がこのように特定化され
るのは,資産が所得と資本利得から形成され,資本利得が高所得者では主に株式から,中位所得
者では主に住宅から生じることによる.1922年から95年の間のデータを用いた推定により,所得
の係数はβ1=1.24かつ1%水準で有意,株式価格・住宅価格比率の係数はβ2=0.28かつ5%水準
で有意との結果が得られた.このことから資産格差の変化について以下のように解釈できるとし
ている.1983年から89年にかけて生じた資産不均等の拡大は,約2/3が所得不均等の拡大で,約1/3
が資産価格の不均等の拡大でそれぞれ説明できる.また,1989年から95年にかけて生じた資産格
差の拡大傾向の減速は,資産価格の不均等の増加と所得不均等の減少が相殺したことによって説
明できる.23
Auten and Jolfaian(1996)は,先述のように,慈善的寄付の分析を拡張し世代間移転を考察で
きるようなモデルを構築し,米国のケースで1982年の所得税および財産税のデータから遺産の実
証分析を行っている.推定の結果,遺産の生涯所得に関する弾力性の点推定値が1.3であり,遺産
の伸びは財産の増加以上であることを見いだしている.
3.世代間移動のメカニズム
Charles and Hurst(2003)は,裕福な親の子はどの程度裕福なのか.親子の裕福さはどのような
メカニズムで結びついているのか,そのメカニズムとしては,親が子の教育に投資し稼得力を引
き上げることによって資産を増加させること,親が子に金融的な贈与を行い直接的に子の資産を
増加させること,親が子に同じような貯蓄率を受け継がせることなどが考えられるが,はたして
現実にはどのメカニズムが作用しているのか,といった点を実証分析している.
彼らはPanel Study of Income Dynamicsのデータを用い,子の資産が何によって決まるのかを
回帰分析によって明らかにしている.推定に用いられる式は
(3.9)
Wk = α + δW p + α1k agek + α 2k agek2 + α1 p agep + α 2 p age2p + β k Z k + β p Z p + u k
32
で表される.ここで,Wk,Wpはそれぞれ子と親の資産の自然対数,agek,agepはそれぞれ子と親
の年齢,Zk,Zpはそれぞれ子と親の所得,年齢,ポートフォリオ構成を制御するための変数のベ
クトル,δは年齢を調整した世代間の資産弾力性である.
推定の結果,年齢を調整した世代間の資産弾力性δは0.37であるという結果を得た.このこと
は,親の資産が平均から50%上位にあると,子の資産は平均から18%上位にあることを意味する.
なお,この資産弾力性については,年齢,所得,教育を制御した場合 の説明力は54.3%,さらに
期待遺産とポートフォリオ構成を加えた説明力は64.7%である.残りの35.3%は説明がつかない.
残る原因としては,子が親の貯蓄・投資行動をまねるとかリスク許容に対して似たような選好
を持つことなどが考えられ,彼らは選好要因を追加して推定している.標本数はもちろん異なる
が,年齢を調整した世代間資産弾力性は0.36であり,年齢,実際の所得と予想所得,ポートフォ
リオ選択を制御した場合の説明力は69.7%,それに教育,過去の移転,期待遺産,および選好を
追加して制御した場合の説明力は86.3%となるとの結果を得ている.このうち,リスク許容を説
明変数に含めた説明力の増加は3%程度である.
第4章
家計の貯蓄・遺産行動と郵便貯金
家計の貯蓄・遺産行動および世代間移動による資産のダイナミックスの考察から,郵便貯金に
求められる役割は何かについて考察する,
1.若年期における貯蓄の重要性
Hubbard et al.(1994)やVenti and Wise(1998)が示しているように,米国では退職前に十分な
資産を蓄積しない家計が多く存在する.その原因が,若年時に貯蓄しなかったことにあることが
指摘されている.日本においても老後の生活に不安を抱いている家計が多い.年金や介護保険制
度が老後の生活の安定に寄与していることは事実であるが,安定した生活が保証されるにはほど
遠い状況にある.したがって,若年世代を中心に貯蓄の重要性を認識させ,貯蓄意識を高めるこ
とが重要である.
最近の消費者金融の充実は,流動性制約の緩和をもたらし異時点間の消費選択を容易にしたと
いう側面を持つが,他方で消費の容易さから時間選好率を高めるように作用し,また将来稼得の
不確実性は低下しないと予想されるから,資産形成にとってはむしろマイナス要因である思われ
る.多重債務者の増大はこのことの一つの証左であろう.
また,今後は,毎月の給与を引き上げる一方で退職金を支払わない企業が増加する傾向にある.
こうなれば,退職後を考慮した貯蓄が今以上に重要になる.
公的年金についても,老後の生活費を保証するという社会保障型から,自助努力型へと徐々に
移行していくと予想される.
33
こうした状況を踏まえると,ライフサイクルを視野に入れて安定した家計が営めるよう,若年
者や低中所得層の貯蓄形成を支援していく役割が重要である.
2.安定・安心の金融商品の提供
村田(2003)は,年金に不安のある家計では金融資産保有額が多い,年金不安に起因する予備的
貯蓄は預貯金,保険や個人年金に向かう,要介護時の出費に備えるために貯蓄する家計も多く,
特に高齢者世帯では平均余命の伸びとともに介護費用への備えが重要になっていると指摘してい
る.ちなみに,退職後の月々の生活費は30万円程度,退職前までに貯蓄すべき額は2,000万円程度
といわれる.ところが,2003年の郵政研究所『家計における金融資産選択等に関する調査』のデ
ータによれば,50-59歳の年齢層の貯蓄現在高の平均値が1,484万円,中位値が800万円,また60-69
歳では平均値が1,777万円,中位値が1,100万円である.このように,退職前の50歳代では準備不
足であり,退職金などが含まれている60歳代でも十分とはいえない状態にある.このことと対応
し,退職後の生活を賄う最も重要な収入源として公的年金をあげる家計が,既受給家計で67.9%
にのぼる.
最近,高齢者の貯蓄が外貨貯蓄に向かっている.この原因としては,日本の金利が低水準を維
持し続けており資産所得が期待できないこと,70-79歳の高齢者の貯蓄現在高は平均で1,884万円
というように他年齢層よりも資産を保有しており,高齢者に比較的余裕があることがあげられる.
しかし,リスクを負担しつつ高収益を期待できる高齢者の家計は割合としてはそう高くないであ
ろう.
こうした点で,郵便貯金は,老後において安定した生活がおくれるように,できるだけ安全か
つ収益性の高い商品を引き続き提供していく必要がある.
3.資産格差への対応
同一世代内において,稼得と消費・貯蓄の選択の違いから資産蓄積に格差が生じる.資産は教
育や生前贈与,遺産を通して次の世代に移転され,次の世代における資産格差が生じる.この研
究の基本的な視点は,このような世代間移動のメカニズムを検討することにあった.
Zhou(2003)で,職種,年齢,学歴の違いが稼得の不確実性に大きく影響していることを指摘し
ている.Charles and Hurst(2003)は,裕福な親の子は裕福であるとの結果を得ている.また,
Carroll(2000)などは,富裕者の貯蓄率が他の所得層よりも貯蓄率が高いとの結果を得ている.日
本においても同様のことがいえよう.
こうした点で,親は,教育であれ贈与であれ,あるいは遺産であれ,次世代の子孫の相対的地
位を決めるということを認識する必要があろう.将来稼得の不確実が高い現状にあってはなおさ
らのことである.
34
したがって,郵便貯金としては,各家計が,必要な貯蓄額を,ライフサイクルのそれぞれの時
点で確保できるように,いわば家計のファイナンシャル・プランナーとして支援していく機能が
求められる.
最後に,貯蓄がISバランスから疎まれ,また他方で消費が美徳のようにいわれる昨今である
が,個々の家計にとって,「ライフサイクル目的」,「予備的動機」,「遺産動機」のいずれか
にかかわらず,貯蓄が欠かせないことに変わりはない,ということを強調しておきたい.
おわりに
以前,1985年に郵政省北陸郵政局から委託研究をする機会が与えられ,『北陸地域の家計貯蓄・
負債活動の動向』をテーマに家計の貯蓄行動を調査研究した.当時はDeaton and Muelbauer(1980),
King(1985)によって理論分析と実証分析の最新の状況を展望した.
それから現在まで,家計の消費,貯蓄,遺産行動について理論と実証分析の双方で非常に大き
な 進 展 が あ っ た . そ こ で , 今 回 の 研 究 で は , Browning and Lusardi(1996),Browning and
Crossley(2001),Bernheim(2002),Horioka(2002)などによって,最近までの家計貯蓄の理論と実
証分析の流れを展望する作業から始めた.
これまで,家計の貯蓄・遺産行動,世代間移転について考察し,併せて家計の貯蓄・遺産行動
および世代間移動の分析を通して,郵便貯金が果たすべき役割について論じた.それぞれの課題
をかなりの程度は明確にできたと思われる.
注
1.消費に関する展望文献としてDeaton and Muellbauer(1980),Atanasio(1999),貯蓄に関する展望文とし
てKing(1985),Browning and Lusardi(1996),Browning and Crossley(2001),貯蓄と課税に関する展望文献とし
てSandmo(1985),Boadway and Wildasin(1994),Bernheim(2002)などがある.1990年代前半までの日本の家計の
貯蓄行動や貯蓄意識に関しては貯蓄経済研究センター(1990),高山(1992),橘木・中馬(1993),橘木・下野(1994),
富田・間々田(1995)を参照.最近は日本でも,郵政研究所や家計経済研究所が行っているアンケート調査のミク
ロデータを用いた精度の高い実証分析がなされている.春日・岩本(2000),高山・麻生・宮地・神谷(1996),高
橋(2003),ホリオカ・藤崎・渡部・石橋(1998),ホリオ カ・横田・宮地・春日(1996),ホリオカ・春日・山崎・
渡部(1996),ホリオカ・横田・西川・岩本(2002),ホリオカ・浜田(1998),牧(1998a),牧(1998b),牧・中村(1998)
などを参照のこと.
2.例えば,中川(2003)をみよ.
3.貯蓄動機や遺産動機に関して,1990 年代前半までの展望に関しては,大澤(1990),大竹・ホリオカ(1994),
最近までの展望には,ホリオカ・他(2002),Horioka(2002)がある.ところで,郵政研究所の「家計における金融
資産選択に関する調査」(第4回まで)では,貯蓄の目的が,①老後の生活に備えて(老後目的),②不時の出費
35
に備えて(病気目的),③子供の教育費に(教育目的),④子供の結婚資金に(結婚目的),⑤マイホームの取
得に(住宅目的),⑥耐久消費財の購入に(耐久消費財目的),⑦レジャー資金に(レジャー目的),⑧納税資
金に(納税目的),⑨独立自営のための資金に(自営目的),⑩とくに目的がないが安心のため(安心目的),
⑪遺産に(遺産目的),⑫その他,に分類されている.なお,郵政研究所の第5回(1996 年)以降の調査では,⑧
が削除され,「要介護時の出費に」と「自分の結婚資金に」という調査項目が加えられている.ホリオカ・渡辺
(1997,1998)は,②と⑩を予備的動機,⑪を遺産動機,それ以外をライフサイクル目的に分類している.Modigliani
は,①家計の貯蓄行動はライフサイクル・モデルで説明できる,②貯蓄(資産の蓄積)は退職後の消費をまかな
うためである,③遺産のための蓄積は重要ではない,とし遺産など世代間の移転がそれほど重要な問題ではない
と解釈しており,ここでは Modigliani の考え方に沿って,おおよそ予見できる支出に備える貯蓄を前者に,発生
が予見し難いものへの出費に備える貯蓄を後者に分類する.
4.世代間移動(intergenerational mobility)とは,親,子,孫,その子孫の間での所得や財産の関係つま
り一族の財産の盛衰をいう.Becker(1981),Becker and Tomes(1979),Tomes(1988b),Caballé and Fuster(2003)
を参照.
5.貯蓄のライフサイクル・モデルは通時的な消費配分モデルであり,この点では Ramsey(1928)らがすでに
ライサイクル・モデルを用いて貯蓄理論を研究していたといえる.また,ライフサイクル・モデルとは何かにつ
いて定説はない.Browning and Crossley(2001)は,モデルの源泉としての「ライフサイクル枠組」(life-cycle
framework)と「特定のライフサイクル・モデル」(particular life-cycle model)との区別を強調し,「唯一のラ
イフサイクル・モデル」(the life-cycle model)があるのではなく,全てのモデルはそれぞれ特定のモデルであ
るに過ぎないとしている.その他,Modigliani(1970,1987),Shorrocks(1979),Jousten(2001)を参照.
6.3期間モデルの厳密な分析については,Samuelson(1958)を参照.
7.総所得をY,総消費をC,全家計に共通の1人当たり年平均消費 c,労働期間の年平均稼得率をe,19
歳以下人口をd,労働年齢人口をw,退職人口をrとすると, Y
の予算均衡条件は W
は SR
= w * e , C = (d + w + r ) * c ,また各家計
* e = L * c となる.これから e = L * c / W が得られ,L=D+W+Rを利用すると,貯蓄率
= 1 − C / Y = ( D + R) / L − (W / L)(d / w) − (W / L)(r / w) で求まる.
8.共和分分析については,Greene(1997),Seddighi et al. (2000)を参照されたい.
9.予備的動機の包括的な議論については Browning and Lusardi(1996)がある.借り入れ制約と予備的貯蓄
に関しては Deaton(1991),Deaton and Paxson(2001),Carroll(2001)を参照.
10.Tobin(1980)は,以下のようにBarroの理論を批判している.①ある世代に子供がないとか,あるいは
子孫の効用に無関心であるならば,この連鎖は破られる.②子孫の効用に無関心な親の行動は,子孫の効用を配
慮する親の行動に影響する.③親の効用は,ある程度子供の効用水準そのものとは独立に,自分たちが子供にど
れだけ残したか,あるいは与える者の満足感のために行われることもある.④子供たちの効用水準に関心を持っ
ている家計であっても,効用を最大にする最適計画が何らかの遺産を残す内点解でなく,全然遺産を残さないと
いう端点解となる家計もある.
11.Modigliani(1987)は,しかしながらライフサイクル・モデルの適合性を強調し,①一国の貯蓄率は一
人当たり所得とはほとんど独立である,②国民貯蓄率は単に市民の異なる節約の結果ではない.それは,異なる
36
国民貯蓄率が同一の個人の(ライフサイクル)行動と整合的である,③同一の個人的行動を有する国々の間では,
長期経済成長率が高ければ高いほど国民貯蓄率は高い.ゼロ成長では貯蓄率はゼロである,④資産・所得比率は
成長率の減少関数である.したがって,ゼロ成長では最も高い,⑤資産が遺産によって移転されなくても経済は
所得と比較して大きな資産の蓄積が可能である,⑥資産・所得比率と所与の成長率に対する貯蓄率を制御する主
要なパラメターは支配的な退職期間の長さである,と主張している.
12.遺産動機の実証分析として,大竹・ホリオカ・他(1994),高山・麻生・他(1996),岩本・古家(1996)
などがある.
13.王朝モデル(dynasy model)は,親が子々孫々まで家や事業が受け継がれていくことを重視しつつ貯蓄・
遺産行動を行うことを想定するモデルである.Becker や Barro の利他主義モデル(altruistic model)も,親が子
に愛情を持ち子のためを思って行動することを想定している.たとえば Becker(1981)に従えば,個人pと個人k
がいるとすると,「利他的(altruistic)」とは個人pの効用関数が個人kの効用に正で依存していることを意味す
る,また,「実効的(effective)」とは,個人 p の行動が利他主義によって影響されるということである.利他主
義は形式的に, U p
= U [C1 p , C 2 p ,K, C mp , Ψ (Vk )] ,かつ, ∂U p ∂Vk > 0 と定義される.ここで,Up,
Vk,Cip,はそれぞれ個人pの効用関数,個人kの効用関数,個人pの消費財の消費である.また,∂U p
∂C ip > 0 ,
∂Ψ ∂Vh > 0 である.こうしたことから,王朝モデルと利他主義モデルが相互交換的に用いられることが多い.
しかし,親の遺産動機や遺産行動を分析する際には,家や家業を継ぐ子を可愛がるのと,子に対する一般的な愛
情とは区別しておくことが便利であろう.ホリオカ・他(2002),Horioka(2002)もこうした扱いをしている.
Weil(1989),Chu(1991)も参照されたい.
14.親が,子の稼得Iiと遺産Biを区別して各々から独立に満足を得ると想定すると,稼得は遺産と独立と
なる.この場合,親の効用関数は,子の数がn人であるケースで次のように表せる.
U p = U p ( I 1 , K , I n , B1 , K , Bn ) = U *p [U I ( I 1 , K , I n ),U B ( B1 , K , Bn )] .稼得と遺産が分離可能という意
味で,「稼得-遺産分離可能モデル」といわれる.親の行動様式がこのようだと,稼得が少なくて貧しいからと
いって,遺産はまた別の観点から分配されるので,より多く遺産が分配される保証はない.このモデルの詳細は,
Behrman et al. (1982)を参照されたい.
15.「補償的遺産モデル」はBehrman et al. (1982)に従えば,「資産モデル」(wealth model)と呼ぶことが
できる.親が,子の稼得Iiと遺産Biを独立とは見なさないとすると,親の効用関数は,子の数がn人であるケー
スで,U p
= U p ( I 1 ,K, I n , B1 ,K , Bn ) = U p ( I 1 + rB1 , K, I n + rBn ) のように表せる.rは利子率である.
稼得1円と遺産1円は親にとって同一の価値を持つ.詳細は,Behrman et al. (1982)を参照されたい.
1 6 . Laitner and Ohlsson(2001) の 利 他 的 モ デ ル を 示 し て お く . 親 の 効 用 は 自 ら の 消 費 の 効 用
U = U ( I p + B − T ) と子の効用 V = V ( I k + T ) の一定部分μVからなると仮定される.ここで,Ipは親の所
得,Bは親が受け取った遺産,Tは親から子への遺産,μは親の利他的動機の強さを表すパラメターでμ>0であ
る.利他的な親の最適化問題は, T
≥ 0 の制約の下で,Tに関してU+μVを最大化することとして表される.
U(.)とV(.)は凹の増加関数と仮定される.これから,問題を解いて,最適な遺産を T として,∂T
*
∂T * / ∂I p > 0 , ∂T * / ∂µ > 0 , ∂T * / ∂I p − ∂T * / ∂I k = 1 ,が得られる.
37
*
/ ∂I p > 0 ,
17.Laitner and Ohlsson(2001)の交換モデルを示しておく.親が交換動機を持つ場合,親の効用は自らの
= U ( I p + B − P( I k ) s ) と子の効用 V = V (s ) の一定部分μVからなると仮定される.ここで,
消費の効用 U
P = P( I k ) は子が親に提供するサービスsの対価であり ∂P / ∂I k > 0 と仮定される.交換動機をもつ親は,
s ≥ 0 の制約の下で,sに関してU+μVを最大化すると想定される.
U(.)とV(.)は凹の増加関数と仮定される.これから,最適な遺産を T として,∂T
*
が得られる.ただし, ∂T
*
*
/ ∂I p > 0 ,∂T * / ∂µ > 0 ,
/ ∂I k の符号は確定しない.
18.Probit法については,Greene(1997),Seddighi et al. (2000),Wooldridge(2002)を参照されたい.
19.Tobit 法については,Greene(1997),Seddighi et al. (2000), Wooldridge(2002)を参照されたい.
20.Horioka(2002) の利己的モデル(selfish model)ないしライフサイクル・モデルでは,親も子も自らの
ことしか考慮しないで行動すると想定される.形式的には.親について,効用関数が U
= U (C p ) ,予算制約が
C p ≤ I p で,また子について,効用関数が V = V (C k ) で,予算制約が C k ≤ I k で表される.なお,Laitner and
Ohlsson(2001) の 利 己 的 モ デ ル (egoistic model) も 示 し て お く . 親 の 効 用 は 自 ら の 消 費 の 効 用
U = U ( I p + B − I k ) と子の効用 V = V ( I k ) の一定部分μVからなると仮定される.親は T ≥ 0 の制約の下
で,Tに関してU+μVを最大化すると想定される.U(.)とV(.)は凹の増加関数と仮定される.これから,最
適な遺産を T として, ∂T
*
21. U s
*
/ ∂I p > 0 , ∂T * / ∂I k = 0 , ∂T * / ∂µ > 0 ,が得られる.
= wU c であること考慮すると,AとDより, A = wD − Vcs (Vcu − wU c )U cc ,AとBより,
B = wA + Vu ( wU cs − U ss ) を得る.これから行列式の値は,
A 2 − BD = −{ AVu (U cs − wU cc ) + DVu ( wU cs − U ss )} となる.比較静学の結果はクラーメルの公式を用
いて容易に得ることができる.
22.富裕層の貯蓄率が高い原因については,Huggett and Ventura(2000)も参照されたい.彼らは,所得階
層間で貯蓄率が不均一である理由そして,①恒常所得と一時所得の差,②選好の相違,③健康ショック,④投資
機会,⑤政府の租税・支出政策をあげ、それらの影響をシミュレーション分析している.それによれば,年齢と
相対的な恒常所得が,社会保障制度とともに重要であるとの結果を得ている.
2 3 . 資 産 分布 に 関 し て ,Wolff(1998)は国際比較,Arrondel et al.(1994)はフランスの資産分布,
Davies(1994)は英国とカナダの資産分布をそれぞれ分析しているが,データはいずれも 1980 年代のものである.
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