...

河川生態を支える物理基盤の状態評価及び変化予測に関する調査

by user

on
Category: Documents
9

views

Report

Comments

Transcript

河川生態を支える物理基盤の状態評価及び変化予測に関する調査
5
河川研究部
河川生態を支える物理基盤の状態評価及び変化予測に関する調査
Research on condition evaluation and change prediction of
the physical environment supporting river ecosystem
(研究期間
河川研究部
River Department
河川研究室
River Division
室長
Head
主任研究官
Senior Researcher
研究官
Researcher
平成 22~24 年度)
服部 敦
Atsushi HATTORI
福島 雅紀
Masaki FUKUSHIMA
武内 慶了
Yoshinori TAKEUCHI
We developed 2-dimensional river bed variation analysis model incorporating the expansion and
extinction of vegetation, the deposits of fine sediment into vegetation area, and the increase of
resistance against flood flow by growth of trees. And we tried to apply this model to make an
assessment on habitat quality of the Kita-river, and compare some alternatives of river-channel design in
term of the balance of improvement of flood flow capacity, river environment conservation, and cost of
river-channel management.
[研究目的及び経緯]
するカワスナガニの生息環境を評価することとした。
河道改修には、治水機能の向上・維持のみならず、
河川環境の整備と保全が重要視され、それらを両立さ
[研究内容]
せる河道設計技術が求められている。河川環境を保全
1.モデル構築および物理基盤・地被状況変化を再現し
する具体的な手段を策定するにあたり、最も重要なの
うる平面解像度の検討(平成 22~23 年度)
は生物の生息空間となる物理基盤(河道の形状、表層
植生の遷移・流失機構、植生による細粒土砂の捕捉・
河床材料の粒径、植生の分布)の状態を評価し、その
堆積機構、樹木の成長に伴う流れの抵抗増加をモデル
変化を予測する技術であるが、十分な水準にあるとは
化し、国総研河川研究室が所有する平面 2 次元河床変
言えない。加えて治水及び環境面からの要求が相容れ
動計算モデル(物理基盤モデル)に組み込むことによ
ない場面も容易に想定され、このような場合の河道設
り、物理基盤・植生変化モデルを構築した。北川にお
計及び河道管理に関する基本的な考え方(折り合いの
ける河道形状の変化、群落ごとの植生分布の変化の実
つけ方)についても十分に示されていないのが現状で
態を整理し、その平面スケールを調べ、物理基盤・植
ある。
生変化モデルにより変化を再現しうる解像度(計算メ
本研究では、河道掘削及び樹木伐採による直接改変、
改変後の出水に伴う河道変化が見られた五ヶ瀬川水系
北川を対象とする。植生の遷移・流失、植生による細
粒土砂の捕捉・堆積機構を取り込んだ平面 2 次元河床
ッシュサイズ)を調べた。
2.物理基盤、生物生息環境変化の再現及び予測計算(平
成 23~24 年度)
①再現計算及び評価指標の設定
変動モデル(以下、物理基盤・植生変化モデル)を開
河道の物理基盤変化に伴う治水機能・環境機能の持
発し、それを北川に適用した。次に物理基盤・植生変
続性評価を行うにあたり、まず物理基盤・植生変化モ
化モデルによる計算結果を用い、流下能力変化の評価
デルによる再現性を把握し、再現性に見合う指標によ
及び生物生息環境への影響評価を試行し、河道の物理
って、流下能力や生物生息環境に及ぼす影響を評価す
基盤変化に伴う治水機能・環境機能の持続性評価の可
ることが重要となる。そこで、物理基盤・植生変化モ
能性について調べた。なお、本研究では北川の陸域に
デルを北川に適用し、過去 8 年間で生じた河床形状、
生息する中型哺乳類としてタヌキの、淡水区間に生息
河床材料及び植生の変化について再現計算を実施した。
する魚類としてボウズハゼの、感潮区間の水際に生息
再現性を詳細に確認した上で、それに見合う生物生息
環境への影響評価指標の設定を行った。
40
20
基盤変化及び管理がタヌキ、ボウズハゼの生息環境(環
0
0.6
流下能力(m)
(管理基準水位
-計算水位)
能である流下能力の維持に要するコストに加え、物理
境機能)に及ぼす将来影響の評価を試行した。
主な研究成果の概要を以下に示す。
1. 物理基盤・地被状況変化を再現しうる平面解像度
北川の河道変化実態のうち、物理基盤変化として低
0.00
1.00
2.00
3.00
4.00
5.00
6.00
7.00
8.00
9.00
10.00
11.00
2000
1500
1000
500
0
12.00
0.4
流下能力満足
0.2
0
-0.2
流下能力不足
-0.4
-0.6
整備コスト+
維持管理コスト(億円)
[研究成果]
樹木支配面積率
60
川の将来予測計算を行った。予測結果を用い、治水機
3500
3000
2500
ボウズハゼ選好度0.5以上
80
ボウズハゼ選好度
0.5以上の面積(m2)
物理基盤・植生変化モデルを用い、河道掘削あるい
は樹木伐採による流下能力管理の実施を前提とした北
実線:維持管理を実施した場合
点線:維持管理を実施しない場合
100
樹木支配面積率(%)
②予測計算及び治水・環境機能の持続性評価の試行
0
1
2
3
0
1
2
3
4
5
6
7
8
4
5
6
7
8
9
10
11
12
9
10
11
12
25
20
15
10
5
0
河道整備の実施
図-1
整備後5年経過
(維持掘削・樹木伐採)
整備後10年経過
(維持掘削・樹木伐採)
生物生息環境・治水機能の予測評価結果例
水路部における土砂堆積・河床低下範囲、地被状況変
化として時間経過に伴う植生群落の平面的拡大度合い、
能力管理を考慮した将来河道変化の予測計算を行った。
植生タイプの遷移・流失の平面的スケールを整理した
計算結果の一例を図-1 に示す。この計算ケースは、流
上で、物理基盤・植生変化モデルによりその再現計算
下能力管理方法として陸域生物に直接的影響を与える
を実施し、変化を再現しうる平面解像度を調べた。こ
高水敷掘削(樹木伐採を含む)を行った場合の予測計
の結果及び計算に要する時間的制約も考慮し、物理基
算結果である。また流下能力管理にあたり、次の横断
盤・地被状況変化を再現しうる平面解像度(計算メッ
測量時点までは流下能力が不足しないことを基本思想
シュのサイズ)を 5m×5m 程度と設定した。
とし、そのために必要な流下能力マージンを設定した。
2.物理基盤、生物生息環境変化の再現及び予測計算
また、予測計算により生物生息環境評価指標及び治水
①再現計算及び評価指標の設定
機能、整備・維持管理コストの時間変化を得た上で、
北川河床形状の変化について、実態と計算結果を縦
流下能力管理を行わない場合のそれと比較した。図-1
断的、平面的、横断的に比較し、物理基盤・植生変化
により、予測計算結果から得られる生物生息環境評価
モデルの再現性を調べた。その結果、河道法線形状が
指標、流下能力、維持管理コストといった河道管理の
緩やかなわん曲あるいは直線的で、かつ川幅の縦断変
検討項目について大局的に比較することができる。ま
化が小さい区間においては再現性が高く、河道法線の
た、異なる流量パターンや管理案により予測計算し、
曲率が大きい、あるいは川幅が縦断的に大きく変化す
結果を比較することにより、流下能力・河川環境保全・
る区間においては再現性が高くない特徴が確認された。
維持管理コストをバランスよく向上させられる河道整
地被状況については、地被タイプごと(裸地、パイオ
備・維持管理計画案を見出すためのツールとして役立
ニア的植物、安定植物、樹木)の平面分布の再現性は
つものと考えられる。さらには、河道整備・維持管理
高くないものの、一連区間における地被分類ごとの面
検討時に得た情報を計画設計担当から管理担当により
積の変化傾向で見た場合、比較的再現性を有していた。
具体的な形で受け渡すことにより、管理に反映させる
物理基盤・植生変化モデルの再現性と対象とした生
ことができると考えられる。
物の生息環境に支配的な要因に関する既往の研究成果
から、生物生息環境評価指標を以下のように設定した。
[成果の活用]
タヌキ:餌場となるデブリ(植物体由来流下堆積物)
本研究で作成した物理基盤・植生変化モデルと、モ
を捕捉しやすい樹木群の面積及びその時間変化。ボウ
デル計算結果を用いた生物生息環境評価を組み合わせ
ズハゼ:平水時の河床表層の粒径、流速、水深から表
ることにより、物理基盤・植生変化の予測精度や生物
される選好度(その地点での生息を好む度合い)の高
生息環境評価指標の設定に関する課題はなお残るもの
い面積及びその時間変化。なお、カワスナガニは平水
の、流下能力・河川環境保全・維持管理コストをそれ
時水際に堆積する砂分の堆積量により評価を試みたが、
ぞれバランス良く向上させられる河道整備・維持管理
生息場のスケールが横断的に極めて小さく、モデルで
計画案を見出すための検討ツールとして役立つ方向性
の再現が困難であった。
は示せたものと考えている。
②予測計算及び治水・環境機能の持続性評価の試行
①で設定した生物生息環境の評価指標を用い、流下
河道変化を前提とした改修及び維持管理の
最適化手法に関する調査
Research on the river improvement and management in consideration
of the characteristics of river changes
(研究期間 平成 22~24 年度)
河川研究部
River Department
河川研究室
River Division
室長
Head
主任研究官
Senior Researcher
研究官
Researcher
服部 敦
Atsushi HATTORI
福島 雅紀
Masaki FUKUSHIMA
武内 慶了
Yoshinori TAKEUCHI
In natural-levee reaches, we found the substantial mechanism of riparian deposits of fine sediment
originating from wash load material to cause forming high-water channel and channel narrowing
frequently. And we developed practical methods of estimating the longitudinal profile of flood flow
capacity. With these methods, we proposed the concept and a design method of “margin for flood flow
capacity”.
[研究目的及び経緯]
全国 109 水系すべての直轄河川において平成 20 年
度までに河川整備基本方針の策定が終了し、現在は河
川整備計画の策定がなされ始めている。計画を実行に
[研究内容]
1.川幅縮小現象の特性整理及び予測技術の開発(平成
22~23 年度)
①川幅縮小現象の本質的機構
移す際には、河道が不断に変化することを前提とし、
河積拡大後の川幅縮小河川を対象とし、堆積横断形
治水機能の維持を念頭に河道を設計する必要がある。
状のパターン、その発生パターンの縦断的特徴を調べ
そのためには計画のみならず維持管理も主軸に加え、
た。次に、細粒土砂の堆積速度と低水路・高水敷の比
改修と維持管理の最適化を図らなければならない。こ
高差との関係を調べ、川幅縮小現象の本質的機構を抽
の場合、河道の変化を精度良く見積もる技術を得ると
出した。
ともに、変化を前提とした河道設計の考え方を提案す
②本質的機構を組み込んだ細粒土砂埋め戻り速度の予
ることが必要である。
測技術の開発
自然堤防帯に属し、砂礫を河床材料に持つ河道にお
①で得た本質的機構を組み込み、かつ実効性のある
いて、一連の区間に渡り低水路を拡幅すると、平時に
細粒土砂埋め戻り速度に関する 2 種類の予測手法を開
水面上に現れる河床微高地に植生が繁茂し、その範囲
発した。
に河床材料にはほとんど含まれない細粒土砂が出水の
2.維持管理上合理的な河道設計法の検討(平成 23~24
たびに堆積していくことで高水敷が再形成され、元の
年度)
低水路幅に戻ること(以下、川幅縮小)、それが 10 年
①合理的な河道設計に関する基本的考え方の提示
以下といった比較的短期間で生じる事例が知られてい
1.で得た予測技術を用い、治水機能維持の観点から
る。この現象は河道管理の面からもその重要性はすで
川幅縮小が生じ得る河道を管理する場合に合理的とな
に認識されていたが、実務上実効性のある予測ツール
る河道設計法の基本的考え方を検討・提案した。
はほとんどなかった。本研究では、このように河積の
②維持管理上有利となる河道設計法の検討
減少が速やかに生じ、流下能力の維持管理に工夫を要
全国 109 水系の定期横断測量成果より、河積拡大後
すものの、その予測精度が十分でない事例を対象とし、
に川幅縮小が生じた、あるいは生じなかった河道区間
予測技術開発を行うとともに、合理的な河道設計法に
を 30 区間抽出し、河道変化に関する基礎的情報のデー
ついて検討した。
タベースを作成した。データベースを用いて、維持管
理コストを低下させ、更なる合理性を得るための河道
設計法について検討した。
810
[研究成果]
主な研究成果の概要を以下に示す。
1.川幅縮小現象の特性整理及び予測技術の開発
①川幅縮小現象の本質的機構
細粒土砂堆積により形成された高水敷の横断形状を
観察した結果、主に河岸付近に堆積するタイプ「河岸
際凸型」と、ほぼ一様に堆積するタイプ「一様堆積型」
に分類された。一連の堆積区間において、堆積形状は
上流ほど一様堆積型に、下流ほど河岸際凸型となるこ
とがわかった。細粒土砂の供給方向に着目し、河岸際
凸型を「横断方向拡散型」、一応堆積型を「縦断方向移
流型」と定義した。細粒土砂堆積領域における河床高
上昇速度は、低水路河床からの比高が大きいほど小さ
く、比高が小さいほど大きくなる傾向がある。これは、
比高が小さいほど細粒土砂堆積領域が冠水しやすく、
細粒土砂堆積に要する正味の時間が長くなったためと
考えられる。
②本質的機構を組み込んだ細粒土砂埋め戻り速度の予
測技術の開発
植生繁茂域内への細粒土砂堆積に関わる、①で示し
た本質的機構を損なわない範囲で大胆に簡略化した高
水敷再形成の簡易予測モデルを構築した。具体的には、
低水路部と細粒土砂堆積領域を分け、低水路部につい
ては 1 次元河床変動計算により縦断的な河床高変化を
求め、細粒土砂堆積領域については、浮遊状態で流下
する細粒土砂の捕捉・堆積機構をモデル化した計算を
行い、河道横断形状の変化を求める。各計算領域の結
果を合成し、最終的に河床横断形状の変化を予測する
手法である。再現計算の結果、縦断方向移流型及び横
断方向拡散型の混在領域の取扱いや、安息角に基づく
堆積土砂の再配分方法などの課題は残るものの、この
手法を用いることにより、河道設計時に維持管理労力
の最適化を図る見通しを得た。
次に、ウォッシュロード的挙動を示す細粒土砂の供
給及び、植生による捕捉・堆積機構を考慮した平面2
次元河床変動計算モデルを作成した。再現計算を行い、
堆積形状や一連区間における堆積量について、堆積タ
イプが混在する領域を含め、比較的良好な再現結果を
得たが、堆積材料の粒径の再現性、つまり供給する細
粒土砂粒径の与え方にやや課題が残る結果となった。
2.維持管理上合理的な河道設計法の検討
①合理的な河道設計に関する基本的考え方の提示
堆積傾向にある河道区間において、所定の流下能力
を確保するための一つの方策として、洪水の流下のた
めに必要な河積に加えて、土砂の堆積空間としての河
河積(HWL以下) [m2]
800
整備完了
105.0
-0.2
掘削マージン
-0.1
780
770
104.0
103.0
790
102.0
101.0
管理水準
0.0
100.0
99.0
760
0.1
98.0
750
740
1985
1990
1995
2000
2005
西暦 [年]
図-1
平均河床高
変動量(m)
河積変化率(%)
マージンを考慮した改修・維持管理コストの
予測計算結果例
積(マージン)を設定する考え方を提案した。つまり、
1)河道設計時においては、土砂堆積による将来の流下
能力の変動量を予測し、例えば年平均の再掘削土量と
維持管理可能労力のバランスから最適なマージンを設
定すること、2)河道管理においては、横断測量などに
より堆積量の状態監視を行い、マージンが堆積土砂で
満たされる前に維持掘削を確実に実施するための判断
基準を設定することにより、流下能力の管理を行う。
前述の予測技術を用い、マージンを考慮した河道整
備・維持管理の予測計算結果例を図-1 に示す。この予
測技術を用いることにより、ⅰ)目標流量を流下させる
ことができる複数の河道掘削形状案を作成し、ⅱ)各案
に対してマージンを設定し、土砂堆積による将来の流
下能力変動を予測した上で、ⅲ)実現可能な維持管理労
力に収まる案を選定し、その中から初期の改修コスト
と維持管理コストの総和が最小となる案を最適案とし
て設定することが可能となった。
②維持管理上有利となる河道設計法の検討
河積拡大後、速やかに川幅縮小が生じる区間と、川
幅縮小が生じない、あるいは川幅縮小が生じ始めるま
でに一定期間を要する区間があることがわかった。感
潮区間や堰湛水区間のように、平水時の水深が大きく
なるほど川幅縮小が生じない、あるいは生じ始めるま
でに一定時間を要する傾向が見られた。これは、平水
時水深が大きいことにより、低水路の一部が陸地化、
細粒土砂を捕捉する植生が繁茂しにくいためと考えら
れる。このことから、平水時水深が比較的大きい区間
において、掘削面高さを平時の水位以下に設定するこ
とにより、植生繁茂が抑制され細粒土砂堆積による埋
め戻りが生じにくくなり、維持管理上有利な河道設計
となり得ることを示唆するものである。
[成果の活用]
本研究で作成した予測技術や合理的な河道設計の基
本的考え方が、現場で活用・実践され、河道管理技術
レベルの更なる向上が期待される。
不定流解析に基づく流量配分・流下能力の一体的評価手法に関する研究
Research on integrated evaluation method for discharge distribution and flood flow capacity using unsteady flow analysis
(研究期間 平成 24~26 年度)
河川研究部 河川研究室
室
長
主任研究官
研 究 官
服部
敦
福島 雅紀
武内 慶了
[研究目的及び経緯]
本研究は、これまで時間変化を扱わない中で種々の折り合いを付けて合理性を保った不等流解析の技術体系を部分的
に見直すとともに、従前の流下能力評価との整合性について検討を行った上で、河道計画に不定流解析を導入すること
を目的とする。
平成 24 年度は、5 河川で得られた水位多点観測データを用い、出水ごとの水位、水位伝播速度、流量低減率、平均流
速の縦断分布を整理した。この結果を用いて、水位伝播速度と平均流速の比較など、実際の河川で生じた、不定流現象
としての洪水流下特性を調べた。
気候変動下での大規模水災害に対する施策群の設定・選択を支援する基盤技術の開発
Development of basic technique for supporting arrangement and selection of measures against large flood disasters
under the global climate change
(研究期間 平成 22~25 年度)
河川研究部 河川研究室
水資源研究室
室
長
主任研究官
研 究 官
服部
敦
板垣
修
加藤 拓磨
[研究目的及び経緯]
国土の高度利用に比して水災害に対する整備水準が低い我が国の特徴を踏まえ、気候変動適応策としての水災害リス
ク低減を早急に進めることが極めて重要である。本研究は、流域特性を踏まえた施策オプション設定手法、超過洪水に
係る水災害リスク評価手法等に関する検討を行い、具体的な施策群の設定・選択を支援する基盤技術を開発するもので
ある。
平成 24 年度は、全国 20 モデル河川を対象に、近未来・将来の氾濫原の人口・資産分布について 4 つのシナリオを設
定し、気候変動及び氾濫原の人口・資産分布の変化が水災害リスクに与える影響について試算・分析し、氾濫リスクの
変化傾向及び同試算手法の特性をとりまとめた。また、適応策に係る議論における活用を念頭に人的被害等の試算結果
を分かりやすく図示するプログラムを作成した。
災害調査を活用した技術基準の改訂の検討
Revision of technological standard based on lessons learned from disaster investigations
(研究期間 平成 20 年度~)
河川研究部 河川研究室
室
長
主任研究官
研 究 官
服部
敦
福島 雅紀
中嶋 啓真
[研究目的及び経緯]
河川管理施設の被災メカニズムを解明することで得られる技術的知見は、各種基準類の改定を検討する上での基本的
な情報であり、それらの情報を蓄積・共有化することは重要である。本検討は、災害時に迅速に現地調査を実施するこ
とで、被災メカニズムの解明を行い、収集した新たな知見を基に、技術基準の改定等に反映するものである。
平成 24 年度は、堰・床止め工おける、護床工の下流河道部の河床低下に対する追随性と礫の衝突による水叩き工の
摩耗の緩和に関して、水叩き工の高さ等の条件をかえて水理模型実験を行い、両者をバランスよく満たす構造物設計手
法を提案するための検討を行った。
河道管理の労力・効果の全国マクロ試算に基づいた合理化に関する調査
Research on the rationalization based on the macro trial calculation of effort and effect of river channel management
(研究期間 平成 24~26 年度)
河川研究部 河川研究室
室
長
主任研究官
研 究 官
服部
敦
福島 雅紀
武内 慶了
[研究目的及び経緯]
本研究は、近年顕在化してきた河道変化が今後の河川管理に及ぼす影響の大きさとその対策に関わる労力を概算し、
労力とリスク低減効果の大きさのバランスに基づき、維持管理の合理化方策を提示することを目的とする。
平成 24 年度は、全国 109 水系の直轄区間を対象に、河道容積と樹木容積の経年変化をそれぞれ水系別、セグメント
別、地方別に整理した。次に樹木容積変化が河道容積を減じた度合いを調べ、基礎的情報に基づく河道の変化実態を把
握した。
巡視・点検・維持補修がもたらす治水効果の評価手法に関する調査
Investigation about an evaluation technique of performance of flood control facilities by visual inspection
(研究期間 平成 24~26 年度)
河川研究部 河川研究室
室
長
主任研究官
研 究 官
研 究 官
服部
敦
福島 雅紀
中嶋 啓真
福原 直樹
[研究目的及び経緯]
本研究は、目視点検、補修・補強などの維持管理行為が堤防の治水機能の確保・向上にどれくらい効果をもたらして
いるのか定量的に評価する方法を提案することを目的する。評価手法の検討は、実堤防での堤防点検・巡視記録に基づ
く損傷発見の頻度分析、堤防のり面の状態に応じた侵食防止など機能の評価手法を組み合わせて行うこととしている。
平成 24 年度は、5 水系の直轄管理区間で実施された河川巡視、河川堤防等目視点検および補修に関する資料を用いて、
河川堤防の損傷発見特性の分析を行い、堤防の損傷をより効率的かつ的確に検知できる点検・巡視の実施範囲・頻度・
組み合わせ方等について検討を行った。また、実堤防から採取した大型不攪乱供試体を用いた洪水流に対する耐侵食性
と降水等の浸透に伴うすべり破壊に対する安定性に関する実験データを用いて、河川堤防のり面の状況に応じた侵食・
浸透に対する安全度評価手法の検討を行った。
河川堤防の津波対策に関する研究
Research on countermeasures against tsunami run-up in river
(研究期間 平成 24~26 年度)
河川研究部 河川研究室
室
長
主任研究官
研 究 官
服部
敦
福島 雅紀
松浦 達郎
[研究目的及び経緯]
東北地方太平洋沖地震津波による沿川での津波被害を受けて、河川津波対策が洪水・高潮と並んで計画的に防御対策
を検討する対象と位置づけられた。本研究は、津河川津波対策として堤防高や堤防構造等を個々の河川条件に応じて決
定するための検討手法を整理し、技術基準としてとりまとめることを目的としている。
平成 24 年度は、
北上川を対象に湾口から上流 10km 付近までの堤内地を含めた地形を縮尺 1/330 で水理模型を製作し、
津波の規模、河道形状、地被状況などの変化による津波遡上時の河道や堤内地の水位・流速等への影響を調べた。その
結果、河口砂州や河道の粗度等が津波遡上現象に与える影響を把握した。
治水施設の信頼性評価に関する調査検討
Research on the risk-based analysis for flood disaster priventiion and mitigation facilities
(研究期間 平成 23~25 年度)
河川研究部 河川研究室
水資源研究室
室
長
主任研究官
研 究 官
服部
敦
板垣
修
加藤 拓磨
[研究目的及び経緯]
社会資本整備審議会の答申「水災害分野における地球温暖化に伴う気候変化への適応策のあり方について」(2008
年 6 月)等を踏まえ、気候変動を考慮した水災害対策が喫緊の課題となっているが、同対策の検討では水災害リスクの
的確な評価が極めて重要である。本研究は上記水災害リスクの評価に必要不可欠である河川堤防等治水施設の信頼性評
価手法について調査・検討するものである。
平成 24 年度は、過去の出水時の堤防の機能発揮状況に基づく信頼性評価手法を米国陸軍工兵隊の事例を踏まえ提案
するとともに、国内の一級水系本川の国土交通大臣直轄管理区間を念頭に設定した 3 モデル河川において同手法に基づ
く堤防の信頼性の試算・分析等を行った。
水理水文解析ソフト共通基盤の拡充(CommonMP)
Improvement of Common Modeling Platform for hydraulic and hydrological analysis (CommonMP)
(研究期間 平成 22~25 年度)
河川研究部
河川研究部 河川研究室
流域管理研究官
室
長
主任研究官
吉谷 純一
服部
敦
菊森 佳幹
[研究目的及び経緯]
国土技術政策総合研究所は、平成 19 年度から河川・流域の様々な水・物質循環の素過程を再現することのできる要
素モデルを組み合わせて流域モデルを構成し、河川・流域の水・物質循環を解析することのできるソフトウェアである
水・物質循環解析ソフトウェア共通プラットフォーム(CommonMP: Common Modeling Platform for water-material
circulation analysis)を開発している。また、国総研は、国土交通省河川局や土木学会等とともに CommonMP の開発・
普及のためのコンソーシアム(CommonMP 開発・運営コンソーシアム)を結成しており、事務局としてその運営に当
たっている。
平成 24 年度は、CommonMP の改良(河道の分合流や越流氾濫のための制御方式の改良や機能拡張ツールのユーザビリ
ティの改善)を行った。新たに追加した機能の動作確認のため、分派機能については、利根川・江戸川分派点前後の河
道区間において再現計算を行った。越流氾濫については、名取川流域においてシミュレーション計算を行った。その結
果、解析結果に水理学的に不自然な挙動がないことを確認した。また、平成 23 年度末に整備・公表した要素モデルライ
ブラリへの要素モデルの登録を行った。
気候変動に適応した段階的河川整備に関する調査
Research on river improvement planning incorporating phased progress approach under the climate change
(研究期間 平成 24~25 年度)
河川研究部 河川研究室
水資源研究室
室
長
主任研究官
研 究 官
服部
敦
板垣
修
加藤 拓磨
[研究目的及び経緯]
国土の高度な利用に比して水災害に対する整備水準が依然として低い我が国の特徴を踏まえ、気候変動下の河川整備
では氾濫リスクを低減することが求められる。さらに、H23.3 の津波災害及び限られた予算等を踏まえると、当面の整
備水準を超える外力も考慮して、河川の段階的整備計画を策定することが極めて重要である。本研究は、上記氾濫リス
クの効果的低減に必要不可欠である効率的な氾濫リスク算出手法等について調査・分析し、気候変動に適応した段階的
河川整備目標の設定手法を提案することを目的としている。
平成 24 年度は、
大都市圏の一級水系本川の国土交通大臣直轄管理区間を念頭に設定した 2 つのモデル河川において、
河道の維持管理等について複数の対策ケースを設定し、年々の河床変動・維持掘削、樹木繁茂・伐採等をモデル化する
とともに、越水・破堤等による氾濫を反映した一次元不定流計算により、対策ケース・降雨の確率規模別の直接被害額・
人的被害の確率分布の試算・分析等を行った。
河川技術共同研究
Research and development on advance river improvement and management methods
(研究期間 平成 21 年度~)
河川研究部 河川研究室
水資源研究室
危機管理技術研究センター 水害研究室
[研究目的及び経緯]
河川行政における技術政策課題を解決するため、産学のもつ先端的な技術を積極的に活用し、産学官連携による技術
研究開発を促進することを目的として、
「河川砂防技術研究開発制度」
(平成 21 年より本省水管理・国土保全局に設置)
を実施している。国土技術政策総合研究所では、本制度の方針の検討及び応募課題審査にあたっての技術的意見付与、
および採択された研究課題の委託を行っている。
平成 24 年度は、
「X バンド MP レーダ等の観測情報の活用に関する技術開発」
、
「合成開口レーダ(SAR)を利用した防
災情報把握に関する技術開発」
、
「河道整備・管理に関する技術研究開発」
、
「河川管理のためのモニタリング手法の合理
化・高度化技術に関する技術研究開発」
、
「河川堤防の安全対策に関する技術研究開発」
、
「都市等流域の浸水状況の予測
等に関する技術研究開発」について、委託研究を行った。
“生きた砂浜”の再生手法に関する研究
Research on the method for recovering the seashore ecosystem
(研究期間
河川研究部 海岸研究室
River Department, Coast Division
室長
Head
研究官
Researcher
平成 22~24 年度)
諏訪 義雄
Yoshio SUWA
渡邊 国広
Kunihiro WATANABE
Field surveys on the formation process of the seashore vegetation were carried out on the Isewan
south-west coast. Significant differences were observed in the species composition of vegetation,
and the chemical and physical characteristic of surface sand among site. Effect of the disturbance
made by the wave on these differences was discussed.
[研究目的及び経緯]
砂浜の保全を目的とした海岸事業が全国でおこなわ
(L19-1)を設定する一方で、旧堤体が残存し、背後地
が波浪から遮蔽されている箇所に波浪遮蔽測線(L20)
れてきたが、砂浜が回復した後も本来の海浜植生帯が
とした。また、堤防のセットバックが行われず、本来
成立しない事例も見受けられる。沖合施設による海面
の海浜植生が生育している地点も対照測線(L18-1)と
の過度な静穏化が原因と考えられ、定期的に砂浜を耕
して設定した。
す手法も試みられているが、将来的には海浜植生帯の
成立・維持機構を理解して自律的な再生を可能とする
海岸管理を導入することが必要である。
そのための基礎研究として、三重県の伊勢湾西南海
2.海岸の土壌環境変化に関する調査
植物の生育に密接な関係がある要素として、海浜材
料の粒径、強熱減量、土壌硬度、化学的組成について
岸の北藤原工区(図-1)で海浜植生の成立過程に関す
も調査した。
る現地調査を実施した。当海岸は、老朽化した海岸堤
3.海岸への波浪の打ち上げに関する調査
防を改築するにあたり、設置位置を内陸に変更する“セ
海岸への波浪攪乱の影響を検討するために、堤防改
ットバック”が 2009 年に実施され、堤防前面に新たな
築以降の来襲波浪について分析し、海岸への波浪の打
砂浜空間が出現した海岸である。
ち上げ状況について CADMAS-SURF(VOF 法)および改良
仮想勾配法による数値計算を実施した。
[研究成果]
主な研究成果の概要を以下に示す。
1. 植生の遷移過程に関する現地調査
堤防改築後の初期には、海浜植物はほとんど出現せ
ず、メヒシバやヒメムカシヨモギ等の草地植物が急速
に繁茂して海浜のほぼ全体を覆い尽くしたことが確認
された。これら草地植物の生育状況には場所的な偏り
が見られなかったことから、堤防改築時に養浜盛土と
図-1
伊勢湾西南海岸における新旧の堤防位置
して投入した土砂に含まれていた埋土種子によるもの
と考えられた。
[研究内容]
1.植生の遷移過程に関する現地調査
伊勢湾西南海岸北藤原工区における堤防改築工事が
その後、この状態は約 2 年半続いたが、2011 年 9 月
以降のわずか 2 ヶ月半でハマヒルガオを中心とした海
浜植生に急激に遷移した(図-2)
。この場所ではその後、
終了した 2009 年 4 月以降、年 1~3 回の頻度で定期的
海岸低木であるハマゴウも出現するようになり、次第
に植生調査を実施し、海岸における植生の遷移過程を
に海浜植物の種類も増えつつある。2012 年 7 月の時点
把握した。セットバック後の変化を観測する測線
では、波浪が作用する測線と波浪が作用しない測線と
で、海浜植生の被度が顕著に異なるに至った(図-3)。
3.海岸への波浪の打ち上げに関する調査
伊勢湾西南海岸の沖合の浜田観測所における波浪観
測結果をもとに代表的な波浪を選定し、改良仮想勾配
法および、CADMAS-SURF によるうちあげ高の計算を実
施したところ、平均水位に波高の 1/2 の値を加えた指
標と良い相関が見られ(図-5)、この指標を用いること
で砂浜への波浪のうちあげ状況を簡便に推定できるこ
とがわかった。この点を踏まえて波浪観測結果を整理
したところ、うちあげ高が高くなる波浪の来襲は 5 回
あり(図-6)
、波向きを考慮すれば 2011 年 9 月 21 日の
波浪が最もうちあげ高が高く、海浜の植物に影響を与
図-2
え易かったことが確認された。この結果は、2011 年 9
植生分布の変化
月 7 日から 2011 年 11 月 23 日までの間に生じた植生遷
移の原因が波浪によるものであることを支持する。
100
海浜植生被度(%)
L19-1(波浪作用測線)
80
すなわち、海岸における草地植生から海浜植生への
L20(波浪遮蔽測線)
遷移は、数年に 1 回程度の攪乱がトリガーとなった劇
60
的に進行するものであることが示唆された。ただし、
40
土壌分析で確認されたような強熱減量や土壌硬度の状
20
態も遷移の下地として重要なものであり無視できない。
これらについては年数回程度の波浪作用による攪乱が
0
0
10
20
30
40
支配要因となっている可能性も考えられた。
堤防からの沖方向距離(m)
波浪作用の有無による海浜植生被度の違い
2.海岸の土壌環境変化に関する調査
土壌の化学分析では、堤防周辺の後浜部(3m 地点)
では測線 L19-1 と測線 L20 のいずれも交換性ナトリウ
ムや電気伝導度に違いが見られず、測線による海浜植
うちあげ高(+T.P. cm)
図-3
300
250
200
150
100
改良仮想勾配法
CADMAS-SURF
50
0
生被度の違いは土壌塩分によるものではないことがう
0
100
は安定しているのに対し、測線 L20 では次第に高くな
図-5
る傾向が観測され(図-4)
、土壌硬度も測線 L20 で顕著
いずれも海浜植生よりも草地植生が競争上有利となる
条件であり、測線 L20 における海浜植物の生育を阻害
している原因の一つと考えられた。
強熱減量(%)
L19-1,堤防から15m
L20,堤防から10m
L18-1(対照測線),堤防から3m
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
400
うちあげ高の計算結果
200
150
100
50
0
-50
J FMAM J J A S OND J FMAM J J A S OND J FMAM J J A S OND
2009
2010
2011
Date
図-6
うちあげ高が高かった推定される来襲波浪
[成果の活用]
3/25
2010
2/28
9/7
2/7
2011
7/24
2012
11/28
2/4
2013
調査実施日
図-4
300
250
平均水位+H1/3/2 (cm)
に高くなっていることが確認された。これらの変化は
200
平均水位+ H1/3/2 (cm)
かがえた。一方で強熱減量については、測線 L19-1 で
後浜部の土壌中における強熱減量の変化
今後は海浜植生の回復に必要な攪乱を定量的に明ら
かにし、実際の海岸管理で考慮できるようにしていく。
本研究で得られた成果は、東日本大震災で被災した海
岸環境の回復を考えるうえでも参考になる。
衛星画像による海岸線等モニタリング技術の開発
Development of method for monitoring coastline using satellite images
(研究期間 平成 24 年度)
河川研究部 海岸研究室
River Department, Coast Division
室長
Head
研究官
Researcher
諏訪 義雄
Yoshio SUWA
渡邊 国広
Kunihiro WATANABE
Positions of shoreline which obtained from four types of satellite images were compared with the
results of field surveys, and the differences were evaluated. Topography and submerged coastal
facilities were estimated using multi-spectrum satellite images on shallow water. Based on the
results of these investigations, applicability of satellite image to coastal management was discussed.
[研究目的及び経緯]
砂礫浜海岸における海岸保全事業を効率的に実施し
ていくためには、全国の海岸線の変化傾向を同じ手法
の処理を試行したうえで、位置精度を評価した。
2.空中写真・衛星画像を用いた海岸線モニタリングの
試行
によって評価し、保全事業が必要な海岸の優先順位付
本研究で試験的にデータベース化された空中写真・
けをおこなうことが必要である。これまでは、事業が
衛星画像を用いて宮崎海岸および静岡・清水海岸の海
おこなわれる海岸については空中写真判読や汀線測量
岸線判読をおこない、現地測量によって得られた汀線
による高精度の調査が実施される一方で、全国的な傾
位置と比較することで、画像の種類による海岸線判読
向把握については地形図の比較よってなされてきた。
精度の違いを算定した。
しかし地形図は、海岸によって更新の時期や頻度が大
3.マルチスペクトル画像を用いた海底地形把握の試行
きく異なるため、全ての海岸について同じ時間間隔で
海水中における減衰・散乱が少ない短波長光を用い
変化を把握できているとは限らないという難点があっ
たモニタリング方法を開発するために、千葉県犬吠崎
た。そこで本研究では、近年急速に解像度が向上し、
周辺を対象に WorldView-2 撮影のマルチスペクトル画
民間業者の多数参入により入手コストも低下しつつあ
像を用いて浅海域(水深 5m 以浅)における岩礁・人
る衛星画像に着目し、衛星画像を用いた定期的な海岸
工リーフ等の海底地形の判読し、海図上の岩礁および
線モニタリングの実施に向けた検討をおこなうことに
人工リーフの図面との比較をおこなった。
した。また、没水型施設の維持管理や岩礁等の浅海域
の地形保全へも衛星画像を用途を広げるために、マル
チスペクトル画像による海底地形の判読も試行した。
[研究成果]
主な研究成果の概要を以下に示す。
1. 画像様式に応じた空中写真のデータベース化手順
[研究内容]
1.画像様式に応じた空中写真のデータベース化手順の
の整理・試行
データベース化の手順は、正射投影変換や幾何補正
整理・試行
の必要性から、大きく5タイプに分類できることがわ
高解像度の衛星画像が存在しない過去の海岸線の状
かった。データベース化した画像の位置精度は、印画
態については空中写真が貴重な情報元となる。現場の
された写真しか残っていない場合でも、600dpi でスキ
海岸事務所では、海岸保全事業のための調査として空
ャンすればフィルムスキャンや Jpeg 納品の画像に近
中写真の撮影が高頻度で行われてきており、大量の画
い約 1.5m の位置精度が得られることが確認できた(表
像データが存在する。これらを今後の全国規模のモニ
-1)
。一方で、報告書の WORD ファイル等に貼り付けら
タリングにも使用していけるようにするため、空中写
れた形でしか残っていない画像では、約 6~15m の位置
真用のデータベース構築をおこなった。また、空中写
精度が得られないことも確認され、こうした画像をや
真の保管形式に応じたデータベース化の手順を整理す
むを得ず使用する場合には、10m 未満の海岸線変化は
るために、異なる形式が含まれるように選定した計
有意と見なさない等の注意が必要であることがわかっ
114 枚の空中写真・衛星画像を用いてデータベース化
た。
3.マルチスペクトル画像を用いた海底地形把握の試行
表-1
画像タイプによる位置精度の違い
画像タイプ
写真 600dpi スキャン
モザイク済み画像
モザイク済み WORD 貼り付け
地上解像度
41.6cm
-
フィルムスキャン Tiff 画像
Jpeg 納品画像
65cm
13.6~14.6cm
位置精度
約 1.5m
約 1.0m
約 6.0
~15.0m
約 1.5m
約 1.0~1.5m
8 種類取得されているスペクトルバンドごとに画像
を比較したところ、510-580nm の波長を対象とするバ
ンド 3 で海中の岩礁が最もよく識別され、次にバンド
2(450-510nm)が有効であることがわかった。一方で、
これらよりも波長が短く、海中の地形把握に最も有効
と予想されたバンド 1(400-450nm)ではバンド 2、バ
ンド 3 よりも岩礁の判読性が劣る結果となった(図-2)
。
2.空中写真・衛星画像を用いた海岸線モニタリングの
試行
海上保安庁発行の海図に記載されている水深 5m 以
浅場所の岩礁をバンド 1、バンド 2、バンド 3 を合成し
各タイプの画像を用いて海岸線の判読をおこなった
て作成した画像(Bathymetry 画像)で判読したところ、
結果、ALOS(SAR 衛星)の PALSAR 画像から得られた海岸
暗岩よりも洗岩のほうが識別できる率が高く、頂部の
線は実際の位置よりも 30m 以上も離れる場合もあり、
水深のわずかな違いが影響を及ぼすことが確認された
誤差が大きい傾向にあった。これは画像自体の解像度
(表-2)
。また、干出浜の延長上に存在する岩礁よりも、
が低いことに加え、SAR 画像上では海面と砂浜の反射
独立して存在する岩礁のほうが識別できる率が高く、
強度の違いが少ないためと考えられた。ALOS のパンシ
識別性が岩礁の存在状態にも依存することがわかった。
ャープン画像や GeoEye-1 のパンシャープン画像では
人工リーフについては、画像撮影時には天端が海面
海岸線位置の差は岸沖方向で 10m の範囲におさまって
下 1.72m の深さにあったものの、わずかに影が確認さ
おり、従来の空中写真とほぼ同等の精度が得られるこ
れただけに留まった。施設管理に活用出来るようにす
とが確認された。ただし、前浜勾配や海岸保全施設の
るには、大気中による拡散や海底面の反射率等を考慮
設置状況によっては、どの位置を海岸線として判読す
した補正等の技術的な向上が必要と考えられた。
べきか判断しにくい場合もあり、作業者によって海岸
線のとり方に違いが出ないように、パターンごとの判
読例を用意することが重要であることがわかった。ま
(a) Band1
(b) Band3
た、得られた海岸線を潮位補正する際に使用する前浜
勾配の設定も重要であり、測量成果が無い海岸におけ
る設定も課題となると考えられた。
ALOS の PALSAR 画像については、海岸線の自動判読
も試行した結果、反射強度の固有値解析で得られるエ
ントロピーを用いれば、海と砂浜を判別できることが
図-2
波長による海底地形の判読性の違い
示され、解像度が向上する後継の ALOS-2 による画像を
海岸線位置の差(m)
海岸線位置の差(m)
用いれば実用化の可能性であることが示唆された。
70
50
測量成果
(a)宮崎海岸
地理院正射
30
空中写真
10
ALOS PAN
-10
GeoEye-1 PAN
-30
-1000
70
50
-500
0
500
1000
現地測量日からの日数(日)
1500
PALSAR
TerraSAR-X
表-2
岩礁タイプごとの識別性の違い
岩礁の存在状態
干出浜の延長上
干出浜から独立
識別できた岩礁の割合(%)
暗岩
洗岩
40.0
63.6
85.7
100
[成果の活用]
本研究で得られた画像タイプによる海岸線の判読精
度の違いを踏まえて、海岸線モニタリングに用いる空
(b)静岡・清水海岸
中写真・衛星画像のタイプ、
調査実施のタイムスパン、
30
海岸線が有意に変化したみなす閾値を検討し、全国的
10
-10
-30
-1000
な海岸線変化傾向を把握する調査を実施していく予定
-500
0
500
1000
1500
現地測量日からの日数(日)
図-1
画像タイプによる位置精度の違い
海岸線の位置は沖側を正とする
である。マルチスペクトル画像については、すぐに実
用化できるものではないが、将来的には海岸および保
全施設の管理に活用できるよう、JAXA や大学、他の
研究機関との連携も視野に入れて研究を進めていく。
粘り強い海岸堤防調査
Research on Resilient Structures for Coastal Dike
(研究期間 平成 24 年度)
河川研究部 海岸研究室
River Department
Coast Division
室長
Head
主任研究官
Senior Researcher
諏訪 義雄
Yoshio SUWA
加藤 史訓
Fuminori KATO
We conducted trial calculation on pressure induced by tsunami or high waves, safety factor
of parapet against the pressure, and the amount of steel bars necessary for parapet. The results show
that the example of bar arrangement in the Standard and Its Commentary on Shore Protection
Facilities meets the required strength in three targeted coasts.
[研究目的及び経緯]
くなるが、上部では静水圧と等しくなる。このため、
東北地方太平洋沖地震による津波災害を受けて、比
進行波の高さと比べて波返工が高い位置にある場合に
較的頻度が高い一定程度の津波に対して海岸保全施設
は、波返工に作用する波圧は、進行波の高さに波圧係
等の整備を進めていく手順が明確にされるとともに、
数を掛けて得られる波圧の作用高からの静水圧となる。
設計対象の津波高を超えた場合でも施設の効果が粘り
このため、Asakura ら(2003)により得られる波圧の作
強く発揮できるような構造物の開発を進め、整備して
用高と設計津波の水位が一致する場合には、波返工に
いくことが必要とされた。海岸堤防の構造上の工夫の
作用する波圧は設計津波の水位からの水位と等しくな
方向性の一つとして、配筋による補強を波返工に施す
る。
ことが指摘されている。
試算では、波返工の高さを 1m と仮定するとともに、
本調査では、岩手県の高田海岸、宮城県の仙台湾南
津波浸水シミュレーションの結果を参考にしてフルー
部海岸、高知県の高知海岸を対象とした試算によって、
ド数を設定した。また、榊山(2012)の波圧係数のばら
波返工に必要な配筋を明らかにする。
つきを考慮して、その最大値である 12%を割り増した。
[研究内容]
(1)津波による波力の試算
設計津波によって波返工に作用する力を試算した。
津波波圧の算定式は多数提案されているが、海中の構
z
 max
  1.0  1.4 Fr
(0  Fr  2.0)

造物については谷本ら(1984)、陸上の構造物について
は朝倉ら(2000)の式が比較的多く使われてきた。しか
し、東日本大震災以降、設計津波の水位設定のため、
1.8 
堤防を無限高さとした条件での津波シミュレーション
が行われ、堤防による津波のせき上げを考慮した堤防
前面の水位が得られるようになった。また、津波波圧
の鉛直分布を表す波圧係数と進行波のフルード数との
関係が整理されてきた。そこで、津波による波力は、
海岸堤防によるせき上げを考慮した静水圧から算定す
z
 max
4z
 max
pmax
g max
図1
1.8α
α
0
津波の波圧分布(縦軸:初期潮位からの高さ、
横軸:無次元化した波圧)
る方法と、海岸堤防がない場合の進行波の高さηmax と
そのピーク時のフルード数 Fr を用いて、Asakura ら
表 1 のように、高田海岸では静水圧から算定する方
(2003)の波圧算定式および榊山(2012)の波圧係数αに
法と Asakura ら(2003)の方法での試算結果が同程度
よ っ て 算 定 す る 方 法 に よ っ て 求 め た 。 Asakura ら
になったが、高知海岸では後者の方が大きくなった。
(2003)の波圧算定式では、図 1 のように、波圧は初期
高知海岸での試算に用いた進行波の高さは波圧係数を
潮位(z=0)付近では波圧係数に応じて静水圧より大き
割り増さない条件で設定したため、割増率の考慮によ
り作用高が大きくなったためと考えられる。なお、仙
に対しては、上記解説に示された通りの配筋がなされ
台湾南部海岸では、波返工まで津波が到達しなかった。
ていれば、波返工は破壊されない箇所が多いものと考
えられる。
表1
津波による波力の試算結果
高田海岸
天端高
波返工下端の
高さ
初期潮位
進行波の高さ
フルード数
設計津波の水
位
静水圧から求
めた波力
Asakura ら
(2003)で求め
た波力
T.P.+12.0m
T.P.+11.0m
仙台湾南部
海岸
T.P.+7.2m
T.P.+6.2m
高知海岸
T.P.+8.3m
T.P.+7.3m
T.P.+0.69m
5.51m
0.5
T.P.+11.5m
T.P.+0.70m
3.3m
0.3
T.P.+5.2m
T.P.+0.94m
6.95m
0.02
T.P.+7.98m
1.26kN/m
作用しない
2.48kN/m
0.94kN/m
作用しない
11.44kN/m
(4)波返工に必要な配筋量の試算
「海岸保全施設の技術上の基準・同解説」の配筋例
の安全性が確認された試算対象の 3 海岸について、鉄
筋径や沿岸方向の鉄筋間隔を変数とした安全率の感度
分析を行った。具体的には、
(1)および(2)で算定
された最大の波力(高知海岸での風波による波力)を
用いて、
(3)で最も安全率が小さかったせん断破壊を
対象に、安全率を満たすのに必要な鉄筋量を算定した。
鉄筋を D16 として鉄筋間隔を大きくした場合には、
140cm まで破壊に至らない結果となった。鉄筋を D10
として鉄筋間隔を大きくした場合には、50cm まで破壊
に至らなかった。破壊に至らない鉄筋間隔で両者の経
済性を比較したところ、D16 の方が D10 より 7%安くな
(2)風波による波力の試算
風波によって波返工に作用する力は、
「海岸保全施設
る結果となった。このように、
「海岸保全施設の技術上
の技術上の基準・同解説」に沿って、構造物が汀線よ
の基準・同解説」の配筋例より鉄筋間隔を広げても、
り海側にある場合(高田海岸、高知海岸)には合田式
所要の安全率を確保できる箇所があることがわかった。
で、陸側にある場合(仙台湾南部海岸)には富永・久
ただし、コンクリート標準示方書では、コンクリー
トの断面積の 0.15%以上の軸方向鉄筋を配置すること
津見の式で算定した。
表 2 のように、仙台湾南部海岸と高知海岸は同程度
が望ましいとされている。これを高さ 1m、基部の厚さ
の波力と見積もられる一方、高田海岸では波返工まで
70cm の波返工に D16 を用いる場合に当てはめると、鉄
波力が作用しなかった。また、高知海岸では、津波に
筋間隔は 35cm 以下であることが望ましいことになる。
よる波力と比べて大きい値となった。
コンクリート標準示方書の規定に沿うには「海岸保全
施設の技術上の基準・同解説」の配筋例程度の配筋が
表2
高知海岸
くないと判断される。
T.P.+12.0m
T.P.+11.0m
仙台湾南部
海岸
T.P.+7.2m
T.P.+6.2m
T.P.+8.3m
T.P.+7.3m
[研究成果]
T.P.+1.25m
3.86m
10.0sec
作用しない
T.P.+1.60m
8.60m
13.0sec
27.52kN/m
T.P.+2.20m
11.8m
15.5sec
27.58kN/m
高田海岸
天端高
波返工下端の
高さ
設計高潮位
換算沖波波高
設計波の周期
波力
必要であり、鉄筋間隔をむやみに広げることは望まし
風波の波力の試算結果
津波および風波に対する波返工の安全性の照査方法
を示すとともに、
「海岸保全施設の技術上の基準・同解
説」の配筋例に従った構造であれば波返工の安全性に
概ね問題ないことを明らかにした。本成果は、性能規
定に基づく海岸堤防の設計に資するものであるととも
(3)波返工の安全率の試算
(1)および(2)で算定された波圧分布を用いて、
に、設計規模を上回る波力に対する波返工の安全性の
照査にも役立つものである。
「海岸保全施設の技術上の基準・同解説」の配筋例と
同様と仮定した波返工を対象に、鉄筋の引き抜き、せ
ん断破壊、引張降伏に対する安全率を試算した。配筋
[成果の発表]
技術速報等にとりまとめて発表する予定である。
例では鉄筋径は 16~19mm、沿岸方向の鉄筋間隔は 25
~40cm とされていることから、本試算では鉄筋を D16
とし、沿岸方向の鉄筋間隔を 30cm とした。
その結果、3 海岸とも、3 つの照査項目について安全
率が 1 を超える結果となった。設計対象の津波や高潮
[成果の活用]
各海岸での堤防等の設計に活用される。
災害対応を改善する津波浸水想定システムに関する研究
Research on Tsunami Inundation Estimation System to Improve Disaster Response
(研究期間 平成 23~25 年度)
河川研究部 海岸研究室
室
長
主任研究官
研 究 官
諏訪 義雄
加藤 史訓
鳩貝
聡
[研究目的及び経緯]
地震直後から津波による浸水の危険性がなくなるまでの間、河川等の施設管理者がパトロールの是非・範囲の判断、
立入規制等の災害対応を適切に実施するためには、津波ハザードマップに示されている想定最大規模の浸水想定範囲で
はなく、津波警報で示される予想津波高に応じた浸水の範囲や深さが想定される必要がある。
本研究では、津波警報への施設管理者の災害対応を改善するため、最新の海岸堤防等の耐震化進捗状況を反映し、津
波警報で示される予想津波高に対応する津波浸水の範囲・深さを迅速に想定できる「津波浸水データベース」とともに、
水門閉鎖状況等の実態を反映して浸水想定範囲を的確なタイミングで精度良く更新できる「津波浸水計算システム」
、津
波浸水継続時間の見通しを想定できる「津波浸水減衰想定モデル」を構築する。24 年度は、仙台湾南部海岸を対象に、
津波浸水データベースを試作した。
没水型ヘッドランド等に関する調査
Research for submerged type artificial headland
(研究期間 平成 23~24 年度)
河川研究部 海岸研究室
室
長
主任研究官
諏訪 義雄
野口 賢二
[研究目的及び経緯]
ヘッドランドは沿岸漂砂を制御するために大規模になることから、現地での合意形成を難しくしている面がある。ヘ
ッドランドの一部を没水状態にすることにより、海岸利用や景観への影響や建設費を軽減しつつ所要の漂砂制御機能が
得られると考えられるが、そのような没水型のヘッドランドの施工実績は国内外においてほとんどなく詳しい性能も明
確にされていない。そこで、没水型施設の漂砂制御機能や安全性能の照査方法、管理手法の体系化を目的としている。
今年度は、ヘッドランドの突堤部を没水型とした場合の漂砂下手側への影響緩和効果を砂の相似性を考慮して石炭粉
を海岸材料として用いた平面 2 次元水理模型実験より調べた。この結果、突堤部分を没水型とすることで、漂砂上手側
において一定の効果を発現しつつ下手側における影響を小さくすることが可能であることが確認された。
高潮・高波による浸水被害の軽減に関する調査
Research on Mitigating Flood Disaster Induced by Storm Surges and High Waves
(研究期間 平成 23~24 年度)
河川研究部 海岸研究室
室
長
主任研究官
研 究 官
諏訪 義雄
加藤 史訓
鳩貝
聡
[研究目的及び経緯]
高波災害対策検討委員会の中間とりまとめ等を受けて、各海岸のうちあげ高をリアルタイムで予測し都道府県等に配
信するシステムを、富山湾、駿河湾、伊勢湾、大阪湾、播磨灘等を対象に運用しているところであるが、その水防や避
難への活用をさらに図るためには、うちあげ高予測のさらなる精度向上方法の検討を進めていく必要がある。
本調査では、観測データを用いた補正によりうちあげ高予測の精度向上を図る。24 年度は、潮位・波浪観測データを
用いて潮位・波浪予測データをリアルタイムで補正できるようにうちあげ高予測システムを改良するとともに、異常潮
位時の潮位予測データの補正手法の検証を行った。
地震・津波に対する堤防構造調査
Research on Coastal Dike Structures against Earthquakes and Tsunamis
(研究期間 平成 23~24 年度)
河川研究部 海岸研究室
室
長
主任研究官
研 究 官
諏訪 義雄
加藤 史訓
鳩貝
聡
[研究目的及び経緯]
東北地方太平洋沖地震による津波災害を受けて、今後は、比較的頻度が高い一定程度の津波に対して海岸保全施設等
の整備を進めていくこと、および設計対象の津波高を超えた場合でも施設の効果が粘り強く発揮できるような構造物の
開発を進め、整備していくことが必要とされた。
本調査では、地震および津波に対する海岸堤防の粘り強い構造について検討する。24 年度は、堤防陸側に土地の制約
があり、コンクリート平張りの裏法被覆工の場合における構造上の工夫について水理模型実験を行い、裏法尻の洗掘対
策として矢板の敷設、及び裏法被覆工の変形による堤体土の吸い出しの抑制を図るための被覆工下面への捨てコンの敷
設により、津波の越流に対して粘り強くなることを確認した。また、バットレス構造など、堤体内の構造上の工夫につ
いても水理模型実験を行い、工夫を施さない構造と比較し粘り強くなることを確認した。
津波を起こす地震の地震動に対する海岸堤防の耐震照査に関する調査
Research on the method for inspecting the resistance of sea dike to the earthquakes which cause tsunami
(研究期間 平成 24 年度)
河川研究部 海岸研究室
危機管理技術研究センター
河川研究部 海岸研究室
地震防災研究室
室
長
主任研究官
研 究 官
諏訪 義雄
片岡 正次郎
渡邊 国広
[研究目的及び経緯]
本研究は、津波を起こす地震の地震動に対する海岸堤防の耐震照査手法を確立することを目的とする。
まず、南海トラフ周辺の海岸において設計対象津波となり得る既往の津波断層モデルに対応する既往の強震断層モデ
ルを整理した。次に、耐震照査に用いる地震動波形もしくは応答スペクトルをこれらの強震断層モデルから算出する手
法として距離減衰式および統計的 Green 関数法を選定して 5 海岸における地震動の算出を試行した。また、中央防災会
議によって提示された南海トラフ巨大地震の強震断層モデルについても距離減衰式によって応答スペクトルを算出し、
河川構造物の耐震照査で使用されているレベル 2-1 およびレベル 2-2 の地震動の加速度応答スペクトルと比較した。こ
れらの地震動等による海岸堤防の変形を解析する手法として ALID および FLIP に着目し、東北地方太平洋沖地震におけ
る海岸保全施設の変形の再現計算をおこない、結果を実際の被災状況と比較し、各手法の再現性の特徴を整理した。
流砂系からの砂の供給増加に伴う海岸の再生効果に関する調査
Research for beach reformation effect improved with increase of river origin sand supply
(研究期間 平成 23~24 年度)
河川研究部 海岸研究室
室
長
主任研究官
諏訪 義雄
野口 賢二
[研究目的及び経緯]
流域及び沿岸の総合土砂管理による渚の再生を進めるためには、河口からの供給土砂の増加が沿岸の海浜を再生する
効果を評価する技術の確立することを目的としている。この際に、河川から供給増加の可能性を見込むことが出来る砂
分と海岸での侵食過程で残存した礫分の漂砂機構の違いを明確にすることが必要である。そこで、本調査では従来の海
岸漂砂実験で用いていたケイ砂に変えて動き易さの相似性を満たす石炭粉を砂相当として用い、礫分には砕石を用いる
極端な移動床模型実験を実施した。
実験の結果より、礫のみが供給された海岸は、砂と礫の両方が供給された海岸と比べて海岸線の方向が波の方向に対
して急になるために沿岸漂砂量が大きくなる。その後に砂を主体として復元しようとしても、礫で覆われた箇所の復元
は時間を要することが確認された。
海岸事業の構想段階における計画検討の手順及び手法に関する調査
Research on the process and method for planning the coastal management
(研究期間 平成 24 年度)
河川研究部 海岸研究室
室
長
研 究 官
諏訪 義雄
渡邊 国広
[研究目的及び経緯]
本研究は、海岸事業を実施する海岸の選定を透明化させるためのガイドライン作成にあたって必要となる海外におけ
る計画策定手順及び手法を整理すること、海岸選定のうえで必要となるバックデータを準備することを目的とした。
海外で実施された海岸事業もしくは海岸周辺の開発事業の計画策定プロセスについて記載されたガイドライン類また
は報告書を 8 件収集し、ガイドライン類が作成された背景および依拠する考え方、計画検討手順、評価項目の設定、複
数案の設定、複数案の比較評価方法、計画案選定方法について、
「公共事業の構想段階における計画策定プロセスガイド
ライン」および「構想段階における市民参画型道路計画プロセスのガイドライン」と比較・整理した。また、海岸選定
のうえで必要となるデータとして、過去の高潮・高波による人的被害や不動産被害等、公的機関によって公開されてい
る背後地の人口や土地利用、自然環境の情報などを GIS 上のデータ化し、海岸保全事業実施の優先度についての評価を
試行した。
砂袋詰め工法の実用化に向けた基準策定に関する調査
Research for promoting application of geotextile on coastal areas
(研究期間 平成 22~24 年度)
河川研究部 海岸研究室
室
長
主任研究官
研 究 官
諏訪 義雄
野口 賢二
渡邊 国広
[研究目的及び経緯]
本研究では、砂袋詰め工法(サンドパック工法)による海岸保全施設の耐久性を始めとする性能照査方法の検討およ
び機能発揮の限界とすべき施設変状の耐久性を始めとする性能照査方法の検討および機能発揮の限界とすべき施設変状
の程度についての検討に必要な根拠データを取得するために、水理模型実験、砂袋基布の現地暴露試験、室内試験およ
び現地施工実験・モニタリングを行ってきた。
今年度は、宮崎海岸に現地施工実験を行った浜崖後退抑止工としてのサンドパックの変状・効果のモニタリングを実
施するとともに「浜崖後退抑止工の手引き(案)の策定を進めた。宮崎海岸で実験設置したサンドパックの端部に相当
する部分が海岸地盤の低下により過度な引張り力が袋材へ集中し破損する事例が生じ、地形変化等に備えた強度強化が
必要であることが確認された。
山間部における正常流量設定手法の検討
Study on the Method for Setting Normal Discharge at Mountainous Rivers
(研究期間
河川研究部
River Department
水資源研究室
Water Management and Dam Division
室長
Head
研究官
Researcher
平成 23~24 年度)
川﨑 将生
Masaki KAWASAKI
豊田 忠宏
Tadahiro TOYODA
After the Great East Japan Earthquake disaster of March, 2011, a domestic nuclear power plant stops. Therefore stringency of the
electricity continues now. Renewable energy attracts attention as electricity except the atomic energy. The small hydraulic power
generation is one of the renewable energy. Increase of small hydraulic power generation is expected in future. Therefore, the Ministry
of Land, Infrastructure, Transport and Tourism is considering simplifying the procedure of use of small hydraulic power generation.
However, in order that there may not be sufficient knowledge about the influence on the river depended on water supplies, it is difficult
for the status quo to judge the permission for water supplies in the river of a mountain. Therefore, the determination method of the
normal discharge in the river of a mountain was considered.
[研究目的及び経緯]
平成 23 年 3 月に発生した東日本大震災以降の国内
原子力発電所の停止に伴い、電力の逼迫する状況が続
くなか、
「再生可能エネルギー」が注目されている。平
成 24 年 7 月 1 日からの再生可能エネルギーの「固定
価格買取制度」の開始により、今後、小規模な水力発
電の増加が予想される状況となっている。
国土交通省においても、小水力発電に関わる水利用
手続の簡素化による、導入の促進が検討されている。
特に山地河川では、小水力発電の導入を行いやすいと
考えられるが、山地河川特有の河川形態により、水利
用による河川への影響に関して、明確な知見が得られ
ていない。そのため、山間部河川における適切な維持
流量の設定に関する検討を行った。
[研究内容]
1.山間部河川の検討項目の抽出
山間部河川における維持流量決定のために必要と
なる検討項目について、過去の水利権申請状況を基に
整理し検討上必要となる項目の抽出を行った。
2.景観への影響からの維持流量決定手法の検討
山間部河川で特有となる景観要素を把握し、景観検
討の必要項目として整理検討を実施した。
3.生物への影響からの維持流量決定手法の検討
山間部の複雑な河道形態の中で、生物への影響を把
握するため、山地河川のモデル化手法を検討し、流量
変化による影響評価手法について検討を実施した。
[研究成果]
1.山間部河川の検討項目の抽出
通常河川において正常流量の検討を実施する際には、
生物、景観、漁業、地下水、河川管理施設等への影響
等、主として 9 項目の影響について検討し、取水によ
る影響を確認した上で、水利用の許可を行う事として
いるが、山間部河川では影響が非常に少ないもしくは、
検討を要しないと考えられる項目も存在する。過去に
実施された山間部の水力発電に関わる水利権審査の実
例を基に、山間部で主に検討されている審査項目につ
いての確認を行った。山間部における維持流量の決定
根拠としては「生物」と「景観」の 2 項目によるもの
が全体の 90%以上を占める。以上の結果から、上記 2
項目に絞り込み検討を実施した。
2.景観への影響からの維持流量決定手法の検討
山間部における河川形態の特徴として、平野部河川
と異なり、明確な河川幅を決定できないという特徴が
ある。特に渓流部に見られる step-pool(ステッププー
ル)のような河道構造においては、平野部で用いられ
る川幅水面比(W/B=0.2)という指標では、景観上の必
要流量を既定できないと考えられる。そのため、一般
の被験者を対象としたアンケート調査により、山間部
河川における「水量感」と「流量」の関係について調
査を実施した。調査結果の一例を図-1 に示す。図にお
いて、青色の
着色箇所が水
量感を感じる
と評価されて
いる箇所であ
るが、特に落
水や波立ちの
状況により、
白化している
図-2 景観選好性実験結果事例
表-1
UnitB
断面F(ステップ部)
断面E(プール部)
断面D(プール部)
断面C(プール部)
1.5
流速v(m/s)
水深H(m)
1.0
0.5
Step
-
pools
プール
Pool
カスケード
Cascades
浅瀬
Riffles
早瀬
Rapid
Step
Shallows
・Cascade※
・Riffles※
・Rapids※
Riffles(浅瀬)
出水時に停止した礫で形成
される礫段の河床
緩勾配で、水深が深く、流
れが緩やかな河床
小規模な礫段が階段状に連
続する河床
水深が浅くなる場所
Rapid(早瀬)
底の石が砂に埋もれず表面
が白く泡立っている河床
Steps(段落ち)
Pool
Pool(淵)
Cascade
Cascade(小滝域)
Riffle
要素の解説
表-2
山間部河道分類
文献上の分類
河道構成(unit)名
River Ecology and
Management
Fish Habitat
Rehabilitation
Procedures
構成要素との関係
ステッププール河道
(SP)
Step-pool
Step-pool reaches
SP(Step-pool)
構成要素のうち、steps と
pool を主体とする河道
カスケード河道
(CA)
Cascades
Cascade reaches
CP(Cascade-pool)
構成要素のうち、Cascades
と pool を主体とする河道
瀬淵河道
(RP)
Riffles-pool
Plane-bed reaches
RP(Riffle-pool)
構成要素のうち、
Riffiles,Rapid,Pool を主体と
する河道
調査対象河川は、全国の小規模水力発電の実施河川
を対象に、水利審査資料の内容を整理し、山間地河川
として代表的な 2 河川を選定した。選定の結果、加地
川(鳥取県:千代川水系)、緑川(熊本県:緑川水系)
の 2 河川が選出された。2 河川において、河川形状(縦
断、横断測量、河床材粒径)の計測及び、物理諸量(流
速、水深、流量、水温)の観測を行った。加地川につ
いては、平均河床勾配が 1/8~1/11 と非常に急な河川
勾配となっており、構成するユニットについても、ス
テッププールとカスケードが支配的な河道形態であっ
た。緑川については、河床勾配が 1/40~1/60 と山地河
道の中では比較的緩い河道であり、構成ユニットは、
瀬淵河道が支配的であった。2 河川の縦断測量結果、
及び横断測量結果を基に各河川の構造をユニット別に
分類し、これらの各ユニット内の流量変化に伴い物理
量が大きく変化する際に生物への影響が予想されるこ
0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30 0.35 0.40 0.45 0.50
0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30 0.35 0.40 0.45 0.50
流量Q(m3/s)
流量Q(m3/s)
30.0
500
断面F(ステップ部)
断面E(プール部)
断面D(プール部)
断面C(プール部)
25.0
450
400
350
20.0
15.0
10.0
300
250
200
150
100
5.0
50
0
0.0
0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30 0.35 0.40 0.45 0.50
0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30 0.35 0.40 0.45 0.50
流量Q(m3/s)
流量Q(m3/s)
分類
変化点計算結果(ステッププール河道の例)
区間名
加地川上流区間
(1/11 河道)
上流部
加地川下流区間
(1/7 河道)
下流部
※文献内で、想定していると考えられる構成要素
1.0
必要流量整理結果
河道構成
ステッププール
河道
カスケード河道
ステッププール
河道
カスケード河道
緑川上流区間
(1/60)
緑川下流区間
(1/40)
必要流量
水深、水容量
0.02m3/s
水深、水容量
0.02m3/s
水深、水面幅、水容量
0.01~0.15m3/s
-
-
瀬淵河道
水深、水面幅、水容量
0.25~0.40m3/s
瀬淵河道
水深、水面幅、水容量
0.20~0.30m3/s
計算結果から各ユニットにおける必要流量の範囲を
整理した。整理結果を表-3 に示す。また、必要流量を
渇水流量比としたものと、河床勾配との関係で整理し
た も の を 図 -4
1.6
ステッププール河道
1.4
に示す。この結
カスケード河道
1.2
瀬淵河道
1.0
果に基づき、河
0.8
床勾配と各流域
0.6
0.4
の流況、流域面
0.2
0.0
積から山間部河
1/0
1/10
1/20
1/30
1/40
1/50
1/60
1/70
河床勾配1/n
道必要流量推定
手法を設定した。 図-4 流量比 q-河床勾配の関係
流量比q
ステップ
Grant ほか
断面D(プール部)
1.5
0.0
0.0
表-3
Fish Habitat
Rehabilitation
Procedures
断面E(プール部)
0.5
文献上の分類
River Ecology
and
Management
構成要素名
断面F(ステップ部)
2.0
断面C(プール部)
図-3
山間部河道構成要素分類
2.5
2.0
水容量V(m3)
3.生物への影響からの維持流量設定手法の検討
山間部における河道形態は、平野部の河川と異なり、
ステッププールや、カスケード、瀬、淵等の構造を不
連続に有し、複雑な流れを形成している。このような
複雑な流れの形態を一体的に評価する事は非常に難し
いと考えられるため、山間部特有の河道構造を細分化
し、それぞれの構造ユニット毎にモデル化を行った。
過去の研究事例を基に、山間部の地形要素を表-1 の分
類で整理し、地形要素の組合せにより得られるユニッ
トとして表-2 の通り定義した。これらの定義に基づき
実河川の調査結果からモデルを構築し、検討を行った。
とから、その変化点流量を必要流量と設定し算出を行
った。計算結果の一例を図-3 に示す。
水面幅B(m)
場所に集中する結果となった。この結果を踏まえ、山
地河川における景観上の評価指標の一つとして、波立
ちを抽出し、水理指標との関連性を整理した。この結
果、波立ちとの関連性の高い指標はフルード数と流速
であり、フルード数 0.33 以上流速 0.3m/s 以上が必要
であると確認された。
[成果の発表]
応用生態工学会、水工学会等に発表予定。
[成果の活用]
山間部における維持流量設定に関する技術的手法
について整理を行い、限定的ではあるが簡易的な流
量設定手法を取りまとめた。今後、この簡易的な流
量設定手法により山間部河川における水利審査の簡
素化の促進への活用が期待されるとともに、データ
の蓄積により技術的手法の向上が求められる。
中・下流域の貯水施設容量の有効活用に関する研究
Effective utilization of capacity of water storage facilities in midstream and downstream
(研究期間
河川研究部
River Department
水資源研究室
Water Management and Dam Division
室長
Head
研究官
Researcher
平成 23~24 年度)
川﨑 将生
Masaki KAWASAKI
猪股 広典
Hironori INOMATA
The possibility of effective dam operation on water utilization was investigated by introducing
long-term meteorological forecast. One-month meteorological forecast was modified to improve its
accuracy by statistical method (Artificial Neural Network). The dam operation simulation on water
utilization was conducted by the modified one-month precipitation forecast. It was found that the
drought duration was decreased by utilizing the modified one-month precipitation forecast.
[研究目的及び経緯]
気候変動の影響による渇水深刻化への懸念や自
然再生エネルギーの一環としての水力発電など、ダ
ムに対する社会的要請が高まっており、ダムのより
高度・効率的運用による無効放流の減少・利用可能
水量の増加によりこれらの要請に積極的に応える
ことが求められる。
無効放流を減少させ、利用可能水量を増加させる
ための技術的方策の一つとして、長期予測データの
活用が挙げられるが、現状のダムにおける利水運用
は前日の河川流量などの情報を基に放流量を決定
するなど、短期的情報・視点から運用されるのが主
であり、長期予測データ・情報は利用されていない。
これは、利水運用において最も重要である長期予測
雨量データの予測精度が満足でないことや、予測の
信頼性を表現する情報であり既に利用可能である
長期アンサンブル予測データの利水運用における
利用手法が確立されていないことが技術的な課題
であると考えられる。
本件では、気象庁の長期アンサンブル予測データ
のうち、1 ヶ月予測を対象として、ダム利水運用操
作に関わる技術的検討を行う。本研究の実施により
治水機能を損なうことなく現運用操作以上に無効
放流を減少・利用可能水量の増加を可能とする手法
を提案する。
[研究内容]
1.長期予測データの実用的補正方法の検討
ダムの利水運用効率を高めるために、長期降雨予
測データの利用が一つの選択肢として考えられる。
しかし気象庁から提供されている長期降雨予測デー
タは、時間解像度は日単位であるものの、空間解像
度については 2.5 度メッシュと非常に粗いため、ダ
ムの利水運用に活用するための精度を現時点では有
していないため、そのまま利用することはできない。
ここでは、1 ヶ月の長期アンサンブル気象予測デー
タを河川流域やダム流域で利用できるように統計的
に補正する手法について検討を行った。
2.長期予測データに基づくダム運用操作手法検討
1.において作成した、統計的手法によって補正
されたアンサンブル予測雨量を用いて、筑後川流域
の江川ダムおよび寺内ダムを対象とした利水運用シ
ミュレーションを実施した。比較基準となる、予測
を用いない利水運用についてもシミュレーションを
行い、その結果と比較することで予測を用いた利水
運用の効果を確認した。
[研究成果]
1.長期予測データの統計的補正方法の検討
気象庁から提供される長期アンサンブル予測データ
は、降水量だけでなく気温、風速、湿度といった気象
要素も含まれている。ここでは、予測降水量と観測降
水量との間で統計的な補正手法を構築するのではなく、
降水量は気温、湿度、風速等が非線形に関係すること
で生じる現象であることから、これら気象要素と降水
量の関係を非線形式で表現できるニューラルネットワ
ーク(以下、NN)により補正することを試みた。最初
に、気象再解析データである JRA25 の気温、湿度、風
速等の気象要素から筑後川の流域平均雨量と相関の高
い気象変数を抽出した。次に抽出された気象要素を入
力とする NN(入力層、中間層、出力層が各 1 層の 3 層
構造)について、筑後川の流域平均雨量を教師データ
とすることで NN の定数を決定した。最後に、設定した
NN に対して気象庁の 1 ヶ月の長期アンサンブル予測か
ら得られる気象要素を入力することで、補正した予測
降水量が得られる。結果の一例として、図 1 の左図は
気象庁 1 ヶ月予測のアンサンブル平均降水量であり、
右図は左図と同時期の NN による補正結果を示してい
る。右図に示される NN による補正結果は左図よりも観
測値と予測の相関が高いことが確認され、NN による補
正手法の有効性が確認された。
特徴的である。これにより、貯水容量全体をできるだ
け余すところなく効果的に活用できているといえる。
ただしこのとき、予測情報は期間全体を通して過大気
味であり、これによって結果的に予測の効果が大きく
現れている。本ケースでは結果としてダムが枯渇しな
かったため予測運用が効果的に現れているが、さらに
予測が過大であればダムが枯渇していた可能性もある
ため、この点には留意が必要である。
②制限率曲線運用
10%
当該日の貯水率に応じ
て一定の取水制限率を
設定する。
20%
30%
貯水容量
貯水容量
①基準運用
0%
20%
当該日の貯水容量が、
α%確保容量を上回る
ような取水制限率αを
設定する。
0%
10 %
20 %
貯水容量に応じ
た取水制限率
30 %
40 %
50 %
60 %
10 %
20 %
30 %
比較
40 %
取水制限率毎の
基準確保容量曲線
50 %
60 %
日時
20%
0%
0%
10 %
20 %
30 %
2.長期予測データに基づくダム運用操作手法検討
1.で述べた補正手法により精度向上を行った予測
降水量を入力として流出計算を行い、その結果に基づ
くダム利水運用計算を行った。検討対象ダムは筑後川
流域の江川ダムおよび寺内ダムであり、シミュレーシ
ョン対象年として近年の実績の流況データから渇水傾
向であった年を中心に 5 ヵ年選定した。利水運用とし
て、ここでは予測を基にした利水運用操作を含めて 3
種類の利水運用シミュレーションを実施・比較するこ
とで予測を基にした利水運用の有効性を評価する。3
つの運用方法は以下の通りであり概念図を図 2 に示す。
① 基準運用:
当該日の貯水率に応じて一定の取水制限率を設定す
る。貯水率と取水制限率との関係は、実績データを用
いて求める。
② 制限率曲線運用:
あらかじめ 1/10 渇水規模の取水制限率毎の基準確
保容量曲線を検討しておき、貯水容量がこの曲線を下
回るかどうかを制限率設定の判断基準とする。この運
用では、当該日の貯水容量がα%制限の確保容量を上回
るような取水制限率α%を設定する。
③ 制限率曲線+予測運用:
手法②と同様に、取水制限率毎の基準確保容量曲線
を制限率設定の判断基準とする。予測運用では、取水
制限率α%で運用した場合の 1 ヶ月先貯水容量の期待
値(アンサンブル予測平均値)がα%制限の確保容量を
上回るような取水制限率α%を設定する。
シミュレーション結果の一例として 2002-2003 年の
結果を図 3 に示す。制限率曲線+予測運用では、他の
2 運用と比較して取水制限期間が最も短く、最小限の
取水制限率に抑えることができている。特に取水制限
が解除されるタイミングが他 2 運用よりも短いことが
日時
③制限率曲線+予測運用
貯水容量
図 1 気象庁 1 ヶ月予測のアンサンブル平均降水量
(左
図)とニューラルネットワークによる補正降水量
(右図)の比較
40 %
50 %
取水制限率αで運用した
場合の1ヶ月先の貯水
容量(予測)が、α%制限
の確保容量を上回るよ
うな取水制限率αを設定
する。
取水制限率毎の
基準確保容量曲線
60 %
予測初期値日
1ヶ月先予測値
取水制限率の設定値
手法①と手法②を比較して、制限率
曲線活用の効果を評価する。
b. 手法②と手法③を比較して、予測情
報活用の効果を評価する。
a.
日時
図 2 3 つの運用方法の概念図
図 3
長期予測データを用いた江川・寺内ダムの利水
運用シミュレーション結果(2002-2003)
[成果の発表]
なし
[成果の活用]
近年発生した渇水を対象としてここで述べた手法の
適用事例を積むことにより、渇水被害を緩和する効果
的なダム運用操作の技術的実現性が検証可能となる。
また、ダムの弾力的運用や流域内ダム群の効果的な利
水運用等、無効放流を減少させるダム運用操作にも活
用できる可能性がある。
最適渇水調整手法の研究
Research on drought optimum adjustment method
(研究期間
河川研究部
River Department
水資源研究室
Water Management and Dam Division
室長
Head
研究官
Researcher
平成 23~24 年度)
川﨑 将生
Masaki KAWASAKI
豊田 忠宏
Tadahiro TOYODA
The water level decline of a reservoir is predicted on condition of "adjustment based on experience of the past water shortage",
"continuation of water shortage by non-rain", etc., and the present water shortage adjustment is performed based on the prediction
result. However, this adjustment technique is not a technique in consideration of the tolerance to residents' water shortage. Therefore,
problems, such as residents' complaint, arose in the past water shortage. This research develops the method of the water shortage
adjustment which made tolerance to residents' water shortage the index in order to perform water shortage adjustment in
consideration of residents' feeling. In consideration of change of the proof stress by continuation of water shortage, "the water
shortage adjustment technique of minimizing water shortage influence on residents" was examined.
[研究目的及び経緯]
現在実施されている渇水調整は、過去の渇水経験や
無降雨による渇水継続を前提として、貯水位の低減を
予測し、その予測に基づき貯水池の運用が実施されて
いる。このような調整手法では、住民の渇水への耐性
を考慮した手法ではないため、過去の渇水時において
は、住民からの苦情等の問題が生じている。
そのため、住民の渇水への耐性に基づく調整を可能
とするため、住民の持つ渇水耐性の指標化を行い、そ
の渇水耐性を受忍度として、渇水調整に活用するため
の手法についての検討を行った。渇水への受忍度の、
長期的な渇水の継続による変化を把握し、受忍の変化
を、貯水運用に反映しつつ、ダム貯水を有効に活用す
ることにより、住民に対する渇水の影響を最小限に抑
える事を目的とした渇水調整手法の開発について、検
討を実施した。
[研究内容]
1.渇水受忍を考慮した運用手法の検討
過去に実施されている社会実験結果を基に、渇水に
よる住民への影響に関する情報を、渇水受忍を評価す
る指標とすべく、整理手法について検討を実施した。
2.受忍曲線の課題点の抽出
貯水運用の変更により、渇水に対する住民の受忍が
どの様に変化するかを確認すべく、シミュレーション
による検討を実施した
3.受忍曲線の改良と運用・評価手法の検討
貯水運用について、受忍を考慮した運用についてシ
ミュレーションを実施し、受忍反映による被害額及び、
住民への影響を評価する事により、総合的な運用効果
についての評価を実施した。
[研究成果]
1.渇水受忍を考慮した運用手法の検討
平成 21 年度に大阪府枚方市において、居住者 120
名を対象に模擬的に断水を経験させ、断水経験に基づ
くアンケートを行う社会実験を実施しており、その際
に得られた結果を基に再整理を実施した。アンケート
は、6 時間,9 時間,12 時間の断水経験毎に、3 段階
の評価により回答を行う形式で実施し、この結果に基
づき受忍曲線の整理を行った。図-1 に受忍曲線を示す。
受忍曲線は、
渇水に対して
「厳しい」と
回答した回答
者 率 が 50%
となる点を包
絡した曲線で
ある。これに
より節水時間
と継続時間に
図-1 渇水受忍曲線
より、受忍割
合を確認出来る。この受忍曲線を活用した運用手法に
ついて検討を行った。受忍曲線に基づき、受忍を超過
しない節水パターンを設定し、貯水池の運用シミュレ
ーションを実施した。シミュレーションの対象は、近
年においても渇水の発生が多い、吉野川及び筑後川流
域を対象とし、渇水年 5 箇年における、各河川のダム
運用についてシミュレーション計算を実施し、被害額
及び、受忍状況について整理した。
①貯水池運用シミュレーション
シミュレーションの実施において、渇水受忍を運用
に反映させるため、渇水受忍曲線を超過しない範囲で
貯水池運用結果(早明浦ダム)
①において実施したシミュレーション結果について、
受忍状況の比較を行った。比較結果を図-4 に示す。受
忍状況で見た場合においては短期的には、受忍を超過
しないよう制限をかけるが、結果的に貯水が枯渇する
ことにより、制限率が 100%となり、受忍を大きく超
過する結果となった。
3.受忍曲線の改良と運用・評価手法の検討
既往の渇水受忍曲線では、各々の節水率下による受
忍状況を一律の曲線で評価していた。しかしこの手法
では、節水率の切替時における、従前の節水による影
響を十分に反映できていない。そのため、図-5 に示す
ように、各々の断水時間と受忍度の関係を個別にグラ
フ化し、節水
率の切替時に
おいて、切替
前の節水率に
よる受忍度を
蓄積分として
反映すること
により、節水
率の切替時に
図-5 新受忍節水パターン
おける受忍の
蓄積を評価した。この受忍評価手法を用いた運用比較
について、図-6 に示す。図から新たな受忍からの節水
パターン設定手法により、受忍を抑えた運用が可能で
ある事が確認出来た。
基準運用:取水制限率
ストレス最小取水制限率
基準運用:ストレス度
最適パターン:ストレス度
100%
100%
90%
90%
78.4%
80%
80%
71.0%
70%
60%
取水制限期間
’04.1.19~’04.5.16(119 日)
取水制限総量
2,520%日
50%
40%
70%
60%
50%
ストレス度(%)
図-3
制限率が低率で設定されることとなり、節水期間が長
期に及ぶ傾向が見られる。そのため、渇水被害額の増
大と、最終的に貯水池の枯渇につながり易くなる。ま
た評価上の課題として、受忍の履歴が考慮されないこ
とが上げられる。制限パターンとして初期に高率を設
定した場合と低率を設定した場合とで、同時期に受忍
を超過しても、現状では受忍状況に差が無いと評価し
ており、受忍超過前に受けている受忍度が評価上反映
されない。これらの課題を考慮して、受忍曲線の改良
検討を行った。
取水制限率(%)
節水率のパター
ンを予め設定し
た。節水率パタ
ーンの設定例を
図-2 に示す。シ
ミュレーション
における節水開
始のタイミング
として貯水率が
20,30,40,50%
の 4 ケースを設
図-2 受忍考慮節水パターン
定した。シミュ
レーションによる貯水池運用結果を図-3 に示す。受忍
に基づき制限を設定するため、長期にわたり高率の節
水を掛けられないことから、実績の運用と比較すると、
貯水量の減少がはげしくなる傾向がある。そのため、
低貯水率から制限を開始した場合、短期的に厳しい制
限をかけて貯水低下を抑制するが、結果的にダムが枯
渇するという傾向が見られている。
②被害額及び渇水受忍状況の整理
40%
30%
30%
20%
20%
10%
10%
0%
0%
2003/12/01
図-6
2004/01/01
2004/02/01
2004/03/01
2004/04/01
2004/05/01
新受忍運用による受忍比較結果
[成果の発表]
特になし。
図-4
受忍状況比較(早明浦ダム)
2.受忍曲線の課題点の抽出
受忍運用の検討により、幾つかの課題が確認された。
運用上の課題として、渇水受忍を超過させないため、
[成果の活用]
渇水の継続による住民の受忍状況の変化について、
当該手法により評価することが可能となった。今後
降雨予測の精度向上等により、不足量の把握が可能
になれば、渇水調整への活用も期待できる。
河川流量低減時における河川環境への影響に関する研究
Impact of river discharge decrease on river environment
(研究期間 平成 23~25 年度)
河川研究部 水資源研究室
室
長
研 究 官
川﨑 将生
豊田 忠宏
[研究目的及び経緯]
本研究では、維持流量低下による河川環境への影響について、塩水遡上、水質、生物環境等の河川状況について定量
的な評価手法について研究を行う。これらの検討結果を踏まえ、渇水時の河川環境への影響を改善するために、効果的
な河口堰のフラッシュ放流等の操作・運用手法や、ダムの不特定補給容量の効率的な運用等、河川管理施設の操作・運
用方法とその環境改善効果評価手法について検討する。
今年度は、河川上流域における流量変化による影響について評価モデルを作成し、ダムからの流量の変化による下流
河川における影響評価を実施するための基礎的な検討を実施し、河道内での流量変化による影響評価に関する基礎的な
考え方について整理した。今後、ダムの貯水量の運用変化によるダム下流域の環境に関する影響評価について検討を実
施する。
水災害・水資源管理に係る海外の気候変動適応策・技術基準調査分析
Research on the climate change adaptation measures and the technical standards for flood damage mitigation and
water resources management in each nation.
(研究期間 平成 24~26 年度)
河川研究部 水資源研究室
室
長
主任研究官
川﨑 将生
板垣
修
[研究目的及び経緯]
社会資本整備審議会の答申
「水災害分野における地球温暖化に伴う気候変化への適応策のあり方について」
(2008 年)
等を踏まえ、気候変動に適応した水災害対策・水資源管理が喫緊の課題であるが、同検討には同適応策に係る海外の最
新情報の継続的な収集・分析が必要不可欠である。
本研究は、上記検討に必要な海外の気候変動適応策、関連する技術基準に係る情報の収集・分析を行い、我が国の同
適応策及び関連する技術基準の策定・改定に向けた提言を行うものである。
平成 24 年度は、米英蘭を中心として各国の水災害・水資源管理に係る気候変動適応策に関する最新情報を収集・分
析するとともに、同適応策の検討手法の一つとして重要と考えられる防災施設の機能発揮に係る不確定性の考慮手法に
ついて関連する技術基準・指針の収集・分析を行った。
地下水の適正管理手法に関する研究
Research on appropriate groundwater management
(研究期間 平成 24~26 年度)
河川研究部 水資源研究室
室
長
主任研究官
川﨑 将生
西村 宗倫
[研究目的及び経緯]
今般、気候変動による渇水リスクの高まりや、地球規模の人口増加による水需要の増大など、水需給の逼迫が懸念さ
れる中で、表流水に加え、地下水を含めた多様な水源をそれぞれの特徴に応じて効率的に利用する総合的な水資源管理
が求められている。そのため、本研究では、それを支える解析技術の確立や、ブレイクスルーとなる研究を目指してい
る。
H24 年には、一級水系千代川をケーススタディ流域とし、流動解析モデルと水収支モデルの双方を構築し、国土交通
省により地下水の観測が開始された 1975 年から 2011 年までの長期的な解析を行い、再現性を検証した。更に、21 世紀
気候変動予測革新プログラムの後期実験(MRI-AGCM3.2S)を踏まえバイアス補正した予測降雨量を用いて、近未来
(2015-2039)、将来(2075-2099)の各 25 年間で、地下水を含めた水収支プロセスの将来予測を行った。
XバンドMPレーダ配信における機能実装等
Implementation for delivery of rainfall information by X-band MP radar
(研究期間 平成 22 年度~)
河川研究部 水資源研究室
室
長
研 究 官
川﨑 将生
土屋 修一
[研究目的及び経緯]
本業務は、XRAINの本格運用に向けて観測精度の向上を図るものである。
平成24年度は、XRAINに最適な雨量算定式のパラメータを設定するために、雨滴粒径分布測定装置により観測
した雨粒粒径分布、扁平率等のデータを用いて、散乱シミュレーションにより雨量算定パラメータを算出した。算出し
た雨量算定パラメータによりXRAINの観測雨量の過小傾向が改善されることが確認された。この結果は、XRAI
Nのデータ処理システムに反映され運用されることが予定されている。
流域治水施設群連携による最適な洪水調節に関する研究
Optimum Flood Control Operation by Cooperating Flood Control Facilities in a River Basin
(研究期間 平成 23~25 年度)
河川研究部 水資源研究室
室
長
研 究 官
川﨑 将生
猪股 広典
[研究目的及び経緯]
気候変動により洪水外力の規模が増大することが懸念されている。その一方、財政上の制約等から新規治水施設を建
設することが困難になってきているため、既存の治水施設群を有効に活用することで洪水調節効果を高めることが求め
られている。上記背景から本研究では、超過洪水や中小洪水に対して予測雨量の活用および流域内のダム群を連携させ
ることによって操作規則を上回る治水効果を発揮させる最適な洪水調節操作手法の確立を目指す。
平成 24 年度は、その時々の気象条件に応じた予測雨量の幅を評価できるアンサンブル予測雨量を活用し、ダム洪水調
節操作シミュレーションを複数の洪水に対して実施した。その結果、規則操作以上に洪水調節効果を発揮できる洪水事
例があった一方で、アンサンブルメンバー全体の精度が低く規則操作よりも放流量を増加させる洪水事例も存在し、ア
ンサンブル予測雨量を用いる場合でも予測が著しくはずれた場合を想定した制度設計が必要であることが示唆された。
Fly UP