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リーマン・ショックと世界金融危機 (簡易版)
Ⅳ リーマン・ショックと世界金融危機 (テキスト:pp.251-257) 1.世界金融危機のマクロ的側面 (1) 熱狂の10年(1995-2005) (2) グリーンスパンの謎 2.世界金融危機のミクロ的側面 (1) 住宅バブルの崩壊からリーマンショックへ (2) 高レバレッジ経営の終焉 補論.通貨危機と金融危機 1 世界金融危機を巡る論点 マクロ的な要因 – グローバル・インバランス⇒世界的過剰貯蓄(バーナンキ) – FRBの金融緩和⇒世界的過剰流動性 (テイラー) John B. Taylor (2009), Getting Off Track:How Government Actions and Interventions Caused, Prolonged, and Worsened the Financial Crisis (竹森俊 平[解説]/村井章子[訳]『脱線FRB』日経BP社) ミクロ的な要因 – 複雑化した証券化商品 – 高レバレッジ経営 2 Global Saving Glut vs. Global Excess Liquidity Causes of Global Imbalances and Global Financial Crisis CA= (e) S ( r ) − I ( r ) ①Too Little Investment? (Since Asian Financial Crisis 1997) ②Too Much Savings? ⇒Global Saving Glut Hypothesis ⇒Low long-term real interest rate ③Highly Competitive Exchange Rates? ⇒Bretton Woods II Hypothesis 3 大いなる安定(Great Moderation) Stock, J. and M. Watson(2002), “Has the Business Cycle Changed and Why”, NBER Working Paper, No. 9127, August. • From 1960-1983, the standard deviation of annual growth rates in real GDP in the United States was 2.7%. From 1984-2001, the corresponding standard deviation was 1.6%. Bernanke, B.(2004) "The Great Moderation”, Remarks at the Meetings of the Eastern Economic Association, February 20. • One of the most striking features of the economic landscape over the past twenty years or so has been a substantial decline in macroeconomic volatility i.e., a remarkable decline in the variability of both output and inflation.” • three types of explanations; structural change, improved macroeconomic policies, and good luck 4 3つの要因 1.Change in Economic Structure Better technology, e.g. better inventory control and management Financial innovation and deregulation 2.Better Policy Volcker, Greenspan, “Taylor principle” stabilized inflation 3.Good Luck no big shocks hit the economy Globalization leading to dispersed risk 5 米国の為替レート・短期金利・長期金利の推移 長期金利上がらず アジア通貨危機 金融緩和⇒住宅バブル 逆プラザ合意⇒ドル高 FRB等より筆者作成 短期金利引き上げ 6 失われた10年(日本)と狂乱の10年(米国) (1995年~2005年) 1. ルービンによる「逆プラザ合意」(1995年)と「ドル高政策」 2. 「円キャリートレード」と「円安」の定着(1990年代後半) ******アジア危機(1997)******* 3. dot-comバブルの崩壊 ⇒FRBの金融緩和⇒住宅バブルの発生(2000年代前半) 4. 「グリースパンの謎(長期金利の謎)」と 「バーナンキの世界的過剰貯蓄」(2005年) ******世界金融危機(2007-2008)******* 7 米国への資金流入 ルービンによる 「ドル高」政策(1990年代後半) ⇒グローバルインバランスⅠ 住宅バブルの発生 グリーンスパンによる 「低金利」政策 (2000年代前半) グリーンスパンの謎 ⇒「ドル安」の定着 バーナンキによる グリーンスパンによる 「世界的過剰貯蓄」 金融引締政策 (2000年代後半) ⇒グローバルインバランスⅡ 住宅バブルの崩壊 ⇒世界金融危機 8 金融危機(2007) 住宅バブルの崩壊に伴うプライマリー・マーケットにおけるサ ブプライムローンの焦げ付きは、セカンダリー・マーケットで ある証券化市場に飛び火した。 • 2007年6月22日、全米第5位の投資銀行ベアー・スターンズ は、傘下のヘッジファンド2社の救済のため32億ドルを救出 すると発表、7月10日には、格付け機関のムーディーズが、 サブプライムローンを組み込んだMBSの399銘柄にのぼる大 量格下げを発表。 サブプライム問題は、局地的な住宅ローン市場の問題から、 世界の資本市場の危機へと拡大。 • RMBSは世界中の投資家に販売されていたので、8月にはフ ランスのBNPパリバ(パリ国立銀行とパリバが合併して誕生し たユーロ圏で最大規模の金融グループ)が、傘下の3つの ファンドを凍結、 • 9月にはイギリスのノーザン・ロック銀行の取り付け騒ぎにま で発展。 9 2008年の金融危機(リーマン・ショック) • 2007年3月16日:全米第5位の投資銀行ベアー・スターンズ、経営危機 ⇒5月30日:JPモルガン・チェースに買収。 • 2008年9月15日:第4位のリーマン・ブラザーズ、破綻 第3位のメリルリンチ、バンク・オブ・アメリカに買収。 • 9月16日:保険最大手のAIGに対し、FRBは最大850億ドル(9兆円)の公的融資を発 表(国有化!)。⇒CDS問題が顕在化 • 9月21日:ゴールドマン・サックス(第1位)、モルガン・スタンレー (同2位)、「銀行持 株会社」(傘下に商業銀行を保有する持株会社)に移行 ⇒全米5大投資銀行のうち、下位3つが破綻ないしは買収、上位2つは商業銀行化 • 9月29日:金融安定化法案、下院で否決! ⇒NYダウ$777ドル安(史上最大) ・10月3日:金融安定化法($700bn bailout plan for the US financial system Troubled Asset Relief Program:TARP) : 公的資金枠は最大7000億ドル(約70兆円)。2500億ドルは直ちに支出、緊急時は 1000億ドル追加、残り3500億ドルは議会が支出を拒否できる。 10 NHKスペシャル『マネー資本主義』 第2回(2009年4月19日(日)) 「“超金余り”はなぜ起きたのか?~カリスマ指導者たちの誤算~」 • 空前の規模で世界を襲った今回の金融危機。その原因は膨大なマネーが 世界に溢れ、無謀な投資を可能にしたことだとされる。この「超・金余り」を もたらしたと今、厳しく批判されているのがアメリカの政策だ。グリーンスパ ン前FRB議長(連邦準備制度理事会 中央銀行総裁に相当)や、ルービン 元財務長官らカリスマ的指導者を擁し、世界の金融界をリードし続けたアメ リカの金融当局。彼らの政策の何が問題だったのか?それはどのように決 定されたのか?政府中枢の意志決定の過程を、関係者の証言で検証する。 • ドキュメンタリー部分に加え、オリジナルドラマを交えて番組は進行する。西 岡徳馬さん、富田靖子さん、金子貴俊さんらが出演、大金を拾った主婦が 巻き起こす事件のドラマと、世界の金余りの謎を解き明かすリポートが絡み 合いながら、このたびの金融危機と日本人との意外な関わりを明らかにし ていく。 http://kabu-fx-news.seesaa.net/article/124128702.html 11 以下の点を考えながらビデオを見て下さい ①「世界的な超カネ余り」(global excess liquidity)は なぜ生じたのか? ②グリーンスパンの謎(Greenspan’s Conundrum)の 謎とは何か? ③円キャリートレード(yen carry trade)とは何か? また何をもたらしたのか? ④ミセス・ワタナベ(Mr. Watanabe)とは何物か? 12 (世界およびアメリカの)超金余り⇒金融危機のメカニズム ルービン財務長官による 「ドル高」政策(1990年代後半) 世界中の資金が米国 に流入するメカニズム 住宅バブルの発生 住宅バブルの崩壊 Ex:円キャリートレード グリーンスパンFRG議長による 「低金利」政策(2000年代前半) 世界中の貯蓄過剰 Ex:Mrs.WATANABE グリーンスパンの謎 短期金利を上げても、 長期金利が上がらな い⇒金融政策の失効 (世界)金融危機! グリーンスパンFRG議長による 金融引締政策(2000年代後半) 13 2.世界金融危機のミクロ的側面 住宅バブルの崩壊 • アメリカでは、2000年代にかつてない住宅ブームが到来し、住宅価 格の上昇等に支えられた消費拡大によって高い経済成長。 • また2004 年以降、サブプライムローン(低所得者向け高金利住宅 ローン)の貸出しが大幅に増加し、特に05~06 年に貸付機関の融 資基準が弛緩したことによって、高リスクな貸出しが増加。 • 大半は、預金機能を持たないモーゲージ・カンパニーによる貸出し で、クレジットヒストリーの無い移民、クレジットヒストリーに瑕疵のあ る顧客などの低所得階層に対し、住宅価格の上昇を前提として、略 奪的貸付とも言われる半ば強引な貸出しが行われた。 • しかし、06年に入ると、住宅投資は減少に転じるとともに、住宅価格 の上昇も鈍化し始めた。住宅バブルの崩壊である。これに伴い、サ ブプライムローンの延滞率・差押率が高まった。 14 アメリカ住宅価格の推移 15 サブプライムローンの貸出しの推移 16 サブプライムローンの延滞率 17 住宅ローンの証券化 投資銀行 政府系住宅金融機関 債権売却 プライマリー・マーケット 投 資 家 モーゲージ・カンパニー 住宅ローン利用者 融資 証券化 債権売却 証券化 セカンダリー・マーケット 18 住宅ローンの証券化と国際資本市場への波及 • 地方のモーゲージ・カンパニーや銀行が、ハイリスク・ハイリター ンのサブプライムローンを拡大させていった背景は、その債権を ウォール街の投資銀行に売却することによって、信用リスクも転 売できたからである。 • 投資銀行がサブプライムローンを買い取ったのは、それを住宅 ローン担保証券([Residential] Mortgage Backed Security, [R]MBS) 等に証券化することによって、リスクを分散化(多様なリスクを一 つの証券に束ねることによって、大数の法則が働き、高リスクの サブプライムローンのリスクも軽減)し、この証券化商品をヘッジ ファンド等の世界中の投資家に販売できたからである。 • アメリカの住宅ローン市場の規模は、2007年末の残高で10.5兆ド ル(対GDP比76%)、そのうちの約6割は証券化されている(2割が投 資銀行等による民間証券化であり、4割は、後述のように、政府 系住宅金融機関によるエージェンシー証券化である)。 19 金融危機(2007) 住宅バブルの崩壊に伴うプライマリー・マーケットにおけるサ ブプライムローンの焦げ付きは、セカンダリー・マーケットで ある証券化市場に飛び火した。 • 2007年6月22日、全米第5位の投資銀行ベアー・スターンズ は、傘下のヘッジファンド2社の救済のため32億ドルを救出 すると発表、7月10日には、格付け機関のムーディーズが、 サブプライムローンを組み込んだMBSの399銘柄にのぼる大 量格下げを発表。 サブプライム問題は、局地的な住宅ローン市場の問題から、 世界の資本市場の危機へと拡大。 • RMBSは世界中の投資家に販売されていたので、8月にはフ ランスのBNPパリバ(パリ国立銀行とパリバが合併して誕生し たユーロ圏で最大規模の金融グループ)が、傘下の3つの ファンドを凍結、 • 9月にはイギリスのノーザン・ロック銀行の取り付け騒ぎにま で発展。 20 政府系住宅金融機関 • 2008年7月13日:アメリカ財務省は、政府系住宅金融機関 (Government-Sponsored Enterprises, GSE)である連邦住宅 抵当公庫(ファニーメイ)と連邦住宅金融抵当金庫 (フレディ マック)の2社が、実質債務超過に陥ったことに対し、公的 資金を注入して資本増強するとの声明を発表。 • GSEも、住宅ローン債権をRMBSに証券化して売却している が、民間の投資銀行とは異なり、このRMBSには公社によ る元利払いの保証が付く。またGESが発行する社債(GES 債)も1.6兆ドルにのぼるが、これにも米政府による「暗黙 の保証」が付くとみなされている。 21 政府系住宅金融機関(cont.) •政府救済の対象となった2社が発行するGSE債は、5兆ドル(約535兆円)にも達し、 日本のGDP(515兆円)や、米国債の発行残高(4.5兆ドル)をも上回る規模。 •しかも、政府による「暗黙の保証」が付くとの見方から、海外の投資家は、米国債 並みの安全資産として保有し、さらにはロシアや中国など多くの国が、外貨準備 の一部として保有。 •GSEに債務不履行の懸念が強まり、GSE債が売却され始めるようなことになれば、 事態は国際通貨ドルの信認問題にまで波及する。GSEが破綻でもすれば、各国 の外貨準備の一部が「紙くず」になるからである。だからこそ、いち早く公的資金 の注入という米政府としては異例の措置を発表。 •しかし、米国債残高をも上回る負債は、「too big to fail(大きすぎて破綻させられな い)」どころか、「too big to bail(大きすぎて救済できない)」との見方もある。 •しかも、たとえ米政府の救済策によってGSEが破綻を免れても、GSE救済による米 政府の財政悪化が懸念されると、アメリカの長期金利が上昇する可能性がある。 それは、今まで「グリーンパンの謎」(長期金利が低位安定し続けている謎)と言わ れ、巨額の経常収支赤字と、累積する対外純債務の下で、ドル価値の安定を維 持してきたメカニズムが一挙に崩れ去る危険な要因となる。 22 2008年の金融危機(リーマン・ショック) • 2008年3月16日:全米第5位の投資銀行ベアー・スターンズ、経営危機 ⇒5月30日:JPモルガン・チェースに買収。 • 9月15日:第4位のリーマン・ブラザーズ、破綻 第3位のメリルリンチ、バンク・オブ・アメリカに買収。 • 9月16日:保険最大手のAIGに対し、FRBは最大850億ドル(9兆円)の公的融資を発 表(国有化!)。⇒CDS問題が顕在化 • 9月21日:ゴールドマン・サックス(第1位)、モルガン・スタンレー (同2位)、「銀行持 株会社」(傘下に商業銀行を保有する持株会社)に移行 ⇒全米5大投資銀行のうち、下位3つが破綻ないしは買収、上位2つは商業銀行化 • 9月29日:金融安定化法案、下院で否決! ⇒NYダウ$777ドル安(史上最大) ・10月3日:金融安定化法($700bn bailout plan for the US financial system Troubled Asset Relief Program:TARP) : 公的資金枠は最大7000億ドル(約70兆円)。2500億ドルは直ちに支出、緊急時は 1000億ドル追加、残り3500億ドルは議会が支出を拒否できる。 23 24 CDS(クレジット・デフォルト・スワップ) B銀 行 A社 社債投資 保険料(プレミアム)支払い C保険会社 • A社に対する信用リスクを回避しようとするB銀行を プロテクション(保護)の買い手、B銀行に保証を与 えるC保険会社をプロテクションの売り手と呼ぶこと にすると、クレジット・デフォルト・スワップは、プロテ クションの買い手(B銀行)が、売り手(C保険会社)に プレミアムを支払って、ローン債権の返済の保証を 得る取引。 デフォルト保険。 A社破綻時に保証料 (プロテクション)支払い 25 CDSの問題点 • BIS規制がきっかけに拡大 ⇒B銀行からC保険会社へ債権は移らず、リスク だけが移る(C保険会社にとってはオフバランス 取引+B銀行は自己資本比率が上がる) • 自動車保険や火災保険などは、個別リスクが他 に波及しない。 ⇔金融危機はシステミック・リスク(地震) 26 TARPの実行 • 10月14日:公的資金による資本注入2500億ドル • 10月 30日:シティ・グループに250億ドルの資本注 入(財務省に対し優先株を発行) • 11月14日-15日:G20金融サミット(①世界不況の 回避[金融・財政政策での協調]、②金融危機の再 発防止[金融市場の規制・金融機関の監督]、③I MF改革) • 11月23日:シティ・グループに200億ドルの追加資 本注入(+3060億ドルの不良資産の損失保証) 27 TARPと財政赤字 • 2008会計年度(07年9月-08年10月)の財政赤字:4548億 ドル(約46兆円) と過去最大。 • GSEs[連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)と連邦住宅貸付 抵当公社(フレディマック)]2社で総額2000億ドルの優先 株の政府購入枠を設定、状況に応じて段階的に購入。 • AIGに対し最大850億ドル(約9兆円) をFRBから融資。米 政府はFRB融資の見返りとして、AIGの発行済み株式総 数の約80%の株式を取得。 • 金融安定化法7000億ドル(2500億ドルは直ちに支出、緊 急時は1000億ドル追加、残り3500億ドルは議会が支出 を拒否できる)⇒2500億ドルは資本注入(10月14日) 28 高レバレッジ経営(投資銀行型ビジネスモデル)の終焉 ・サブプライム危機⇒2007-2008金融危機 ⇒投資銀行の消滅⇒ウォール街型ビジネスモデル の終焉⇒高レバレッジ経営の終焉 自己資本規制の適用を受けず、市場から低金利の 資金を調達して借入金を膨らませ、高レバレッジを 効かせて高収益を稼ぎ出すビジネスモデル 自己資本 自己資本比率= ( ≥ 8% ) リスクアセット 総資産 1 レバレッジ = ≈ ≤ 12.5 自己資本 自己資本比率 29 負債・資本 資産 証券化商品 5000億円 自己資本(出資金) 100億円 借入金 4900億円 資産合計 5000億円 負債・資本合計 5000億円 証券化商品 5500億円 自己資本(出資金) 100億円 資産合計 利益 500億円 借入金 5500億円 負債・資本合計 4900億円 5500億円 資本注入 900億円 資本金 △900億円 証券化商品 4000億円 自己資本(出資金) 100億円 損失 △1000億円 借入金 4900億円 資産合計 4000億円 負債・資本合計 4000億円 債務超過=4000億円(資産)ー4900億円(借入金)=△900億円 30 レバレッジ=1 証券化商品 100億円 自己資本(出資金) 100億円 (利率 10%) 総資産 100億円 レバレッジ = = = 1 自己資本 100億円 自己資本利益率 = 100億円× 0.1 10億円 = = 10% 100億円 100億円 レバレッジ=50 証券化商品 5000億円 自己資本(出資金) 100億円 (利率 10%) 借入金 4900億円 (利率 5%) 総資産 5000億円 レバレッジ = = = 50倍 自己資本 100億円 自己資本利益率 = 5000億円× 0.1 − 4900億円× 0.05 255億円 = = 255% 100億円 100億円 31 FX(外国為替証拠金取引) レバレッジ=100 ドル買い 50,000ドル(500万円) ($1=¥100) 証拠金 証拠金 500ドル(50,000円) 500ドル(50,000円) 為替変動率=1% ($1=¥101) 50,500ドル(505万円) 利益率=100% 通常の外国為替取引 レバレッジ=1 ドル買い 500ドル(50,000円) 円資金 為替差益 ($1=¥100) 50,000円 (500ドル) 500円 (5ドル) 為替変動率=1% ($1=¥101) 505ドル(50,500円) 利益率=1% 32 通貨危機と金融危機 通貨危機(currency crisis) ① 固定相場制を採用している国の通貨が、外国為替市場で大量に売 り浴びせられ、 ② 通貨当局による自国通貨の防衛(外貨準備を用いた自国通貨の買 い支え)にもかかわらず、 ③ 外貨準備が枯渇してしまうと、自国通貨の価値が維持できなくなり、 通貨価値が暴落することを意味する。 当該通貨が売り浴びせられるのは、近い将来その国の通貨価値が 維持できない(通貨価値が大きく下落する)という予想から、通貨価値 を維持している(通貨価値が高い)間に売っておこうとするからである。 また、通貨危機に陥った国は、国際通貨基金(IMF)から短期資金(国 際流動性=通常は米ドル)の供与を受け、枯渇した外貨準備を補填 すると同時に、IMFからは通貨危機に陥った要因を除去するような緊 縮政策をコンディショナリティーとして求められる。 34 タイの通貨危機 • タイの通貨バーツの場合、1ドル=25バーツ(1バーツ=0.04ドル)と いう固定相場制(ドルペッグ制)を採用 • 経常収支の悪化(対外支払いの必要性)から、外国為替市場では バーツを売ってドルを買う動き(ドル需要)が強まっていた。固定相 場制を採用している場合、外国為替市場でドルを供給するのは 通貨当局であるので、通貨当局の外貨準備は減少し始める。 • 外貨準備が減少し始めると、やがて通貨当局はバーツを切り下 げるのではないか(例えば1ドル=30バーツ[1バーツ=0.03ドル])と いう予想から、多くの市場参加者はバーツが高いうちに売ってお きたいという動機から、一斉にバーツを売り浴びせることとなった。 • そのため、タイの中央銀行の外貨準備は枯渇し、実際に(自己実 現的に)バーツの通貨価値は大きく下落し(1ドル=40バーツ[1バー ツ=0.025ドル])以下に急落し、固定相場制を維持できなくなったの である。 35 外国為替市場の構造 36 金融危機(financial crisis) 企業の倒産や銀行の破綻などをきっかけに、金融機関 が(短期)金融市場での資金調達[資金繰り]が困難となり、 流動性が不足(流動性リスク)することによって短期金利 が上昇し、ますます金融市場での資金調達が困難とな り、金融機関の破綻が相次ぐこと(システミック・リスク)。 ⇒中央銀行による金融市場への資金供給 (最後の貸 し手 Lender of Last Resort :LLR) ⇒破綻した金融機関への公的資金の投入(資本注入) ⇒金融機関による不良債権へ処理 ⇒預金保険機構 37 金融市場の仕組み 対顧客市場(小売市場) 家計 家計 預金 金利 銀 行 市場(卸売市場) 債券売却 手数料 金利 債券購入 資金 銀 行 貨幣供給増 融資 金利 企業 中央銀行 ブローカー 融資 手数料 銀 行 貨幣供給量減 資金 銀 行 企業 対顧客市場(小売市場) 38 金 融 危 機 家計 家計 預金 取り付け 銀 行 融資 中 央 銀 行 銀 行 銀 行 融資 金利 企業 最後の貸し手 (LLR) 銀 行 金利 預金保険機構 企業 金融危機 (流動性リスク⇒システミック・リスク ⇒短期金利[コールレートの上昇]) 39